説明

固体酸化物形燃料電池用セル

【課題】Crを含有する合金等と空気極とを接合してなるSOFC用セルにおいて、合金等−空気極界面の電気抵抗を最小限に抑えることが可能なSOFC用セルを提供する。
【解決手段】Crを含有する合金又は酸化物1と空気極31を接合してなる固体酸化物形燃料電池用セルであって、前記合金又は酸化物1の表面に、Cu及びCoを含む酸化物被膜を形成してなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Cr(クロム)を含有する合金又は酸化物(以下、「合金等」と呼ぶ場合がある。)と空気極とを接合してなる固体酸化物形燃料電池(以下、適宜「SOFC」と記載する。)用セルに関する。
【背景技術】
【0002】
かかるSOFC用セルは、電解質膜の一方面側に空気極を接合すると共に、同電解質膜の他方面側に燃料極を接合してなる単セルを、空気極又は燃料極に対して電子の授受を行う一対の電子電導性の合金等により挟み込んだ構造を有する。
そして、このようなSOFC用セルでは、例えば700〜900℃程度の作動温度で作動し、空気極側から燃料極側への電解質膜を介した酸化物イオンの移動に伴って、一対の電極の間に起電力が発生し、その起電力を外部に取り出し利用することができる。
【0003】
このようなSOFC用セルで利用される合金は、電子電導性及び耐熱性に優れたCrを含有する材料で製作される。また、このような合金の耐熱性は、この合金の表面に形成されるクロミア(Cr23)の緻密な被膜に由来する。
【0004】
また、SOFC用セルは、その製造工程において、合金等と空気極及び燃料極との間の接触抵抗をできるだけ小さくするなどの目的で、それらを積層した状態で、作動温度よりも高い1000℃〜1250℃程度の焼成温度で焼成する焼成処理を行う場合がある(例えば、特許文献1を参照。)。
【0005】
一方、SOFC用セルで利用される合金の表面に、単一系酸化物に不純物をドープしてなるn型半導体被膜を形成し、このような被膜形成処理を行うことによって、合金中に含まれるCrが飛散し易い6価の酸化物へと酸化されることを抑制しようとする技術もあった(例えば、特許文献2を参照。)。
【0006】
【特許文献1】特開2004−259643号公報
【特許文献2】国際公開WO2007/083627号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したようにCrを含有する合金等と空気極とを接合してなるSOFC用セルでは、作動時等において合金等が高温にさらされることで、その合金等に含まれるCrが空気極側に飛散して、空気極のCr被毒が発生するという問題がある。
このような空気極のCr被毒は、空気極における酸化物イオンの生成のための酸素の還元反応を阻害し、空気極の電気抵抗を増加させ、更には合金等のCr濃度を減少させることにより合金等自体の耐熱性の低下などの問題を引き起こし、結果、SOFCの性能低下を招く場合がある。
【0008】
また、特許文献1のように、合金等と空気極とを接合した状態で焼成する焼成処理を行う場合には、作動温度よりも高い焼成温度にさらされることにより、Cr(VI)の酸化物が生成され、蒸発して空気極と反応して、Cr化合物が生成され、空気極のCr被毒が発生する。
【0009】
一方、上述した空気極におけるCr被毒の問題を幾分でも回避するために、特許文献2のように、合金等の表面をn型半導体被膜で覆うことや、金属酸化物(例えば、空気極用のランタンコバルタイト系材料である(La,Sr)CoO3)からなる被膜で覆うことが考えられている。ところが、この場合では、被膜の電気抵抗の大きさが問題となったり、空気極におけるCr被毒の抑制が不十分であったり、SOFCとしての性能が低下するという問題が生じる。特に、被膜の電気抵抗が大きくなると、SOFCの初期出力が低くなるため好ましくない。従って、少なくとも従来と同等のCr被毒抑制効果を実現しつつ、被膜の電気抵抗を抑制することが可能な解決策が望まれている。
