説明

哺乳類における炎症を軽減するための乳酸菌の選択及び使用

腸疾患などの炎症を軽減する能力のために選択された乳酸菌の菌株、かかる菌株を選択する方法及びかかる菌株を含む生成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非病原性、抗炎症性の細菌株をスクリーニングする方法の使用、並びにかかる菌株を、ある種の細菌又は他の炎症の原因となる薬剤によって引き起こされる、望ましくない炎症を治療及び予防するために使用する生成物及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
単球は、骨髄を出発し、末梢血管を通って移動し、最後に胃腸管の粘膜/漿膜に到達する。これらの推定マクロファージは、胃腸の免疫系を調節するのに必要なシグナルの、相互作用及び伝播へのカギである。
【0003】
胃腸管では、粘膜上皮のマクロファージにおいて、腸管腔中の細菌及び腸粘膜に付着した細菌に対して一定のレベルの免疫応答が存在する。正常状態では、この応答はサイトカインシグナルの生成を伴い、不要な炎症応答を制限及び抑制する。しかし、病原体又は毒素がこれらの細胞に提示されると、これらは防衛の最前線を形成し、前炎症性サイトカインの量を増やして産生することによって反応し、脅威が取り除かれるまで炎症応答を伝播する。サイトカインの産生は、病原体に対する十分な炎症応答に関与するだけでなく、共生する(非脅威的な)細菌との相互作用に関連しており、乳酸菌そのもの(表面抗原を含む)による介入又はこれらの乳酸菌によって産生される物質による介入を受けやすい。また、共生細菌叢が粘膜のマクロファージとの広範囲の相互作用を有し、腸管細菌叢に対する可逆反応を維持し、これによって最適健康を維持することは明らかである(Rook G A,Adams V,Hunt J,Palmer R,Martinelli R,Brunet LR.免疫調節性障害のための免疫調節薬としてのマイコバクテリア及び他の環境の有機体(Mycobacteria and other environmental organisms as immunomodulators for immunoregulatory disorders.)Springer Semin Immunopathol 2004;25:237〜255)。
【0004】
種々の病原体は、例えば胃腸管で、炎症を引き起こす可能性があることが知られている。例えば胃及び胃腸管におけるかかる炎症は、細胞間のシグナルタンパク質によって媒介される。かかるタンパク質は、病原体によって産生されるような抗原刺激に応答して、上皮のマクロファージ及び樹状細胞によって産生されるサイトカインとして知られている。病原体の抗原又はそれによって産生されるLPSなどのエンドトキシンが上皮と接触すると、上皮の抗原提示細胞(樹状細胞を含む)は、ナイーブマクロファージにシグナルを伝達し、次いで、ナイーブマクロファージはいわゆるTh−1型反応で応答し、ここで該マクロファージはTNFα、IL−1、IL−6、IL−12を含む前炎症性サイトカインを産生する。これらのサイトカインはナチュラルキラー細胞、T−細胞及び他の細胞を順次刺激し、炎症の重要な媒介物質であるインターフェロンγ(IFNγ)を産生する。IFNγは結果として、炎症応答の拡大及び細胞傷害性に至る上記反応の拡大を引き起こす。ナイーブマクロファージはまた、Th−2型反応で抗原に応答することができる。この応答はIFNγによって抑制される。これらのTh−2型細胞は、IL−4、IL−5、IL−9及びIL−10などの抗炎症性サイトカインを産生する。
【0005】
IL−10はIFNγの産生を阻害し、ひいては免疫応答を低下させることが知られている。Th−1型細胞及びTh−2型細胞と、これらの各々のサイトカイン産生との間の均衡によって、所与の抗原に対する炎症応答の程度が決まる。Th−2型細胞はまた、免疫系によって免疫グロブリンの産生を刺激することができる。TNFα濃度の減少が見られる胃腸管における抗炎症活性は、増強された上皮細胞(腸管内壁の完全性)と相関し、ひいては胃腸の病原体及び毒素によって引き起こされる負の影響の低下と相関する。
【0006】
