説明

嚥下活動モニタリング装置、嚥下活動モニタリングシステム、生体情報記録装置および嚥下活動モニタリングプログラム

【課題】被検者を実質的に無拘束の状態で長時間連続モニタリングが可能であり簡易かつ高精度に嚥下活動をモニタリングすること。
【解決手段】嚥下活動モニタリング装置100において、演算部103は、被検者の胸骨上窩部の運動に応じた胸骨上窩部圧情報を記憶媒体から読み出すとともに被検者の呼吸活動に応じた呼吸フロー情報を記憶媒体から読み出し、読み出された胸骨上窩部圧情報および呼吸フロー情報に基づいて被検者の嚥下活動を検知する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、嚥下活動モニタリング装置、嚥下活動モニタリングシステム、生体情報記録装置および嚥下活動モニタリングプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年の高齢化社会の進行に伴い、嚥下障害患者が増え続けている。嚥下障害とは、口腔、咽頭および食道の「飲み込む」ための運動における障害をいい、高齢化や、脳卒中後遺症などの疾患による運動機能の低下によって引き起こされる。摂食・嚥下障害患者の約50%に、誤嚥性肺炎の誘因となる不顕性誤嚥(silent aspiration)が認められるため、誤嚥性肺炎の予防には不顕性誤嚥の早期発見が非常に重要であり、嚥下活動を簡易かつ高精度にモニタリングし得る技術が求められている。
【0003】
簡易な嚥下活動モニタリングの手法として、これまで様々なものが提案されているが、その一例としては、特許文献1および非特許文献1に開示されたものがある。これらの文献に記載された手法では、被検者の喉頭に装着したマイクロフォンで嚥下音の計測を行い、マイクロフォンからの出力信号のレベルに基づいて被検者の嚥下活動を検知する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−301895号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】大阪電気通信大学大学院 医療福祉工学専攻 医療福祉工学研究科著、「廃用性萎縮防止のための喉頭マイクロフォンを用いた嚥下回数計測システム」、電子情報通信学会信学技報、MBE2007−53、2007年10月発行、p.13−16
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来の手法においては、マイクロフォンを計測手段として用いるため、モニタリング環境における雑音を含む嚥下音が計測されることがある。マイクロフォンの感度が低いとモニタリングの精度が低下するため、マイクロフォンの感度は一定レベル以上である必要がある。しかし、その場合には、嚥下音と同時に嚥下以外の音が集音されやすい。よって、モニタリングの精度の向上に一定の限界がある。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたもので、被検者を実質的に無拘束の状態で長時間連続モニタリングが可能であり簡易かつ高精度に嚥下活動をモニタリングすることができる嚥下活動モニタリング装置、嚥下活動モニタリングシステム、生体情報記録装置および嚥下活動モニタリングプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の嚥下活動モニタリング装置は、被検者の胸骨上窩部の運動に応じた第1の生体情報を取得する第1の情報取得部と、被検者の呼吸活動に応じた第2の生体情報を取得する第2の情報取得部と、前記第2の生体情報に基づいて被検者の呼吸活動の停止状態を検知し、検知された呼吸活動の停止状態の期間における前記第1の生体情報に基づいて被検者の嚥下活動を検知する嚥下活動検知部と、有する構成を採る。
【0009】
本発明の嚥下活動モニタリングシステムは、生体情報記録装置と嚥下活動モニタリング装置とを有する嚥下活動モニタリングシステムであって、前記生体情報記録装置は、被検者の胸骨上窩部の運動を検知して被検者の胸骨上窩部の運動に応じた第1の生体情報を生成する第1のセンサと接続可能な第1の接続部と、被検者の呼吸活動を検知して被検者の呼吸活動に応じた第2の生体情報を生成する第2のセンサと接続可能な第2の接続部と、生成された前記第1および第2の生体情報を記憶媒体に記録する記録部と、を有し、前記嚥下活動モニタリング装置は、前記記憶媒体に記録された前記第1および第2の生体情報を受信する受信部と、前記第2の生体情報に基づいて被検者の呼吸活動の停止状態を検知し、検知された呼吸活動の停止状態の期間における前記第1の生体情報に基づいて被検者の嚥下活動を検知する嚥下活動検知部と、有する構成を採る。
