説明

回転体を上昇する液膜流を用いた水質浄化システム

【課題】装置を容易に小型化可能であり、且つ、水系内の溶存酸素量を効率的に増大させることが可能な水質浄化システムを提供する。
【解決手段】回転軸に直交する方向における断面形状が略円形状であり、略円形状の中心が回転軸に一致し、且つ、回転軸に沿って一方側から他方側に向かうにつれて略円形状の半径が増大する形状である回転体1を用い、回転体の一方側の端部を水中に浸し、回転体を回転させることにより、回転体の外表面を上昇する液膜流2を生成させ、回転体の他方側の端部において、上昇する液膜流2を水滴及び/又はミスト3として飛散させ、飛散させた水滴及び/又はミスト3に酸素を取り込ませ、酸素を取り込ませた水滴及び/又はミスト3を供給することにより水中の溶存酸素濃度を増大させる、水質浄化システム10。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転体(例えば、回転直円錐)を上昇する液膜流を用いた水質浄化システムに関する。
【背景技術】
【0002】
堀や池等は、流れがなく閉鎖された水系であるため、有機栄養素(リン等)が増加すると、アオコが発生し濁りや悪臭のもととなる。これを防ぐには、水系内で植物の光合成を促す等、生体系を活性化させて自然の浄化作用を高めることが必要となる。そのため、閉鎖された水系においては、大気中から酸素を取り込むことによって水系内の溶存酸素量を増大させることが必要となる。
【0003】
水系内の溶存酸素量を増大させる方法としては様々なものが研究されている。例えば、特許文献1に開示された水質浄化装置おいては、水系内の水を装置内に導入し、当該装置内で導入水に酸素を含む気体を吹き入れた後、導入水を噴射して水系内に戻すことによって、水系内の溶存酸素量を増大させている。或いは、非特許文献1や特許文献2においては、下部に電動プロペラやポンプを取り付けた浮体を用い、当該浮体を水面に浮かべた後プロペラを回転させ、或いは、ポンプを作動させ水中に所定の攪拌流れを作り出すことによって水系内に酸素を取り込んでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−142220号公報
【特許文献2】特開2009−202038号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】馬場マルティン、太陽光を利用した新しい原理によるアオコ除去システム 浮体式水質改善装置「水すまし」、クリーンエネルギー(JST資料)L1693A ISSN:098−7510
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1や特許文献2に開示された水質浄化装置にあっては、ポンプを必須に用いているため装置が大型化し、エネルギーの消費も大きくなってしまうという問題があった。また、非特許文献1に開示されたような浮体の下部に設けたプロペラで水中を攪拌する技術にあっては、装置の小型化は可能であるものの、攪拌流れのみによっては大気中から酸素を十分に取り込むことができない虞があった。また、プロペラ等の機械的な部品を水に浸すこととなるため、メンテナンス性にも問題があった。
【0007】
そこで本発明は、装置を容易に小型化可能で、メンテナンス性にも優れ、且つ、水系内の溶存酸素量を効率的に増大させることが可能な水質浄化システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、回転体の外表面を上昇する液膜流れについて鋭意研究したところ、以下の知見を得た。
(1)円錐形状の回転体(回転円錐)の円錐頂点を下にして、当該円錐頂点を水に浸して回転させた場合、回転円錐の外表面に沿って上昇する液膜流が形成される。
(2)液膜が回転円錐の外表面を上昇するにつれて、液膜厚さが徐々に薄くなる。これにより、上昇した液膜を回転円錐の底面側の端部で、微小の水滴及び/又はミストとして飛散させることができる。水滴及び/又はミストが微小であることにより、単位体積当たりの大気との接触界面が増大するため、水滴及び/又はミスト中に効率よく酸素を取り込ませることができる。
(3)回転円錐の回転により、水中に所定の攪拌流れが生じる。すなわち、攪拌によって水面における酸素の取り込みが促進されるほか、自然落下によって水中に戻された水滴及び/又はミストに含まれる酸素についても、攪拌によって深部にまで行き渡らせることが可能である。
