固体酸化物形燃料電池の運転方法
【課題】固体酸化物形燃料電池を運転するときに、酸化ニッケルとジルコニアのサーメットを用いた燃料極に、十分な導電性が得られる状態とする。
【解決手段】まず、発電初期の電池起動段階で、固体酸化物形燃料電池を構成する燃料極に、大気または不活性ガスの供給を開始し、燃料極を大気または不活性ガスの雰囲気とする(ステップS101)。次に、大気または不活性ガスの雰囲気とされた燃料極(固体酸化物形燃料電池)の昇温を開始する(ステップS102)。この加熱昇温により、燃料極(固体酸化物形燃料電池)が、還元温度に達したら(ステップS103)、燃料極に対する大気または不活性ガスの供給を停止する(ステップS104)。この後、還元温度の状態で、燃料極に燃料ガスを供給し、燃料極の還元処理を行う。
【解決手段】まず、発電初期の電池起動段階で、固体酸化物形燃料電池を構成する燃料極に、大気または不活性ガスの供給を開始し、燃料極を大気または不活性ガスの雰囲気とする(ステップS101)。次に、大気または不活性ガスの雰囲気とされた燃料極(固体酸化物形燃料電池)の昇温を開始する(ステップS102)。この加熱昇温により、燃料極(固体酸化物形燃料電池)が、還元温度に達したら(ステップS103)、燃料極に対する大気または不活性ガスの供給を停止する(ステップS104)。この後、還元温度の状態で、燃料極に燃料ガスを供給し、燃料極の還元処理を行う。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸化物形燃料電池の運転方法に関し、特に、起動時の運転方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
固体酸化物形燃料電池は、他の燃料電池より高い電気変換効率・出力密度を有するため、分散電源として積極的に開発が進められている。燃料電池の単セルは、電解質を空気極と燃料極とで挟んだ構造であり、空気極に酸化剤ガス(一般には空気)を供給し、燃料極には水素を主成分とする燃料(一般には、メタンの改質ガス)を供給して発電を行う。
【0003】
固体酸化物形燃料電池では、電解質に固体酸化物のセラミックスを用いるため、十分に高いイオン伝導性を確保するために他の燃料電池より動作温度が高い。一般的な構成材料として、電解質には安定化ジルコニアが用いられ、空気極には希土類を添加したランタンマンガナイトが用いられ、燃料極にはニッケルとジルコニアとを混合したサーメットが用いられている。
【0004】
ところで、初期の固体酸化物形燃料電池の運転温度は、1000℃前後と非常に高温であり、この温度に対応するために、セルの接続にも高価なセラミックス材料を使用する必要があった。これに対し、近年では、セルの接続に用いられる材料に安価な合金を用いることができる、600〜800℃程度の温度で発電する固体酸化物形燃料電池の開発が盛んに行われている(非特許文献1参照)。
【0005】
運転温度の低下は、接続材料の観点以外でも、セル自身の劣化が抑制されるため、電池の長寿命化が得られるようになり望ましい。しかしながら、運転温度の低下は、構成材料の導電性低下を招き、電池性能の低下につながる。このため、運転温度を低下させるためには、低い運転温度においても高い導電性を有する材料の適用が重要となる。
【0006】
また、固体酸化物形燃料電池のセル構造としては、円筒型や平板型などが挙げられるが、セル性能の点から、燃料極を支持体として薄膜電解質を形成した平板型セルの開発が、精力的に進められている(非特許文献2参照)。燃料極支持型のセルでは、セルを構成する層の厚さが、電解質および空気極は数十μm程度であるのに対し、支持体となる燃料極基板は、1〜2μm程度となり、セル全体の大部分を占めることになる。このため、燃料極の特性が、セル特性に大きく影響する。
【0007】
単セルにおいて十分な出力を得るためには、セルサイズを大きくすればよいが、平板型の大面積のセルを、接続部を挟んで直列に積層したスタックとして発電する場合、セルの厚み方向の電流に加え、面内方向の電流も生じることから、電極自身にも集電機能が要求される。このため、燃料極支持型セルの燃料極基板には、運転状態においても高い導電性を示す材料の適用が重要となる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】M.Shibata, et al.,"Development of Intermediate-Temperature SOFC Module and Systems", ECS Transactions ,Vol.7, No.1, pp.77-83,2007
【非特許文献2】D.Ghosh, et al., "STATUS OF DEVELOPMENTS AT GLOBAL THERMOELECTRIC", Electrochemical Society Proceedings, Vol. 2001-16, pp.100-110,2001.
【非特許文献3】村上 修三、他、「固体電解質型燃料電池に関する研究(I)電極性能に及ぼすニッケルアノード中のジルコニア含有量の影響」、電気化学、Vol.59, No.4, pp.320-324, 1990.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ここで、酸化ニッケルとジルコニアのサーメットを燃料極に用いた固体酸化物形燃料電池では、燃料極中に含まれる酸化ニッケルは、発電に先立ってニッケルに還元されることにより、電極として機能する。このため、燃料極の還元処理の後に、上記サーメット中に分散されているニッケル同士の結合が不十分な場合には、電極としての十分な導電性が得られない場合が発生する。
【0010】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、固体酸化物形燃料電池を運転するときに、酸化ニッケルとジルコニアのサーメットを用いた燃料極に、十分な導電性が得られるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る固体酸化物形燃料電池の運転方法は、酸化ニッケルおよびジルコニアのサーメットを用いて作製された燃料極を備える固体酸化物形燃料電池の運転方法において、発電初期の電池起動段階で、燃料極を大気および不活性ガスの少なくとも一方の雰囲気として還元温度にまで昇温する第1ステップと、還元温度になった後に燃料極に燃料ガスを供給して還元温度で燃料極の還元処理を行う第2ステップとを少なくとも備え、還元温度は、サーメットを還元性雰囲気で加熱したときに重量が低下し始める温度より200℃以上高い温度とするようにした方法である。
【0012】
