説明

固体酸化物形燃料電池用発電セル及びその製造方法

【課題】中間層のニッケル系燃料極層に対する焼結性及び導電性を向上させ、かつ中間層のランタンガレート系電解質層に対する焼結性及び導電性を向上させ、これにより発電性能に優れた固体酸化物形燃料電池用発電セルを得る。
【解決手段】本発明の固体酸化物形燃料電池用発電セル10は、ニッケル系燃料極層11と中間層12とランタンガレート系電解質層13と空気極層14とをこの順に積層して形成される。上記中間層12は、LaをドープしたセリアとSr及びMgをドープしたランタンガレートとの複合体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料極層と空気極層とにより電解質層を挟持するとともに、燃料極層と電解質層との間に中間層を介装した固体酸化物形燃料電池用発電セルと、その発電セルの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、固体酸化物形燃料電池の作動温度を600℃〜800℃程度まで低下させるために、低温で作動する固体酸化物形燃料電池の研究が盛んに行われている。例えば、電解質層が空気極層と燃料極層との間に配置され、この電解質層がランタンガレート系酸化物からなり、電解質層と空気極層との間にセリア系酸化物からなる中間層が設けられた固体酸化物形燃料電池が開示されている(例えば、特許文献1参照)。この固体酸化物形燃料電池では、空気極層がランタンコバルタイト系酸化物から形成される。このように構成された固体酸化物形燃料電池では、電解質層及び空気極層に対して安定なセリア系酸化物からなる中間層が電解質層と空気極層との間に設けられるので、電解質層と空気極層との間における金属元素の相互拡散や化学反応による不純物層や絶縁抵抗層の生成を防止できる。この結果、電解質層と空気極層との間での電気化学的作用を安定させることができるようになっている。
【0003】
しかし、上記従来の特許文献1に示された固体酸化物形燃料電池では、セリア系酸化物からなる中間層とランタンガレート系酸化物からなる電解質層との密着性が低いため、界面抵抗が大きくなって、600℃まで作動温度を下げると、発電性能が低下してしまう問題点があった。
【0004】
この点を解消するために、空気極層と燃料極層との間の複数の層が、セリウム含有酸化物からなる第一層と、ランタンガレート酸化物からなる第二層と、第一層と第二層との間に設けられセリウム含有酸化物及びランタンガレート酸化物の混合材料からなる第三層とを備えた固体酸化物形燃料電池セルが開示されている( 例えば、特許文献2参照)。このように構成された固体酸化物形燃料電池セルでは、第三層を備えることで、第一層と第三層に含まれるセリウム含有酸化物とが焼成過程において粒成長し、また第二層と第三層に含まれるランタンガレート酸化物とが焼成過程において粒成長するために、複数の層は傾斜構造となる。このため、それぞれの層間での酸素イオン伝導性を損なうことがなくなるので、界面抵抗が減少し発電性能を向上させることができる。
【0005】
また、燃料ガス通路が内部に形成されたガス透過性でかつ導電性の支持基板と、支持基板上に形成された燃料極層と、燃料極層上に形成された反応防止層と、反応防止層を覆うように支持基板上に形成されかつ少なくともLaとGaを含むペロブスカイト型ランタンガレート系複合酸化物からなる固体電解質層と、燃料極層と対面するように固体電解質層上に設けられた酸素極層とからなる燃料電池セルが開示されている(例えば、特許文献3参照。)。この燃料電池セルでは、支持基板が、鉄族金属若しくはその酸化物と、Y,Lu,Yb,Tm,Er,Ho,Dy,Gd,Sm及びPrからなる群より選ばれた少なくとも1種の希土類元素を含む希土類酸化物とから形成される。また反応防止層が、Laが固溶したCeO2、Ceが固溶したLa23、或いはそれらの混合体である。このように構成された燃料電池セルでは、セルを構成する支持基板が、NiやNiO等の鉄族金属又はその酸化物と、特定の希土類酸化物から構成されているため、同時焼成に際しての燃料極でのクラック発生や固体電解質の剥離が有効に抑制されるだけでなく、固体電解質への元素拡散によるイオン伝導度の低下などの性能低下も抑制され、共焼結法により安価に製造できるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−331866号公報(請求項1、段落[0019]、[0053])
【特許文献2】特開2006−127821号公報(請求項1、段落[0006])
