説明

哺乳類卵母細胞発達適格性の顆粒膜マーカーおよびその使用

本発明は子宮着床および生個体への発達のための卵母細胞の応答能に関連する。本発明は、より具体的には、卵母細胞吸引が補助生殖技術において行われるので、卵母細胞吸引の期間中に卵母細胞と一緒に採取される顆粒膜細胞において検出および測定されるマーカーに関連する。マーカーには、RT−PCRを使用して検出および測定されるチトクロームP450アロマターゼ(CYP19A1)、細胞分裂サイクル42(CDC42)、3−β−ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼ1(3βHSD1)、セルピンペプチダーゼ阻害剤クレードEメンバー2(SERPINE2)およびアドレノドキシン(ADX)が含まれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、健康な胎児および生産児に発達するための哺乳類卵母細胞適格性の顆粒膜マーカー、ならびに、その使用に関連する。
【背景技術】
【0002】
卵母細胞の質は、数多くの動物研究およびヒト研究において示されるように、卵母細胞の起原である卵胞に大きく依存する。卵巣刺激および排卵誘導に基づくIVF手法の期間中に、不均一な卵胞のコホート集団が、それらの状態に差があるにもかかわらず、発達および排卵を行わせるために漸加される。このことは、補助生殖のために回収される卵母細胞の成熟化プロセスにおける非同時性および質における不均一性をもたらす。卵母細胞の発達応答能に関連する要因を決定するためには、また、そのような要因がどのように卵母細胞の質に正の影響を及ぼすかを理解するためには、卵母細胞の質が異なる様々な卵胞をタンパク質レベルおよび遺伝子レベルでこれらの要因について分析しなければならない。
【0003】
以前の研究はこれまで、体外受精の成功を予測するために胚の外観(形態学)に集中する傾向があった。胚の質を精査するための他の手段は胚の生存能を妨げることがあり、このことは、どの胚を母体に移すかという、数個の胚を区別するための客観的判断基準がないことをもたらしている。近年では、動物モデルおよびヒトの両方から得られる様々な科学的証拠は、卵母細胞の質、従って、移植後に着床するその能力が、卵母細胞が取り出される前の卵巣において優勢である卵胞の状態に依存するという仮説を支持し続けている。これは、女性患者から採取された生物学的サンプルにおける標的化合物のレベルを最初に決定し、その後、決定されたその化合物のレベルから、妊娠をIVFによって被験者において確立する確率を予測することを伴った、IVFの結果を予測する方法に至っている。(同じ個体から得られる)異なる卵胞に由来する細胞のプールについて測定される活性は必ずしも常に、個々の卵胞における活性を真に反映しているとは限らず、このことは、1つまたは複数の卵胞が、妊娠を確立する可能性に影響を及ぼす化合物を有することを示唆している。
【0004】
どの卵母細胞が、胚になるために適格であるかを特定することにおける大きな問題の1つが、そのような目的のために設計された手法はどれも、卵母細胞の質または生存能に悪影響を及ぼしてはならないということである。
【0005】
米国特許出願公開第20060147900号は、卵丘特異的なマーカー(例えば、ペントラキシン3)、および、卵母細胞の発達能を明らかにするためにこの卵丘特異的なマーカーを使用する方法を記載する。限られた数のマーカーが記載される。可溶性ペントラキシン3の上昇したレベルが卵胞液において見出され得ること、ペントラキシン3の卵胞液中の濃度は卵母細胞の質のマーカーとして使用できないこと、および、ペントラキシン3の血漿中の濃度が卵巣の過刺激によって影響されないことがこの技術分野では示される(Garlanda他、J.Soc.Gyneclo.Investig.、2006:13:226〜231)。同様にまた、ペントラキシン3の遺伝子発現が顆粒膜細胞において検出されなかった(Matzuk他、2004、Human Reproduction、19:2869〜2874)。
【0006】
この技術分野の状態を考慮した場合、生個体における子宮着床および発達のための卵母細胞の適格性を明らかにするためのマーカーが依然として求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許出願公開第20060147900号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Garlanda他、J.Soc.Gyneclo.Investig.、2006:13:226〜231
【非特許文献2】Matzuk他、2004、Human Reproduction、19:2869〜2874
【非特許文献3】Robert C他(2001)、Biol Reprod 64、1812〜20
【非特許文献4】Fair T(2003)、Anim Reprod Sci、78、203〜16
【非特許文献5】Espey LL、Richards JS(2002)、Biol Reprod、67、1662〜70
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の1つの実施形態によれば、患者から得られた卵母細胞の、体外受精(IVF)、子宮着床および/または出生時の生個体への発達のための応答能を明らかにするための顆粒膜細胞マーカーであって、CYP19A1、CDC42、DPYSL3、3βHSD1、EREG、SERPINE2、SCARB1、INHBA、SPRY2、BACH2、ILST6、ADX、TNFAIP6、SERPINA3、EGR1、NRP1、RGS2およびPGK1、それらの全長cDNAクローンならびにそれらの組合せから選択される少なくとも1つのポリヌクレオチドまたはポリペプチドを含む顆粒膜細胞マーカーが提供される。
【0010】
卵母細胞は哺乳類に由来し得る。卵母細胞および顆粒膜細胞マーカーは1個の卵胞に由来し得る。ポリヌクレオチドはDNA配列またはRNA配列であり得る。
【0011】
本発明の別の実施形態によれば、患者から得られた卵母細胞の、IVF、子宮着床および/または出生時の生個体への発達のための応答能を明らかにするための方法が提供され、この方法は、前記患者から得られた顆粒膜細胞に由来する顆粒膜細胞マーカーの発現レベルを明らかにすることを含み、前記マーカーが、CYP19A1、CDC42、DPYSL3、3βHSD1、EREG、SERPINE2、SCARB1、INHBA、SPRY2、BACH2、ILST6、ADX、TNFAIP6、SERPINA3、EGR1、NRP1、RGS2およびPGK1、それらの全長cDNAクローンならびにそれらの組合せから選択される少なくとも1つのポリヌクレオチドまたはポリペプチドを含み、卵母細胞の顆粒膜細胞に由来する前記マーカーの発現レベルが前記卵胞に由来するコントロール顆粒膜細胞の前記マーカーの発現レベルよりも高いことにより、子宮着床および出生時の生個体への発達に対する前記卵母細胞の適格性が表される。
【0012】
患者は哺乳類であり得る。卵母細胞および前記顆粒膜細胞は1個の卵胞に由来し得る。
【0013】
本発明の方法はさらに、発現レベルをコントロール顆粒膜細胞の発現レベルと比較すること、および、有意な変化を比率または絶対量を使用して示し、卵母細胞の応答能を反映させることを含むことができる。
【0014】
本発明の方法によれば、顆粒膜細胞は排卵前の卵胞液の吸引によって得ることができる。
【0015】
本発明の方法によれば、ADX、CYP19A1、CDC42、SERPINE2および3βHSD1の発現レベルが明らかにされる。
【0016】
本発明の方法によれば、CYP19A1、CDC42、DPYSL3、3βHSD1、EREG、SERPINE2、SCARB1、INHBA、SPRY2、BACH2、ILST6、ADX、TNFAIP6、SERPINA3、EGR1、NRP1、RGS2およびPGK1から選択される少なくとも2つのマーカーの発現レベルが明らかにされる。
【0017】
本発明の方法によれば、CYP19A1、CDC42、DPYSL3、3βHSD1、EREG、SERPINE2、SCARB1、INHBA、SPRY2、BACH2、ILST6、ADX、TNFAIP6、SERPINA3、EGR1、NRP1、RGS2およびPGK1から選択される少なくとも3つのマーカーの発現レベルが明らかにされる。
【0018】
本発明の別の実施形態によれば、卵母細胞のIVF、子宮着床または出生時の生個体への発達のための応答能に対して刺激性または阻害性である化合物をスクリーニングするための方法が提供され、この方法は、下記の工程:
a)顆粒膜細胞を、卵母細胞のIVF、子宮着床または出生時の生個体への発達のための応答能を刺激または阻害する活性についてスクリーニングすべき化合物により処理する工程;
b)前記顆粒膜細胞における請求項1に定義される少なくとも1つのマーカーの発現レベルを明らかにする工程;
c)工程b)で測定された発現レベルを、コントロール顆粒膜細胞の発現レベルと比較し、卵母細胞の応答能を反映させる工程
