説明

回転型アクチュエータ

【課題】 カメラの撮影レンズに内装してAF機構の駆動源として用いることが可能な回転型アクチュエータを提供する。
【解決手段】 円周方向に複数のS極とN極が交互に配置された円環状又は円弧状の多極磁石1と、この多極磁石の円周方向に相対移動可能に対峙されたコイル体2とを備える。多極磁石1は円周方向にS極とN極の磁極が所定間隔で交互に着磁され、コイル体2には所定の電流を所定の方向及びタイミングで通流制御するように構成する。コイル体2に通電することで多極磁石1との間に生じる磁力により、コイル体2又は多極磁石1の一方を他方に対して円周方向に回転駆動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は磁石とコイル体とで構成され、磁力を利用して回転動作を行う回転型アクチュエータに関し、特にカメラ用レンズに内装してAF機構の駆動源として用いて好適な回転型アクチュエータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
磁力を利用して回転動作を行うアクチュエータとしてはDCモータが一般的であり、例えは一眼レフカメラの撮影レンズに内装して自動焦点(AF)制御を行う際のレンズ駆動のための駆動源として用いられている。例えば、特許文献1,2ではカメラボディ内と撮影レンズ内にそれぞれモータを内装し、これらのモータを適宜切り換え動作させることによって適切なAF制御を行っているが、このモータとしてDCモータが用いられている。また、近年ではレンズ内に内装するDCモータに代えて小型、軽量に構成できる超音波モータを用いることも提案されている。この種の超音波モータとして、例えば特許文献3において本願出願人が提案しているものがある。
【特許文献1】特開2006−259113号公報
【特許文献2】特開2006−145783号公報
【特許文献3】特開2007−116757号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
撮影レンズでのAF制御を行う際には、通常ではフォーカス調整用のフォーカスレンズを円筒状をしたフォーカスカム環に係合させ、このフォーカスカム環をレンズ光軸の回りに回転制御する構成がとられている。このフォーカスカム環を回転制御するための駆動源としてDCモータや超音波モータの回転力を利用しているが、DCモータや小型のDCモータや小径の超音波モータではフォーカスカム環の回転動作に要求されるような高いトルクを得ることが難しく、そのためこれらモータに減速ギヤを連結し、高いトルクに変換してフォーカスカム環に伝達することが行われている。また、超音波モータでは駆動するための高電圧回路が必要であり、この高電圧回路を配設するためのスペースを確保することも要求される。そのため、減速ギア機構や高電圧回路がレンズ内に占めるスペースが無視できず、レンズの小型化、軽量化を進める上での障害になっている。
【0004】
本発明の目的は、カメラの撮影レンズに内装してAF機構の駆動源として用いることができるとともに撮影レンズの小型化、軽量化を実現することが可能な回転型アクチュエータを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の回転型アクチュエータは、円周方向に複数のS極とN極からなる磁極が交互に配置された円環状又は円弧状の多極磁石と、この多極磁石の円周方向に相対移動可能に対峙されたコイルを備えるコイル体とを備えており、多極磁石の磁極は所定間隔で交互に着磁され、コイル体のコイルは円周方向の長さが当該所定間隔に対応する所定の長さに形成され、かつ所定の電流を所定の方向及びタイミングで通流制御されるように構成したことを特徴とする。好ましくは、コイルは円周方向に配列した複数のコイルで構成され、円周方向の間隔が多極磁石の磁極の所定間隔の整数分の一の寸法とする。
【0006】