【特許文献3】特開2005−166314号公報(請求項1及び5、段落[0019]、[0023])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記従来の特許文献2に示された固体酸化物形燃料電池セルでは、第三層がセリウム含有酸化物及びランタンガレート酸化物の混合材料からなるけれども、セリウム含有酸化物の単層からなる第一層を有するため、セリウム含有酸化物の導電率が小さくなり、焼結性が低くなって、発電セルの発電性能が低下する問題点があった。また、上記従来の特許文献3に示された燃料電池セルでは、中間層がセリウム含有酸化物の単層であるため、上記従来の特許文献2に示された燃料電池セルと同様に、セリウム含有酸化物の導電率が小さくなり、焼結性が低くなって、燃料電池セルの発電性能が低下する問題点があった。更に、上記従来の特許文献3に示された燃料電池セルでは、Ni系の支持基板とランタンガレート系複合酸化物からなる固体電解質層とが共焼結時に界面で反応が生じて、界面付近で支持基板や固体電解質層の元素が相互に拡散するため、特性が劣化したり或いは抵抗値が高くなって、セルの発電性能が低下する問題点があった。
【0008】
本発明の目的は、中間層のニッケル系燃料極層及びランタンガレート系電解質層に対する焼結性及び導電性を向上させることができ、これにより発電性能に優れた、固体酸化物形燃料電池用発電セル及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の観点は、ニッケル系燃料極層と中間層とランタンガレート系電解質層と空気極層とをこの順に積層して形成された固体酸化物形燃料電池用発電セルであって、中間層が、LaをドープしたセリアとSr及びMgをドープしたランタンガレートとの複合体であることを特徴とする。
【0010】
本発明の第2の観点は、ニッケル系燃料極層と中間層とランタンガレート系電解質層と空気極層とをこの順に積層して形成された固体酸化物形燃料電池用発電セルであって、中間層が、LaをドープしたセリアにIn23を添加して構成されたことを特徴とする。
【0011】
本発明の第3の観点は、第1の観点に基づく発明であって、更にLaをドープしたセリアとSr及びMgをドープしたランタンガレートとの複合体にIn23が添加されたことを特徴とする。
【0012】
本発明の第4の観点は、第1ないし第3の観点に基づく発明であって、更にニッケル系燃料極層が、Ni、Ni−Fe、Ni−GDC、Ni−YSZ、Ni−ScSZ又はNi−SDCのいずれかであることを特徴とする。
【0013】
本発明の第5の観点は、第1ないし第3の観点に基づく発明であって、更にランタンガレート系電解質層が、Sr及びMgをドープしたランタンガレートであって、La1-xSrxGa1-yMgy3(但し、x=0.05〜0.3、y=0.025〜0.3)という式で表される組成を有するか、或いはSr、Mg及びCoをドープしたランタンガレートであって、La1-xSrxGa1-y-zMgyCoz3(但し、x=0.05〜0.3であり、y=0.025〜0.3、z=0〜0.2)という式で表される組成を有することを特徴とする。
【0014】
本発明の第6の観点は、第1ないし第3の観点に基づく発明であって、更に空気極層が、Sm(Sr)CoO3、LaMnO3、又はLa(Sr)Co(Fe)O3のいずれかであることを特徴とする。
【0015】
本発明の第7の観点は、ニッケル系燃料極層と中間層とランタンガレート系電解質層と空気極層とをこの順に積層する工程を含む固体酸化物形燃料電池用発電セルの製造方法であって、Sr及びMgをドープしたランタンガレートからなるLSGM粉末の懸濁液又はSr、Mg及びCoをドープしたランタンガレートからなるLSGMC粉末の懸濁液を調製する工程と、Sr及びMgをドープしたランタンガレートからなるLSGM粉末とLaをドープしたセリアからなるLDC粉末との混合粉末の懸濁液を調製する工程と、未焼結のニッケル系燃料極層上にLSGM粉末及びLDC粉末の混合粉末の懸濁液を塗布して乾燥した後に更にその上にLSGM粉末又はLSGMC粉末の懸濁液を塗布して乾燥する工程と、積層体を共焼結することによりニッケル系燃料極層上に中間層及びランタンガレート系電解質層をこの順に形成する工程と、このランタンガレート系電解質層上に空気極層となる懸濁液を塗布して乾燥した後に焼成して空気極層をランタンガレート系電解質層に焼付ける工程とを含むことを特徴とする。
【0016】