を含む。
【0019】
コントロール顆粒膜細胞におけるマーカーの発現レベルで割った、処理された顆粒膜細胞におけるマーカーの発現レベルの比率が1.5よりも大きいことにより、前記マーカーの発現における前記化合物の刺激性作用が示され、また、前記比率が1未満であることにより、阻害性作用が示される。
【0020】
処理がインビトロまたはインビボで行われる。
本発明の目的のために、下記の用語が下記において定義される。
【0021】
用語「患者」は、得られた卵母細胞の応答能が本発明に従って検査され、処置が適用され得る動物または哺乳類(これらには、とりわけ、ヒト、霊長類、ウシ、ブタ、ヤギ、齧歯類、有蹄類、脊椎動物、ウマ、ネコ、鳥類、反芻動物が含まれるが、これらに限定されない)を意味することが意図される。患者の用語は、同じことを意味することによって本明細書中では交換可能に使用される被験者または個体の用語と、代替では同一であることが認められ得る。
【0022】
本明細書中で使用される用語「レシピエント」は、本発明に従って試験された受精後の卵母細胞または胚が移植されるヒトまたは動物の雌性体を意味することが意図される。当業者は、卵母細胞をインビボ成熟化またはインビトロ成熟化によって所望の段階で得ることができること、同様にまた、胚を体外受精または卵母細胞内への精子核移植によって作製することができることを認識する。
【0023】
本明細書中で使用される用語「応答能」は、着床および生個体への発達についての卵母細胞の応答能または適格性(これらはともに等価である)を意味することが意図される。本発明の主題により、卵母細胞の適格性を明らかにするための予測値が、レシピエントに移植される胚を選択する際にもまた提供される。
【0024】
本明細書中で使用される表現「顆粒膜細胞」により、卵胞の壁細胞が規定される。洞が発達し、大きくなるとき、顆粒膜細胞は2つの機能的な群に分かれる:卵丘細胞と呼ばれる、卵母細胞と直に接触している細胞(卵丘)、および、洞を囲んで卵胞壁を裏打ちする壁顆粒膜細胞。卵丘細胞は、壁顆粒膜細胞とは異なった特徴を発現する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】特注製作された顆粒膜マイクロアレイ(2,278個の転写物)およびAffymetrix社のヒトU133 GeneChip(登録商標)(44,700個の転写物)によるプール1およびプール2についての4つのハイブリダイゼーションのベン図を例示する。数字は、バックグラウンド閾値を超えるシグナルを示す異なる遺伝子の数を表す。括弧内の数字は、バックグラウンド閾値を超えるシグナルを示す異なる転写物の数を表す。
【図2】示差的発現(P<0.05)を、妊娠をもたらした卵胞に由来する顆粒膜細胞(陽性群)および発達の停止した胚を生じた卵胞に由来する顆粒膜細胞(陰性群)において示した、リアルタイムPCRによるmRNAレベルの定量化を例示する。**は遺伝子内での有意な差を示す(P<0.01)。は遺伝子内での有意な差を示す(P<0.05)。結果は平均±SEMとして表し、t検定分析によって分析した。
【図3】有意な示差的発現(P<0.05)を示さないが、妊娠をもたらした卵胞に由来する顆粒膜細胞(陽性群)および発達の停止した胚を生じた卵胞に由来する顆粒膜細胞(陰性群)において示差的に発現される傾向を示す、リアルタイムPCRによるmRNAレベルの定量化を例示する。結果は平均±SEMとして表し、t検定分析によって分析した。
【発明を実施するための形態】
【0026】
次に、本発明が、本発明の好ましい実施形態が示される添付された図面を参照して本明細書中下記においてより詳しく記載される。しかしながら、本発明は多くの異なる形態で具体化することができ、従って、本明細書中に示される実施形態に限定されるように解釈してはならない。むしろ、これらの実施形態は、本開示が完璧かつ完全であり、本発明の範囲を当業者に十分に伝えるように提供される。
【0027】
本発明によれば、得られた顆粒膜細胞が測定される同じ卵胞に由来する卵母細胞の、着床または生個体への発達(または、より正確には、成功した着床)に対する適格性を予測すること、具体的には、体外受精(IVF)および雌性個体における着床の結果を予測することを、顆粒膜細胞におけるそれらの測定により可能にするポリペプチド、および、そのようなmRNAまたはポリペプチドをコードするヌクレオチド配列が提供される。
【0028】
本発明はまた、IVFの結果、または、補助生殖処置のための雌性個体の好適性を明らかにするためのそのような診断方法に関連する。卵母細胞は、壁顆粒膜細胞の表現型の分化を抑制すること、および、卵丘細胞の表現型の分化を促進させることによってその環境を制御する。卵母細胞はこの抑制を不安定なパラ分泌シグナル伝達因子の分泌によって達成する。この調節機能における誤りは、これが卵母細胞由来リガンドの産生における欠陥によって引き起こされようとも、または、卵母細胞由来リガンドに対する顆粒膜細胞の応答によって引き起こされようとも、胚の発達を受けることができない卵母細胞の産生、または、異常な卵胞発達を受ける卵母細胞の産生を生じさせることがある。
【0029】
本発明によれば、壁顆粒膜細胞または顆粒膜細胞を、この技術分野では知られているように、適切なニードルを用いて患者の膣において卵胞を介して吸引によって直接に集めることができる。この関連では、卵母細胞はインビボ卵細胞として定義される。顆粒膜細胞はまた、患者の身体の外部において卵巣からのその穿刺によって得ることができる。
【0030】
本発明の別の実施形態において、受精した卵母細胞または胚の、レシピエント雌性体の子宮に着床するための応答能、および、生個体に発達するための応答能を明らかにするための顆粒膜特異的なマーカー、ポリペプチド、および、それをコードするヌクレオチドが提供される。従って、本発明のマーカーおよびその使用は、適格な胚のスクリーニングをヒトまたは動物のレシピエント雌性体におけるその移植の前に行うために有用である。
【0031】
本発明の別の実施形態において、顆粒膜細胞が得られる同じ卵胞に起原を有する卵母細胞の、IVF、子宮着床および生産児への発達に対する能力または応答能を明らかにするために顆粒膜細胞において測定される、Fasオンコジーン、Fasリガンド(FasL)、Bax、アポトーシス阻害剤X(XIAP)、NIAP、HIAP−1、HIAP−2、BCLxl、FLIP、PAL31、骨形態形成タンパク質15(BMP−15)、カスパーゼ切断タンパク質またはカスパーゼ活性化タンパク質3、同7、同8または同9、AkTリン酸化タンパク質、DNA結合タンパク質A、マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)、リボソームL27a、Sprouty2、初期増殖応答1、(Erg−1)、ホスファチジルセリンシンターゼ1、チトクロームCオキシダーゼ、メタロプロテイナーゼ(MMP)誘導因子、プロテインキナーゼ阻害剤、逆転写酵素、バーシカンV3変化体、リングフィンガータンパク質13、酸性リボソームタンパク質PO、プロスタグランジン受容体(EP3B)、プロゲステロン受容体、エピレグリン(ERG)、スプライシング因子およびトランスグルタミナーゼ3からなる群から選択されるマーカーが提供される。核酸配列の発現レベルもまた、試験された卵母細胞の応答能を評価するために明らかにすることができる。
【0032】
試験された卵母細胞の顆粒膜細胞におけるマーカーの発現レベルが、(不適格な卵胞をもたらす卵胞の範囲と比較して)適格な卵胞に関連する範囲にある場合、この試験された卵母細胞は、雌性体の子宮壁における着床のために、また、生産児としての胎児と同様に、生個体に発達するために適格であると見なされる。このことは、選択された卵母細胞および胚からの成功した妊娠および健康な乳児を有するためのより良好な予測性をもたらす。本明細書中で定義されるような卵母細胞の適格性を表す、ポリペプチドまたはヌクレオチドの形態のもとでの標的マーカーの平均発現レベルは、着床し、また、出産まで胎児において適切に発達する可能性のある卵母細胞を選択または評価するために使用される。
【0033】
