説明

固体レーザ装置

【課題】 励起光からレーザー発振光への変換効率を向上させることにより、小型でランニングコストの低い固体レーザ装置を提供すること。
【解決手段】 励起光源と、レーザ媒質を含む軸励起方式のレーザ共振器と、励起光源から出射される励起光を、レーザ共振器内レーザ媒質の一端部へと、レーザ共振光と同軸に入射させるための励起光導入光学系とを有し、レーザ媒質は3準位動作にてレーザ発振を行うように構成されており、かつレーザ媒質の一端部からレーザ媒質内へと入射され、レーザ媒質中を通過して、レーザ媒質の他端部からレーザ媒質外へと出射される励起光の全部又は一部を折り返して、レーザ媒質の他端部へとレーザ共振光と同軸に再入射させるための励起光再導入光学系をさらに有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、3準位動作にてレーザ発振を行う軸励起方式のレーザ共振器を有する固体レーザ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
Nd3+を添加したレーザー結晶において3/29/2遷移でレーザ発振を行なわせる場合や、Yb3+を添加したレーザ結晶でレーザ発振を行なわせる場合のように、3準位動作にてレーザ発振を行う軸励起方式のレーザ共振器を有する固体レーザ装置は、従来より知られている。
【0003】
この種の固体レーザ装置は、励起光源と、レーザ媒質を含む軸励起方式のレーザ共振器と、励起光源から出射される励起光を、レーザ共振器内レーザ媒質の一端部へと、レーザ共振光と同軸に入射させるための励起光導入光学系とを有し、レーザ媒質は3準位動作にてレーザ発振を行うように構成されている。
【0004】
3準位動作にてレーザ発振を行う軸励起方式のレーザ共振器を有する固体レーザ装置は、4準位動作にてレーザ発振を行うものに比べて、一般的に、励起光からレーザ発振光への変換効率が高いことから、例えば、極短パルスレーザリペア装置のような比較的に高出力用途のレーザ光源部として採用が期待されている。
【0005】
一方、軸励起方式の固体レーザ装置の励起光源としては、ファイバカップルLDが知られている。このファイバカップルLDは、円形で均一な発散角および強度分布を持つ理想的なレーザビームを発生させることが可能であり、消費電力も低いことから、現在、レーザ加工装置やレーザ直描装置等の光源として広く採用されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2004−354659号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
レーザ共振器内レーザ媒質の一端部へと、レーザ共振光と同軸に入射された励起光は、レーザ媒質中をその軸方向へとレーザ媒質に吸収されつつ進行し、最終的にレーザ媒質の他端部からレーザ媒質外へと出射される。そのため、レーザ媒質の軸方向に沿ったレーザ媒質内における励起光強度は、その進行距離に応じて指数関数的に減衰することとなり、励起光強度はレーザ媒質の出射端面において最も低下する。
【0007】
また、Nd3+を添加したレーザ結晶において3/29/2遷移でレーザ発振を行わせる場合や、Yb3+を添加したレーザ結晶でレーザ発振を行わせる場合のように、3準位動作でレーザ発振を行う軸励起方式のレーザ共振器を有する固体レーザ装置にあっては、レーザ媒質中における励起光密度が低い領域では、レーザ発振波長における光の再吸収が生じて、レーザ発振光出力の低下を招くことが知られている。
【0008】
そのため、この種の固体レーザ装置においては、レーザ媒質の出射端面近傍においてレーザ発振光の再吸収が起こらないように、入射された励起光のうちの40〜60%程度はレーザ媒質を透過すると言った動作条件を採用するのが通例であり、このことが、励起光からレーザ発振光への変換効率を低下させる要因の1つとされていた。
【0009】
