説明

固体バイオマスの糖化前処理方法、その装置、および、固体バイオマスの糖化方法

【課題】過分解を抑制しつつアンモニアの使用量を低減し、効率よく固体バイオマスを糖化するための糖化前処理方法を提供する。
【解決手段】水分濃度が30〜95質量%の固体バイオマスを、0.5〜4MPaでアンモニアガスと接触させ、50〜200℃で保持する。この後、急激に減圧し、固体バイオマスを爆砕する。減圧により気化したアンモニアガスは、回収して再利用する。固体バイオマス全体にむらなく短時間でアンモニアガスを固体バイオマスと接触できる。アンモニアガスの吸収熱が発生し、別途加熱するためのエネルギーの消費を抑えることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体バイオマスを糖化するための前処理である糖化前処理方法、その装置、および糖化前処理された固体バイオマスを糖化処理する固体バイオマスの糖化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、固体バイオマスからバイオエタノール燃料を製造するなど、固体バイオマスの有用化が進められている。
固体バイオマスからバイオエタノール燃料を製造するために、固体バイオマスを加水分解して糖化する必要があるが、この固体バイオマスの糖化を促進するための前処理として、セルロースへ糖化酵素が近付き易くするために、ヘミセルロースやリグニンを分離させたり、結晶性セルロースを非結晶化したりするなどの処理が実施されている。そして、糖化を効率よく行うために、比較的反応し易いヘミセルロースのみを温和な条件で糖やオリゴ糖に変換する場合もある。
この固体バイオマスの前処理方法としては、具体的には、水蒸気爆砕法、濃硫酸法、希硫酸法、加圧熱水法、アンモニア爆砕法(特許文献1〜10参照)などが広く利用されている。
【0003】
しかしながら、希硫酸法や濃硫酸法では、酸を使用するため、特にヘミセルロースの過分解が起き易い。また、水蒸気爆砕法や加圧熱水法では、高温、高圧の条件で固体バイオマスを処理するため、過分解物が生じ易い。
これらのように、希硫酸法や濃硫酸法、あるいは、水蒸気爆砕法や加圧熱水法では、過分解により糖の収率が低く、バイオエタノールの収率の向上が望まれる。
一方、過分解しないアンモニア爆砕法として、液体アンモニアあるいはアンモニア水溶液を用いる方法(特許文献1〜7,9,10)や、アンモニアガスを用いる方法(文献1,8)などが知られている。
【0004】
特許文献1には、動物のための供給として、アルファルファを強化するためにセルロース消化性およびアルファルファのタンパク質入手可能性を強化する方法が記載されている。この方法は、約0.97MPa(140psia)〜約1.24MPa(180psia)の処理圧、約25℃の処理温度で、アンモニアを約1時間未満の時間接触させる。
特許文献2には、セルロース材料の反応性を増やす方法が記載されている。この方法は、圧力容器の液体アンモニアとセルロースを含有する材料と接触させる。この圧力容器でのセルロースを含有する材料と液体アンモニアとの混合は、圧力容器を囲んでいる周囲気温より高い温度で、少なくとも液体アンモニアの蒸気圧の圧力で、セルロースを含有する材料が実質的に全て液体アンモニアに浸す十分な時間が経過するまで実施する。この後、液体アンモニアを沸騰させてセルロース繊維構造を爆発または裂くのに十分な状態に圧力容器内部で急速に減圧する。
特許文献3には、リグノセルロース系バイオマスをアンモニア水で処理する方法が記載されている。この方法は、リグノセルロース系バイオマスをアンモニア水供給手段により供給されるアンモニア水と混合した後、加熱して煮沸させバイオマスを煮沸によるアンモニア水の膨潤効果により膨張させる。このアンモニア水によるアルカリ処理により、酵素糖化反応を阻害するリグニンを除去する。また、加熱により気化したアンモニアガスを水に溶解してアンモニア水として回収する。
特許文献4には、リグノセルロース材料を液体アンモニアで処理する方法が記載されている。この方法は、10%〜80%の水分を含むリグノセルロース材料を、約30℃〜100℃設定したバレル内で液体アンモニアに接触させる。次いで、圧力を急激に低下することによる液体アンモニアを液体からガスへ膨張させてリグノセルロース材料を膨張させる。
特許文献5,6には、セルロースを液体アンモニアで処理する方法が記載されている。これらの方法は、12質量%未満の水分含有量のセルロースを、大気圧を超える0.5MPa(5バール)〜4.6MPa(46バール)の圧力で約25℃〜85℃の温度で、液体アンモニアと接触させる。このセルロースと液体アンモニアとの混合物の圧力を解放させ、1秒未満の間に少なくとも0.5MPa(5バール)まで圧力を下げ、ポリサッカライド−液体アンモニア系の有効体積を、爆発するように急激に増加させている。
特許文献7には、セルロースを液体アンモニアで処理する方法が記載されている。この方法は、セルロースを圧力容器中で大気圧以上に加圧して液体アンモニアと接触させた後、大気圧まで急速に減圧させることによって連続膨張させる方法である。この方法では、92質量%以上のアルファセルロースを含有するセルロースパルプを用い、このパルプとのアンモニアの反応を室温または室温以上の温度で接触させ、アンモニアを膨張させる。膨張後、アンモニアの反応によって到達した活性化状態が維持できる程度の最小含有量を残して、圧力容器中に残存するアンモニアを除去し、活性化された状態を維持するのに必要とされた残存アンモニアを膨潤剤あるいは含有剤によって置き換えている。
特許文献8には、セルロース含有物資を、大気温度で大気圧より高い圧力で、液状またはガス状アンモニアと接触させる方法が記載されている。この方法では、セルロース含有物質をアンモニアと接触させた後、圧力を急激に減じてアンモニアを沸騰させ、セルロース含有物質の遷移構造を破裂させる。そして、アンモニアは、再循環用に回収する。
