説明

回路遮断器

【課題】消弧後のアーク消弧性の劣化を抑制しつつ、アークによる部材の変形を低減することが可能な回路遮断器を提供する。
【解決手段】可動接点5aと固定接点6aとの間で発生するアークに曝される樹脂部材の表層に2種以上の樹脂を混合した相分離層を形成し、アーク光に対する散乱効果を分離層が形成された樹脂部材に持たせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は回路遮断器に関し、特に、回路遮断時に接点で発生するアークに曝される部材(細隙材)に適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
大電力を扱う電機機器では、負荷に流れる短絡電流または負荷電流を遮断するために、回路遮断器が用いられている。この回路遮断器では、過電流引外し装置が、主回路に流れた過負荷電流や漏洩電流などの異常電流を検知し、その時の検知信号に基づいて本体機構部を引外すことにより主回路を開路させることができる。
また、例えば、特許文献1には、オン状態で電路に過電流が流れると、過電流引外し装置がホルダの鎖錠を外すことにより、トグルリンクを介してホルダに連結された可動接触子を固定接触子から開離させて電流遮断を行わせる方法が開示されている。また、前記固定接点と可動接点の近傍には、樹脂からなる細隙材が配置されている。
【0003】
ここで、電流遮断時に可動接触子が固定接触子から開離すると、可動接点と固定接点との間にアークが発生し、熱エネルギーおよび光エネルギーが近傍の樹脂に照射される。そして、熱エネルギーが樹脂に照射されると、樹脂の表面からガスが発生し(溶発)、このガスによってアークの消弧が行われる。また、光エネルギーが樹脂に照射されると、光エネルギーは樹脂の内部にまで侵入し、樹脂の内部を溶解させてガスが発生する。この樹脂の内部での溶解およびガスの発生は樹脂部材の変形を引き起こし、接点復帰の障害要因となる。
【0004】
このため、従来の回路遮断器では、細隙材にセラミックフィラーを混合し、細隙材の耐熱性を向上させることにより、細隙材の変形を防止することが行われている。
【特許文献1】特開2003−162949号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、細隙材にセラミックフィラーを混合する方法では、消弧後にセラミックフィラーが樹脂の表面に露出し、その樹脂からのガスの発生量が低下することから、アーク消弧性が劣化するという問題があった。
そこで、本発明の目的は、消弧後のアーク消弧性の劣化を抑制しつつ、アークによる部材の変形を低減することが可能な回路遮断器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するために、請求項1記載の回路遮断器によれば、固定接点が設けられた固定接触子と、前記固定接点と開閉可能な可動接点が設けられた可動接触子と、前記可動接触子を保持するホルダと、前記ホルダに連結された開閉軸と、前記固定接点と前記可動接点とを接離させる開閉機構とを備え、前記固定接点と前記可動接点との間で発生するアークに曝される樹脂部材の表層には、2種以上の樹脂を混合した相分離層が形成されていることを特徴とする。
【0007】
また、請求項2記載の回路遮断器によれば、前記相分離層が形成された樹脂部材は、アーク光に対して散乱効果を有することを特徴とする。
また、請求項3記載の回路遮断器によれば、固定接点が設けられた固定接触子と、前記固定接点と開閉可能な可動接点が設けられた可動接触子と、前記可動接触子を保持するホルダと、前記ホルダに連結された開閉軸と、前記固定接点と前記可動接点とを接離させる開閉機構とを備え、前記固定接点と前記可動接点との間で発生するアークに曝される樹脂部材の表層には、気泡が形成されていることを特徴とする。
また、請求項4記載の回路遮断器によれば、前記気泡が形成された樹脂部材は、アーク光に対して散乱効果を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
