説明

回転照射装置

【課題】ケーブルを巻き取り及び巻き出しする装置を備えた回転照射装置において、ケーブルキャリアを用いてケーブルの多層巻き取りを可能とし、巻き取り及び巻き出し装置をコンパクトにするとともに、ケーブル巻き取り及び巻き出し時のケーブルの損傷を低減する。
【解決手段】回転照射装置内に動力やユティリティを供給するケーブル9をケーブルキャリア2に設置した多段式のケーブルサポート4に多層に収納して、巻き取り及び巻き出しを行う。ケーブルサポート4を構成するフレーム4a〜4cのうち、ケーブル9が繰り返し接触するフレーム部分に自由に回転できるローラ4dを配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は回転照射装置に係わり、特に粒子線治療システムにおいて、荷電粒子ビームを患部に照射する回転照射装置であって、回転体の外側から内部へ導入される制御線、動力線、水及び空気等のユーティリティ配管等のケーブルを巻き取り及び巻き出すケーブル巻き取り及び巻き出し装置を備えた回転照射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
粒子線治療装置である荷電粒子ビーム照射システムは、陽子線などのイオンビームを患部に照射してがんを治療する装置である。荷電粒子ビーム照射システムは回転照射装置である回転ガントリーを備えている。この回転ガントリーはフロントリング、リアリング、及びこれらを接続するガントリー胴部を有する回転体を備えている。また、このガントリー内に動力線、制御線、ユーティリティ配管(水、空気配管)等(以下、それらを総称してケーブルという)を回転体の内部に導入するため、リアリングの先端にケーブル巻き取りドラム(ケーブル巻き取り及び巻き出し装置)が設置され、この巻き取りドラムでケーブルの巻き取り及び巻き出しをする。
【0003】
ケーブルを長期的に安定して巻き取り及び巻き出しするためには、制御線や動力線をできるだけ集約化して、ケーブルの本数を削減することやケーブル1本あたりの曲げ強度をアップすることが望まれる。
【0004】
ケーブルの巻き取り及び巻き出しの繰り返し曲げ強度を考慮して、ケーブルの巻き取り及び巻き出し径をケーブルの最小曲げ半径以上の径として巻き取ることも必要である。
【0005】
一般的には、これらのケーブルを集約して多芯化したとしても、数百本のケーブルの巻き取り及び巻き出しが必要になる。また、回転照射装置の回転体は時計方向及び半時計方向に180°ずつ回転するため、巻き取り及び巻き出しに必要なケーブルの長さは十数mにもなる。
【0006】
このケーブルの巻き取り及び巻き出し時に隣接するケーブル同士が絡み合うことなく、損傷や断線若しくは破損をできるだけ少なくすることが要求される。この要求を満足する一つの方法は、特許文献1(特開平10−330037号(特許第3391659号)公報)に記載のように、巻き取りドラムからケーブルを自重により必要な巻き取り長さ分だけ吊るしておく方式である。この場合、ドラム長を長くすれば1本1本が絡み合うこともなく、安定的に巻き取り及び巻き出しができる。
【0007】
また、特許文献2(特開2001−251748号公報)に記載のにように、ケーブルキャリア(ケーブルベア)にケーブルを収納し、巻き取りドラムに巻取る方式が提案されている。この場合、内外のケーブル同士が絡まないように、クランプ装置により複数のケーブルをまとめてフラットに固定し、かつサポータによってケーブル又はクランプ装置を上下方向に分離して保持している。
【0008】
【特許文献1】特開平10−330037号公報
【特許文献2】特開2001−251748号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
近年、回転照射装置(回転ガントリー)のケーブル(動力線、制御線、ユーティリティ配管等)は、ノズル制御や、マルチリーフコリメータなどの設置によりますます増える傾向にある。一般的に、ケーブルが増えれば、それに応じてケーブル巻き取り及び巻き出し装置も大型化し、回転照射装置も大きくならざるを得ない。しかし、回転照射装置が大きくなれば、回転照射装置が設置される建屋のスペースも大きくなり、建築費を含めた設備費が増大するため、ケーブル巻き取り及び巻き出し装置の大きさはできるだけ小さく抑えることが望まれる。
【0010】
巻き取れるケーブル数を増やしながら、ケーブル巻き取り及び巻き出し装置の大きさを小さく抑える方法として、ケーブルを多層化して巻き取る方法が考えられる。ケーブルを多層化巻き取ることができれば、ケーブル数は飛躍的に増大し、巻き取り及び巻き出し装置、しいては回転照射装置のコンパクト化に寄与する。しかし、このようにケーブルを多層化して巻き取る場合は、それに伴って発生する幾つかの問題を解決する必要がある。その1つが、ケーブル同士の絡み合いによるケーブルの損傷を防止することであり、そのための方法として、ケーブルキャリアを用い、このケーブルキャリア内にケーブルを多層化して支持することが考えられる。しかし、ケーブルキャリアを用いた場合には、ケーブル内でのケーブルの長さ方向のずれや幅方向のずれを抑え、ケーブルキャリア外側へのケーブルの飛び出しを拘束することが重要である。また、ケーブルキャリアを用いた場合、ケーブルをドラム上に多段に巻き取ることができれば、ドラム径を小さくできるため、巻き取り及び巻き出し装置の一層のコンパクト化が可能となる。
【0011】
特許文献1に記載のケーブル巻き取り及び巻き出し装置は、巻き取りドラムからケーブルを自重により必要な巻き取り長さ分だけ吊るしておく方式であるため、ドラム長を長くすれば1本1本が絡み合うこともなく、安定的に巻き取り及び巻き出しができる。しかし、この場合には巻き取りドラムが軸方向に長くなり、回転ガントリー全長も長くなる。
【0012】
特許文献2記載のケーブル巻き取り及び巻き出し装置は、ケーブルキャリアにケーブルを収納して巻き取る方式であり、かつ複数のクランプ装置を用いているため、ケーブルを多層化して巻き取ることができる。また、サポータを用いているため、このサポータによりケーブルを巻き取るときの外側への飛び出しを拘束するとともに、クランプ装置によりケーブル同士の絡み付きを低減することができる。しかし、ケーブル巻き取り時の確実な損傷防止、巻き取り及び巻き出し装置の一層のコンパクト化、保守性向上、制御線のノイズ対策、ケーブルキャリアの多段巻き取り等の観点では更なる検討が必要であった。
【0013】
