説明

呼気成分測定装置、及び呼気成分測定方法

【課題】本発明は、信頼性の高い測定結果が得られ、安価に呼気成分を測定することができる呼気成分測定装置および呼気成分溶解方法を提供する。
【解決手段】被験者の空腹時の呼気を呼気成分溶解容器内に吹き込んで、該容器内の溶液を攪拌した後、その溶液を第1の試料として採取するとともに、上記被験者に尿素を経口的に服用させた後に所定時間を経過した時点での該被験者の呼気を別の呼気成分溶解容器内吹き込んで、該容器内の溶液を攪拌した後、その溶液を第2の試料として採取する。採取した試料に含まれるアンモニア濃度をそれぞれ、フローインジェクションタイプの呼気成分測定装置100を用いて電気化学的に測定し、測定結果を比較してウレアーゼ活性を有する微生物が上記被験者の胃の中に棲息しているか否かを判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被験者の呼気成分を所定の容器に採取して、呼気成分の量を電気化学的に測定することにより、ウレアーゼ活性を有する微生物の有無を判定する測定装置、及び測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
呼気に含まれているガスは400種類といわれている。この呼気ガスの源は大腸に生息している腸内細菌の代謝産物として発生している。たとえばこの細菌が炭水化物を消化すると、酸と水分とガスを発生する。近年このような腸内細菌が発生する細菌ガスに着目し、その部位、発生時間、発生量について種々の研究が行われ、消化器の生理機能が明らかになってきた。このような細菌の一種として、胃内へ感染したヘリコバクターピロリ菌が挙げられるが、この菌は胃潰瘍や十二指腸潰瘍の原因として知られている。それらの治療のため、ヘリコバクターピロリ菌は抗生物質を使って除菌されるが、除菌治療後のヘリコバクターピロリ菌の状態を確認する方法として、内視鏡を使用する方法と、使用しない方法がある。
【0003】
内視鏡を使用する方法としては、培養法・鏡検法・迅速ウレアーゼ試験・PCR法がある。一方、内視鏡を使用しない方法としては、尿素呼気試験法と、抗体測定法がある。
【0004】
その中で尿素呼気試験法は、ヘリコバクターピロリ菌が尿素を分解して、アンモニアとCO2を生成する性質を利用した試験法であり、被験者は、尿素の安定同位体である13C標識尿素を持つ錠剤を服用し、10〜20分間安静にする。もし、被験者の胃内にヘリコバクターピロリ菌が棲息していると、ヘリコバクターピロリ菌自身が持つウレアーゼという酵素により、この13C標識尿素が、アンモニアと、13Cで標識されたCO2とに分解され、13Cで標識されたCO2は、吸収されて血流に乗り、肺に運ばれて呼気として排出される。この呼気を採取し、13C標識尿素の投与前と、投与後の13CO2含量変化を、質量分析計や赤外分光法で測定することで、ヘリコバクターピロリ菌の存在の有無を調べることができる。
【0005】
また、ウレアーゼ活性を利用して測定する方法が、特開平8−145991号公報(特許文献1)に示されている。この特許文献1に開示されている方法は、被験者に非標識の尿素含有錠剤を経口させて、呼気に含まれるアンモニアを検出するというものである。ヘリコバクターピロリ菌が存在する場合、このヘリコバクターピロリ菌は、ウレアーゼ活性を利用して経口した尿素を分解し、アンモニアを発生する。発生したアンモニアは、血液内に吸収されて肺に運ばれ、肺胞より呼気として排出される。この呼気に含まれるアンモニアを、ガスの状態で容器に保管しておき、ガスクロマトグラフィーや、アンモニアガスと化学反応を起こして呈色する発色試験紙などを用いることで、アンモニアを検出することができる。
【特許文献1】特開平8−145991号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の測定方法は、CO2や、アンモニアというガスの状態で測定を行うために、採取した呼気をガスの状態で容器に保管しており、採取したガスが容器から漏れたり、容器中の水分にガスが溶解したりして、ガス濃度が変化するという問題があった。
【0007】
また、呼気に含まれるCO2の量を測定する試験方法では、13Cという安定同位体を用いるため、高価な試薬が必要であり、さらに、赤外分光法を用いて検出するため、装置も高価であり、この試験方法はその低コスト化が望まれている。
【0008】
