説明

回転構造体用導電性ポリアミド樹脂組成物及び回転構造体

【課題】回転構造体に求められる高度な寸法安定性と機械的強度を両立する導電性ポリアミド樹脂組成物及び該樹脂組成物を成形して得られる回転構造体を提供する。
【解決手段】(A)ポリアミド樹脂100重量部に対して、
(B)n−ジブチルフタレート吸油量が300g/100ml以上の導電性カーボンブラックを10〜35重量部、
(C)アスペクト比600以上の繊維状ガラス充填剤を35〜60重量部、
(D)アスペクト比30以下の粒子状ガラス充填剤を5〜80重量部含有し、
上記(B)、(C)、(D)の合計量が60〜90重量部である導電性ポリアミド樹脂回転構造体用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、寸法安定性に優れ、回転構造体への使用に適する導電性ポリアミド樹脂組成物及び該樹脂組成物により製造される回転構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
モーターやファンなどの回転構造体は一般に金属製であるが、軽量化、振動吸収性の向上、コスト低減の観点から、熱可塑性樹脂成形体の利用が望まれている。熱可塑性樹脂成形体を回転構造体に利用する場合、静電気によるスパーク防止のために導電性が、また回転時の振動防止などのための高度な寸法安定性が必要となる。熱可塑性樹脂組成物への導電性の付与のためにはカーボンブラックや炭素繊維などの導電性フィラーが、成形体の機械的、熱的性質の改善のためにガラス繊維などの強化剤が一般的に配合される。熱可塑性樹脂成形体にこれらフィラーや強化剤などを配合した場合、これら配合物に由来する反りや変形が生じるため、強度を保持しつつ成形体の寸法安定性を維持することは困難であり、一般に金属に比べて寸法安定性が劣るものとなるという課題がある。
【0003】
ポリアミド樹脂組成物の機械的強度と寸法安定性を両立させる試みとして、特定のポリアミドを用い、薄片状及び棒状無機充填材を特定量配合した樹脂組成物が開示されている(特許文献1)。また、ポリアミド樹脂にアスペクト比の異なる棒状成分と粒状成分を組み合わせて使用することで成形体の反りの問題を改善した樹脂組成物が開示されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭63−12661号公報
【特許文献2】特開平6−234928号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、回転構造体に求められる高度な寸法安定性と機械的強度を両立する導電性ポリアミド樹脂組成物及び該樹脂組成物を成形して得られる回転構造体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ガラス充填物のアスペクト比に着目し、前記課題を解決する樹脂組成物及び該樹脂組成物を成形して得られる回転構造体を見出したものである。すなわち、本発明の樹脂組成物は、<1> (A)ポリアミド樹脂100重量部に対して、
(B)n−ジブチルフタレート吸油量が300g/100ml以上の導電性カーボンブラックを10〜35重量部、
(C)アスペクト比600以上の繊維状ガラス充填剤を35〜60重量部、
(D)アスペクト比30以下の粒子状ガラス充填剤を5〜80重量部含有し、
上記(B)、(C)、(D)の合計量が60〜90重量部である導電性ポリアミド樹脂回転構造体用組成物である。
【0007】
さらに、本発明の樹脂組成物は、<2> ポリアミド樹脂がポリアミド6樹脂を含む前記<1>記載の導電性ポリアミド樹脂回転構造体用組成物である。
【0008】
また本発明の回転構造体は、<3> 前記<1>、<2>記載の導電性ポリアミド樹脂回転構造体用組成物を射出成形して得られる導電性ポリアミド樹脂回転構造体である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の導電性ポリアミド樹脂回転構造体用組成物は、成形加工して回転構造体としたとき、その寸法安定性が良好で、そのため回転安定性が良好となる。またこのような回転構造体を射出成形によって容易に得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(A)ポリアミド樹脂
本発明に用いられるポリアミド樹脂としては、ジカルボン酸とジアミンとの重縮合によって得られるもの、環状ラクタム類の開環重合によって得られるもの、ω−アミノ酸の自己縮合物によって得られるものであれば良い。
【0011】
ポリアミド6、11、12と呼ばれるポリラクタム類、ポリアミド66、610、612などのジカルボン酸とジアミンとから得られるポリアミド類、ポリアミド6/66、6/12、6/612、6/66/610、6/66/612といった共重合体ポリアミド類、芳香族を分子骨格に含むポリアミドMXD6、6T、9Tなどの芳香族ポリアミド類を使用できる。ポリアミド樹脂は、これらを単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0012】