本発明の別の実施形態によれば、マーカーの発現レベルが、顆粒膜細胞がその卵母細胞とともに卵胞から吸引によって採取される時点での顆粒膜細胞におけるマーカーポリペプチドまたはその対応するmRNAの測定によって明らかにされる。この技術分野において知られている任意の好適な方法を、マーカーの遺伝子発現を測定するために使用することができる。好適な測定方法には、目的とするmRNAに特異的にハイブリダイゼーションすることができる核酸プローブの使用、標的ヌクレオチド配列を特異的に増幅することができるオリゴヌクレオチドまたはPCRプライマーの使用、および、目的とする遺伝子によって発現されるポリペプチドに特異的に結合することができる抗体の使用が含まれるが、これらに限定されない。遺伝子発現には、遺伝子にコードされる遺伝子情報の、RNA転写酵素による遺伝子の転写によるRNA(例えば、mRNA、rRNA、tRNAまたはsnRNAなど)への変換、および、RNAの、発現された遺伝子に対応するタンパク質またはポリペプチドへの翻訳が含まれるが、これらに限定されない。本発明が行われる状況に依存して、核酸プローブ、オリゴヌクレオチドまたはPCRプライマーは、長さが約5個〜200個の核酸のものであり得る。そのような核酸プローブ、オリゴヌクレオチドまたはPCRプライマーを調製する方法は当業者によって広く知られている。PCR分析が好ましくは、逆転写酵素PCT(RT−PCR)として行われる。逆転写酵素により、RNA分子が、PCRまたはT7ポリメラーゼによって増幅することができるDNAフラグメントに変換される。PCR増幅産物は、その後、精密な定量化のためにリアルタイムで可視化または測定されるゲル電気泳動で泳動することができる(リアルタイムPCR)。より良好な結果のために、PCRプライマーはそれ自体、放射性核酸の染料により印を付けることができる。
【0034】
核酸プローブまたはPCRプライマーなどには、例えば、ハイブリダイゼーションまたは増幅(これらに限定されない)の場合などでは、DNAまたはRNAの任意の知られている塩基アナログが検出の必要性のために挿入され得るDNAまたはRNA、あるいは、マーカー分子が含まれるが、これらに限定されない。他の方法、例えば、マイクロアレイ分析、ノーザンブロット、サザンブロットまたはリアルタイムPCRなど。
【0035】
代替では、抗体を、免疫化学、ELISA(酵素結合免疫吸着アッセイ)、サンドイッチ免疫アッセイ、免疫蛍光光度法、免疫放射測定アッセイ、ゲル拡散沈殿反応、免疫拡散アッセイ、インシトゥー免疫アッセイ、ウエスタンブロット、放射免疫アッセイ(RIA)、特異的な抗体もしくはそのフラグメントと、規定された分析物を混合物において定量するための放射能標識された検出体分子とを使用する生化学的方法、または、特定の分子を標的とするために抗体を使用するこの技術分野で知られている任意の他の方法を行うために使用することができる。多くの免疫アッセイを、色素または他のマーカーを放射性標識の代わりに使用して行うことができる。抗体、すなわち、免疫グロブリンは、抗原またはエピトープを認識し、これに特異的に結合するタンパク質である。エピトープは、特異的な抗体に結合する抗原の一部である。エピトープを介する抗体の特異性の程度が、その標的エピトープ、すなわち、抗原にだけ結合するか、または、その標的エピトープ、すなわち、抗原に結合しないその能力によって定義される。抗体には、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体およびFabフラグメントが含まれるが、これらに限定されない。単鎖抗体および二重鎖抗体もまた含まれる。抗体はまた、この技術分野では知られているようなインビボ画像化検出のために使用することができる。このことは、女性または動物の雌性体の身体に直接に標的化されたカーマーの検出を可能にするか、また、この女性または動物の雌性体が、受精、着床または子宮発達に適格な卵母細胞を有するかを予測することを可能にする。本発明のマーカーが所望の比率に従って検出されるとき、試験された女性または動物の雌性体は、受精し、適切に妊娠するために適格であると見なすことができる。
【0036】
本発明の別の実施形態において、卵母細胞の応答能を1つの発現プロフィルの発現レベルの測定によって検討することができる。後者は、試験された卵母細胞の遺伝子発現プロフィルのパターンを引き出すことを可能にし、この発現プロフィルにより、本明細書中で定義されるような卵母細胞の応答能をより細かく明らかにする可能性が与えられる。
【0037】
試験された卵母細胞におけるマーカーの発現レベルが、適格な卵母細胞の群における同じマーカーの平均レベルよりも低い場合、その卵母細胞は、受精または着床するために適格でない可能性があると見なされる。これに反して、コントロール(適格群)と類似するマーカーの発現レベルを有する試験された卵母細胞は、IVF、着床および子宮内発達に適格であるとして分類される。コントロール卵母細胞におけるマーカーの発現レベルに対する、試験された卵母細胞におけるマーカーの発現レベルの比率は、卵母細胞が、IVF、着床、および、生産児への子宮発達に適格であるためには、コントロールを越える約1.5から、150までが可能であり、好ましくは2を超えることができる。
【0038】
1つの実施形態において、マーカーを検出するためのパネルおよびキットが提供される。試験された卵母細胞の応答能マーカーの存在が、試験された卵母細胞がIVFを適切に可能にするか、または、移植後に子宮に着床することを可能にする可能性を明らかにするために使用される。本発明のパネルおよびキットは、数個のマーカーを同時に分析するために使用することができ、また、遺伝子発現プロフィルを与える結果を提供するために使用することができる。
【0039】
薬物スクリーニング
本発明の別の実施形態において、本明細書中に記載されるような本発明のマーカーの発現を増大または低下させることができる候補化合物をスクリーニングするための方法が提供される。例えば、しかし、限定されないが、インビトロ培養条件に置かれる単離された顆粒膜細胞をいくつかの化合物による処理に付し、その後、卵母細胞応答能マーカーの遺伝子発現レベルの増大または低下を測定するために、従って、化合物の影響を反映するために試験することができる。この方法は、卵母細胞の応答能に対して刺激性または阻害性である化合物のスクリーニングを可能にする。同じ化合物試験をインビボ条件で行うことができる。すなわち、女性患者または動物患者への化合物の投与を行うことができ、これにより、卵巣の刺激状態を、本明細書中に記載されるような適格な卵母細胞の産生について試験することができる。
【0040】
応答能の誘導
本発明の別の実施形態において、卵母細胞において非適格と見なされる卵母細胞を、IVF、着床および子宮発達に対して適格にするための方法が提供される。本発明の方法では、非適格な卵母細胞を、本明細書中上記で定義されるように、卵母細胞応答能マーカーの発現を刺激することが知られている因子により処理することが含まれる。その後、本発明のマーカーの測定により、その刺激が効率的であったかが示される。代替として、本発明のマーカーおよびその使用方法を、ホルモン処置に対する女性または動物雌性体の応答性を評価するために使用することができる。この実施形態によって、黄体形成ホルモン(LH)またはヒト絨毛性ゴナドロピン(hCG)の使用、あるいは、卵胞刺激ホルモン(FSH)の濃度を低下させることが、限定ではないが、ホルモン処置がどのように卵母細胞応答能および応答能マーカーのそのレベルを高め得るかの例である。
【0041】
本発明が、本発明の範囲を限定するためではなく、むしろ、本発明を例示するために示される下記の実施例を参照することによってより容易に理解される。
【実施例1】
【0042】
適格な卵母細胞に関連するヒト卵胞細胞におけるマーカー
卵胞細胞の収集
卵胞細胞を、Ottawa Hospital(カナダ)の不妊症センターにおいて女性の同意によりIVF処置を受けている女性(n=40)から得た。これらの女性は、子宮内膜症、卵管性不妊症または特発性不妊症の診断を受けていたが、多嚢胞性卵巣症候群(PCO)を有していなかった。手法が、Ottawa Hospitalの研究倫理委員会からの承認により行われた。卵巣刺激の後、卵胞液、卵胞細胞、および、個々の卵胞に由来する卵母細胞を、二重管ニードルを使用する超音波誘導の卵胞吸引によって集めた。卵母細胞および周囲の卵丘細胞をIVF処置のために取り出した。残りの卵胞液を、それぞれの個々の卵胞について、800Xgにおいて室温で10分間遠心分離して、壁顆粒膜細胞を含有する卵胞細胞を単離した。得られたペレットを4℃で500μlのリン酸塩緩衝化生理的食塩水溶液(PBS)に懸濁し、クライオバイアルに移した。2000Xgにおける室温での1分間の遠心分離の後、上清を除き、細胞を液体窒素で急速冷凍し、RNA抽出まで液体窒素中に保存した。受精プロセスの後、卵母細胞を取り囲む卵丘細胞もまた、卵胞細胞の単離について記載されたのと同じプロトコルを使用して個々の卵胞毎に回収した。
【0043】
1個〜15個の範囲の卵胞が患者あたり平均して7.48個の卵胞について吸引され、平均して4.13個の胚が女性あたり得られた。それぞれの卵胞からもたらされるデータ(受精、胚発達、胚形態学、移植および妊娠)が発生学者によって記録された。使用されたIVFプロトコルに依存して、1個または2個の胚(平均して1.4個)が合計で34名の患者について3日目(67%)または5日目(33%)のどちらかで移植され、全体での移植あたりの妊娠率は53%であった。妊娠が、6週〜8週での超音波による胎児鼓動の存在によって確認された。
【0044】
処置の割り当て(表1)