上記固体酸化物形燃料電池の運転方法において、ジルコニアは、スカンジア安定化ジルコニアであり、還元温度は700℃以上である。この場合、第2ステップの後に、運転温度の状態で固体酸化物形燃料電池の発電動作を行う第3ステップを備え、還元温度は、運転温度より高い温度とするとよい。この場合、運転温度は、600〜800℃とすることができる。なお、スカンジア安定化ジルコニアは、酸化アルミニウム,酸化セリウム,酸化イットリウムの中より選択されたものが添加されているものであればよい。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように、本発明によれば、酸化ニッケルおよびジルコニアのサーメットを用いて作製された燃料極に対し、大気および不活性ガスの少なくとも一方の雰囲気として還元温度にまで昇温した後で、燃料ガスを供給して還元処理を行うようにしたので、固体酸化物形燃料電池を運転するときに、酸化ニッケルとジルコニアのサーメットを用いた燃料極に、十分な導電性が得られるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施の形態1における固体酸化物形燃料電池の運転方法を説明するためのフローチャートである。
【図2】固体酸化物形燃料電池の単セルの構成を示す断面図である。
【図3】還元性ガス雰囲気におけけるNiOの熱重量分析の結果を示す特性図である。
【図4】各燃料極試料の還元性ガス雰囲気における熱重量分析の結果を示す特性図である。
【図5】燃料ガスの供給開始温度と各燃料極試料における還元処理後の導電率の状態とを示す特性図である。
【図6】本発明の実施の形態2における固体酸化物形燃料電池の運転方法を説明するためのフローチャートである。
【図7】固体酸化物形燃料電池の単セルの構成を示す断面図である。
【図8】800℃で還元処理した各燃料極試料の、運転温度(800℃)における導電率の経時変化について示す特性図である。
【図9】Ni−SASZにおける還元処理温度と、動作温度との関係について示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。
【0016】
[実施の形態1]
はじめに、本発明の実施の形態1における固体酸化物形燃料電池の運転方法について説明する。本実施の形態における固体酸化物形燃料電池の運転方法は、図1のフローチャートに示すように、まず、発電初期の電池起動段階で、固体酸化物形燃料電池を構成する燃料極に、大気または不活性ガスの供給を開始し、燃料極を大気または不活性ガスの雰囲気とする(ステップS101)。
【0017】
次に、大気または不活性ガスの雰囲気とされた燃料極(固体酸化物形燃料電池)の昇温を開始する(ステップS102)。この加熱昇温により、燃料極(固体酸化物形燃料電池)が、還元温度に達したら(ステップS103)、燃料極に対する大気または不活性ガスの供給を停止する(ステップS104)。還元温度は、サーメットを還元性雰囲気で加熱したときに重量が低下し始める温度より200℃高い温度以上とする。この後、還元温度の状態で、燃料極に燃料ガスを供給し、燃料極の還元処理を行う(ステップS105)。この還元処理では、燃料極を構成している酸化ニッケル(NiO)が還元される。
【0018】
上述した本実施の形態における固体酸化物形燃料電池の運転方法によれば、NiOおよびジルコニアのサーメットを用いて作製された燃料極を備える固体酸化物形燃料電池において、後述するように、燃料極における十分な導電性が得られるようになる。
【0019】
ここで、上述した固体酸化物形燃料電池の単セルの構成について、図2の部分を示す断面図を用いて説明する。固体酸化物形燃料電池は、支持基板となる燃料極201と、燃料極201の上に形成された電解質202と、電解質202の上に形成された空気極203とを備えている。
【0020】
燃料極201は、以下に示すように作製する。まず、平気粒径2〜4μmの酸化ニッケル(NiO)粉末と、平気粒径0.3〜0.6μmのジルコニア粉末とを、6:4の重量比で混合し、これにバインダー,可塑剤,分散剤などを加えてスラリーとする。
【0021】
なお、ジルコニア粉末は、8mol%の酸化イットリウム(Y2O3)で安定化したZrO2(YSZ)であればよい。また、ジルコニア粉末は、Al2O3を少量添加したスカンジア安定化ジルコニア(Zr(Sc,Al2O3)O2:SASZ)であってもよい。以降では、ジルコニアにYSZを用いた燃料極は、Ni−YSZから構成されたものとし、ジルコニアにSASZを用いた燃料極は、Ni−SASZから構成されたものとして記載する。
【0022】
次に、上述したスラリーを、例えばよく知られたドクターブレード法により厚さ1mm程度のシート状に成形し、成形した複数のシートを積層して所定の形状に切断する。次に、このようにして作製した燃料極となる成形体の上に、電解質を構成する原料粉末のスラリー(電解質スラリー)よりなる膜厚10〜15μmの電解質塗布層を形成する。例えば、SASZの粉体(平均粒径0.3〜0.6μm)より電解質スラリーを作製し、これをスクリーン印刷法により上記成形体の上に塗布することで、電解質塗布層が形成できる。
【0023】
次に、上述した成形体および電解質塗布層が形成された積層体を加熱焼成することで、燃料極201の上に電解質202が形成されたハーフセルが得られる。この後、電解質202の上に空気極203を形成することで、固体酸化物形燃料電池の単セルが形成できる。なお、空気極203は、例えば、Bサイトに鉄(Fe)をドープしたLaNi(Fe)O3よりなる平均粒径1μm程度の粉体の焼結体である。このようにして作製した複数の単セルを、よく知られているように、インターコネクタなどの接続部を挟んで直列に積層すれば、固体酸化物形燃料電池のスタックが得られる。
【0024】
次に、本実施の形態における固体酸化物形燃料電池の運転方法により、NiOおよびジルコニアのサーメットを用いて作製された燃料極の導電性向上が図れることについてより詳細に説明する。
【0025】
まず、NiOの還元反応の開始温度について確認するために、還元性ガス雰囲気におけいてNiOの熱重量分析(Thermogravimetric Analysis:TGA)を行う。NiOを還元性ガスの雰囲気に配置し、室温(25℃)から昇温することで行う。この還元性ガス雰囲気のTGでは、図3に示すように、300℃以上になると重量の減少が確認される。このことより、NiOが、還元性の雰囲気では300℃以上の温度で還元されることがわかる。
【0026】
また、図3より、還元性雰囲気における加熱によるNiOの重量変化が、300℃を超えてから一様に変化するのではなく、約420℃を過ぎると重量減少速度が低下し、500℃程度からまた重量減少速度が上昇する傾向が見られる。言い換えると、NiOの還元速度が、約420℃を過ぎると低下し、500℃程度からまた上昇する傾向が見られる。
【0027】
次に、前述した燃料極と同様に作製したNi−YSZの燃料極試料およびNi−SASZの燃料極試料を、還元性ガス雰囲気において、室温から固体酸化物形燃料電池の運転温度(800℃)まで昇温(加熱)し、800℃における各燃料極試料の導電率の測定を行う。導電率の測定は、四端子法で行う。
【0028】
この場合、前述したNiOにおける還元特性の分析結果から考察すれば、各燃料極試料を800℃にまで昇温する過程で、燃料極の還元処理が完了し、800℃に達した時点では、電極(燃料極)として機能する状態のはずである。しかしながら、測定の結果、以下の表1に示すように、Ni−YSZの燃料極試料では、142S/cmと導電性を示すが、Ni−SASZの燃料極試料では、0.03S/cmと、ほとんど導電性を示していない。
【0029】
【表1】
【0030】
