説明

回転体のバランス計測装置

【課題】軸長が短い小型の回転体であっても、高精度にバランス計測が可能なバランス計測装置を提供する。
【解決手段】バランスを計測する回転体1の回転軸11を回転可能に両側で支える軸受部2が、気体を噴出する流体軸受となっており、かつ該流体軸受自体を静電容量センサ20のヘッド構造としている。即ち、流体軸受2は、センサ20の負極となる導電性プローブA21a及びセンサの正極となる導電性プローブB21bと、プローブA,B間を絶縁する第1の絶縁体22と、該軸受部を軸受保持部3に取り付ける取付部材24と、プローブA,Bと該取付部材間を絶縁する第2の絶縁体23とより構成されていて、これらは接着等により一体化されている。これにより、回転軸と軸受部(プローブ)間のギャップgを静電容量として電気的に検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小型の回転体のバランスを高精度で計測することが可能なバランス計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術として、特許文献1によるアンバランス計測装置が知られている。この従来のアンバランス計測装置では、図5に概念図で示されるように、エア軸受上でワーク(回転体)を慣性回転させ、ワークと共に振動する軸受フレームの振れ量を加速度センサで計測している。この場合、外部ノイズが大きいため、外部ノイズの影響を受けないように設備内全ステーションを停止させてから計測をしているため、サイクルタイムが長くなるという問題がある。また、計測時間が短いという制約もあり、短時間で高精度な計測ができないという問題もある。
【0003】
また、従来技術として、特許文献2による軸受け構造および振動検出装置が知られており、空気流によって回転軸を浮上させて支持する軸受け構造と、回転軸と軸受けとのギャップの変化を静電容量の変化で検出することが示されている。しかしながら、この従来技術では、軸受けと静電容量センサとが別の部品であるため、製品であるワーク(回転体)によっては、軸長が短いとセンタヘッドに当てる長さが不足したり、また軸受け部への長さに制約がおきるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−321261号公報
【特許文献2】特開平4−312211号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたもので、その目的は、軸長が短い小型の回転体であっても、高精度にバランス計測をすることが可能なバランス計測装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、前記課題を解決するための手段として、特許請求の範囲の各請求項に記載の回転体のバランス計測装置を提供する。
請求項1に記載の回転体のバランス計測装置は、回転体1を両側で支える軸受部2が、気体を噴出する流体軸受2であり、かつ流体軸受自体を回転軸と軸受部とのギャップ変化を検出するセンサ20の検出部としているものである。これにより、軸受フレームの振れでなく、回転体1の振れを直接計測できるので、従来よりも約4倍以上の精度でもって、回転体の振れを計測できる。また、回転体1の回転軸11の長さに制約されることなく、短い軸長の回転軸をもつ回転体でも、その振れを計測することができる。
【0007】
請求項2の該バランス計測装置は、流体軸受2が、回転体の回転軸11を受け入れるU字形状の溝2aを有するようにしたものであり、これにより、回転する回転体1の回転軸11は、軸受部2と接触することなく安定して軸受部上に浮くことができる。したがって、回転軸が軸受部に接触しないため、摩擦による抵抗が小さく、回転数の変化を小さくすることができる。また、軸受部をU字形状にすることにより、軸受部への回転体の投入取出しが容易になり、計測工程の自動化や高速化を容易に行える。また、回転軸の上下振動を、回転軸と軸受部とのギャップ変化として検出することができる。
【0008】
請求項3の該バランス計測装置は、回転軸と軸受部とのギャップ変化を検出するセンサを静電容量センサとしているものである。これにより、軸受部に複雑なセンシング機能を付加することなく、絶縁された2つの導電体として構成するだけでギャップ変化を検出することができ、軸長が短い回転体でも高精度な計測ができる小型の軸受を実現することができる。
【0009】
