説明

咀嚼基材を含む食品からの香料成分の口中溶出率予測方法とこの方法を利用した香料組成物の調合方法

【課題】チューインガムに代表される咀嚼基材を含む食品について、咀嚼による香料成分の口中への溶出率を客観的且つ簡便・迅速に予測する。
【解決手段】香料成分についての極性カラムを利用したガスクロマトグラフ分析により得られる保持指標と非極性カラムを利用したガスクロマトグラフ分析により得られる保持指標との差(ΔI)と咀嚼基材中の香料成分の咀嚼による口中溶出率との間の相関関係を予め求めておき、咀嚼基材を含む食品に添加される香料組成物を構成する香料成分について、ΔIの測定値と相関関係に基づいて咀嚼による口中溶出率を予測するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、咀嚼基材を含む食品からの香料成分の口中溶出率予測方法とこの方法を利用した香料組成物の調合方法に関する。さらに詳述すると、チューインガムに代表される咀嚼基材を含む食品を咀嚼することによる口中への香料成分の溶出率を予測する方法と、この予測値に基づいてチューインガムに代表される咀嚼基材を含む食品用の香料組成物を調合する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、消費者の嗜好性が多様化してきていることに伴い、各種各様の商品の開発が望まれている。特に、飲食品業界はこの傾向が強く、さらには消費者の嗜好に合うバラエティーに富んだ飲食品の迅速な開発が強く要求されている。これらの要求に対して、飲食品の原料のひとつである香料組成物についても、従来になく迅速な開発への要望が高まっている。
【0003】
香料組成物は、飲食品にある種の香味や香気を付与するために飲食品に添加され、香味や香気は香料組成物を構成する香料成分のバランスにより変化する。したがって、香料組成物を添加する対象となる飲食品に香料組成物を構成する香料成分の一部が残留してその全量が口中にて溶出しない場合には、香料組成物を構成する香料成分の咀嚼による口中(唾液)への溶出率を考慮した上で、香料成分の配合比を調整し、香料組成物を調合する必要がある。特に、チューインガムに代表される咀嚼基材を含む食品においては、咀嚼基材(生地)の性質が特徴的であることから、香料成分の一部が残留してその全量が口中にて溶出しないケースが多い。したがって、香料組成物を構成する香料成分の咀嚼による口中への溶出率を考慮した上で、香料成分の配合比を調整し、香料組成物を調合する必要性が特に高い。
【0004】
しかしながら、チューインガムからの香料成分の抽出方法として知られているSimultaneous Distillation Extraction(SDE)法と呼ばれる連続蒸留抽出法や溶剤抽出法、Headspace-Solid Phase Microextraction(HS-SPME)法では、香料組成物を構成する香料成分の咀嚼による口中への溶出率は分析できず、香料組成物を構成する香料成分の咀嚼による口中への溶出率を考慮して香料組成物を調合することはできなかった。しかも、Simultaneous Distillation Extraction(SDE)法については、実験操作に時間がかかるため、迅速な分析にはそぐわないという問題もあった。
【0005】
したがって、チューインガムに代表される咀嚼基材を含む食品については、香料成分を各種割合に調整した複数の香料組成物を実際に食品に添加して、熟練したフレーバリストによる官能評価によって香料組成物を構成する香料成分の組成を決定するのが一般的であった(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−168404号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、フレーバリストによる官能評価には、香料成分を各種割合に調整した複数の香料組成物が実際に添加された食品を準備する必要があり、適切な香料成分の組成を決定するのに多大な手間と時間を要していた。また、フレーバリストの経験に依存する評価法では、客観性の担保の問題はどうしても残ってしまう。
【0008】
また、香料組成物について迅速な開発への要望が高まっている状況に鑑みれば、チューインガムに代表される咀嚼基材を含む食品に適した香料組成物の香料成分組成を簡便且つ迅速に行う必要がある。したがって、チューインガムに代表される咀嚼基材を含む食品について、咀嚼による香料成分の口中への溶出率を簡便且つ迅速に予測する方法の確立が望まれる。
【0009】
そこで、本発明は、チューインガムに代表される咀嚼基材を含む食品について、咀嚼による香料成分の口中への溶出率を客観的且つ簡便・迅速に予測することのできる方法を提供することを目的とする。
【0010】
また、本発明は、チューインガムに代表される咀嚼基材を含む食品について、咀嚼による香料成分の口中への溶出率を客観的且つ簡便・迅速に予測して、咀嚼による香料成分の口中への溶出率が考慮された香料組成物を調合する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
チューインガムを咀嚼中にガムから唾液へ溶出する香料成分の割合は、香料成分の物理化学的特性により異なることが予想される(The influence of gum base composition on flavour release from chewing gum, Flavour Research at the Dawn of the Twenty-First Century, 2003, pp.252-255参照)。本願発明者は、この予想に基づき、チューインガムから唾液中に溶出する香料成分の物理化学的特性と唾液中に溶出する香料成分の割合(口中溶出率)との間の相関関係を調べることによって、この相関関係と香料成分の物理化学的特性から、チューインガムからの香料成分の口中溶出率を推測できるものと発想した。
