説明

固体酸化物形燃料電池

【課題】空気極を構成する活性層と集電層との界面における、電気的な接合性を向上させる。
【解決手段】空気極103は、電解質層101の他方の面の側に形成された活性層131と、活性層131の上に接して形成された第1集電層132と、第1集電層132の上に接して形成された第2集電層133とを少なくとも備え、活性層131は、イオン伝導性を有する材料から構成された粉体の焼結体から構成され、第1集電層132は、電子伝導性を有する材料から構成されて平均粒径が0.8μmより小さい粉体の焼結体から構成され、第2集電層133は、電子伝導性を有する材料から構成されて平均粒径が0.8μmより大きい粉体の焼結体から構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属酸化物で構成された固体酸化物形燃料電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、酸素イオン伝導体を固体酸化物電解質層に用いた固体酸化物形燃料電池に、関心が高まりつつある。特に、エネルギーの有効利用という観点から、固体酸化物形燃料電池は、カルノー効率(熱エネルギー利用効率の限界)の制約を受けないため、本質的に高いエネルギー変換効率を有している。さらに、固体酸化物形燃料電池は、良好な環境保全が期待されるなど、優れた特徴を有している(非特許文献1,2参照)。
【0003】
この固体酸化物形燃料電池は、当初、動作温度が900〜1000℃と高く、すべての部材がセラミックから構成されていた。このため、セルスタックの製造コストの低減が容易ではなかった。ここで、動作温度を800℃程度にまで低減することができれば、インターコネクタ(セパレータ)に耐熱合金材料を用いることが可能となり、製造コストの低減が図れるようになる。しかしながら、動作温度の低下に伴い、例えば、空気極における化学反応の速度が低下し、電気化学的な抵抗である過電圧が急激に増大し、出力電圧の低下を招くという問題が発生する。
【0004】
ところで、上述したような材料を用いた固体酸化物形燃料電池は、各電極や電解質層を、各材料の微粒子(粉体)の焼結体(セラミック)から構成されている。このため、電極反応の進行する電極/電解質/気体の三相の接する界面(三相界面)の長さを拡大することで、より高い電極特性が得られるようになる。従って、前述した動作温度の低下に伴う出力電圧の低下は、三相界面長を増大することにより解消することが可能である。
【0005】
例えば、空気極を作製するときに用いた粉体の粒径(平均粒径)を小さくすることで上述した問題の解消が期待できる。空気極には、電子伝導性が高く、高温の酸化雰囲気でも安定なLa(Sr)MnO3やLa(Sr)Fe(Ni)O3などのペロブスカイト系酸化物の粉末(粉体)を焼成した多孔質体が用いられている。このように構成された空気極の粒径を小さくすることで、電解質と空気極の粒子と空気の三相が接する部分の長さである三相界面長を増やすことができるからである。
【0006】
一方、空気極は、電流と空気を供給する働きがあるため、この観点からは、空気極を構成する粒子の粒径が大きい方が好ましい。このため、空気極の電解質に近い部分を電子伝導性の粒子とイオン伝導性の粒子の混合物の層(活性層)から構成し、電解質から遠い部分を粒径の大きな電子伝導性粒子の層(集電層)から構成した積層構造体とする技術が提案されている。このようにすることで、空気極の電解質側を構成している活性層においては、電子伝導性粒子とイオン伝導性粒子の接点が上記三相界面となるため、電極特性を向上させることができる。ここで、Pr611の粒子および、Pr611などを添加した粒子は、電子およびイオン両方に対して伝導性を有する混合導電性を示す。このため、これらの粒子のみで活性層を形成することが可能である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】A.Mai, et al. ,"Ferrite-based perovskites as cathode materials for anode-suported solid oxide fuel cells Part II influence of the CGO interlayer", Solid State Ionics. vol.177, pp.2103-2107, 2006.