【0010】
本発明の生体情報記録装置は、嚥下活動のモニタリングに用いられる生体情報記録装置であって、被検者の胸骨上窩部の運動を検知して被検者の胸骨上窩部の運動に応じた第1の生体情報を生成する第1のセンサと接続可能な第1の接続部と、被検者の呼吸活動を検知して被検者の呼吸活動に応じた第2の生体情報を生成する第2のセンサと接続可能な第2の接続部と、前記第1および第2の生体情報に基づいて被検者の嚥下活動を検知する嚥下活動モニタリング装置に転送可能な形式で、前記第1および第2の生体情報を記憶媒体に記録する記録部と、有する構成を採る。
【0011】
本発明の嚥下活動モニタリングプログラムは、コンピュータに、被検者の胸骨上窩部の運動に応じた第1の生体情報を取得する第1の情報取得機能と、被検者の呼吸活動に応じた第2の生体情報を取得する第2の情報取得機能と、前記第2の生体情報に基づいて被検者の呼吸活動の停止状態を検知し、検知された呼吸活動の停止状態の期間における前記第1の生体情報に基づいて被検者の嚥下活動を検知する嚥下活動検知機能と、実現させるようにした。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、被検者を実質的に無拘束の状態で長時間連続モニタリングが可能であり簡易かつ高精度に嚥下活動をモニタリングすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施の形態1に係る嚥下活動モニタリング装置の構成を示すブロック図
【図2】本発明の実施の形態1に係る嚥下活動モニタリング装置における計測処理を説明するためのフローチャート
【図3】本発明の実施の形態1に係る嚥下活動モニタリング装置における解析処理を説明するためのフローチャート
【図4】本発明の実施の形態1に係る嚥下活動モニタリング装置における嚥下活動検知処理を説明するためのフローチャート
【図5】本発明の実施の形態1に係る呼吸フロー信号および胸骨上窩部圧信号の波形図
【図6】本発明の実施の形態1に係る嚥下活動モニタリング装置における質的評価処理を説明するためのフローチャート
【図7】本発明の実施の形態2に係る睡眠ポリグラフ検査装置の構成を示すブロック図
【図8】本発明の実施の形態2に係る睡眠ポリグラフ検査装置の外観を示す図
【図9】本発明の実施の形態2に係る睡眠ポリグラフ検査装置の筐体サイズを示す図
【図10】本発明の実施の形態3に係る嚥下活動モニタリングシステムの構成を示すブロック図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。
【0015】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1に係る嚥下活動モニタリング装置の構成を示すブロック図である。
【0016】
図1において、嚥下活動モニタリング装置100は、信号処理回路101、102、演算部103、表示部104、記録部105および操作部106を有する。
【0017】
信号処理回路101は、胸骨上窩部圧センサ110に電気的に接続されている。信号処理回路101は、胸骨上窩部圧センサ110によって生成された胸骨上窩部圧信号に対して所定の信号処理(例えば、増幅、波形整形およびアナログディジタル変換)を施し、信号処理後の胸骨上窩部圧信号を演算部103に出力することにより、胸骨上窩部圧の計測を行う。
【0018】
ここで、胸骨上窩部圧センサ110は、例えば圧電素子のような小型の検知素子とケーブルとを主として有し、粘着テープなどにより被検者に装着容易に構成されている。胸骨上窩部圧センサ110の圧電素子は、被検者の胸骨上窩部に装着されているときに胸骨上窩部の運動に応じて胸骨上窩部から加えられる圧力(胸骨上窩部圧)を示す電気信号を生成する。この電気信号は、被検者の胸骨上窩部の運動に応じた胸骨上窩部圧を示す第1の生体信号(胸骨上窩部圧信号)であり、ケーブルを介して信号処理回路101に伝送される。
【0019】
すなわち、胸骨上窩部圧センサ110および信号処理回路101の組合せは、胸骨上窩部圧の計測を行うための胸骨上窩部圧計測部を構成する。
【0020】
