説明

命にかかわる不整脈のリスク状態にある患者を識別する方法及び装置

包括的に、本発明は、患者の健康状態を反映する1つ又は複数の生化学マーカを測定することによって、患者の心室頻脈性不整脈のリスクを評価するシステム及び技法を対象とする。通常、患者は、1つ又は複数のバイオマーカについて試験される血液サンプル等のサンプルを提出する。試験結果に基づいて、患者の心室頻脈性不整脈のリスクを評価することができる。患者は、リスク状態にあるとわかると、そのリスクに対処するために、植え込み可能医療デバイス又は薬剤治療を受けることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不整脈についての傾向に関連する生化学マーカに基づいて心臓治療を受ける候補者を識別するシステム及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
突然心臓死(SCD)又は心臓停止は、心臓病と診断されたか、又は、されていない人の心機能の突然の急激な喪失である。突然心臓死は、ほとんど全ての知られている心臓病によって引き起こされる可能性がある。ほとんどの心臓停止は、病んだ心臓が、急速な、且つ/又は、無秩序の活動−心室頻脈又は細動を示し始める時に起こる。これらの中には心臓の急激な減速によるものもある。これらの事象は全て、命にかかわる不整脈と呼ばれる。植え込み可能型除細動器(ICD)等の植え込み可能医療デバイスを植え込まれた患者は、持続性心室不整脈によって引き起こされる突然心臓死を防止する可能性が著しく増加する。しかしながら、過去に心臓エピソードを経験したことがなく、且つ、それを生き延びた、したがって、植え込み可能医療デバイスをまだ植え込まれていない、突然心臓死を受ける傾向が高いかなりの数の患者が存在する。その結果、識別可能な症状が始まる前に、突然心臓死のリスク状態にある個人を識別して、薬剤治療、及び/又は電気刺激治療を提供するIMD等の、適切な予防治療をこうした患者に提供することができる技法及び装置についての必要性が存在する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
一般に、本発明は、患者の心室頻脈性不整脈のリスクを評価するシステム及び技法を対象とする。限定はしないが、心室頻脈性不整脈を含むいくつかの病状では、患者の体内の一定の生化学因子は、患者の健康状態を反映する。たとえば、心室頻脈性不整脈を病む患者は、たとえ症状が無い状態であっても、血液中において識別可能な蛋白質濃度の増加を経験する。患者内の、これらの生化学マーカ又は「バイオマーカ」の濃度の測定によって、患者についての心室頻脈性不整脈のリスクの評価を、測定に基づいて行うことができる。
【課題を解決するための手段】
【0004】
一般的な実施の形態では、患者は、血液サンプル等のサンプルを提出する。サンプルは、1つ又は複数のバイオマーカについて試験される。試験結果に基づいて、患者の心室頻脈性不整脈のリスクが評価されてもよい。
【0005】
患者は、心室頻脈性不整脈のリスクがあると識別されると、リスクに対処するために治療を受ける場合がある。患者は、たとえば、薬剤治療を受けてもよく、又は、電気刺激治療を提供するIMDを受けてもよい。一般に、薬剤治療は、VTエピソード又はVFエピソードの自発性誘発を防止する。対照的に、電気刺激治療を提供するIMDは、VTエピソード又はVFエピソードを終了させる。治療を受ける患者は、一般に、生存率を改善してきた。
【0006】
一実施の形態では、本発明は、患者内の生化学マーカを測定すること、及び、測定に応じた患者の心室頻脈性不整脈のリスクを評価することを含む方法を対象とする。この方法は、任意の数の生化学マーカ及び生化学マーカの組み合わせの測定をサポートし、さらに、種々の測定技法をサポートする。
【0007】
別の実施の形態では、本発明は、患者内の生化学マーカを測定すること、及び、測定に応じて患者に電子心臓刺激デバイスを植え込む利益を評価することを含む方法を対象とする。さらなる実施の形態では、本発明は、患者内の1つ又は複数の生化学マーカを測定すること、及び、測定に応じて患者に対して抗不整脈薬剤を投与する利益を評価することを含む方法を対象とする。
【0008】
本発明はまた、コンピュータ読み取り可能媒体が、プログラム可能なプロセッサに、本発明の方法の任意の方法を実行するようにさせる命令を含む実施の形態を含む。
付加的な実施の形態では、本発明は、患者内の生化学マーカを測定するように構成される測定システムと、測定に応じて患者の心室頻脈性不整脈のリスクを評価するように構成されるプロセッサとを含むシステムを提示する。測定システムは、たとえば、質量分析計、ELISA試験、又は任意の他の生化学アッセイを含んでもよい。
