説明

回路形成部品及びその製造方法

【課題】筒形などの立体形状の絶縁基材の内周に、容易に且つ信頼性良く回路形成する方法を提供する。
【解決手段】ポリグリコール酸系樹脂成形品の表面に金属被覆を行い回路形成した成形品をインサート材として用い、エポキシ樹脂を添加した液晶性ポリマーにてインサート成形し金属回路を液晶性ポリマーに転写させた後、ポリグリコール酸系樹脂を除去し回路形成部品とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筒形などの中空の立体形状を有する回路形成部品及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
筒形や球形など立体形状の絶縁基材の内周に回路形成をして立体回路板を製造する方法が検討されている。例えば、錫やハンダなどの低融点金属で球状に成形される成形体の表面に導電回路を形成し、この成形体を成形型の内周に空間を保った状態で装填した後に、この空間内に熱硬化性樹脂を充填して硬化させ、そして成形体とその外周の熱硬化性樹脂製硬化体とからなる熱硬化性樹脂成形体を成形型から取り出し、低融点金属の成形体を溶融除去することによって、球形の熱硬化性樹脂硬化体の内周に導電回路が転写して形成された立体回路板を製造する方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1において、球状の成形体の表面に導電回路を形成するにあたっては、成形体の表面にレジスト膜を設け、フォトマスクを用いて露光すると共に現像して回路パターンに対応する部分のレジスト膜を除去した後、レジスト膜の除去部分に導電材を付着させることによって行なわれている。しかしこのようなフォトマスクを用いたパターニングの工程を経て導電回路の形成を行なう場合、工数が多くなって生産性に問題があると共に、筒型や球形などの三次元立体形状の表面に精度高く露光してパターニングすることは困難であり、精度高く導電回路を形成することが難しいという問題があった。
【0004】
一方、特許文献1のこのような課題を解決するために、筒形などの立体形状の絶縁基材の内面にレーザ等の電磁波を用いたパターニング方法で回路形成することが提案されている(特許文献2参照)。この方法は、転写用成形体の表面に導電層を形成し、レーザ等の電磁波を照射して回路を形成し、回路形成した外側に絶縁基材を成形した後、転写用基材を除去するものであり、絶縁基材に回路を残した状態で転写用基材を除去することによって、筒形などの立体形状の絶縁基材の内周に回路形成することを可能としたものである。
【特許文献1】特開平9−148712号公報
【特許文献2】特開2006−49574号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献2に記載の手法において、転写用樹脂として、その実施例に記載のようなポリ乳酸樹脂を使用すると、アルカリ水溶液で溶解することが困難である。そのため、ポリエチレングリコールを10%程度配合して使用するが、回路形成工程において、特に湿式めっき工程において、転写用樹脂の一部が特定のめっき工程で溶け出してしまい、めっきが汚染されるという問題がある。
【0006】
また、耐熱性が高く、樹脂の流れ性が良い液晶性ポリマーを絶縁基材に使用すると、液晶性ポリマーは固化速度が速く、導電性回路との密着力が低く、転写できずに回路が剥離してしまう等の問題がある。
【0007】
本発明は、上記従来技術の課題に鑑みなされたものであり、筒形などの立体形状の絶縁基材の内周に、容易に且つ信頼性良く回路形成する方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
即ち本発明は、ポリグリコール酸系樹脂成形品の表面に金属被覆を行い回路形成した成形品をインサート材として用い、エポキシ樹脂を添加した液晶性ポリマーにてインサート成形し金属回路を液晶性ポリマーに転写させた後、ポリグリコール酸系樹脂を除去することを特徴とする回路形成部品の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、筒形などの立体形状の絶縁基材の内周に、容易に且つ信頼性良く回路を形成することが可能である。本発明の回路形成部品は、マイクロアクチュエータ、マイクロ静電エンコーダ、マイクロ静電モータ、マイクロポンプなどの部品として使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0011】