いくつかの研究の結果は、DNAが、腸の上皮細胞に抗炎症作用を及ぼすことができるか、又は免疫系を刺激することができることを示している(Madsen他及びRachmilewitz他、それぞれ、Digestive Disease Week、2002年5月19〜22日、サンフランシスコ、The Moscone Centerでの発表)。
【0007】
哺乳類におけるいくつかの疾患には炎症が伴い、外面的には皮膚、眼など、及び内面的には例えば種々の粘膜、すなわち口、胃腸管、膣などの両方に見られ、また筋肉、関節及び脳内組織にも炎症が見られる。胃腸管には炎症と関係があるいくつかの疾患が存在し、例えば胃炎、潰瘍及び炎症性腸疾患(IBD)などが挙げられる。IBDは消化管又は腸壁が炎症を起こして腫れる慢性障害である。消化管がIBDのために炎症を起こすか、又は腫れると、ただれ(潰瘍)が生じて出血する。これは、腹痛、水様便、血便、疲労、食欲低下、体重減少又は発熱などを順次引き起こす可能性がある。したがって、IBDにおける炎症は、結果として患者に潰瘍などの組織損傷及び疾患増悪を引き起こす。
【0008】
IBDのうちで最も多く見られる2つの形は、潰瘍性大腸炎(UC)及びクローン病(CD)である。クローン病は、粘膜から漿膜までの腸管全壁の再発性の炎症病変を特徴とする慢性状態であり、腸内の多くの部位を侵す可能性がある。この疾患は、腸管の微生物叢における平衡失調及び正常な腸管細菌叢の成分に対する過剰に発現された炎症反応と関連づけられている。この反応は現在のところ、一連の種々の薬物を使用して治療されており、かかる薬物の1つは、胃腸粘膜におけるTNFα濃度を低下させることを目的とした抗TNFα療法に基づいているが、結果は思わしくない。したがって、かかる疾患を有する人々は、炎症を和らげる免疫調節性の乳酸桿菌を使用するための、理想的な試験群及び実際には標的群を構成する。
【0009】
マウスは、無菌動物には起こらない慢性大腸炎を自然発症する。マウス大腸炎は、胃腸管の慢性で重症の炎症性疾患であるヒトクローン病に類似している。クローン病は、通常腸に発生するが、胃腸管のいずれの場所にも発生する恐れがある。これらの状態は、腸内細菌の存在を必要とし、両方とも大腸炎のTh−1媒介IL−12依存性の形である。
【0010】
原因及び症状が類似しているため、大腸炎のマウスモデル及び他のマウスモデルが炎症応答の成分を直接研究するのに使用されることが多く、同一の機構がヒトに当てはまるので、ヒトの胃腸疾患の治療法を開発するためのモデルとして使用されることが多くの場合に認められている。しかし、ヒトのための動物由来のモデルの適切さについての問題がいくつか存在するので、ヒトの機構を研究するための代替方法及び他のモデル由来の結果をさらにヒトベースの系で確認するための代替方法を有する必要がある。本明細書における本発明の目的は、ヒトの細胞に基づく抗炎症特性を示す乳酸菌を選択する方法を提供し、種々の炎症性疾患を予防及び治療するために選択されたかかる乳酸菌を使用することである。
【0011】
ラクトバチルスロイテリ(Lactobacillus reuteri)は、動物の胃腸管の、天然に存在する生息細菌の1種であり、健康な動物の腸で、及び低pHにもかかわらず時折ヒトの胃でもごく普通に見出される。ラクトバチルスロイテリは抗菌活性を有することが知られている。例えば、米国特許第5439678号、第5458875号、第5534253号、第5837238号及び第5849289号を参照のこと。L.ロイテリ細胞をグリセロールの存在下、嫌気的条件下で増殖させると、これらはロイテリン(β−ヒドロキシ−プロピオンアルデヒド)として知られる抗菌物質を産生する。米国特許出願20040208863及び20040067573にあるように、L.ロイテリを含む乳酸桿菌のある種の菌株は抗炎症性を有している。他の免疫調節活性も他の種々の乳酸桿菌と関連付けられている。
【0012】
ヒト臨床試験及び動物実験は、ラクトバチルスが慢性大腸炎における炎症を予防又は改善することが可能であることを示している。乳酸桿菌は腸内細菌によって誘発される前炎症性サイトカインの応答を抑制することができると仮定される。J.Pena他(2003)は、乳酸桿菌がマウスマクロファージ系による腫瘍壊死因子α(TNFα)の産生を減少させるかどうかを検討した。ラクトバチルスラムノーサス(Lactobacillus rhamnosus)GG及びリポ多糖と共に培養されたマウスマクロファージによるTNFα産生は、対照と比較して著しく阻害されることが示された。
