説明

回転貫入杭施工システム

【課題】経験の少ないオペレータが運転する場合にも、熟練したオペレータの運転操作に近い操作が可能となる回転貫入杭施工システムを提供する。
【解決手段】回転貫入杭を地盤中の所定位置まで回転貫入するにあたり、回転貫入杭の施工状態を連続的に測定する。測定データに所定の範囲を超える変動があった場合の施工装置に対する1または複数の特定操作を、事前の熟練オペレータの操作による施工データに基づいて設定しておく。施工中に測定データが所定の範囲を超えたとき、その特定操作を自動制御によりまたはオペレータの操作により行う。測定データとしては、施工中の、回転貫入杭に加わる回転トルク、押込み力、施工速度、回転貫入杭の単位時間当たり回転数および回転貫入杭内への土砂の浸入量などを測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転貫入杭の施工を自動またはオペレータによる操作を伴う半自動で行う回転貫入杭施工システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
構造物基礎に回転貫入杭が広く用いられており、回転貫入杭の形態としては例えば鋼管の先端または中間に翼を設けたものなどが用いられている。
【0003】
このような回転貫入杭の施工は、従来から、オペレータの手動操作で行われている場合が多い。その場合、熟練したオペレータは、施工時の杭の貫入速度や管内土の測定データ等をモニターしつつ、事前の地盤調査等からの情報や杭径等の施工条件と照らし合わせて、経験的にトルクや押込み力、回転方向等を操作している。
【0004】
従来のこのような回転貫入杭の施工技術に関しては、例えば、特許文献1に、施工中に杭などに作用するトルクや軸力を測定して、地盤強度を正確に求めようとする技術が記載されている。
【0005】
特許文献2には、施工中のトルクや軸力を制御し、過大なトルクで回転杭が破損しないようにした技術が記載されている。
【0006】
特許文献3には、施工中の各種計測データをもとに、施工管理するシステムが記載されている。
【0007】
また、特許文献4には、鋼管杭を貫入する施工ポイント別に、データを蓄積して行き、管理を行う技術が記載されている。
【0008】
【特許文献1】特開2005−220568号公報
【特許文献2】特開2005−023775号公報
【特許文献3】特開2002−021076号公報
【特許文献4】特開2006−299669号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
地盤状況に合わせて回転杭施工装置のオペレータが、回転トルク、鉛直押込み力、回転速度、正逆回転等を適切に選択して行う施工では、不確定要素が非常に多いため、特定の複数の制御要素についてある程度の法則性が得られたとしても、個々の制御の組み合わせが、必ずしも最適な制御とはならず、施工効率(速度)と施工品質がオペレータの熟練度や勘によるところが大きい。
【0010】
しかしながら、熟練したオペレータを多数確保することは難しく、人件費も高くなる。
【0011】
本発明は、上述のような課題の解決を図ったものであり、経験の少ないオペレータが運転する場合にも、熟練したオペレータの運転操作に近い操作が可能となる回転貫入杭施工システムを提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願の請求項1に係る発明は、回転貫入杭を地盤中の所定位置まで回転貫入するにあたり、回転貫入杭の施工状態を連続的に測定し、その測定データに基づいて、回転杭施工装置の操作を自動制御によりまたはオペレータの操作により行う回転貫入杭施工システムにおいて、前記施工状態に関する測定データに所定の範囲を超える変動があった場合の施工装置に対する1または複数の特定操作を、事前の熟練オペレータの操作による施工データに基づいて設定しておき、施工中に前記測定データが所定の範囲を超えたときに、前記特定操作を自動制御によりまたはオペレータの操作により行うようにしたことを特徴とするものである。
【0013】
施工状態に関する測定データに所定の範囲を超える変動があった場合というのは、施工において、例えば事前に把握されていた地盤データなどからは予測できない支障が生じ、地盤中に杭がスムーズに貫入して行かない場合などであり、その場合、施工装置にかかる負荷が大きくなり、回転トルクが大きくなったり、貫入速度(あるいは単位時間あたりの貫入量)が小さくなったり、あるいは複数の測定データが組み合わさって特定の変化を示すことで、異常が把握される。
【0014】