【0009】
本発明は上記知見に基づいてなされたものである。すなわち、
本発明は、回転軸に直交する方向の断面形状が略円形状であり、当該略円形状の中心が回転軸に一致し、且つ、回転軸に沿って一方側から他方側に向かうにつれて略円形状の半径が増大する形状である回転体を用い、回転体の一方側の端部を水中に浸し、回転体を回転させることにより、該回転体の外表面を上昇する液膜流を生成させ、回転体の他方側の端部において、上昇する液膜を水滴及び/又はミストとして飛散させ、飛散させた水滴及び/又はミストに酸素を取り込ませ、酸素を取り込ませた水滴及び/又はミストを供給することにより水中の溶存酸素濃度を増大させる、水質浄化システムである。
【0010】
本発明において、「略円形状」とは、例えば、回転体の外表面に流れ制御や表面積増大のための溝等が設けられることによって、断面形状における外周の一部が凹凸とされていてもよい概念である。すなわち、回転軸に直交する方向における断面形状が、回転体の回転により液膜が回転体の外表面を上昇し得る程度に円形状であればよい。「回転軸に沿って一方側から他方側に向かうにつれて略円形状の半径が増大する形状」とは、例えば、回転軸に沿うとともに回転軸を含んだ断面形状が三角形となる直円錐形状(図2(A)参照)に限られず、回転軸に沿うとともに回転軸を含んだ断面形状が台形である直円錐台形状(図2(B)参照)や、円錐の外表面が回転軸側に凸となるような形状(図2(C)参照)をも含む概念である。「回転体の一方側の端部を水中に浸し」とは、回転体の回転によって回転体の外表面を上昇する液膜流れが生じる程度に、回転体の他方側端部を水面から露出させるとともに回転体の一方側端部を水中に浸すことを意味する。すなわち、水に浸される端部の高さについては、適宜調整すればよい。「水滴及び/又はミスト」の粒径については、液膜の厚さに依存するものであり、特に限定されるものではない。液膜の厚さは、回転体の形状や回転速度によって調整可能である。「飛散させた水滴及び/又はミストに酸素を取り込ませ」とは、例えば、飛散させた水滴及び/又はミストが空気中から酸素を取り込む形態が挙げられる。「酸素を取り込ませた水滴及び/又はミストを供給することにより水中の溶存酸素濃度を増大させる」とは、例えば、飛散させた水滴及び/又はミストが水面に自然落下し、水中に取り込まれることにより水滴及び/又はミスト中の酸素が水中に取り込まれ、これにより水中の溶存酸素濃度を増大させる形態が挙げられる。
【0011】
本発明において、回転体の他方側に、回転軸に直交する面を有する板状体が設けられるとよい。これにより、回転体の他方側端部に到達した液膜は、板状体表面においてさらに厚さが薄くなって、板状体端部から、より微小な水滴及び/又はミストとして飛散させることができる。これにより、飛散する水滴及び/又はミストの単位体積当たり、より多くの酸素を取り込ませることができる。
【0012】
本発明において、回転体が一方側に頂点を有する形状であると、回転体の外表面を上昇する液膜流れをより適切に作り出すことができるとともに、水中に所定の攪拌流れを容易に作り出すことができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明では、回転体の端部から飛散する水滴及び/又はミストと、回転体の下部において生成する攪拌流れとを用いて、水中の溶存酸素濃度を増大させることが可能である。すなわち、従来の装置に用いられる動力と同程度以下の動力で、水系内に内部循環流れを作り出すだけでなく、液膜の微粒化によって水滴及び/又はミストを発生させることができる。また、プロペラ等を用いておらず、水浸漬部分の構成が簡易化されている。したがって、本発明によれば、装置を容易に小型化可能で、メンテナンス性にも優れ、且つ、水系内の溶存酸素量を効率的に増大させることが可能な浄化システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】一実施形態に係る本発明の水質浄化システム10について説明するための概念図である。
【図2】本発明に係る水質浄化システムに用いられる回転体1の形状を説明するための概略図である。
【図3】本発明に係る水質浄化システムについて説明するための図であって、特に回転体における液膜流の生成・上昇について説明するための図である。
