説明

固体表面の微生物試験用粘着シートおよびキット

本発明は、固体表面上の微生物の存在および/またはその菌体数をリアルタイムで簡便にモニタリングすることができ、且つ画像解析の際の自動合焦に対応した微生物試験用粘着シートおよびキットを提供する。本発明は、少なくとも基材および粘着層を有し、その粘着層を被験体の表面に圧着、剥離して微生物を捕集した後に該粘着層の表面を画像解析する微生物試験用粘着シートにおいて、基材中もしくは粘着層中またはそれらの表面に該画像を合焦させるためのマーカーを含む微生物試験用粘着シートに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は微生物試験用の粘着シートに関する。より詳細には、本発明は少なくとも基材および粘着層を有し、その粘着層を用いて微生物を捕集し、捕集した微生物を画像解析するための合焦用マーカーを有する微生物試験用粘着シートに関する。
【背景技術】
以前より、被験面上に存在するが肉眼では観察することができない細菌等の微生物を検出および計数するには、培養法、すなわち寒天等で賦形した固形の平板培地を被験面に押し当てることにより被験面上の微生物を寒天平板培地上に転写し、該微生物をそのまま平板培地上で至適環境下に培養することにより出現するコロニーを肉眼または実体顕微鏡等で見定めながら計数する方法が一般的に利用されている。この方法として、例えば、フードスタンプ(日水製薬(株)製)を使用したアガースタンプ法等が挙げられる。
また、微生物捕集能力のあるメンブレンフィルタ等を用いるメンブレンフィルタ法は、被験面を生理食塩水、リン酸緩衝液等を用いて十分に拭き取りながら集積することにより微生物を洗い出し、この洗い出した集積液をメンブレンフィルタで濾過することによってメンブレンフィルタ上に微生物を捕集した後、微生物と液体培地とを十分に接触させて該フィルタ上にコロニーを形成させ、そのコロニーを計数する方法である。メンブレンフィルタ法はまた、フィルタ上に捕集した微生物を適当な染色液と接触させて、発色した菌体数を顕微鏡等で計数することにより、培養を行わずに微生物を検出する方法としても利用することができる。
しかしながら、アガースタンプ法等は、通常、1つの被験面に対して1度しか使用できないので、寒天培地の含水率によって捕集効率が変化し、再現性に劣る等、微生物の捕集効率において不都合を来たす場合があった。また、培養法の共通の課題として、微生物間のコンタミネーションが起こり、培地上での微生物間の相互作用により純粋培養ができないために、その後の判定に不都合を来たす場合があった。加えて、培養法では当然のことながら、生菌のみに限定されるという制約があり、検出もれが起こるという問題があった。さらに、培養法では1〜2日またはそれ以上の培養時間を必要とするので、リアルタイムでの微生物モニタリングができないという重大な制約があった。
また、メンブレンフィルタ法では、被験体が水溶液等の液状物であればそのまま濾過できるが、非液状の被験体では綿棒でのサンプリング、洗い出し液の調製等を含め微生物の捕集に多大な労力がかかるという欠点があった。さらに、洗い出しおよび濾過操作により微生物以外の捕集物が膨潤して、後の観察・計数の妨げになるという問題もあった。
最近では、固体表面の微生物を粘着シートの粘着層の表面に圧着、剥離して微生物を捕集した後に、微生物を染色し得る1種以上の発色性物質を含有する水溶液を該粘着層の表面に接触させ、染色された菌体を観察・計数(画像解析)することにより、迅速且つ簡便に固体表面上の微生物を検出する微生物試験方法も提案されている(例えば、特開2002−142797号公報参照)。しかしながら、これらは手動合焦の顕微鏡等を用いた画像解析であり、高倍率の使用条件下では被写界深度が狭いので合焦に手間取ることも多く、自動合焦や自動解析が望まれていた。
したがって、本発明の目的は、固体表面上の微生物の存在および/またはその菌体数をリアルタイムで簡便にモニタリングすることができ、且つ画像解析の際の自動合焦に対応した微生物試験用粘着シートおよびキットを提供することである。