【0012】
そこで、本発明者らは、多数の香料成分について、咀嚼による口中溶出率と物理化学的特性との間の相関関係を鋭意検討した。
【0013】
まず、口中溶出率について、本願発明者は、最近になって薬用ガムの薬剤溶出を測定する測定器として上市されたガム咀嚼試験器(EREWEKA社製DRT)を利用することで、香料成分の咀嚼による唾液への溶出量を再現できるのではないかと考えた。また、試験液中に溶出した香料成分はカラム濃縮法により回収してガスクロマトグラフを利用することで容易に測定できると考えた。そこで、チューインガムをサンプルとして、ガム咀嚼試験器を用いて各種香料成分の溶出量の測定を行い、多くのデータを収集して解析した。その結果、ガスクロマトグラフを用いて測定したときの定量値に良好な再現性があることを確認した。
【0014】
次に、ガム咀嚼試験器にて、既知量の香料成分を含有するモデル系チューインガムを20〜800回咀嚼した後、試験液中に溶出した溶出成分を測定し、配合した香料成分量から溶出率を算出したところ、多くの香料成分は咀嚼回数800回でその溶出がほぼ飽和に達したことから、ガム咀嚼試験器にて800回以上咀嚼試験を行えば、口中での香料成分の溶出率は測定されると推定した。また、香料成分の種類により溶出率は大きく異なることがわかった。
【0015】
以上の知見に基づき、本発明者らは、各香料成分の溶出率と各香料成分に固有の物理化学的特性データとの相関を検索したところ、意外なことに極性カラムを利用したガスクロマトグラフ分析により得られる保持指標と非極性カラムを利用したガスクロマトグラフ分析により得られる保持指標との差(ΔI)との間に相関関係が成り立つことを知見した。
【0016】
そして、本発明者らは、上記知見がチューインガムに限らず、咀嚼基材を含む食品全般について当て嵌まる可能性が導かれることを知見し、さらに種々検討を重ねて、本発明を完成させるに至った。
【0017】
即ち、請求項1に記載の咀嚼基材を含む食品からの香料成分の口中溶出率予測方法は、香料成分についての極性カラムを利用したガスクロマトグラフ分析により得られる保持指標と非極性カラムを利用したガスクロマトグラフ分析により得られる保持指標との差(ΔI)と咀嚼基材中の香料成分の咀嚼による口中溶出率との間の相関関係を予め求めておき、咀嚼基材を含む食品に添加される香料組成物を構成する香料成分について、ΔIの測定値と相関関係に基づいて咀嚼による口中溶出率を予測するようにしている。ここで、請求項1に記載の予測方法は、請求項2に記載のように、咀嚼基材をチューインガムベースとし、咀嚼基材を含む食品をチューインガムとした場合に特に適した方法である。
【0018】
また、請求項3に記載の本発明の咀嚼基材を含む食品用の香料組成物の調合方法は、請求項1に記載の方法により予測された口中溶出率に基づいて香料組成物を構成する香料成分の組成を調整するようにしており、請求項4に記載のチューインガム用香料組成物の調合方法は、請求項2に記載の方法により予測された口中溶出率に基づいて香料組成物を構成する香料成分の組成を調整するようにしている。
【0019】
さらに、請求項5に記載の咀嚼基材を含む食品用の香料組成物は、請求項3に記載の調合方法により得られうるものであり、請求項6に記載のチューインガム用の香料組成物は、請求項4に記載の調合方法により得られうるものである。
【0020】
また、請求項7に記載の咀嚼基材を含む食品は、請求項5に記載の咀嚼基材を含む食品用の香料組成物が配合されたものであり、請求項8に記載のチューインガムは、請求項6に記載のチューインガム用の香料組成物が配合されたものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、チューインガムのような咀嚼基材を含む食品について、口中で実際に溶出される香料成分の溶出量が客観的且つ簡便・迅速に予測できるので、この予測に基づいて香料成分の組成を調整することにより、咀嚼による香料成分の口中への溶出率を考慮して香料組成物を調合することが可能となる。したがって、例えば、飲料など別のカテゴリーで用いられる香料組成物について、チューインガムのような咀嚼基材を含む食品における咀嚼による香料成分の口中への溶出率を考慮して香料成分の組成比を調整して、チューインガムのような咀嚼基材を含む食品に簡便に転用することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。
【0023】
本発明の咀嚼基材を含む食品からの香料成分の口中溶出率予測方法は、香料成分についての極性カラムを利用したガスクロマトグラフ分析により得られる保持指標と非極性カラムを利用したガスクロマトグラフ分析により得られる保持指標との差(ΔI)と咀嚼基材中の香料成分の咀嚼による口中溶出率との間の相関関係を予め求めておき、咀嚼基材を含む食品に添加される香料組成物を構成する香料成分について、ΔIの測定値と相関関係に基づいて咀嚼による口中溶出率を予測するようにしている。
【0024】
本発明を適用する対象となる咀嚼基材を含む食品としては、咀嚼により香料成分を口中に溶出させ得る食品であれば特に限定されるものではないが、例えば、チューインガム、グミ菓子、ソフトキャンディ、各種調味食品等を挙げることができ、特にチューインガムに適用することが好適である。
【0025】