本発明の回転型アクチュエータは、特に、カメラの撮影レンズのフォーカス機構に適用され、コイル体と多極磁石の一方をレンズ鏡筒内に固定支持し、多極磁石とコイル体の他方をフォーカス設定時に回転動作されるフォーカスリング連動環に連結し、フォーカス制御用の電流をコイル体に通流するように構成する。この場合、カメラは前記撮影レンズに設けたレンズ側カプラーとカメラボディ側に設けたボディ側カプラーとが係合され、カメラボディ内に設けたモータの回転力を両カプラーを介してフォーカスリング連動環に伝達するように構成されており、フォーカスリング連動環はレンズ側カプラーからフォーカスリング連動環に向けての回転力のみを伝達する一方向クラッチを介してレンズ側カプラーに連結される構成とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、コイル体に通電する電流を制御することにより、コイル体と多極磁石との間の磁力によって円周方向の回転力を発生して回転型アクチュエータが構成できる。これにより、減速ギア機構が不要になり、アクチュエータの小型化、軽量化が可能になる。また、超音波モータのような高電圧回路が不要になる。そのため、撮影レンズのAF機構の駆動源に用いた場合にはAF機構の小型化が可能になり、撮影レンズの小型化、軽量化が実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明における多極磁石の形態としては、円弧状をした複数の永久磁石を各磁石の同極が対向するように円周方向に配列して円環状又は円弧状とし、これらをホルダで一体保持する構成がある。あるいは、円環状又は円弧状をした等方性磁石にS極とN極を円周方向に沿って交互に着磁した構成とする。
【0009】
また、コイル体の形態としては、円周方向に配列したuコイル、wコイル、vコイルの3つのコイル、又はその整数倍の数のコイルで構成され、これらuコイル、wコイル、vコイルの通電タイミングを制御するように構成される。この場合、uコイル、wコイル、vコイルの円周方向の長さは等しく、これらのコイルは磁極の所定間隔のほぼ1/3の間隔で配置される。これらuコイル、wコイル、vコイルはY字結線あるいはデルタ結線される。
【0010】
本発明の回転型アクチュエータでは、多極磁石を固定子とし、コイル体を可動子として構成する。あるいは、多極磁石を可動子とし、コイル体を固定子として構成してもよい。
【実施例1】
【0011】
次に、本発明の実施例1を図面を参照して説明する。図1(a),(b)は実施例1の回転型アクチュエータの表面側と裏面側の各斜視図である。この回転型アクチュエータは、固定子としての断面が矩形をした円環状をした多極磁石1と、この多極磁石1に緩く嵌合して多極磁石1の長さ方向、すなわち円周方向に沿って移動可能な可動子としてのコイル体2とで構成されている。多極磁石1は円弧状をした複数の永久磁石11を円周方向に配列して円環状に形成しているが、ここでは図2に示すように、2つの異なる円弧長をした非磁性体からなる円弧板状をした磁石ホルダ12,13の片面にそれぞれ永久磁石11を接着し、その上で2つの磁石ホルダ12,13を円周方向に連結して円環状にした構成がとられている。このとき、図3(a),(b)にそれぞれ平面方向と立面方向の模式的な断面図を示すように、円周方向に隣接される永久磁石11のS極とN極はそれぞれ同極を対向するように配置されており、これにより円周方向に所要の間隔をおいてS極とN極の各磁極が交互に配列した構成の多極磁石1として構成されることになる。この多極磁石1では、N極においては磁力線が半径方向及び回転軸と平行な方向に放射状に向けられ、S極においては磁力線が半径方向及び回転軸と平行な方向に求心状に向けられてそれぞれの磁界を構成することになる。なお、磁石ホルダ12,13に対して永久磁石を接着する構造として、ここでは磁石ホルダ12,13の板厚方向に穴14を貫通開口し、この穴14に接着剤15を充填して接着を行っている。また、ここでは2つの磁石ホルダ12,13を円周方向に連結する際にも接着剤による連結構造がとられている。
【0012】
