説明

嚥下障害治療用バルーンカテーテル

【課題】食道の咽頭内の輪状咽頭筋部内でバルーンを拡張する際、挿入時の痛みや違和感を軽減し、口腔、鼻腔、食道等の内壁面を圧迫することがなく、また、確実にバルーンの位置ずれを防止することができる嚥下障害治療用バルーンカテーテルを提供する。
【解決手段】長さ方向に貫通する内腔を少なくとも1つ有するシャフト2及び前記シャフトの先端部に配置されたバルーン3を備えたバルーンカテーテルであって、前記シャフトの横断面において前記内腔が偏心していることを特徴とする嚥下障害治療用バルーンカテーテル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に食道等の生体管腔に挿入して用いられ、特に咽頭内の輪状咽頭筋部(食道入口の生理的狭窄部)内でバルーンを膨張させることで、食道蠕動運動を誘発する知覚受容器に圧刺激を与えて嚥下障害を治療することを目的とする嚥下障害治療用バルーンカテーテルに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、脳性麻痺やダウン症等による発達障害、脳卒中や脳外傷等による中途障害、加齢に伴う神経・筋機構等の衰え等により、飲食物の咀嚼や飲み込みが困難になることがある。
【0003】
これに対し、嚥下障害の治療法の1つとして、食道の輪状咽頭筋部内でバルーンを膨張させることで、食道蠕動運動を誘発する知覚受容器に圧刺激を与えて嚥下障害を治療するバルーン法が知られている。
【0004】
バルーン法には主に4種類の方法がある。第1の引き抜き法は、食道にバルーンカテーテルを挿入し、輪状咽頭筋部を越えたところ(先端側)でバルーンを膨張させ、そのまま後端側に引き抜いて狭窄部に引っ掛ける。ここで軽くバルーンを引っ張りながら患者に空嚥下してもらい、輪状咽頭筋部が開くタイミングに合わせてバルーンを引き抜く。この動作を複数回繰り返すことで圧刺激を与える。
【0005】
第2の間欠的拡張法は、同様に輪状咽頭筋部を越えたところでバルーンを膨張させ、そのまま後端側に引き抜いて狭窄部に引っ掛ける。その位置でバルーンを少し収縮させ、バルーンを5〜8mmほど引き抜き、再び膨張させることで狭窄部を拡張する。拡張時間は10〜20秒とし、同部に複数回の拡張を加える。
【0006】
第3のバルーン嚥下法は、体外で膨張させたバルーンを患者が飲み込む訓練である。状況に応じてバルーンサイズを調節する。
【0007】
最後に、第4の持続拡張法は、第2の間欠的拡張法において、狭窄部でバルーンを拡張させたまま10〜20分間留置する方法である。
【0008】
以上のバルーン法を1日の中で2〜3回実施する。訓練方法、訓練回数やバルーンサイズは患者の状態や回復状況に応じて選択する。また、患者が自主トレーニングできるようにも医師が指導する。バルーン法ではバルーンカテーテルを飲み込むこと自体が有効な嚥下訓練となっており、他の間接的な訓練手技では得られない直接的な食道入口部の拡張刺激が得られる。手技も比較的安全で、練習すれば患者や家族が自主的に訓練を継続していくことが可能である。
【0009】
上記バルーン法では、屈曲している生体管腔内にバルーンカテーテルを挿入する際、カテーテル表面が、口腔、鼻腔、食道等の内壁面を擦ることによって刺激を与えるため、挿入時に痛みや違和感が生じやすい。進行すると食道潰瘍や出血を引き起こすことがある。
【0010】
特許文献1には、カテーテルの断面形状が扁平に変形するような柔軟性を有するか、或いは断面形状を扁平に形成することで、口腔、鼻腔、食道等の内壁面を圧迫することがなく、また、カテーテル内を胃や食道内の内容物が逆流するのを防止できるバルーンカテーテルを開示している。しかし、断面形状が扁平であるため、生体管腔内でカテーテルが折れやすくなる。また、屈曲部の内腔断面積が小さくなりやすいため、バルーン内への拡張用流体の注入が困難になる可能性がある。
【0011】
特許文献2には、少なくとも2つの内腔が形成され、シャフトの横断面におけるX軸方向、Y軸方向の長さの比(X軸の長さ/Y軸の長さ)が0.8〜0.1の範囲となっている扁平状のカテーテルを開示している。上記カテーテルは、X軸方向の外径を小さくすることができ、かつ無駄な肉厚をなくすことができるため、屈曲した生体管腔でのカテーテルの挿入性が向上するが、特許文献1と同様、断面形状が扁平であるため、生体管腔内でカテーテルが折れやすくなる。
【0012】
