説明

固体酸化物形燃料電池、及びそのスタック構造

【課題】高い機械的特性を有しつつ、構造が簡単な固体酸化物形燃料電池を提供する。
【解決手段】本発明に係る固体酸化物形燃料電池は、多孔質の基板2と、基板2上に配置された燃料極41と、この燃料極41上に配置された電解質42と、電解質42上に配置された空気極43と、基板2を支持する非多孔質性のセパレータ1と、を備え、電解質42の周縁がセパレータ1に接合されることで、電解質42とセパレータ1との間に収容された燃料極41が空気極43から気密に隔離され、セパレータ1が、基板2を外部と連通させるように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料ガス及び酸化剤ガスにより発電を行う固体酸化物形燃料電池、及びそのスタック構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、固体酸化物形燃料電池のセルデザインとして、平板型、円筒型などが提案されている。しかし、現状のセルデザインには問題がある。平板型セル及び円筒型セルのいずれも、性能を向上させるためには電解質を薄膜化することによる内部抵抗の低減が必要となるが、電解質が薄すぎると振動や熱サイクルなどに対して脆弱化してしまい、耐振性や耐久性が低下するという問題である。そこで、基板上に単セルを配置することで、機械的特性を向上する電池も提案されている。例えば、特許文献1に記載の電池では、多孔質領域と、その周縁に配置された非多孔質領域とからなる基板上に、空気極、電解質、及び燃料極をこの順で積層し、さらにこの基板をフェライトステンレス鋼バイポーラプレートで支持している。
【特許文献1】特開2004−512651号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上記燃料電池は、空気極に供給する酸化剤ガスが燃料ガスと混合しないように、燃料極は基板と電解質との間に挟まれている。そして、燃料ガスが漏れないように、電解質は、基板の非多孔質領域と接合し、さらにこの非多孔質領域がバイポーラプレートと気密に接続されている。したがって、電池の構成がセルを含む基板と、バイポーラプレートの2部材からなるとともに、シール部が必要になるという問題があった。
【0004】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、高い機械的特性を有しつつ、構造が簡単な固体酸化物形燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、多孔質の基板と、前記基板上に配置された燃料極(アノード)または空気極(カソード)のいずれか一方の電極と、前記一方の電極上に配置された電解質と、前記電解質上に配置された他方の電極と、前記基板を支持する非多孔質性のセパレータと、を備え、前記電解質の周縁が前記セパレータに接合されることで、前記電解質とセパレータとの間に収容された前記一方の電極が前記他方の電極から気密に隔離され、前記セパレータは、前記基板を外部と連通させるように構成されている。
【0006】
この構成によれば、電解質の周縁がセパレータと接合することで、両電極が電解質によって隔離されるため、簡易な構造で、二室化を図ることができる。また、電極及び電解質からなる単セルは、基板及びセパレータによって支持されているため、機械的特性を高めることができる。なお、電解質の両端とセパレータとは、直接的に接合することもできるし、ガラスシール等の絶縁部材を介して間接的に接合することもでき、要するに両者の間に他方の電極とは隔離された空間が形成できればよい。
【0007】
ここで、電解質の周縁と基板とを接合し、電解質と基板との間に一方の電極を収容するように構成すると、一方の電極と他方の電極とをさらに確実に隔離することができる。
【0008】
基板は、多孔質性を有しているため、これにガスを供給すれば、一方の電極にガスを供給することかできるが、基板とセパレータとが接触する面において、当該基板及びセパレータの少なくとも一方に、ガスが流通する溝を形成すると、電極に接触するガスの流量を増大することができ、出力を向上することができる。
【0009】
上記一方の電極が燃料極である場合、基板が水素分離機能を有していると、供給された炭化水素系のガスから水素を分離することができる。これにより、燃料極に必要な水素を直接的に供給することができるため、ガスの供給効率を向上することができる。また、発電性能が向上し、燃料極上でのカーボン析出が減少でき、セルの耐久性を向上することができる。
【0010】
上記燃料電池における基板は、導電性を有する金属、または金属酸化物を有する材料から構成されることが好ましい。
