説明

回転伝達装置

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、回転伝達装置に関し、例えば、自動車の駆動軸と車輪の間において駆動トルクの伝達と遮断の切換えに用いられる。
【0002】
【従来の技術及びその課題】自動車において、コーナーの旋回中は前輪の回転半径が後輪の回転半径より大きくなるため、前後輪を直結した状態でタイトコーナーを旋回すると、速く回ろうとする前輪がスリップして、あたかもブレーキングをかけたような現象が生じる。
【0003】このようなブレーキング現象のため、従来の4輪駆動車においては、タイトコーナーや市街地走行等で運転者が前後輪間の連結を切り放し、走行状態に応じて2輪駆動と4輪駆動を使い分ける必要があり、切換えの操作に手間がかかる不具合を有していた。
【0004】これに対して、図7に示すように、エンジンのトランスファーBから分岐した駆動軸Cと、前輪車輪Dに設けたフロントディファレンシャルEの間に、ビスカスカップリングから成る回転伝達装置Aを介在し、ビスカスカップリングにおける高粘性流体内部の抵抗により前後車輪の回転差を吸収して、フルタイムの4輪駆動を実現したものが知られている。
【0005】しかし、高粘性流体の抵抗によって回転トルクを伝達するビスカスカップリングは、抵抗発生時の損失によりトルク伝達の効率が悪く、また、小さい回転差ではせん断抵抗が小さいため、自動車の重量に対して十分に大きなトルクを伝達できない欠点がある。
【0006】また、伝達トルクを大きくするには、高粘性流体をせん断するディスクの面積や数を増大させる必要があるため、形状が大きくなって駆動系のコンパクトが図れない問題があると共に、高粘性流体のせん断抵抗が低回転時で大きくなるため、低速旋回時に引きづりトルクが生じ、タイトコーナーでのブレーキング現象が完全に解消されない欠点もある。
【0007】この発明は、上記の問題点に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、駆動トルクの伝達と遮断を機械的に切換えることにより効率的なトルク伝達ができ、しかも、駆動力の伝達方向が一方向だけでその逆方向の回転差を吸収することにより、自動車への適用において完全フルタイムの4輪駆動を可能とする回転伝達装置を提供することである。
【0008】
【課題を解決するための手段】上記のような課題を解決するため、請求項1の発明は、後輪が駆動車輪となるFRベースの4輪駆動車におけるフロントプロペラシャフト上に装着する回転伝達装置であって、フロントプロペラシャフトの出側に接続する外輪の内部に、フロントプロペラシャフトの入側を接続する入力軸を回転自在に支持し、その外輪と入力軸の対向面に係合子の係合面を形成し、その両係合面間に回転可能に設けた保持器のポケットに、入力軸と保持器の正逆方向の相対回転によって上記両係合面に係合する係合子と、その係合子を係合しない位置に押圧保持する弾性部材とを組み込み、上記保持器と入力軸とを、入力軸と同軸上に回転自在に配置した制御軸により回転力が伝達可能に連結すると共に、入力軸と制御軸の連結部に回転方向すき間を設け、かつ入力軸又は制御軸の一方と固定部分の間に、入力軸又は制御軸の一方に対してすべり接触により摩擦力を発生させる摩擦発生手段を設けた構成を採用したものである。
【0009】
【作用】上記の構造において、制御軸に摩擦発生手段を連結し、入力軸を回転させると、摩擦発生手段により減速される制御軸の回転が、入力軸に対して連結部の回転方向すきまの分だけ遅れ、制御軸と連結する保持器が入力軸に対し相対回転する。この保持器の動きにより、係合子は係合面と接触する係合作動位置に移動する。
【0010】この状態で、入力軸の回転が外輪より速くなるような回転差が生じると、係合子が即座に係合面に係合して、外輪を入力軸と一体に回転させる。
【0011】逆に、外輪の回転が入力軸の回転よりも速くなると、外輪は係合子に対してオーバーランニングするため、係合子は係合せず、外輪と入力軸は切離された状態で回転する。したがって、駆動力の伝達方向は入力軸から外輪の向かう方向だけであり、外輪から入力軸に向かう回転は遮断される。
