説明

固体蛍光材料

【課題】 赤から青の可視全域の広い波長域の蛍光を示す固体蛍光材料の開発。
【解決手段】 添加元素として鉛(Pb)を含み、4硫化2ガリウムカルシウム(CaGa2S4)を母体とする結晶性の固体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線や電子線などを照射することにより可視域の蛍光を示す固体材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、白色蛍光体や連続波長可変固体レーザーなどへの応用のため、蛍光波長域の広い材料の開発が望まれている。これまでに報告されている不純物添加無機蛍光材料のなかで、可視域で波長域の広い蛍光を示す材料は、Sn添加(Ca,Zn,Mg)3(PO4)2(蛍光中心波長610nm、蛍光強度半値波長幅146nm)、Ti添加(Ba,Ti)2P2O7(蛍光中心波長494nm、蛍光強度半値波長幅143nm)、などである。また、可視から近赤外域で、波長域の広い蛍光を示す代表的な材料はチタン(Ti)を添加したサファイア(Al2O3)結晶であり、蛍光強度半値幅は180nm(蛍光中心波長790nm)であることが論文[P.f.Moulton:J.Opt.Soc.Am.B3,125(1986)]に述べられている。
【0003】
アルカリ土類チオガレート化合物の一つであるカルシウムチオガレート(4硫化2ガリウムカルシウム、CaGa2S4)は約4.2eVの(295nmの波長に相当する)禁制帯幅をもつ透明な無機材料であり、これに不純物としてセリウム(Ce)元素を添加すると、色純度の良い青色発光を示すEL素子用の発光材料となることが特開平10−199675号公報や特開平10−199676号公報に示されている。
【0004】
【特許文献1】特開平10−199675号公報
【特許文献2】特開平10−199676号公報
【非特許文献1】P.f.Moulton:J.Opt.Soc.Am.B3,125(1986)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
色素レーザーに替わる、青から赤まで広い波長域で波長可変な固体レーザーを開発するために、蛍光波長域が赤から青域に達する新しい蛍光体の開発が望まれている。
【0006】
本発明は、白色蛍光体や波長可変新レーザー材料へ応用するため、蛍光の短波長限界が青域にあり、長波長限界は赤に至る、広い蛍光波長域を有する固体蛍光材料を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
添付図面を参照して本発明の要旨を説明する。
【0008】
添加元素として鉛(Pb)を含み、4硫化2ガリウムカルシウム(CaGa2S4)を母体とする結晶性の固体で構成して、ほぼ可視全域に渡る広い波長域で連続的に蛍光を示す構成としたことを特徴とする固体蛍光材料に係るものである。
【0009】
また、添加元素として鉛(Pb)とセリウム(Ce)を含み、4硫化2ガリウムカルシウム(CaGa2S4)を母体とする結晶性の固体で構成して、ほぼ可視全域に渡る広い波長域で連続的に蛍光を示す構成としたことを特徴とする固体蛍光材料に係るものである。
【0010】
また、添加元素として0.05モル%以上の鉛(Pb)を含み、4硫化2ガリウムカルシウム(CaGa2S4)を母体とする結晶性の固体で構成して、ほぼ可視全域に渡る広い波長域で連続的に蛍光を示す構成としたことを特徴とする固体蛍光材料に係るものである。
【0011】
また、添加元素として0.05モル%以上の鉛(Pb)と0.05モル%以上のセリウム(Ce)を含み、4硫化2ガリウムカルシウム(CaGa2S4)を母体とする結晶性の固体で構成して、ほぼ可視全域に渡る広い波長域で連続的に蛍光を示す構成としたことを特徴とする固体蛍光材料に係るものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明は上述のように構成したから、本発明材料に紫外光を照射すると、強度半値波長域が例えば約460nmから約660nmのほぼ可視全域に至る蛍光を示す。即ち、本発明材料は、例えば可視域において200nmという広い波長域の蛍光を示すという画期的な特性を有する。近年急速な性能の向上が見られる紫外半導体発光ダイオードを照射光源に用いて、本発明材料に照射することによりほぼ白色に近い光を得ることができるため、省電力全固体化白色灯の開発が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