その場合に、熟練したオペレータが操作している場合には、経験や勘に基づいた操作を繰り返すことで対処できるのが一般的であるが、自動施工や経験の浅いオペレータの操作による場合、その対処に多くの時間を要したり、対処できずに熟練したオペレータに頼らざるを得ない状況が生じることがある。
【0015】
それに対し、本発明によれば、現場や状況に応じた熟練オペレータが行う操作があらかじめ記憶され、それに基づいて操作がなされることで、熟練オペレータの操作に近い操作による対処が可能となる。
【0016】
請求項2は、請求項1に係る回転貫入杭施工システムにおいて、前記施工状態に関する測定データとして、施工中の、前記回転貫入杭に加わる回転トルク、押込み力、施工速度、回転貫入杭の単位時間当たり回転数および回転貫入杭内への土砂の浸入量またはこれらに関連する物理量のうちの1以上が含まれることを特徴とするものである。
【0017】
これらは、一般的な自動制御においても必要とされる場合が多いものであるが、施工中におけるこれらの測定データをもとに、熟練オペレータの特定操作の必要性が判断され、その操作が実施されることになる。
【0018】
請求項3は、請求項1または2に係る回転貫入杭施工システムにおいて、前記特定操作に、施工装置による前記回転貫入杭の正逆回転、揺動、押込み、または引抜きの操作のうちの1以上の操作または組合せが含まれることを特徴とするものである。
【0019】
これらの操作は、熟練オペレータが行う可能性のある特定操作を例示したものであるが、これらの操作は、熟練オペレータが地盤条件や施工機の性能を考慮した経験によって行われるため、一般的な数値制御では自動制御は困難である。
【0020】
請求項4および請求項5は、請求項2または3記載の回転貫入杭施工システムにおいて、前記施工状態に関する測定データのうちの前記回転貫入杭内への土砂の浸入量が、施工中の回転貫入杭上部の開口部を利用して、連続的に測定されるものであることを特徴とするものである。
【0021】
回転貫入杭内の土砂(以下、「管内土」という。)の浸入状況は、回転貫入杭の施工情報として重要な測定データの一つである。実際の施工では管内土の浸入状況がスムーズに進むように操作することが、施工時間の改善と杭周面地盤の撹乱を抑え支持力を低下させない施工につながる。
【0022】
請求項4は、管内土の浸入状況を、施工中の回転貫入杭上部の開口部を利用して、非接触型の測定器で連続的に測定することを特徴とするものである。非接触型の測定器としては、光波や超音波を利用するものが例示される。この方法は、精度と経済性は劣るが回転杭の適用性の高い斜杭の施工時にも用いることができる。
【0023】
請求項5は、管内土の浸入量を、施工中の回転貫入杭上部の開口部を利用して、接触型の測定器で連続的に測定することを特徴とするものである。接触型の測定器としては、杭の開口部から先端に重錘を取り付けた測定ロープあるいは伸縮ロッドを杭内に挿入して、杭内に浸入した土砂の上面に接触させる形式のものが例示される。この方法は、斜杭の施工時には適用できないが直杭の施工時の測定では高い制度と経済性を得ることができる。
【0024】
回転杭の従来の施工では、管内土の管内への浸入量測定は継ぎ杭作業の始まる前など施工機械の停止時に錘を取り付けたメジャーを垂らして目視観測していたが、これでは、
(1) 機械を停止する必要が有り、作業時間のロスにつながる、
(2) 施工機の重要な操作情報にも関わらず連続的な記録、リアルタイムでの測定が困難なため、施工機操作の情報としては不十分で、適切な操作が困難である、
(3) 人による目視作業は、施工機械上からの作業の上、鋼管内に身を乗り出す必要がある、
などの課題があった。
【0025】
これに対し、本発明によれば、例えば、前述の測定器を、杭上部の開口部付近またはそれより上の位置に取り付けておき、管内土の浸入量を連続的に測定することで、より適切な施工が可能になる。
【発明の効果】
【0026】
施工装置を運転操作する際、施工に影響を与える要因が多数、互いに複雑に影響し合っている場合、個々の要因ごと最適と考えられる操作を求めてもその組み合わせが結果的に最適となることはほとんどなく、現状においては熟練したオペレータの経験と勘による操作に及ばない場合がほとんどであるが、本発明によれば経験の少ないオペレータが運転する場合でも、熟練したオペレータの運転操作に近い操作が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
図1は、最良の形態として、本発明の具体的な実施形態の一例をフロー図として示したものである。図2は、制御機器の構成例を模式図として示したものであり、図3は、施工データの表示例を示したものである。