【0010】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、Crを含有する合金等と空気極とを接合してなるSOFC用セルにおいて、合金等−空気極界面の電気抵抗を最小限に抑えることが可能なSOFC用セルを提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る固体酸化物形燃料電池用セルの特徴構成は、Crを含有する合金又は酸化物と空気極とを接合してなる固体酸化物形燃料電池用セルであって、前記合金又は酸化物の表面に、Cu及びCoを含む酸化物被膜を形成してなることにある。
【0012】
上述したように、固体酸化物形燃料電池用セルにあっては、SOFCとしての性能を維持するために、合金等−空気極界面の電気抵抗をなるべく抑制することが求められている。
この点、本構成の固体酸化物形燃料電池用セルによれば、合金等の表面に、Cu及びCoを含む酸化物被膜が形成されている。このCu及びCoを含む酸化物被膜は、実際には、合金等の表面を構成する酸化被膜(Cr23)の上に形成されるものである。ここで、Cu及びCoを含む酸化物被膜中に含まれるCu及びCoの各成分は、酸化被膜(Cr23)の内部へ拡散すると考えられる。その結果、酸化被膜(Cr23)の電気抵抗が低下し、空気極全体としての電気抵抗の増大を抑制することができる。
【0013】
本発明に係る固体酸化物形燃料電池用セルにおいて、前記酸化物被膜は、CuCo24被膜であることが好ましい。
【0014】
本構成の固体酸化物形燃料電池用セルによれば、酸化物被膜として、好適なCuCo24被膜が採用される。このため、CuCo24に含まれるCu及びCoの各成分は、酸化被膜(Cr23)の内部へ良好に拡散し、その結果、酸化被膜(Cr23)の電気抵抗が低下し、合金等−空気極界面の電気抵抗を良好に抑制することができる。
【0015】
本発明に係る固体酸化物形燃料電池用セルにおいて、前記酸化物被膜は、0.1〜100μmの厚みを有することが好ましい。
【0016】
本構成の固体酸化物形燃料電池用セルによれば、合金等側の表面に形成する被膜の厚みを、0.1〜100μmとすることにより、合金等−空気極界面の電気抵抗を実用上問題のない程度に抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明に係るSOFC用セルの実施の形態について、図面に基づいて説明する。
図1及び図2に示すSOFC用セルCは、酸化物イオン電導性の固体酸化物の緻密体からなる電解質膜30の一方面側に、酸化物イオン及び電子電導性の多孔体からなる空気極31を接合すると共に、同電解質膜30の他方面側に電子電導性の多孔体からなる燃料極32を接合してなる単セル3を備える。
更に、SOFC用セルCは、この単セル3を、空気極31又は燃料極32に対して電子の授受を行うと共に空気及び水素を供給するための溝2が形成された一対の電子電導性の合金又は酸化物からなるインタコネクト1により、適宜外周縁部においてガスシール体を挟持した状態で挟み込んだ構造を有する。そして、空気極31側の上記溝2が、空気極31とインタコネクト1とが密着配置されることで、空気極31に空気を供給するための空気流路2aとして機能し、一方、燃料極32側の上記溝2が、燃料極32とインタコネクト1とが密着配置されることで、燃料極32に水素を供給するための燃料流路2bとして機能する。
【0018】
尚、上記SOFC用セルCを構成する各要素で利用される一般的な材料について説明を加えると、例えば、上記空気極31の材料としては、LaMO3(例えばM=Mn,Fe,Co)中のLaの一部をアルカリ土類金属AE(AE=Sr,Ca)で置換した(La,AE)MO3のペロブスカイト型酸化物を利用することができ、上記燃料極32の材料としては、Niとイットリア安定化ジルコニア(YSZ)とのサーメットを利用することができ、更に、電解質膜30の材料としては、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)を利用することができる。