【0013】
同グループの研究者らは、ヘリコバクター(Helicobacter)によって誘発されるin vivoでの炎症の改善に、ラクトバチルス属が有効である可能性があるかどうかを検討した。この目的のために、H.へパティカス(H.hepaticus)マウス大腸炎モデルにおいて、L.ロイテリ及びL.パラカゼイ(L.paracasei)の混合接種実験を行った。H.へパティカスを単独で接種した動物と比較して、H.へパティカス及びラクトバチルス属の両方を接種した雌マウスで、病理スコアの著しい減少が認められた。このモデルにおいて、ラクトバチルス属のプロバイオティック効果は、H.へパティカス菌の排除と無関係であるが、TNF−α発現の転写後調節に依存することが示された。データは、ラクトバチルス属がマクロファージにおいてヘリコバクターによって誘発される前炎症性サイトカインを抑制することができるという、新規な機構の存在を示唆している。
【0014】
特許WO2004/031368A1は、TNF−α活性のマウスマクロファージアッセイを使用して、哺乳類におけるH.ピロリ(H.pylori)感染症関連の胃腸炎症を軽減する能力のために選択されたラクトバチルス菌株について記載している。
【0015】
特許出願US20040057943A1は、母乳及び/又は羊水中で生存することができる、L.コリニフォルミス(L.coryniformis)、L.サリバリウス(L.salivarius)、L.アシドフィラス(L.acidofilus)、L.ガセリ(L.gasseri)及びL.ファーメンタム(L.fermentum)の新規なプロバイオティック菌株の選択方法に関する。
【0016】
S.Menard他(2003)は、乳酸菌が腸輸送後に抗炎症性を保持する代謝物質を分泌するかどうかを検討した。細菌馴化培地(CM)の存在下で、THP−1前単球に結合するLPSの分析を行い、LPS−LBPがCD14受容体を認識することができる前に、LPSがLPS結合タンパク質(LBP)に結合する必要があるかどうかを調べた。結合はフローサイトメトリーによって測定した。ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)及びストレプトコッカスサーモフィルス(Streptococcus thermofilus)CMは、腸のバリアを越えて侵入することができる抗TNF−α作用を発揮する代謝物質を遊離することによって、THP−1細胞へのLDB依存性LPS結合を完全に阻害した。
【0017】
いくつかの乳酸桿菌の胃腸炎症を含む炎症を軽減する能力における差異が知られているが、ヒトの細胞に基づくモデルを使用することによって、これらの差異がより良く予測されること、及びかかるモデルがかかる菌株をヒトにおける潜在効果のために選択することが好ましいということは以前に知られていたわけではない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
したがって、本発明の目的は、ヒトの細胞系を使用して、IBDに起因するものなどの炎症を軽減する能力のために選択されている乳酸菌の菌株を提供することである。本発明のさらなる目的は、例えばIBDと関連する炎症の治療又は予防を目的としたヒト及び他の哺乳類に投与するための薬剤を含めた、かかる菌株が増殖している馴化培地及びこれらのタンパク質含有抽出物を含めた、前記菌株を含む生成物を提供することである。したがって、本発明は、患者に潰瘍などの組織損傷及び疾患増悪を引き起こすIBDにおける炎症を治療するのに使用される。
【0019】
他の目的及び利点は、以下の開示及び添付の特許請求の範囲から、より十分に明らかであろう。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本明細書における本発明は、腸疾患などの炎症を軽減する能力のために選択された乳酸菌の新規な菌株、かかる菌株を選択する方法、及びかかる菌株を含む生成物を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本明細書における本発明は、IBDなどにおける炎症を軽減する能力のために選択されている乳酸菌の菌株を含む。かかる菌株は、ラクトバチルスロイテリのMM4−1A、ATCC PTA−6475を含む。これらの菌株由来の全細胞又は成分を含む、食品、栄養添加物及び栄養製剤、医薬品又は医療用具などの製品は、当技術分野において知られているように調製することができ、一般に、知られている摂取可能な担体、さらにラクトバチルス菌株又はそれ由来の成分を含む。L.ラムノーサスGG ATCC53103、L.ロイテリのMM2−3、ATCC PTA−4659及び他のものなどの既に知られている菌株は、TNFαを低下させる優れた能力を有することが現在確認されており、上記製剤中に使用されることも可能である。