信号処理回路102は、呼吸フローセンサ120に電気的に接続されている。信号処理回路102は、呼吸フローセンサ120によって生成された呼吸フロー信号に対して所定の信号処理(例えば、増幅、波形整形およびアナログディジタル変換)を施し、信号処理後の呼吸フロー信号を演算部103に出力することにより、呼吸フローの計測を行う。
【0021】
ここで、呼吸フローセンサ120は、例えば圧電素子またはサーミスタ素子のような小型の検知素子とケーブルとを主として有し、粘着テープなどにより被検者に装着容易に構成されている。検知素子は、被検者の鼻孔部にまたは被検者の鼻孔部および口腔部に、被検者の呼吸活動により鼻孔部または口腔部に生じる気流に作用されるように装着される。なお、呼吸フローセンサ120がカニューレを有するタイプである場合、カニューレが、被検者の鼻孔部にまたは被検者の鼻孔部および口腔部に装着され、検知素子が、被検者の呼吸活動によりカニューレ内部に生じる気流に作用されるように配置される。検知素子は、被検者の呼吸活動に応じて生じる気流(呼吸フロー)によって加えられる圧力またはその気流の流量もしくは流速を示す電気信号を生成する。この電気信号は、被検者の呼吸活動に応じた呼吸フローを示す第2の生体信号(呼吸フロー信号)であり、ケーブルを介して信号処理回路102に伝送される。
【0022】
すなわち、呼吸フローセンサ120および信号処理回路102の組合せは、呼吸フローの計測を行うための呼吸フロー計測部を構成する。
【0023】
なお、呼吸センサとして、例えば圧電素子または可変インダクタンス素子のような検知素子によって被検者の呼吸活動に応じた胸郭部の運動を検知するセンサを、呼吸フローセンサ120の代わりに使用してもよい。
【0024】
第1の情報取得部、第2の情報取得部、嚥下活動検知部および嚥下活動評価部としての演算部103は、例えばCPU(Central Processing Unit)のような演算処理装置、および記憶装置を有する。演算部103は、記憶装置に予め記録されている嚥下活動モニタリングプログラムを演算処理装置で実行することにより、嚥下活動モニタリングのための処理に必要な各機能を実現する。嚥下活動モニタリングのための処理としては、計測処理および解析処理などが挙げられる。
【0025】
これらの処理は、操作部106が操作されることによって実行される。演算部103は、計測処理の実行によって得られた胸骨上窩部圧信号および計測時間情報などを含むディジタル情報である胸骨上窩部圧情報と、計測処理の実行によって得られた呼吸フロー信号および計測時間情報などを含むディジタル情報である呼吸フロー情報とを記録部105に出力し、装置内部の記憶装置またはリムーバブルメディアへの記録を記録部105に行わせる。また、演算部103は、解析処理の実行によって得られた解析結果を表示部104に出力して、表示部104の画面に表示させる。
【0026】
表示部104は、演算部103から出力された情報を画面に表示するものであり、例えば液晶表示装置である。
【0027】
操作部106は、演算部103における処理を開始または終了させるためのものであり、例えば押下操作可能なボタンである。
【0028】
以下、嚥下活動モニタリング装置100における動作について、上記の計測処理および解析処理を例に挙げて説明する。
【0029】
図2は、嚥下活動モニタリング装置100において実行される計測処理を説明するためのフローチャートである。
【0030】
まず、演算部103は、操作部106の計測開始操作を待機する(ステップS1110)。演算部103は、計測開始操作を認識すると、信号処理回路101、102の制御を開始する。これにより、胸骨上窩部圧計測部による胸骨上窩部圧の計測と呼吸フロー計測部による呼吸フローの計測とが同時に開始され(ステップS1120、S1130)、並行して継続的に実行される。
【0031】
胸骨上窩部圧の計測により得られた胸骨上窩部圧信号および呼吸フローの計測により得られた呼吸フロー信号は、記録部105によりそれぞれ胸骨上窩部圧情報および呼吸フロー情報として記憶媒体に記録される。
【0032】
上記計測が継続的に行われている間、演算部103は操作部106の計測終了操作を待機する(ステップS1140)。演算部103は、計測終了操作を認識すると、信号処理回路101、102の制御を停止する。これにより、胸骨上窩部圧の計測と呼吸フローの計測とが同時に停止される(ステップS1150、S1160)。
【0033】
