説明

固体酸化物形燃料電池の発電部間を電気的に接続する接合体

【課題】固体酸化物形燃料電池(SOFC)の発電部間を電気的に接続する接合体であって、接合強度が高く且つ電気的接続の信頼性が高いものを提供すること。
【解決手段】1つの横縞型SOFCセル100の両面間が、接続部材400(セル100の周囲に巻き付けられた金属バンド)によって接合される。「接続部材400の一部」と、「1つのSOFCセル100の左側面に設けられた燃料極20と電気的に接続されたインターコネクタ30」とが、接合材80を用いて電気的に接続され、且つ、「接続部材400の他の一部」と、「1つのSOFCセル100の右側面に設けられた空気極60と接続された「燃料極20と同じ材質からなる導電性セラミックス」と電気的に接続されたインターコネクタ30」とが、接合材80を用いて電気的に接続するように接合されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸化物形燃料電池の発電部間を電気的に接続する接合体に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、固体酸化物形燃料電池(Solid Oxide Fuel Cell:SOFC)では、高い出力電圧を得る等のため、隣接する一方のSOFCセルに設けられた発電部の燃料極側と、他方のSOFCセルに設けられた発電部の空気極側とが接続部材を介して電気的に接続される構成(接合体)が広く採用される。
【0003】
例えば、特許文献1では、図8、図9等に示したように、隣接する一方のSOFCセルに設けられた発電部の燃料極3(3a)に電気的に接続するように固定されたインターコネクタ6と、他方のSOFCセルに設けられた発電部の空気極5とが接続部材15を介して電気的に接続された接合体が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−19059号公報
【発明の概要】
【0005】
上記文献に記載の接合体では、接続部材15及びインターコネクタ6、並びに、接続部材15及び空気極5が、電子伝導性を有する接合材を用いて接合される。ここで、接続部材15及びインターコネクタ6は緻密材料で構成される一方、空気極5は多孔質材料で構成される。
【0006】
従って、接続部材15及びインターコネクタ6の接合箇所では、接合対象が緻密材料同士になるので、接合強度が高く且つ電気的接続の信頼性が高くなり得る。一方、接続部材15及び空気極5の接合箇所では、接合対象に多孔質材料が含まれるので、接合強度が低く且つ電気的接続の信頼性が低くなり易いという問題が発生し得る。上記それぞれの接合箇所では、外力に起因する機械的な応力や温度分布に起因する熱応力が発生し易い。従って、接合強度が高く且つ電気的接続の信頼性が高い接合体の到来が望まれていたところである。
【0007】
本発明は、上記問題に対処するためになされたものであり、その目的は、SOFCの発電部間を電気的に接続する接合体であって、接合強度が高く且つ電気的接続の信頼性が高いものを提供することを目的とする。
【0008】
本発明に係るSOFCの発電部間を電気的に接続する接合体は、「燃料側電極と、電解質膜と、空気側電極とからなる固体酸化物形燃料電池の第1の発電部」と、「燃料側電極と、電解質膜と、空気側電極とからなる固体酸化物形燃料電池の第2の発電部」と、「前記第1の発電部の前記燃料側電極と電気的に接続され、且つ電子伝導性を有する緻密な導電性セラミックスからなる第1導電部材」と、「前記第2の発電部の前記空気側電極と電気的に接続され、且つ電子伝導性を有する緻密な導電性セラミックスからなる第2導電部材」と、「前記第1導電部材と前記第2導電部材とを電気的に接続するための金属からなる接続部材」を備える。前記接続部材及び前記第1導電部材、並びに、前記接続部材及び前記第2導電部材が、電子伝導性を有する接合材を用いてそれぞれ接合される。なお、前記接続部材は、導電性セラミックス(例えば、LaCrOや、LSCFなどの空気極用の材料)の緻密体であってもよい。
【0009】
上記構成によれば、接合材によって金属製の接続部材と接合される第1、第2導電部材が、共に緻密な導電性セラミックス材料からなる。従って、接続部材と第1、第2導電部材との間の接合強度が高く且つ電気的接続の信頼性が高い接合体が得られる。
【0010】
また、上記構成において、前記第1導電部材及び前記第2導電部材が、前記接続部材を介さずに電子伝導性を有する接合材を用いて直接接合されてもよい。これによっても、接合材によって接合される第1、第2導電部材が、共に緻密な導電性セラミックス材料からなる。従って、第1、第2導電部材間の接合強度が高く且つ電気的接続の信頼性が高い接合体が得られる。
【0011】
ここにおいて、導電性セラミックスの緻密性を十分に確保するため、導電性セラミックスの気孔率は15%以下であることが好適である。より好ましくは10%以下、更に好ましくは7%以下である。前記導電性セラミックスとしては、ランタンクロマイト(化学式は後述)や、チタン酸化物(化学式は後述)が採用され得る。
【0012】
上記本発明に係る接合体の一例として、隣接する(横縞型)SOFCセル間を接続部材によって接合する接合体が挙げられる。この場合、上記本発明に係る接合体は、以下のように構成される。即ち、前記第1の発電部及び前記第1導電部材は、第1のSOFCセルの支持基板であって燃料ガスを流すための燃料ガス流路が内部に形成された多孔質の板状の支持基板に設けられる。前記第2の発電部及び前記第2導電部材は、第2のSOFCセルの支持基板であって燃料ガスを流すための燃料ガス流路が内部に形成された多孔質の板状の支持基板に設けられる。前記第1、第2のSOFCセル間が前記接続部材によって電気的に接続される。
【0013】
また、上記本発明に係る接合体の一例として、1つの(横縞型)SOFCセルの両面間を接続部材によって接合する接合体が挙げられる。この場合、上記本発明に係る接合体は、以下のように構成される。即ち、前記第1の発電部及び前記第1導電部材は、SOFCセルの支持基板であって燃料ガスを流すための燃料ガス流路が内部に形成された多孔質の板状の支持基板の第1の表面側に設けられる。前記第2の発電部及び前記第2導電部材は、前記支持基板の前記第1の表面側と反対側の第2の表面側に設けられる。前記SOFCセルの第1表面側と第2表面側との間が前記接続部材によって電気的に接続される。
【0014】