本発明に使用されるポリグリコール酸系樹脂は、下記一般式(3)で表されるグリコール酸繰り返し単位のみからなるグリコール酸の単独重合体、即ちポリグリコール酸(グリコール酸の2分子間環状エステルであるグリコリド(GL)の開環重合物を含む)に加えて、上記グリコール酸繰り返し単位を60重量%以上含むグリコール酸共重合体を含むものである。
【0012】
【化2】

【0013】
上記グリコリドのグリコール酸モノマーとともにグリコール酸共重合体を与えるコモノマーとしては、例えば、シュウ酸エチレン(即ち、1,4−ジオキサン−2,3−ジオン)、ラクチド類、ラクトン類(例えば、β−プロピオラクトン、β−ブチロラクトン、β−ピパロラクトン、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、β−メチル−δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン等)、カーボネート類(例えば、トリメチレンカーボネート等)、エーテル類(例えば、1,3−ジオキサン等)、エーテルエステル類(例えば、ジオキサノン等)、アミド類(例えば、ε−カプロラクタム等)などの環状モノマー;乳酸、3−ヒドロキシプロパン酸、3−ヒドロキシブタン酸、4−ヒドロキシブタン酸、6−ヒドロキシカプロン酸等のヒドロキシカルボン酸又はそのアルキルエステル;エチレングリコール、1,4−ブタンジオール等の脂肪族ジオール類と、コハク酸、アジピン酸等の脂肪族ジカルボン酸類又はそのアルキルエステル類との実質的に等モルの混合物;又はこれらの2種以上を挙げることができる。これらコモノマーは、その重合体を、上記グリコリドのグリコール酸モノマーとともに、グリコール酸共重合体を与えるための出発原料として用いることもできる。
【0014】
ポリグリコール酸系樹脂は、ヘキサフルオロイソプロパノール溶媒を用いるGPC測定における分子量(ポリメチルメタクリレート換算のMw(重量平均分子量))が1,000〜500,000の範囲であることが好ましい。分子量が高すぎると、本発明における回路形成部品の製造の際に除去が困難になり、分子量が低すぎると、成形が困難になるため適切な分子量を選ぶ必要がある。
【0015】
本発明におけるポリグリコール酸系樹脂には、成形性や分解性、結晶性等を改善する目的で、無機系及び有機系の添加剤や他の分解性樹脂、水溶性樹脂を加えることもできる。
【0016】
本発明に用いるポリグリコール酸系樹脂成形品は、表面の結晶化度が5%以上であることが好ましい。ポリグリコール酸系樹脂は成形条件によって、結晶にも非晶にもなる樹脂であり、ポリグリコール酸系樹脂成形品表面が非晶であると、その上に形成する金属膜にクラック(ひび)が入ることがある。ポリグリコール酸系樹脂成形品表面の結晶化度が5%以上であると、クラック(ひび)が入らない安定した良好な金属膜を得ることができる。
【0017】
ポリグリコール酸系樹脂成形品表面の結晶化度を5%以上とするには、射出成形時に金型内で結晶化させる方法を用いることができる。例えば、ポリグリコール酸系樹脂成形品の射出成形条件を、比較的高温条件、樹脂温度230〜270℃、金型温度80〜130℃とすることで可能である。
【0018】
また、上記射出成形条件よりも低温で射出成形した成形品であっても、成形後、100〜130℃で20秒以上1時間以下の熱処理を施すことにより、表面の結晶化度5%以上を達成することができる。熱処理の手法としては、オーブン、熱風炉等を用いることができる。勿論、上記射出成形条件で射出成形した成形品に対して上記熱処理を施してもかまわない。
【0019】
次に、このポリグリコール酸系樹脂表面に金属被覆を行う。金属被覆方法としては、常法の電気メッキ、化学メッキ、イオンプレーティング、スパッタ及び蒸着より選ばれる1又は2以上の方法を組み合わせることができる。
【0020】
次に、表面が金属被覆されたポリグリコール酸系樹脂成形品に対し、露光、レーザ、切削加工等の適当な方法で回路を形成する。
【0021】
次いで、この回路形成した成形品をインサート材として用い、エポキシ樹脂を添加した液晶性ポリマーにてインサート成形を行う。
【0022】
本発明で用いる液晶性ポリマーとは、光学異方性溶融相を形成し得る性質を有する溶融加工性ポリマーを指す。異方性溶融相の性質は、直交偏光子を利用した慣用の偏光検査法により確認することが出来る。より具体的には、異方性溶融相の確認は、Leitz偏光顕微鏡を使用し、Leitzホットステージに載せた溶融試料を窒素雰囲気下で40倍の倍率で観察することにより実施できる。本発明に適用できる液晶性ポリマーは直交偏光子の間で検査したときに、たとえ溶融静止状態であっても偏光は通常透過し、光学的に異方性を示す。
