説明

回転部材支持ユニット

【課題】内圧を常に大気圧と略同一圧に保ち、グリースの外部漏洩を防止し、回転部材が長期に亘って一定の回転精度で安定して回転可能な回転部材支持ユニットを提供する。
【解決手段】主軸8、主軸を支持する複数の軸受2,4、駆動軸38の回転力を主軸に伝達する歯車G1,G2、回転部材32、収容ケース40を備え、内圧を常に大気圧と略同一圧に保つ内圧調整機構が設けられた回転部材支持ユニットU1であって、内圧調整機構として、内圧上昇時、内気を外部へ排出させ、内圧低下時、外気を内部へ流入させることで、内圧を常に大気圧と略同一圧に調整すると共に、潤滑剤を捕集して蓄積可能な内圧調整室20を設けており、その内部をケースの連通孔40hによってユニット内部と連通させ、ユニット内部を外部と連通させる開放孔20kを設けると共に、隔壁71,72によって複数の分室61,62,63に分割し、内部同士を隔壁を貫通する空気孔71h,72hで相互に連通させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、地表に生育する草木(例えば、芝生や雑草など)を根元付近から刈り払う作業に用いられる草刈機、刈払機及び芝刈機、あるいは電動工具などに関し、特に、これらに取り付けられた刈刃(回転刃)などの回転部材を軸支する回転部材支持ユニットの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
図2(a),(b)には、このような回転部材支持ユニットが備えられた草刈機の構成が一例として示されている。同図に示す構成において、かかる草刈機Aには、直線状に延出した操作管30と、当該操作管30の一端側に設けられた回転部材支持ユニット(以下、回転刃ユニットという)U2と、当該操作管30の他端側に設けられた駆動装置(エンジン)34とが備えられている。
この場合、操作管30には、その内部にエンジン34で発生された駆動力(回転出力)により回転される駆動軸38が設けられており、当該駆動軸38は、転がり軸受(以下、駆動軸軸受という)6によって回転自在に支持されている。なお、駆動軸38のエンジン34とは反対側の端部には、歯車(以下、駆動軸歯車という)G1が設けられており、駆動軸軸受6は、当該駆動軸歯車G1に外嵌されて、駆動軸38を回転自在に支持している。
【0003】
また、回転刃ユニットU2には、所定方向に延出して立設された主軸8と、当該主軸8を回転自在に支持する2つの転がり軸受(以下、回転刃側軸受2(図2(b)の下側の軸受)及び歯車側軸受4(同図の上側の軸受)という)と、駆動軸38の回転力を主軸8に伝達するために、当該駆動軸38及び主軸8の一端側(同図の左端側及び上端側)にそれぞれ設けられて相互に噛合する1組の歯車(同、駆動軸歯車G1(同図の右側の歯車)及び主軸歯車G2(同図の左側の歯車)という)と、主軸8の他端側(同図の下端側)に取り付けられた回転可能な回転部材(刈刃)32とが備えられている。
【0004】
なお、この場合、主軸8は、草刈機Aの使用状態において略垂直方向に延出するように立設されており、駆動軸38は、当該主軸8に対して所定の傾斜角度(駆動軸38と主軸8との間に形成される角度)を成して傾斜し、駆動軸歯車G1及び主軸歯車G2を介して当該主軸8と連結されている。
また、回転刃側軸受2は、主軸8の延出方向の略中間、別の捉え方をすれば、刈刃32と主軸歯車G2の間に位置付けられており、一方、歯車側軸受4は、刈刃32とは反対側の主軸8の端部(図2(b)の上端部)に位置付けられている。さらに、操作管30には、作業者を刈刃32から保護するための保護カバー42が、当該刈刃32寄りの所定位置に設けられている。
【0005】
このような構成によれば、エンジン34が駆動軸38を回転させると、当該回転力は駆動軸歯車G1を介して主軸歯車G2に伝達され、当該回転力によって主軸8を回転させることができる。これにより、エンジン34から発生した回転力の方向を変更するとともに、その速度を減速させながら、主軸8に取り付けられた刈刃32を回転させることができる。そして、作業者は、操作管30のエンジン34寄りの所定位置に取り付けられた操作ハンドル36により草刈機Aの全体を支えるとともに、刈刃32を移動させることで、草木を刈り払うことができる。
【0006】
ところで、このような草刈機に関しては、従来からその利便性の向上や安全性の向上を図るための各種の方策が知られている。例えば、特許文献1においては、連結管(操作管)の角度を任意に変更することが可能な草刈機の構成が開示されており、これにより、傾斜地でも草木の刈り払い作業を軽快に行うことなどを可能とし、当該草刈機における利便性の向上を実現している。一方、例えば、特許文献2においては、容易且つ確実に刈刃(回転刃)を主軸に取り付けることが可能な草刈機の構成が開示されており、これにより、刈刃(回転刃)が主軸から外れることを有効に防止することができ、当該草刈機における安全性の向上を実現している。
【0007】
また、かかる草刈機Aにおいて、駆動軸歯車G1及び主軸歯車G2の歯が相互に接触する部分の摩擦や摩耗の減少、回転刃側軸受2、歯車側軸受4及び駆動軸軸受6の焼付き防止や疲れ寿命の延長などを目的として、当該各歯車G1,G2、当該各軸受2,4,6の潤滑を行うことによっても、結果として、刈刃32を長期に亘って、安定してスムーズに回転させることができ、当該草刈機Aにおける利便性の向上や安全性の向上を図ることができる。
【0008】
このため、例えば、駆動軸歯車G1及び主軸歯車G2を潤滑すべく、当該歯車G1,G2を取り囲む所定の空間部Sには、極圧剤入りのグリース(以下、歯車潤滑グリースという)が当該空間部Sの空間容積に対して略70%〜100%の体積比となるように充填(封入)されている。この場合、歯車潤滑グリースとしては、アメリカグリース協会(NLGI:National Lubricating Grease Institute)が規定するちょう度No.2(ちょう度番号2号)のグリースが用いられており、当該グリースは、一例として、増ちょう剤がリチウム石鹸、基油が鉱油系で構成されている。
【0009】