次に、還元性ガスの雰囲気における各燃料極試料に対して、前述同様に昇温することで熱重量分析を行う。各燃料極試料の還元性ガス雰囲気におけるTGは、図4に示すように変化する。図4に実線で示すように、Ni−YSZの燃料極試料では、400℃から重量の減少が確認され、400℃からNiOの還元が開始することがわかる。また、Ni−YSZの燃料極試料では、NiOの還元の反応が穏やかに進行していることがわかる。この結果は、NiOとYSZとのサーメットにおける特徴を示しているものである。
【0031】
一方、図4には線で示すように、Ni−SASZの燃料極試料では、約500℃から重量の減少が確認され、500℃からNiOの還元が開始することがわかる。また、Ni−SASZの燃料極試料では、NiOの還元反応が開始されると、この反応が急激に進行することがわかる。これらの結果より、Ni−SASZにおけるNiは、Ni−YSZの場合に比較して還元されにくく、還元するためには、より高温に加熱することが必要であることがわかる。この結果は、NiOとSASZとのサーメットにおける特徴を示しているものである。
【0032】
次に、各燃料極試料に対し、所定の温度に達した時点で還元性ガスを導入して還元処理を開始した場合の、還元性ガス導入温度と導電率との関係について実験を行う。この実験では、設定した温度(還元温度)に達してから各燃料極試料に対する燃料ガスの供給を開始して還元処理を行い、処理をした燃料極試料の導電率を四端子法で測定する。燃料ガスを供給するまでは、大気の雰囲気としておく。また、設定の温度としては、Ni−YSZの燃料極試料については、室温(25℃),600℃,700℃,800℃とする。また、Ni−SASZの燃料極試料については、室温,600℃,700℃,800℃,900℃とする。
【0033】
上述した実験の結果、まず、図5の白四角に示すように、Ni−YSZの燃料極試料では、600℃を超えてから燃料ガスの供給を開始すると、600S/cm程度の高い導電性が得られる。また、図5の黒四角に示すように、Ni−SASZの燃料極試料では、700℃を超えてから燃料ガスの供給を開始すると、200S/cm程度の導電性が得られる。
【0034】
前述したように、初期より燃料ガスを供給する状態、言い換えると、還元性雰囲気で加熱を介した場合、Ni−YSZの燃料極試料では、800℃に加熱しても、142S/cmとあまり高い導電率が得られていない。これに対し、加熱温度が600℃に達してから燃料ガスの供給を開始して還元処理の状態とすることで、上述したようにより高い導電率が得られるようになる。
【0035】
また、還元性雰囲気で加熱を介した場合、Ni−SASZの燃料極試料では、800℃に加熱しても、ほとんど導電性が得られていない。これに対し、加熱温度が700℃に達してから燃料ガスの供給を開始して還元処理の状態とすることで、上述したように導電性が得られるようになる。
【0036】
ここで、Ni−YSZの燃料極試料およびNi−SASZの燃料極試料のいずれにおいても、図4に示した、還元性雰囲気で加熱したときに重量が低下し始める温度より200℃高い温度に達してから燃料ガスの供給を開始することで、より高い導電性が得られていることがわかる。
【0037】
また、初期の昇温段階で、大気ではなく、不活性ガスの雰囲気で行っても、上述同様の効果が得られる。言い換えると、初期の昇温段階では、水素など還元性を備える燃料ガスが存在していない状態で行えばよい。また、上述では、Ni−YSZおよびNi−SASZを用いる場合について説明したが、これに限るものではないことはいうまでもない。上述したように、還元温度に達してから燃料ガスを供給することにより燃料極を還元処理することによる効果は、燃料極に含まれるNiOが還元するときの、図3に示した特性によるものと考えられる。従って、NiOとジルコニアとのサーメットを用いて作製された燃料極を備える固体酸化物形燃料電池であれば、上述した効果が同様に得られるものと考えられる。
【0038】
[実施の形態2]
次に、本発明の実施の形態2における固体酸化物形燃料電池の運転方法について説明する。NiOとジルコニアとのサーメットを用いて作製された燃料極を備える固体酸化物形燃料電池においては、発電動作を開始する初期に十分な導電性が得られる場合においても、燃料電池としての実際の発電においては、長期にわたって高温に晒される燃料極中のニッケルが、経時的に凝集して導電性が低下し、結果として電池の性能を低下させるという問題もある(非特許文献3参照)。本実施の形態2は、この問題を解消するようにしたものである。
【0039】
本実施の形態における固体酸化物形燃料電池の運転方法は、図6のフローチャートに示すように、NiOおよびジルコニアのサーメットを用いて作製された燃料極を備える固体酸化物形燃料電池の発電初期の電池起動段階で、まず、燃料極に燃料ガスを供給して還元処理温度(第1温度)にまで昇温して還元処理を行う(ステップS601)。この還元処理は、前述した実施の形態1と同様に、還元温度に達してから燃料ガスを供給することで行う。
【0040】
次に、還元処理を行った後に、還元温度より低い定常動作温度に降温(低下)させる(ステップS602)。この後、定常動作温度状態で、定常の発電動作を行う(ステップS603)。本実施の形態では、還元処理を定常動作温度より高い温度で行うところに特徴がある。なお、上述したジルコニアは、酸化アルミニウムを添加したスカンジア安定化ジルコニア(SASZ)である。また、定常動作温度は、固体酸化物形燃料電池を発電動作させる温度であり、例えば、600〜800℃である。
【0041】
上述した本実施の形態における固体酸化物形燃料電池の運転方法によれば、NiOおよびSASZのサーメットを用いて作製された燃料極を備える固体酸化物形燃料電池において、後述するように、例えば、長期使用における燃料極におけるNiの凝集などが抑制されるなど、燃料極における導電率の経時変化による低下が抑制できるようになる。
【0042】
ここで、上述した固体酸化物形燃料電池の単セルの構成について、図7に示す断面図を用いて説明する。固体酸化物形燃料電池は、NiOとAl2O3を少量添加したスカンジア安定化ジルコニア(SASZ)とより構成された支持基板となる燃料極701と、燃料極701の上に形成された電解質202と、電解質202の上に形成された空気極203とを備えている。
【0043】
燃料極701は、以下に示すように作製する。まず、平気粒径2〜4μmのNiO(NiO)粉末と、平気粒径0.3〜0.6μmのSASZ粉末とを、6:4の重量比で混合し、これにバインダー,可塑剤,分散剤などを加えてスラリーとする。
【0044】
次に、上述したスラリーを、例えばよく知られたドクターブレード法により厚さ1mm程度のシート状に成形し、成形した複数のシートを積層して所定の形状に切断する。次に、このようにして作製した燃料極となる成形体の上に、電解質を構成する原料粉末のスラリー(電解質スラリー)よりなる膜厚10〜15μmの電解質塗布層を形成する。例えば、SASZの粉体(平均粒径0.3〜0.6μm)より電解質スラリーを作製し、これをスクリーン印刷法により上記成形体の上に塗布することで、電解質塗布層が形成できる。
【0045】
