説明

噴出ヘッド及びガス消火システム

【課題】消火ガスの供給に基づく騒音を低減する。
【解決手段】対象室内に消火ガスを供給するための供給配管22cの流出口に連結されて、供給配管22cを流通する消火ガスを噴出させる噴出ヘッド41であって、供給配管22cの流出口から供給された消火ガスが流通する膨張室63,64,65を兼ねた第1のガス通路61と、膨張室68,69を兼ねた第2のガス通路62を備え、各経路のガス通路61,62の先端が閉塞されその各閉塞端である前壁45に、第1のガス通路61に連なるガス噴出口66と、第2のガス通路62に連なるガス噴出口70が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消火ガスの噴出ヘッド、及びこれを備えたガス消火システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、対象室内において発生した火災を消火するガス消火システムとして、窒素ガス、二酸化炭素ガス、ハロゲンガス等の不活性ガスや不燃性ガスからなる消火ガスを対象室内に充満させるものがある(例えば、特許文献1参照)。このようなガス消火システムは、水や化学消火剤に弱い大型コンピュータやサーバ等の精密機器類が設置された対象室内の消火に対して特に有効である。
このガス消火システムにおいては、短時間のうちに大量の消火ガスを対象室内に充満させることができるように、対象室内に開口する流出口を、断面を絞り込んだノズル形状とするなどして、流出口から高圧の消火ガスを高速で噴出させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−60984号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述したガス消火システムにおいては、高圧の消火ガスが流出口から対象室内に噴出される際にガス圧力が急激に開放されるため、消火ガスが急激に膨張し、非常に大きな膨張音が発生するおそれがある。
また、対象室内に短時間で消火ガスを充満させるために、消火ガスを流出口から高速で噴出させているが、この噴出流速が部分的に音速を超えると衝撃波が発生し、この衝撃波に起因して騒音が発生する場合がある。
【0005】
そこで、本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、消火ガスの供給に基づく騒音を低減することが可能な噴出ヘッド、及びこれを備えたガス消火システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を採用した。
請求項1に係る発明は、対象室内に消火ガスを供給するためのガス配管の流出口に連結されて、前記ガス配管を流通する消火ガスを噴出させる噴出ヘッドであって、前記ガス配管の流出口から供給された消火ガスが流通する膨張室を兼ねた複数経路のガス通路を備え、前記各経路のガス通路の先端が閉塞されその各閉塞端にガス噴出口が設けられていることを特徴とする噴出ヘッドである。
このように構成することにより、対象室内の消火時に、消火ガスはガス配管の流出口から噴出ヘッド内の複数のガス通路に流入する。各ガス通路は膨張室を兼ねているので、消火ガスはガス通路内に流入して膨張し、その後、ガス噴出口から対象室内に噴出される。このように、ガス配管の流出口から噴出した消火ガスを噴出ヘッド内で一旦膨張させた後に、噴出ヘッドのガス噴出口から対象室内に噴出させるので、ガス噴出口から消火ガスが開放される際に発生する膨張音を低減することができる。
また、複数経路のガス通路を流通した消火ガスは、各ガス通路の先端に設けられたガス噴出口から噴出されるので、対象室内に噴出される消火ガスの総流量を低下させることなく、各ガス噴出口から噴出されるガス流速を低減することができる。これにより、従来のようにノズル形状の噴出口から一括して消火ガスを噴出させる場合に比べて、消火ガスの噴出流速を低減することができ、噴出流速を音速よりも低下させることができる。その結果、衝撃波の発生を防止することができるので、衝撃波に起因して騒音が発生することがない。
【0007】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の発明において、前記各経路のガス通路は迷路状に設けられていることを特徴とする。
このように構成することにより、各ガス通路の流路長を長くすることができ、その途中に複数の膨張室を設けることが可能となる。膨張室が多いほど膨張音に対する低減効果が大きくなる。
【0008】