【発明の開示】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、少なくとも基材および粘着層を有し、その粘着層を被験体の表面に圧着、剥離して微生物を捕集した後に該粘着層の表面を画像解析する微生物試験用粘着シートにおいて、基材中もしくは粘着層中またはそれらの表面に該画像を合焦させるためにマーカーを設けることにより自動合焦性を付与することに成功し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は、
(1)少なくとも基材および粘着層を有し、その粘着層を被験体の表面に圧着、剥離して微生物を捕集した後に該粘着層の表面を画像解析する微生物試験用粘着シートにおいて、基材中もしくは粘着層中またはそれらの表面に該画像を合焦させるためのマーカー(合焦用マーカー)を有する微生物試験用粘着シート、
(2)基材および/または粘着層が合焦用マーカーを含有する層を含む多層である、前記(1)記載の微生物試験用粘着シート、
(3)合焦用マーカーが平均粒径0.2〜200μmの不溶性粒子である、前記(1)または(2)記載の微生物試験用粘着シート、
(4)合焦用マーカーが平均粒径0.5〜200μmの不溶性粒子である、前記(3)記載の微生物試験用粘着シート、
(5)基材表面の合焦用マーカーが深さ0.1〜20μmの起伏模様または合焦に用いる画像中に色変化のある印刷模様である、前記(1)記載の微生物試験用粘着シート、
(6)微生物試験用粘着シートの粘着層表面の平滑度(凹凸差)が光学系の被写界深度以下である、前記(1)〜(5)のいずれかに記載の粘着シート、
(7)微生物を染色し得る1種以上の発色性物質を含有する水溶液および前記(1)〜(6)のいずれかに記載の微生物試験用粘着シートを含む微生物試験用キット、
(8)発色性物質が蛍光材料である、前記(7)記載のキットなどに関する。
すなわち、顕微鏡または光学機器の焦点を、基材中もしくは粘着層中またはそれらの表面の不溶性粒子または基材表面の起伏模様に一旦合焦させて、粘着シート保持台または光学系のいずれか一方を固定したまま他方を規定距離移動させることにより、捕集した微生物画像を得て画像解析を行うことができる。また、マーカーと捕集した微生物との焦点距離差が短い場合は、マーカー合焦後の鏡筒移動が不要となる。
本発明の微生物試験用粘着シートは合焦用マーカーを含み、粘着シートの粘着層の表面(以下、「粘着面」ともいう)上に捕集した微生物像に対する光学機器の自動合焦を可能にした。自動合焦機能を有する光学機器を用いて発色数、発色状態または発色量を解析することにより、迅速且つ簡便に、細菌、真菌、ウイルス等の微生物をリアルタイムで検出および/または計数することができる。
本発明はまた、簡便且つ迅速に微生物試験を実施するのに適した微生物試験用キットを提供する。したがって、本発明の別の態様は、合焦用マーカーを有する微生物試験用粘着シートおよび微生物を染色し得る1種以上の発色性物質を含有する水溶液を含む微生物試験用キットである。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明の微生物試験用粘着シートは、高分子化合物を主成分とする粘着層が基材上に積層された構造を有し、基材中もしくは粘着層中またはそれらの表面に不溶性粒子の層を配するか、または基材表面に起伏模様を配する。該粘着層は、被験面上の微生物を捕集するのに十分な粘着性を有するとともに、微生物染色用の水溶液に浸しても粘着剤が溶解しない平滑な表面構造を有する層であるが、粘着層の基材側もしくは微生物捕集側または粘着層中に合焦用マーカーとして不溶性粒子の層を配することができる。該不溶性粒子としては、炭酸カルシウム粉末、酸化チタン粉末、アルミナ粉末、カーボンブラック、シリカ粉末、ポリスチレン粉末、タルク粉末、石綿粉末、雲母粉末、クレー粉末、セルロース粉末、澱粉等の粒子が例示され、平均粒径0.2〜200μmのものを好適に用いることができる。さらに好ましくは、平均粒径0.5〜200μmのものである。なお、本明細書において、粒径は、レーザー回折・散乱型の粒子径分布測定装置(堀場製作所社製)によって測定する。