一方、Nd3+やYb3+を、バナジン酸塩結晶やタングステン酸塩結晶に添加すれば、レーザー発振波長において誘導放出断面積が大きく、励起波長において吸収断面積も大きな固体レーザ媒質を得ることができる。このようなレーザ媒質を、3準位動作でレーザ発振を行う軸励起方式のレーザ共振器を有する固体レーザ装置に採用すれば、比較的に高出力の固体レーザ装置を実現することができる。
【0010】
しかし、バナジン酸塩結晶やタングステン酸塩結晶は光学異方性をもつ複屈折結晶であることから、レーザ媒質として用いた場合には、誘導放出断面積および吸収断面積ともに偏光依存がある。そのため、ファイバーカップルLDを励起光源に使用すると、媒質の吸収断面積が小さい偏光方向の励起光成分は、レーザ発振へ寄与することなく、媒質を透過してしまい、このことが、励起光からレーザー発振光への変換効率を低下させる要因の1つとされていた。
【0011】
この発明は、3準位動作でレーザ発振を行う軸励起方式のレーザ共振器を有する固体レーザ装置における上述の問題点に着目してなされたものであり、その目的とするところは、励起光からレーザー発振光への変換効率を向上させることにより、小型でランニングコストの低い固体レーザ装置を提供することにある。
【0012】
この発明のさらに他の目的並びに作用効果については、明細書の以下の記述を参照することにより、当業者であれば容易に理解されるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述の技術的課題は、以下の構成を有する3準位動作でレーザ発振を行う軸励起方式のレーザ共振器を有する固体レーザ装置により解決することができる。
【0014】
すなわち、この発明の固体レーザ装置は、励起光源と、レーザ媒質を含む軸励起方式のレーザ共振器と、前記励起光源から出射される励起光を、前記レーザ共振器内レーザ媒質の一端部へと、レーザ共振光と同軸に入射させるための励起光導入光学系とを有するものであり、前記レーザ媒質は3準位動作にてレーザ発振を行うように構成されている。
【0015】
上述の固体レーザ装置には、新たに、励起光再導入光学系が設けられる。この励起光再導入光学系は、前記レーザ媒質の一端部からレーザ媒質内へと入射され、前記レーザ媒質中を通過して、前記レーザ媒質の他端部からレーザ媒質外へと出射される前記励起光の全部又は一部を折り返して、前記レーザ媒質の他端部へとレーザ共振光と同軸に再入射させる機能を有するものである。
【0016】
このようにすれば、レーザ媒質の一端部からレーザ媒質内へと入射され、レーザ媒質中を通過して、レーザ媒質の他端部からレーザ媒質外へと出射される励起光の全部又は一部は、折り返されたのち、レーザ媒質の他端部へとレーザ共振光と同軸に再入射されることから、レーザ媒質の励起光出射端部近傍領域における励起光強度は、往路励起光と復路励起光とが重畳されて増強される結果、励起光からレーザー発振光への変換効率を高めることができると共に、増強される分だけ励起光源の出力強度を低下させて、冷却構造体の簡素化等による装置の小型化並びにランニングコストの低減化を図ることも可能となる。
【0017】
このとき、前記レーザ媒質が、光学異方性を有する複屈折結晶を有する物質にて構成されているのであれば、前記励起光再導入光学系には、再入射されるべき励起光の偏光方向を出射された励起光の偏光方向に対して所定角度異ならせるための偏光方向回転手段を設けるようにしてもよい。
【0018】
このようにすれば、レーザ媒質中の吸収断面積が小さい偏光方向を透過してきた励起光成分を、励起光の再入射を通して媒質中へと有効に吸収させることが可能なるため、励起光からレーザ発振光への変換効率を一層高め、装置の小型化並びにランニングコストの低減を促進することかできる。
【0019】
なお、異ならせるべき変更角度を90度とすれば、透過励起光の再利用効率を最大とすることができる。また、励起光源として、円形で均一な発散角および強度分布を持つ理想的なレーザビームを発生するファイバカップルLDを採用すれば、励起光からレーザー発振光への変換効率を最大とすることができる。