【0009】
本発明の1つ又は複数の実施の形態の詳細は、添付図面及び以下の説明において述べられる。本発明の他の特徴、目的、及び利点は、説明と図面から、また、実施例から明らかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図1は、本発明の一実施形態を示す概念論理図である。患者群10において1つ又は複数の生化学マーカを測定することに基づいて、本発明は、当該測定に応じて、各患者の心室頻脈性不整脈のリスクを評価することが可能である。
【0011】
図1に示す図では、「木解析」は、3つの生化学マーカの測定に従って患者を群に分類する。生化学マーカは、文字「A」、「B」、「C」、及び「D」で識別される。一般的な生化学マーカは、蛋白質、脂質、遺伝子、及びペプチド、又は、それらの任意の組み合わせを含むが、図1に示す図は、任意の特定の生化学マーカ又は生化学マーカのセットに限定されない。生化学マーカの具体例は以下で説明される。
【0012】
各患者について、第1生化学マーカの測度(Mで示す)が求められる。特定の患者について生化学マーカ「A」の測度を求めることは、たとえば、その患者から採取された体液の標準的なサンプルにおいて、生化学マーカ「A」の濃度又は質量を求めることを含んでもよい。各患者について、第1生化学マーカの測度は、閾値(Tで示す)と比較される。MがT以上である患者は、心室頻脈性不整脈の有意のリスク状態にない群12であると考えられ、群12の構成員については、さらなる試験を行う必要はない。MがTより小さい患者は、心室頻脈性不整脈のリスク状態にある可能性があるか、又は、可能性がない群14であると考えられる。図1において、群14の構成員は、個々の構成員の心室頻脈性不整脈のリスクを求めるために、さらなる試験を受ける。
【0013】
群14の各患者について、第2生化学マーカ「B」の測度(Mで示す)が求められる。群14の各患者について、第2生化学マーカの測度は、第2閾値(Tで示す)と比較される。MがTより小さい患者は、心室頻脈性不整脈の有意のリスク状態にない群16であると考えられ、群16の構成員については、さらなる試験を行う必要はない。MがT以上である患者は、心室頻脈性不整脈のリスク状態にある可能性があるか、又は、可能性がない群18であると考えられる。
【0014】
群18の構成員は、第3生化学マーカ「C」の測度(Mで示す)に関するさらなる試験を受ける。群18の各患者について、第3生化学マーカの測度は、第3閾値(Tで示す)と比較される。この比較に基づいて、患者は、心室頻脈性不整脈の有意のリスク状態にない群20と、心室頻脈性不整脈の有意のリスク状態にある群22に分割される。
【0015】
換言すれば、図1は、3つの生化学マーカの測定に応じて患者の心室頻脈性不整脈のリスクを評価することを示す。患者は、3つの生化学マーカ全てについて閾値基準を満たさなければ、心室頻脈性不整脈の有意のリスク状態にあるとは考えられない。
【0016】
閾値T、T、及びTは経験的に求められる。臨床調査及び経験が、各生化学マーカについて閾値を求めるのに使用されてもよい。閾値は、マーカごとに異なってもよい。生化学マーカによっては、生化学マーカの測度が閾値を超える時に、患者は高いリスク状態にある場合があり、他の生化学マーカでは、生化学マーカの測度が閾値より小さい時に、患者は高いリスク状態にある場合がある。
【0017】
図2は、図1に示す技法の変形である本発明の一実施形態を示す概念論理図である。図1と違って、群12に分類された患者は、さらなる試験を受ける。群12の各患者について、第4生化学マーカ「D」の測度(Mで示す)が求められ、測度は、第4閾値(Tで示す)と比較される。この比較に基づいて、群12の患者は、群24及び26に分類される。群24の患者は、心室頻脈性不整脈の有意のリスク状態にないと考えられ、群24の構成員については、さらなる試験が行われる必要はない。
【0018】
しかしながら、群26の患者は、さらなる試験を受ける。群26の構成員は、群18の構成員とちょうど同じように、第3生化学マーカ「C」に関してさらなる試験を受ける。第3生化学マーカの測度と第3閾値の比較に基づいて、群26の患者は、心室頻脈性不整脈の有意のリスク状態にない群28と、心室頻脈性不整脈の有意のリスク状態にある群30に分割される。
【0019】
換言すれば、図2は、4つの生化学マーカの測定に応じて患者の心室頻脈性不整脈のリスクを評価することを示す。患者は、2つ以上の試験経路に従って、心室頻脈性不整脈の有意のリスク状態にあると考えられ得る。
【0020】
