説明

回収溶剤の再利用方法

【課題】
印刷により発生した揮発成分からなる回収溶剤に対して、蒸留など精製工程を簡素化させ、容易に再利用することができる、回収溶剤の再利用方法の検討。
【解決手段】
印刷機に設置した溶剤回収装置によって回収された混合溶剤を組成分析した後、成分調整を行って再利用する方法。
また、成分分析方法が、ガスクロマトグラフィー測定、液体クロマトグラフィー測定、赤外吸収スペクトル測定、屈折率測定、密度比重測定、導電率測定、核磁気共鳴吸収法、臭気試験を用いた方法の群から選択される少なくとも1種類以上の方法である事を特徴とする上記溶剤再利用方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷によって生じる揮発成分を回収した溶剤を、再利用する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、成層圏におけるオゾン層の破壊、低層圏における酸性雨による農産物への打撃や森林資源の破壊、光化学オキシダントによる人体への悪影響等の大気汚染に関する問題が深刻になってきている。そのため、PRTR法の施行、悪臭防止法の規制強化、京都議定書の二酸化炭素削減、大気汚染防止法、埼玉県生活環境保全条例など、大気環境保全に関する法律も年々厳しくなっている。特に、有機溶剤を大量に使用するグラビア印刷業界では、これらの問題を解決する一つの手段として、溶剤回収-再利用への関心が高まっている。
【0003】
しかしながら、現在印刷インキの多くは、使用樹脂の溶解性や乾燥速度調整などの点から複数種の溶剤組成で設計されており、回収した溶剤を単一溶剤に分離するためには大規模な蒸留塔などを設けなければならないため、莫大なイニシャルコスト、ランニングコストがかかることが問題となっていた。
【特許文献1】なし。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
印刷により発生する揮発成分を回収してなる混合溶剤を、単一溶剤に分離することなく容易に再利用できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、前記の実状を鑑み鋭意検討を重ねた結果、印刷により発生する揮発成分を回収してなる混合溶剤を、成分分析して目的の組成比に調整して再利用することで、単一溶剤に分離することなく容易に再利用できることを見出し、本発明に至った。
【0006】
すなわち、本発明は、印刷機に設置した溶剤回収装置によって回収された混合溶剤を組成分析した後、成分調整を行うことを特徴とする再利用方法である。さらに、上記再利用方法における組成分析方法が、ガスクロマトグラフィー測定、液体クロマトグラフィー測定、赤外吸収スペクトル測定、屈折率測定、密度比重測定、導電率測定、核磁気共鳴吸収法、臭気試験を用いた方法の群から選択される少なくとも1種類以上の方法である事を特徴とする再利用方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明が提供する回収溶剤再利用方法は、印刷により発生した揮発成分からなる回収溶剤に対して、蒸留など精製工程を簡素化させ、容易に再利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の回収溶剤再利用方法は、回収溶剤を組成分析し適当な成分比へ調整し再利用することを特徴とする。
【0009】
本発明における印刷インキは、着色剤、樹脂、溶剤から構成され、更に必要に応じて各種添加剤が使用される。この印刷インキはグラビア印刷、フレキソ印刷などの印刷法により基材に塗布された後、オーブンなどの乾燥装置で印刷インキ中に含まれる溶剤が、揮発させられ、活性炭などの吸着剤を備えた回収装置で回収される。回収された溶剤は、成分によって吸着能などに差があるため、インキ中成分とは異なった比率となっているが、本発明の回収溶剤再利用方法では、回収溶剤を分析して組成比を明らかにし、調整して再利用することができる。
【0010】