【0020】
本発明の一実施形態としては、つぎのような具体的な構成を採用することもできる。すなわち、前記レーザ共振器は、レーザ媒質と、第1のハーフミラーと、第1の通常ミラーと、第2のハーフミラーと、第2の通常ミラーとから構成される。
【0021】
ここで、レーザ媒質は、前記励起光導入光学系側に位置する第1の端部と前記励起光再導入光学系側に位置する第2の端部とを有する。
【0022】
第1のハーフミラーは、前記第1の端部と前記励起光導入光学系との間に介在され、前記励起光導入光学系から前記第1の端部に向かう励起光の大部分を直進透過させる一方、前記第1の端部から前記励起光導入光学系に向かうレーザ発振光の大部分を所定方向へと折り曲げ反射しかつ逆に同方向から到来するレーザ発振光の大部分を前記第1の端部へと折り曲げる反射すると言った光学的性質を有する。
【0023】
第1の通常ミラーは、前記第1のハーフミラーで反射されたレーザ発振光の進行方向を180度だけ折り返す反射機能を有する。
【0024】
第2のハーフミラーは、前記第2の端部と前記励起光再導入光学系との間に介在され、前記第2の端部と前記励起光再導入光学系との間において励起光を双方向へ直進透過させる一方、前記第2の端部から前記励起光再導入光学系に向かうレーザ発振光の大部分を所定方向へと屈曲反射させかつ逆に同方向から到来するレーザ発振光の大部分を前記第2の端部へと屈曲反射させると言った光学的性質を有する。
【0025】
第2の通常ミラーは、前記第2のハーフミラーで反射されたレーザ発振光の進行方向を180度だけ折り返す反射機能を有する。
【0026】
一方、前記励起光再導入光学系については、前記第2のハーフミラーを直進透過したレーザ発振光の進行方向を180度だけ折り返すための第3の通常ミラーを含んで構成することができる。ここで、通常ミラーについては、出射から再入射に至る光路の収束設計に応じて平面ミラー又は凹面ミラーとすることができる。
【0027】
さらに、前記偏光方向回転手段としては、前記第2のハーフミラーと前記第3の通常ミラーとの間に介在され、往路と復路とでそれぞれ1/4波長だけ偏光方向を回転させる1/4波長板とすることができる。
【0028】
なお、本発明において、レーザ媒質を構成する物質の一例としては、YVO、GdVO4、又はLuVOのバナジン酸塩結晶や、KY(WO、KGd(WO2、又はKLu(WOのタングステン酸塩結晶といった、光学異方性をもつ複屈折結晶にNd3+イオンもしくはYb3+イオンを添加した固体レーザー媒質(Nd3+:YVO4、Nd3+:GdVO、Nd3+:LuVO、Nd3+:KY(WO、Nd3+:KGd(WO、Nd3+:KLu(WO、Yb3+:YVO、Yb3+:GdVO、Yb3+:LuVO、Yb3+:KY(WO、Yb3+:KGd(WO、Yb3+:KLu(WO)(ただしNd3+を添加したレーザー結晶では、3/29/2遷移でレーザー発振をさせる場合に限る)等を挙げることができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、レーザ媒質の一端部からレーザ媒質内へと入射され、レーザ媒質中を通過して、レーザ媒質の他端部からレーザ媒質外へと出射される励起光の全部又は一部は、折り返されたのち、レーザ媒質の他端部へとレーザ共振光と同軸に再入射されることから、レーザ媒質の励起光出射端部近傍領域における励起光強度は、往路励起光と復路励起光とが重畳されて増強される結果、励起光からレーザー発振光への変換効率を高めることができると共に、増強される分だけ励起光源の出力強度を低下させて、冷却構造体の簡素化等による装置の小型化並びにランニングコストの低減化を図ることも可能となる。
【0030】