粘着層の粘着剤は、被験面上の微生物を捕集でき得る粘着性を有し、微生物を染色する際の水溶液に溶解しなければ特に限定されないが、捕集した微生物および細胞が移動し難いことから、非水溶性粘着剤が好ましい。非水溶性粘着剤としては、例えば、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤等を用いることができ、蛍光画像取得に際して光学特性に影響が少ないという観点から、より粘着層の透明性が高いアクリル系粘着剤またはシリコーン系粘着剤が好ましい。
アクリル系粘着剤としては、モノマーとして(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル等の(メタ)アクリル酸のアルキルエステルを主成分とし、これに(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチル、(メタ)アクリル酸ブトキシエチル、(メタ)アクリル酸エチレングリコールのような親水性のモノマーを1種もしくは2種以上共重合させたものが挙げられる。さらに、このような粘着層はその粘着特性をより良好にするために、イソシアネート化合物、有機過酸化物、エポキシ基含有化合物、金属キレート化合物のような熱架橋剤による処理、または紫外線、ガンマ線、電子線等の処理を行って架橋を施すことが好適である。
ゴム系粘着剤としては、天然ゴム、ポリイソブチレン、ポリイソプレン、ポリブテン、スチレン−イソプレン系ブロック共重合体、スチレン−ブタジエン系ブロック共重合体等の主ポリマーに粘着付与樹脂としてロジン系樹脂、テルペン系樹脂、クロマン−インデン系樹脂、テルペン−フェノール系樹脂、石油系樹脂等を配合したものを用いることができる。シリコーン系粘着剤としては、ジメチルポリシロキサンを主成分とする粘着剤が例示される。
また、捕集した微生物を顕微鏡、光学機器等で計数するに際しては、最終的に粘着層表面に捕集した微生物に焦点を合わすため、その表面の平滑度(凹凸差)は光学系の被写界深度以下であることが好ましい。平滑度が光学系の被写界深度以下であれば微生物を取りこぼしなく計数できるからである。平滑度は表面粗さ計または電子顕微鏡等で微生物試験用粘着シートの断面を観察し、粘着層表面の凸部の頂点から凹部の最低点までの高度差を測定することにより求めることができる。
微生物試験用粘着シートの基材は非水溶性であって、粘着層表面に大きな凹凸を形成させず、また、曲面または狭所表面にも自在に圧着させ得る柔軟な材質であれば特に限定されないが、ポリエステル、ポリエチレン、ポリウレタン、塩化ビニル、布、不織布、紙、ポリエチレンラミネート紙等が例示される。中でも、平滑なポリエステル、ポリエチレン、塩化ビニル、ポリウレタンが基材として望ましい。基材の厚みは、支持体として十分な強度があれば特に制限はないが、約5〜200μmが好ましい。
微生物用試験用粘着シートの基材に合焦用マーカーを設けることもできる。合焦用マーカーの位置は粘着層と同様に3箇所、つまり、粘着層側もしくはその反対側または基材中から選択できる。基材に合焦用マーカーを付与する方法として、基材のフィルム製膜時に凹凸を有する面に押し出しまたはキャスティングする、サンド吹き付け処理等によって製膜された基材表面に傷を付ける、基材表面に印刷する、基材に不溶性粒子を含む合焦用マーカーを含有する層を積層する方法等が挙げられる。基材のフィルム製膜時に凹凸を有する面に押し出しまたはキャスティングし、あるいはサンド吹き付け処理等によって製膜された基材表面に起伏模様を設ける場合には、その起伏模様の好適な深さは約0.1〜20μmである。印刷による合焦用マーカーはベタ塗りではなく、ライン、格子、ドット状等の模様が好ましく、さらに好ましいのは合焦に用いる画像中に色変化を有することである。基材に不溶性粒子を含む合焦用マーカーを含有する層を積層する場合には、不溶性粒子は先述の粘着層の場合と同様のものを用いることができる。これらの不溶性粒子の代わりに空気、炭酸ガス等の気泡を使用することもできる。また、合焦用マーカーを含まない保護基材層をさらに積層することもできる。