【非特許文献2】Y.Matsuzaki, et al. ,"Electrochemical properties of reduced-temperature SOFCs with mixed ionic-electronic conductors in electrodes and/or interlayers",Solid State Ionics, vol.152-153, pp.463-468, 2002.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述したように空気極を活性層および集電層から構成する場合、次に示すような問題がある。活性層においては、イオン伝導性も要求しているために電子伝導性があまり高くない。このため、活性層と粒径を大きくしている集電層との間の電気的な接続に、空間的なムラが生じ、活性層の一部が機能しなくなるという問題がある。
【0009】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、空気極を構成する活性層と集電層との界面における、電気的な接合性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る固体酸化物形燃料電池は、電解質層、この電解質層の一方の面の上に形成された燃料極、および電解質層の他方の面に形成された空気極を備え、空気極は、電解質層の他方の面の側に形成された活性層と、この活性層の上に接して形成された第1集電層と、この第1集電層の上に接して形成された第2集電層とを少なくとも備え、活性層は、イオン伝導性を有する材料から構成された粉体の焼結体から構成され、第1集電層は、電子伝導性を有する材料から構成されて平均粒径が0.8μmより小さい粉体の焼結体から構成され、第2集電層は、電子伝導性を有する材料から構成されて平均粒径が0.8μmより大きい粉体の焼結体から構成されている。
【0011】
上記固体酸化物形燃料電池において、イオン伝導性を有する材料は、Nb,Ta,Zr,希土類元素の中から選ばれる1以上の元素が添加されたPr611、および希土類添加セリアの中より選択されたものであり、電子伝導性を有する材料は、ペロブスカイト系酸化物から構成されたものであればよい。
【0012】
上記固体酸化物形燃料電池において、第1集電層の層厚は、第2集電層を構成している粒子の平均粒子径より大きく、30μm以下とされていればよい。また、第1集電層には、平均粒径が0.8μmを超える粒子が20wt%以下の範囲で含まれていてもよく、第2集電層には、平均粒径が0.8μmより小さい粒子が20wt%以下の範囲で含まれていてもよい。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように、本発明によれば、活性層の上に接して形成された第1集電層が、電子伝導性を有する材料から構成されて平均粒径が0.8μmより小さい粉体の焼結体から構成されているようにしたので、空気極を構成する活性層と集電層との界面における、電気的な接合性が向上するという優れた効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1A】本発明の実施の形態における固体酸化物形燃料電池の一部構成を示す断面図である。
【図1B】本発明の実施の形態における他の固体酸化物形燃料電池の一部構成を示す断面図である。
【図2】試験装置の構成を示す構成図である。
【図3】試料セルの構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。図1Aは、本発明の実施の形態における固体酸化物形燃料電池の一部構成を示す断面図である。この固体酸化物形燃料電池は、電解質層101と、電解質層101の一方の面の上に形成された燃料極102と、電解質層101の他方の面の上に形成された空気極103とを備える。また、空気極103は、電解質層101の他方の面の側に形成された活性層131と、活性層131の上に接して形成された第1集電層132と、第1集電層132の上に接して形成された第2集電層133とを少なくとも備える。
【0016】
また、本実施の形態では、活性層131は、イオン伝導性を有する材料から構成された粉体の焼結体から構成され、第1集電層132は、電子伝導性を有する材料から構成されて平均粒径が0.8μmより小さい粉体の焼結体から構成され、第2集電層133は、電子伝導性を有する材料から構成されて平均粒径が0.8μmより大きい粉体の焼結体から構成されている。