特許文献9には、セルロースを密閉室内の加圧下で液体アンモニアと接触させた後、急激にアンモニア圧力降下を実施する方法が記載されている。
特許文献10には、大気圧よりも高い圧力、かつ25℃以上で、セルロースを表面が湿るのに十分な量の液体アンモニアと接触させる方法が記載されている。この接触後、0.5MPa(5バール)まで爆発に圧力を急激に減少させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第4600590号明細書
【特許文献2】米国特許第5037663号明細書
【特許文献3】特開2010−115162号公報
【特許文献4】特表2002−513041号公報
【特許文献5】特表平10−505130号公報
【特許文献6】特開2002−161101号公報
【特許文献7】特開平7−102001号公報
【特許文献8】特開昭58−79001号公報
【特許文献9】特表2000−513042号公報
【特許文献10】特表平11−504071号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2〜7,9,10のような液体アンモニアあるいはアンモニア水溶液を用いる方法では、固体バイオマス中への液体アンモニアあるいはアンモニア水溶液の浸透に時間が掛かり、処理効率の向上が得られにくい。また、液体アンモニアあるいはアンモニア水溶液を加圧、加熱する際に大きなエネルギーが必要となることから、処理の際のエネルギーの低減が望まれている。また、固体バイオマス全体を液体アンモニアあるいはアンモニア水溶液に浸すため、液体アンモニアあるいはアンモニア水溶液が多量に必要となるなどの不都合がある。
一方、特許文献1,8に記載のようなアンモニアガスを用いる方法では、室温で、約0.34MPa(50psig)という比較的に低い圧力で実施している。このため、アンモニアガスが十分に浸透せず、糖の収率の向上が期待できない。
【0007】
本発明は、このような点に基づき、過分解を抑制しつつアンモニアの使用量を低減し、効率よく固体バイオマスを糖化するために必要な糖化前処理方法、その装置および固体バイオマスの糖化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に記載の固体バイオマスの糖化前処理方法は、水分を含む固体バイオマスを、大気圧より高い圧力下でアンモニアガスと接触させ、前記固体バイオマス中の水分にアンモニアガスを溶解させるアンモニアガス接触工程と、前記アンモニアガス接触工程で前記アンモニアガスと接触された固体バイオマスを、前記アンモニアガス接触工程における圧力より低い圧力下に減圧し、前記固体バイオマス中の水分に溶解したアンモニアガスを気化させる減圧工程と、前記減圧工程で気化したアンモニアガスを前記固体バイオマスから分離して回収するアンモニアガス分離工程と、を実施することを特徴とする。
【0009】
そして、本発明では、前記アンモニアガス接触工程は、前記固体バイオマスが投入される圧力容器を用い、加圧したアンモニアガスを前記固体バイオマスが投入された圧力容器に供給し、大気圧より高い圧力下で前記固体バイオマスと前記アンモニアガスとを接触させる構成とすることが好ましい。
また、本発明では、前記固体バイオマスの水分濃度は、30質量%以上95質量%以下である構成とすることが好ましい。
さらに、本発明では、前記アンモニアガスは、水分濃度が10質量%以下である構成とすることが好ましい。
また、本発明では、前記アンモニアガス接触工程は、0.5MPa以上4MPa以下の圧力下で、前記固体バイオマスをアンモニアガスと接触させる構成とすることが好ましい。
さらに、本発明では、前記アンモニアガス接触工程は、前記減圧工程を実施する前に、前記固体バイオマスの温度を50℃以上200℃以下とする構成とすることが好ましい。
そして、本発明では、前記減圧工程は、前記固体バイオマスが爆砕する状態に急激に減圧する構成とすることが好ましい。
さらに、本発明では、前記減圧工程は、大気圧より低い圧力に減圧する構成とすることが好ましい。
また、本発明では、前記アンモニアガス分離工程で前記アンモニアガスが分離された前記固体バイオマスを加熱により乾燥し、前記固体バイオマスに吸着するアンモニアを分離して回収するアンモニアガス除去工程を実施する構成とすることが好ましい。
そして、本発明では、前記固体バイオマスは、セルロースを含有するバイオマスである構成とすることが好ましい。
また、本発明では、前記固体バイオマスは、デンプンを含有するバイオマスである構成とすることが好ましい。
【0010】
本発明に記載の固体バイオマスの糖化前処理装置は、水分を含む固体バイオマスを、大気圧より高い圧力下でアンモニアガスと接触させ、前記固体バイオマス中の水分にアンモニアガスを溶解させるアンモニアガス接触部と、前記アンモニアガス接触部で前記アンモニアガスと接触された固体バイオマスを、前記アンモニアガス接触部における圧力より低い圧力下に減圧し、前記固体バイオマス中の水分に溶解したアンモニアガスを気化させる減圧部と、前記減圧部で気化したアンモニアガスを前記固体バイオマスから分離して回収するアンモニアガス分離部と、を具備したことを特徴とする。
【0011】
本発明に記載の固体バイオマスの糖化方法は、本発明に記載の固体バイオマスの糖化前処理方法で処理された固体バイオマスを糖化処理することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、固体バイオマスを大気圧より高い圧力下でアンモニアガスと接触させ、固体バイオマス中の水分にアンモニアガスを溶解させる。このアンモニアガスの溶解時、固体バイオマス中の水分にアンモニアガスが取り込まれる状態となることから、固体バイオマス全体にむらなく短時間でアンモニアガスを固体バイオマスと接触できる。このため、必要とするアンモニアガスの量を容易に最小限に設定できる。さらに、アンモニアガスの吸収熱が発生して、固体バイオマスが加熱されるため、固体バイオマスを後工程で糖化しやすく改質するために別途加熱するためのエネルギーの消費を抑えることができる。そして、固体バイオマスの水分量とアンモニアガスと接触させる際の圧力とを制御することで、吸収熱による固体バイオマスを加熱する反応温度を容易に決定できる。このため、固体バイオマスの糖化前処理を簡素で容易に安定して制御できる。