【0028】
制御機器の構成例を示した図2において、符号1は集中制御室、2は無線操作の施工制御装置、3は回転杭施工機械、4は深度計、5は油圧式回転モータ、6は自動標高測定装置、7は回転貫入杭、8は回転施工機油圧装置、9は無線通信機を示す。
【0029】
上記の個々の装置自体については、従来から使用されている機器や、市販の装置を用いることができる。
集中制御室1は、数値制御装置等を含み、回転貫入杭7の施工を自動制御により行えるようにしたものであり、現場における多数の回転貫入杭7の施工の制御および管理などを行う。
【0030】
施工制御装置2は、オペレータが個々の回転貫入杭7の施工を無線操作するためのものであり、オペレータが施工状況を判断して操作することができる。
【0031】
回転杭施工機械3は、この図では油圧装置8に接続した油圧式回転モータ5の操作により、回転貫入杭7を正逆回転できるようにしたものを示している。回転杭施工機械3には深度計4を取り付け、時間ごとの施工深度を測定でき、これらから施工速度も算出できるようにしている。また、現場に設置した自動標高測定装置6によっても施工深度を測定することができる。
【0032】
図1のフロー図は、個々の回転貫入杭の貫入について、支持層(事前の地盤調査により把握)の所定位置に到達した時点を施工完了としたものである。
【0033】
なお、自動制御のためには、あらかじめ過去の施工における杭または地盤の状態に関する杭関連データ(例えば、回転貫入杭の材質、形状、寸法などのデータ、地盤柱状図における土質やN値のデータなど)、施工装置に関する施工装置関連データ(施工装置の性能など)、施工装置の運転操作に関する運転操作関連データなどの対応関係を、記憶手段に運転データベースとして記憶させておき、それらに基づいて施工機械の制御が行われるが、それらについては既存の制御技術が適用できるので、ここではそれらの説明は省略する。
【0034】
図1のフローにおいては、まず後述する特定操作に関連する係数(このフローにおけるk、α、s1、s2)の値を求める。
【0035】
回転貫入施工時には、回転貫入杭にかかるトルクおよび押込み力のほか、杭の高さ方向位置を測定するための標高や深度、管内土の量等が測定される。管内土の量は、非接触型または接触型の測定器で連続的に測定される。
【0036】
一方、杭のサイズや事前の地盤調査等の情報から、単位貫入時間(杭の所定長さ当たりの貫入に要する時間)の理論値や、地盤固さに応じた基準トルク値が算出される。
ここで、前記で測定データから算出される実際の単位貫入時間t(分)やトルク値T(kN・m)が、前記の理論値や基準トルク値と対比して所定の範囲内にあるかどうか判断する。
【0037】
フロー図における判断A1(t≦k・t0)における係数kは、例えば単位貫入時間の理論値t0(回転貫入杭の鋼管径Dp、回転翼の取付角、施工装置の回転数などから求めることができる)の概ね2倍程度を選択することができるが、その現場における熟練オペレータによる試験杭の施工データなどから決定される。
【0038】
同様に、フロー図における判断A2(T≦α・Dp・N、N:先端翼位置の地盤のN値)における係数α(通常、30〜50)も、熟練オペレータによる試験杭の施工データなどから決定される。
【0039】
ただし、これらの許容範囲の係数k、αの最適値は、現場ごとに異なる。そのため、現実の工事の際には、試験杭または最初の数本の杭の貫入を熟練者(熟練オペレータ)の手動操作で行うことにより、最適と判断される係数をあらかじめ求め、これを以降の杭貫入時の基準とする。
【0040】
例えば、熟練オペレータによる試験杭の施工の際、杭の単位貫入時間が理論値のk倍を超えたときに、熟練オペレータが、後述する特定操作を行ったとすれば、このkを基準とする。
【0041】
単位貫入時間t(判断A1)やトルク値T(判断A2)が所定範囲内に収まっている場合、高さや深さの測定値と事前の地盤調査の情報とから支持層に到達しているかを判断する。支持層に到達していれば、さらに所定位置まで貫入して施工を完了する。支持層に到達しておらず(判断A3)、回転貫入に伴う杭鋼管の閉塞がなければ(判断A4)、特に貫入条件(トルクや押込み力)を変更することなく、施工を続行する。
【0042】
一方、例えば、単位貫入時間tが理論値t0から大きく離れている場合(前記のk倍以上)は、支持層に到達しているか否かを判断する(判断A5)。
【0043】
支持層に到達していているときは、貫入と引き抜きを伴う揺動を行いながら、所定位置まで貫入する(特定操作B1)。この揺動は、概ね1/2回転以内で杭を正逆回転(S1)させて行う。これも前述したように、試験杭等における熟練オペレータが行う操作から回転角の最適値を求めておく。