前記のうちポリアミド6が、耐靭性・衝撃性などの機械強度が大きく、安価であるため好ましい。
【0013】
(B) 導電性カーボンブラック
本発明において、導電性カーボンブラックとは、カーボンブラックの中で、ストラクチャー、すなわち連鎖状乃至は枝分かれしたミクロ構造が発達していることにより、樹脂等の分散媒中において有効な導電回路を形成し得るものをいい、そのうち、n−ジブチルフタレート(DBP)吸油量が300g/100ml以上のものが使用できる。
【0014】
本発明において使用できる導電性カーボンブラックとしては特に制限はなく、目的に応じて適宜選択可能であり、例えば、オイルファーネス法によって原料油を不完全燃焼させて得られるオイルファーネスブラック、特殊ファーネス法によって製造されるケッチェンブラック、アセチレンガスを原料として製造されるアセチレンブラック、天然ガスの熱分解によって製造されるサーマルブラック、これらを酸化または還元処理したもの等があげられる。
【0015】
前記導電性カーボンブラックのうち、ケッチェンブラックが少量の添加で導電性を発現することができ、流動性や樹脂本来の性質を損なうことがないことから好ましい。
【0016】
本発明において導電性カーボンブラックとしては、n−ジブチルフタレート(DBP)吸油量が300g/100ml以上のものを使用することで、成形して得られる回転構造体の導電性を維持しつつ、回転安定性を良好なものとすることができる。DBP吸油量が300g/100ml以下のものでは、所望の導電性を発現するために多量のカーボンブラックを配合しなければならず、その結果組成物の流動性が著しく低下して、成形が困難になることがある。DBP吸油量は、ASTM D2414に従い、DBPアブソープトメーターを使用して測定される値をいう。
【0017】
一般にカーボンブラックの構造は、数nmから数十nmの一次粒子が有り、これが生成時に幾つも融着して一般にストラクチャーと呼ばれる構造をとる。導電性を発現するためには、一次粒子の大きさやストラクチャーの長さや繋がり方と密接に関係している。しかし融着している粒子群の各粒子の大きさは融着前の本来の大きさを示しており、実際には透過型顕微鏡(TEM)で観察、拡大して評価する。本発明において導電性カーボンブラックとしては、平均一次粒子径が、20〜50nmのものが好ましい。平均一次粒子径がこの範囲を外れると良好な導電性が得られないことがある。
【0018】
導電性カーボンブラックの配合量は、ポリアミド樹脂100質量部に対し、10〜35重量部である。配合量を前記範囲内とすることにより、導電性付与効果が良好となり、スパークの発生を抑制することができ、さらに構造回転構造体の回転時のブレも抑制することができる。前記範囲の上限を超えると流動性が低下して成形が困難になり、また衝撃強度の低下を引き起こすことがある。より好ましくは13〜20重量部である。
【0019】
導電性カーボンブラックとしては、ケッチェンブラックEC300J(ケッチェンブラックインターナショナル株式会社製)などが好ましく使用できる。
【0020】
(C)繊維状ガラス充填剤
本発明で使用できる繊維状アスペクト剤は、アスペクト比が600以上のガラス類であり、繊維径は3〜13μmのものである。このようなアスペクト比の大きいガラス類としては、具体的にはチョップドストランド化したガラス繊維、異型断面をしたガラス繊維などが挙げられる。これらのうちポリアミド樹脂との接着性を向上させるため、カップリング剤、集束剤等で表面処理したものが好ましい。
【0021】
一般に棒状成分は、その長さ/直径の比で定義されるアスペクト比で形状が表現され、ストランド長さや繊維の口径をコントロールしたアスペクト比115〜6250のガラス繊維が市販されている。このアスペクト比は、混練・配合前の原料の繊維長と、収束剤で結合する前の1本の直径の比を表す。本発明で使用できる繊維状ガラス充填剤は、アスペクト比は600以上のものであり、好ましくは760以上である。アスペクト比を600以上とすることで、十分な強度を保持でき、さらに回転安定性に優れた回転構造体を得ることが出来る。
【0022】
繊維径は、3〜13μmであり、好ましくは3〜10μmである。
【0023】
本発明の繊維状ガラス繊維の配合量は、ポリアミド樹脂100質量部に対し、35〜80重量部である。下限未満であると樹脂が本来持つ機械物性を保持することが困難となることがあり、上限を超えると回転安定性が劣ることがある。また、流動性が低下して成形が困難になることがある。好ましくは50〜80重量部である。
【0024】
(D)粒子状ガラス充填剤
