説明

哺乳動物のベータ・ディフェンシンを用いた、炎症性腸疾患の治療

本発明は、哺乳動物のベータ・ディフェンシンを用いた、炎症性腸疾患の治療に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
配列表の参照
本出願は、配列表をコンピュータで読み取り可能な形式で含む。当該コンピュータで読み取り可能な形式は参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
発明の背景
発明の技術分野
本発明は、哺乳動物のベータ・ディフェンシンの投与による、炎症性腸疾患の予防及び治療に関する。
【背景技術】
【0003】
背景
ヒトのディフェンシン
多くの他の成分の中で、先天性免疫の重要な構成成分は、その各々が、かなりの選択性を示すが、共同で速やかに広範囲の細菌、ウィルス、及び真菌を死滅させることができる、抗微生物ペプチド(AMP)である。AMPの生物学的重要性は、天然においてそれらが偏在することによって強調され、そしてそれらは恐らく、全ての多細胞生物によって産生される。ヒトにおいて、重要なAMPはディフェンシンである。ヒトのディフェンシンは、それらの3つの分子内システイン・ジスルフィド結合の形態に基づいて、α−及びβ−ディフェンシンへと分類され得る、小さいカチオン性ペプチドである。α−ディフェンシンは、好中性顆粒から最初に単離されたもの(HNP1〜4)、及び小腸の陰窩中のパネート細胞によって発現されるもの(HD5及びHD6)へとさらに細かく分類され得る。β−ディフェンシンは主に、皮膚、気管、消化管、泌尿生殖器系、腎臓、膵臓、及び乳腺を含む、種々の組織及び器官における上皮細胞によって産生される。β−ディフェンシン・ファミリーの最も特徴付けされたメンバーは、hBD1〜3である。しかし、種々のバイオインフォマティクス・ツールを用いて、推定上のβ−ディフェンシン相同体をコードする約40個のオープン・リーディング・フレームが、ヒトゲノム中でアノテートされた。ヒト・ディフェンシンの幾つかは、恒常的に産生されるが、他のものは、炎症性サイトカイン、又は外因性の微生物産生物によって誘導される。
【0004】
ヒトのディフェンシン、及びそれらの直接的な抗微生物活性はまた、広い範囲の免疫調節性/代替性特性を有することが次第に明らかとなってきた。これらは、種々のケモカイン及びサイトカインの誘導、走化性及びアポトーシス活性、プロスタグランジンの誘導、ヒスタミン及びロイコトリエンの放出、補体の阻害、トール様受容体のシグナル伝達を通じた樹状細胞成熟の刺激、並びに好中球による病原体の一掃の刺激を含む。さらに、ヒトのディフェンシンはまた、創傷治癒、上皮及び繊維芽細胞の増殖、血管形成、並びに脈管形成において役割を果たす。
【0005】
ヒトのディフェンシンが、多くの感染性及び炎症性疾患において重要な役割を果たすことに関する証拠が増大している。ヒトのディフェンシンの過剰発現は通常、恐らく微生物成分又は内因性の炎症性サイトカインによる局所的誘導のために、炎症を起こした及び/又は感染した皮膚において観察される。乾癬において、hBD2及びhBD3は過剰に存在し、そして尋常性座瘡又は表在性毛嚢炎の患者の損傷性上皮において、hBD2の上方制御が観察された。他方で、hBD2及びhBD3の下方制御は、アトピー性皮膚炎に関連する。回腸のクローン病は、HD5及びHD6の発現不足が関連しており、そして結腸におけるクローン病において、hBD2〜4の発現は下方制御される。
【0006】
サイトカイン
サイトカインは、細胞間シグナル伝達に関与し、並びに他の細胞の成長、分裂、及び機能に影響を及ぼす、高等真核生物からの小さな分泌ポリペプチドである。それらは、例えば対応する受容体経由で局所性又は全身性細胞間制御因子として作用する、強力な多面的ポリペプチドであり、したがって多くの生物学的過程、例えば免疫、炎症、及び造血において重要な役割を果たす。サイトカインは、線維芽細胞、内皮細胞、上皮細胞、マクロファージ/単球、及びリンパ球を含む、種々の細胞種によって産生される。
【0007】
TNF−αは、種々の病態生理学的過程に関与し、そして宿主防衛において保護的であり得るか、又は自己免疫において有害であり得るかのいずれかである。TNF−αは、炎症応答を引き起こし且つ持続する重要なサイトカインの一つであり、そしてTNF−αの不活性化は、自己免疫疾患に関連する炎症性反応を下方制御するときに重要であることが証明されている。感染時において、TNF−αはマクロファージによって多量に分泌され、そしてそれは、接着分子を産生する内皮細胞を刺激することによって、及び走化性のサイトカインであるケモカインを産生することによって、感染部位への好中球及びマクロファージの動員を媒介する。TNF−αは、白血球及び他の炎症性細胞の活性化を促進し、そして傷害組織内における血管透過性の増大を促進する。TNF−αは主に、マクロファージ、単球、及び樹状細胞で産生されるが、リンパ球様細胞、マスト細胞、内皮細胞、心筋細胞、脂肪組織、線維芽細胞、及び神経組織を含む、多くの種類の他の細胞種によっても産生される。
【0008】
現時点における抗炎症剤は、TNF−αに結合し、それにより、細胞表面上のTNF−α受容体へそれがシグナル伝達するのを防止することによって、TNF−αの作用を阻害する。この種の阻害は、幾つかの深刻な副作用があり、そしてそれらの幾つかは、結核、敗血症、及び真菌感染のような感染であり、並びに癌発生の増大の可能性である。
【0009】
IL−10はまた、ヒトのサイトカイン合成阻害因子(CSIF)として知られており、及び抗炎症性サイトカインとして、免疫調節において重要な役割を果たす。このサイトカインは、単球、マクロファージ、T細胞、B細胞、樹状細胞、及びマスト細胞を含む、幾つかの細胞種によって産生される。このサイトカインは、免疫調節及び炎症において多面的効果を有する。それは、炎症性サイトカイン、Th1/Th17細胞によって分泌されるサイトカイン、MHCクラスII Ag、及び抗原提示細胞における副刺激分子の発現を下方制御する。IL−10はまた、調節性T細胞(Treg)と呼ばれるT細胞群によって分泌される。これらの細胞は、最初のT細胞の活性化を防止せず;むしろそれらは、持続的応答を阻害し、そして慢性及び潜在的損傷応答を防止する。末梢において、幾つかのT細胞が誘導されて、抗原及び、IL−10又はTGF−βのいずれかによってTregとなる。IL−10によって誘導されるTregは、CD4+/CD25+/Foxp3−であり、そしてTr1細胞と呼ばれる。これらの細胞は、IL−10を分泌することによって、免疫応答を抑制する。近年の研究は、Th17細胞の同定において、Th1/Th2/Tregよりも、T細胞エフェクター・レパートリーのより大きな多様化を明らかにした。この下位個体群は、Th1系(lineage)に起因すると以前は考えられてきた、幾つかの自己免疫疾患、例えば、クローン病、潰瘍性大腸炎、乾癬、及び多発性硬化症の病因であることが示されている。Th17によって分泌されるサイトカインはまた、IL−10によって下方制御され、そしてTNFの阻害は、Th17細胞を不活性化することによって乾癬を防止する。IL−10の総合的な活性は抗炎症であり、そして幾つかの動物試験において、炎症及び損傷を防止することが示されているが、IL−10の投与経路における困難性、及びその生物学的半減期のために、臨床におけるIL−10治療は、不十分なままである。
【0010】
炎症性腸疾患
炎症性腸疾患(IBD)は、由来のはっきりしない、慢性の、再発性腸疾患と定義される。IBDは、2つの異なる疾患、クローン病及び潰瘍性大腸炎(UC)に関する。両方の疾患は、腸における炎症性応答の抑制されていない活性化に起因すると考えられる。この炎症カスケードは、炎症性サイトカインの作用、及びリンパ球サブセットの選択的活性化を通じて持続されると考えられる。IBDの患者において、腸の内部の裏の潰瘍及び炎症は、腹痛、下痢、及び直腸出血の症状をもたらす。潰瘍性大腸炎は大腸で生じるが、クローン病において、当該疾患は、胃腸管全体、並びに小腸及び大腸で起こり得る。大部分の患者において、IBDは、数か月〜数年の間続く症状を伴う、慢性疾患である。それは若年成人において最も一般的であるが、全ての年齢において生じ得る。それは世界中で見られるが、先進工業国、例えば米国、英国、及び北欧において最も一般的である。それはユダヤ系の人において特に一般的であり、そして罹患率に関して人種間の違いがある。IBDの臨床症状は、間欠性直腸出血、けいれん性の腹痛、体重減少及び下痢である。IBDの診断は、臨床症状、バリウム注腸の使用に基づくが、直接的可視化(S状結腸鏡検査、又は大腸内視鏡検査)が最も正確な検査である。長期化したIBDは、結腸癌のリスク因子であり、そしてIBDの治療は投薬療法、及び外科療法を伴い得る。
【0011】
UCを患う幾つかの患者は、直腸においてのみ疾患を有する(直腸炎)。UCを患う他の患者は、直腸及び隣接する左結腸に限定された疾患を有する(直腸S状結腸炎)。さらに他の患者は、結腸全体のUCを有する(汎発性IBD)。UCの症状は、より広範囲の疾患(より広い部分の結腸に関連する疾患)に関して、一般的により深刻である。
【0012】
直腸に限定された疾患(直腸炎)又は左結腸端に限定されたUC(直腸S状結腸炎)を患う患者の予後は、全結腸UCの患者よりも良い。経口薬又は浣腸剤を使用する短期間の定期的治療で十分であり得る。より広範囲の疾患を患う患者において、炎症を起こした腸からの欠血は、貧血を引き起こし得、そして鉄分補給治療、又は輸血を必要とし得る。まれではあるが、炎症が非常に深刻となる時に、結腸が大きなサイズに急に拡張され得る。この状態は、中毒性巨大結腸症と呼ばれる。中毒性巨大結腸症の患者は、発熱、腹痛及び腹部膨張、脱水症、並びに栄養失調を伴い、極めて症状が重い。患者が薬物療法で速やかに改善されなければ、結腸の破裂を防ぐために外科療法が通常必要となる。
【0013】
クローン病は、胃腸管の全ての領域で生じ得る。この疾患と共に、炎症及び繊維症に起因する腸閉塞が、多くの患者で起こる。肉芽腫及び瘻の形成はクローン病において頻繁に起こる合併症である。疾患進行の結果は、経静脈栄養、外科手術、及び人工肛門形成術を含む。
【0014】
IBDは、薬物療法で治療され得る。IBDを治療するために最も一般的に使用される薬物療法は、抗炎症性薬剤、例えばサリチル酸塩である。サリチル酸塩調製物は、軽度〜中等度の疾患を治療するときに有効である。それらはまた、当該薬物療法が長期に行われるとき、疾患フレア(flare)の頻度を減少させることができる。サリチル酸塩の例は、スルファサラジン、オルサラジン、及びメサラミンを含む。これらの薬物の全ては、最大限の治療効果のために、高用量にて経口で投与される。これらの薬物は、副作用を伴わないわけではない。アザルフィジンは、高用量で投与されたときに、胃のむかつきを引き起こし得、及び稀な症例ではあるが、軽度の腎炎が幾つかのサリチル酸塩調製物において報告されている。
【0015】
コルチコステロイドは、IBDの治療において、サリチル酸塩よりもより強力且つより即効性であるが、潜在的に存在する深刻な副作用が、より深刻な疾患を患う患者に対するコルチコステロイドの使用を制限する。コルチコステロイドの副作用は通常、長期使用において生じる。それらは、骨及び皮膚の薄化、感染、糖尿病、筋肉疲労、顔の丸形化、精神障害、及び稀な症例であるが、股関節の破壊を含む。
【0016】
サリチル酸塩又はコルチコステロイドに応答しないIBD患者において、免疫系を抑制する薬剤が使用される。免疫抑制剤の例は、アザチオプリン及び6−メルカプトプリンを含む。この状況において使用される免疫抑制剤は、IBDの抑制に有用であり、及びコルチコステロイドの段階的な減少又は除去をもたらす。しかし、免疫抑制剤は、患者を免疫不全にし、及び多くの他の疾患に感受性とする。
【0017】
十分に認識されたIBD試験モデルは、DSS結腸炎マウスモデルであり、Kawada et al.「Insights from advances in research of chemically induced experimental models of human inflammatory bowel disease」,World J. Gastroenterol.,Vol. 13(42),pp.5581−5593(2007);並びに、Wirtz and Neurath「Mouse models of inflammatory bowel disease」,Advanced Drug Delivery Reviews,Vol.59(11),1073−1083(2007)に記載されている。
【0018】
明らかに、IBDを予防及び治療することができる薬剤の大きな必要性が存在する。
【0019】
炎症性腸疾患を治療するためのヒト・ディフェンシンの使用
興味深いことに、小腸におけるクローン病は、パネート細胞におけるα−ディフェンシンHD5、及びHD6のレベルの減少に関連し、一方で結腸におけるクローン病は、β−ディフェンシンhBD2及びhBD3の産生の減少に関連している(Gersemann et al.,2008;Wehkamp et al,2005)。さらに、クローン病の発症における腸の微生物叢の関与が立証されている(Swidsinski et al.,2002)。蛍光in situハイブリダイゼーション法を用いて、これらの研究者は、活性なクローン病において、粘膜関連性及び侵襲性細菌の著しい増大が観察され、一方でこれらの細菌は、正常な小腸及び大腸には存在しないことを示した。これらの観察をまとめると、健常人において、腸の上皮バリアにおける適切なレベルのディフェンシンは、内腔細菌の組成及び数を抑制するように作用し、そしてそれらが粘膜に吸着し且つ侵入して、炎症を引き起こすのを防止するように作用するという仮説ができる(Wang et al.,2007)。他方で、保護レベルの分泌ディフェンシンを産生する能力が不十分なヒトにおいて、抗微生物防御と内腔細菌との間のバランスがシフトされる。結果的にこれは、炎症状態を誘導する下部腸組織への細菌の侵襲を許容し、そしてクローン病へと進展し得る。
【0020】
この過程に基づいて、国際公開第2007/081486号は、炎症性腸疾患の治療における、幾つかのヒト・ディフェンシンの使用を開示している。発明者は、腸管腔における適切な場所でのそれらの放出を可能とする製剤で、クローン病患者に経口投与されたディフェンシンが、侵襲性細菌の数を減少させ、正常な上皮バリアへと回復させ、したがって炎症性疾患の重症度を減少させることを示唆した。
【発明の概要】
【0021】
国際公開第2007/081486号によれば、ディフェンシンの機能は、内腔における細菌を直接標的とし、且つ死滅させ、それらが上皮組織に侵入することを防止することである。すなわち、ディフェンシンの機能は、純粋に抗感染性化合物としてである。国際公開第2007/081486号との関連で、非経口投与経路を用いるとhbD2が内腔細菌と遭遇しないため、非経口で投与されたhbD2がマウスにおけるDDS誘導性結腸炎の深刻度を減少させることができるということは、驚くべきことである。さらに我々は、hBD2の効果が、PBMCによって分泌される炎症性サイトカインTNFα、IL−1β、及びIL−23のレベルを減少させることであることを本明細書において示す。これらのサイトカインは、炎症性腸疾患を含む、多くの炎症性疾患において重要な役割を果たすことが知られている。抗微生物機能の他に、ディフェンシンは、広い範囲の免疫調節機能を有することが10年以上知られている。しかし、ヒト・ディフェンシンの免疫調節特性に関する大多数の研究は、それらが第一に炎症性又は炎症促進性機能を有すると記載している(例えば、Niyonsaba et al.,2007;Bowdish et al.,2006;Lehrer,2004を参照)。
【0022】
したがって、非経口で投与されたhBD2が、IBD患者の疾患の深刻度を減少させることができるはずであることは全く予想外のことである。第一に、非経口で投与されたとき、hBD2は、腸内腔に到達して、当該疾患の誘導に関与する有害な細菌と接触することができない。さらに、大多数の公知文献に基づいて、血流に入ったディフェンシンは、本明細書において示された研究において観察されるような抗炎症性応答よりも、炎症性を誘導するであろうと当業者は予想し得る。
【0023】
発明の詳細な説明
定義