このようにして、嚥下活動モニタリング装置100において計測処理が行われる。
【0034】
図3は、嚥下活動モニタリング装置100において実行される解析処理を説明するためのフローチャートである。
【0035】
まず、演算部103は、操作部106の解析実行操作を待機する(ステップS1210)。演算部103は、解析実行操作を認識すると、胸骨上窩部圧情報および呼吸フロー情報を記憶媒体から読み出すことによって、胸骨上窩部圧情報および呼吸フロー情報を取得する(ステップS1220)。
【0036】
そして、演算部103は、読み出された胸骨上窩部圧情報および呼吸フロー情報に基づいて、被検者の嚥下活動を検知する(ステップS1230)。嚥下活動の検知処理の詳細については後述する。
【0037】
嚥下活動が検知されなかった場合は(ステップS1240:NO)、解析処理は終了され、嚥下活動が検知された場合は(ステップS1240:YES)、演算部103は、検知された嚥下活動の質的評価を実行する(ステップS1250)。嚥下活動の質的評価処理の詳細については後述する。
【0038】
そして、表示部104は、嚥下活動の質的評価の結果を解析結果として画面に表示する(ステップS1260)。
【0039】
このようにして、嚥下活動モニタリング装置100において解析処理が行われる。
【0040】
図4は、嚥下活動モニタリング装置100の演算部103により実行される嚥下活動検知処理を説明するためのフローチャートである。
【0041】
ステップS1231では、記憶媒体から読み出された胸骨上窩部圧情報に基づいて、胸骨上窩部圧が所定値以上であり、かつ、持続時間が所定範囲内である胸骨上窩部運動(以下「特定胸骨上窩部運動」という)の検知が行われる。
【0042】
ここで、胸骨上窩部運動の検知処理について、図5を用いてより具体的に説明する。図5は、時間tから時間tまでの期間(例えば数分間)において計測された呼吸フロー信号Sおよび胸骨上窩部圧信号Sの波形を一例として示す図である。
【0043】
胸骨上窩部運動の検知処理においては、計測期間内の胸骨上窩部圧信号Sの連続波形から、振幅が所定の閾値L(例えば、計測期間における雑音成分の標準偏差の2〜3倍の値)を超過する部分波形であって、その部分波形の立ち上がりからその次の部分波形の立ち上がりまでの時間の長さ(持続時間)が所定の範囲(例えば、0.8〜1.6秒)内である部分波形が、抽出される。
【0044】
図5の例においては、振幅のピーク値が閾値Lを超過している時間tから時間tまでの部分波形の持続時間dが所定の範囲内であれば、この部分波形が、特定胸骨上窩部運動の発生を示すものとして抽出される。同様に、振幅のピーク値が閾値Lを超過している時間tから時間tまでの部分波形の持続時間dが所定の範囲内であれば、この部分波形も、特定胸骨上窩部運動の発生を示すものとして抽出される。このようにして特定胸骨上窩部運動が検知される。
【0045】
ステップS1232では、記憶媒体から読み出された呼吸フロー情報に基づいて、持続時間が所定範囲内である呼吸活動の停止状態(以下「特定呼吸活動停止状態」という)の検知が行われる。
【0046】
例えば、図5に示すような計測期間内の呼吸フロー信号Sの連続波形から、振幅の変動がない状態の持続時間が所定の範囲(例えば、0.5〜0.9秒)内である部分波形が、特定呼吸活動停止の発生を示すものとして抽出される。このようにして特定呼吸活動停止状態が検知される。
【0047】
ステップS1233では、特定胸骨上窩部運動および特定呼吸活動停止状態が両方とも検知されたか否かが判定される。両方とも検知されている場合は(ステップS1233:YES)、ステップS1234以降の処理により嚥下活動が検知される可能性があるので、ステップS1234以降の処理が実行される。特定胸骨上窩部運動および特定呼吸活動停止状態の少なくとも一方が検知されていない場合は(ステップS1233:NO)、ステップS1234以降の処理により嚥下活動が検知される可能性はないので、ステップS1234以降の処理は実行されない。
【0048】
ステップS1234では、検知された個々の特定胸骨上窩部運動に、時系列順にインデックスa、・・・、a(Nは、検知された特定胸骨上窩部運動の回数を示す1以上の整数である)が付与される。例えば、図5において注目した2つの部分波形がいずれも特定胸骨上窩部運動の発生を示すものである場合には、時間t〜tにおける特定胸骨上窩部運動にインデックスaが付与され、時間t〜tにおける特定胸骨上窩部運動にインデックスaが付与される。