次に、上述した成形体および電解質塗布層が形成された積層体を加熱焼成することで、燃料極701の上に電解質202が形成されたハーフセルが得られる。この後、電解質202の上に空気極203を形成することで、固体酸化物形燃料電池の単セルが形成できる。なお、空気極203は、例えば、Bサイトに鉄(Fe)をドープしたLaNi(Fe)O3よりなる平均粒径1μm程度の粉体の焼結体である。このようにして作製した複数の単セルを、よく知られているように、インターコネクタなどの接続部を挟んで直列に積層すれば、固体酸化物形燃料電池のスタックが得られる。
【0046】
次に、本実施の形態における固体酸化物形燃料電池の運転方法により、NiOおよびSASZのサーメットを用いて作製された燃料極の、長期安定化が図れることについてより詳細に説明する。以下では、NiとYSZとのサーメットを用いて作製した燃料極試料(Ni−YSZ)と、NiとSASZとのサーメットを用いて作製した燃料極試料(Ni−SASZ)について、各条件の処理を加えたときの導電率を四端子法で測定した結果を示す。
【0047】
まず、図8に、800℃で還元処理した各燃料極試料の、運転温度(800℃)における導電率の経時変化について示す。800℃の還元処理は、前述したように、燃料ガスなど還元性ガスを含まない雰囲気で800℃に昇温した後に、燃料ガスを供給することで行う。図8の白丸に示すように、Ni−SASZの導電率は、運転時間が600時間になっても低下していない。これに対し、Ni−YSZの導電率は、時間と共に低下している。このように、800℃で還元処理した場合、Ni−SASZは、経時による導電率の低下が抑制されている。
【0048】
また、600時間経過した後の各燃料極試料の断面を、電子顕微鏡により観察すると、Ni−SASZでは、還元処理を行った直後の初期状態とほとんど同様の微細構造が確認される。これに対し、Ni−YSZでは、Niの凝集体の存在が確認される。このことより、Ni−YSZで測定される上述した導電率の低下は、高温下で時間がたつと、燃料極中のNiが凝集し、燃料極全体に分散していたNi同士の接続が切断されことによるものと考えられる。このようなNiの凝集が、Ni−SASZでは、抑制されるものと考えられる。
【0049】
次に、Ni−SASZにおける還元処理温度と、動作温度との関係について説明する。図9に示すように、いずれの還元温度で処理したNi−SASZにおいても、運転温度が600〜800℃の範囲では、温度(運転温度)が低いほど高い導電率を示している。なお、図9において、黒四角は還元温度を900℃として還元処理をしたNi−SASZ、白四角は還元温度を800℃として還元処理をしたNi−SASZ、アスタリスク「*」は還元温度を700℃として還元処理をしたNi−SASZの結果を示している。
【0050】
また、図4および図9に示す結果からも明らかなように、Ni−SASZは、還元処理温度が高いほど、高い導電率が得られるようになる。これらのことから明らかなように、酸化ニッケルおよびSASZのサーメットを用いて作製された燃料極を備える固体酸化物形燃料電池においては、運転温度より高い温度で燃料極の還元処理をしてから、この還元処理の温度より低い運転温度で発電動作(運転)を行うことで、燃料極におけるより高い導電率が得られるようになる。これは、より低い温度で運転可能であることを示している。図9の結果より、運転温度は、600〜800℃とすればよいことがわかる。また、経時による導電率の低下が、抑制されるようになる。
【0051】
なお、SASZに限らず、酸化セリウムもしくは酸化イットリウムを添加したスカンジア安定化ジルコニアを用いた場合においても、同様である。また、酸化アルミニウム,酸化セリウム,酸化イットリウムなどの金属酸化物が添加されていないスカンジア安定化ジルコニアを用いてもよい。NiOとスカンジア安定化ジルコニアとが同時に存在しているサーメットを用いて燃料極が作製されていることが重要である。
【符号の説明】
【0052】
201…燃料極、202…電解質、203…空気極。
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸化物形燃料電池の運転方法に関し、特に、起動時の運転方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
固体酸化物形燃料電池は、他の燃料電池より高い電気変換効率・出力密度を有するため、分散電源として積極的に開発が進められている。燃料電池の単セルは、電解質を空気極と燃料極とで挟んだ構造であり、空気極に酸化剤ガス(一般には空気)を供給し、燃料極には水素を主成分とする燃料(一般には、メタンの改質ガス)を供給して発電を行う。
【0003】
固体酸化物形燃料電池では、電解質に固体酸化物のセラミックスを用いるため、十分に高いイオン伝導性を確保するために他の燃料電池より動作温度が高い。一般的な構成材料として、電解質には安定化ジルコニアが用いられ、空気極には希土類を添加したランタンマンガナイトが用いられ、燃料極にはニッケルとジルコニアとを混合したサーメットが用いられている。
【0004】
ところで、初期の固体酸化物形燃料電池の運転温度は、1000℃前後と非常に高温であり、この温度に対応するために、セルの接続にも高価なセラミックス材料を使用する必要があった。これに対し、近年では、セルの接続に用いられる材料に安価な合金を用いることができる、600〜800℃程度の温度で発電する固体酸化物形燃料電池の開発が盛んに行われている(非特許文献1参照)。
【0005】
運転温度の低下は、接続材料の観点以外でも、セル自身の劣化が抑制されるため、電池の長寿命化が得られるようになり望ましい。しかしながら、運転温度の低下は、構成材料の導電性低下を招き、電池性能の低下につながる。このため、運転温度を低下させるためには、低い運転温度においても高い導電性を有する材料の適用が重要となる。
【0006】
また、固体酸化物形燃料電池のセル構造としては、円筒型や平板型などが挙げられるが、セル性能の点から、燃料極を支持体として薄膜電解質を形成した平板型セルの開発が、精力的に進められている(非特許文献2参照)。燃料極支持型のセルでは、セルを構成する層の厚さが、電解質および空気極は数十μm程度であるのに対し、支持体となる燃料極基板は、1〜2μm程度となり、セル全体の大部分を占めることになる。このため、燃料極の特性が、セル特性に大きく影響する。
【0007】
単セルにおいて十分な出力を得るためには、セルサイズを大きくすればよいが、平板型の大面積のセルを、接続部を挟んで直列に積層したスタックとして発電する場合、セルの厚み方向の電流に加え、面内方向の電流も生じることから、電極自身にも集電機能が要求される。このため、燃料極支持型セルの燃料極基板には、運転状態においても高い導電性を示す材料の適用が重要となる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】M.Shibata, et al.,"Development of Intermediate-Temperature SOFC Module and Systems", ECS Transactions ,Vol.7, No.1, pp.77-83,2007
【非特許文献2】D.Ghosh, et al., "STATUS OF DEVELOPMENTS AT GLOBAL THERMOELECTRIC", Electrochemical Society Proceedings, Vol. 2001-16, pp.100-110,2001.