ディフェンシン:本明細書における用語「ディフェンシン」は、抗微生物性ペプチドのディフェンシン類に属するものとして当業者によって認識されるポリペプチドのことである。ポリペプチドが本発明のディフェンシンであるか否か決定するために、無料で利用可能なHMMERソフトウェア・パッケージを使用することによって、アミノ酸配列が、PFAMデータベースの隠れマルコフモデル・プロファイル(HMMプロファイル)と比較され得る。
【0024】
PFAMディフェンシン・ファミリーは、例えばディフェンシン1、又は「哺乳動物のディフェンシン」(受入番号PF00323)、及びディフェンシン・2、又はディフェンシン・ベータ、又は「ベータ・ディフェンシン」(受入番号PF00711)を含む。
【0025】
本発明のディフェンシンは、ベータ・ディフェンシン類に属する。ベータ・ディフェンシン由来のディフェンシンは、共通の構造的特徴、例えばシステインのパターンを有する。
【0026】
本発明のディフェンシンの例は、ヒト・ベータ・ディフェンシン1(hBD1;配列番号1を参照)、ヒト・ベータ・ディフェンシン2(hBD2;配列番号2を参照)、ヒト・ベータ・ディフェンシン3(hBD3;配列番号3を参照)、ヒト・ベータ・ディフェンシン4(hBD2;配列番号4を参照)、及びマウス・ベータディフェンシン3(mBD3;配列番号6を参照)を含む。
【0027】
同一性:2つのアミノ酸配列間の関連性、又は2つのヌクレオチド配列の関連性を、パラメーター「同一性」で記載する。
【0028】
本発明の目的のために、2つのアミノ酸配列間の同一性度は、好ましくはバージョン3.0.0以降の、EMBOSSパッケージ(EMBOSS:The European Molecular Biology Open Software Suite,Rice et al,2000,Trends in Genetics 16:276−277;http://emboss.org)のNeedleプログラムに備わった、Needleman−Wunschアルゴリズム(Needleman and Wunsch,1970,J.Mol.Biol.48:443−453)を用いて決定される。使用される任意のパラメーターは、10のギャップ・オープン・ペナルティ(gap open penalty)、0.5のギャップ・エクステンション・ペナルティ(gap extension penalty)、及びEBLOSUM62(BLOSUM62のEMBOSSバージョン)置換行列である。(−nobriefオプションを用いて得られる)Needle標識された「最長同一性(longest identity)」のアウトプットは、パーセント同一性として使用され、そして以下のように計算される:
(同一残基×100)/(アラインメントの長さ−アラインメントにおけるギャップの総数)
【0029】
本発明の目的のために、2つのデオキシリボヌクレオチド配列間の同一性度は、好ましくはバージョン3.0.0以降の、EMBOSSパッケージ(EMBOSS:The European Molecular Biology Open Software Suite,Rice et al,2000,同上;http://emboss.org)のNeedleプログラムに備わった、Needleman−Wunschアルゴリズム(Needleman and Wunsch,1970,同上)を用いて決定される。使用される任意のパラメータは、10のギャップ・オープン・ペナルティ、0.5のギャップ・エクステンション・ペナルティ、及びEDNAFULL(NCBI NUC4.4のEMBOSSバージョン)置換行列である。(−nobriefオプションを用いて得られる)Needle標識された「最長同一性」のアウトプットは、パーセント同一性として使用され、そして以下のように計算される:
(同一のデオキシリボヌクレオチド×100)/(アラインメントの長さ−アラインメント中のギャップ総数)
【0030】
単離されたポリペプチド:本明細書において使用される用語「単離されたバリアント」又は「単離されたポリペプチド」は、源から単離される、バリアント又はポリペプチドのことである。一の態様において、当該バリアント又はポリペプチドは、当該ポリペプチドは、SDS−PAGEで決定される通り、少なくとも1%純粋、好ましくは少なくとも5%純粋、より好ましくは少なくとも10%純粋、より好ましくは少なくとも20%純粋、より好ましくは少なくとも40%純粋、より好ましくは少なくとも60%純粋、さらにより好ましくは少なくとも80%純粋、そして最も好ましくは少なくとも90%純粋である。
【0031】
実質的に純粋なポリペプチド:本明細書において、用語「実質的に純粋なポリペプチド」は、天然又は組み換えに関連する他のポリペプチド材料を、最大10重量%、好ましくは最大8重量%、より好ましくは最大6重量%、より好ましくは最大5重量%、より好ましくは最大4重量%、より好ましくは最大3重量%、さらにより好ましくは最大2重量%、最も好ましくは最大1重量%、そしてより最も好ましくは最大0.5重量%含むポリペプチド調製物を示す。したがって、実質的に純粋なポリペプチドは、当該調製物中に存在する総ポリペプチド材料が少なくとも92重量%純粋、好ましくは少なくとも94重量%純粋、より好ましくは少なくとも95重量%純粋、より好ましくは少なくとも96重量%純粋、より好ましくは少なくとも97重量%純粋、より好ましくは少なくとも98重量%純粋、さらにより好ましくは少なくとも99重量%純粋、最も好ましくは少なくとも99.5重量%純粋、そしてさらに最も好ましくは100重量%純粋であることが好ましい。本発明のポリペプチドは、好ましくは実質的に純粋な形態で存在する。これは例えば、周知の組み換え法により、又は古典的な精製法により、当該ポリペプチドを精製することによって達成され得る。
【0032】
哺乳動物のベータ・ディフェンシン
本発明は、炎症性腸疾患、例えば潰瘍性大腸炎、及び/又はクローン病の治療における、哺乳動物のベータ・ディフェンシン、例えばヒト・ベータ・ディフェンシン及び/又はマウス・ベータ・ディフェンシンの医薬用途に関する。当該治療は、処置された組織におけるTNF−アルファ活性の減少に好ましくは関連する。
【発明を実施するための形態】
【0033】
一の実施形態において、本発明の哺乳動物のベータ・ディフェンシンは、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、及び/又は配列番号6のいずれかと少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、そして最も好ましくは少なくとも95%の同一性度を有する。好ましい実施形態において、本発明の哺乳動物のベータ・ディフェンシンは、配列番号1、配列番号2、配列番号3、及び/又は配列番号4のいずれかと少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、そして最も好ましくは少なくとも95%の同一性度を有する。より好ましい実施形態において、本発明の哺乳動物のベータ・ディフェンシンは、ヒト・ベータ・ディフェンシン1(配列番号1)、ヒト・ベータ・ディフェンシン2(配列番号2)、ヒト・ベータ・ディフェンシン3(配列番号3)、ヒト・ベータ・ディフェンシン4(配列番号4)、ヒト・ベータ・ディフェンシン4のバリアント(配列番号5)、及び/又はマウス・ベータ・ディフェンシン3(配列番号6)から成る。さらにより好ましい実施形態において、本発明の哺乳動物のベータ・ディフェンシンは、ヒト・ベータ・ディフェンシン1(配列番号1)、ヒト・ベータ・ディフェンシン2(配列番号2)、ヒト・ベータ・ディフェンシン3(配列番号3)、及び/又はヒト・ベータ・ディフェンシン4(配列番号4)から成る。
【0034】
別の実施形態において、本発明の哺乳動物のベータ・ディフェンシンは、配列番号2のアミノ酸配列と、少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、そして最も好ましくは少なくとも95%の同一性度を有する。好ましい実施形態において、本発明の哺乳動物のベータ・ディフェンシンは、ヒト・ベータ・ディフェンシン2(配列番号2)から成る。
【0035】
さらに別の実施形態において、本発明の哺乳動物のベータ・ディフェンシンは、ヒト・ベータ・ディフェンシン、及び/又はマウス・ベータ・ディフェンシン、並びに機能的に等価なそのバリアントから成る。好ましくは、哺乳動物のベータ・ディフェンシンは、ヒト・ベータ・ディフェンシン1、ヒト・ベータ・ディフェンシン2、ヒト・ベータ・ディフェンシン3、ヒト・ベータ・ディフェンシン4、及びマウス・ベータ・ディフェンシン3、並びに機能的に等価なそのバリアントから成る。より好ましくは、本発明の哺乳動物のベータ・ディフェンシンは、ヒト・ベータ・ディフェンシン2、及び機能的に等価なそのバリアントから成る。
【0036】
本発明の哺乳動物のベータ・ディフェンシンは、好ましい実施形態の化合物とも呼ばれる。
【0037】
本発明に関して、哺乳動物の(例えばヒトの)・ベータ・ディフェンシンの「機能的に等価なバリアント」は、炎症性腸疾患において、親の哺乳動物の(例えばヒトの)ベータ・ディフェンシンとほぼ同じ効果を示す、修飾された哺乳動物の(例えばヒトの)ベータ・ディフェンシンである。好ましくは、それはまた、TNF−アルファ活性において、哺乳動物の(例えばヒトの)ベータ・ディフェンシンとほぼ同一の効果を示す。
【0038】
本発明に従って、哺乳動物の(例えばヒトの)ベータ・ディフェンシンの機能的に等価なバリアントは、哺乳動物の(例えばヒトの)ベータ・ディフェンシンアミノ酸配列と比較して、1〜5個のアミノ酸修飾、好ましくは1〜4個のアミノ酸修飾、より好ましくは1〜3個のアミノ酸修飾、最も好ましくは1〜2個のアミノ酸修飾、及び特に1個のアミノ酸修飾を含み得る。
【0039】
本明細書において、用語「修飾」は、哺乳動物の(例えばヒトの)ベータ・ディフェンシンの任意の化学修飾を意味する。1又は2以上の修飾は、1又は2以上のアミノ酸の置換、欠失、及び/又は挿入、並びに1又は2以上のアミノ酸側鎖の交換;又は当該アミノ酸配列において類似の特性を有する非天然のアミノ酸の使用であり得る。特に、1又は2以上の修飾は、アミド化、例えばC末端のアミド化であり得る。
【0040】
好ましくは、アミノ酸の修飾は小さい性質のものであり、そしてそれは、ポリペプチドのフォールディング及び/又は活性に大きな影響を与えない保存的アミノ酸置換又は挿入;単一の欠失;小規模なアミノ末端又はカルボキシル末端の伸長;約20〜25残基までの小さいリンカーペプチド;又は正味電荷を変更することによって精製を容易にする小規模な伸長、或いは別の機能のもの、例えばポリ−ヒスチジンタグ、抗原性エピトープ、又は結合ドメインである。
【0041】
保存的置換の例は、塩基性アミノ酸(アルギニン、リシン、及びヒスチジン)、酸性アミノ酸(グルタミン酸及びアスパラギン酸)、極性アミノ酸(グルタミン及びアスパラギン)、疎水性アミノ酸(ロイシン、イソロイシン、及びバリン)、芳香族性アミノ酸(フェニルアラニン、トリプトファン及びチロシン)、並びに小さいアミノ酸(グリシン、アラニン、セリン、スレオニン、及びメチオニン)の群の内で存在する。特異的な活性を通常変更しないアミノ酸置換は、例えば、H.Neurath and R.L.Hill,1979,In,The Proteins,Academic Press,New Yorkに記載されている。最も一般的に生じる交換は、Ala/Ser、Val/Ile、Asp/Glu、Thr/Ser、Ala/Gly、Ala/Thr、Ser/Asn、Ala/Val、Ser/Gly、Tyr/Phe、Ala/Pro、Lys/Arg、Asp/Asn、Leu/Ile、Leu/Val、Ala/Glu、及びAsp/Glyである。
【0042】
20個の標準的アミノ酸に加えて、非標準的アミノ酸(例えば、4−ヒドロキシプロリン、6−N−メチルリシン、2−アミノイソ酪酸、イソバリン、及びアルファ−メチルセリン)は、野生型ポリペプチドのアミノ酸残基と置換され得る。限定された数の非保存的アミノ酸、遺伝子コードをコードしないアミノ酸、及び非天然アミノ酸は、アミノ酸残基と置換され得る。「非天然アミノ酸」は、タンパク質合成後に修飾され、及び/又は1又は2以上の側鎖において標準的アミノ酸のものとは異なる化学構造を有する。非天然のアミノ酸は、化学的に合成され得、そして好ましくは、市販されており、そしてピペコリン酸、チアゾリジンカルボン酸、デヒドロプロリン、3−及び4−メチルプロリン、並びに3,3−ジメチルプロリンを含む。
【0043】
哺乳動物のベータ・ディフェンシンにおける必須のアミノ酸は、当技術分野で既知の手順、例えば部位特異的変異誘発、又はアラニン走査変異誘発(alanine−scanning mutagenesis)(Cunningham and Wells,1989,Science 244:1081−1085)に従って同定され得る。後者の技術において、単一のアラニンの変異は分子内における全ての残基に導入され、そして生じた変異分子は、生物学的活性(すなわち、炎症性腸疾患に対する活性及び/又はTNF−アルファ活性の抑制)を試験され、当該分子の活性に重要なアミノ酸残基を同定する。Hilton et al.,1996,J.Biol.Chem.271:4699−4708も参照のこと。必須のアミノ酸の同一性は、哺乳動物のベータ・ディフェンシンに関連するポリペプチドとの同一性の分析からも推測され得る。
【0044】
単一の又は複数のアミノ酸の置換が、既知の方法の変異誘発、組み換え及び/又はシャッフリングを用いてなされ得、及び試験され得、その後、関連性スクリーニング手順、例えばReidhaar−Olson and Sauer,1988,Science 241:53−57;Bowie and Sauer,1989,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86:2152−2156;国際公開第95/17413号;又は国際公開第95/22625号に開示されたものが行われ得る。使用され得る他の方法は、エラー・プローンPCR、ファージ・ディスプレイ(例えば、Lowman et al.,1991,Biochem.30:10832−10837;米国特許第5,223,409号明細書;国際公開第92/06204号)、及び領域特異的突然変異誘発(region−directed mutagenesis)(Derbyshire et al.,1986,Gene 46:145;Ner et al.,1988,DNA 7:127)を含む。
【0045】
本発明のポリペプチドのN末端の伸長は好適には、1〜50個のアミノ酸、好ましくは2〜20個のアミノ酸、特に3〜15個のアミノ酸から成り得る。一の実施形態において、N末端ペプチドの伸長は、Arg(R)を含まない。別の実施形態において、N末端の伸長は、以下にさらに定義されるkex2又はkex2様切断部位を含む。好ましい実施形態において、N末端伸長は、少なくとも2つのGlu(E)及び/又はAsp(D)アミノ酸残基を含むペプチドであって、例えばN末端伸長は以下の配列の一つを含む:EAE、EE、DE及びDD。
【0046】
方法、及び用途
ヒト・ベータ・ディフェンシン2は、10日間デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)で誘導された大腸炎モデルマウスにおいて、疾患パラメーターの深刻度を著しく減少させ;したがって、炎症性腸疾患、例えば潰瘍性大腸炎及びクローン病の治療のための医薬として、強力な活性を示すことが判明した。
【0047】
本発明はしたがって、炎症性腸疾患の治療方法を提供し、当該治療は、有効量の哺乳動物のベータ・ディフェンシン、例えばヒト・ベータ・ディフェンシン2を、医薬組成物の形態で、当該治療を必要とする対象へ非経口投与することを含む。非経口投与のための医薬の製造のための、哺乳動物のベータ・ディフェンシン、例えばヒト・ベータ・ディフェンシン2がまた、提供され、及び、炎症性腸疾患の治療のための、非経口投与のための医薬、例えば医薬組成物の製造のための、哺乳動物のベータ・ディフェンシン、例えばヒト・ベータ・ディフェンシン2の使用がまた、提供される。治療は、存在する疾患又は障害の治療、及び疾患又は障害の予防(防止)を含む。
【0048】
