回転電機用ボビン、回転電機及び回転電機用ボビンの製造方法
【課題】電線の線積率を高めることができる回転電機用ボビン、回転電機及び回転電機用ボビンの製造方法を提供する。
【解決手段】固定子鉄心15のティース部18に嵌められる回転電機用ボビン21は、筒状をなす絶縁材料の胴部22と、胴部22の両端部に一体に設けられた合成樹脂製の第一鍔部23及び第二鍔部24とを備える。胴部22の少なくとも固定子鉄心15内に位置する部分を絶縁フィルムから構成し、胴部22をインサート成形によって第一鍔部23及び第二鍔部24に一体化して設ける。
【解決手段】固定子鉄心15のティース部18に嵌められる回転電機用ボビン21は、筒状をなす絶縁材料の胴部22と、胴部22の両端部に一体に設けられた合成樹脂製の第一鍔部23及び第二鍔部24とを備える。胴部22の少なくとも固定子鉄心15内に位置する部分を絶縁フィルムから構成し、胴部22をインサート成形によって第一鍔部23及び第二鍔部24に一体化して設ける。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機の固定子鉄心のティース部に嵌める回転電機用ボビン、回転電機及び回転電機用ボビンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド自動車や電気自動車などには、電気モータや発電機などの回転電機が搭載されている。この種の回転電機の固定子は、例えば特許文献1に示すように、固定子鉄心と、固定子鉄心のティース部に集中巻きで設けられるコイルとを有している。コイルは、回転電機用ボビンの外周に電線が巻かれることによって構成され、この回転電機用ボビンをティース部に嵌めることによって当該ティース部に設けられる。
一般に、回転電機用ボビンは、筒状をなし外周に電線が巻かれる胴部と、胴部の軸方向両端部のそれぞれに設けられた鍔部とを備えている。胴部および鍔部は、合成樹脂製であり、例えば射出成形によって一体に成形されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−167598号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、回転電機の高出力化・高効率化を図るために、固定子鉄心のティース部に設けられる電線の線積率(占積率)を、より一層高めることが検討されている。電線の線積率を高める方法としては、例えば回転電機用ボビンの胴部を薄くし、薄くした体積分を電線(コイル)で占めるようにすることが考えられている。
しかしながら、回転電機用ボビンの胴部を従来の製造方法のように射出成形で成形する場合、胴部を薄くしすぎると射出成形後に胴部に割れが生じることがあるため、胴部を十分に薄くすることはできず、電線の線積率を十分に高めることはできなかった。
【0005】
そこで、本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、電線の線積率を高めることができる回転電機用ボビン、回転電機及び回転電機用ボビンの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記した目的を達成するために、本発明の回転電機用ボビンは、筒状をなし外周に電線が巻かれる絶縁材料の胴部と、前記胴部の両端部に一体に設けられた合成樹脂製の鍔部とを備え、固定子鉄心のティース部に嵌められる回転電機用ボビンにおいて、前記胴部は、少なくとも前記固定子鉄心内に位置する部分が絶縁フィルムから構成され、インサート成形によって前記鍔部に一体化されていることを特徴としている。
【0007】
また、本発明の回転電機は、固定子鉄心を有する固定子と、前記固定子鉄心に設けられた請求項1又は2記載の回転電機用ボビンと、前記固定子鉄心の内周又は外周に設けられた回転子とを具備していることを特徴としている。
【0008】
さらに、本発明の回転電機用ボビンの製造方法は、筒状をなし外周に電線が巻かれる絶縁材料の胴部と、前記胴部の両端部に一体に設けられた合成樹脂製の鍔部とを備え、固定子鉄心のティース部に嵌められる回転電機用ボビンの製造方法において、前記胴部の少なくとも前記固定子鉄心内に位置する部分を構成する絶縁フィルムを所定形状に整形する胴部整形工程と、整形された前記絶縁フィルムをインサート成形金型内に配置し、インサート成形を行うことによって、前記胴部を一体に有した鍔部を成形する鍔部成形工程とを実行することを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、固定子鉄心のティース部に嵌められる回転電機用ボビンの胴部のうち少なくとも固定子鉄心内に位置する部分が絶縁フィルムから構成されてので、胴部における固定子鉄心内に位置する部分を従来構成よりも薄くすることができ、多くの電線を回転電機用ボビンに巻くことができ、これにより、電線の線積率を高めることができる。よって、高出力化・高効率化が図られた回転電機を得ることができる。
【0010】
また、本発明によれば、固定子鉄心内に位置する部分を構成する絶縁フィルムを所定形状に整形し、整形された絶縁フィルムをインサート成形金型内に配置してインサート成形を実行しているため、少なくとも固定子鉄心内に位置する部分が絶縁フィルムから構成される胴部を備える回転電機用ボビンを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の第1実施形態の回転電機用ボビンが固定子鉄心に嵌められた後の状態を示す横断平面図
【図2】回転電機用ボビンが固定子鉄心に嵌められた後の状態を固定子鉄心の中心側から見た図
【図3】図1のA−A線に沿う断面図
【図4】図1のB−B線に沿う断面図
【図5】回転電機用ボビンが固定子鉄心に嵌められる前の状態を示す横断平面図
【図6】回転電機用ボビンの斜視図
【図7】右側面図
【図8】平面図
【図9】図7のC−C線に沿う断面図
【図10】図7のD−D線に沿う断面図
【図11】回転電機用ボビンの製造工程を概略的に示す図
【図12】電線の線積率を示す図で、(a)は本実施形態の回転電機用ボビンを用いた場合の電線の線積率を説明するための縦断側面図、(b)は従来構成の回転電機用ボビンを用いた場合の電線の線積率を説明するための縦断側面図
【図13】本発明の第2実施形態の回転電機用ボビンを示す縦断側面図
【図14】図13のE−E線に沿う断面図
【図15】本発明の第3実施形態の回転電機用ボビンを示す図13相当図
【図16】図15のF−F線に沿う断面図
【図17】本発明の第4実施形態の回転電機用ボビンが固定子鉄心に嵌められる前の状態を示す横断平面図
【図18】回転電機用ボビンの平面図
【図19】回転電機用ボビンの斜視図を示すもので、(a)は第一ボビン片と第二ボビン片とを合わせる前の状態の図、(b)は第一ボビン片と第二ボビン片とを合わせた後の状態の図
【図20】第一ボビン片と第二ボビン片とを合わせる前の図9相当図
【図21】回転電機用ボビン片同士を合わせる前の図7相当図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の複数の実施形態をハイブリッド自動車や電気自動車に使用されるインナーロータ型の電機モータ、発電機などの回転電機に適用し、図面を参照して説明する。なお、図面には、適宜、前後、左右及び上下の各方向を矢印で示し、便宜上、回転電機の軸方向を上下方向として説明する。また、各実施形態では、同一または相当する部分については同一の参照符号を付し、その説明については省略する。
【0013】
(第1実施形態)
まず、第1実施形態について、図1〜図12を参照して説明する。
図1〜図4に、回転電機11の一分を拡大して示す。回転電機11は、図1に示すように、固定子12と、固定子12の内周側に隙間を介して設けられる回転子13とを有している。
回転子13は、回転子鉄心14と、回転子鉄心14に埋め込まれた永久磁石(図示せず)とを有している。回転子鉄心14は、円筒形状をなしている。回転子鉄心14の内周部には、シャフト(図示せず)が設けられている。
【0014】
固定子12は、固定子鉄心15と、コイル16とを有している。固定子鉄心15は、円筒状のヨーク部17と、ヨーク部17の内周面から当該ヨーク部17の内周側、すなわち中心軸側に突出する複数のティース部18とを有している(図1などには、1つのティース部18のみ図示する)。ヨーク部17は、外周が完全な円形でなく、楕円形や多角形などのさまざまな形状を採用することが可能である。ティース部18は、図2〜図4に示すように、略直方体に形成されている。また、ティース部18が固定子鉄心15の周方向に等間隔に配置されることにより、図1、図5に示すように、固定子鉄心15の周方向に隣り合うティース部18,18間にスロット15aが形成される。
【0015】
コイル16は、銅線などの電線が後述する回転電機用ボビン21の胴部22の外周に巻かれることによって構成されている。第1実施形態では、図5に示すように、コイル16が設けられた回転電機用ボビン21を固定子鉄心15の内周側からティース部18に嵌めることにより(図5中の矢印X方向参照)、コイル16が回転電機用ボビン21の胴部22を介してティース部18に集中巻きに設けられる。
【0016】
