説明

回転電機

【課題】簡易な構成により、早期に冷却媒体の暖機を行い、回転電機の冷却効率の向上を図ることができる回転電機を提供する。
【解決手段】回転電機10のロータ14は、軸線方向18の両端に設けられたエンドプレート20を有する。ロータシャフト12には流路26が形成され、この流路26は、エンドプレート20の端面20aに冷却媒体を供給する。端面20aは、径方向の外側では径方向の内側よりもロータ14内側へ湾曲するように形成される。このエンドプレート20の端面20aの形状により、低温の冷却媒体のみが、端面20aを伝って、エアギャップ22に導入され、そこでの引き摺り摩擦によって暖機することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機に関し、特に回転電機の冷却構造の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
回転電機は、ロータシャフトと、ロータシャフトに固定されたロータと、ロータの周囲に配置されるステータとを有する。ステータは、コイルを有し、このコイルに電流が流れることにより回転磁界が発生する。この回転磁界とロータとの間に働く電磁的作用により、ロータが回転する。
【0003】
一般的に、回転電機は、この回転電機の駆動により発熱する。回転電機が永久磁石型回転電機である場合、ロータに設けられる永久磁石またはステータのコイルエンドが発熱する。これらが発熱して温度が上昇すると、回転電機の運転効率が低下してしまう。そこで、冷媒により回転電機を冷却する例がある。
【0004】
下記特許文献1には、ロータとステータの間のギャップに冷却用流体を供給し、回転電機を冷却する冷却装置が開示されている。この文献のロータの表面には、ギャップに滞留する冷却用媒体を外部に排出するための溝が形成されている。この溝による冷却媒体の排出促進により、回転電機の駆動時、上記ギャップ内の冷却用流体が攪拌されることによる動力損失を抑制している。
【0005】
下記特許文献2には、固定子と回転子のギャップに冷却媒体を流し込んで回転電機を冷却する構造が開示されている。この文献においても、回転子の回転に伴うギャップ内の冷却媒体による摩擦損失を低減するため、回転子の表面に、ギャップ内の冷却媒体を強制的に排出するらせん状の溝が形成されている。
【0006】
下記特許文献3には、ロータとステータの間のオイルによる引きずりトルク損失を低減するため、ロータが、筒部表面に軸方向に伸びて形成された凹溝を有することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011−125090号公報
【特許文献2】特開2002−058207号公報
【特許文献3】特開2001−037129号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の回転電機においては、ロータの筒部外周面に形成された冷却媒体排出用の溝により、ロータとステータの間のエアギャップに滞留する冷却媒体に起因する動力損失を低減することができる。
【0009】
ところで、低温時に回転電機を使用する場合、冷却媒体の粘度が常温時に比べ高くなるので、動力損失が増加するとともに、冷却媒体の流体速度が低下して冷却効率が低下してしまうという問題がある。上述のような冷却媒体排出用の溝により動力損失の低減を図ることが考えられるが、冷却媒体の温度が上昇しない限り、依然として流体速度の増加は見込めず、冷却効率は低下したままである。
【0010】
本発明の目的は、簡易な構成により、早期に冷却媒体の暖機を行い、回転電機の冷却効率の向上を図ることができる回転電機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、冷却媒体が流れる流路を有するロータシャフトと、ロータシャフトに固定されたロータと、ロータの周囲にエアギャップを介して配置されたステータと、を備える回転電機において、ロータは、軸線方向の両端に設けられたエンドプレートを有し、ロータシャフトの流路は、エンドプレートの端面に冷却媒体を供給し、前記端面は、径方向の外側では径方向の内側よりもロータ内側へ湾曲するように形成されることを特徴とする。
【0012】
また、前記端面に形成される湾曲は、軸線を含む断面において、S字形状であることが好適である。
【0013】
また、ロータは、エアギャップに滞留する冷却媒体を外部へ排出する溝を有し、前記溝は、前記端面を伝って導入される冷却媒体を反対側のエンドプレートの方に導くように筒部外周面にらせん状に形成されることが好適である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の回転電機によれば、簡易な構成により、早期に冷却媒体の暖機を行い、回転電機の冷却効率の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本実施形態の回転電機の構成を示す図である。
