説明

回転直動変換機構

【課題】駆動力の伝達効率を向上させることのできる回転直動変換機構を提供する。
【解決手段】回転直動変換機構は、外周面に雄ねじ1aを有するサンシャフト1と、内周面に雌ねじ2aを有するナット2と、サンシャフト1の外周面及びナット2の内周面との間に介在されて雄ねじ1a及び雌ねじ2aに螺合するねじ3aを有するプラネタリシャフト3とを備える。ナット2の内周面には内歯4aを設け、プラネタリシャフト3には内歯4aに噛み合う平歯車3b及び平歯車3cをそれぞれ設ける。さらに、サンシャフト1には、プラネタリシャフト3に設けられた平歯車3bに噛み合うシザーズギア10を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転運動を直線運動に変換する、または直線運動を回転運動に変換する回転直動変換機構に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、こうした回転直動変換機構としては、例えば特許文献1に記載のローラねじを用いた機構などがある。
この機構は、外周面にねじを有するサンシャフトと、内周面にねじを有するナットと、サンシャフトの外周面及びナットの内周面との間に介在されて上記各ねじに螺合するプラネタリシャフトとを備えている。そして、上記ナットを回転させるとプラネタリシャフトは自転するとともにサンシャフトの周りを公転し、すなわちプラネタリシャフトはサンシャフトの周りを遊星運動し、同プラネタリシャフトのねじに螺合されているサンシャフトが軸方向に直線運動するようになっている。なお、同機構は、サンシャフトを回転させることでナットを直線運動させることも可能である。
【0003】
また、同文献に記載の回転直動変換機構では、プラネタリシャフト及びナットを歯車で噛み合わせるようにしており、ナットの歯車でプラネタリシャフトを正確に自転及び公転させるようにしている。
【特許文献1】特開平10−196757号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した回転直動変換機構のように、歯車にて駆動力を伝達するようにすれば、ねじの螺合による駆動力伝達と比較して、同駆動力の伝達効率を高めることができるものの、場合によっては伝達トルクが変動するようになる。こうした伝達トルクの変動態様についてその一例を図9に示す。
【0005】
同図9に示すグラフは、上述したような回転直動変換機構において、サンシャフト及びプラネタリシャフトも歯車で噛み合うように構成し、このように構成された同機構のサンシャフトを回転させたときにナットへ伝達されたトルクを示したものである。
【0006】
この図9に示されるように、同回転直動変換機構では、サンシャフトからナットへ伝達されるトルクが、同サンシャフトの回転に伴って周期的に増大及び減少を繰り返すようになり、こうした伝達トルクの変動量が大きい場合には、当該回転直動変換機構における駆動力の伝達効率は低下してしまうようになる。
【0007】
なお、ローラねじを用いた回転直動変換機構において、サンシャフト及びプラネタリシャフトのみが歯車にて噛み合う場合、あるいは上記文献記載の回転直動変換機構のようにプラネタリシャフト及びナットのみが歯車にて噛み合う場合であっても、同様な態様で伝達トルクが変動し、駆動力の伝達効率は低下してしまうことがある。
【0008】
本発明は、こうした従来の実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、駆動力の伝達効率を向上させることのできる回転直動変換機構を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以下、上記目的を達成するための手段及びその作用効果について記載する。
請求項1に記載の発明は、外周面にねじを有するサンシャフトと、内周面にねじを有するナットと、前記サンシャフトの外周面と前記ナットの内周面との間に介在されて前記各ねじに螺合するねじを有するプラネタリシャフトとを備え、前記サンシャフト及び前記ナットのいずれか一方の回転運動を他方の直線運動に変換する回転直動変換機構において、前記サンシャフトと前記プラネタリシャフトとを歯車にて噛み合わせるとともに、同サンシャフトに設けられる歯車及び同プラネタリシャフトに設けられる歯車のいずれか一方をシザーズギアとしたことをその要旨とする。
【0010】
同構成では、上記サンシャフト及び上記プラネタリシャフトを歯車で噛み合わせるようにしており、これによりサンシャフト及びプラネタリシャフトをねじにて螺合させるだけの場合と比較して、それら部材間(サンシャフト−プラネタリシャフト間)における駆動力の伝達効率を高めることができる。