そこで、本発明は上記従来の問題点を解決するためになされたもので、信頼性の高い測定結果を得ることができ、安価にウレアーゼ活性を有する微生物の有無を判定することができる呼気成分測定装置、および呼気成分測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の請求項1に係る呼気成分測定装置は、呼気中に含まれる呼気成分を測定する装置において、その内部に、呼気成分を溶解させるためのクロマノール骨格を有する化合物及び電解質を含有する一定量の溶液を貯蔵する、呼気を吹き込むことで膨張する袋状の呼気成分溶解容器と、クロマノール骨格を有する化合物及び電解質を含有する溶離液を貯蔵する溶離液タンクと、前記溶離液タンクに貯蔵されている前記溶離液を流路に送液するポンプと、前記呼気成分溶解容器から呼気成分が溶解された溶液を試料として抽出し、前記流路内を流れている溶離液中に注入する試料注入部と、前記試料注入部から前記流路を介して送液されてきた前記溶離液に含まれる呼気成分を電気化学的に測定する測定部と、前記測定部による前記呼気成分測定値を数値に変換し表示する表示部と、前記測定部から前記流路を介して送液されてきた前記溶離液を廃液として貯蔵する廃液タンクと、を備えた、ことを特徴とする。
これにより、測定値のバラツキが少なく、信頼性の高い測定結果を得ることができ、安価で、コンパクトな呼気成分測定装置を実現可能である。また、電気化学的に呼気成分測定をしているため、少量の試料で、正確でかつ迅速な測定を行うことができる。
【0010】
また、本発明の請求項2に係る呼気成分測定装置は、請求項1に記載の呼気成分測定装置において、前記試料注入部に試料が注入されたことを検知する試料注入センサーと、前記測定部の後方位置に配置された、前記測定部から前記溶離液タンクへの流路、あるいは前記測定部から前記廃液タンクへの流路を切り替え可能な流路可変弁と、を備え、前記流路可変弁は、前記試料注入センサーが試料の注入を検知するまでは、前記測定部から前記溶離液タンクへの流路を選択し、前記試料注入センサーが試料の注入を検知すると、前記測定部から前記廃液タンクへの流路に切り替える、ことを特徴とする。
これにより、測定値のバラツキが少なく、信頼性の高い測定結果を得ることができ、安価で、コンパクトな呼気成分測定装置を実現可能である。
【0011】
また、本発明の請求項3に係る呼気成分測定装置は、請求項1または2に記載の呼気成分測定装置において、前記測定部は、作用電極と対極と参照電極とよりなり、前記参照電極に対して前記作用電極が一定の電位となるように、前記作用電極と前記対極との間に電圧を印加し、前記作用電極に流れる前記溶離液の酸化電流を測定する、ことを特徴とする。
これにより、コンパクトな測定部を実現することができるとともに、正確な呼気成分測定を実現可能である。
【0012】
また、本発明の請求項4に係る呼気成分測定装置は、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の呼気成分測定装置において、前記溶離液タンクの後方位置に空気抜き用のデガッサーを備えた、ことを特徴とする。
これにより、溶離液タンクからポンプに送られる途中で溶離液中のノイズの原因となる溶存酸素や気泡を除去することができ、その結果、溶離液をしようする度に脱気を行う必要がないため、手間がかからず、便利である。
【0013】
また、本発明の請求項5に係る呼気成分測定装置は、請求項1または2に記載の呼気成分測定装置において、前記ポンプは、前記溶離液の流量が0.7ml/分〜1.3ml/分となるよう送液する、ことを特徴とする。
これにより、試料中の塩基成分濃度を正確に測定することができる。
【0014】
また、本発明の請求項6に係る呼気成分測定装置は、請求項1または2に記載の呼気成分測定装置において、前記溶離液は、0.02mM〜2mMのクロマノール骨格を有する化合物を含有した溶液である、ことを特徴とする。
これにより、試料中の塩基成分濃度を正確に測定することができる。
【0015】
また、本発明の請求項7に係る呼気成分測定装置は、請求項1または2に記載の呼気成分測定装置において、前記呼気成分は、アンモニアである、ことを特徴とする。
これにより、ウレアーゼ活性を有する微生物の有無を確認することができる。
【0016】
また、本発明の請求項8に係る呼気成分測定装置は、請求項1または2に記載の呼気成分測定装置において、前記呼気成分溶解容器は、10℃以上に保温されている、ことを特徴とする。
これにより、試料中に含まれる二酸化炭素が溶液に溶融しにくくなり、呼気成分測定を正確に行うことができる。
【0017】
また、本発明の請求項9に係る呼気成分測定装置は、請求項1または2に記載の呼気成分測定装置において、前記呼気成分溶解容器内に貯蔵されている溶液の溶媒は、水とアルコールの混合溶液である、ことを特徴とする。
これにより、精度の良い電気化学的測定が実現可能である。
【0018】