【0012】なお、入力軸に摩擦発生手段を連結して、入力軸と制御軸に速度差を生じさせても、上記と同じ作用が得られる。
【0013】
【実施例】以下、添付図面に基づいてこの発明の実施例を説明する。
【0014】図1乃至図3は、第1の実施例を示す。図に示すように、外輪1の内部に、入力軸2の一端が挿入され、その両者の間に組込んだ2個の軸受3、3により、入力軸2が回転自在に支持されている。
【0015】外輪1の内周面にはスリーブ4が圧入され、そのスリーブ4の内径面に円筒形の係合面5が形成されている。また、入力軸2のスリーブ4と対向する部分は角軸部7となっており、その角軸部7の外周に、上記係合面5に対して楔状のカム面となる複数の係合面6が形成されている。
【0016】上記の両係合面5、6の間には、環状の保持器8が回動可能に組み込まれ、その保持器8に各係合面6と対向して形成したポケット9に、係合子としての一対のローラ10、11と、各ローラ10、11をポケット9の周方向に対向する側面に押圧する弾性部材12とが組み込まれている。この各ローラ10、11と係合面5、6との間には、通常の組み立て状態ですきまが設けられており、保持器8と入力軸2が正逆両方向に相対回転すると、両ローラ10、11がポケット9の側面で押されて、ローラの一方が両係合面5、6に交互に係合するようになっている。
【0017】一方、入力軸2の内部には、入力軸の中心線上に配置された制御軸13が、軸受14とガイド孔15によって回転自在に支持されており、その制御軸13の一端に、入力軸2のピン孔16を挿通した連結ピン17を介して、上記保持器8が一体に連結されている。
【0018】また、制御軸13の他端には、入力軸2の先端側のピン孔18を挿通した連結ピン19が貫通し、その連結ピン19の先端部に、摩擦発生手段20が連結している。
【0019】この摩擦発生手段20は、連結ピン19に先端に固定されるリング状の回転体21と、その回転体21の周面とすべり接触する摩擦部材22と、その摩擦部材22を外部の固定部材(図示略)に支持する固定用腕23、23とから成り、回転体21と摩擦部材22の間のすべり接触によって生じる摩擦力により回転体21の動きを減速する。
【0020】また、上記回転体21に連結する連結ピン19とピン孔18との間には、ローラ10、11が中立位置から係合面5、6に接触する距離以上の回転方向すき間24が設けられており、この回転方向すき間24は、他方の連結ピン17とピン孔16の間の円周方向のすき間25よりも小さく設定されている。
【0021】上記の構造で成る実施例の回転伝達装置においては、入力軸2が一方向に回転すると、摩擦発生手段20により減速される制御軸13の回転が遅れ、保持器8は回転方向すき間24の分だけ入力軸2に対して相対回転する。この保持器の動きにより、ローラ10、11が入力軸2の回転方向とは反対方向に押され、係合面5、6と接触して係合作動状態になる。
【0022】この状態で、いま、入力軸2と外輪1との間に入力軸が速くなるような回転差が生じると、係合作動位置にあるローラが即座に係合面5、6と係合して、外輪を入力軸と一体に回転させる。
【0023】逆に、外輪1が入力軸2より速く回転すると、外輪1がローラ10、11に対してオーバーランニングするため、ローラは係合面5、6間に係合せず、外輪は入力軸と切離されて回り続ける。
【0024】このように駆動力の伝達方向は、入力軸2から外輪1へ向かう一方向だけとなり、外輪1から入力軸2に向かう回転トルクは遮断され、その方向における両者の回転差が有効に吸収される。
【0025】一方、入力軸2が逆方向に回転すると、保持器8が逆向きに相対移動し、ローラが係合作動位置に移動する。すなわち、入力軸2の回転方向によりローラ10、11の係合位置が変化するため、正逆の両方向において全く同様に駆動力の伝達と遮断を行なうことができる。
