説明

呼吸機能検査装置及び呼吸流量データ解析プログラム

【課題】努力呼出を必要とせず、被検者にとって負荷が小さく、測定ばらつきも小さい、小型で安価な呼吸機能検査装置を提供すること。
【解決手段】所定回数以上連続して呼気流量及び吸気流量を測定する呼吸流量測定手段と、前記呼吸流量測定手段で測定された呼気流量及び吸気流量に基づいて呼吸サイクルを検知する呼吸サイクル検知手段と、前記呼吸流量測定手段で測定された呼気流量及び吸気流量並びに前記呼吸サイクル検知手段で検知された呼吸サイクルに基づいて呼吸サイクル毎の呼吸気量差を算出する呼吸気量差算出手段と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、呼吸機能検査装置及び呼吸流量データ解析プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
十分に息を吸ったり吐いたりすることができなくなる慢性閉塞性肺疾患(COPD)を診断するにあたっては、スパイロメータという呼吸機能検査装置を用いてスパイロメトリ検査を行う。スパイロメトリ検査において、努力肺活量(最大吸気後、最大限呼出できる空気の量)と1秒量(最大吸気後1秒間に呼出できる空気の量)を測定し、1秒量を努力肺活量で割った1秒率でCOPDの程度を判断している(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平7−222732号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
スパイロメトリ検査の際、被検者は、吸い込めるだけ息を吸い込んだ後、できるだけ速く息を吐ききる動作を行う必要がある。そのため、スパイロメトリ検査は、被検者にとっては負荷の大きい検査であった。また、吸い込めるだけ息を吸い込んだ後できるだけ速く息を吐ききる動作は患者の努力に依存し、看護士が「吸って」、「吐いて」等の声を掛けることにより誘導されるが、看護士により掛ける言葉、口調、タイミング等が異なり、測定値のばらつきが大きいという問題がある。
【0004】
一方、COPDを診断するにあたり、オシレーション法により呼吸抵抗を測定するIOS(Impulse Oscillometry System)という呼吸抵抗測定装置がある。この装置は、努力呼出を必要としない検査装置であるが、気道内に空気を振動させて送り込むためのインパルスジェネレータ等の部品が備えられており、スパイロメータと比べて装置構成が複雑且つ大規模で高価であるという問題がある。
【0005】
本発明は、以上のような問題に鑑みてなされたものであり、高速呼吸を繰り返し行うことにより、努力呼出を必要とせず、被検者にとって負荷が小さく、測定ばらつきも小さい、小型で安価な呼吸機能検査装置及び呼吸流量データ解析プログラムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)所定回数以上連続して呼気流量及び吸気流量を測定する呼吸流量測定手段と、前記呼吸流量測定手段で測定された呼気流量及び吸気流量に基づいて呼吸サイクルを検知する呼吸サイクル検知手段と、前記呼吸流量測定手段で測定された呼気流量及び吸気流量並びに前記呼吸サイクル検知手段で検知された呼吸サイクルに基づいて呼吸サイクル毎の呼吸気量差を算出する呼吸気量差算出手段と、を有することを特徴とする呼吸機能検査装置。
【0007】
(2)前記呼吸サイクル検知手段で検知された呼吸サイクル毎の呼吸サイクル時間を算出する呼吸サイクル時間算出手段を有することを特徴とする(1)に記載の呼吸機能検査装置。
【0008】
(3)前記呼吸気量差算出手段は、前記呼吸サイクル時間算出手段により算出された呼吸サイクル毎の呼吸サイクル時間に応じて前記呼吸サイクル毎の呼吸気量差を補正することを特徴とする(2)に記載の呼吸機能検査装置。
【0009】
(4)前記呼吸サイクル時間算出手段は、前記呼吸サイクル毎の呼吸サイクル時間に占める吸気時間と呼気時間との比率を算出し、前記呼吸気量差算出手段は、前記呼吸サイクル時間算出手段で算出された呼吸サイクル毎の吸気時間と呼気時間との比率に応じて前記呼吸サイクル毎の呼吸気量差を補正することを特徴とする(2)又は(3)に記載の呼吸機能検査装置。
【0010】