そして、固体バイオマスとアンモニアガスとの接触後に減圧し、固体バイオマス中の水分に溶解するアンモニアガスを気化して回収することで、アンモニアガスの再利用が可能となり、固体バイオマスの糖化のための前処理コストを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る一実施形態の固体バイオマスの糖化前処理装置の概略構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る一実施形態の固体バイオマスの糖化前処理装置について、図面を参照して説明する。
[装置構成]
【0015】
図1において、糖化前処理装置1は、固体バイオマスを糖化処理するために固体バイオマスを改質する前処理を実施する装置である。
そして、糖化前処理装置1は、アンモニアガス接触部10と、減圧部20と、アンモニアガス分離部としてのアンモニアガス回収部30と、アンモニアガス除去部40と、図示しない制御装置と、などを備えている。
【0016】
ここで、固体バイオマスとしては、例えば、セルロース系バイオマス、デンプン系バイオマス、セルロース系とデンプン系の混合バイオマスとが利用できる。セルロース系バイオマスとしては、パームヤシの樹幹や空房、バガス、稲わら、麦わら、トウモロコシ残渣(コーンストーバー、コーンコブ、コーンハルなど)、ヤトロファの種皮や殻、木材チップなどが例示できる。デンプン系バイオマスとしては、トウモロコシ、米などが例示できる。混合バイオマスとしては、キャッサバパルプなどが例示できる。
また、固体バイオマスの水分濃度は、30質量%以上95質量%以下であることが好ましい。ここで、水分濃度は、水の質量を水分を含む固体バイオマスの質量で除算した値の質量百分率である。そして、固体バイオマス中の水分濃度が30質量%より少なくなると、アンモニアガスが溶解する絶対量が少なくなり、固体バイオマスを後工程で効率よく糖化するための改質が不十分となるおそれがある。一方、固体バイオマス中の水分濃度が95質量%より多くなると、固体バイオマスに遊離水が含まれる状態となり、この遊離水にアンモニアガスが溶解し、固体バイオマスの改質に寄与するアンモニアガスの絶対量が少なくなり、固体バイオマスの改質が不十分となるおそれがあるためである。
【0017】
アンモニアガス接触部10は、水分を含む固体バイオマスを、大気圧より高い圧力下でアンモニアガスと接触させ、固体バイオマス中の水分にアンモニアガスを溶解させる。
このアンモニアガス接触部10は、アンモニアガス反応器11と、原料投入部12と、アンモニアガス供給管13と、反応バイオマス排出路14と、を備えている。
アンモニアガス反応器11は、内部を大気圧より高い圧力に調整可能で保温性を有した耐圧耐熱容器である。このアンモニアガス反応器11には、内圧を測定する図示しない圧力センサー、内部の温度を測定する図示しない温度センサー、内部を適宜加熱するヒーターなどの図示しない加熱手段などを備えている。
原料投入部12は、アンモニアガス反応器11に設けられ、水分を含有する固体バイオマスをアンモニアガス反応器11内に投入させる。
アンモニアガス供給管13は、アンモニアガス反応器11に一端側が接続され、アンモニアガスをアンモニアガス反応器11内に供給する。
ここで、供給するアンモニアガスとしては、水分濃度が10質量%以下、特に5質量%以下であることが好ましい。水分濃度が10質量%より高くなると、固体バイオマスと接触させたときに発生する吸収熱の発熱量が少なくなり、加熱手段で加熱するためのエネルギー消費が多くなるおそれがある。さらには、水分濃度が10質量%より高くなると、アンモニアによる固体バイオマスの改質効果が十分に得られなくなるおそれがあるためである。なお、水分濃度がある程度以上に低いもの、すなわちアンモニアガスの純度がある程度高いものでは、コストが高くなる一方、改質効果に大差はないことから、広く流通し安価な水分濃度が5質量%以下のアンモニアガスであればよい。なお、アンモニアガス源としては、アンモニアガスの他、アンモニア水や液体アンモニアなど、適宜利用できる。
反応バイオマス排出路14は、アンモニアガス反応器11に一端側が接続され、アンモニアガスが接触された固体バイオマスを、アンモニアガス反応器11外へ排出する。
【0018】
減圧部20は、アンモニアガス接触部10でアンモニアガスと接触された固体バイオマスを、アンモニアガス接触部10における圧力より低い圧力下に減圧し、固体バイオマス中の水分に溶解しているアンモニアガスを気化させる。この減圧部20は、減圧装置21を備えている。
減圧装置21は、アンモニアガス接触部10の反応バイオマス排出路14に接続され、アンモニアガスが接触された固体バイオマスがアンモニアガス反応器11から供給される。この減圧装置21は、内部を大気圧より低い圧力に調整可能な耐圧構造である。そして、減圧装置21には、内圧を測定する図示しない圧力センサーなどが設けられている。
また、減圧装置21には、気化されたアンモニアガスを減圧装置21外へ排出するアンモニアガス排出路22と、アンモニアガスが気化された固体バイオマスを減圧装置21外へ排出する排出路23と、が接続されている。
【0019】
アンモニアガス回収部30は、減圧装置21で気化されたアンモニアガスを固体バイオマスから分離して回収する。このアンモニアガス回収部30は、冷却器31と、アンモニアガス吸収器32と、アンモニア蒸留機33と、液体アンモニアレシーバー34と、液体アンモニアホルダー35と、アンモニアガスホルダー36と、を備えている。
