説明

回転貫入鋼管杭及び回転貫入鋼管杭の回転貫入方法

【課題】地盤からの支持力及び周面摩擦力を有効に利用可能な鋼管杭を、簡単な構成によって実現し、ひいては製造コストを大幅に低減可能とすることを目的とする。
【解決手段】円筒状の杭本体11と、上記杭本体11の下端に固着されてなる円板状の端板12と、一対の矩形状の鋼製ブロック体が上記端板12底面において、上記杭本体11の軸心Nに対して略点対称となるように互いに離間して固着されてなる掘削刃13とを備え、上記掘削刃13は、上記鋼製ブロック体の角部のうち上記軸心Nに対して最遠に位置する角部Sが、上記端板12底面の外周直下に位置するとともに、上記鋼製ブロック体の長辺側の側面14が、上記端板12底面において上記鋼製ブロック体の短辺側の側面15と平行であって上記軸心Nを通る仮想面Q1と交差するように配置されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転圧入することにより地盤中に貫入される回転貫入鋼管杭及びその回転貫入方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、軟弱地盤上に住宅等を建設する場合には、これら軟弱地盤の補強を目的として、鋼管杭等を所定の間隔で地盤中に埋設し、これら鋼管杭上にコンクリート基礎を敷設する。このように地盤中に埋設することを目的として使用される鋼管杭としては、種々のものが提案されている。
【0003】
このような鋼管杭としては、例えば、杭本体の下端部の底面に固着される板状の掘削刃と、杭本体の下端部の外周面に固着される螺旋状の拡翼部とから構成される第1の鋼管杭が提案されている。(例えば、特許文献1参照。)この第1の鋼管杭は、使用時において重機等によって杭本体を回転させる回転力及び杭本体を地盤下方に対して押し込む圧入力が加えられる。これにより、掘削刃が地盤に押し込まれながら回転して地盤を削り、拡翼部が地盤中に押し込まれるとともに、拡翼部が回転して地盤を杭上部に押し上げる際の地盤反力によって推進力を得て、地盤中の支持層にまで鋼管杭の下端部を貫入させることが可能となる。地盤支持層にまで貫入した鋼管杭は、下端部によって支持層から上方に向けて支持力を得られるため、軟弱地盤上においても支持層のN値に応じた支持力を得た上で、住宅等を建設することが可能となる。
【0004】
しかしながら、このように拡翼部を有する第1の鋼管杭は、地盤中で拡翼部が回転しつつ地盤支持層にまで到達するため、杭本体の外周に位置する地盤が拡翼部によって乱されてしまい、杭本体の外周面の地盤との間での周面摩擦力を最大限発揮させることが困難であった。
【0005】
この周面摩擦力を発揮させるためには、第1の鋼管杭における拡翼部をなくしたうえで、掘削刃の端部を端板の外周面から突出させないように構成すれば、鋼管杭周囲の地盤を乱すことはなくなるが、この場合、拡翼部によって得られていた推進力も得られなくなり、鋼管杭を支持層にまで貫入させることが困難となる。
【0006】
このため、拡翼部のない鋼管杭であっても、地盤支持層にまで下端部を到達可能となるように構成された種々の鋼管杭が提案されている(例えば、特許文献2、特許文献3参照。)
【0007】
例えば、特許文献2に記載の第2の鋼管杭は、杭本体の下端部に対して、3枚の羽板を、各羽板間の角度が等間隔となり、各羽板の底面が端板の中心軸の延長線上に位置するように接合したものである。この第2の鋼管杭は、貫入時には、この3枚の羽板が地盤を切削、攪拌しつつ、地中に鋼管杭が押し込まれることになる。
【0008】
また、特許文献3に記載の第3の鋼管杭は、杭本体の下端部に、下端部の底面と平行をなして、半月状に形成された鋼板の掘削刃を複数枚固着したものである。この掘削刃は、回転方向の前方側に位置する側面の任意の点における接線と、この点を通る杭本体の半径方向の線とのなす角度が30°〜60°となるよう凸曲面が形成されており、貫入時には、この凸曲面が土を削りつつ、鋼管杭の外周側に押し出しながら、鋼管杭が地中に押し込まれ、支持層にまで貫入されることになる。
【特許文献1】特開平7−173832号公報
【特許文献2】特開2005−146649号公報
【特許文献3】特開2001−226960号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述の如き構成からなる第2の鋼管杭や第3の鋼管杭は、何れも拡翼部を鋼管杭の構成から除く代わりに掘削刃の構成に特徴を持たせることにより、貫入時において鋼管杭の下端部直下に位置する土を乱したり、鋼管杭外周側に押しのけたりし、鋼管杭を下方に押し込むために要する圧入力を低減し、これにより鋼管杭の貫入を容易とするものである。
