説明

回折格子の形状評価方法

【課題】 位相シフト部を有する回折格子の形状評価を高い精度でおこなうことができる回折格子の形状評価方法を提供する。
【解決手段】 本発明に係る回折格子の形状評価方法は、位相シフト部を有する回折格子の形状評価方法であって、回折格子の凹凸に対応する干渉縞を検出する干渉縞検出工程と、干渉縞検出工程で検出した干渉縞に基づいて、回折格子の形状評価をおこなう形状評価工程とを含む。この回折格子の形状評価方法においては、回折格子の凹凸に対応する干渉縞を検出して、その干渉縞に基づいて回折格子の形状評価がおこなわれる。この干渉縞は、位相シフト部において変化するため、この回折格子の形状評価方法においては、位相シフト部を有する回折格子の形状評価を高い精度でおこなうことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位相シフト部を有する回折格子の形状評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
分布帰還型半導体レーザの回折格子を作製する際には、まず、半導体基板上に干渉露光法や電子ビーム露光によって回折格子のエッチングマスクパターンを形成し、このマスクを用いてエッチング処理して、半導体基板上に凹凸を形成して回折格子としていた。例えば、光通信で用いる半導体レーザとしては、回折格子の周期は約200nm〜250nmとなっている。
【0003】
上記回折格子の周期は、二光束干渉露光法で回折格子を形成した場合には、パターン自体が干渉性を利用した方法であるため、形成される回折格子の周期の寸法精度は非常に高いものとなる。また、ウェハ全面に均一周期の回折格子(均一回折格子)が形成されるため、露光に用いた光源と同じ光源を利用して、回折格子に光を照射すれば、光は回折して、その回折角から容易に回折格子の周期を求めることができる。
【0004】
均一回折格子の半導体レーザでは、チップ出射端面のコーティング膜の反射率を非対称にして単一波長にしているものの、その波長安定性を制御することは非常に困難であり、端面での回折格子の位相によって大きく変動してしまうという問題があった。
【0005】
そこで、回折格子の周期の半分の周期(1/2周期)の位相シフト部を回折格子に導入して、高い波長安定性を実現する技術についての研究が進められている。
【0006】
上記位相シフト部を導入した回折格子は、干渉露光法で形成することが困難なため、一般に、電子ビーム露光法で形成される。この電子ビーム露光法は、回折格子のパターンを一本一本描画していくものであるため、位相シフト部を容易に形成することができる。
【0007】
この電子ビーム露光法では、回折格子が互いに独立して描画されるため、描画パターンを精度よく評価する技術が求められる。
【0008】
なお、電子ビーム露光法では、その長い描画時間を短縮する目的で、電子ビーム描画が必要となる領域にのみに回折格子を描画することもおこなわれる。例えば、埋込型半導体レーザにおいては、回折格子の形成が必要な領域の割合は非常に小さく、活性層幅に対応するおよそ1.5μm幅の領域のみである。この場合にも、やはり描画パターンを精度よく評価する技術が求められる。
【0009】
以上で説明した電子ビーム露光法で形成した回折格子の周期測定は、二光束干渉露光法で用いるような回折角を測定する方法では、回折光の光強度が小さいために非常に困難である。その上、回折角を測定して回折格子の周期測定をおこなう方法では、位相シフト部の形状検査をすることも非常に困難である。
【0010】
そのため、位相シフト部を有する回折格子の形状評価には、通常、走査型2次電子顕微鏡(SEM)や原子間力顕微鏡などの走査プローブ顕微鏡が用いられている。
【0011】
この出願の関連する先行技術文献としては、次の2件がある。
【0012】
(特許文献1:特開平11−26878号公報)
この発明では、光源から照射された光を分岐する半透明鏡と、この半透明鏡によって分岐された光が反射鏡によって反射された光(参照光)と、分岐された他の光が測定すべき回折格子に入射し、回折格子によって反射され、半透明鏡に戻てきた光(測定光)とを干渉させ、位相シフト部で干渉コントラストの周期位相が変化し、このシフト量から位相シフト量を測定する装置、および、方法である。また、測定すべき位相シフトを有する回折格子を形成した基板上に、フォトレジストを塗布し、均一回折格子パターンを重ねて形成し、2層の回折格子から得られるモアレ縞から位相シフト量を測定する方法である。