また、本発明の請求項10に係る呼気成分測定装置は、請求項1または2に記載の呼気成分測定装置において、前記呼気成分溶解容器は、呼気を吹き込むための呼気口に逆止弁を有し、該呼気口に吹き込まれる呼気の空気量を測定する空気量測定センサーを持つ、ことを特徴とする。
これにより、吹き込む呼気の量を常に一定にすることができ、精度の良い呼気成分測定を実現可能である。
【0019】
また、本発明の請求項11に係る呼気成分測定装置は、請求項1または2に記載の呼気成分測定装置において、前記クロマノール骨格を有する化合物は、α−トコフェロール,ブチルヒドロキシアニソール,ハイドロナフトキノン,トロロックス,2H-1-Benzopyran-2-carboxylicacid,3,4-dihydro-6-hydroxy-7,8-dimethyl、2H-1-Benzopyran-2-carboxylic acid,3,4-dihydro-6-hydroxy-5-methyl、2H-1-Benzopyran-2-acetic acid,3,4-dihydro-6-hydroxy-2-methylのいずれかである、ことを特徴とする。
これにより、呼気成分を電気化学的に測定することが可能である。
【0020】
また、本発明の請求項12に係る呼気成分測定方法は、呼気成分を溶解させるための一定量の溶液を含んだ膨張可能な袋状の第1の呼気成分溶解容器に、被験者の空腹時の呼気を一定量注入して前記容器内の溶液を攪拌した後、該溶液を第1の試料として採取する第1の採取ステップと、上記第1の呼気溶解容器と同じ呼気成分を溶解させるための一定量の溶液を含んだ膨張可能な袋状の第2の呼気成分溶解容器に、被験者に尿素を経口的に服用させた後に所定時間を経過した時点での該被験者の呼気を一定量注入して前記容器内の溶液を攪拌した後、該溶液を第2の試料として採取する第2の採取ステップと、前記第1の試料、及び第2の試料を、それぞれ、クロマノール骨格を有する化合物、及び電解質を含有する溶離液に混入して、電気化学的に前記各試料中の呼気成分の濃度を測定する濃度測定ステップと、前記第1の試料および第2の試料の各々に含まれる呼気成分の測定結果を相互に比較し、ウレアーゼ活性を有する微生物が被験者の胃の中に棲息しているか否かを判定する判定ステップとを含む、ことを特徴とする。
これにより、信頼性が高く、安価な呼気成分測定を実現可能であり、また、電気化学的に呼気成分測定をしているため、少量の試料で正確でかつ迅速な測定を行うことができる。
【0021】
また、本発明の請求項13に係る呼気成分測定方法は、請求項12に記載の呼気成分測定方法において、前記クロマノール骨格を有する化合物は、α−トコフェロール,ブチルヒドロキシアニソール,ハイドロナフトキノン,トロロックス,2H-1-Benzopyran-2-carboxylicacid,3,4-dihydro-6-hydroxy-7,8-dimethyl、2H-1-Benzopyran-2-carboxylic acid,3,4-dihydro-6-hydroxy-5-methyl、2H-1-Benzopyran-2-acetic acid,3,4-dihydro-6-hydroxy-2-methylのいずれかである、ことを特徴とする。
これにより、呼気成分を電気化学的に測定することが可能である。
【発明の効果】
【0022】
本発明の呼気成分測定装置によれば、呼気中に含まれる呼気成分を測定する装置において、その内部に、呼気成分を溶解させるためのクロマノール骨格を有する化合物及び電解質を含有する一定量の溶液を貯蔵する、呼気を吹き込むことで膨張する袋状の呼気成分溶解容器と、クロマノール骨格を有する化合物及び電解質を含有する溶離液を貯蔵する溶離液タンクと、前記溶離液タンクに貯蔵されている前記溶離液を流路に送液するポンプと、前記呼気成分溶解容器から呼気成分が溶解された溶液を試料として抽出し、前記流路内を流れている溶離液中に注入する試料注入部と、前記試料注入部から前記流路を介して送液されてきた前記溶離液に含まれる呼気成分を電気化学的に測定する測定部と、前記測定部による前記呼気成分測定値を数値に変換し表示する表示部と、前記測定部から前記流路を介して送液されてきた前記溶離液を廃液として貯蔵する廃液タンクと、を備えたことより、測定値のバラツキが少なく信頼性の高い測定結果を得ることができ、安価でコンパクトな呼気成分測定装置を実現可能である。また、電気化学的に呼気成分測定をしているため、少量の試料で正確で、かつ迅速な測定を行うことができる。
【0023】