以上説明したように、本発明によれば、樹脂部材の表層で光を散乱させることができ、樹脂部材の表層における樹脂の比率を低下させることなく、アーク光が樹脂内部に侵入する深さを減少させることが可能となるとともに、樹脂部材の表層で光を多重反射させることができる。このため、樹脂部材の表面からのガスの発生を促進させることができ、消弧後のアーク消弧性の劣化を抑制することが可能となるとともに、樹脂の内部での溶解およびガスの発生を抑制することができ、アークによる樹脂部材の変形を低減することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態に係る回路遮断器について図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る回路遮断器の概略構成を示す断面図である。
図1において、回路遮断器には、固定接点6aが設けられた固定接触子6、固定接点6aと開閉可能な可動接点5aが設けられた可動接触子5、可動接触子5を保持するホルダ3、ホルダ3に連結された開閉軸4、固定接点6aと可動接点5aとを接離させる開閉機構が設けられている。そして、これらの部品はケース1とカバー2とからなる箱形の絶縁容器に収納されている。なお、ケース1およびカバー2は合成樹脂で形成することができ、ホルダ3および開閉軸4は、フェノール樹脂などの熱硬化性樹脂で形成することができる。
【0010】
そして、オン状態で電路に過電流が流れると、過電流引外し装置はホルダ3の鎖錠を外す。その結果、遮断スプリングの蓄勢力によりホルダ3が反時計方向に跳ね上げられ、トグルリンクを介してホルダ3に連結された可動接触子5が固定接触子6から開離して、電流遮断が行われる。そして、電流遮断時に可動接触子5が固定接触子6から開離すると、可動接点5aと固定接点6aとの間にアークが発生する。また、前記固定接点6aと可動接点5aの近傍には、樹脂からなる細隙材が配置されている。
【0011】
ここで、可動接点5aと固定接点6aとの間で発生するアークに曝される樹脂部材の表層には、2種以上の樹脂を混合した相分離層を形成することができる。なお、相分離層は、ブロック共重合体や相溶性のない2種以上のポリマーを混合することで作製することができる。あるいは、可動接点5aと固定接点6aとの間で発生するアークに曝される樹脂部材の表層には、気泡を形成するようにしてもよい。また、相分離層が形成された樹脂部材あるいは気泡が形成された樹脂部材には、アーク光に対して散乱効果を持たせるようにしてもよい。
【0012】
これにより、樹脂部材の表層で光を散乱させることができ、樹脂部材の表層における樹脂の比率を低下させることなく、アーク光が樹脂内部に侵入する深さを減少させることが可能となるとともに、樹脂部材の表層で光を多重反射させることができる。このため、樹脂部材の表面からのガスの発生を促進させることができ、消弧後のアーク消弧性の劣化を抑制することが可能となるとともに、樹脂の内部での溶解およびガスの発生を抑制することができ、アークによる樹脂部材の変形を低減することが可能となる。
【0013】
図2は、本発明の第1実施形態に係る細隙材の遮断前後の状態を従来例と比較して示す断面図、図3は、本発明の第2実施形態に係る細隙材の遮断前後の状態を従来例と比較して示す断面図である。
図2(a)、(b)(図3(a)、(b))は、セラミックフィラーを混合した従来例の細隙材の遮断前後の状態を表す断面図である。
図2(a)(または図3(a))において、可動接点5aと固定接点6aとの間で発生するアークに曝される細隙材11は、セラミックフィラー12が混入された樹脂にて構成されている。そして、細隙材11がアーク光ALに曝されると、細隙材11の樹脂がガス化する。この結果、図2(b)(または図3(b))に示すように、セラミックフィラー12が樹脂の表面に露出し、その樹脂からのガスの発生量が低下することから、アーク消弧性を劣化させる。
【0014】
また、図2(c)、(d)(図3(c)、(d))は、セラミックフィラーなしの従来例の細隙材の遮断前後の状態を表す断面図である。
図2(c)(または図3(c))において、細隙材13は、セラミックフィラーが混入されていない樹脂にて構成されている。そして、細隙材13がアーク光ALに曝されると、アーク光ALは樹脂の内部にまで深く侵入し、図2(d)(または図3(d))に示すように、樹脂の内部を溶解させて気泡14が生成される。この樹脂の内部での溶解および気泡14の生成は樹脂部材の変形を引き起こし、接点復帰の障害要因となる。