本発明で使用できる粒子状ガラス充填剤はアスペクト比が30以下であるガラス類である。アスペクト比の小さい粒子状ガラス充填剤としては、ミルドファイバーと呼ばれるガラス粉末、燐片状のガラスフレーク、ミルドファイバーとチョップドストランドの中間に属するカットファイバーと呼ばれるガラス粉末混合物、ガラスビーズ、中空ガラスバルーン、結合剤で顆粒化したガラスフレークが挙げられる。
【0025】
前記粒子状ガラス充填剤のうち、ガラスフレーク、または結合剤にて顆粒化したガラスフレークが好ましく使用できる。
【0026】
アスペクト比は、粒子の平均粒径と平均厚みの比で計算される値として示される。平均粒径はJIS R3420に定められたガラス繊維の一般試験方法に準拠して測定できる。本発明で使用できる粒子状ガラス充填剤のアスペクト比は30以下のものであり、好ましくは2〜4である。アスペクト比が30を超えると、成形収縮率のバラツキが大きくなり、回転構造体としての寸法安定性が損なわれることがあり、2未満となるとフィラー自体が粒子として作用するため、強度補強効果が低下することがある。
【0027】
本発明の前記粒子状ガラス充填剤の配合量は、ポリアミド樹脂100質量部に対し、5〜80重量部、好ましくは15重量部〜65重量部である。下限未満であると、本件発明の効果が発揮されないことがあり、その結果、成形体の変形が大きく、回転構造体の回転時のブレが大きくなることがある。上限を超えると流動性が低下して成形が困難になることがあり、樹脂が本来持つ機械物性を保持することが十分でなく、またウェルド強度が著しく低下することがある。
【0028】
前記粒子状ガラス充填剤としては具体的には例えば、個々のフレークを結合材によって重ね合わせた顆粒状のガラスフレーク(日本板硝子株式会社製)やガラス繊維を融着させた異形断面タイプ(日東紡製)を使用することができる。
【0029】
本発明においては充填剤として少なくとも、前記(B)導電性カーボンブラックと前記(C)繊維状ガラス充填剤と前記(D)粒子状ガラス充填剤を含有する。該充填剤の配合量は、ポリアミド樹脂100重量部に対して、50〜90重量部、好ましくは55〜80重量部、より好ましくは60〜70重量部である。このような範囲とすることで、回転構造体の回転時のブレへの安定性が著しく良好となる。
【0030】
本発明では、充填剤として繊維状および粒子状ガラス充填剤のアスペクト比の異なるガラス類を組み合わせて用いることで、成形後の回転構造体の機械強度と回転時のブレを抑制する。充填剤としては本発明の効果を損なわない限り、その他の公知の充填剤を含むことが出来るが、単体として導電性を有する繊維系フィラー、例えば炭素繊維やスチール繊維、銅や銀繊維を使用した場合は、方向性や反りを増長し、特にファンなどの回転成形体においては反りが著しく現れることがあるため使用しないことが好ましい。また金属系フィラーを使用すると組成物としての比重が大きくなることからランニングコストや初期動力といった省エネルギーの観点からも好ましくない。
【0031】
製造方法
本発明の導電性ポリアミド樹脂回転構造体用組成物は公知の樹脂混練設備、例えば熱ロール、ニーダー、バンバリーミキサー、あるいは押出混練機で溶融混練を行って製造することが出来、ペレット状の成形材料などとして得ることができる。ペレット化した導電性ポリアミド樹脂組成物は80t以上の型締力を持つ油圧式、電気式、または油圧と電気を組み合わせたハイブリッド式で駆動する射出成形機を用いて、導電性構造回転体を容易に成形することができる。構造回転体は流体力学的に空気やガスといった気体を搬送しやすいよう、ブレードや中央に回転軸を固定するボスを組み込む形状を有しているのが一般的であるが、何らこれらに制約されるものではない。
【0032】
任意成分
本発明では、ポリアミドとガラス成分との密着性を向上させる目的で各種のカップリング剤を、ガラス成分の表面処理とは別に追加使用してもよい。また該組成物を得る際に溶融混練時の滑性化及び射出成形時の離型性を向上させる目的で各種の滑剤、例えばステアリン酸塩などの金属石鹸を使用してもよい。また、本発明のポリアミド樹脂組成物には本発明の目的を損なわない範囲で、ヒンダードフェノール、チオエーテル、ホスファイト類及びこれらの置換体などの酸化防止剤や熱安定剤、レゾルシノール、サリシレート、ベンゾトリアゾール、ベンゾフェノン等の紫外線吸収剤を通常使用される配合量で使用しても構わない。
【実施例】
【0033】
以下、実施例および比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は、下記の実施例に限定されるものではない。
【0034】
(1)使用原料
以下の表1に示した成分を用い、下記表2〜4に示される(A)〜(D)成分の配合割合(単位は重量部)に従って、各実施例及び比較例の導電性樹脂組成物を製造した。
【0035】
【表1】