【0049】
そして、ステップS1235〜S1239では、変数nについて初期値を1としてn=NとなるまでN回繰り返される処理ループが実行される。
【0050】
ステップS1236では、特定胸骨上窩部運動aの期間が特定呼吸活動停止状態の期間内か否かが判定される。特定胸骨上窩部運動aの期間が特定呼吸活動停止状態の期間内である場合は(ステップS1236:YES)、特定胸骨上窩部運動aは嚥下活動であると判定され(ステップS1237)、特定胸骨上窩部運動aの期間が特定呼吸活動停止状態の期間外である場合は(ステップS1236:NO)、特定胸骨上窩部運動aは嚥下活動でないと判定される(ステップS1238)。N回の処理ループが完了すると、嚥下活動の検知処理は終了する。
【0051】
このようにして、胸骨上窩部圧信号および呼吸フロー信号を併用することによって、嚥下活動が検知される。
【0052】
図6は、嚥下活動が検知された場合に嚥下活動モニタリング装置100の演算部103により実行される質的評価処理を説明するためのフローチャートである。
【0053】
ステップS1251では、検知された個々の嚥下活動に、時系列順にインデックスb、・・・、b(Kは、検知された嚥下活動の回数を示す1以上の整数である)が付与される。例えば、図5において注目した2つの部分波形がいずれも嚥下活動の発生を示すものである場合には、時間t〜tにおける嚥下活動にインデックスbが付与され、時間t〜tにおける嚥下活動にインデックスbが付与される。
【0054】
そして、ステップS1252〜S1257では、変数kについて初期値を1としてk=KとなるまでK回繰り返される処理ループが実行される。
【0055】
ステップS1253では、嚥下活動bの直前における呼吸相が呼気相であるか吸気相であるかが判定される。換言すれば、嚥下活動bのために一時的に呼吸活動が停止状態となる直前の呼吸相が、呼気相であるか吸気相であるかが判定される。
【0056】
ステップS1254では、嚥下活動bの終了時点から呼吸再開時点までの時間長が算出される。
【0057】
そして、ステップS1255では、算出された時間長に基づいて、嚥下活動bの直後における呼吸相が呼気相であるか吸気相であるかが判定される。換言すれば、呼吸活動が嚥下活動bのための一時的な停止状態から再開された時点(呼吸再開時点)における呼吸相が、呼気相であるか吸気相であるかが判定される。
【0058】
そして、ステップS1256では、嚥下活動bの直後における呼吸相が吸気相であった場合に、嚥下活動bの終了時点から呼吸再開時点までの時間長が所定値よりも短いか否かが判定される。これにより、誤嚥が発生した可能性があることを認識することができる。嚥下活動終了から吸気開始までの時間が短いほど、誤嚥の危険性が高いからである。
【0059】
K回の処理ループが完了したと判定(ステップS1257)されると、ステップS1258が実行される。ステップS1258では、嚥下活動の頻度が判定される。これは、嚥下障害患者の場合には自然嚥下頻度が低下する傾向が見られるからである。この判定は、図4を用いて説明した嚥下活動検知処理の結果に基づいて行われる。
【0060】
さらに、ステップS1258では、呼吸相に関して2つの頻度が判定される。1つは、嚥下活動直前の呼吸相が吸気相である頻度である。これは、吸気相で嚥下が起こる頻度が高いほど、誤嚥の危険性が高いと考えられるためである。この判定は、ステップS1253での判定結果に基づいて行われる。もう1つは、嚥下活動直後の呼吸相が吸気相である頻度である。これは、嚥下後の呼吸相が吸気相である頻度が高いほど、誤嚥の危険性が高いと考えられるためである。この判定は、ステップS1255での判定結果に基づいて行われる。
【0061】
このようにして、嚥下活動の質的評価が行われる。上記の各判定の結果は、図3を用いて説明した解析処理により、解析結果として画面に表示することができる。
【0062】
以上のように、本実施の形態によれば、胸骨上窩部圧および呼吸フローの計測は、計測開始操作が認識されたときに開始し、計測終了処理が認識されたときに終了する。また、胸骨上窩部圧計測部および呼吸フロー計測部の構成は既述のとおり簡単なものであり、被検者への装着も容易である。そして、胸骨上窩部圧および呼吸フローの計測結果はすべて記憶媒体に記録され、これに基づいて嚥下活動の検知処理が行われることとなる。したがって、被検者を実質的に無拘束の状態で簡易に、かつ長時間にわたって連続的に、被検者の嚥下活動をモニタリングすることができる。