請求項3に係る発明は、請求項1に記載の発明において、前記各経路のガス通路の先端の前記各閉塞端は同一面上に配置され、互いに隣接して配置された二つの経路のガス通路は、抑制対象音の波長の半波長分だけ流路長さに差を有することを特徴とする。
このように構成することにより、隣接して配置された二つのガス通路のガス噴出口から噴出された消火ガスの抑制対象音同士が打ち消し合うので、抑制対象音の騒音レベルを低減することができる。
【0009】
請求項4に係る発明は、消火ガスを貯留するガス供給源と、消火ガスを前記ガス供給源から対象室内に供給するためのガス配管と、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の噴出ヘッドと、を備え、前記噴出ヘッドが前記ガス配管の流出口に取り付けられていることを特徴とするガス消火システム。
このように構成することにより、既存のガス配管に噴出ヘッドを取り付けるだけで騒音を低減することができ、ガス消火システムの大幅な変更を伴うことがない。そのため、設備コストの増加も抑制することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の噴出ヘッドによれば、消火ガスの供給に基づく騒音を低減することができる。
本発明のガス消火システムによれば、既存のガス配管に噴出ヘッドを取り付けるだけで騒音を低減することができるため、ガス消火システムの大幅な変更を伴うことがない。そのため、設備コストの増加も抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態における消火システムの概略構成図である。
【図2】本発明の第1実施形態における要部断面図である。
【図3】本発明の第2実施形態における要部断面図である。
【図4】ガス配管の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
(第1実施形態)
(ガス消火システム)
図1は、ガス消火システムを示す概略構成図である。
図1に示すように、本実施形態のガス消火システム10は、大型コンピュータ等の精密機器11が設置された対象室12内の消火を行うものであって、対象室12外に設置された消火ガスの供給源(ガス供給源)21と、供給源21と対象室12内とを連通させ、供給源21から供給される消火ガスを対象室12内まで導くガス配管22と、図示しない火災報知器から出力される火災信号に基づいて、ガス配管22に接続された制御弁23の開閉を行う図示しない制御部とを備えている。
【0013】
なお、本実施形態の対象室12は、天井14との間に間隔をあけて天板15が配置される一方、床13との間に間隔をあけて床板16が配置された、いわゆる二重床及び二重天井構造をなしている。具体的に、天井14と天板15とに囲まれた空間が天井領域17、床13と床板16とに囲まれた空間が床下領域18、天板15と床板16とに囲まれた空間が機器設置領域19を構成しており、機器設置領域19の床板16上に上述した精密機器11が設置される一方、天井領域17及び床下領域18内には精密機器11の各種配線やエアコンのダクト等が配策されている。なお、床板16及び天板15は、各領域17〜19を完全に遮断するように設けられることに限らず、図示例のように、各領域17〜19が互いに連通するように設けられていてもよい。
【0014】
供給源21は、例えば高圧状態で消火ガスを貯蔵するガスボンベ等の耐圧容器によって構成されている。なお、消火ガスには、不活性ガスまたは不燃性ガスとして、例えば窒素ガスや、二酸化炭素ガス、ハロゲンガス等を用いることが可能であり、本実施形態では窒素ガスが好適に用いられている。
【0015】
ガス配管22は、ガス供給源21から対象室12に至る中途部分において複数に分岐されており、これによって、ガス配管22の複数(図示例では三つ)の流出口が対象室12内に開口している。これら複数の流出口は、より短時間で対象室12内を消火ガスで充満できるように、互いに離れた位置に配されることが好ましい。
なお、本実施形態では、ガス配管22は、供給源21に接続された供給配管22aと、供給配管22aの下流端で分岐された複数の分岐配管22bと、各分岐配管22bの下流端に接続されて対象室12の側壁25から天井領域17、機器設置領域19及び床下領域18内に向けて開口する複数の噴出配管22cとを備えている。本実施形態の制御弁23は、ガス配管22の基幹である供給配管22aに接続されているが、これに限らず分岐配管22bや噴出配管22cに接続されていても構わない。
【0016】