図3は、図1及び図2に示すような論理分類の実施形態を示すフロー図である。図5及び図6に示す装置等の装置又は技術者は、第1生化学マーカを測定し(40)、測定に応じて患者の心室頻脈性不整脈のリスクを評価する(42)。装置又は技術者は、第2生化学マーカを測定し(44)、その測定に応じて患者の心室頻脈性不整脈のリスクを評価する(46)。
【0021】
図4で概説した手順において、装置又は技術者は、第1生物学的マーカを測定し(50)、第2生物学的マーカを測定し(52)、両方の測定に応じて患者の心室頻脈性不整脈のリスクを評価する(54)。図3及び図4に示す技法は、同じ結果を達成してもよい。すなわち、心室頻脈性不整脈のリスクに応じて、いずれの技法を使用して患者が分類されてもよい。患者が、リスク状態にあると考えられると、適切な治療が施されてもよい。患者のための治療は、たとえば、心室頻脈性不整脈エピソードを終了させる電子心臓刺激デバイスを患者に植え込むこと、又は、こうしたエピソードの誘発を防止する抗不整脈薬剤を投与することを含んでもよい。
【0022】
図5は、複数の生物学的マーカを測定する技法を示す概念図である。バイオチップ60は、支持体62及び1つ又は複数の検知素子64Aを備える。図5では、4つの別個の検知素子が支持体62に結合するが、本発明は、あらゆる数の検知素子の使用を包含する。
【0023】
バイオチップ60は、シリコーン又はガラス等の材料から作られた固体支持体62上に配列された小型試験サイト又はマイクロアレイのセットである。各試験サイトは、検知素子64Aのセットを含む。一般に、検知素子は、対象となる分析物の存在下で、立体配座を変える1つ又は複数の成分を含む。一般的な検知素子は、特定のバイオマーカの存在下で立体配座を変えるが、任意の他のバイオマーカの存在下では立体配座を変えない抗体分子を含む。本発明はしかし、あらゆる検知素子を包含し、抗体に制限されない。バイオチップ60の検知素子は、たとえば、親水性分子又は疎水性分子或いは陰イオン蛋白又は陽イオン蛋白に対する高い親和性等の一般的な特性を有してもよい。
【0024】
支持体62は、約1平方センチメートルの表面積を有してもよいが、本発明は、これよりも大きいか、又は、小さいバイオチップを包含する。支持体62は、いかなる形状で形成されてもよく、いかなる数の試験サイトを含んでもよく、検知素子のいかなる組み合わせを含んでもよい。本発明は、任意の特定のバイオチップに限定されない。
【0025】
バイオチップ60は、サンプル66に暴露される。サンプル66は、血液サンプル等の、患者からの任意の生物学的サンプルを含んでもよい。サンプル66内に存在するバイオマーカは、バイオチップ60上の検知素子と反応する。暴露された検知素子64Bは、通常、立体配座の変化を受けることによって、或いは、イオン結合、共有結合、又は水素結合を形成することによって、サンプル66内のバイオマーカと反応する。サンプルの未反応部分又は未結合部分68は洗い流される。
【0026】
サンプル66内のバイオマーカの濃度は、暴露された検知素子64とサンプル66との間の反応の程度に応じる。反応の程度は、たとえば、質量分析によって確定できる。表面増強レーザー脱着イオン化(SELDI)プロセスは、バイオマーカの濃度を求める質量分析技法の一例である。
【0027】
一般に、SELDIプロセスは、1つ又は複数の光源70によって生成された光をバイオチップ60に送る。質量分析器72は、バイオマーカの分子量を測定する。特に、バイオチップ60上のバイオマーカは、イオン化されて分離され、分子イオンは、質量電荷比(m/z)に従って測定される。イオンは、電荷の喪失又は獲得(たとえば、電子注入、陽子付加(protonation)、又は陽子除去(deprotonation))のいずれかを誘発することによって、イオン化源において生成される。イオンは、一旦気相で形成されると、質量分析器72内に静電的に送られ、その質量に従って分離され、最終的に検出されることができる。
【0028】
たとえば、検知素子64Bに結合した蛋白質は、イオン化され、親水性であるか疎水性であるか等の分子特性に基づいて分離されることができる。検知素子64Bによって捕捉された蛋白質は、弱いレーザパルスによって供給されるエネルギーによって遊離し、第2レーザパルスによる照明の結果として、第2電子の除去によって正に帯電する。電界中の加速に従う真空管を通る飛行時間によって、質量電荷比の測定が可能になる。
【0029】
本発明は、バイオマーカの濃度を求める他の技法をサポートし、SELDIプロセスに限定されない。一実施形態では、たとえば、本発明の技法は、酵素免疫測定法(Enzyme Linked ImmunoSorbent Assay)(ELISA試験)等の、個々のバイオマーカ用の従来のアッセイを使用することによって実行されることもできる。バイオチップを使用する利点は、複数のマーカを測定する場合に、個々のアッセイと比較して、バイオチップは、時間と努力を節約することである。