【0017】
上述したように、活性層131と第2集電層133との間に、第2集電層133を構成している粉体より小さい粒径の粉体の焼結体から構成された第1集電層132を設けることで、活性層131とこの第1集電層132との接合部がより多く設けられるようになり、活性層131に電流をムラ無く供給できるようになる。これにより、活性層131中において、全ての領域で電流が充分に供給され、従って電極反応に寄与することができる。
【0018】
一般に、第2集電層133では、粒径が1μm以上のペロブスカイト系酸化物からなる粉体を使用しているので、この粒径よりも小さな(微細な)(1μm以下)の粒子からなる粉体を第1集電層132に用いれば効果がある。ここで、固体酸化物形燃料電池の運転温度である650℃〜1000℃において、ペロブスカイト系酸化物は粒成長する。このため、第1集電層132を構成する粉体の粒径は、製造時点で、せいぜい0.3μm〜0.7μm程度とするのが現実的である。
【0019】
第1集電層132と第2集電層133との界面は、やはり第2集電層133を構成しているより大きな粒子との接合ポイントだけで接合されることになり、この部分に電流集中がおきる。しかし、第1集電層132は、活性層131に比べ電子電導度が高いため、この電流集中によっても電圧降下はほとんど生じない。このため、第1集電層132内において、電流は均一に広がって行き、活性層131の全体に均一に電流を供給することができる。
【0020】
ここで、第1集電層132の層厚は、第2集電層133を構成している粉体の粒径に比較してあまり薄くすると、上述した電流集中の緩和が困難になる。また、第1集電層132の層厚は、第2集電層133を構成している粉体の粒径に比較してあまり厚くすると、活性層131への空気(酸化ガス)の供給を阻害する。従って、第1集電層132の層厚は、0.5μmから30μm程度が好ましく、さらに好ましくは、2μmから10μmである。
【0021】
ところで、図1Bに示すように、活性層131と電解質層101との間に、Pr以外の希土類が添加されたセリウム酸化物より構成された中間層105を備えるようにしたものである。例えば、中間層105は、GDC(Ce0.9Gd0.1O)の粉体の焼結体から構成されていればよい。このように中間層105を設けることで、電解質層101を構成しているジルコニアと活性層131を構成しているLaおよびPrをより効率よく分離させることができ、固体酸化物形燃料電池の活性層131(空気極103)と電解質層101との間の界面抵抗をより抑制できるようになる。この結果、空気極を構成する活性層と集電層との界面における、電気的な接合性を向上させることができる。
【0022】
なお、電解質層101は、例えば、酸化スカンジウム(Sc23)および酸化アルミニウム(Al23)安定化ZrO2(SASZ),イットリア安定化ジルコニア(YSZ),スカンジア安定化ジルコニア(ScSZ)などのジルコニア材料の粉体(粉末)の焼結体から構成されていればよい。また、燃料極102は、例えば、ニッケル−イットリア安定化ジルコニアサーメット(Ni−YSZ),ニッケル−スカンジア安定化ジルコニア(Ni−ScSZ)などの、電解質層101を構成する酸化物材料に金属ニッケルが混合された電子伝導性を有する金属−酸化物混合体(サーメット)の粉体の焼結体から構成されていればよい。
【0023】
また、上述した各層は、よく知られているように、用いる材料の粉体もしくは混合粉体のスラリを作製し、ドクターブレード法による成形やスクリーン印刷法による塗布で、スラリの膜(層)を形成し、これを1000〜1200℃で焼成することで作製することができる。なお、上述では、活性層131,第1集電層132,および第2集電層133(空気極)と中間層105とを、個別の層として説明しているが、これらを燃料電池の構成上の空気極として捉えることもできる。
【0024】
次に、各層の構成材料、第1集電層132,第2集電層133に用いる粒径などを変化させて試料セルを作製し、作製した各試料セルにおける空気極側の界面抵抗を測定した結果について、実施例を用いて説明する。なお、試料セルを用い、図2の断面図に示すように試験装置に組み込んで電気的な測定を行う。図2に示す試験装置について説明すると、支持基板となる電解質層101の一方の面に燃料極102および集電体107が積層され、他方の面に活性層131,第1集電層132,第2集電層133,および集電体108が積層されている。また、図3の斜視図にも示すように、電解質層101の他方の面の周辺部には、白金からなる参照電極109が設けられている。なお、図3では、燃料極は電解質層101に隠れて見えない。