このとき、前記レーザ媒質が、光学異方性を有する複屈折結晶を有する物質にて構成されているのであれば、前記励起光再導入光学系には、再入射されるべき励起光の偏光方向を出射された励起光の偏光方向に対して所定角度異ならせるための偏光方向回転手段を設けるようにすれば、レーザ媒質中の吸収断面積が小さい偏光方向を透過してきた励起光成分を、励起光の再入射を通して媒質中へと有効に吸収させることが可能なるため、励起光からレーザ発振光への変換効率を一層高め、装置の小型化並びにランニングコストの低減を促進することかできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下に、本発明に係る固体レーザ装置の好適な実施の一形態を添付図面を参照しながら詳細に説明する。
【0032】
本発明に係る固体レーザ装置の第1実施形態の構成図が図1に示されている。先ず、この固体レーザ装置の全体を概略的に説明する。
【0033】
同図に示されるように、この固体レーザ装置は、励起光源1と、レーザ媒質21を含む軸励起方式のレーザ共振器2と、励起光源1から出射される励起光Lpを、レーザ共振器2内のレーザ媒質21の一端部21aへと、レーザ共振光Loと同軸に入射させるための励起光導入光学系3とを有するものであり、レーザ媒質21は3準位動作にてレーザ発振を行うように構成されている。
【0034】
上述の固体レーザ装置には、さらに、励起光再導入光学系4が設けられている。この励起光再導入光学系4は、レーザ媒質21の一端部21aからレーザ媒質21内へと入射され、レーザ媒質21中を通過して、レーザ媒質21の他端部21bからレーザ媒質外へと出射される励起光Lpの全部又は一部を折り返して、再び、レーザ媒質21の他端部21bへとレーザ共振光Loと同軸に再入射させる機能を有するものである。
【0035】
このような構成を有することから、レーザ媒質21の一端部21aからレーザ媒質21内へと入射され、レーザ媒質21中を通過して、レーザ媒質21の他端部21bからレーザ媒質21外へと出射される励起光Lpの全部又は一部は、折り返されたのち、再び、レーザ媒質21の他端部21bへとレーザ共振光Loと同軸に再入射されることから、レーザ媒質21の励起光出射端部21bの近傍領域における励起光強度は、往路励起光と復路励起光とが重畳されて増強される結果、励起光Lpからレーザー発振光Loへの変換効率を高めることができると共に、増強される分だけ励起光源1の出力強度を低下させて、冷却構造体の簡素化等による装置の小型化並びにランニングコストの低減化を図るとも可能となる。
【0036】
次に、励起光源1、レーザ共振器2、励起光導入光学系3、及び励起光再導入光学系4の詳細について説明する。
【0037】
励起光源1としては、この例にあっては、レーザダイオード(LD)(図示せず)から出射されるレーザ光を光ファイバへと導き、その先端から出射させるようにした、所謂ファイバカップルLDが採用されている。当業者にはよく知られているように、ファイバカップルLDは、円形で均一な発散角および強度分布を持つ理想的なレーザビームを発生させることが可能である。
【0038】
レーザ共振器2は、この例にあっては、レーザ媒質21と、第1のハーフミラー22と、平面鏡で構成される第1の通常ミラー23と、第2のハーフミラー24と、平面鏡で構成される第2の通常ミラー25とを含み、それらの光学要素によって、レーザ発振光を閉じ込めるための閉ループが形成されるように構成されている。
【0039】
レーザ媒質21は、3順位動作でレーザ発振を行う物質で構成されており、励起光導入光学系3側に位置する第1の端部21aと励起光再導入光学系4側に位置する第2の端部21bとを有する。
【0040】
第1のハーフミラー22は、レーザ媒質21の第1の端部21aと励起光導入光学系3との間に介在され、励起光導入光学系3から第1の端部21aに向かう励起光Lpの大部分(90%以上)を直進透過させる一方、第1の端部21aから励起光導入光学系3に向かうレーザ発振光Loの大部分(90%以上)を所定方向(この例では、90度方向)へと折り曲げ反射し、かつ逆に同方向から到来するレーザ発振光Loの大部分(90%以上)を第1の端部21aへと折り曲げ(この例では、90度方向)反射すると言った光学的性質を有する。