【0063】
また、本実施の形態によれば、被検者の胸骨上窩部の運動に応じた第1の生体情報として胸骨上窩部圧情報を取得するとともに、被検者の呼吸活動に応じた第2の生体情報として呼吸フロー情報を取得し、取得されたこれらの情報に基づいて被検者の嚥下活動を検知する。つまり、胸骨上窩部における生体情報と、胸骨上窩部でない部位における生体情報とを併用して嚥下活動を検知するため、高精度に嚥下活動のモニタリングを行うことができる。
【0064】
さらに、取得された呼吸フロー情報に基づいて被検者の呼吸活動の停止状態を検知し、検知された呼吸活動の停止状態の期間における胸骨上窩部圧情報に基づいて被検者の嚥下活動を検知する。つまり、呼吸活動が停止している期間にのみ発生する生体活動である嚥下活動の発生の有無を、呼吸活動に応じた生体情報である呼吸フロー情報に基づいて判定することができる。呼吸活動が停止していない期間においては、通常は嚥下活動が生じないため、その期間内では嚥下活動が検知されないようにすることができる。これにより、嚥下活動のモニタリングの精度を一層向上させることができる。
【0065】
(実施の形態2)
以下、本発明の実施の形態2について説明する。本実施の形態では、実施の形態1の嚥下活動モニタリング装置を睡眠ポリグラフ検査装置において実現した場合について説明する。図7は、本実施の形態の睡眠ポリグラフ検査装置の構成を示すブロック図である。
【0066】
なお、図7に示す本実施の形態の睡眠ポリグラフ検査装置200は、実施の形態1の嚥下活動モニタリング装置100と同一の構成を含んでいるため、同一の構成要素に参照番号を付与して、その詳細な説明を省略する。
【0067】
図8は、睡眠ポリグラフ検査装置200の外観を示す図である。睡眠ポリグラフ検査装置200の筐体230は、容易に持ち運ぶことができるよう小型かつ軽量に構成されており、例えば図9に示すように片手で持つこともできる。筐体230には電池蓋231が形成されている。また、睡眠ポリグラフ検査装置200は、筐体230上に、イベントスイッチ232、SpOコネクタ233、アナログコネクタ234および呼吸フローセンサコネクタ235を有する。
【0068】
イベントスイッチ232は、被検者が任意の時点で押下することができるように構成されており、押下されたときに装置内蔵の記憶媒体またはリムーバブルメディアに押下時間を記憶させるためのボタンである。
【0069】
SpOコネクタ233は、SpOセンサ(図示せず)のケーブルを接続するためのコネクタである。アナログコネクタ234は、アナログ信号伝送用のケーブルを接続するためのコネクタであり、例えば胸骨上窩部圧センサ110のケーブルが接続される。呼吸フローセンサコネクタ235は、呼吸フローセンサ120のケーブルまたはカニューレを接続するためのコネクタである。
【0070】
上記構成を有する睡眠ポリグラフ検査装置200では、胸骨上窩部圧および呼吸フローだけでなくSpO2も並行して計測することができる。よって、被検者睡眠中に、睡眠時無呼吸検査を実施するのに並行して嚥下活動モニタリングを実施することができる。これにより、嚥下活動モニタリングを被検者の無意識下で実施することができる。
【0071】
なお、本実施の形態では、実施の形態1の嚥下活動モニタリング装置を睡眠ポリグラフ検査装置に適用した場合について説明したが、他の生体情報記録装置に実施の形態1の嚥下活動モニタリング装置を適用することも可能である。
【0072】
(実施の形態3)
以下、本発明の実施の形態3について説明する。本実施の形態では、睡眠ポリグラフ検査装置とパソコンとで嚥下活動モニタリングシステムを構成した場合について説明する。図10は、本実施の形態の嚥下活動モニタリングシステムの構成を示すブロック図である。
【0073】
図10において、嚥下活動モニタリングシステム300は、睡眠ポリグラフ検査装置310、および嚥下活動モニタリング装置としてのパソコン320を有する。
【0074】
睡眠ポリグラフ検査装置310は、信号処理回路101、102、表示部104、記録部105、操作部106および演算部311を有する。
【0075】
なお、信号処理回路101、102、表示部104、記録部105および操作部106の構成またはそれらの機能については実施の形態1で説明したため、ここではその詳細な説明を省略する。
【0076】