本発明の第8の観点は、ニッケル系燃料極層と中間層とランタンガレート系電解質層と空気極層とをこの順に積層する工程を含む固体酸化物形燃料電池用発電セルの製造方法であって、Sr及びMgをドープしたランタンガレートからなるLSGM粉末の懸濁液又はSr、Mg及びCoをドープしたランタンガレートからなるLSGMC粉末の懸濁液を調製する工程と、LaをドープしたセリアからなるLDC粉末にIn23を添加してLDC粉末の懸濁液を調製する工程と、未焼結のニッケル系燃料極層上に上記LDC粉末の懸濁液を塗布して乾燥した後に更にその上にLSGM粉末又はLSGMC粉末の懸濁液を塗布して乾燥する工程と、積層体を共焼結することによりニッケル系燃料極層上に中間層及びランタンガレート系電解質層をこの順に形成する工程と、このランタンガレート系電解質層上に空気極層となる懸濁液を塗布して乾燥した後に焼成して空気極層をランタンガレート系電解質層に焼付ける工程とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の第1の観点の発電セルでは、中間層が、LaをドープしたセリアとSr及びMgをドープしたランタンガレートとの複合体であるので、共焼結時におけるニッケル系燃料極層及び中間層の界面や、ランタンガレート系電解質層及び中間層の界面での反応が生じない。この結果、中間層のニッケル系燃料極層やランタンガレート系電解質層に対する焼結性及び導電性を向上させることができるので、発電性能に優れた発電セルが得られる。
【0018】
本発明の第2の観点の発電セルでは、Laをドープしたセリアに焼結助剤としてIn23を添加したので、上記と同様に、共焼結時におけるニッケル系燃料極層及び中間層の界面や、ランタンガレート系電解質層及び中間層の界面での反応が生じない。この結果、中間層のニッケル系燃料極層やランタンガレート系電解質層に対する焼結性及び導電性を向上させることができるので、発電性能に優れた発電セルが得られる。
【0019】
本発明の第3の観点の発電セルでは、LaをドープしたセリアとSr及びMgをドープしたランタンガレートとの複合体にIn23を添加したので、共焼結時におけるニッケル系燃料極層及び中間層の界面や、ランタンガレート系電解質層及び中間層の界面での反応を防止できるとともに、より緻密な中間層が得られる。この結果、中間層のニッケル系燃料極層やランタンガレート系電解質層に対する焼結性及び導電性を更に向上させることができるので、更に発電性能の優れた発電セルが得られる。
【0020】
本発明の第7の観点の発電セルの製造方法では、未焼結のニッケル系燃料極層上に上記LSGM粉末及び上記LDC粉末の混合粉末の懸濁液を塗布して乾燥した後に更にその上にLSGM粉末又はLSGMC粉末の懸濁液を塗布して乾燥し、更にこの積層体を共焼結してニッケル系燃料極層上に中間層及びランタンガレート系電解質層をこの順に形成したので、共焼結時におけるニッケル系燃料極層及び中間層の界面や、ランタンガレート系電解質層及び中間層の界面での反応が生じない。この結果、中間層のニッケル系燃料極層やランタンガレート系電解質層に対する焼結性及び導電性を向上させることができるので、発電性能に優れた発電セルが得られる。
【0021】
本発明の第8の観点の発電セルの製造方法では、未焼結のニッケル系燃料極層上に上記In−LDC粉末の懸濁液を塗布して乾燥した後に更にその上にLSGM粉末又はLSGMC粉末の懸濁液を塗布して乾燥し、更にこの積層体を共焼結してニッケル系燃料極層上に中間層及びランタンガレート系電解質層をこの順に形成したので、上記と同様に、共焼結時におけるニッケル系燃料極層及び中間層の界面や、ランタンガレート系電解質層及び中間層の界面での反応が生じない。この結果、中間層のニッケル系燃料極層やランタンガレート系電解質層に対する焼結性及び導電性を向上させることができるので、発電性能に優れた発電セルが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明実施形態の固体酸化物形燃料電池用発電セルの縦断面構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
次に本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。図1に示すように、固体酸化物形燃料電池用発電セル10は、ニッケル系燃料極層11と中間層12とランタンガレート系電解質層13と空気極層14とをこの順に積層して形成される。ニッケル系燃料極層11は、Ni、Ni−Fe、Ni−GDC、Ni−YSZ、Ni−ScSZ又はNi−SDCのいずれかである。Ni−GDCはNiとGDC((Ce0.8Gd0.2)O2)との混合物であり、Ni−YSZはNiとYSZとの混合物(ニッケル−イットリア安定化ジルコニア系サーメット)である。またNi−ScSZはNiとScSZとの混合物(ニッケル−スカンジア安定化ジルコニア系サーメット)であり、Ni−SDCはNiとSDC(Ce0.8Sm0.22)との混合物である。