【0023】
前記のような液晶性ポリマーとしては特に限定されないが、芳香族ポリエステル又は芳香族ポリエステルアミドであることが好ましく、芳香族ポリエステル又は芳香族ポリエステルアミドを同一分子鎖中に部分的に含むポリエステルもその範囲にある。これらは60℃でペンタフルオロフェノールに濃度0.1重量%で溶解したときに、好ましくは少なくとも約2.0dl/g、さらに好ましくは2.0〜10.0dl/gの対数粘度(I.V.)を有するものが使用される。
【0024】
本発明に適用できる液晶性ポリマーとしての芳香族ポリエステル又は芳香族ポリエステルアミドとして特に好ましくは、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミンの群から選ばれた少なくとも1種以上の化合物を構成成分として有する芳香族ポリエステル、芳香族ポリエステルアミドである。
【0025】
より具体的には、
(1)主として芳香族ヒドロキシカルボン酸およびその誘導体の1種又は2種以上からなるポリエステル;
(2)主として(a)芳香族ヒドロキシカルボン酸およびその誘導体の1種又は2種以上と、(b)芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸およびその誘導体の1種又は2種以上と、(c)芳香族ジオール、脂環族ジオール、脂肪族ジオールおよびその誘導体の少なくとも1種又は2種以上、とからなるポリエステル;
(3)主として(a)芳香族ヒドロキシカルボン酸およびその誘導体の1種又は2種以上と、(b)芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミンおよびその誘導体の1種又は2種以上と、(c)芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸およびその誘導体の1種又は2種以上、とからなるポリエステルアミド;
(4)主として(a)芳香族ヒドロキシカルボン酸およびその誘導体の1種又は2種以上と、(b)芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミンおよびその誘導体の1種又は2種以上と、(c)芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸およびその誘導体の1種又は2種以上と、(d)芳香族ジオール、脂環族ジオール、脂肪族ジオールおよびその誘導体の少なくとも1種又は2種以上、とからなるポリエステルアミドなどが挙げられる。さらに上記の構成成分に必要に応じ分子量調整剤を併用してもよい。
【0026】
本発明に適用できる前記液晶性ポリマーを構成する具体的化合物の好ましい例としては、p−ヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸等の芳香族ヒドロキシカルボン酸、2,6−ジヒドロキシナフタレン、1,4−ジヒドロキシナフタレン、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、レゾルシン、下記一般式(I)および下記一般式(II)で表される化合物等の芳香族ジオール;テレフタル酸、イソフタル酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸および下記一般式(III)で表される化合物等の芳香族ジカルボン酸;p−アミノフェノール、p−フェニレンジアミン等の芳香族アミン類が挙げられる。
【0027】
【化3】

【0028】
(但し、X :アルキレン(C1〜C4)、アルキリデン、-O- 、-SO-、-SO- 、-S-、-CO-より選ばれる基、Y :-(CH)-(n =1〜4)、-O(CH)O-(n =1〜4)より選ばれる基)
本発明が適用される特に好ましい液晶性ポリマーとしては、p−ヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸を主構成単位成分とする芳香族ポリエステルである。
【0029】