【0010】
しかしながら、拡翼部によって得られていた推進力を利用することなく、主として掘削刃のみを利用することによって鋼管杭を圧入可能とするため、拡翼部を有する第1の鋼管杭における掘削刃の構成と比べて、拡翼部のない鋼管杭は、掘削刃の形状が複雑化せざるを得ない。鋼管杭は、一度の工事において多く用いられるという性質上、製造コストの低減という観点から、掘削刃の構造が簡単なものであることが望ましい。しかしながら、あまりに簡単な構造であると、鋼管杭の下方に位置する地盤を掘削する機能を、掘削刃そのものが発揮できなくなってしまうという問題点があった。
【0011】
そこで、本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、鋼管杭の下端部に位置する支持層からの支持力及び鋼管杭の外周に位置する地盤からの周面摩擦力を有効に利用可能な拡翼部のない鋼管杭であっても、所定のN値が得られる支持層にまで下端部を到達可能な鋼管杭を簡単な構成によって実現し、ひいては製造コストを大幅に低減可能な回転圧入鋼管杭を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願請求項1に記載の回転貫入鋼管杭は、回転圧入によって地盤中に貫入される回転貫入鋼管杭において、円筒状の杭本体と、上記杭本体の下端に固着されてなる円板状の端板と、一対の矩形状の鋼製ブロック体が上記端板底面において、上記杭本体の軸心に対して略点対称となるように互いに離間して固着されてなる掘削刃とを備え、上記掘削刃は、上記鋼製ブロック体の角部のうち上記軸心に対して最遠に位置する角部が、上記端板底面の外周直下に位置するとともに、上記鋼製ブロック体の長辺側の側面が、上記端板底面において上記鋼製ブロック体の短辺側の側面と平行であって上記軸心を通る仮想面と交差するように配置されていることを特徴とする。
【0013】
本願請求項2に記載の回転貫入鋼管杭は、請求項1に係る発明において、上記一対の矩形状の鋼製ブロック体の互いに対向する長辺側の側面間の距離が、上記杭本体の杭径の0.1倍以上、0.3倍以下であることを特徴とする。
【0014】
本願請求項3に記載の回転貫入鋼管杭の回転貫入方法は、請求項1または請求項2に記載の回転貫入鋼管杭を、上記端板底面の外周直下に位置する角部に近接する長辺側の側面が、回転方向の前方側に位置するように回転圧入させることにより、地盤中に貫入させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
上述した構成からなる本発明においては、地盤からの支持力及び周面摩擦力を有効に利用可能な鋼管杭を、簡単な構成によって実現し、簡単な構成であっても掘削刃の各側面を十分に利用することにより、所定のN値が得られる支持層にまで下端部を到達可能となり、ひいては鋼管杭の製造コストを大幅に低減可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照にしながら説明する。
【0017】
図1(a)は、本発明を適用した回転貫入鋼管杭1の概略正面図を、図1(b)は、回転貫入鋼管杭1の概略側面図を、図1(c)は、回転貫入鋼管杭1の底面図を示している。
【0018】
回転貫入鋼管杭1は、軟弱地盤上に建築物を建設する場合に、これら軟弱地盤の補強を目的として、地盤中に重機等を使用して貫入されるものである。回転貫入鋼管杭1は、地盤の支持層にまで貫入後において、いわゆる摩擦杭として機能する。回転貫入鋼管杭1は、主として、N値が8以上、30以下の支持層を有する地盤に対して好適に用いられるものであり、これらのN値を得ることを目的とした場合、回転貫入鋼管杭1によって補強された地盤上に建設される建築物は、3階以下の低階層からなる建築物が対象となる。これは、N値が8未満であると、支持層として十分な支持力が得られないためである。また、N値を30超とした場合は、施工上の観点から好ましくない。なお、本発明において圧入とは、地盤中に向けて回転貫入鋼管杭1を押し込むことをいい、貫入とは、回転貫入鋼管杭1の回転を利用して地盤中にむけて回転貫入鋼管杭1を押し込むことをいう。
【0019】
図1に示すように、回転貫入鋼管杭1は、杭本体11と、杭本体11の下端に固着されてなる端板12と、端板12の底面に固着されてなる一対の掘削刃13a、13bとから構成される。
【0020】
杭本体11は、長尺な円筒状の形状からなり、例えば鋼管等によって具体化される。
【0021】