また、本発明の呼気成分測定方法によれば、呼気成分を溶解させるための一定量の溶液を含んだ膨張可能な袋状の第1の呼気成分溶解容器に、被験者の空腹時の呼気を一定量注入して前記容器内の溶液を攪拌した後、該溶液を第1の試料として採取する第1の採取ステップと、上記第1の呼気溶解容器と同じ呼気成分を溶解させるための一定量の溶液を含んだ膨張可能な袋状の第2の呼気成分溶解容器に、被験者に尿素を経口的に服用させた後に所定時間を経過した時点での該被験者の呼気を一定量注入して前記容器内の溶液を攪拌した後、該溶液を第2の試料として採取する第2の採取ステップと、前記第1の試料、及び第2の試料を、それぞれ、クロマノール骨格を有する化合物及び電解質を含有する溶離液に混入して、電気化学的に前記各試料中の呼気成分の濃度を測定する濃度測定ステップと、前記第1の試料および第2の試料の各々に含まれる呼気成分の濃度の測定結果を相互に比較し、ウレアーゼ活性を有する微生物が被験者の胃の中に棲息しているか否かを判定する判定ステップとを含むので、信頼性が高く、安価な呼気成分測定を実現可能であり、かつ、電気化学的な呼気成分測定をしていることより、少量の試料で正確、かつ迅速な測定が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1における呼気成分測定装置100の外観図を示す。
図1において、筐体1は、内部に呼気成分を測定するための部材を具備している。ディスプレー2は、呼気成分の測定過程および測定結果を表示する。注入部3は、サンプル抽出容器4により採取した試料を注入する。操作ボタン5は、各種操作を行うためのものである。トグルスイッチ6は、装置100に電源を投入するためのものである。廃棄ドア7は、筐体1内に具備している廃棄タンク13を取り出すためのドアである。
【0025】
このような構成の呼気成分測定装置100の操作方法について説明する。
トグルスイッチ5をONにして電源を投入し、操作ボタン4を操作して呼気成分測定を開始する。試料を採取したサンプル抽出容器4、例えばシリンジの針部分を注入部3に挿入して、サンプル抽出容器4内の試料を注入すると、該試料中に含まれる呼気成分の測定過程および測定結果が、ディスプレー2に表示される。
【0026】
図2は、本実施の形態1の呼気成分測定装置100における、筐体1の内部構造の概略図を示す。
本実施の形態1の呼気成分測定装置100は、筐体1の内部に、溶液タンク8、デガッサー9、ポンプ10、センサー11、測定部12、廃棄タンク13、流路可変弁14、電源ボックス15、および制御基盤16を具備している。
【0027】
溶離液タンク8は、クロマノール骨格を有する化合物及び電解質を含有する溶離液を貯蔵するものである。この溶離液の溶媒はメタノール、エタノール、プロパノールの単独または2〜3種混合系、アセトニトリルとメタノール、エタノール、プロパノールの2〜4種混合系と、水との混合溶液であり、電解質として、塩化ナトリウム、塩化リチウム、塩化カリウム、過塩素酸テトラメチルアンモニウム、過塩素酸テトラエチルアンモニウムのいずれかひとつを含有し、クロマノール骨格を有する化合物として、疎水性であるα−トコフェロール、ブチルヒドロキシアニソール,ハイドロナフトキノン,トロロックス,2H-1-Benzopyran-2-carboxylicacid,3,4-dihydro-6-hydroxy-7,8-dimethyl,2H-1-Benzopyran-2-carboxylicacid,3,4-dihydro-6-hydroxy-5-methyl,2H-1-Benzopyran-2-acetic acid,3,4-dihydro-6-hydroxy-2-methylのいずれかひとつを含有している。また、前記溶離液は、0.02mM〜2mMのクロマノール骨格を有する化合物を含有するものとする。
【0028】
デガッサー9は、溶離液タンク8の後方位置に配置された、溶液中の空気を抜くためのもので、溶離液中の気泡や溶存酸素を除去することができる。
ポンプ10は、溶離液を送液するものである。なお、このポンプ10は、脈動が起こらないポンプであることが望ましい。
【0029】
センサー11は、注入部3に試料が注入されたことを検知するものである。
測定部12は、塩基成分濃度を電気化学的に測定するもので、詳細は図3に示す。
廃液タンク13は、測定部12から流路介して送液されてきた溶離液を廃液として貯蔵するものである。
【0030】
流路可変弁14は、測定部12の後方位置に配置され、測定部12から溶離液タンク8への流路、あるいは測定部12から廃液タンク13への流路を切り替える。
【0031】
電源ボックス15は、装置100の電源を供給するものである。
制御基盤16は、各構成部を制御するものである。
【0032】
図3は、測定部12の断面図である。
測定部12は、溶離液中のクロマノール骨格を有する化合物を酸化するための作用電極17と、溶離液の電位を参照するための参照電極18と、作用電極17からの電流が流れ込み、作用電極17との間に電圧を印加するための対極19とを有している。また、スペーサ20は、溶離液の通路を確保するためのものである。流路21は、測定部12中を流れていく溶液の流路である。
