説明

咬合診断プレート

【課題】咬合診断プレートにおいて、プレートに記録される咬合痕跡に基づき、上下歯の咬合の状態、咬合平面の傾き及び上下顎間の位置ずれを容易に把握することができ、また、構造を簡略化して低価格化を図ることを可能にする。
【解決手段】
可塑性素材より形成された平板状のプレート本体2から構成され、プレート本体2を被検者の口腔内に装入した状態で咬合させ、プレート本体2を変形させて用いることを特徴とする咬合診断プレート1。また、プレート本体2に折曲げ部5を形成し、プレート本体2を折曲げ部5を介して開閉自在に構成することができる。さらに、プレート本体2は、歯との接触面側に配置され、咬合痕跡を視認するための第1の部材3と、歯との接触面側と反対の面側に配置され、プレート本体2の強度を補強するための第2の部材4とを備えることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上下歯の咬合の状態を検出するのに用いる咬合診断プレートに関する。
【背景技術】
【0002】
人体における咬合部位の構成は、頭蓋骨に上顎骨が連続し、その上顎骨に対して下顎骨が筋肉により吊り下げられた状態となっている。これら上顎骨と下顎骨の位置関係は、人体の健康状態に大きく影響を及ぼすことが知られており、例えば、上顎骨に対して下顎骨が左右にずれると、正中線と呼ばれる顔の中心線がずれて顔の形が歪んだり、さらには、全身姿勢に歪みが生じて内臓への負担増や倦怠感等の症状を引き起こすことがある。
【0003】
このため、上下顎の歯列の咬み合わせを矯正する咬合治療が広く行われているが、適切な治療を施すには、治療に先立ち、患者の上下顎骨の状態を的確に把握する必要が生じる。そこで、例えば、特許文献1には、上下歯の咬合の状態を検出するための診断具として、感圧顕色剤を用いた咬合診断プレートが提案されている。
【0004】
この咬合診断プレート30は、図6(a)に示すように、カーボンインキが塗布された第1の部材31と、感圧顕色剤が塗布された第2の部材32とを貼り合わせた構成を有し、感圧顕色剤としては、色素を封入したマイクロカプセルが用いられる。
【0005】
咬合状態の診断にあたっては、咬合診断プレート30を被検者の口腔内に装入した状態で咬合させる。その際、第1の部材31に触れた歯にはカーボンインキが付着し、また、上下歯が接触して咬合診断プレート30に大きな咬合圧が加わった箇所では、図6(b)に示すように、マイクロカプセルが破裂して着色部33が出現する。このため、歯の着色状況と咬合診断プレート30の着色部33とを観察することにより、咬合の有無や強弱を把握することができる。
【0006】
また、特許文献2には、図7(a)、(b)に示すように、色素を封入したマイクロカプセル34を内包するとともに、支持体35の表裏面にワックス(歯科用ワックス)層36(36a、36b)を塗布した咬合診断プレート37が提案されている。この咬合診断プレート37では、咬合圧の強い部分が着色部として記録されるのに加え、被検者の歯列がワックス層36の凹凸となって現れるため、歯並びの状況を把握することもできる。
【0007】
【特許文献1】特開平5−168664号公報
【特許文献2】特開平6−125929号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1に記載の咬合診断プレート30においては、咬合圧の強い部分が着色部33として記録されるに過ぎないため、咬合診断プレート30から読み取れる情報は、上下歯の咬合状態のみとなり、上顎に対する下顎の傾き(以下、適宜「咬合平面の傾き」という)や、上顎に対する下顎の前後左右へのずれ(以下、適宜「上下顎間の位置ずれ」という)までは把握し難い。このため、咬合診断プレート30を用いて被検者の状態を検診しても、咬合の強い歯の頂部を削る等の一部の歯科治療に利用できるに過ぎず、顎位を矯正する場合の診断具としては不十分である。
【0009】
一方、特許文献2に記載の咬合診断プレート37においては、咬合の状態と同時に歯並びの状態も診断することができるが、上顎と下顎の歯列が表面側と裏面側のワックス層36に別個に記録されるため、上下各々の歯並びを把握できるに過ぎず、上下顎間の位置ずれまでは把握し難い。また、咬合平面の傾きに関しても、特許文献1に記載の咬合診断プレート30と同様、シートから直接的に読み取ることは困難である。
【0010】
さらに、特許文献1及び2に記載の咬合診断プレート30、37のいずれにおいても、微細なマイクロカプセルを内包するなどの特殊な構造を有し、構造的に複雑であるため、咬合診断プレートの価格が高騰し易いという問題もある。
【0011】