【0022】
適切なサイトカインを使用するモデル系を使用して、炎症を軽減又は増大させる因子を決定する。本明細書において提供される本発明では、ヒトの細胞に基づくアッセイが使用される。
【0023】
THP−1細胞は白血病患者由来のヒト単球細胞系であり、これらはアメリカンタイプカルチャーコレクションにて維持されている。ヒト宿主由来のこれらの細胞の起源は、ヒト胃腸の免疫系とヒト共生細菌との相互作用を研究するために、これらの細胞を特に関連性のあるものにする。
【0024】
本発明におけるデータは、特定の菌株であるL.ロイテリATCC PTA4659及びL.ロイテリATCC PTA6475によってTNFα産生が強力に阻害されることを示すこと、並びに後期対数増殖期/定常増殖期にこれら2種の特定の菌株が増殖培地中に遊離する物質によって、この阻害が媒介されることを開示する。一方、L.ロイテリの他の2種の菌株は、大腸菌(E.coli)の毒素に対する細胞の炎症応答を阻害することができないばかりでなく、これら自体炎症応答を誘発した。この驚くべき発見は、予測されていなかったL.ロイテリATCC PTA4659菌株及びL.ロイテリATCC PTA6475菌株の潜在的な抗炎症性を示している。
【0025】
これらの発見が臨床的に適切であり得ることを確認するために、炎症性腸疾患、具体的にはクローン病(CD)の患者の血液由来細胞においてさらなる研究を行った。
【0026】
乳酸菌と粘膜免疫細胞との間の相互作用を研究するために、我々は分化マクロファージが未分化単球に比べて良好なモデルであると考えた。かかる分化マクロファージは、in vivoでの胃腸管のマクロファージ細胞集団に類似している可能性が高く、乳酸菌に対して応答し、宿主の先天的免疫系の調節又は炎症性変化を発現する。例えば、エンドトキシンに応答して、THP−1細胞による前炎症性インターロイキン−8の産生が、分化の誘発後に顕著に増加された(Baqui他、1999)。さらに、これらの細胞によるTNFα産生が、分化後に著しく増加される(Klegeris他、1997)。
【0027】
本発明の特徴は、以下の実施例を参照することによって、より明確に理解されるが、これらの実施例は本発明を限定するものと解釈されるべきではない。
【実施例】
【0028】
(実施例1)
抗炎症性菌株の選択
THP−1細胞を、選択されたL.ロイテリ菌株、すなわちL.ロイテリATCC PTA4659、L.ロイテリATCC PTA6475、L.ロイテリATCC55730及びL.ロイテリ菌株CF48−3Aの増殖由来の馴化培地(L−CM)又は対照培地のいずれかと共に培養した。馴化培地(L−CM)は、各L.ロイテリ培養物の9時間又は24時間培養物からの無細胞上清である。3.5時間の培養中に、大腸菌由来のLPS(正常な炎症応答ではTNFα産生をもたらす)又は対照培地のいずれかを用いてTHP−1細胞を刺激し、その後、細胞を除去し、上清はELISA法を使用してTNF−α濃度の検定を行った。
【0029】
材料:
THP−1白血病単球細胞系(ATCC、カタログ番号TIB202)
RPMI1640培地(Gibco−Invitrogen)
ウシ胎児血清(Gibco−Invitrogen)
ペニシリン−ストレプトマイシン溶液(Sigma)
大腸菌血清型O127:B8リポ多糖(Sigma、カタログ番号L3137)
TNF−α/TNF−SFII ヒトDuoSet ELISA Development Kit(R&D Systems、カタログ番号DY210)
【0030】
方法:
THP−1単球細胞系を使用する。5%(v/v)MRS培地及び5%(v/v)ラクトバチルス馴化培地を適切なウェルに加える。ラクトバチルス馴化培地は、MRS培地中ラクトバチルス属の24時間培養物からの上清である。次いで、馴化培地のpHを高速真空乾燥によって調節し、同量の培養培地にペレットを再懸濁する。加湿チャンバーは液体蒸発が最小限になるように設定するが、48時間インキュベーション後、24ウェルプレート中の細胞懸濁液の量を約475μlに減らす。