例えば、特許文献2においては、ケーブルを多層化して支持するサポータは、ケーブルを通す窓が形成されたフレーム、或いはケーブルを支持するためのバー又はワイヤのいずれかである。この場合、ケーブルの飛び出しの拘束時にケーブルがサポータに繰り返し接触し、ケーブルの被覆が擦れて磨耗し、損傷する恐れがある。また、ケーブルの多層化に応じた数のクランプ装置が多段に積み重なるため、ケーブルキャリア自体の高さ方向の寸法が増大し、それに応じて巻き取り及び巻き出し装置が大型化する。これは建屋スペースの増大を招き、コスト高となる。また、ケーブルキャリア自体の高さ方向の寸法が大きいため、巻き取り及び巻き出し装置のドラム自体でケーブルキャリアを多段に巻き取ることが困難となる。
【0014】
また、ケーブルをクランプ装置で確実に拘束するためには、ケーブル径をできるだけ均一にすることが必要であるが、実際には、動力線、制御線、ユーティリティー配管などの用途の違いからも色々な径のものがあり、これら径の異なる各種ケーブルを確実に拘束することは、現実には、かなり困難である。また、ケーブルキャリア内に設置された多層のケーブルをクランプ装置でクランプしようとしても、径の相違からきちんとクランプができないため、はみ出し現象が発生する。
【0015】
更に、ケーブルキャリア内に設置された多層のケーブルをクランプ装置でクランプする場合、1本1本のケーブルをクランプする方式では、仮に1本のケーブルが損傷した場合でも、ケーブルキャリア内の全クランプ装置を分解して、交換する必要があるため、時間がかかり、稼動率の観点からも望ましくない。また、クランプ装置の場合、ケーブルの太さや本数が変われば、それに応じたクランプ装置を用意する必要があるため、ケーブルの太さ、本数に自由度を持たせることができないという問題もある。
【0016】
また、ケーブルには上記のように動力線と制御線が混在しているため、ケーブルを多層巻き、多段巻きする場合には、動力線と制御線を分離して配置し、制御線にノイズが混入することを防止する必要がある。動力線と制御線が混在しているため、ケーブル交換時に時間を要し、保守性にも問題がある。
【0017】
更に、ケーブルを多層で巻き取り及び巻き出しする場合には、各層に配置されるケーブルの径は現実的に異なり、巻き取り及び巻き出し時の周速も違うため、ケーブルが飛び出しやすい状況にある。このような観点から、ケーブルキャリアでケーブルの巻き取り及び巻き出しが確実に行えることが設備の稼動率からも大切である。このためケーブルを回転側(回転装置側)と固定側(建屋側)で確実に緩まないで固定できるクランプ方式を採用することも必要となる。このクランプが緩んでいると、巻き取り及び巻き出し時に伸縮量が大きくなり、ケーブルサポート間でのケーブルのロックによる破損や、クランプ装置部でのケーブル類自体の磨耗や擦れによる被覆表面の損傷で、設備停止になる割合が増大する恐れがある。
【0018】
また、ケーブルキャリア方式を採用する場合でも、多段巻き取りが安定してできる方式を採用する必要がある。そのためにはケーブルキャリアでの巻き取りの際に、巻き取りドラムに巻き付いたケーブキャリアより外に飛び出したケーブルが間違っても巻き込まれることがないように配慮しておくことが必要である。
【0019】
本発明の第1の目的は、動力線、制御線、ユーティリティ配管等のケーブルを巻き取り及び巻き出しする装置を備えた回転照射装置において、ケーブルキャリアを用いてケーブルの多層巻き取りを可能とし、巻き取り及び巻き出し装置をコンパクトにするとともに、ケーブル巻き取り及び巻き出し時のケーブルの損傷を低減する回転照射装置を提供することである。
【0020】
本発明の第2の目的は、動力線、制御線、ユーティリティ配管等のケーブルを巻き取り及び巻き出しする装置を備えた回転照射装置において、ケーブルキャリアを用いてケーブルの多層巻き取りを可能とし、巻き取り及び巻き出し装置をコンパクトにするとともに、ケーブル巻き取り及び巻き出し時のケーブルの損傷を低減し、更に、制御線におけるノイズの発生を防止しかつ保守性に優れた回転照射装置を提供することである。
【0021】
本発明の第3の目的は、動力線、制御線、ユーティリティ配管等のケーブルを巻き取り及び巻き出しする装置を備えた回転照射装置において、ケーブルキャリアを用いてケーブルの多層巻き取りを可能とし、巻き取り及び巻き出し装置をコンパクトにするとともに、ケーブル巻き取り及び巻き出し時のケーブルの損傷を低減し、更に、ケーブルキャリア自体の寸法を大きくすることなくケーブルを確実に拘束することで、巻き取り及び巻き出し装置の一層のコンパクト化とケーブルの飛び出しや巻き込まれの防止を可能とするとともに、ケーブルの大きさに自由度を持たせかつ保守性を向上させることができる回転照射装置を提供することである。
【0022】
本発明の第4の目的は、動力線、制御線、ユーティリティ配管等のケーブルを巻き取り及び巻き出しする装置を備えた回転照射装置において、ケーブルキャリアを用いてケーブルの多層巻き取りを可能とし、巻き取り及び巻き出し装置をコンパクトにするとともに、ケーブル巻き取り及び巻き出し時のケーブルの損傷を低減し、更に、ケーブルの回転側又は固定側のクランプ部が緩んでケーブルを傷めないようなクランプ構造を有する回転照射装置を提供することである。
【0023】
本発明の第5の目的は、動力線、制御線、ユーティリティ配管等のケーブルを巻き取り及び巻き出しする装置を備えた回転照射装置において、ケーブルキャリアを用いてケーブルの多層巻き取りを可能とし、巻き取り及び巻き出し装置をコンパクトにするとともに、ケーブル巻き取り及び巻き出し時のケーブルの損傷を低減し、更に、ケーブルキャリアがドラム上へ多段で巻き取られるとき、ドラムの外側から内側へ導入されるケーブル上に上段のケーブルキャリアが乗り上げることなく、下段のケーブルキャリア上にスムーズに乗り移ることができる回転照射装置を提供することである。
【0024】
本発明の第6の目的は、動力線、制御線、ユーティリティ配管等のケーブルを巻き取り及び巻き出しする装置を備えた回転照射装置において、ケーブルキャリアを用いてケーブルの多層巻き取りを可能とし、巻き取り及び巻き出し装置をコンパクトにするとともに、ケーブル巻き取り及び巻き出し時のケーブルの損傷を低減し、更に、ケーブルキャリアがドラム上への多段で巻き取られるとき、上段のケーブルキャリアが下段のケーブルキャリアに対してスムーズに整列し、上段のケーブルキャリアが下段のケーブルを傷つけたり引っ掛けたりすることなく、安全に巻き取ることができる回転照射装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0025】