【図4】回転体の端部に設けられた板状体1cの効果及び一形態を説明するための概略図である。
【図5】回転体1について補足説明するための概略図である。
【図6】気体溶解促進システムについて説明するための概略図である。
【図7】実施例にて用いた水質浄化システム100を説明するための概略図である。
【図8】水質浄化システム動作時の水中の攪拌流の様子を示す図である。
【図9】水質浄化システム100を用いてミストを発生させた場合における、溶存酸素濃度の変化を示す図である。
【図10】ミストを発生させなかった場合における、溶存酸素濃度の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1に、一実施形態に係る本発明の水質浄化システム10の概念図を示す。水質浄化システム10は、以下の(1)〜(6)の要素をすべて備えている点に特徴を有する。
(1)回転軸に直交する方向における断面形状が略円形状であり、当該略円形状の中心が回転軸に一致し、且つ、回転軸に沿って一方側から他方側に向かうにつれて当該略円形状の半径が増大する形状である回転体1を用いる。
(2)回転体1の一方側の端部1aを水中に浸す。
(3)回転体1を回転させることにより、回転体1の外表面を上昇する液膜流2を生成させる。
(4)回転体1の他方側の端部1bにおいて、上昇する液膜流2を水滴及び/又はミスト3として飛散させる。
(5)飛散させた水滴及び/又はミスト3に酸素を取り込ませる。
(6)酸素を取り込ませた水滴及び/又はミスト3を供給することにより水中の溶存酸素濃度を増大させる。
以下、要素毎に詳述する。
【0016】
本発明に係る水質浄化システム10においては、(1)回転軸に直交する方向における断面形状が略円形状であり、当該略円形状の中心が回転軸に一致し、且つ、回転軸に沿って一方側から他方側に向かうにつれて当該略円形状の半径が増大する形状である回転体1を用いる。
【0017】
上記の条件を満たす回転体1の具体的形態としては、例えば、図2(A)〜(C)で示されるような形態が挙げられる。図2(A)は直円錐形状の回転体、図2(B)は直円錐台形状の回転体、図2(C)は円錐の外表面が回転軸側に凸となるような形状の回転体を示している。尚、本発明において、回転体1の表面は必ずしも滑らかである必要はない。例えば、液膜流を制御する等の観点から、回転体1の外表面の一部に溝が設けられていてもよい。
【0018】
回転体の材質については、特に限定されるものではないが、親水性のある材質を用いた場合には端部1aの高さが比較的小さい状態で液膜流が発生する。これは、親水性の材質では液体との接触角が小さいためであると考えられる。一方で、疎水性の材質の場合には、接触角が大きくなるため、液膜流が発生する際の端部1aの高さが大きくなる。ただし、十分に時間が経過した定常運転時においては接触角の影響が無くなり、何れの場合にも端部1a の高さは同じとなる。したがって、運転初期において、なるべく早く液膜流を生じさせるという観点からは親水性の材質を用いる方が好ましい。回転体1の大きさについては、システムの規模(水系の規模、用いる動力等)に合わせて適宜調整すればよい。
【0019】
本発明に係る水質浄化システム10においては、(2)回転体1の一方側の端部1aを水中に浸す。
【0020】
本発明では、後述するように回転体1の回転によって回転体1の外表面を上昇する液膜流2が生じる程度に、回転体の他方側端部1bを水面から露出させつつ回転体の一方側端部1aを水中に浸せばよい。水中に浸される端部1aの高さについては、例えば、回転体1の回転速度や回転体1の形状(頂角や回転体高さ等)によって適宜調整することができる。すなわち、回転速度が大きければ、端部高さが小さくとも、回転体の外表面に沿って上昇する液膜流2を生成させることができる。このように、端部1aの高さについては特に限定されるものではない。例えば、全頂角30°、底面半径30mmの直円錐を回転体として用いて0.2L/min程度のミストを発生させたい場合、回転速度2000rpmでは、端部1aの高さを8mm程度とする必要があるが、回転速度6000rpmでは、端部1aの高さを2mm程度とすればよい。
【0021】
本発明に係る水質浄化システム10においては、(3)回転体1を回転させることにより、当該回転体1の外表面を上昇する液膜流2を生成させる。
【0022】