請求項4の該バランス計測装置は、流体軸受2が、回転軸11に対して左右対称に配置され、一方が正極となり、他方が負極となる同一形状の一対の導電性プローブA,B,21a,21bと、これらプローブA,B間に挟持される第1の絶縁体22と、プローブA,Bの裏面に両プローブ間に渡って設けられる第2の絶縁体23と、この第2の絶縁体の後面に設けられる取付部材24とによって構成されることを規定したものである。これにより、流体軸受自体をセンサのヘッド構造にすることができる。また、回転軸11と軸受部2(プローブ)間のギャップgを静電容量として電気的に検出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施の形態の回転体のバランス計測装置の要部斜視図である。
【図2】本発明の実施の形態の回転体のバランス計測装置における軸受部の正面図、平面図、側面図の三面図である。
【図3】本発明の実施の形態の回転体のバランス計測装置における計測システムを説明する図である。
【図4】本発明の回転体のバランス計測装置で使用される駆動部の1つの例を説明する図である。
【図5】従来のバランス計測装置の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面に従って本発明の実施の形態の回転体のバランス計測装置について説明する。図1は、本発明の実施の形態の回転体のバランス計測装置における要部斜視図である。この図1には、被計測対象物(ワーク)である回転体1を回転可能に支持する軸受部2と、この軸受部2をボルト等の固定具5によって取り付け、保持する軸受保持部3と、回転体1を回転する、後述する駆動部の一部であるセンタ受けシャフト45(45A,45B)とが示されている。
【0012】
センタ受けシャフト45は、回転可能で、かつ前後に摺動可能に保持されている。回転体1をバランス計測時の回転数まで立ち上げるとき、センタ受けシャフト45(45A,45B)を両側から前進させて、回転体1の回転軸11を挟持し、駆動部からの回転運動を回転体1に伝達し、回転体1を回転する。回転体1が所定の回転数に達したら、センタ受けシャフト45(45A,45B)を後退させ、回転体1を軸受部2で受け、慣性力で回転体1を回転させる。
【0013】
次に本発明の実施の形態であるバランス計測装置の特徴である軸受部2の構成について説明する。軸受部2は、回転体1の回転軸11を受け入れるU字形状の溝2aと、エアが導入される導入口2bと、導入口2bから導入されたエアが内部通路(図示されていない)を通って、回転軸11に向かって噴出される噴出孔2cとを有している。噴出孔2cの数は、一般には複数設けられ、その開孔位置も、溝2aの内面に適宜形成される。こうして、軸受部2の噴出孔2cから回転体1の回転軸11の周面に向けて、高圧エアを噴出させることで、回転軸11と軸受部2との間に均等なギャップgとなるように回転体1を浮かせるようになっている。即ち、軸受部2が流体軸受となっている。
【0014】
軸受部(流体軸受)2の構成は、図1及び図2の正面、平面及び側面の三面図で示されるように、センサ20の負(−)極となる導電性のプローブA21a及びセンサ20の正(+)極となる導電性のプローブB21bと、プローブA21aとプローブB21b間を絶縁する第1の絶縁体22と、軸受部2を軸受保持部3に取り付ける取付部材24と、プローブA,B,21a,21bと取付部材24間を絶縁する第2の絶縁体23とより構成されていて、これらは接着等によって一体化されている。この絶縁体22,23は、例えばセラミックから作られ、その板厚は、約2〜3mm程度である。
【0015】
プローブA21aとプローブB21bとは、軸受部2を左右均等に2分割された同一形状をしていて、回転体1の回転軸11に対して左右対称に配置されており、第1の絶縁体22は、このプローブA21aとプローブB21bとの間に挟持されている。また、プローブA,Bの後面(なお、後面とは、図3の正面図において、正面に向いている側を前面、その裏側(正面を向いていない側)を後面と称す)と取付部材24との間に、プローブA21a及びプローブB21b間に渡って第2の絶縁体23が挟持されている。したがって、第1の絶縁体22と第2の絶縁体23とは、図2の平面図に見られるように、T字形に配置されている。プローブA21aとプローブB21bとは、電気的に導電性であれば良いが、実際には、回転体1の軸受として繰り返し回転体1を保持しなければならないため、焼入れした鉄にダイヤモンドコーティングするなどして硬度を確保する必要がある。また、負極のプローブA21aと正極のプローブB21bとしてプローブを2つ設けたのは、プローブと回転体1の回転軸11との間のギャップgを静電容量として電気的に検出するためである。このようにして、本発明のバランス計測装置の軸受部2は、流体軸受2であり、かつそれ自体が静電容量センサ20のヘッド構造となっている。また、本例ではプローブA21aとプローブB21bとは、軸受部2を左右均等に2分割された同一形状をしているが、回転軸と軸受部とのギャップを正確に測ることができれば、同一形状である必要はない。また、プローブA21aとプローブB21bの周囲に、さらに絶縁体と導電体を構成し、電気的なガードを設けることによりさらに高精度なギャップ計測を可能にすることができる。