また、例えば、回転刃側軸受2としては、その内外輪間に接触型のゴムシール(図示しない)が介在されているとともに、転動体として玉が内外輪間に組み込まれた密封玉軸受が適用されており、当該回転刃側軸受2を潤滑するために、一例として、増ちょう剤がリチウム石鹸、基油が鉱油系で構成されたグリース(以下、軸受潤滑グリースという)が当該軸受内部に封入されている。この場合、ゴムシール(図示しない)は、一例として、その外径部が回転刃側軸受2の外輪に固定されているとともに、その内径部(リップ部)が当該回転刃側軸受2の内輪に形成されたシール溝(図示しない)に摺接されるように位置付けられている。
【0010】
このように各歯車G1,G2及び各軸受2,4が潤滑された回転刃ユニットU2において、回転刃側軸受2は、ゴムシール(歯車G1,G2側に位置するシール(図示しない))を介するだけで、常時歯車潤滑グリースと接触している。
また、草刈機Aの使用状態においては、駆動軸歯車G1と回転刃側軸受2及び主軸歯車G2と回転刃側軸受2が当該歯車G1,G2を上にして縦に並んでいるため、歯車潤滑グリースは、その自重により歯車G1,G2側に位置するゴムシール(図示しない)の外面(歯車G1,G2側の面)へ大量に堆積し、当該シールを押圧することとなる。加えて、主軸8の回転による空間部Sの圧力変化、さらには、当該回転刃側軸受2の回転による振動によっても、歯車潤滑グリースが歯車G1,G2側に位置するゴムシール(図示しない)の外面(歯車G1,G2側の面)へ大量に堆積し、当該シールは押圧される。
【0011】
そして、歯車潤滑グリースによってゴムシール(図示しない)の押圧が継続されると、結果として、当該シールのリップ部と回転刃側軸受2のシール溝との摺接部から当該歯車潤滑グリースが回転刃側軸受2の内部に漏洩(侵入)してしまう場合がある。
この場合、例えば、回転刃側軸受2の内部に封入されるグリース(軸受潤滑グリース)として、歯車潤滑グリースと類似した構成のグリースを適用することで、軸受潤滑グリースが当該歯車潤滑グリースと混合することによって生じるグリースの変質や不具合などを最小限に止めることができる。
【特許文献1】特開2004−194521号公報
【特許文献2】特開平8−130959号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上述したような歯車潤滑グリースの軸受内部への漏洩(侵入)が進行すると、回転刃側軸受2内のグリース量が設定値よりも増加し、攪拌や剪断が活発化され、当該グリースが軟化してしまう場合がある。このようなグリースの軟化が発生すると、回転刃側軸受2のゴムシール(刈刃32側に位置するシール(図示しない))のリップ部と当該回転刃側軸受2のシール溝(図示しない)との摺接部や、当該シールに設けられた空気孔(図示しない)などから、当該グリースが回転刃側軸受2の外部へ漏洩してしまう場合がある。この場合、例えば、漏洩したグリースが刈刃32に付着し(図2(b)におけるグリースGbの状態)、当該刈刃32の回転精度を悪化させる虞があるだけでなく、草木や土壌に対して悪影響を与える虞もある。
【0013】
また、歯車潤滑グリースが回転刃側軸受2の内部、さらには当該回転刃側軸受2の外部へ継続的に漏洩(侵入)すると、駆動軸歯車G1及び主軸歯車G2が潤滑不足となり、例えば、各歯車G1,G2の歯が相互に摩擦されて摩耗することで、当該歯車G1,G2がスムーズに回転せず、これらの回転精度が悪化してしまう場合がある。
【0014】
このような不都合を回避するための方策として、例えば、歯車潤滑グリースとして、NLGIちょう度がNo.3やNo.4のグリース、すなわち、NLGIちょう度No.2のグリースよりも硬いグリースなどを適用し、当該グリースが攪拌や剪断されることによる軟化を抑制させ、駆動軸歯車G1及び主軸歯車G2を取り囲む所定の空間部Sの内壁に当該グリースを付着させる方策や、当該グリースの充填量(封入量)を減少させる方策などがある。
【0015】
しかしながら、歯車潤滑グリースの硬度を高めると、当該グリースの流動性が低下し、駆動軸歯車G1及び主軸歯車G2の潤滑に寄与するグリースの量が少なくなり、結果として、当該歯車G1,G2が潤滑不足となって、例えば、上述の場合と同様に、各歯車G1,G2の歯が相互に摩擦されて摩耗してしまう場合がある。また一方、歯車潤滑グリースの充填量(封入量)を減少させると、グリースが充分に空間部S内に行き渡らず、結果として、駆動軸歯車G1及び主軸歯車G2が潤滑不足となり、同様の事態になってしまう場合がある。
【0016】
本発明は、このような課題を解決するためになされており、その目的は、内圧を常に大気圧と略同一圧に保つことで、内部に封入したグリースの外部への漏洩を防止するとともに、回転部材を長期に亘って一定の回転精度で安定して回転させ続けることが可能な回転部材支持ユニットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
このような目的を達成するために、本発明に係る回転部材支持ユニットは、所定方向に延出して立設された主軸と、当該主軸を回転自在に支持する複数の転がり軸受と、駆動装置によって回転される駆動軸の回転力を主軸に伝達するために、当該駆動軸及び主軸の一端側にそれぞれ設けられて相互に噛合する少なくとも1組の歯車と、主軸の他端側に取り付けられた回転部材と、前記主軸、転がり軸受及び歯車を収容するケースとを備え、内圧を常に大気圧と略同一圧に保つための内圧調整機構が設けられている。
かかる回転部材支持ユニットにおいて、内圧調整機構として、前記回転部材支持ユニットの内圧の上昇時には、前記ユニットの内気を当該ユニットの内部から外部へ排出させ、前記内圧の低下時には、前記ユニットの外気を当該ユニットの外部から内部へ流入させることで、当該ユニットの内圧を常に大気圧と略同一圧に調整するとともに、前記ユニット内部に封入された潤滑剤を捕集して蓄積可能な内圧調整室が設けられている。この場合、内圧調整室は、その内部が前記ケースに設けられた連通孔によって前記ユニットの内部と連通され、当該ユニットの内部を外部と連通させる開放孔を少なくとも1つ有しているとともに、隔壁によって複数の分室に分割され、これらの分室の内部同士が前記隔壁を貫通する空気孔によって相互に連通されている。
【0018】