【0026】上記の実施例の回転伝達装置Aを、図7に示すような後輪Fが駆動車輪となる4輪駆動車に装着するには、トランスファーBから分かれた駆動軸Cに入力軸2を連結し、前輪車軸DのフロントディファレンシャルEに向かう軸に外輪1を連結する。
【0027】上記の構造において、通常の直進時は、後輪Fによる2輪駆動であり前輪Gは後輪に共回りしており、入力軸2と外輪1の間に回転差が生じないため、ローラ10、11は係合せず、入力軸と外輪は切離されて回転する。
【0028】いま、後輪がスリップして車速が落ちると、減速する前輪よりも駆動軸Cの回転が上回るため、入力軸2の回転が外輪1よりも速くなる。このため、回転伝達装置Aにおいてローラ10、11が係合面5、6に係合し、駆動軸Cのトルクが前輪車軸Dに伝わり、4輪駆動状態に切換わる。
【0029】一方、タイトコーナーの旋回中に4輪駆動状態に切換わった場合、後輪より速く回ろうとする前輪の動きによって外輪1が入力軸2より速く回転しようとするが、この状態では、外輪1がオーバーランニングするため、ローラ10、11は係合面5、6に係合しない。このため、後輪の動きにより前車輪の動きが規制されることがなく、ブレーキング現象が生じない。
【0030】このように、走行中駆動輪である後輪がスリップすると自動的に4輪駆動に切換わり、タイトコーナーの旋回中などにおいて前輪の回転が後輪より速くなると、外輪のオーバーランニングによって前後輪の回転差が吸収されるため、スムーズで安定した走行を行なうことができる。
【0031】図4乃至図6は、第2の実施例を示している。この例では、外輪31の内径面と入力軸32の外径面にそれぞれ円筒形の係合面33と34を形成し、その両係合面33、34の間に、回動する大径の制御用保持器35と、入力軸32にピン止めされる小径の固定保持器36とを組み込んでいる。
【0032】また、上記両保持器35、36の周面に対向して複数形成したポケット37、38内に、左右両方向の傾きで係合面33、34間に係合するスプラグ39を嵌め込み、そのスプラグ39の両側面を制御用保持器35に取付けた弾性部材40、40で押圧して、スプラグ39を中立状態に保持している。
【0033】さらに、入力軸32の中心に、軸受41、41により制御軸42を回転自在に支持しており、その制御軸42のの中央に取付けた連結ピン43に制御用保持器35を連結し、制御軸42の先端に取付けた連結ピン44に、摩擦発生手段45の回転体46を一体に取付けている。
【0034】上記摩擦発生手段45は、回転体46の端面を両側から挾む摩擦部材47、47と、その摩擦部材を外部の固定部材に支持する固定用腕48と、摩擦部材47、47を回転体46に向かって押し付ける押圧部材49とから成っており、摩擦部材47、47と回転体46のすべり接触により生じる摩擦抵抗によって、回転体46の動きを減速する。この場合、摩擦部材47には、高速回転する回転体46に連続して安定したブレーキ力を加えることができるように、耐摩耗性が高く無潤滑でも使用できる摩耗係数の小さい材料を用いるのが望ましい。
【0035】また、入力軸32の先端部には、圧入嵌合されるスプライン50を介して、駆動力の入力端となる入力用フランジ部材51が一体に連結され、そのフランジ部材51のピン孔52と連結ピン44の間にできる円周方向すきま53を、入力軸32のピン孔54と連結ピン44の間に生じる回転方向すきま55よりも大きく形成している。
【0036】上記の構造で成る回転伝達装置においては、入力軸32が回転すると、摩擦発生手段45のブレーキ作用によって制御用保持器35の回転が遅れ、両保持器35、36の相対的な回転によりスプラグ39が傾いて係合作動状態になる。
【0037】この場合、入力軸32より回転が遅れる制御用保持器35がスプラグ39の大径側に嵌合しているため、図6に示すように、スプラグ39は入力軸32の回転方向(矢印方向)に対して反対向きに傾くことになり、入力軸32の回転が速くなると、スプラグ39は滑りを生じることなく即座に係合面33、34に喰い込み、確実に駆動力を外輪31に伝達する。
【0038】