【図2】図1のA部を拡大して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る回転電機の実施形態について、図を用いて説明する。図1は、本実施形態に係る回転電機の構成を示す図であり、図2は、図1のA部を拡大して示す図である。本実施形態においては、原動機として自動車に搭載される回転電機を例に挙げ、この構成について説明する。しかし、本発明はこの構成に限定されず、寒冷地や周囲の温度が低い状況のなかで使用される回転電機にも適用することができる。なお、これらの図の左側が車両の前方であり、右側が車両の後方である。
【0017】
回転電機10は、車両の原動機である。回転電機10は、ロータシャフト12に固定されるロータ14と、ロータ14を囲うように回転電機10のケース(図示せず)に固定されたステータ16とを有する。
【0018】
ロータ14は、ロータシャフト12と同心の円筒状の磁性体であり、例えば積層鋼板を軸線方向18に積層して構成される。そして、ロータ14は、この積層された積層鋼板の両端、すなわち軸線方向18の両端に設けられたエンドプレート20を有する。積層鋼板には軸線方向に延びる孔が形成され、この孔に永久磁石(図示せず)が配置される。なお、永久磁石は、積層鋼板の内部ではなく、積層鋼板の外周に配置することもできる。
【0019】
ロータシャフト12は、ケースに設けられる軸受(図示せず)により回転可能に支持される。ロータシャフト12は、後述するが、軸線方向18に延びる孔が形成された中空軸である。軸線方向18は、図1に示されるように、車両進行方向と同一方向である。しかし、本発明はこの構成に限定されず、軸線方向18が車両進行方向に対して交差する方向であってもよい。
【0020】
ステータ16は、ロータ14の周囲にエアギャップ22を空けて配置される。ステータ16には、このステータ16の内周側に突出し、周方向に所定の間隔を空けて配置される磁極(図示せず)を有する。この磁極の間の空間であるスロット(図示せず)には、導線を磁極に巻きつけて形成されるコイル24が配置される。図1には、ステータ16の両端において、スロット間を橋渡しするコイル24、すなわちコイルエンドが示される。このコイル24の通電により、ステータ16に回転磁界が発生し、この回転磁界に吸引される力が、永久磁石を有するロータ14に発生して、ロータ14が回転する。
【0021】
一般的に、回転電機は、この回転電機の駆動により発熱する。回転電機が永久磁石型回転電機である場合、ロータに設けられる永久磁石、又はステータのコイルが発熱する。これらが発熱して温度が上昇すると、回転電機の運転効率が低下してしまう。この運転効率の低下を防ぐために、本実施形態の車両においては、冷却媒体、例えば潤滑油(ATF)により回転電機10を冷却している。以下に、その冷却構造について説明する。
【0022】
ケースには、冷却媒体を循環させるポンプ(図示せず)が収容される。このポンプは、ロータシャフト12の回転と同期して廻る構成となっている。なお、本発明はこの構成に限定されず、ポンプが専用モータにより駆動する電動ポンプであってもよい。
【0023】
ロータシャフト12には、上述したように、その内部に軸線方向18に沿って孔が形成される。この孔は、ポンプから送り出された冷却媒体が流れる流路26である。流路26は、径方向に分岐してロータシャフト12の外周面に延びる分岐路26aを含む。分岐路26aは、各エンドプレート20の端面20aに冷却媒体が供給されるようにそれぞれ形成される。なお、図1における分岐路26aの数は、1つのエンドプレート20につき1本であるが、この数は一例であって、本発明は分岐路26aの数1個に限定されない。分岐路26aは、同一円周上の周方向に間隔を空けて複数設けることが好適である。この構成により、冷却媒体の流量が多くなるので、回転電機10に対する冷却性能の向上を図ることができる。
【0024】
本実施形態におけるエンドプレート20の端面20aの構成について説明する。端面20aは、図2に示されるように、径方向の外側では径方向の内側よりもロータ14内側へ湾曲するように形成される。
【0025】
このような端面20aの形状により、常温時よりも粘性が低い低温の冷却媒体のみが、表面張力によって端面20aに沿って外周端まで伝わり、ロータ14とステータ16間のエアギャップ22に導入され、そこでの引き摺り摩擦によって暖機することができる。
【0026】
一方、低温時より粘性が高い常温以上の冷却媒体は、表面張力が低温時より低下するので、端面20aの外周端まで伝わる前に径方向外側に向かって飛散する。具体的には、冷却媒体は、湾曲28のところで径方向外側に向かって飛散する。これにより、冷却媒体の飛散方向に位置するコイルエンド24が効果的に冷却される。
【0027】