また、基材中に合焦用マーカーを付与することは、基材の製膜用樹脂に不溶性粒子を混合して製膜することで実施できる。該不溶性粒子は粘着層の場合と同様に、炭酸カルシウム粉末、酸化チタン粉末、アルミナ粉末、カーボンブラック、シリカ粉末、ポリスチレン粉末、タルク粉末、石綿粉末、雲母粉末、クレー粉末、セルロース粉末、澱粉等の粒子が例示され、平均粒径0.2〜200μmのものが好適に用いられる。さらに好ましくは、平均粒径0.5〜200μmのものである。これらの不溶性粒子の代わりに空気、炭酸ガス等の気泡を使用することもできる。
これらの合焦用マーカーは微生物試験用粘着シートの基材中もしくは粘着層中またはそれらの表面に配することができ、重複しても構わない。
本発明の微生物試験用粘着シートは、自体既知の方法で製造される。例えば、粘着層に用いる高分子化合物を含有する溶液をフィルム等の基材に塗布し、室温から200℃で乾燥させることによって製造される。この他に、カレンダー法、キャスティング法、押出し成形法等の方法を用いることもできる。
基材に合焦用マーカーを付与する場合は既述の表面加工処理によるか、不溶性粒子を添加して基材を製膜するか、または不溶性粒子を添加した樹脂を塗布、カレンダー法、キャスティング法、押出し成形法等の方法で積層し、必要に応じて不溶性粒子を添加しない樹脂を同様の方法で重層するが、粘着層を積層する前に合焦用マーカーを基材に付与する方が好ましい。
(1)粘着層中に合焦用マーカーを付与することは予め粘着層に用いる高分子化合物を含有する溶液に不溶性粒子を添加しておくことにより、(2)粘着層の微生物捕集側表面に合焦用マーカーを付与することは基材に粘着層を積層した後に不溶性粒子を添加することにより、(3)粘着層の基材側表面に合焦用マーカーを付与することは予め剥離紙に積層した粘着層表面に不溶性粒子を添加した後に基材に積層することにより実施することができる。さらに、合焦用マーカーを含有する層となる不溶性粒子を添加した高分子化合物を含有する溶液と不溶性粒子を添加していない高分子化合物を含有する溶液とを、塗布または押出し等の前述の方法により交互に基材に積層することによっても実施することができる。直接積層できない場合は、予め剥離紙に積層した後に転写することにより積層することができる。かくして得られたシートは任意の形状に裁断して使用することができる。
本発明においては、微生物試験用粘着シートに電子線またはガンマ線等の放射線を照射することにより、滅菌することと同時に粘着層に用いる高分子化合物に架橋を施すこともできる。また、滅菌はエチレンオキサイド等のガスによっても施すことができる。さらに、滅菌した状態で微生物遮断性包材に封入すること等により、無菌状態を保持した形態をとることができる。
本発明の試験対象となる微生物には、細菌、放線菌等の原核生物、酵母、カビ等の真核生物、下等藻類、ウイルス、動植物の培養細胞等が含まれる。
本発明はまた、微生物試験用キットを提供する。本発明の微生物試験用キットは、既述の合焦用マーカーを有する微生物試験用粘着シートと、微生物を染色し得る1種以上の発色性物質を含有する水溶液を含む。発色性物質としては、検査対象である微生物に含まれる細胞成分と作用して発色するものであれば特に限定されないが、その代表的なものとして、核酸またはタンパク質を染色する蛍光染色液が挙げられる。さらに具体的な発色性染料としては、微生物一般を対象とする場合は、蛍光性核酸塩基類似体、核酸を染色する蛍光染色剤、タンパク質を染色する染色液、タンパク質等の構造解析に用いられる環境性蛍光プローブ、細胞膜または膜電位の解析に用いられる染色液、蛍光抗体の標識に用いられる染色液等、好気性細菌を対象とする場合は細胞の呼吸によって発色する染色液等、真核生物を対象とする場合はミトコンドリアを染色する染色液、ゴルジ体を染色する染色液、小胞体を染色する染色液、細胞内エステラーゼと反応する染色液およびその修飾化合物等、ならびに高等動物細胞を対象とする場合は骨組織の観察に用いられる染色液、神経細胞トレーサである染色液等が挙げられ、これらは蛍光顕微鏡で観察することができる。