冷却器31は、アンモニアガス排出路22に接続され、減圧装置21で気化されたアンモニアガスが供給される。この冷却器31は、減圧装置21から移送されたアンモニアガスを冷却し、液体アンモニアに液化する。そして、冷却器31には、液化された液体アンモニアを排出する液体アンモニア排出路311と、液化されずに残ったアンモニアガスを排出するアンモニアガス排出路312とが設けられている。
アンモニアガス吸収器32は、アンモニアガス排出路312に接続され、冷却器31から移送されたアンモニアガスを水に吸収させる。このアンモニアガス吸収器32には、水が供給される水供給路321と、水供給路321から供給される水を散水する散水器322と、アンモニアガスが溶解しているアンモニア水溶液をアンモニアガス吸収器32外へ排出するアンモニア水溶液排出路323とが設けられている。
アンモニア蒸留機33は、アンモニア水溶液排出路323に接続され、アンモニアガス吸収器32から移送されたアンモニア水溶液を蒸留し、水と、アンモニアガスとに分離する。このアンモニア蒸留機33には、アンモニア水溶液の蒸留のための加熱装置331が設けられている。そして、アンモニア蒸留機33には、分留した水をアンモニアガス吸収器32へ返送する水供給路321が接続されている。さらに、アンモニア蒸留機33には、分留したアンモニアガスを排出するガス排出路332が設けられている。
液体アンモニアレシーバー34は、ガス排出路332に接続され、アンモニア蒸留機33から分留されてアンモニアガスが供給され、液体アンモニアに液化する。この液体アンモニアレシーバー34は、供給されるアンモニアガスを冷却して液化する冷却装置341を備えている。そして、液体アンモニアレシーバー34には、液化した液体アンモニアを排出する液排出路342が設けられている。
液体アンモニアホルダー35は、液体アンモニア排出路311および液排出路342に接続され、冷却器31および液体アンモニアレシーバー34から移送される液体アンモニアを貯留する。さらに、液体アンモニアホルダー35は、貯留する液体アンモニアを、アンモニアガスに適宜気化する。この液体アンモニアホルダー35は、液体アンモニアを加熱して気化させる加熱部351を備えている。この加熱部351の加熱条件により、気化するアンモニアガスの圧力が設定される。そして、液体アンモニアホルダー35には、気化したアンモニアガスをアンモニアガス接触部10へ供給するために流下するガス流路352が設けられている。
アンモニアガスホルダー36は、ガス流路が接続され、液体アンモニアホルダーから供給されるアンモニアガスを大気圧より高い圧力で貯留する。そして、アンモニアガスホルダーには、アンモニアガス供給管が接続され、貯留するアンモニアガスをアンモニアガス反応器へ適宜供給する。
【0020】
アンモニアガス除去部40は、減圧部20で減圧されて気化したアンモニアガスがアンモニアガス回収部30により分離された固体バイオマスを加熱により乾燥し、固体バイオマスに吸着するアンモニアを分離して回収する。このアンモニアガス除去部40は、乾燥機41を備えている。
乾燥機41は、減圧部20の排出路23に接続され、アンモニアガスが分離された固体バイオマスが減圧装置21から供給される。乾燥機41は、供給された固体バイオマスを加熱し、固体バイオマスに吸着するアンモニアガスを水分とともに除去する。そして、乾燥機41には、固体バイオマスから除去されたアンモニアガスをアンモニアガス吸収器32へ供給するアンモニアガス排出路312が接続されている。さらに、乾燥機41には、乾燥されアンモニアとの接触により改質された固体バイオマスを、後工程の図示しない糖化処理する糖化装置に供給する供給路42が設けられている。
なお、後工程の糖化処理としては、例えば、酵素糖化、加圧熱水糖化、硫酸触媒糖化、固体触媒糖化など、各種糖化方法を利用することができる。
【0021】
制御装置は、糖化前処理装置1全体の動作を制御する。
具体的には、制御装置は、固体バイオマス、アンモニアガス、液体アンモニア、アンモニア水溶液、水の流れを制御したり、流量や供給する圧力、温度を制御したり、固体バイオマスを糖化するための前処理をするための制御をする。
【0022】
[糖化前処理方法]
次に、上記糖化前処理装置1による固体バイオマスを改質する糖化前処理方法を説明する。
【0023】
まず、原料投入部から固体バイオマスをアンモニアガス反応器内へ投入する。この際、アンモニアガス反応器内は、大気圧のままでよい。
そして、制御装置は、アンモニアガスホルダー36で大気圧より高い圧力で貯留するアンモニアガスを、アンモニアガス供給管13を介してアンモニアガス反応器11へ供給する。ここで、アンモニアガスの供給に際して、制御装置は、液体アンモニアホルダー35に貯留する液体アンモニアを適宜加熱して気化させ、アンモニアガスホルダー36へ後述する大気圧より高い圧力で順次貯留させる。
【0024】
このアンモニアガスの供給圧力は、大気圧より高い圧力下で固体バイオマスとアンモニアガスとが接触する条件である。
具体的には、0.5MPa以上4MPa以下、特に0.7MPa以上2MPa以下の圧力下で接触させることが好ましい。ここで、4MPaより高い圧力とするためには高温に加熱する必要があり、エネルギー損失が大きくなる。さらに、固体バイオマスを高温に加熱すると、ヘミセルロースが過分解し、発酵阻害物質が生成し、糖化のさらに後工程の発酵によるエタノールの製造効率が低減するおそれがある。これらのように、4MPaより高い圧力では、効率的な糖化前処理ができなくなるおそれがある。一方、0.5MPaより圧力が小さくなると、固体バイオマスに対し充分な量のアンモニアガスが供給されないために糖化前処理の効果が充分に現れないおそれがある。