また、睡眠ポリグラフ検査装置310は、図8および図9を用いて説明した特徴を、実施の形態2の睡眠ポリグラフ検査装置200と同様に有する。
【0077】
演算部311は、例えばCPUのような演算処理装置、および記憶装置を有する。演算部311は、記憶装置に予め記録されているプログラムを演算処理装置で実行する。これにより、実施の形態1において図2を用いて説明した計測処理に必要な各機能を実現する。したがって、本実施の形態では、実施の形態1で説明した計測処理を睡眠ポリグラフ検査装置310において実行することができる。
【0078】
計測処理は、操作部106が操作されることによって実行される。演算部311は、計測処理の実行によって得られた胸骨上窩部圧信号および計測時間情報などを含むディジタル情報である胸骨上窩部圧情報と、計測処理の実行によって得られた呼吸フロー信号および計測時間情報などを含むディジタル情報である呼吸フロー情報とを記録部105に出力し、装置内部の記憶装置またはリムーバブルメディアへの記録を記録部105に行わせる。胸骨上窩部圧情報および呼吸フロー情報は、ディジタル形式で記録されるため、例えばディジタル情報伝送用の通信ケーブル330(例えば、USB(Universal Serial Bus)ケーブル)を用いることにより、睡眠ポリグラフ検査装置310からパソコン320に転送することができる。
【0079】
パソコン320は、第1の情報取得部、第2の情報取得部、嚥下活動検知部および嚥下活動評価部としてのパソコン本体321と、表示部としての表示装置322と、操作部としてのキーボード323とを有する。
【0080】
パソコン本体321は、演算処理装置および記憶装置を内部に有するものであり、ディジタル情報伝送用の通信ケーブル330(例えば、USB(Universal Serial Bus)ケーブル)により睡眠ポリグラフ検査装置310に接続可能に構成されている。
【0081】
パソコン本体321は、胸骨上窩部圧情報および呼吸フロー情報を受信する。
【0082】
例えば、通信ケーブル330によりパソコン本体321と睡眠ポリグラフ検査装置310とを接続し、キーボード323により所定の操作を行うことにより、睡眠ポリグラフ検査装置310内部の記憶媒体にディジタル情報として記録された胸骨上窩部圧情報および呼吸フロー情報を、通信ケーブル330を介してパソコン本体321内部の記憶装置に転送することができる。
【0083】
なお、睡眠ポリグラフ検査装置310において胸骨上窩部圧情報および呼吸フロー情報がリムーバブルメディアに記録されている場合には、リムーバブルメディアをパソコン本体321に装填することにより胸骨上窩部圧情報および呼吸フロー情報をパソコン本体321に転送することができる。
【0084】
パソコン本体321は、記憶装置に予め記録されている嚥下活動モニタリングプログラムを演算処理装置で実行することにより、実施の形態1において図3〜図6を用いて説明した解析処理に必要な機能を実現する。したがって、本実施の形態では、実施の形態1で説明した解析処理をパソコン320において実行することができる。
【0085】
以上のように、本実施の形態によれば、嚥下活動モニタリングのための計測処理を例えば睡眠ポリグラフ検査装置のような生体情報記録装置において実行し、嚥下活動モニタリングのための解析処理を、計測処理を行った装置とは別の装置において実行することができる。
【0086】
以上、本発明の実施の形態について説明した。なお、以上の説明は本発明の好適な実施の形態の例証であり、本発明の範囲はこれに限定されない。つまり、上記装置の構成および使用時の動作についての説明は一例であり、本発明の範囲においてこれらの例に対する様々な変更や追加が可能であることは明らかである。
【符号の説明】
【0087】
100 嚥下活動モニタリング装置
101、102 信号処理回路
103、311 演算部
104 表示部
105 記録部
106 操作部
110 胸骨上窩部圧センサ
120 呼吸フローセンサ
200、310 睡眠ポリグラフ検査装置
230 筐体
231 電池蓋
232 イベントスイッチ
233 SpOコネクタ
234 アナログコネクタ
235 呼吸フローセンサコネクタ
320 パソコン
321 パソコン本体
322 表示装置
323 キーボード
330 通信ケーブル


【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検者の胸骨上窩部の運動に応じた第1の生体情報を取得する第1の情報取得部と、