一例として、内圧調整室は、1つの隔壁によって中心部に分室が1つ形成され、当該分室を取り囲んで、さらに分室と隔壁とが交互に外側へ複数配設された分割構造を成しており、隣り合う隔壁に形成された空気孔は、相互に正対することのないように配置すればよい。
なお、主軸には、回転部材として、地表に生育する草木を根元付近から刈り払うための刈刃を取り付けることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の回転部材支持ユニットによれば、その内圧を常に大気圧と略同一圧に保つことができ、この結果、内部に封入したグリースの外部への漏洩を防止するとともに、回転部材を長期に亘って一定の回転精度で安定して回転させ続けることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態に係る回転部材支持ユニットについて、添付図面を参照して説明する。なお、本発明は、例えば、草刈機、刈払機及び芝刈機、あるいは電動工具などに搭載される回転部材支持ユニットとして適用することができる。すなわち、本発明は、主軸が所定方向に延出して立設され、当該主軸とともに回転する各種の回転部材を軸支する回転部材支持ユニットに適用することができるが、以下では、地表に生育する草木を根元付近から刈り払うための刈刃(回転刃)が、回転部材として主軸へ取り付けられた草刈機に用いられる回転刃ユニットを一例として想定し、当該回転刃ユニットの構成について説明する。なお、この場合、本実施形態に係る草刈機の全体構成としては、上述した従来の草刈機A(図2(a))と同様の構成を一例として想定する。また、本実施形態に係る回転刃ユニットの基本的な構成は、上述した従来の回転刃ユニットU2(図2(b))と同様であるため、当該回転刃ユニットU2と同一若しくは類似の構成については、図面上で同一の符号を付して、その説明を省略若しくは簡略化する。
【0021】
図1(a)〜(d)には、本発明の一実施形態に係る草刈機の回転刃ユニットU1(回転部材支持ユニット)が示されており、係る回転刃ユニットU1には、所定方向に延出した主軸8と、当該主軸8を回転自在に支持する複数の転がり軸受2,4と、駆動装置(エンジン34(図2(a)参照))によって回転される駆動軸38の回転力を主軸8に伝達するために、当該駆動軸38及び主軸8の一端側(図1(a)の左端側及び上端側)にそれぞれ設けられて相互に噛合する少なくとも1組の歯車G1,G2と、主軸8の他端側(同図の下端側)に取り付けられた回転部材(刈刃32)とが備えられている。
【0022】
なお、主軸8、転がり軸受2,4及び歯車G1,G2は、筒状を成す所定のケース40内にそれぞれ収容されており、刈刃32は、締結部材(ねじ)で主軸8に締結固定され、当該ケース40の外側(図1(a)の下側)に取り付けられている。
また、主軸8は、草刈機の使用状態において略垂直方向に延出するように立設されているのに対し、駆動軸38は、当該主軸8に対して所定の傾斜角度(駆動軸38と主軸8との間に形成される角度)を成して傾斜し、駆動軸歯車G1及び主軸歯車G2を介して当該主軸8と連結されている。なお、当該傾斜角度は、例えば、草刈機の使用環境や使用目的などに応じて任意に設定されるため、ここでは特に限定しないが、一例として、本実施形態においては、駆動軸38が主軸8に対して約120°(別の捉え方をすると、刈刃32に対して約30°)の傾斜角度を成して傾斜するように構成している(図1(a))。
【0023】
図1(a)に示す構成において、回転刃ユニットU1には、一例として、2つの転がり軸受(回転刃側軸受2(同図の下側の軸受)及び歯車側軸受4(同図の上側の軸受))が設けられており、当該回転刃側軸受2及び当該歯車側軸受4は、主軸8に外嵌されるとともに、ケース40に内嵌されて、当該主軸8を回転自在に支持している。この場合、一例として、回転刃側軸受2は、主軸8の延出方向の略中間、別の捉え方をすれば、刈刃32と歯車G2(後述する主軸歯車)の間に位置付けられており、歯車側軸受4は、刈刃32とは反対側の主軸8の端部(図1(a)の上端部)に位置付けられている。
【0024】
また、図1(a)に示す構成において、回転刃ユニットU1には、一例として、1組の歯車(駆動軸歯車G1(同図の右側の歯車)及び主軸歯車G2(同図の左側の歯車))が設けられており、当該駆動軸歯車G1は駆動軸38に外嵌され、当該主軸歯車G2は主軸8に外嵌されて、相互に噛合している。これにより、駆動軸歯車G1及び主軸歯車G2は、エンジン34(図2(a))で発生させた回転力の方向を変更するとともに、その速度を減速させながら、主軸8に取り付けられた刈刃32を回転させており、いわゆる変速機の機能を果たしている。
【0025】
なお、駆動軸歯車G1及び主軸歯車G2の種類、大きさ、形状及び歯の数やピッチなどは、例えば、駆動軸38及び主軸8の大きさ、両軸の位置関係などに応じて任意に設定されるため、ここでは特に限定しない。例えば、本実施形態に係る草刈機のように、駆動軸38と主軸8とが所定の傾斜角度(例えば、約120°)を成して連結される構成の場合(図1(a)参照)、駆動軸歯車G1及び主軸歯車G2としては、すぐばかさ歯車、はすばかさ歯車及びまがりばかさ歯車などのかさ歯車を適用すればよい。
【0026】
本実施形態において、回転部材支持ユニットである回転刃ユニットU1には、当該回転刃ユニットU1の内圧を常に大気圧と略同一圧に保つための内圧調整機構が設けられている。この場合、かかる内圧調整機構としては、回転刃ユニットU1の内気の排出、及び回転刃ユニットU1への外気の流入によって、当該回転刃ユニットU1の内圧を調整する内圧調整室20が設けられている。すなわち、内圧調整室20は、回転刃ユニットU1の内圧の上昇時、回転刃ユニットU1の内気を当該ユニットU1の内部から外部へ排出させ、当該ユニットU1の内部を減圧させることで、回転刃ユニットU1の内圧を大気圧と略同一圧となるように調整する。一方、回転刃ユニットU1の内圧の低下時には、当該回転刃ユニットU1の外気を当該ユニットU1の外部から内部へ流入させ、当該ユニットU1の内部を加圧させることで、回転刃ユニットU1の内圧を大気圧と略同一圧となるように調整する。これにより、内圧調整室20は、回転刃ユニットU1の内圧を常に大気圧と略同一圧に保っている。