上記第1の目的を達成するために、請求項1記載の本発明は、荷電粒子ビームを照射する照射ノズル及び前記照射ノズルに荷電粒子ビームを導くビーム輸送系を備えた回転可能な回転体と、前記回転体と接触して前記回転体を支持する回転体支持装置と、前記回転体に設けられ、前記回転体の外側から前記回転体の内部へと伸びる動力線、制御線、ユーティリティ配管等の多数のケーブルを巻き取り及び巻き出しする巻き取り及び巻き出し装置とを備えた回転照射装置において、前記巻き取り及び巻き出し装置は、前記回転体と同心的に設けられたケーブル巻き取りドラムと、前記ケーブル巻き取りドラムに一端が取り付けられ、前記回転照射装置が設置される建屋の固定側に他端が取り付けられるケーブルキャリアとを有し、前記ケーブルキャリアは、前記ケーブルキャリアの長手方向に所定の間隔で配置された複数のケーブルサポートを有し、前記複数のケーブルサポートは、それぞれ、複数のケーブルを複数段に配置可能としかつ前記複数のケーブルの飛び出しを拘束する複数段のフレーム構造を有し、前記フレーム構造は、それぞれ、前記複数のケーブルの飛び出しの拘束時に前記複数のケーブルが繰り返し接触する部分にローラを配置したローラ構造を有するものとする。
【0026】
このように本発明の回転照射装置は、ケーブルの巻き取り及び巻き出しにケーブルキャリアを用い、ケーブルキャリア内に所定間隔でケーブルサポートを設置し、ケーブルサポートを複数段のフレーム構造とすることにより、ケーブルの多層巻き取りが可能となり、巻き取り及び巻き出し装置を軸方向にコンパクトにすることができる。
【0027】
また、ケーブルキャリアにより、ケーブルキャリア内のケーブルの巻き取り及び巻き出しの許容値以内の曲げ半径が確保されるようになり、ケーブルの繰り返し曲げ強度が確保されるとともに、ケーブルサポートの複数段のフレーム構造により、ケーブルの巻き取り及び巻き出し時のケーブルの絡み合いが抑制され、かつケーブルの飛び出しを拘束することができる。しかも、ケーブルサポートのフレーム構造におけるケーブルの繰り返し接触部分をローラ構造とすることにより、ケーブルが接触してもそのローラが自由に回転するため、ケーブル被覆の磨耗を防止し、ケーブルの損傷を低減することができる。
【0028】
請求項2記載の本発明では、前記ローラ構造の各ローラは、前記フレーム構造のシャフト上に回転自在に装着され、かつ摩擦係数の小さい材質で構成されている。
【0029】
このようにローラ構造のローラに摩擦係数の小さい材質を選定し、そのローラをシャフト上に回転自在に装着する2重構造とすることにより、ケーブル接触時のケーブル被覆の磨耗を確実に防止し、かつローラ磨耗時のローラ交換が容易に行える。
【0030】
また、上記第2の目的を達成するために、請求項3記載の本発明は、上記回転照射装置において、前記複数のケーブルサポートのフレーム構造は、それぞれ、前記複数段のそれぞれを幅方向に仕切った複数の区画を有し、前記複数の区画のそれぞれに複数のケーブルを設置したものとする。
【0031】
このようにケーブルサポートの各段に幅方向に仕切られた複数の区画を形成することにより、1つの区画に動力線、それから離れた他の区画に制御線を配置するというように、制御線を動力線から離して分離配置することが可能となり、ケーブル巻き取り、巻き戻し時の制御線におけるノイズの発生を防止することができる。また、種類の異なるケーブルを分離配置できるので、ケーブルの交換が容易となり、保守性が向上する。
【0032】
また、上記第3の目的を達成するために、請求項4記載の発明は、前記複数の区画のそれぞれに設置した複数のケーブルは、ケーブルの長さ方向に所定のピッチで配置された結束ひもにより層状に拘束され、前記複数のケーブルが少なくとも1列に並んだケーブル層を形成するものとする。
【0033】
このように各段の複数の区画のそれぞれの複数のケーブルを結束ひもにより所定ピッチで層状に拘束することにより、各区画内でのケーブルの勝手な動きを拘束することができるため、ケーブルの飛び出しや巻き込まれを防止し、ケーブルの損傷を一層低減することができる。また、結束ひもはほとんどかさばらないため、ケーブルキャリア自体の寸法を大きくする必要が無く、ケーブルキャリア内に多数のクランプ装置を設置して拘束する場合に比べて、巻き取り及び巻き出し装置の一層のコンパクト化が可能である。
【0034】
更に、ケーブル交換時には、結束ひもを切断して簡単に分解できるため、ケーブルキャリア内に多数のクランプ装置を設置して拘束する場合に比べて、保守性が格段に向上する。また、結束ひもでケーブルを縛るだけであるため、ケーブルの太さや本数が変わっても柔軟に対応することができる。
【0035】
請求項5記載の本発明では、前記結束ひもの配置ピッチは1.5m以下である。
【0036】
これにより拘束されたケーブルは飛び出しや巻き込まれによりケーブル同士が絡み付く現象(ロック現象)を起し難くなり、ケーブルの安定した巻き取りが可能となる。
【0037】
また、上記第4の目的を達成するために、請求項6記載の発明は、前記巻き取り及び巻き出し装置は、前記ケーブルキャリアの一端が取り付けられる前記ケーブル巻き取りドラムの円筒部分の外側と内側に設けられ、前記複数のケーブルがS字状をなすように二重に固定する回転側クランプ装置を備えるものとする。
【0038】
このように巻き取りドラムに設置される回転側のクランプ構造において、巻き取りドラムの円筒部分の内側と外側とでケーブルをS字状に二重にクランプすることにより、回転側のクランプを確実にすることができる。これにより回転側のクランプの緩みが原因となって、ケーブルサポート間でのケーブルの伸縮量増大によるケーブルの飛び出しや巻き込まれを引き起こして、ケーブル及びケーブルキャリアが損傷することを防止することができる。
【0039】
また、上記第4の目的を達成するために、請求項7記載の発明は、前記複数のケーブルは、前記ケーブルキャリアの他端が取り付けられる前記建屋の固定側において、前記ケーブルサポートの複数段に対応して複数のケーブル層を形成しており、前記巻き取り及び巻き出し装置は、前記ケーブルキャリアの他端が取り付けられる前記建屋の固定部に設けられ、前記複数のケーブル層を一層づつ多段に固定する固定側クランプ装置を備えるものとする。
【0040】
このように回転照射装置の機器に動力やユーティリティを供給する建屋側のクランプ構造において、ケーブルサポートの各段に配置されるケーブル層ごとに固定側クランプ装置を設けて固定をすることで、全てのケーブルを同時に一箇所でクランプする場合に比べてクランプが緩みにくくなり、確実にクランプすることができる。これにより固定側(建屋側)のクランプの緩みが原因となって、ケーブルサポート間でのケーブルの伸縮量増大によるケーブルの飛び出しや巻き込まれを引き起こして、ケーブル及びケーブルキャリアが損傷することを防止することができる。
【0041】