【0025】
また、固体バイオマスとアンモニアガスとの接触により、アンモニアガスが固体バイオマス中の水分に溶解する。このアンモニアガスの溶解時、吸収熱が発生して、固体バイオマスが加熱される。そして、制御装置は、固体バイオマスの温度が50℃以上200℃以下、特に、50℃以上170℃以下となるように、吸収熱で不足する場合は加熱手段により適宜加熱する。
ここで、50℃より低くなると、アンモニアガスによる固体バイオマスの改質が不十分となるおそれがある。一方、200℃より高くなると、固体バイオマスが過分解して過分解物が生成し、後工程での発酵の効率が低減するおそれがあるためである。
特に、固体バイオマスがデンプン系バイオマスである場合、高温では溶融して取扱が困難となるおそれがあることから、特に50℃以上70℃以下に調整することが好ましい。また、固体バイオマスがセルロース系バイオマスである場合は、特に70℃以上130℃以下に調整することが好ましい。
【0026】
そして、このように、大気圧より高い圧力下かつ所定の温度範囲で固体バイオマスとアンモニアガスとを接触させ、所定時間経過、例えば1分以上3時間以下、特に3分以上2時間以下、接触状態を保持する。
すなわち、固体バイオマス中の水分にアンモニアガスが溶解した状態となることから、1分程度の比較的に短時間でも、固体バイオマス全体にむらなくアンモニアガスを接触させることができる。なお、接触時間が1分より短くなると、固体バイオマスの改質が不十分となるおそれがある。一方、3時間より長く接触させても、固体バイオマスの改質状態に大差はなく、処理効率の向上が図れなくなるおそれがあるためである。
【0027】
この後、制御装置は、アンモニアガスと接触された固体バイオマスを、反応バイオマス排出路14を介して減圧装置21へ供給させる。なお、減圧装置21は、内部圧力が大気圧でもよいが、大気圧より低い圧力に調整されていることが好ましい。
この減圧装置21へ供給された固体バイオマスは、大気圧より高いアンモニアガス反応器11から急激に減圧される状態となる。このことにより、固体バイオマス中の水分に溶解するアンモニアガスが急激に気化し、固体バイオマスは爆砕された状態となる。
【0028】
そして、減圧により気化したアンモニアガスは、アンモニアガス回収部30で回収される。すなわち、減圧装置21で気化したアンモニアガスは、アンモニアガス排出路22を介して冷却器31に供給される。冷却器31では、アンモニアガスを冷却して液体アンモニアに液化し、液体アンモニア排出路311を介して液体アンモニアホルダー35へ供給して貯留させる。
なお、冷却器31で液化されなかったアンモニアガスは、アンモニアガス排出路312を介してアンモニアガス吸収器32へ供給し、水に吸収させる。このアンモニアガス吸収器32で生成するアンモニア水溶液は、アンモニア水溶液排出路323を介してアンモニア蒸留機33で蒸留される。そして、分留されたアンモニアガスは、ガス排出路332を介して液体アンモニアレシーバー34に供給され、液体アンモニアに液化される。この液化された液体アンモニアは、水分濃度が5質量%以下まで濃縮されている。そして、液体アンモニアは、液排出路342を介して液体アンモニアホルダー35へ供給されて貯留される。
【0029】
一方、減圧装置21でアンモニアガスが気化された固体バイオマスは、アンモニアガス除去部40へ供給される。
すなわち、固体バイオマスは、減圧装置21から排出路23を介して乾燥機41へ供給され、加熱乾燥される。この加熱乾燥により、固体バイオマスに吸着するアンモニアガスが水分とともに除去される。アンモニアガスを効率良く除去するために、この加熱乾燥においては加熱水蒸気を使用することもできる。そして、加熱乾燥された固体バイオマスは、改質された固体バイオマスとして、供給路42を介して後工程の図示しない糖化装置に供給され、糖化処理される。
また、乾燥機41で水分とともに除去されたアンモニアガスは、アンモニアガス排出路312を介してアンモニアガス吸収器32へ供給され、冷却器31からのアンモニアガスとともに、処理される。
【0030】
[実施形態の作用効果]
上述したように、上記実施形態では、固体バイオマスを大気圧より高い圧力下でアンモニアガスと接触させ、固体バイオマス中の水分にアンモニアガスを溶解させる。このアンモニアガスの溶解時、固体バイオマス中の水分にアンモニアガスが取り込まれる状態となることから、固体バイオマス全体にむらなく短時間でアンモニアガスを固体バイオマスと接触できる。このため、必要とするアンモニアガスの量を容易に最小限に設定できる。さらに、アンモニアガスの吸収熱が発生して、固体バイオマスが加熱されるため、固体バイオマスを後工程で糖化しやすく改質するために別途加熱するためのエネルギーの消費を抑えることができる。そして、固体バイオマスの水分量とアンモニアガスと接触させる際の圧力とを制御することで、吸収熱による固体バイオマスを加熱する反応温度を容易に決定できる。このため、固体バイオマスの糖化前処理を簡素で容易に安定して制御できる。
そして、固体バイオマスとアンモニアガスとの接触後に減圧し、固体バイオマス中の水分に溶解するアンモニアガスを気化して回収することで、アンモニアガスの再利用が可能となり、固体バイオマスの糖化のための前処理コストを低減できる。
【0031】
そして、耐圧構造のアンモニアガス反応器11で、固体バイオマスをアンモニアガスと大気圧より高い圧力で接触させている。
このため、大気圧より高い圧力でアンモニアガスホルダー36に貯留させたアンモニアガスを、固体バイオマスが投入されたアンモニアガス反応器11に供給するのみでよく、大気圧より高い圧力での固体バイオマスとアンモニアガスとを接触させる構成が容易に得られ、接触処理も容易にでき、簡単な装置構成で安定した糖化前処理ができる。
【0032】
また、固体バイオマスとして、水分濃度が30質量%以上95質量%以下のものを用いる。