【0033】
なお、作用電極17としては、金、白金、グラッシーカーボンなどの溶媒と反応を起こさない安定した導電体が望まれるが、本実施の形態では、グラッシーカーボンを使用する。参照電極18としては、飽和カロメロ電極(以降SCEと呼ぶ)銀/塩化銀電極などがあるが、本実施の形態1では、SCEを使用する。対極19は流路21を囲むように形成されており、材料はステンレス、グラッシーカーボン、金、白金などが考えられるが、本実施の形態ではステンレスを使用する。
【0034】
この測定部12は、参照電極に対して作用電極が一定の電位となるように、作用電極と対極との間に電圧を印加し、作用電極に流れる溶離液の酸化電流を測定している。
【0035】
図4は、呼気を採取するための呼気成分溶解容器を示す図である。図4(c)は、呼気成分が溶解した溶液のサンプリングの様子を示す図である。
呼気成分溶解容器30は、図4(a)に示すように、呼気が吹き込まれると膨張する袋状の容器部分31と、呼気を吹き込むための呼気口32と、吹き込んだ呼気の逆流を防止するための逆止弁33とよりなる。この呼気成分溶解容器30の内部に、図4(b)に示すように、呼気成分を溶解させるための一定量の溶液34を貯蔵している。この溶液34は、溶離液タンク8に貯蔵されている溶液と同じ溶媒、すなわち、メタノール、エタノール、プロパノールの単独または2〜3種混合系、アセトニトリルとメタノール、エタノール、プロパノールの2〜4種混合系と、水との混合系溶液であり、クロマノール骨格を有する化合物および電解質を含有するものである。
【0036】
この呼気成分溶解容器30内に、被験者の呼気を所定量吹き込んだ後、容器30を振って攪拌することで、呼気中に含まれる呼気成分を溶液34に十分に溶解させると、図4(c)に示すように、サンプル抽出容器4の中空針を容器30の所定位置に突き刺して、所定量の溶液34を抽出する。
【0037】
以下、本発明の尿素呼気試験について説明する。ここでは、呼気成分がアンモニアである場合について説明する。
尿素呼気試験とは、ヘリコバクターピロリ菌が尿素を分解してアンモニアを産出することを利用した試験法である。ヘリコバクターピロリ菌は、人間の胃に存在し、胃潰瘍の原因であるとも言われている。このヘリコバクターピロリ菌は、胃壁で棲息するために、強力なウレアーゼを産出し、胃内の尿素を分解してアンモニアを生成し、このアンモニアによって胃の中の胃液を中和して棲息している。従って、被験者に尿素入りの錠剤を経口から服用させる前、および後のアンモニア量を測定して比較することにより、ヘリコバクターピロリ菌が尿素を分解したということを間接的に測定することが可能である。
【0038】
まず、被験者が尿素入り錠剤を服用する前の空腹時に、被験者の呼気を呼気成分溶解容器30の呼気口32から容器部分31が満杯になるまで吹き込む。なお、呼気成分溶解容器30の呼気口32には逆止弁33が設けられているため、吹き込んだ呼気が外部に逆流してしまうのを防止することができる。さらに、上記呼気口32に空気量測定センサーを設けるようにすれば、常に吹き込まれる呼気の量が一定となるよう制御することができ、より正確な呼気成分測定を行うことが可能である。
【0039】
呼気を吹き込んだ後、呼気成分溶解容器30をよく振って該容器30内の溶液34を攪拌する。これにより、溶液34に呼気中の呼気成分であるアンモニアを溶解させることができる。このとき、容器30を10℃以上に設定しておけば、呼気中に含まれるCO2が溶液に溶解するのを防ぐことができる。これは、CO2が溶解すると、溶液34に含まれるアンモニアを中和してしまい、正確な呼気成分測定を行うことができなくなるからである。
【0040】
そして、サンプル抽出容器4に設けた注射針状の中空針を容器30へ突き刺して容器30内の溶液34の一部を抽出し、これを第1の試料とする。なお、中空針を突刺す部分はゴムなどで形成しておくと、中空針を刺し易く、試料抽出後も容器内の溶液が外に洩れることは無い。また、測定部12で測定する際に必要な試料の量は、5〜10μL程度であるので、溶液24の抽出量は、1mL程度で良い。
【0041】
一方、被験者に尿素入りの錠剤を経口的に服用させた後に所定時間経過した時点での該被験者の呼気を、他の新しい呼気成分溶解容器30に吹き込み、上記容器30内の溶液34を攪拌した後、該溶液34の一部をサンプル抽出溶液を用いて抽出し、第2の試料とする。なお、尿素入りの錠剤を服用後に10〜20分間安静にしておく必要があるが、これは、安静にしている間に胃の中にいるピロリ菌によって尿素がウレアーゼ活性によって分解し、発生したアンモニアは胃壁から吸収されて血管を通って肺胞から呼気として放出されるからである。