【0024】
中間層12は、Laをドープしたセリア(LDC)と、Sr及びMgをドープしたランタンガレート(LSGM)との複合体である。Laをドープしたセリアとしては、(Ce0.6La0.4)O2が挙げられる。Laのドープ量は、LDCに対して10〜60モル%、好ましくは30〜50モル%である。またSr及びMgをドープしたランタンガレートとしては、La1-xSrxGa1-yMgy3(但し、x=0.05〜0.4、y=0.05〜0.4)が挙げられる。Srのドープ量は、LSGMに対して5〜40モル%、好ましくは10〜20モル%であり、Mgのドープ量は、LSGMに対して2.5〜40モル%、好ましくは20〜30モル%である。LDCとLSGMとの混合比は、LDCの混合割合をAとし、LSGMの混合割合をBとしたときに、A/Bが質量比で(5/5)〜(95/5)、好ましくは(6/4)〜(9/1)に設定される。更にLDCとLSGMとの複合体に、In23を添加することが好ましい。In(In23中のIn元素)の添加量は、In23を添加した複合体に対して1〜10質量%、好ましくは3〜7質量%に設定される。
【0025】
ここで、セリアへのLaのドープ量を10〜60モル%の範囲内に限定したのは、10モル%未満では共焼結時の反応を防止できず、60モル%を越えるとイオン伝導性が低下し抵抗率が増加してしまうからである。ランタンガレートへのSrのドープ量を5〜40モル%の範囲内に限定し、ランタンガレートへのMgのドープ量を5〜40モル%の範囲内に限定したのは、上記範囲外ではイオン伝導性が低下し抵抗率が増加してしまうからである。A/Bを質量比で(5/5)〜(95/5)の範囲内に限定したのは、5/5未満では共焼結時にニッケル系燃料極層11とランタンガレート系電解質13の反応を防止できず、95/5を越えると中間層12の導電率と焼結性が小さくなってしまうからである。Inの添加量を1〜10質量%の範囲内に限定したのは、1質量%未満では緻密な中間層12が得られないというInを添加した効果が得られず、10質量%を越えると中間層12の電気伝導性が無視できなくなるからである。
【0026】
ランタンガレート系電解質層13は、La1-xSrxGa1-yMgy3(但し、x=0.05〜0.3、y=0.025〜0.3)という式で表される組成を有するか、或いはLa1-xSrxGa1-y-zMgyCoz3(但し、x=0.05〜0.3、y=0.025〜0.3、z=0〜0.2)という式で表される組成を有する。また空気極層14は、Sm0.5Sr0.5CoO3やSm0.6Sr0.4CoO3等のSm(Sr)CoO3(サマリウムコバルタイト:SSC)、LaMnO3(ランタンマンガナイト)、又はLa(Sr)Co(Fe)O3(ランタン鉄コバルタイト)のいずれかである。
【0027】
このように構成された固体酸化物形燃料電池用発電セル10の製造方法を説明する。先ずニッケル系燃料極層11を作製する。燃料極層11がNiである場合、Niを所定の形状に成形する。また燃料極層11がNi−Feである場合、先ずNiOとFe(NO3)3水溶液を混合・乾固した後に仮焼して、平均粒径0.5〜2μmのNiO−Fe23の複合酸化物粉末(質量比9:1)を作製する。得られた粉末を微粉化する。この粉末を所定の圧力で所定の形状にプレス成形し、所定の圧力で等方加圧した後に、予備焼結する。これによりNi−Feからなる燃料極層11が得られる。
【0028】
更に燃料極層11がNi−GDCである場合、平均粒径0.1〜1μmのGDC粉末と平均粒径0.1〜1μmのNiO粉末とを混合し、この混合粉末にPVB、エチルセルロース等の所定のバインダと、トルエン、ブタノール、エタノール等の溶剤を加えて更に混合することにより懸濁液を調製し、この懸濁液をドクタブレード法によりグリーンシートを作製した後に、このグリーンシートを空気中で十分に乾燥する。これによりグリーンシート状のNi−GDCからなる燃料極層11が得られる。なお、本発明で使用される各粉末の平均粒径とは、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(堀場製作所製 LA−950)にて測定し、粒子径基準を個数として演算した50%平均粒子径(D50)をいう。このレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置による個数基準平均粒径の値は、走査型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ製 S−4300SE及びS−900)により観察した画像において、任意の50個の粒子について粒径を実測したときのその平均粒径とほぼ一致する。