図3に、回転体1として直円錐体を用いた場合の液膜流2の生成の経過について示す。本発明に係る水質浄化システム10において、回転体1の回転初動時は、回転体1の外表面には液膜流2は生成されない(図3(A))。その後、回転体1の回転速度の上昇とともに、水面及び水中に所定の攪拌流れが生み出されつつ回転体1付近の水面に盛り上がりが生じる(図3(B))。盛り上がった水面は、回転体1により付与される回転力や水自身の表面張力等によって、回転体1の外表面を伝って徐々に上昇する(図3(C))。回転体1の回転や水面の位置が定常となると、水面からは常に一定の水が回転体1の外表面を伝って上昇することとなり、回転体1の表面には常に所定の厚さの液膜流2が形成されることとなる(図3(D))。液膜流2の厚さは、回転体1の上側(底面側)となるにつれて徐々に薄くなる。
【0023】
上述したように、回転体1の外表面に形成される液膜流2の厚さは、回転体1の回転速度等を調節することにより適宜変更可能である。
【0024】
本発明に係る水質浄化システム10においては、(4)回転体1の他方側の端部1bにおいて、上昇する液膜流2を水滴及び/又はミスト3として飛散させる。
【0025】
上述したように、回転体1の外表面に形成される液膜流2の厚さは、回転体1の他方側に向かって徐々に薄くなる。すなわち、回転体1の端部1b近傍においては、液膜流2の厚みは非常に微小なものとなる。よって、端部1bからは、微小粒の水滴及び/又はミストを飛散させることができる。
【0026】
ここで、本発明に係る回転体1の端部1b側に、回転軸に直交する面を有する板状体1cを設けることが好ましい。図4(A)に示すように、板状体1cを設けることで、液膜流2の厚みを板状体1cの端部において一層薄くすることができる。板状体1cの形状については、例えば、図4(B)に示すような、回転軸に直交する面の形状が、回転体1の底面に係る円形状よりも大きな円形状であって、且つ、回転体1の底面に係る円形状と中心が一致するような円形状を有する板状体1cとした場合、板状体1cの端部から飛散させる水滴及び/又はミストの径を均一にすることができる。板状体1cを設けることにより、装置を一層小型化することができる。板状体1cの材質については、回転体1と同様のものとすればよい。回転体1に板状体1cを取り付ける場合は、公知の接合手段、連結手段等を用いればよい。
【0027】
また、図5に示すように、回転体1の頂角θを変更することによって、水滴及び/又はミスト3の発生量を調整することもできる。本発明者が鋭意研究したところ、液膜流2の上昇流量は、回転体1の半径差に比例して大きくなることを知見した。すなわち、回転体1の頂角θが大きいほど、液が上昇する際の半径の拡大率が大きく、同じ回転数でも液膜流2の流量が大きくなり、水滴及び/又はミスト3の発生量が増大する。ただし、回転体1の頂角θが大きくなり過ぎると、回転体1の高さが小さくなり、回転体1の端部1aの高さも小さくなるため、回転体1の端部1aによる攪拌流の効果が小さくなる虞がある。
【0028】
本発明に係る水質浄化システム10においては、(5)飛散させた水滴及び/又はミスト3に酸素を取り込ませる。
【0029】
閉鎖された水系においては、水系内の溶存酸素を利用することで生体系が活性化され、有機栄養素(リン等)を浄化することができる。言い換えれば、閉鎖された水系内では生体系によって溶存酸素が消費されるため、水系内の溶存酸素が不足しがちとなる。このような水系で本発明に係る水質浄化システム10を用いた場合、飛散させた水滴及び/又はミスト3内に、不足分の酸素を取り込むことができる。特に、本発明に係る水質浄化システム10では、飛散させる水滴及び/又はミスト3を微小なものとすることができる。これにより、飛散する水滴及び/又はミスト3の単位体積当たり、より多くの酸素を取り込ませることができる。
【0030】
本発明に係る水質浄化システム10においては、(6)酸素を取り込ませた水滴及び/又はミスト3を供給することにより水中の溶存酸素濃度を増大させる。
【0031】
飛散させた水滴及び/又はミスト3は、大気中の酸素を取り込みながら自由落下し、再び水面に戻される。これにより、水中の溶存酸素濃度を増大させることができる。ここで、本発明に係る水質浄化システム10においては、回転体1の回転によって、水中に所定方向の攪拌流4が生じる。すなわち、飛散させた水滴及び/又はミスト3が供給されることによって水面近傍に取り込まれた酸素、或いは、大気と水面との気液界面を介して水面近傍に取り込まれた酸素は、上記の攪拌流4によって、水系深部にまで行き渡らせることができる。