前記可動子としてのコイル体2は図1に鎖線で示すようにほぼ円弧状をした角筒からなるコイルホルダ22に複数のコイル21が円周方向に配列支持された構成となっている。これらのコイル22はそれぞれ前記多極磁石11の円周一部の回りに半径方向に向けて矩形に近い形状に巻回されたものであり、前記したように2つの磁石ホルダ12,13を連結して円環状の多極磁石1を形成する際に磁石ホルダ12の両端開口部から内挿して嵌合することによって組み立てている。前記複数のコイル21は、ここでは便宜的にu1コイル、w1コイル、v1コイル、u2コイル、w2コイル、v2コイルと称する6つの独立したコイルを円周方向に配列し、前記コイルホルダ22に一体的に支持させている。なお、図面においては前記各u,w,vのコイルの符号としてu,w,vの頭文字と1,2,3の数字を付している。ここで、図3(b)に示すように、u,w,vの各コイルのそれぞれの周方向の配列ピッチ寸法をLとしているが、このピッチ寸法Lは前記多極磁石1を構成する各永久磁石11の円周方向の長さ3Lの1/3とされている。これは換言すれば多極磁石1に形成されているS極、N極の円周方向のピッ寸法3Lの1/3である。また、このことから当然にu,w,vの各コイルの円周方向の長さは当該ピッチ寸法L以下の寸法となっている。
【0013】
前記各コイル21は図4(a)に示すように、u1コイルとu2コイルを直列接続し、w1コイルとw2コイルを直列接続し、v1コイルとv2コイルを直列接続した上で、これらの各一端を合一的に接続してY結線した上で各他端を電極端子T1,T2,T3として図には表れないコントローラを介して駆動電源に接続している。コントローラは図4(b)に示すタイミングt1〜t6を1周期として各コイル21に正、または負の極性の電流を通流するようになっている。
【0014】
この実施例1の回転型アクチュエータによれば、コイル体2が図3の位置にあるときに、端子T1,T2,T3に図4(b)のタイミングt1の電流を流すと、u1,u2コイル及びv1,v2コイルにのみ電流が流され、これらu,vの各コイルにおける通流方向と多極磁石1のS極とN極による磁界とでフレミングの左手の法則によりu,vの各コイルに右方向の駆動力が発生し、これらコイル、すなわちコイル体2が距離Lだけ円周右方向に移動する。次いで、タイミングt2の電流を流すと、w1,w2コイル及びv1,v2コイルにのみ電流が流され、これらw,vの各コイルにおける通流方向と多極磁石1のN極による磁界とでフレミングの左手の法則によりw,vの各コイルに右方向の駆動力が発生し、コイル体2がさらに距離Lだけ円周右方向に移動する。次に、タイミングt3の電流を流すと、w1,w2コイル及びu1,u2コイルにのみ電流が流され、これらw,uの各コイルにおける通流方向と多極磁石1のN極による磁界とでフレミングの左手の法則によりw,uの各コイルに右方向の駆動力が発生し、コイル体2がさらに距離Lだけ円周右方向に移動する。したがって、この半周期の通電制御によってコイル体2は距離3Lだけ円周右方向に移動することになる。以下、同様にしてタイミングt1からt6までの1周期でコイル体2は6Lだけ円周右方向に移動することになる。なお、通電制御を図4(b)のタイミングt6からt1に向けて制御すれば1周期の電流制御でコイル体2を前記と反対に6Lだけ円周左方向に移動することになる。これにより、コイル体2を多極磁石1に沿って円周方向に往復移動制御でき、回転型アクチュエータが構成されることになる。
【0015】
実施例1の回転型アクチュエータは、円環状をした多極磁石1と、この多極磁石1に緩く嵌合されたコイル体2とでのみ構成されるため、構成が極めて簡略化できるとともに、小型、軽量に構成できる。そして、コイル体2を構成している複数のコイル21に対する電流を制御することによりコイル体2を多極磁石1に沿って回転動作させることができ、しかも通電する電流の切り換え数によって回転量が制御でき、またその切り換え速度によって回転速度を制御でき、さらに電流量によって回転力(回転トルク)を制御することができるので、機器に要求される回転条件に適合した回転型アクチュエータとして利用することが可能である。
【実施例2】
【0016】