これらの発色性物質の種類を選択することによって、すべての微生物を計数する全菌数測定、呼吸活性をもつ微生物のみを染色して計数する検定、エステラーゼ活性をもつ微生物のみを染色して計数する検定、あるいは複数の発色性物質を組み合わせた二重染色法を用いることによる特定の属または種の微生物を染色して計数する検定等、幅広い分野への適用が可能である。
微生物試験用粘着シートを床、壁等の被験面に圧着して、被験面上に付着している微生物を効率的に転写、集積する。比較的微生物が少ないと考えられる被験面を圧着する場合は、該粘着シートの同一面で複数回圧着してもよい。本発明の方法は、アガースタンプ法のように培養を必要としないので、コロニーのコンタミネーションの心配がなく、培養時における菌相の変化を懸念することもないことから、多重に微生物を捕集することができる。したがって、圧着回数を増やすことにより、メンブレンフィルタ法において水を分散した微生物を濾過、濃縮するのと同様に、多くの微生物を捕集することができる。
次に、微生物を捕集した該粘着シートを必要に応じて所定の大きさに切断し、微生物を捕集した面を発色性物質を含有する水溶液に浸して微生物を染色する。余剰な発色性物質を除去する必要があれば、無菌水等で微生物を捕集した面を濯いで洗浄する。また、微生物の染色後に微生物を集積した面を乾燥する必要がある場合は、風乾、自然乾燥、減圧乾燥等により乾燥することができる。微生物の検出または計数は、光学顕微鏡、蛍光顕微鏡、レーザー顕微鏡、レーザースキャンニングサイトメーダーまたは他の適当な光学機器を用いて光学的画像を形成させ、この像を画像解析することにより行うことができる。この時、自動合焦機能や自動解析機能を有する光学機器を用いることで本発明の微生物試験用粘着シートが威力を発揮し、迅速な画像解析を行うことができる。また、培養操作を要しないので、実質的に該粘着シートの粘着面上の微生物を数分〜十数分以内に検出することができる。
本発明の応用例の一例として、粘着面を被験面に貼付して被験面上に存在する微生物を転写し、前培養なしで微生物を染色し、微生物をシングルセルのまま観察することができるので、被験体の清浄度を迅速に測定する環境調査用等に利用することができる。さらに、シングルセルレベルでの回収であるので、該粘着シートを被験面に複数回圧着して微生物を捕集し、濃縮することも可能であり実用的である。応用分野として、医療、食品製造等の現場での環境の微生物検査等に適用することができる。
【実施例】
以下に実施例および比較例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明するが、これらは単なる例示であって本発明の範囲をなんら限定するものではない。
【実施例1】
1)微生物試験用粘着シートの作製
イソノニルアクリレート/2−メトキシエチルアクリレート/アクリル酸(65/30/5(仕込み重量比))にアゾイソブチロニトリルを重合開始剤として重合させ、ゲル分率40w/w%の共重合物トルエン溶液を得た。その共重合物溶液の0.4w/w%に相当する炭酸カルシウム粉末(平均粒径4μm)またはセルロース粉末(平均粒径10μm)を共重合物溶液に加えてよく攪拌した後、乾燥時の厚みが20μmとなるように50μm厚の透明ポリエステルに塗布し、130℃で5分間乾燥した。さらに、線量25kグレイのガンマ線滅菌を行った。
2)微生物の捕集および染色
大腸菌K−12培養液を無菌水で100倍希釈した溶液0.1mLを0.4μmの直孔を有するポリカーボネート膜で濾過し、無菌リン酸緩衝液で洗浄した平膜上の微生物を検体とし、1)で作製した微生物試験用粘着シートを濾過面に押し付けた後に剥離した。次に6−カルボキシフルオレセインジアセテートを0.1%含むリン酸緩衝液を染色液として微生物を捕集した面に滴下し、3分間室温で放置して染色した後、さらにリン酸緩衝液で微生物捕集面を洗浄した。