本発明における印刷インキに使用される溶剤としては、グラビア印刷およびフレキソ印刷で一般的に使用されている水や有機溶剤を用いることができる。この中で、有機溶剤としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、プロピレングリコールモノエチルエーテルなどのアルコール系有機溶剤、アセトン,メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、炭酸ジメチルなどのケトン系有機溶剤、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテートなどのエステル系有機溶剤、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタンなどの脂肪族炭化水素系有機溶剤、およびシクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタンなどの脂環族炭化水素系有機溶剤、トルエンなどの芳香族炭化水素系有機溶剤などが挙げられる。
【0011】
本発明における印刷インキに用いられる着色剤は、無機顔料としては、酸化チタン、酸化亜鉛、硫化亜鉛、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、酸化クロム、シリカ、カーボンブラック、アルミニウム、マイカ(雲母)、ベンガラなど、有機顔料としては、アゾ系、フタロシアニン系、アントラキノン系、ペリノン系、キナクドリン系、チオインジゴ系、ジオキサジン系、イソインドリノン系、キノフタロン系、アゾメチンアゾ系、ジクトピロロピロール系、イソインドリン系などの顔料が挙げられる。これらの顔料は、単独で、または色相および濃度の調整を目的として2種以上を混合して用いることができる。また、染料を使用、または併用することもできるが、耐光性の観点から顔料の使用が好ましい。
【0012】
本発明における印刷インキに用いられる樹脂は、用途や基材によって適宜選択することができる。本発明に用いられる樹脂の例としては、ポリウレタン樹脂、ポリウレタン/ウレア樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂、塩素化ポリプロピレン樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリアミド樹脂、ニトロセルロース樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキッド樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ロジン系樹脂、ロジン変性マレイン酸樹脂、テルペン樹脂、フェノール変性テルペン樹脂、ケトン樹脂、環化ゴム、塩化ゴム、ブチラール、石油樹脂などを挙げることができる。これらの樹脂は、単独で、または2種以上を混合して用いることができる。
【0013】
本発明における印刷インキには、必要に応じて、体質顔料、顔料分散剤、レベリング剤、消泡剤、架橋剤、硬化剤、ワックス、シランカップリング剤、防錆剤、防腐剤、可塑剤、赤外吸収剤、紫外線吸収剤、耐光性向上剤、芳香剤、難燃剤等の各種添加剤を使用することもできる。
【0014】
本発明における印刷インキは、一般に使用される分散機、例えばディソルバー、ローラーミル、ボールミル、ペブルミル、アトライター、サンドミルなどを用いて製造することができる。印刷インキ中に気泡や予期されない粗大粒子などが含まれる場合は、印刷物品質を低下させるため、ろ過などにより取り除くことが好ましい。ろ過器は従来公知のものを使用することができる。
【0015】
本発明における印刷インキの粘度は、顔料の沈降を防ぐ観点から10mPa・s以上、印刷インキ製造時や印刷時の作業性や版かぶり性、レベリング性などの印刷適性の観点から1000mPa・s以下が好ましい。更に10〜500mPa・sが好ましい。なお、本発明における粘度とは回転粘度計(BM型粘度計、20℃下測定)を用いた方法で得られた値である。
【0016】
本発明の印刷インキを塗布する方法としては、グラビア印刷、フレキソ印刷、凸版印刷、スクリーン印刷、オフセット印刷などの印刷方法や、ロールコーティング、スプレーコーティング、ディップコーティングなどのコーティング方法が挙げられる。例えば、グラビア印刷の場合、印刷に適した粘度及び濃度にまで希釈溶剤で希釈され、単独でまたは混合されて各印刷ユニットに供給される。印刷インキは、これらの印刷方法で基材に塗布された後、オーブンで溶剤分を揮発させて定着される。
【0017】
本発明の溶剤回収方法としては、溶剤蒸気と共存する空気から分離する方法、すなわち凝縮法、圧縮法、吸収法、吸着法を用いることができる。これらの方法は、溶剤蒸気の組成、物理的性質、化学的性質、濃度、発生量(処理量)、含まれる不純物、希望する回収率、回収溶剤の特性などを考慮して選択することができる。この中で、回収率などを含めたコスト面から、吸着剤を用いたガス吸着での方法が好ましく、一般的に用いられている。