【0025】
また、電解質層101の一方の面には、燃料極102が配設されている領域を囲うように円筒形状の燃料ガス排気配管201の端部が固定され、燃料ガス排気配管201の内側に燃料ガス供給配管202が配置されている。燃料ガス供給配管202により導入される燃料ガス(水素ガス)は、燃料ガス供給配管202の吐出端より燃料極102の領域に供給さる。また、燃料極102において排出されるガスは、燃料ガス排気配管201内の燃料ガス供給配管202の外側の領域より外部に取り出される。
【0026】
一方、電解質層101の他方の面には、活性層131,第1集電層132,および第2集電層からなる空気極が配設されている領域を囲うように円筒形状の酸化剤ガス排気配管203の端部が固定され、酸化剤ガス排気配管203の内側に酸化剤ガス供給配管204が配置されている。酸化剤ガス供給配管204により導入される酸化剤ガス(?酸素ガス,空気など?)は、酸化剤ガス供給配管204の吐出端より空気極の領域に供給さる。また、空気極において排出されるガスは、酸化剤ガス排出配管203内の酸化剤ガス供給配管204の外側の領域より外部に取り出される。なお、各排気配管は、ガスシール207により、電解質層101の表面に接着固定されている。
【0027】
[実施例1]
はじめに、実施例1について説明する。実施例1では、図1Bを用いて説明したように、活性層と電解質層との間に、GDCを材料とした中間層を備えた構成としている。
【0028】
はじめに、試料となる固体酸化物形燃料電池の単セルの作製について説明する。まず、よく知られたドクターブレード法でシート状に成形して焼成したSc23,Al23添加ジルコニア(0.89ZrO2−0.10Sc23−0.01Al23:SASZ)からなる電解質基板を用意する。電解質基板は、厚さ1.0mmに形成する。
【0029】
次に、10mol%Y23が添加された平均粒径が約0.3μmのジルコニアの粉体(40wt%)に平均粒径が0.2μmのNiO粉体(60wt%)を混合した混合粉体のスラリを作製し、このスラリを上述した電解質基板の一方の面に、よく知られたスクリーン印刷法により塗布して燃料極塗布膜を形成する。加えて、この燃料極塗布膜の上に白金のメッシュよりなる集電体を配置し、これらを、1400℃・8時間の熱処理条件で、空気中で焼成し、上記混合粉体の焼結体からなる厚さ40μmの燃料極が形成された状態とする。
【0030】
次に、エチルセルロースをテレビン油に溶かした溶媒に、平均粒径が0.2μmのGDC(Ce0.9Gd0.12)粉体を分散させたスラリを作製し、このスラリを、上述した電解質基板の他方の面にスクリーン印刷法により塗布して中間層塗布膜を形成する。これを1150℃の熱処理条件で焼成し、膜厚4μmの中間層を形成する。
【0031】
続いて、平均粒径が0.2μmのPDC(Pr0.8Ce0.22)粉体と平均粒径が1.0μmのLNF(LaNi0.6Fe0.43)粉体との混合粉体からなるスラリを作製し、このスラリを、上述した中間層塗布膜の上にスクリーン印刷法により塗布して活性層塗布膜を形成する。このスラリにおいても、エチルセルロースをテレビン油に溶かした溶媒を用いる。例えば、PDCがイオン伝導性を有する材料である。
【0032】
続いて、エチルセルロースをテレビン油に溶かした溶媒に、平均粒径が1.0μmのLNF粉体を分散させたスラリを作製し、このスラリを活性層塗布膜の上に塗布して集電層塗布膜を形成する。例えば、LNFが電子伝導性を有する材料である。最後に、集電層の上にPtメッシュ集電体を乗せ、1000℃・2時間の熱処理条件で焼成し、上述した層構成の空気極が形成された状態とする。各層は、各層を構成する粉体の焼結体から構成される。上述した試料は、参照となる試料セル#1-0であり、この参照試料セルでは、焼成後の中間層および活性層の層厚は4μm、集電層の層厚は、40μm程度とする。また、燃料極および空気極ともに、直径10mmに成型した。
【0033】