3)計数
倍率10〜40倍でCCDカメラを備える光学系で得た画像情報をもとに、パーソナルコンピュータでステッピングモーターを制御して光学系または粘着シート保持台のいずれかを1μm単位で駆動できる光学機器(以下、「測定装置」という)を用意し、捕集微生物を染色した微生物試験用粘着シートの微生物捕集面の微生物数を測定した。具体的には、粘着面近傍で鏡筒または粘着シートのいずれかを動かして炭酸カルシウム粉末等の合焦用マーカーが像を結ぶ焦点位置を記憶し、そこから粘着層表面に焦点が合うまでの所定の距離(合焦用マーカーと微生物の付着面との距離で決まる量)をさらに動かした後、主波長490nmの光で励起して緑色の輝点として得られる染色菌数を画像解析ソフトで処理して1視野分を測定し、さらに微生物試験用粘着シートを固定してあるステージを電動制御して別の視野も同様に計数し、合計70視野分を平均化した。また、培養希釈液の代わりに無菌液を検体として、微生物を捕集していない微生物試験用粘着シートの粘着面も同様に計数した。
[比較例1]
粘着層に炭酸カルシウム粉末等の不溶性粒子を加えない以外は実施例1と同様にして微生物試験用粘着シートを作製し、微生物の捕集、染色および計数も実施例1と同様に行った。実施例1および比較例1の結果を表1に示す。

表1に示すように、実施例1では微生物試験用粘着シートの合焦用マーカーに自動合焦機能が働き、大腸菌K−12の数を測定することができた。全く微生物を捕集していない微生物試験用粘着シートでも少ないながら微生物を検出したのは、測定環境中等からの微生物または蛍光性粒子ノイズが混入したと思われる。比較例1では合焦用マーカーがないために焦点が合わず、計数不能となった。ただし、大腸菌K−12を捕集した場合に、合焦用マーカーがないにもかかわらず菌数を測定することができたのは、捕集された微生物を合焦用マーカーとして捕らえ、さらに所定の距離(合焦用マーカーと微生物の付着面との距離で決まる量)移動するので、画像上の輝点が減少したものと考えられる。このように合焦用マーカーを粘着シートに設けない場合、捕集した微生物数が多いと捕集した面を直接合焦することも可能であるが、捕集微生物が少ないと直接合焦することができないので計数システムとしては不完全である。
【実施例2】
実施例1で得た共重合物トルエン溶液に不溶性粒子を加えることなく、乾燥時の厚みが20μmとなるように、(1)25μm厚の透明ポリエステルの非粘着面に1200番手の紙やすりで約1μm深さの傷をつけたフィルム、および(2)平均粒径5μmのシリカ粉末が混合されている26μm厚のポリエステルフィルムに塗布して130℃で5分間乾燥した。さらに、線量25kグレイのガンマ線滅菌を行って、微生物試験用粘着シートを得た。次に、ブドウ球菌培養液を無菌水で、10倍希釈した溶液0.1mLを0.4μmの直孔を有するポリカーボネート膜で濾過し、無菌リン酸緩衝液で洗浄した平膜上の微生物を検体とした以外は、実施例1と同様にして微生物の捕集・染色・洗浄を行った。計数は、実施例1と同様に行った。
[比較例2]
基材を何も処理していない25μm厚の透明ポリエステルフィルムとした以外は実施例2と同様にして微生物試験用粘着シートを作製し、微生物の捕集・染色・洗浄・計数を行った。実施例2および比較例2の結果を表2に示す。

表2に示すように、実施例2においても微生物試験用粘着シートの合焦用マーカーに測定装置の自動合焦機能が働き、ブドウ球菌数を測定することができた。しかし、比較例2では、合焦用マーカーがないために焦点が合わず、計数不能となった。ただし、ブドウ球菌を捕集した場合、捕集された微生物を合焦用マーカーとして捕らえて、さらに所定の距離(合焦用マーカーと微生物の付着面との距離で決まる量)移動するので取り込み画像に輝点がなく、測定菌数は0個となった。
【実施例3】
1)微生物試験用粘着シートの作製