壁顆粒膜細胞について、卵胞の3つのプール[プール1(n=6)、プール2(n=15)およびプール3(n=9)]が、成功した妊娠をもたらした卵母細胞から作製され、これらは、陽性群1、陽性群2および陽性群3とそれぞれ呼ばれた。これらのプールを使用して、適格な卵胞に関連するRNAを得た。3つのさらなるプール[プール1(n=6)、プール2(n=15)およびプール3(n=9)]が、その発達を8細胞段階の前に停止させた胚をもたらした卵胞を含有する陰性群1、陰性群2および陰性群3にそれぞれ割り当てられた。これらには、着床しなかった1つの胚が含まれる(群1)。プール1が、特注製作のcDNAマイクロアレイを作製するためにを使用され、陽性群および陰性群の両方に由来するプール1およびプール2がアレイのハイブリダイゼーションのために役立ち、一方、3つすべてのプールがQ−PCR分析のために役立った。陽性群1および陰性群1の両方について選択された同じ卵胞に由来する卵丘細胞を、特注製作のcDNAマイクロアレイを作製するために別々に使用した。
【0045】
【表1】

【0046】
RNAの単離
壁顆粒膜細胞および卵丘細胞の両方からの総RNAを、1mlのTrizol試薬(Invitrogen、Burlington、カナダ)を製造者のプロトコルに従って用いて抽出した。その後、DNAse処理を、DNAse I Amplification Gradeキット(Invitrogen、Burlington、カナダ)を製造者の説明書に従って使用して適用した。抽出されたRNAを30μlの水に溶解し、260nmでの分光光度法によって定量した。総RNAの品質および完全性を、Agilent Bioanalyzer 2100(Agilent Technologies Inc.、Santa Clara、米国)を使用して確認した。
【0047】
マイクロアレイスライドの調製
顆粒膜細胞および卵丘細胞についてのサプレッシブサブトラクティブハイブリダイゼーション(SSH)
BD SMART PCR cDNA Synthesis Kit(Clontech、Mountain View、合衆国)についての製造者の説明書に従って、総RNAのプールからの顆粒膜細胞および卵丘細胞に由来する陽性群1および陰性群1から得られたmRNA(1μg)を逆転写した。サプレッシブサブトラクティブハイブリダイゼーションを、PCR Select cDNA Subtraction Kit(Clontech、Mountain View、合衆国)を製造者の説明書に従って用いて行った。適格な壁顆粒膜細胞および卵丘細胞のそれぞれの群(陽性群1)からそれぞれSMARTキットにより以前に増幅されたDNAがテスターとして役立ち、壁顆粒膜細胞および卵丘細胞の両方の異なる群(陰性群1)についての非適格細胞がドライバーとして役立った。
【0048】
cDNAの配列決定
PCR産物を、pGEM(登録商標)−T Easy Vector(Promega、Nepean、カナダ)を使用してベクターに連結し、その後、DH5−α−T1 Max Efficiency細胞(Invitrogen、Burlington、カナダ)に形質転換した。壁顆粒膜細胞のサブトラクションライブラリーおよび卵丘細胞のサブトラクションライブラリーの両方について、細菌コロニー(1050個)を無作為に選び、200μlのLB培地(BD Biosciences、Mississauga、カナダ)を50μg/mlのアンピシリン(Sigma−Aldrich、Oakville、カナダ)とともに含有する96ウエルプレートにおいて成長させた。コロニーを撹拌とともに37℃で6時間インキュベーションし、その後、挿入されたフラグメントのPCR増幅まで4℃で保った。PCRのために、2μlの細菌上清を、1X PCR緩衝液、0.25μMのdNTP、0.25mMのPCR Nested Primer 1(5’−AGCGTGGTCGCGGCCGAGGT−3’;配列番号1)およびPrimer 2R(5’−TCGAGCGGCCGCCCGGGCAGGT−3’;配列番号2)(Clontech、Mountain View、合衆国)、ならびに、1.25UのHotMaster Taq DNA Polymerase(Eppendorf、Mississauga、カナダ)を含有するPCRミックスに加えた。PCR条件は、2分間の94℃の最初の変性工程と、94℃での20秒の変性工程、65℃での10秒のアニーリング工程および65℃での1分の伸長工程からなる30サイクルと、65℃での7分間の最後の工程とからなった。PCR産物のアリコート(3μl)を、cDNAの長さおよび品質(一本鎖)を確認するために1%アガロース−EtBrゲルで可視化した。2つ以上のバンドを有するアンプリコンは除外された。残っている細菌懸濁物を20%グリセロールにおいて−80℃で保存した。
【0049】
PCR産物を以前の記載のように精製し、配列決定した。配列の軌跡をオンラインフリーウエアのChromas1.45(http://www.technelysium.com.au/chromas.html)により可視化し、配列を、修正(http://www.phrap.org/phredphrapconsed.html)が行われたcDNA Library Manager Program(Genome Canada bioinformatics、Quebec、カナダ)に入力し、GenBankデータベース(http://www.ncbi.nlm.gov/BLAST/)に対して比較した。BLAST結果をそれぞれの付託された配列についてのレポートチャートに編集した。
【0050】
特注製作cDNAマイクロアレイの調製
精製されたPCR産物をスピードバックによりエバポレーションし(SPD SpeedVac ThermoSavant)、等量のジメチルスルホキシド(DMSO)およびHOの溶液に懸濁し、VersArray Chip WriterProロボット(Bio−Rad、Mississauga、カナダ)を使用してGAPSIIガラススライド(Corning、Corning、NY、合衆国)上の異なる場所に2連でスポットした。ヒトの壁顆粒膜細胞サブトラクションライブラリーおよび卵丘細胞サブトラクションライブラリーに加えて、本発明者らの研究室で以前に得られた他のライブラリーもまた2連でスライドにスポットした。これらのライブラリーはウシの卵丘細胞サブトラクションライブラリーおよびウシの適格な顆粒膜細胞サブトラクションライブラリーに由来する(Robert C他(2001)、Biol Reprod 64、1812〜20)。SpotReport AlienおよびPlant cDNA Array Validation System(Stratagene、Ottawa、カナダ)を陰性コントロールとして印刷した。ヒトのアクチンcDNA、チューブリンcDNAおよびGAPDH cDNAが陽性コントロールとして作用し、緑色蛍光タンパク質(GFP)のフラグメントを外因性の陽性コントロールとして使用した。その後、DNAを紫外線(300mV)により架橋し、品質コントロールをTherminal Deoxynucleotidyl Transferase Assay(GE healthcare、Quebec、カナダ)により行った。
【0051】
マイクロアレイのハイブリダイゼーション
特注製作cDNAスライドのハイブリダイゼーション
壁顆粒膜細胞の陽性群2および陰性群2に由来する総RNAを、RiboAmp(商標)RNA Amplificationキット(Molecular Devices、Mountain View、合衆国)を製造者の説明書に従って使用して増幅した。簡単に記載すると、総RNAを、T7RNAポリメラーゼのプロモーター配列を取り込むプライマーにより逆転写した。二本鎖cDNAを合成し、カラム精製し(Qiagen、Mississauga、カナダ)、T7ポリメラーゼを使用するインビトロ転写を行わせるためのテンプレートとして使用した。この包括的な増幅が1回の反応によって線形的に増幅され、得られたaaRNAをカラム精製し、UTP−アミノアリルRNA(aaRNA)の量を260nmでの分光光度法によって推定した。プローブを、Molecular Probesから得られるプロトコルに従ってAlexa Fluor555およびAlexa Fluor647の反応性色素パック(Invitrogen、Burligton、カナダ)により標識した。スライドを、SlideHyb#1緩衝液(Ambion、Austin、合衆国)を使用して、標識された精製プローブと55℃(cDNAについて)または50℃(RNAについて)で一晩ハイブリダイゼーションした。ハイブリダイゼーションを、Advacard AC3C(The Gel Company、San Francisco、米国)を使用してArrayBoosterにおいて行った。その後、スライドを、55℃(cDNAについて)または50℃(RNAについて)で15分間、2xSSC/0.5%SDSにより2回洗浄し、次いで、55℃(cDNAについて)または50℃(RNAについて)で15分間、0.5xSSC/0.5%SDSにより2回洗浄した。
【0052】
特注製作cDNAマイクロアレイのハイブリダイゼーションのための実験設計