好適と考える本発明の実施形態(発明をどのように実施するか)を、図面に基づいて本発明の作用を示して簡単に説明する。
【0014】
添加元素として鉛(Pb)を含み、4硫化2ガリウムカルシウム(CaGa2S4)を母体とする結晶性の固体であり、可視全域に渡り連続的で非常に広い波長域の蛍光を示すことを特徴とする固体蛍光材料である。
【0015】
上記で、添加元素として鉛(Pb)を含むとは、必ずしも鉛のみを添加することを意味するのではなく、少なくとも鉛を含めばよいのであって、さらに別の元素を含む場合も該当する。例えば、請求項2および実施例4に示すように、鉛のほかにセリウム(Ce)を含む場合が該当する。
【0016】
4硫化2ガリウムカルシウム(CaGa2S4)を母体とするとは、材料そのもの若しくは材料を粉砕して得た粉末のX線回折測定から、4硫化2ガリウムカルシウム(CaGa2S4)によると同定される回折線が観測され、4硫化2ガリウムカルシウム(CaGa2S4)の結晶性固体が形成されていると判断できるものを言う。
【0017】
結晶性の固体とは、多結晶性焼結体、多結晶性または単結晶性の膜やバルク体を意味する。また、多結晶性焼結体の微粒子、多結晶性または単結晶性の膜の薄片、多結晶性または単結晶性の微結晶を液体中や有機ポリマー中などに分散させたものは、外見は液体状や非結晶体状であっても、蛍光を示す基本要素は結晶性固体であるから、ここで言う結晶性の固体に該当する。
【0018】
本発明材料の4硫化2ガリウムカルシウムを母体とするものを容易に製造可能な方法は、母体原料として、硫化カルシウム粉末、硫化ガリウム粉末を用い、添加剤原料として硫化鉛粉末を用い、これらの混合粉末を加圧整形して得たペレットを真空アンプル中に封入し、800℃程度の温度で焼結させる方法である。
【0019】
本発明材料は4硫化2ガリウムカルシウムを母体とし、鉛を添加元素とする組み合わせに新規性があることから、実際の膜や結晶体の製造方法については、既存の各種の方法が使用できる。
【実施例1】
【0020】
請求項1記載の発明の一実施例をなし得る請求項3の具体的な実施例1について図面に基づいて説明する。
【0021】
鉛を添加した4硫化2ガリウムカルシウムの焼結体の製造方法、この焼結体の紫外光励起による蛍光スペクトル、蛍光励起スペクトルについて説明する。
【0022】
製造方法を次に説明する。母体原料として、硫化カルシウム(CaS)粉末(0.2326g)、3硫化2ガリウム(Ga2S3)粉末(0.7596g)を用い、添加剤原料として硫化鉛(PbS)粉末(7.8mg)を用い、これらの混合粉末を錠剤形成器を用いて、直径10mmの円板状のペレットに加圧形成した。これを石英ガラス製のアンプル中に真空封入し、電気炉中で800℃の温度で24時間、焼結させた。その後、室温まで徐冷した。得られた焼結体が結晶性の4硫化2ガリウムカルシウムであることは焼結体を粉砕して得られた粉末のX線回折の測定から確認した。
【0023】
蛍光スペクトルの測定例を次に説明する。150Wのキセノンランプ光からf=10cmの分光器1を用いて波長350nmの紫外光成分を取り出し、焼結体試料を照射した。試料からの蛍光をレンズを用いてマルチチャンネル分光器(Ocean Optics製USB2000)2の入力用ファイバー内に集光した。マルチチャンネル分光器2の出力から得られる蛍光強度と波長の関係を図示すると図1が得られた。ただし、マルチチャンネル分光器2の入力用ファイバーや分光器内の回折格子の効率や光検出器の感度は波長に依存して変化するので、予め標準ランプを用いて校正しておいた。この図から蛍光強度が最大値の二分の一になる波長域は460nmから660nmになることが分かる。
【0024】
蛍光励起スペクトルの測定例を次に説明する。測定には分光蛍光光度計(島津製作所製RF-5300PC)を用いた。蛍光検出波長を550nmとして測定した結果を、図示すると図2が得られた。この図から550nmの蛍光成分は主に320nm、350nmの波長の照射から発生していることが分かる。
【実施例2】
【0025】