実施例2の回転型アクチュエーは、図5に外観斜視図を示すように、固定子としての多極磁石1Aを円弧状をした等方性磁石材料で構成しており、この等方性磁石材料の円周方向に一定の間隔をおいてS極とN極を交互に着磁した多極着磁構造の磁石に形成している。また、多極磁石1Aには実施例1と同様に複数のコイル21をコイルホルダ22によって一体化したコイル体2が緩く嵌合されている。図6は実施例2の模式的な断面図であり、前記多極着磁型の多極磁石1Aでは、一つのS極、又はN極の各着磁領域では各磁極における磁力は大きいが、S極とN極の中間領域では磁力が小さくて磁極として実質的に機能しない構成となる。したがって、この多極磁石1Aは複数のS極とN極が円周方向に所定のピッチ間隔をおいて交互に配列した実施例1の多極磁石1と実質的に同じ構成となる。この実施例2の多極磁石1Aにおいても、実施例と同様に円弧長の異なる2つの当方性磁石材料にてそれぞれ多極磁石を形成し、これらを接着剤等によって円周方向に連結することで円環状をした多極磁石1Aに構成でき、かつこれらを接着する際にコイル体2を嵌合させることによって回転型アクチュエータを組み立てることができる。
【0017】
このように実施例2では、固定子としての多極磁石1Aを円弧状をした等方性磁石材料11Aを用いてこれに円周方向に交互の磁極を構成するように着磁を行って形成しているので、実施例1のようにそれぞれ個別に着磁された複数の永久磁石を磁石ホルダによって機械的に連結する必要はなく、したがって磁石ホルダや接着構造が不要になり回転型アクチュエータを構成する部品点数を削減し、低コストに製造でき、しかも小型化・軽量化を図ることができる。また、このように構成した多極磁石1Aは製造に際しては等方性磁石材料に対して任意のピッチ間隔で着磁を行うことで円周方向に配列したS極とN極の着磁領域を任意のピッチ間隔で、しかも任意の円周方向の長さ領域に形成することができるようになる。これにより、着磁領域やピッチ寸法を任意に設計することでコイル体2の1ピッチ動作長を任意に設計することが可能な回転型アクチュエータを得ることも可能になる。
【0018】
実施例2の回転型アクチュエータにおいても、コイル体2を構成する複数のu,w,vの各コイルに、図4に示したように実施例1と同様な結線を行い、各コイル21に通流する電流を制御することによって実施例1と同様にコイル体2を多極磁石1Aに沿って円周方向に往復移動制御でき、回転型アクチュエータを構成することができる。
【実施例3】
【0019】
前記実施例1及び実施例2において、コイル体2を構成する6個のコイル21については、図7(a)のようにu,w,vの各コイルの各端をリング状に接続してデルタ結線した上で各端子T1,T2,T3を図には表れないコントローラを介して駆動電源に接続してもよい。この場合にも、図7(b)に示したタイミングt1〜t6を1周期として各コイルに正、又は負の極性の電流を通流すれば、実施例1と同様に1周期で6Lの距離だけコイル体2を円周右方向または反対の円周左方向に回転往復移動制御することが可能である。
【0020】
また、回転型アクチュエータのコイル体2を構成するコイル21の数は実施例1〜3の個数に限定されるものではない。例えば、uコイル、wコイル、vコイルが各1つずつの3つのコイルで構成してもよく、あるいは各3つずつの9つのコイル、さらにはそれ以上の3の倍数の個数のコイルで構成してもよい。この場合には、各コイルの円周方向のピッチ寸法は多極磁石に形成しているS極とN極の円周方向にピッチ寸法に対応させた寸法に設定すればよい。
【0021】
実施例1〜3では、多極磁石は円環状に形成しているので可動子としてのコイル体2を全円周(360°)にわたって回転移動させることができる。すなわち無限回数にわたって回転動作させることが可能であるが、可動子の回転角が360°よりも小さい角度範囲内で回転駆動すればよい回転型アクチュエータとして構成する場合には、多極磁石は円弧状に形成すればよい。例えば、図8に実施例1の回転型アクチュエータの変形例を示すように、多極磁石1Bは円周の一部が存在しない円弧状に形成しており、コイル体2はこの多極磁石1Bの円周方向の範囲内でのみ往復移動することになる。この場合には、磁石ホルダは1つの円弧状をしたホルダとして構成できる。また、実施例2についても同様に円弧状の多極磁石として構成できる。この場合には円弧状をした等方性磁石材料を用いればよい。また、図8に併せて示すように、コイル体2Bでは複数のコイル21がそれぞれ扇形となるようにコイルの巻回寸法を調整することにより、多極磁石の各磁極で形成される磁界に対する駆動力の発生効率を高めることが可能になる。