また、上記第5の目的を達成するために、請求項8記載の発明は、前記巻き取り及び巻き出し装置は、前記ケーブルキャリアの一端が取り付けられる前記ケーブル巻き取りドラムの部分の外側に配置され、前記複数のケーブルを固定するクランプ装置と、前記ケーブルキャリアの幅以上の幅寸法を有し、かつ前記クランプ装置が位置する部分で前記クランプ装置以上の高さ寸法を有し、前記ケーブル巻き取りドラム上に前記ケーブルキャリアを多段で巻き取るとき、1段目のケーブルキャリア上に2段目のケーブルキャリアがスムーズに乗り上げることを可能にする形状を有する案内ガイドとを備えるものとする。
【0042】
これによりケーブルキャリアがドラム上へ多段で巻き取られるとき、ドラムの外側から内側へ導入されるケーブル上に上段のケーブルキャリアが乗り上げることなく、下段のケーブルキャリア上へとスムーズに乗り移ることができ、ケーブルの損傷を防止することができる。
【0043】
また、本発明の第6の目的を達成するために、請求項9の発明は、前記巻き取り及び巻き出し装置は、少なくとも、前記ケーブル巻き取りドラムに取り付けられる前記ケーブルキャリアの一端付近において、前記ケーブルキャリアに設置され、前記ケーブルサポートよりも高い高さ寸法を有し(例えばケーブルキャリアのケーブルサポートの高さより数十ミリ以上高くする)、前記ケーブルキャリアが前記ケーブル巻き取りドラムに多段に巻き取られるときに上側のケーブルキャリアを支持する高さ保持機構を備えるものとする。
【0044】
これによりケーブルキャリアがドラム上へ多段で巻き取られるとき、上段のケーブルキャリアが下段のケーブルキャリアに対してスムーズに整列し、上段のケーブルキャリアが下段のケーブルキャリア内のケーブルを傷つけたり引っ掛けたりすることがなく、安全に巻き取ることができる。
【0045】
また、特に、請求項8の案内ガイドを設けた上で、この高さ保持機構を設けることにより、案内ガイドで案内されたケーブルキャリアの高さをその高さ保持機構で保持するという両者の連動により、ケーブルキャリアのドラム上への多段の巻き取り、巻き出しが極めてスムーズに行うことができる。
【発明の効果】
【0046】
本発明によれば、回転照射装置のケーブルの巻き取り及び巻き出しを多層方式にすることができ、巻き取り及び巻き出し装置をコンパクトにし、省スペースの回転照射装置を提供することができる。また、ケーブル巻き取り及び巻き出し時のケーブルの損傷を低減し、信頼性のあるケーブル巻き取り及び巻き出し装置を提供することができる。
【0047】
また、回転照射装置の省スペース化により、イニシャルコストである建屋のガントリー軸方向の長さを低減することができ、建築費を含めた設備費を安くできる。ケーブル巻き取り及び巻き出し装置の信頼性向上により、保守費の削減が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0048】
図1は、本発明の一実施の形態に係わる回転照射装置の回転体に装着されたケーブル巻き取り及び巻き出し装置をその回転体とともに示す図である。図2Aは、本発明の一実施の形態に係わる回転照射装置のケーブル巻き取り及び巻き出し装置の巻き出し状態の側面図であり、図2Bは同ケーブル巻き取り及び巻き出し装置の巻き取り状態の側面図である。図3A及び図3Bは、それぞれ、ケーブル巻き取り及び巻き出し装置の主要構成部品であるケーブルキャリア及びその関連部品をケーブルと共に示す側面図及び平面図である。図4は、巻き取りドラムに巻き付いたケーブルキャリア及びケーブルサポートの様子を示す図2AのA−A矢視断面図である。図5A及び図5Bは、ケーブルサポートの分解図である。図6は、ケーブルや配管を結束ひもで拘束した状態を示す平面図である。図7は、ケーブルを結束ひもで拘束した状態を示す図6のC−C矢視断面図である。図8は、回転側クランプ装置の様子を示す巻き取りドラム部の詳細図である。図9は、案内ガイドと案内フレームの様子を示す図8のD−D矢視断面図である。図10A及び図10Bは、それぞれ、ケーブルを1層ずつ個別に固定する固定側クランプ装置を示す側面図及び正面図である。
【0049】
図1に示すように、本実施の形態に係わる回転照射装置(回転ガントリー)は回転体100と、この回転体100と接触して回転体100を支持する回転体支持装置110とを備えている。
【0050】
回転体100は、略円筒形状の回転胴部101と、この回転胴部101のフロント側(治療室側、図1中右側)端部に設けられたフロントリング102と、回転胴部101のリア側端部に設けられたリアリング103とを有している。回転胴部101はシリンダー構造となっており、そのフロント側端部は開放され、内部に荷電粒子ビーム(イオンビーム)を患者の患部に照射するための治療ケージ105を形成している。回転照射装置が設置される建屋の床部106には治療ベッド107が設置されており、治療ベッド107は治療ケージ105内へと伸びている。回転胴部101のリア側端部には円錐形のエンド部材104が設けられている。回転体100は、また、回転胴部101に取り付けられた逆U字状のビーム輸送装置(ビーム輸送系)108と、このビーム輸送装置108を経て輸送された荷電粒子ビームを治療ベッド107上の患者に照射する照射ノズル109とを備えている。
【0051】
回転体支持装置110は、回転体100のフロントリング102及びリアリング103を支持する回転可能な複数のサポートローラ111と、これら複数のサポートローラ111が回転自在に取り付けられ、建屋基礎112に設置された支持装置113上に設けられたリンクフレームアセンブリー114とを備えている。
【0052】
本実施の形態に係わる回転照射装置(回転ガントリー)は、また、回転体100の反治療室側端部(後端)に位置し、回転体100の外側から回転体100の内部へと伸びる多数のケーブル9を巻き取り及び巻き出しするケーブル巻き取り及び巻き出し装置130を備えている。多数のケーブル9は、回転照射装置(回転ガントリー)内の搭載機器に外部から動力を供給する動力線、外部と搭載機器との間で信号のやり取りをする制御線、外部から回転照射装置内にユーティリティ(水、空気等)を供給するホース状の配管(ユーティリティ配管)等の総称である。
【0053】
図2A及び図2Bに示すように、巻き取り及び巻き出し装置130は、ケーブル巻き取りドラム1とケーブルキャリア2とを有している。
【0054】
ケーブル巻き取りドラム1は、回転体100のエンド部材104に同心的に取り付けられ、円筒形状をなし、かつ回転体100と回転を共にする構造である。
【0055】