【0030】
多くの蛋白質マーカが、心臓症状(conditions)を示すものとして一般に認められている。C−反応性蛋白(CRP)は突然心臓死に関連し、脂肪酸結合蛋白は急性心筋梗塞に関連する血漿マーカであり、心臓トロポニンは心筋梗塞に関連し、ミオシン重鎖及びミオシン軽鎖は心不全に関連し、脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)は左心室心不全に関連する等である。
【0031】
他のマーカは、対象となる他の心臓症状に関連してもよい。マーカは、それらの名前によって、又は、分子量等の他の特徴によって識別されてもよい。
一例の臨床調査において、冠状動脈疾患を有する患者は、2つの群に分割された。すなわち、冠状動脈疾患及び植え込み可能医療デバイスを有する(400ms以下のサイクル長を有する1つの持続性VT/VFエピソードを有する)試験群と、冠状動脈疾患を有するが、植え込み可能医療デバイスは持たず、VT/VFの病歴が知られていない対照群である。調査において、16人の患者がIMDを有し、32人が、対照群にいた。45〜80の年齢制限外の白人でない女性患者及び特定の健康問題又は心臓症状を有する患者を含む特定の患者は調査から除外された。包含基準を満たす患者は、調査に登録された。登録時に、病歴を含む詳しい質問票が記入された。
【0032】
3つの血液サンプルが各患者から抜き取られた。少なくとも1つのサンプルは、血清分離のために、患者から抜き取られた8.5mL血液を含んだ。血清は、蛋白質及び脂質を含有する血液の無細胞部分である。付加的な12mL血液の少なくとも1つの他のサンプルは、最終的な遺伝子解析のために、全血液として抜き取られ、保持された。サンプルは、プロテオミック(proteomic)技法及びリピドミック(lipidomic)技法を使用して解析された。
【0033】
処理中、血清中の蛋白質は、蛋白質のpH(酸性度)に基づいて4つの別個の群に断片化された。引き続いて、これらの蛋白質は、1つ又は複数のバイオチップの3つの表面上に点在させられた。それらの表面は異なる化学親和性を有した。「CM10」で示す表面は、弱い陽イオン交換表面に反応した。「H50」で示す表面は、疎水性表面であった。「IMAC」で示す表面は、固定化金属親和性(immobilized metal affinity)表面であった。SELDI飛行時間技法は、各表面上の蛋白質の分子量を測定するのに使用された。
【0034】
図6は、1人がIMD(80)を有し、1人が対照(82)である、2人の患者のサンプルのプロテオミックスペクトルの結果を示す。これらの結果は、血液中の蛋白質マーカの一部は、2つの群において異なって表現されたことを示す。患者全ての処理によって生成されたデータは同じパターンに従った。すなわち、データは、患者から得られた血液中の蛋白質マーカの一部が、2つの群で異なって表現されることを示した。マーカの差は、IMDから利益を得られる患者と利益を得られない患者とを区別する根拠を形成してもよい。
【0035】
図7は、致命的な心室不整脈の高い傾向を有する患者と他の患者とを区別する、可能性のあるバイオマーカを識別するために、これらの結果に適用される木解析を示す。木解析の結果として、4つの蛋白質マーカが、48人の患者を正確に分類するのに使用されるであろう。これらの蛋白質マーカの細目は以下の表に示される。
【0036】
【表1】

【0037】
上記表において、蛋白質は、番号で識別され、分子量(ダルトン)及び等電pH(pI)で特徴付けられる。分子量(ダルトン)は、必ずしも、任意の特定の蛋白質に固有ではないが、蛋白質は、分子量によって区別できることが多い。その分子量及び/又はpIを有する蛋白質が、名前又はアミノ酸配列によって特に識別されることは、本発明にとって必要ではない。
【0038】
図7に示すように、血清中の蛋白質P1の量は、全ての患者90について試験された。1.0422237(任意の単位で測定された)以上のP1の存在度を有する患者92は、心室頻脈性不整脈の有意のリスク状態になく、したがって、IMDについての候補者ではなかった。しかしながら、1.0422237より小さいP1の存在度を有する患者94は、P1の存在度だけによって分類されないであろう。
【0039】