回転電機用ボビン21は、図1〜図10に示すように、胴部22と、第一鍔部23と、第二鍔部24とを有している。
胴部22は、筒状、例えば角筒状をなし、例えば図6〜図10に示すように上側壁22a、下側壁22b、右側壁22cおよび左側壁22dから構成されている。上側壁22a、下側壁22b、右側壁22cおよび左側壁22dで囲われて内周に形成される空間21aは、ティース部18の形状とほぼ一致している。上側壁22aおよび下側壁22bは、図2〜図4に示すように、ティース部18に回転電機用ボビン21が嵌められたときに、固定子鉄心15の軸方向(上下)端部の外側にそれぞれ位置する部分である。また、右側壁22cおよび左側壁22dは、ティース部18に回転電機用ボビン21が嵌められたときに、固定子鉄心15内、すなわち固定子鉄心15のスロット15a内に位置する部分である。
【0017】
ここで、上側壁22a、下側壁22b、右側壁22cおよび左側壁22dは、絶縁材料、例えば絶縁フィルムから構成されている。この絶縁フィルムは、絶縁性を有するフィルム、例えば汎用絶縁材からなるフィルム、積層絶縁材からなるフィルムが好ましく、特に米国デュポン(Du Pont)社製のノーメックス(登録商標)などのアラミド紙と東レ製のPPSトレリナ(登録商標)を積層して得られる積層絶縁材料からなるものが好ましい。他のフィルム材料としては、ポリイミドフィルム、ポリエーテルエーテルケトンフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルムなどを目的に応じ適宜選定することが好ましい。絶縁フィルムの厚さ(図12に示すT1)は、0.1〜1mm、好ましくは0.2〜0.3mmである。この胴部22は、後述するインサート成形によって第一鍔部23および第二鍔部24に一体化されている。
【0018】
第一鍔部23および第二鍔部24は、胴部22に設けられたコイル16が固定子鉄心15の径方向(前後方向)にずれるのを防止する規制部として機能するものである。
第一鍔部23は、枠状をなし、内周側の縁部に胴部22が位置し、胴部22の軸方向の一方の端部(ティース部18に回転電機用ボビン21を嵌めたときに固定子鉄心15のヨーク部17側に位置する端部、すなわち胴部22の後方向の端部)に設けられている。
【0019】
第二鍔部24は、枠状をなし、内周側の縁部に胴部22が位置し、胴部22の軸方向の他方の端部(ティース部18に回転電機用ボビン21を嵌めたときに固定子鉄心15の内周側に位置する端部、すなわち胴部22の前方向の端部)に設けられている。この第二鍔部24は、第一鍔部23よりも固定子鉄心15の内周側に位置している分、固定子鉄心15の周方向に隣り合う第二鍔部24が当らないように、固定子鉄心15の周方向(左右方向)の長さが第一鍔部23の周方向の長さよりも短く形成されていることが好ましい。さらに、第二鍔部24の面のうちの回転子13側の面は、平面方向から見て胴部22側に膨らむ湾曲状に形成されていてもよい。また、第一鍔部23の面のうちの固定子鉄心15側の面は、固定子鉄心15のヨーク部17の内周面に当たるように湾曲していてもよい。第一鍔部23がヨーク部17の内周面に当たることにより、回転電機用ボビン21の位置決めが容易になる。
【0020】
第一鍔部23および第二鍔部24は、合成樹脂製、例えばPPS樹脂(ポリフェニレンサルファイド樹脂)、アクリルニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、ポリアセタール系樹脂などで成形されていることが好ましい。この第一鍔部23および第二鍔部24は、後述するインサート成形(射出成形)によって成形されている。インサート成形で成形される第一鍔部23および第二鍔部24の厚さは(図12に模式的に示す回転電機用ボビン21の第一鍔部23の厚さおよび第二鍔部24の厚さをT2で示す)は、任意であるが、例えば2〜3mmである。なお、第一鍔部23および第二鍔部24の厚さT2をインサート成形が可能な範囲で小さくして、その分、回転電機用ボビン21の胴部22の幅方向(前後方向)を長くし、胴部22に巻く電線の量を多くし、電線の線積率を高めてもよい。
【0021】
次に、上記インサート成形に用いるインサート成形金型31を図11(f)に示す。
インサート成形金型31は、土台部32と、土台部32上に設けられた下型33と、下型33上に設けられた上型34とから構成されている。
【0022】
土台部32は、下型33および上型34を保持するものである。また、土台部32には、回転電機用ボビン21の胴部22の位置決め用の四角柱のブロック部35が設けられている。ブロック部35は、固定子鉄心15のティース部18とほぼ同じ形状である。また、土台部32は、上方に突出する複数本の突出ピン36を有している。突出ピン36は、後述する下型33内においてインサート成形で成形された回転電機用ボビン21を下型33から外すためのものである。
【0023】
下型33は、1対のブロック状の可動下型37,37から構成されている。1対の可動下型37,37は、土台部32上にあって土台部32の上面をスライドし、型開き可能な構成である(図11(c)の矢印Y方向参照)。各可動下型37には、回転電機用ボビン21の略半分の形状の切り欠き38´、38´(図11(d)参照)が形成され、可動下型37,37同士を合わせることにより、回転電機用ボビン21を収納するキャビティ38(図11(f)参照)が形成される。
【0024】
可動下型37の上部には、当該可動下型37の上面からキャビティ38まで連通するノズル39が形成されている。ノズル39は、第一鍔部23および第二鍔部24を成形するための図示しない溶融した樹脂(例えば、溶融したPPS樹脂など)を、上型34からキャビティ38に供給するための通路である。
【0025】
上型34は、上述したように下型33のノズル39に溶融した樹脂を供給するためのものであり、全体がブロック状をなし、上型34の上下方向を貫通するスプールランナー40が形成されている。また、スプールランナー40の上端部(上型34の上面)には、貯留部41が形成されている。貯留部41は、外部から供給される溶融した樹脂を貯留するためのものである。上型34は、下型33の上面に取付けられる構成である。そして、上型34と下型33とを合わせることにより、スプールランナー40の下端部はノズル39と連通する。
【0026】
次に、インサート成形金型31を用いた回転電機用ボビン21の製造手順について図11を参照して説明する。
まず、図11(a)に示すように、胴部22を構成する絶縁フィルム(図11のみ絶縁フィルムに符号42を付す)を、胴部22を展開した寸法に裁断する(裁断工程)。第1実施形態では、フィルム状をなす絶縁フィルム42を長方形に裁断している。具体的には、絶縁フィルム42の一方の辺の長さP(長辺の長さ)は、上側壁22aの左右方向の長さ、左側壁22dの上下方向の長さ、下側壁22bの左右方向の長さ、右側壁22cの上下方向の長さの合計に、必要に応じて糊代の長さを加えた長さである。また、他方の辺の長さQ(短辺の長さ)は、胴部22の前後方向(例えば、上側壁22aの前後方向)の長さである。絶縁フィルム42の厚さは、例えば0.2〜0.3mmである。
【0027】
次に、図11(b)に示すように、裁断した絶縁フィルム42を、折り曲げて胴部形状に整形する(胴部整形工程)。第1実施形態では、裁断工程で得られた絶縁フィルム42を角筒状に折り曲げている。絶縁フィルム42の寸法(長さ)に糊代の長さが含まれている場合、絶縁フィルム42を角筒状に折り曲げるときに、糊代の部分が上側壁22aまたは下側壁22bに位置することが好ましい。また、胴部整形工程では、糊代に接着剤などを塗布し、インサート成形前に絶縁フィルム42を角筒状に仮止めし、インサート成形時に絶縁フィルム42が型崩れしてしまうことを防止するようにしてもよい。
【0028】
次に、図11(c)および図11(d)に示すように、下型33が型開きしている状態(可動下型37,37が離れている状態)で、角筒状に折り曲げた絶縁フィルム42(胴部22)を、インサート成形金型31の所定の位置、すなわち土台部32のブロック部35に嵌める(胴部配置工程)。絶縁フィルム42をブロック部35に嵌める際、絶縁フィルム42を土台部32から少し離れていることが好ましい。これにより、インサート成形後において、絶縁フィルム42の前後方向(軸方向)の端部のうち土台部32側に位置する端部は、インサート成形で成形される鍔部(第一鍔部23、第二鍔部24)の内部に位置する。
【0029】
次に、図11(e)に示すように、可動下型37,37同士を合わせて、下型33内に回転電機用ボビン21のキャビティ38を形成する(下型固定工程)。
次に、図11(f)に示すように、下型33の上面に上型34を取付ける。そして、上型34の貯留部41に溶融した樹脂を注入する。貯留部41に注入された樹脂は、スプールライナー40およびノズル39を通って、キャビティ38に供給され、これにより、インサート成形が行われ、胴部22と一体になった第一鍔部23および第二鍔部24が成形される(鍔部成形工程)。
【0030】
上記インサート成形後、上型34を下型33から取外し、下型33の可動下型37,37を型開きし、土台部32の突出ピン36を土台部32の上面から突出させることにより、土台部32からの回転電機用ボビン21の取外しが行われる。