【0042】
このようにして得た、第1試料、および第2試料をそれぞれ、呼気成分測定装置100の注入部3を介して注入し、流路内の溶離液に混入する。
試料が混入した溶離液は、測定部12に流れてくると、図3に示すスペーサ20によって形成された流路21を通り、図3の矢印の方向に流れてゆく。このとき、参照電極18に対して作用電極17の電位が一定の電圧になるように、作用電極17と対極19との間に電圧が印加され、作用電極17により酸化された溶離液の酸化電流値が測定される。
そして、各試料の測定結果を比較し、ウレアーゼ活性を有する微生物であるピロリ菌が被験者の胃の中に存在するかどうかを判定する。
【0043】
ここで、呼気成分測定装置100について説明する。
呼気成分測定装置100の電源は、呼気成分の測定を開始する前に、予め入れておいてエージングしておく。これは、電気化学的に測定するために、予め溶液を電極に浸して電気化学的に測定部12の電圧を安定させておく必要があるからである。
【0044】
電源が入ると、ポンプ10が作動して溶離液タンク8から溶離液が流路に送り込まれる。この溶離液は、エタノールと、イソプロパノールと、水を、3:2:1の比率で混合したもので、50mMの塩化ナトリウムと、3mMのα−トコフェロールを含有している。溶離液タンク8から送液される溶離液は、デガッサー9を通ってポンプ10によって、流量0.7ml/分〜1.3ml/分で流路内を流れていく。この溶離液の流路は、基本的には、センサー11が、試料の注入を検知するまでは、測定部12から溶離液タンク8への流路となっており、センサー11が、試料の注入を検知すると、測定部12から廃液タンク13への流路に流路可変弁14により切り替えられる。
【0045】
次に、作用電極17の電位の決定方法について、説明する。
一定のアンモニア量を含んだ標準液を作成し、この標準液を試料として装置100の注入口3から注入し、参照電極18と作用電極17の電位を変化させて、流路21内を流れる溶離液の電流変化を観測し、電流変化が少ない点を判断する。図7に、参照電極18と作用電極17間の電位を変化させたときの溶離液の電流変化を示す。図7を見ると、作用電極17と参照電極18間の電位が0.75Vのとき、電流値が300nAとほぼ安定していることがわかる。
【0046】
したがって、作用電極17の電位が0.75Vとなるように設定しておけば、溶離液中に含まれる塩基成分濃度に影響されずに常に電位が一定となる。つまり、電位が一定であるため、溶離液中に含まれる塩基成分濃度に応じて、該濃度に比例する電流値が測定結果として得られることになる。これにより、簡単で、かつ正確な呼気成分測定を行うことができる。
【0047】
図5に、本発明の呼気成分測定装置100で試料中に含まれるアンモニア量を測定したグラフを示す。図5において、横軸は、試料を注入してからの保持時間、縦軸は、測定部12で測定したα−トコフェロールの酸化電流値を示す。
【0048】
ここでは、0.1mM、0.3mM、0.5mM、0.7mMのアンモニア含有溶液を試料とし、各濃度のアンモニア含有溶液を連続的に3回ずつ呼気成分測定装置100により測定したところ、各濃度における測定結果が、A、B、C、Dのように現れた。なお、Aは、0.1mMのアンモニア含有溶液を試料としたときの酸化電流値、Bは、0.3mMのアンモニア含有溶液を試料としたときの酸化電流値、Cは、0.5mMのアンモニア含有溶液を試料としたときの酸化電流値、Dは、0.7mMのアンモニア含有溶液を試料としたときの酸化電流値を示す。
【0049】
このように、本発明の呼気成分測定装置100により連続的に試料を測定することが可能である。オートサンプラーを使用するようにすれば、複数の試料の測定を自動的に行うことができ、より迅速に呼気成分測定を行うことができる。
【0050】
図6は、アンモニアの濃度と、電気化学的に測定した時の電流値との相関を示すグラフ図である。
まず、0mM〜1.0mMのアンモニア含有標準液を予め作成しておく。そして、各濃度におけるアンモニア含有標準液を、呼気成分測定装置100の注入口3に注入したときの溶離液内のα-トコフェロールの酸化電流値を測定する。測定結果は、図6に示すようになり、アンモニア濃度に比例して、電流値が上昇していることが分かる。この測定結果を、検量線図として用いれば、α−トコフェロールの酸化電流値から、試料中に含まれるアンモニア濃度を簡単かつ正確に算出することができる。
【0051】