患者94について、血清中の蛋白質P2の量が試験された。0.2306074より小さいP2の存在度を有する患者96は、IMDについての候補者ではなかった。0.2306074以上のP2の存在度を有する患者98は、蛋白質P3について試験された。0.0491938以上のP3の存在度を有する患者100は、IMDについての候補者ではなく、一方、0.0491938より小さいP3の存在度を有する患者102は、蛋白質P4について試験された。0.027011より大きいP4の存在度を有する患者104は、IMDについての候補者であると考えられ、一方、残りの患者106は、IMDについての候補者であると考えられなかった。
【0040】
任意の単位は、患者群の中で相対的な存在度が全体に一貫しているアルブミン等の豊富な蛋白質に対して正規化されてもよい。本発明は、蛋白質の存在度を測定するのに使用される質量分析計における総イオン電流等の、他のベンチマークの使用もサポートする。
【0041】
さらに、本発明は、或る範囲の測定基準(standard)をサポートする。場合によっては、100%の感度及び特異性を有する測定を実施することが可能でないため、患者が心室頻脈性不整脈の有意のリスク状態にあるか否かを判定するために、いくつかの基準が適用されてもよい。たとえば、図7に示す木解析は、たとえ一部の偽陽性と偽陰性をもたらしても、従来の患者分類技法(信号平均化心電図等)に比べて、一般に、敏感で且つ特異性がある。
【0042】
図7に示す木は、分類と回帰木(CART)解析を使用して生成されてもよい。図7に示す木解析は、1つ又は複数の生化学マーカの測定に応じて1人又は複数人の患者の心室頻脈性不整脈のリスクを評価する手法の一例である。評価は、他の方法で実施されてもよい。試験は、IF−THEN試験等の論理試験として表現されてもよく、IF−THEN試験は、ソフトウェア、すなわち、
IF
((P1<1.0422237)AND(P2≧0.2306074)AND
(P3<0.0491928)AND(P4≧0.027011))
THEN
患者はIMDの候補者である。
で実施することができる。
【0043】
このIF−THEN試験を、各患者からの2つのサンプルが処理された臨床データに適用したところ、以下の結果を与えた。
【0044】
【表2】

【0045】
感度:27/(27+5)=84%
特異性:63/(63+1)=98%
偽陽性:1/(1+27)=4%
偽陰性:5/(5+63)=7%
従来の分類技法を使用すると、感度及び特異性は、約55〜75%になる傾向がある。この臨床データは、従来技法に比較して、感度及び特異性における改善を示す。
【0046】
1つ又は複数の生化学マーカの測定に応じて1人又は複数人の患者の心室頻脈性不整脈のリスクを評価する別の技法は、人工ニューラルネットワークを使用することである。例示的な用途において、臨床データは、蛋白質P1、P2、P3、及びP4に相当する4つの入力ノードを有する人工ニューラルネットワークを使用して解析された。ネットワークは、4つの隠れノード及び1つの出力を含んだ。この人工ニューラルネットワークは、各患者からの2つのサンプルが処理された臨床データに適用される時、以下の結果を与えた。
【0047】
【表3】

【0048】
感度:24/(24+8)=75%
特異性:63/(63+1)=98%
偽陽性:1/(1+25)=4%
偽陰性:8/(8+63)=11%
上述した試験手順は、固有のものでもなく、必ずしも、IMDについての候補者である患者を候補者でない患者から分類する最も効率的な方法でもない。それでも、これらの手順は、心室頻脈性不整脈の傾向を有し、したがって、突然心臓死のリスクが増加した状態にある可能性のある患者を発見するために患者をスクリーニングするのに使用することができる試験の例示である。
【0049】
対象となる生化学マーカに依存して、質量、濃度、又は存在度の測定は、マーカの有無についての判定ほど重要でない場合がある。本発明は、患者内の生化学マーカの測定が、マーカが存在するか否かを判定することを含む実施形態を包含する。たとえば、突然心臓死に遭遇する動物が、特定の分子量を有する蛋白質及びペプチドのセットの欠如を示すことを、動物実験が立証する場合がある。同様に、突然心臓死に遭遇する動物が、普通なら存在しない蛋白質又はペプチドを示すことを、動物実験が立証する場合がある。人のサンプルにおける、こうした蛋白質又はペプチドの有無の検出は、蛋白質又はペプチドの有無が、突然心臓死のリスクを示す場合があるため、臨床的な有意性を有する場合がある。
【0050】