【0031】
100ng/mlの大腸菌血清型O127:B8リポ多糖を適切なウェルに加える。37℃、加湿、5%COチャンバー中でインキュベートする。培養3.5時間インキュベーション後、培養物を1.5ml遠心分離管に集める。1500RCFで5分間、4℃で遠心する。上清を集める。
【0032】
ELISA(Quantikine TNF−α/TNF−SFII ヒトDuoSet)によってサイトカインの発現を試験する。
【0033】
使用する培地は、RPMI1640中、10%FBS、2%ペニシリン−ストレプトマイシンであった。
【0034】
結果−実施例1
LPSの非存在下、L.ロイテリATCC PTA4659菌株、L.ロイテリATCC PTA6475菌株由来の24時間L−CMと共にTHP−1細胞をインキュベートすることにより、インキュベーション培地中にTNF−αが生成した(図1)。驚いたことに、L.ロイテリATCC55730及びL.ロイテリ菌株CF48−3A由来のL−CMは、THP−1細胞によるTNFα産生を、LPS単独で見られたものと同様の濃度まで刺激した。したがって、これらのL.ロイテリ菌株は、休止THP−1単球による前炎症性TNFαの産生を刺激する能力が異なっている。
【0035】
L−CMの非存在下、THP−1細胞にLPSを加えることにより、3.5時間のインキュベーション期間中に138pg/mlのTNFαが生成した。これは、毒素に対するTHP−1細胞の予期された炎症応答である。増殖培地(MRS)を加えたものは、L−CMを加えたものの対照としての働きをするが、132pg/mlのTNFαが生成し、したがってMRSはLPSに対する応答を妨害しなかった。L.ロイテリATCC PTA4659又はL.ロイテリATCC PTA6475由来の24時間L−CMを加えることにより、LPSで刺激されたTNFαの濃度は、それぞれわずか14pg/ml及び10pg/mlにまで劇的に減少した。このことは、LPSで刺激されたTNFα産生の阻害率がそれぞれ89%及び92%であることを示す。一方、L.ロイテリATCC55730及びL.ロイテリ菌株CF48−3A由来の24時間L−CMの存在下では、LPSの非存在下での濃度と比較して、LPSはTNFαの著しい増大を誘発することが依然として可能であった。LPSで刺激されたTNFα産生は、L.ロイテリATCC55730及びL.ロイテリ菌株CF48−3A由来のL−CMが存在するにもかかわらず、それぞれ50%及び38%増加した。
【0036】
L.ロイテリATCC PTA4659又はL.ロイテリATCC PTA6475由来の9時間L−CMを用いて行った同様の実験は、LPSで刺激されたTNFα産生に対する阻害作用はかなり低いが(それぞれ52%及び16%;図2)、まだ存在していることを示した。したがって、後期対数増殖期/定常増殖期にL−CMを集菌して、L.ロイテリ菌株をより長くインキュベートすることにより、TNFα産生阻害における有効性が改良される。
【0037】
(実施例2)
単球細胞用の負の選択試料
Monocyte Isolation Kit II(Miltenyi Biotec,Inc.12740 Earhart Avenue,Auburn,CA 95602(800)367−6227;http://www.miltenyibiotec.com/index.php?、オーダー番号130−091−153)は、ヒト末梢血単核細胞(PBMC)から非標識単球を分離する間接磁気標識システムである。単球以外の細胞、すなわちT細胞、B細胞、NK細胞、樹状細胞及び好塩基球を、CD3、CD7、CD16、CD19、CD56、CD123及びグリコホリンAに対するビオチン標識抗体カクテル、並びにAnti−Biotin MicroBeadsを用いて間接磁気標識する。2つの標識工程の間に、洗浄工程は必要ない。磁気標識した非単球は、MACS Separatorの磁場にあるMACS(登録商標)Column上に保持されることによって除去されるが、非標識単球はカラムを通過する。この磁気標識した細胞を除くことにより、比較的濃縮された非標識単球が分離される。濃縮レベルはフローサイトメトリーによって評価又は確認することができる。