(5)前記呼吸気量差算出手段は、前記呼吸流量測定手段で測定された呼気流量及び吸気流量を平滑化し、平滑後の呼気流量及び吸気流量を用いて前記呼吸気量差を算出することを特徴とする(1)乃至(4)の何れか一項に記載の呼吸機能検査装置。
【0011】
(6)前記呼吸流量測定手段は、呼吸気が流れる管体と、前記管体の内部に前記呼吸気の流れの一部又は全部を遮断する方向に配置され、前記呼吸気の流量に応じて物理変化を生ずる可動部材と、前記管体の外部に配置され、前記可動部材の物理変化量を非接触に検出する検出手段と、を有することを特徴とする(1)乃至(5)の何れか一項に記載の呼吸機能検査装置。
【0012】
(7)コンピュータに、所定回数以上連続して呼気流量及び吸気流量を入力する呼吸流量入力ステップと、前記呼吸流量入力ステップで入力された呼気流量及び吸気流量に基づいて呼吸サイクルを検知する呼吸サイクル検知ステップと、前記呼吸流量入力ステップで入力された呼気流量及び吸気流量並びに前記呼吸サイクル検知ステップで検知された呼吸サイクルに基づいて呼吸サイクル毎の呼吸気量差を算出する呼吸気量差算出ステップと、を実行させることを特徴とする呼吸流量データ解析プログラム。
【0013】
(8)前記呼吸サイクル検知ステップで検知された呼吸サイクル毎の呼吸サイクル時間を算出する呼吸サイクル時間算出ステップを有することを特徴とする(7)に記載の呼吸流量データ解析プログラム。
【0014】
(9)前記呼吸気量差算出ステップは、前記呼吸サイクル時間算出ステップにより算出された呼吸サイクル毎の呼吸サイクル時間に応じて前記呼吸サイクル毎の呼吸気量差を補正することを特徴とする(8)に記載の呼吸流量データ解析プログラム。
【0015】
(10)前記呼吸サイクル時間算出ステップは、前記呼吸サイクル毎の呼吸サイクル時間に占める吸気時間と呼気時間との比率を算出し、前記呼吸気量差算出ステップは、前記呼吸サイクル時間算出ステップで算出された呼吸サイクル毎の吸気時間と呼気時間との比率に応じて前記呼吸サイクル毎の呼吸気量差を補正することを特徴とする(8)又は(9)に記載の呼吸流量データ解析プログラム。
【0016】
(11)前記呼吸気量差算出ステップは、前記呼吸流量測定ステップで測定された呼気流量及び吸気流量を平滑化し、平滑後の呼気流量及び吸気流量を用いて前記呼吸気量差を算出することを特徴とする(6)乃至(10)の何れか一項に記載の呼吸流量データ解析プログラム。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、所定回数以上連続して行われた高速呼吸における吸気量、呼気量及び呼吸サイクルの測定を行うので、努力呼出を必要とせず、被検者にとって負荷が小さく、測定ばらつきも小さい。また、従来の小型のスパイロメータ等の呼吸流量測定装置をそのまま利用できるので、安価である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本出願人は、COPD患者が高速呼吸(一定流量以上の呼吸を連続して繰り返す呼吸)時に肺内の残気量(肺内に残っている空気量)が増加しやすいことに着目し、被検者に高速呼吸を繰り返し行ってもらい、残気量の時間変化を測定することでCOPDの程度を判断できると考えた。この方法は、努力呼出よりも被検者への負荷が小さいと考えられる。
【0019】
(装置構成)
図1は、本実施形態に係る呼吸機能検査装置100の概略構成図である。呼吸機能検査装置100は、呼吸流量測定手段として機能する呼吸流量測定部10と、呼吸流量解析部として機能するPC(パーソナルコンピュータ)20と、から構成される。
【0020】
呼吸流量測定部10は、管体11及びホルダ部12を備える。管体11は、筒状の透明な樹脂で構成され、呼吸気が流れる流路を形成している。また、管体11と、ホルダ部12とは着脱可能に構成されている。ホルダ部12とPC20とは、直接又はネットワークを介して接続されている。
【0021】
図2(a)は、本実施形態に係る管体11を軸方向に切断した縦断面図であり、図2(b)は、本実施形態に係る管体11を径方向に切断した縦断面図である。図2(a)及び(b)に示すように、管体11の内部には、呼吸気の流れの一部を遮断する方向に可動部材13が配置されており、可動部材13の一端は管体11の内壁に固定されている。可動部材13は、可撓性を有する樹脂等の弾性体から構成されており、呼吸気の流量に応じて撓むようになっている。
【0022】