ところで、上記本発明に係る接合体では、第1導電部材が第1の発電部の燃料側電極に接合され、第2導電部材が第2の発電部の空気側電極に接合されてもよい。しかしながら、一般に、空気側電極(セラミック焼成体)が燃料側電極(セラミック焼成体)より低い温度で焼成されることに起因して、空気側電極は燃料側電極より脆くなる。従って、この場合、「燃料側電極に対する(従って、支持基板に対する)第1導電部材の接合強度」に対して「空気側電極に対する(従って、支持基板に対する)第2導電部材の接合強度」が低くなり易い。
【0015】
これに対し、前記第2導電部材は、「前記第2の発電部が設けられた前記支持基板に接合された導電性セラミックスであって前記第2の発電部の前記空気側電極と電気的に接続され且つ前記燃料側電極と同じ材質からなる導電性セラミックス」に接合されることが好適である。これによれば、第2導電部材が第2の発電部の空気側電極に接合される場合に比して、支持基板に対する第2導電部材の接合強度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態に係る「SOFCの発電部間を電気的に接続する接合体」を示す斜視図である。
【図2】図1に示した隣接するSOFCセル間を電気的に接続する接続部材の全体形状の一例を示す斜視図である。
【図3】本発明の実施形態に係る接合体によって接合されるSOFCセルを示す斜視図である。
【図4】図3に示す燃料電池セルの4−4線に対応する断面図である。
【図5】図3に示す燃料電池セルの作動状態を説明するための図である。
【図6】図3に示す燃料電池セルの作動状態における電流の流れを説明するための図である。
【図7】図3に示す支持基板を示す斜視図である。
【図8】図3に示す燃料電池セルの製造過程における第1段階における図4に対応する断面図である。
【図9】図3に示す燃料電池セルの製造過程における第2段階における図4に対応する断面図である。
【図10】図3に示す燃料電池セルの製造過程における第3段階における図4に対応する断面図である。
【図11】図3に示す燃料電池セルの製造過程における第4段階における図4に対応する断面図である。
【図12】図3に示す燃料電池セルの製造過程における第5段階における図4に対応する断面図である。
【図13】図3に示す燃料電池セルの製造過程における第6段階における図4に対応する断面図である。
【図14】図3に示す燃料電池セルの製造過程における第7段階における図4に対応する断面図である。
【図15】図1に示す接合体において、隣接する横縞型SOFCセル間が接続部材によって接合される様子を示した図4に対応する図である。
【図16】図1に示す接合体において、1つの横縞型SOFCセルの両面間が接続部材によって接合される様子を示した図4に対応する図である。
【図17】本発明の実施形態の他の変形例に係る燃料電池セルの図7に対応する斜視図である。
【図18】図17に示した支持基板を採用した燃料電池セルの図2に対応する断面図である。
【図19】図18に示す支持基板の凹部に埋設された燃料極及びインターコネクタの状態を示した平面図である。
【図20】図17に示した支持基板を採用した燃料電池セルの図15に対応する図である。
【図21】図17に示した支持基板を採用した燃料電池セルの図16に対応する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は、本発明の実施形態に係る「SOFCの発電部間を電気的に接続する接合体」の一例を示す。図1に示す例では、固定部材200を利用して、多数の板状のSOFCセル100が所定間隔を空けて平行に整列するように固定配置されている。本発明の実施形態に係る「接合体」の一例としては、接合箇所A(図1を参照)にて「隣接する横縞型SOFCセル100間を接続部材300によって接合する接合体」、並びに、接合箇所B(図1を参照)にて「1つの横縞型SOFCセル100の両面間を接続部材(金属バンド)400によって接合する接合体」が挙げられる。接続部材300の全体形状の一例は図2に示すとおりである。以下、図1に示した各SOFCセル100の詳細について説明していく。
【0018】
(SOFCセルの構成)
図3は、図1に示したSOFCセル100の全体を示す。このSOFCセルは、長手方向を有する平板状の支持基板10の上下面(互いに平行な両側の主面(平面))のそれぞれに、電気的に直列に接続された複数(本例では、4つ)の同形の発電素子部Aが長手方向において所定の間隔をおいて配置された、所謂「横縞型」と呼ばれる構成を有する。
【0019】
このSOFCセルの全体を上方からみた形状は、例えば、長手方向の辺の長さが5〜50cmで長手方向に直交する幅方向の長さが1〜10cmの長方形である。このSOFCセルの全体の厚さは、1〜5mmである。このSOFCセルの全体は、厚さ方向の中心を通り且つ支持基板10の主面に平行な面に対して上下対称の形状を有することが好ましいが、この限りでない。以下、図3加えて、このSOFCセルの図3に示す4−4線に対応する部分断面図である図4を参照しながら、このSOFCセルの詳細について説明する。図4は、代表的な1組の隣り合う発電素子部A,Aのそれぞれの構成(の一部)、並びに、発電素子部A,A間の構成を示す部分断面図である。その他の組の隣り合う発電素子部A,A間の構成も、図4に示す構成と同様である。
【0020】
支持基板10は、電子伝導性を有さない多孔質の材料からなる平板状の焼成体である。支持基板10の側端部は、外側に(幅方向に)凸となる曲面状を呈している。支持基板10の内部には、長手方向に延びる複数(本例では、6本)の燃料ガス流路11(貫通孔)が幅方向において所定の間隔をおいて形成されている。
【0021】
支持基板10は、例えば、CSZ(カルシア安定化ジルコニア)から構成され得る。或いは、NiO(酸化ニッケル)とYSZ(8YSZ)(イットリア安定化ジルコニア)とから構成されてもよいし、NiO(酸化ニッケル)とY(イットリア)とから構成されてもよいし、MgO(酸化マグネシウム)とMgAl(マグネシアアルミナスピネル)とから構成されてもよい。支持基板10の厚さは、1〜5mmである。以下、説明の簡便化のため、支持基板10の上面側の構成についてのみ説明していく。支持基板10の下面側の構成についても同様である。
【0022】
図4に示すように、支持基板10の上面(上側の主面)の上には、直方体状の燃料極20が設けられている。燃料極20は、電子伝導性を有する多孔質の材料からなる焼成体である。燃料極20は、具体的には、後述する固体電解質膜40に接する燃料極活性部と、燃料極活性部以外の残りの部分である燃料極集電部とから構成され得る。燃料極活性部を上方からみた形状は、燃料極集電部が存在する範囲に亘って幅方向に延びる長方形である。