【非特許文献3】村上 修三、他、「固体電解質型燃料電池に関する研究(I)電極性能に及ぼすニッケルアノード中のジルコニア含有量の影響」、電気化学、Vol.59, No.4, pp.320-324, 1990.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ここで、酸化ニッケルとジルコニアのサーメットを燃料極に用いた固体酸化物形燃料電池では、燃料極中に含まれる酸化ニッケルは、発電に先立ってニッケルに還元されることにより、電極として機能する。このため、燃料極の還元処理の後に、上記サーメット中に分散されているニッケル同士の結合が不十分な場合には、電極としての十分な導電性が得られない場合が発生する。
【0010】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、固体酸化物形燃料電池を運転するときに、酸化ニッケルとジルコニアのサーメットを用いた燃料極に、十分な導電性が得られるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る固体酸化物形燃料電池の運転方法は、酸化ニッケルおよびジルコニアのサーメットを用いて作製された燃料極を備える固体酸化物形燃料電池の運転方法において、発電初期の電池起動段階で、燃料極を大気および不活性ガスの少なくとも一方の雰囲気として還元温度にまで昇温する第1ステップと、還元温度になった後に燃料極に燃料ガスを供給して還元温度で燃料極の還元処理を行う第2ステップとを少なくとも備え、還元温度は、サーメットを還元性雰囲気で加熱したときに重量が低下し始める温度より200℃以上高い温度とするようにした方法である。
【0012】
上記固体酸化物形燃料電池の運転方法において、ジルコニアは、スカンジア安定化ジルコニアであり、還元温度は700℃以上である。この場合、第2ステップの後に、運転温度の状態で固体酸化物形燃料電池の発電動作を行う第3ステップを備え、還元温度は、運転温度より高い温度とするとよい。この場合、運転温度は、600〜800℃とすることができる。なお、スカンジア安定化ジルコニアは、酸化アルミニウム,酸化セリウム,酸化イットリウムの中より選択されたものが添加されているものであればよい。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように、本発明によれば、酸化ニッケルおよびジルコニアのサーメットを用いて作製された燃料極に対し、大気および不活性ガスの少なくとも一方の雰囲気として還元温度にまで昇温した後で、燃料ガスを供給して還元処理を行うようにしたので、固体酸化物形燃料電池を運転するときに、酸化ニッケルとジルコニアのサーメットを用いた燃料極に、十分な導電性が得られるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施の形態1における固体酸化物形燃料電池の運転方法を説明するためのフローチャートである。
【図2】固体酸化物形燃料電池の単セルの構成を示す断面図である。
【図3】還元性ガス雰囲気におけけるNiOの熱重量分析の結果を示す特性図である。
【図4】各燃料極試料の還元性ガス雰囲気における熱重量分析の結果を示す特性図である。
【図5】燃料ガスの供給開始温度と各燃料極試料における還元処理後の導電率の状態とを示す特性図である。
【図6】本発明の実施の形態2における固体酸化物形燃料電池の運転方法を説明するためのフローチャートである。
【図7】固体酸化物形燃料電池の単セルの構成を示す断面図である。
【図8】800℃で還元処理した各燃料極試料の、運転温度(800℃)における導電率の経時変化について示す特性図である。
【図9】Ni−SASZにおける還元処理温度と、動作温度との関係について示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。
【0016】
[実施の形態1]
はじめに、本発明の実施の形態1における固体酸化物形燃料電池の運転方法について説明する。本実施の形態における固体酸化物形燃料電池の運転方法は、図1のフローチャートに示すように、まず、発電初期の電池起動段階で、固体酸化物形燃料電池を構成する燃料極に、大気または不活性ガスの供給を開始し、燃料極を大気または不活性ガスの雰囲気とする(ステップS101)。
【0017】
次に、大気または不活性ガスの雰囲気とされた燃料極(固体酸化物形燃料電池)の昇温を開始する(ステップS102)。この加熱昇温により、燃料極(固体酸化物形燃料電池)が、還元温度に達したら(ステップS103)、燃料極に対する大気または不活性ガスの供給を停止する(ステップS104)。還元温度は、サーメットを還元性雰囲気で加熱したときに重量が低下し始める温度より200℃高い温度以上とする。この後、還元温度の状態で、燃料極に燃料ガスを供給し、燃料極の還元処理を行う(ステップS105)。この還元処理では、燃料極を構成している酸化ニッケル(NiO)が還元される。
【0018】
上述した本実施の形態における固体酸化物形燃料電池の運転方法によれば、NiOおよびジルコニアのサーメットを用いて作製された燃料極を備える固体酸化物形燃料電池において、後述するように、燃料極における十分な導電性が得られるようになる。
【0019】
ここで、上述した固体酸化物形燃料電池の単セルの構成について、図2の部分を示す断面図を用いて説明する。固体酸化物形燃料電池は、支持基板となる燃料極201と、燃料極201の上に形成された電解質202と、電解質202の上に形成された空気極203とを備えている。
【0020】
燃料極201は、以下に示すように作製する。まず、平気粒径2〜4μmの酸化ニッケル(NiO)粉末と、平気粒径0.3〜0.6μmのジルコニア粉末とを、6:4の重量比で混合し、これにバインダー,可塑剤,分散剤などを加えてスラリーとする。
【0021】
なお、ジルコニア粉末は、8mol%の酸化イットリウム(Y2O3)で安定化したZrO2(YSZ)であればよい。また、ジルコニア粉末は、Al2O3を少量添加したスカンジア安定化ジルコニア(Zr(Sc,Al2O3)O2:SASZ)であってもよい。以降では、ジルコニアにYSZを用いた燃料極は、Ni−YSZから構成されたものとし、ジルコニアにSASZを用いた燃料極は、Ni−SASZから構成されたものとして記載する。
【0022】