2回のハイブリダイゼーションを、患者の異なるプール(群1および群2)を使用して行った。最初のハイブリダイゼーションのために、ヒト壁顆粒膜細胞ライブラリー(陽性群1および陰性群1)に由来するフォワードサブトラクション後のPCR産物を、特注製作cDNAマイクロアレイにハイブリダイゼーションさせるためのプローブとして使用した。2回目のハイブリダイゼーションのために、1回のT7によって増幅された陽性群2および陰性群2の両方に由来するRNAをプローブとして使用した。
【0053】
スライドを、VersArray ChipReader System(Bio−Rad、Mississauga、カナダ)を使用して走査し、ChipReaderおよびArrayPro Analyzerソフトウエア(Media Cybernetics、Bethesda、米国)を使用して分析した。データ分析を以前に記載された通りに行った。それぞれの反復実験物についての蛍光シグナル強度をlog変換し、Loess法によって正規化し、バックグラウンドについて補正した。バックグラウンドシグナル閾値の決定を、バックグランドを決定するSpotReport cDNAコントロール(Stratagene、Ottawa、カナダ)を用いて行った(t=m+2xsd、式中、「t」は、計算された閾値であり、「m」は平均であり、「sd」は陰性コントロールデータ(n=58)の標準偏差である)。閾値を超える転写物を、顆粒膜細胞に存在すると見なし、これに対して、それ以外の転写物を分析から除外した。1つの反復実験物がバックグラウンドよりも低かったならば、そのクローンは分析から完全に除外された。両方のハイブリダイゼーションについて、logの比が2を越える候補物が列挙され、両方のリストに現れる候補物にはより多くの注意を払った。
【0054】
Affymetrtixスライドのハイブリダイゼーション
2つのAffymetrixヒトゲノムアレイを、CREMO(Centre de recherche du CHUL、Quebec、カナダ)において陽性群1および陽性群2ならびに陰性群1および陰性群2によりそれぞれハイブリダイゼーションした。逆転写によって合成された二本鎖cDNAを250ngのRNAから得て、これをAffymetrixの説明書に従って2回増幅した。ビオチン標識されたaRNAを、壁顆粒膜細胞に由来するcDNAから作製し、Affymetrixヒトゲノムアレイ(HG−U133_Plus_2アレイ)(Affymetrix、Lexington、合衆国)(http://www.affymetrix.com/technology/index.affx)をプローブするために使用した。この遺伝子チップは、33,000個の十分に裏付けられたヒト遺伝子(44,700個の転写物)についてのプローブを含有する。ハイブリダイゼーションおよび洗浄を、Affymetrix遺伝子チップシステムを製造者の説明書に従って使用して行った。遺伝子の平均差および発現レベルを、製造者によって勧められるような無条件分析アルゴリズムおよび比較分析アルゴリズムに従って計算した。2を越える比率(陽性群:陰性群)を、候補物を選択するために使用した。
【0055】
候補遺伝子の選択
さらなる分析のためのクローンのクローン選択は、特注製作cDNAアレイスライドおよびAffymetrixスライドから得られるマイクロアレイ結果に基づいた。その後、合計で115個の異なるマーカーが選択され、異なるライブラリーにおけるそれらの存在数、ヒト顆粒膜ライブラリーにおけるそれらの存在、同じライブラリーにおけるそれらの繰り返し、および、シグナル強度に従って類別された。選択および類別を行った後、10個の候補遺伝子を定量的リアルタイムPCRによって妥当性評価し(CYP19A1、CDC42、HSD3β1、SERPINE2、ADX)、2つのハウスキーピング遺伝子(アクチンおよびGAPDH)を内部コントロールとして使用した。
【0056】
リアルタイムPCR
それぞれの候補遺伝子のプライマーを、本発明者らのライブラリー配列に対応するNCBI由来の配列を使用してPrimer3ウエブインターフェースにより設計した(表2)。
【0057】
リアルタイム分析では、陽性群および陰性群についての壁顆粒膜細胞の3つの異なる群が、既に発表された同じ手順により測定および比較された。簡単に記載すると、それぞれのサンプルについて、逆転写酵素を、Sensiscriptキット(Qiagen、Mississuga、カナダ)を製造者の指示書に従って用いて50ngの顆粒膜細胞RNA(これは分光光度法によって定量された)を使用して行った。GFPのRNA(7pg)を反応のための外因性コントロールとしてRNA混合物に加えた。正しい生成物が増幅されたことを確認するために、すべての増幅物をアガロースゲル(2%)で視覚化し、その後、配列決定した。
【0058】
【表2】

【0059】
統計学的分析
増幅されたcDNAのすべてのプールにおけるそれぞれの遺伝子についてのデータの正規化を、既に発表されているように、GFP RNAのレベルに対する比として計算することによって行った。データは平均±SEMとして表される。GAPDHおよびβ−アクチンのハウスキーピング遺伝子が、RNA品質の安定性を確認するために評価された。陽性群と、陰性群との間におけるmRNA差の評価を、ノンパラメトリック両側t検定によって行った。差は、95%の信頼水準(P>0.05)で統計学的に有意であると見なされた。
【0060】
結果
サプレッシブサブトラクティブハイブリダイゼーション
SSH技術を使用して、本発明者らは、mRNAサブトラクションを、成功した妊娠をもたらした6個の卵胞(陽性群1)から得られる逆転写物、および、発達が不良であった胚を引き起こした6個の卵胞(陰性群1)から得られる逆転写物に対して行った。クローニングおよび形質転換の後、1050個のクローンがそれぞれのサブトラクションライブラリーから選択され、この場合、ヒトの壁顆粒膜細胞のサブトラクションライブラリーに由来する852個のクローン、および、ヒトの卵丘細胞のサブトラクションライブラリーに由来する842個のクローンが、1つだけの挿入物について陽性であった(表3)。その後、クローンを配列決定し、ヌクレオチド−ヌクレオチドBLAST(blastn)プログラムをNCBIデータベースに対して使用して分析した。顆粒膜細胞サブトラクションライブラリーおよび卵丘細胞サブトラクションライブラリーにおいて、総配列の89%および68%が、機能が既知である遺伝子にそれぞれ由来し、これにより、合計で465個および645個の特有配列がそれぞれのライブラリーにおいてもたらされた(表3)。これら2つのサブトラクションライブラリーはわずかに58個の特有配列を共有するだけであり、従って、これらの遺伝子は、これら2つの細胞集団が異なる潜在的な候補遺伝子のレパートリーを有するという証拠となっている。
【0061】
【表3】

【0062】
特注製作の顆粒膜マイクロアレイの設計
1200を越える異なる遺伝子をコードする2278個の転写物を含有する卵胞細胞ESTのcDNAマイクロアレイを、ヒトおよびウシのサブトラクション後の顆粒膜細胞ライブラリーおよび卵丘細胞ライブラリーから作製した。予備的ハイブリダイゼーションでは、ヒトプローブがヒトおよびウシの両方のcDNAマイクロアレイと首尾良くハイブリダイゼーションし得ることが明らかにされた。
【0063】
マイクロアレイのハイブリダイゼーション
2回のハイブリダイゼーション実験を特注製作の顆粒膜マイクロアレイにより行った(図1)。最初のハイブリダイゼーションを、SSH技術によって得られたサブトラクションサンプルにより行った。合計で2278個の転写物のうちの合計で1503個の転写物が陽性群(潜在的な真の陽性)についての強い比率を明らかにした。2回目のハイブリダイゼーションにおいて、本発明者らは、異なる患者群(陽性群および陰性群)に由来する壁顆粒膜細胞の別のプールを使用し、陽性群についての強い比率を有する593個の転写物を得た。これらの2回のハイブリダイゼーションのための材料が、遺伝子のより厳しい群が両方のハイブリダイゼーションにおいて陽性であったことをもたらした異なる増幅手法によって、すなわち、SMART−PCRおよびT−7増幅によってそれぞれ得られたことに留意することは重要である。
【0064】
特注製作の顆粒膜マイクロアレイでの2つの異なるプールに由来する陽性クローンのリストの比較では、両方のハイブリダイゼーションにおける強い強度(2を越える比率)を有する288個の異なる遺伝子の特定がもたらされた。それは、特注製作の顆粒膜マイクロアレイの総転写物の13%を表す。
【0065】
ヒトのAffymetrix GeneChip(登録商標)については、合計で325個および505個の遺伝子が、2より大きい比率を、これら2回のハイブリダイゼーションについてそれぞれ、陽性群と、陰性群との間において有した。Affymetricチップでの顆粒膜マイクロアレイハイブリダイゼーションのために使用された同じ2つのプールの比較により、24個の遺伝子が特定された。Affymetrixスライドは、顆粒膜細胞に対して特異的でない、従って、これまでに陽性となっていない大多数の遺伝子を含有する(44,700個の転写物のうちの0.05%)。そのうえ、特注製作マイクロアレイのハイブリダイゼーションおよびAffymetrix Chipsのハイブリダイゼーションの両方の比較では、これら2つの異なるChipを用いて、13個の遺伝子が第1のプール(群1)について共通しており、また、9個の遺伝子が第2のプール(群2)について共通していたことが示された。これらの遺伝子リストの間には重複がほとんどなかった。CYP19A1が、強い比率を4回のハイブリダイゼーションのすべてにおいて有した唯一の遺伝子である。