【0019】
更に、これまで説明してきたSOFC用セルCでは、インタコネクト1の材料としては、電子電導性及び耐熱性の優れた材料であるLaCrO3系等のペロブスカイト型酸化物や、フェライト系ステンレス鋼であるFe−Cr合金や、オーステナイト系ステンレス鋼であるFe−Cr−Ni合金や、ニッケル基合金であるNi−Cr合金などのように、Crを含有する合金又は酸化物が利用されている。
【0020】
そして、複数のSOFC用セルCが積層配置された状態で、複数のボルト及びナットにより積層方向に押圧力を与えて挟持され、セルスタックとなる。
このセルスタックにおいて、積層方向の両端部に配置されたインタコネクト1は、燃料流路2b又は空気流路2aの一方のみが形成されるものであればよく、その他の中間に配置されたインタコネクト1は、一方の面に燃料流路2bが形成され他方の面に空気流路2aが形成されるものを利用することができる。尚、かかる積層構造のセルスタックでは、上記インタコネクト1をセパレータと呼ぶ場合がある。
このようなセルスタックの構造を有するSOFCを一般的に平板型SOFCと呼ぶ。本実施形態では、一例として平板型SOFCについて説明するが、本願発明は、その他の構造のSOFCについても適用可能である。
【0021】
そして、このようなSOFC用セルCを備えたSOFCの作動時には、図2に示すように、空気極31に対して隣接するインタコネクト1に形成された空気流路2aを介して空気を供給すると共に、燃料極32に対して隣接するインタコネクト1に形成された燃料流路2bを介して水素を供給し、例えば750℃程度の作動温度で作動する。すると、空気極31においてO2が電子e-と反応してO2-が生成され、そのO2-が電解質膜30を通って燃料極32に移動し、燃料極32において供給されたH2がそのO2-と反応してH2Oとe-とが生成されることで、一対のインタコネクト1の間に起電力Eが発生し、その起電力Eを外部に取り出し利用することができる。
【0022】
また、このSOFC用セルCは、その製造工程において、インタコネクト1と空気極31及び燃料極32との間の接触抵抗をできるだけ小さくするなどの目的で、それらを積層配置した状態で、作動温度よりも高い1000℃〜1150℃程度の焼成温度で焼成する焼成処理を行う場合がある。
【0023】
そして、上記のようにCrを含有する合金等からなるインタコネクト1と空気極31とを接合してなるSOFC用セルCでは、焼成処理時又は作動時において、高温にさらされることで、インタコネクト1に含まれるCrが酸化蒸発して空気極31側に飛散し、その空気極31のCr被毒が発生するという問題がある。
このような空気極31のCr被毒は、空気極31における酸化物イオンの生成のための酸素の還元反応を阻害し、空気極31の電気抵抗を増加させ、更には合金等のCr濃度を減少させることにより合金等自体の耐熱性の低下などの問題を引き起こし、結果、SOFCの性能低下を招く場合がある。
【0024】
そこで、空気極31におけるCr被毒の問題を幾分でも回避するために、合金等の表面を金属酸化物(例えば、空気極用のランタンコバルタイト系材料である(La,Sr)CoO3)からなる被膜で覆うことが考えられるが、この被膜では空気極31におけるCr被毒の抑制効果は小さい上に、合金等−空気極界面の電気抵抗も被膜を形成しない場合と変わらず、有用であるとは言い難い。
【0025】
本発明に係るSOFC用セルCでは、合金等−空気極界面の電気抵抗を最小限に抑えるための特徴を有しており、その詳細について以下に説明する。
【0026】
かかるSOFCは、合金等−空気極界面の電気抵抗を抑制するために、インタコネクト1の表面に、Cu及びCoを含む酸化物被膜を形成し、インタコネクト1と空気極31とを接合した状態で1000℃〜1150℃程度の焼成温度で焼成する焼成処理を行って作製されるものである。Cu及びCoを含む酸化物被膜は、実際には、合金等の表面を構成する酸化被膜(Cr23)の上に形成されるが、ここで、Cu及びCoを含む酸化物被膜中に含まれるCu及びCoの各成分は、酸化被膜(Cr23)の内部へ拡散すると考えられる。その結果、酸化被膜(Cr23)の電気抵抗が低下し、合金等−空気極界面の電気抵抗を抑制することができる。