【0032】
このように、本発明に係る水質浄化システム10では、回転体1の端部1bから飛散する水滴及び/又はミスト3と、回転体の下部において生成する攪拌流4とを用いて、水中の溶存酸素濃度を効率的に増大させることが可能である。すなわち、従来の装置に用いられる動力と同程度以下の動力で、水系内に内部循環流れを作り出すだけでなく、液膜2の微粒化によって水滴及び/又はミスト3を発生させることができる。したがって、本発明に係る水質浄化システム10によれば、装置を容易に小型化可能であり、且つ、水系内の溶存酸素量を効率的に増大させることが可能となる。
【0033】
尚、上記説明においては、本発明に係るシステムを水質浄化の用途に用いるものとして説明したが、本発明に係るシステムは、気液界面を有する反応系において、液中への気体の溶解を促進させるための、一種の気体溶解促進システムとしても用いることができる。すなわち、従来、攪拌装置やポンプ等を用いて液中に気体を溶解させていた反応系に、本発明を適用することにより、従来の装置に用いられる動力と同程度以下の動力で、反応系内における液中に内部循環流れを作り出すだけでなく、液膜の微粒化によって液滴/ミストを発生させることができる。したがって、本発明に係る気体溶解促進システムによれば、装置を容易に小型化可能であり、且つ、液系内に気体を効率的に溶解させることが可能となる。
【0034】
上記のような課題を解決する気体溶解促進システムの一例としては、例えば、図6に示すような、回転軸に直交する方向における断面形状が略円形状であり、当該略円形状の中心が回転軸に一致し、且つ、回転軸に沿って一方側から他方側に向かうにつれて当該略円形状の半径が増大する形状である回転体11を用い、回転体11の一方側の端部11aを液中に浸し、回転体11を回転させることにより、当該回転体11の外表面を上昇する液膜流12を生成させ、回転体11の他方側の端部11bにおいて、上昇する液膜流12を液滴及び/又はミスト13として飛散させ、飛散させた液滴及び/又はミスト13に気体を溶解させ、気体を溶解させた液滴及び/又はミストを供給することにより液中の気体の溶存濃度を増大させる、気体溶解促進システム20を挙げることができる。この場合も、回転体の他方側端部に上記のような板状体を設けることが好ましい。
【実施例】
【0035】
以下、実施例に基づいて、本発明に係る水質浄化システムについてさらに詳述する。
【0036】
図7に示すような大気開放系の水質浄化システム100を用いて、水中の溶存酸素濃度の変化を測定した。
【0037】
回転体として、底面半径が38.5mm、全頂角50°、高さが82.7mmである、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂(ABS樹脂)からなる直円錐体101を用いた。直円錐体101の一方側端部101aについて脱酸素処理をした水に浸す一方、他方側端部101bについては半径が150mm、厚みが1mmである、アクリル樹脂からなる板状態101cを取り付けた。尚、図7に示すように、水質浄化システム100においては、大規模な水系を模擬するため、システム動作中に水面高さを一定に保つべく、ポンプ130、循環管路131や流量計132を用いて系内に所定流量にて水を循環させている。このような水質浄化システム100において、モーター140を作動させ、直円錐体101を回転させることにより、直円錐体101の外表面に液膜流を生成させ、板状体101cの端部から液滴及び/又はミストを飛散させ、空気中の酸素と接触させた後、自然落下により液滴及び/又はミストを水系に再び供給するものとした。
【0038】
水中の溶存酸素濃度を一旦0mg/L近傍まで減少させ、ここから、水質浄化システム100を作動させ、回転体101を回転速度1500rpmにて回転させることにより、板状体101c端部よりミストを発生させ、水中の溶存酸素濃度が飽和状態となるまでに要する時間を測定した。回転体101の動作中は、ミストの発生に加え、液中に図8で示されるような攪拌流が発生していた。一方、比較例として、回転体101を意図的に低速で回転させ(600rpm)、ミストを発生させなかった場合についても同様の実験を行った。結果を図9、10に示す。図9が、回転速度1500rpmでミストを発生させた場合、図10が回転速度600rpmでミストを発生させなかった場合である。
