説明

回転式希釈器

【課題】
流体の混合比率範囲を拡大することが可能な回転式希釈器を提供すること。
【解決手段】
表面に不連続の貫通孔9,10が穿設された回転円板4を備えて成り、前記貫通孔がその運動軌道に沿って流入開口部11〜14及び流出開口部15〜18を介して希釈されていない流体と希釈用流体に交互に開口する前記回転式希釈器において、前記回転円板4に少なくとも2つの貫通孔9,10の列をそれぞれ異なる運動軌道を描くように配するとともに、これら貫通孔に接続する希釈されていない流体用及び/又は希釈用流体用の前記流入開口部11〜14及び前記流出開口部15〜18を別々に制御可能とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面に不連続の貫通孔が穿設された回転円板を備えて成り、前記貫通孔がその運動軌道に沿って流入開口部及び流出開口部を介して希釈されていない流体と希釈用流体に交互に開口する前記回転式希釈器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
上記のような、カルッセル希釈器(Karussell-Verduenner)とも呼ばれるものが例えば非特許文献1に記載されている。このような希釈器は、測定器の限定された測定範囲のより良好な利用のためにできる限り広範な混合比率(希釈比率)における所定の予希釈が必要な場合に、液体又は気体の測定に対して特別に使用されている。
【0003】
非特許文献1に記載された希釈器の基本ユニットは2つの接続管路を備えており、そのうち1つは(エアロゾルを含んだ)希釈されていない流体用のものであり、もう1つはエアロゾルを含まない希釈用流体に対して使用されるものとなっている。これら2つの接続管路は、基本ユニットにおける同じ外面に流入開口部及び流出開口部を有しているとともに、ステッピングモータによって駆動される回転部材によってカバーされている。なお、この回転部材は、摩擦を減らすよう適当な添加物が含有された複合材料で形成されている。
【0004】
しかして、流入開口部及び流出開口部とは反対側の面に設けられた貫通孔は、回転部材の回転時に前記各開口部に開口しているため、エアロゾルを含む希釈されていない流体のうち制御可能な一部が通過することになる。なお、このエアロゾルを含む希釈されていない流体のうち制御可能な一部は、希釈用流体のための開口部から再び流出することになる。したがって、混合比率は、貫通孔の数及び容積、希釈用流体の流量並びに回転円板の回転速度の関数となっている。
【0005】
また、冒頭に記載したような希釈器の他の形態として、貫通孔を備えた回転部材の代わりに、貫通孔を備えた円板として形成し、この貫通孔に流入開口部及び流出開口部を介して流体が流入されるか、又は流出される。流入するエアロゾルを含む希釈されていない流体は、回転部材を通過した後、含有するエアロゾルがフィルタによって完全に除去され、希釈用流体として回転部材の逆側から導入されるようになっている。
【0006】
ところで、回転部材が回転していない場合には、エアロゾルを含む希釈されていない流体は分岐せずに回転部材の逆側へ流通し、エアロゾル測定装置に流入する流体にはエアロゾルが含まれていないことになる。一方、回転部材が回転している場合には、エアロゾルを含む希釈されていない流体のうち所定量がエアロゾルを含まない希釈用流体に混合され、混合比率が上記同様に設定されることになる。
【非特許文献1】“Journal of Aerosol Science”、1997、Vol. 28、No. 6、p.1049−p.1055
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来の希釈器においては、調整可能な混合比率の範囲が比較的狭く制限されており、部材等の構造的な変更によってのみ混合比率範囲をこれが高くなる方向又は低くなる方向へずらすことが可能であるが、当該範囲を拡大することが不可能であるという問題がある。
【0008】
本発明は上記問題にかんがみてなされたもので、その目的とするところは、冒頭に記載したような回転式希釈器において、上記のような欠点を解消し、容易に利用可能な混合比率範囲を拡大することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、請求項1記載の発明は、表面に不連続の貫通孔が穿設された回転円板を備えて成り、前記貫通孔がその運動軌道に沿って流入開口部及び流出開口部を介して希釈されていない流体と希釈用流体に交互に開口する前記回転式希釈器において、前記回転円板に少なくとも2つの貫通孔の列をそれぞれ異なる運動軌道を描くように配するとともに、これら貫通孔に接続する希釈されていない流体用及び/又は希釈用流体用の前記流入開口部及び前記流出開口部を別々に制御可能としたことを特徴としている。