【0022】
実施例1〜3では、多極磁石を固定子とし、コイル体を可動子としているが、コイル体を固定子として構成し、多極磁石をコイル体に対して円周方向に回転移動させる可動子として構成するようにしてもよい。特に、コイル体には電流を通流するための結線が必要であることから、可動子を全円周以上にわたって回転動作させる回転型アクチュエータを構成する場合には結線の必要がない多極磁石を可動子として構成することが好ましい。また、本発明におけるコイル体を構成するコイルは1又は2以上の整数であればよく、コイルの円周方向の間隔は多極磁極の間隔の当該整数分の一の間隔であれば回転型アクチュエータが構成できる。
【実施例4】
【0023】
実施例4は実施例1〜3の回転型アクチュエータをデジタル一眼レフカメラのレンズ内に内装するAF機構の駆動源として適用したものである。図9(a),(b)はデジタルカメラのカメラボディ3と撮影レンズ4の外観斜視図、図9(c)は撮影レンズ4のA矢視部分外観図である。カメラボディ3にはレリーズボタン31、LCD表示装置32、モードダイヤル33等が図示されている。また、カメラボディ3の前面にはレンズマウント34が設けられており、前記撮影レンズ4が装着可能とされている。このレンズマウント34には装着された撮影レンズ4のレンズ側AFカプラー45に連結されるボディ側AFカプラー35が設けられている。撮影レンズ4には、レンズ鏡筒の外周部に沿って筒軸方向に並んでマニュアル操作が可能なズーム操作リング41とフォーカス操作リング42が設けられ、それぞれ撮影レンズ4の焦点距離と合焦位置をマニュアル調整する際に利用される。また、撮影レンズ4の後端には前記カメラボディ3のレンズマウント34に嵌合して撮影レンズ3をカメラボディ1に装着するためのバヨネット部43が設けられている。このバヨネット部43には、撮影レンズ2に内蔵されている絞り機構を動作させるための絞り駆動レバー44や前記ボディ側AFカプラー35に連結可能なレンズ側AFカプラー45が配設されている。
【0024】
このカメラにおいては、図示及び詳細な説明は省略するが、カメラボディ3内には被写体に対して合焦を行うためのボディ側AF機構が設けられており、このボディ側AF機構の駆動源としてDCモータが内蔵されている。そして、カメラボディ3のレンズマウント34に撮影レンズ4のバヨネット部43を装着した撮影時におけるAF動作時に当該DCモータがAF制御を行うべく回転動作されると、この回転力によってボディ側AFカプラー35が軸転され、これに連結されているレンズ側AFカプラー45も軸転される。これにより、撮影レンズ4ではレンズ側AFカプラー45に連係されている図には表れないレンズ側AF機構が動作され、フォーカスレンズを動作してAF制御を実行するものである。
【0025】
図10は前記撮影レンズ4のレンズ側AF機構の一部の斜視図であり、図10(a)はレンズ後方から見た図、図10(b)は反対のレンズ前方から見た図である。レンズ側AF機構は、図9に示したフォーカス操作リング42に連結されているフォーカスリング連動環46を備えている。このフォーカスリング連動環46はフォーカス操作リング42が撮影者によって手操作されたときに回転されて、図には表れないフォーカスカム環を光軸回りに回転させ、これに係合されているフォーカスレンズを光軸方向に移動させて被写体の合焦を行うものである。このフォーカスリング連動環46は内周面に内歯ギア461が一体に形成されており、この内歯ギア461はクイックフォーカスクラッチ47に噛合され、さらにこのクイックフォーカスクラッチ47を介して前記レンズ側AFカプラー45に連結されている。
【0026】