端板12は、杭本体11下端の開口を閉塞することを目的として、杭本体11下端に溶接等によって固着されるもので、円板状の形状からなるものである。回転貫入鋼管杭1は、その下端において端板12によって閉塞されており、いわゆる先端閉塞型の鋼管杭として機能している。この端板12の外径は、杭本体11の外径とほぼ同様の径からなり、杭本体11外面より外周側に向けて突出した部分がない。このため、杭本体11の回転圧入時においても、端板12が杭本体11外周の地盤等を乱すことがなく、回転貫入鋼管杭1を地盤下方にまで貫入可能となる。
【0022】
掘削刃13a、13bは、回転圧入時に回転貫入鋼管杭1の下端部近傍に位置する地盤を掘削することを目的として、矩形状の鋼製ブロック体を隅肉溶接等の溶接によって端板12の底面に固着して構成されるものである。掘削刃13a、13bとして固着される鋼製ブロック体は、長方体の形状からなるもので、その長辺側の側面のいずれか1つの側面が12の底面に固着される。また、掘削刃13a、13bは何れも、図1に示すように、端板12底面に略直交する一対の長辺側の側面14及び一対の短辺側の側面15を有している。
【0023】
本発明を適用した回転貫入鋼管杭1では、掘削刃13a、13bの形状や間隔等の配置条件を以下に説明するように最適化しているため、簡単な構成であっても、地盤の掘削能力を十分に備えたものとなっている。以下、掘削刃13a、13bの配置条件について、その回転圧入時における動作、作用とともに図面を参照にしながら説明する。
【0024】
図2は、回転貫入鋼管杭1の底面図であって、掘削刃13a、13bの配置条件をより詳細に説明するための図である。なお、図2における、Nは、杭本体11の軸心を、一点鎖線R1と一点鎖線R2とは、軸芯Nを通って互いに直交する仮想線であり、何れも本発明の説明のために用いる仮想的な概念である。また、方向P1及びP2は、回転圧入時における回転貫入鋼管杭1の回転方向を示す。また、掘削刃13a、13bの一対の長辺側の側面14のうち、軸心Nの近傍に位置する長辺側の側面を側面14b、他方の長辺側の側面を側面14aという。また、掘削刃13a、13bの一対の短辺側の側面15のうち、軸心Nの近傍に位置する短辺側の側面を側面15b、他方の短辺側の側面を側面15aという。
【0025】
また、鋼製ブロック体の角部のうち、長辺側の側面14aと短辺側の側面15aとの2側面によって形成される角部を角部Sa、長辺側の側面14aと短辺側の側面15bとの2側面によって形成される角部を角部Sb、長辺側の側面14bと短辺側の側面15bとの2側面によって形成される角部を角部Sc、長辺側の側面14bと短辺側の側面15aとの2側面によって形成される角部を角部Sdという。
【0026】
掘削刃13a、13bは、端板12底面において、以下に示す条件を満たして配置されるものである。即ち、掘削刃13a、13bは、端板12の底面において、一対の鋼製ブロック体が、杭本体11の軸心Nに対して略点対称となるように互いに離間して配置される。また、掘削刃13a、13bは、鋼製ブロック体の角部のうち軸心に対して最遠に位置する角部Saが、端板12底面の外周直下に位置するように配置される。また、掘削刃13a、13bは、それぞれの掘削刃13a、13bにおける長辺側の側面14が、鋼製ブロック体の短辺側の側面15と平行をなす面であって、軸芯Nを通る仮想面Q1と交差するように配置される。なお、ここでいう仮想面Q1とは、図2中において、一点鎖線R1を通る仮想的な面であって、端板12底面と直行している面のことをいう。
【0027】
掘削刃13a、13bは、軸心Nに対して略点対称となるように配置されていることにより、回転圧入時において、長辺側の側面14及び短辺側の側面15の地盤と接触する面積が軸芯Nを中心として対称的になるため、掘削刃13a、13bの回転動作が安定することになり、安定して回転貫入鋼管杭1を鉛直下方に貫入することが可能となる。なお、掘削刃13a、13bは、それぞれの長辺側の側面14を長手方向に延長した場合における2つの側面がなす狭角が0°以上5°以下となるように、軸心Nに対して略点対称となるよう配置されていればよく、この場合において掘削刃13a、13bの回転動作が安定することになる。
【0028】
また、掘削刃13a、13bは、互いに離間して配置されることから、回転圧入時において、掘削刃13a、13bによって地盤が掘削されない領域16が、掘削刃13a、13b間の軸心N周辺にできる。この領域16には、回転圧入時において、回転圧入鋼管杭1を下方に押し込む際に、その領域16内の地盤が掘削されないことにより、地盤中の土等が入り込むことになる。