【0041】
第1の通常ミラー22は、平面鏡で構成されており、第1のハーフミラー22で反射されたレーザ発振光Loの進行方向を180度だけ折り返す反射機能を有する。
【0042】
第2のハーフミラー24は、レーザ媒質21の第2の端部21bと励起光再導入光学系4との間に介在され、レーザ媒質21の第2の端部21bと励起光再導入光学系4との間において励起光を双方向へと大部分(90%以上)直進透過させる一方、レーザ媒質21の第2の端部21bから励起光再導入光学系4に向かうレーザ発振光Loの大部分(90%以上)を所定方向(この例では、90度方向)へと折り曲げ反射し、かつ逆に同方向から到来するレーザ発振光Loの大部分(90%以上)を第2の端部へと折り曲げ(この例では、90度方向)反射すると言った光学的性質を有する。
【0043】
第2の通常ミラー25は、平面鏡で構成されており、第2のハーフミラー24で反射されたレーザ発振光Loの進行方向を180度だけ折り返す反射機能を有する。
【0044】
そして、それらの光学要素21〜25からなる閉ループに閉じ込められたレーザ発振光は、閉ループ上のいずかの箇所に設けられた図示しないレーザ光取り出し口から、外部へと放出可能となされている。
【0045】
励起光導入光学系3は、この例にあっては、ファイバカップルLDである光源1から所定の発散角で出射される励起光Lpを平行光線とするためのレンズ31と、このレンズ2により平行光線とされた励起光Lpを絞り込むためのレンズ32とを含んで構成されている。
【0046】
励起光再導入光学系4は、この例にあっては、レーザ媒質21の第2の端部21bから所定の発散角をもって出射されたのち、第2のハーフミラー24を直進透過した励起光Lpを平行光線とするためのレンズ42と、レンズ42により平行光線とされた励起光Lpを180度だけ折返し反射する平面鏡である第3の通常ミラー41とを含んで構成されている。
【0047】
なお、この励起光再導入光学系4は、要するに、レーザ媒質21の一端部21aからレーザ媒質21内へと入射され、レーザ媒質21中を通過して、レーザ媒質21の他端部21bからレーザ媒質21外へと出射される励起光Lpの全部又は一部を折り返して、レーザ媒質21の他端部21bへとレーザ共振光Lpと同軸に再入射させる機能を有するものであれば足り、必ずしも、レンズと反射鏡との組合せに限定されるものではなく、例えば光ファイバその他の導光部材を利用して励起光を折り返すと言った方法でもよいであろう。
【0048】
そして、以上の具体的構成を有する固体レーザ装置によれば、レーザ媒質21の一端部21aからレーザ媒質21内へと入射され、レーザ媒質21中を通過して、レーザ媒質21の他端部21bからレーザ媒質21外へと出射される励起光Lpの大部分は、励起光再導入光学系4を介して180度だけ折り返されたのち、レーザ媒質21の他端部21bへとレーザ共振光Loと同軸に再入射されることから、レーザ媒質21の励起光出射端部近傍領域における励起光強度は、往路励起光と復路励起光とが重畳されて増強される結果、励起光Lpからレーザー発振光Loへの変換効率を高めることができると共に、増強される分だけ励起光源1の出力強度を低下させて、冷却構造体の簡素化等による装置の小型化並びにランニングコストの低減化を図ることも可能となる。
【0049】
次に、本発明に係る固定レーザ装置の第2実施形態の構成図が図2に示されている。この第2実施形態の特徴は、レーザ媒質21が、光学異方性を有する複屈折結晶を有する物質にて構成されている場合を考慮して、再入射されるべき励起光Lpの偏光方向を出射された励起光Lpの偏光方向に対して所定角度異ならせるための偏光方向回転手段を励起光再導入光学系4に設けた点にある。
【0050】
