説明

回転軸の異常診断装置および異常診断方法

【課題】材料の亀裂発生や進展に伴って生じる弾性波を、減衰させることなく、直接的に受信する異常診断装置とその異常診断装置を用いた異常診断方法を提供する。
【解決手段】弾性波検出手段と、該弾性波検出手段の信号に基づいて異常を診断する異常診断手段をそなえ、該弾性波検出手段は、回転軸の一部に接した液体を溜める液体溜りと、該液体溜りに接して設置されたアコースティックエミッション(AE)センサとを有し、該異常診断手段は、この検出した弾性波を解析することにより、回転軸に発生する異常を診断する機能を有している異常診断装置を用いて、回転軸の異常を診断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転軸に発生する亀裂等の異常を診断する診断装置およびこの診断装置を用いた異常診断方法に関し、特に、回転軸に伝播する弾性信号を、液体を介し、アコースティックエミッション(以下、AEという)センサで検出し、この検出信号に基づいて異常発生の有無を診断しようとするものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、圧延機や搬送ラインが備えられた製鉄プラントでは、モーターから発生した駆動力を、圧延ローラーや搬送ローラーに伝達するためのギアや回転軸が多数備えられている。これらの回転軸は、それぞれ軸受けに支持されている。
これら軸受けには、運転中に微細な磨耗粉等が発生した場合、磨耗粉が異物となって潤滑油に混入して、焼付きなどのトラブルとなる。また、軸受けの所定耐用年数を超えて使用すると、亀裂等の破損が生じやすくなる。
【0003】
従来より、軸受け部の重大な損傷の発生を診断する手段として、加速度計等の振動センサでプラント運転状態の指標となる振動を計測する手段や、AEセンサで材料の亀裂発生および進展に伴って発生する弾性波を計測する手段が用いられている。一般にこれらのセンサは、軸受けが備えられた鋼鉄製の軸受け箱に取付けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−26414号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、従来の異常診断装置は、軸受け部の重大な損傷を検出するために、振動センサやAEセンサを、軸受けが備えられた鋼鉄製の軸受け箱上に取付けている。しかしながら、亀裂や磨耗等の異常が発生する箇所は、軸受けだけに限られることは無く、むしろ、回転軸そのものに亀裂が発生することが多い。
つまり、従来のように軸受け箱に取付けた振動センサやAEセンサでは、材料の亀裂発生や進展に伴って発生する弾性波を、軸受け部経由で受信することになるため、センサで感知した信号が減衰してしまい、正確な診断ができないという問題があった。
【0006】
この問題に対し、特許文献1では、図1に示すような、回転体にAEセンサを取付けたAE信号の無線伝送方式が提案されている。しかし、この方法でも、無線信号のノイズの影響が避けられず、また、回転体側に取付けられたセンサの精度にも問題を残していた。なお、図中、101はAEセンサ、102は回転体、103は軸受け、104は機台、105は回転軸、106は送信装置、107は受信装置である。
【0007】
本発明は、上記の現状に鑑み開発されたもので、センサで感知した信号を減衰を抑え、回転軸上の亀裂の発生や進展に伴う弾性波信号を、液体を介して受信し、異常の診断を精度良く行うことができる異常診断装置をこの診断装置を用いた診断方法と共に提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明の要旨構成は次のとおりである。
(1)回転軸に発生する異常を検出する装置であって、少なくとも1個の弾性波検出手段と、該弾性波検出手段の検出した弾性波に基づいて異常を診断する異常診断手段をそなえ、該弾性波検出手段は、回転軸の一部に接した液体を溜める液体溜りと、該液体溜りに接して設置された液体を伝播する弾性波を検出するアコースティックエミッション(AE)センサとを有し、該異常診断手段は、この検出した弾性波を解析する装置と、この解析した弾性波から回転軸に発生する異常を診断する装置とを有することを特徴とする回転軸の異常診断装置。
【0009】
(2)前記弾性波検出手段は、前記回転軸に取付けた円盤状のリングと、このリングに接する液体を溜める液体溜りと、アコースティックエミッション(AE)センサとからなることを特徴とする前記(1)に記載の回転軸の異常診断装置。
【0010】