【0029】
また、掘削刃13a、13bは、角部Saが、端板12底面の外周直下に位置するとともに、長辺側の側面14が、図2中における一点鎖線R1を通る仮想面Q1と交差して配置されているため、回転圧入時において長辺側の側面14のみでなく、短辺側の側面15をも利用して、これらに接触する地盤を、回転圧入鋼管杭1外周にまで押し出すことが可能となる。
【0030】
この理由を図3、図4、図5を用いて説明する。
【0031】
図3は、端板12底面に対して、掘削刃13を一つのみ固着した例であり、本発明の範囲内に含まれない比較例として示すものである。この比較例において掘削刃13は、図3(a)に示すように、鋼製ブロック体の角部のうち軸心Nに対して最遠に位置する角部Saが端板12底面の外周直下に位置するように配置されているが、長辺側の側面14が、鋼製ブロック体の短辺側の側面15と平行をなして軸心Nを通る仮想面Q1とは交差するように配置されていない。なお、この図3(a)において仮想面Q1は、一点鎖線R1上を通っているものとする。
【0032】
このように構成される比較例としての回転貫入鋼管杭1が方向P2に向けて回転した場合、まず最初に、掘削刃13の角部Sbが固い地盤としての土砂に接触して、これら土砂を切削しながら回転することになる。ここで、例えば図3(b)の位置にまで回転した場合、即ち図3(b)に示す一点鎖線R1の位置する端板12底面直下に掘削刃13の長辺側の側面14a及び短辺側の側面15bが位置するように回転した場合、X1部の詳細は図3(c)、X2部の詳細は図3(d)に示すようになる。
【0033】
図3(c)に示すように、X1部においては、回転貫入鋼管杭1が回転することにより、長辺側の側面14aが方向U1、即ち一点鎖線R1に対して直交する方向に向けて動く。この場合、長辺側の側面14aがその進行方向U1に対して傾斜して、長辺側の側面14aの前方に位置する、角部Sbによって切削された土砂等と接触するため、これら土砂は進行方向U1と逆向きの方向であって長辺側の側面14aの面上を沿うような方向、即ち図3(c)に示す方向V1に向けて押されることになる。長辺側の側面14aによって方向V1に向けて押される土砂は、そのまま長辺側の側面14aの面上を沿って移動することになり、回転貫入鋼管杭1の外周側に向けて押されることになり、最終的には、角部Saを介して回転貫入鋼管杭1の外周に位置する地盤中に押し出されることになる。
【0034】
これに対して、X2部においては、図3(d)に示すように、短辺側の側面15bが長辺側の側面14aと同様の方向U1に向けて動くことになるが、この場合短辺側の側面15bと接触する、角部Sbによって切削された土砂等は、進行方向U1と逆向きの方向であって、短辺側の側面15bの面上を沿うような方向、即ち図3(d)に示す方向V2に向けて短辺側の側面15bの回転動作によって押されることになる。短辺側の側面15bによって方向V2に向けて押される土砂は、回転貫入鋼管杭1の外周側に押し出されず、回転貫入鋼管杭1の内周側に押されて軸心N周囲にそのまま残ることになる。ここで、軸心N周囲には、掘削刃13によって掘削されていない土砂が多く残っており、これら掘削されていない土砂に対して更に土砂が押し込まれて、軸心N周囲における圧密量が非常に多くなる。このため、このまま回転貫入鋼管杭1を圧入すると、端板12直下に位置する土砂の圧密量が多いことから、回転貫入鋼管杭1を更に圧入させる際に過度の圧入力を必要とすることになり、圧入させることが困難になると考えられる。
【0035】
上述の如き構成からなる比較例としての回転貫入鋼管杭1に対して、本発明としての回転貫入鋼管杭1の例を図4に示す。本発明としての回転貫入鋼管杭1は、比較例としての回転貫入鋼管杭1と同様に、端板12底面に対して掘削刃13を一つのみ固着した点では共通しているが、図4(a)に示すように、掘削刃13の長辺側の側面14が、鋼製ブロック体の短辺側の側面15と平行をなして軸心Nを通る仮想面Q1と交差するように配置している点のみ異なっている。
【0036】
このように構成される本発明を適用した回転貫入鋼管杭1が方向P2に向けて回転した場合、まず最初に、掘削刃13の角部Scが固い地盤としての土砂に接触して、これら土砂を切削しながら回転することになる。ここで、例えば図4(b)に示す位置にまで掘削刃13が回転した場合、即ち掘削刃13の短辺側の側面15bが一点鎖線R1の位置する端板12底面直下に位置するように回転した場合、Y1部の詳細は図4(c)に示すようになる。
【0037】