【0023】
燃料極活性部は、例えば、酸化ニッケルNiOとイットリア安定化ジルコニアYSZ(8YSZ)とから構成され得る。或いは、酸化ニッケルNiOとガドリニウムドープセリアGDCとから構成されてもよい。燃料極集電部は、例えば、酸化ニッケルNiOとイットリア安定化ジルコニアYSZ(8YSZ)とから構成され得る。或いは、酸化ニッケルNiOとイットリアYとから構成されてもよいし、酸化ニッケルNiOとカルシア安定化ジルコニアCSZとから構成されてもよい。燃料極活性部の厚さは、5〜30μmであり、燃料極集電部の厚さは、50〜500μmである。
【0024】
このように、燃料極集電部は、電子伝導性を有する物質を含んで構成される。燃料極活性部は、電子伝導性を有する物質と酸素イオン伝導性を有する物質とを含んで構成される。燃料極活性部における「気孔部分を除いた全体積に対する酸素イオン伝導性を有する物質の体積割合」は、燃料極集電部における「気孔部分を除いた全体積に対する酸素イオン伝導性を有する物質の体積割合」よりも大きい。
【0025】
各燃料極20(より具体的には、各燃料極集電部)の上面の所定箇所には、インターコネクタ30が形成されている。インターコネクタ30は、電子伝導性を有する緻密な導電性セラミックス材料からなる焼成体である。インターコネクタ30を上方からみた形状は、燃料極20が存在する範囲に亘って幅方向に延びる長方形である。インターコネクタ30の厚さは、10〜100μmである。
【0026】
インターコネクタ30は、例えば、ランタンクロマイト(LC)から構成され得る。ランタンクロマイトの化学式は、La1−xCr1−y−z(ただし、A:Ca,Sr,Baから選択される少なくとも1種類の元素、B:Co,Ni,Mg,Alから選択される少なくとも1種類の元素、0.05≦x≦0.2、0.02≦y≦0.22、0≦z≦0.05)で表わされる。
【0027】
或いは、インターコネクタ30は、チタン酸化物から構成され得る。チタン酸化物の化学式は、(A1−x,B1−z(Ti1−y,D)O(ただし、A:アルカリ土類元素から選択される少なくとも1種類の元素、B:Sc,Y,及びランタノイド元素から選択される少なくとも1種類の元素、D:第4周期、第5周期、第6周期の遷移金属、及びAl,Si,Zn,Ga,Ge,Sn,Sb,Pb,Biから選択される少なくとも1種類の元素、0≦x≦0.5、0≦y≦0.5、−0.05≦z≦0.05)で表わされる。この場合、(Sr,La)TiO(ストロンチウムチタネート)から構成され得る。
【0028】
このように、インターコネクタ30の材質としてランタンクロマイトLCやストロンチウムチタネート(Sr,La)TiOが使用されるのは、インターコネクタ(端子電極)30の一端(内側)が還元雰囲気に曝され且つ他端(外側)が酸化雰囲気に曝されることに基づく。酸化・還元の両雰囲気で安定な導電性セラミックスとしては、現状では、LCと(Sr,La)TiOが優れている。
【0029】
複数の燃料極20が設けられた状態の支持基板10における長手方向に延びる外周面において複数のインターコネクタ30が形成された部分を除いた全面は、固体電解質膜40により覆われている。固体電解質膜40は、イオン伝導性を有し且つ電子伝導性を有さない緻密な材料からなる焼成体である。固体電解質膜40は、例えば、Y(イットリア)を含有したYSZ(イットリア安定化ジルコニア)から構成され得る。或いは、LSGM(ランタンガレート)から構成されてもよい。固体電解質膜40の厚さは、3〜50μmである。
【0030】
即ち、複数の燃料極20が設けられた状態の支持基板10における長手方向に延びる外周面の全面は、インターコネクタ30と固体電解質膜40とからなる緻密層により覆われている。この緻密層は、緻密層の内側の空間を流れる燃料ガスと緻密層の外側の空間を流れる空気との混合を防止するガスシール機能を発揮する。ここで、緻密材料からなる「インターコネクタ30及び固体電解質膜40」は、「ガスシール部」と呼ぶことができる。
【0031】
固体電解質膜40における各燃料極活性部と接している箇所の上面には、反応防止膜50を介して空気極60が形成されている。反応防止膜50は、緻密な材料からなる焼成体であり、空気極60は、電子伝導性とイオン伝導性を有する多孔質の材料からなる焼成体である。反応防止膜50及び空気極60を上方からみた形状は、燃料極活性部と略同一の長方形である。
【0032】
反応防止膜50は、例えば、GDC=(Ce,Gd)O(ガドリニウムドープセリア)から構成され得る。反応防止膜50の厚さは、3〜50μmである。空気極60は、例えば、LSCF=(La,Sr)(Co,Fe)O(ランタンストロンチウムコバルトフェライト)から構成され得る。或いは、LSF=(La,Sr)FeO(ランタンストロンチウムフェライト)、LNF=La(Ni,Fe)O(ランタンニッケルフェライト)、LSC=(La,Sr)CoO(ランタンストロンチウムコバルタイト)等から構成されてもよい。また、空気極60は、LSCFからなる第1層(内側層)とLSCからなる第2層(外側層)との2層によって構成されてもよい。空気極60の厚さは、10〜100μmである。
【0033】
なお、反応防止膜50が介装されるのは、SOFC作製時又は作動中のSOFC内において固体電解質膜40内のYSZと空気極60内のSrとが反応して固体電解質膜40と空気極60との界面に電気抵抗が大きい反応層が形成される現象の発生を抑制するためである。
【0034】
ここで、燃料極20と、固体電解質膜40と、反応防止膜50と、空気極60とが積層されてなる積層体が、「発電素子部A」に対応する(図4を参照)。即ち、支持基板10の上面には、複数(本例では、4つ)の発電素子部Aが、長手方向において所定の間隔をおいて配置されている。
【0035】
各組の隣り合う発電素子部A,Aについて、一方の(図4では、左側の)発電素子部Aの空気極60と、他方の(図4では、右側の)発電素子部Aのインターコネクタ30とを跨ぐように、空気極60、固体電解質膜40、及び、インターコネクタ30の上面に、空気極集電膜70が形成されている。空気極集電膜70は、電子伝導性を有する多孔質の材料からなる焼成体である。空気極集電膜70を上方からみた形状は、長方形である。
【0036】