(3)前記液体溜りの液体が磁性流体であり、この液体溜りに、該磁性流体保持用の磁石を取付けたことを特徴とする前記(1)に記載の回転軸の異常診断装置。
【0011】
(4)前記異常診断手段は、弾性波検出手段において測定した弾性波のうち、解析する弾性波を選択する機能を有することを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載の回転軸の異常診断装置。
【0012】
(5)回転軸に発生する異常を検出するに際し、回転軸の一部に接する液体を溜める液体溜りをそなえる弾性波検出手段のアコースティックエミッション(AE)センサを用いて、回転軸からの弾性波を液体を介して検出し、この検出した弾性波を解析することにより、回転軸に発生する異常を診断することを特徴とする回転軸の異常診断方法。
【0013】
(6)前記弾性波検出手段は、前記回転軸に取付けた円盤状のリングと、このリングに接する液体を溜める液体溜りと、液体を伝播する弾性波を検出するアコースティックエミッション(AE)センサとを用いることを特徴とする前記(5)に記載の回転軸の異常診断方法。
【0014】
(7)前記回転軸の一部に接する液体を溜める液体溜りは、液体として磁性流体を用いることを特徴とする前記(5)に記載の回転軸の異常診断方法。
【0015】
(8)前記弾性波検出手段において測定した弾性波のうち、解析する弾性波を選択して解析することを特徴とする前記(5)〜(7)のいずれかに記載の回転軸の異常診断方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、回転軸に伝播する弾性波を直接的に検出できるため、その信号の減衰が少なく、また、解析する弾性波を選択することで、測定中のノイズを効果的に排除することができる。その結果、正確に回転軸の異常診断を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】特許文献1に開示の無線伝送方式の異常診断装置をそなえる回転設備の側面図である。
【図2】本発明に従う回転軸の異常診断装置をそなえる圧延機の側面図である。
【図3】本発明に従う回転軸の異常診断装置のシステム構成図である。
【図4】本発明に従う異常診断装置の液体溜り部の詳細構造を表す側面図およびA-A矢視図である。
【図5】本発明に従う他の異常診断装置の液体溜り部の詳細構造を表す側面図およびA-A矢視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について、鋼材の圧延機の回転軸を例にとり、図面を参照して説明する。
図2に、本発明に従う回転軸の異常診断装置を側面図で示す。図中、1aおよび1bは圧延ロール、2は被圧延材、3は各回転軸をサポートするための軸受け、4aおよび4bはスピンドル、5aおよび5bは液体溜り、そして、6aおよび6bが液体溜り5a,5bに設置したAEセンサである。なお、7aおよび7bはピニオンギア、8は減速機、9は電動機である。
【0019】
図3に、本発明に従う回転軸の異常診断装置のシステム構成図を示す。図中、20は弾性波検出手段(図2の液体溜り5aおよび5b、AEセンサ6aおよび6bである)であり、21はプリアンプである。また、22は異常診断手段である、AE解析装置23、選択信号を受けて解析結果を診断をする装置24をそなえている。
【0020】
図2に示したように、一般的に、鋼材の圧延ラインでは、電動機9からの出力が減速機8に伝わり、ピニオンギア7aおよび7bによって上下に分配されて、スピンドル4aおよび4bへと駆動力が伝達され、最終的に圧延ロール1aおよび1bを回転させて、被圧延材2を圧延する。潤滑油溜り5aおよび5bには、スピンドル4aおよび4bに接触するように、例えば、磁性流体や潤滑油、水などの液体が充填されている。本発明では、スピンドル4aおよび4bに接触する液体としては磁性流体が特に好適である。
また、液体溜り5aおよび5bには、スピンドル4aおよび4bに亀裂等の異常が生じたときに発生する弾性波を検出するためのAEセンサ6aおよび6bが取付けられている。
【0021】
さて、図3に示したように、弾性波検出手段20からの出力は、プリアンプ21を経由して増幅されて、異常診断手段22内のAE解析装置23で、フーリエ変換等の信号処理がなされる。また、選択信号が入ると、異常診断手段22内の診断装置24で、選択された弾性波と、予め求めておいた正常時の弾性波と照合する等の解析が行われる。
【0022】