【0027】
かかる内圧調整室20は、その内部(以下、調整室内部という)がケース40に設けられた連通孔40hによって回転刃ユニットU1の内部(図1(a)における駆動軸歯車G1及び主軸歯車G2を取り囲む所定の空間部S)と連通されているとともに、当該回転刃ユニットU1の内部(空間部S)を外部と連通させるための開放孔を少なくとも1つ有した構造を成している。
【0028】
図1(a)〜(d)に示す構成においては、一例として、内圧調整室20の全体の外郭形状を略円筒状とし、当該円筒の一方側(図1(a)の上側)を蓋部20bによって閉塞することで、調整室内部に所定の円柱状の空間部を形成しているとともに、周縁部20cに対し、開放孔20kを1つだけ設けた構造としている。このように、内圧調整室20は、調整室内部を開放孔20kによって外部と連通させることで、当該調整室内部と連通孔40hによって連通された回転刃ユニットU1の内部(空間部S)を外部に対して連通させる、すなわち空間部Sを外部に対して開放することを可能としている。
【0029】
この場合、開放孔20kは、一例として、周縁部20cの一方側(蓋部20bとは反対側(図1(a)の下側))を部分的に所定形状(半円形や矩形など)で、所定大に切り欠いた切り欠きとして形成されている。
なお、開放孔20kは、調整室内部を経由して回転刃ユニットU1の内部(空間部S)を外部と連通させる(空間部Sを外部に対して開放する)ことが可能であれば、その形態(大きさや形状など)、位置及び数などは、特に限定されない。例えば、開放孔20kとして、切り欠きではなく、内圧調整室20の周縁部20cに断面形状が円形や矩形などを成す所定大の貫通孔を形成してもよい。また、開放孔20kは、1つだけでなく2つ以上形成してもよく、この場合、全ての開放孔20kを同一形状の切り欠きや貫通孔としてもよいし、異なる形状の切り欠きや貫通孔を組み合わせて開放孔20kを構成してもよい。
【0030】
また、内圧調整室20は、調整室内部(上述した円柱状の空間部)が、隔壁によって複数の分室(以下、隔室という)に分割された構造、具体的には、1つの隔壁によって中心部に隔室が1つ形成され、当該隔室を取り囲んで、さらに隔室と隔壁とが交互に外側へ複数配設された分割構造を成している。一例として、図1(a)〜(d)に示す構成においては、内圧調整室20の調整室内部が当該調整室内部と同心で、径の異なる2つの円環状の隔壁71,72によって3つの隔室61,62,63に分割されている。
【0031】
この場合、内圧調整室20は、その調整室内部が比較的小径の円環状の隔壁(同、第1隔壁という)71によって分割され、中心部に円筒状の隔室(以下、第1隔室という)61が形成されるとともに、その外側に当該第1隔室61よりも大径円環状の隔室が形成される。さらに、当該大径円環状の隔室が比較的大径の円環状の隔壁(同、第2隔壁という)72によって分割されて、第1隔室61と第2隔壁72との間に当該第1隔室61よりも大径円環状の隔室(以下、第2隔室という)62が形成されるとともに、第2隔室62と内圧調整室20の周縁部20cとの間に当該第2隔室62よりも大径円環状の隔室(同、第3隔室という)63が形成される。
【0032】
すなわち、内圧調整室20は、第1隔壁71に隔てられた状態で、第1隔室61の外側を第2隔室62が同心状に取り囲んだ構造となるとともに、第2隔壁72に隔てられた状態で、第2隔室62の外側を第3隔室63が同心状に取り囲んだ構造となる。
【0033】
また、かかる内圧調整室20において、これらの隔室61,62,63は、その内部同士が隔壁71,72を貫通する空気孔71h,72hによって相互に連通されている。具体的には、第1隔室61の内部と第2隔室62の内部とが、第1隔壁71に形成された空気孔71hによって相互に連通されており、第2隔室62の内部と第3隔室63の内部とが、第2隔壁72に形成された空気孔72hによって相互に連通されている。これにより、第1隔室61、第2隔室62及び第3隔室63を、それぞれの内部が第1隔壁71の空気孔71h及び第2隔壁72の空気孔72hによって相互に連通された構造とすることができる。
【0034】
この場合、空気孔71h,72hは、隔室61,62,63の内部を相互に連通させることが可能であれば、その形態(大きさや形状など)、位置及び数は特に限定されない。一例として、本実施形態においては、第1隔壁71及び第2隔壁72の一方側(図1(a),(d)の上側、若しくは下側)を部分的に所定形状(半円形や矩形など)で、所定大に切り欠いた切り欠きとして、空気孔71h,72hが形成されている場合を想定する。ただし、このような切り欠きに代えて、例えば、空気孔71h,72hとして、第1隔壁71を内周側(第1隔室61側)から外周側(第2隔室62側)まで、及び第2隔壁72を内周側(第2隔室62側)から外周側(第3隔室63側)まで、それぞれ断面形状が所定大の円形や矩形などを成して貫通する貫通孔を形成してもよい。
【0035】
図1(b),(c)に示す構成においては、一例として、第1隔壁71及び第2隔壁72にそれぞれ2つずつ、合計4つの空気孔71h,72hが設けられており、第1隔壁71の2つの空気孔71hが当該第1隔壁71の中心に対して180°の位相差を持って(すなわち、直径の両端上に)配置されているとともに、第2隔壁72の2つの空気孔72hも当該第2隔壁72の中心に対して180°の位相差を持って(すなわち、直径の両端上に)配置されている。そして、この場合、第1隔壁71の空気孔71hと第2隔壁72の空気孔72hとは、交互に各隔壁71,72の中心に対して90°の位相差を持って相互に正対せずに配置されている。さらに、第2隔壁72の2つの空気孔72hが、いずれも開放孔20kと所定の位相差を有し、正対しないように配置されている。すなわち、空気孔71h、空気孔72h及び開放孔20kは、いずれも正対しないように配置された構造となる。
【0036】