また、前記フォーカスリング連動環46には実施例1〜3のいずれかからなる回転型アクチュエータ48が配設されている。ここでは、実施例1の回転型アクチュエータで構成しており、可動子としての多極磁石1と、固定子としてのコイル体2とで構成している。多極磁石1はフォーカスリング連動環46に要求される回転角に対応した円弧角の円弧状に形成されており、その両端部がフォーカスリング連動環46の円周2箇所において内径方向に突出した固定部462にそれぞれ円周方向に当接した状態で固着され、フォーカスリング連動環46と一体に回転動作するようになっている。また、多極磁石1に緩く嵌合しているコイル体2は撮影レンズ4の図には表れないレンズ鏡筒の固定部に固定されている。したがって、この回転型アクチュエータ48ではコイル体2に通流する電流を制御することにより多極磁石1がその円弧の範囲内で円周方向に移動されることになり、これに伴ってフォーカスリング連動環46も一体的に円周方向に移動され、前記したように撮影レンズ4内のフォーカスレンズを駆動してAF制御を行うことになる。
【0027】
前記クイックフォーカスクラッチ47は、特許文献2において一方向入出力回転伝達機構として開示されたクラッチとほぼ同じクラッチが用いられている。このクラッチ47はレンズ鏡筒に固定されたベース板49の一部でほぼ円筒容器状に形成されたハウジング471を備えており、このハウジング471内にクラッチ軸472が固定的に設けられ、このクラッチ軸472に円筒状をした出力筒473が軸装され、この出力筒473の内部に円筒容器状のリテーナ474が内装されている。さらに、このリテーナ474内に軸方向に直交する断面形状がほぼ花弁に近い柱体で構成されたカム体475が同軸に内装されている。前記出力筒473は、上端部の外周に出力ギアG1が一体に設けられており、前記ハウジング471の一部に設けられた切り欠きを通して前記フォーカスリング連動環46の内歯ギア461に噛合されている。また、出力筒473の下端部は前記カム体475の外周を囲む位置まで延長されている。前記カム体475はボール476及びネジ477によってクラッチ軸472に対して回転可能な状態でクラッチ軸472からの脱落が防止されており、その外周面の複数箇所には出力筒473の内周面との間に周面コロ478aが配設される。また、クラッチ軸472を貫通した円板状の押え板479とカム体475の上端面との間に端面コロ478bが配設される。さらに、カム体475の下端部にはカムギアG2が一体に設けられており、このカムギアG2は前記ベース板49に軸転可能に支持されている前記レンズ側カプラー45に一体に設けられたギアG3に噛合されている。
【0028】
このクイックフォーカスクラッチ47では、レンズ側AFカプラー45が軸転されたときにはギアG3とギアG2との噛合によってカム体475が回転される。カム体475が回転されると外周面の周面コロ478aは出力筒473の内面との摩擦によってカム体475に対して回転方向と反対の周方向に相対移動される。このときリテーナ474は端面コロ478bによってカム体475に対しての回転が可能とされる。周面コロ478aは周方向の移動によって出力筒473の内面とカム体475の周面との間の楔状空間内に進入され、この楔作用によってカム体475と出力筒473は回転方向に一体化される。これにより、カム体475の回転力は出力筒473に伝達され、出力筒473のギアG1と内歯ギア461との噛合によりフォーカスリング連動環461が回転されることになる。なお、カム体475はいずれの回転方向に回転されたときでも、すなわちレンズ側AFカプラー45がいずれの方向に軸転された場合でも当該回転力はフォーカスリング連動環46に伝達されることになる。
【0029】
一方、フォーカスリング連動環46が回転され、このときカム体475が直前の回転方向と逆の方向に一旦回転されると、内歯ギア461とギアG1との噛合により出力筒473が回転され、この回転によって周面コロ478aは楔状空間から離脱されて自由に転動する状態となる。そのため、周面コロ478aによる楔作用が消失されて出力筒473はカム体475の周囲で空回りする状態となり、出力筒473の回転はカム体475に伝達されなくなる。したがって、ギアG1が回転しても内歯ギア461のみ、すなわち出力筒473のみが回転するのみであり、カム体475、すなわちギアG2が回転することはなくギアG3と一体のレンズ側AFカプラー45が回転することはない。これは出力筒473がいずれの方向に回転された場合でも同じである。
【0030】