請求項2記載の発明の一実施例をなし得る請求項4の本発明の具体的な実施例2について図面に基づいて説明する。
【0026】
鉛とセリウムを添加した4硫化2ガリウムカルシウムの焼結体の製造方法、この焼結体の紫外光励起による蛍光スペクトル、蛍光励起スペクトルについて説明する。
【0027】
製造方法を次に説明する。母体原料として、硫化カルシウム粉末(0.2297g)、3硫化2ガリウム粉末(0.7503g)を用い、添加剤原料として硫化鉛粉末(7.8mg)、3硫化2セリウム(Ce2S3)粉末(6.1mg)を用い、これらの混合粉末を錠剤形成器を用いて、直径10mmの円板状のペレットに加圧形成した。これを石英ガラス製のアンプル中に真空封入し、電気炉中で800℃の温度で24時間、焼結させた。その後、室温まで徐冷した。得られた焼結体が結晶性の4硫化2ガリウムカルシウムであることは焼結体を粉砕して得られた粉末のX線回折の測定から確認した。
【0028】
蛍光スペクトルの測定例を次に説明する。150Wのキセノンランプ光からf=10cmの分光器1を用いて波長350nmの紫外光成分を取り出し、焼結体試料を照射した。試料からの蛍光をレンズを用いてf=1mの分光器2の入射スリット内に集光した。分光器2の出射スリットから現れる分光した蛍光の強度を光電子増倍管(R2949)を用いて検出した。分光器2の波長を変えながら、光電子増倍管の出力から得られる蛍光強度と波長の関係を測定し、図示すると図3が得られた。ただし、分光器2の回折・透過効率と光電子増倍管の感度は波長に依存して変化するので、予め標準ランプを用いて校正しておいた。この図から蛍光強度が最大値の二分の一になる波長域は450nmから660nmになることが分かる。
【0029】
蛍光励起スペクトルの測定法は試料が鉛とセリウムを添加した4硫化2ガリウムカルシウムの焼結体になること以外は実施例1と同じであった。結果を図4に示す。
【0030】
尚、本発明は、実施例1,2に限られるものではなく、各構成要件の具体的構成は適宜設計し得るものである。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】実施例1の鉛を添加した4硫化2ガリウムカルシウムの焼結体の紫外光励起による蛍光スペクトルの図である。
【図2】実施例1の鉛を添加した4硫化2ガリウムカルシウムの焼結体の蛍光励起スペクトルの図である。
【図3】実施例2の鉛とセリウムを添加した4硫化2ガリウムカルシウムの焼結体の紫外光励起による蛍光スペクトルの図である。
【図4】実施例2の鉛とセリウムを添加した4硫化2ガリウムカルシウムの焼結体の蛍光励起スペクトルの図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
添加元素として鉛(Pb)を含み、4硫化2ガリウムカルシウム(CaGa2S4)を母体とする結晶性の固体で構成して、ほぼ可視全域に渡る広い波長域で連続的に蛍光を示す構成としたことを特徴とする固体蛍光材料。
【請求項2】
添加元素として鉛(Pb)とセリウム(Ce)を含み、4硫化2ガリウムカルシウム(CaGa2S4)を母体とする結晶性の固体で構成して、ほぼ可視全域に渡る広い波長域で連続的に蛍光を示す構成としたことを特徴とする請求項1記載の固体蛍光材料。
【請求項3】
前記鉛(Pb)は0.05モル%以上含むことを特徴とする請求項1,2のいずれか1項に記載の固体蛍光材料。
【請求項4】
前記鉛(Pb)及びセリウム(Ce)は夫々0.05モル%以上含むことを特徴とする請求項2記載の固体蛍光材料。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2006−2115(P2006−2115A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−182524(P2004−182524)
【出願日】平成16年6月21日(2004.6.21)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2004年3月28日 社団法人応用物理学会発行の「2004年(平成16年)春季 第51回 応用物理学関係連合講演会講演予稿集 第3分冊」に発表
【出願人】(304021288)国立大学法人長岡技術科学大学 (458)
【Fターム(参考)】