さらに、一般的にカテーテルのシャフトに2つ以上の内腔を形成させる場合、シャフトの横断面を偏心させることがあるが、これは、各内腔間に必要最低限の肉厚を持たせて剛性及び耐圧を向上させる、或いは、各内腔面積をなるべく大きくしてフローを向上させる、或いは、押出成形時の成形性を向上させるなどの目的によるものであり、本発明に示す屈曲した生体内腔への挿入性を向上させることを意図したものではなく、嚥下障害治療に用いることについて記載も示唆もない。
【0013】
また、バルーン法で使用されるバルーンカテーテルは現状、専用品が販売されておらず、球型の膀胱留置用バルーンカテーテルや俵型の食道ブジー用バルーンカテーテルを代用しているが、拡張時にバルーンが先端側或いは後端側に滑ってしまう場合が多く、持続的・間欠的拡張を行うには術者の高度な技術が必要である。術者の技術が不足する場合、手技時間の長期化で患者の負担が増大すると共に、十分な治療効果を挙げられない恐れがある。狭窄部からの位置ずれについては、その他の生態管腔の狭窄治療においても同様の現象を生ずることがあり、解決策が求められている。
【0014】
特許文献3には、バルーン部を2重構造にし、さらに複数個の内側バルーンとこれを覆う単数の外側バルーンを個別に拡張できる構造にし、内側バルーン間の細径部に狭窄部を固定しながら外側バルーンを拡張することで、拡張中の狭窄部からのバルーンの位置ずれを防止できるバルーンカテーテルを開示している。しかし、少なくとも3つ以上のバルーンを個別に膨張・収縮するため、操作が困難となり、術者の負担が増加する。また、意図しないバルーンを拡張させる等の操作ミスによって手技が長期化し、術者及び患者の負担が増す。
【特許文献1】特開平10−118190号公報
【特許文献2】特開平11−76414号公報
【特許文献3】特開2002−102354号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
即ち、本発明の目的は、食道の咽頭内の輪状咽頭筋部内でバルーンを拡張する際、挿入時の痛みや違和感を軽減し、口腔、鼻腔、食道等の内壁面を圧迫することがなく、また、確実にバルーンの位置ずれを防止することができる嚥下障害治療用バルーンカテーテルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
1.長さ方向に貫通する内腔を少なくとも1つ有するシャフト及び前記シャフトの先端部に配置されたバルーンを備えたバルーンカテーテルであって、前記シャフトの横断面において前記内腔が偏心していることを特徴とする嚥下障害治療用バルーンカテーテル。
2. 前記シャフトの横断面における最も太い部分の肉厚が最も薄い部分の肉厚の1.5倍以上であることを特徴とする前記1に記載の嚥下障害治療用バルーンカテーテル。
3.前記バルーンのカテーテル長さ方向における両端を含む部分の間に少なくとも1つの細径部を有することを特徴とする前記1または前記2に記載の嚥下障害治療用バルーンカテーテル。
4.前記バルーンの膨張時に該細径部がその他の部分よりも後に膨張することを特徴とする前記3に記載の嚥下障害治療用バルーンカテーテル。
【発明の効果】
【0017】
本発明のバルーンカテーテルは、シャフトの横断面において内腔が偏心していることで、生体管腔挿入中に、体内の走行に沿ってカテーテルが屈曲しやすくなっており、挿入時の痛みや違和感を軽減し、口腔、鼻腔、食道等の内壁面の圧迫を防止することができる。また、本発明の好ましい態様においては、バルーンの一部に細径部を有しており、細径部に輪状咽頭筋部を固定した状態でバルーンを拡張することで、拡張中のバルーンの位置ずれを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明によるバルーンカテーテルの最良の形態を以下に説明する。
【0019】
図1は、本発明のバルーンカテーテルを嚥下障害治療用に使用した状態を示す説明図、図2は、本発明のバルーンカテーテルのシャフト断面図の好適な実施形態、図3は、本発明のバルーンカテーテルのシャフト断面図の別の態様に係る好適な実施形態、図4は、本発明のバルーンカテーテルの好適な実施形態における拡張状態のバルーン及びその周辺を示す側面図である。
【0020】
これらの図に示すバルーンカテーテル1は、長さ方向に貫通する内腔を少なくとも1つ有する長尺なシャフト2と、シャフト先端部に配置された膨張・収縮可能なバルーン3と、バルーン3の先端部に配置された先端チップ4を有している。
【0021】
シャフト2は長さ方向に貫通する内腔5を有する。内腔5の先端側はバルーン3内に連通しており、シャフト2の後端側からバルーン3内に膨張用流体を注入することができる。前記膨張用流体には特に限定がなく、水や生理食塩水等の液体、空気や不活性ガス等の気体が挙げられる。また、シャフト2には、必要に応じて、ガイドワイヤーの挿通、または造影剤などの薬液の注入に使用されるもう1つの副内腔を有していても構わないが、使用上必須ではないので図示しない。