【0027】
合金等−空気極界面の電気抵抗を抑制するために形成する本発明のCu及びCoを含む酸化物被膜の実施例、及び比較例について、以下に詳細に説明する。
【0028】
〔被膜を形成した合金サンプルの準備〕
本発明では、上記Cu及びCoを含む酸化物被膜として、スピネル系酸化物であるCuCo24被膜が好適に採用される。
「スピネル系酸化物」は、2種の金属を含む複合酸化物であり、一般に、化学式AB24(A及びBは、互いに種類の異なる金属元素)で表される。
本発明では、湿式成膜法により、CuCo24被膜を、インタコネクト1となるフェライト系ステンレスからなる合金平板の表面に形成した。合金平板の表面は、サンドペーパーで#600まで研磨したものを使用した。
湿式成膜法は、ディッピング法を採用した。先ず、CuCo24粉末、アルコール(1−メトキシ−2−プロパノール)、及びバインダ(ヒドロキシプロピルセルロース)に、ジルコニアボールを加え、ペイントシェーカーを用いて混合した。次に、CuCo24粉末を含む混合液に合金平板をディップし、引き上げ後、50℃に調整した恒温槽中で乾燥させた。そして、乾燥後の合金平板を、電気炉を使用して1000℃で2時間焼成し、その後除冷して合金サンプルを得た。
なお、成膜法としては、上記の湿式成膜法の他に、スパッタリング(高周波スパッタリング、反応性直流マグネトロンスパッタリング等)による乾式成膜法を採用しても構わない。
【0029】
〔効果確認試験〕
本発明の効果を確認するために、被膜を形成した合金サンプルの電圧降下(電気抵抗)を測定した。合金サンプルの電圧降下を測定することにより、SOFCとしての性能が確保されているかを判定することができる。具体的な試験方法としては、先ず、合金サンプルと空気極材料とを接合した状態で、大気雰囲気中において1000〜1150℃の焼成温度で2時間焼成処理を行った。次に、合金サンプルを、SOFCの作動時を想定して、大気雰囲気中で750℃の作動温度で0.3A/cm2の直流電流を流し続け、この状態を50時間保持した。そして、この50時間保持後の合金サンプル(合金+被膜)について電圧降下(mV)を測定した。ここで、電圧降下の原因となる主な電気抵抗成分は、合金サンプルの酸化被膜(Cr23)の電気抵抗、酸化物被膜の電気抵抗、及び合金サンプル中のCrが空気極31に飛散して生成するSrCrO4の電気抵抗の3つである。なお、空気極31の電気抵抗、及び合金サンプル自体の電気抵抗は、上記3つの電気抵抗と比べて非常に小さいため考慮する必要はない。
さらに、本実施形態では参考として、「SOFCセルにおいて、合金等−空気極界面の電気抵抗を最小限に抑える」という本発明の主たる目的とは直接関連しないが、合金サンプルと空気極との接合部付近の断面のCr分布を測定した。このCr分布測定により、空気極のCr被毒の発生の有無を判定することができる。具体的な試験方法としては、先ず、合金サンプルと空気極材料とを接合した状態で、大気雰囲気中において1000〜1150℃の焼成温度で2時間焼成処理を行った。この焼成処理を施した合金サンプルと空気極との接合部付近の断面のCr分布を、電子線マイクロアナライザー(EPMA)により分析した。
【0030】
上記の効果確認試験では、実施例及び比較例とも、合金としてFe−Cr系合金(Cr含有量:22wt%)、空気極として(La,Sr)(Co,Fe)O3を使用した。
【0031】
〔実施例1〕
実施例1では、焼成処理を行う前に、インタコネクト1の少なくとも空気極31に対する境界面1a(図2参照)を含む表面(両面)に、ディッピング法により、厚み約5〜30μmのCuCo24被膜を形成した。
【0032】