このAF機構によれば、カメラボディ3においてAF制御を実行すべくカメラボディ内のDCモータを駆動するとこのDCモータの回転力でボディ側AFカプラー35が軸転され、これに連結されているレンズ側AFカプラー45が一体に軸転される。レンズ側AFカプラー45の軸転により前述のようにクイックフォーカスクラッチ47の作用によってフォーカスリング連動環46が回転され、撮影レンズ4内のフォーカスレンズが光軸方向に移動されて合焦動作が行われる。このとき、フォーカスリング連動環46と共に回転型アクチュエータ48の可動子としての円弧状をした多極磁石1が回転されるが、固定子としてのコイル体2とは非接触であり、またコイル体2には通電が行われていないため多極磁石1との間に磁力が生じていないのでフォーカスリング連動環46の回転に際しての負荷になることはなく、軽快な動作が可能になる。
【0031】
一方、撮影レンズ4の回転型アクチュエータ48を駆動してAF制御を行う場合には、カメラボディ1側からのAF制御信号が回転型アクチュエータ48に入力され、固定子としてのコイル体2に通電が開始される。これにより、制御された電流により可動子としての多極磁石1が所要角度だけ回動する。この多極磁石1の回動によりこれと一体のフォーカスリング連動環46が回動され、フォーカスレンズが光軸方向に移動されて合焦動作が行われる。このとき、クイックフォーカスクラッチ47の回転力遮断作用によりレンズ側AFカプラー45が回動されることはなく、したがってボディ側AFカプラー35を介して回転力が停止状態にあるDCモータに伝えられることはなく、DCモータにおける回転が回転型アクチュエータ48の負荷になることもない。
【0032】
なお、撮影レンズのフォーカス操作リング42をマニュアルで操作したときには、これと一体のフォーカスリング連動環46が回動されてフォーカスレンズを光軸方向に移動してマニュアルによる合焦が可能である。このときにもクイックフォーカスクラッチ47の回転力遮断作用によりレンズ側AFカプラー45が回動されることはなくカメラボディ1のDCモータとは切り離された状態であり、マニュアルによるフォーカス調整が可能になる。このように、本発明の回転型アクチュエータを撮影レンズのAF機構に採用することにより、小型でかつ軽量なAF機構が構成でき、撮影レンズの小型化、軽量化が実現できる。
【0033】
実施例4のAF機構に適用する回転型アクチュエータとして、図12(a),(b)に後面側斜視図と前面側斜視図を示すように、180°の円弧状をした多極磁石1とコイル体2とで構成される回転型アクチュエータ48Aを、点対称位置に配置し、それぞれの多極磁石1をフォーカスリング連動環46に一体化するように構成してもよい。このように2つの回転型アクチュエータ48Aを組み込むことにより、フォーカスリング連動環46の高速動作、すなわちAF制御の高速化が実現できる。
【0034】
本発明においては、実施例4の回転型アクチュエータとして、多極磁石1を固定子としてレンズ鏡筒に固定し、コイル体2を可動子としてフォーカスリング連動環46に連結した構成としてもよい。また、本発明の回転型アクチュエータは、実施例4に記載のカメラの撮影レンズのAF機構に適用するのみではなく、種々の機器における回転駆動源として適用できることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】実施例1の回転型アクチュエータの表面側と裏面側の外観斜視図である。
【図2】実施例1の組み立て前の状態を示す外観斜視図である。
【図3】実施例1の平面方向及び立面方向の模式的な断面図である。
【図4】コイル体の結線図と電流の通流タイミングを示す図である。
【図5】実施例2の表面側の外観斜視図である。
【図6】実施例2の平面方向の模式的な断面図である。
【図7】コイル体の結線図と電流の通流タイミングの変形例を示す図である。
【図8】実施例1〜3の変形例の平面方向の模式的な断面図である。
【図9】実施例4のカメラの各部の外観斜視図とA矢視図である。
【図10】実施例4のAF機構の外観斜視図である。
【図11】クイックフォーカスクラッチの断面図である。
【図12】実施例4のAF機構の変形例の外観斜視図である。
【符号の説明】
【0036】
1,1A,1B 固定子としての多極磁石(多極着磁磁石)