イソノニルアクリレート/2−メトキシエチルアクリレート/アクリル酸(65/30/5(仕込み重量比))にアゾイシブチロニトリルを重合開始剤として重合させ、ゲル分率40w/w%の共重合物トルエン溶液を得た。その共重合物溶液に、合焦用マーカーとしてアルミナ粉末(平均粒径0.5μm)、炭酸カルシウム粉末(平均粒径4μm)、酸化チタン粉末(平均粒径0.2μm)またはセルロース粉末(平均粒径6μm)を、共重合物溶液の4w/w%に相当する量を加えてよく攪拌した後、乾燥時の厚みが10μmとなるように75μm厚のポリエステル剥離フィルムに塗布し、130℃で5分間乾燥した。こうして得られた合焦用マーカーを含む粘着層を、33μm厚の透明ポリカーボネート基材に転写した。さらに、同様に合焦用マーカーを含まない共重合物溶液を用いて作製した厚み10μmの粘着層を、合焦用マーカーを含む粘着層に積層した。そして、線量25kグレイのガンマ線滅菌を行った。
2)微生物の捕集および染色
無菌生理食塩水で100倍希釈した大腸菌K−12培養液0.1mLまたは20倍希釈したブドウ球菌培養液0.1mLを、直径0.4μmの直孔を有するポリカーボネート膜で濾過し、無菌リン酸緩衝液で洗浄した平膜上の微生物を検体とし、1)で作製した微生物試験用粘着シートを濾過面に押し付けた後に剥離した。次に6−カルボキシフルオレセインジアセテートを0.1%含むリン酸緩衝液を染色液として微生物を捕集した面に滴下し、3分間室温で放置して染色した後、さらにリン酸緩衝液で微生物捕集面を洗浄した。
3)計数
実施例1と同じ測定装置を用意し、捕集微生物を染色した微生物試験用粘着シートの微生物捕集面の微生物数を測定した。具体的には、粘着面近傍で粘着シート保持台を動かして炭酸カルシウム粉末等の合焦用マーカーが像を結ぶ焦点位置を記憶し、そこから粘着層表面に焦点が合うまでの所定の距離(合焦用マーカーと微生物の付着面との距離で決まる量)をさらに動かした後、主波長490nmの光で励起して緑色の輝点として得られる染色菌数を画像解析ソフトで処理して1視野分を計数し、さらに微生物試験用粘着シートを固定してあるステージを電動制御して別の視野も同様に計数し、合計70視野分を平均化した。また、培養希釈液の代わりに無菌生理食塩水を検体として、微生物を捕集していない微生物試験用粘着シートの粘着面も同様に計数した。
[比較例3]
実施例3において中央の粘着層に炭酸カルシウム粉末等の不溶性粒子を加えない以外は同様にして微生物試験用粘着シートを作製し、微生物の捕集、染色および計数も実施例3と同様に行った。実施例3および比較例3の結果を表3に示す。

表3に示すように、実施例3では微生物試験用粘着シートの合焦用マーカーにより自動合焦機能が働き、大腸菌K−12またはブドウ球菌を計数することができた。全く微生物を供試していない微生物試験用粘着シートでも少ないながら微生物を検出したのは、測定環境中等から微生物または蛍光性粒子ノイズが混入したためと思われる。比較例3では、合焦用マーカーがないために焦点が合わず、計数不能となった。ただし、合焦用マーカーがない場合でも供試微生物として大腸菌K−12またはブドウ球菌を用いた場合に少ないながら菌数を測定することができたのは、微生物を捕集したときに、捕集された微生物またはゴミを合焦用マーカーとして認識することがあり、その場合には焦点が所定の距離(合焦用マーカーと微生物の付着面との距離で決まる量)移動するために、画像上の輝点が減少したものと考えられる。このように合焦用マーカーを粘着シートに設けない場合、捕集した微生物数が多いと捕集した面を直接合焦することも可能であるが、捕集微生物が少ないと直接合焦することができないので計数システムとしては不完全である。
【実施例4】
平均分子量20000の飽和ポリエステル樹脂1重量部を塩化メチレン3.5重量部に溶かし、さらに0.1重量部の炭酸カルシウム粉末(平均粒径2μm)を加えて分散した。乾燥時の厚みが10μmとなるように、50μm厚の透明ポリエステルフィルムに塗布し、80℃で5分間乾燥して片面に合焦用マーカーを有する基材を得た。粘着剤はスチレンイソプレン共重合物(平均分子量20万、スチレンユニット15%)10重量部、ポリイソプレン(平均分子量29000)9重量部、テルペン共重合物(平均分子量1350)12重量部をトルエン22重量部に溶解し、乾燥時の厚みが20μmとなるように75μm厚のポリエステル剥離フィルムに塗布し、130℃で5分間乾燥した。こうして得られた粘着層を、合焦用マーカーを有する基材のマーカー側の面またはマーカー側でない面に転写した。さらに、線量25kグレイのガンマ線滅菌を行って、微生物試験用粘着シートを得た。次に、ブドウ球菌培養液を用いて、実施例1と同様にして微生物の捕集・染色・洗浄・計数を行った。