【0011】
ここで、駆動力を歯車にて伝達する場合には、上述したように伝達トルクが周期的に変動するようになり、その変動量が大きい場合には、当該回転直動変換機構における駆動力の伝達効率が低下してしまうようになる。このように伝達トルクの変動量が大きい場合に生じやすい駆動力の伝達効率低下は、以下のような態様にて生じる。
【0012】
すなわち、伝達トルクの変動は、歯車に設けられるバックラッシュによって生じるのであるが、当該歯車の噛み合い率が低い場合には、同時に噛み合う歯数が減少するため、一対の歯の噛み合いが解消されてから、次の一対の歯が噛み合うまでの間で、どの歯も噛み合っていない状態(以下、噛み合い抜けという)が生じやすくなる。そして、この噛み合い抜けが生じている間は、駆動歯車から被動歯車への駆動力伝達が切断されるため、被動歯車への伝達トルクは大きく減少し、駆動力の伝達効率は低下してしまう。こうした噛み合い抜けの発生時における伝達トルクの大きな落ち込みが、当該伝達トルクに大きな変動をもたらす要因となる。
【0013】
また、噛み合い率が高く、常に一対以上の歯が噛み合っている場合であれば、駆動歯車から被動歯車への駆動力伝達が連続して行われ、この場合には、噛み合う歯の切り替わりに際して被動歯車を円滑に回転させることができ、伝達トルクの変動量は小さくなる。一方、上記噛み合い抜けが生じる場合には、駆動歯車から被動歯車への駆動力伝達が断続的に行われ、この場合には、噛み合う歯の切り替わりに際して、次に噛み合う被動歯車を回転させるためにより大きなトルクが必要になり、これにより駆動力の伝達効率は低下してしまう。こうした被動歯車の回転に要求されるトルクの増大も、伝達トルクに大きな変動をもたらす要因となる。
【0014】
このように、伝達トルクの変動は歯車のバックラッシュによって生じ、さらに歯車の噛み合い率が低い場合には、その変動量が大きくなって駆動力の伝達効率は低下するようになる。
【0015】
また、歯車の噛み合い率が低い場合、歯車の噛み合いはピッチ円付近だけではなく、歯先や歯元でも生じるようになる。そのため、駆動歯車の回転速度が一定であっても被動歯車の回転速度は変動するようになり、駆動歯車と被動歯車の回転速度は合致しなくなる。このように駆動歯車と被動歯車の回転速度がずれてしまうと、駆動歯車が設けられたねじ部と被動歯車が設けられたねじ部との螺合状態は、転がり状態から滑り状態となり、ねじ部での摺動抵抗が増大して駆動力の伝達効率は低下してしまう。
【0016】
そこで、同構成では、前記サンシャフトと前記プラネタリシャフトとを歯車にて噛み合わせる場合に、それら噛み合う各歯車のいずれか一方、すなわちサンシャフトに設けられる歯車及びプラネタリシャフトに設けられる歯車のいずれか一方にシザーズギアを使用するようにしている。
【0017】
このシザーズギアは、1枚の歯車がメインギアとサブギアとで構成されており、さらにサブギアには一定の付勢力が与えられている。そして、この付勢力を利用して当該シザーズギアに噛み合う歯車の歯をメインギア及びサブギアにて挟み込むことにより、バックラッシュを低減することができるようになっている。従って、同構成によれば、サンシャフトに設けられる歯車及びプラネタリシャフトに設けられる歯車のバックラッシュが低減され、サンシャフト及びプラネタリシャフト間における伝達トルクの変動が抑えられるようになる。さらに、シザーズギアに噛み合う歯車の歯がメインギア及びサブギアにて挟み込まれることにより、歯車の噛み合い率が高くなり、上記噛み合い抜けの発生が抑えられるようになる。そのため、歯車の回転中において駆動歯車から被動歯車への駆動力伝達が切断されるといった状況は生じにくくなり、駆動力の伝達効率を向上させることができるようになる。
【0018】
また、噛み合い率が高くなることで、駆動歯車から被動歯車への駆動力伝達が連続して行われるようになり、噛み合う歯の切り替わりに際して、次に噛み合う被動歯車をより小さなトルクで回転させることができるようになる。従って、これによっても駆動力の伝達効率を向上させることができるようになる。
【0019】
さらに、噛み合い率が高くなることで、サンシャフト及びプラネタリシャフトにそれぞれ設けられたねじ部の螺合状態は、滑り状態から転がり状態に近づくようになる。従って、同ねじ部での摺動抵抗は減少するようになり、これによっても駆動力の伝達効率を向上させることができるようになる。
【0020】