空気極集電膜70は、例えば、LSCF=(La,Sr)(Co,Fe)O(ランタンストロンチウムコバルトフェライト)から構成され得る。或いは、LSC=(La,Sr)CoO(ランタンストロンチウムコバルタイト)から構成されてもよい。或いは、Ag(銀)、Ag−Pd(銀パラジウム合金)から構成されてもよい。空気極集電膜70の厚さは、50〜500μmである。
【0037】
このように各空気極集電膜70が形成されることにより、各組の隣り合う発電素子部A,Aについて、一方の(図4では、左側の)発電素子部Aの空気極60と、他方の(図4では、右側の)発電素子部Aの燃料極20(特に、燃料極集電部)とが、電子伝導性を有する「空気極集電膜70及びインターコネクタ30」を介して電気的に接続される。この結果、支持基板10の上面に配置されている複数(本例では、4つ)の発電素子部Aが電気的に直列に接続される。ここで、電子伝導性を有する「空気極集電膜70及びインターコネクタ30」は、「電気的接続部」と呼ぶことができる。
【0038】
以上、説明した「横縞型」のSOFCセルに対して、図5に示すように、支持基板10の燃料ガス流路11内に燃料ガス(水素ガス等)を流すとともに、支持基板10の上下面(特に、各空気極集電膜70)を「酸素を含むガス」(空気等)に曝す(或いは、支持基板10の上下面に沿って酸素を含むガスを流す)ことにより、固体電解質膜40の両側面間に生じる酸素分圧差によって起電力が発生する。更に、この構造体を外部の負荷に接続すると、下記(1)、(2)式に示す化学反応が起こり、電流が流れる(発電状態)。
(1/2)・O+2e→O2− (於:空気極60) …(1)
+O2−→HO+2e (於:燃料極20) …(2)
【0039】
発電状態においては、図6に示すように、各組の隣り合う発電素子部A,Aについて、電流が、矢印で示すように流れる。この結果、図5に示すように、このSOFCセル全体から(具体的には、図5において最も手前側の発電素子部Aのインターコネクタ30と最も奥側の発電素子部Aの空気極60とを介して)電力が取り出される。
【0040】
(SOFCセルの製造方法)
次に、図3に示した「横縞型」のSOFCセル100の製造方法の一例について図7〜図14を参照しながら簡単に説明する。図7〜図14において、各部材の符号の末尾の「g」は、その部材が「焼成前」であることを表す。
【0041】
先ず、図7に示す形状を有する支持基板の成形体10gが作製される。この支持基板の成形体10gは、例えば、支持基板10の材料(例えば、CSZ)の粉末にバインダー等が添加されて得られるスラリーを用いて、押し出し成形、切削等の手法を利用して作製され得る。以下、図7に示す支持基板の成形体10gの部分断面を表す図8〜図14を参照しながら説明を続ける。
【0042】
図8に示すように、支持基板の成形体10gが作製されると、次に、図9に示すように、支持基板の成形体10gの上下面の所定位置に、燃料極の成形体20gが形成される。各燃料極の成形体20gは、例えば、燃料極20の材料(例えば、NiとYSZ)の粉末にバインダー等が添加されて得られるスラリーを用いて、印刷法等を利用して形成される。
【0043】
次に、図10に示すように、各燃料極の成形体20gの外側面の所定箇所に、インターコネクタの成形膜30gが形成される。各インターコネクタの成形膜30gは、例えば、インターコネクタ30の材料(例えば、LaCrO)の粉末にバインダー等が添加されて得られるスラリーを用いて、印刷法等を利用して形成される。
【0044】
次に、図11に示すように、複数の燃料極の成形体20gが形成された状態の支持基板の成形体10gにおける長手方向に延びる外周面において複数のインターコネクタの成形体30gが形成された部分を除いた全面(支持基板の成形体10gの側端部の表面を含む)に、固体電解質膜の成形膜40gが形成される。固体電解質膜の成形膜40gは、例えば、固体電解質膜40の材料(例えば、YSZ)の粉末にバインダー等が添加されて得られるスラリーを用いて、印刷法、ディッピング法等を利用して形成される。
【0045】
次に、図12に示すように、固体電解質膜の成形体40gにおける各燃料極の成形体20gと接している箇所の外側面に、反応防止膜の成形膜50gが形成される。各反応防止膜の成形膜50gは、例えば、反応防止膜50の材料(例えば、GDC)の粉末にバインダー等が添加されて得られるスラリーを用いて、印刷法等を利用して形成される。
【0046】
そして、このように種々の成形膜が形成された状態の支持基板の成形体10gが、空気中にて1400〜1500℃で1〜20時間焼成される。これにより、図3に示したSOFCセルにおいて空気極60及び空気極集電膜70が形成されていない状態の構造体が得られる。
【0047】
次に、図13に示すように、各反応防止膜50の外側面に、空気極の成形膜60gが形成される。各空気極の成形膜60gは、例えば、空気極60の材料(例えば、LSCF)の粉末にバインダー等が添加されて得られるスラリーを用いて、印刷法等を利用して形成される。
【0048】
次に、図14に示すように、各組の隣り合う発電素子部について、一方の発電素子部の空気極の成形膜60gと、他方の発電素子部のインターコネクタ30とを跨ぐように、空気極の成形膜60g、固体電解質膜40、及び、インターコネクタ30の外側面に、空気極集電膜の成形膜70gが形成される。各空気極集電膜の成形膜70gは、例えば、空気極集電膜70の材料(例えば、LSCF)の粉末にバインダー等が添加されて得られるスラリーを用いて、印刷法等を利用して形成される。
【0049】
そして、このように成形膜60g、70gが形成された状態の支持基板10が、空気中にて900〜1100℃で1〜20時間焼成される。空気極60は、燃料極20より低い温度で焼成される。これにより、図3に示したSOFCセルが得られる。以上、図3に示したSOFCセル100の製造方法の一例について説明した。
【0050】
(接合体の構成、並びに、作用・効果)
次に、図1に示した本発明の実施形態に係る「接合体」の詳細な構成について説明する。図1に示すように、固定部材によって整列配置された複数のSOFCセル100において、接合箇所A(図1を参照)では図15に示す接合体が形成され、接合箇所B(図1を参照)では図16に示す接合体が形成されている。図15、図16において、図3に示す部材と同じ或いは等価な部材については、図3と同じ符号が付されている。
【0051】
図15に示すように、接合箇所Aでは、隣接する2つの横縞型SOFCセル100、100間が、接続部材300(全体形状は図2を参照)によって接合されている。具体的には、図15では、「接続部材300の左側端部」と、「左側のSOFCセル100に設けられた空気極60と(空気極集電膜70、インターコネクタ30、燃料極20(より正確には、燃料極20と同じ材質からなる導電性セラミックス)を介して)電気的に接続されたインターコネクタ30」とが、接合材80を用いて電気的に接続するように接合されている。