【0010】
これにより、貫通孔の列を様々に制御(1つだけの列の調整、2つ以上の列の調整、すべての列の調整など)することで、極めて容易に混合比率範囲を拡大することが可能である。
【0011】
また、請求項2記載の発明は、請求項1記載の回転式希釈器において、前記貫通孔を、前記列内においてはすべて同じ大きさに形成するとともに、他の列とは大きさを異ならせて形成したことを特徴としている。
【0012】
そのため、各列の調整の際に、達成可能な混合比率を容易に段階付けすることが可能である。
【0013】
また、請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載の回転式希釈器において、前記各列ごとに前記貫通孔の数を異ならせたことを特徴としている。
【0014】
これにより、達成可能な混合比率に対する他のパラメータを提供することが可能である。
【0015】
また、請求項4記載の発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載の回転式希釈器において、希釈用流体の質量流量を、当該回転式希釈器の上流側に接続した流量制御装置により調整するよう構成したことを特徴としている。
【0016】
これにより、利用可能な混合比率範囲を更に拡大することが可能である。
【0017】
また、請求項5記載の発明は、請求項1〜4のいずれか1項に記載の回転式希釈器において、前記回転円板を、流体の流通方向に前後して配置した少なくとも2つの回転円板として形成したことを特徴としている。
【0018】
上記同様、これにより、利用可能な混合比率範囲を更に拡大することが可能である。
【0019】
さらに、請求項6記載の発明は、請求項1〜5のいずれか1項に記載の回転式希釈器において、前記回転円板並びに/又は前記流入開口部若しくは前記流出開口部に接続された流入管路及び流出管路を加熱手段、特にカートリッジヒータにより一定温度に保持したことを特徴としている。
【0020】
これにより、流体の成分、特に該流体によって運搬されるエアロゾルの吸着を防止又は少なくとも強く抑制することが可能である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、流体の混合比率範囲を拡大することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下に本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0023】
図1はエアロゾル測定システムに取り付けられた回転式希釈器の断面図であり、図2は図1における斜線を付した部材の分解斜視図であり、図3は回転式希釈器の別の部分概要図であり、図4は図3における矢印IV−IVに沿った断面図であり、図5は図3における矢印V−Vに沿った断面図であり、図6はエアロゾル測定システムにおける図3〜図5に示す回転式希釈器の概要図であり、図7は本発明の回転式希釈器の他の実施形態を示す図である。
【0024】
<実施の形態1>
図1に示す回転式希釈器1は2つの固定円板2,3の間に1つの回転円板4を備えており、この回転円板4は、その両側に位置する平坦面7,8に開口する不連続の貫通孔9,10を備えて形成されているとともに、ステッピングモータ5によってその回転軸(中心軸)6回りに回転するようになっている。ここで、図1における下方に記載した回転円板4の平面図から分かるように、該回転円板4には貫通孔9,10それぞれの2つの列が形成されている。これら2つの列は回転円板4のその回転軸6を中心とした回転時に2つの異なる運動軌道を形成し、これら2つの列は、それぞれ交互に流入開口部11〜14及び流出開口部15〜18を介して回転円板4と密に接する固定円板2,3の平坦面7,8に開口するようになっている。
【0025】
しかして、希釈されていない流体(例えば粒子を含んだ内燃機関の排ガス)が第1の流入管路19を通って導入される。ここで、この第1の流入管路19を通って導入された流体は、第1の分岐管路21内に配置された第1の切換弁20によって、選択的に流入開口部11のみか、又は流入開口部11,12の両方に流通するようになっている。