そこで、本発明は、上記従来の技術における問題点に鑑みてなされたものであって、プレートに記録される咬合痕跡に基づき、上下歯の咬合の状態、咬合平面の傾き及び上下顎間の位置ずれを容易に把握することができ、また、構造を簡略化して低価格化を図ることが可能な咬合診断プレートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明は、咬合診断プレートであって、可塑性素材より形成された平板状のプレート本体から構成され、該プレート本体を被検者の口腔内に装入した状態で咬合させ、該プレート本体を変形させて用いることを特徴とする。
【0013】
本発明によれば、プレート本体が可塑性素材より形成されるため、プレート本体を被検者に咬ませた際に、表面に凹凸が形成されるだけでなく、プレート本体の全体形状にも変化が生じる。そして、表面に形成された凹凸と合わせてプレート本体の形状の歪みを観察することで、咬合圧の偏り等を速やかに把握することができ、上下歯の咬合の状態や咬合平面の傾きを容易に識別することが可能となる。また、プレート本体を可塑性素材より形成するのみで咬合診断プレートを構成することができるため、全体構造を簡略化することができ、低価格化を図ることも可能となる。
【0014】
上記咬合診断プレートにおいて、前記プレート本体に形成された折曲げ部を備え、前記プレート本体を該折曲げ部を介して開閉自在に構成することができる。
【0015】
上記構成によれば、プレート本体を可塑性部材より形成した上で、折曲げ部を介して開閉自在とするため、プレート本体を折り曲げた状態で被検者に咬ませることで、上歯との接触面及び下歯との接触面の各々に、上下顎の歯列や上下歯の咬合状態を適切に転写することができる。また、被検者の口腔内から咬合診断プレートを取り出した後に、咬合診断プレートを見開きの状態とすることができるため、上歯側の歯列痕と下歯側の歯列痕とを一平面上に並べて表示することができる。このため、双方の歯列痕を同時に視認することができ、上顎位と下顎位を容易に対比することが可能になる。
【0016】
上記咬合診断プレートにおいて、前記プレート本体が、歯との接触面側に配置され、咬合痕跡を視認するための第1の可塑性部材と、前記接触面側と反対の面側に配置され、該プレート本体の強度を補強するための第2の可塑性部材とを備えることができる。この構成によれば、咬合診断プレートに転写される歯痕の視認性を高めつつ、被検者が咬んでも破れないのに十分な強度を確保することが可能になる。
【0017】
上記咬合診断プレートにおいて、前記第1の可塑性部材をアルミ膜から構成し、前記第2の可塑性部材を該第1の可塑性部材より厚く形成したバルサ板から構成することができる。
【0018】
上記咬合診断プレートにおいて、前記プレート本体の長手方向の両端部に形成され、該プレート本体の短手方向の中央部に配置された凸部を備えることができる。この凸部は、咬合診断プレートを使用する際に持手部として利用することができる他、咬合診断プレートを被検者の口腔内に装入する際に中心合わせのための目印としても利用することができる。
【発明の効果】
【0019】
以上のように、本発明によれば、咬合診断プレートに記録される咬合痕跡に基づき、上下歯の咬合の状態、咬合平面の傾き及び上下顎間の位置ずれを容易に把握することができ、また、構造を簡略化して低価格化を図ることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
次に、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0021】
図1は、本発明にかかる咬合診断プレートの第1の実施形態を示し、この咬合診断プレート1は、可塑性素材より形成され、略楕円形状を有するプレート本体2から構成される。尚、可塑性素材とは、所定の力を加えた際に変形するとともに、力を除いても変形した状態を維持する性質を備えた素材を意味するものである。
【0022】
プレート本体2は、図2に示すように、被検者の歯と接触する面側に形成された第1の部材3と、第1の部材3の裏面に貼着された第2の部材4とを備える。ここで、プレート本体2を二層構造とするのは、咬合痕跡の視認性を高めつつ、咬合診断プレート1の強度を補強するためである。
【0023】
すなわち、歯列や咬合の状態を確認し易くする目的で、歯との接触面側には凹凸や変形を視認し易い部材を用いる一方、その反対の面側には強度に優れた部材を配置することでプレート本体2の全体強度を増大し、被検者が力強く咬んでも破損することがないようにしている。
【0024】
このため、第1の部材3は、例えば、アルミニウム等の光沢性を有する可塑性素材を薄板状に加工して形成することが好ましく、また、第2の部材4は、例えば、バルサ等の軽くて丈夫な可塑剤素材を5mm程度の厚さに加工して形成することが好ましい。尚、単一の部材によって視認性と強度の双方を確保できる場合には、一部材からプレート本体2を形成すれば足り、必ずしも二部材を用いる必要はない。