請求項2に記載の発明は、外周面にねじを有するサンシャフトと、内周面にねじを有するナットと、前記サンシャフトの外周面と前記ナットの内周面との間に介在されて前記各ねじに螺合するねじを有するプラネタリシャフトとを備え、前記サンシャフト及び前記ナットのいずれか一方の回転運動を他方の直線運動に変換する回転直動変換機構において、前記ナットと前記プラネタリシャフトとを歯車にて噛み合わせるとともに、同ナットに設けられる歯車及び同プラネタリシャフトに設けられる歯車のいずれか一方をシザーズギアとしたことをその要旨とする。
【0021】
同構成では、上記ナット及び上記プラネタリシャフトを歯車で噛み合わせるようにしており、これによりナット及びプラネタリシャフトをねじにて螺合させるだけの場合と比較して、それら部材間(ナット−プラネタリシャフト間)における駆動力の伝達効率を高めることができる。
【0022】
ここで、上述したように、駆動力を歯車にて伝達する場合には、伝達トルクが周期的に変動するようになり、その変動量が大きい場合には、当該回転直動変換機構における駆動力の伝達効率が低下してしまうようになる。この点、同構成でも、ナットとプラネタリシャフトとを歯車にて噛み合わせる場合には、それら噛み合う各歯車のいずれか一方、すなわちナットに設けられる歯車及びプラネタリシャフトに設けられる歯車のいずれか一方にシザーズギアを使用するようにしている。そのため、ナットに設けられる歯車及びプラネタリシャフトに設けられる歯車のバックラッシュが低減され、ナット及びプラネタリシャフト間における伝達トルクの変動が抑えられるようになる。さらに、シザーズギアに噛み合う歯車の歯がメインギア及びサブギアにて挟み込まれることにより、歯車の噛み合い率が高くなり、上述したような噛み合い抜けの発生が抑えられるようになる。そのため、歯車の回転中において駆動歯車から被動歯車への駆動力伝達が切断されるといった状況は生じにくくなり、駆動力の伝達効率を向上させることができるようになる。
【0023】
また、噛み合い率が高くなることで、駆動歯車から被動歯車への駆動力伝達が連続して行われるようになり、噛み合う歯の切り替わりに際して、次に噛み合う被動歯車をより小さなトルクで回転させることができるようになる。従って、これによっても駆動力の伝達効率を向上させることができるようになる。
【0024】
さらに、噛み合い率が高くなることで、ナット及びプラネタリシャフトにそれぞれ設けられたねじ部の螺合状態は、滑り状態から転がり状態に近づくようになる。従って、同ねじ部での摺動抵抗は減少するようになり、これによっても駆動力の伝達効率を向上させることができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明にかかる回転直動変換機構を具体化した一実施形態について、図1〜図6を併せ参照して説明する。
図1は、本実施形態にかかる回転直動変換機構の構造について、軸方向における断面図を模式的に示している。
【0026】
この図1に示すように、当該回転直動変換機構は、外周面にねじを有するサンシャフト1、サンシャフト1の外側に設けられて内周面にねじを有するナット2、サンシャフト1の外周面とナット2の内周面との間に介在され、サンシャフト1のねじ及びナット2のねじに螺合するねじを有する複数のプラネタリシャフト3等から構成されている。そして、この回転直動変換機構はナット2の回転運動をサンシャフト1の直線運動に変換する、いわゆるローラネジ機構となっている。以下、上記各構成部材を詳細に説明する。
【0027】
サンシャフト1の外周面には雄ねじ1aが形成されており、その雄ねじ1aは、例えば多条の右ねじとされている。
また、サンシャフト1の端部には、同シャフトの外径とほぼ同一の外径を有するシザーズギア10が設けられている。このシザーズギア10は、外径及び歯数が互いに等しいメインギア11及びサブギア12等から構成されており、メインギア11の中心には貫通孔14が設けられている。この貫通孔14は、サンシャフト1の端部に設けられた凸部1bに嵌合されており、これによりシザーズギア10はサンシャフト1に固定されている。なお、シザーズギア10の構造については後述する。
【0028】
図2に上記プラネタリシャフト3の形状を示す。この図2及び先の図1に示されるように、プラネタリシャフト3は円柱形状をなしており、その軸方向の外周面全体にはサンシャフト1の雄ねじ1aと螺合するねじ3aが形成されている。このねじ3aは、例えば1条の左ねじとされている。また、プラネタリシャフト3はサンシャフト1の外周面を囲むように等ピッチにて複数配設されている。また、このプラネタリシャフト3には平歯車3b及び平歯車3cが設けられている。
【0029】