インタコネクト1の境界面1aにCuCo24被膜が形成されているSOFC用セルCでは、CuCo24被膜中のCu及びCoの各成分が、酸化被膜(Cr23)の内部へ拡散すると考えられる。その結果、酸化被膜(Cr23)の電気抵抗が低下し、合金等−空気極界面の電気抵抗を抑制することができると考えられる。
【0033】
上述の効果確認試験の手順に従って、インタコネクト(合金+CuCo24被膜+SrCrO4)の750℃での電圧降下を測定したところ、9.0mVであった。因みに、CuCo24焼結体の導電率は、750℃の大気中において、1.0S/cmであった。
【0034】
次に、実施例1のSOFC用セルについて、合金と空気極との接合部付近の断面のCr分布をEPMAにより分析した。
図3に、実施例1のSOFC用セルの作動温度での保持後のCr分布の分析結果を示す。尚、この図面において、合金におけるCr濃度は約22%であり、空気極において色調が最も薄い領域のCr濃度は略0%(図面において空気極での薄いグレーの領域)である。また、これら分布を示す図面において、写真図の横幅が約130μmに相当している。
【0035】
これらの実験の結果、実施例1のCuCo24被膜を合金の表面に形成したSOFC用セルでは、インタコネクトの750℃での電圧降下が非常に低い値(9.0mV)となることが判明した。この値は、後述する比較例4の合金の表面に被膜を形成しないSOFC用セルについて同条件で測定した電圧降下値(12.5mV)と比べて、かなり低い値である。従って、実施例1のSOFC用セルでは、合金等−空気極界面の電気抵抗を抑制することができ、結果として、SOFCとしての性能を維持することができる。
また、図3に示すように、実施例1のSOFC用セルでは、空気極におけるCr被毒が認められた。しかし、このCr被毒の程度は、後述の比較例1で説明する従来の被膜材料(空気極用のランタンコバルタイト系材料である(La,Sr)CoO3)からなる被膜)を形成したSOFC用セルと比較して同等レベルであり、実用上問題は小さい。
【0036】
〔比較例1〕
比較例1では、焼成処理を行う前に、インタコネクト1の少なくとも空気極31に対する境界面1a(図2参照)を含む表面(両面)に、ディッピング法により、厚み約5〜30μmの空気極用のランタンコバルタイト系材料である(La,Sr)CoO3からなる被膜を形成した。この(La,Sr)CoO3は、従来のSOFC用セルにおいて使用されていた被膜材料である。
比較例1のSOFC用セルについて、インタコネクトの750℃での電圧降下を上記実施例1と同様に測定したところ、12.6mVであった。また、このときの焼結体の導電率は、一般に、750℃の大気中において、100S/cm以上であると言われている。
【0037】
次に、比較例1のSOFC用セルについて、合金と空気極との接合部付近の断面のCr分布をEPMAにより分析した。
図4に、比較例1のSOFC用セルの作動温度での保持後のCr分布の分析結果を示す。尚、この図面において、合金におけるCr濃度は約22%であり、空気極において色調が最も薄い領域のCr濃度は略0%(図面において空気極での薄いグレーの領域)である。また、これら分布を示す図面において、写真図の横幅が約130μmに相当している。
【0038】
これらの実験の結果、比較例1の(La,Sr)CoO3被膜を合金の表面に形成したSOFC用セルでは、インタコネクトの750℃での電圧降下値(12.6mV)は、合金の表面に被膜を形成しないSOFC用セルについて同条件で測定した電圧降下値(12.5mV)と同等であることが判明した。従って、比較例1のSOFC用セルでは、合金等−空気極界面の電気抵抗を大きく抑制するには至らないと言える。
また、図4に示すように、比較例1のSOFC用セルでは、空気極におけるCr被毒が認められた。
【0039】
〔比較例2〕
比較例2では、焼成処理を行う前に、インタコネクト1の少なくとも空気極31に対する境界面1a(図2参照)を含む表面(両面)に、ディッピング法により、厚み約5〜30μmのCuMn24被膜を形成した。この比較例2は、Cuを含むがCoを含まない酸化物被膜では、合金等−空気極界面の電気抵抗を抑制できるかを確認するものである。