【0036】
各導電性樹脂組成物の製造は次のように行った。まず(A)成分のポリアミド樹脂をシリンダー温度及びダイ温度を240〜280℃とした同方向2軸押出機へ元ホッパーから定量フィーダーにて供給し、完全に溶融した後、(B)〜(D)の充填物を各々サイドフィーダーから、定量フィーダーにより押出機に供給、混練、ペレット化して目的とする導電性樹脂組成物を得た。
【0037】
(2)評価方法
得られたペレットについては、得られた各ペレットを120℃にて3時間熱風乾燥した後、シリンダー温度280℃、金型温度80℃に設定された射出成形機(日精樹脂工業株式会社製FD120S5ASE)にて成形し、各種試験片を用いて下記評価を実施した。
〔導電性試験〕
射出成形により得られた厚み4mmの75mm角プレートを用いて、日本ゴム協会標準規格のSRIS2301−1969に準拠した方法で体積抵抗率を測定した。導電性は、1E+6Ω・cm未満を合格とした。
〔衝撃試験〕
射出成形により得られたISO1号型ダンベル試験片を使用し、ISO179/1eAに準拠してシャルピー衝撃強度を測定した。なお、本実施例においては、前記シャルピー衝撃強度が5.0kJ/m以上であることを、高衝撃強度の指標とした。
【0038】
〔回転安定性〕
射出成形により得られたボス固定用のφ6.0mmの穴が空いたφ150mmの円板を用いて、300rpmで回転させた際に掛かる基準値からのフレを非接触レーザー変位計(キーエンス社製LK−080)を用いて測定し、0.5mm以内を合格とした。
【0039】
【表2】

【0040】
【表3】

【0041】
【表4】

【0042】
表2〜4に示されるように、実施例1〜5の本発明の導電性樹脂組成物は、比較例のそれらに比べて導電性、衝撃強度に優れながら、回転安定性にも優れ、回転構造体への使用に適したものであることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリアミド樹脂100重量部に対して、
(B)n−ジブチルフタレート吸油量が300g/100ml以上の導電性カーボンブラックを10〜35重量部、
(C)アスペクト比600以上の繊維状ガラス充填剤を35〜60重量部、
(D)アスペクト比30以下の粒子状ガラス充填剤を5〜80重量部含有し、
上記(B)、(C)、(D)の合計量が60〜90重量部である導電性ポリアミド樹脂回転構造体用組成物。
【請求項2】
ポリアミド樹脂がポリアミド6樹脂を含む請求項1記載の導電性ポリアミド樹脂回転構造体用組成物。
【請求項3】
請求項1、2記載の導電性ポリアミド樹脂回転構造体用組成物を射出成形して得られる導電性ポリアミド樹脂回転構造体。

【公開番号】特開2011−1392(P2011−1392A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−142836(P2009−142836)
【出願日】平成21年6月16日(2009.6.16)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【Fターム(参考)】