場合によっては、対象となるものは、生化学マーカの有無、又は、単一の場合に関する生化学マーカの濃度ではなく、2週間又は1ヶ月等の時間間隔だけ離れた2回以上の測定によって示される、濃度の増減又は変化レートである。本発明は、心室頻脈不整脈のリスクを評価する根拠として変化を考慮することをサポートする。上述した例示的な手順等の試験手順は、全体が、又は、部分的に自動化されることができる。図8は、生化学マーカの自動化解析を実施することができ、解析に応じて患者の心室頻脈性不整脈のリスクを評価することができるシステム110の一例である。システム110は、解析のためにサンプルを受け取るサンプル入力モジュール112、及び測定システム114を含む。本発明の一実施形態では、入力モジュール112は、図5に示したバイオチップのような1つ又は複数のバイオチップを含んでもよく、測定システム114は、SELDIベースの質量分析器を備えてもよい。しかしながら、本発明は、こうした部品に限定されない。
【0051】
プロセッサ116は、測定システム114からの測定値を受け取り、測定値の解析に応じて患者の心室頻脈性不整脈のリスクを評価する。プロセッサ116は、患者が心室頻脈性不整脈のリスク状態にあるか否かを判定するために、図1、図2、及び図7に示す解析等の木解析を適用してもよい。プロセッサ116は、さらに、測定に応じて患者に医療デバイスを植え込むか、又は、患者に抗不整脈薬剤を投与する利益を評価してもよい。出力モジュール118は、解析結果を報告する。出力モジュール118は、ディスプレイスクリーン、プリンタ、又は解析結果を報告する任意の他のデバイスを備えてもよい。測定に応じて患者に医療デバイスを植え込む利益が評価される。
【0052】
本発明は、1つ又は複数の利点を提供してもよい。臨床データは、かなりの数の事例において、突然心臓死はVT又はVFの結果であることを示唆する。VT又はVFのエピソードは、IMD又は投薬によって処置可能である。本発明は、心室頻脈性不整脈を受けるリスク状態にある患者を識別する技法を提示する。結果として、これらの患者が、救命治療を受けることになる機会が改善され、それによって、突然心臓死のリスクが減少する。
【0053】
IMD又は投薬を含む治療は、互いに排他的である必要はない。さらに、本発明は、IMDの植え込み又は投薬療法(regimen)の調節に加えて治療をサポートする。状況によっては、バイオマーカは、VT又はVFの徴候であるか、又は、そのリスクを示す以上のものであってよく、VT又はVFのリスクに実質的に因果的に関連してもよい。こうした状況では、治療はバイオマーカを対象としてもよい。
【0054】
たとえば、バイオマーカの濃度を調整することによって、患者を処置することが可能であってよい。一定の蛋白質バイオマーカの濃度が、VT又はVFを有する患者において低いとわかると、おそらく、その患者は、これらの蛋白質を血液中に注入することによって処置されることができ、それによって、バイオマーカのより健全な濃度が回復される。逆に、一定の蛋白質バイオマーカの濃度が、高いとわかると、おそらく、その患者は、蛋白質バイオマーカの濃度を下げることによって処置されることができる。高い濃度は、たとえば、1つ又は複数の蛋白質バイオマーカの活動をそぐか、又は、抑制する酵素を注入することによって、減らすことができる。同様に、蛋白質及び遺伝子の発現レベルを変えるために、遺伝子治療が使用されてもよい。その結果、治療の適用は、患者に送出される、1つ若しくは複数の蛋白質又は1つ若しくは複数の遺伝子或いはその組み合わせを求めることを含んでもよい。
【0055】
本発明の技法は、患者からのサンプルを要求してもよい。多くの実施形態では、サンプルは、もちろんのこと、血液サンプル等の、医療検査において採取されるサンプルである。
【0056】
さらに、本発明は、偽陽性及び偽陰性の発生率を減らすべきである。結果として、IMDから利益を得ることができる患者は、IMDを受ける機会を有することになるという、よりよい可能性が存在する。さらに、本発明は、自己改善する能力を含む。より多くの臨床データが集められるにつれて、異なる、若しくは、より詳細な木解析、又は、他の分類技法が開発されてもよい。実験に基づいた経験は、試験を、より敏感で且つ特異性があるようにさせる場合がある。
【0057】
本発明の種々の実施形態が述べられた。本発明の範囲から逸脱することなく、述べた実施形態に対して、種々の変更を行うことができる。たとえば、本発明は、生化学マーカを考慮することだけに限定されない。患者の心室頻脈性不整脈のリスクの評価はまた、他の測定可能な生理的因子に応じてもよい。心電図等の電気生理的測定値、及び駆出率の測定値等の血行力学的因子が、考慮されてもよい。図8のシステム110は、さらに、生理的因子を測定するセンサを含んでもよく、プロセッサ116は、生理的因子の測定に応じて心室頻脈性不整脈のリスクを評価してもよい。
【0058】