【0038】
キット情報:Monocyte Isolation Kit II(オーダー番号130−091−153)。キット内容:FcR Blocking Reagent(1ml);Biotin−Antibody Cocktail(1ml);Anti−Biotin MicroBeads(2ml);キットに同梱されていない材料及び装置:15ml Corning遠心分離管;冷却遠心機;ピペット及びピペットチップ;血清用ピペット及びピペットチップ;タイマー;Miltenyi Biotec MACS(登録商標)MSカラム;Miltenyi Biotec MACS(登録商標)磁石;Miltenyi Biotec MACS(登録商標)カラムスタンド;Hausser Scientific Bright−Line血球計算盤;ワーキングバッファー(WB):滅菌1Xリン酸緩衝生理食塩水(PBS、pH7.4、Gibcoカタログ番号10010023)+0.5%ウシ血清アルブミン(BSA、Panveraカタログ番号P2489)+2mMエチレンジアミン四酢酸(EDTA、Gibcoカタログ番号15553−035)
【0039】
方法(Monocyte Isolation Kit II):
細胞密度を血球計算盤上で計数することによって測定する。15ml Corningコニカルチューブに細胞懸濁液を移す。細胞を300RCFで10分間、4℃で遠心沈殿させる。10ml血清用ピペットを使用して上清を除去する。細胞ペレットを10全細胞につき30μLのWBに再懸濁する。10全細胞につき10μLのFcR Blocking Reagentを加える。10全細胞につき10μLのBiotin−Antibody Cocktailを加える。よく混和して、4〜8℃で10分間インキュベートする。10全細胞につき30μLのWBを加える。10全細胞につき20μLのAnti−Biotin MicroBeadsを加える。よく混和して、4〜8℃でさらに15分間インキュベートする。10〜20X標識量のWBを加えることによって、細胞を洗浄する。300RCFで10分間、4℃で遠心する。2ml血清用ピペットを使用して上清を除去する。細胞ペレットを10細胞につき500μLのWBに再懸濁する。MACS MSカラムを磁石の上に取り付ける。
【0040】
カラムを500μLのWBで洗浄する。細胞懸濁液をカラムにロードする。回収管に流出させる(約4分/ml)。カラムを500μLのWBで3回洗浄し、同じ回収管に流出させる。
【0041】
カラムを別の管に取り付けることによって、別の回収管に捕捉細胞を溶出させ、1mLのWBをピペットでカラムに移し、カラムに同梱されているプランジャーで正圧を使用して、細胞を流出させる。2秒/インチの速度で押し出す。
【0042】
上記プロトコールにおいて、手早く操作し、冷却した溶液のみを使用することが重要である。氷上での作業では、MACS MicroBeadsのインキュベーション時間を増やすことが必要である。冷蔵庫内4〜8℃でインキュベートする。緩衝液又は培地はCa2+又はMgを含むべきではない。BSAをゼラチン、ヒト血清アルブミン又はウシ胎児血清などの他のタンパク質に取り替えてもよい。使用する抗凝固剤の種類はプロトコールに影響を及ぼさない。より高温になり、培養時間がより長くなると、非特異的な細胞標識を引き起こす可能性がある。
【0043】
(実施例3)
初代単球バイオアッセイ
初代ヒト単球を活動性炎症(CD−act)期にあるか、又は炎症が治まった寛解(CD−rem)期にあるCD患者の血液から分離した。血液をCD患者から採取し、末梢血単核細胞を分離した。末梢血単球は、実施例2の方法を使用して濃縮した。これらの懸濁液を37℃、加湿、5%COチャンバー中で48時間分化させた。この手法後、細胞はマクロファージに成長している。次いで、増殖培地(対照)又はL−CMを、末梢血単球又は分化マクロファージのいずれかに加え、対照培地又は大腸菌由来LPSのいずれかで細胞を刺激し、3.5時間インキュベートした。これらの培養物からの上清におけるTNFα産生を分析した。
【0044】
使用した材料は、初代末梢血単球;RPMI1640培地(Gibco−Invitrogen);ウシ胎児血清(Gibco−Invitrogen);ペニシリン−ストレプトマイシン溶液(Sigma);大腸菌血清型O127:B8リポ多糖(Sigma、カタログ番号L3137);トランスレチノイン酸(CalBioChem、カタログ番号554720); TNF−α/TNF−SFII ヒトDuoSet ELISA Development Kit(R&D Systems、カタログ番号DY210)であった。