以上に説明した参照試料セルに対し、以下に示すように試料セル(#1-1〜#1-8)を作製する。まず、上述した参照試料セルの集電層を、第1集電層および第2集電層の2層構造とする。例えば、上記同様の溶媒に、平均粒径が0.5μmのLNF粉体を分散させたスラリを活性層塗布膜の上に塗布して第1集電層塗布膜を形成し、続いて、平均粒径が1.0μmのLNF粉体を分散させたスラリを第1集電層塗布膜の上に塗布して第2集電層塗布膜を形成する。他は、前述同様にして試料セル(#1-1)を作製する。平均粒径0.5μmのLNF粉体を微細粒子とし、平均粒径1.0μmのLNF粉体を粗大粒子とする。微細粒子から構成した第1集電層の層厚は、焼成後で約4μmとする。
【0034】
また、試料セル(#1-2〜#1-4)においては、第1集電層を構成する粉体(第1集電層内の粉末)に、粗大粒子が、5wt%,10wt%,および20wt%混合され、試料セル(#1-5〜#1-7)においては、第2集電層を構成する粉体(第2集電層内の粉末)に、微細粒子が、5wt%,10wt%,および20wt%混合されたものとする。また、試料セル(#1-8)においては、第1集電層内の粉末に、粗大粒子が10wt%混合され、加えて、第2集電層内の粉末に、微細粒子が、10wt%混合されたものとする。
【0035】
なお、各試料においては、図2,3を用いて説明したように、電解質層の外周部に白金ペーストを塗布して参照極を形成している。また、これらの試料セルは、図2を用いて説明した試験装置に装着し、800℃にて、参照極を利用した3端子交流インピーダンス法により空気極特性を評価する。ここで、空気極、参照極には酸素を燃料極には、室温(20〜25℃)加湿水素を供給した。開放電圧としては、理論値に近い1.13Vが得られる。
【0036】
交流インピーダンス法で、界面抵抗および直流抵抗を測定する。測定自体は開放電圧で行った。この測定結果を以下の表1に示す。ここでは、各セルの空気極の直流抵抗成分(R0)と界面抵抗成分(Rint)を示している。比較例である試料セル#1-0に比べ、試料セル#1-1〜試料セル#1-8は、界面抵抗成分、直流抵抗成分いずれについても小さく、空気極特性が向上していることがわかる。以上の結果より、平均粒径が0.8μmより小さい粉体を用いて焼成して作製した第1集電層を設けることで、空気極を構成する活性層と集電層との界面における、電気的な接合性を向上させることができ、空気極特性が向上することが示された。なお、表1において、元素の組成比を示す数字は、元素記号の左側に元素記号と同じ大きさで記載している。これは、以降の各表においても同様である。
【0037】
【表1】

【0038】
[実施例2]
次に、実施例2について説明する。実施例2でも、活性層と電解質層との間に、GDCを材料とした中間層を備えた構成としている。
【0039】
実施例2においては、前述した実施例1と同様に、電解質基板、燃料極を形成し、中間層塗布膜を形成した後、平均粒径が0.2μmのPDC(Pr0.8Ce0.22)粉体のスラリを作製し、このスラリを、中間層塗布膜の上にスクリーン印刷法により塗布して活性層塗布膜を形成し、この後、前述した実施例1と同様にして、集電層(第1集電層、第2集電層)と各塗布膜を形成して焼成することで、各試料セル(#2-0,#2-1〜#2-8)を作製する。前述した実施例1では、活性層をPDCとLNFから構成したが、実施例2では、活性層をPDCから構成する。
【0040】
また、実施例2においても、試料セル(#2-2〜#2-4)においては、第1集電層を構成する粉体(第1集電層内の粉末)に、粗大粒子が、5wt%,10wt%,および20wt%混合され、試料セル(#2-5〜#2-7)においては、第2集電層を構成する粉体(第2集電層内の粉末)に、微細粒子が、5wt%,10wt%,および20wt%混合されたものとする。また、試料セル(#2-8)においては、第1集電層内の粉末に、粗大粒子が10wt%混合され、加えて、第2集電層内の粉末に、微細粒子が、10wt%混合されたものとする。
【0041】
また、各試料においては、電解質層の外周部に参照極を形成している。また、これらの試料セルは、図2を用いて説明した試験装置に装着し、800℃にて、参照極を利用した3端子交流インピーダンス法により空気極特性を評価する。ここで、空気極、参照極には酸素を燃料極には、室温加湿水素を供給した。開放電圧としては、理論値に近い1.13Vが得られる。
【0042】
交流インピーダンス法で、界面抵抗および直流抵抗を測定する。測定自体は開放電圧で行った。この測定結果を以下の表2に示す。ここでは、各セルの空気極の直流抵抗成分(R0)と界面抵抗成分(Rint)を示している。比較例である試料セル#2-0に比べ、試料セル#2-1〜試料セル#2-8は、界面抵抗成分、直流抵抗成分いずれについても小さく、空気極特性が向上していることがわかる。以上の結果より、平均粒径が0.8μmより小さい粉体を用いて焼成して作製した第1集電層を設けることで、空気極を構成する活性層と集電層との界面における、電気的な接合性を向上させることができ、空気極特性が向上することが示された。