ケーブルキャリア2は、一端がケーブル巻き取りドラム1(回転側)に取り付けられ、他端が建屋に据付けられたケーブルキャリア取付けブラケット3(固定側)に取り付けられ、巻き取りドラム1の下側で地上方向にUの字型を描くように、巻き取りドラム1とブラケット3の間で巻き取りドラム1に巻き掛けられている。このケーブルキャリア2は、図3A及び図3Bに示すように、一定ピッチを有する多数のリンク板2aを支点ピン2bで連続的に繋いだ2列のチェーン状の帯20と、ケーブルキャリア2の長手方向に所定のピッチで配置され、ケーブル9を整然と巻き取り及び巻き出し出来るように所定の形状と強度を有するケーブルサポート4とで構成されている。2列のチェーン状の帯20を構成する左右のリンク板2aはケーブルサポート4により連結されている。2列のチェーン状の帯20の両端にはエンド金具2d,2eが繋がれ、このエンド金具2d,2eにより巻き取りドラム1の円筒部分及び建屋の取り付けブラケット3に取り付けられている。また、リンク板2aは、帯20がケーブル9(動力線、制御線、ユーティリティ配管)を内蔵するのに見合った強度と最小曲げ半径を持つように、所定の長さ寸法を有している。例えば、リンク板2aのピッチが250mmである。また、その場合、ケーブルフレーム4のピッチは750mmである。
【0056】
図4に示すように、本実施の形態におけるケーブルキャリア2が有するケーブルサポート4は、ケーブル9の物量及び巻き取りドラム1内に設置される機器との取合い関係より、2段のフレーム構造を有し、フレーム構造の各段にはケーブル9を2層ずつ配置している。つまり、下段にケーブル層9a,9bが配置され、上段にケーブル層9c,9dが配置されている。また、このフレーム構造はケーブル9を巻き取り、巻き出しするときに複数のケーブルの飛び出しを拘束する。なお、ケーブルサポート4を更に多段構造としたり、収納するケーブル9を更に多層化してもよく、これにより巻き取りドラム1の幅方向寸法を大きくせずに、より多くのケーブル9をコンパクトに収納することができる。
【0057】
このケーブルサポート4は、左右のリンク板2aに取り付けられたブラケット2cに取り付けられた左右のリンクフレーム4aと、この左右のリンクフレーム4aを接続する3本のシャフトフレーム4cと、シャフトフレーム4cに取り付けられた2本の中間フレーム4bとを有している。3本のシャフトフレーム4cと2本の中間フレーム4bはフレーム構造を上下方向と幅方向に仕切って複数の区画を形成している。2本の中間フレーム4bはフレーム構造の補強部材としての役割も有している。
【0058】
また、ケーブルサポート4は、ケーブル9を巻き取り、巻き出しするときに複数のケーブルの飛び出しを拘束するが、ケーブルキャリア2を構成するリンク板2aの回転中心から離れて配置される層のケーブル9ほど、ケーブルサポート4内での動きが大きくなることから、ケーブルサポート4との擦れによるケーブル被覆や配管表面の摩耗や傷付が発生したり、巻き取り及び巻き出し時の回転抵抗が増大する可能性がある。本実施の形態では、そのようなケーブル被覆や配管表面の摩耗や傷付の防止、巻き取り及び巻き出し時の回転抵抗削減のために、ケーブル9が繰り返し接触する部分にローラ4dを配置したローラ構造としている。ローラ4dは例えばシャフトフレーム4cを覆うように取り付けられたガイドローラであり、その材質に、ケーブルの被覆や配管の材質に対して摩擦係数の小さい材質を選択することで、耐久性を増し、より高い効果が得られる。そのような材質としては例えば樹脂(ポリアミド樹脂)が挙げられる。
【0059】
また、本実施の形態においては、ケーブルサポート4を通ってケーブルキャリア2内にケーブル9が設置された状態でも、ガイドローラ4bの交換やケーブル9の交換が可能になるように、図5Aに示すように左右のリンクフレーム4aを分割構造とし、かつ図5Bに示すように中間フレーム4bを半割構造とし、それぞれ、ボルトにより一体化され、ボルトを取り外すことにより容易に分解が可能である。
【0060】
次に、ケーブルキャリア2内に配置されたケーブル9は、太さ及び剛性、そしてケーブルサポート4内の層位置によって、長手方向の飛び出し量やケーブルサポート4内での遊び等がそれぞれ異なることから、ケーブル9同志の巻き込み及び巻き込まれ現象が生じることになる。この巻き込み及び巻き込まれ現象は、巻き取り及び巻き出し時の抵抗力発生の原因になるだけでなく、最悪の場合断線に至ることにもなる。
【0061】
そこで本実施の形態においては、図6及び図7に示すように、ケーブルキャリア2内のケーブル9をケーブルの層ごとに、更にはケーブルサポート4を構成する各フレーム4a〜4cで区分けされた区画毎に分け、隣接するケーブル9をビニール製の結束ひも10を使って拘束し、ケーブル9が1列に並んだケーブル層を形成している。これによりケーブル9の長手方向の飛び出し量やケーブルサポート4内での遊びを軽減させ、安定的な巻き取り及び巻き出しが行える。この拘束する部材はビニール製のひもに限らず、柔軟性、耐久性や保守性等を考慮して選定することが可能であるが、ビニール製の結束ひも10を用いることで、ケーブル9の交換及び保守時の対応が格段に向上する。
【0062】
また、結束ひも10で拘束するピッチは、巻き取り時のケーブル9の動き量と長手方向での位置関係で多少異なるが、1.5m以下にすることで、安定的な巻き取り及び巻き出しが可能となる。例えば、リンク板2aのピッチが250mmであり、ケーブルフレーム4のピッチが750mmである場合、結束ひも10による拘束ピッチは、好ましくは0.75m〜1.25mであり、最大で1.5mである。
【0063】
次に、本実施の形態のケーブルキャリア2と多段方式のケーブルサポート4を使用して、ケーブル9を多層巻き取り及び巻き出しする回転照射装置を、安定的に運転するためには、ケーブルキャリア2内に収納されるケーブル9の長さが常に各層毎に異なる所定の長さを一定に保つことが大切であり、そのためにドラム側(回転側)と建屋側(固定側)でのケーブル9の固定方法が重要になる。もし、ケーブルキャリア2内に太くて剛性の高い配管がクランプの緩みで一時的に所定の長さより長くなったとすると、隣接するケーブル同志が結束ひも10で拘束されたケーブル群が、ケーブル巻き出し時にケーブルサポート4間に著しく飛び出すとケーブルサポート4に大きな力が加わり、ケーブルサポート4を損傷させるだけでなく、ケーブルキャリア2の巻き出しが困難になってしまう。
【0064】
そこで本実施の形態では、ケーブル9のドラム側の固定については、図8及び図9に示すように、ケーブルキャリア2の一端が取り付けられるケーブル巻き取りドラム1の円筒部分の外側と内側に、それぞれ、クランプ装置6,7を設け、この外側と内側のクランプ装置6,7によってケーブル9がSの字を描くように固定している。このように外側と内側のクランプ装置6,7によりケーブル9を二重に固定することにより確実なクランプが実現される。また、外側のクランプ装置6と内側のクランプ装置7をクランプされるケーブル9がSの字を描くように配置したことにより、効果的なクランプ力が得られ、安定的になる。