【0029】
次いで中間層12を作製するためのLSGM粉末及びLDC粉末の混合粉末の懸濁液を調製する。具体的には、La23粉末,SrCO3粉末,Ga23粉末及びMgO粉末を所定の割合で混合し、1000〜1300℃に1〜12時間保持する仮焼を行ってLSGM仮焼体を作製する。このLSGM仮焼体を粉砕して平均粒径0.5〜4μmのLSGM粉末とする。またLa23粉末とCeO2粉末を所定の割合で混合し、1000〜1300℃に1〜12時間保持する仮焼を行ってLDC仮焼体を作製する。このLDC仮焼体を粉砕して平均粒径0.1〜2μmのLDC粉末とする。LSGM粉末にLDC粉末を所定の割合で混合して粉砕することにより、平均粒径0.1〜2μmのLSGM粉末及びLDC粉末の混合粉末を作製する。このLSGM粉末及びLDC粉末の混合粉末に、エチルセルロース、PVB等のバインダを加え、エタノール、トルエン、ブタノール等の溶剤中で混合することにより、LSGM粉末及びLDC粉末の混合粉末の懸濁液を調製する。
【0030】
ランタンガレート系電解質層13を作製するためのLSGM粉末又はLSGMC粉末の懸濁液を調製する。LSGM粉末の懸濁液は上記中間層12のLSGM粉末の懸濁液と同一の方法で調製する。またLSGMC粉末の懸濁液はLSGM粉末にCoを所定の割合で混合したこと以外は、上記中間層12のLSGM粉末の懸濁液と同様に調製する。即ち、平均粒径0.5〜4μmのLSGMC粉末に、エチルセルロース、トルエン、ブタノール等のバインダを加え、エタノール、トルエン、ブタノール等の溶剤中で混合することにより、LSGMC粉末の懸濁液を調製する。また空気極層14を作製するための粉末の懸濁液を調製する。例えば、SSC粉末の懸濁液を調製する場合には、Sm23粉末、SrCO3粉末及びCo23粉末を所定の割合で混合し、900〜1100℃に1〜12時間保持する仮焼を行ってSSC仮焼体を作製する。このSSC仮焼体を粉砕して平均粒径0.1〜1μmのSSC粉末とする。このSSC粉末に、エチルセルロース、PVB等のバインダを加え、エタノール、トルエン、ブタノール等の溶剤中で混合することにより、SSC粉末の懸濁液を調製する。
【0031】
次に、予備焼結状態又はグリーンシート状態のニッケル系燃料極層11上にLSGM粉末及びLDC粉末の混合粉末の懸濁液を塗布して乾燥した後に、更にその上にLSGM粉末又はLSGMC粉末の懸濁液を塗布して乾燥する。この積層体を1300〜1400℃に1〜12時間保持して共焼結する。これによりニッケル系燃料極層11上に中間層12及びランタンガレート系電解質層13がこの順に形成される。更にランタンガレート系電解質層13上にSSC粉末の懸濁液を塗布して乾燥した後に、1000〜1200℃に1〜12時間保持する焼成を行って空気極層14をランタンガレート系電解質層13に焼付ける。
【0032】
このように製造された固体酸化物形燃料電池用発電セル10では、中間層12が、LaをドープしたセリアとSr及びMgをドープしたランタンガレートとの複合体であるので、ニッケル系燃料極層11と中間層12との共焼結時にニッケル系燃料極層11と中間層12との界面で反応が生じず、またランタンガレート系電解質層13と中間層12との共焼結時にランタンガレート系電解質層13と中間層12との界面で反応が生じない。この結果、中間層12のニッケル系燃料極層11に対する焼結性及び導電性を向上させることができ、かつ中間層12のランタンガレート系電解質層13に対する焼結性及び導電性を向上させることができるので、発電性能に優れた発電セル10が得られる。ここで、LaをドープしたセリアとSr及びMgをドープしたランタンガレートとの複合体にIn23を添加すれば、ニッケル系燃料極層11と中間層12との共焼結時にニッケル系燃料極層11と中間層12との界面での反応を防止できるとともに、より緻密な中間層12が得られ、またランタンガレート系電解質層13と中間層12との共焼結時にランタンガレート系電解質層13と中間層12との界面での反応を防止できる。この結果、中間層12のニッケル系燃料極層11に対する焼結性及び導電性を更に向上させることができ、かつ中間層12のランタンガレート系電解質層13に対する焼結性及び導電性を更に向上させることができるので、更に発電性能の優れた発電セル10が得られる。
【0033】