本発明を適用する対象となる香料成分は、咀嚼により咀嚼基材を含む食品から口中に溶出し得る香料成分であれば特に限定されるものではないが、例えば、エチルアセテート、エチルプロピオネート、エチルイソブチレート等のエステル類、リナロール、メントール、シス−3−ヘキセン−1−オール等のアルコール類、ヘキサナール、オクタナール、ベンズアルデヒド等のアルデヒド類等、従来公知の香料成分を挙げることができる。
【0026】
ガスクロマトグラフ分析により得られる保持指標とは、ガスクロマトグラフにおける特定成分の保持特性(保持時間)について、基準物質の保持特性を参照して表した尺度であり、化合物毎に特定の値を有する。基準物質としては、例えばn−アルカン同族体が挙げられるが、これに限定されるものではなく、保持指標を得るための基準物質として公知ないしは新規の化合物を適宜用いることができる。
【0027】
本発明では、上記保持指標を、極性カラムを利用したガスクロマトグラフ分析と非極性カラムを利用したガスクロマトグラフ分析を行った場合の双方について測定し、この測定値の差(ΔI)とし、これを上記相関関係を求めるための香料成分の物理化学的特性として使用する。
【0028】
本発明でいう極性カラムとは、ガスクロマトグラフ分析で用いられる一般的な分析用キャピラリーカラムの一つであり、内面をポリエチレングリコールでコートしたDB−Waxなどが一般に用いられる。非極性カラムも同様に一般的な分析用キャピラリーカラムの一つであり、内面をジメチルポリシロキサンでコートしたDB−1などが一般的に用いられる。
【0029】
咀嚼基材中の香料成分の咀嚼による口中溶出率は、例えば以下のようにして決定することができる。即ち、咀嚼基材中に既知量の香料成分を添加し、これをガム咀嚼試験器(例えばEREWEKA社製DRT等)で咀嚼回数800回以上として試験液中に香料成分を溶出させる。咀嚼回数を800回以上とすることで、香料成分の咀嚼による口中溶出率を飽和させることができる。これをカラム濃縮法にて回収し、回収した香料成分をガスクロマトグラフへ導入し、内部標準法により既知量の内部標準物質のシグナル強度を基準に定量値を算出することにより行う。
【0030】
複数の香料成分について、ΔIと口中溶出率を求めることによって、これらの間の相関関係を求めることができる。ここで、香料成分のΔIと口中溶出率との間には、基本的には直線的な相関関係が成立し、以下の式(1)で表すことができる。
(口中溶出率)=a×ΔI+b ・・・・・(1)
【0031】
上記式(1)において、aとbは、咀嚼基材(チューインガムの場合はチューインガムベース)毎に定められる値である。例えば、後述する実施例で使用したチューインガムベース(富士ケミカル株式会社、商品名:CL-NTM7)を使用した場合には、香料成分のΔIと口中溶出率との間の相関関係は、以下の式(2)で表すことができる。
(口中溶出率)=0.1421×ΔI−27.087 ・・・・・(2)
【0032】
このように、咀嚼基材毎に定められる相関関係を予め求めておくことによって、その咀嚼基材を含む食品から咀嚼により口中に溶出し得るあらゆる香料成分について、ΔIを測定するだけで、口中溶出率を客観的且つ簡便・迅速に予測することが可能となる。また、本発明者らの実験によると、チューインガムベースを用いた場合、aとbは、基本的には、0.1≦a≦0.15、−60≦b≦10で与えられることが確認されていることから、aとbをこの範囲に設定して大まかに口中溶出率を予測することも可能である。
【0033】
したがって、咀嚼基材を含む食品用の香料組成物についても、咀嚼基材毎に定められる相関関係を予め求めておくことによって、香料組成物を構成する香料成分の口中溶出率を客観的且つ簡便・迅速に予測して、口中溶出率を考慮した上での香料組成物の調合が可能となる。具体的には、口中溶出率の低い香料成分は香料成分全体の配合に対して多めに配合し、逆に口中溶出率の高い香料成分は香料成分全体の配合に対して少なめに配合することによって、口中溶出率が考慮されたバランスを有する香料組成物を調合することができる。
【0034】
尚、本発明の香料組成物への添加量は、一般的には0.0001質量%〜10質量%、好ましくは0.001質量%〜5質量%で用いられ、特に好ましくは0.01質量%〜3質量%で用いられ、最も好ましくは0.1質量%〜2質量%で用いられる。添加量が0.0001質量%未満の場合は添加効果が十分でない場合があり、添加量が10質量%を超えた場合は香味がくどくなる場合がある。
【0035】
上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。
【0036】
例えば、上述の形態では、咀嚼回数を800回以上とすることで、香料成分の咀嚼による口中溶出率を飽和させて、咀嚼基材中の香料成分の咀嚼による口中溶出率を決定するようにしていたが、咀嚼回数を800回未満として、飽和する前の口中溶出率とΔIの相関関係を求めるようにしてもよい。この場合、咀嚼過程における口中溶出率を考慮して香料組成物を調合することができる。
【実施例】
【0037】
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明はこれら実施例に限られるものではない。
【0038】
[試験例1]
表1の処方にて調製したチューインガムに、モデル香料組成物としてヘキサナール、イソアミルアセテート、ヘキサノールおよびメントールを各500ppm添加し、ガム咀嚼試験器(EREWEKA社製DRT1)にて溶出試験を行い、咀嚼回数毎の溶出量を求めた。香料成分の溶出量の測定は、溶出した香料成分をカラム濃縮法にて回収し、回収した香料成分をガスクロマトグラフ(アジレント・テクノロジー株式会社製「GC6850NネットワークGC」)へ導入し、内部標準法にて既知量の内部標準物質のシグナル強度を基準に定量値を算出することにより行った。具体的手順を以下に示し、測定結果を表2に示す。
【0039】
【表1】