平歯車3bは、プラネタリシャフト3の軸方向における両端部のうち、サンシャフト1のシザーズギア10に対面する側の端部外周面に一体形成されており、同シザーズギア10と噛み合うようになっている。また、この平歯車3bは、プラネタリシャフト3に対してサンシャフト1のシザーズギア10が軸方向に相対移動する範囲に対応させて設けられている。また、図2に示すごとく、プラネタリシャフト3においてねじ3aが形成された部分(同図2に示すねじ形成部)に、上記平歯車3bの歯は形成されている。このねじ3aと平歯車3bの歯とが形成された部分(同図2に示す歯形成部)の加工については、例えばねじ3aを形成した後に平歯車3bの歯を形成する、あるいは平歯車3bの歯を形成した後にねじ3aを形成する、あるいはねじ3aの形成と平歯車3bの歯の形成とを同時に行うなどすればよい。
【0030】
平歯車3cは、プラネタリシャフト3の軸方向における両端部のうち、上記平歯車3bが設けられた端部とは反対の端部外周面に一体形成されており、後述するリングギア4と噛み合うようになっている。また、平歯車3cの歯も図2に示すごとく、プラネタリシャフト3においてねじ3aが形成された部分(同図2に示すねじ形成部)に形成されている。ねじ3aと平歯車3cの歯とが形成された部分(同図2に示す歯形成部)の加工については、平歯車3bと同様な態様で行うことができる。
【0031】
ちなみに、平歯車3bや平歯車3cをプラネタリシャフト3とは別部材とし、該平歯車3bや該平歯車3cをプラネタリシャフト3の端部にそれぞれ組み付けるようにしてもよい。また、平歯車3bや平歯車3cのブランク(歯切り加工前の歯車部材)をプラネタリシャフト3の端部にそれぞれ組み付け、その後、ねじ3a、平歯車3b、及び平歯車3cの歯を形成するようにしてもよい。
【0032】
先の図1に示すように、上記ナット2の内周面にはプラネタリシャフト3のねじ3aに螺合する雌ねじ2aが形成されており、その雌ねじ2aは、例えば雄ねじ1aとは異なる条数であって多条の左ねじとされている。
【0033】
また、同ナット2の内周面には、上述した平歯車3bや平歯車3cにそれぞれ噛み合うリングギア4が2つ設けられている。このリングギア4は環状に形成されており、その外周面はナット2の内周面に固定されている。また、その内周面には平歯車3bや平歯車3cの歯と噛み合う平歯の内歯4aが形成されており、この内歯4aの内径は、ナット2に形成された上記雌ねじ2aの内径とほぼ同一とされている。そして、同雌ねじ2aの両端にこのリングギア4がそれぞれ設けられている。
【0034】
なお、サンシャフト1の雄ねじ1aの有効径、プラネタリシャフト3のねじ3aの有効径、ナット2の雌ねじ2aの有効径の比をそれぞれ「α:β:λ」とした場合に、シザーズギア10の歯数、平歯車3bや平歯車3cの各歯数、内歯4aの歯数の比もそれぞれ「α:β:λ」となるように各歯車の歯数は設定されている。これにより、各ねじの螺合による減速比と各歯車の噛み合いによる減速比とは一致するようになっている。
【0035】
このように構成された本実施形態の回転直動変換機構において、例えばナット2を回転可能且つ軸方向への移動が不可となるように支持し、サンシャフト1を回転不能且つ軸方向への移動が可能なように支持する場合にあって、ナット2を回転させると、この回転直動変換機構は次のように作動する。すなわち、ナット2を回転させると、プラネタリシャフト3はナット2の雌ねじ2a及びサンシャフト1の雄ねじ1aと螺合しながら、サンシャフト1の周りを自転及び公転する。こうしたプラネタリシャフト3の遊星運動により、サンシャフト1は、同回転直動変換機構の減速比及び各ねじの条数に応じて決定されるリードにて、その軸方向に直線運動する。
【0036】
ここで、先の図1に示す矢印A側から見た回転直動変換機構の構造を示す図3、或いは先の図1に示されるように、本実施形態では、ナット2に固定されたリングギア4の内歯4aがプラネタリシャフト3に設けられた平歯車3cに噛み合うようになっている。従って、ナット2の内歯4aでプラネタリシャフト3を正確に自転及び公転させることができるようになっている。
【0037】
さらに、同プラネタリシャフト3に設けられた平歯車3bがサンシャフト1に設けられたシザーズギア10に噛み合うようになっており、サンシャフト1及びプラネタリシャフト3をねじにて螺合させるだけの場合と比較して、同サンシャフト1及び同プラネタリシャフト3の間における駆動力の伝達効率を高めることができる。
【0038】
同様に、リングギア4の内歯4aがプラネタリシャフト3に設けられた平歯車3cに噛み合うようになっており、プラネタリシャフト3及びナット2をねじにて螺合させるだけの場合と比較して、同プラネタリシャフト3及びナット2の間における駆動力の伝達効率も高めることができる。
【0039】