【0066】
リアルタイムPCRによる候補遺伝子の選択
適格な候補遺伝子の選択は、両方のプラットフォームでのハイブリダイゼーションの結果に基づいた。特注製作マイクロアレイのハイブリダイゼーションについては、シグナル強度について2より大きいlog比率を、陽性で表されると見なした。異なるパラメーターを潜在的な候補物の選択のために使用した。クローンを選択し、それらの知られている機能、それらのハイブリダイゼーション強度、および、2つ以上のハイブリダイゼーションでのそれらの存在、同じライブリーにおけるそれらの存在数に従って分類した。さらには、本発明者らは、卵母細胞の応答能に関与することが知られている機能を有するクローンを選択している。
【0067】
リアルタイムPCR
リアルタイムPCRを、それぞれの群(陽性群および陰性群)に由来するヒトの壁顆粒膜細胞の3つのプールのすべてを用いて行った。ハウスキーピング遺伝子(β−アクチンおよびGAPDH)の発現は両方の群で類似していた(P>0.05)(表5)。選択された18個の候補遺伝子から、5個の遺伝子(ADX(P=0.0203)、CYP19A1(P=0.0359)、cdc42(P=0.0396)、SERPINE2(P=0.0499)および3βHSD1(P=0.0078))が、統計学的な差を、適格細胞群と、非適格細胞群との間で有していた(P<0.05)(図2)。3βHSD1(P=0.0078)はより大きい遺伝子発現を陽性群において有した(P<0.01)(図2)。EGR1(P=0.1117)、PGK1(P=0.1231)、NRP−1(P=0.1424)、RGS2(P=0.1456)およびSERPINA3(P=0.1712)などの遺伝子は、主として、測定されたレベルの変化がより大きいことのために、統計学的な差がこれら2つの群の間にはなく、しかし、卵胞の応答能の潜在的な指標物であるとみなすことができた(図3)。
【0068】
本明細書に示される結果により、ヒトにおける成功した妊娠をもたらす胚の質に関連する5個の潜在的な卵胞マーカーが特定されている。これらのマーカーは、アドレノドキシン(ADX)、チトクロームP450アロマターゼ(CYP19A1)、細胞分裂サイクル42(cdc42)、セルピンペプチダーゼ阻害剤クレードEメンバー2(SERPINE2)および3−β−ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼ1(3βHSD1)である。
【0069】
本発明者らは、これらのマーカーが壁顆粒膜細胞に由来するであろうと考えており、だが、本発明者らは、卵胞液吸引の方法を用いた場合、顆粒膜細胞の純粋なサンプルを得ることが困難であることを承知している。卵胞細胞は、いくつかの卵丘細胞、血液細胞、および、おそらくは、いくつかの間質細胞/卵胞膜細胞を含有することがあり、しかし、本発明者らのプロトコルは、候補遺伝子に現れる混入物の可能性を低下させるために組み立てられた。最初に、陽性群および陰性群の両方に存在するならば、サブトラクティブハイブリダイゼーションにより、何らかの混入クローンが除かれているにちがいない。第2に、臨床的局面のために、分析されたサンプルに存在する細胞集団は、正常なIVFにおいて回収される生物学的組織サンプルを反映しなければならず、そのような場合、陽性マーカーは、たとえ、顆粒膜細胞に起原を有しなくても、有用であり得る。最後に、75%の純度を有するサンプルが、特注製作アレイおよびAffymetrixマイクロアレイ技術の両方を使用する遺伝子発現プロフィルにおいて、純粋なサンプルと区別できなかったことが示されている。
【0070】
本研究では、2つのプラットフォームが組み込まれた(候補遺伝子の選択のための判断基準を強化するために2つの異なる種を有する特注製作マイクロアレイおよびAffymetrixアレイの両方)。2回の異なるハイブリダイゼーションを、最初に偽陽性を除くために特注製作マイクロアレイを用いて行い、次いで、RNAの新しいプールを用いて行った。これら2回のハイブリダイゼーションでは、陰性群と比較して、適格な胚を伴う陽性群においてより高い発現を有する288個の遺伝子が共有された(顆粒膜マイクロアレイにおける総転写物の12.64%)。Affymetrix Chipに関しては、24個の転写物(チップにおける総転写物の0.05%)のみが両方のハイブリダイゼーションにおいて2よりも大きい比率を示した。Affymetrix U133アレイChip(登録商標)はヒトゲノムを表すので、特注製作の顆粒膜マイクロアレイにおける遺伝子のすべてがAffymetrix U133アレイChip(登録商標)に存在すると考えるならば、このことは低い。従って、1つだけの遺伝子、すなわち、CYP19A1が、2つのチップにわたってこれら4つの異なるハイブリダイゼーションに存在したことは驚くべきことである。いくつかの研究では、より再現性のある結果を与える、クロスプラットフォームマイクロアレイの付加価値が明らかにされており、しかし、様々なプラットフォームが、異なる実験プロトコル、ハイブリダイゼーションおよび分析に基づくので、アレイのいくつかの供給源からの比較は複雑であり、また、信頼できないことがある。本発明者らの結果は、本発明者らの研究室で作製された特注製作の顆粒膜マイクロアレイでは、顆粒膜細胞および卵丘細胞において示差的に発現される遺伝子の集団が表されるので、このマイクロアレイ技術が、Affymetrixアレイと比較して、同じ組織での遺伝子発現における微細な違いを検出するためのより大きな感度および正確性を有することを示唆している。
【0071】
候補遺伝子を選択した後、18個の遺伝子の発現レベルが、卵胞応答能におけるそれらの起こり得る関与についてのマーカーとしてのそれらのロバストネスについてより精密に評価され、5個(28%)の遺伝子が、陽性群と、陰性群との間で統計学的に有意であった。候補物の妥当性確認についてのこれらの結果は、ライブラリーサブトラクションを使用する類似するマイクロアレイ研究、および、定量的リアルタイムPCRによるさらなる妥当性確認と一致している(Fair T(2003)、Anim Reprod Sci、78、203〜16)。
【0072】
本研究では、妊娠をもたらす卵胞において著しくより多く発現される遺伝子のうちの3つ(ADX、3βHSD、CYP19A1)がステロイド生成に関与する。アドレノドキシン(ADX)および3−β−ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼ1(3βHSD1)はプロゲステロン合成に関与し、一方、チトクロームP450アロマターゼ(CYP19A1)は顆粒膜細胞においてアンドロゲンをエストラジオール−17βに代謝する。アドレノドキシン(ADX)はフェレドキシンファミリーのメンバーであり、ミトコンドリアのチトクロームP450のための電子伝達系における構成要素である。ミトコンドリアにおいて、プレグネノロンが、ADX、アドレノドキシントランスフェラーゼ、および同様に、チトクロームP450−側鎖切断(チトクロームP450scc)によってコレステロールから産生される。その後、プレグネノロンは顆粒膜細胞において3βHSDによってプロゲステロンに代謝され得る。
【0073】
hCG投与後、ADXのmRNA発現がラットの顆粒膜細胞において強くアップレギュレーションされ、処置後4時間で最大の発現に達する。その後、mRNA発現は排卵まで徐々に低下する(hCG後12時間)(Espey LL、Richards JS(2002)、Biol Reprod、67、1662〜70)。同様に、LHまたはhCGはラットの顆粒膜細胞における3βHSDのmRNA発現の主要な刺激因子であり、また、ADXのように、3βHSDのmRNA発現が排卵前に低下する。ウシの顆粒膜細胞における3βHSDの発現は、優位な卵胞において、他の劣位な卵胞よりも高く、このことは、3βHSDが、優位な卵胞の選択機構に関連し得ることを示唆する。さらには、他の研究では、優位な卵胞はヒトの顆粒膜細胞において3βHSDの発現を要求することが示された。P450アロマターゼ(CYP19A1)は、優位な卵胞においてFSHによって刺激され、高濃度で発現されることが広く知られている。従って、これら3つの酵素のより高い発現レベルは、ステロイドホルモン(エストロゲンおよびプロゲステロン)の産生に対する、また、おそらくは卵胞優位機構に対するホルモン誘導(FSHおよびLH)に関係づけられるようである。
【0074】