【0052】
同様に、図15では、「接続部材300の右側端部」と、「右側のSOFCセル100に設けられた燃料極20と電気的に接続されたインターコネクタ30」とが、接合材80を用いて電気的に接続するように接合されている。この構成によって、隣接する2つの横縞型SOFCセル100、100間が電気的に直列に接続される。この結果、高い出力電圧を得ることができる。
【0053】
ここで、接続部材300は、例えば、日立金属(株)製のZMG232L等のFe、Crを主成分とするステンレス系材料(SUS材料)に代表される緻密な金属材料によって構成されている。なお、接続部材300の表面に耐酸化コーティング膜として、MnCoからなるコーティング膜(厚さ:3〜30μm)を設けてもよい。また、接合材80を用いて接続部材300の両側端部と接合されるインターコネクタ30、30は共に、上述したランタンクロマイトLC、或いはストロンチウムチタネート(Sr,La)TiO等の緻密な導電性セラミックスによって構成されている。インターコネクタ30、30の材料の気孔率は15%以下、好ましくは10%以下、更に好ましくは7%以下である。接合材80は、MnCo等の導電性セラミックス材料からなる。接合材80は、焼成によって形成され、接合材80の焼成温度は、例えば、800〜1000℃である。
【0054】
このように、図1に示す接合箇所Aでは、接合材80によって金属製の接続部材300の両端部のそれぞれと接合されるインターコネクタ30、30が、共に緻密な導電性セラミックス材料からなる。従って、接合箇所Aでは、接続部材300とインターコネクタ30、30との間の接合強度が高く且つ電気的接続の信頼性が高い接合体が得られる。
【0055】
加えて、接続部材300の両側端部のそれぞれと接合されるインターコネクタ30、30は共に、燃料極20(或いは、燃料極20と同じ材質からなる導電性セラミックス)に接合されている。従って、インターコネクタ30、30の一方が空気極60に直接接合される場合に比して、支持基板10に対するインターコネクタ30、30の接合強度を高めることができる。これは、空気極60(セラミック焼成体)が燃料極20(或いは、燃料極20と同じ材質からなる導電性セラミックス。セラミック焼成体)より低い温度で焼成されることに起因して、空気極60が燃料極20(或いは、燃料極20と同じ材質からなる導電性セラミックス)より脆くなることに基づく。
【0056】
上記インターコネクタ30、30は、接続部材300を介さずに接合材80を用いて直接接合されてもよい。これによっても、上記インターコネクタ30、30間の接合強度が高く且つ電気的接続の信頼性が高い接合体が得られる。
【0057】
一方、図16に示すように、接合箇所Bでは、1つの横縞型SOFCセル100の両面間が、接続部材400(セル100の周囲に巻き付けられた金属バンド)によって接合されている。具体的には、図16では、「接続部材400の一部」と、「1つのSOFCセル100の左側面に設けられた燃料極20と電気的に接続されたインターコネクタ30」とが、接合材80を用いて電気的に接続するように接合されている。
【0058】
同様に、図16では、「接続部材400の他の一部」と、「1つのSOFCセル100の右側面に設けられた空気極60と(空気極集電膜70、インターコネクタ30、燃料極20(より正確には、燃料極20と同じ材質からなる導電性セラミックス)を介して)電気的に接続されたインターコネクタ30」とが、接合材80を用いて電気的に接続するように接合されている。この構成によって、1つの横縞型SOFCセル100の両面間が電気的に直列に接続される。この結果、高い出力電圧を得ることができる。
【0059】
ここで、接続部材(金属バンド)400は、接続部材300と同様、例えば、日立金属(株)製のZMG232L等のFe、Crを主成分とするステンレス系材料(SUS材料)に代表される緻密な金属材料によって構成されている。なお、接続部材400の表面に耐酸化コーティング膜として、MnCoからなるコーティング膜(厚さ:3〜30μm)を設けてもよい。また、接合材80を用いて接続部材400と接合されるインターコネクタ30、30は共に、上述したランタンクロマイトLC、或いはストロンチウムチタネート(Sr,La)TiO等の緻密な導電性セラミックスによって構成されている。ここでも、インターコネクタ30、30の材料の気孔率は15%以下、好ましくは10%以下、更に好ましくは7%以下である。接合材80は、MnCo等の導電性セラミックス材料からなる焼成体であり、その焼成温度は、例えば、800〜1000℃である。
【0060】
このように、図1に示す接合箇所Bでも、接合材80によって金属製の接続部材400と接合されるインターコネクタ30、30が、共に緻密な導電性セラミックス材料からなる。従って、接合箇所Bでも、上述した接合箇所Aと同様、接続部材400とインターコネクタ30、30との間の接合強度が高く且つ電気的接続の信頼性が高い接合体が得られる。
【0061】
加えて、接続部材400と接合されるインターコネクタ30、30は共に、燃料極20(或いは、燃料極20と同じ材質からなる導電性セラミックス)に接合されている。従って、図15に示す場合と同様の理由により、インターコネクタ30、30の一方が空気極60に直接接合される場合に比して、支持基板10に対するインターコネクタ30、30の接合強度を高めることができる。
【0062】
なお、上記インターコネクタ30、30が、接続部材400を介さずに接合材80を用いて直接接合されてもよい。これによっても、上記インターコネクタ30、30間の接合強度が高く且つ電気的接続の信頼性が高い接合体が得られる。
【0063】
なお、本例では、膜の気孔率は、以下のように測定された。先ず、膜の気孔内に樹脂が進入するようにその膜に対して所謂「樹脂埋め」処理がなされた。その「樹脂埋め」処理された膜の表面に対して機械研磨がなされた。機械研磨された表面の微構造を走査型電子顕微鏡を用いて観察して得られた画像に対して画像処理を行うことによって、気孔の部分(樹脂が進入している部分)と気孔でない部分(樹脂が進入していない部分)の面積がそれぞれ算出された。その比率が膜の気孔率とされた。
【0064】