このため、固体バイオマスと接触させたアンモニアガスが、固体バイオマス中の水分に良好に溶解し、固体バイオマスを良好に改質できる。
【0033】
さらに、固体バイオマスと接触させるアンモニアガスとして、水分濃度が10質量%以下のものを用いる。
このため、アンモニアガスが固体バイオマス中の水分に溶解する際に発生する吸収熱により、固体バイオマスを良好に改質させるための熱量が得られ、加熱手段で加熱する必要がない、あるいは加熱手段で加熱するためのエネルギー消費量を大きく低減でき、固体バイオマスを改質する処理コストを低減でき、効率よく改質できる。
【0034】
そして、固体バイオマスとアンモニアガスとを接触させる圧力として、0.5MPa以上4MPa以下としている。
このため、固体バイオマスを必要以上に高温にする必要がなく、固体バイオマスを高温に加熱することによる過分解などの不都合を生じず、また加圧下でのアンモニアガスとの接触により十分に改質されて、後工程での効率的な糖化処理が得られる。
【0035】
また、固体バイオマスとアンモニアガスとを接触させる温度を、50℃以上200℃以下としている。
このため、固体バイオマスが過分解されることなく十分に改質でき、糖化原料としての損失が少なく、また糖化工程の後工程となる発酵に対する阻害が少なくなる。
【0036】
そして、アンモニアガスと接触させた固体バイオマスを急激に減圧して爆砕している。
このため、固体バイオマスを十分に改質でき、後工程の糖化処理効率を向上できる。
【0037】
また、固体バイオマスを減圧する際、大気圧より低い圧力に減圧する。
このことにより、アンモニアガスを接触させた際の加圧状態から減圧する圧力までの圧力差が大きくなり、固体バイオマスの爆砕の効果が大きく得られやすくなり、固体バイオマスをより良好に改質できる。
【0038】
さらに、気化したアンモニアガスを冷却して液体アンモニアとして回収する際、液化しないアンモニアガスは、水に吸収させて蒸留により濃縮し、さらに冷却して液体アンモニアとして回収しているので、アンモニアガスを高効率で回収でき、処理コストの増大を防止できる。
また、改質した固体バイオマスを乾燥して、吸着するアンモニアガスも分離除去するので、アンモニアガスをより高効率で回収でき、処理コストの増大を防止できる。
【0039】
そして、固体バイオマスとしてセルロース系バイオマスやデンプン系バイオマスを処理対象とすることで、従前の方法よりも良好な改質状態が得られ、糖化処理効率を向上できる。
【0040】
[変形例]
なお、以上に説明した態様は、本発明の一態様を示したものであって、本発明は、前記した実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的および効果を達成できる範囲内での変形や改良が、本発明の内容に含まれるものであることはいうまでもない。
また、本発明を実施する際における具体的な構造および形状等は、本発明の目的および効果を達成できる範囲内において、他の構造や形状等としても問題はない。
【0041】
例えば、固体バイオマスと接触させるアンモニアガスの供給として、液体アンモニアホルダーで液体アンモニアを加熱して気化されたアンモニアガスを大気圧より高い圧力でアンモニアガス反応器に供給して大気圧より高い圧力下で接触させたが、この限りではない。すなわち、アンモニアガスボンベなどからアンモニアガスを供給するなどしてもよい。さらに、ガス状に貯留するアンモニアガスを供給したり、アンモニア水溶液を加熱して発生したアンモニアガスを供給したりしてもよい。
また、回収したアンモニアガスを再利用する構成を例示したが、分離したアンモニアガスをアンモニアガスボンベに充填して回収するバッチ式としてもよい。
【0042】
そして、大気圧より高い圧力下でアンモニアガスと接触させた固体バイオマスを、減圧装置で急激に減圧して固体バイオマスを爆砕させる構成を例示したが、急激に減圧するのではなく、徐々に減圧してもよい。なお、爆砕の効果を大きくするため、急激に減圧することが好ましい。
また、減圧する圧力として、大気圧より低い圧力に減圧したが、大気圧に減圧してもよい。大気圧より低い圧力に減圧する場合は真空ポンプなどが必要となり、エネルギー効率的に不利になることもある。なお、大気圧より低い圧力とすることで、加圧状態から減圧する圧力差が大きくなり、爆砕の効果が大きく得られやすくなる。
【0043】
その他、本発明の実施における具体的な構造および形状等は、本発明の目的を達成できる範囲で他の構造等としてもよい。
【実施例】
【0044】
次に、本発明の固体バイオマスの糖化前処理方法について、実施例により具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0045】
[実施例1]
(セルロース系バイオマスの糖化前処理)
1000ml容積のアンモニアガス反応器に、水分濃度が58.7質量%のセルロース系バイオマスであるバガス試料100gを入れ、アンモニアガスホルダーよりアンモニアガスを供給し、2MPaGまで加圧した。このとき、温度はゆっくりと上昇し、2分後に2MPaまで上昇した時には99℃まで達した。この状態で60分保持した。この保持した期間での平均温度は、83℃であった。
この後、−0.08MPaGの減圧装置へ供給し、急激に減圧させてバガスを爆砕した。
気相中のアンモニアを除去後、バガスを取り出し陰干しし、アンモニアを充分に除去した。その時の、バガスの水分濃度は、49.6質量%であった。
(糖化処理)
上記糖化前処理により得られたバガス0.7gを容器に入れ、10mlの100mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.0)条件下となるように調整して酵素(Accellerase Duet:Genencor社製)0.2mlを添加し、50℃に保った恒温槽中の振盪機にて120rpmで72時間糖化反応を行った。その後、遠心分離機にて不溶性残渣を除去し、得られた上澄み液の糖濃度を測定した。糖濃度の測定は、フェノール硫酸を用いた比色法にて、λ=490nmの吸光度を分光光度計(島津製作所製、型式UV−1700)を用いて測定することにより行った。