【0031】
次に、コイル16を固定子鉄心15のティース部18に取付ける手順について図1、図5、図10を参照して説明する。
まず、図10に示す回転電機用ボビン21の胴部22の外周に電線を巻いて、図5に示すように胴部22の外周にコイル16を設ける。次に、コイル16が設けられた回転電機用ボビン21を固定子鉄心15のティース部18に固定子鉄心15の内周側から嵌める(図5中の矢印X方向参照)。これにより、ティース部18に集中巻きされたコイル16が回転電機用ボビン21を介して設けられる。このとき、図1に示すように、胴部22のうち少なくとも固定子鉄心15内に絶縁フィルムから構成された右側壁22cおよび左側壁22dが位置し、固定子鉄心15の軸方向外側に上側壁22aおよび下側壁22bが位置する。
【0032】
固定子鉄心15の他のティース部18にも、上記と同様に、コイル16が設けられた回転電機用ボビン21が固定子鉄心15のティース部18に嵌められる。これにより、固定子鉄心15のすべてのティース部18にコイル16が設けられた構成となる。
【0033】
次に、上記構成の効果を説明する。
第1実施形態によれば、固定子鉄心15のティース部18に嵌められる回転電機用ボビン21の胴部22のうち少なくとも固定子鉄心15内に位置する部分である右側壁22cおよび左側壁22dは、絶縁フィルムから構成される。したがって、胴部22における固定子鉄心15内に位置する部分(右側壁22cおよび左側壁22d)を、射出成形から構成される従来構成よりも薄くすることができ、多くの電線を回転電機用ボビン21の胴部22に巻くことができる。これにより、第1実施形態の構成では、従来構成よりも電線の線積率を高めることができる。その結果、高出力化・高効率化が図られた回転電機11を得ることができる。
【0034】
上記電線の線積率について、図12を用いて詳しく検討する。図12に、第1実施形態の回転電機用ボビン21(図12(a)参照)の断面、および従来構成の回転電機用ボビン101(図12(b)参照)の断面を模式的に示す。従来構成の回転電機用ボビン101は射出成形で胴部102と第一鍔部103と第二鍔部104とが一体に成形されたものである。この場合、胴部102が射出成形で成形されるので、胴部102における固定子鉄心内に位置する部分の厚さT0は、少なくとも射出成形後に割れが生じない寸法、例えばT0=1〜3mmである。
【0035】
一方、第1実施形態では、胴部22のうち少なくとも固定子鉄心15内に位置する部分(右側壁22cおよび左側壁22d)が絶縁フィルムから構成されているので、本実施形態の胴部22の厚さT1を、従来構成の胴部102の厚さT0以下とすることができる。よって、第1実施形態では、電線の線積率を、従来構成よりも、(T0−T1)に相当する分、高くすることができる。
【0036】
また、一般に、円形のコイル導体に電流I(A)が流れる場合、コイルの軸中心Oの磁束密度Bは、「B=μ0Nl/2r (ただし、μ0は真空の透磁率、Nは1m当たりの巻き数、lはコイルの長さ、rはコイルの半径)」で表される。第1実施形態の胴部22のうち固定子鉄心15内に位置する部分は、上記従来構成の胴部102の固定子鉄心15内に位置する部分よりも薄いので、胴部22の外周に設けられるコイル16の半径r1を従来のコイルの半径r0よりも(T0−T1)に相当する分、小さくすることができ、第1実施形態では、従来構成よりもコイル16の磁束密度を高くすることができる。したがって、磁束密度の観点から、回転電機11の回転効率を向上させることができる。
【0037】
第1実施形態の製造方法では、上述したように、固定子鉄心15内に位置する部分(右側壁22cおよび左側壁22d)を構成する絶縁フィルムを所定形状(第1実施形態では角筒状)に整形し、整形された絶縁フィルムをインサート成形金型31内に配置してインサート成形を実行している。そのため、第1実施形態の製造方法では、少なくとも固定子鉄心15内に位置する部分(右側壁22cおよび左側壁22d)が絶縁フィルムから構成される胴部22を備える回転電機用ボビン21を得ることができる。
【0038】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について図13および図14を参照して説明する。
図13および図14に示す第2実施形態の回転電機用ボビン51は、第1実施形態の胴部22、第一鍔部23および第二鍔部24に加え、補強用のつなぎ部52を備えている。
つなぎ部52は、第一鍔部23と第二鍔部24とをつなぐ側壁であり、第一鍔部23および第二鍔部24に一体に設けられている。つなぎ部52は、上側壁22aの外周側(上方側)および下側壁22bの外周側(下方側)にそれぞれ設けられている。
【0039】
回転電機用ボビン51は、第1実施形態と同様にインサート成形で成形され、つなぎ部52は、このインサート成形の際に、第一鍔部23および第二鍔部24に一体に成形される。つなぎ部52の厚さは、インサート成形で成形可能な範囲であれば任意であり、例えば、1〜3mmである。
【0040】
第2実施形態によれば、第一鍔部23と第二鍔部24との間に、胴部22の厚さよりも大きいつなぎ部52を設けたので、胴部22の強度、特に胴部22の軸方向(前後方向)からの圧縮に対する強度が増し、胴部22の変形を防止することができる。これにより、第2実施形態は、第1実施形態よりも強度を有する回転電機用ボビン51を得ることができる。
また、つなぎ部52が上側壁22aの外周側(上方側)および下側壁22bの外周側(下方側)にそれぞれ設けられ、かつ、右側壁22cおよび左側壁22dが絶縁フィルムからなるため、胴部22のうち固定子鉄心15内に位置する部分は薄く、従来構成の回転電機用ボビン(図11(b)参照)よりも、電線の線積率を高くすることができる。
その他、第2実施形態は、第1実施形態と同様の効果を奏する。
【0041】
次に、本発明の第3実施形態について図14および図15を参照して説明する。
図15および図16に示す第3実施形態の回転電機用ボビン61は、第1実施形態の胴部22、第一鍔部23および第二鍔部24に加え、補強用のつなぎ部62を備えている。
つなぎ部62は、第一鍔部23と第二鍔部24とをつなぐ側壁であり、第一鍔部23および第二鍔部24に一体に設けられている。つなぎ部62は、上側壁22aの内周側(下方側)および下側壁22bの内周側(上方側)にそれぞれ設けられている。
【0042】
回転電機用ボビン61は、第1実施形態と同様にインサート成形で成形され、つなぎ部62は、このインサート成形の際に第一鍔部23および第二鍔部24に一体に成形される。つなぎ部62の厚さは、インサート成形で成形可能な範囲であれば任意であり、例えば、1〜3mmである。
第3実施形態によれば、第2実施形態と同様の効果を奏する。
【0043】
次に、本発明の第4実施形態について図17〜図21を参照して説明する。
図17〜図21に示す第4実施形態の回転電機用ボビン71は、図17に示す固定子鉄心15´のティース部18´の形状が、平面方向から見て、固定子鉄心15´の外周側の幅寸法よりも内周側の幅寸法が大きいテーパ形状に設けられるものである。回転電機用ボビン71には、図17および図18に示すように平面方向から見て、ティース部18´と同形状の空間71aが形成されている。空間71aは、第1実施形態の空間21aに相当するものである。すなわち、第4実施形態の胴部22は、内周にティース部18´が嵌るように、第二鍔部24側の開口面積が第一鍔部23の開口面積よりも大きいテーパ形状の角筒状をなしている。
【0044】
回転電機用ボビン71は、図19〜図21に示すように、第一ボビン片72と第二ボビン片73とから構成されている。第一ボビン片72および第二ボビン片73は、回転電機用ボビン71をほぼ二つに分割した構成である。この回転電機用ボビン71を分割する箇所は、任意であるが、第4実施形態では、右側壁22c(図9参照)の上下方向の中央および左側壁22d(図9参照)の上下方向の中央で分割した場合の構成について説明する。
【0045】
第一ボビン片72は、図19〜図21に示すように、一端側胴部片74と、一端側第一鍔部片75と、一端側第二鍔部片76と、一端側連結部77とを有している。
一端側胴部片74は、U字状をなし、第1実施形態の胴部22(図6、図9参照)の上半分の構成であり、具体的には、図6および図9に示す上側壁22aと、右側壁22cの上半分と、左側壁22dの上半分とから構成されている。
【0046】
一端側第一鍔部片75は、U字状をなし、第1実施形態の第一鍔部23(図6、図9参照)の上半分の構成である。
一端側第二鍔部片76は、U字状をなし、第1実施形態の第二鍔部24(図6、図9参照)の上半分の構成である。
【0047】
一端側連結部77は、第一ボビン片72において第二ボビン片73側の先端部に設けられている。一端側連結部77は、一端側胴部片74と、一端側第一鍔部片75と、一端側第二鍔部片76とがそれぞれ下方に延びた形状、すなわち突出した形状である。ここで、一端側連結部77のうち一端側第一鍔部片75から延びている部分は、一端側第一鍔部片75よりも薄く形成されている。具体的には、図21に示すように、一端側連結部77のうち一端側第一鍔部片75から延びている部分は、軸方向外側(前側)が凹んだ段差形状をなしている。また、一端側連結部77のうち一端側第二鍔部片76から延びている部分は、一端側第二鍔部片76よりも薄く形成されている。具体的には、一端側連結部77のうち一端側第二鍔部片76から延びている部分は、軸方向外側(後側)が凹んだ段差形状をなしている。