また、機器設置領域19の側壁25に対向する側壁27には、対象室12内の圧力が所定圧以上となった場合に開放され、対象室12内に充満するガス(消火ガスや空気)を対象室12の外部に逃がす避圧口ダンパー26が設置されている。このように、消火ガスが噴出される噴出配管22cに対向する位置に避圧口ダンパー26を配置することで、対象室12内全体に消火ガスを充満させ易くなる。
【0017】
図2は第1実施形態の要部の断面図である。各噴出配管22cよりも下流側はともに同一の構成であるため、以下の説明では1つの噴出配管22cの下流側について説明する。
図2に示すように、各噴出配管22cの下流端には、噴出配管22cから噴出される消火ガスの流れを加速させるために断面縮小させたノズル(流出口)31が取り付けられている。このノズル31は、噴出配管22cの軸方向(消火ガスの流通方向)に沿って延在している。
【0018】
(噴出ヘッド)
ノズル31の下流端には、消火ガスを対象室12内に噴出するための噴出ヘッド41が取り付けられている。噴出ヘッド41は、ノズル31の下流端を外側から覆うように連結された筒状の連結部42と、連結部42の下流端に連なるヘッド本体43とを備えている。
【0019】
ヘッド本体43は、ノズル31の内径に対してガス流通方向に直交する方向に拡大形成された直方体形状をなし、ノズル31の軸心延長方向を長手方向として延在している。そして、ヘッド本体43における長手方向上流側の壁部(以下、後壁という)44の中央に連結部42が連結されている。
【0020】
ヘッド本体43の内部には、連結部42の底部に連なり連結部42に対向配置された第1隔壁51と、この第1隔壁51に対向してヘッド本体43における長手方向下流側の壁部(以下、前壁という)45との間に配置された第2隔壁52と、第2隔壁52と前壁45とを接続しヘッド本体43の底壁46と平行に配置された第3隔壁53が設けられており、これら隔壁51,52,53により仕切られて二つのガス通路が迷路状に設けられている。
【0021】
第1隔壁51の上端はヘッド本体43の上壁47から離間し、消火ガスが流通可能な絞り部48となっていている。第2隔壁52の上端及び下端もヘッド本体43の上壁47及び底壁46から離間し、消火ガスが流通可能な絞り部49,50となっている。第2隔壁52は階段状の断面形状をなし、上側の垂直壁部52aが前壁45に接近して対向配置され、下側の垂直壁部52bが第1壁部51に接近して対向配置され、上側の垂直壁部52aの下端と下側の垂直壁部52bの上端が水平へ基部52cによって接続されて構成されている。
【0022】
第1のガス通路61は、第1隔壁51とヘッド本体43の後壁44と上壁47によって囲まれて形成された第1膨張室63と、第1隔壁51と第2隔壁52の上側の垂直壁部52aと水平壁部52cとヘッド本体43の上壁47によって囲まれて形成された第2膨張室64と、第2隔壁52と第3隔壁53とヘッド本体43の前壁45と上壁47によって囲まれて形成された第3膨張室65とを備えて構成されており、第1膨張室63と第2膨張室64が絞り部48を介して連通し、第2膨張室64と第3膨張室65が絞り部49を介して連通している。第1のガス通路61の先端、すなわち第3膨張室65の先端は前壁45によって閉塞されており、前壁45には第1のガス通路61に連通するガス噴出口66が設けられている。
【0023】
第2のガス通路62は、第1のガス通路61における第2膨張室64から分岐して形成されており、第1隔壁51と第2隔壁52の下側の垂直壁部52bの間に形成されたガス通路67と、第1隔壁51と第2隔壁52の下側の垂直壁部52bとヘッド本体43の底壁46と後壁44によって囲まれて形成された第4膨張室68と、第2隔壁52の下側の垂直壁部52bと第3隔壁53とヘッド本体43の底壁46と前壁45によって囲まれて形成された第5膨張室69とを備えて構成されており、第2膨張室64と第4膨張室68がガス通路67を介して連通し、第4膨張室68と第5膨張室69が絞り部50を介して連通している。なお、ガス通路67は第2膨張室及び第4膨張室に対して絞り部として機能する。第2のガス通路62の先端、すなわち第5膨張室69の先端は前壁45によって閉塞されており、前壁45には第2のガス通路62に連通するガス噴出口70が設けられている。つまり、前壁45には、第1のガス通路61に連なるガス噴出口66と第2のガス通路62に連通するガス噴出口70が並んで設けられている。
【0024】
なお、この第1実施形態では、第1のガス通路61に連なるガス噴出口66と第2のガス通路62に連通するガス噴出口70はそれぞれ1つとしたが、ガス噴出口66,67をそれぞれ複数設けてもよい。
また、第1実施形態の噴出ヘッド41は、ノズル31に一体に固定、あるいは一体に形成してもよいが、ノズル31に対して着脱自在に取り付けられることがより好ましい。