例えば、呼気の流量を測定する場合には、管体11に呼気を吹き込むことにより、図2(a)の矢印a方向の空気の流れが生じる。この流れにより、可動部材13が矢印b方向に撓む。吸気の流量を測定する場合には、管体11から吸気を吸い込むことにより、図2(a)の矢印c方向の空気の流れが生じる。この流れにより、可動部材13が矢印d方向に撓む。この可動部材13の物理変化量、すなわち撓み量を検出することにより、呼吸流量の測定が可能となる。
【0023】
可動部材13の撓み量を検出することにより呼吸流量の測定を行う方法は、差圧式の流量測定方法に比べて応答性に優れ、高速呼吸の測定の場合においても精度良い測定を行うことが可能である。
【0024】
図3は、本実施形態に係る管体11及びホルダ部12を軸方向に切断した横断面図である。図3に示すように、ホルダ部12には、透明な管体11を通して可動部材13を撮像するためのCCDエリアセンサ14が設けられている。CCDエリアセンサ14は、可動部材13の撓み量を光学的に検出する。
【0025】
図4は、本実施形態に係るPC20の構成を示すブロック図である。図4に示すように、PC20は、CPU21、操作部22、表示部23、データ入力部24、ROM25、RAM26、記憶部27を備える。PC20は、PDA(携帯情報端末)であってもよい。
【0026】
CPU21は、操作部22から入力される各種指示に従って、ROM25に記憶されている各種プログラムの中から指定されたプログラムをRAM26のワークエリアに展開し、上記プログラムとの協働によって各種処理を実行し、その処理結果をRAM26の所定の領域に格納する。
【0027】
また、CPU21は、CCDエリアセンサ14から出力される画像データを画像解析することにより得られた可動部材13の撓み量に基づいて、呼吸流量を算出する。呼気と吸気とでは可動部材13の変位方向が逆であるため、管体11の軸方向における双方向の流れに対する呼吸流量を算出することが可能である。
【0028】
操作部22は、数字やアルファベット入力キー、各種キーを備えたキーボード及びマウス等のポインティングデバイスである。操作部22は、キーボードのキーの押下による押下信号やマウスの操作による操作信号をCPU21へ出力する。
【0029】
表示部23は、液晶ディスプレイ、CRTディスプレイ等から構成され、操作手順や処理結果等を表示する。
【0030】
データ入力部24は、CCDエリアセンサ14から出力された画像データをCPU21に出力する。
【0031】
ROM25は、不揮発性の半導体メモリで構成される。ROM25は、CPU21により実行される各種プログラムやデータ等を記憶している。
【0032】
RAM26は、書き換え可能な半導体素子で構成される。RAM26は、データが一時的に保存される記憶媒体であり、CPU21が実行するためのプログラムを展開するためのプログラムエリア、操作部22から入力されるデータやCPU21による各種処理結果等を保存するためのデータエリア等が形成される。
【0033】
記憶部27は、HDD(ハードディスクドライブ)を備えて構成され、測定した可動部材13の撓み量データ、撓み量データを呼吸流量データに変換する変換テーブル、変換テーブルにより変換した呼吸流量データ、呼吸流量データを解析した解析結果等を記憶している。撓み量データを呼吸流量データに変換する変換テーブルは、予め測定して求めておき記憶部27に記憶させておく。
【0034】
(呼吸流量の測定)
図5は、本実施形態に係る呼吸流量測定処理を示すフロー図である。この呼吸流量測定処理フローは、ROM25内の呼吸流量測定プログラムに基づいて、CPU21により実行されるフローである。予め操作部22により被検者を特定するID等は入力されているものとする。また、被検者は、呼吸流量測定部10を手に持ち、管体11を口に当てて高速呼吸の動作を開始しているものとする。
【0035】
まず、CPU21は、操作部22から呼吸流量測定の開始が指示されたか否かを判断する(ステップS10)。呼吸流量測定の開始が指示されたと判断すると(ステップS10;Yes)、CPU21は、CCDエリアセンサ14からの撓み量データを、記憶部27に記憶されている撓み量データを呼吸流量データに変換する変換テーブルに基づき、呼吸流量データに変換して記憶部27に保存させる動作を開始させる(ステップS11)。このとき、被検者のID及び時刻に対応付けて撓み量データは保存される。呼吸流量測定の開始が指示されていないと判断すると(ステップS10;No)、ステップS10に戻り呼吸流量測定の開始が指示されるまで待機する。