【0018】
上記の吸着法に用いられる吸着剤としては、活性炭、シリカゲルなどの多孔質シリカ、ゼオライト、各種粘土、アルミナ、酸化鉄(水酸化鉄ゲル)、過塩素酸マグネシウム、イオン交換樹脂などが挙げられる。この中で、高い比表面積を有する、活性炭、シリカゲルなどの多孔質シリカ、ゼオライトを選択することが好ましい。吸着質の形状としては、粒子状、繊維状などが挙げられ、粒子状の場合は流動床、繊維状の場合は固定床と、回収システムに応じた形状を選択することができる。
【0019】
吸着剤に吸着質として捕集された溶剤は、空気、窒素をはじめとした不活性ガス、水蒸気などの加熱ガスの導入で脱着され、液化して溶剤に戻される。この溶剤は、一般的に吸脱着の過程で水分量が増大しているため、必要に応じて、高分子膜やゼオライト膜を用いた膜分離や、シリカゲルなどを用いた吸着や、比重差や、蒸留によって、除去させることができる。
【0020】
本発明の回収溶剤中の成分は、上記の印刷時の使用溶剤により限定されるが、成分比については回収装置の特性により異なることになる。例えば、活性炭を吸着剤として用いる回収装置では、極性の高いアルコール類などは吸着能力が低いため回収しにくく、さらに脱着時の温度設定によっては、高沸点物質が脱着しにくく回収されにくくなる。
【0021】
本発明における回収溶剤の分析方法は、様々な方法が考えられるが、簡便に、かつ精確に測定できる方法が好ましい。これらの方法としては、ガスクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、赤外吸収スペクトル、屈折率、密度比重、導電率、臭気などの測定が挙げられる。
【0022】
ガスクロマトグラフィー測定は、回収溶剤をサンプリングして測定し、得られたチャートの保持時間で物質種を、面積比により組成比を算出することができる。検出器は、TCD(熱伝導度検出器)、FID(水素炎イオン化検出器)などを、必要とされる精度により選択することができる。測定の際には、事前に検量線を作成しておくことや、内部標準物質を使用することが望ましい。
【0023】
液体クロマトグラフィー測定も、ガスクロマトグラフィー測定と同様に回収溶剤をサンプリングして測定し、得られたチャートの面積比により組成比を算出することができる。
【0024】
赤外吸収スペクトル測定は、セルにサンプリングする方法でも、回収溶剤の配管に設けられたセルでも測定することができる。得られたチャートから、特定の吸収帯の面積比、透過度(高さ)により組成比を算出できる。この方法の場合は、溶剤特有の結合に帰属される吸収帯を有する必要があり、例えば、チャートから、エステル結合のC=O伸縮振動や、水酸基のO−H伸縮振動に帰属される吸収の面積比を算出し、その組成比を求めることができる。測定の際には、事前に検量線を作成しておくことや、内部標準物質を使用することが望ましい。
【0025】
屈折率測定は、化学構造に起因して溶剤特有の屈折率を有することを利用した方法である。光源にD線(Na炎波長589nm)を用いた測定が一般的だが、太陽光線を用いた方法や、異なる波長の光源の測定を実施しその比分散値から算出する方法も用いることができる。測定の際には、事前に検量線を作成しておくことが望ましい。
【0026】
密度比重測定は、溶剤各成分特有の性状であるため、成分分析に用いることができる。測定方法としては、浮ひょう法、比重天秤法、比重ビン法などが挙げられ、比重、AIP度、ボーメ度などの数値で得ることができる。測定の際には、事前に検量線を作成しておくことが望ましい。
【0027】
導電率測定は、化学構造に起因して溶剤特有の導電率を有することを利用した方法である。特に、水の導電率が高いことを利用して、水との混合系で使用することができる。測定の際には、事前に検量線を作成しておくことが望ましい。
【0028】
核磁気共鳴吸収法は、化学構造に起因して様々なパターンを示す。同じC−H結合でも周辺構造により異なる化学シフトでシグナルが現れるため、溶剤の構造で特徴的な結合にあらかじめ着目し、その化学シフトのシグナルの強度を用いて、溶剤の定量にも用いることができる。核磁気共鳴吸収法は一般に、プロトンNMR、C13NMRなどが有機化合物の同定などに一般的である。測定の際には、事前に検量線を作成しておくことが望ましい。
【0029】