なお、本発明は上記実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、上記実施形態では、「接合体」によって接合される対象となるSOFCセルとして「横縞型」のSOFCセル(1つのセルに複数の発電部が設けられたセル)が採用されているが、「接合体」によって接合される対象となるSOFCセルとして「縦縞型」のSOFCセルが採用されてもよい。「縦縞型」のSOFCセルは、複数のSOFCセル(1つのセルに1つの発電部が設けられたセル)がセルの厚さ方向に積層されたスタック構造を有する。
【0065】
また、上記実施形態では、「接合体」によって接合される対象となるSOFCセルにおいて、平板状の支持基板10の外側面上(平面上)に燃料極20が形成(積層)され且つ燃料極20の外側面上(平面上)にインターコネクタ30が形成(積層)されているが、図17〜図19に示すように、燃料極20が支持基板10の外側面に形成された凹部(図17を参照)内に埋設され且つインターコネクタ30が燃料極20の外側面に形成された凹部内に埋設されていてもよい。以下、上記実施形態に使用されているSOFCセルに対する、図17〜図19に示すSOFCセルの主たる相違点について簡単に説明する。
【0066】
図17〜図19に示す形態では、支持基板10の主面(上下面)には、複数の凹部12が長手方向において所定の間隔をおいて形成されている。各凹部12は、支持基板10の材料からなる底壁と、全周に亘って支持基板10の材料からなる周方向に閉じた側壁(長手方向に沿う2つの側壁と幅方向に沿う2つの側壁)と、で画定された直方体状の窪みである。各凹部12には、燃料極集電部21の全体が埋設(充填)されている。従って、各燃料極集電部21は直方体状を呈している。
【0067】
各燃料極集電部21の上面(外側面)には、凹部21aが形成されている。各凹部21aは、燃料極集電部21の材料からなる底壁と、周方向に閉じた側壁(長手方向に沿う2つの側壁と幅方向に沿う2つの側壁)と、で画定された直方体状の窪みである。周方向に閉じた側壁のうち、長手方向に沿う2つの側壁は支持基板10の材料からなり、幅方向に沿う2つの側壁は燃料極集電部21の材料からなる。
【0068】
各凹部21aには、燃料極活性部22の全体が埋設(充填)されている。従って、各燃料極活性部22は直方体状を呈している。燃料極集電部21と燃料極活性部22とにより燃料極20が構成される。燃料極20(燃料極集電部21+燃料極活性部22)は、電子伝導性を有する多孔質の材料からなる焼成体である。各燃料極活性部22の幅方向に沿う2つの側面と底面とは、凹部21a内で燃料極集電部21と接触している。
【0069】
各燃料極集電部21の上面(外側面)における凹部21aを除いた部分には、凹部21bが形成されている。各凹部21bは、燃料極集電部21の材料からなる底壁と、全周に亘って燃料極集電部21の材料からなる周方向に閉じた側壁(長手方向に沿う2つの側壁と、幅方向に沿う2つの側壁)と、で画定された直方体状の窪みである。
【0070】
各凹部21bには、インターコネクタ30が埋設(充填)されている。従って、各インターコネクタ30は直方体状を呈している。インターコネクタ30は、電子伝導性を有する緻密な材料からなる焼成体である。各インターコネクタ30の4つの側壁(長手方向に沿う2つの側壁と、幅方向に沿う2つの側壁)と底面とは、凹部21b内で燃料極集電部21と接触している。
【0071】
燃料極20(燃料極集電部21及び燃料極活性部22)の上面(外側面)と、インターコネクタ30の上面(外側面)と、支持基板10の主面とにより、1つの平面(凹部12が形成されていない場合の支持基板10の主面と同じ平面)が構成されている。即ち、燃料極20の上面とインターコネクタ30の上面と支持基板10の主面との間で、段差が形成されていない。
【0072】
燃料極活性部22は、例えば、NiO(酸化ニッケル)とYSZ(8YSZ)(イットリア安定化ジルコニア)とから構成され得る。或いは、NiO(酸化ニッケル)とGDC(ガドリニウムドープセリア)とから構成されてもよい。燃料極集電部21は、例えば、NiO(酸化ニッケル)とYSZ(8YSZ)(イットリア安定化ジルコニア)とから構成され得る。或いは、NiO(酸化ニッケル)とY(イットリア)とから構成されてもよいし、NiO(酸化ニッケル)とCSZ(カルシア安定化ジルコニア)とから構成されてもよい。燃料極活性部22の厚さは、5〜30μmであり、燃料極集電部21の厚さ(即ち、凹部12の深さ)は、50〜500μmである。
【0073】
このように、燃料極集電部21は、電子伝導性を有する物質を含んで構成される。燃料極活性部22は、電子伝導性を有する物質と酸素イオン伝導性を有する物質とを含んで構成される。燃料極活性部22における「気孔部分を除いた全体積に対する酸素イオン伝導性を有する物質の体積割合」は、燃料極集電部21における「気孔部分を除いた全体積に対する酸素イオン伝導性を有する物質の体積割合」よりも大きい。
【0074】
インターコネクタ30は、例えば、LaCrO(ランタンクロマイト)から構成され得る。或いは、(Sr,La)TiO(ストロンチウムチタネート)から構成されてもよい。インターコネクタ30の厚さは、10〜100μmである。
【0075】
燃料極20及びインターコネクタ30がそれぞれの凹部12に埋設された状態の支持基板10における長手方向に延びる外周面において複数のインターコネクタ30が形成されたそれぞれの部分の長手方向中央部を除いた全面は、固体電解質膜40により覆われている。固体電解質膜40は、イオン伝導性を有し且つ電子伝導性を有さない緻密な材料からなる焼成体である。固体電解質膜40は、例えば、YSZ(8YSZ)(イットリア安定化ジルコニア)から構成され得る。或いは、LSGM(ランタンガレート)から構成されてもよい。固体電解質膜40の厚さは、3〜50μmである。
【0076】
即ち、燃料極20がそれぞれの凹部12に埋設された状態の支持基板10における長手方向に延びる外周面の全面は、インターコネクタ30と固体電解質膜40とからなる緻密層により覆われている。この緻密層は、緻密層の内側の空間を流れる燃料ガスと緻密層の外側の空間を流れる空気との混合を防止するガスシール機能を発揮する。
【0077】
図18に示すように、この例では、固体電解質膜40が、燃料極20の上面、インターコネクタ30の上面における長手方向の両側端部、及び支持基板10の主面を覆っている。ここで、上述したように、燃料極20の上面とインターコネクタ30の上面と支持基板10の主面との間で段差が形成されていない。従って、固体電解質膜40が平坦化されている。この結果、固体電解質膜40に段差が形成される場合に比して、応力集中に起因する固体電解質膜40でのクラックの発生が抑制され得、固体電解質膜40が有するガスシール機能の低下が抑制され得る。