【0036】
次に、CPU21は、呼吸流量測定の終了が指示されたか否かを判断する(ステップS12)。呼吸流量測定の終了が指示されたと判断すると(ステップS12;Yes)、CPU32は、呼吸流量データを記憶部27に保存する動作を終了させる(ステップS13)。呼吸流量測定の終了が指示されていないと判断すると(ステップS12;No)、ステップS12に戻り呼吸流量測定の終了が指示されるまで待機する。
【0037】
なお、被験者が高速呼吸を連続して行うことができるように、呼吸流量測定部10による呼吸流量の測定は常時行うとともに、測定した呼吸流量や呼吸サイクルを表示部23に表示することが好ましい。このようにすることで、被験者に高速呼吸を意識させることができ、確実に高速呼吸時の呼吸流量を測定できるようになる。また、呼吸流量測定部10による呼吸流量の測定が常時行われると、ステップS10の呼吸流量測定開始は、呼吸流量及び呼吸サイクルが予め定められた条件を満足した場合にCPU21により指示することが可能となる。さらに、ステップS12の呼吸流量測定終了も、呼吸流量、呼吸サイクル又は残気量が予め定められた条件を満足した場合にCPU21により指示するようにしてもよい。
【0038】
(呼吸流量データの説明)
図6は、図5のステップS11で保存された、高速呼吸が行われたときの呼吸流量データの一例を示す模式図である。横軸には経過時間tを示している。時間軸tに対して、ゼロ点よりマイナス側の領域では安静呼吸(リラックスした状態での呼吸)を示し、プラス側には高速呼吸による呼吸流量Bfを示している。高速呼吸では、安静呼吸に比べて呼吸サイクル時間が短くなる傾向がある。ある一定以上の流速を必要とするのは、気道の閉塞を引き起こさせるためである。COPDの疑いがある患者に対しては、高速呼吸によって残気量が呼吸時間に伴い増加すると考えられる。縦軸には、呼吸流量Bf(ゼロ点よりプラス側が吸気によるもの、ゼロ点よりマイナス側が呼気によるもの)を示している。理解しやすいように、ハッチング等を図中に表示している。
【0039】
呼吸サイクルとは、隣り合う吸気、呼気1信号の組であり、呼吸サイクル時間とは、呼吸サイクル1つが占める時間である。
【0040】
最初の1呼吸サイクルT1において、ゼロ点よりプラス側の斜線及びハーフトーンで塗られた部分の面積が吸気による吸気量を表しており、ゼロ点よりマイナス側のハーフトーンで塗られた部分の面積が呼気量を表している。ゼロ点よりプラス側のハーフトーン部は、ゼロ点よりマイナス側のハーフトーン部の面積と同一の面積になるように表されており、従って、ゼロ点よりプラス側の斜線部の面積が、最初の1呼吸サイクルにおける呼吸気量差R1(吸気量−呼気量)を表している。
【0041】
同様に、次の1呼吸サイクルT2において、呼吸気量差がR2であることを表している。それ以降の呼吸サイクルについては、呼吸流量データのみを示し、呼吸気量差の説明等のための表示は省略している。
【0042】
(呼吸流量データの解析)
図7は、本実施形態に係る呼吸流量データの解析処理を示すフロー図である。この呼吸流量データ解析処理フローは、ROM25内の呼吸流量データ解析プログラムに基づいて、CPU21により実行されるフローである。予め操作部22により被検者を特定するID等が入力され、記憶部27からRAM26に当該被検者の呼吸流量データがロードされ、呼吸流量入力ステップは完了しているものとする。
【0043】
まず、CPU21は、初期設定としてi=1を設定する(ステップS20)。
【0044】
次に、CPU21は、i番目の呼吸サイクルの呼吸流量データを抽出するために、ゼロ点からプラス側(吸気側)への、i番目の立ち上がり時刻ti及び(i+1)番目の立ち上がり時刻ti+1が存在するか否かを判断する(ステップS21)。
【0045】
i番目の立ち上がり時刻ti及び(i+1)番目の立ち上がり時刻ti+1が存在すると判断すると(ステップS21;Yes)、CPU21は、ti+1−tiを演算し、i番目の呼吸サイクル時間であるTiを算出する(ステップS22)[呼吸サイクル検知手段、呼吸サイクル時間算出手段、呼吸サイクル検知ステップ、呼吸サイクル時間算出ステップ]。i番目の立ち上がり時刻ti及び(i+1)番目の立ち上がり時刻ti+1が存在しないと判断すると(ステップS21;No)、本フローは終了する。