【0045】
末梢血単球はプロトコール、すなわち末梢血単核細胞分離プロトコール(実施例2に記載済)及び単球の負の選択プロトコール(実施例2に記載済)に記載されているように分離する。細胞懸濁培地(PBS)を細胞培養培地(RPMI1640中、10%FBS、2%ペニシリン−ストレプトマイシン)に変える。
【0046】
細胞を1.0×10細胞/mlに希釈する。細胞懸濁液500μlを24ウェルマイクロタイタープレートの各ウェルに植え付ける。細胞を37℃、加湿、5%COチャンバー中で48時間分化させる。バイオアッセイを開始する。5%(v/v)MRS培地及び5%(v/v)ラクトバチルス馴化培地を適切なウェルに加える。ラクトバチルス馴化培地は、MRS培地中ラクトバチルス属の24時間培養物からの上清である。次いで、馴化培地のpHを高速真空乾燥によって調節し、同量の培養培地にペレットを再懸濁する。加湿チャンバーは液体蒸発が最小限になるように設計されているが、48時間インキュベーション後、24ウェルプレート中の細胞懸濁液の量は約475〜485μlに減少する。100ng/mlの大腸菌血清型O127:B8リポ多糖を適切なウェルに加える。37℃、加湿、5%COチャンバー中でインキュベートする。3.5時間インキュベーション後、培養物を1.5ml遠心分離管に集める。1500RCFで5分間、4℃で遠心する。上清を集める。ELISA(Quantikine TNF−α/TNF−SFII ヒトDuoSet)によってサイトカインの発現を試験する。
【0047】
結果−実施例3
CD−rem患者由来の初代単球において、LPSはTNFαの予期された上昇を引き起こし、この上昇はL.ロイテリATCC PTA6475由来のL−CMの存在下で43%阻害することができた。CD−act患者由来の初代単球において、LPSで刺激されたTNFα産生の濃度はやや高く、L.ロイテリATCC PTA6475由来のL−CMによって同一程度に阻害された(図3)。
【0048】
対照培地と比較して、CD−act患者からの初代単球由来の分化マクロファージにおけるLPSに応答したTNFα産生は、L.ロイテリATCC PTA4659由来のL−CMによって50%が、及びL.ロイテリATCC PTA6475由来のL−CMによって60%が著しく阻害された(図4)。THP−1細胞からのデータを確認して、L.ロイテリATCC55730及びL.ロイテリ菌株CF48−3A由来のL−CMは、TNFαの産生を阻害することができなかったどころか、当該対照と比較して、TNFαの産生をそれぞれ22%及び30%増加させた(図4)。
【0049】
これらのデータは、種々のL.ロイテリ菌株は、単球及び分化マクロファージによるTNFα産生にさまざまな影響を及ぼし、L.ロイテリATCC PTA4659菌株及びL.ロイテリATCC PTA6475菌株は、炎症性腸疾患を有するヒトの胃腸管に使用するのに特に適しているという驚くべき発見を確証している。
【0050】
(実施例4)
馴化培地の使用
実施例1の方法を使用して、効果的にTNFαを減少させる1種の菌株由来の馴化培地、本実験ではL.ロイテリATCC PTA−4659由来の培地を選択した。この培地は、de Man、Rogosa、Sharpe(MRS)(Difco、メリーランド州スパークス)で菌株を増殖させることによって大規模に生産された。乳酸桿菌の一夜培養物を1.0のOD600(約10細胞/mlを表す)に希釈し、さらに1:10に希釈し、さらに24時間増殖させた。無細菌細胞の馴化培地を8500rpmで10分間、4℃の遠心分離によって集めた。馴化培地を細胞ペレットから分離し、次いで0.22μm孔のフィルター装置(Millipore、マサチューセッツ州ベッドフォード)でろ過した。次いで、標準的方法を使用して、馴化培地を凍結乾燥し調剤して錠剤を作製した。IBDによって引き起こされる潰瘍を効果的に治療するために、この錠剤をヒトを用いて薬物として使用した。
【0051】
(実施例5)
選択された抗炎症性ラクトバチルスロイテリ菌株の使用