【0048】
第二ボビン片73は、図19〜図21に示すように、他端側胴部片78と、他端側第一鍔部片79と、他端側第二鍔部片80と、他端側連結部81とを有している。
他端側胴部片78は、U字状をなし、第1実施形態の胴部22(図6、図9参照)の下半分の構成であり、具体的には、図6および図9に示す下側壁22bと、右側壁22cの下半分と、左側壁22dの下半分とから構成されている。
【0049】
他端側第一鍔部片79は、U字状をなし、第1実施形態の第一鍔部23(図6、図9参照)の下半分の構成である。
他端側第二鍔部片80は、U字状をなし、第1実施形態の第二鍔部24(図6、図9参照)の下半分の構成である。
【0050】
他端側連結部81は、第二ボビン片73において第一ボビン片72側の先端部に設けられている。他端側連結部81は、他端側胴部片78と、他端側第一鍔部片79と、他端側第二鍔部片80とがそれぞれ上方に延びた形状、すなわち突出した形状である。ここで、他端側連結部81のうち他端側第一鍔部片79から延びている部分は、他端側第一鍔部片79よりも薄く形成されている。具体的には、図21に示すように、他端側連結部81のうち他端側第一鍔部片79から延びる部分は、他端側第二鍔部片80側が凹んだ段差形状をなしている。また、他端側連結部81のうち他端側第二鍔部片80から延びている部分は、他端側第二鍔部片80よりも薄く形成されている。具体的には、他端側連結部81のうち他端側第二鍔部片80から延びる部分は、他端側第一鍔部片79側が凹んだ段差形状をなしている。
【0051】
上記構成では、一端側連結部77のうち一端側第一鍔部片75から延びる部分と他端側連結部81のうち他端側第一鍔部片79から延びる部分とが合い、また、一端側連結部77のうち一端側第二鍔部片76から延びる部分と他端側連結部81のうち他端側第二鍔部片80から延びる部分とも合う構成である。一端側第一鍔部片75と他端側第一鍔部片79とを合わせることにより、第1実施形態の第一鍔部23が形成され、一端側第二鍔部片76と他端側第二鍔部片80とを合わせることにより、第1実施形態の第二鍔部24が形成される。なお、一端側連結部77と他端側連結部81とを合わせる場合、一端側胴部片74と他端側胴部片78とは、厚みが小さいため、重なり合い、上述したように筒状、この場合第1実施形態と実質的に同一の胴部22が形成される。
【0052】
次に、図示しないインサート成形金型を用いた回転電機用ボビン71の製造手順について説明する。
第4実施形態の回転電機用ボビン71も、第1実施形態の回転電機用ボビン21(図1参照)と同様にしてインサート成形によって成形される。すなわち、第4実施形態では、第一ボビン片72、第二ボビン片73がそれぞれインサート成形によって成形され、インサート成形後に、第一ボビン片72と第二ボビン片73とを合わせて回転電機用ボビン71が形成される。第一ボビン片72と第二ボビン片73とは、同様の製造方法で成形されるため、第一ボビン片72の製造手順のみを説明する。
【0053】
第4実施形態では、まず、一端側胴部片74を構成する絶縁フィルムを、一端側胴部片74を展開した寸法に裁断する(裁断工程)。
次に、裁断した絶縁フィルムを、折り曲げて略U字状(コ字状)、すなわち一端側胴部片74を形成する(胴部整形工程)。
【0054】
次に、上記折り曲げた絶縁フィルムを、図示しないインサート成形金型の所定の位置に配置して(胴部配置工程)、例えば図11に示すブロック部35の三面を囲うように配置し、ブロック部35の三面の外周面に合わせて、インサート成形金型内に固定する(下型固定工程)。この場合、下型33に形成されるキャビティは、第一ボビン片72の形状と同じである。
【0055】
次に、インサート成形を行う。これにより、一端側胴部片74と、一端側第一鍔部片75と、一端側第二鍔部片76と、一端側連結部77とが一体となった第一ボビン片72が成形される。
第二ボビン片73も、上述した第一ボビン片72と同様のインサート成形によって得られる。第二ボビン片73は、他端側胴部片78と、他端側第一鍔部片79と、他端側第二鍔部片80と、他端側連結部81とが一体となっている。
【0056】
成形された第一ボビン片72および第二ボビン片73は、固定子鉄心15の軸方向(上下方向)両側からティース部18´を挟み込むように固定子鉄心15に設けられる。そして、ティース部18´に設けられた回転電機用ボビン71の胴部22の外周に、電線を巻くことによって、胴部22にコイル16(図1参照)が形成され、コイル16は回転電機用ボビン71を介してティース部18´に設けられる。
【0057】
第4実施形態によれば、第1実施形態と同様に、固定子鉄心15のティース部18´に嵌められる回転電機用ボビン71の胴部22のうち少なくとも固定子鉄心15内に位置する部分には胴部22の絶縁フィルムが位置する。したがって、胴部22における固定子鉄心15内に位置する部分を従来構成よりも薄くすることができ、多くの電線を回転電機用ボビン71に巻くことができ、図示しない回転電機の高出力化・高効率化を図ることができる。
さらに、第4実施形態では、ティース部18´の形状が、平面方向から見て、固定子鉄心15´の外周側の幅寸法よりも内周側の幅寸法が大きいテーパ形状の場合にも、このティース部18´に回転電機用ボビン71およびコイル16を設けることができる。
【0058】
尚、本発明は上記し且つ図面に示す実施形態に限定されず、次のような変形、拡張が可能である。
第1〜第4実施形態では、胴部の上側壁、下側壁、右側壁、左側壁が絶縁フィルムで構成されているとして説明したが、少なくとも固定子鉄心内に位置する部分である右側壁、左側壁が絶縁フィルムで構成されていればよい。この場合、上側壁、下側壁は、第一鍔部および第二鍔部と同じ材料で、第一鍔部および第二鍔部に一体に設けてもよい。
【0059】
第1〜第4実施形態では、インナーロータ形で説明したが、アウターロータ形の回転電機、すなわち、固定子の外周に回転子が設けられる構成にも回転電機用ボビンを適用することができる。アウターロータ形の回転電機の場合、固定子鉄心の外周側にティース部が位置し、このティース部に回転電機用ボビンが設けられる。また、第4実施形態では、ティース部の形状が、平面方向から見てストレート、固定子鉄心の外周側の幅寸法よりも内周側の幅寸法が小さいテーパ形状、ティース部の先端がアンカー形状である構成にも適用することができる。
【0060】
第2実施形態および第3実施形態では、つなぎ部52,62の形状を側壁として説明したが、つなぎ部52,62の形状は任意であり、例えば複数の柱状であってもよい。
第4実施形態では、回転電機用ボビンが上下方向に分割可能な構成であるが、左右方向に分割可能な構成としてもよい。また、回転電機用ボビンの分割は、二分割で説明したが、三分割以上の分割でも適用できる。
上記した実施形態は一例に過ぎず、絶縁フィルムの材質や厚みは、回転電機の使用により適宜決定され、その他、材料、形状、つなぎ部の位置などについても、適宜変更することができる。
【符号の説明】
【0061】
図面中、11は回転電機、12は固定子、13は回転子、15,15´は固定子鉄心、18,18´はティース部、21,51,61,71は回転電機用ボビン、22は胴部、23は第一鍔部(鍔部)、24は第二鍔部(鍔部)、31はインサート成形金型、42は絶縁フィルム、52,62はつなぎ部を示す。
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機の固定子鉄心のティース部に嵌める回転電機用ボビン、回転電機及び回転電機用ボビンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド自動車や電気自動車などには、電気モータや発電機などの回転電機が搭載されている。この種の回転電機の固定子は、例えば特許文献1に示すように、固定子鉄心と、固定子鉄心のティース部に集中巻きで設けられるコイルとを有している。コイルは、回転電機用ボビンの外周に電線が巻かれることによって構成され、この回転電機用ボビンをティース部に嵌めることによって当該ティース部に設けられる。
一般に、回転電機用ボビンは、筒状をなし外周に電線が巻かれる胴部と、胴部の軸方向両端部のそれぞれに設けられた鍔部とを備えている。胴部および鍔部は、合成樹脂製であり、例えば射出成形によって一体に成形されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−167598号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、回転電機の高出力化・高効率化を図るために、固定子鉄心のティース部に設けられる電線の線積率(占積率)を、より一層高めることが検討されている。電線の線積率を高める方法としては、例えば回転電機用ボビンの胴部を薄くし、薄くした体積分を電線(コイル)で占めるようにすることが考えられている。