【0046】
次に、CPU21は、i番目の呼吸サイクル時間Ti内の呼吸流量Bfを積分し、i番目の呼吸サイクルにおける呼吸気量差Riを算出する(ステップS23)[呼吸気量差算出手段、呼吸気量差算出ステップ]。
【0047】
次に、CPU21は、吸気量Ii、呼気量Ei及び呼吸気量差Riをi番目の呼吸サイクル時間Tiに対応付けて記憶部27に保存する(ステップS24)。
【0048】
次に、CPU21は、iをi+1に変更して(ステップS25)、ステップS21からの制御を繰り返す。
【0049】
これにより、測定された呼吸流量データから、呼吸サイクル毎の呼吸サイクル時間及び呼吸気量差データが得られる。
【0050】
呼吸流量データの解析処理により得られた結果は、例えば図8に示したように、得られた呼吸サイクル毎の呼吸気量差データから、呼吸サイクル毎の残気量の変化を求めることができ、この残気量の変化特性からCOPDの診断を行うことが可能となる。図8は、図7に示した呼吸流量データの解析処理により得られた呼吸サイクルiと呼吸サイクル1から呼吸サイクルiまでの各呼吸サイクルの呼吸流量差の累積との関係の一例を示したもので、Aは健常者のものを、BはCOPD患者のものを示している。Aでは、一時的に呼吸流量差の累積が正になっても(i=1,2)、数サイクル後には負となり(i=3,4)、肺の残気量は一定を保つようになっている。一方、Bでは、高速呼吸を連続して行うと、呼吸流量差の累積は次第に増加し、肺の中に空気がどんどん蓄積されていく。COPD患者では呼出が十分に行われなくなることを示している。
【0051】
呼吸サイクル毎の残気量の変化を求めるにあたり、呼吸サイクル時間で呼吸気量差を正規化して補正する(例えば、呼吸サイクル時間Tiが相対的に長い場合、呼吸気量差の値を小さくするように補正する)ようにすれば、より好ましい残気量の変化特性を提供することができ、COPDの診断の精度を向上させることができる。
【0052】
また、呼吸サイクル毎の呼吸サイクル時間に占める吸気時間と呼気時間との比率についても算出し、呼吸サイクル毎の呼吸気量差を算出するにあたり、前記吸気時間と呼気時間との比率に応じて補正する(例えば、呼気時間の比率が吸気時間の比率に対して高いほど、呼吸気量差の値を大きくするように補正する)ようにすれば、より好ましい残気量の変化特性を提供することができ、COPDの診断の精度を向上させることができる。
【0053】
本実施形態においては、測定された呼吸流量データをそのまま用いて呼吸サイクルの立ち上がりを検出したが、呼吸サイクル時間が所定時間より短い場合にはノイズの影響も考えられるので、所定周波数以上の高周波成分を削除して平滑化し、平滑化後の呼吸流量データを用いて呼吸サイクル毎の呼吸サイクル時間及び呼吸気量差データ等の解析を行ってもよい。一般に、被験者の呼吸リズムが乱れたり、呼吸流量測定部10が外乱の影響を受けて、図9に示したように、呼吸流量データに高周波成分が重畳されて呼吸位相が判別困難になる場合(図示X領域)がある。そこで、呼吸流量データから公知のローパスフィルタ等により高周波成分を削除して平滑化された呼吸流量データ(図示N)を用いて平滑化して所期の高速呼吸が行われたものとして、図7のステップ20以降の処理を行うようにすることで、呼吸流量データに乱れがあっても、精度の高い呼吸流量解析が可能となる。
【0054】
以上述べたように、本発明によれば、高速呼吸により測定を行うので、努力呼出を必要とせず、被検者にとって負荷が小さく、測定ばらつきも小さい。また、従来の小型のスパイロメータ等の呼吸流量測定装置をそのまま利用できるので、安価である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本実施形態に係る呼吸機能検査装置100の概略構成図である。
【図2】図2(a)は、本実施形態に係る管体11を軸方向に切断した縦断面図である。図2(b)は、本実施形態に係る管体11を径方向に切断した縦断面図である。
【図3】本実施形態に係る管体11及びホルダ部12を軸方向に切断した横断面図である。
【図4】本実施形態に係るPC20の構成を示すブロック図である。
【図5】本実施形態に係る呼吸流量測定処理を示すフロー図である。
【図6】呼吸流量データの一例を示す模式図である。
【図7】本実施形態に係る呼吸流量データの解析処理を示すフロー図である。