このように本実施の形態1による呼気成分測定装置によれば、被験者の空腹時の呼気を呼気成分溶解容器内に吹き込んで容器内の溶液を攪拌した後、該溶液の一部を第1の試料として採取するとともに、被験者に尿素を経口的に服用させた後に所定時間を経過した時点での該被験者の呼気を別の呼気成分溶解容器内に吹き込んで容器内の溶液を攪拌した後、該溶液の一部を第2の試料として採取し、各試料に含まれる呼気成分の濃度を、フローインジェクションタイプの呼気成分測定装置を用いて電気化学的に測定するようにしたので、簡単にかつ正確に呼気成分測定結果を得ることができ、これにより、被験者の胃の中に、ウレアーゼ活性を有する微生物が棲息しているか否かを判定することができる。また、電気化学的測定であるため、試料が少なくても測定を行うことができ、迅速な検出を行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、呼気中に含まれる呼気成分を測定し、該測定結果から、胃の中にウレアーゼ活性を有する微生物が棲息しているか否かを判定可能な呼気成分測定装置及び呼気成分測定方法として利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】図1は本発明の実施の形態1における呼気成分測定装置の外観図である。
【図2】図2は本発明の実施の形態1における呼気成分測定装置の概略モデル図である。
【図3】図3は本発明の実施の形態1における電極部の断面図である。
【図4】図4(a)は本発明の実施の形態1における呼気成分を溶解するための容器、図4(b)は本発明の実施の形態1における呼気を前記容器内に予め混入させておいた溶液に溶解した溶液が下部に貯蔵されている図、図4(c)は本発明の実施の形態1における呼気が溶解した前記溶液をサンプル抽出容器に抜き出している概略図である。
【図5】図5は本発明の実施の形態1による呼気成分測定装置で試料中に含まれるアンモニア量を測定したときの時間と酸化電流値との相関グラフである。
【図6】図6は本発明の実施の形態1による呼気成分測定装置で試料中に含まれるアンモニア量を測定したときのアンモニア濃度と電流値との相関グラフである。
【図7】図7は本発明の実施の形態1による呼気成分測定装置で参照電極18と作用電極17の電位を変化させたときの電流変化を一定のアンモニア量を含む試料を用いて測定したときの両電極間の電位と電流値との相関グラフである。
【符号の説明】
【0054】
100 呼気成分測定装置
1 筐体
2 ディスプレー
3 注入部
4 サンプル抽出容器
5 操作ボタン
6 トグルスイッチ
7 廃棄ドア
8 溶離液タンク
9 デガッサー
10 ポンプ
11 センサー
12 測定部
13 廃液タンク
14 流路可変弁
15 電源ボックス
16 制御基板
17 作用電極
18 参照電極
19 対極
20 スペーサ
21 流路
30 呼気成分溶解容器
31 容器部分
32 呼気口
33 逆止弁
34 溶液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
呼気中に含まれる呼気成分を測定する装置において、
その内部に、呼気成分を溶解させるためのクロマノール骨格を有する化合物及び電解質を含有する一定量の溶液を貯蔵する、呼気を吹き込むことで膨張する袋状の呼気成分溶解容器と、
クロマノール骨格を有する化合物及び電解質を含有する溶離液を貯蔵する溶離液タンクと、
前記溶離液タンクに貯蔵されている前記溶離液を流路に送液するポンプと、
前記呼気成分溶解容器から呼気成分が溶解された溶液を試料として抽出し、前記流路内を流れている溶離液中に注入する試料注入部と、
前記試料注入部から前記流路を介して送液されてきた前記溶離液に含まれる呼気成分の濃度を電気化学的に測定する測定部と、
前記測定部による前記呼気成分測定値を数値に変換し表示する表示部と、
前記測定部から前記流路を介して送液されてきた前記溶離液を廃液として貯蔵する廃液タンクと、を備えた、
ことを特徴とする呼気成分測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の呼気成分測定装置において、
前記試料注入部に試料が注入されたことを検知する試料注入センサーと、
前記測定部の後方位置に配置された、前記測定部から前記溶離液タンクへの流路、あるいは前記測定部から前記廃液タンクへの流路を切り替え可能な流路可変弁と、を備え、
前記流路可変弁は、前記試料注入センサーが試料の注入を検知するまでは、前記測定部から前記溶離液タンクへの流路を選択し、前記試料注入センサーが試料の注入を検知すると、前記測定部から前記廃液タンクへの流路に切り替える、
ことを特徴とする呼気成分測定装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の呼気成分測定装置において、
前記測定部は、作用電極と対極と参照電極とよりなり、前記参照電極に対して前記作用電極が一定の電位となるように、前記作用電極と前記対極との間に電圧を印加し、前記作用電極に流れる前記溶離液の酸化電流を測定する、