【0011】
上述した電池をスタックする場合には、次のように構成することができる。すなわち、本発明に係る電池のスタック構造は、上述した燃料電池を複数個有し、隣接する二個の前記燃料電池は、一方の燃料電池のセパレータと他方の燃料電池の他方の電極とが対向するように積層されるとともに、両燃料電池の間に、前記他方の燃料電池の電極、電解質及び基板が気密に収容され、前記一方の燃料電池のセパレータは、他方の燃料電池の他方の電極が外部と連通するように構成されている。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る固体酸化物形燃料電池及びこれを用いたスタック構造によれば、高い機械的特性を有しつつ、構造を簡単にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明に係る固体酸化物形燃料電池の一実施形態について図面を参照しつつ説明する。図1は本実施形態に係る固体酸化物形燃料電池の断面図、図2は図1のA−A線断面図である。なお、以下では、図2の上下方向を「前後方向」、左右方向を「幅方向」と称することとし、これに基づいて他の図面も説明する。
【0014】
図1に示すように、本実施形態に係る固体酸化物形燃料電池は、上面に凹部11が形成された非多孔質性のセパレータ1を備え、この凹部11内に多孔性の基板2が配置されている。図2に示すように、凹部11は、基板2が配置される平面視矩形状の収容部111と、その収容部111から前後に延長する平行四辺形状の延長部112a,bとで構成されている。延長部112a,bは、基板2の前端及び後端とほぼ同じ幅を有しており、後側の延長部112aの左側端部には凹部11内にガスを供給する供給口12が形成される一方、前側の延長部112bの右側端部には凹部11内のガスが排出される排出口13が形成されている。また、収容部11の底面には、延長部112a,bとほぼ同じ深さで前後方向に延びる複数の溝14が形成されており、供給口12から流入したガスは、溝14を介して後側の延長部111aから前側の延長部111bへ流れ、排出口13から排出される。この過程において、溝14を通過中のガスは基板2に接触する。
【0015】
基板2は、幅方向の両側に塗布されたガラスシール3によって凹部11内に固定されている。そして、この基板2上には単セル4が配置されている。単セル4は、基板2上に配置される薄膜状の燃料極41、電解質42、及び空気極43がこの順で積層されることで構成されている。単セル4の周縁は、燃料極41の周縁を覆うように下方へと延び、基板2及びセパレータ1と接合されている。これにより、電解質42とセパレータ1との間には基板2と燃料極41とが収容されるとともに、電解質42と基板2との間に燃料極41が収容される。これにより、燃料極41と空気極43とが隔離される。
【0016】
次に、上記燃料電池を構成する材料について説明する。電解質42の材料としては、固体酸化物形燃料電池の電解質として公知のものを使用することができ、例えば、サマリウムやガドリニウム等をドープしたセリア系酸化物、ストロンチウムやマグネシウムをドープしたランタン・ガレード系酸化物、スカンジウムやイットリウムを含むジルコニア系酸化物などの酸素イオン伝導性セラミックス材料を用いることができる。
【0017】
燃料極41及び空気極43は、セラミックス粉末材料により形成することができる。このとき用いられる粉末の平均粒径は、好ましくは10nm〜100μmであり、さらに好ましくは50nm〜50μmであり、特に好ましくは100nm〜10μmである。なお、平均粒径は、例えば、JISZ8901にしたがって計測することができる。
【0018】
燃料極41は、例えば、金属触媒と酸化物イオン導電体からなるセラミックス粉末材料との混合物を用いることができる。このとき用いられる金属触媒としては、ニッケル、鉄、コバルトや、貴金属(白金、ルテニウム、パラジウム等)等の還元性雰囲気中で安定で、水素酸化活性を有する材料を用いることができる。また、酸化物イオン導電体としては、蛍石型構造又はペロブスカイト型構造を有するものを好ましく用いることができる。蛍石型構造を有するものとしては、例えばサマリウムやガドリニウム等をドープしたセリア系酸化物、スカンジウムやイットリウムを含むジルコニア系酸化物などを挙げることができる。また、ペロブスカイト型構造を有するものとしてはストロンチウムやマグネシウムをドープしたランタン・ガレード系酸化物を挙げることができる。上記材料の中では、酸化物イオン導電体とニッケルとの混合物で、燃料極12を形成することが好ましい。なお、酸化物イオン導電体からなるセラミックス材料とニッケルとの混合形態は、物理的な混合形態であってもよいし、ニッケルへの粉末修飾またはセラミックス材料へのニッケル修飾などの形態であってもよい。また、上述したセラミックス材料は、1種類を単独で、或いは2種類以上を混合して使用することができる。また、燃料極41は、金属触媒を単体で用いて構成することもできる。