また、液晶性ポリマーとしては、融点が330℃以下のものを使用するのが好ましい。融点が330℃を超える液晶性ポリマーを用いると、成形時の樹脂温度を340℃以上にする必要が生じ、添加したエポキシ樹脂が分解を興し、成形時にガス発生が急激に多くなり、金属膜との密着を阻害する場合がある。融点が330℃以下の液晶性ポリマーを用いると、液晶性ポリマーと金属膜との安定した密着力を得ることができる。なお、融点の測定は、示差走査熱量分析装置(パーキンエルマー社製DSC7)にて、20℃/分の昇温条件で測定した。
【0030】
液晶性ポリマーに添加されるエポキシ樹脂としては、前記一般式(1)又は(2)で表されるものが好ましい。このようなエポキシ樹脂は液晶性ポリマーとの分散性が良く、金属膜との安定した密着力を得ることができる。前記一般式(1)及び(2)中、Rで表される炭素原子数1〜3のアルキリデン基としては、メチレン、エチリデン、2,2’−プロピリデン等の基が挙げられ、R及びRで表される炭素原子数1〜5のアルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、ブチル等の基が挙げられる。
【0031】
又、nは0.1〜30、好ましくは1〜15の実数である。Xは水素原子又はグリシジル基を示すが、Xの20〜100%がグリシジル基でなければならず、特に25〜100%がグリシジル基であることが好ましい。ここで、nで表される実数及びXに占めるグリシジル基の比率(以下、再エポキシ化率という)は、いずれも平均値を表すものである。nが0.1未満である場合あるいはXのグリシジル基比率が20%未満の場合には、三官能以上の多官能エポキシ化合物の含有量が少なくなるため好ましくない。nが30を超えると高粘度となり、作業性が悪くなり好ましくない。
【0032】
前記一般式(1)で表されるエポキシ樹脂において、好ましいものはRがメチレン基又は2,2’−プロピリデン基であり、p及びqが共に0であり、nが1〜15の実数のものである。
【0033】
又、前記一般式(2)で表されるエポキシ樹脂において、好ましいものはr及びsが共に0であり、nが1〜15の実数のものである。
【0034】
本発明に用いられる前記一般式(1)又は(2)で表されるエポキシ樹脂は、その製造方法により制限されるものではないが、例えば、下記一般式(4)又は(5)で表される汎用のビスフェノール系エポキシ樹脂とエピクロルヒドリンとを重合して製造することができる。
【0035】
【化4】

【0036】
(式中、n、R、R、R、p、q、r及びsは、前記一般式(1)及び(2)中のn、R、R、R、p、q、r及びsと同じである。)
本発明において、エポキシ樹脂の添加量は重要であり、少ないと液晶性ポリマーと金属回路との十分な密着が得られず、ポリグリコール酸系樹脂を除去する際に、液晶性ポリマーから金属回路が剥離してしまう問題が発生する。また、逆に多すぎると成形時のガス発生が多くなり、液晶性ポリマーと金属回路との密着を阻害してしまう問題が発生する。そのため、エポキシ樹脂の添加量は液晶性ポリマー100重量部に対し1〜10重量部である。
【0037】
また、液晶性ポリマーには、使用目的に応じて各種の公知の繊維状、粉粒状、板状の無機の充填剤を配合することができる。繊維状充填剤としてはガラス繊維、炭素繊維、カーボンナノチューブ、チタン酸カリウム繊維等の無機質繊維状物質が挙げられ、粉粒状充填剤としてはカーボンブラック、フラーレン、黒鉛、シリカ、石英粉末、ガラスビーズ、ミルドガラスファイバー、ガラスバルーン、ガラス粉、タルク、ウォラストナイトの如き硅酸塩、酸化チタン、酸化亜鉛、アルミナの如き金属の酸化物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムの如き金属の炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムの如き金属の硫酸塩等が挙げられ、板状充填剤としてはマイカ、ガラスフレーク、各種の金属箔等が挙げられる。
【0038】
これらの無機充填剤は一種又は二種以上併用することが出来る。
【0039】
上記の通り、回路形成した成形品をインサート材として用い、エポキシ樹脂を添加した液晶性ポリマーにてインサート成形を行い、金属回路を液晶性ポリマーに転写させた後、ポリグリコール酸系樹脂を除去する。これにより、絶縁基材の内周に回路形成した回路形成部品が出来上がる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0041】
以下の実施例で使用した材料・成形方法等は以下の通りである。
・ポリグリコール酸系樹脂