【0016】
こうして、接着等により一体化された軸受部(流体軸受)2は、ボルト等の固定具5によって取付部材24を軸受保持部3に取り付けることによって、軸受部2は軸受保持部3に固定されている。軸受保持部3は、断面凹状に形成されていて、回転体1が部分的に軸受保持部3の凹部3a内に沈み込むようになっている。軸受保持部3は、図示されないベースとなる計測装置本体に固定されている。
【0017】
図3は、本発明のバランス計測装置の計測システムを説明する図である。回転体1の回転軸11は、両側で軸受部2に支えられるようになっており、回転軸11と軸受部2との間のギャップgが、左右両側で測定されるようになっている。前記したように本発明では、軸受部2自体が静電容量センサ20のヘッド構造をしており、図3において左側(L側)に配置される軸受部2の負極プローブA21aと正極プローブB21bとをそれぞれL側センサアンプ(増巾器)25に電気的に接続している。同様に右側(R側)に配置される軸受部2の負極プローブA21aと正極プローブB21bとをそれぞれR側センサアンプ(増巾器)25に電気的に接続している。
【0018】
L側及びR側のセンサアンプ25で増巾された信号は、アナログ・デジタル変換部26でデジタル量に変換され、次いでアンバランス量演算部27でギャップ量(距離)から回転体1のアンバランス量を演算する。
【0019】
このように本発明では、プローブA,B,21a,21bで一対のセンサとして働き、回転軸11とプローブA,B間のギャップgを静電容量として電気的に検出し、これにより、回転体のアンバランス量を求めている。
【0020】
なお、プローブA21aと回転軸11とのギャップをGaとし、プローブB21bと回転軸11とのギャップをGbとしたとき、回転軸11が水平方向に移動してもGa+Gbは一定となるため、本発明のプローブA,Bでは、水平方向のギャップを検出できない。そのため、本発明では、回転体1が軸受部2上で上下する鉛直振動の成分(波形)からアンバランス量を抽出するようにしている。これにより、従来比4倍以上の計測精度でアンバランス量を抽出することができる。
【0021】
図4は、本発明のバランス計測装置における駆動方法の一例を示している。駆動部4は、駆動力を発生させる回転駆動具である駆動モータ41と、駆動モータ41の回転を伝達する伝達具であるベルト42、プーリ43及び連結シャフト44と、駆動モータ41の回転運動を回転体1に伝達する、接続、分離可能な接続具であるセンタ受けシャフト45等から構成されている。センタ受けシャフト45は、シャフト保持部46にベアリング等により回転可能にかつ前後に摺動可能に保持されており、このシャフト保持部46は、ベースとなる計測装置本体に固定されている。
【0022】
駆動モータ41は、ベースとなる計測装置本体に固定されており、その回転が、一方のベルト42Aを介して一方の駆動部のセンタ受けシャフト45Aに固定されたプーリ43A1と、連結シャフト44の一方の端部に固定されたプーリ43A2とに伝達される。更にこの回転は、連結シャフト44の他方の端部に固定されたプーリ44B2から他方のベルト42Bを介して他方の駆動部のセンタ受けシャフト45Bに固定されたプーリ43B1へと伝達される。このようにして、駆動モータ41の回転によって、センタ受けシャフト45Aと45Bとは同方向に回転する。したがって、センタ受けシャフト45A,45Bとが前進して回転体1の回転軸11を両側から挟持してクランプした状態で、駆動モータ41によって回転体1を回転させることができる。
【0023】
なお、本発明では、図4の駆動部以外の構造、特に軸受部の構造については、図4の構造に代えて、図1,2の軸受部の構造を採用している。また、図4の駆動方法に代えて、他の公知の駆動方法、ベルト駆動、ローラ駆動等を適宜採用できるものであり、その選定は、被計測物の形状、材質、重量及び計測精度、サイクルタイム等により適宜決められる。
【0024】