【0065】
また、クランプ装置6,7は、図9に示すように、それぞれのクランププレート6a〜6e,7a〜7eを多段に配置し、クランププレート6a〜6e間及びクランププレート7a〜7e間でケーブル9を各層毎にクランプする多段積みの構成となっている。回転側に設置するクランプ装置6,7は設置スペースの制約を大きく受けることから、図9に示すような多段積みの構成にすることでコンパクト化が可能になる。また、2つのクランプ装置6,7を設けるとともに、各クランプ装置を多段積みの構成とすることにより、ケーブル9の交換時にはボルトを弛めてクランプを1つづつ開けることによって、収納済みのケーブル9の初期設定長さを変化させずに、交換の必要なケーブル9だけを入れ換え及びメンテナンスすることが可能になる。また、2つのクランプ装置6,7があるため、片方のクランプ装置を開けてもケーブル9は他方のクランプ装置で拘束され、位置ずれが生じないので、保守性が良く、安全である。
【0066】
また、ケーブル9の建屋側の固定については、図10A及び図10Bに示すように、固定側クランプ装置8をケーブルキャリア取付けブラケット3に階段状に多段に配置したクランプ装置8a〜8dで構成し、この多段のクランプ装置8a〜8dに4段のケーブル層9a〜9dを一層づつ多段に固定する。これにより1個あたりのクランプ装置8で固定するケーブル9の数が少なくなり、確実な固定を実現できる。また、1個あたりのクランプ装置8で固定するケーブル9の数を少なくすることで、ケーブル9の交換作業などの保守性の向上が可能となる。なお、固定側では建屋スペースとケーブル9のルートに制約があるため、コンパクトにする必要がある。クランプ装置8は回転側のように多重化していないためコンパクトであり、そのような制約があっても容易に固定側に設置可能である。なお、固定側でも状況が許せば回転側のようにクランプ装置を多重化してもよく、これにより安定的な効果を得られる。
【0067】
更に、本実施の形態の回転照射装置は、図2Bに示すように、巻き取りドラム1にケーブルキャリア2を多段(図示実施例では2段)で巻き取る構成となっている。その場合、特に本実施の形態では、ケーブルキャリア2と多段方式のケーブルサポート4を使用してケーブル9を多層に配置していることから、1段目のケーブルキャリア2上に2段目のケーブルキャリア2がスムーズに乗り上げることができるようにする必要がある。
【0068】
そこで、本実施の形態では、図8及び図9に示すように、ケーブルキャリア2の一端が取り付けられるケーブル巻き取りドラム1の円筒部分の外側に、ケーブルキャリア2よりも広い幅寸法を有し、かつ外側クランプ装置6が位置する部分で外側クランプ装置6よりも高い高さ寸法を有し、1段目のケーブルキャリア2上に2段目のケーブルキャリア2がスムーズに乗り上げることを可能にする円弧形状をした案内ガイド11を設置してある。この案内ガイド11は、一端が巻き取りドラム1の円筒部分に取り付けられ、他端が外側のクランプ装置6の上端に取り付けられた例えば金属製のプレートである。この案内ガイド11は、外側クランプ装置6で固定されて巻き取りドラム1の内部に設置された内側クランプ装置7に向かうケーブル9の上に2段目のケーブルキャリア2が乗り上げたり、引っ掛けたりすることで、ケーブルの損傷や断線を引き起こさないようなプロテクターの役割も有している。
【0069】
また、本実施の形態のようにケーブルサポート4を多段化すると、ケーブルサポート4はケーブルキャリア2を構成するリンク板2aよりも高さ方向に高い寸法を有する構成となってしまうことから、ケーブルサポート4の設定高さや取付けピッチによっては、2段目のケーブルキャリア2が案内ガイド11を越えた位置でケーブル9上に直接乗り上げるケースがある。このように2段目のケーブルキャリア2がケーブル9上に乗り上げた場合、ケーブル9の損傷や断線は免れない。
【0070】
そこで本実施の形態においては、図8及び図9に示す如く、ケーブルキャリア2の左右のリンク板2aに、回転側の外側クランプ装置6上に位置する案内ガイド11とケーブルサポート2よりも外側(図9の上方)に突出する高さ保持用の案内フレーム5(高さ保持機構)を設置している。この案内フレーム5は、ケーブルキャリア2がケーブル巻き取りドラム1に多段に巻き取られるときに2段目のケーブルキャリア2を案内ガイド11とケーブルサポート4の高さよりも数十ミリ高い位置で支持し、ケーブルキャリア2を巻き取り及び巻き出しすることができる。この案内フレーム5は、図2A及び1Bに示すように、ケーブル巻き取りドラム1に取り付けられるケーブルキャリア2の一端付近を含め、少なくともケーブルキャリア2が2段巻きされる範囲ににおいて、一定のピッチを持って複数個取り付けられている。
【0071】
次に、本実施の形態により得られる効果について説明する。
【0072】
1.ケーブルキャリア2、ケーブルサポート4、ローラ構造の効果
まず、本実施の形態では、ケーブル9の巻き取り及び巻き出しにケーブルキャリア2を用い、ケーブルキャリア2内に所定間隔でケーブルサポート4を設置し、このケーブルサポート4を複数段(図示の例では2段)のフレーム構造としたので、ケーブル9の多層巻き取りが可能となり、巻き取り及び巻き出し装置130を軸方向にコンパクトにすることができる。そして、この巻き取り及び巻き出し装置130のコンパクト化により、省スペースで低コストの回転照射装置を提供できる。
【0073】
また、ケーブルキャリア2内に収納されるケーブル9はケーブルキャリア2の最小曲げ半径以上には曲がらないので、ケーブルキャリア2内のケーブル9の巻き取り及び巻き出しの許容値以内の曲げ半径が確保されることとなり、ケーブル9の繰り返し曲げ強度が確保される。
【0074】
また、ケーブルサポート4は複数段のフレーム構造により、ケーブル9の巻き取り及び巻き出し時に、複数段に配置されたケーブルの絡み合いが抑制され、かつケーブル9の飛び出しを拘束することができる。しかも、ケーブルサポート4のフレーム構造におけるケーブル9の繰り返し接触部分を、ローラ4dを有するローラ構造としたので、ケーブル9が接触してもそのローラ4dが自由に回転するため、ケーブル被覆の磨耗を防止し、ケーブル9の損傷を低減することができる。
【0075】
また、ローラ構造のローラ4dに摩擦係数の小さい材質を選定し、そのローラ4dをシャフトフレーム4c上に回転自在に装着する2重構造としたので、ケーブル接触時のケーブル被覆の磨耗を確実に防止でき、かつローラ磨耗時のローラ交換が容易に行える。特に、本実施の形態では、ケーブルサポート4のフレーム構造として、左右のリンクフレーム4aを分割構造とし、中間フレーム4bを半割構造としたので、分解が容易であり、ガイドローラ4bの交換が容易に行える。また、ケーブル9の交換も容易である。