なお、糖濃度は、糖化前処理後のバガスの乾燥質量1g当たり、生成した単糖の質量を求め、単糖化率として比較評価した。結果を表1に示す。
【0046】
[実施例2]
実施例1の糖化前処理における保持時間を15分に変更した以外は、実施例1と同様に処理した。結果を表1に示す。
[実施例3]
実施例1の糖化前処理における圧力を1MPaGに変更した以外は、実施例1と同様に処理した。結果を表1に示す。
【0047】
[実施例4]
実施例1の糖化前処理におけるバガスとして、水分濃度が50.2質量%のものを使用した以外は、実施例1と同様に処理した。結果を表1に示す。
[実施例5]
実施例1の糖化前処理におけるバガスとして水分濃度が50.2質量%のものを使用し、かつ保持時間を15分に変更した以外は、実施例1と同様に処理した。結果を表1に示す。
[実施例6]
実施例1の糖化前処理におけるバガスとして水分濃度が50.2質量%のものを使用し、かつ圧力を1MPaGとした以外は、実施例1と同様に処理した。結果を表1に示す。
【0048】
[実施例7]
実施例1の糖化前処理におけるバガスとして、水分濃度が28.6質量%のものを使用した以外は、実施例1と同様に処理した。結果を表1に示す。
[実施例8]
実施例1の糖化前処理におけるバガスとして水分濃度が28.6質量%のものを使用し、かつ保持時間を15分に変更した以外は、実施例1と同様に処理した。結果を表1に示す。
[実施例9]
実施例1の糖化前処理におけるバガスとして水分濃度が28.6質量%のものを使用し、かつ圧力を1MPaGとした以外は、実施例1と同様に処理した。結果を表1に示す。
[実施例10]
実施例1の糖化前処理におけるバガスとして、水分濃度が2.9質量%のものを使用した以外は、実施例1と同様に処理した。結果を表1に示す。
【0049】
[実施例11]
実施例10の糖化処理におけるバガスの量を0.7gから0.438gに変更した以外は、実施例10と同様に処理した。すなわち、後述する比較例1における酵素糖化するバガスの乾燥重量と同じ量となるようにした。その結果を表2に示す。
【0050】
[比較例1]
実施例1の糖化前処理を実施することなく、乾燥バガス0.4gを用い、実施例11と同様の酵素による糖化処理を実施した。その結果を表2に示す。
【0051】
【表1】

【0052】
【表2】

【0053】
[実施例12]
(デンプン系バイオマスの糖化前処理)
冷凍生キャッサバパルプを30℃の温水で解凍し、これを60℃の乾燥機で水分を飛ばして乾燥した後に保存した。その後、保存した乾燥キャッサバパルプを水分が70質量%となるように加水し、水分が均一となるようにプラスチック袋中で数時間保持した後に実験に供した。
1000ml容積のアンモニアガス反応器に、水分濃度が70質量%の前記キャッサバパルプ試料200gを入れ、アンモニアガスホルダーよりアンモニアガスを供給し、1MPaGまで加圧した。このとき、温度はゆっくりと上昇し、2分後に1MPaGまで上昇した時には95℃に達した。この状態で15分保持した。この保持した期間での平均温度は、80℃であった。
この後、−0.08MPaGの減圧装置へ供給し、急激に減圧させてキャッサバパルプを爆砕した。気相中のアンモニアを除去後、キャッサバパルプを取り出し陰干しし、アンモニアを充分に除去した。その時の、キャッサバパルプの水分濃度は、49.6質量%であった。
なお、糖化処理前のキャッサバパルプ中のデンプン量を、トータルスターチ測定キット(メガザイム社製)を用いて測定した結果、63.5質量%(乾燥キャッサバパルプベース)であった。
【0054】
(糖化処理)
上記糖化前処理により得られたキャッサバパルプ1gを容器に入れ、10mlの100mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.0)条件下となるように調整してアミラーゼ酵素(Bacillus amyloliquefaciens:シグマ・アルドリッチ社製)0.1mlおよびグルコアミラーゼ酵素(Aspergillus niger:シグマ・アルドリッチ社製)0.05mlを添加し、60℃に保った恒温槽中の振盪機にて120rpmで72時間糖化反応を行った。その後、遠心分離機にて不溶性残渣を除去し、得られた上澄み液の糖濃度を測定した。糖濃度の測定は、遊離してきた還元糖を、ソモジ・ネルソン法を用いた比色法にて、λ=520nmの吸光度を分光光度計(島津製作所製、型式UV−1700)で測定することにより行った。
その結果、酵素糖化後の液中の単糖濃度より求めた、デンプン糖化効率は、76.8%であった。なお、デンプン糖化効率は、キャッサバパルプに含まれる全体のデンプン濃度をグルコース濃度へ換算した値を100%とし、前記糖化処理によって生産された還元糖値の割合より算出した。その際、キャッサバパルプに含まれる遊離糖は生成した還元糖値からあらかじめ差し引いた。
【0055】
[結果]
表1に示す結果より、本発明の糖化前処理を実施することで、単糖化率が高くなったことがわかる。
また、実施例においては、糖化前処理する前の原料であるバガスの水分濃度が高い方が、単糖化率が高くなる傾向が認められた。これは、溶解するアンモニア量が増大し、爆砕の効果が大きく現れたことが理由と考えられる。
そして、原料の水分濃度が同じであれば、圧力が高いほど、また処理時間が長いほど単糖化率が向上することが認められた。すなわち、実施例1〜3のうちでは実施例1が、実施例4〜6のうちでは実施例4が、実施例7〜9のうちでは実施例7が、それぞれ最も高い単糖化率が得られた。