同図に示されるように、この例にあっては、励起光再導入光学系4には、偏光方向回転手段として機能する1/4波長板43が設けられている。この1/4波長板43は、第2のハーフミラー24と第3の通常ミラー41との間に介在され、往路と復路とでそれぞれ1/4波長だけ偏光方向を回転させる機能を有するものであり、その結果、再入射されるべき励起光Lpの偏光方向は、出射された励起光Lpの偏光方向に対して90度だけ異ならせることが可能となされている。なお、図2において、1/4波長板43とレンズ42とは位置を置き換えても同様に機能する。
【0051】
また、3順位動作でレーザ発振を行うレーザ媒質21としては、YVO、GdVO4、又はLuVOのバナジン酸塩結晶や、KY(WO、KGd(WO2、又はKLu(WOのタングステン酸塩結晶といった、光学異方性をもつ複屈折結晶にNd3+イオンもしくはYb3+イオンを添加した固体レーザー媒質(Nd3+:YVO4、Nd3+:GdVO、Nd3+:LuVO、Nd3+:KY(WO、Nd3+:KGd(WO、Nd3+:KLu(WO、Yb3+:YVO、Yb3+:GdVO、Yb3+:LuVO、Yb3+:KY(WO、Yb3+:KGd(WO、Yb3+:KLu(WO)(ただしNd3+を添加したレーザー結晶では、3/29/2遷移でレーザー発振をさせる場合に限る)が採用されている。
【0052】
そして、このような偏光方向回転手段を設ける構成によれば、レーザ媒質21中の吸収断面積が小さい偏光方向を透過してきた励起光成分Lpを、励起光Lpの再入射を通して媒質中へと有効に吸収させることが可能なるため、励起光Lpからレーザ発振光Loへの変換効率を一層高め、装置の小型化並びにランニングコストの低減を促進することが可能となる。
【0053】
加えて、図示例のように、偏光方向回転手段として1/4波長板43を採用すれば、再利用される励起光の偏光方向は、元の励起光の偏光方向に対して90度回転するため、透過励起光の再利用効率を最大とすることができるほか、励起光源1として、円形で均一な発散角および強度分布を持つ理想的なレーザビームを発生するファイバカップルLDを採用すれば、励起光からレーザー発振光への変換効率を最大とすることができる。
【0054】
なお、以上の第1、第2実施形態においては、励起光再導入光学系4として、レンズ42と平面反射鏡である第3の通常ミラー41との組合せを採用したが、これは励起光再導入光学系4の単なる一例として理解されるべきである。例えば、第1実施形態の固体レーザ装置にあっては図3(a)に、また第2実施形態の固定レーザ装置にあっては図3(b)にそれぞれ示されるように、レンズ42と平面反射鏡である第3の通常ミラー41との組合せの代わりに、凹面鏡である通常ミラー44の単独構成を採用しても、同様な機能を実現することができる。
【0055】
最後に、上述の固体レーザ装置において、(a)「励起光再導入光学系」を採用した場合と、(b)「励起光再導入光学系」に「偏光方向回転手段」を設けた場合と、(c)「励起光再導入光学系」を設けていない従来の場合とを、励起光/レーザ発振光の変換効率について比較した実験結果を示すグラフが図4に示されている。
【0056】
同図から明らかなように、黒丸点でプロットされた従来例(c)に比べて、黒三角点でプロットされた「励起光再導入光学系」を採用した場合(b)の方が、同一の励起光強度であっても、より高いレーザ発振光が得られており、「励起光再導入光学系」の採用により、励起光/レーザ発振光の変換効率が改善されていることが確認された。
【0057】
同様に、黒三角点でプロットされた「励起光再導入光学系」を採用した場合(b)に比べて、黒四角点でプロットされた「励起光再導入光学系」に「偏光方向回転手段」を設けた場合の方が、同一の励起光強度であっても、より高いレーザ発振光が得られており、「偏光方向回転手段」の採用により、励起光/レーザ発振光の変換効率が一層改善されていることが確認された。
【0058】