【0025】
また、図1に示すように、プレート本体2の長手方向の中央部には、プレート本体2の短手方向に沿って延びる折曲げ部5が形成される。この折曲げ部5は、プレート本体2を二つ折りにするためのものであり、本咬合診断プレート1は、折曲げ部5を介して開閉自在に構成される。
【0026】
さらに、プレート本体2の長手方向の両端部には、外側に突出する凸部6a、6bがプレート本体2と一体に形成される。これら凸部6a、6bは、いずれもプレート本体2の短手方向の中央部に配置され、咬合診断プレート1を使用する際の持手部として利用することができる他、咬合診断プレート1を被検者の口腔内に装入する際に中心合わせのための目印としても利用することができる。
【0027】
次に、上記構成を有する咬合診断プレート1の使用方法について、図1〜図4を参照しながら説明する。
【0028】
咬合診断プレート1を使用するにあたっては、先ず、図3に示すように、折曲げ部5を通じて咬合診断プレート1を二つ折りに折り曲げ、矢印B方向に沿って咬合診断プレート1を被検者の口腔内に装入する。次いで、被検者に咬合診断プレート1を咬ませ、上歯を咬合診断プレート1の一方の面(以下、適宜「第1の接触面」という)1aに接触させるとともに、下歯を他方の面(以下、適宜「第2の接触面」という)1bに接触させる。
【0029】
そして、被検者が咬合診断プレート1を強く咬むことで、咬合診断プレート1が上下歯間に挟み込まれ、その結果、上顎と下顎から受ける圧力により咬合診断プレート1の全体形状が変形し、また、上歯と下歯が咬合する箇所ではプレート表面に凹凸が形成される。こうして、第1の接触面1aに被検者の上顎の歯型が転写されるとともに、第2の接触面1bに下顎の歯型が転写される。
【0030】
次いで、咬合診断プレート1を被検者の口腔内から取り出し、咬合診断プレート1の形状の変化やプレート表面に記録された咬合痕跡を観察する。
【0031】
その際、咬合診断プレート1に形成された歯痕7(図4参照)の位置や大きさ、深さ等とともに、咬合診断プレート1の全体形状の歪みを観察することで、咬合圧の偏り等を速やかに把握することができ、咬合集中部や不足部を容易に識別することができる。それに加え、咬合診断プレート1に形成された咬合痕跡の左右を見比べたり、各々の歯痕7の形状を観察することで、咬合咬頭斜面や各歯の向きを把握することもできる。これにより、片側接触咬合、すなわち、内傾斜(頬側のみの接触)及び外傾斜(舌側のみの接触)の有無や度合いを知ることができ、上顎に対する下顎の傾きに異常があるか否かを診断することができる。
【0032】
さらに、第1及び第2の接触面1a、1bの各々に形成された歯列痕を観察することで、上顎と下顎の歯列全体の接触咬頭ラインを把握することができる。そして、第1の接触面1aの歯列痕からは、上歯の歯列弓の状態や頭位を反映した上顎の向きを読み取ることができ、第2の接触面1bの歯列痕からは、下歯の歯列弓の状態を読み取ることができる。
【0033】
また、このとき、図4に示すように、咬合診断プレート1を見開きの状態にすることで、上歯側の歯列痕と下歯側の歯列痕とを一平面上に並べて表示することができる。このため、双方の歯列痕を同時に視認することができ、上顎位と下顎位を容易に対比することが可能になる。そして、歯列痕の対比結果からは、上顎の歯列と下顎の歯列との歪み、すなわち、上顎に対する下顎の前後左右への位置ずれ等を読み取ることができる。
【0034】
以上のように、本実施の形態によれば、プレートに記録される咬合痕跡に基づき、上下歯の咬合の状態、咬合平面の傾き及び上下顎間の位置ずれを容易に把握することができる。また、プレート本体2を可塑性素材より形成するのみで咬合診断プレート1を構成することができるため、全体構造を簡略化することができ、低価格化を図ることが可能となる。
【0035】
次に、本発明に係る咬合診断プレートの第2の実施形態について、図5を参照しながら説明する。
【0036】
本実施の形態に係る咬合診断プレート20は、図5(a)に示すように、略U字状のプレート本体21から構成される。このプレート本体21においても、第1の実施形態のプレート本体2と同様に可塑性素材より形成され、図5(b)に示すように、プレート本体21の表裏面に形成される第1の部材22a、22bと、第1の部材22a、22bの間に形成される第2の部材23とを備える。
【0037】
ここで、第1の部材22a、22bは、図2に示す第1の部材3と同一のものであり、例えば、アルミ膜等によって形成される。また、第2の部材23も、図2に示す第2の部材4と同一のものであり、例えば、5mm程度の厚さを有するバルサ板等によって形成される。