このような参照光を利用する干渉縞解析は、参照光と測定光の位相差によってコントラストが影響を受けるため、干渉縞の間隔は、試料表面の凹凸の影響を受けてしまう。この影響を小さくするため、照射光の波長を長くすると測定の位置精度が悪くなる。
【0013】
(特許文献2:特開2005−10003号公報)
この発明は、あらかじめ変形されるべき材料にSEM観察する上で2次電子発生効率の異なるグリッドパターンを形成し、材料を変形させた後、走査電子顕微鏡観察すると、SEMの走査間隔とグリッドパターンが干渉したため生じるモアレ縞の変形量を測定する。
これは、微小形状の変形を走査型電子顕微鏡で観察するものであり、変形前後の比較に対してのみ有効である。
【特許文献1】特開平11−26878号公報
【特許文献2】特開2005−10003号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、上述した回折格子の位相シフトの形状評価方法には、以下に示すような問題があった。すなわち、走査プローブ顕微鏡は、高倍率の観察(例えば、位相シフト部周辺の局所構造の観察)には適しているものの、位相シフト部の構造及び位相シフト部を含む周期構造を同時に観察して、その形状評価を精度良くおこなうことが困難であった。
【0015】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、位相シフト部を有する回折格子の形状評価を高い精度でおこなうことができる回折格子の形状評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明に係る回折格子の形状評価方法は、位相シフト部を有する回折格子の形状評価方法であって、回折格子の凹凸に対応する干渉縞を検出する干渉縞検出工程と、干渉縞検出工程で検出した干渉縞に基づいて、回折格子の形状評価をおこなう形状評価工程とを含む。
【0017】
この回折格子の形状評価方法においては、回折格子の凹凸に対応する干渉縞を検出して、その干渉縞に基づいて回折格子の形状評価がおこなわれる。この干渉縞は、位相シフト部において変化するため、この回折格子の形状評価方法においては、位相シフト部を有する回折格子の形状評価を高い精度でおこなうことができる。
【0018】
また、干渉縞検出工程の際、走査型電子顕微鏡により干渉縞を検出する態様であってもよい。この場合、干渉縞を用いた広範囲にわたる形状評価ができる上、必要に応じて高倍率の局所観察を同一の装置でおこなうことができる。
【0019】
さらに、干渉縞検出工程の際、走査型電子顕微鏡の走査方向と回折格子の並び方向とを傾ける態様であってもよい。この場合、位相シフト部における干渉縞の変化が顕著になるため、回折格子の形状評価をより容易におこなうことができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、位相シフト部を有する回折格子の形状評価を高い精度でおこなうことができる回折格子の形状評価方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、添付図面を参照して本発明を実施するにあたり最良と思われる形態について詳細に説明する。なお、同一又は同等の要素については同一の符号を付し、説明が重複する場合にはその説明を省略する。
【0022】
発明者らは、分布帰還型半導体レーザの回折格子を、走査型2次電子顕微鏡(SEM)を用いて、複数の異なる倍率で観察したところ、図1に示すような結果を得た。
【0023】
すなわち、回折格子を直接観察することが可能な高倍率(3000倍、5000倍及び10000倍)においては、回折格子の凹凸の周期に対応する濃淡画像が検出され、それよりも低倍率(500倍、900倍、1000倍、1100倍及び1200倍)においては、回折格子の凹凸の周期とは異なる濃淡画像が検出された。低倍率で検出された濃淡画像は、回折格子の凹凸の周期よりも長い周期であり、縞状を呈している。
【0024】
発明者らは、鋭意研究の末、低倍率で検出された縞状の濃淡画像は、回折格子の周期とSEMの走査周期との干渉の結果に生じる干渉縞であることを見出した(図2参照)。ここで、図2は、均一周期の回折格子における上記干渉縞を示した図である。
【0025】
さらに、発明者らは、この干渉縞には、回折格子の周期をY1、SEMの走査周期をY2、干渉縞の周期をY3としたときに、以下に示すような関係式が成り立つことを見出した。
Y1=A×(sin(2π(x+x1)/Λ)+1)
Y2=B×(sin(2π(x+x2)/D)+1)
Y3=C×Y1×Y2
【0026】