次に、上記構成よりなる本発明の回転体のバランス計測装置の作動について以下に説明する。まず、被計測物である回転体1を移動手段により軸受部2にセットする。ついで、回転体1の両端の回転軸11を、左右のセンタ受けシャフト45(45A,45B)を前進させることで挟持し、クランプする。この状態で、駆動モータ41を駆動し、ベルト42(42A,42B)、プーリ43(43A1,43A2;43B1,43B2)及び連結シャフト44等を介して駆動モータ41の回転を伝達し、センタ受けシャフト45(45A,45B)を回転させ、回転体1を従動回転させる。
【0025】
次に、回転体1が計測回転数である所定の回転数に達したら、左右のセンタ受けシャフト45(45A,45B)を後退させ、高圧エアを軸受部2の導入口2bへ供給して噴出孔2cから噴出し、回転体1の回転軸11を軸受部2の溝2a内で浮上させて、軸受部2を流体軸受として回転体1を受ける。
【0026】
この状態で、回転体1は慣性回転をしており、鉛直振動による回転体1の回転軸11と軸受部2とのギャップ変化をセンサ20(プローブA,B)により静電容量として電気的に検出し、これをギャップg(距離)変化として換算して検出する。
検出後はエアの供給を止め、移動手段により回転体1を軸受部2から取り外す。
【0027】
以上説明したように、本発明の実施の形態のバランス計測装置では、従来の軸受の振動を計測するのではなく、回転体の振れを直接計測する構成とし、軸受部を流体軸受とし、回転体の回転軸と流体軸受との縦方向のギャップ変化を静電容量センサで計測することにより、従来のものに比べて4倍以上の計測精度を得ることができる。また、軸受部自体をセンサヘッド構造にしているので、回転軸の軸長が短い回転体であっても、アンバランス量を容易に計測することが可能となる。
【0028】
また、軸受部を流体軸受としていて、回転体の回転軸が軸受部に接触しないため、摩擦による抵抗が小さく、回転数の変化を小さくすることができるので、小型で軽い回転体のアンバランス量の計測に好適である。更に、軸受部のU字形状溝に回転軸を受け入れるようにしているので、軸受部への回転体の投入、取出しが容易となり、計測工程の自動化や高速化を容易に行うことが可能となる。
【符号の説明】
【0029】
1 回転体
11 回転軸
2 軸受部(流体軸受)
2a 溝
2b 導入口
2c 噴出口
20 センサ(静電容量センサ)
21a プローブA
21b プローブB
22,23 絶縁体
24 取付部材
25 センサアンプ
26 アナログ・デジタル変換部
27 アンバランス量演算部
3 軸受保持部
4 駆動部
41 駆動モータ
45(45A,45B) センタ受けシャフト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転体(1)を両側で支える軸受部(2)と、
前記軸受部を取り付ける軸受保持部(3)と、
前記回転体のアンバランス量に応じた前記回転体の回転軸(11)と前記軸受部とのギャップ変化を検出するセンサ(20)と、
を備えていて、前記回転体のアンバランスを計測する回転体のバランス計測装置において、
前記軸受部(2)が、気体を噴出する流体軸受であり、かつ前記流体軸受自体を前記回転軸と前記軸受部とのギャップ変化を検出するセンサ(20)の検出部としていることを特徴とする回転体のバランス計測装置。
【請求項2】
前記流体軸受が、前記回転体の前記回転軸(11)を受け入れるU字形状の溝(2a)を有していることを特徴とする請求項1に記載の回転体のバランス計測装置。
【請求項3】
前記回転軸と前記軸受部とのギャップ変化を検出するセンサ(20)が静電容量センサであることを特徴とする請求項1又は2に記載の回転体のバランス計測装置。
【請求項4】
前記流体軸受が、前記回転軸(11)に対して左右に対称に配置され、一方が正極となり、他方が負極となる同一形状の一対の導電性プローブA,B(21a,21b)と、前記プローブA,B間に挟持される第1の絶縁体(22)と、前記プローブA,Bの後面に前記プローブA,B間に渡って設けられる第2の絶縁体(23)と、前記第2の絶縁体の後面に設けられる取付部材(24)とより構成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載の回転体のバランス計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−257232(P2011−257232A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−131123(P2010−131123)
【出願日】平成22年6月8日(2010.6.8)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】