【0043】
【表2】

【0044】
[実施例3]
次に、実施例3について説明する。実施例3では、活性層をGDCとLNFとから構成し、前述した実施例1,2で用いた中間層を備えていない構成としている。
【0045】
実施例3においては、前述した実施例1と同様に、電解質基板、燃料極を形成した後、エチルセルロースをテレビン油に溶かした溶媒に、平均粒径が0.2μmのGDC(Ce0.9Gd0.12)粉体と平均粒径が1.0μmのLNF(LaNi0.6Fe0.43)粉体との混合粉体からなるスラリを作製し、このスラリを、上述した中間層塗布膜の上にスクリーン印刷法により塗布して活性層塗布膜を形成し、この後、前述した実施例1,2と同様にして、集電層(第1集電層、第2集電層)と各塗布膜を形成して焼成することで、各試料セル(#3-0,#3-1〜#3-8)を作製する。前述した実施例1では、活性層をPDCとLNFから構成したが、実施例3では、活性層をDGCとLNFとから構成する。
【0046】
また、実施例3においても、試料セル(#3-2〜#3-4)においては、第1集電層を構成する粉体(第1集電層内の粉末)に、粗大粒子が、5wt%,10wt%,および20wt%混合され、試料セル(#3-5〜#3-7)においては、第2集電層を構成する粉体(第2集電層内の粉末)に、微細粒子が、5wt%,10wt%,および20wt%混合されたものとする。また、試料セル(#3-8)においては、第1集電層内の粉末に、粗大粒子が10wt%混合され、加えて、第2集電層内の粉末に、微細粒子が、10wt%混合されたものとする。
【0047】
また、各試料においては、電解質層の外周部に参照極を形成している。また、これらの試料セルは、図2を用いて説明した試験装置に装着し、800℃にて、参照極を利用した3端子交流インピーダンス法により空気極特性を評価する。ここで、空気極、参照極には酸素を燃料極には、室温加湿水素を供給した。開放電圧としては、理論値に近い1.13Vが得られる。
【0048】
交流インピーダンス法で、界面抵抗および直流抵抗を測定する。測定自体は開放電圧で行った。この測定結果を以下の表3に示す。ここでは、各セルの空気極の直流抵抗成分(R0)と界面抵抗成分(Rint)を示している。比較例である試料セル#3-0に比べ、試料セル#3-1〜試料セル#3-8は、界面抵抗成分、直流抵抗成分いずれについても小さく、空気極特性が向上していることがわかる。以上の結果より、平均粒径が0.8μmより小さい粉体を用いて焼成して作製した第1集電層を設けることで、空気極を構成する活性層と集電層との界面における、電気的な接合性を向上させることができ、空気極特性が向上することが示された。また、実施例1〜3の結果より、第1集電層に、粒径0.8μmを超える粒子(粗大粒子)が20wt%までの範囲で含まれていてもよく、第2集電層に、粒径0.8μmより小さい粒子(微細粒子)が20wt%までの範囲で含まれていてもよいことがわかる。
【0049】
【表3】

【0050】
[実施例4]
次に、実施例4について説明する。実施例4では、まず、前述した実施例1の参照試料セル(#1-0)の活性層において、イオン伝導性を有する材料として用いるPDCの組成を変化させて複数の参照試料セル(#4-0-1〜#4-0-8)を作製する。ここでは、Nb,Ta,Zr、希土類元素の中から選ばれる1以上の元素が添加されたPr611、または希土類添加セリアを用いる。また、これらの参照試料セルに対し、集電層を第1集電層および第2集電層で構成した試料セル(#4-1-1〜#4-1-8)を作製する。また、試料セル(#4-1-1〜#4-1-8)においては、第1集電層内の粉末に、粗大粒子が10wt%混合され、第2集電層内の粉末に、微細粒子が、10wt%混合されたものとする。
【0051】
また、各試料においては、電解質層の外周部に参照極を形成している。また、これらの試料セルは、図2を用いて説明した試験装置に装着し、800℃にて、参照極を利用した3端子交流インピーダンス法により空気極特性を評価する。ここで、空気極、参照極には酸素を燃料極には、室温加湿水素を供給した。開放電圧としては、理論値に近い1.13Vが得られる。
【0052】