しかしながら、回転電機用ボビンの胴部を従来の製造方法のように射出成形で成形する場合、胴部を薄くしすぎると射出成形後に胴部に割れが生じることがあるため、胴部を十分に薄くすることはできず、電線の線積率を十分に高めることはできなかった。
【0005】
そこで、本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、電線の線積率を高めることができる回転電機用ボビン、回転電機及び回転電機用ボビンの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記した目的を達成するために、本発明の回転電機用ボビンは、筒状をなし外周に電線が巻かれる絶縁材料の胴部と、前記胴部の両端部に一体に設けられた合成樹脂製の鍔部とを備え、固定子鉄心のティース部に嵌められる回転電機用ボビンにおいて、前記胴部は、少なくとも前記固定子鉄心内に位置する部分が絶縁フィルムから構成され、インサート成形によって前記鍔部に一体化されていることを特徴としている。
【0007】
また、本発明の回転電機は、固定子鉄心を有する固定子と、前記固定子鉄心に設けられた請求項1又は2記載の回転電機用ボビンと、前記固定子鉄心の内周又は外周に設けられた回転子とを具備していることを特徴としている。
【0008】
さらに、本発明の回転電機用ボビンの製造方法は、筒状をなし外周に電線が巻かれる絶縁材料の胴部と、前記胴部の両端部に一体に設けられた合成樹脂製の鍔部とを備え、固定子鉄心のティース部に嵌められる回転電機用ボビンの製造方法において、前記胴部の少なくとも前記固定子鉄心内に位置する部分を構成する絶縁フィルムを所定形状に整形する胴部整形工程と、整形された前記絶縁フィルムをインサート成形金型内に配置し、インサート成形を行うことによって、前記胴部を一体に有した鍔部を成形する鍔部成形工程とを実行することを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、固定子鉄心のティース部に嵌められる回転電機用ボビンの胴部のうち少なくとも固定子鉄心内に位置する部分が絶縁フィルムから構成されてので、胴部における固定子鉄心内に位置する部分を従来構成よりも薄くすることができ、多くの電線を回転電機用ボビンに巻くことができ、これにより、電線の線積率を高めることができる。よって、高出力化・高効率化が図られた回転電機を得ることができる。
【0010】
また、本発明によれば、固定子鉄心内に位置する部分を構成する絶縁フィルムを所定形状に整形し、整形された絶縁フィルムをインサート成形金型内に配置してインサート成形を実行しているため、少なくとも固定子鉄心内に位置する部分が絶縁フィルムから構成される胴部を備える回転電機用ボビンを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の第1実施形態の回転電機用ボビンが固定子鉄心に嵌められた後の状態を示す横断平面図
【図2】回転電機用ボビンが固定子鉄心に嵌められた後の状態を固定子鉄心の中心側から見た図
【図3】図1のA−A線に沿う断面図
【図4】図1のB−B線に沿う断面図
【図5】回転電機用ボビンが固定子鉄心に嵌められる前の状態を示す横断平面図
【図6】回転電機用ボビンの斜視図
【図7】右側面図
【図8】平面図
【図9】図7のC−C線に沿う断面図
【図10】図7のD−D線に沿う断面図
【図11】回転電機用ボビンの製造工程を概略的に示す図
【図12】電線の線積率を示す図で、(a)は本実施形態の回転電機用ボビンを用いた場合の電線の線積率を説明するための縦断側面図、(b)は従来構成の回転電機用ボビンを用いた場合の電線の線積率を説明するための縦断側面図
【図13】本発明の第2実施形態の回転電機用ボビンを示す縦断側面図
【図14】図13のE−E線に沿う断面図
【図15】本発明の第3実施形態の回転電機用ボビンを示す図13相当図
【図16】図15のF−F線に沿う断面図
【図17】本発明の第4実施形態の回転電機用ボビンが固定子鉄心に嵌められる前の状態を示す横断平面図
【図18】回転電機用ボビンの平面図
【図19】回転電機用ボビンの斜視図を示すもので、(a)は第一ボビン片と第二ボビン片とを合わせる前の状態の図、(b)は第一ボビン片と第二ボビン片とを合わせた後の状態の図
【図20】第一ボビン片と第二ボビン片とを合わせる前の図9相当図
【図21】回転電機用ボビン片同士を合わせる前の図7相当図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の複数の実施形態をハイブリッド自動車や電気自動車に使用されるインナーロータ型の電機モータ、発電機などの回転電機に適用し、図面を参照して説明する。なお、図面には、適宜、前後、左右及び上下の各方向を矢印で示し、便宜上、回転電機の軸方向を上下方向として説明する。また、各実施形態では、同一または相当する部分については同一の参照符号を付し、その説明については省略する。
【0013】
(第1実施形態)
まず、第1実施形態について、図1〜図12を参照して説明する。
図1〜図4に、回転電機11の一分を拡大して示す。回転電機11は、図1に示すように、固定子12と、固定子12の内周側に隙間を介して設けられる回転子13とを有している。
回転子13は、回転子鉄心14と、回転子鉄心14に埋め込まれた永久磁石(図示せず)とを有している。回転子鉄心14は、円筒形状をなしている。回転子鉄心14の内周部には、シャフト(図示せず)が設けられている。
【0014】
固定子12は、固定子鉄心15と、コイル16とを有している。固定子鉄心15は、円筒状のヨーク部17と、ヨーク部17の内周面から当該ヨーク部17の内周側、すなわち中心軸側に突出する複数のティース部18とを有している(図1などには、1つのティース部18のみ図示する)。ヨーク部17は、外周が完全な円形でなく、楕円形や多角形などのさまざまな形状を採用することが可能である。ティース部18は、図2〜図4に示すように、略直方体に形成されている。また、ティース部18が固定子鉄心15の周方向に等間隔に配置されることにより、図1、図5に示すように、固定子鉄心15の周方向に隣り合うティース部18,18間にスロット15aが形成される。
【0015】
コイル16は、銅線などの電線が後述する回転電機用ボビン21の胴部22の外周に巻かれることによって構成されている。第1実施形態では、図5に示すように、コイル16が設けられた回転電機用ボビン21を固定子鉄心15の内周側からティース部18に嵌めることにより(図5中の矢印X方向参照)、コイル16が回転電機用ボビン21の胴部22を介してティース部18に集中巻きに設けられる。
【0016】
回転電機用ボビン21は、図1〜図10に示すように、胴部22と、第一鍔部23と、第二鍔部24とを有している。
胴部22は、筒状、例えば角筒状をなし、例えば図6〜図10に示すように上側壁22a、下側壁22b、右側壁22cおよび左側壁22dから構成されている。上側壁22a、下側壁22b、右側壁22cおよび左側壁22dで囲われて内周に形成される空間21aは、ティース部18の形状とほぼ一致している。上側壁22aおよび下側壁22bは、図2〜図4に示すように、ティース部18に回転電機用ボビン21が嵌められたときに、固定子鉄心15の軸方向(上下)端部の外側にそれぞれ位置する部分である。また、右側壁22cおよび左側壁22dは、ティース部18に回転電機用ボビン21が嵌められたときに、固定子鉄心15内、すなわち固定子鉄心15のスロット15a内に位置する部分である。
【0017】
ここで、上側壁22a、下側壁22b、右側壁22cおよび左側壁22dは、絶縁材料、例えば絶縁フィルムから構成されている。この絶縁フィルムは、絶縁性を有するフィルム、例えば汎用絶縁材からなるフィルム、積層絶縁材からなるフィルムが好ましく、特に米国デュポン(Du Pont)社製のノーメックス(登録商標)などのアラミド紙と東レ製のPPSトレリナ(登録商標)を積層して得られる積層絶縁材料からなるものが好ましい。他のフィルム材料としては、ポリイミドフィルム、ポリエーテルエーテルケトンフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルムなどを目的に応じ適宜選定することが好ましい。絶縁フィルムの厚さ(図12に示すT1)は、0.1〜1mm、好ましくは0.2〜0.3mmである。この胴部22は、後述するインサート成形によって第一鍔部23および第二鍔部24に一体化されている。
【0018】
第一鍔部23および第二鍔部24は、胴部22に設けられたコイル16が固定子鉄心15の径方向(前後方向)にずれるのを防止する規制部として機能するものである。
第一鍔部23は、枠状をなし、内周側の縁部に胴部22が位置し、胴部22の軸方向の一方の端部(ティース部18に回転電機用ボビン21を嵌めたときに固定子鉄心15のヨーク部17側に位置する端部、すなわち胴部22の後方向の端部)に設けられている。
【0019】