【0025】
(ガス消火システムの動作方法)
次に、本実施形態のガス消火システムの動作方法について説明する。なお、図1中矢印Fは、消火ガスの流れを示している。
まず、対象室12内の火災を火災報知器が検知すると、火災報知器から制御部に火災信号が出力される。制御部は火災信号を受信すると、ガス消火システム10を起動する。具体的に、制御部は、制御弁23を開放して供給源21からガス配管22に消火ガスを供給する。
【0026】
ガス配管22に供給された消火ガスは、ノズル31を介して噴出ヘッド41の第1のガス通路61における第1膨張室63に放出されて膨張する。
さらに、消火ガスは、第1のガス通路61を流下していき、第1膨張室63から絞り部48を通り第2膨張室64に放出されて膨張する。
【0027】
第2膨張室64を通過した消火ガスは、そのまま第1のガス通路61を流下するものと、第1のガス通路61から分岐して第2のガス通路62を流下するものに分かれる。
第1のガス通路61をそのまま流下する消火ガスは、第2膨張室64から絞り部49を通って第3膨張室65に放出されて膨張する。そして、消火ガスは、前壁45に設けられたガス噴出口66から対象室12内に噴出される。
このように、ノズル31から噴出した消火ガスを噴出ヘッド41の第1のガス通路61内で複数回に分けて膨張させた後に、ガス噴出口66から対象室12内に噴出させるので、ガス噴出口66から消火ガスが開放される際に発生する膨張音を低減することができる。
【0028】
一方、第1のガス通路61から分岐して第2のガス通路62を流下する消火ガスは、第2膨張室64からガス通路67を通って第4膨張室68に放出され、膨張する。
さらに、消火ガスは、第2のガス通路62を流下していき、第4膨張室68から絞り部50を通り第5膨張室69に放出されて膨張する。そして、消火ガスは、前壁45に設けられたガス噴出口70から対象室12内に噴出される。
このように、ノズル31から噴出した消火ガスを噴出ヘッド41の第2のガス通路62内で複数回に分けて膨張させた後に、ガス噴出口70から対象室12内に噴出させるので、ガス噴出口70から消火ガスが開放される際に発生する膨張音を低減することができる。
【0029】
この第1実施形態では、第1のガス通路61及び第2のガス通路62を迷路状に形成したので、各ガス通路61,62の流路長を長くし、それぞれに複数の膨張室63,64,65および68,69を設けることができ、膨張音に対する低減効果を大きくすることができる。
【0030】
また、噴出ヘッド41に噴出された消火ガスは二つのガス通路61,62を流通し、各ガス通路61,62の先端に設けられたガス噴出口66,70から噴出されるので、対象室12内に噴出される消火ガスの総流量を低下させることなく、各ガス噴出口66,70から噴出されるガス流速を低減することができる。これにより、従来のようにノズル形状の噴出口から一括して消火ガスを噴出させる場合に比べて、消火ガスの噴出流速を低減することができ、噴出流速を音速よりも低下させることができる。その結果、衝撃波の発生を防止することができるので、衝撃波に起因して騒音が発生することがない。
【0031】
そして、ガス噴出口66,70から噴出された消火ガスは対象室12内に拡散していくので、対象室12内全体に消火ガスを供給することができる。その後、噴出ヘッド41から対象室12内に消火ガスを供給し続け、対象室12内を消火ガスで充満させることで、対象室12内の火災を消火することができる。なお、消火ガスを供給し続け、対象室12内の圧力が所定圧以上になった場合には、避圧口ダンパー26が開放されて対象室12内のガスが自動的に外部へ逃げるようになっている。
【0032】
このように、第1実施形態によれば、上述したようにガス噴出口66,70から消火ガスが開放される際の膨張に起因する騒音を低減することができるとともに、ガス噴出口から噴出されるガス流速に起因して衝撃波が発生するのを防止することができるので、消火ガスの供給に基づく騒音を低減することができる。
【0033】
また、第1実施形態のガス消火システムでは、噴出配管22cが対象室12内の天井領域17、床下領域18及び機器設置領域19の各領域に開口しているため、これら複数の領域に消火ガスをより短時間で充満させることが可能である。
【0034】
また、第1実施形態のガス消火システム10では、対象室12内に消火ガスを充満させることで火災の消火および防火が行われるが、対象室12内に供給された消火ガスによって対象室12内の圧力が上昇することがある。ここで、本実施形態のガス消火システムでは、避圧口ダンパー26を備えているため、過剰な圧力を対象室12外に逃がすことができる。したがって、対象室12内の圧力上昇が建物及び精密機器11に悪影響を与えることも防止できる。