実施形態において、当該治療は、治療がなされた組織におけるTNF−アルファ活性の減少をもたらし、好ましくはTNF−アルファ活性の減少、及びIL−10活性の増大をもたらす。
【0049】
哺乳動物のベータ・ディフェンシンは、経腸(例えば口腔、経口、経鼻、直腸)、非経口(例えば静脈内、頭蓋内、腹腔内、皮下、若しくは筋肉内)、又は局所(例えば、皮膚上、鼻腔内、若しくは気管内)を含む、任意の従来の経路による投与のために製剤化された組成物で、治療において使用され得る。他の実施形態において、本明細書に記載された組成物は、持続放出インプラントの一部として投与され得る。
【0050】
さらに他の実施形態において、好ましい実施形態の組成物は、凍結乾燥物としての安定性を提供する好適な賦形剤を用いて、凍結乾燥物として製剤化され得、その後に再水和される。
【0051】
哺乳動物のベータ・ディフェンシン、例えばヒト・ベータ・ディフェンシンを含む医薬組成物は、従来法に従って、例えば混合、整粒、被覆、溶解、又は凍結乾燥工程によって製剤化され得る。
【0052】
好ましい実施形態の医薬組成物は、哺乳動物のベータ・ディフェンシン、例えばヒト・ベータ・ディフェンシン、並びに医薬として許容される担体、及び/又は希釈剤を含む。
【0053】
哺乳動物のベータ・ディフェンシン、例えばヒト・ベータ・ディフェンシンは好ましくは、炎症性腸疾患における治療のために有効である量で、好ましくは患者において許容される毒性で、医薬組成物において使用される。かかる治療のために好適な投与量は当然、例えば、使用される本発明の化合物の化学的性質及び薬物動態データ、個々の宿主、投与様式、並びに処置される健康状態の性質及び深刻度によって変化し得る。しかし一般的に、大型哺乳動物、例えばヒトにおける満足な結果のために、望ましい一日用量は、好ましくは約0.001g〜約1.5g、より好ましくは約0.01g〜1.0g;又は約0.001mg/kg体重〜約20mg/kg体重、好ましくは約0.01mg/kg体重〜約20mg/kg体重、より好ましくは約0.1mg/kg体重〜約10mg/kg体重であり、例えば、1日に1回、2回、3回、又は4回の分割量で投与される。好ましい実施形態の化合物は、大型哺乳動物、例えばヒトへ、従来使用されているものと同様の投与様式で、同様の投与量で投与され得る。
【0054】
特定の実施形態において、好ましい実施形態の医薬組成物は、哺乳動物のベータ・ディフェンシン、例えばヒト・ベータ・ディフェンシンを、投与経路に依存して、単位剤形につき、約0.5mg以下〜約1500mg以上の量で含み得、そしてそれは、好ましくは約0.5、0.6、0.7、0.8、又は0.9mg〜約150、200、250、300、350、400、450、500、600、700、800、900、又は1000mgで、及びより好ましくは約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、又は25mg〜約30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、又は100mgで含み得る。しかし、特定の実施形態において、上記のものより低い又は高い投与量が好ましいものであり得る。好適な濃度及び投与量は、当業者によって容易に決定され得る。
【0055】
医薬として許容される担体及び/又は希釈剤は、当業者に既知である。液体溶液として製剤化された組成物に関して、許容される担体及び/又は希釈剤は、生理食塩水及び滅菌水を含み、並びに場合により抗酸化剤、緩衝剤、静菌剤、及び他の一般的な添加剤を含み得る。当該組成物はまた、丸剤、カプセル、顆粒、タブレット(被覆された、又は被覆されていない)、(注射可能)溶液、固溶体、懸濁液、分散液、固体分散体(例えばアンプル、バイアル、クリーム、ゲル、ペースト、吸入製剤、粉末、フォーム、チンキ剤、リップスティック、ドロップ、スプレー、又は坐剤の形態)として、製剤化され得る。当該製剤は、(哺乳動物のベータ・ディフェンシン、及び他の追加の活性成分に加えて、)担体、賦形剤、砕解剤、フロー・コンディショナー(flow conditioner)、糖類及び甘味剤、香料、保存剤、安定剤、湿潤剤、乳化剤、可溶化剤、浸透圧調節用の塩、緩衝剤、希釈剤、分散剤及び界面活性剤、結合剤、滑剤、並びに/又は当技術分野で既知の他の医薬用賦形剤を含み得る。当業者はさらに、好適な方法で、及び慣例に従って、例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences,Gennaro,Ed.,Mack Publishing Co.,Easton,PA 1990に記載された方法で、哺乳動物のベータ・ディフェンシンをさらに製剤化し得る。
【0056】
哺乳動物のベータ・ディフェンシン、例えばヒト・ベータ・ディフェンシンは、単剤で、又は1、2若しくは3以上の他の医薬化合物若しくは薬剤物質を用いた併用療法で、及び/又は1若しくは2以上の医薬として許容される賦形剤と共に使用され得る。
【0057】
イン・ビトロにおける合成
哺乳動物のベータ・ディフェンシンは、当技術分野で既知の従来法を用いて、イン・ビトロにおける合成によって製造され得る。種々の市販の合成装置が利用可能であり、例えばApplied Biosystems Inc.、Beckman Inc.などの自動合成機がある。合成機を用いることによって、天然に存在するアミノ酸は、非天然のアミノ酸、特にD−異性体(又はD体)、例えばD−アラニン、及びD−イソロイシン、側鎖が異なる長さ又は官能基を有するジアステレオマーなどと置換され得る。特定の配列及び製造方法は、簡便性、経済性、必要とされる純度などによって決定され得る。
【0058】
結合のために好都合な官能基、例えば、アミドのための、又は置換アミン形成、例えば還元的アミノ化のためのアミノ基、チオエーテル又はジスルフィド形成のためのチオール基、アミド形成のためのカルボキシル基などを含む種々のペプチド又はタンパク質に、化学結合が提供され得る。
【0059】
必要に応じて、種々の基が、合成中又は発現中にペプチドへと導入され得、そしてそれらは、他の分子又は表面への結合を可能とする。したがって、システインは、チオエーテルを製造するために使用され得、ヒスチジンは、金属イオン錯体と結合するために使用され得、カルボキシル基はアミド又はエステルを形成するために使用され得、アミノ基はアミドなどを形成するために使用され得る。
【0060】
哺乳動物のベータ・ディフェンシン、又はその機能的等価体はまた、組み換え合成の従来法に従って、単離され且つ精製され得る。溶解物は、発現宿主から調製され得、そして当該溶解物は、HPLC、排除クロマトグラフィー、ゲル電気泳動、アフィニティー・クロマトグラフィー、又は他の精製技術を用いて精製され得る。
【0061】
本発明は、本発明の範囲を限定するものであるとして解釈されるべきではない、以下の実施例によってさらに説明される。
【実施例】
【0062】
実施例
hBD2の免疫調節効果に関する試験を通じて、hBD2が、抗炎症性における大きな潜在力を有することが予想外にも観察された。
【0063】
本明細書において、我々は、hBD2が、マウスへデキストラン硫酸ナトリウム(DDS)を経口投与することによって誘導された炎症性腸疾患(結腸炎)の治療に大きな効果があることを示した。我々はまた、hBD2が、TNF−アルファに対する下方制御潜在力を有することを示した。
【0064】
実施例1
ヒト・ベータ・ディフェンシン2(hBD2)の産生
hBD2を組み換えで産生した。hBD2をコードする合成DNA断片(DNA2.0)を、pET−32(+)発現ベクター(Novagen)へとクローン化した。生じたプラスミドは、N末端チオレドキシン部位、その後にhis−タグ、エンテロキナーゼ切断部位、及び最後にhBD2ペプチドを含む、翻訳用融合ペプチドをコードした。発現プラスミドを、E.coli株BL21へと形質転換した。
【0065】
この株の一晩培養物を、100μg/mlのアンピシリンを含有するTB−グリセロールで100倍に希釈し、そして37℃にて約8のOD600となるように増殖させ、そして0.5mMのIPTGで3時間誘導し、その後細胞を遠心分離で採取した。his−タグされたtrx−hBD2融合ペプチドを、標準的手順を用いて、Ni−NTAビーズ(QIAGEN)上で精製した。his−タグ精製された融合ペプチドをその後、エンテロキナーゼ緩衝液(50mM tris−HCl pH7.5,1mM CaCl2)中にて一晩透析し、そしてエンテロキナーゼで切断して成熟hBD2を放出した。hBD2ペプチドを、Source 15S matrix(Amersham Biosciences)を用いた陽イオン交換クロマトグラフィーによってさらに精製した。hBD2の正確な分子量を、MALDI−TOF質量分析を用いて確認した。
【0066】
mBD3(実施例7参照)の産生を、同一の手順を用いて行った。
【0067】
hBD2の適切なフォールディング及びジスルフィド架橋形態をその後、LC−MS及びNMR分光法と連動したトリプシン消化を用いて確認した。
【0068】
エンドトキシンを分取RP−HPLCによって低pHにて除去し、そしてエンドトキシンの含有量をLALアッセイ(Endosafe KTA2)によって決定し、そして当該レベルは、当該アッセイの検出限界(0.05EU/mg)未満であることが分かった。エンドトキシンアッセイの検出限界未満のレベルが、PBMCを刺激することができないことを確定するために、非常に強力なリポ多糖(E.coli,O111:B4,Sigma L4391)を用いた刺激の滴定曲線を行った。非常に低レベルのこのLPS(0.06ng/ml)は、検出可能なサイトカイン産生へとPBMCを刺激することができた。
【0069】
実施例2
10日間デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)で誘導された結腸炎マウスモデル
以下の試験の目的は、マウスへデキストラン硫酸ナトリウム(DSS)を投与することによって誘導された、炎症性腸疾患(結腸炎)の急性(10日間)モデルにおける、ヒト・ベータ・ディフェンシン2の抗炎症活性を決定することであった。
【0070】
Kawada et al.「Insights from advances in research of chemically induced experimental models of human inflammatory bowel disease」,World J.Gastroenterol.,Vol.13(42),pp.5581−5593(2007);及び、Wirtz and Neurath「Mouse models of inflammatory bowel disease」,Advanced Drug Delivery Reviews,Vol.59(11),1073−1083(2007)に記載されている通り、DSS結腸炎マウスモデルは、炎症性腸疾患の試験のための、十分に認識されているモデルである。
【0071】
材料
試験品目
ヒト・ベータ・ディフェンシン2(hBD2);上の実施例1を参照
メチルプレドニゾロン21−ヘミサクシネート(「プレドニゾロン」)
PBS緩衝液(GIBCO)
【0072】
実験動物
雄のC57BL/6マウス(Harlan lnterfauna Iberica,Barcelona,Spain)を試験で使用した。これが、2%DDSの飲料水溶液を10日間投与したときに、結腸の著しい炎症を引き起こすことが実証されている種及び性別であるためである。
【0073】
識別
尾に書かれた数字及び文字コードで動物を識別した。さらに、動物の数及び性別、試験品目又は名前、投与量レベル、投与経路、処置期間、グルーブ番号、試験コード、及び試験監督者の名前を表示した、色コードされたカードによって各々のケージを識別した。
【0074】
体重
試験開始日における動物の平均体重は22.4±0.16gであった。
【0075】
順応(隔離所)
試験開始前最低7日間、主要な試験と同じ条件下に置いた。
【0076】
収容
到着時、動物を分けて、ステンレス製の蓋を有するポリカーボネート製のケージ(E−Type,Charles River,255×405×197mm)にランダムに収容した。
【0077】
動物は、性別に従って、1ケージあたり5匹の動物のグループで収容され、動物の部屋内は、調節された温度(22±2℃)、照明(12/12時間の光/暗闇)、空気圧、空気の入れ替え数、及び相対湿度(30〜70%)であった。
【0078】
全てのケージは、敷物として床上におがくず(Lignocel3−4;Harlan Interfauna Iberica,Spain)を有した。
【0079】
食餌及び水
全てのマウスは、乾燥したペレット型の標準的齧歯動物用の食餌(Teklad Global 2014;Harlan lnterfauna Iberica,Spain)を自由に食べることができた。
【0080】
水はボトル中で自由に提供された。動物の部屋へのタップ水供給は、その組成を確認するために、及び可能のある汚染物質(化学物質及び微生物性のもの)を検出するために、定期的に分析された。
【0081】
装置及び材料
装置
・動物はかり、Sartorius Mod.BP2100
・外科的解剖装置
・Eppendorf 5415C遠心分離機
・Nikon Eclipse E600FN顕微鏡
・Hook&Tucker instruments rotamixer
・IKA UltraTurraxホモジナイザー
・Sartorius Mod.BP221S化学天秤
・ELISAマイクロプレート・リーダーLabsystems Multiskan EX
材料及び試薬:
・滅菌使い捨てシリンジ(1ml)
・滅菌Butterfly25G輸液セット
・麻酔剤(ケタミン/キシラジン)
・局所麻酔用クリーム(EMLA,Astra Zeneca)
・デキストラン硫酸ナトリウム30.000〜50.000Da(MP Biomedicals)
・リン酸緩衝生理食塩水(PBS;Sigma)
・中性緩衝ホルマリン(VWR)
・ウシ血清アルブミン(Sigma)
・プロテアーゼ阻害剤カクテル(Sigma)
・マウスTNF−αELISAキット(GE Healthcare)
【0082】
実験手順
試験設計
動物を5つの実験グループへと分けた。各々のグループは、10匹のオスから成った:
グループA:コントロール・ビヒクル(PBS)、i.v.で処理
グループB:hBD2(0.1mg/kg i.v.)で処理
グループC:hBD2(1mg/kg i.v.)で処理
グループD:hBD2(10mg/kg i.v.)で処理
グループE:メチルプレドニゾロン(1mg/kg p.o.)で処理
【0083】
全実験グループへの動物の割り当てをランダムに行った。(指令86/609/EECに従って、)最大で5匹のマウスを各々のケージに収容した。試験品目の投与に先立ち、全ての動物について、研究所に到着時に体重を測定した。
【0084】
試験物質の投与
コントロール・ビヒクル及びhBD2を、滅菌針(25G)を用いて、尾の静脈を通じて静脈内に、投与量5ml/kg体重でゆっくりとボーラス投与した。動物は、対応する試験品目(hBD2、プレドニゾロン、又はコントロール・ビヒクル)の一回投与量を、毎日(24時間毎に)、10日間連続して受けた。
【0085】
プレドニゾロンは、hBD2と同一の投与計画で、1mg/kg体重の投与量で、5ml/kg体重の投与体積で経口投与された。
【0086】
実験手順
結腸炎の誘導
DDS2%含有飲料水を7日間補給することによって、結腸炎をマウスで誘導した。
【0087】
1日目に全てのマウスの体重を測定し、実験グループに従って印をつけた。各々のケージの飲料容器をDDS溶液で満たし、全ての容器の蓋が適切に取り付けられていること、及び過度に詰め込まれていないことを確認した。
【0088】
3日目に容器中に残存する溶液を空にし、そして再度新鮮なDSS溶液で満たした。この手順を5日目に再び繰り返した。
【0089】
8日目に、残存する溶液を捨て、そしてオートクレーブされた水と置換した。2日経過後の10日目に、動物を屠殺した。
【0090】
臨床的評価(疾患活動性インデックス)
以下のパラメーターに従って、0〜4の範囲で、有効な臨床疾患活性インデックス(DAI)の計算を行い、DSS処理された動物の毎日の臨床的評価を行った:便の硬さ、直腸出血の存在、又は不在、及び体重減少:
【0091】
【表1】