【0022】
シャフト2の構成材料としては、例えば、ナイロン11やナイロン12等のポリアミド系樹脂またはポリアミドエラストマー、ポリプロピレンやポリエチレン等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリウレタン、塩化ビニール等の可撓性を有する高分子材料が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。前記シャフト2には、食道潰瘍や細菌の増殖を抑制することを目的に、例えば、抗菌剤または抗炎症剤を含有させることもできる。
【0023】
シャフト2の横断面形状については、生体管腔への挿入性及び剛性の点から、真円または真円に近い楕円であることが好ましい。内腔5については、特に限定されず、円、多角形に類似または同一であることが好ましい。図2、図3に一例を示す。
【0024】
シャフト2の寸法については、外径は、生体管腔への適度な挿入性、剛性、柔軟性を有するように通常φ3.0〜8.0mm程度であることが好ましい。内腔5については、寸法、形状とも特に限定されるものではないが、体内でシャフト2が屈曲した際に内腔断面積が小さくなることで、バルーン3内への膨張用流体の注入時の抵抗が高くなり、操作性が低下するため、1.0mm以上、より好ましくは2.0mm以上の最小幅を有していることが好ましい。
【0025】
さらに、シャフト2の横断面においては、図2、図3に例示するように内腔が偏心しており、断面上の両端の肉厚に有意な差がある。これにより、体内挿入時に体内の走行に沿ってシャフト2が容易に屈曲しやすくなり、シャフト2がストレート状を維持しようとする反力に伴う挿入時の痛みや違和感を軽減し、口腔、鼻腔、食道等の内壁面の圧迫を防止することができる。上記観点より、偏心についてさらに詳細に述べると、長手方向上の任意の位置におけるシャフト横断面において、最も太い部分の肉厚が最も薄い部分の肉厚の1.5倍以上であることが好ましく、より好ましくは2倍以上である。また、シャフト2の長さは、口腔、鼻腔、食道等を通って、食道の目的箇所までバルーンを配置するために必要にして十分な長さであればよいので、通常20〜60cmが好ましく、30〜50cmがより好ましい。
【0026】
このようなシャフト2の後端部には、図示しないハブが設置されている。前記ハブには、内腔5に連通するポートが形成されている。ポートには、例えばシリンジのようなバルーン拡張器具(図示せず)を接続することができる。
【0027】
バルーン3は、両端を含む部分の間に少なくとも1つの細径部を有した筒状の膜部材である。図1、図4には、バルーンの先端部6、後端部7の間に1つの細径部8を有したバルーン3を例示する。バルーン3は、細径部8がその他の部分よりも後に膨張する。より具体的には、先端部6、後端部7、細径部8の順に膨張することがより好ましい。術者は、図1における輪状咽頭筋部9を越えたところで先端部6のみを膨張させ、バルーン3を後端側に引き寄せて狭窄部に引っ掛けた状態で、後端部7、細径部8の順に膨張させる。この動作により、拡張中の狭窄部からのバルーンの位置ずれを防止することができる。
【0028】
バルーン3を製造する方法として、例えば、ディッピング成形法、ブロー成形法等の成形法を用いることができる。上記の様に、先端部6、後端部7、細径部8の順に膨張させるため、先端部6、後端部7、細径部8の順に肉厚を太くすることが好ましい。または、先端部6の長さを後端部7の長さより長くすることで、先端部6、後端部7の肉厚に差をつけずに先端部6を先に膨張させることもできる。
【0029】
ディッピング成形法では、後記のポリマーに必要に応じて各種添加剤を溶剤に溶解して溶液または懸濁液とし、前記溶液または懸濁液に所望のバルーン形状と等しい型を浸漬させることで、溶液または懸濁液を型の表面に塗布し、その後に乾燥することで溶剤を蒸発させ、型の表面に被膜を形成させる。所望の肉厚が得られるまで蒸気の浸漬と乾燥を繰り返し、最後に型から外すことで所望の形状のバルーンを製造できる。成形以外の方法では、細径部8の肉厚を増すことで所望の形状のバルーンを製造する方法がある。この場合、細径部8の肉厚は先端部6及び後端部7の肉厚よりも1.5倍以上であることが好ましく、より好ましくは2倍以上である。
【0030】
前記バルーン3の両側の遠位端部は、全周に亘りシャフト2に液密的に固着されている。固着の方法は、特に限定されず、例えば、接着剤による接着、レーザー、溶剤、超音波等による融着等の方法が挙げられる。