このように4つの空気孔71h,72hを配設することで、内圧調整室20の内気を各隔室61,62,63内へスムーズに流動させられることに加え、外部から内圧調整室20の内部への異物(例えば、刈り払った草木の屑、汚泥や塵埃など)の侵入を有効に防止することができる。すなわち、例えば、内圧調整室20に対し、外部から開放孔20kを通って第3隔室63の中へ異物が侵入した場合であっても、当該異物は、開放孔20k、空気孔71h及び空気孔72hがいずれも正対しないため、第3隔室63から第2隔室62及び第1隔室61へ、さらには連通孔40hにより第1隔室61と連通した回転刃ユニットU1の内部(空間部S)まで容易に侵入することができず、かかる異物の侵入を有効に防止することができる。
この結果、回転刃ユニットU1の内部(空間部S)への異物の侵入による駆動軸歯車G1及び主軸歯車G2の早期損傷、並びに、回転刃側軸受2、歯車側軸受4及び駆動軸軸受6の早期損傷などを有効に防止することができる。
【0037】
なお、本実施形態においては、第1隔壁71及び第2隔壁72に対し、それぞれ2つずつ空気孔71h,72hを設けたが、第1隔壁71及び第2隔壁72に対して、それぞれ1つずつ空気孔71h,72hを設けてもよいし、それぞれ3つ以上の空気孔71h,72hを設けてもよい。この場合であっても、第1隔壁71の空気孔71hと第2隔壁72の空気孔72hとは、、相互に正対することのないように所定の位相差を設けて配置するとともに、空気孔72hが開放孔40kと正対することのないように所定の位相差を設けて配置することが好ましい。
また、空気孔71h,72hは、全て同一大で同一形状の切り欠きや貫通孔としてもよいし、隔壁71,72ごと、若しくは、各隔壁71,72内で異なる大きさや異なる形状の切り欠きや貫通孔を組み合わせて空気孔71h,72hを形成してもよい。
【0038】
ここで、内圧調整室20の大きさ、形状及び数、並びに、隔室61,62,63及び隔壁71,72の大きさ、形状及び数などは、例えば、回転刃ユニットU1の大きさなどに応じて任意に設定されるため、特に限定しない。
一例として、図1(a)〜(d)に示す構成においては、隔室61,62,63及び隔壁71,72を円形状(円筒状及び円柱状)に形成したが、このような円形状の他、例えば、楕円形状(楕円筒状や楕円柱状)、矩形状(矩形筒状や矩形柱状)及び多角形状(多角形筒状や多角形柱状)などを成していてもよい。また、これらの各種形状を組み合わせて、隔室61,62,63及び隔壁71,72を形成してもよい。
【0039】
また、図1(a)に示す構成においては、内圧調整室20をケース40の天部(同図の上部)40uに1つだけ外設している。この場合、内圧調整室20の周縁部20cには、その一方側の端部(蓋部20bとは反対側の端部(図1(a),(d)の下端部))に周方向へ沿って、当該内圧調整室20をケース40に取り付けるための係合部(以下、固定つめという)20jが設けられている。かかる固定つめ20jは、周縁部20cの一方側の端部(図1(a),(d)の下端部)に連続し、当該端部の開放孔20k部分を除く全周に亘って略直角に所定高さ(同図の上下方向の距離)で、周縁部20cの縮径方向へ所定距離だけ突出して形成されている。これに対し、ケース40には、主軸8の回転方向の外周部に、内圧調整室20の固定つめ20jの全体を係合させるための凹状の溝(以下、係合溝という)40dが周方向に沿って、当該固定つめ20jと略同一の大きさ(長さ、幅(高さ)及び深さ(距離))で形成されている。
これにより、かかる固定つめ20jをケース40の係合溝40dに係合させ、周縁部20cの内周面が前記ケース40の外周面と略面一となるまで当該係合溝40dに押し込むことで、内圧調整室20を当該ケース40に対して容易に取り付ける(嵌合固定させる)ことができる。
【0040】
なお、内圧調整室20の取り付け方法は、このような嵌合固定に限定されず、この他にも、例えば、接着や溶接などにより接合固定してもよいし、締結部材(ねじやピンなど)により締結固定してもよい。また、これらの各種の方法を組み合わせることで、内圧調整室20をケース40に対して取り付けてもよい。
また、図1(a)に示す構成においては、一例として、内圧調整室20をケース40の天部40uに外設しているが、その位置はこれに限定されず、例えば、ケース40の側面部(主軸8の延出方向に対して水平方向(同図の左右方向、例えば、同図において左側面部))に外設してもよい。
【0041】
ここで、内圧調整室20は、このように固定つめ20jをケース40の係合溝40dに係合させた状態で、第1隔壁71及び第2隔壁72の一方側の端部(図1(a),(d)の下端部)がケース40の天部40uの外側(図1(a)の上側)に密接するように、当該隔壁71,72の高さ(図1(a),(d)の上下方向の距離)を所定寸法に設定して構成されている。なお、この場合、第1隔壁71及び第2隔壁72の一方側の端部(図1(a),(d)の下端部)とケース40の天部40uとを、例えば、接着や溶接などによりそれぞれ接合固定した構成としてもよい。
【0042】
また、内圧調整室20は、同様に固定つめ20jを係合溝40dに係合させた状態で、ケース40の天部40uに設けられた連通孔40hの外部側(図1(a)の上側)への開口部hoが第1隔室61内で開口されるように、内圧調整室20の大きさ、並びに第1隔室61の大きさ(径)を所定寸法に設定して構成されているとともに、ケース40に対して位置決めされている。これにより、第1隔室61と回転刃ユニットU1の内部(空間部S)とを連通孔40hによって連通させることができ、さらには、空気孔71,72を経由して第2隔室62及び第3隔室63を空間部Sとそれぞれ連通させることができる。すなわち、内圧調整室20の内部と回転刃ユニットU1の内部(空間部S)とを相互に連通させることができるとともに、開放孔20kを通して空間部Sが外部に対して開放可能となるように構成することができる。
【0043】
なお、この場合、ケース40の天部40uには、当該天部40uの内側から外側まで(歯車側軸受4側から第1隔室61側まで(図1(a)の下側から上側まで))を貫通する連通孔40hが設けられており、当該連通孔40hは、内圧調整室20の内部と回転刃ユニットU1の内部(空間部S)とを連通させることが可能であれば、その大きさ、形状及び数などは、内圧調整室20の大きさや回転刃ユニットU1の大きさなどに応じて任意に設定することができる。
【0044】