図4(c)に示すように、Y1部においては、回転貫入鋼管杭1が回転することにより、短辺側の側面15bが方向U2に向けて動く。この場合、短辺側の側面15bがその進行方向U3に対して傾斜して、短辺側の側面15bの前方に位置する、角部Scによって掘削された土砂等と接触するため、これら土砂は進行方向U3と逆向きの方向であって、短辺側の側面15bの面上を沿うような方向、即ち図4(c)に示す方向V3に向けて押されることになる。短辺側の側面15bによって方向V3に向けて押される土砂は、そのまま短辺側の側面15bの面上を沿って押されて、短辺側の側面15bの長さ分だけ回転貫入鋼管杭1の外周側に向けて移動することになる。
【0038】
この後、回転貫入鋼管杭1が更に回転して、例えば図4(d)に示す位置、即ち一点鎖線R1の位置する端板12底面直下に長辺側の側面14aが位置するように回転した場合、今度は一点鎖線R1の位置する端板12底面直下の地盤としての土砂に対して長辺側の側面14aが接触することになる。この場合、図4(d)に示す、Y2部の詳細は図4(e)に示すようになる。
【0039】
Y2部においては、回転貫入鋼管杭1の回転により長辺側の側面14aが方向U4に向けて動くことになるが、短辺側の側面15bによって移動させられた土砂を含む、長辺側の側面14aの前方に位置する土砂は、長辺側の側面14aによって、長辺側の側面14aの進行方向U4と逆方向であって長辺側の側面14aの面上を沿う方向である図4(e)中の方向V4に向けて押される。長辺側の側面14aによって方向V3に向けて押される土砂は、そのまま長辺側の側面14aの面上を沿って、回転貫入鋼管杭1の外周側に向けて移動し、最終的に角部Saを介して回転貫入鋼管杭1外周に位置する地盤中に押し出されることになる。この場合、軸心N周囲には、掘削刃13によって掘削されていない土砂がある程度残っているものの、比較例として示した回転貫入鋼管杭1と比べて、多くの土砂が掘削されている。このため、軸心N周囲における残存している土砂による圧密量は、比較例と比べて少なくなっており、圧入させることが比較的容易となる。
【0040】
このように、掘削刃13の長辺側の側面14が、短辺側の側面15と平行をなして軸心Nを通る仮想面Q1と交差しない場合は、短辺側の側面15と接触する地盤を回転貫入鋼管杭1の内周側に押すことになり、長辺側の側面14が、仮想面Q1と交差する場合は、短辺側の側面15と接触する地盤を回転貫入鋼管杭1の外周側に押し出すことになる。なお、ここでいう内周側とは、軸心Nに対して近づく方向を、外周側とは、Nに対して遠ざかる方向を意味するものとする。
【0041】
即ち、本発明を適用した回転貫入鋼管杭1は、掘削刃13の長辺側の側面14のみでなく、短辺側の側面15をも利用して、これらに接触する地盤を、1の外周側に向けて押し出すことを可能とするものである。この短辺側の側面15によって、これに接触する地盤を回転貫入鋼管杭1の外周側に向けて押し出すことを可能とするためには、上述したように、角部S1が端板12底面の外周直下に位置し、端板12底面において短辺側の側面15と平行であって軸心Nを通る仮想面Q1と交差するように、掘削刃13を端板12底面に配置することが条件となる。
【0042】
このように、掘削刃13の長辺側の側面14のみでなく、短辺側の側面15をも利用して地盤を押し出す場合、回転圧入時の回転に対する抵抗面積が増加するものの、比較例として示した回転貫入鋼管杭1と比べて、広い範囲に亘る地盤を回転貫入鋼管杭1の外周側に押し出すことが可能となる。このため、回転圧入時において、回転貫入鋼管杭1の下方に位置する軸心N周囲の土砂の圧密量が比較的少なく、回転貫入鋼管杭1の圧入時のおける圧入力を低減させることが可能となる。これに伴い、鋼製ブロック体を溶接等によって固着させるのみの簡単な構成によっても、回転貫入鋼管杭1の回転圧入作業が可能となり、非常に低コストで、鋼管杭を所定の深さまで貫入可能となる。
【0043】
因みに、上記においては、回転貫入鋼管杭1を方向P2に向けて回転した場合について説明したが、実際の回転圧入作業時においては、回転方向を方向P1から方向P2、方向P2から方向P1のように切り替えて、即ち回転方向を適宜逆方向に異ならせながら回転貫入鋼管杭1を貫入させるのが望ましい。
【0044】
即ち、図5(a)に示すように、回転貫入鋼管杭1を方向P1に向けて回転させた場合、まず最初に、角部Sdが固い地盤としての土砂に接触して、これら土砂を切削することになる。この後、角部Sdによって掘削された土砂は、その一部が短辺側の側面15aの面上を沿うような方向T1に向けて押し出され、残りが長辺側の側面14bの面上を沿うような方向T2に向けて押されることになる。方向T1に向けて押し出された土砂は、回転貫入鋼管杭1の外周側に押し出されるものの、方向T2に向けて押された土砂は、軸心N周囲に徐々に圧密されて、最終的には、回転貫入鋼管杭1を方向P1に向けて回転させて圧入させるのが困難となる。