【0092】
体重減少を、元の体重(1日目)と各々の実験日(2日目〜10日目)における体重との間のパーセント差としてとして計算した。
【0093】
下痢の外観は、肛門に着いた粘液/糞便物質として定義された。直腸出血は、目に見える血/粘液、又は直腸全体の出血を含む、下痢として定義された。各々の日における、DAIの最大スコアは12である。
【0094】
血液採取
試験期間中における2つの離れた時期:1日目と5日目において、2つの血液試料を各々の動物から得た。血液試料を各々の時期において、試験品目の投与後2時間で、伏在静脈の穿刺によってMicrovette CB−300ミクロチューブに採った。この血液採取法は、麻酔剤又は鎮痛剤を必要とせず、そして動物に最小限のストレスを与える(Hem et al.,1998)。さらに、試験の最終日において、試験品目投与後2時間で、全ての動物から最終的な血液試料を、腹部大静脈から得た。
【0095】
血液試料を凝固し、その後3000rpmで10分間遠心分離し、そして血清を−80℃で貯蔵のために凍結した。
【0096】
安楽死及び結腸試料の回収
10日目において、コントロール・ビヒクル、hBD2又はプレドニゾロンの最後の投与後2時間で、動物を過剰量の麻酔剤で殺した。それらの結腸を取り除き、そして盲腸の除去後、それらの長さ及び重量を測定した。
【0097】
結腸の2つの切片(近位部及び遠位部)を各々の動物から取り除き、そして以下のスコアリング・システムに従う、その後の組織学分析(ヘマトキシリン及びエオシン染色)のために、中性緩衝ホルマリンで保存した:
【0098】
【表2】