一例として、図1(a)に示す構成においては、ケース40の天部40uの内側から外側までを直径1mmの円筒状に貫通する貫通孔として、連通孔40hが1つだけ形成されている場合を想定している。また、連通孔40hの形成位置は、内圧調整室20の内部と回転刃ユニットU1の内部(空間部S)とを連通させることが可能であれば特に限定されないが、上述したように開口部hoが内圧調整室20の第1隔室61内で開口されるようにケース40の天部40uに対して形成することが望ましい。さらに、連通孔40hを2つ以上形成してもよいが、この場合であっても、これらの連通孔40hは、同様に内圧調整室20の第1隔室61内に開口部hoを開口させるように形成することが望ましい。
【0045】
なお、内圧調整室20の素材については特に言及しなかったが、内圧調整室20は、例えば、ポリエチレンなど各種の樹脂材や、ニトリルゴムなど各種の弾性材で構成すればよい。これにより、固定つめ20jに対して拡径方向へ僅かな力を加えるだけで当該固定つめ20jを弾性変形させて径を拡大させることができ、その後、前記拡径方向への力を解除することで、固定つめ20jは、拡径前の元の状態まで戻り、内圧調整室20をケース40に対して容易に嵌合固定させることができる。同様に、取り外しも容易となり、例えば、内圧調整室20を脱着して行うメンテナンス作業などが容易となる。
ただし、刈刃32の回転に伴う回転刃ユニットU1の温度上昇を考慮すれば、内圧調整室20は、高温下(例えば、110℃以上)においても変形や変質などが生じることのない素材(例えば、融点が110℃以上の樹脂材や弾性材)などを用いて構成することが好ましい。また、回転刃ユニットU1に対する潤滑を考慮すれば、後述する歯車潤滑グリースに対して変質などが生じることのない樹脂材や弾性材で構成することが好ましい。
【0046】
このように、回転刃ユニットU1に対して内圧調整室20を設けることで、当該回転刃ユニットU1の内部(空間部S)と内圧調整室20の調整室内部とが連通孔40hによって連通され、平常時において、当該回転刃ユニットU1の内圧と内圧調整室20の内圧とは、いずれも略一定圧(大気圧と略同一圧)に保たれた状態となる。具体的には、回転刃ユニットU1の内圧と、空気孔71h,72hで相互に連通された第1隔室61、第2隔室62及び第3隔室63の各内圧が大気圧と略同一圧に保たれた状態となる。
【0047】
この状態から、例えば、主軸8が回転することによって回転刃ユニットU1の内部が加圧され、当該回転刃ユニットU1の内圧が上昇し、内圧調整室20の内圧(具体的には、第1隔室61の内圧)との間に圧力差が生じた場合、当該回転刃ユニットU1の内気(以下、かかる内気をユニット内気という)が押圧され、連通孔40hを通って第1隔室61の内部へ流入される。その際、第1隔室61の内気(以下、かかる内気を第1隔室内気という)は、第1隔室61の内部へ流入したユニット内気によって押圧され、第1隔壁71の空気孔71hを通って第2隔室62の内部へ流入する。
これにより、第2隔室62の内気(以下、かかる内気を第2隔室内気という)が、第2隔室62の内部へ流入した第1隔室内気によって押圧され、第2隔壁72の空気孔72hを通って第3隔室63の内部へ流入する。そして、さらに第3隔室63の内気(以下、かかる内気を第3隔室内気という)が、第3隔室63の内部へ流入した第2隔室内気によって押圧され、周縁部20cの開放孔20kを通って内圧調整室20の外部へ排出される。
【0048】
この結果、回転刃ユニットU1から内圧調整室20(具体的には、第1隔室61)へ流入したユニット内気を、その流入量に相当する量だけ、第1隔室内気及び第2隔室内気を経て、第3隔室内気として内圧調整室20の外部、すなわち回転刃ユニットU1の外部へ排出させることができる。これにより、回転刃ユニットU1の内圧上昇は、ユニット内気(具体的には、第3隔室内気)を回転刃ユニットU1の外部へ排出させることで相殺され、回転刃ユニットU1の内圧が上昇し続けることを抑制することができるとともに、その内圧を常に略一定圧に保つ(具体的には、大気圧と略同一圧に調整する)ことができる。
【0049】
一方、回転刃ユニットU1の内圧と内圧調整室20の内圧とが略一定圧に保たれた状態から、例えば、主軸8が停止することによって回転刃ユニットU1の内部が減圧され、当該回転刃ユニットU1の内圧が低下し、内圧調整室20の内圧(具体的には、第1隔室61の内圧)との間に圧力差が生じた場合、第1隔室内気が回転刃ユニットU1内へ吸引され、連通孔40hを通って当該回転刃ユニットU1の内部へ流出される。その際、第1隔室61には、流出した第1隔室内気に相当する量だけ、第1隔壁71の空気孔71hを通して第2隔室62から第2隔室内気が流入する。
これにより、第2隔室62には、流出した第2隔室内気に相当する量だけ、第2隔壁72の空気孔72hを通して第3隔室63から第3隔室内気が流入するとともに、第3隔室63には、流出した第3隔室内気に相当する量だけ、周縁部20cの開放孔20kを通して内圧調整室20の外部から外気が流入される。
【0050】
この結果、内圧調整室20から回転刃ユニットU1へ流出した第1隔室内気を、その流出量に相当する量だけ、内圧調整室20の外部、すなわち回転刃ユニットU1の外部から外気として内圧調整室20(具体的には、第3隔室63)の内部へ流入させることができる。これにより、回転刃ユニットU1の内圧低下は、回転刃ユニットU1の外部から外気を内圧調整室20の内部(具体的には、第3隔室63)へ流入させることで相殺され、回転刃ユニットU1の内圧が低下し続けることを抑制することができるとともに、その内圧を常に略一定圧に保つ(具体的には、大気圧と略同一圧に調整する)ことができる。
【0051】
なお、回転刃ユニットU1の内部が加圧状態から減圧状態へ移行した場合、並びに、減圧状態から加圧状態へ移行した場合も、上述した内圧調整室20の内気(第1隔室内気、第2隔室内気及び第3隔室内気)の流入出、並びに回転刃ユニットU1の外気の流入によって、同様に、回転刃ユニットU1の内圧を常に略一定圧に保つ(具体的には、大気圧と略同一圧に調整する)ことができる。
【0052】