【0078】
固体電解質膜40における各燃料極活性部22と接している箇所の上面には、反応防止膜50を介して空気極60が形成されている。反応防止膜50は、緻密な材料からなる焼成体であり、空気極60は、電子伝導性を有する多孔質の材料からなる焼成体である。反応防止膜50及び空気極60を上方からみた形状は、燃料極活性部22と略同一の長方形である。
【0079】
反応防止膜50は、例えば、GDC=(Ce,Gd)O(ガドリニウムドープセリア)から構成され得る。反応防止膜50の厚さは、3〜50μmである。空気極60は、例えば、LSCF=(La,Sr)(Co,Fe)O(ランタンストロンチウムコバルトフェライト)から構成され得る。或いは、LSF=(La,Sr)FeO(ランタンストロンチウムフェライト)、LNF=La(Ni,Fe)O(ランタンニッケルフェライト)、LSC=(La,Sr)CoO(ランタンストロンチウムコバルタイト)等から構成されてもよい。また、空気極60は、LSCFからなる第1層(内側層)とLSCからなる第2層(外側層)との2層によって構成されてもよい。空気極60の厚さは、10〜100μmである。
【0080】
なお、反応防止膜50が介装されるのは、SOFC作製時又は作動中のSOFC内において固体電解質膜40内のYSZと空気極60内のSrとが反応して固体電解質膜40と空気極60との界面に電気抵抗が大きい反応層が形成される現象の発生を抑制するためである。
【0081】
ここで、燃料極20と、固体電解質膜40と、反応防止膜50と、空気極60とが積層されてなる積層体が、「発電素子部A」に対応する(図18を参照)。即ち、支持基板10の上面には、複数(本例では、4つ)の発電素子部Aが、長手方向において所定の間隔をおいて配置されている。
【0082】
各組の隣り合う発電素子部A,Aについて、一方の(図18では、左側の)発電素子部Aの空気極60と、他方の(図18では、右側の)発電素子部Aのインターコネクタ30とを跨ぐように、空気極60、固体電解質膜40、及び、インターコネクタ30の上面に、空気極集電膜70が形成されている。空気極集電膜70は、電子伝導性を有する多孔質の材料からなる焼成体である。空気極集電膜70を上方からみた形状は、長方形である。
【0083】
空気極集電膜70は、例えば、LSCF=(La,Sr)(Co,Fe)O(ランタンストロンチウムコバルトフェライト)から構成され得る。或いは、LSC=(La,Sr)CoO(ランタンストロンチウムコバルタイト)から構成されてもよい。或いは、Ag(銀)、Ag−Pd(銀パラジウム合金)から構成されてもよい。空気極集電膜70の厚さは、50〜500μmである。
【0084】
このように各空気極集電膜70が形成されることにより、各組の隣り合う発電素子部A,Aについて、一方の(図18では、左側の)発電素子部Aの空気極60と、他方の(図18では、右側の)発電素子部Aの燃料極20(特に、燃料極集電部21)とが、電子伝導性を有する「空気極集電膜70及びインターコネクタ30」を介して電気的に接続される。この結果、支持基板10の上面に配置されている複数(本例では、4つ)の発電素子部Aが電気的に直列に接続される。ここで、電子伝導性を有する「空気極集電膜70及びインターコネクタ30」が、前記「電気的接続部」に対応する。
【0085】
なお、インターコネクタ30は、前記「電気的接続部」における前記「緻密な材料で構成された第1部分」に対応し、気孔率は10%以下である。空気極集電膜70は、前記「電気的接続部」における前記「多孔質の材料で構成された第2部分」に対応し、気孔率は20〜60%である。
【0086】
以上、図17〜図19に示すSOFCセルでは、燃料極20を埋設するための複数の凹部12のそれぞれが、全周に亘って支持基板10の材料からなる周方向に閉じた側壁を有している。換言すれば、支持基板10において各凹部12を囲む枠体がそれぞれ形成されている。従って、この構造体は、支持基板10が外力を受けた場合に変形し難い。
【0087】
また、支持基板10の各凹部12内に燃料極20及びインターコネクタ30等の部材が隙間なく充填・埋設された状態で、支持基板10と前記埋設された部材とが共焼結される。従って、部材間の接合性が高く且つ信頼性の高い焼結体が得られる。
【0088】
また、インターコネクタ30が、燃料極集電部21の外側面に形成された凹部21bに埋設され、この結果、直方体状のインターコネクタ30の4つの側壁(長手方向に沿う2つの側壁と、幅方向に沿う2つの側壁)と底面とが凹部21b内で燃料極集電部21と接触している。従って、燃料極集電部21の外側平面上に直方体状のインターコネクタ30が積層される(接触する)構成が採用される場合に比べて、燃料極20(集電部21)とインターコネクタ30との界面の面積を大きくできる。従って、燃料極20とインターコネクタ30との間における電子伝導性を高めることができ、この結果、燃料電池の発電出力を高めることができる。
【0089】
また、平板状の支持基板10の上下面のそれぞれに、複数の発電素子部Aが設けられている。これにより、支持基板の片側面のみに複数の発電素子部が設けられる場合に比して、構造体中における発電素子部の数を多くでき、燃料電池の発電出力を高めることができる。
【0090】
加えて、固体電解質膜40が、燃料極20の外側面、インターコネクタ30の外側面における長手方向の両側端部、及び支持基板10の主面を覆っている。ここで、燃料極20の外側面とインターコネクタ30の外側面と支持基板10の主面との間で段差が形成されていない。従って、固体電解質膜40が平坦化されている。この結果、固体電解質膜40に段差が形成される場合に比して、応力集中に起因する固体電解質膜40でのクラックの発生が抑制され得、固体電解質膜40が有するガスシール機能の低下が抑制され得る。
【0091】
図20は、図17〜図19に示す隣接する2つのSOFCセル100、100間が、接合箇所Aにて接続部材300(全体形状は図2を参照)によって接合されてなる「接合体」を示す図15に対応する図である。この「接合体」に使用される接続部材300、インターコネクタ30、30、及び接合材80の材質等は、上述した図15に示す構成の場合と同じである。従って、図20に示す「接合体」は、上述した図15に示す「接合体」の作用・効果と同じ作用・効果を奏し得る。
【0092】