【0039】
図9から明らかなように、回転速度1500rpmでミストを発生させた場合については、溶存酸素濃度の増加速度が大きいことが分かる。水面から酸素が取り込まれた他、微小粒のミストを発生させることにより、気液接触界面が増大し、酸素が一層効率的に取り込まれたといえる。また、液中の攪拌流も溶存酸素の急激な増加に寄与したと考えられる。一方、図10から明らかなように、回転速度600rpmでミストを発生させなかった場合については、溶存酸素濃度の増加速度は緩やかなものとなっている。結果的に、回転速度600rpmでミストを発生させなかった場合については、溶存酸素濃度が飽和状態となるまでに約15時間もの時間を要したのに対し、回転速度1500rpmでミストを発生させた場合については、溶存酸素濃度が飽和状態となるまでの時間が2時間程度であった。すなわち、本発明に係る水質浄化システム100によりミストを発生させるとともに、液中に攪拌流を生じさせることで、水中に効率的に酸素を取り込むことが可能なことが分かる。このように、本発明によれば、装置を容易に小型化可能で、メンテナンス性にも優れ、且つ、水系内の溶存酸素量を効率的に増大させることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、閉鎖系の水系(例えば、ゴルフ場やダム、ため池、堀、養殖場等の水系)における水質浄化システムとして好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0041】
1 回転体
2 液膜流
3 水滴及び/又はミスト
4 攪拌流
10 水質浄化システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸に直交する方向における断面形状が略円形状であり、該略円形状の中心が回転軸に一致し、且つ、回転軸に沿って一方側から他方側に向かうにつれて前記略円形状の半径が増大する形状である回転体を用い、
前記回転体の前記一方側の端部を水中に浸し、
前記回転体を回転させることにより、該回転体の外表面を上昇する液膜流を生成させ、
前記回転体の前記他方側の端部において、前記上昇する液膜流を水滴及び/又はミストとして飛散させ、
飛散させた前記水滴及び/又はミストに酸素を取り込ませ、
前記酸素を取り込ませた前記水滴及び/又はミストを供給することにより水中の溶存酸素濃度を増大させる、
水質浄化システム。
【請求項2】
前記回転体の前記他方側に、前記回転軸に直交する面を有する板状体が設けられる、請求項1に記載の水質浄化システム。
【請求項3】
前記回転体が前記一方側に頂点を有する、請求項1又は2に記載の水質浄化システム。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図3】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−161726(P2012−161726A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−23112(P2011−23112)
【出願日】平成23年2月4日(2011.2.4)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年9月9日 社団法人日本流体力学会発行の「日本流体力学会誌 「ながれ」第29巻別冊 日本流体力学会 年会2010 講演要旨集」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年9月9日 社団法人日本流体力学会発行の「日本流体力学会 年会2010 拡張要旨集(CD−ROM)」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年9月24日 社団法人日本機械学会東北支部発行の「日本機械学会 東北支部第46期秋季講演会 講演論文集 No.2010−2」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年12月25日 社団法人日本流体力学会発行の「日本流体力学会誌 「ながれ」 第29巻 第6号 (第150号)」に発表
【出願人】(504409543)国立大学法人秋田大学 (210)
【Fターム(参考)】