次に、上述したスラリーを、例えばよく知られたドクターブレード法により厚さ1mm程度のシート状に成形し、成形した複数のシートを積層して所定の形状に切断する。次に、このようにして作製した燃料極となる成形体の上に、電解質を構成する原料粉末のスラリー(電解質スラリー)よりなる膜厚10〜15μmの電解質塗布層を形成する。例えば、SASZの粉体(平均粒径0.3〜0.6μm)より電解質スラリーを作製し、これをスクリーン印刷法により上記成形体の上に塗布することで、電解質塗布層が形成できる。
【0023】
次に、上述した成形体および電解質塗布層が形成された積層体を加熱焼成することで、燃料極201の上に電解質202が形成されたハーフセルが得られる。この後、電解質202の上に空気極203を形成することで、固体酸化物形燃料電池の単セルが形成できる。なお、空気極203は、例えば、Bサイトに鉄(Fe)をドープしたLaNi(Fe)O3よりなる平均粒径1μm程度の粉体の焼結体である。このようにして作製した複数の単セルを、よく知られているように、インターコネクタなどの接続部を挟んで直列に積層すれば、固体酸化物形燃料電池のスタックが得られる。
【0024】
次に、本実施の形態における固体酸化物形燃料電池の運転方法により、NiOおよびジルコニアのサーメットを用いて作製された燃料極の導電性向上が図れることについてより詳細に説明する。
【0025】
まず、NiOの還元反応の開始温度について確認するために、還元性ガス雰囲気におけいてNiOの熱重量分析(Thermogravimetric Analysis:TGA)を行う。NiOを還元性ガスの雰囲気に配置し、室温(25℃)から昇温することで行う。この還元性ガス雰囲気のTGでは、図3に示すように、300℃以上になると重量の減少が確認される。このことより、NiOが、還元性の雰囲気では300℃以上の温度で還元されることがわかる。
【0026】
また、図3より、還元性雰囲気における加熱によるNiOの重量変化が、300℃を超えてから一様に変化するのではなく、約420℃を過ぎると重量減少速度が低下し、500℃程度からまた重量減少速度が上昇する傾向が見られる。言い換えると、NiOの還元速度が、約420℃を過ぎると低下し、500℃程度からまた上昇する傾向が見られる。
【0027】
次に、前述した燃料極と同様に作製したNi−YSZの燃料極試料およびNi−SASZの燃料極試料を、還元性ガス雰囲気において、室温から固体酸化物形燃料電池の運転温度(800℃)まで昇温(加熱)し、800℃における各燃料極試料の導電率の測定を行う。導電率の測定は、四端子法で行う。
【0028】
この場合、前述したNiOにおける還元特性の分析結果から考察すれば、各燃料極試料を800℃にまで昇温する過程で、燃料極の還元処理が完了し、800℃に達した時点では、電極(燃料極)として機能する状態のはずである。しかしながら、測定の結果、以下の表1に示すように、Ni−YSZの燃料極試料では、142S/cmと導電性を示すが、Ni−SASZの燃料極試料では、0.03S/cmと、ほとんど導電性を示していない。
【0029】
【表1】
【0030】
次に、還元性ガスの雰囲気における各燃料極試料に対して、前述同様に昇温することで熱重量分析を行う。各燃料極試料の還元性ガス雰囲気におけるTGは、図4に示すように変化する。図4に実線で示すように、Ni−YSZの燃料極試料では、400℃から重量の減少が確認され、400℃からNiOの還元が開始することがわかる。また、Ni−YSZの燃料極試料では、NiOの還元の反応が穏やかに進行していることがわかる。この結果は、NiOとYSZとのサーメットにおける特徴を示しているものである。
【0031】
一方、図4には線で示すように、Ni−SASZの燃料極試料では、約500℃から重量の減少が確認され、500℃からNiOの還元が開始することがわかる。また、Ni−SASZの燃料極試料では、NiOの還元反応が開始されると、この反応が急激に進行することがわかる。これらの結果より、Ni−SASZにおけるNiは、Ni−YSZの場合に比較して還元されにくく、還元するためには、より高温に加熱することが必要であることがわかる。この結果は、NiOとSASZとのサーメットにおける特徴を示しているものである。
【0032】
次に、各燃料極試料に対し、所定の温度に達した時点で還元性ガスを導入して還元処理を開始した場合の、還元性ガス導入温度と導電率との関係について実験を行う。この実験では、設定した温度(還元温度)に達してから各燃料極試料に対する燃料ガスの供給を開始して還元処理を行い、処理をした燃料極試料の導電率を四端子法で測定する。燃料ガスを供給するまでは、大気の雰囲気としておく。また、設定の温度としては、Ni−YSZの燃料極試料については、室温(25℃),600℃,700℃,800℃とする。また、Ni−SASZの燃料極試料については、室温,600℃,700℃,800℃,900℃とする。
【0033】
上述した実験の結果、まず、図5の白四角に示すように、Ni−YSZの燃料極試料では、600℃を超えてから燃料ガスの供給を開始すると、600S/cm程度の高い導電性が得られる。また、図5の黒四角に示すように、Ni−SASZの燃料極試料では、700℃を超えてから燃料ガスの供給を開始すると、200S/cm程度の導電性が得られる。
【0034】
前述したように、初期より燃料ガスを供給する状態、言い換えると、還元性雰囲気で加熱を介した場合、Ni−YSZの燃料極試料では、800℃に加熱しても、142S/cmとあまり高い導電率が得られていない。これに対し、加熱温度が600℃に達してから燃料ガスの供給を開始して還元処理の状態とすることで、上述したようにより高い導電率が得られるようになる。
【0035】
また、還元性雰囲気で加熱を介した場合、Ni−SASZの燃料極試料では、800℃に加熱しても、ほとんど導電性が得られていない。これに対し、加熱温度が700℃に達してから燃料ガスの供給を開始して還元処理の状態とすることで、上述したように導電性が得られるようになる。
【0036】
ここで、Ni−YSZの燃料極試料およびNi−SASZの燃料極試料のいずれにおいても、図4に示した、還元性雰囲気で加熱したときに重量が低下し始める温度より200℃高い温度に達してから燃料ガスの供給を開始することで、より高い導電性が得られていることがわかる。
【0037】