【0045】
ここで、回転貫入鋼管杭1を方向P1に向けて回転させるのが困難となったら、図5(b)に示すように、回転貫入鋼管杭1を方向P1と逆方向である方向P2に向けて回転させる。方向P1に向けて回転させるのが困難となる場合、長辺側の一方の側面14bの前方側に多くの土砂が圧密されているが、長辺側の他方の側面14aの前方側の土砂はほとんど圧密されていないため、容易に方向P2に回転させることが可能となる。この場合、一部の土砂は、長辺側の側面13aの面上を沿って方向T3に向けて押されて、軸心N周囲に圧密されるが、大半の土砂は、短辺側の側面15b及び長辺側の側面14bの面上を沿うような方向T4に向けて押し出されることなる。なお、方向P2に向けて回転させている途中で、仮に短辺側の側面15b及び長辺側の側面14bの前方側に多くの土砂が圧密された場合、再度反対方向である方向P1に向けて回転貫入鋼管杭1を回転させて対応する。
【0046】
このように、方向P1と方向P2との間で、回転方向を適宜逆方向に異ならせながら回転貫入鋼管杭1を貫入させれば、回転圧入作業が一層容易となる。
【0047】
次に、上述の如く構成された回転貫入鋼管杭1を地盤中に貫入させる方法について説明する。
【0048】
まず、図6(a)に示すように、図示しないケーシング回転掘削機等の回転貫入鋼管杭1を回転圧入可能な重機を用いて、この回転貫入鋼管杭1を中間層22としての地盤21中に回転圧入させる。この場合、回転圧入鋼管杭1を円周方向に向けて回転させる回転力と、回転圧入鋼管杭1を鉛直下方に向けて押し込む圧入力とが重機より加えられる。
【0049】
この圧入力により、杭本体11の下端部の掘削刃13が、端板12底面直下に位置する地盤21中に食い込むことになる。地盤21中に食い込んだ掘削刃13は、重機から与えられる回転力により、上述のような動作に基づき、端板12底面直下に位置する地盤21を図6(a)に示す方向30、即ち回転貫入鋼管杭1の外周側に向けて押し出すことになる。端板12底面直下に位置する地盤21が杭本体11の外周側に押し出されたことにより、圧入抵抗を増加させることなく、更に回転貫入鋼管杭1を鉛直下方に向けて押し込むことが可能となる。
【0050】
この場合において、図2に示すような領域16に入り込む地盤21は、重機からの圧入力が加えられて端板12底面によって鉛直下方に向けて押し込まれ、一部はその押し込まれる途中に領域16周囲にばらついて掘削刃13により回転貫入鋼管杭1外周に押し出され、残りはそのまま端板12底面直下に位置する地盤21中に押し込まれることになる。
【0051】
このようにして回転貫入鋼管杭1の下端部は、中間層22としての地盤21中を貫入されて、図6(b)に示すような、所定の深さに位置する支持層23としての地盤21中にまで到達する。支持層23にまで回転貫入鋼管杭1が到達した後は、打ち止め確認後、重機より回転貫入鋼管杭1を取り外して施工を完了する。
【0052】
この場合において、回転圧入時に領域16に入り込む地盤は、上述したように端板12底面直下に位置する支持層23としての地盤21中に押し込まれ、この支持層23としての地盤21は、これによって圧力が負荷されて、地盤としての強度が向上することになる。
【0053】
施工が完了した後は、図6(b)に示すように、杭本体11の外周面と杭本体11外周面と接する地盤21との間の周面摩擦力31や、支持層23から上方に向けて働く支持力32が、回転貫入鋼管杭1に対して働くことになる。このように、本発明を適用した回転貫入鋼管杭1は、施工完了後にいわゆる摩擦杭として機能することになる。
【0054】
特に、本発明を適用した回転貫入鋼管杭1は、端板12、掘削刃13の何れもが杭本体11の外周に対して突出した部分がないため、回転貫入鋼管杭1の外周面の地盤を乱すことなく回転圧入することが可能となるため、周面摩擦力31を有効に利用可能となる。
【0055】
因みに、本発明を適用した回転貫入鋼管杭1は、掘削刃13の底面形状に先鋭化された部分がなく、平坦な形状をしていることから、施工完了後においても、支持層23から安定した支持力が得られる。また、本発明を適用した回転貫入鋼管杭1は、回転圧入時において、掘削を行ないにくい軸心N近傍の土砂を、掘削時の抵抗力が比較的少ない角部Scによって掘削可能となっており、施工性がよい。