【0040】
<カラム濃縮法の手順>
内部標準物質(2-オクタノール, 10μg相当)を添加した検体5.0 g(香料成分抽出液)に含まれる香料成分は、カラムに充填した吸着樹脂(5 mL)に吸着させた後に20 mLのジクロロメタンで溶出した。ジクロロメタン溶液を約100μLまで濃縮し、GC-MS測定に供した。
【0041】
<測定条件>
GC (ガスクロマトグラフ)
カラム : DB-WAX (0.25 mm i.d. × 30m, 膜厚 0.25μm)
キャリアガス: N2 (0.7 mL/min)
オーブン温度:40 ℃ - 210℃, 5℃/min.
検出器 :FID(水素炎イオン化型検出器、アジレント・テクノロジー株式会社製)
【0042】
【表2】

【0043】
次に、さらに多数の香料成分について咀嚼回数と溶出量の関係を調査した結果、400回咀嚼した場合と800回咀嚼した場合とで溶出量がそれほど変わらない成分が多い傾向が見られた。以上の結果から、咀嚼回数800回で香料成分の溶出率はほぼ飽和状態になるものと推定された。
【0044】
[試験例2]
表1の処方にて調製したチューインガムに、モデル香料組成物としてエチルアセテート、エチルプロピオネート、エチルイソブチレート、エチルブチレート、エチル2−メチルブチレート、イソアミルアセテート、ヘキシルアセテート、シス−3−ヘキセニルアセテート、シス−3−ヘキセン−1−オール、リナロール、オクタノール、メントール、2−フェニルエチルアルコールを各500ppm添加し、試験例1と同様にして800回咀嚼後の香料成分の溶出量を測定し、各香料成分の溶出率を算出した。結果を表3に示す。なお、算出した溶出率は4回の平均値である。
【0045】
【表3】