【0099】
結腸組織試料におけるTNF−アルファ濃度の決定
結腸の追加の試料を各々の動物から得、そして1%ウシ血清アルブミン(BSA)及びプロテアーゼ阻害剤カクテル(1ml/20g組織)含有PBS(100mg組織/ml PBS)中でホモジナイズした。ホモジネートをその後、1400rpmで10分間遠心分離し、そして上清を、特異的酵素免疫アッセイ(ELISA)による、その後のTNF−α濃度の決定のために、−20℃で貯蔵した。
【0100】
結果
疾患活動性インデックス・スコア
表1.1日目〜10日目における疾患活動性インデックス(DAI)スコアの経過。所定の日におけるコントロール(ビヒクル)グループからの有意差を、*p<0.05;**p<0.01(非母数データのためのクラスカル・ワリス検定(Kruskal−Wallis Test))として示す。
【0101】
【表3】

【0102】
組織学評価
結腸の2つの切片(近位部及び遠位部)を各々の動物から取り除き、組織学分析(ヘマトキシリン及びエオシン染色)を行い、そして上記のスコアリング・システムに従って盲検化観察者によってスコアリングした。
【0103】
結腸組織試料におけるTNF−α濃度の決定
結腸の追加の試料を各々の動物から得、そして1%ウシ血清アルブミン(BSA)及びプロテアーゼ阻害剤カクテル(1ml/20g組織)含有PBS(100mg組織/ml PBS)中でホモジナイズした。ホモジネートをその後、14000rpmで10分間遠心分離し、そして上清を、特異的酵素免疫アッセイ(ELISA)による、その後のTNF−α濃度の決定のために、−20℃で貯蔵した。
【0104】
表3.組織学スコア、結腸の重量及び長さ、並びに結腸のTNF−α濃度。コントロール(ビヒクル)グループからの組織学スコアにおける差を*p<0.05;**p<0.01(非母数データのためのクラスカル・ワリス検定(Kruskal−Wallis Test))として示す。
【0105】
【表4】

【0106】
統計学的分析
結果の統計的有意性を、統計プログラムGraphpad Instat3を用いて評価した。疾患活動性インデックスと組織学スコアとの間の差を、対応のないデータのためのクラスカル・ワリス検定、及び多重比較を可能とするためのDun事後検定によって評価した。p<0.05の値を有意とした。
【0107】
結論
試験された最低投与量(0.1mg/kg i.v.)のhBD2は、DDS投与によって誘導された疾患活動性インデックスにおける増加を、7日目(1.44±0.38試験品目vs.4.1±0.69ビヒクル;p<0.01)、8日目(2.11±0.2試験品目vs.5.9±1.26ビヒクル;p<0.05)、9日目(3.89±0.35試験品目vs.8.9±1.02ビヒクル;p<0.01)及び10日目(6.44±0.85試験品目vs.10.9±0.62試験品目;p<0.05)において、有意に減少させることを実証した。
【0108】
hBD2の中等度の投与量(1mg/kg i.v.)で連続10日間処置することにより、疾患活動性インデックス・スコアが明らかに減少したが、これは10日目においてのみ有意であった(6.44±1.08試験品目vs.10.9±0.62ビヒクル;p<0.05)。
【0109】
10日目における疾患活動性インデックスで得られた結果と同様に、各々の動物の近位結腸の組織学分析は、hBD2の低用量での処理によって、組織学的損傷スコアが非常に有意に減少することを明らかとした(2.22±0.43試験品目vs.4.2±0.25ビヒクル;p<0.01)。さらに、組織学的損傷の有意な減少はまた、中等度用量のhBD2、高用量のhBD2、及びプレドニゾロンを用いた場合に観察された(各々、2.89±0.35;2.89±0.39及び2.8±0.5;p<0.05)。対照的に、遠位結腸において、組織学的損傷の明らかな減少が低用量のhBD2、中等度用量のhBD2、及びプレドニゾロンで処理された動物で観察されたが、これは統計学的に有意ではなかった。高用量のhBD2で処理された動物において、減少は観察されなかった。同様に、低用量、及び中等度用量のhBD2を用いた処理により、結腸のTNF−アルファレベルが明らかに減少したが、この明らかな減少は統計的に有意ではなかった。
【0110】
本試験で得られた結果は、10日間の処理期間後、マウスにおいて誘導されたDDS結腸炎モデルにおける、hBD2の抗炎症活性を実証している。しかし、この抗炎症活性は、より低用量のhBD2(0.1mg/kg/日i.v.)が使用されたときにより顕著であり、そして本試験で使用された最高用量(10mg/kg/日i.v.)まで、投与量を増大するにつれて徐々に失われるように思われる。さらに、hBD2の最低用量の抗炎症効果は、1mg/kg/日p.o.でのプレドニゾロンにおける効果と同等か、又はそれよりもさらに大きい(例えば組織学スコア)。
【0111】
実施例3
10日間デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)で誘導された結腸炎マウスモデル
基本的に実施例2に記載された通りに、実施例3を行った。違いを以下に示す。
【0112】
体重
試験開始日における動物の平均体重は19.74±0.09g(平均±SEM)であった。
【0113】
試験設計
動物を5つの実験グループへと分けた。各々のグループは、10匹のオスから成った:
グループA:コントロール・ビヒクル(PBS)、i.v.で処理
グループB:hBD2(1mg/kg i.v.)で処理−1日1回
グループC:hBD2(0.1mg/kg i.v.)で処理−1日1回
グループD:hBD2(0.01mg/kg i.v.)で処理−1日1回
グループE:hBD2(0.001mg/kg i.v.)で処理−1日1回
グループF:hBD2(0.1mg/kg i.v.+s.c.)で処理−1日2回
グループG:hBD2(0.1mg/kg i.v.)で処理−2日毎
グループH:メチルプレドニゾロン(1mg/kg p.o.)で処理
グループJ:メチルプレドニゾロン(10mg/kg p.o.)で処理
【0114】
全実験グループへの動物の割り当てをランダムに行った。(指令86/609/EECに従って、)最大で5匹のマウスを各々のケージに収容した。試験化合物及びレファレンス化合物の投与に先立ち、全ての動物は、研究所に到着時に体重を測定された。
【0115】
試験品目の投与
コントロール・ビヒクル及びhBD2を、滅菌針(25G)を用いて、尾の静脈を通じて静脈内に、投与量5ml/kg体重でゆっくりと(15秒かけて)ボーラス投与した。
【0116】
グループA〜Eの動物は、対応する試験品目(hBD2、プレドニゾロン、又はコントロール・ビヒクル)の一回投与量を、毎日(24時間毎に)、10日間連続して受けた。
【0117】
グループFの動物は、対応する試験品目の一回投与量をi.v.で、及び別の投与量を(i.v.投与後12時間で)s.c.で、10日間連続して受けた。
【0118】
グループGの動物は、対応する試験品目の一回投与量を2日毎に、10日間連続して受けた。
【0119】
メチルプレドニゾロンは、1mg/kg(グループH)及び10mg/kg(グループJ)の投与量で、5ml/kg体重の投与体積で、1日1回、10日間連続して経口投与された。
【0120】
血液採取
試験の最終日において、試験品目投与後2時間で、全ての動物から最終的な血液試料を、腹部大静脈から得た。
【0121】
血液試料を凝固し、その後3000rpmで10分間遠心分離し、そして得られた血清をその後の分析のために−80℃で凍結した。
【0122】
結果
疾患活動性インデックス・スコア
表4.1日目〜10日目における疾患活動性インデックス(DAI)スコアの経過。所定の日におけるコントロール(ビヒクル)グループからの有意差を*p<0.05;**p<0.01(非母数データのためのクラスカル・ワリス検定(Kruskal−Wallis Test))として示す。6日目〜10日目を次のページに示す。
【0123】
【表5】