一方、表2に示す結果から、本発明の糖化前処理を実施した実施例11が、糖化前処理を実施しない比較例1よりも単糖濃度が高い。そして、実施例11と比較例1とは乾燥質量が同一であることから、本発明の糖化前処理を実施することで酵素糖化の活性が向上することが認められた。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、セルロースやデンプンを含有する固体バイオマスを糖化処理するために改質する前処理方法に利用できる。
【符号の説明】
【0057】
1…糖化前処理装置
10…アンモニアガス接触部
11…アンモニアガス反応器
20…減圧部
30…アンモニアガス回収部
40…アンモニアガス除去部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水分を含む固体バイオマスを、大気圧より高い圧力下でアンモニアガスと接触させ、前記固体バイオマス中の水分にアンモニアガスを溶解させるアンモニアガス接触工程と、
前記アンモニアガス接触工程で前記アンモニアガスと接触された固体バイオマスを、前記アンモニアガス接触工程における圧力より低い圧力下に減圧し、前記固体バイオマス中の水分に溶解したアンモニアガスを気化させる減圧工程と、
前記減圧工程で気化したアンモニアガスを前記固体バイオマスから分離して回収するアンモニアガス分離工程と、を実施する
ことを特徴とする固体バイオマスの糖化前処理方法。
【請求項2】
請求項1に記載の固体バイオマスの糖化前処理方法であって、
前記アンモニアガス接触工程は、前記固体バイオマスが投入される圧力容器を用い、加圧したアンモニアガスを前記固体バイオマスが投入された圧力容器に供給し、大気圧より高い圧力下で前記固体バイオマスと前記アンモニアガスとを接触させる
ことを特徴とする固体バイオマスの糖化前処理方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の固体バイオマスの糖化前処理方法であって、
前記固体バイオマスの水分濃度は、30質量%以上95質量%以下である
ことを特徴とする固体バイオマスの糖化前処理方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の固体バイオマスの糖化前処理方法であって、
前記アンモニアガスは、水分濃度が10質量%以下である
ことを特徴とする固体バイオマスの糖化前処理方法。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の固体バイオマスの糖化前処理方法であって、
前記アンモニアガス接触工程は、0.5MPa以上4MPa以下の圧力下で、前記固体バイオマスをアンモニアガスと接触させる
ことを特徴とする固体バイオマスの糖化前処理方法。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載の固体バイオマスの糖化前処理方法であって、
前記アンモニアガス接触工程は、前記減圧工程を実施する前に、前記固体バイオマスの温度を50℃以上200℃以下とする
ことを特徴とする固体バイオマスの糖化前処理方法。
【請求項7】
請求項1から請求項6までのいずれか一項に記載の固体バイオマスの糖化前処理方法であって、
前記減圧工程は、前記固体バイオマスが爆砕する状態に急激に減圧する
ことを特徴とする固体バイオマスの糖化前処理方法。
【請求項8】
請求項1から請求項7までのいずれか一項に記載の固体バイオマスの糖化前処理方法であって、
前記減圧工程は、大気圧より低い圧力に減圧する
ことを特徴とする固体バイオマスの糖化前処理方法。
【請求項9】
請求項1から請求項8までのいずれか一項に記載の固体バイオマスの糖化前処理方法であって、
前記アンモニアガス分離工程で前記アンモニアガスが分離された前記固体バイオマスを加熱により乾燥し、前記固体バイオマスに吸着するアンモニアを分離して回収するアンモニアガス除去工程を実施する
ことを特徴とする固体バイオマスの糖化前処理方法。
【請求項10】
請求項1から請求項9までのいずれか一項に記載の固体バイオマスの糖化前処理方法であって、
前記固体バイオマスは、セルロースを含有するバイオマスである
ことを特徴とする固体バイオマスの糖化前処理方法。
【請求項11】
請求項1から請求項9までのいずれか一項に記載の固体バイオマスの糖化前処理方法であって、
前記固体バイオマスは、デンプンを含有するバイオマスである
ことを特徴とする固体バイオマスの糖化前処理方法。
【請求項12】
水分を含む固体バイオマスを、大気圧より高い圧力下でアンモニアガスと接触させ、前記固体バイオマス中の水分にアンモニアガスを溶解させるアンモニアガス接触部と、
前記アンモニアガス接触部で前記アンモニアガスと接触された固体バイオマスを、前記アンモニアガス接触部における圧力より低い圧力下に減圧し、前記固体バイオマス中の水分に溶解したアンモニアガスを気化させる減圧部と、
前記減圧部で気化したアンモニアガスを前記固体バイオマスから分離して回収するアンモニアガス分離部と、を具備した
ことを特徴とする固体バイオマスの糖化前処理装置。
【請求項13】
請求項1から請求項11までのいずれか一項に記載の固体バイオマスの糖化前処理方法で処理された固体バイオマスを糖化処理する
ことを特徴とする固体バイオマスの糖化方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−80818(P2012−80818A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−229512(P2010−229512)
【出願日】平成22年10月12日(2010.10.12)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【出願人】(501174550)独立行政法人国際農林水産業研究センター (22)
【Fターム(参考)】