以上のような構成を成す回転刃ユニットU1において、上述した従来の草刈機Aの場合と同様に、刈刃32を長期に亘って、安定してスムーズに回転させるため、駆動軸歯車G1及び主軸歯車G2の歯が相互に接触する部分の摩擦や摩耗の減少、回転刃側軸受2、歯車側軸受4及び駆動軸軸受6の焼付き防止や疲れ寿命の延長などを目的として、当該各歯車G1,G2、当該軸受2,4,6の潤滑を行っている。
【0053】
本実施形態においては、一例として、回転刃ユニットU1の内部(駆動軸歯車G1及び主軸歯車G2を取り囲む所定の空間部S)にアメリカグリース協会(NLGI:National
Lubricating Grease Institute)が規定するちょう度No.2(ちょう度番号2号)のグリース(以下、歯車潤滑グリースという)が、当該空間部Sの空間容積に対して略70%〜100%の体積比となるように充填(封入)されている。また、転がり軸受(回転刃側軸受2、歯車側軸受4及び駆動軸軸受6)の内部にも、同様にNLGIちょう度No.2のグリース(以下、軸受潤滑グリースという)が、当該各軸受2,4,6内の空間容積に対して略25%の体積比となるように充填(封入)されている。
【0054】
なお、歯車潤滑グリース及び軸受潤滑グリースの成分構成は、例えば、回転刃ユニットU1の使用目的や使用条件などに応じて任意に設定されるため、ここでは特に限定しない。例えば、歯車潤滑グリース及び軸受潤滑グリースは、一例として、増ちょう剤がリチウム石鹸、基油が鉱油系のグリースとして構成すればよい。また、この場合、添加剤として、極圧剤を増ちょう剤及び基油に対して添加してもよい。
【0055】
ここで、本実施形態に係る草刈機の使用状態、すなわち回転刃ユニットU1の運転時における歯車潤滑グリースの状態変化について、以下、説明する。
歯車潤滑グリースは、その自重により、並びに駆動軸38及び駆動軸歯車G1が回転するとともに、主軸8及び主軸歯車G2が回転することによる振動により、空間部Sにおいて継続的に攪拌及び剪断される。このように攪拌及び剪断が繰り返された歯車潤滑グリースは、その温度が上昇し、これに伴って軟化するとともに、熱膨張を起こす。
【0056】
この際、回転刃ユニットU1の内部(空間部S)の圧力(内圧)が上昇するため、当該内圧と内圧調整室20の内圧(具体的には、第1隔室61の内圧)との間に圧力差が生じる。この場合、回転刃ユニットU1の内気や空間部Sに封入された歯車潤滑グリースに対して、回転刃ユニットU1の外部方向への押圧力、具体的には、空間部Sの内壁S1や回転刃側軸受2への押圧力が作用する。
【0057】
本実施形態においては、回転刃ユニットU1に内圧調整室20が設けられているため、空間部Sに封入された歯車潤滑グリースに対し、上述したような押圧力が作用した場合であっても、当該歯車潤滑グリースを、ユニット内気とともに連通孔40hを通して内圧調整室20の内部(具体的には、第1隔室61の内部)へ流動させ、捕集することができる。これにより、歯車潤滑グリースが回転刃側軸受2へ押圧され続け、その内部に漏洩(侵入)することを防止することができる。なお、内圧調整室20(第1隔室61)に捕集された歯車潤滑グリースは、攪拌及び剪断されることがなく、その温度が低下し、増ちょう剤の作用により硬化して半固体化する。
【0058】
この場合、第1隔室61の内部に流入したユニット内気は、上述したように、第2隔室62及び第3隔室63へ流入した後、開放孔20kから内圧調整室20の外部、すなわち回転刃ユニットU1の外部へ第3隔室内気として排出される。一方、第1隔室61の内部へ捕集され、半固体化された歯車潤滑グリースは、当該第1隔室61の内面に付着する。第1隔室61の内面に付着した歯車潤滑グリースは、第2隔室62との間で熱交換され(具体的には、第2隔室62に対してその熱を放出し)、冷却されることで早期に硬化し、第1隔室61の内面に固着される。
【0059】
このように、第1隔室61の内部へ流動して捕集された歯車潤滑グリースは、早期に硬化固着されるため、連通孔40hに引き込まれることがなく、例えば、硬化した歯車潤滑グリースが、いわゆる栓となって連通孔40hを塞いでしまうことはない。また、第1隔室61の内部へ流動して捕集された歯車潤滑グリースが、再び連通孔40hを通って当該連通孔40hの内部で硬化し、栓となってしまうことを有効に防止することができる。
なお、第1隔室61に捕集された歯車潤滑グリースを早期に硬化固着させることで、当該歯車潤滑グリースが、第1隔壁71の空気孔71hを通って第2隔室62の内部まで、さらには、第2隔壁72の空気孔72hを通って第3隔室63まで流動してしまうことも有効に防止することができる。
【0060】
このため、例えば、主軸8の停止によって回転刃ユニットU1(空間部S)の内圧が低下し、当該内圧と内圧調整室20の内圧(具体的には、第1隔室61の内圧)との間に圧力差が生じた場合であっても、第1隔室内気のみを連通孔40hを通して回転刃ユニットU1の内部へ流出させることができる。そして、内圧調整室20(具体的には、第1隔室61)から回転刃ユニットU1へ流出した内気(具体的には、第1隔室内気)を、内圧調整室20の外部、すなわち回転刃ユニットU1の外部から外気として内圧調整室20(具体的には、第3隔室63)の内部へ流入させることができる。したがって、回転刃ユニットU1の内圧低下は、回転刃ユニットU1の外部から外気を内圧調整室20の内部(具体的には、第3隔室63)へ流入させることで相殺され、回転刃ユニットU1の内圧が低下し続けることを抑制することができるとともに、その内圧を常に略一定圧に保つ(具体的には、大気圧と略同一圧に調整する)ことができる。
この結果、歯車潤滑グリースが回転刃側軸受2へ押圧され続けることがなく、回転刃側軸受2の内部への歯車潤滑グリースの漏洩(侵入)を有効に防止することができる。
【0061】
以上のように、本実施形態に係る回転刃ユニットU1によれば、その内部(空間部S)に封入したグリース(歯車潤滑グリース及び軸受潤滑グリース)の回転刃側軸受2の内部への漏洩(侵入)、さらには、回転刃ユニットU1の外部への漏洩を防止することができる。これにより、回転刃ユニットU1の潤滑状態が良好に維持され、回転部材である刈刃32を長期に亘って一定の回転精度で安定して回転させ続けることができる。
【0062】