[比較例4]
基材に合焦用マーカーを添加しないこと以外は実施例4と同様にして微生物試験用粘着シートを作製し、微生物の捕集・染色・洗浄・計数を行った。実施例4および比較例4の結果を表4に示す。

表4に示すように、実施例4においても合焦用マーカーの位置に関係なく、微生物試験用粘着シートの合焦用マーカーに測定装置の自動合焦機能が働き、ブドウ球菌数を測定することができた。しかし、比較例4では、合焦用マーカーがないために焦点が合わず、計数不能となった。ただし、合焦用マーカーがない場合でも供試微生物としてブドウ球菌を用いた場合に菌数が測定されたのは、ブドウ球菌を捕集したときに、捕集されたブドウ球菌やゴミを合焦用マーカーとして認識することがあり、その場合には焦点が所定の距離(合焦用マーカーと微生物の付着面との距離で決まる量)移動するため、画像上の輝点が減少したものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
本発明の微生物試験用粘着シートは合焦用マーカーを含み、粘着面に捕集した微生物像に対する光学機器の自動合焦を可能にした。自動合焦機能を有する光学機器を用いて発色数、発色状態または発色量を解析することにより、迅速且つ簡便に、細菌、真菌、ウイルス等の微生物をリアルタイムで検出および/または計数することができる。
本発明は、日本に出願された特願2002−260468を基礎としており、その内容は本明細書に全て包含されるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも基材および粘着層を有し、その粘着層を被験体の表面に圧着、剥離して微生物を捕集した後に該粘着層の表面を画像解析する微生物試験用粘着シートにおいて、基材中もしくは粘着層中またはそれらの表面に該画像を合焦させるためのマーカー(合焦用マーカー)を有する微生物試験用粘着シート。
【請求項2】
基材および/または粘着層が合焦用マーカーを含有する層を含む多層である、請求項1記載の微生物試験用粘着シート。
【請求項3】
合焦用マーカーが平均粒径0.2〜200μmの不溶性粒子である、請求項1または2記載の微生物試験用粘着シート。
【請求項4】
合焦用マーカーが平均粒径0.5〜200μmの不溶性粒子である、請求項3記載の微生物試験用粘着シート。
【請求項5】
基材表面の合焦用マーカーが深さ0.1〜20μmの起伏模様または合焦に用いる画像中に色変化のある印刷模様である、請求項1記載の微生物試験用粘着シート。
【請求項6】
微生物試験用粘着シートの粘着層表面の平滑度(凹凸差)が光学系の被写界深度以下である、請求項1〜5のいずれかに記載の粘着シート。
【請求項7】
微生物を染色し得る1種以上の発色性物質を含有する水溶液および請求項1〜6のいずれかに記載の微生物試験用粘着シートを含む微生物試験用キット。
【請求項8】
発色性物質が蛍光材料である、請求項7記載のキット。

【国際公開番号】WO2004/027085
【国際公開日】平成16年4月1日(2004.4.1)
【発行日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−537541(P2004−537541)
【国際出願番号】PCT/JP2003/011236
【国際出願日】平成15年9月3日(2003.9.3)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【出願人】(591083244)富士電機システムズ株式会社 (1,717)
【Fターム(参考)】