【0031】
バルーン3の構成材料としては、例えば、天然ゴム・合成ゴム、ナイロン11やナイロン12等のポリアミド系樹脂またはポリアミドエラストマー、ポリプロピレンやポリエチレン等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリウレタン等の高分子材料のうち、少なくとも1種を含むポリマーが挙げられる。
【0032】
バルーン3の寸法は、通常の食道径がφ15〜30mmであることから、先端部6及び後端部7の最大直径はφ15〜30mmであるのが好ましく、より好ましくはφ20〜30mmである。一方、細径部8の直径は、上記最大直径の60〜90%であるのが好ましく、65〜80%であるのがより好ましい。軸方向の長さは、拡張時の長さが10〜50mmであるのが好ましく、20〜40mmであるのがより好ましい。
【0033】
本発明のバルーン3及び/またはシャフト2の外表面には、体内での挿入性を向上させることを目的に、例えば、セルロース系、ポリエチレンオキサイド系、無水マレイン酸系、アクリルアミド系の高分子物質の表面コート、或いはシリコーンオイル、オリーブオイル、グリセリン等の表面塗布を施すこともでき、かかる手段により、摩擦抵抗を低減することができる。
【0034】
さらに、バルーン3の先端側には、体内にバルーン3を挿入させるための先端チップ4が設けられることが好ましい。先端チップ4のシャフト2への固定は、接着剤による接着、レーザー、溶剤、超音波等による融着等の任意の方法により可能である。
【0035】
先端チップ4の構成材料は、適度の柔軟性及び耐屈曲性を有する弾性材料が好ましく、例えば、ポリアミドエラストマーやポリウレタン等が挙げられる。
【0036】
先端チップ4の形状は、生体管腔への挿入性を向上させるためにテーパー加工されていることが望ましく、生体管腔内壁への穿孔防止のため、先端は丸みがあることが好ましい。
【0037】
先端チップ4の外径は、一般的に、シャフト2の外径より小さいほうがよい。先端チップ4の長さは特に限定されないが、必要以上に長いと耐屈曲性が低下する可能性があるため、20mm以下が好ましく、10〜15mmがより好ましい。なお、シャフト2に、ガイドワイヤーの挿通、または造影剤等の薬液の注入に使用される目的で副内腔を有している場合、先端チップ4は上記副内腔と連通されている同等径の内腔を有している必要がある。
【0038】
本発明のバルーンカテーテルは、前記した特長を活かし、嚥下障害治療時に、挿入時の痛みや違和感を軽減し、口腔、鼻腔、食道等の内壁面の圧迫を防止することができ、また、拡張中のバルーンの位置ずれを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明のバルーンカテーテルを嚥下障害治療用に使用した状態を示す説明図
【図2】本発明のバルーンカテーテルのシャフト横断面図の好適な実施形態
【図3】図3に示したシャフト横断面図の別の態様に係る好適な実施形態
【図4】本発明のバルーンカテーテルの好適な実施形態における拡張状態のバルーン及びその周辺を示す側面図
【符号の説明】
【0040】
1:バルーンカテーテル
2:シャフト
3:バルーン
4:先端チップ
5:内腔
6:先端部
7:後端部
8:細径部
9:咽頭筋部
10:口腔
11:鼻腔
12:食道
13:気管
14:舌

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長さ方向に貫通する内腔を少なくとも1つ有するシャフト及び前記シャフトの先端部に配置されたバルーンを備えたバルーンカテーテルであって、前記シャフトの横断面において前記内腔が偏心していることを特徴とする嚥下障害治療用バルーンカテーテル。
【請求項2】
前記シャフトの横断面における最も太い部分の肉厚が最も薄い部分の肉厚の1.5倍以上であることを特徴とする請求項1に記載の嚥下障害治療用バルーンカテーテル。
【請求項3】
前記バルーンのカテーテル長さ方向における両端を含む部分の間に少なくとも1つの細径部を有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の嚥下障害治療用バルーンカテーテル。
【請求項4】
前記バルーンの膨張時に該細径部がその他の部分よりも後に膨張することを特徴とする請求項3に記載の嚥下障害治療用バルーンカテーテル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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