【0056】
本発明を適用した回転圧入鋼管杭1の主構成は、上述の如き構成からなるが、必ずしも上述した構成に限定されるものではなく、以下に説明するような各構成を適用するようにしてもよい。
【0057】
本発明を適用した掘削刃13a、13bは、図2に示すような、短辺側の側面15の水平方向の長さL1が、杭本体11の杭径D1の0.1倍以上、0.3倍以下とするのが好ましい。これは、発明者らが実験結果から経験的に見積もったもので、長さL1を杭径D1の0.1倍未満とした場合、回転圧入時の回転に対する抵抗面積が低減し、掘削能力が低減するためである。また、長さL1を杭径D1の0.3倍超とした場合、掘削刃13の角部を端板12底面の外周直下に位置するように配置する必要があるため、長さL1の増加に伴い、必然的に長辺側の側面14の水平方向の長さが短くなることになる。長さL1を長くしすぎると、この長辺側の側面14の水平方向の長さが短くなり、地盤に対する接触面積が低減し、掘削能力が低減してしまうため、長さL1を杭径D1の0.3倍以下とするのが好ましい。
【0058】
また、一対の掘削刃13a、13bの、互いに対向する長辺側の側面14間の水平方向の距離L2は、杭本体11の杭径D1の0.1倍以上、0.3倍以下とするのが好ましい。これは、発明者らが実験結果から経験的に見積もったもので、距離L2を杭径D1の0.1倍未満とした場合、領域16の面積が減少し、これに伴い、回転貫入鋼管杭1の下端部が支持層23にまで到達完了した際に、端板12底面直下に位置する地盤に対して領域16を介して十分な圧入力が負荷されず、支持層23から得られる支持力32が低下するためである。また、距離L2を杭径D1の0.3倍超とした場合は、領域16の面積が大きくなりすぎ、回転圧入時に回転貫入鋼管杭1外周にまで押し出されない地盤21が増加し、この結果、圧入力を負荷しても回転貫入鋼管杭1が鉛直下方に貫入されなくなるためである。因みに、このことを換言すると、軸心Nから長辺側の側面14bまでの垂直距離は、杭径D1の0.05倍以上、0.15倍以下とするのが好ましい。
【0059】
また、仮想面Q1から、一対の短辺側の側面15であって軸心Nに近接する方の短辺側の側面15までの、掘削刃13の長手方向に向けて突出する長さL3は、杭径D1の0.05倍以上、0.2倍以下とするのが好ましい。これは、長さL3が0.05倍未満の場合、回転圧入時において短辺側の側面15に対して地盤が略垂直、またはわずかに傾斜して接触することになり、地盤を回転貫入鋼管杭1の外周側に移動させる機能を十分に発揮できないためである。また、長さL3を0.2倍超とした場合、一対の長辺側の側面14であって軸心Nに近接するほうの長辺側の側面14の、図2に示すような、仮想面Q1から突出した部分の側面17の水平方向の長さが長くなることを意味する。この側面17は、軸心Nに対して内周側に位置する側面であり、回転貫入鋼管杭1の回転圧入時において、側面17に対して接触する地盤を回転貫入鋼管杭1の内周側に向けて移動させることになる。このため、側面17の水平方向の長さが長すぎると、それだけ多くの地盤を回転貫入鋼管杭1の内周側に向けて移動させることになるため、長さL3は杭径D1の0.2倍以下とするのが好ましい。なお、長さL3は、掘削刃13a、13bで若干量異なる数値であってもよく、この場合であっても、短辺側の側面15によって地盤を外周側に向けて押すという作用を十分に奏する。
【0060】
また、掘削刃13a、13bは、図1に示すような鉛直方向の高さH1を、杭本体11の杭径D1の0.05倍以上、0.3倍以下とするのが好ましい。これは、高さH1を杭径D1の0.05倍未満とした場合、回転圧入時の回転に対する抵抗面積が低減し、掘削能力が低減するためである。また、高さH1を杭径D1の0.3倍超とした場合、回転圧入時の回転に対する抵抗面積が増加し、必要となる回転力が大きくなりすぎるためである。
【実施例】
【0061】
次に、本発明を適用した回転貫入鋼管杭1の実施例について説明する。
【0062】
本実施例においては、上述の如き構成からなる回転貫入鋼管杭1が、所定のN値を得られる支持層にまで実際に貫入可能であるか否かを確認することを目的として行ったものである。
【0063】
本実施例において使用した杭本体11は、鉛直方向の長さ9.0m、杭径114.3mm、杭本体11の厚み4.5mmの構成からなるものである。また、掘削刃13a、13bは、鉛直方向の高さH1が19mm、短辺側の側面15の水平方向の長さL1が19mmの構成からなり、掘削刃13aの長辺側の側面14の水平方向の長さが52.8mm、掘削刃13bの長辺側の側面14の水平方向の長さが50.9mmの構成からなるものである。また、一対の掘削刃13a、13bの、互いに対向する長辺側の側面14間の水平方向の距離L2は、10.15mmで構成される。