ジャケット構造を有し、密閉可能な容器内に、グリコリド((株)クレハ製、不純物含量:グリコール酸30ppm、グリコール酸二量体230ppm、水分42ppm)を355kg加え、容器を密閉し、攪拌しながらジャケットにスチームを循環させ、100℃になるまで加熱して内容物を溶融し、均一な溶液とした。この溶液内に、攪拌しながら二塩化スズ二水和物10.7g及び1−ドデシルアルコール1220gを加えた。
【0042】
内容物の温度を100℃に保持したまま、内径24mmの金属(SUS304)製管を複数有する重合装置に移した。この装置は、管が設置してある本体部と上板からなり、本体部と上板のいずれもジャケット構造を備えてなり、このジャケット部に熱媒体油を循環する構造になっている。内容物を各管内に移送したら、直ちに上板を取り付けた。
【0043】
この本体部及び上板のジャケット部に170℃熱媒体油を循環させ、7時間保持した。7時間後、熱媒体油を室温まで冷却した後、上板を取り外し、本体部を縦方向に回転させることによって、生成ポリグリコール酸の塊状物を取り出した。この塊状物を、粉砕機により粉砕し、120℃で一晩乾燥し、ポリグリコール酸粉砕品を得た。
【0044】
このポリグリコール酸粉砕品に熱安定剤として、モノ−およびジ−ステアリルアシッドホスフェートのほぼ等モル混合物((株)ADEKA製「アデカスタブAX−71」)をポリグリコール酸粉砕品に対して300ppmの割合で添加し混合したものを、二軸押出機を用いて押出し、ポリグリコール酸樹脂ペレットを得た。得られたポリグリコール酸樹脂ペレットを窒素雰囲気の乾燥機内で、200℃で9時間熱処理した。
【0045】
このようにして得られたポリグリコール酸樹脂を以下の実施例で用いた。
・エポキシ樹脂を添加した液晶性ポリマー
液晶性ポリマー(ポリプラスチックス(株)製ベクトラC950;融点325℃)100重量部に下記エポキシ樹脂5重量部及びガラスファイバー25重量部を添加し、二軸押出機((株)日本製鋼所製TEX30α型)を用いて330℃にて混練しペレット化したものを用いた。
(エポキシ樹脂)
還流装置、攪拌装置、減圧装置及び滴下装置を備えたフラスコ中に、ビスフェノールA系エポキシ樹脂(前記一般式(4)において、n=2.1、p=q=0、Rが2,2’−プロピリデン基のもの)47.5重量部、エピクロルヒドリン95重量部及びテトラメチルアンモニウムクロライド0.2重量部を仕込み、上記滴下装置中に水酸化ナトリウム9.5重量部を48重量%水溶液として入れておく。この水酸化ナトリウム水溶液を還流下50〜60℃の内部温度で80torrで2時間かけて滴下し、同時に水を共沸蒸留により除去した。その後、更に2時間反応させ、冷却、濾過し、溶媒を蒸発除去して、目的のエポキシ樹脂(再エポキシ化率=87%、軟化点40℃)を得た。
[回路形成部品の製造]
以下、図1の手順により回路形成部品を製造した。
【0046】
先ず、図1(a)に示すような、三次元立体表面を外面に有する円柱状成形品をポリグリコール酸系樹脂から、射出成形機を用いて、樹脂温度260℃、金型温度120℃で成形した。得られたポリグリコール酸系樹脂成形品表面の結晶化度は5%以上(約15%)であった。
【0047】
尚、結晶化度は以下のようにして測定した。
(結晶化度測定法)
ポリグリコール酸系樹脂成形品の表面を切削し試験片とした。四塩化炭素および1,2−ジクロロエタンを用いて比重液を調製し、密度勾配配管法によって23℃における上記試験片の密度Dを測定した。得られた密度D、ポリグリコール酸の結晶密度D1=1.69g/cm、非晶密度D2=1.51g/cmから次式によって結晶化度(%)を算出した。
【0048】
結晶化度(%)=(D−D2)/(D1−D2)×100
次いで、図1(b)に示すように、ポリグリコール酸系樹脂成形品1の外周表面に金属皮膜2を形成した。金属皮膜2の形成はスパッタリング等のDVD法で行った。金属として銅をサブミクロンの厚みに形成した。
【0049】
上記のようにポリグリコール酸系樹脂成形品1の外周表面に金属皮膜2を形成した後、外側から金属皮膜2に電磁波を照射した。電磁波としては、波長532nmのYAG−SHGや波長355nmのYAG−THGなどのレーザを用いることができる。このように金属皮膜2に電磁波を照射することによって、図1(c)に示すように、電磁波が照射された部分の金属を除去し、回路パターンを形成することができる。電磁波は回路パターンを形成する端の外形に沿って走査して、回路部と非回路部を電気的に縁切りし、電気めっきで回路部に通電して金属皮膜を厚く形成し(図1(d)参照)。その後に全体にサブミクロンの厚みの金属皮膜を除去(ライトエッチング)し、回路形成を行った。