【0015】
一方、図2(e)、(f)は、本発明の第1実施形態の細隙材の遮断前後の状態を表す断面図である。
図2(e)において、細隙材15は、2種以上の樹脂を混合した相分離層16が表層に形成された樹脂にて構成されている。そして、細隙材15がアーク光ALに曝されると、相分離層16にてアーク光ALが散乱され、アーク光ALが多重反射される。このため、細隙材15の表層における樹脂の比率を低下させることなく、アーク光ALが樹脂内部に侵入する深さを減少させることが可能となるとともに、樹脂部材の表面からのガスの発生を促進させることができ、図2(f)に示すように、樹脂の内部での溶解およびガスの発生を抑制して、アーク光ALによる樹脂部材の変形を低減することが可能となるとともに、消弧後のアーク消弧性の劣化を抑制することができる。
【0016】
また、図3(e)、(f)は、本発明の第2実施形態の細隙材の遮断前後の状態を表す断面図である。
図3(e)において、細隙材17は、気泡18が表層に形成された樹脂にて構成されている。そして、細隙材17がアーク光ALに曝されると、気泡18にてアーク光ALが散乱され、アーク光ALが多重反射される。このため、細隙材17の表層における樹脂の比率を低下させることなく、アーク光ALが樹脂内部に侵入する深さを減少させることが可能となるとともに、樹脂部材の表面からのガスの発生を促進させることができ、図3(f)に示すように、樹脂の内部での溶解およびガスの発生を抑制して、アーク光ALによる樹脂部材の変形を低減することが可能となるとともに、消弧後のアーク消弧性の劣化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態に係る回路遮断器の概略構成を示す断面図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る細隙材の遮断前後の状態を従来例と比較して示す断面図である。
【図3】本発明の第2実施形態に係る細隙材の遮断前後の状態を従来例と比較して示す断面図である。
【符号の説明】
【0018】
1 ケース
2 カバー
3 ホルダ
4 開閉軸
5 固定接触子
5a 固定接点
6 可動接触子
6a 可動接点
11、13、15、17 細隙材
12 セラミックフィラー
14、18 気泡
16 相分離層
AL アーク光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定接点が設けられた固定接触子と、
前記固定接点と開閉可能な可動接点が設けられた可動接触子と、
前記可動接触子を保持するホルダと、
前記ホルダに連結された開閉軸と、
前記固定接点と前記可動接点とを接離させる開閉機構とを備え、
前記固定接点と前記可動接点との間で発生するアークに曝される樹脂部材の表層には、2種以上の樹脂を混合した相分離層が形成されていることを特徴とする回路遮断器。
【請求項2】
前記相分離層が形成された樹脂部材は、アーク光に対して散乱効果を有することを特徴とする請求項1記載の回路遮断器。
【請求項3】
固定接点が設けられた固定接触子と、
前記固定接点と開閉可能な可動接点が設けられた可動接触子と、
前記可動接触子を保持するホルダと、
前記ホルダに連結された開閉軸と、
前記固定接点と前記可動接点とを接離させる開閉機構とを備え、
前記固定接点と前記可動接点との間で発生するアークに曝される樹脂部材の表層には、気泡が形成されていることを特徴とする回路遮断器。
【請求項4】
前記気泡が形成された樹脂部材は、アーク光に対して散乱効果を有することを特徴とする請求項3記載の回路遮断器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−27617(P2008−27617A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−195798(P2006−195798)
【出願日】平成18年7月18日(2006.7.18)
【出願人】(503361927)富士電機機器制御株式会社 (402)
【Fターム(参考)】