なお、上述した本実施形態においては、主軸8を回転自在に支持する回転刃側軸受2及び歯車側軸受4の構成について、特に言及しなかったが、これらの軸受2,4は、回転刃ユニットU1の内気の流動性、並びに、歯車潤滑グリース及び軸受潤滑グリースの漏洩防止を考慮し、以下のような構成とすることが好ましい。
【0063】
内圧調整室20に近接する歯車側軸受4は、その内部を密封する密封部材(接触型のシール、及び非接触型のシールやシールドなど)が設けられていない、いわゆるオープンタイプの軸受構造とすればよい。これにより、回転刃ユニットU1の内気がスムーズに歯車側軸受4内を通ることができ、連通孔40hを介して内圧調整室20(具体的には、第1隔室61)との間でそれぞれの内気をスムーズに流入出させることができる。結果として、回転刃ユニットU1の内圧を常に略一定圧に保つ(具体的には、大気圧と略同一圧に調整する)ことができ、歯車潤滑グリースが回転刃側軸受2へ押圧され続けることがなく、回転刃側軸受2の内部への歯車潤滑グリースの漏洩(侵入)を有効に防止することができる。
【0064】
また、刈刃32に近接する回転刃側軸受2は、駆動軸歯車G1及び主軸歯車G2側(図1(a)の上側)を密封部材が設けられていない開放状態とし、刈刃32側(図1(a)の下側)に密封部材(図示しない)を設けて密封状態とした軸受構造とすればよい。これにより、仮に回転刃側軸受2の内部へ歯車潤滑グリースが漏洩(侵入)し、回転刃側軸受2内の軸受潤滑グリース量が設定値よりも増加するとともに、攪拌や剪断が活発化され、当該グリースが軟化した場合であっても、当該グリースの軸受外部への漏洩を有効に防止することができる。ただし、刈刃32側(図1(a)の下側)だけでなく、駆動軸歯車G1及び主軸歯車G2側(図1(a)の上側)にも密封部材を設け、密封性(気密性及び液密性)をさらに高めた軸受構造としてもよい。
【0065】
なお、回転刃側軸受2に設ける密封部材としては、非接触型のシール(例えば、鋼板製の芯金の全体若しくは一部を各種の弾性材(例えば、ゴムやプラスチックなどの樹脂材)で連結して成るシールなど)や、非接触型のシールド(例えば、ステンレス板、鉄板などの薄い金属板からプレス成形等されたシールド)を適用してもよいが、密封性を考慮し、接触型のシールを適用することが好ましい。
【0066】
一例として、密封部材としての接触型シール(図示しない)は、鋼板等を断面がL字状を成すようにプレス加工などにより成形した環状の芯金の一部を各種の弾性材(例えば、ゴムやプラスチックなどの樹脂材)で連結して構成すればよい。この場合、シールには、かかる弾性材で構成された1つ若しくは複数のシールリップを形成することが好ましい。なお、芯金と各種の弾性材とを連結する場合、その連結方法としては、接着、かしめ、コーティング及び射出成形など、各種の方法を任意に選択して使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の一実施形態に係る回転刃ユニットの構成例を示す図であって、(a)は、内圧調整室を取り付けた状態の断面図、(b)は、内圧調整室の上部平面図、(c)は、内圧調整室の横断面図。(d)は、内圧調整室の縦断面図。
【図2】従来の草刈機の構成例を示す図であって、(a)は、全体構成を示す斜視図、(b)は、回転刃ユニットの断面図。
【符号の説明】
【0068】
2 回転刃側軸受
4 歯車側軸受
8 主軸
20 内圧調整室
20b 蓋部
20c 周縁部
20k 開放孔
32 刈刃
34 エンジン
38 駆動軸
40 ケース
40h 連通孔
61 第1隔室
62 第2隔室
63 第3隔室
71 第1隔壁
71h,72h 空気孔
72 第2隔壁
G1 駆動軸歯車
G2 主軸歯車
U1 回転刃ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定方向に延出して立設された主軸と、当該主軸を回転自在に支持する複数の転がり軸受と、駆動装置によって回転される駆動軸の回転力を主軸に伝達するために、当該駆動軸及び主軸の一端側にそれぞれ設けられて相互に噛合する少なくとも1組の歯車と、主軸の他端側に取り付けられた回転部材と、前記主軸、転がり軸受及び歯車を収容するケースとを備え、内圧を常に大気圧と略同一圧に保つための内圧調整機構が設けられた回転部材支持ユニットであって、
内圧調整機構として、前記回転部材支持ユニットの内圧の上昇時には、前記ユニットの内気を当該ユニットの内部から外部へ排出させ、前記内圧の低下時には、前記ユニットの外気を当該ユニットの外部から内部へ流入させることで、当該ユニットの内圧を常に大気圧と略同一圧に調整するとともに、前記ユニット内部に封入された潤滑剤を捕集して蓄積可能な内圧調整室が設けられており、前記内圧調整室は、その内部が前記ケースに設けられた連通孔によって前記ユニットの内部と連通され、当該ユニットの内部を外部と連通させる開放孔を少なくとも1つ有しているとともに、隔壁によって複数の分室に分割され、これらの分室の内部同士が前記隔壁を貫通する空気孔によって相互に連通されていることを特徴とする回転部材支持ユニット。
【請求項2】
内圧調整室は、1つの隔壁によって中心部に分室が1つ形成され、当該分室を取り囲んで、さらに分室と隔壁とが交互に外側へ複数配設された分割構造を成しており、隣り合う隔壁に形成された空気孔は、相互に正対することのないように配置されていることを特徴とする請求項1に記載の回転部材支持ユニット。
【請求項3】
主軸には、回転部材として、地表に生育する草木を根元付近から刈り払うための刈刃が取り付けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の回転部材支持ユニット。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−141958(P2008−141958A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−328820(P2006−328820)
【出願日】平成18年12月5日(2006.12.5)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】