【0035】
なお、噴出ヘッド41をノズル31に対して着脱自在に構成した場合には、既存のノズル31に噴出ヘッド41を取り付けるだけで騒音を低減することができるため、ガス消火システムの大幅な変更を伴うことがない。そのため、設備コストの増加も抑制することができる。
【0036】
(第2実施形態)
次に、図3を参照して、本発明の第2実施形態を説明する。図3は第2実施形態の要部の断面図である。なお、以下の説明では、上述した第1実施形態と同一態様部分には同一符号を付して説明を省略する。
【0037】
第2実施形態の噴出ヘッド81もノズル31に取り付けられている。図3に示すように、第2実施形態の噴出ヘッド81におけるヘッド本体82には、その内部に、連結部42に連通し連結部42に対してガス流通方向に直交する方向に断面拡大がされた膨張室83が形成されており、その下流側に膨張室83に連結された2つのガス通路84,85が並んで設けられている。ここで、一方のガス通路84は連結部42の軸心延長線に平行な直線状に形成されており、他方のガス通路85は円弧状に形成されている。以下、ガス通路84を直線状ガス通路84、ガス通路85を円弧状ガス通路85と言う。
【0038】
両ガス通路84,85の先端は、ヘッド本体82における長手方向下流側の端面を形成する同一の平坦な壁部(以下、前壁という)86によって閉塞されており、前壁86には、直線状ガス通路84に連なるガス噴出口87と円弧状ガス通路85に連通するガス噴出口88が並んで設けられている。なお、ガス噴出口87,88は、直線状ガス通路84および円弧状ガス通路85の閉塞端面の中央に配置されている。
【0039】
円弧状ガス通路85の流路長は直線状ガス通路84の流路長よりも抑制対象音の波長の半波長分だけ長く設定されている。ここで、抑制対象音とは、騒音レベルを低下させたい特定の周波数の音を言う。
【0040】
この第2実施形態において、膨張室83と直線状ガス通路84は第1のガス通路91を構成し、膨張室83と円弧状ガス通路85は第2のガス通路92を構成しており、膨張室83は第1のガス通路91と第2のガス通路92に共通なガス通路と考えることができ、また、第1のガス通路91と第2のガス通路92はいずれも膨張室を兼ねたガス通路と言うことができる。また、第1のガス通路91における膨張室83内の流路長と、第2のガス通路92における膨張室83内の流路長は同一長さであるので、第2のガス通路92の流路長は第1のガス通路91の流路長よりも抑制対象音の波長の半波長分だけ長く設定されていると言える。
【0041】
この第2実施形態におけるガス消火システムにおいては、ノズル31から噴出した消火ガスは、噴出ヘッド81における膨張室83に放出されて膨張する。
そして、膨張室83で膨張した消火ガスは、その略半分の流量が膨張室83から第1のガス通路91である直線状ガス通路84を通って前壁86に設けられたガス噴出口87から対象室12内に噴出され、残る略半分の流量が膨張室83から第2のガス通路92である円弧状ガス通路85を通って前壁86に設けられたガス噴出口88から対象室12内に噴出される。このように、ノズル31から噴出した消火ガスを噴出ヘッド81の膨張室83で一旦膨張させた後に、ガス噴出口87,88から対象室12内に噴出させるので、ガス噴出口87,88から消火ガスが開放される際に発生する膨張音を低減することができる。
【0042】
また、噴出ヘッド81に噴出された消火ガスは二つのガス通路91,92を流通し、各ガス通路91,92の先端に設けられたガス噴出口87,88から噴出されるので、対象室12内に噴出される消火ガスの総流量を低下させることなく、各ガス噴出口87,88から噴出されるガス流速を低減することができる。これにより、従来のようにノズル形状の噴出口から一括して消火ガスを噴出させる場合に比べて、消火ガスの噴出流速を低減することができ、噴出流速を音速よりも低下させることができる。その結果、衝撃波の発生を防止することができるので、衝撃波に起因して騒音が発生することがない。
【0043】
また、第2のガス通路92の流路長は第1のガス通路92の流路長よりも抑制対象音の波長の半波長分だけ長いので、二つのガス噴出口87,88から噴出された消火ガスの抑制対象音同士が打ち消し合い、抑制対象音の騒音レベルを低減することができる。
【0044】