実施例1の方法を使用して、効果的にTNFαを減少させる1種の菌株由来の馴化培地、本実験ではL.ロイテリATCC PTA−4659由来の培地を選択した。次いで、標準的方法を使用して、L.ロイテリ菌株を凍結乾燥し調製剤化してカプセルを作製した。IBDによって引き起こされるIBD患者の粘膜の炎症を効果的に軽減するために、この錠剤をヒトを用いて薬物として使用した。
【0052】
(実施例6)
有効なラクトバチルス菌株によって産生されるタンパク質の特性付け
L.ロイテリ菌株ATCC PTA4659及びL.ロイテリ菌株ATCC PTA−6475の馴化培地を含む、種々の有効なラクトバチルス馴化培地を、種々の変性化合物で処理して、該細菌由来の推定上のイムノモジュリンの性質を決定した。したがって、馴化培地を凍結融解の繰り返し、熱処理、DNA消化酵素、プロテアーゼ及び不活性化プロテアーゼでの消化に供した。推定上のイムノモジュリンは、このようにして、本来1種又は複数種のタンパク質又はペプチドであることが決定された。推定上のタンパク質イムノモジュリンの大きさを決定するために、馴化培地をろ過によって分画し、ろ液を有効性について試験した。このようにして、有効なラクトバチルス菌株の馴化培地の活性成分は、大きさが約5kDa以下であることが見出された。
【0053】
本発明は、具体的な実施形態を参照して記載されているが、多数の改変例、変更例及び実施形態が可能であり、したがってかかるすべての改変例、変更例及び実施形態は本発明の精神及び範囲内にあるとみなされるべきであることが認識されよう。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】ラクトバチルス馴化培地がLPS活性化単球によるTNF−α産生に及ぼす影響を示す棒グラフである。3種の菌株及び対照を24時間インキュベートした。
【図2】ラクトバチルス馴化培地がLPS活性化単球によるTNF−α産生に及ぼす影響を示す棒グラフである。3種の菌株及び対照を9時間インキュベートした。
【図3】ラクトバチルス馴化培地がLPS活性化初代単球によるTNF−α産生に及ぼす阻害を示す棒グラフである。CD−rem(寛解)及びCD−act(活動性)の患者からの初代単球を使用した。菌株及び対照を24時間インキュベートした。
【図4】ラクトバチルス馴化培地がLPS活性化初代単球によるTNF−α産生に及ぼす影響を示す棒グラフである。CD−act患者からの初代単球を使用した。菌株及び対照を24時間インキュベートした。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラクトバチルスロイテリ(Lactobacillus reuteri)ATCC PTA−6475の生物学的に純粋な培養物。
【請求項2】
請求項1に記載の培養物由来の馴化培地を投与することを含む、炎症性腸疾患における炎症を治療する方法。
【請求項3】
炎症性腸疾患における炎症の治療に有効な細菌株を選択する方法であって、ヒト源由来のTHP−1単球細胞系を使用して、TNFαを減少させるのに有効な菌株を特定することを含む方法。
【請求項4】
請求項3に従って選択される細菌株の細胞を投与することを含む、炎症性腸疾患における炎症を治療する方法。
【請求項5】
請求項3に従って選択される細菌株の培養物が増殖した後のラクトバチルス馴化培地中に存在する5kDaのタンパク様物質を含む、潰瘍を治療するのに有効な成分。
【請求項6】
請求項3に従って選択される細菌株の培養物由来の馴化培地を含む、炎症性腸疾患患者に投与するための生成物。
【請求項7】
請求項3に従って選択される細菌株の培養物を含む、炎症性腸疾患患者に投与するための生成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2008−538288(P2008−538288A)
【公表日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−506408(P2008−506408)
【出願日】平成18年4月12日(2006.4.12)
【国際出願番号】PCT/SE2006/000434
【国際公開番号】WO2006/110088
【国際公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【出願人】(507340120)バイオガイヤ エービー (5)
【Fターム(参考)】