ヒト顆粒膜細胞におけるSERPINE2(P=0.0499)およびcdc42(P=0.0396)のmRNAのレベルもまた、妊娠をもたらした卵胞と相関づけられた。SERPINE2は、標的酵素を阻害するために立体配座の変化を使用するプロテアーゼ阻害剤のファミリーのメンバーである。セルピン類は、至る所に存在するようであり、多くの細胞機能(例えば、アポトーシスおよびクロマチン凝縮など)に関与する。SERPINE2の発現がウシにおける優位な卵胞においてより高く、FSHによって増大し、しかし、LHサージ後に低下する。cdc42は、多くの細胞機能に関与するGTP結合タンパク質のRhoファミリーメンバーのメンバーである。cdc42はアポトーシス進行の速度を遅らせることができ、従って、プログラム化された細胞死に影響を及ぼす。
【0075】
適格な卵胞においてより多く発現されること(P<0.05)、または、適格な卵胞においてより多く発現される傾向があること(0.05>P>0.2)が見出された遺伝子の大多数は、LH(hCG)サージによって誘導されること(3βHSD、ADX、EGR1、SERPINE2、PGK1、RGS−2、SERPINA3)、または、優位な卵胞において発現されること(3βHSD、SERPINE2、CYP19)、または、卵胞の発達に関与すること(NRP−1)、または、抗アポトーシス的役割に関与すること(cdc42)のどれかが知られている。しかしながら、卵母細胞の応答能の良好な指標物であることが見出された遺伝子のいくつかについては、それらの発現が、排卵のとき、より低いことが報告される(CYP19A1、3βHSD、ADX(Espey LL、Richards JS(2002)、Biol Reprod、67、1662〜70)、SERPINE2、EGR1、NRP−1、RGS−2)。
【0076】
黄体形成プロセスが排卵前に始まることが広く知られている。ヒトのIVFでは、卵巣刺激プロトコルの期間中に、LH/hCGの高濃度での注射により、顆粒膜細胞の初期黄体形成を刺激することができる。本研究では、適格な卵母細胞を生じさせる卵胞に由来する顆粒膜細胞において選択される遺伝子は、LH/hCGによって誘導されることが知られている。しかしながら、アドレノドキシン(Espey LL、Richards JS(2002)、Biol Reprod、67、1662〜70)、CYP19A1、SERPINE2のような一部の遺伝子は、黄体を形成する初期段階で発現されることが知られている。LHサージの後では、適格な卵胞は、黄体形成プロセスを迅速に開始させている卵胞であり得る。
【0077】
別の考えられる仮説は、優位な卵胞が排卵前のLHサージの前にLH受容体を徐々に獲得することであり得る。LH受容体のmRNA発現が卵胞の直径の増大とともに直線的に増大する。従って、過剰排卵プロトコルの関連において、優位な卵胞に類似する特徴を有する卵胞が、より多くのLH受容体を含有する。受容体の脱感作がアゴニストの解離によって達成される。しかしながら、hCG/LHはLH受容体との高い親和性を有するので、アゴニストの解離は不可逆的であると見なされる。従って、受容体とのLHの会合、脱感作、リン酸化および内在化は、LH受容体の存在の重要な制御である。このプロセスは受容体の活性化の後における細胞応答を制限することができる。高濃度のLH/hCGは受容体内在化の大きな負のフィードバックを生じさせ、その後、LHに対する標的細胞の脱感作を生じさせる。従って、卵胞刺激プロトコルの関連において、LHに対する最も大きい感受性を有する卵胞は、LH誘導可能な遺伝子の増大した発現により最も強く応答する卵胞であると考えられる。
【0078】
まとめると、マイクロアレイ法は、新しい遺伝子を発見するための、また、卵母細胞の応答能に関する情報を提供するための非常に有用なツールである。この技術は、適格な卵母細胞に関連する顆粒膜細胞のトランスクリプトームを明確にすることを助け、同様にまた、良好な妊娠率をもたらす健全な卵母細胞/胚の選択を改善することを助ける。適格な卵胞において発現される遺伝子に関する情報はまた、機構が十分に理解されると、ヒト患者におけるホルモン処置の精緻化を助ける。
【実施例2】
【0079】
適格な卵母細胞に関連するヒト卵胞細胞における患者内マーカー
卵胞細胞の回収
壁顆粒膜細胞を、Ottawa Hospital(カナダ)の不妊症センターにおいてIVF処置を受けている女性(n=40)から得た。卵管性不妊症、原因不明の不妊症(これには、子宮内膜症(I期/II期/III期)、および、ICSIを必要としないパートナーが含まれる)などの、IVFのための主要な適応症を有する女性が研究に対して募集された。多嚢胞性卵巣症候群(PCO)の患者、または、ICSIを必要とする重篤な男性要因を有するパートナーは研究には含まれなかった。手法が、Ottawa Hospitalの研究倫理委員会からの承認により行われた。
【0080】
卵巣刺激の後、卵胞液、卵胞細胞、および、個々の卵胞に由来する卵母細胞を、二重管ニードルを使用する超音波誘導の卵胞吸引によって集めた。卵母細胞および周囲の卵丘細胞をIVF手法のために取り出した。壁顆粒膜細胞の回収を、実施例1において以前に記載されたように行った。回収手法の後、細胞を液体窒素で急速冷凍し、RNA抽出まで液体窒素中で保存した。
【0081】
それぞれの卵胞からもたらされるデータ(受精、胚発達、胚形態学、移植および妊娠)が発生学者によって記録された。この研究に募集された40名の患者から、本発明者らは、成功した妊娠を有する胚をもたらした卵胞に由来する卵胞細胞(陽性サンプル)、および、その発達を8細胞段階の前に停止させた胚をもたらした卵胞(陰性サンプル)の両方を生じさせた患者を選択している。9名の患者から得られたサンプルはこれらの基準と一致していた。これら9名の患者から、3個〜11個の範囲の卵胞が患者あたり平均して6.44個の卵胞について吸引され、平均して3.77個の胚が女性あたり得られた。使用されたIVFプロトコルに依存して、1個または2個の胚(平均して1.67個)が3日目(7名の患者)または5日目(2名の患者)のどちらかで移植された。合計で5個の陽性サンプルおよび9個の陰性サンプルがQ−PCR分析のために役立った。妊娠が、8名の患者については6週〜8週での超音波による胎児鼓動の存在によって確認され、1名の患者については生化学的妊娠によって確認された。
【0082】
RNAの抽出
顆粒膜細胞からの総RNAを、1mlのTrizol試薬(Invitrogen、Burlington、カナダ)を製造者のプロトコルに従って用いて抽出した。その後、RNAを、DNAse処理を必要に応じて伴うRNeasy総RNAクリーンアッププロトコル(Qiagen)を使用してさらに精製した。RNAサンプルの濃度および完全性を、260nmでの分光光度法により、また、RNAサンプルについてのアリコートをRNA 6000 Nano LabChip(Agilent Technologies)で処理するAgilent Bioanaliser 2100(Agilent Technologies)で評価した。無傷の18Sピークおよび28Sピークを示したRNAのみをリアルタイムPCR分析のためにcDNAに逆転写した。
【0083】
リアルタイムPCR
プライマーの設計および配列は実施例1において以前に記載されている。リアルタイム分析では、個々の卵胞に由来する壁顆粒膜細胞のそれぞれのサンプル(陽性サンプルおよび陰性サンプル)が、実施例1において既に記載された同じプロトコルにより測定および比較された。β−アクチン、グリセロアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)およびユビキチンのハウスキーピング遺伝子が、RNAの質の安定性を確認するために評価された。
【0084】
【表4】

【0085】
分析
患者内リアルタイムPCRによる妥当性確認
異なる陽性サンプルおよび陰性サンプルについての遺伝子発現安定性の分析を、geNormソフトウエアを使用して行った。この分析は、2つの理想的な内部コントロール遺伝子の発現比率が、実験条件または細胞タイプにかかわらず、すべてのサンプルにおいて同一であり、対数変換された発現比率の標準偏差として求められるという原理に依拠する。このソフトウエアを使用して、内部コントロール遺伝子の安定性(M値)を、特定の遺伝子の、残りの遺伝子に関しての平均対偏差として計算し、ランクづけをこれらの値に基づいて行った。最も安定な参照遺伝子が、安定性が最も小さい遺伝子を段階的に排除し、M値を再計算することによって特定された。
【0086】
この分析により、妊娠の結果を伴う胚または胚発達が不良の胚を生じる個々の卵胞に由来する顆粒膜細胞について、各患者のmRNAを定量化することができる。
【0087】
【表5】

【0088】
患者内比率
比率を、リアルタイムPCRによる正規化されたmRNA定量化の間で計算した(陽性胚/陰性胚)。同じ患者における比率1および比率2が陽性胚1または陽性胚2に関してそれぞれ計算される。
【0089】
これらの結果により、本発明者らは、陽性胚と、陰性胚との間でのmRNAレベルの比率を、同じ患者において個々に比較することができる。
【0090】