臭気測定は、臭気指数で示されるような官能臭気によるものもあるが、迅速に精確な組成比を得たい場合は、蒸気を半導体ガスセンサーなどの機器で分析する方法が適している。蒸気の量は、ラウールの法則により混合比率と相関が取れる。測定の際には、事前に検量線を作成しておくことが望ましい。
【実施例】
【0030】
以下、実施例をあげて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
不揮発分の溶剤組成が、酢酸エチル/イソプロピルアルコール=65/35である印刷インキを用いてグラビア印刷を実施し揮発した溶剤成分を、活性炭粒子を流動床とする回収装置で回収後、ゼオライト分離膜で水分を除去したところ、酢酸エチル/イソプロピルアルコールの混合溶剤である回収溶剤(A)を得た。この回収溶剤(A)5μlを、検出器としてTCD、ガラス製カラムを有する島津製作所社製ガスクロマトグラフィー「GC−8A」にて分析したところ、クロマトグラムのピーク面積比が酢酸エチル/イソプロピルアルコール=189105:92196となった。あらかじめ作成した検量線から、回収溶剤(A)の成分比は酢酸エチル/イソプロピルアルコール=70/30と算出されたため、回収溶剤(A)に酢酸エチル/イソプロピルアルコール=65/35となるようイソプロピルアルコールを添加して印刷インキの原料、材料として再利用した。
[実施例2]
実施例1で得られた回収溶剤(A)10gに内部標準としてブタノール1gを添加したサンプル(B)を作成し、このサンプル(B)150μlを、検出器として昭光通商社製屈折率検出器「RI−101」、4本の昭光通商社製液体クロマトグラフィー用カラム「LF−804」を有する液体クロマトグラフィー装置にて分析したところ、酢酸エチル、イソプロピルアルコール、ブタノールに起因するピークを得た。酢酸エチル、イソプロピルアルコールについて、あらかじめ作成した対ブタノールの検量線から、サンプル(B)の酢酸エチル、イソプロピルアルコールの比率を算出したところ、酢酸エチル/イソプロピルアルコール=70/30となった。そこで、回収溶剤(A)に酢酸エチル/イソプロピルアルコール=65/35となるようイソプロピルアルコールを添加して印刷インキの原料、材料として再利用した。
[実施例3]
実施例1で得られた回収溶剤(A)について、日本電子社製赤外分光光度計「JIR−WINSPEC50」にてFT−IRスペクトルを測定しスペクトルを得た。酢酸エチルのエステル結合中のC=O伸縮振動に帰属される1735cm−1の吸収帯、イソプロピルアルコールの水酸基のO−H伸縮振動に帰属される約3450cm−1のブロードな吸収帯について着目し、その透過度の比は、40.53/32.14となった。あらかじめ作成した検量線から、回収溶剤(A)の酢酸エチル、イソプロピルアルコールの比率を算出したところ、酢酸エチル/イソプロピルアルコール=70/30となった。そこで、回収溶剤(A)に酢酸エチル/イソプロピルアルコール=65/35となるようイソプロピルアルコールを添加して印刷インキの原料、材料として再利用した。
[実施例4]
実施例1で得られた回収溶剤(A)を、100mlの秤量びんで比重測定を行ったところ、8.412(25℃)と算出された。あらかじめ作成した検量線から、回収溶剤(A)の酢酸エチル、イソプロピルアルコールの比率を算出したところ、酢酸エチル/イソプロピルアルコール=70/30となった。そこで、回収溶剤(A)に酢酸エチル/イソプロピルアルコール=65/35となるようイソプロピルアルコールを添加して印刷インキの原料、材料として再利用した。







【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷機に設置した溶剤回収装置によって回収された混合溶剤を組成分析した後、成分調整を行って再利用する方法。
【請求項2】
成分分析方法が、ガスクロマトグラフィー測定、液体クロマトグラフィー測定、赤外吸収スペクトル測定、屈折率測定、密度比重測定、導電率測定、核磁気共鳴吸収法、臭気試験を用いた方法の群から選択される少なくとも1種類以上の方法である事を特徴とする請求項1記載の溶剤再利用方法。




























【公開番号】特開2008−50424(P2008−50424A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−226157(P2006−226157)
【出願日】平成18年8月23日(2006.8.23)
【出願人】(000222118)東洋インキ製造株式会社 (2,229)
【Fターム(参考)】