【0019】
空気極43を形成するセラミックス粉末材料としては、例えば、ペロブスカイト型構造等を有するCo,Fe,Ni,Cr又はMn等からなる金属酸化物を用いることができる。具体的には(Sm,Sr)CoO,(La,Sr)MnO,(La,Sr)CoO,(La,Sr)(Fe,Co)O,(La,Sr)(Fe,Co,Ni)Oなどの酸化物が挙げられ、好ましくは、(La,Sr)(Fe,Co)Oである。上述したセラミックス材料は、1種を単独で、或いは2種以上を混合して使用することができる。
【0020】
上記電解質42、燃料極41、及び空気極43は、上述した材料を主成分として、さらにバインダー樹脂、有機溶媒などが適量加えられることにより形成される。より詳細には、上記主成分とバインダー樹脂との混合において、上記主成分が50〜95重量%となるように、バインダー樹脂等を加えることが好ましい。
【0021】
燃料極41、空気極43の形成方法としては、例えば印刷法を用いることができ、具体的には、スクリーン印刷法やナイフコ−ト法、ドクターブレード法、スプレーコート等の印刷方法を用いることができる。これ以外にも、シート上に塗布しておき(いわゆるグリーン体)、これらを転写することによって電極を形成することもできる。また、電解質42は、種々の方法で形成することができるが、燃料極41および空気極42を多孔体として形成するには、これらよりも低温で焼結することが好ましく、例えば真空法、溶射法等による低温焼成手法で形成することができる。
【0022】
基板2は、電子伝導性を有するが、イオン伝導性が無視できる程度に小さいことが好ましい。また、熱力学的に安定な材料で構成されていることが好ましい。導電率については、燃料電池の運転温度において、10−2S・cm−1以上であることが好ましい。これにより、基板2は集電層としての役割を果たす。このような要求を満たすため、基板は次のように構成することができる。
【0023】
基板2の気孔率は、ガス透過性及びその強度を考慮すると、10〜80%の範囲にあることが好ましい。また、後述するように、基板2の前後方向の端面からガスを流入させる必要があるため、ある程度の厚みが必要となる。このような要求を満たすため、基板2を構成する材料は、Pt,Au,Ag,Ni,Ti,Cu,Fe,Cr等の導電性金属、又はLa(Cr,Mg)O,(La,Ca)CrO,(La,Sr)CrOなどのランタン・クロマイト系等の導電性セラミックス材料によって形成することができ、これらのうちの1種を単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
【0024】
セパレータ1は、導電性材料が用いられ、例えば、ステンレス系の金属材料や、ランタンクロマイト系の金属セラミックス材料を使用することができる。
【0025】
上記のように構成された燃料電池は、次のように発電が行われる。まず、電池に対して水素、又はメタン、エタンなどの炭化水素からなる燃料ガスをセパレータ1の供給口12から供給する。この燃料ガスは、供給口12から凹部11の延長部112aへ流入し、溝14を経て延長部112bに入った後、排出口13からセパレータ1の外部へ排出される。そして、溝14を通過中の燃料ガスは多孔質体である基板2を通って燃料極41に供給される。一方、空気等の酸化剤ガスは、電解質42の上面側から空気極43へ供給される。これらのガスは、高温の状態(例えば、400〜1000℃)で供給される。こうして、燃料極41及び空気極43がそれぞれ水素ガス及び酸化剤ガスと接触するため、各単セル4における燃料極41と空気極43との間で、電解質41を介した酸素イオン伝導が起こり、発電が行われる。
【0026】
以上のように、本実施形態によれば、電解質42の周縁がセパレータ1と接合することで、その間に収容されている燃料極41と、空気極43とは隔離された状態になるため、簡易な構造で、二室化を図ることができる。また、電極41,43及び電解質42からなる単セル4は、基板2及びセパレータ1によって支持されているため、機械的特性を高めることができる。
【0027】
ここで、基板2を、例えば、Ro,Pd,Pt,Ru等の金属で構成すると、水素分離機能を付与することができる。これにより、例えば、炭化水素系のガスがこの基板2に接触または通過すると、水素のみが分離される。そのため、燃料極41に水素を直接的に供給することができ、ガスの供給効率を向上することができる。また、発電性能が向上し、燃料極41でのカーボン析出が低減でき、セルの耐久性が向上する。