【0038】
尚、第1の部材22a、22bは、プレート本体21の表面と裏面で別体に形成するのではなく、図2(b)に示すように、一体に形成することが好ましい。この場合には、咬合診断プレート20に大きな咬合圧が加わっても、第1の部材22a、22bが剥がれて両者の位置がずれるのを回避することができる。因みに、図2(b)には、第1の部材22a、22bを一体形成する構成例として、1枚の部材(例えば、1枚のアルミ膜等)で第2の部材4を覆い、先端部22cを無害な接着剤で接着したものを図示している。
【0039】
本実施の形態に係る咬合診断プレート20においては、折曲げ部を備えないため、見開きの状態にすることができず、上歯側の歯列痕と下歯側の歯列痕とを一平面上に並べることができないが、その点を除けば、先の第1の実施形態と同様の作用・効果を得ることができる。
【0040】
すなわち、プレート本体21が可塑性素材より形成されているため、咬合診断プレート20を被検者に咬ませた際に、プレートの表裏面に凹凸が形成されるだけでなく、プレート本体21の全体形状にも変化が生じる。そして、表裏面に形成された凹凸と合わせてプレート本体21の形状の歪みを観察することで、咬合圧の偏り等を速やかに把握することができ、上下歯の咬合の状態や咬合平面の傾きを容易に識別することが可能となる。
【0041】
また、本実施の形態においても、プレート本体21を可塑性素材より形成するのみで咬合診断プレート20を構成することができるため、全体構造を簡略化することができ、低価格化を図ることが可能となる。
【0042】
尚、本発明にかかる咬合診断プレート1、20は、治療前の状態を診断する場合のみならず、治療後の経過を診断する際の診断具としても用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明にかかる咬合診断プレートの第1の実施形態を示す構成図である。
【図2】図1の咬合診断プレートのA−A線矢視図である。
【図3】図1の咬合診断プレートを折り曲げたときの斜視図である。
【図4】図1の咬合診断プレートの見開き状態での咬合痕跡の一例を示す上面図である。
【図5】本発明にかかる咬合診断プレートの第2の実施形態を示す構成図であり、(a)は、上図面であり、(b)は、(a)のC−C線矢視図である。
【図6】従来の咬合診断プレートを示す上面図であり、(a)は、未使用の状態であり、(b)は、使用後の状態である。
【図7】従来の咬合診断プレートを示す図であり、(a)は、上面図であり、(b)は、(a)のD−D線矢視図である。
【符号の説明】
【0044】
1 咬合診断プレート
1a 第1の接触面
1b 第2の接触面
2 プレート本体
3 第1の部材
4 第2の部材
5 折曲げ部
6(6a、6b) 凸部
7 歯痕
20 咬合診断プレート
21 プレート本体
22(22a、22b) 第1の部材
22c 先端部
23 第2の部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可塑性素材より形成された平板状のプレート本体から構成され、
該プレート本体を被検者の口腔内に装入した状態で咬合させ、該プレート本体を変形させて用いることを特徴とする咬合診断プレート。
【請求項2】
前記プレート本体に形成された折曲げ部を備え、前記プレート本体が該折曲げ部を介して開閉自在に構成されたことを特徴とする請求項1に記載の咬合診断プレート。
【請求項3】
前記プレート本体は、歯との接触面側に配置され、咬合痕跡を視認するための第1の可塑性部材と、前記接触面側と反対の面側に配置され、該プレート本体の強度を補強するための第2の可塑性部材とを備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の咬合診断プレート。
【請求項4】
前記第1の可塑性部材がアルミ膜から構成され、前記第2の可塑性部材が該第1の可塑性部材より厚く形成されたバルサ板から構成されることを特徴とする請求項3に記載の咬合診断プレート。
【請求項5】
前記プレート本体の長手方向の両端部に形成され、該プレート本体の短手方向の中央部に配置された凸部を備えることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の咬合診断プレート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−247676(P2009−247676A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−100356(P2008−100356)
【出願日】平成20年4月8日(2008.4.8)
【出願人】(595124332)
【Fターム(参考)】