【0124】
【表6】

【0125】
組織学評価
結腸の2つの切片(近位部及び遠位部)を各々の動物から取り除き、組織学分析(ヘマトキシリン及びエオシン染色)を行い、そして上記のスコアリング・システムに従って盲検化観察者によってスコアリングした。
【0126】
表5.組織学スコア、結腸の重量及び長さ、並びに結腸のTNF−α濃度。コントロール(ビヒクル)グループの値からの組織学スコアにおける差を*p<0.05;**p<0.01(非母数データのためのクラスカル・ワリス検定(Kruskal−Wallis Test))として示す。
【0127】
【表7】

【0128】
統計学的分析
結果の統計的有意性を、統計プログラムGraphpad Instat3を用いて評価した。疾患活動性インデックスと組織学スコアとの間の差を、対応のないデータのためのクラスカル・ワリス検定、及び多重比較のためのDun事後検定によって評価した。p<0.05の値を有意とした。上の表において、対応するコントロール(ビヒクル)グループに対する有意差を*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001として表示する。
【0129】
結果
本試験の目的は、マウスへのデキストラン硫酸ナトリウム(DDS、2%)経口投与によって誘導された炎症性腸疾患(結腸炎)の急性(10日間)モデルにおける、hBD2の抗炎症活性を決定することであった。
【0130】
本試験において得られた結果は、10日間の処置期間後、マウスにおいて誘導されたDDS結腸炎モデルにおける、hBD2の抗炎症活性をさらに実証している。
【0131】
この抗炎症活性は、1日2回(12時間毎)の、静脈内投与及び皮下投与の両方で、0.1mg/kgの投与量での、hBD2の投与後においてより顕著であり得る。さらに、このhBD2の投与量で観察された抗炎症効果は、プレドニゾロンを1mg/kg又は10mg/kgの用量で経口投与したときの効果と同等又はさらに大きかった(疾患活動性インデックス及び組織学的スコアの両方)。
【0132】
実施例4
ヒト・ベータ・ディフェンシン2(hBD2)の抗炎症活性
ヒトPBMC培養中において、hBD2を用いた処置が、LPS、LTA又はペプチドグリカン刺激された培養のサイトカイン・プロファイルにおいて大きな影響を有することが観察された。hBD2が炎症性サイトカイン、並びに、ケモカインIL−6、IL−1β、RANTES、IP−10及びIL−8を誘導することができることは以前に観察されている(Niyonsaba et al.2007,Boniotto M.et al.2006)。
【0133】
本明細書において我々は、hBD2が2つの炎症性サイトカイン、TNF及びIL−1βに対する下方制御潜在力を有することを、そしてhBD2がまた、リポポリ多糖(LPS)、リポタイコ酸(LTA)、又はペプチドグリカン(PGN)を用いた炎症性刺激時において、IL−10を誘導することを示した。IL−10は、潜在的な抗炎症性サイトカインであり、したがって、hBD2のもたらす効果は抗炎症性である。これは、ヒトPBMC、単球細胞株、及び樹状細胞株(dendritoid cell line)において観察された。
【0134】
hBD2は、実施例1に記載された通りに調製された。
【0135】
PBMCの単離及び刺激
(デンマークの関連倫理委員会から認定されている)健常者から末梢血を採取した。ヘパリン添加血液をRPMIで1/1(v/v)で希釈し、そして2時間以内のFicoll密度遠心にかけた。血漿を個々のドナーの上清から回収し、そしてそれが培養培地(自家培養培地)中2%で使用されるまで、氷上で保存した。単離されたPBMCを自家培養培地中で再度懸濁し、そして96ウェル培養プレートに、1ウェルあたり255.000個の細胞で、全体で200μlとなるようにまいた。100、10、又は1μg/mlのhBD2を、それ単体で、或いは、0.6ng/ml若しくは20ng/ml(E.coli,O111:B4,Sigma L4391)のLPS、1.25μg/mlのリポタイコ酸(LTA)(B.サブチリス(subtilis)由来,Sigma L3265)、又は40μg/mlのペプチドグリカン(PGN)(S.アウレウス(aureus)由来,Sigma 77140)と共に用いて、同一ドナー由来のPBMCを刺激した。刺激のために使用される濃度は、実験初期に3人の異なるドナーにおいて最適化され、LPSに関しては、2つの異なる濃度が使用されて、調節可能なサイトカインレベル上にあることを確実なものとした。幾つかの実験において、デキサメサゾン及びインドメタシンを、単剤で、及び炎症性サイトカインの下方制御のコントロールとしてのLPS又はLTAを共に用いてPBMCを処置した。37℃で24時間のインキュベーション後に上清を回収し、そしてサイトカインの測定まで−80℃で貯蔵した。全ての実験において生存率をAlamar Blue(Biosource,DALL1100)によって測定し、そして幾つかの場合においてはMTS(Promega)によって製造業者の使用説明に従って測定し、そして幾つかの実験において、Nucleocounterによって細胞数をカウントすることによって判断した。
【0136】
MUTZ−3の培養及び刺激
ヒト骨髄性白血病由来の細胞株MUTZ−3(DSMZ,Braunschweig,Germany)を、a−MEM(Sigma M4526)中で維持し、20%[v/v]ウシ胎仔血清(Sigma F6178)、及び40ng/ml rhGM−CSF(R&D Systems 215−GM−050)を追加した。これらの前駆細胞は以下に示す単球細胞株中に存在し、そしてこれらの単球を、100、10又は1μg/mlのhBD2を、単剤で、又はLPS若しくはLTAと共に用いて刺激した。
【0137】
樹状細胞の分化
樹状細胞株を生じさせるために、rhGM−CSF(150ng/ml)及びrhlL−4(50ng/ml)の存在下で、ヒト骨髄性白血病細胞株MUTZ−3(1×105細胞/ml)を、7日間かけて分化させて未熟DCとした。2〜3日毎に培地を交換した。分化された細胞株を、LPS又はLTAのいずれかを用いて、hBD2の存在下で及び不在下でさらに刺激して、樹状細胞におけるhBD2の効果を調べた。
【0138】
サイトカインの測定
上清中におけるサイトカイン産生を、FACSアレイ・フローサイトメーター上で、ヒト炎症サイトメトリック・ビーズ・アレイ(CBA)を用いたフローサイトメトリーによって、製造業者の使用説明(BD)に従って測定した。以下のサイトカインを測定した:IL−8、IL−1β、IL−10、TNF、IL−12p70、IL−6。幾つかの実験において、R&D systemsのELISAキット(IL−10、TNF−α、IL−1β)によって、製造業者の使用説明に従って、サイトカインを測定した。
【0139】
データ分析
代表的結果が示されるように、全ての実験を少なくとも2回行った。得られたデータを、平均±標準偏差(SD)として表現した。表の説明文に記載されたように、変数が処置(hBD2、デキサメサゾンなど)及び刺激(LPS、LTA、ペプチドグリカンなど)である2−way ANOVAを行い、その後、Bonferroni事後検定を行うことによって統計的有意性を決定した。差は、p<0.05で有意であると見なされた。
【0140】
結果
LPS及びLTAで、処理された及び無処理のヒトPBMCで、hBD2の効果を試験した(表6、7及び8)。hBD2を用いた処理により、全3つの試験された濃度に関して、刺激された培養においてTNFの有意な下方制御がなされ(表6)、当該下方制御は、0.6ng/mlのLPSに関して、及びLTAに関して用量依存的であった。IL−1βに関して、主に最高用量で下方制御が観察された(表7)。興味深いことに、IL−10は有意に且つ用量依存的に上方制御された(表8)。炎症性サイトカインの下方制御、及び抗炎症性サイトカインの誘導は、hBD2の非常に強い抗炎症潜在力を示す。hBD2の抗炎症効果が細胞毒性効果によるものであることを排除するために、生存率を2つの異なるアッセイで測定した。hBD2は、細胞において細胞毒性を有さず、観察される効果は、細胞増殖をもたらす、LPS又はLTAの刺激による刺激効果であることが、表9及び10において見られる。したがって、hBD2は、これらの細胞において細胞毒性効果を有さない。
【0141】
表11、12及び13において、別のドナーからの上清は、フローサイトメトリーによるサイトメトリック・ビーズ・アッセイの代わりに、ELISAによって、サイトカインに関して分析され、同一のことが観察されたが、アッセイの感度がより低く、そして検出限界が非常により高いため、当該効果が有意なものではなかった。
【0142】
さらに別のToll様受容体リガンドを試験するために、ペプチドグリカンで刺激されたPBMCにおけるhBD2の効果が調べられた(表14及び15)。同一のことが観察された:TNFは用量依存的に下方制御され、そしてIL−10は用量依存的に誘導された。
【0143】
TNFの下方制御のポジティブ・コントロールとして、2つの抗炎症性化合物、デキサメタゾン及びインドメタシンを、アッセイにおいて試験した。当該化合物が毒性ではなく、且つ培地への溶解性のために達成可能な濃度であるように、濃度は選択された。LTAを用いた刺激後にのみ、インドメタシンはTNFを阻害したが(表16)、デキサメタゾンは、TNF産生を効果的に下方制御し、同一のことがIL−1βに関して観察された(表18)。インドメタシンは、COX−1及びCOX−2阻害剤であり、軽度〜中等度の痛みを治療するために使用される非ステロイド系抗炎症剤であり、関節炎症状を緩和するために有用であり、並びにデキサメタゾンは炎症性疾患の治療において第一に使用される合成グルココルチコイドであり、そしてそれは、非常に低用量で、炎症性サイトカインに対して非常に強力な下方制御効果を有し(Rowland et al.1998)、そしてそれを我々は、TNF−α及びIL−1βに関しても観察した。hBD2は、2つの抗炎症性化合物と同じくらい、またはそれらよりも効果的であった。
【0144】
表19及び20において、単球細胞株、及び樹状細胞においてTNFを下方制御する、hBD2の効果が示され、同じことがPBMCに関して観察された。IL−10はまた、hBD2且つLPS、又はhBD2且つLTAで刺激された樹状細胞に関して誘導された(結果は示さず)。
【0145】
LPS又はLTAへのhBD2の結合がTNF及びIL−1βの下方制御を引き起こすことを排除するために、合成リガンド(Pam3CSK4(TLR2−TLR1リガンド),InvivoGen tlrt−pms)を用いたPMBCの刺激に対するhBD2の効果を試験した。このリガンドを用いた刺激後においても、hBD2は下方制御することができ、このことは、LPS又はLTAの中和が、観察される効果に関与しないことを示している(結果は示さず)。さらに、TNF−α及びIL−αを含有するサイトカイン・カクテル、並びにhBD2を用いた樹状細胞の刺激は、サイトカイン・カクテル単体を用いた刺激と比較して、IL−1β、及びIL−8、及びIL−6の下方制御効果を有した。TNF−αを用いた刺激のために、TNFに対する効果を明白に分析することができなかった(結果を示さず)。
【0146】
表6.LPS又はLTAを用いた、hBD2を用いた及び用いない処置後における、ヒト末梢血単核細胞(PBMC)からのTNF産生。全ての試料は同一のドナーで試験された。5人のドナーからの代表的実験。TNFはFACSアレイ上でのサイトメトリック・ビーズ・アレイ(CBA)によって測定された。***p<0.001、各々のコントロール(太字)と比較、2−way ANOVAによって分析(各々のデータ・セットに関してN=約200)。
【0147】
【表8】