ここで、A,B,Cは定数、xは回折格子縞に垂直な方向の座標、x1,x2は定数、Λは回折格子の周期、Dは走査周期である。つまり、SEMのサンプリング間隔を三角関数で近似すると、干渉縞の周期Y3は、回折格子の周期Y1と走査周期Y2とで決まる。そのため、回折格子の周期が変われば、それに伴って干渉縞の周期も変わる。なお、走査周期は、SEMの観察倍率で異なるため、図1に示すように、干渉縞には観察倍率依存性がある。
【0027】
なお、Y3は、
Y3=C×(cos(2πx(1/Λ−1/D))+1)
と近似することができる。
【0028】
そのため、干渉縞は、図3に示すように回折格子の位相シフト部において変化する。具体的には、位相シフト部のシフト量が1/2周期であれば、その部分において干渉縞も1/2周期だけシフトする(図4参照)。
【0029】
従って、以下の手順により、回折格子の形状評価をおこなうことができる。
(干渉縞検出工程)
【0030】
まず、回折格子が形成された分布帰還型半導体レーザをSEM内にセットして、低倍率(例えば、500倍)にて回折格子を観察する。すると、上述したように干渉縞の濃淡画像が検出される。図3は、検出される濃淡画像の一例である。
(形状評価工程)
【0031】
次に、検出した濃淡画像の干渉縞を利用して、実際に回折格子の形状評価をおこなう。ここで、回折格子の形状評価としては、回折格子の周期性、位相シフト部の有無、位相シフト部のシフト量等が挙げられる。
【0032】
以上で説明したとおり、本発明の実施形態に係る回折格子の形状評価方法によれば、位相シフト部を有する回折格子の形状評価を高い精度でおこなうことができる。その上、回折格子の均一周期構造の部分の干渉縞を観測した場合には、周期構造のゆらぎの有無を広範囲にわたって容易に検出することもできる。
【0033】
発明者らは、さらに研究を進めた結果、SEMの走査方向に対して回折格子の並び方向を傾斜させた場合には、図5に示すように干渉縞が傾斜して、位相シフト部における干渉縞の変化が顕著になることを見出した。つまり、位相シフト部の両側において干渉縞の濃淡コントラストが反転するため、これを利用して位相シフト部のシフト量を高い精度で測定することができる。なお、図5の(a)はSEMの走査方向に対して回折格子の並び方向を1度だけ傾斜させた画像であり、図5の(b)は、SEMの走査方向に対して回折格子の並び方向を5度だけ傾斜させた画像である。この図から明らかなように、傾斜の角度が大きくなるにしたがい、干渉縞の幅が狭くなると共に縞が密に並列するようになる。
【0034】
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。例えば、干渉縞を検出する装置は、SEMに限定されず、走査イオン顕微鏡(SIM)等であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の実施形態に係るSEM画像を示した図である。
【図2】均一回折格子における干渉縞を示した図である。
【図3】回折格子の干渉縞の濃淡SEM画像を示した図である。
【図4】位相シフト部を有する回折格子における干渉縞を示した図である。
【図5】回折格子の干渉縞の濃淡SEM画像を示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
位相シフト部を有する回折格子の形状評価方法であって、
前記回折格子の凹凸に対応する干渉縞を検出する干渉縞検出工程と、
前記干渉縞検出工程で検出した前記干渉縞に基づいて、前記回折格子の形状評価をおこなう形状評価工程と
を含む、回折格子の形状評価方法。
【請求項2】
前記干渉縞検出工程の際、走査型電子顕微鏡により前記干渉縞を検出する、請求項1に記載の回折格子の形状評価方法。
【請求項3】
前記干渉縞検出工程の際、前記走査型電子顕微鏡の走査方向と前記回折格子の並び方向とを傾ける、請求項2に記載の回折格子の形状評価方法。

【図2】
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【図4】
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【図1】
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【図3】
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【図5】
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