第二鍔部24は、枠状をなし、内周側の縁部に胴部22が位置し、胴部22の軸方向の他方の端部(ティース部18に回転電機用ボビン21を嵌めたときに固定子鉄心15の内周側に位置する端部、すなわち胴部22の前方向の端部)に設けられている。この第二鍔部24は、第一鍔部23よりも固定子鉄心15の内周側に位置している分、固定子鉄心15の周方向に隣り合う第二鍔部24が当らないように、固定子鉄心15の周方向(左右方向)の長さが第一鍔部23の周方向の長さよりも短く形成されていることが好ましい。さらに、第二鍔部24の面のうちの回転子13側の面は、平面方向から見て胴部22側に膨らむ湾曲状に形成されていてもよい。また、第一鍔部23の面のうちの固定子鉄心15側の面は、固定子鉄心15のヨーク部17の内周面に当たるように湾曲していてもよい。第一鍔部23がヨーク部17の内周面に当たることにより、回転電機用ボビン21の位置決めが容易になる。
【0020】
第一鍔部23および第二鍔部24は、合成樹脂製、例えばPPS樹脂(ポリフェニレンサルファイド樹脂)、アクリルニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、ポリアセタール系樹脂などで成形されていることが好ましい。この第一鍔部23および第二鍔部24は、後述するインサート成形(射出成形)によって成形されている。インサート成形で成形される第一鍔部23および第二鍔部24の厚さは(図12に模式的に示す回転電機用ボビン21の第一鍔部23の厚さおよび第二鍔部24の厚さをT2で示す)は、任意であるが、例えば2〜3mmである。なお、第一鍔部23および第二鍔部24の厚さT2をインサート成形が可能な範囲で小さくして、その分、回転電機用ボビン21の胴部22の幅方向(前後方向)を長くし、胴部22に巻く電線の量を多くし、電線の線積率を高めてもよい。
【0021】
次に、上記インサート成形に用いるインサート成形金型31を図11(f)に示す。
インサート成形金型31は、土台部32と、土台部32上に設けられた下型33と、下型33上に設けられた上型34とから構成されている。
【0022】
土台部32は、下型33および上型34を保持するものである。また、土台部32には、回転電機用ボビン21の胴部22の位置決め用の四角柱のブロック部35が設けられている。ブロック部35は、固定子鉄心15のティース部18とほぼ同じ形状である。また、土台部32は、上方に突出する複数本の突出ピン36を有している。突出ピン36は、後述する下型33内においてインサート成形で成形された回転電機用ボビン21を下型33から外すためのものである。
【0023】
下型33は、1対のブロック状の可動下型37,37から構成されている。1対の可動下型37,37は、土台部32上にあって土台部32の上面をスライドし、型開き可能な構成である(図11(c)の矢印Y方向参照)。各可動下型37には、回転電機用ボビン21の略半分の形状の切り欠き38´、38´(図11(d)参照)が形成され、可動下型37,37同士を合わせることにより、回転電機用ボビン21を収納するキャビティ38(図11(f)参照)が形成される。
【0024】
可動下型37の上部には、当該可動下型37の上面からキャビティ38まで連通するノズル39が形成されている。ノズル39は、第一鍔部23および第二鍔部24を成形するための図示しない溶融した樹脂(例えば、溶融したPPS樹脂など)を、上型34からキャビティ38に供給するための通路である。
【0025】
上型34は、上述したように下型33のノズル39に溶融した樹脂を供給するためのものであり、全体がブロック状をなし、上型34の上下方向を貫通するスプールランナー40が形成されている。また、スプールランナー40の上端部(上型34の上面)には、貯留部41が形成されている。貯留部41は、外部から供給される溶融した樹脂を貯留するためのものである。上型34は、下型33の上面に取付けられる構成である。そして、上型34と下型33とを合わせることにより、スプールランナー40の下端部はノズル39と連通する。
【0026】
次に、インサート成形金型31を用いた回転電機用ボビン21の製造手順について図11を参照して説明する。
まず、図11(a)に示すように、胴部22を構成する絶縁フィルム(図11のみ絶縁フィルムに符号42を付す)を、胴部22を展開した寸法に裁断する(裁断工程)。第1実施形態では、フィルム状をなす絶縁フィルム42を長方形に裁断している。具体的には、絶縁フィルム42の一方の辺の長さP(長辺の長さ)は、上側壁22aの左右方向の長さ、左側壁22dの上下方向の長さ、下側壁22bの左右方向の長さ、右側壁22cの上下方向の長さの合計に、必要に応じて糊代の長さを加えた長さである。また、他方の辺の長さQ(短辺の長さ)は、胴部22の前後方向(例えば、上側壁22aの前後方向)の長さである。絶縁フィルム42の厚さは、例えば0.2〜0.3mmである。
【0027】
次に、図11(b)に示すように、裁断した絶縁フィルム42を、折り曲げて胴部形状に整形する(胴部整形工程)。第1実施形態では、裁断工程で得られた絶縁フィルム42を角筒状に折り曲げている。絶縁フィルム42の寸法(長さ)に糊代の長さが含まれている場合、絶縁フィルム42を角筒状に折り曲げるときに、糊代の部分が上側壁22aまたは下側壁22bに位置することが好ましい。また、胴部整形工程では、糊代に接着剤などを塗布し、インサート成形前に絶縁フィルム42を角筒状に仮止めし、インサート成形時に絶縁フィルム42が型崩れしてしまうことを防止するようにしてもよい。
【0028】
次に、図11(c)および図11(d)に示すように、下型33が型開きしている状態(可動下型37,37が離れている状態)で、角筒状に折り曲げた絶縁フィルム42(胴部22)を、インサート成形金型31の所定の位置、すなわち土台部32のブロック部35に嵌める(胴部配置工程)。絶縁フィルム42をブロック部35に嵌める際、絶縁フィルム42を土台部32から少し離れていることが好ましい。これにより、インサート成形後において、絶縁フィルム42の前後方向(軸方向)の端部のうち土台部32側に位置する端部は、インサート成形で成形される鍔部(第一鍔部23、第二鍔部24)の内部に位置する。
【0029】
次に、図11(e)に示すように、可動下型37,37同士を合わせて、下型33内に回転電機用ボビン21のキャビティ38を形成する(下型固定工程)。
次に、図11(f)に示すように、下型33の上面に上型34を取付ける。そして、上型34の貯留部41に溶融した樹脂を注入する。貯留部41に注入された樹脂は、スプールライナー40およびノズル39を通って、キャビティ38に供給され、これにより、インサート成形が行われ、胴部22と一体になった第一鍔部23および第二鍔部24が成形される(鍔部成形工程)。
【0030】
上記インサート成形後、上型34を下型33から取外し、下型33の可動下型37,37を型開きし、土台部32の突出ピン36を土台部32の上面から突出させることにより、土台部32からの回転電機用ボビン21の取外しが行われる。
【0031】
次に、コイル16を固定子鉄心15のティース部18に取付ける手順について図1、図5、図10を参照して説明する。
まず、図10に示す回転電機用ボビン21の胴部22の外周に電線を巻いて、図5に示すように胴部22の外周にコイル16を設ける。次に、コイル16が設けられた回転電機用ボビン21を固定子鉄心15のティース部18に固定子鉄心15の内周側から嵌める(図5中の矢印X方向参照)。これにより、ティース部18に集中巻きされたコイル16が回転電機用ボビン21を介して設けられる。このとき、図1に示すように、胴部22のうち少なくとも固定子鉄心15内に絶縁フィルムから構成された右側壁22cおよび左側壁22dが位置し、固定子鉄心15の軸方向外側に上側壁22aおよび下側壁22bが位置する。
【0032】
固定子鉄心15の他のティース部18にも、上記と同様に、コイル16が設けられた回転電機用ボビン21が固定子鉄心15のティース部18に嵌められる。これにより、固定子鉄心15のすべてのティース部18にコイル16が設けられた構成となる。
【0033】
次に、上記構成の効果を説明する。
第1実施形態によれば、固定子鉄心15のティース部18に嵌められる回転電機用ボビン21の胴部22のうち少なくとも固定子鉄心15内に位置する部分である右側壁22cおよび左側壁22dは、絶縁フィルムから構成される。したがって、胴部22における固定子鉄心15内に位置する部分(右側壁22cおよび左側壁22d)を、射出成形から構成される従来構成よりも薄くすることができ、多くの電線を回転電機用ボビン21の胴部22に巻くことができる。これにより、第1実施形態の構成では、従来構成よりも電線の線積率を高めることができる。その結果、高出力化・高効率化が図られた回転電機11を得ることができる。
【0034】
上記電線の線積率について、図12を用いて詳しく検討する。図12に、第1実施形態の回転電機用ボビン21(図12(a)参照)の断面、および従来構成の回転電機用ボビン101(図12(b)参照)の断面を模式的に示す。従来構成の回転電機用ボビン101は射出成形で胴部102と第一鍔部103と第二鍔部104とが一体に成形されたものである。この場合、胴部102が射出成形で成形されるので、胴部102における固定子鉄心内に位置する部分の厚さT0は、少なくとも射出成形後に割れが生じない寸法、例えばT0=1〜3mmである。