本発明は、生化学マーカとしての蛋白質に関して述べられたが、本発明は、蛋白質に限定されない。本発明はまた、遺伝子マーカ、脂質マーカ、リポ蛋白質マーカ等の他のマーカを考慮することをサポートする。これらのマーカは、単独で、又は、組み合せて考えられてもよい。たとえば、本発明は、遺伝子マーカと蛋白質マーカの組み合わせに応じたリスク評価をサポートする。核磁気共鳴、遺伝子シーケンシング、又は単一ヌクレオチド多形(SNP)等の技法は、これらのマーカを識別するのに使用されてもよい。これらのようなマーカを考慮することは、感度及び特異性の強化をもたらし得る。
【0059】
解析を、複数の技法を使用して行うことができる。分類木を生成すること、IF−THEN記述等の論理解析及び人工ニューラルネットワークを適用することに加えて、線形クラスタリング技法(たとえば、近接分析、類似分析、非類似分析、重み付き近接分析、及び主成分分析)、非線形クラスタリング技法(たとえば、人工ニューラルネットワーク、Kohonenネットワーク、パターン認識装置、及び経験的曲線当てはめ)、並びに、論理手順(たとえば、CART、分割及び階層的クラスタリングアルゴリズム)を使用して、心室頻脈性不整脈のリスクを評価することができる。しかしながら、本発明は、これらの技法に限定されず、他の線形解析、非線形解析、論理解析、及び条件付き技法を包含する。
【0060】
上述した技法の一部は、図8のプロセッサ116等のプログラム可能プロセッサ用の命令を含むコンピュータ読み取り可能媒体として具体化されてもよい。プログラム可能プロセッサは、独立に、又は、協調して動作することができる1つ又は複数の個々のプロセッサを含んでもよい。「コンピュータ読み取り可能媒体」は、読み出し専用メモリ、フラッシュメモリ、及び磁気又は光記憶媒体を含むが、それらに限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の一実施形態を示す概念論理図である。
【図2】図1に示す本発明の実施形態の変形を示す概念論理図である。
【図3】心室頻脈性不整脈のリスクを評価するための技法を示すフロー図である。
【図4】心室頻脈性不整脈のリスクを評価するための技法を示すフロー図である。
【図5】生化学マーカのサンプルの質量分析技法を示す概念図である。
【図6】対照群の患者と比較した、心室頻脈性不整脈のリスク状態にある患者についての生化学マーカの存在度の差を示すグラフである。
【図7】心室頻脈性不整脈のリスク状態にある患者を対照群から分類する技法を示す論理図である。
【図8】本発明の一実施形態を実行するように構成されるシステムのブロック図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者内の生化学マーカを測定すること、及び
前記測定に応じた(as a function of)前記患者の心室頻脈性不整脈のリスク、前記測定に応じて前記患者に医療デバイスを植え込む利益、及び前記測定に応じて前記患者に対して薬剤を投与する利益のうちの1つを評価することを含む方法。
【請求項2】
前記生化学マーカは第1生化学マーカを含み、前記方法は、
前記患者内の第2生化学マーカを測定すること、及び
前記第2生化学マーカの前記測定に応じて、前記患者の前記心室頻脈性不整脈のリスクを評価することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記心室頻脈性不整脈のリスクを評価することは、分類木を生成すること、論理試験を生成すること、人工ニューラルネットワークを生成すること、並びに、心室頻脈、心室細動、及び突然心臓死の少なくとも1つの前記リスクを評価することのうちの1つを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記生化学マーカを測定することは、該生化学マーカの質量を測定すること、質量分析計によって、該生化学マーカの質量電荷比を測定すること、及び、該前記生化学マーカの等電pHを測定することのうちの1つを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記生化学マーカは、蛋白質、脂質、及び遺伝子のうちの1つを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記患者の生理的因子を測定すること、及び