また、初期の昇温段階で、大気ではなく、不活性ガスの雰囲気で行っても、上述同様の効果が得られる。言い換えると、初期の昇温段階では、水素など還元性を備える燃料ガスが存在していない状態で行えばよい。また、上述では、Ni−YSZおよびNi−SASZを用いる場合について説明したが、これに限るものではないことはいうまでもない。上述したように、還元温度に達してから燃料ガスを供給することにより燃料極を還元処理することによる効果は、燃料極に含まれるNiOが還元するときの、図3に示した特性によるものと考えられる。従って、NiOとジルコニアとのサーメットを用いて作製された燃料極を備える固体酸化物形燃料電池であれば、上述した効果が同様に得られるものと考えられる。
【0038】
[実施の形態2]
次に、本発明の実施の形態2における固体酸化物形燃料電池の運転方法について説明する。NiOとジルコニアとのサーメットを用いて作製された燃料極を備える固体酸化物形燃料電池においては、発電動作を開始する初期に十分な導電性が得られる場合においても、燃料電池としての実際の発電においては、長期にわたって高温に晒される燃料極中のニッケルが、経時的に凝集して導電性が低下し、結果として電池の性能を低下させるという問題もある(非特許文献3参照)。本実施の形態2は、この問題を解消するようにしたものである。
【0039】
本実施の形態における固体酸化物形燃料電池の運転方法は、図6のフローチャートに示すように、NiOおよびジルコニアのサーメットを用いて作製された燃料極を備える固体酸化物形燃料電池の発電初期の電池起動段階で、まず、燃料極に燃料ガスを供給して還元処理温度(第1温度)にまで昇温して還元処理を行う(ステップS601)。この還元処理は、前述した実施の形態1と同様に、還元温度に達してから燃料ガスを供給することで行う。
【0040】
次に、還元処理を行った後に、還元温度より低い定常動作温度に降温(低下)させる(ステップS602)。この後、定常動作温度状態で、定常の発電動作を行う(ステップS603)。本実施の形態では、還元処理を定常動作温度より高い温度で行うところに特徴がある。なお、上述したジルコニアは、酸化アルミニウムを添加したスカンジア安定化ジルコニア(SASZ)である。また、定常動作温度は、固体酸化物形燃料電池を発電動作させる温度であり、例えば、600〜800℃である。
【0041】
上述した本実施の形態における固体酸化物形燃料電池の運転方法によれば、NiOおよびSASZのサーメットを用いて作製された燃料極を備える固体酸化物形燃料電池において、後述するように、例えば、長期使用における燃料極におけるNiの凝集などが抑制されるなど、燃料極における導電率の経時変化による低下が抑制できるようになる。
【0042】
ここで、上述した固体酸化物形燃料電池の単セルの構成について、図7に示す断面図を用いて説明する。固体酸化物形燃料電池は、NiOとAl2O3を少量添加したスカンジア安定化ジルコニア(SASZ)とより構成された支持基板となる燃料極701と、燃料極701の上に形成された電解質202と、電解質202の上に形成された空気極203とを備えている。
【0043】
燃料極701は、以下に示すように作製する。まず、平気粒径2〜4μmのNiO(NiO)粉末と、平気粒径0.3〜0.6μmのSASZ粉末とを、6:4の重量比で混合し、これにバインダー,可塑剤,分散剤などを加えてスラリーとする。
【0044】
次に、上述したスラリーを、例えばよく知られたドクターブレード法により厚さ1mm程度のシート状に成形し、成形した複数のシートを積層して所定の形状に切断する。次に、このようにして作製した燃料極となる成形体の上に、電解質を構成する原料粉末のスラリー(電解質スラリー)よりなる膜厚10〜15μmの電解質塗布層を形成する。例えば、SASZの粉体(平均粒径0.3〜0.6μm)より電解質スラリーを作製し、これをスクリーン印刷法により上記成形体の上に塗布することで、電解質塗布層が形成できる。
【0045】
次に、上述した成形体および電解質塗布層が形成された積層体を加熱焼成することで、燃料極701の上に電解質202が形成されたハーフセルが得られる。この後、電解質202の上に空気極203を形成することで、固体酸化物形燃料電池の単セルが形成できる。なお、空気極203は、例えば、Bサイトに鉄(Fe)をドープしたLaNi(Fe)O3よりなる平均粒径1μm程度の粉体の焼結体である。このようにして作製した複数の単セルを、よく知られているように、インターコネクタなどの接続部を挟んで直列に積層すれば、固体酸化物形燃料電池のスタックが得られる。
【0046】
次に、本実施の形態における固体酸化物形燃料電池の運転方法により、NiOおよびSASZのサーメットを用いて作製された燃料極の、長期安定化が図れることについてより詳細に説明する。以下では、NiとYSZとのサーメットを用いて作製した燃料極試料(Ni−YSZ)と、NiとSASZとのサーメットを用いて作製した燃料極試料(Ni−SASZ)について、各条件の処理を加えたときの導電率を四端子法で測定した結果を示す。
【0047】
まず、図8に、800℃で還元処理した各燃料極試料の、運転温度(800℃)における導電率の経時変化について示す。800℃の還元処理は、前述したように、燃料ガスなど還元性ガスを含まない雰囲気で800℃に昇温した後に、燃料ガスを供給することで行う。図8の白丸に示すように、Ni−SASZの導電率は、運転時間が600時間になっても低下していない。これに対し、Ni−YSZの導電率は、時間と共に低下している。このように、800℃で還元処理した場合、Ni−SASZは、経時による導電率の低下が抑制されている。
【0048】
また、600時間経過した後の各燃料極試料の断面を、電子顕微鏡により観察すると、Ni−SASZでは、還元処理を行った直後の初期状態とほとんど同様の微細構造が確認される。これに対し、Ni−YSZでは、Niの凝集体の存在が確認される。このことより、Ni−YSZで測定される上述した導電率の低下は、高温下で時間がたつと、燃料極中のNiが凝集し、燃料極全体に分散していたNi同士の接続が切断されことによるものと考えられる。このようなNiの凝集が、Ni−SASZでは、抑制されるものと考えられる。
【0049】
次に、Ni−SASZにおける還元処理温度と、動作温度との関係について説明する。図9に示すように、いずれの還元温度で処理したNi−SASZにおいても、運転温度が600〜800℃の範囲では、温度(運転温度)が低いほど高い導電率を示している。なお、図9において、黒四角は還元温度を900℃として還元処理をしたNi−SASZ、白四角は還元温度を800℃として還元処理をしたNi−SASZ、アスタリスク「*」は還元温度を700℃として還元処理をしたNi−SASZの結果を示している。
【0050】