【0026】
なお、両流入開口部11,12への流通を個々に制御可能な切換弁20を流入開口部11,12それぞれに接続された管路に設けることも可能である。こうすることで、必要な場合には、第1の分岐管路21を介すのみで流入開口部12を制御することが可能となる。
【0027】
また、回転式希釈器1における第1の流入管路19の反対側には、流出開口部17,18が第1の分岐管路22及び流出管路23を介して不図示の排出口へ接続されている。
【0028】
ところで、上流側の流量制御装置24及び第2の流入管路25を介して、制御可能な希釈用流体が図1に示す回転式希釈器1の下側へ導入される。この希釈用流体は、第2の切換弁26によって制御されて流入開口部13又は(第2の分岐管路27を通って)両流入開口部13,14へ導入される。
【0029】
また、回転式希釈器1の下流側には流出開口部15,16から第2の分岐管路27,28が延設されており、この第2の分岐管路27,28は、希釈された流体を例えばエアロゾル測定装置29へ案内するものである。
【0030】
図2から分かるように、流入開口部11〜14及び流出開口部15〜18が、常に貫通孔9,10のうち幾つかを覆うように固定円板2,3の周方向へ所定の長さにわたって設けられている。これにより、回転円板4の回転中に、貫通孔9,10への流入及び貫通孔9,10からの流出がより良好に行われることになる。
【0031】
また、図1及び図2に示す回転円板4が固定円板2,3の間で静止している状態にあれば、第1の流入管路19を通って流入した流体は、回転式希釈器1によって希釈されることなく流入管路11若しくは両流入管路11,12、覆われた貫通孔9,10、流出開口部17,18及び流出管路23を通って排出される。したがって、第2の流入管路25を通って導入された希釈用流体は、混合されることなくエアロゾル測定装置29へ案内されることになる。
【0032】
一方、回転円板4が回転している場合には、第1の流入管路19を通って導入された例えばエアロゾルを含んだ流体のうち所定分が粒子を含んでいない希釈用流体と混合される。ここで、混合比率(希釈比率)は、貫通孔9,10の数及び容積、希釈用流体の質量流量並びに回転円板4の回転速度の関数となっている。
【0033】
希釈されていない流体の流入開口部11,12及び希釈用流体の流入開口部13,14はそれぞれ独立して調整可能であるため、貫通孔9,10における異なる列を調整する(1つだけの列の調整、2つ以上の列の調整、すべての列の調整など)ことで極めて容易に混合比率を高めることが可能となっている。
【0034】
ここで、図示した例では1つの列における貫通孔9,10の大きさは同じであり、別の列における貫通孔9,10の大きさは異なっている。しかし、各列ごとの貫通孔9,10の数が異なるように更に設定することも可能である。こうすることで、同じ大きさの貫通孔9,10でも異なる混合比率が得られることになる。
【0035】
<実施の形態2>
図3〜図5に示す本実施の形態においても、図1及び図2に示すものと同部材のものは同一の符号を付して示している。
【0036】
図1及び図2について説明した部材及び機能のほかに、本実施の形態においては更にステッピングモータ5を支持するハウジング30が設けられている。このハウジング30は、3つの連結部材31を備えており、連結部材31と該連結部材31によって案内されるバネ32を介して固定円板2,3をその間にある回転円板2に対して押圧するよう構成されている。
【0037】
また、図3における左側に示されている流入側の第1及び第2の切換弁20,26により、選択的に又は同時に比較的大きな貫通孔9及び/及び比較的小さな貫通孔10に流体を流通させることが可能である。
【0038】
図6には、エアロゾル測定装置29の流入側において機能している図3〜図5における回転式希釈器1が示されている。内燃機関の排気管路33から排出される粒子を含んだ排ガスは、プローブ34によって検出され、第1の流入管路19によって回転式希釈器1へ導入される。
【0039】
一方、粒子を含んでいない希釈用空気は、フィルタ35及び流量制御装置24を備えた第2の流入管路25を通って回転式希釈器1へ導入される。
【0040】