【0050】
このようにポリグリコール酸系樹脂成形品1の外面に回路パターンによって回路を形成した後、図1(e)に示すように、ポリグリコール酸系樹脂成形品1の外面に全周に亘ってエポキシ樹脂を添加した液晶性ポリマー3を成形して積層した。エポキシ樹脂を添加した液晶性ポリマー3の成形は、ポリグリコール酸系樹脂成形品1をインサート材として金型内にセットし、金型の内周とポリグリコール酸系樹脂成形品1の外周の隙間に樹脂を充填するインサート成形することによって行った。
【0051】
上記のように、エポキシ樹脂を添加した液晶性ポリマーを成形することにより、回路を液晶性ポリマーに転写させることができる。
【0052】
この後、液晶性ポリマー3の内側からポリグリコール酸系樹脂成形品1を除去することによって、図1(f)に示すように、ポリグリコール酸系樹脂成形品1から液晶性ポリマー3の内周に転写されて回路が形成された回路形成部品4を得ることができた。
【0053】
ポリグリコール酸系樹脂成形品1の除去は、80℃の5%水酸化ナトリウム水溶液に回路形成部品4を浸漬し、溶解除去することにより行った。この場合、60分でポリグリコール酸系樹脂成形品が完全に除去できた。因みに、ポリグリコール酸系樹脂の変わりにポリ乳酸樹脂を用いた以外は上記実施例と全く同様にして、回路形成部品4を得た場合は、80℃の5%水酸化ナトリウム水溶液に5時間浸漬してもポリ乳酸樹脂は溶解除去できなかった。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の実施形態の一例の各工程を示すものであり、(a)乃至(f)はそれぞれ側面断面図である。
【符号の説明】
【0055】
1 ポリグリコール酸系樹脂成形品
2 金属皮膜
3 液晶性ポリマー
4 回路形成部品

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリグリコール酸系樹脂成形品の表面に金属被覆を行い回路形成した成形品をインサート材として用い、エポキシ樹脂を添加した液晶性ポリマーにてインサート成形し金属回路を液晶性ポリマーに転写させた後、ポリグリコール酸系樹脂を除去することを特徴とする回路形成部品の製造方法。
【請求項2】
ポリグリコール酸系樹脂成形品表面の結晶化度が5%以上である請求項1記載の回路形成部品の製造方法。
【請求項3】
ポリグリコール酸系樹脂成形品の射出成形条件が、樹脂温度230〜270℃、金型温度80〜130℃である請求項1又は2記載の回路形成部品の製造方法。
【請求項4】
ポリグリコール酸系樹脂成形品が、100〜130℃で20秒以上1時間以下の熱処理が施されたものである請求項1〜3の何れか1項記載の回路形成部品の製造方法。
【請求項5】
ポリグリコール酸系樹脂を、アルカリ水溶液又は高温水蒸気により分解除去する請求項1〜4の何れか1項記載の回路形成部品の製造方法。
【請求項6】
金属被覆が、電気メッキ、化学メッキ、イオンプレーティング、スパッタ及び蒸着より選ばれる1又は2以上の方法により行われる請求項1〜5の何れか1項記載の回路形成部品の製造方法。
【請求項7】
融点が330℃以下の液晶性ポリマーを用いる請求項1〜6の何れか1項記載の回路形成部品の製造方法。
【請求項8】
エポキシ樹脂が、下記一般式(1)又は(2)で表されるものである請求項1〜7の何れか1項記載の回路形成部品の製造方法。
【化1】

(式中、nは0.1〜30の実数であり、Rは単結合又は炭素原子数1〜3のアルキリデン基であり、R及びRは独立して炭素原子数1〜5のアルキル基であり、p及びqは独立して0又は1〜4の整数であり、r及びsは独立して0又は1〜3の整数である。Xは水素原子又はグリシジル基を示すが、Xの20%以上はグリシジル基である。)
【請求項9】
請求項1〜8の何れか1項記載の方法で製造された回路形成部品。

【図1】
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【公開番号】特開2010−56400(P2010−56400A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−221642(P2008−221642)
【出願日】平成20年8月29日(2008.8.29)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【出願人】(801000049)財団法人生産技術研究奨励会 (72)
【Fターム(参考)】