ことを特徴とする呼気成分測定装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の呼気成分測定装置において、
前記溶離液タンクの後方位置に、空気抜き用のデガッサーを備えた、
ことを特徴とする呼気成分測定装置。
【請求項5】
請求項1または2に記載の呼気成分測定装置において、
前記ポンプは、前記溶離液の流量が0.7ml/分〜1.3ml/分となるよう送液する、
ことを特徴とする呼気成分測定装置。
【請求項6】
請求項1または2に記載の呼気成分測定装置において、
前記溶離液は、0.02mM〜2mMのクロマノール骨格を有する化合物を含有した溶液である、
ことを特徴とする呼気成分測定装置。
【請求項7】
請求項1または2に記載の呼気成分測定装置において、
前記呼気成分は、アンモニアである、
ことを特徴とする呼気成分測定装置。
【請求項8】
請求項1または2に記載の呼気成分測定装置において、
前記呼気成分溶解容器は、10℃以上に保温されている、
ことを特徴とする呼気成分測定装置。
【請求項9】
請求項1または2に記載の呼気成分測定装置において、
前記呼気成分溶解容器内に貯蔵されている溶液の溶媒は、水とアルコールの混合溶液である、
ことを特徴とする呼気成分測定装置。
【請求項10】
請求項1または2に記載の呼気成分測定装置において、
前記呼気成分溶解容器は、呼気を吹き込むための呼気口に逆止弁を有し、該呼気口に吹き込まれる呼気の空気量を測定する空気量測定センサーを持つ、
ことを特徴とする呼気成分測定装置。
【請求項11】
請求項1または2に記載の呼気成分測定装置において、
前記クロマノール骨格を有する化合物は、α−トコフェロール,ブチルヒドロキシアニソール,ハイドロナフトキノン,トロロックス,2H-1-Benzopyran-2-carboxylicacid,3,4-dihydro-6-hydroxy-7,8-dimethyl、2H-1-Benzopyran-2-carboxylic acid,3,4-dihydro-6-hydroxy-5-methyl、2H-1-Benzopyran-2-acetic acid,3,4-dihydro-6-hydroxy-2-methylのいずれかである、
ことを特徴とする呼気成分測定装置。
【請求項12】
呼気成分を溶解させるための一定量の溶液を含んだ膨張可能な袋状の第1の呼気成分溶解容器に、被験者の空腹時の呼気を一定量注入して前記容器内の溶液を攪拌した後、該溶液を第1の試料として採取する第1の採取ステップと、
上記第1の呼気溶解容器と同じ呼気成分を溶解させるための一定量の溶液を含んだ膨張可能な袋状の第2の呼気成分溶解容器に、被験者に尿素を経口的に服用させた後に所定時間を経過した時点での該被験者の呼気を一定量注入して前記容器内の溶液を攪拌した後、該溶液を第2の試料として採取する第2の採取ステップと、
前記第1の試料および第2の試料の各々を、クロマノール骨格を有する化合物及び電解質を含有する溶離液に混入して、前記各試料中の呼気成分の濃度を電気化学的に測定する濃度測定ステップと、
前記第1の試料および第2の試料の各々に含まれる呼気成分の測定結果を相互に比較し、ウレアーゼ活性を有する微生物が被験者の胃の中に棲息しているか否かを判定する判定ステップとを含む、
ことを特徴とする呼気成分測定方法。
【請求項13】
請求項12に記載の呼気成分測定方法において、
前記クロマノール骨格を有する化合物は、α−トコフェロール,ブチルヒドロキシアニソール,ハイドロナフトキノン,トロロックス,2H-1-Benzopyran-2-carboxylicacid,3,4-dihydro-6-hydroxy-7,8-dimethyl、2H-1-Benzopyran-2-carboxylic acid,3,4-dihydro-6-hydroxy-5-methyl、2H-1-Benzopyran-2-acetic acid,3,4-dihydro-6-hydroxy-2-methylのいずれかである、
ことを特徴とする呼気成分測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−205993(P2007−205993A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−27429(P2006−27429)
【出願日】平成18年2月3日(2006.2.3)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【出願人】(592068200)学校法人東京薬科大学 (32)
【Fターム(参考)】