【0076】
2.ケーブルサポート4の複数区画の効果
また、本実施の形態では、ケーブルサポート4内に3本のシャフトフレーム4cと2本の中間フレーム4bとで複数の区画を形成したので、1つの区画に動力線、それから離れた他の区画に制御線を配置するというように、制御線を動力線から離して分離配置することが可能となり、これによりケーブル巻き取り、巻き戻し時の制御線におけるノイズの発生を防止することができる。また、種類の異なるケーブルを分離配置できるので、ケーブルの交換が容易となり、保守性が向上する。
【0077】
3.ケーブルサポート4の複数区画と結束ひも10の効果
また、本実施の形態では、ケーブルサポート4内の複数の区画のそれぞれに設置したケーブル9を、ケーブル9の層毎に、結束ひも10によりケーブル9の長さ方向に所定のピッチで拘束したので、各区画内でのケーブル9の勝手な動きを拘束することができ、ケーブル9の飛び出しや巻き込まれを防止し、ケーブル9の損傷を一層低減することができる。また、結束ひも10はほとんどかさばらないため、ケーブルキャリア自体の寸法を大きくする必要が無く、ケーブルキャリア内に多数のクランプ装置を設置して拘束する場合に比べて、巻き取り及び巻き出し装置130の一層のコンパクト化が可能である。また、結束ひも10がかさばらずケーブルキャリア2の高さ寸法も大きくならないため、ケーブルキャリア2をドラム1上に多段に巻き取ることが可能となる。
【0078】
更に、ケーブル交換時には、結束ひも10を切断して簡単に分解できるため、ケーブルキャリア内に多数のクランプ装置を設置して拘束する場合に比べて、保守性が格段に向上する。また、結束ひもでケーブルを縛るだけであるため、ケーブルの太さや本数が変わっても柔軟に対応することができる。
【0079】
また、結束ひも10の配置ピッチを1.5m以下としたので、拘束されたケーブル9は飛び出しや巻き込まれによりケーブル同士が絡み付く現象(ロック現象)を起し難くなり、ケーブルの安定した巻き取りが可能となる。
【0080】
4.回転側クランプ装置6,7の効果
また、本実施の形態では、巻き取りドラム1に設置される回転側のクランプ構造において、巻き取りドラム1の円筒部分の内側と外側とにクランプ装置6,7を設けてケーブル9をS字状に二重にクランプするので、回転側でのケーブルのクランプを確実にすることができる。これにより回転側のクランプの緩みが原因となって、ケーブルサポート4間でのケーブル9の伸縮量増大によるケーブル9の飛び出しや巻き込まれを引き起こして、ケーブル9及びケーブルキャリア2が損傷することを防止することができる。
【0081】
また、クランプ装置6,7は、多段積みの構成となっているので、コンパクト化が可能であるとともに、ケーブル9の交換時にはクランプを1つづつ開けることによって、収納済みのケーブル9の初期設定長さを変化させずに、交換の必要なケーブル9だけを入れ換え及びメンテナンスすることが可能になる。また、2つのクランプ装置6,7があるため、片方のクランプ装置を開けてもケーブル9は他方のクランプ装置で拘束され、位置ずれが生じないので、保守性が良く、安全である。
【0082】
5.固定側クランプ装置8の効果
また、本実施の形態では、回転照射装置の機器に動力やユーティリティを供給する建屋側のクランプ構造において、ケーブルサポート4の各段に配置されるケーブル層ごとに固定側クランプ装置8を設けて固定をすることで、全てのケーブルを同時に一箇所でクランプする場合に比べてクランプが緩みにくくなり、確実にクランプすることができる。これにより固定側(建屋側)のクランプの緩みが原因となって、ケーブルサポート4間でのケーブル9の伸縮量増大によるケーブル9の飛び出しや巻き込まれを引き起こして、ケーブル9及びケーブルキャリア2が損傷することを防止することができる。
【0083】
6.案内ガイド11の効果
また、本実施の形態では、案内ガイド11を設けたので、ケーブルキャリア2がドラム1上へ多段で巻き取られるとき、ドラム1の外側から内側へ導入されるケーブル9上に上段のケーブルキャリア2が乗り上げることなく、下段のケーブルキャリア2上にスムーズに乗り移ることができ、ケーブルの損傷を防止することができる。
【0084】
7.高さ保持機構の効果
また、本実施の形態では、高さ保持機構である案内フレーム5を設けたので、ケーブルキャリア2がドラム1上へ多段で巻き取られるとき、上段のケーブルキャリア2が下段のケーブルキャリア2に対してスムーズに整列し、上段のケーブルキャリア2が下段のケーブルキャリア2内のケーブル9を傷つけたり引っ掛けたりすることがなく、安全に巻き取ることができる。また、特に、上記のように案内ガイド11を設けた上で、案内フレーム5(高さ保持機構)を設けたので、案内ガイド11で案内されたケーブルキャリア2の高さを高さ保持機構5で保持するという両者の連動により、ケーブルキャリア2のドラム1上への多段の巻き取り、巻き出しが極めてスムーズに行うことができる。
【0085】
8.効果のまとめ
以上のように本実施の形態によれば、回転照射装置のケーブルの巻き取り及び巻き出しを多層方式にすることができ、巻き取り及び巻き出し装置をコンパクトにし、省スペースの回転照射装置を提供することができる。また、ケーブル巻き取り及び巻き出し時のケーブル9の損傷を低減し、信頼性のあるケーブル巻き取り及び巻き出し装置103を提供することができる。
【0086】
また、回転照射装置の省スペース化により、イニシャルコストである建屋のガントリー軸方向の長さを低減することができ、建築費を含めた設備費を安くできる。ケーブル巻き取り及び巻き出し装置103の信頼性向上により、保守費の削減が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本発明の一実施の形態に係わる回転照射装置の回転体に装着されたケーブル巻き取り及び巻き出し装置を、その回転体とともに示す図である。
【図2A】本発明の一実施の形態に係わる回転照射装置のケーブル巻き取り及び巻き出し装置の巻き出し状態の側面図である。
【図2B】本発明の一実施の形態に係わる回転照射装置のケーブル巻き取り及び巻き出し装置の巻き取り状態の側面図である。
【図3A】ケーブル巻き取り及び巻き出し装置の主要構成部品であるケーブルキャリア及びその関連部品をケーブルと共に示す側面図である。
【図3B】ケーブル巻き取り及び巻き出し装置の主要構成部品であるケーブルキャリア及びその関連部品をケーブルと共に示す平面図である。
【図4】巻き取りドラムに巻き付いたケーブルキャリア及びケーブルサポートの様子を示す図2AのA−A矢視断面図である。