比較例2のSOFC用セルについて、インタコネクトの750℃での電圧降下を上記実施例1と同様に測定したところ、12.4mVであった。また、このときの焼結体の導電率は、750℃の大気中において、87.4S/cmであった。
【0040】
次に、比較例2のSOFC用セルについて、合金と空気極との接合部付近の断面のCr分布をEPMAにより分析した。
図5に、比較例2のSOFC用セルの作動温度での保持後のCr分布の分析結果を示す。尚、この図面において、合金におけるCr濃度は約22%であり、空気極において色調が最も薄い領域のCr濃度は略0%(図面において空気極での薄いグレーの領域)である。また、これら分布を示す図面において、写真図の横幅が約130μmに相当している。
【0041】
これらの実験の結果、比較例2のCuMn24被膜を合金の表面に形成したSOFC用セルでは、インタコネクトの750℃での電圧降下値(12.4mV)は、合金の表面に被膜を形成しないSOFC用セルについて同条件で測定した電圧降下値(12.5mV)と同等であることが判明した。従って、比較例2のSOFC用セルでは、合金等−空気極界面の電気抵抗を大きく抑制するには至らないと言える。
また、図5に示すように、比較例2のSOFC用セルでは、空気極におけるCr被毒が認められた。
【0042】
〔比較例3〕
比較例3では、焼成処理を行う前に、インタコネクト1の少なくとも空気極31に対する境界面1a(図2参照)を含む表面(両面)に、ディッピング法により、厚み約5〜30μmのNiCo24被膜を形成した。この比較例3は、Coを含むがCuを含まない酸化物被膜では、合金等−空気極界面の電気抵抗を抑制できるかを確認するものである。
比較例3のSOFC用セルについて、インタコネクトの750℃での電圧降下を上記実施例1と同様に測定したところ、13.1mVであった。また、このときの焼結体の導電率は、750℃の大気中において、2.1S/cmであった。
【0043】
次に、比較例3のSOFC用セルについて、合金と空気極との接合部付近の断面のCr分布をEPMAにより分析した。
図6に、比較例3のSOFC用セルの作動温度での保持後のCr分布の分析結果を示す。尚、この図面において、合金におけるCr濃度は約22%であり、空気極において色調が最も薄い領域のCr濃度は略0%(図面において空気極での薄いグレーの領域)である。また、これら分布を示す図面において、写真図の横幅が約130μmに相当している。
【0044】
これらの実験の結果、比較例3のNiCo24被膜を合金の表面に形成したSOFC用セルでは、インタコネクトの750℃での電圧降下値(13.1mV)は、合金の表面に被膜を形成しないSOFC用セルについて同条件で測定した電圧降下値(12.5mV)より大きいことが判明した。従って、比較例3のSOFC用セルでは、合金等−空気極界面の電気抵抗を大きく抑制するには至らないと言える。
ただし、図6に示すように、比較例3のSOFC用セルでは、空気極におけるCr被毒は殆ど認められなかった。
【0045】
〔比較例4〕
比較例4では、合金の表面に被膜を形成しないものについて、上記の効果確認試験を行った。
比較例4のSOFC用セルについて、インタコネクトの750℃での電圧降下を上記実施例1と同様に測定したところ、12.5mVであった。
【0046】
次に、比較例4のSOFC用セルについて、合金と空気極との接合部付近の断面のCr分布をEPMAにより分析した。
図7に、比較例4のSOFC用セルの作動温度での保持後のCr分布の分析結果を示す。尚、この図面において、合金におけるCr濃度は約22%であり、空気極において色調が最も薄い領域のCr濃度は略0%(図面において空気極での薄いグレーの領域)である。また、これら分布を示す図面において、写真図の横幅が約130μmに相当している。
【0047】
これらの実験の結果、図7に示すように、比較例4のSOFC用セルでは、空気極におけるCr被毒が認められた。