【0148】
表7.LPS又はLTAを用いた、hBD2を用いた及び用いない処置後における、ヒト末梢血単核細胞(PBMC)からのIL−1β産生。全ての試料は同一のドナーで試験された。5人のドナーからの代表的実験。IL−1βはFACSアレイ上でのサイトメトリック・ビーズ・アレイ(CBA)によって測定された。***p<0.001、2−way ANOVAによって分析(各々のデータ・セットに関してN=約200)。
【0149】
【表9】

【0150】
表8.LPS又はLTAを用いた、hBD2を用いた及び用いない処置後における、ヒト末梢血単核細胞(PBMC)からのIL−10産生。全ての試料は同一のドナーで試験された。5人のドナーからの代表的実験。IL−10はFACSアレイ上でのサイトメトリック・ビーズ・アレイ(CBA)によって測定された。***p<0.001,**p<0.01,*p<0.5、2−way ANOVAによって分析(各々のデータ・セットに関してN=約200)。
【0151】
【表10】

【0152】
表9.MTSアッセイによって測定された、刺激の24時間後におけるPBMC生存率。横列中、異なる下付き文字を有する値は有意差があり、2−way ANOVA、その後Bonferroni事後検定を行うことで検定された。
【0153】
【表11】

【0154】
表10.Alamar Blueによって測定されたPBMC生存率、5人の異なるドナーからの、5つの実験からの、1つの代表的実験。横列中異なる上付き文字を有する値、及び縦列中異なる上付き文字を有する値は有意差があり、2−way ANOVA、その後Bonferroni事後検定を行うことで検定された。
【0155】
【表12】

【0156】
表11.hBD2、LTA、LPS又はそれらの組み合わせを用いた刺激後における、PBMCからのTNF−アルファ分泌。TNF−アルファはELISAによって測定された。nd:検出不能、アッセイにおける検出限界0.01ng/ml、*p<0.05、各々のコントロールと比較;**p<0.01、各々のコントロールと比較。
【0157】
【表13】

【0158】
表12.hBD2、LTA、LPS又はそれらの組み合わせを用いた刺激後における、PBMCからのIL−10分泌。TNF−アルファはELISAによって測定された。nd:検出不能、アッセイにおける検出限界0.03ng/ml。
【0159】
【表14】

【0160】
表13.hBD2、LTA、LPS又はそれらの組み合わせを用いた刺激後における、PBMCからのIL−1β分泌。TNF−アルファはELISAによって測定された。nd:検出不能、アッセイにおける検出限界0.016ng/ml、**p<0.01、各々のコントロールと比較。
【0161】
【表15】

【0162】
表14.PGNを用いた、hBD2を用いた及び用いない処置後における、ヒト末梢血単核細胞(PBMC)からのTNF産生。全ての試料は同一のドナーで試験された。TNFはFACSアレイ上でのサイトメトリック・ビーズ・アレイ(CBA)によって測定された。***p<0.001、各々のコントロールと比較、2−way ANOVAによって分析(各々のデータ・セットに関してN=約200)。
【0163】
【表16】

【0164】
表15.PGNを用いた、hBD2を用いた及び用いない処置後における、ヒト末梢血単核細胞(PBMC)からのIL−10産生;全ての試料は同一のドナーで試験された。TNFはFACSアレイ上でのサイトメトリック・ビーズ・アレイ(CBA)によって測定された。***p<0.001、各々のコントロールと比較、2−way ANOVAによって分析(各々のデータ・セットに関してN=約200)。
【0165】
【表17】

【0166】
表16.LPS又はLTAを用いた、hBD2又はTNF阻害のための2つの異なるコントロール(デキサメタゾン及びインドメタシン)を用いた及び用いない処置後における、ヒト末梢血単核細胞(PBMC)からのTNF産生;全ての試料は同一のドナーで試験された。TNFはFACSアレイ上でのサイトメトリック・ビーズ・アレイ(CBA)によって測定された。下線の引かれた値は各々のコントロール(太字)と比較して有意に減少した。2−way ANOVAによって分析された(各々のデータ・セットに関してN=約200)。
【0167】
【表18】

【0168】
表17.LPS又はLTAを用いた、hBD2又は抗炎症効果のための2つの異なるコントロール(デキサメタゾン及びインドメタシン)を用いた及び用いない処置後における、ヒト末梢血単核細胞(PBMC)からのIL−10産生;全ての試料は同一のドナーで試験された。IL−10はFACSアレイ上でのサイトメトリック・ビーズ・アレイ(CBA)によって測定された。下線の引かれた値は各々のコントロール(太字)と比較して有意に増加した。2−way ANOVAによって分析された(各々のデータ・セットに関してN=約200)。
【0169】
【表19】

【0170】
表18.LPS又はLTAを用いた、hBD2又は抗炎症効果のための2つの異なるコントロール(デキサメタゾン及びインドメタシン)を用いた及び用いない処置後における、ヒト末梢血単核細胞(PBMC)からのIL−1β産生;全ての試料は同一のドナーで試験された。IL−1βはFACSアレイ上でのサイトメトリック・ビーズ・アレイ(CBA)によって測定された。下線の引かれた値は各々のコントロール(太字)と比較して有意に減少した。2−way ANOVAによって分析された(各々のデータ・セットに関してN=約200)。
【0171】
【表20】

【0172】
表19.LPS又はLTAを用いた、hBD2を用いた及び用いない処置後における、ヒト単球細胞株(MUTZ−3)の上清におけるTNF産生。TNFはFACSアレイ上でのサイトメトリック・ビーズ・アレイ(CBA)によって測定された。*各々のコントロールと比較してp<0.05、**p<0.01、各々のコントロールと比較、2−way ANOVAによって分析(各々のデータ・セットに関してN=約200)。
【0173】
【表21】

【0174】
表20.(成熟DCを生じさせるために)LPS又はLTAを用いた、hBD2を用いた及び用いない処置後における、未成熟樹状細胞の上清におけるTNF産生。TNFはFACSアレイ上でのサイトメトリック・ビーズ・アレイ(CBA)によって測定された。*各々のコントロールと比較して有意に減少、p<0.05、***各々のコントロールと比較して有意に減少、p<0.01、2−way ANOVAによって分析された(各々のデータ・セットに関してN=約200)。
【0175】
【表22】

【0176】
実施例5
hBD1、hBD2、hBD3、及びhBD4バリアントの抗炎症活性
基本的に実施例4に記載された通りに実施例5を行った。下の表に示した通り、化合物rhBD2は組み換えhBD2であり、そしてそれは実施例4において使用されたhBD2と同一である。
【0177】
下の表に示した通り、化合物hBD1、hBD2、hBD3、及びhBD4バリアントは、化学合成を用いて調製され、そしてPeptide Institute Inc.から得た。
【0178】
組み換えhBD2(rhBD2)のアミノ酸配列は、化学合成により調製されたhBD2のアミノ酸配列と同一である。
【0179】
下の表で示されたhBD4バリアントは、hBD4のアミノ酸3〜39から成り、そして当該アミノ酸の配列は配列番号5に示した通りである。
【0180】
各々の表において、全ての試料は同一のドナーで試験された。SDは標準偏差を意味する。
【0181】
結果
表21.LPSを用いた、ヒト・ベータ・ディフェンシン、デキサメタゾン、又はインフリキシマブを用いた及び用いない処置後における、ヒト末梢血単核細胞(PBMC)からのTNF産生。TNFはFACSアレイ上でのサイトメトリック・ビーズ・アレイ(CBA)によって測定された。*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、2−way ANOVAによって分析、及びBonferroni事後検定によって未処置細胞と比較。
【0182】
【表23】

【0183】
表22.LPSを用いた、ヒト・ベータ・ディフェンシン、デキサメタゾン、又はインフリキシマブを用いた及び用いない処置後における、ヒト末梢血単核細胞(PBMC)からのIL−10産生。IL−10はFACSアレイ上でのサイトメトリック・ビーズ・アレイ(CBA)によって測定された。*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、2−way ANOVAによって分析、及びBonferroni事後検定によって未処置細胞と比較。
【0184】
【表24】

【0185】
表23.LPSを用いた、ヒト・ベータ・ディフェンシン、デキサメタゾン、又はインフリキシマブを用いた及び用いない処置後における、ヒト末梢血単核細胞(PBMC)からのIL−1β産生。IL−1βはFACSアレイ上でのサイトメトリック・ビーズ・アレイ(CBA)によって測定された。***p<0.001、2−way ANOVAによって分析、及びBonferroni事後検定によって未処置細胞と比較。
【0186】
【表25】