このように、第2実施形態によれば、上述したようにガス噴出口87,88から消火ガスが開放される際の膨張に起因する騒音を低減することができるとともに、ガス噴出口から噴出されるガス流速に起因して衝撃波が発生するのを防止することができるので、消火ガスの供給に基づく騒音を低減することができる。さらに、抑制対象音の騒音レベルを低減することができる。
【0045】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
例えば、上述した各実施形態では、二つの経路のガス通路を備えた噴出ヘッドとして説明したが、噴出ヘッドは三つ以上の経路のガス通路を備えていてもよい。なお、第2実施形態の噴出ヘッドの場合には、偶数個の経路とするのが好ましく、隣接して配置された二つの経路のガス通路同士で、抑制対象音の波長の半波長分だけ流路長に差を設けるようにするのが好ましい。
【0046】
また、第1実施形態において、第1,第2のガス通路61,62の形状は前述した形状に限定されるものではなく、適宜に形状変更が可能であり、各ガス通路に設ける膨張室の数も特に限定はなく、前述した実施形態より多くても構わない。膨張室が多いほど膨張音に対する低減効果が大きくなる。第2実施形態における第1,第2のガス通路91,92の形状も前述した形状に限定されるものではなく、抑制対象音の波長の半波長分だけ流路長に差を設けることができるれば、適宜に形状変更が可能である。
【0047】
また、噴出ヘッドと噴出配管22cとの間にノズル31を設けず、噴出ヘッドを直接噴出配管22cに接続する構成にしても構わない。
さらに、上述した実施形態では、ガス消火システム10の制御弁23の開閉操作を制御部により制御する構成について説明したが、これに限らず作業者によって手動で制御弁23の開閉操作を行っても構わない。
【0048】
また、ガス配管22内に高速の流れが生じるとガス配管22自体に共振が発生し、この振動に基づき騒音が発生する場合がある。そこで、例えば、図4に示すように、ガス配管22(噴出配管22c)の外周面に、防振材からなる筒状のスリーブ100を固定してもよい。なお、図示例のスリーブ100は、対象室12の内外に亘って設けられているが、例えば対象室12内に突出している領域のみに設けられていても構わない。
【0049】
なお、スリーブ100は、例えば金属材料等の任意の材料によって構成されてもよいが、例えばウレタン等の樹脂材料のように吸音性能を有する材料によって構成されることがさらに好ましい。この場合には、ガス配管22やその近傍で生じる騒音を吸収することができる。
【0050】
そして、本発明のガス消火システム10は、床板16や天板15によって複数の領域17〜19に区画された対象室12の消火に限らず、例えば床板16や天板15の無い一つの領域のみの対象室12の消火にも適用することができる。また、本発明のガス消火システム10は、精密機器11が配された対象室12内の消火に限らず、クリーンルーム等の他の対象室12の消火にも適用することができる。
【符号の説明】
【0051】
10 ガス消火システム
12 対象室
21 供給源(ガス供給源)
22 ガス配管
31 ノズル(流出口)
41,81 噴出ヘッド
63,64,65,68,69,83 膨張室
61,62,91,92 ガス通路
45,86 前壁(閉塞端)
66,70,87,88 ガス噴出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象室内に消火ガスを供給するためのガス配管の流出口に連結されて、前記ガス配管を流通する消火ガスを噴出させる噴出ヘッドであって、
前記ガス配管の流出口から供給された消火ガスが流通する膨張室を兼ねた複数経路のガス通路を備え、前記各経路のガス通路の先端が閉塞されその各閉塞端にガス噴出口が設けられていることを特徴とする噴出ヘッド。
【請求項2】
前記各経路のガス通路は迷路状に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の噴出ヘッド。
【請求項3】
前記各経路のガス通路の先端の前記各閉塞端は同一面上に配置され、互いに隣接して配置された二つの経路のガス通路は、抑制対象音の波長の半波長分だけ流路長さに差を有することを特徴とする請求項1に記載噴出ヘッド。
【請求項4】
消火ガスを貯留するガス供給源と、
消火ガスを前記ガス供給源から対象室内に供給するためのガス配管と、
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の噴出ヘッドと、を備え、
前記噴出ヘッドが前記ガス配管の流出口に取り付けられていることを特徴とするガス消火システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate