説明

回転体の対象点方向計測方法と装置

【課題】回転体を、その軸方向一端側から回転軸方向に撮像して得た画像において対象点とその背景とが互いに対して識別しにくい場合であっても、対象点の方向を計測できるようにする。
【解決手段】ステップS1で、回転体の参照エッジ画像を予め取得する。ステップS2で、回転体を撮像した画像から計測エッジ画像を取得する。ステップS3で、参照エッジ画像と計測エッジ画像とを、中心同士が一致するように重ねる。ステップS4で、参照エッジ画像と計測エッジ画像との一致度が最も高くなる位置へ、計測エッジ画像と参照エッジ画像を、回転軸回りに互いに対して相対回転させる。ステップS5で、ステップS3で計測エッジ画像と重ねられた参照エッジ画像における既知の対象点の方向と、ステップS4で行った相対回転の量とに基づいて、ステップS2の撮像時における回転体の対象点の方向を求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転体における対象点の方向を計測する回転体の対象点方向計測方法と装置に関する。対象点は、回転体の回転軸から半径方向外側にずれた位置にあり、対象点の方向は、回転軸の位置から見たその方向である。
【背景技術】
【0002】
回転体は、回転機械に設けられ、その回転軸を中心として回転駆動される。図1は、回転機械の構成例を示す。図1では、回転機械は過給機である。図1において、回転体3は、タービン翼5、コンプレッサ翼7、および、両者を結合する回転シャフト8を有する。また、図1において、ナット16が、回転シャフト8の軸方向端部に螺合しており、ナット16を締めつけることで、コンプレッサ翼7が形成されているコンプレッサ羽根車17を回転シャフト8に締結している。符号17aは、コンプレッサ羽根車17における回転軸C方向の先端部を示す。
【0003】
従来において、回転体3のアンバランスを測定し、当該アンバランスが存在する周方向(回転体3の回転軸C回りの方向。以下同様)の位置において、当該アンバランスの大きさに相当する量だけ、回転体3を部分的に切削していた。このように回転体3の一部を切削して、回転体3のアンバランスを修正していた。
【0004】
回転体3のアンバランスを測定するために、回転機械を試運転して回転体3を回転させる。この時、角度センサにより、回転体3の回転角を検出しながら、回転体3の回転運動で生じる振動を検出する。これらの検出データからアンバランスの周方向位置と大きさを求めることができる。
【0005】
図2と図3を用いて、アンバランス測定の一例について簡単に説明する。図2(A)は、回転体3のアンバランス測定を行うための概略構成を示し、図2(B)は、図2(A)のB−B矢視図であり、図2(C)は、図2(B)の部分拡大図である。図3は、測定データを示す。なお、図2の回転体3は、図1の回転体3を簡略化して図示したものである。
【0006】
図2の例では、角度センサは、一定の周方向位置に配置された光検出器27を用いたものである。光検出器27は、回転体3の回転軸Cと同じ高さから回転体3に向けて回転軸Cと直交する水平方向に光を発し、回転体3に張られた反射テープ29で反射された当該光を検出することにより、反射テープ29が光検出器27の周方向位置に来たことを検出する。回転体3が一定速度で回転している場合に、角度センサは、一定の周期で反射テープ29を検出して図3のようにパルスを出力するので、このパルスに基づいて回転体3の回転角を検出する。例えば、前記パルスが出力された時の角度センサによる検出回転角を0度とし、回転体3が一回転する度に、角度センサによる検出回転角は0度から360度へ変化する。
【0007】
振動センサ31は、回転体3の回転により生じる振動を検出する。図3の例では、回転体3を回転可能に支持する支持体15の振動(この例では変位)を検出する。図3の例では、振動センサ31は、水平方向の振動を検出するように、回転体3を回転可能に支持する支持体15における一側面に取り付けられている。この例では、振動センサ31と光検出器27とは、同じ周方向位置において同じ方向(水平方向)を向くように配置されている。
【0008】
このような構成で、回転体3を一定速度で回転させている状態において、角度センサにより、回転体3の回転角を検出しながら、振動センサ31により、回転体3の回転運動で生じる振動を検出する。その結果、図3の検出データが得られる。
【0009】
図3の例では、光検出器27と振動センサ31は、同じ周方向位置にて同じ向きに配置されているので、図2(C)のように、アンバランスの周方向位置Paが、回転軸C回りに、反射テープ29の位置からα度だけずれている場合、図3のように、検出回転角がα度になった時に、振動センサ31により検出した振動(変位)は最大になる。よって、図3のような振動が検出された場合には、振動が最大となる回転角に対応する周方向位置にアンバランスが存在することが分かる。すなわち、反射テープ29の周方向位置を基準点として、この基準点に対するアンバランスの周方向位置Paを知ることができる。
【0010】
回転体3における切削対象部(図2では、ナット)16の外周面と回転体3の回転軸Cとの距離が、周方向位置に応じて異なっている場合がある。このような場合、アンバランス修正のために、アンバランスの周方向位置において、切削対象部16を部分的に切削するときに、アンバランスの周方向位置が切削対象部16の対象点Pt(図2(C)におけるナット16の頂点)からどれだけずれているかにより、切削すべき量(体積)が異なる。すなわち、アンバランス修正のために、切削対象部16の外周面において穴や溝が形成されるように切削対象部16を軸方向(回転軸Cと平行な方向。以下同様)または半径方向(回転軸Cと直交する方向。以下同様)に切削する場合には、アンバランスの周方向位置が対象点Ptからどれだけずれているかにより、切削すべき量が異なる。
そのため、従来では、切削する周方向位置と量を補正している(例えば、下記の特許文献1)。
【0011】
例えば、次のような場合に、アンバランスの周方向位置に応じて切削すべき量が異なる。図4は、軸方向から見た切削対象部16(この例では、六角ナット16)である。図4の斜線部分は、切削工具33(この例では、軸方向を向いたエンドミル)である。図4において、軸方向から見て、切削工具33の一部を切削対象部16に重複させた状態で、切削工具33が回転しながら軸方向に切削対象部16内へ移動して切削する。この場合、周方向位置D1と周方向位置D2で、同じ半径方向の位置において軸方向に同じ深さだけ切削対象部16を切削しても、周方向位置D1と周方向位置D2との間で切削量が異なってしまう。そのため、従来では、切削する周方向位置と量を補正している。
【0012】
切削する周方向位置と量の補正は、回転体3における認識可能な対象点(図2(C)の例では、六角ナット16の頂点Pt)に対するアンバランスの周方向位置に基づいて行われている。なお、対象点に相当する切削対象部16の位置には、認識可能に色やマークなどを付けておいてよい。
【0013】
そのため、次の対象点方向計測方法により、アンバランスの周方向位置を対象点の周方向位置に対して求めている。
【0014】
対象点方向計測方法は、次の手順で行われている。
上述の角度センサによる検出回転角が設定値(図2と図3の例では、ゼロ度)になるように回転体3を静止させる。
この状態で、図2(A)において、カメラを用いて、軸方向(この例では、図2(A)の左側)から回転体3を撮像することにより、図5(A)に示す切削対象部16の画像データを得る。
この画像データにおける切削対象部16の対象点Ptの方向を求める。すなわち、図5(B)のように、画像データにおけるナット16の外縁となる各線分16aを抽出し、回転軸Cと対象点Ptとを結ぶ線分35と、水平線に相当する直線37とのなす角度θにより対象点Ptの方向を特定する。
【0015】
上述した検出回転角の設定値と、画像データ内における対象点Ptの方向とに基づいて、アンバランスの周方向位置を対象点Ptの周方向位置に対して求めることができる。例えば、図2(C)において、回転体3の回転方向が時計回りであり、上述した検出回転角の設定値がゼロ度である場合には、対象点Ptに相当する回転角の値は、図3のように−θ(または、360−θ)となる。従って、図3において、アンバランスの周方向位置Paを対象点Ptの周方向位置に対して求めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2009−19948号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかし、アンバランス修正のために切削対象部16を切削する時点で、前工程のアンバランス修正のために、図6のように、上述の画像データにおいて対象点Ptの背景となる部分が、既に切削されている場合がある。この部分は、例えば、図6の斜線部分であり、切削対象部16とは異なる部分であるコンプレッサ羽根車17の先端部(先端面)17aである。
この場合においては、上述のように、回転体3を軸方向から撮像する時に、軸方向に照射された撮影用照明が、図6の斜線部分(切削部分)において正反射しないことなどにより切削対象部16の背景が暗くなることがある。この場合、上記の対象点方向計測方法では、背景が暗くなった部分の線分16aの抽出を行えなくなる。このように、対象点Ptが、その背景(切削部分)から識別し難くなる結果、対象点Ptの方向の計測ができなくなる。
【0018】
そこで、本発明の目的は、回転体を、その軸方向一端側から回転軸方向に撮像して得た画像において対象点とその背景とが互いに識別しにくい場合であっても、対象点の方向を計測できる方法と装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明によると、回転体における対象点の方向を計測する回転体の対象点方向計測方法であって、
回転体は、回転機械に設けられ回転軸回りに回転駆動されるものであり、対象点は、回転軸から半径方向外側にずれた位置にあり、対象点の方向は、回転軸の位置から見たその方向であり、
(A)対象点が特定方向を向いている回転体を、その軸方向一端側から回転軸方向に撮像した画像からエッジを抽出したエッジ画像と同じエッジ形状の参照エッジ画像を作成し、
(B)回転体が、回転軸回りに回転可能に支持されており、かつ、該回転体の検出回転角が設定値となっている状態で、該回転体を、その軸方向一端側から回転軸方向に撮像することにより回転体の計測画像を取得するとともに、計測画像からエッジを抽出した計測エッジ画像を作成し、
(C)画像処理用の二次元空間において、参照エッジ画像と計測エッジ画像とを、その中心同士が一致するように重ね、
(D)この状態で、参照エッジ画像と計測エッジ画像との一致度が最も高くなる位置へ、参照エッジ画像と計測エッジ画像を、前記中心回りに互いに対して相対回転させ、
(E)画像処理用の二次元空間において、前記(C)で計測エッジ画像と重ねられた参照エッジ画像における既知である対象点の特定方向と、前記(D)で行った相対回転の量とに基づいて、前記(B)で撮像を行った時における回転体の対象点の方向を求める、ことを特徴とする回転体の対象点方向計測方法が提供される。
【0020】
さらに、本発明によると、回転体における対象点の方向を計測する回転体の対象点方向計測装置であって、
回転体は、回転機械に設けられ回転軸回りに回転駆動されるものであり、対象点は、回転軸から半径方向外側にずれた位置にあり、対象点の方向は、回転軸の位置から見たその方向であり、
回転体が、回転軸回りに回転可能に支持されており、かつ、該回転体の検出回転角が設定値となっている状態で、該回転体を、その軸方向一端側から回転軸方向に撮像することにより回転体の計測画像を取得するカメラと、
計測画像からエッジを抽出することにより計測エッジ画像を作成し、計測エッジ画像と参照エッジ画像とに基づいて対象点の方向を求める画像処理装置と、を備え、
参照エッジ画像は、対象点が特定方向を向いている回転体を、その軸方向一端側から回転軸方向に撮像した画像からエッジを抽出したエッジ画像と同じエッジ形状を有し、
画像処理装置は、
(1)画像処理用の二次元空間において、参照エッジ画像と計測エッジ画像とを、その中心同士が一致するように重ね、
(2)この状態で、参照エッジ画像と計測エッジ画像との一致度が最も高くなる位置へ、参照エッジ画像と計測エッジ画像を、前記中心回りに互いに対して相対回転させ、
(3)画像処理用の二次元空間において、前記(1)で計測エッジ画像と重ねられた参照エッジ画像における既知である対象点の特定方向と、前記(2)で行った相対回転の量とに基づいて、計測画像を取得した時における回転体の対象点の方向を求める、ことを特徴とする回転体の対象点方向計測装置が提供される。
【発明の効果】
【0021】
本発明によると、対象点の方向が既知である回転体の参照エッジ画像を予め用意し、その後、回転体を、その軸方向一端側から回転軸方向に撮像することにより回転体の計測画像を取得するとともに、計測画像からエッジを抽出した計測エッジ画像を作成し、画像処理用の二次元空間において、相対回転により計測エッジ画像と参照エッジ画像とを一致させ、参照エッジ画像における既知である対象点の方向と相対回転量とに基づいて、計測画像を取得した時における回転体の対象点の方向を求める。
従って、計測画像において、対象点とその背景とが互いに対して識別しにくい場合であっても、上述の相対回転により、対象点近傍以外の回転体のエッジ部分同士を一致させることにより、対象点の方向を求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】回転機械の構成例を示す。
【図2】アンバランス測定を行うための概略構成を示す。
【図3】アンバランス測定データを示す。
【図4】回転体における切削対象部の切削を説明する図である。
【図5】対象点方向計測方法の説明図である。
【図6】本発明の課題を説明する図である。
【図7】回転体が設けられる回転機械の構成例である。
【図8】本発明の実施形態による回転体の対象点方向計測方法を示すフローチャートである。
【図9】本発明の実施形態による回転体の対象点方向計測方法の説明図である。
【図10】相関値と回転角度との関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の好ましい実施形態を図面に基づいて説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0024】
本発明の実施形態による、回転体3の対象点方向計測方法では、回転体3における対象点Ptの方向を計測する。
回転体3は、回転機械に設けられ回転軸C回りに回転駆動されるものである。対象点Ptは、回転軸Cから半径方向外側にずれた位置にある。対象点Ptの方向は、回転軸Cの位置から見た対象点Ptの方向である。対象点Ptは、後述する図7の例では、後述のナット16の頂点である。
【0025】
図7は、回転体3が設けられる回転機械20の構成例である。回転機械20は、図7の例では過給機である。過給機は、車両や船舶などに搭載されるエンジンの排ガスエネルギーを利用して、エンジンに圧縮空気を供給する装置である。過給機の回転体3は、エンジンの排ガスにより回転駆動されるタービン翼5と、タービン翼5と一体的に回転することで圧縮空気をエンジンに供給するコンプレッサ翼7と、一端部側にタービン翼5が結合され他端側にコンプレッサ翼7が結合される回転シャフト8とを有する。また、過給機3は、タービン翼5を内部に収容するタービンハウジング9と、コンプレッサ翼7を内部に収容するコンプレッサハウジング(図7では取り外されている)と、回転シャフト8を支持する軸受11が内部に組み込まれる軸受ハウジング13と、を備える。なお、軸受ハウジング13が、支持体15に取り付けられることで、回転体3は、軸受ハウジング13を介して支持体15に支持されている。タービンハウジング9は、支持体15内に配置されている。
【0026】
図7の例では、回転体3が、回転軸C回りに回転可能に支持体15に支持された状態で、回転体3のアンバランス測定と、アンバランスの測定データに基づいて回転体3のアンバランス修正が行われる。
【0027】
アンバランス測定では、回転体3を回転駆動させた状態で、角度センサで回転体3の回転角度を検出しながら、回転体3の回転により生じる振動を検出することにより、回転体3においてアンバランスが存在する周方向位置と、当該アンバランスの大きさを求める。なお、回転体3の回転駆動は、図7の例では、タービンハウジング9内に形成された流路からタービン翼5に圧縮ガスを供給することにより行われる。
【0028】
アンバランス修正では、求めたアンバランスの周方向位置において、求めたアンバランスの大きさに相当する量だけ回転体3を切削する。ここで、回転体3を切削する切削対象部分16は、ナットである。ナット16は、コンプレッサ羽根車17を貫通している回転シャフト8の先端部に螺合することにより、コンプレッサ羽根車17を回転シャフト8に締結する部材である。
【0029】
なお、アンバランス修正時に回転体3が回転しないように回転体3を把持する把持装置19が設けられる。把持装置19は、回転体3が回転しないように回転体3における軸方向端部21を把持する。把持装置19は、排気穴9a、15aを通して軸方向端部21を把持する。排気穴9aは、タービンハウジング9に形成されており、タービン翼5を駆動したガスを軸方向(回転軸Cと平行な方向)に流す。排気穴15aは、支持体15に形成されており、排気穴9aに軸方向に連通して排気穴15aから流れてきたガスを支持体15の外部へ軸方向に排出する。また、把持装置19は、軸方向端部21を把持した状態で、回転体3の中心軸C回りに適宜の手段により回転させられてよい。これにより、回転体3の回転角を調整でき、調整後は、把持装置19の回転を静止させ、回転体3が回転しないようにすることができる。また、アンバランス測定時には、把持装置19は、排気穴9a、15aの外部へ退避している。
【0030】
アンバランス修正のために切削対象部16を切削する前に、回転体3における対象点Ptの方向を、本発明の実施形態による対象点方向計測方法で求める。すなわち、上述の角度センサにより検出される回転角が設定値(例えば、ゼロ度)にある状態で、対象点Ptがどの方向を向いているかをアンバランス修正前に求めておく。ここで、上述の角度センサにより検出される回転角が設定値になるように、把持装置19により回転体3の回転角を調節し、この状態で、後述のステップS2を行う。
【0031】
本実施形態において、対象点方向計測方法に用いる回転体3の対象点方向計測装置10は、カメラ23と画像処理装置25とを備える。
【0032】
カメラ23は、回転体3を、その軸方向一端側から軸方向に撮像することにより回転体3の計測画像を取得する。
【0033】
画像処理装置25は、計測画像からエッジを抽出することにより計測エッジ画像Ibを作成し、計測エッジ画像Ibと参照エッジ画像Iaとに基づいて対象点Ptの方向を求める。参照エッジ画像Iaは、対象点Ptが特定方向を向いている回転体3を、その軸方向一端側から回転軸C方向に撮像した画像からエッジを抽出したエッジ画像と同じエッジ形状を有する。なお、参照エッジ画像Iaは、カメラ23により、回転体3を、その軸方向一端側から回転軸C方向(軸方向)に撮像することにより得た回転体3の参照画像からエッジを抽出したものであるのが好ましいが、当該参照画像からエッジを抽出したエッジ画像と同じエッジ形状を有するものであればよい。
【0034】
図8は、本発明の実施形態による回転体3の対象点方向計測方法を示すフローチャートである。
【0035】
ステップS1において、上述した参照エッジ画像Iaを作成する。
好ましくは、ステップS1において、対象点Ptが特定方向を向いている回転体3を、カメラ23により、その軸方向一端側から回転軸C方向に撮像することにより回転体3の参照画像を取得するとともに、当該参照画像からエッジを抽出することにより参照エッジ画像Iaを作成する。この場合、ステップS1で撮像する時に、回転体3に対して、回転体3の軸方向一端側から回転軸C方向に照明を当てるのがよい。
また、好ましくは、ステップS1を行う時において、回転体3は、いずれの部分においても、アンバランス修正によりまだ切削されていない状態にあるのがよい。
【0036】
ステップS2において、カメラ23により、回転体3を、その軸方向一端側から回転軸C方向に撮像することにより回転体3の計測画像を取得するとともに、この計測画像からエッジを抽出した計測エッジ画像Ibを作成する。ステップS2で撮像する時には、回転体3に対して、回転体3の軸方向一端側から回転軸C方向に照明を当てるのがよい。
【0037】
ステップS3において、画像処理装置25により、画像処理用の二次元空間において、参照エッジ画像Iaと計測エッジ画像Ibとを、その中心(すなわち、回転軸Cの位置)同士が一致するように重ねる。
【0038】
例えば、参照エッジ画像Iaと計測エッジ画像Ibが、共に切削対象部16のエッジ画像であり、ステップS3を行う時に、回転軸C方向から見た回転体3が、図9(A)のように、コンプレッサ羽根車17の先端部17a(すなわち、軸方向先端面)に切削された部分(図9(A)の斜線部分)が存在している場合には、このような先端部17aと切削対象部16に対してステップS2を行うと、計測エッジ画像Ibは、図9(B)のようになる。一方、参照エッジ画像Iaは、例えば、図9(C)に示すものであり、この参照エッジ画像Iaにおいて、対象点Ptは、回転軸Cの位置から見て既知の特定方向Drを向いている。この場合、ステップS3では、図9(D)のように参照エッジ画像Iaと計測エッジ画像Ibとを重ねる。
【0039】
ステップS4において、ステップS3により参照エッジ画像Iaと計測エッジ画像Ibが重ねられた状態で、画像処理装置25により、画像処理用の二次元空間において、参照エッジ画像Iaと計測エッジ画像Ibとの一致度が最も高くなる位置へ、計測エッジ画像Ibと参照エッジ画像Iaを、回転軸C回りに互いに対して相対回転させることにより、計測エッジ画像Ibと参照エッジ画像Iaとを整合させる。
図9の場合には、例えば計測エッジ画像Ibを角度θ(図9(D)を参照)だけ回転させることにより、図9(E)のように計測エッジ画像Ibと参照エッジ画像Iaとを整合させる。
【0040】
ステップS4は、例えば、次の[数1]で表わされる相関値を用いて行われる。この相関値が大きいほど、参照エッジ画像Iaと計測エッジ画像Ibとの一致度が高くなる。すなわち、ステップS4において、画像処理用の二次元空間において相関値が最も大きくなる位置へ、計測エッジ画像Ibと参照エッジ画像Iaを、回転軸C回りに互いに対して相対回転させることにより、計測エッジ画像Ibと参照エッジ画像Iaとを整合させる。図9の例では、図10のように、ステップS4でθ度だけ回転させる時に、相関値が最も大きくなる。
【0041】
【数1】

【0042】
[数1]において、AiとBiの添え字iは、画像処理用の二次元空間に存在する座標を示す。すなわち、当該二次元空間内に存在する座標がn個である場合に、iは、n個の座標のうち、i番目の座標を示す。
Aiは、i番目の座標に、計測エッジ画像Ibにおけるエッジが位置していれば、1であり、そうでなければ、0である。Biは、i番目の座標に、参照エッジ画像Iaにおけるエッジが位置していれば、1であり、そうでなければ、0である。
【0043】
ステップS5において、画像処理用の二次元空間において、ステップS3により計測エッジ画像Ibと重ねられた参照エッジ画像Iaにおける既知の対象点Ptの方向と、ステップS4で行った相対回転の量とに基づいて、ステップS2で回転体3を撮像した時における回転体3の対象点Ptの方向を求める。
【0044】
上述した本発明の実施形態によると、対象点Ptの方向が既知である回転体3の参照エッジ画像Iaを予め用意し、その後、回転体3を、その軸方向一端側から回転軸C方向に撮像することにより回転体3の計測画像を取得するとともに、計測画像からエッジを抽出した計測エッジ画像Ibを作成し、画像処理用の二次元空間において、相対回転により計測エッジ画像Ibと参照エッジ画像Iaとを一致させ、参照エッジ画像Iaにおける既知である対象点Ptの方向と相対回転量とに基づいて、計測画像を取得した時における回転体3の対象点Ptの方向を求める。
従って、計測画像において、対象点Ptとその背景とが互いに対して識別しにくい場合であっても、上述の相対回転により、対象点Pt近傍以外の回転体3のエッジ部分同士を一致させることにより、対象点Ptの方向を求めることができる。
【0045】
本発明は上述した実施の形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更を加え得ることは勿論である。
【0046】
上述では、切削対象部16は、六角ナットであったが、本発明はこれに限定されない。すなわち、切削対象部16は、その外周面(すなわち、半径方向外端面)と回転体3の回転軸Cとの距離が、周方向位置に応じて異なっているものである。
【0047】
また、対象点Ptは、回転体3における認識可能な周方向位置であればよく、例えば、回転体3(好ましくは、切削対象部16)の形状、回転体3に付された印や色などにより認識可能な周方向位置である。
【0048】
本発明では、アンバランス修正のための切削により切削部分が全く存在しない回転体3に対して上述のステップS2を行ってもよい。
【符号の説明】
【0049】
3 回転体、5 タービン翼、7 コンプレッサ翼、8 回転シャフト、9 タービンハウジング、9a 排気穴、10 対象点方向計測装置、11 軸受、13 軸受ハウジング、15 支持体、15a 排気穴、16 切削対象部分(ナット)、16a 線分、17 コンプレッサ羽根車、17a コンプレッサ羽根車の先端部、19 把持装置、20 回転機械、21 軸方向端部、23 カメラ、25 画像処理装置、27 光検出器、29 反射テープ、31 振動センサ、33 切削工具、35 線分、37 直線、Ia 参照エッジ画像、Ib 計測画像、C 回転軸、Pt 対象点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転体における対象点の方向を計測する回転体の対象点方向計測方法であって、
回転体は、回転機械に設けられ回転軸回りに回転駆動されるものであり、対象点は、回転軸から半径方向外側にずれた位置にあり、対象点の方向は、回転軸の位置から見たその方向であり、
(A)対象点が特定方向を向いている回転体を、その軸方向一端側から回転軸方向に撮像した画像からエッジを抽出したエッジ画像と同じエッジ形状の参照エッジ画像を作成し、
(B)回転体が、回転軸回りに回転可能に支持されており、かつ、該回転体の検出回転角が設定値となっている状態で、該回転体を、その軸方向一端側から回転軸方向に撮像することにより回転体の計測画像を取得するとともに、計測画像からエッジを抽出した計測エッジ画像を作成し、
(C)画像処理用の二次元空間において、参照エッジ画像と計測エッジ画像とを、その中心同士が一致するように重ね、
(D)この状態で、参照エッジ画像と計測エッジ画像との一致度が最も高くなる位置へ、参照エッジ画像と計測エッジ画像を、前記中心回りに互いに対して相対回転させ、
(E)画像処理用の二次元空間において、前記(C)で計測エッジ画像と重ねられた参照エッジ画像における既知である対象点の特定方向と、前記(D)で行った相対回転の量とに基づいて、前記(B)で撮像を行った時における回転体の対象点の方向を求める、ことを特徴とする回転体の対象点方向計測方法。
【請求項2】
回転体における対象点の方向を計測する回転体の対象点方向計測装置であって、
回転体は、回転機械に設けられ回転軸回りに回転駆動されるものであり、対象点は、回転軸から半径方向外側にずれた位置にあり、対象点の方向は、回転軸の位置から見たその方向であり、
回転体が、回転軸回りに回転可能に支持されており、かつ、該回転体の検出回転角が設定値となっている状態で、該回転体を、その軸方向一端側から回転軸方向に撮像することにより回転体の計測画像を取得するカメラと、
計測画像からエッジを抽出することにより計測エッジ画像を作成し、計測エッジ画像と参照エッジ画像とに基づいて対象点の方向を求める画像処理装置と、を備え、
参照エッジ画像は、対象点が特定方向を向いている回転体を、その軸方向一端側から回転軸方向に撮像した画像からエッジを抽出したエッジ画像と同じエッジ形状を有し、
画像処理装置は、
(1)画像処理用の二次元空間において、参照エッジ画像と計測エッジ画像とを、その中心同士が一致するように重ね、
(2)この状態で、参照エッジ画像と計測エッジ画像との一致度が最も高くなる位置へ、参照エッジ画像と計測エッジ画像を、前記中心回りに互いに対して相対回転させ、
(3)画像処理用の二次元空間において、前記(1)で計測エッジ画像と重ねられた参照エッジ画像における既知である対象点の特定方向と、前記(2)で行った相対回転の量とに基づいて、計測画像を取得した時における回転体の対象点の方向を求める、ことを特徴とする回転体の対象点方向計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−36911(P2013−36911A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−174529(P2011−174529)
【出願日】平成23年8月10日(2011.8.10)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】