【0046】
[実施例1]
試験例2の香料成分についてΔIの値を測定し溶出率との相関を検証した。
【0047】
極性カラムを利用したガスクロマトグラフ分析により得られる保持指標は、以下の手順により測定した。
<保持指標の測定方法>
保持指標を求める香料成分の希釈溶液、および基準物質(炭素数5〜32のn-アルカン同族体)を等濃度に希釈した溶液をそれぞれGC-MS測定(カラム:DB-WAX)に供した。各成分の保持時間より、以下の式を用いて保持指標を算出した。

N : 基準物質(n-アルカン同族体)の炭素数
ta : 香料成分の保持時間
tN、tN+1 : tN ≦ ta ≦ tN+1を満たす炭素数の連続した基準物質(n-アルカン同族体)の保持時間

【0048】
非極性カラムを利用したガスクロマトグラフ分析により得られる保持指標は、以下の手順により測定した。
<保持指標の測定方法>
保持指標を求める香料成分の希釈溶液、および基準物質(炭素数5〜32のn-アルカン同族体)を等濃度に希釈した溶液をそれぞれGC-MS測定(カラム:DB-1)に供した。各成分の保持時間より、以下の式を用いて保持指標を算出した。


N : 基準物質(n-アルカン同族体)の炭素数
ta : 香料成分の保持時間
tN、tN+1 : tN ≦ ta ≦ tN+1を満たす炭素数の連続した基準物質(n-アルカン同族体)の保持時間
【0049】
そして、極性カラムを利用したガスクロマトグラフ分析により得られる保持指標と非極性カラムを利用したガスクロマトグラフ分析により得られる保持指標との差を計算し、ΔIを算出した。結果を表4に示す。
【0050】
【表4】

【0051】
この結果から、香料組成物を構成する香料成分のΔIと口中への香料成分の溶出率との間には、直線の相関関係が得られ、以下の式が導き出された。
口中への香料成分の溶出率 = 0.1421×ΔI−27.087
【0052】
上記式を用いて、試験例2のモデル香料組成物の各香料成分の溶出量を推定し、その結果を基に調整した香料組成物を調合し、ガムベースに付香、評価したところ、モデル香料組成物の風味を良く再現したものであった。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の香気成分の分析方法によれば、チューインガムのような咀嚼を要する食品に対して、簡便かつ効率的に香料成分の溶出量を推定することができる。さらに、フレーバリストの経験に頼ることなく、客観的な視点から迅速な香料の調合に資することができる。




【特許請求の範囲】
【請求項1】
香料成分についての極性カラムを利用したガスクロマトグラフ分析により得られる保持指標と非極性カラムを利用したガスクロマトグラフ分析により得られる保持指標との差(ΔI)と咀嚼基材中の前記香料成分の咀嚼による口中溶出率との間の相関関係を予め求めておき、前記咀嚼基材を含む食品に添加される香料組成物を構成する香料成分について、ΔIの測定値と前記相関関係に基づいて咀嚼による口中溶出率を予測することを特徴とする咀嚼基材を含む食品からの香料成分の口中溶出率予測方法。
【請求項2】
前記咀嚼基材はチューインガムベースであり、前記咀嚼基材を含む食品はチューインガムである請求項1に記載の口中溶出率予測方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法により予測された口中溶出率に基づいて香料組成物を構成する香料成分の組成を調整することを特徴とする咀嚼基材を含む食品用の香料組成物の調合方法。
【請求項4】
請求項2に記載の方法により予測された口中溶出率に基づいて香料組成物を構成する香料成分の組成を調整することを特徴とするチューインガム用香料組成物の調合方法。
【請求項5】
請求項3に記載の調合方法により得られる咀嚼基材を含む食品用の香料組成物。
【請求項6】
請求項4に記載の調合方法により得られるチューインガム用香料組成物。
【請求項7】
請求項5に記載の咀嚼基材を含む食品用の香料組成物が配合された咀嚼基材含有食品。
【請求項8】
請求項6に記載のチューインガム用香料組成物が配合されたチューインガム。

【公開番号】特開2012−37254(P2012−37254A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−174970(P2010−174970)
【出願日】平成22年8月4日(2010.8.4)
【出願人】(591011410)小川香料株式会社 (173)
【Fターム(参考)】