そして、流出管路23及び第2の分岐管路を通してそれぞれ排ガス及び希釈されエアロゾルを含んだ気体が排出される。また、気体の状態方程式によって、希釈用流体の質量流量制御時の正確な混合比率を算出するに必要な質量等価に対する容積を算出するために、これら流出管路23及び第2の分岐管路27には圧力センサ36が設けられている。なお、温度による影響は、図7に示す各円板の一定温度保持機能によって把握することが可能である。
【0041】
<実施の形態3>
図7に示す回転式希釈器1においては、回転円板が、流体の流通方向に前後して配置されつつ別々の貫通孔9,10並びにこれに付随する流入開口部11〜14及び流出開口部15〜18を有する2つの回転円板4’,4”として形成されている。また、固定円板は、3つの固定円板2,2’,3によって形成されている。このような構成によれば、使用可能な混合比率範囲を更に拡大することが可能である。
【0042】
さらに、図7に示すものにおいて、加熱手段37によって固定円板2,2’,3を加熱することも可能である。これにより、流入開口部11〜14への流入管路及び流出開口部15〜18からの流出管路を一定温度に保持することが可能であり、例えばエアロゾルの吸着の防止を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】エアロゾル測定システムに取り付けられた回転式希釈器の断面図である。
【図2】図1における斜線を付した部材の分解斜視図である。
【図3】回転式希釈器の別の部分概要図である。
【図4】図3における矢印IV−IVに沿った断面図である。
【図5】図3における矢印V−Vに沿った断面図である。
【図6】エアロゾル測定システムにおける図3〜図5に示す回転式希釈器の概要図である。
【図7】本発明の回転式希釈器の他の実施形態を示す図である。
【符号の説明】
【0044】
1 回転式希釈器
2,2’,3 固定円板
4,4’,4” 回転円板
5 ステッピングモータ
6 回転軸
7,8 平坦面
9,10 貫通孔
11〜14 流入開口部
15〜18 流出開口部
19 第1の流入管路
20 第1の切換弁
21,22 第1の分岐管路
23 流出管路
24 流量制御装置
25 第2の流入管路
26 第2の切換弁
27,28 第2の分岐管路
29 エアロゾル測定装置
30 ハウジング
31 連結部材
32 バネ
33 排気管路
34 プローブ
35 フィルタ
36 圧力センサ
37 加熱手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に不連続の貫通孔(9,10)が穿設された回転円板(4)を備えて成り、前記貫通孔がその運動軌道に沿って流入開口部(11〜14)及び流出開口部(15〜18)を介して希釈されていない流体と希釈用流体に交互に開口する前記回転式希釈器において、
前記回転円板(4)に少なくとも2つの貫通孔(9,10)の列をそれぞれ異なる運動軌道を描くように配するとともに、これら貫通孔に接続する希釈されていない流体用及び/又は希釈用流体用の前記流入開口部(11〜14)及び前記流出開口部(15〜18)を別々に制御可能としたことを特徴とする回転式希釈器。
【請求項2】
前記貫通孔(9,10)を、前記列内においてはすべて同じ大きさに形成するとともに、他の列とは大きさを異ならせて形成したことを特徴とする請求項1記載の回転式希釈器。
【請求項3】
前記各列ごとに前記貫通孔(9,10)の数を異ならせたことを特徴とする請求項1又は2記載の回転式希釈器。
【請求項4】
希釈用流体の質量流量を、当該回転式希釈器の上流側に接続した流量制御装置(24)により調整するよう構成したことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の回転式希釈器。
【請求項5】
前記回転円板(4)を、流体の流通方向に前後して配置した少なくとも2つの回転円板(4’,4”)として形成したことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の回転式希釈器。
【請求項6】
前記回転円板(4)並びに/又は前記流入開口部(11〜14)若しくは前記流出開口部(15〜18)に接続された流入管路及び流出管路を加熱手段(37)、特にカートリッジヒータにより一定温度に保持したことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の回転式希釈器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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