【0035】
一方、第1実施形態では、胴部22のうち少なくとも固定子鉄心15内に位置する部分(右側壁22cおよび左側壁22d)が絶縁フィルムから構成されているので、本実施形態の胴部22の厚さT1を、従来構成の胴部102の厚さT0以下とすることができる。よって、第1実施形態では、電線の線積率を、従来構成よりも、(T0−T1)に相当する分、高くすることができる。
【0036】
また、一般に、円形のコイル導体に電流I(A)が流れる場合、コイルの軸中心Oの磁束密度Bは、「B=μ0Nl/2r (ただし、μ0は真空の透磁率、Nは1m当たりの巻き数、lはコイルの長さ、rはコイルの半径)」で表される。第1実施形態の胴部22のうち固定子鉄心15内に位置する部分は、上記従来構成の胴部102の固定子鉄心15内に位置する部分よりも薄いので、胴部22の外周に設けられるコイル16の半径r1を従来のコイルの半径r0よりも(T0−T1)に相当する分、小さくすることができ、第1実施形態では、従来構成よりもコイル16の磁束密度を高くすることができる。したがって、磁束密度の観点から、回転電機11の回転効率を向上させることができる。
【0037】
第1実施形態の製造方法では、上述したように、固定子鉄心15内に位置する部分(右側壁22cおよび左側壁22d)を構成する絶縁フィルムを所定形状(第1実施形態では角筒状)に整形し、整形された絶縁フィルムをインサート成形金型31内に配置してインサート成形を実行している。そのため、第1実施形態の製造方法では、少なくとも固定子鉄心15内に位置する部分(右側壁22cおよび左側壁22d)が絶縁フィルムから構成される胴部22を備える回転電機用ボビン21を得ることができる。
【0038】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について図13および図14を参照して説明する。
図13および図14に示す第2実施形態の回転電機用ボビン51は、第1実施形態の胴部22、第一鍔部23および第二鍔部24に加え、補強用のつなぎ部52を備えている。
つなぎ部52は、第一鍔部23と第二鍔部24とをつなぐ側壁であり、第一鍔部23および第二鍔部24に一体に設けられている。つなぎ部52は、上側壁22aの外周側(上方側)および下側壁22bの外周側(下方側)にそれぞれ設けられている。
【0039】
回転電機用ボビン51は、第1実施形態と同様にインサート成形で成形され、つなぎ部52は、このインサート成形の際に、第一鍔部23および第二鍔部24に一体に成形される。つなぎ部52の厚さは、インサート成形で成形可能な範囲であれば任意であり、例えば、1〜3mmである。
【0040】
第2実施形態によれば、第一鍔部23と第二鍔部24との間に、胴部22の厚さよりも大きいつなぎ部52を設けたので、胴部22の強度、特に胴部22の軸方向(前後方向)からの圧縮に対する強度が増し、胴部22の変形を防止することができる。これにより、第2実施形態は、第1実施形態よりも強度を有する回転電機用ボビン51を得ることができる。
また、つなぎ部52が上側壁22aの外周側(上方側)および下側壁22bの外周側(下方側)にそれぞれ設けられ、かつ、右側壁22cおよび左側壁22dが絶縁フィルムからなるため、胴部22のうち固定子鉄心15内に位置する部分は薄く、従来構成の回転電機用ボビン(図11(b)参照)よりも、電線の線積率を高くすることができる。
その他、第2実施形態は、第1実施形態と同様の効果を奏する。
【0041】
次に、本発明の第3実施形態について図14および図15を参照して説明する。
図15および図16に示す第3実施形態の回転電機用ボビン61は、第1実施形態の胴部22、第一鍔部23および第二鍔部24に加え、補強用のつなぎ部62を備えている。
つなぎ部62は、第一鍔部23と第二鍔部24とをつなぐ側壁であり、第一鍔部23および第二鍔部24に一体に設けられている。つなぎ部62は、上側壁22aの内周側(下方側)および下側壁22bの内周側(上方側)にそれぞれ設けられている。
【0042】
回転電機用ボビン61は、第1実施形態と同様にインサート成形で成形され、つなぎ部62は、このインサート成形の際に第一鍔部23および第二鍔部24に一体に成形される。つなぎ部62の厚さは、インサート成形で成形可能な範囲であれば任意であり、例えば、1〜3mmである。
第3実施形態によれば、第2実施形態と同様の効果を奏する。
【0043】
次に、本発明の第4実施形態について図17〜図21を参照して説明する。
図17〜図21に示す第4実施形態の回転電機用ボビン71は、図17に示す固定子鉄心15´のティース部18´の形状が、平面方向から見て、固定子鉄心15´の外周側の幅寸法よりも内周側の幅寸法が大きいテーパ形状に設けられるものである。回転電機用ボビン71には、図17および図18に示すように平面方向から見て、ティース部18´と同形状の空間71aが形成されている。空間71aは、第1実施形態の空間21aに相当するものである。すなわち、第4実施形態の胴部22は、内周にティース部18´が嵌るように、第二鍔部24側の開口面積が第一鍔部23の開口面積よりも大きいテーパ形状の角筒状をなしている。
【0044】
回転電機用ボビン71は、図19〜図21に示すように、第一ボビン片72と第二ボビン片73とから構成されている。第一ボビン片72および第二ボビン片73は、回転電機用ボビン71をほぼ二つに分割した構成である。この回転電機用ボビン71を分割する箇所は、任意であるが、第4実施形態では、右側壁22c(図9参照)の上下方向の中央および左側壁22d(図9参照)の上下方向の中央で分割した場合の構成について説明する。
【0045】
第一ボビン片72は、図19〜図21に示すように、一端側胴部片74と、一端側第一鍔部片75と、一端側第二鍔部片76と、一端側連結部77とを有している。
一端側胴部片74は、U字状をなし、第1実施形態の胴部22(図6、図9参照)の上半分の構成であり、具体的には、図6および図9に示す上側壁22aと、右側壁22cの上半分と、左側壁22dの上半分とから構成されている。
【0046】
一端側第一鍔部片75は、U字状をなし、第1実施形態の第一鍔部23(図6、図9参照)の上半分の構成である。
一端側第二鍔部片76は、U字状をなし、第1実施形態の第二鍔部24(図6、図9参照)の上半分の構成である。
【0047】
一端側連結部77は、第一ボビン片72において第二ボビン片73側の先端部に設けられている。一端側連結部77は、一端側胴部片74と、一端側第一鍔部片75と、一端側第二鍔部片76とがそれぞれ下方に延びた形状、すなわち突出した形状である。ここで、一端側連結部77のうち一端側第一鍔部片75から延びている部分は、一端側第一鍔部片75よりも薄く形成されている。具体的には、図21に示すように、一端側連結部77のうち一端側第一鍔部片75から延びている部分は、軸方向外側(前側)が凹んだ段差形状をなしている。また、一端側連結部77のうち一端側第二鍔部片76から延びている部分は、一端側第二鍔部片76よりも薄く形成されている。具体的には、一端側連結部77のうち一端側第二鍔部片76から延びている部分は、軸方向外側(後側)が凹んだ段差形状をなしている。
【0048】
第二ボビン片73は、図19〜図21に示すように、他端側胴部片78と、他端側第一鍔部片79と、他端側第二鍔部片80と、他端側連結部81とを有している。
他端側胴部片78は、U字状をなし、第1実施形態の胴部22(図6、図9参照)の下半分の構成であり、具体的には、図6および図9に示す下側壁22bと、右側壁22cの下半分と、左側壁22dの下半分とから構成されている。
【0049】
他端側第一鍔部片79は、U字状をなし、第1実施形態の第一鍔部23(図6、図9参照)の下半分の構成である。
他端側第二鍔部片80は、U字状をなし、第1実施形態の第二鍔部24(図6、図9参照)の下半分の構成である。
【0050】
他端側連結部81は、第二ボビン片73において第一ボビン片72側の先端部に設けられている。他端側連結部81は、他端側胴部片78と、他端側第一鍔部片79と、他端側第二鍔部片80とがそれぞれ上方に延びた形状、すなわち突出した形状である。ここで、他端側連結部81のうち他端側第一鍔部片79から延びている部分は、他端側第一鍔部片79よりも薄く形成されている。具体的には、図21に示すように、他端側連結部81のうち他端側第一鍔部片79から延びる部分は、他端側第二鍔部片80側が凹んだ段差形状をなしている。また、他端側連結部81のうち他端側第二鍔部片80から延びている部分は、他端側第二鍔部片80よりも薄く形成されている。具体的には、他端側連結部81のうち他端側第二鍔部片80から延びる部分は、他端側第一鍔部片79側が凹んだ段差形状をなしている。
【0051】
上記構成では、一端側連結部77のうち一端側第一鍔部片75から延びる部分と他端側連結部81のうち他端側第一鍔部片79から延びる部分とが合い、また、一端側連結部77のうち一端側第二鍔部片76から延びる部分と他端側連結部81のうち他端側第二鍔部片80から延びる部分とも合う構成である。一端側第一鍔部片75と他端側第一鍔部片79とを合わせることにより、第1実施形態の第一鍔部23が形成され、一端側第二鍔部片76と他端側第二鍔部片80とを合わせることにより、第1実施形態の第二鍔部24が形成される。なお、一端側連結部77と他端側連結部81とを合わせる場合、一端側胴部片74と他端側胴部片78とは、厚みが小さいため、重なり合い、上述したように筒状、この場合第1実施形態と実質的に同一の胴部22が形成される。