【0044】
支持層に到達していない場合も、貫入と引き抜きを伴う揺動を行う(特定操作B2)。この揺動は、前述の支持層内の場合よりも回転角が大きく概ね1/2回転〜2回転以内で杭を正逆回転させる。これも前述したように、試験杭等における熟練オペレータが行う操作から回転角の最適値を求めておく。
【0045】
揺動の結果、単位貫入時間tやトルクTが所定範囲内となれば(判断A6)、その条件で貫入施工を続行する。
【0046】
揺動しても、なお単位貫入時間tやトルクTが所定範囲内とならない場合、杭に押込み力を加える(特定操作B3)。このときの力のかけ方(大きさや速度)も熟練オペレータの実績から最適値を求めておく。
【0047】
この結果、単位貫入時間tやトルクTが所定範囲内となれば(判断A7)、その条件で貫入施工を続行する。
【0048】
押込み力を加えても、なお単位貫入時間やトルクが所定範囲内とならない場合、前記揺動と押込力コントロールを、単位貫入時間やトルクが所定範囲となるまで繰り返す。ただし、所定の回数繰り返しても所定範囲とならない場合は(判断A8)、操作を中断し、熟練オペレータの手動操作等別の手段に切り替える(C)。
【0049】
また、図1のフロー図では省略しているが、単位貫入時間や施工時のトルクが所定の範囲内であっても、支持層以外の地層で管内土の鋼管内への浸入が止まったり、微増になった場合は、先端部で閉塞が始まっていることが予測されるため、閉塞させないように正逆回転の繰り返しや水噴射などの補助工法を用いて鋼管先端部の管内土を解す操作を行う。
【0050】
例えば、硬い中間層の施工中に鋼管先端部が良く締まった砂で閉塞した状態で下位の軟弱粘土層を回転貫入した場合、管内土が全く浸入しないため鋼管は貫入が止まり、同じ深度で空回りすることになる。
【0051】
以上、主として、図1のフロー図に従って説明したが、特定操作B1〜B3は、熟練オペレータの操作の再現となる操作の例を挙げたものであり、これらの操作に限定されるものではなく、再現する特定操作に応じて、判断に用いる測定データや判断の基準が選定される。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の具体的な実施形態の一例を示すフロー図である。
【図2】制御機器の構成例の模式図である。
【図3】施工データの表示例を示した図である。
【符号の説明】
【0053】
1…数値制御装置含む集中制御室、2…無線操作の施工制御装置、3…回転杭施工機械、4…深度計、5…油圧式回転モータ、6…自動標高測定装置、7…回転貫入杭、8…回転施工機油圧装置、9…無線通信機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転貫入杭を地盤中の所定位置まで回転貫入するにあたり、回転貫入杭の施工状態を連続的に測定し、その測定データに基づいて、回転杭施工装置の操作を自動制御によりまたはオペレータの操作により行う回転貫入杭施工システムにおいて、前記施工状態に関する測定データに所定の範囲を超える変動があった場合の施工装置に対する1または複数の特定操作を、事前の熟練オペレータの操作による施工データに基づいて設定しておき、施工中に前記測定データが所定の範囲を超えたときに、前記特定操作を自動制御によりまたはオペレータの操作により行うようにしたことを特徴とする回転貫入杭施工システム。
【請求項2】
前記施工状態に関する測定データとして、施工中の、前記回転貫入杭に加わる回転トルク、押込み力、施工速度、回転貫入杭の単位時間当たり回転数および回転貫入杭内への土砂の浸入量またはこれらに関連する物理量のうちの1以上が含まれることを特徴とする請求項1記載の回転貫入杭施工システム。
【請求項3】
前記特定操作に、施工装置による前記回転貫入杭の正逆回転、揺動、押込み、または引抜きの操作のうちの1以上の操作または組合せが含まれることを特徴とする請求項1または2記載の回転貫入杭施工システム。
【請求項4】
前記回転貫入杭内への土砂の浸入量を、施工中の回転貫入杭上部の開口部を利用して、非接触型の測定器で連続的に測定することを特徴とする請求項2または3記載の回転貫入杭施工システム。
【請求項5】
前記回転貫入杭内への土砂の浸入量を、施工中の回転貫入杭上部の開口部を利用して、接触型の測定器で連続的に測定することを特徴とする請求項2または3記載の回転貫入杭施工システム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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