なお、この実施の形態では、Laをドープしたセリア(LDC)と、Sr及びMgをドープしたランタンガレート(LSGM)との複合体により中間層を構成したが、Laをドープしたセリア(LDC)にIn23を添加して中間層を構成してもよい。この場合、In(In23中のIn元素)の添加量は、In23を添加したLDCに対して1〜10質量%、好ましくは3〜7質量%である。ここで、Inの添加量を1〜10質量%の範囲内に限定したのは、1質量%未満では緻密な中間層が得られないというInを添加した効果が得られず、10質量%を越えると中間層12の電気伝導性が無視できなくなるからである。LDCにIn23を添加した懸濁液(In−LDC粉末の懸濁液)を作製するには、先ずLDC粉末とIn23粉末を所定の割合で混合して粉砕することにより、平均粒径0.1〜2μmのIn−LDC粉末を作製する。次にこのIn−LDC粉末に、エチルセルロース、PVB等のバインダを加え、エタノール、トルエン、ブタノール等の溶剤中で混合する。これによりIn−LDC粉末の懸濁液が調製される。
【実施例】
【0034】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
<実施例1>
先ずNi−Feからなる燃料極層を作製した。具体的には、NiOとFe(NO3)3水溶液を混合・乾固した後に仮焼して、平均粒径0.5μmのNiO−Fe34の複合酸化物粉末(質量比9:1)を作製した。得られた粉末を仮焼した後に乳鉢で微粉化した。この粉末をボールミルで粉砕した後に、所定の型に入れて20MPaの圧力をかけることにより、直径及び厚さがそれぞれ20mm及び1mmである円板をプレス成形した。この円板を水中で48MPaの圧力で等方加圧した後に、800℃に3時間保持する予備焼結を行った。これによりNi−Feからなる燃料極層を得た。
【0035】
次いで中間層を作製するためのLSGM粉末及びLDC粉末の混合粉末の懸濁液を調製した。具体的には、La23粉末,SrCO3粉末,Ga23粉末及びMgO粉末を所定の割合で混合し、1200℃に6時間保持する仮焼を行ってLSGM仮焼体を作製した。このLSGM仮焼体を粉砕して平均粒径2μmのLSGM粉末とした。またLa23粉末とCeO2粉末を混合し、1100℃に6時間保持する仮焼を行ってLDC仮焼体を作製した。このLDC仮焼体を粉砕して平均粒径0.5μmのLDC粉末とした。LSGM粉末にLDC粉末を混合して粉砕することにより、平均粒径1.5μmのLSGM粉末及びLDC粉末の混合粉末を作製した。なお、LDC粉末において、セリア(CeO2)100質量%に対するLaのドープ量は40質量%であった。またLSGM粉末とLDC粉末の混合割合を質量比で5:5とした。このLSGM粉末及びLDC粉末の混合粉末に、エチルセルロース(バインダ)を加え、エタノール中で混合することにより、LSGM粉末及びLDC粉末の混合粉末の懸濁液を調製した。なお、Sr及びMgのドープ量はLSGM粉末に対してそれぞれ10モル%及び20モル%であった。また、Laのドープ量はLDC粉末に対して40モル%であった。
【0036】
ランタンガレート系電解質層を作製するためのLSGM粉末の懸濁液を調製した。具体的には、上記平均粒径2μmのLSGM粉末に、エチルセルロース(バインダ)を加え、エタノール中で混合することにより、LSGM粉末の懸濁液を調製した。また空気極層を作製するためのSSC粉末の懸濁液を調製した。具体的には、Sm23粉末、SrCO3粉末及びCo23粉末を所定の割合で混合し、1000℃に6時間保持する仮焼を行ってSSC仮焼体を作製した。このSSC仮焼体を粉砕して平均粒径0.5μmのSSC粉末とした。このSSC粉末に、エチルセルロース(バインダ)を加え、エタノール中で混合することにより、SSC粉末の懸濁液を調製した。
【0037】
次に予備焼結状態のニッケル系燃料極層上にLSGM粉末及びLDC粉末の混合粉末の懸濁液を塗布して乾燥した後に、更にその上にLSGM粉末の懸濁液を塗布して乾燥した。この積層体を1400℃に6時間保持して共焼結した。これによりニッケル系燃料極層上に中間層及びランタンガレート系電解質層がこの順に形成された。更にこのランタンガレート系電解質層上にSSC粉末の懸濁液を塗布して乾燥した後に、1100℃に3時間保持する焼成を行って空気極層をランタンガレート系電解質層に焼付けた。この発電セルを実施例1とした。
【0038】
<実施例2>
LSGM粉末とLDC粉末の混合割合を質量比で4:6としたこと以外は、実施例1と同様にして発電セルを作製した。この発電セルを実施例2とした。
【0039】
<実施例3>
LSGM粉末とLDC粉末の混合割合を質量比で3:7としたこと以外は、実施例1と同様にして発電セルを作製した。この発電セルを実施例3とした。
【0040】
<実施例4>
LSGM粉末とLDC粉末の混合割合を質量比で2:8としたこと以外は、実施例1と同様にして発電セルを作製した。この発電セルを実施例4とした。
【0041】
<実施例5>