ところで、駆動力を歯車にて伝達する場合には、先の図9に示したように伝達トルクが周期的に変動するようになり、その変動量が大きい場合には、当該回転直動変換機構における駆動力の伝達効率が低下してしまうようになる。このように伝達トルクの変動量が大きい場合に生じやすい駆動力の伝達効率低下は、以下のような態様にて生じる。
【0040】
すなわち、伝達トルクの変動は、歯車に設けられるバックラッシュによって生じるのであるが、当該歯車の噛み合い率が低い場合には、同時に噛み合う歯数が減少するため、一対の歯の噛み合いが解消されてから、次の一対の歯が噛み合うまでの間で、どの歯も噛み合っていない状態、すなわち噛み合い抜けが生じやすくなる。そして、この噛み合い抜けが生じている間は、駆動歯車から被動歯車への駆動力伝達が切断されるため、被動歯車への伝達トルクは大きく減少し、駆動力の伝達効率は低下してしまう。こうした噛み合い抜けの発生時における伝達トルクの大きな落ち込みが、当該伝達トルクに大きな変動をもたらす要因となる。
【0041】
また、噛み合い率が高く、常に一対以上の歯が噛み合っている場合であれば、駆動歯車から被動歯車への駆動力伝達が連続して行われ、この場合には、噛み合う歯の切り替わりに際して被動歯車を円滑に回転させることができ、伝達トルクの変動量は小さくなる。一方、上記噛み合い抜けが生じる場合には、駆動歯車から被動歯車への駆動力伝達が断続的に行われ、この場合には、噛み合う歯の切り替わりに際して、次に噛み合う被動歯車を回転させるためにより大きなトルクが必要になり、これにより駆動力の伝達効率は低下してしまう。こうした被動歯車の回転に要求されるトルクの増大も、伝達トルクに大きな変動をもたらす要因となる。
【0042】
このように、伝達トルクの変動は歯車のバックラッシュによって生じ、さらに歯車の噛み合い率が低い場合には、その変動量が大きくなって駆動力の伝達効率は低下するようになる。
【0043】
また、歯車の噛み合い率が低い場合、歯車の噛み合いはピッチ円付近だけではなく、歯先や歯元でも生じるようになる。そのため、駆動歯車の回転速度が一定であっても被動歯車の回転速度は変動するようになり、駆動歯車と被動歯車の回転速度は合致しなくなる。このように駆動歯車と被動歯車の回転速度がずれてしまうと、駆動歯車が設けられたねじ部と被動歯車が設けられたねじ部との螺合状態は、転がり状態から滑り状態となり、ねじ部での摺動抵抗が増大して駆動力の伝達効率は低下してしまう。
【0044】
そこで、本実施形態では、サンシャフト1とプラネタリシャフト3とを歯車にて噛み合わせるようにしているが、サンシャフト1に設けられる歯車として前記シザーズギア10を使用するようにしており、これにより上述したような駆動力の伝達効率低下を抑えるようにしている。
【0045】
図4にシザーズギア10の分解斜視図、図5に同シザーズギア10の部分断面図を示す。
この図4に示すように、シザーズギア10は、大きくはメインギア11、サブギア12、シザーズスプリング13により構成されている。メインギア11は外周面に歯が形成された円盤形状の平歯車であり、同メインギア11の中心には、円筒形状の円筒部15が突設されており、同円筒部15の内周面が前記貫通孔14となっている。また、メインギア11にあって前記円筒部が突設されている側の面には第1ピン16が突設されている。
【0046】
サブギア12はメインギア11と同径の円盤形状の平歯車であり、外周面にはメインギア11と同数且つ同一規格の歯が形成されている。サブギア12の中心にはメインギア11の円筒部15の外周面と摺動可能な貫通孔17が形成されている。また、サブギア12にあってメインギア11への組付け面には第2ピン18が突設されている。
【0047】
シザーズスプリング13は一部が欠けた円環形状を成しており、弾性力の高い材料で形成されている。シザーズスプリング13の両端部にはそれぞれ凹型の第1ピン支持部13a及び第2ピン支持部13bが形成されている。
【0048】
シザーズギア10は、シザーズスプリング13を介してメインギア11とサブギア12とを組み付けることによって構成される。
すなわち、図5に示すように、サブギア12の貫通孔17にメインギア11の円筒部15を挿入することにより、シザーズギア10は、メインギア11とサブギア12とが軸芯に沿って相対回転可能に重なった一枚の歯車として組み付けられる。また、シザーズスプリング13は、その第1ピン支持部13aがメインギア11に設けられた第1ピン16に当てられ、同じくその第2ピン支持部13bがサブギア12の第2ピン18に当てられた状態にてメインギア11及びサブギア12の間に収容される。これにより、シザーズスプリング13の第1ピン支持部13a及び第2ピン支持部13bの間隔が広がるようにサブギア12を回動させると、同シザーズスプリング13にはそのたわみによる弾性力が発生し、サブギア12にはその回動方向に対して回転戻り方向に作用する付勢力が加わるようになる。こうしたサブギア12に対する付勢力によって、当該シザーズギア10に噛み合う相手の歯車の歯は、メインギア11及びサブギア12にて前後より挟み込まれるようになる。