【図5A】ケーブルサポートの分解図である。
【図5B】ケーブルサポートの分解図である。
【図6】ケーブルや配管を結束ひもで拘束した状態を示す平面図である。
【図7】ケーブルを結束ひもで拘束した状態を示す図6のC−C矢視断面図である。
【図8】回転側クランプ装置の様子を示す巻き取りドラム部の詳細図である。
【図9】案内ガイドと案内フレームの様子を示す図8のD−D矢視断面図である。
【図10A】ケーブルを1層ずつ個別に固定する固定側クランプ装置を示す側面図である。
【図10B】ケーブルを1層ずつ個別に固定する固定側クランプ装置を示す正面図である。
【符号の説明】
【0088】
1 巻き取りドラム
2 ケーブルキャリア
2a リンク板
2b 支点ピン
2c ブラケット
3 ケーブルキャリア固定ブラケット
4 ケーブルサポート
4a リンクフレーム
4b 中間フレーム
4c シャフトフレーム
4d ガイドローラー
5 案内フレーム
6 回転側(外側)クランプ装置
7 回転側(内側)クランプ装置
8 固定側クランプ装置
9 ケーブル(動力線、制御線、ユーティリティ配管等)
9a 1層目のケーブル
9b 2層目のケーブル
9c 3層目のケーブル
9d 4層目のケーブル
10 結束ひも
11 案内ガイド
20 チェーン上の帯
100 回転体
101 回転胴部
102 フロントリング
103 リアリング
104 エンド部材
105 治療ゲージ
106 床部
107 治療ベッド
108 ビーム輸送装置
109 照射ノズル
110 回転体支持装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子ビームを照射する照射ノズル及び前記照射ノズルに荷電粒子ビームを導くビーム輸送系を備えた回転可能な回転体と、
前記回転体と接触して前記回転体を支持する回転体支持装置と、
前記回転体に設けられ、前記回転体の外側から前記回転体の内部へと伸びる動力線、制御線、ユーティリティ配管等の多数のケーブルを巻き取り及び巻き出しする巻き取り及び巻き出し装置とを備えた回転照射装置において、
前記巻き取り及び巻き出し装置は、
前記回転体と同心的に設けられたケーブル巻き取りドラムと、
前記ケーブル巻き取りドラムに一端が取り付けられ、前記回転照射装置が設置される建屋の固定側に他端が取り付けられるケーブルキャリアとを有し、
前記ケーブルキャリアは、前記ケーブルキャリアの長手方向に所定の間隔で配置された複数のケーブルサポートを有し、
前記複数のケーブルサポートは、それぞれ、複数のケーブルを複数段に配置可能としかつ前記複数のケーブルの飛び出しを拘束する複数段のフレーム構造を有し、
前記フレーム構造は、それぞれ、前記複数のケーブルの飛び出しの拘束時に前記複数のケーブルが繰り返し接触する部分にローラを配置したローラ構造を有することを特徴とする回転照射装置。
【請求項2】
請求項1記載の回転照射装置において、
前記ローラ構造の各ローラは、前記フレーム構造のシャフト上に回転自在に装着され、かつ摩擦係数の小さい材質で構成されていることを特徴とする回転照射装置。
【請求項3】
請求項1記載の回転照射装置において、
前記複数のケーブルサポートのフレーム構造は、それぞれ、前記複数段のそれぞれを幅方向に仕切った複数の区画を有し、前記複数の区画のそれぞれに複数のケーブルを設置したことを特徴とする回転照射装置。
【請求項4】
請求項3記載の回転照射装置において、
前記複数の区画のそれぞれに設置した複数のケーブルは、ケーブルの長さ方向に所定のピッチで配置された結束ひもにより層状に拘束され、前記複数のケーブルが少なくとも1列に並んだケーブル層を形成することを特徴とする回転照射装置。
【請求項5】
請求項4記載の回転照射装置において、
前記結束ひもの配置ピッチは1.5m以下であることを特徴とする回転照射装置。
【請求項6】
請求項1記載の回転照射装置において、
前記巻き取り及び巻き出し装置は、前記ケーブルキャリアの一端が取り付けられる前記ケーブル巻き取りドラムの円筒部分の外側と内側に設けられ、前記複数のケーブルがS字状をなすように二重に固定する回転側クランプ装置を備えることを特徴とする回転照射装置。
【請求項7】
請求項1記載の回転照射装置において、
前記複数のケーブルは、前記ケーブルキャリアの他端が取り付けられる前記建屋の固定側において、前記ケーブルサポートの複数段に対応して複数のケーブル層を形成しており、
前記巻き取り及び巻き出し装置は、前記ケーブルキャリアの他端が取り付けられる前記建屋の固定部に設けられ、前記複数のケーブル層を一層づつ多段に固定する固定側クランプ装置を備えることを特徴とする回転照射装置。
【請求項8】
請求項1記載の回転照射装置において、
前記巻き取り及び巻き出し装置は、前記ケーブルキャリアの一端が取り付けられる前記ケーブル巻き取りドラムの部分の外側に配置され、前記複数のケーブルを固定するクランプ装置と、前記ケーブルキャリアの幅以上の幅寸法を有し、かつ前記クランプ装置が位置する部分で前記クランプ装置以上の高さ寸法を有し、前記ケーブル巻き取りドラム上に前記ケーブルキャリアを多段で巻き取るとき、1段目のケーブルキャリア上に2段目のケーブルキャリアがスムーズに乗り上げることを可能にする形状を有する案内ガイドとを備えることを特徴とする回転照射装置。
【請求項9】
請求項1又は8記載の回転照射装置において、
前記巻き取り及び巻き出し装置は、少なくとも、前記ケーブル巻き取りドラムに取り付けられる前記ケーブルキャリアの一端付近において、前記ケーブルキャリアに設置され、前記ケーブルサポートよりも高い高さ寸法を有し、前記ケーブルキャリアが前記ケーブル巻き取りドラムに多段に巻き取られるときに上側のケーブルキャリアを支持する高さ保持機構を備えることを特徴とする回転照射装置。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10A】
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【図10B】
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【公開番号】特開2008−67908(P2008−67908A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−249214(P2006−249214)
【出願日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.ケーブルベア
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(000003355)株式会社椿本チエイン (861)
【Fターム(参考)】