特に、本発明者の実験によれば、3順位動作するレーザ媒質として、YVO、GdVO4、又はLuVOのバナジン酸塩結晶や、KY(WO、KGd(WO2、又はKLu(WOのタングステン酸塩結晶といった、光学異方性をもつ複屈折結晶にNd3+イオンもしくはYb3+イオンを添加した固体レーザー媒質(Nd3+:YVO4、Nd3+:GdVO、Nd3+:LuVO、Nd3+:KY(WO、Nd3+:KGd(WO、Nd3+:KLu(WO、Yb3+:YVO、Yb3+:GdVO、Yb3+:LuVO、Yb3+:KY(WO、Yb3+:KGd(WO、Yb3+:KLu(WO)(ただしNd3+を添加したレーザー結晶では、3/29/2遷移でレーザー発振をさせる場合に限る)を採用し、LDの出力を光ファイバに導光したファイバカップルLDを励起光源とした、励起光とレーザ発振光が同軸方向である、軸励起方式の固体レーザーによれば、レーザ媒質を透過し出射してきた励起光を180度折り返して、かつ励起光の偏光方向を90度回転させて再度レーザー媒質に入射させて励起光を再利用することにより、励起光からレーザ発振光への変換効率を1.1倍乃至3倍に高める得ることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明に係る固体レーザ装置によれば、レーザ媒質の一端部からレーザ媒質内へと入射され、レーザ媒質中を通過して、レーザ媒質の他端部からレーザ媒質外へと出射される励起光の全部又は一部は、折り返されたのち、レーザ媒質の他端部へとレーザ共振光と同軸に再入射されることから、レーザ媒質の励起光出射端部近傍領域における励起光強度は、往路励起光と復路励起光とが重畳されて増強される結果、励起光からレーザー発振光への変換効率を高めることができると共に、増強される分だけ励起光源の出力強度を低下させて、冷却構造体の簡素化等による装置の小型化並びにランニングコストの低減化を図ることも可能となる。
【0060】
このとき、前記レーザ媒質が、光学異方性を有する複屈折結晶を有する物質にて構成されているのであれば、前記励起光再導入光学系には、再入射されるべき励起光の偏光方向を出射された励起光の偏光方向に対して所定角度異ならせるための偏光方向回転手段を設けるようにすれば、レーザ媒質中の吸収断面積が小さい偏光方向を透過してきた励起光成分を、励起光の再入射を通して媒質中へと有効に吸収させることが可能なるため、励起光からレーザ発振光への変換効率を一層高め、装置の小型化並びにランニングコストの低減を促進することかできる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明に係る固体レーザ装置の第1実施形態の構成図である。
【図2】本発明に係る固体レーザ装置の第2実施形態の構成図である。
【図3】第1、第2実施形態の変形例を示す構成図である。
【図4】励起光強度とレーザ発振光強度との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0062】
1 励起光源
2 レーザ共振器
3 励起光導入光学系
4 励起光再導入光学系
21 レーザ媒質
21a 第1の端部
21b 第2の端部
22 第1のハーフミラー
23 第1の通常ミラー
24 第2のハーフミラー
25 第2の通常ミラー
31 レンズ
32 レンズ
41 平面鏡である第3の通常ミラー
42 レンズ
43 1/4波長板(偏光方向回転手段)
45 凹面鏡である第3の通常ミラー
Lp 励起光
Lo レーザ発振光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
励起光源と、
レーザ媒質を含む軸励起方式のレーザ共振器と、
前記励起光源から出射される励起光を、前記レーザ共振器内レーザ媒質の一端部へと、レーザ共振光と同軸に入射させるための励起光導入光学系とを有する固体レーザ装置であって、
前記レーザ媒質は3準位動作にてレーザ発振を行うように構成されており、かつ