LSGM粉末とLDC粉末の混合割合を質量比で1:9としたこと以外は、実施例1と同様にして発電セルを作製した。この発電セルを実施例5とした。
【0042】
<実施例6>
Laをドープしたセリア(LDC)にIn23を添加して中間層を構成したこと以外は実施例1と同様にして発電セルを作製した。この発電セルを実施例6とした。LDCにIn23を添加した懸濁液(In−LDC粉末の懸濁液)を作製するには、先ずLDC粉末とIn23粉末を所定の割合で混合して粉砕することにより、平均粒径0.5μmのIn−LDC粉末を作製した。次にこのIn−LDC粉末に、エチルセルロース(バインダ)を加え、エタノール中で混合した。これによりIn−LDC粉末の懸濁液が調製された。なお、Laのドープ量は、LDCに対して40モル%であり、Inの添加量は、In23を添加したLDCに対して5質量%であった。
【0043】
<実施例7>
LSGM粉末及びLDC粉末の混合粉末にIn23を添加したこと以外は、実施例1と同様にして発電セルを作製した。この発電セルを実施例7とした。なお、In(In23中のIn元素)の添加量は、In23を添加したLSGM粉末及びLDC粉末の合計量に対して5質量%であった。
【0044】
<実施例8>
LSGM粉末とLDC粉末の混合割合を質量比で4:6としたこと以外は、実施例7と同様にして発電セルを作製した。この発電セルを実施例8とした。
【0045】
<実施例9>
LSGM粉末とLDC粉末の混合割合を質量比で3:7としたこと以外は、実施例7と同様にして発電セルを作製した。この発電セルを実施例9とした。
【0046】
<実施例10>
LSGM粉末とLDC粉末の混合割合を質量比で2:8としたこと以外は、実施例7と同様にして発電セルを作製した。この発電セルを実施例10とした。
【0047】
<実施例11>
LSGM粉末とLDC粉末の混合割合を質量比で1:9としたこと以外は、実施例7と同様にして発電セルを作製した。この発電セルを実施例11とした。
【0048】
<比較例1>
実施例1のLDC粉末のみの懸濁液を調製し、この懸濁液を実施例1の予備焼結状態のニッケル系燃料極層上に塗布したこと以外は、実施例1と同様にして発電セルを作製した。この発電セルを比較例1とした。
【0049】
<比較試験1及び評価>
実施例1〜11及び比較例1の発電セルにおいて、中間層の気孔率及び導電率と、界面反応の有無を次の方法で評価した。先ず実施例1〜11及び比較例1で使用した中間層を作製するための懸濁液からドクタブレード法でグリーンシートを作製し、これを1350℃で6時間保持して焼結した。次にこれらの焼結体について水中密度を測定して気孔率を評価した。また四端子方で導電率を測定した。更に界面反応の有無は、実施例1〜11及び比較例1の発電セルを粉砕して得た粉末をXRD(X線回折装置)で測定し、中間層とニッケル系燃料極の界面における反応によるピークの有無と、中間層とランタンガレート系電解質層の界面における反応によるピークの有無を調べて判断した。
【0050】
【表1】

表1から明らかなように、比較例1では、中間層の気孔率が29.7%と大きかったのに対し、実施例1〜5及び実施例7〜11では、中間層の気孔率が0.09〜13.35と小さくなった。即ち、実施例1〜5及び実施例7〜11の中間層の方が比較例1の中間層より緻密になっていることが分かった。特に、実施例1〜3(LSGM:LDC=(5:5)〜(3:7))及び実施例7〜8(LSGM:LDC=(5:5)〜(3:7))では、気孔率が0.09〜0.34と極めて小さくなり、中間層が極めて緻密になっていることが分かった。これは、LSGMの焼結性が良好であるためと考えられる。
【0051】
また、比較例1では、中間層の気孔率が29.7%と大きかったのに対し、実施例6では、中間層の気孔率が17.35%と小さくなった。これは、LDCにIn23を添加した実施例6の中間層がLDC単体の比較例1の中間層と比べて相対密度が増加して、焼結性が向上したためである。即ち、実施例6では、LDCにIn23を添加することによって、焼結中に粒界付近に液相が生成し、この液相を介して焼結初期の再配列が促進されるためであると考えられる。更に、比較例1では、中間層の導電率が0.047S/cmと小さかったのに対し、実施例1〜5及び実施例7〜11では、中間層の導電率が0.052〜0.071S/cmと大きくなった。即ち、実施例1〜5及び実施例7〜11の中間層の方が比較例1の中間層より酸素イオンが伝導し易いことが分かった。
【符号の説明】
【0052】
10 固体酸化物形燃料電池用発電セル
11 ニッケル系燃料極層
12 中間層
13 ランタンガレート系電解質層