【0049】
図6に、サンシャフト1に設けられたシザーズギア10とプラネタリシャフト3に設けられた平歯車3bとの噛み合い部分についてその拡大図を示す。
ナット2を回転させてサンシャフト1を直線運動させる場合には、平歯車3bが駆動歯車となり、シザーズギア10が被動歯車となるのであるが、同図6に示すように、サブギア12に付与される上記付勢力によって、駆動歯車である平歯車3bの歯は、シザーズギア10のメインギア11及びサブギア12で挟み込まれる。より具体的には、平歯車3bの回転方向にあって歯の前面3bfにはメインギア11の歯の後面11rが当接し、また平歯車3bの歯の後面3brにはサブギア12の歯の前面12fが当接される。
【0050】
このように平歯車3bの歯は、その前後面をメインギア11及びサブギア12によって挟持されることにより、シザーズギア10や平歯車3bのバックラッシュが低減される。
こうしたシザーズギア10の作用により、本実施形態における回転直動変換機構では、サンシャフト1に設けられた歯車及びプラネタリシャフト3に設けられた歯車のバックラッシュが低減され、サンシャフト1及びプラネタリシャフト3の間における伝達トルクの変動が抑えられるようになる。さらに、シザーズギア10に噛み合う歯車の歯、すなわち上記平歯車3bがメインギア11及びサブギア12によって挟み込まれることにより、シザーズギア10と平歯車3bとの噛み合い率が高くなり、上述したような噛み合い抜けの発生が抑えられるようになる。そのため、歯車の回転中において駆動歯車(本実施形態では平歯車3b)から被動歯車(本実施形態ではシザーズギア10)への駆動力伝達が切断されるといった状況は生じにくくなり、駆動歯車から被動歯車への駆動力の伝達効率は向上するようになる。従って、当該回転直動変換機構における駆動力の伝達効率を向上させることができるようになる。
【0051】
また、噛み合い率が高くなることで、駆動歯車から被動歯車への駆動力伝達が連続して行われるようになり、噛み合う歯の切り替わりに際して、次に噛み合う被動歯車をより小さなトルクで回転させることができるようになる。従って、これによっても駆動歯車から被動歯車への駆動力の伝達効率は向上するようになり、ひいては当該回転直動変換機構における駆動力の伝達効率を向上させることができるようになる。
【0052】
さらに、噛み合い率が高くなることで、サンシャフト1及びプラネタリシャフト3にそれぞれ設けられたねじ部(雄ねじ1a及びねじ3a)の螺合状態は、滑り状態から転がり状態に近づくようになる。従って、同ねじ部での摺動抵抗は減少するようになり、これによっても当該回転直動変換機構における駆動力の伝達効率を向上させることができるようになる。
【0053】
ちなみに、シザーズスプリング13の付勢力によって平歯車3bは一定方向に付勢されるため、当該平歯車3bはリングギア4の内歯4aに対しても一定方向に付勢される。従って、平歯車3bと内歯4aとのバックラッシュも自ずと低減されるようになり、ナット2とプラネタリシャフト3との間で生じる伝達トルクの変動等も抑えられるようになると考えられる。
【0054】
以上説明したように、本実施形態によれば次のような効果を得ることができる。
(1)サンシャフト1及びプラネタリシャフト3を歯車で噛み合わせるようにしており、これによりサンシャフト1及びプラネタリシャフト3をねじにて螺合させるだけの場合と比較して、それら部材間(サンシャフト1とプラネタリシャフト3との間)における駆動力の伝達効率を高めることができるようになる。
【0055】
(2)同様に、プラネタリシャフト3及びナット2も歯車で噛み合わせるようにしており、これによりナット2及びプラネタリシャフト3をねじにて螺合させるだけの場合と比較して、それら部材間(ナット2とプラネタリシャフト3との間)における駆動力の伝達効率も高めることができるようになる。
【0056】
(3)プラネタリシャフト3の平歯車3bに噛み合うサンシャフト1の歯車として、シザーズギア10を使用するようにしている。そのため、サンシャフト1に設けられる歯車及びプラネタリシャフト3に設けられる歯車のバックラッシュが低減され、サンシャフト1とプラネタリシャフト3との間における伝達トルクの変動が抑えられるようになる。さらに、それら歯車の噛み合い率が高くなり、上記噛み合い抜けの発生が抑えられるようになるため、当該回転直動変換機構における駆動力の伝達効率を向上させることができるようになる。