2,2B 可動子としてのコイル体
3 カメラボディ
4 撮影レンズ
11 永久磁石
12,13 磁石ホルダ
21 コイル(uコイル,wコイル,vコイル)
22 コイルホルダ
35 ボディ側AFカプラー
45 レンズ側AFカプラー
46 フォーカスリング連動環
47 クイックフォーカスクラッチ
48,48A 回転型アクチュエータ



【特許請求の範囲】
【請求項1】
円周方向に複数のS極とN極からなる磁極が交互に配置された円環状又は円弧状の多極磁石と、この多極磁石の円周方向に相対移動可能に対峙されたコイルを備えるコイル体とを備え、前記多極磁石は前記磁極が所定間隔で配置され、前記コイル体を構成するコイルは円周方向の長さが前記所定間隔に対応する所定寸法に形成され、かつ所定の電流が所定の方向及びタイミングで通流制御されるように構成したことを特徴とする回転型アクチュエータ。
【請求項2】
前記コイルは円周方向に沿って複数個設けられ、これらコイルの円周方向の間隔が前記多極磁石の磁極の所定間隔の整数分の一の寸法であることを特徴とする請求項1に記載の回転型アクチュエータ。
【請求項3】
前記多極磁石は円弧状をした複数の永久磁石を各磁石の同極が対向するように円周方向に配列して円環状又は円弧状とし、これらをホルダで一体保持していることを特徴とする請求項1又は2に記載の回転型アクチュエータ。
【請求項4】
前記多極磁石は円環状又は円弧状をした等方性磁石にS極とN極を円周方向に沿って交互に着磁したことを特徴とする請求項1又は2に記載の回転型アクチュエータ。
【請求項5】
前記コイル体は円周方向に配列したuコイル、wコイル、vコイルの3つのコイル、又はその整数倍の数のコイルで構成され、これらuコイル、wコイル、vコイルの通電タイミングを制御するように構成されていることを特徴とする請求項2ないし4のいずれかに記載の回転型アクチュエータ。
【請求項6】
前記uコイル、wコイル、vコイルの円周方向の長さは等しく、これらのコイルは前記磁極の所定間隔のほぼ1/3の間隔寸法で配列されていることを特徴とする請求項5に記載の回転型アクチュエータ。
【請求項7】
前記コイル体のuコイル、wコイル、vコイルはY字結線あるいはデルタ結線されていることを特徴とする請求項6に記載の回転型アクチュエータ。
【請求項8】
前記多極磁石を固定子とし、前記コイル体を可動子として構成したことを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載の回転型アクチュエータ。
【請求項9】
前記多極磁石を可動子とし、前記コイル体を固定子として構成したことを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載の回転型アクチュエータ。
【請求項10】
カメラの撮影レンズのフォーカス機構に適用され、前記コイル体と多極磁石の一方をレンズ鏡筒内に固定支持し、前記多極磁石とコイル体の他方をフォーカス設定時に回転動作されるフォーカスリング連動環に連結し、フォーカス制御用の電流を前記コイル体に通流するように構成していることを特徴とする請求項8又は9に記載の回転型アクチュエータ。
【請求項11】
前記カメラは前記撮影レンズに設けたレンズ側カプラーとカメラボディ側に設けたボディ側カプラーとが係合され、カメラボディ内に設けたモータの回転力を前記両カプラーを介して前記フォーカスリング連動環に伝達するように構成されており、前記フォーカスリング連動環はレンズ側カプラーからフォーカスリング連動環に向けての回転力のみを伝達する一方向クラッチを介してレンズ側カプラーに連結されていることを特徴とする請求項10に記載の回転型アクチュエータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−11572(P2010−11572A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−165499(P2008−165499)
【出願日】平成20年6月25日(2008.6.25)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】