【0187】
hBD1、hBD2、hBD3、及びhBD4バリアントの効果を、LPSで処置された及び処置されていないヒトPBMCで試験した(表21、22及び23)。比較のために、rhBD2を各々の設定に含めた。
【0188】
全てのディフェンシンに関して、TNFは下方制御された。IL−1β分泌の減少は、TNFと同等であったが、TNFほど顕著ではなかった。hBD2及びhBD4バリアントに関して、IL−10の分泌は、有意に且つ用量依存的に上昇した。
【0189】
hBD3は10μg/ml及び40μg/mlで試験され、並びにhBD4バリアントは40μg/mlで試験された;しかし、これらの濃度においていずれの分子も毒性であったために、毒性効果と抗炎症性効果とを区別することができなかった。
【0190】
TNFの下方制御のポジティブ・コントロールとして、2つの抗炎症性化合物、デキサメタゾン及びインフリキシマブが当該設定中に含まれた。
【0191】
結論
全ての試験されたヒト・ベータ・ディフェンシンは、抗炎症潜在力を示した。
【0192】
実施例6
ヒトの単球由来樹状細胞及びヒトPBMCの、IL−23の減少
実施例6は、ヒトPBMCに関して基本的に実施例4で記載された通りに行われた;しかし、読み出しはTNF、IL−1β、及びIL−10の代わりにIL−23であった。さらに、ヒトの単球由来樹状細胞におけるrhBD2の効果が同様に調べられた。
【0193】
単球由来樹状細胞(DC)の生成
DCは、Romani et al.によって初めに記載された改良手順に従って調製された。簡潔に述べると、末梢血単核細胞(PBMC)は、Ficoll−paque(GE−healthcare)グラジエントをかけた遠心分離によって、健常なドナーの軟膜から精製された。製造業者の使用指示に従った、マグネティックビーズ(Dynal,Invitrogen)による、CD14+細胞の正の選択によって、単球をPBMCから単離した。CD14+単球を、RPMI/2%ヒトAB血清、組換え型ヒト顆粒球マクロファージ刺激因子(GM−CSF、20ng/ml)、及びIL−4(20ng/ml)(PeproTech)中で6日間、6ウェルプレート中で培養し、2日後、及び5日後に培地/サイトカインを再補充した。培養6日後、未熟DCを96ウェルプレート中で1×106細胞/mlの濃度で再度培養し、そしてさらに24時間、カクテル、及び/又はhBD2で、処置されなかったか、又は処置された。hBD2を4つの濃度で、4通りで試験した。LPS(100ng/ml)及びIFN−γ(20ng/ml)を含む炎症性カクテルを用いて、hBD2は、炎症性フェノタイプへのhDC成熟を抑制するその能力を分析された。デキサメタゾンを加え、20時間後に当該カクテルを、臨床的抗炎症活性を有することが証明されている化合物のためのポジティブ・コントロールとして加えた。hBD2とのインキュベーションを行い、4時間後にカクテルを加えた。
【0194】
サイトカインELISA
細胞培養上清を回収し、−80℃で保存した。製造業者の手順(eBioscience)に従って、市販の抗体及びスタンダードを用いた標準的サンドイッチELISAによって、IL−23の量を測定した。
【0195】
MTTアッセイ
ビヒクル、カクテル、又はhBD2を用いた処置によって任意の細胞が大幅に影響を受けるか否かを評価するために、48時間後の細胞の生存の測定において、MTT系細胞増殖決定キットを使用し、製造業者の手順(Sigma)に従って行った。
【0196】
統計学的分析
全ての実験は少なくとも2回行われ、代表的な結果を示す。示されたデータは、平均±標準誤差(SEM)として表現された。表の説明文に記載されたように、変数が処置(hBD2、デキサメタゾンなど)及び刺激(LPS、LTA、ペプチドグリカンなど)である、2−way ANOVAを行い、その後Bonferroni事後検定を行うことによって、統計的有意性を決定した。差はp<0.05で有意であると考えられた。
【0197】
結果
表24.培地(未刺激)、又はLPS及びIFN−γのいずれかで刺激され、培地(未処置)、hBD2、又はデキサメタゾンのいずれかで処置された、ヒトCD14+単球由来樹状細胞の上清中のIL−23(pg/ml)、平均(SEM)、N=4、3人の内1人の代表的ドナー。*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、2−way ANOVAによって分析、Bonferroni事後検定によって未処置細胞と比較。nd:検出されず(検出限界未満)。
【0198】
【表26】

【0199】
表25.培地(コントロール)、0.6ng/ml LPS、20ng/ml LPS、又は5μg/ml LTAのいずれかで刺激され、hBD2、デキサメタゾン、又はインフリキシマブで処置された、ヒトPBMCの上清中のIL−23(pg/ml)、平均(SEM)。*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、2−way ANOVAによって分析、Dunnett多重比較事後検定によって未処置細胞と比較。
【0200】
【表27】

【0201】
表24に示された通り、hBD2は、有意に且つ用量依存的に、ヒトCD14+単球由来樹状細胞からのIL−23分泌を抑制した。
【0202】
ヒトPBMCに関して、IL−23分泌はまた、有意に抑制された(表25)。これらの細胞において、逆の用量依存性が存在し、そしてそれは、より低用量のhBD2を試験したとき、鐘形の用量−反応阻害曲線であることが分かった(データを示さず)。
【0203】
これは、IL−23分泌の抑制によって、hBD2が慢性自己免疫状態の抑制効果を有し、したがってIL−23が、炎症性応答において重要な役割を果たすことを示している。Th17細胞は、それらの生存及び増殖に関して、IL−23に依存しており、そしてTh17細胞は、幾つかの自己免疫疾患、例えばクローン病、潰瘍性大腸炎、乾癬、及び多発性硬化症の病因であることが示されている。
【0204】
実施例7
マウス・ベータ・ディフェンシン3(mBD3)を用いた、PBMCからのTNF分泌の減少
実施例7は基本的に、ヒトPBMCに関して、実施例4に記載された通りに行われた。実施例1においてhBD2の産生のために使用された手順と同一のものを使用して、マウス・ベータ・ディフェンシン3(mBD3)を調製した。mBD3のアミノ酸配列は配列番号6に示される。マウスPBMCを、以下に記載した通りに調製した。
【0205】
マウス末梢血単核細胞(PBMC)の単離及び刺激
マウス末梢血単核細胞を、10匹のNMRIマウスの血液から単離した。要約すれば、ヘパリン添加血液をRPMIで1/1(v/v)で希釈し、そして2時間以内でFicoll密度遠心分離にかけた。血漿を上清から回収し、そして廃棄された。単離されたPBMCを培養培地(RPMI 1640(Gibco,42401)w/1%ペニシリン及びストレプトマイシン並びに1% L−グルタミン)中で再度懸濁し、そして96ウェル培養プレートに、1ウェルあたり155.500個の細胞で、全体で200μlとなるようにまいた。100、10、又は1μg/mlのhBD2又はmBD3(マウス・ベータ・ディフェンシン3)を;それ単体で、又は、20ng/mlのLPS(E.coli,O111:B4,Sigma L4391)と共に用いて、同一のドナーからのPBMCを刺激した。LPS刺激をした及びしていない培地へ、デキサメサゾンを3.5ng/ml加えた。37℃で24時間インキュベーション後に上清を回収し、そしてサイトカインの測定まで−80℃で貯蔵した。
【0206】
FACSアレイ・フローサイトメーターにおける製造業者の使用説明に従って、マウス炎症サイトメトリック・ビーズアレイ(CBA)を用いたフローサイトメトリーによって、上清におけるサイトカインの産生を測定した。
【0207】
上清を回収後、生存率をAlamar Blue(Biosource,DALL1100)によって測定した。
【0208】
結果
表26.LPSを用いた、hBD2を用いた及び用いない処置後における、ヒト末梢血単核細胞(PBMC)からのTNF産生。全ての試料を同一のドナーで試験された。2人のドナーからの代表的実験。TNFはFACSアレイ上でのサイトメトリック・ビーズ・アレイ(CBA)によって測定された。***p<0.001、各々のコントロールと比較。2−way ANOVAによって分析(N=2)。
【0209】
【表28】

【0210】
表27.LPSを用いた、mBD3を用いた及び用いない処置後における、マウス末梢血単核細胞(PBMC)からのTNF産生。2匹のドナーからの代表的実験。TNFはFACSアレイ上でのサイトメトリック・ビーズ・アレイ(CBA)によって測定された。***p<0.001、各々のコントロールと比較。2−way ANOVAによって分析(N=2)。
【0211】
【表29】

【0212】
表26に示された通り、マウス・ベータ・ディフェンシン3(mBD3)は、ヒトPBMCからのTNFの分泌を、hBD2及びデキサメタゾンと同程度まで下方制御した。mDB3はまた、マウスPBMCからのTNFの分泌を下方制御した(表27)。
【0213】
したがってこの設定において、mBD3は、すぐれた抗炎症活性を示した。
【0214】
【表30】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
炎症性腸疾患の治療における、非経口投与のための医薬の製造における、哺乳動物のベータ・ディフェンシンの使用。
【請求項2】
前記哺乳動物のベータ・ディフェンシンが、皮下又は静脈内投与される、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記哺乳動物のベータ・ディフェンシンが、約0.001mg/kg体重〜約10mg/kg体重、好ましくは約0.01mg/kg体重〜約10mg/kg体重の一日用量で投与される、請求項1又は2に記載の使用。
【請求項4】
前記哺乳動物のベータ・ディフェンシンが、ヒト・ベータ・ディフェンシンである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項5】
前記哺乳動物のベータ・ディフェンシンが、配列番号1、配列番号2、配列番号3、又は配列番号4のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の使用。
【請求項6】
前記ヒト・ベータ・ディフェンシンが、ヒト・ベータ・ディフェンシン1、ヒト・ベータ・ディフェンシン2、ヒト・ベータ・ディフェンシン3、又はヒト・ベータ・ディフェンシン4である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の使用。
【請求項7】
前記哺乳動物のベータ・ディフェンシンが、配列番号2のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する、請求項1〜6のいずれか一項に記載の使用。
【請求項8】
前記哺乳動物のベータ・ディフェンシンが、ヒト・ベータ・ディフェンシン2である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の使用。
【請求項9】
前記治療がなされた組織中において、TNF−アルファ活性が減少する、請求項1〜8のいずれか一項に記載の使用。
【請求項10】
治療を必要とする対象へ、有効量の哺乳動物のベータ・ディフェンシンを非経口投与することを含む、炎症性腸疾患の治療方法。
【請求項11】
前記有効量が、前記治療がなされた組織中において、TNF−アルファ活性を減少させるために効果的である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記ヒト・ベータ・ディフェンシンが、皮下又は静脈内投与される、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記哺乳動物のベータ・ディフェンシンが、約0.001mg/kg体重〜約10mg/kg体重、好ましくは約0.01mg/kg体重〜約10mg/kg体重の一日用量で投与される、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記哺乳動物のベータ・ディフェンシンが、ヒト・ベータ・ディフェンシンである、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
前記哺乳動物のベータ・ディフェンシンが、配列番号1、配列番号2、配列番号3、又は配列番号4のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する、請求項10に記載の方法。
【請求項16】
前記哺乳動物のベータ・ディフェンシンが、配列番号2のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有する、請求項10に記載の方法。
【請求項17】
前記ヒト・ベータ・ディフェンシンが、ヒト・ベータ・ディフェンシン1、ヒト・ベータ・ディフェンシン2、ヒト・ベータ・ディフェンシン3、又はヒト・ベータ・ディフェンシン4である、請求項10に記載の方法。

【公表番号】特表2011−528333(P2011−528333A)
【公表日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−517955(P2011−517955)
【出願日】平成21年7月17日(2009.7.17)
【国際出願番号】PCT/EP2009/059253
【国際公開番号】WO2010/007166
【国際公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【出願人】(510062398)ノボザイムス アデニウム バイオテック アクティーゼルスカブ (8)
【Fターム(参考)】