本発明では、上述したように、選択された弾性波と、解析を行うために、予め求めておいた正常時の弾性波と照合すること等で、診断装置24には、スピンドル4aおよび4bに異常が生じていないかを診断することができる機能がある。つまり、任意のタイミングの弾性波のデータに基づいて異常を診断することができ、その結果、従来の方法では、弾性波の検出に不可避であった、測定時のノイズを効果的に排除し、正確に回転軸の異常を診断することができるようになった。
【0023】
ここで、本発明における解析とは、予め求めておいた正常時の弾性波との照合や、正常時の弾性波から求めた任意の管理パラメータのしきい値等と比較するために、照合対象の弾性波を演算処理をして、そのしきい値と照合することも含み、また、上記した診断機能とは、診断装置24が異常と診断した場合に、設備の停止まで行うような、全てを自動的に行う機能に限定しているわけではなく、作業者の最終判断のための診断機能、たとえば、異常と診断した場合に、作業者が判断するための数値等を単に表示する機能や、この表示を点滅させる、あるいは警報等を発報させるといった機能も含んでいる。
なお、任意の管理パラメータには、弾性波の最大値、変化率、平均値推移率等が例示されるが、従来公知の振動に係る管理パラメータであれば、いずれも好適に使用できる。
【0024】
図4(a)および(b)に、本発明に従う異常診断装置の液体溜り部の詳細構造を表す側面図およびA-A矢視図を示す。図中、10は防振ゴム、11は永久磁石または電磁石等の磁石である。
同図(a)に示したように、液体溜り5aは、減速機8の躯体に、ピニオンギア7aからの振動影響を受けないための防振ゴム10を介して取付けられている。スピンドル4aは、液体溜り5a内に充填した磁性流体が接触するように配置されている。同図(a)および(b)に示したとおり、液体溜り5aと、スピンドル4aとの間にはわずかな隙間がある。磁性流体を液体として使用していた場合は、この隙間から、液体溜り5a内に充填した磁性流体がこぼれないように、液体溜り5aは金属製とするのが望ましく、その境界部には磁石11を設置している。ただし、これは液体種の限定ではなく、他の液体の場合にはそれに応じた保持措置を講じれば良い。
【0025】
図5(a)および(b)に、本発明に従う円盤状のリングを回転軸に取付けた場合の異常診断装置の液体溜り部の詳細構造を表す側面図およびA-A矢視図を示す。図中、12はリングである。
同図(a)に示したように、図4の場合と同様に、液体溜り5aは、減速機8の躯体に、防振ゴム10を介して取付けられている。図5(a)および(b)に示したとおり、スピンドル4aの外周にリング12を取付けて液体溜り5aと接触している。そのため、液体溜り5aと、スピンドル4aとの隙間から液体がこぼれるおそれが小さい。従って、この場合には、磁石11をあえて設置する必要がなく、液体溜り5aは金属製である必要もない、また、その液体は、通常の潤滑剤、水などの液体が好適に使用可能である。
上記した実施形態においては、回転軸の途中に弾性波検出手段(液体溜り(オイルバス))を設置した事例で説明したが、回転軸端部等、回転軸の部位中での弾性波検出手段の設置位置に特に限定はなく、また、設置個数も特に制限はない。
【0026】
ついで、本発明に従う回転軸の異常診断装置を用いた異常診断手順について説明する。
回転軸、つまりスピンドルを有する設備、たとえば、鋼材の圧延機の回転軸(スピンドル4aおよび4b)の稼動時に亀裂が生じた場合には、亀裂に伴う弾性波が生じる。この時、この弾性波からの信号は、液体溜り5aおよび5bに取付けられたAEセンサ6aおよび6bにより、プリアンプ21を経由して増幅され、異常診断手段22内のAE解析装置23で、フーリエ変換等の信号処理を行い、異常の有無を診断するためのデータとなる。
【0027】
ついで、診断装置24に選択信号を入力する、この信号は、プログラムコントローラー等の自動装置を用いて入力しても良いし、回転軸に対する負荷がないときの信号を入力しても良い、さらには、作業者が任意のタイミングで、選択のためのスイッチ等で入力しても良い。
【0028】
この選択信号が入ると、診断装置24は、スピンドル4aおよび4bに、異常が生じていないかを解析して診断する。この解析の際には、上記したデータと、予め求めておいた正常時の弾性波とを照合等することとなるが、その照合等は、単に波形を照合するのみならず、正常時の弾性波から求めた特定の管理値と比較するために、選択した弾性波を演算処理して、この管理値と比較、照合することも含み、また、その方法は、従来公知の種々の照合方法が適用可能で、たとえば、診断装置24に数値等を表示させて、作業者が特定の管理値と比較監視して、設備の継続運転、設備停止等しても良いし、機械的に照合して警報等で発報、または設備停止等させても良い。