【0052】
次に、図示しないインサート成形金型を用いた回転電機用ボビン71の製造手順について説明する。
第4実施形態の回転電機用ボビン71も、第1実施形態の回転電機用ボビン21(図1参照)と同様にしてインサート成形によって成形される。すなわち、第4実施形態では、第一ボビン片72、第二ボビン片73がそれぞれインサート成形によって成形され、インサート成形後に、第一ボビン片72と第二ボビン片73とを合わせて回転電機用ボビン71が形成される。第一ボビン片72と第二ボビン片73とは、同様の製造方法で成形されるため、第一ボビン片72の製造手順のみを説明する。
【0053】
第4実施形態では、まず、一端側胴部片74を構成する絶縁フィルムを、一端側胴部片74を展開した寸法に裁断する(裁断工程)。
次に、裁断した絶縁フィルムを、折り曲げて略U字状(コ字状)、すなわち一端側胴部片74を形成する(胴部整形工程)。
【0054】
次に、上記折り曲げた絶縁フィルムを、図示しないインサート成形金型の所定の位置に配置して(胴部配置工程)、例えば図11に示すブロック部35の三面を囲うように配置し、ブロック部35の三面の外周面に合わせて、インサート成形金型内に固定する(下型固定工程)。この場合、下型33に形成されるキャビティは、第一ボビン片72の形状と同じである。
【0055】
次に、インサート成形を行う。これにより、一端側胴部片74と、一端側第一鍔部片75と、一端側第二鍔部片76と、一端側連結部77とが一体となった第一ボビン片72が成形される。
第二ボビン片73も、上述した第一ボビン片72と同様のインサート成形によって得られる。第二ボビン片73は、他端側胴部片78と、他端側第一鍔部片79と、他端側第二鍔部片80と、他端側連結部81とが一体となっている。
【0056】
成形された第一ボビン片72および第二ボビン片73は、固定子鉄心15の軸方向(上下方向)両側からティース部18´を挟み込むように固定子鉄心15に設けられる。そして、ティース部18´に設けられた回転電機用ボビン71の胴部22の外周に、電線を巻くことによって、胴部22にコイル16(図1参照)が形成され、コイル16は回転電機用ボビン71を介してティース部18´に設けられる。
【0057】
第4実施形態によれば、第1実施形態と同様に、固定子鉄心15のティース部18´に嵌められる回転電機用ボビン71の胴部22のうち少なくとも固定子鉄心15内に位置する部分には胴部22の絶縁フィルムが位置する。したがって、胴部22における固定子鉄心15内に位置する部分を従来構成よりも薄くすることができ、多くの電線を回転電機用ボビン71に巻くことができ、図示しない回転電機の高出力化・高効率化を図ることができる。
さらに、第4実施形態では、ティース部18´の形状が、平面方向から見て、固定子鉄心15´の外周側の幅寸法よりも内周側の幅寸法が大きいテーパ形状の場合にも、このティース部18´に回転電機用ボビン71およびコイル16を設けることができる。
【0058】
尚、本発明は上記し且つ図面に示す実施形態に限定されず、次のような変形、拡張が可能である。
第1〜第4実施形態では、胴部の上側壁、下側壁、右側壁、左側壁が絶縁フィルムで構成されているとして説明したが、少なくとも固定子鉄心内に位置する部分である右側壁、左側壁が絶縁フィルムで構成されていればよい。この場合、上側壁、下側壁は、第一鍔部および第二鍔部と同じ材料で、第一鍔部および第二鍔部に一体に設けてもよい。
【0059】
第1〜第4実施形態では、インナーロータ形で説明したが、アウターロータ形の回転電機、すなわち、固定子の外周に回転子が設けられる構成にも回転電機用ボビンを適用することができる。アウターロータ形の回転電機の場合、固定子鉄心の外周側にティース部が位置し、このティース部に回転電機用ボビンが設けられる。また、第4実施形態では、ティース部の形状が、平面方向から見てストレート、固定子鉄心の外周側の幅寸法よりも内周側の幅寸法が小さいテーパ形状、ティース部の先端がアンカー形状である構成にも適用することができる。
【0060】
第2実施形態および第3実施形態では、つなぎ部52,62の形状を側壁として説明したが、つなぎ部52,62の形状は任意であり、例えば複数の柱状であってもよい。
第4実施形態では、回転電機用ボビンが上下方向に分割可能な構成であるが、左右方向に分割可能な構成としてもよい。また、回転電機用ボビンの分割は、二分割で説明したが、三分割以上の分割でも適用できる。
上記した実施形態は一例に過ぎず、絶縁フィルムの材質や厚みは、回転電機の使用により適宜決定され、その他、材料、形状、つなぎ部の位置などについても、適宜変更することができる。
【符号の説明】
【0061】
図面中、11は回転電機、12は固定子、13は回転子、15,15´は固定子鉄心、18,18´はティース部、21,51,61,71は回転電機用ボビン、22は胴部、23は第一鍔部(鍔部)、24は第二鍔部(鍔部)、31はインサート成形金型、42は絶縁フィルム、52,62はつなぎ部を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状をなし外周に電線が巻かれる絶縁材料の胴部と、
前記胴部の両端部に一体に設けられた合成樹脂製の鍔部とを備え、固定子鉄心のティース部に嵌められる回転電機用ボビンにおいて、
前記胴部は、少なくとも前記固定子鉄心内に位置する部分が絶縁フィルムから構成され、インサート成形によって前記鍔部に一体化されていることを特徴とする回転電機用ボビン。
【請求項2】
前記胴部には、前記絶縁フィルムの内周面または外周面の前記固定子鉄心外に位置する部分の少なくとも一部に、両鍔部間をつなぐ合成樹脂製の補強用のつなぎ部が前記鍔部に一体に設けられていることを特徴とする請求項1記載の回転電機用ボビン。
【請求項3】
固定子鉄心を有する固定子と、
前記固定子鉄心のティース部に設けられた請求項1又は2記載の回転電機用ボビンと、
前記固定子鉄心の内周又は外周に設けられた回転子とを具備していることを特徴とする回転電機。
【請求項4】
筒状をなし外周に電線が巻かれる絶縁材料の胴部と、前記胴部の両端部に一体に設けられた合成樹脂製の鍔部とを備え、固定子鉄心のティース部に嵌められる回転電機用ボビンの製造方法において、
前記胴部の少なくとも前記固定子鉄心内に位置する部分を構成する絶縁フィルムを所定形状に整形する胴部整形工程と、
整形された前記絶縁フィルムをインサート成形金型内に配置し、インサート成形を行うことによって、前記胴部を一体に有した鍔部を成形する鍔部成形工程とを実行することを特徴とする回転電機用ボビンの製造方法。
【請求項1】
筒状をなし外周に電線が巻かれる絶縁材料の胴部と、
前記胴部の両端部に一体に設けられた合成樹脂製の鍔部とを備え、固定子鉄心のティース部に嵌められる回転電機用ボビンにおいて、
前記胴部は、少なくとも前記固定子鉄心内に位置する部分が絶縁フィルムから構成され、インサート成形によって前記鍔部に一体化されていることを特徴とする回転電機用ボビン。
【請求項2】
前記胴部には、前記絶縁フィルムの内周面または外周面の前記固定子鉄心外に位置する部分の少なくとも一部に、両鍔部間をつなぐ合成樹脂製の補強用のつなぎ部が前記鍔部に一体に設けられていることを特徴とする請求項1記載の回転電機用ボビン。
【請求項3】
固定子鉄心を有する固定子と、
前記固定子鉄心のティース部に設けられた請求項1又は2記載の回転電機用ボビンと、
前記固定子鉄心の内周又は外周に設けられた回転子とを具備していることを特徴とする回転電機。
【請求項4】
筒状をなし外周に電線が巻かれる絶縁材料の胴部と、前記胴部の両端部に一体に設けられた合成樹脂製の鍔部とを備え、固定子鉄心のティース部に嵌められる回転電機用ボビンの製造方法において、
前記胴部の少なくとも前記固定子鉄心内に位置する部分を構成する絶縁フィルムを所定形状に整形する胴部整形工程と、
整形された前記絶縁フィルムをインサート成形金型内に配置し、インサート成形を行うことによって、前記胴部を一体に有した鍔部を成形する鍔部成形工程とを実行することを特徴とする回転電機用ボビンの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【公開番号】特開2011−234537(P2011−234537A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−103456(P2010−103456)
【出願日】平成22年4月28日(2010.4.28)
【出願人】(592166137)河村産業株式会社 (31)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年4月28日(2010.4.28)
【出願人】(592166137)河村産業株式会社 (31)
【Fターム(参考)】
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