同様に、図21は、図17〜図19に示す1つのSOFCセル100の両面間が、接合箇所Bにて接続部材400(セル100の周囲に巻き付けられた金属バンド)によって接合されてなる「接合体」を示す図16に対応する図である。この「接合体」に使用される接続部材400、インターコネクタ30、30、及び接合材80の材質等は、上述した図16に示す構成の場合と同じである。従って、図21に示す「接合体」も、上述した図16に示す「接合体」の作用・効果と同じ作用・効果を奏し得る。
【符号の説明】
【0093】
10…支持基板、11…燃料ガス流路、12…凹部、20…燃料極、21b…凹部、30…インターコネクタ、40…固体電解質膜、50…反応防止膜、60…空気極、70…空気極集電膜、80…接合材、300…接続部材、400…接続部材、A…発電素子部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料側電極と、電解質膜と、空気側電極とからなる固体酸化物形燃料電池の第1の発電部と、
燃料側電極と、電解質膜と、空気側電極とからなる固体酸化物形燃料電池の第2の発電部と、
前記第1の発電部の前記燃料側電極と電気的に接続され、且つ電子伝導性を有する緻密な導電性セラミックスからなる第1導電部材と、
前記第2の発電部の前記空気側電極と電気的に接続され、且つ電子伝導性を有する緻密な導電性セラミックスからなる第2導電部材と、
を備え、
前記第1導電部材及び前記第2導電部材が電子伝導性を有する接合材を用いて接合されてなる、固体酸化物形燃料電池の発電部間を電気的に接続する接合体であって、
前記第1の発電部及び前記第1導電部材は、固体酸化物形燃料電池セルの支持基板であって燃料ガスを流すための燃料ガス流路が内部に形成された多孔質の板状の支持基板の第1の表面側に設けられ、
前記第2の発電部及び前記第2導電部材は、前記支持基板の前記第1の表面側と反対側の第2の表面側に設けられ、
前記固体酸化物形燃料電池セルの第1表面側と第2表面側との間が前記接合材によって電気的に接続され、
前記第1導電部材は、前記第1の発電部の前記燃料側電極に接合され、
前記第2導電部材は、前記第2の発電部が設けられた前記支持基板に接合された導電性セラミックスであって前記第2の発電部の前記空気側電極と電気的に接続された導電性セラミックスに接合され、
前記空気側電極が前記燃料側電極より低い温度で焼成されてなり、前記空気側電極と電気的に接続された前記導電性セラミックスが前記空気側電極より高い温度で焼成されてなる、接合体。
【請求項2】
燃料側電極と、電解質膜と、空気側電極とからなる固体酸化物形燃料電池の第1の発電部と、
燃料側電極と、電解質膜と、空気側電極とからなる固体酸化物形燃料電池の第2の発電部と、
前記第1の発電部の前記燃料側電極と電気的に接続され、且つ電子伝導性を有する緻密な導電性セラミックスからなる第1導電部材と、
前記第2の発電部の前記空気側電極と電気的に接続され、且つ電子伝導性を有する緻密な導電性セラミックスからなる第2導電部材と、
前記第1導電部材と前記第2導電部材とを電気的に接続するための金属からなる接続部材と、
を備え、
前記接続部材及び前記第1導電部材、並びに、前記接続部材及び前記第2導電部材が電子伝導性を有する接合材を用いてそれぞれ接合されてなる、固体酸化物形燃料電池の発電部間を電気的に接続する接合体であって、
前記第1の発電部及び前記第1導電部材は、固体酸化物形燃料電池セルの支持基板であって燃料ガスを流すための燃料ガス流路が内部に形成された多孔質の板状の支持基板の第1の表面側に設けられ、
前記第2の発電部及び前記第2導電部材は、前記支持基板の前記第1の表面側と反対側の第2の表面側に設けられ、
前記固体酸化物形燃料電池セルの第1表面側と第2表面側との間が前記接続部材によって電気的に接続され、
前記第1導電部材は、前記第1の発電部の前記燃料側電極に接合され、
前記第2導電部材は、前記第2の発電部が設けられた前記支持基板に接合された導電性セラミックスであって前記第2の発電部の前記空気側電極と電気的に接続された導電性セラミックスに接合され、
前記空気側電極が前記燃料側電極より低い温度で焼成されてなり、前記空気側電極と電気的に接続された前記導電性セラミックスが前記空気側電極より高い温度で焼成されてなる、接合体。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の接合体において、
前記空気側電極と電気的に接続された前記導電性セラミックスは、前記燃料側電極と同じ材質からなる、接合体。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れか一項に記載の接合体において、
前記第1、第2導電部材を構成する導電性セラミックスの気孔率は15%以下である、接合体。
【請求項5】
請求項4に記載の接合体において、
前記第1、第2導電部材を構成する導電性セラミックスは、
化学式La1−xCr1−y−z(ただし、A:Ca,Sr,Baから選択される少なくとも1種類の元素、B:Co,Ni,Mg,Alから選択される少なくとも1種類の元素、0.05≦x≦0.2、0.02≦y≦0.22、0≦z≦0.05)で表わされるランタンクロマイトである、接合体。
【請求項6】
請求項4に記載の接合体において、
前記第1、第2導電部材を構成する導電性セラミックスは、
化学式(A1−x,B1−z(Ti1−y,D)O(ただし、A:アルカリ土類元素から選択される少なくとも1種類の元素、B:Sc,Y,及びランタノイド元素から選択される少なくとも1種類の元素、D:第4周期、第5周期、第6周期の遷移金属、及びAl,Si,Zn,Ga,Ge,Sn,Sb,Pb,Biから選択される少なくとも1種類の元素、0≦x≦0.5、0≦y≦0.5、−0.05≦z≦0.05)で表わされるチタン酸化物である、接合体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2013−77534(P2013−77534A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−268512(P2011−268512)
【出願日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【特許番号】特許第4932964号(P4932964)
【特許公報発行日】平成24年5月16日(2012.5.16)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】