14 空気極層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル系燃料極層と中間層とランタンガレート系電解質層と空気極層とをこの順に積層して形成された固体酸化物形燃料電池用発電セルであって、
前記中間層が、LaをドープしたセリアとSr及びMgをドープしたランタンガレートとの複合体であることを特徴とする固体酸化物形燃料電池用発電セル。
【請求項2】
ニッケル系燃料極層と中間層とランタンガレート系電解質層と空気極層とをこの順に積層して形成された固体酸化物形燃料電池用発電セルであって、
前記中間層が、LaをドープしたセリアにIn23を添加して構成されたことを特徴とする固体酸化物形燃料電池用発電セル。
【請求項3】
前記Laをドープしたセリアと前記Sr及びMgをドープしたランタンガレートとの複合体にIn23が添加された請求項1記載の固体酸化物形燃料電池用発電セル。
【請求項4】
前記ニッケル系燃料極層が、Ni、Ni−Fe、Ni−GDC、Ni−YSZ、Ni−ScSZ又はNi−SDCのいずれかである請求項1ないし3いずれか1項に記載の固体酸化物形燃料電池用発電セル。
【請求項5】
前記ランタンガレート系電解質層が、Sr及びMgをドープしたランタンガレートであって、La1-xSrxGa1-yMgy3(但し、x=0.05〜0.3、y=0.025〜0.3)という式で表される組成を有するか、或いはSr、Mg及びCoをドープしたランタンガレートであって、La1-xSrxGa1-y-zMgyCoz3(但し、x=0.05〜0.3であり、y=0.025〜0.3、z=0〜0.2)という式で表される組成を有する請求項1ないし3いずれか1項に記載の固体酸化物形燃料電池用発電セル。
【請求項6】
前記空気極層が、Sm(Sr)CoO3、LaMnO3、又はLa(Sr)Co(Fe)O3のいずれかである請求項1ないし3のいずれか1項に記載の固体酸化物形燃料電池用発電セル。
【請求項7】
ニッケル系燃料極層と中間層とランタンガレート系電解質層と空気極層とをこの順に積層する工程を含む固体酸化物形燃料電池用発電セルの製造方法であって、
Sr及びMgをドープしたランタンガレートからなるLSGM粉末の懸濁液又はSr、Mg及びCoをドープしたランタンガレートからなるLSGMC粉末の懸濁液を調製する工程と、
Sr及びMgをドープしたランタンガレートからなるLSGM粉末とLaをドープしたセリアからなるLDC粉末との混合粉末の懸濁液を調製する工程と、
未焼結の前記ニッケル系燃料極層上に前記LSGM粉末及びLDC粉末の混合粉末の懸濁液を塗布して乾燥した後に更にその上に前記LSGM粉末又はLSGMC粉末の懸濁液を塗布して乾燥する工程と、
前記積層体を共焼結することにより前記ニッケル系燃料極層上に中間層及びランタンガレート系電解質層をこの順に形成する工程と、
前記ランタンガレート系電解質層上に前記空気極層となる懸濁液を塗布して乾燥した後に焼成して前記空気極層を前記ランタンガレート系電解質層に焼付ける工程と
を含むことを特徴とする固体酸化物形燃料電池用発電セルの製造方法。
【請求項8】
ニッケル系燃料極層と中間層とランタンガレート系電解質層と空気極層とをこの順に積層する工程を含む固体酸化物形燃料電池用発電セルの製造方法であって、
Sr及びMgをドープしたランタンガレートからなるLSGM粉末の懸濁液又はSr、Mg及びCoをドープしたランタンガレートからなるLSGMC粉末の懸濁液を調製する工程と、
LaをドープしたセリアからなるLDC粉末にIn23を添加してIn−LDC粉末の懸濁液を調製する工程と、
未焼結の前記ニッケル系燃料極層上に前記In−LDC粉末の懸濁液を塗布して乾燥した後に更にその上に前記LSGM粉末又はLSGMC粉末の懸濁液を塗布して乾燥する工程と、
前記積層体を共焼結することにより前記ニッケル系燃料極層上に中間層及びランタンガレート系電解質層をこの順に形成する工程と、
前記ランタンガレート系電解質層上に前記空気極層となる懸濁液を塗布して乾燥した後に焼成して前記空気極層を前記ランタンガレート系電解質層に焼付ける工程と
を含むことを特徴とする固体酸化物形燃料電池用発電セルの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−142042(P2011−142042A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−2969(P2010−2969)
【出願日】平成22年1月8日(2010.1.8)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【出願人】(000156938)関西電力株式会社 (1,442)
【Fターム(参考)】