【表6】

【0091】
主成分分析(PCA)およびペアードt検定分析
6名の患者は、2つの胚が移植され1つの妊娠の結果となった。本発明者らは、移植された胚についての真の陽性および偽陽性を識別するために主成分分析(PCA)を使用した。PCA分析では、ユークリッド距離が使用される。同じ患者に由来する陽性胚と、陰性胚との間での最も接近した距離が、偽陽性であると見なされ、それよりも遠い距離が、真の陽性であると見なされる。偽陰性のデータは統計学的分析のためには棄却される。
【0092】
この分析はさらなる統計学的分析のために必要である。PCA分析の後、有意な差を、真の陽性胚と、陰性胚との間において示す遺伝子を明らかにするためにペアードt検定を行うことができる。
【0093】
【表7】

【0094】
遺伝子発現と、妊娠との間における連関をさらに検討するために、本発明者らは条件的ロジスティック回帰のモデルを行った。このモデルでは、細胞の状態を遺伝子発現の関数で予測することができる。データが対照・事例タイプ(それぞれの女性が陽性細胞(事例)および陰性細胞(対照)を有する)ので、本発明者らは、遺伝子の発現と、細胞の状態との間における関係を調べるために条件的ロジスティック回帰を使用する。この分析を行うために、本発明者らは正確推定法を使用する。
【0095】
【表8】

【0096】
2つの遺伝子が有意な関係を示す(p値<0.05%)。例えば、本発明者らは、確率のロジットと、遺伝子RGS2についての発現のlogとの間における関係の傾きを2.91において推定する。RGS2についての発現のlogが1単位ほど大きくなるとき、確率のロジットが2.91増大する(確率は、そのロジットと同じ様式で変化する)。さらには、この分析に関連するオッズ比により、RGS2遺伝子についてのlog発現の1単位による増大は、正となるべき確率オッズに18.3を乗ずることが示される。
【0097】
加法的確率
1.5または2.0のカットオフ比を用いて、本発明者らは、1つ、2つまたは3つの遺伝子の組合せを行った。百分率を、真の陽性胚および陰性胚により得られた比率を用いてそれぞれの遺伝子について計算した。これらのデータは、真の陽性である、比率が1.5または2.0よりも大きい患者の百分率を示す。
【0098】
これらの確率を用いて、本発明者らは、妊娠を予測するために、遺伝子のより適切な組合せの考えを有することができる。
【0099】
【表9】

【0100】
【表10】

【0101】
本発明がその具体的な実施形態に関連して記載されているが、本発明はさらなる改変が可能であり、従って、本出願は、本発明の何らかの変化、使用または適合化を包含するために意図され、この場合、そのような変化、使用または適合化は、一般には本発明の原理に従うこと、また、本発明が関係する技術分野における既知の実施または慣例的な実施の範囲内に入るような、また、本明細書中前記において示される本質的特徴、および、添付された請求項の範囲においては下記のような本質的特徴に適用され得るような本開示からの逸脱を含むことが理解される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者から得られた卵母細胞の、体外受精(IVF)、子宮着床および/または出生時の生個体への発達のための応答能を明らかにするための顆粒膜細胞マーカーであって、CYP19A1、CDC42、DPYSL3、3βHSD1、EREG、SERPINE2、SCARB1、INHBA、SPRY2、BACH2、ILST6、ADX、TNFAIP6、SERPINA3、EGR1、NRP1、RGS2およびPGK1、それらの全長cDNAクローンならびにそれらの組合せから選択される少なくとも1つのポリヌクレオチドまたはポリペプチドを含む、顆粒膜細胞マーカー。
【請求項2】
前記卵母細胞が哺乳類に由来する、請求項1に記載の顆粒膜細胞マーカー。
【請求項3】
前記卵母細胞および顆粒膜細胞マーカーが1個の卵胞に由来する、請求項2に記載の顆粒膜細胞マーカー。
【請求項4】
前記ポリヌクレオチドがDNA配列またはRNA配列である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の顆粒膜細胞マーカー。
【請求項5】
患者から得られた卵母細胞の、IVF、子宮着床および/または出生時の生個体への発達のための応答能を明らかにするための方法であって、前記患者から得られた顆粒膜細胞に由来する顆粒膜細胞マーカーの発現レベルを明らかにすることを含み、前記マーカーが、CYP19A1、CDC42、DPYSL3、3βHSD1、EREG、SERPINE2、SCARB1、INHBA、SPRY2、BACH2、ILST6、ADX、TNFAIP6、SERPINA3、EGR1、NRP1、RGS2およびPGK1、それらの全長cDNAクローンならびにそれらの組合せから選択される少なくとも1つのポリヌクレオチドまたはポリペプチドを含み、卵母細胞の顆粒膜細胞に由来する前記マーカーの発現レベルが前記卵胞に由来するコントロール顆粒膜細胞の前記マーカーの発現レベルよりも高いことにより、子宮着床および生個体への発達に対する前記卵母細胞の適格性が表される、方法。
【請求項6】
前記患者が哺乳類である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
発現レベルをコントロール顆粒膜細胞の発現レベルと比較すること、および、有意な変化を比率または絶対量を使用して示し、卵母細胞の応答能を反映させることを含む、請求項5または請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記卵母細胞および前記顆粒膜細胞が1個の卵胞に由来する、請求項5〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
顆粒膜細胞が排卵前の卵胞液の吸引によって得られる、請求項5〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
ADX、CYP19A1、CDC42、SERPINE2および3βHSD1の発現レベルが明らかにされる、請求項5〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
CYP19A1、CDC42、DPYSL3、3βHSD1、EREG、SERPINE2、SCARB1、INHBA、SPRY2、BACH2、ILST6、ADX、TNFAIP6、SERPINA3、EGR1、NRP1、RGS2およびPGK1から選択される少なくとも2つのマーカーの発現レベルが明らかにされる、請求項5〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
CYP19A1、CDC42、DPYSL3、3βHSD1、EREG、SERPINE2、SCARB1、INHBA、SPRY2、BACH2、ILST6、ADX、TNFAIP6、SERPINA3、EGR1、NRP1、RGS2およびPGK1から選択される少なくとも3つのマーカーの発現レベルが明らかにされる、請求項5〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
卵母細胞のIVF、子宮着床または出生時の生個体への発達のための応答能に対して刺激性または阻害性である化合物をスクリーニングするための方法であって、下記の工程:
a)顆粒膜細胞を、卵母細胞のIVF、子宮着床または出生時の生個体への発達のための応答能を刺激または阻害する活性についてスクリーニングすべき化合物により処理する工程;
b)前記顆粒膜細胞における請求項1に定義される少なくとも1つのマーカーの発現レベルを明らかにする工程;
c)工程b)で測定された発現レベルを、コントロール顆粒膜細胞の発現レベルと比較し、卵母細胞の応答能を反映させる工程
を含む、方法。
【請求項14】
コントロール顆粒膜細胞におけるマーカーの発現レベルで割った、処理された顆粒膜細胞におけるマーカーの発現レベルの比率が1.5よりも大きいことにより、前記マーカーの発現における前記化合物の刺激性作用が示され、また、前記比率が1未満であることにより、阻害性作用が示される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記処理がインビトロまたはインビボで行われる、請求項14に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2010−503385(P2010−503385A)
【公表日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−527663(P2009−527663)
【出願日】平成19年9月14日(2007.9.14)
【国際出願番号】PCT/CA2007/001633
【国際公開番号】WO2008/031226
【国際公開日】平成20年3月20日(2008.3.20)
【出願人】(509075332)ユニヴェルシテ・ラヴァル (2)
【Fターム(参考)】