【0028】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。例えば、電解質42の両側とセパレータ1とは、図1に示すように、直接的に接合することもできるし、図3に示すように、ガラスシール等の絶縁部材7を介して間接的に接合することもできる。
【0029】
また、上記実施形態では、セパレータ1の凹部11に溝14を形成し、これにガスが供給されるようにしているが、図4に示すように、基板2側に溝21を形成することもできる。但し、基板2は、多孔質性を有しているため、これにガスを供給すれば、燃料極41にガスを供給することができるため、延長部112から基板2にガスが供給できるのであれば、溝は必ずしも必要ではない。但し、溝21を形成することにより、燃料極41に接触するガスの流量を増大することができ、出力を向上することができる。
また、上記実施形態のように、セパレータ1に収容部111と延長部112とからなる凹部11を形成し、これに供給口12からガスを供給する以外にも、セパレータ1が、基板2にガスを供給できるような構成であれば特には限定されない。
【0030】
また、上記燃料電池をスタック化する場合には、例えば、図5のように構成すればよい。図5は、スタック化した燃料電池の断面図である。同図に示すように、このスタック構造では、各燃料電池Fのセパレータ1の下面に前後方向に延びる溝17を形成しておく。そして、隣接する燃料電池においては、一方の電池Fのセパレータ1の下面と、他方の電池Fのセル4とが対向するようにし、セル4の周囲に絶縁性のシール8を配置することで、隣接する燃料電池のセパレータ同士を接続する。このように絶縁性のシール8を設けることで、セル4が隣接するセパレータ1内に気密に保持される。そして、各セル4の空気極43には、セパレータ1の下面に形成された溝17を介してガスを供給する。以上の構成により、複数の燃料電池を簡単にスタック化することができ、これらが電気的に直列に接続される。なお、セパレータ下面の溝にガスを供給する構成は、特には限定されず、図2に示したように、セパレータの下面に延長部と収容部からなる凹部を形成することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の一実施形態に係る固体酸化物形燃料電池の断面図である
【図2】図1のA−A線断面図である。
【図3】図1の燃料電池の他の例を示す断面図である。
【図4】図1の燃料電池のさらに他の例を示す断面図である。
【図5】図1の燃料電池をスタック化した状態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0032】
1 セパレータ
2 基板
4 単セル
41 燃料極
42 電解質
43 空気極
8 シール部材(絶縁部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質の基板と、
前記基板上に配置された燃料極または空気極のいずれか一方の電極と、
前記一方の電極上に配置された電解質と、
前記電解質上に配置された他方の電極と、
前記基板を支持する非多孔質性のセパレータと、を備え、
前記電解質の周縁が前記セパレータに接合されることで、前記電解質とセパレータとの間に収容された前記一方の電極が前記他方の電極から気密に隔離され、
前記セパレータは、前記基板を外部と連通させるように構成されている、固体酸化物形燃料電池。
【請求項2】
前記基板とセパレータとが接触する面において、当該基板及びセパレータの少なくとも一方に、ガスが流通する溝が形成されている、請求項1に記載の固体酸化物形燃料電池。
【請求項3】
前記一方の電極は燃料極であり、前記基板は水素分離機能を有している、請求項1または2に記載の固体酸化物形燃料電池。
【請求項4】
前記基板が、導電性を有する金属または金属酸化物を有する材料からなる、請求項1から3のいずれかに記載の固体酸化物形燃料電池。
【請求項5】
請求項1から4いずれかに記載の燃料電池を複数個有し、
隣接する二個の前記燃料電池は、一方の燃料電池のセパレータと他方の燃料電池の他方の電極とが対向するように積層されるとともに、
両燃料電池の間に、前記他方の燃料電池の電極、電解質及び基板が気密に収容され、
前記一方の燃料電池のセパレータは、他方の燃料電池の他方の電極が外部と連通するように構成されている、固体酸化物形燃料電池のスタック構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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