【図8】呼吸サイクルと各呼吸サイクルの呼吸流量差の累積との関係の一例を示す模式図である。
【図9】呼吸流量データの平滑化を示す模式図である。
【符号の説明】
【0056】
10 呼吸流量測定部
11 管体
12 ホルダ部
13 可動部材
14 CCDエリアセンサ[検出手段]
20 PC
21 CPU
25 ROM
27 記憶部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定回数以上連続して呼気流量及び吸気流量を測定する呼吸流量測定手段と、
前記呼吸流量測定手段で測定された呼気流量及び吸気流量に基づいて呼吸サイクルを検知する呼吸サイクル検知手段と、
前記呼吸流量測定手段で測定された呼気流量及び吸気流量並びに前記呼吸サイクル検知手段で検知された呼吸サイクルに基づいて呼吸サイクル毎の呼吸気量差を算出する呼吸気量差算出手段と、
を有することを特徴とする呼吸機能検査装置。
【請求項2】
前記呼吸サイクル検知手段で検知された呼吸サイクル毎の呼吸サイクル時間を算出する呼吸サイクル時間算出手段を有することを特徴とする請求項1に記載の呼吸機能検査装置。
【請求項3】
前記呼吸気量差算出手段は、前記呼吸サイクル時間算出手段により算出された呼吸サイクル毎の呼吸サイクル時間に応じて前記呼吸サイクル毎の呼吸気量差を補正することを特徴とする請求項2に記載の呼吸機能検査装置。
【請求項4】
前記呼吸サイクル時間算出手段は、前記呼吸サイクル毎の呼吸サイクル時間に占める吸気時間と呼気時間との比率を算出し、
前記呼吸気量差算出手段は、前記呼吸サイクル時間算出手段で算出された呼吸サイクル毎の吸気時間と呼気時間との比率に応じて前記呼吸サイクル毎の呼吸気量差を補正することを特徴とする請求項2又は3に記載の呼吸機能検査装置。
【請求項5】
前記呼吸気量差算出手段は、前記呼吸流量測定手段で測定された呼気流量及び吸気流量を平滑化し、平滑後の呼気流量及び吸気流量を用いて前記呼吸気量差を算出することを特徴とする請求項1乃至4の何れか一項に記載の呼吸機能検査装置。
【請求項6】
前記呼吸流量測定手段は、
呼吸気が流れる管体と、
前記管体の内部に前記呼吸気の流れの一部又は全部を遮断する方向に配置され、前記呼吸気の流量に応じて物理変化を生ずる可動部材と、
前記管体の外部に配置され、前記可動部材の物理変化量を非接触に検出する検出手段と、
を有することを特徴とする請求項1乃至5の何れか一項に記載の呼吸機能検査装置。
【請求項7】
コンピュータに、
所定回数以上連続して呼気流量及び吸気流量を入力する呼吸流量入力ステップと、
前記呼吸流量入力ステップで入力された呼気流量及び吸気流量に基づいて呼吸サイクルを検知する呼吸サイクル検知ステップと、
前記呼吸流量入力ステップで入力された呼気流量及び吸気流量並びに前記呼吸サイクル検知ステップで検知された呼吸サイクルに基づいて呼吸サイクル毎の呼吸気量差を算出する呼吸気量差算出ステップと、
を実行させることを特徴とする呼吸流量データ解析プログラム。
【請求項8】
前記呼吸サイクル検知ステップで検知された呼吸サイクル毎の呼吸サイクル時間を算出する呼吸サイクル時間算出ステップを有することを特徴とする請求項7に記載の呼吸流量データ解析プログラム。
【請求項9】
前記呼吸気量差算出ステップは、前記呼吸サイクル時間算出ステップにより算出された呼吸サイクル毎の呼吸サイクル時間に応じて前記呼吸サイクル毎の呼吸気量差を補正することを特徴とする請求項8に記載の呼吸流量データ解析プログラム。
【請求項10】
前記呼吸サイクル時間算出ステップは、前記呼吸サイクル毎の呼吸サイクル時間に占める吸気時間と呼気時間との比率を算出し、
前記呼吸気量差算出ステップは、前記呼吸サイクル時間算出ステップで算出された呼吸サイクル毎の吸気時間と呼気時間との比率に応じて前記呼吸サイクル毎の呼吸気量差を補正することを特徴とする請求項8又は9に記載の呼吸流量データ解析プログラム。
【請求項11】
前記呼吸気量差算出ステップは、前記呼吸流量測定ステップで測定された呼気流量及び吸気流量を平滑化し、平滑後の呼気流量及び吸気流量を用いて前記呼吸気量差を算出することを特徴とする請求項6乃至10の何れか一項に記載の呼吸流量データ解析プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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