前記生理的因子の前記測定に応じて前記患者の前記心室頻脈性不整脈のリスクを評価することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記生理的因子は、電気生理的因子及び血行力学的因子の少なくとも一方を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記測定に応じて前記患者に医療デバイスを植え込む利益を評価すること、及び前記測定に応じて前記患者に対して抗不整脈薬剤を投与する利益を評価することの一方をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記医療デバイスは、電子心臓刺激デバイス及び薬剤送出デバイスの少なくとも一方を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
複数の検知素子を備えるバイオチップを、患者からの生物学的サンプルに暴露すること、及び
前記サンプルと前記検知素子の間の反応に応じて、前記患者の前記心室頻脈性不整脈のリスクを評価することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記サンプルと前記検知素子の間の反応に応じて、前記患者の前記心室頻脈性不整脈のリスクを評価することは、前記バイオチップ上で質量分析(mass spectrometry)を実施することを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記質量分析(mass spectroscopy)を実施することは、表面増強レーザー脱着イオン化プロセス(Surface Enhanced Laser Desorption/Ionization process)を実施することを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記生化学マーカを測定することは、前記生化学マーカの有無の一方を判定すること、及び、前記生化学マーカの濃度の変化を判定することの一方を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記評価に応じて治療を施すことをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
治療を施すことは、前記患者に電子心臓刺激デバイスを植え込むこと、前記患者に抗不整脈薬剤を投与すること、並びに蛋白質及び遺伝子の少なくとも一方が前記患者に送出されることを決定することのうちの1つを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
コンピュータ読み取り可能媒体であって、プログラム可能プロセッサに、
患者内の生化学マーカを測定し、
前記測定に応じた前記患者の心室頻脈性不整脈のリスク、前記測定に応じて前記患者に医療デバイスを植え込む利益、及び前記測定に応じて前記患者に対して薬剤を投与する利益のうちの1つを評価するようにさせる命令を含む、コンピュータ読み取り可能媒体。
【請求項17】
患者の心室頻脈性不整脈のリスクを評価するシステムであって、
患者内の生化学マーカを測定するように構成される測定システムと、
前記測定に応じて前記患者の心室頻脈性不整脈のリスクを評価するように構成されるプロセッサとを備える、患者の心室頻脈性不整脈のリスクを評価するシステム。
【請求項18】
前記測定システムは質量分析計を備える、請求項17に記載の患者の心室頻脈性不整脈のリスクを評価するシステム。
【請求項19】
前記質量分析計は、表面増強レーザー脱着イオン化プロセスを適用するように構成される、請求項18に記載の患者の心室頻脈性不整脈のリスクを評価するシステム。
【請求項20】
前記測定システムはELISA試験を含む、請求項17に記載の患者の心室頻脈性不整脈のリスクを評価するシステム。
【請求項21】
前記プロセッサは、前記測定の線形解析に応じた心室頻脈性不整脈のリスク、前記測定の非線形解析に応じた心室頻脈性不整脈のリスク、及び前記測定の論理解析に応じた心室頻脈性不整脈のリスクのうちの1つを評価するようにさらに構成される、請求項17に記載の患者の心室頻脈性不整脈のリスクを評価するシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2007−523324(P2007−523324A)
【公表日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−552185(P2006−552185)
【出願日】平成17年2月2日(2005.2.2)
【国際出願番号】PCT/US2005/002932
【国際公開番号】WO2005/078452
【国際公開日】平成17年8月25日(2005.8.25)
【出願人】(591007804)メドトロニック・インコーポレーテッド (243)
【住所又は居所原語表記】710Medtronic Parkway,Minneapolis,Minnesota 55432,U.S.A
【Fターム(参考)】