【0064】
このようにして構成される回転貫入鋼管杭1を、地盤工学会基準JGS 1812−2002記載の杭の先端載荷試験方法に従い、試験を行った。試験時においては、回転力7.1〜21.4kN/m、回転数21.1〜63.1min、最大圧入力45.6kNで回転貫入鋼管杭1を貫入させた。
【0065】
この結果、回転圧入を開始した地面の位置を0位置とした場合に、回転貫入鋼管杭1の下端部は、0位置から深度8.54mにまで到達した。この回転貫入鋼管杭1の、各深度におけるN値と、各深度との関係は、図7に示す通りである。図7に示すように、本発明を適用した回転貫入鋼管杭1は、その下端部を深度8.54mまで貫入可能であり、これにより下端部がN値15の地盤による支持力を得られることが確認できる。これにより、本発明のように、掘削刃13が簡単な構成であっても、十分な支持力が得られる地盤にまで、下端部を貫入可能であることが確かめられた。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】(a)は、回転圧入鋼管杭1の概略正面図、図1(b)は、回転圧入鋼管杭1の概略側面図、図1(c)は、回転圧入鋼管杭1の底面図である。
【図2】端板12底面に固着される掘削刃13の配置条件について説明するための図である。
【図3】比較例としての掘削刃13における長辺側の側面14及び短辺側の側面15と、これらに対して接触する地盤との動作の関係を示す図である。
【図4】本発明としての掘削刃13における長辺側の側面14及び短辺側の側面15と、これらに対して接触する地盤との動作の関係を示す図である。
【図5】回転貫入鋼管杭に対して正回転及び逆回転を加えることにより貫入させた場合の地盤としての土砂の動きを示す図である。
【図6】本発明を適用した回転貫入鋼管杭を地盤中に貫入する方法について説明するための図であり、(a)は、中間層22としての地盤21中に貫入している状態を示す図、(b)は、支持層23としての地盤21中にまで貫入した後の状態を示す図である。
【図7】本発明を適用した回転貫入鋼管杭1を所定の深さの地盤にまで貫入させた際の、深度とN値の関係を示す実験データのグラフである。
【符号の説明】
【0067】
1 回転貫入鋼管杭
11 杭本体
12 端板
13 掘削刃
14 長辺側の側面
15 短辺側の側面
16 領域
21 地盤
22 中間層
23 支持層
31 周面摩擦力
32 地盤反力
N 中心軸
P 回転方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転圧入によって地盤中に貫入される回転貫入鋼管杭において、
円筒状の杭本体と、
上記杭本体の下端に固着されてなる円板状の端板と、
一対の矩形状の鋼製ブロック体が上記端板底面において、上記杭本体の軸心に対して略点対称となるように互いに離間して固着されてなる掘削刃とを備え、
上記掘削刃は、上記鋼製ブロック体の角部のうち上記軸心に対して最遠に位置する角部が、上記端板底面の外周直下に位置するとともに、上記鋼製ブロック体の長辺側の側面が、上記端板底面において上記鋼製ブロック体の短辺側の側面と平行であって上記軸心を通る仮想面と交差するように配置されていること
を特徴とする回転貫入鋼管杭。
【請求項2】
上記一対の矩形状の鋼製ブロック体の互いに対向する長辺側の側面間の距離が、上記杭本体の杭径の0.1倍以上、0.3倍以下であること
を特徴とする請求項1記載の回転貫入鋼管杭。
【請求項3】
請求項1または2記載の回転貫入鋼管杭を、上記端板底面の外周直下に位置する角部に近接する長辺側の側面が、回転方向の前方側に位置するように回転圧入させることにより、地盤中に貫入させること
を特徴とする回転貫入鋼管杭の回転貫入方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−84951(P2009−84951A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−258936(P2007−258936)
【出願日】平成19年10月2日(2007.10.2)
【特許番号】特許第4213192号(P4213192)
【特許公報発行日】平成21年1月21日(2009.1.21)
【出願人】(507327800)地研テクノ株式会社 (3)
【Fターム(参考)】