【0057】
(4)また、噛み合い率が高くなることで、駆動歯車から被動歯車への駆動力伝達が連続して行われるようになり、噛み合う歯の切り替わりに際して、次に噛み合う被動歯車をより小さなトルクで回転させることができるようになる。従って、これによっても当該回転直動変換機構における駆動力の伝達効率を向上させることができるようになる。
【0058】
(5)さらに、噛み合い率が高くなることで、サンシャフト1及びプラネタリシャフト3にそれぞれ設けられたねじ部での摺動抵抗は減少するようになり、これによっても当該回転直動変換機構における駆動力の伝達効率を向上させることができるようになる。
【0059】
なお、上記実施形態は以下のように変更して実施することもできる。
・上記シザーズギア10の構造は一例であり、要は、シザーズギアに噛み合う相手の歯車の歯を、メインギア及びサブギアにて挟み込むことが可能な構造であればよい。
【0060】
・ナット2に歯車が設けられていない回転直動変換機構、すなわちナット2及びプラネタリシャフト3がねじの螺合のみで係合する回転直動変換機構にも、本発明は同様に適用することができ、この場合には上記(1)、及び(3)〜(5)に記載の効果を得ることができる。
【0061】
・サンシャフト1に設けられる歯車をシザーズギア10とするようにしたが、図7に示すように、サンシャフト1に平歯車100を設けるとともに、この平歯車100に噛み合うプラネタリシャフト3側の歯車をシザーズギア300とするようにしてもよい。すなわち、サンシャフト1とプラネタリシャフト3とを歯車にて噛み合わせる場合には、サンシャフト1に設けられる歯車及びプラネタリシャフト3に設けられる歯車のいずれか一方をシザーズギアとするようにすればよい。この場合にも、上記実施形態と同様な作用効果を得ることができる。
【0062】
・ナット2及びプラネタリシャフト3が歯車で噛み合う場合にも、サンシャフト1及びプラネタリシャフト3が歯車で噛み合う場合と同様に、上述したような伝達トルクの周期的な変動が発生するようになり、その変動量が大きい場合には、当該回転直動変換機構における駆動力の伝達効率が低下してしまうようになる。そこで、ナット2とプラネタリシャフト3とを歯車にて噛み合わせる場合には、ナット2に設けられる歯車及びプラネタリシャフト3に設けられる歯車のいずれか一方をシザーズギアとするようにしてもよい。例えば、図8に示すように、プラネタリシャフト3の平歯車3bに噛み合うリングギア4の内歯をシザーズギア400とするようにしてもよい。また、前述したような内歯4aをリングギア4に設け、この内歯4aに噛み合うプラネタリシャフト3側の歯車をシザーズギアとするようにしてもよい。
【0063】
こうした場合にも、上記実施形態と同様な作用効果を得ることができる。すなわち、ナット2に設けられる歯車及びプラネタリシャフト3に設けられる歯車のバックラッシュが低減され、ナット2及びプラネタリシャフト3の間における伝達トルクの変動が抑えられるようになる。さらに、シザーズギアに噛み合う歯車の歯がメインギア及びサブギアにて挟み込まれることにより、歯車の噛み合い率が高くなり、上述したような噛み合い抜けの発生が抑えられるようになる。そのため、歯車の回転中において駆動歯車から被動歯車への駆動力伝達が切断されるといった状況は生じにくくなり、当該回転直動変換機構における駆動力の伝達効率を向上させることができるようになる。
【0064】
また、噛み合い率が高くなることで、駆動歯車から被動歯車への駆動力伝達が連続して行われるようになり、噛み合う歯の切り替わりに際して、次に噛み合う被動歯車をより小さなトルクで回転させることができるようになる。従って、これによっても当該回転直動変換機構における駆動力の伝達効率を向上させることができるようになる。
【0065】
さらに、噛み合い率が高くなることで、ナット2及びプラネタリシャフト3にそれぞれ設けられたねじ部の螺合状態は、滑り状態から転がり状態に近づくようになる。従って、同ねじ部での摺動抵抗は減少するようになり、これによっても当該回転直動変換機構における駆動力の伝達効率を向上させることができるようになる。
【0066】
なお、この変形例は、サンシャフト1に歯車が設けられていない回転直動変換機構、すなわちサンシャフト1及びプラネタリシャフト3がねじの螺合のみで係合する回転直動変換機構にも同様に適用することができ、この場合にも上述した作用効果を得ることができる。
【0067】