被検者の呼吸活動に応じた第2の生体情報を取得する第2の情報取得部と、
前記第2の生体情報に基づいて被検者の呼吸活動の停止状態を検知し、検知された呼吸活動の停止状態の期間における前記第1の生体情報に基づいて被検者の嚥下活動を検知する嚥下活動検知部と、
を有する嚥下活動モニタリング装置。
【請求項2】
前記第2の生体情報は、被検者の鼻腔部または口腔部の呼吸気流を示す、
請求項1記載の嚥下活動モニタリング装置。
【請求項3】
前記第2の生体情報は、被検者の胸郭部の運動を示す、
請求項1記載の嚥下活動モニタリング装置。
【請求項4】
前記嚥下活動検知部を内部に有する携帯可能な筐体を有し、
前記筐体は、
被検者の胸骨上窩部の運動を検知して前記第1の生体情報を生成する第1のセンサと接続可能な第1の接続部と、
被検者の呼吸活動を検知して前記第2の生体情報を生成する第2のセンサと接続可能な第2の接続部と、
を有する請求項1記載の嚥下活動モニタリング装置。
【請求項5】
検知された嚥下活動の質的評価を、取得された前記第2の生体情報に基づいて行う嚥下活動評価部をさらに有する、
請求項1記載の嚥下活動モニタリング装置。
【請求項6】
前記嚥下活動評価部は、検知された嚥下活動の頻度の判定を、検知された嚥下活動の質的評価として行う、
請求項5記載の嚥下活動モニタリング装置。
【請求項7】
前記嚥下活動評価部は、検知された嚥下活動の直前または直後における呼吸相が呼気相であるか吸気相であるかの判定を、検知された嚥下活動の質的評価として行う、
請求項5記載の嚥下活動モニタリング装置。
【請求項8】
前記嚥下活動評価部は、検知された嚥下活動の終了時点から呼吸活動の再開時点までの期間長が所定値よりも短いか否かの判定を、検知された嚥下活動の質的評価として行う、
請求項5記載の嚥下活動モニタリング装置。
【請求項9】
前記嚥下活動検知部および前記嚥下活動評価部を内部に有する携帯可能な筐体を有し、
前記筐体は、
被検者の胸骨上窩部の運動を検知して前記第1の生体情報を生成する第1のセンサと接続可能な第1の接続部と、
被検者の呼吸活動を検知して前記第2の生体情報を生成する第2のセンサに接続可能な第2の接続部と、
を有する請求項5記載の嚥下活動モニタリング装置。
【請求項10】
生体情報記録装置と嚥下活動モニタリング装置とを有する嚥下活動モニタリングシステムであって、
前記生体情報記録装置は、
被検者の胸骨上窩部の運動を検知して被検者の胸骨上窩部の運動に応じた第1の生体情報を生成する第1のセンサと接続可能な第1の接続部と、
被検者の呼吸活動を検知して被検者の呼吸活動に応じた第2の生体情報を生成する第2のセンサと接続可能な第2の接続部と、
生成された前記第1および第2の生体情報を記憶媒体に記録する記録部と、
を有し、
前記嚥下活動モニタリング装置は、
前記記憶媒体に記録された前記第1および第2の生体情報を受信する受信部と、
前記第2の生体情報に基づいて被検者の呼吸活動の停止状態を検知し、検知された呼吸活動の停止状態の期間における前記第1の生体情報に基づいて被検者の嚥下活動を検知する嚥下活動検知部と、
を有する嚥下活動モニタリングシステム。
【請求項11】
嚥下活動のモニタリングに用いられる生体情報記録装置であって、
被検者の胸骨上窩部の運動を検知して被検者の胸骨上窩部の運動に応じた第1の生体情報を生成する第1のセンサと接続可能な第1の接続部と、
被検者の呼吸活動を検知して被検者の呼吸活動に応じた第2の生体情報を生成する第2のセンサと接続可能な第2の接続部と、
前記第1および第2の生体情報に基づいて被検者の嚥下活動を検知する嚥下活動モニタリング装置に転送可能な形式で、前記第1および第2の生体情報を記憶媒体に記録する記録部と、
を有する生体情報記録装置。
【請求項12】
コンピュータに、
被検者の胸骨上窩部の運動に応じた第1の生体情報を取得する第1の情報取得機能と、
被検者の呼吸活動に応じた第2の生体情報を取得する第2の情報取得機能と、
前記第2の生体情報に基づいて被検者の呼吸活動の停止状態を検知し、検知された呼吸活動の停止状態の期間における前記第1の生体情報に基づいて被検者の嚥下活動を検知する嚥下活動検知機能と、
を実現させるための嚥下活動モニタリングプログラム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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