【0048】
実施例1及び比較例1〜4の結果を、図8の表にまとめた。これらの結果から、本発明のSOFCセルにおいて採用する「Cu及びCoを含む酸化物被膜」としての「CuCo24被膜」は、SOFC用セルのインタコネクトの表面に形成する被膜として最適であり、合金等−空気極界面の電気抵抗を最小限に抑えることができる。また、インタコネクトの表面にCuCo24被膜を形成した場合において、空気極31におけるCr被毒は従来の被膜と同等レベルである。
【0049】
〔別実施形態〕
上記の実施形態で説明したCuCo24被膜の上に、空気極のCr被毒を抑制する第2の被膜をさらに形成することも可能である。そのような被膜として、例えば、750℃での平衡解離酸素分圧が1.83×10-20〜3.44×10-13atmの範囲内にある第1の単一系酸化物と、当該第1の単一系酸化物よりも750℃での平衡解離酸素分圧が低い第2の単一系酸化物とから構成されるスピネル系酸化物を含む被膜が挙げられる。なお、ここでの平衡解離酸素分圧は、単一系酸化物が金属まで還元されるとしたときの値としている。
このようなスピネル系酸化物としては、具体的には、NiCo24、ZnCo24、FeMn24、NiMn24、CoMn24、MnFe24、MnNi24、MnCo24、TiCo24等が挙げられる。
上記のスピネル系酸化物を含む被膜を第2被膜として形成すると、合金等側から空気極側或いは空気極と電解質との界面への気相のCr(VI)の酸化物(又はオキシ水酸化物)の拡散を抑制して、空気極のCr被毒の発生を良好に抑制することができる。また、合金等側からのCrの飛散が抑制されるので、Cr枯れに起因する合金等の酸化劣化の進行を抑制することができる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明にかかるSOFC用セルは、Crを含有する合金等と空気極とを接合してなるSOFC用セルにおいて、合金等−空気極界面の電気抵抗を最小限に抑えることが可能なSOFC用セルとして有効に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】SOFC用セルの各要素の分解状態を示す概略斜視図
【図2】SOFC用セルの作動原理を説明する図
【図3】実施例1のSOFC用セルの焼成後のCr分布を示す図
【図4】比較例1のSOFC用セルの焼成後のCr分布を示す図
【図5】比較例2のSOFC用セルの焼成後のCr分布を示す図
【図6】比較例3のSOFC用セルの焼成後のCr分布を示す図
【図7】比較例4のSOFC用セルの焼成後のCr分布を示す図
【図8】実施例1及び比較例1〜4の結果一覧を示す表
【符号の説明】
【0052】
1:インタコネクト(合金又は酸化物)
1a:境界面
2a:空気流路
2:溝
2b:燃料流路
3:単セル
30:電解質膜
31:空気極
32:燃料極
C:SOFC用セル(固体酸化物形燃料電池用セル)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Crを含有する合金又は酸化物と空気極とを接合してなる固体酸化物形燃料電池用セルであって、
前記合金又は酸化物の表面に、Cu及びCoを含む酸化物被膜を形成してなる固体酸化物形燃料電池用セル。
【請求項2】
前記酸化物被膜は、CuCo24被膜である請求項1に記載の固体酸化物形燃料電池用セル。
【請求項3】
前記酸化物被膜は、0.1〜100μmの厚みを有する請求項1又は2に記載の固体酸化物形燃料電池用セル。

【図1】
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【図2】
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【図8】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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