また、図4および図9に示す結果からも明らかなように、Ni−SASZは、還元処理温度が高いほど、高い導電率が得られるようになる。これらのことから明らかなように、酸化ニッケルおよびSASZのサーメットを用いて作製された燃料極を備える固体酸化物形燃料電池においては、運転温度より高い温度で燃料極の還元処理をしてから、この還元処理の温度より低い運転温度で発電動作(運転)を行うことで、燃料極におけるより高い導電率が得られるようになる。これは、より低い温度で運転可能であることを示している。図9の結果より、運転温度は、600〜800℃とすればよいことがわかる。また、経時による導電率の低下が、抑制されるようになる。
【0051】
なお、SASZに限らず、酸化セリウムもしくは酸化イットリウムを添加したスカンジア安定化ジルコニアを用いた場合においても、同様である。また、酸化アルミニウム,酸化セリウム,酸化イットリウムなどの金属酸化物が添加されていないスカンジア安定化ジルコニアを用いてもよい。NiOとスカンジア安定化ジルコニアとが同時に存在しているサーメットを用いて燃料極が作製されていることが重要である。
【符号の説明】
【0052】
201…燃料極、202…電解質、203…空気極。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化ニッケルおよびジルコニアのサーメットを用いて作製された燃料極を備える固体酸化物形燃料電池の運転方法において、
発電初期の電池起動段階で、前記燃料極を大気および不活性ガスの少なくとも一方の雰囲気として還元温度にまで昇温する第1ステップと、
前記還元温度になった後に前記燃料極に燃料ガスを供給して前記還元温度で前記燃料極の還元処理を行う第2ステップと
を少なくとも備え、
前記還元温度は、前記サーメットを還元性雰囲気で加熱したときに重量が低下し始める温度より200℃以上高い温度とし、
前記ジルコニアは、スカンジア安定化ジルコニアであり、
前記還元温度は、700℃以上である
ことを特徴とする固体酸化物形燃料電池の運転方法。
【請求項2】
請求項1記載の固体酸化物形燃料電池の運転方法において、
前記還元温度は、900℃以下であることを特徴とする固体酸化物形燃料電池の運転方法。
【請求項3】
請求項1または2記載の固体酸化物形燃料電池の運転方法において、
前記第2ステップの後に、運転温度の状態で前記固体酸化物形燃料電池の発電動作を行う第3ステップを備え、
前記還元温度は、前記運転温度より高い温度とする
ことを特徴とする固体酸化物形燃料電池の運転方法。
【請求項4】
請求項3記載の固体酸化物形燃料電池の運転方法において、
前記運転温度は、600〜800℃である
ことを特徴とする固体酸化物形燃料電池の運転方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の固体酸化物形燃料電池の運転方法において、
前記スカンジア安定化ジルコニアは、酸化アルミニウム,酸化セリウム,酸化イットリウムの中より選択されたものが添加されている
ことを特徴とする固体酸化物形燃料電池の運転方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の固体酸化物形燃料電池の運転方法において、
前記第1ステップでは、前記燃料極を大気雰囲気で還元温度にまで昇温する
ことを特徴とする固体酸化物形燃料電池の運転方法。
【請求項1】
酸化ニッケルおよびジルコニアのサーメットを用いて作製された燃料極を備える固体酸化物形燃料電池の運転方法において、
発電初期の電池起動段階で、前記燃料極を大気および不活性ガスの少なくとも一方の雰囲気として還元温度にまで昇温する第1ステップと、
前記還元温度になった後に前記燃料極に燃料ガスを供給して前記還元温度で前記燃料極の還元処理を行う第2ステップと
を少なくとも備え、
前記還元温度は、前記サーメットを還元性雰囲気で加熱したときに重量が低下し始める温度より200℃以上高い温度とし、
前記ジルコニアは、スカンジア安定化ジルコニアであり、
前記還元温度は、700℃以上である
ことを特徴とする固体酸化物形燃料電池の運転方法。
【請求項2】
請求項1記載の固体酸化物形燃料電池の運転方法において、
前記還元温度は、900℃以下であることを特徴とする固体酸化物形燃料電池の運転方法。
【請求項3】
請求項1または2記載の固体酸化物形燃料電池の運転方法において、
前記第2ステップの後に、運転温度の状態で前記固体酸化物形燃料電池の発電動作を行う第3ステップを備え、
前記還元温度は、前記運転温度より高い温度とする
ことを特徴とする固体酸化物形燃料電池の運転方法。
【請求項4】
請求項3記載の固体酸化物形燃料電池の運転方法において、
前記運転温度は、600〜800℃である
ことを特徴とする固体酸化物形燃料電池の運転方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の固体酸化物形燃料電池の運転方法において、
前記スカンジア安定化ジルコニアは、酸化アルミニウム,酸化セリウム,酸化イットリウムの中より選択されたものが添加されている
ことを特徴とする固体酸化物形燃料電池の運転方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の固体酸化物形燃料電池の運転方法において、
前記第1ステップでは、前記燃料極を大気雰囲気で還元温度にまで昇温する
ことを特徴とする固体酸化物形燃料電池の運転方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【公開番号】特開2013−77582(P2013−77582A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−12884(P2013−12884)
【出願日】平成25年1月28日(2013.1.28)
【分割の表示】特願2008−223295(P2008−223295)の分割
【原出願日】平成20年9月1日(2008.9.1)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成25年1月28日(2013.1.28)
【分割の表示】特願2008−223295(P2008−223295)の分割
【原出願日】平成20年9月1日(2008.9.1)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】
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