【効果】以上のように、この発明の回転伝達装置は、係合子を入力軸と外輪の間に係合させて機械的に駆動トルクの伝達を切換えるので、効率の良いトルク伝達が行なうことができ、入力側と出力側の間で正確なトルク伝達ができる。
【0039】また、入力軸と制御軸の間に回転の速度差を生じさせ、常に係合子を係合作動状態におくので、入力側と出力側にわずかでも回転差が生じると、即座に係合子が係合し、高粘性流体を利用するビスカスカップリングのように大きな相対すべりを必要としないため、応答性の良い回転の切換えが行なえる。
【0040】さらに、出力側の回転が入力側を上回った場合、外輪がオーバーランニングすることによってその回転の伝達を遮断することができ、駆動トルクの伝達方向を一方向だけに制御することができる。
【0041】したがって、この発明の回転伝達装置を自動車の駆動部に用いれば、4輪直結状態でタイトコーナーを旋回してもブレーキング現象を引き起こすことがなく、2輪駆動と4輪駆動を自動的に行なうことが可能となり、フルタイムで直結型の4輪駆動を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】第1の実施例の一部縦断正面図
【図2】図1のII−II線に沿った断面図
【図3】図1のIII −III 線に沿った断面図
【図4】第2の実施例の一部縦断正面図
【図5】図4のV−V線に沿った断面図
【図6】図5の要部拡大図
【図7】自動車への回転伝達装置の装着例を示す図
【符号の説明】
1、31 外輪
2、32 入力軸
5、6、33、34 係合面
8 保持器
9、37、38 ポケット
10、11 ローラ
12、40 弾性部材
13、42 制御軸
20、45 摩擦発生手段
24、55 回転方向すき間
35 制御用保持器
36 固定保持器
39 スプラグ
A 回転伝達装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】 後輪が駆動車輪となるFRベースの4輪駆動車におけるフロントプロペラシャフト上に装着する回転伝達装置であって、フロントプロペラシャフトの出側に接続する外輪の内部に、フロントプロペラシャフトの入側を接続する入力軸を回転自在に支持し、その外輪と入力軸の対向面に係合子の係合面を形成し、その両係合面間に回転可能に設けた保持器のポケットに、入力軸と保持器の正逆方向の相対回転によって上記両係合面に係合する係合子と、その係合子を係合しない位置に押圧保持する弾性部材とを組み込み、上記保持器と入力軸とを、入力軸と同軸上に回転自在に配置した制御軸により回転力が伝達可能に連結すると共に、入力軸と制御軸の連結部に回転方向すき間を設け、かつ入力軸又は制御軸の一方と固定部分の間に、入力軸又は制御軸の一方に対してすべり接触により摩擦力を発生させる摩擦発生手段を設けた回転伝達装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図5】
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【図7】
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【特許番号】第2975134号
【登録日】平成11年(1999)9月3日
【発行日】平成11年(1999)11月10日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−28281
【出願日】平成3年(1991)2月22日
【公開番号】特開平4−266621
【公開日】平成4年(1992)9月22日
【審査請求日】平成9年(1997)10月23日
【出願人】(000102692)エヌティエヌ株式会社 (9,006)
【参考文献】
【文献】特開 昭60−241532(JP,A)
【文献】特開 平1−199026(JP,A)
【文献】特開 昭61−74922(JP,A)
【文献】特公 昭43−11603(JP,B1)
【文献】特公 昭34−9211(JP,B1)