前記レーザ媒質の一端部からレーザ媒質内へと入射され、前記レーザ媒質中を通過して、前記レーザ媒質の他端部からレーザ媒質外へと出射される前記励起光の全部又は一部を折り返して、前記レーザ媒質の他端部へとレーザ共振光と同軸に再入射させるための励起光再導入光学系をさらに有する、ことを特徴とする固体レーザ装置。
【請求項2】
前記レーザ媒質は、光学異方性を有する複屈折結晶を有する物質にて構成されており、かつ
前記励起光再導入光学系には、再入射されるべき励起光の偏光方向を出射された励起光の偏光方向に対して所定角度異ならせるための偏光方向回転手段を有する、ことを特徴とする請求項1に記載の固体レーザ装置。
【請求項3】
前記所定角度が90度である、ことを特徴とする請求項2に記載の固体レーザ装置。
【請求項4】
前記励起用光源がファイバカップルLDである、ことを特徴とする請求項2又は3のいずれかに記載の固体レーザ装置。
【請求項5】
前記レーザ共振器が、
前記励起光導入光学系側に位置する第1の端部と前記励起光再導入光学系側に位置する第2の端部とを有するレーザ媒質と、
前記第1の端部と前記励起光導入光学系との間に介在され、前記励起光導入光学系から前記第1の端部に向かう励起光の大部分を直進させる一方、前記第1の端部から前記励起光導入光学系に向かうレーザ発振光の大部分を所定方向へと折り曲げかつ前記所定方向から到来するレーザ発振光の大部分を前記第1の端部へと折り曲げると言った光学的性質を有する第1のハーフミラーと、
前記第1のハーフミラーで反射されたレーザ発振光の進行方向を180度だけ折り返すための第1の通常ミラーと、
前記第2の端部と前記励起光再導入光学系との間に介在され、前記第2の端部と前記励起光再導入光学系との間において励起光を双方向へ直進させる一方、前記第2の端部から前記励起光再導入光学系に向かうレーザ発振光の大部分を所定方向へと屈曲させかつ前記所定方向から到来するレーザ発振光の大部分を前記第2の端部へと屈曲させると言った光学的性質を有する第2のハーフミラーと、
前記第2のハーフミラーで反射されたレーザ発振光の進行方向を180度だけ折り返すための第2の通常ミラーとからなり、さらに
前記励起光再導入光学系が、前記第2のハーフミラーを直進したレーザ発振光の進行方向を180度だけ折り返すための第3の通常ミラーからなる、ことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の固体レーザ装置。
【請求項6】
前記偏光方向回転手段が、前記第2のハーフミラーと前記第3の通常ミラーとの間に介在された1/4波長板である、ことを特徴とする請求項5に記載の固体レーザ装置。
【請求項7】
前記レーザ媒質を構成する物質が、YVO、GdVO4、又はLuVOのバナジン酸塩結晶や、KY(WO、KGd(WO2、又はKLu(WOのタングステン酸塩結晶といった、光学異方性をもつ複屈折結晶にNd3+イオンもしくはYb3+イオンを添加した固体レーザー媒質(Nd3+:YVO4、Nd3+:GdVO、Nd3+:LuVO、Nd3+:KY(WO、Nd3+:KGd(WO、Nd3+:KLu(WO、Yb3+:YVO、Yb3+:GdVO、Yb3+:LuVO、Yb3+:KY(WO、Yb3+:KGd(WO、Yb3+:KLu(WO)(ただしNd3+を添加したレーザー結晶では、3/29/2遷移でレーザー発振をさせる場合に限る)である、ことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の固体レーザ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−34345(P2010−34345A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−195781(P2008−195781)
【出願日】平成20年7月30日(2008.7.30)
【出願人】(000002945)オムロン株式会社 (3,542)
【Fターム(参考)】