【0029】
以上の説明は、電磁鋼板等の圧延機の回転軸を例にとって説明したが、回転軸を有する設備は、この圧延機の回転軸と同様の構造であり、発電用タービン、旋盤加工の回転軸、ファン、ブロワー等の設備にも好適に使用でき、回転軸を有する設備であれば、上記した設備に限られないことは言うまでもない。
【実施例】
【0030】
所定耐用年数に達したものの、まだ亀裂が入っていない圧延機の回転軸を準備し、その片方の軸受けに従来と同じ装置を鋼鉄製の軸受け箱に取付けた。また、軸のもう一方に図2に示した装置を取付け、模擬負荷をかけることと、除荷(開放)することを繰り返した。本発明の方法に従って稼動させた図2に示した装置より、異常を検知した旨の信号があった時に、設備を止めて、上記の回転軸を、JIS Z 2343 に準拠した浸透探傷試験により検査したところ、微小な亀裂が確認された。この時、従来の装置は異常を感知していなかった。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明によれば、回転軸上の亀裂の発生や進展に伴う弾性波信号を、直接的に受信することができるため、圧延機や搬送ライン等回転軸が備えられた製鉄プラント等の安定的な操業を実施することができる。
【符号の説明】
【0032】
1a、1b圧延ロール
2 被圧延材
3 各回転軸の軸受け
4a、4bスピンドル
5a、5b液体溜り
6a、6b AEセンサ
7a、7bピニオンギア
8 減速機
9 電動機
10 防振ゴム
11 磁石
12 リング
20 弾性波検出手段
21 プリアンプ
22 異常診断手段
23 AE解析装置
24 診断装置
101 AEセンサ
102 回転体
103 軸受け
104 機台
105 回転軸
106 送信装置
107 受信装置
M モーター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸に発生する異常を検出する装置であって、少なくとも1個の弾性波検出手段と、該弾性波検出手段の検出した弾性波に基づいて異常を診断する異常診断手段をそなえ、該弾性波検出手段は、回転軸の一部に接した液体を溜める液体溜りと、該液体溜りに接して設置された液体を伝播する弾性波を検出するアコースティックエミッション(AE)センサとを有し、該異常診断手段は、この検出した弾性波を解析する装置と、この解析した弾性波から回転軸に発生する異常を診断する装置とを有することを特徴とする回転軸の異常診断装置。
【請求項2】
前記弾性波検出手段は、前記回転軸に取付けた円盤状のリングと、このリングに接する液体を溜める液体溜りと、アコースティックエミッション(AE)センサとからなることを特徴とする請求項1に記載の回転軸の異常診断装置。
【請求項3】
前記液体溜りの液体が磁性流体であり、この液体溜りに、該磁性流体保持用の磁石を取付けたことを特徴とする請求項1に記載の回転軸の異常診断装置。
【請求項4】
前記異常診断手段は、弾性波検出手段において測定した弾性波のうち、解析する弾性波を選択する機能を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の回転軸の異常診断装置。
【請求項5】
回転軸に発生する異常を検出するに際し、回転軸の一部に接する液体を溜める液体溜りをそなえる弾性波検出手段のアコースティックエミッション(AE)センサを用いて、回転軸からの弾性波を液体を介して検出し、この検出した弾性波を解析することにより、回転軸に発生する異常を診断することを特徴とする回転軸の異常診断方法。
【請求項6】
前記弾性波検出手段は、前記回転軸に取付けた円盤状のリングと、このリングに接する液体を溜める液体溜りと、液体を伝播する弾性波を検出するアコースティックエミッション(AE)センサとを用いることを特徴とする請求項5に記載の回転軸の異常診断方法。
【請求項7】
前記回転軸の一部に接する液体を溜める液体溜りは、液体として磁性流体を用いることを特徴とする請求項5に記載の回転軸の異常診断方法。
【請求項8】
前記弾性波検出手段において測定した弾性波のうち、解析する弾性波を選択して解析することを特徴とする請求項5〜7のいずれかに記載の回転軸の異常診断方法。





【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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