エンドプレート20の端面20aに形成される湾曲28は、径方向の外側に向かうにつれて徐々にロータ内側へ向かうように形成されることが好適である。具体的には、湾曲28は、軸線18を含む断面において、S字形状であることが好適である。この形状により、低温時の冷却媒体は、エアギャップへと効果的に導くことができ、低温以上の冷却媒体は、コイルエンド24へと効果的に導くことができる。
【0028】
また、本実施形態のロータ14は、その筒部外周面に溝30が形成される。溝30は、端面20aを伝って導入される冷却媒体を反対側(図中の車両前方側)のエンドプレート20の方に導くように筒部外周面にらせん状に形成される。すなわち、本実施形態では、溝30は、車両後方から前方に向けて、ロータ14の回転方向とは逆周りにらせん状に形成される。この構成により、ロータ14の回転時、エアギャップ22に滞留する冷却媒体は、溝30を通ってエアギャップ22の外部へと効率的に排出することができる。
【0029】
次に、上記構成の作用を、回転電機10の動作とともに図2を用いて説明する。まず、冷却媒体が高温時の場合について説明する。この場合、冷却媒体は高粘度である。流路26から端面20aに供給される冷却媒体は、図2の矢印1のルートを通る。すなわち、端面20aに沿って外周端に向かうにつれて、冷却媒体に働く遠心力は大きくなり、その力が表面張力より大きくなると、端面20aであって、ロータ14内側へと湾曲する領域から離れ径方向外側へと飛散する。そして、飛散した冷却媒体は、コイル24を冷却する。
【0030】
続いて、冷却媒体が高温より低い中温時の場合について説明する。この場合、冷却媒体は高粘度より粘度が低い中粘度である。流路26から端面20aに供給される冷却媒体は、図2の矢印2のルートを通る。すなわち、端面20aに沿って外周端に向かうにつれて、冷却媒体に働く遠心力は大きくなり、その力が表面張力より大きくなると、端面20aから離れ径方向外側へと飛散する。この飛散する地点は、上記高温時よりも径方向外側の湾曲28領域である。そして、飛散した冷却媒体は、コイル24を冷却する。
【0031】
最後に、冷却媒体が中温より低い低温時の場合について説明する。この場合、冷却媒体は中粘度より粘度が低い低粘度である。流路26から端面20aに供給される冷却媒体は、図2の矢印3のルートを通る。すなわち、端面20aに沿って外周端に向かうにつれて、上述のように冷却媒体に働く遠心力は大きくなる。しかし、端面20aの外周端まで表面張力が遠心力より大きいので、冷却媒体は、そのまま端面20aの湾曲28の領域を伝い、エアギャップ22へ導かれる。そして、冷却媒体は、エアギャップ22内で暖気され、溝30によりエアギャップ22から排出される。
【0032】
本実施形態の回転電機10によれば、低温状態の冷却媒体を効率よく暖機することができ、結果として回転電機10の冷却効率の向上を図ることができる。
【0033】
本実施形態においては、湾曲28が、図2に示されるように、車両後方側のエンドプレート20の端面20aに形成される場合について説明したが、本発明はこの構成に限定されず、どちらか一方のエンドプレート20の端面20aに形成されればよく、車両前方側であってもよい。この場合、ロータ14の溝30は、エアギャップ22に滞留する冷却媒体を車両後方側に向かって排出するように形成される。
【0034】
本実施形態においては、回転電機10が永久磁石型モータである場合について説明したが、本発明はこの構成に限定されず、回転電機10が、他の種類、例えば誘導巻線型またはリラクタンス型であってもよい。
【符号の説明】
【0035】
10 回転電機、12 ロータシャフト、14 ロータ、16 ステータ、18 軸線方向、20 エンドプレート、22 エアギャップ、24 コイル、26 流路、28 湾曲、30 溝。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷却媒体が流れる流路を有するロータシャフトと、
ロータシャフトに固定されたロータと、
ロータの周囲にエアギャップを介して配置されたステータと、
を備える回転電機において、
ロータは、軸線方向の両端に設けられたエンドプレートを有し、
ロータシャフトの流路は、エンドプレートの端面に冷却媒体を供給し、
前記端面は、径方向の外側では径方向の内側よりもロータ内側へ湾曲するように形成される、
ことを特徴とする回転電機。
【請求項2】
請求項1に記載の回転電機において、
前記端面に形成される湾曲は、軸線を含む断面において、S字形状である、
ことを特徴とする回転電機。
【請求項3】
請求項1または2に記載の回転電機において、
ロータは、エアギャップに滞留する冷却媒体を外部へ排出する溝を有し、
前記溝は、前記端面を伝って導入される冷却媒体を反対側のエンドプレートの方に導くように筒部外周面にらせん状に形成される、
ことを特徴とする回転電機。

【図1】
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【図2】
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