また、上記実施形態で説明した回転直動変換機構のように、プラネタリシャフト3がサンシャフト1及びナット2にそれぞれ歯車にて噛み合うように構成されている場合には、サンシャフト1に設けられる歯車及びナット2に設けられる歯車をシザーズギアとする。或いは、プラネタリシャフト3に設けられる歯車をシザーズギアとすることにより、サンシャフト1及びプラネタリシャフト3の間における駆動力の伝達効率、並びにプラネタリシャフト3及びナット2の間における駆動力の伝達効率をともに向上させることができるようになる。従って、当該回転直動変換機構における駆動力の伝達効率をさらに向上させることができるようになる。
【0068】
・リングギア4の内歯4aをナット2の内周面に直接形成するようにしてもよい。この場合にはリングギア4を省略することができる。
・ナット2の内周面に設けられるリングギア4は1つでもよい。
【0069】
・上記実施形態及びその変形例では、サンシャフト1に設けられる歯車、プラネタリシャフト3に設けられる歯車、及びナット2に設けられる歯車をそれぞれ平歯車としたが、他の歯車としてもしてもよい。例えば、はすば歯車や、やまば歯車としてもよい。
【0070】
・上記実施形態及びその変形例における回転直動変換機構にあって、ナット2を回転不能且つ軸方向への移動が可能なように支持し、サンシャフト1を回転可能且つ軸方向への移動が不可となるように支持するようにすれば、サンシャフト1の回転をナット2の直線運動に変換することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明にかかる回転直動変換機構の一実施形態について、その断面構造を示す模式図。
【図2】同実施形態におけるプラネタリシャフトの構造を示す模式図。
【図3】図1の矢印A側から見た回転直動変換機構の構造を示す模式図(図1の矢視A図)。
【図4】シザーズギアの分解斜視図。
【図5】シザーズギアの部分断面図。
【図6】サンシャフトに設けられたシザーズギアとプラネタリシャフトに設けられた歯車との噛み合い部分を拡大した模式図。
【図7】同実施形態の変形例であって、サンシャフトに設けられた歯車とプラネタリシャフトに設けられたシザーズギアとの噛み合い部分を拡大した模式図。
【図8】同実施形態の変形例であって、プラネタリシャフトに設けられた歯車とナットに設けられたシザーズギアとの噛み合い部分を拡大した模式図。
【図9】歯車にて駆動力を伝達する場合に生じやすい伝達トルクの変動についてその態様を示すグラフ。
【符号の説明】
【0072】
1…サンシャフト、1a…雄ねじ、1b…凸部、2…ナット、2a…雌ねじ、3…プラネタリシャフト、3a…ねじ、3b…平歯車、3c…平歯車、3bf…(平歯車3cの)前面、3br…(平歯車3cの)後面、4…リングギア、4a…内歯、10…シザーズギア、11…メインギア、11r…(メインギア11の)後面、12…サブギア、12f…(サブギア12の)前面、13…シザーズスプリング、13a…第1ピン支持部、13b…第2ピン支持部、14…貫通孔、15…円筒部、16…第1ピン、17…貫通孔、18…第2ピン、100…平歯車、300…シザーズギア、400…シザーズギア。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面にねじを有するサンシャフトと、内周面にねじを有するナットと、前記サンシャフトの外周面と前記ナットの内周面との間に介在されて前記各ねじに螺合するねじを有するプラネタリシャフトとを備え、前記サンシャフト及び前記ナットのいずれか一方の回転運動を他方の直線運動に変換する回転直動変換機構において、
前記サンシャフトと前記プラネタリシャフトとを歯車にて噛み合わせるとともに、同サンシャフトに設けられる歯車及び同プラネタリシャフトに設けられる歯車のいずれか一方をシザーズギアとした
ことを特徴とする回転直動変換機構。
【請求項2】
外周面にねじを有するサンシャフトと、内周面にねじを有するナットと、前記サンシャフトの外周面と前記ナットの内周面との間に介在されて前記各ねじに螺合するねじを有するプラネタリシャフトとを備え、前記サンシャフト及び前記ナットのいずれか一方の回転運動を他方の直線運動に変換する回転直動変換機構において、
前記ナットと前記プラネタリシャフトとを歯車にて噛み合わせるとともに、同ナットに設けられる歯車及び同プラネタリシャフトに設けられる歯車のいずれか一方をシザーズギアとした
ことを特徴とする回転直動変換機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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