交流インピーダンス法で、界面抵抗および直流抵抗を測定する。測定自体は開放電圧で行った。この測定結果を以下の表4に示す。ここでは、各セルの空気極の直流抵抗成分(R0)と界面抵抗成分(Rint)を示している。比較例である試料セル(#4-0-1〜#4-0-8)に比べ、試料セル(#4-1-1〜#4-1-8)は、界面抵抗成分、直流抵抗成分いずれについても小さく、空気極特性が向上していることがわかる。以上の結果より、平均粒径が0.8μmより小さい粉体を用いて焼成して作製した第1集電層を設けることで、空気極を構成する活性層と集電層との界面における、電気的な接合性を向上させることができ、空気極特性が向上することが示された。
【0053】
【表4】

【0054】
[実施例5]
次に、実施例5について説明する。実施例5では、まず、前述した実施例2の参照試料セル(#2-0)の活性層において、材料として用いるPDCの組成を変化させて複数の参照試料セル(#5-0-1〜#5-0-8)を作製する。実施例5では、実施例2と同様に、活性層をPDCから構成する。また、これらの参照試料セルに対し、集電層を第1集電層および第2集電層で構成した試料セル(#5-1-1〜#5-1-8)を作製する。また、試料セル(#5-1-1〜#5-1-8)においては、第1集電層内の粉末に、粗大粒子が10wt%混合され、第2集電層内の粉末に、微細粒子が、10wt%混合されたものとする。
【0055】
また、各試料においては、電解質層の外周部に参照極を形成している。また、これらの試料セルは、図2を用いて説明した試験装置に装着し、800℃にて、参照極を利用した3端子交流インピーダンス法により空気極特性を評価する。ここで、空気極、参照極には酸素を燃料極には、室温加湿水素を供給した。開放電圧としては、理論値に近い1.13Vが得られる。
【0056】
交流インピーダンス法で、界面抵抗および直流抵抗を測定する。測定自体は開放電圧で行った。この測定結果を以下の表5に示す。ここでは、各セルの空気極の直流抵抗成分(R0)と界面抵抗成分(Rint)を示している。比較例である試料セル(#5-0-1〜#5-0-8)に比べ、試料セル(#5-1-1〜#5-1-8)は、界面抵抗成分、直流抵抗成分いずれについても小さく、空気極特性が向上していることがわかる。以上の結果より、平均粒径が0.8μmより小さい粉体を用いて焼成して作製した第1集電層を設けることで、空気極を構成する活性層と集電層との界面における、電気的な接合性を向上させることができ、空気極特性が向上することが示された。
【0057】
【表5】

【0058】
[実施例6]
次に、実施例6について説明する。実施例6では、前述した実施例1の試料セル(#1-8)の第1集電層を構成する微細粒子の平均粒径、および第2集電層を構成する粗大粒子の平均粒径を変化させた試料セル(#6-1〜#6-9)を作製する。第1集電層における微細粒子の平均粒径は、0.1μm〜0.7μmの範囲で変化させ、第2集電層における粗大粒子の平均粒径は、0.8μm〜3.0μmの範囲で変化させる。
【0059】
また、各試料においては、電解質層の外周部に参照極を形成している。また、これらの試料セルは、図2を用いて説明した試験装置に装着し、800℃にて、参照極を利用した3端子交流インピーダンス法により空気極特性を評価する。本実施例でも、空気極、参照極には酸素を燃料極には、室温加湿水素を供給した。開放電圧としては、理論値に近い1.13Vが得られる。
【0060】
交流インピーダンス法で、界面抵抗および直流抵抗を測定する。測定自体は開放電圧で行った。この測定結果を以下の表6に示す。ここでも、各セルの空気極の直流抵抗成分(R0)と界面抵抗成分(Rint)を示している。表1に示した比較例である試料セル(#1-0)に比べ、表6に示す試料セル(#6-1〜#6-9)は、界面抵抗成分、直流抵抗成分いずれについても小さく、空気極特性が向上していることがわかる。以上の結果より、平均粒径が0.8μmより小さい粉体を用いて焼成して作製した第1集電層を設け、第2集電層では、用いる材料の粉体の平均粒径を0.8μm以上とすることで、空気極を構成する活性層と集電層との界面における、電気的な接合性を向上させることができ、空気極特性が向上することが示された。
【0061】
【表6】

【0062】
[実施例7]
次に、実施例7について説明する。実施例7では、まず、前述した実施例1の参照試料セル(#1-0)の活性層において、電子伝導性を有する材料として用いるLNFに代えて、LSC(La1-XSrXCoO3),LSCF(La1-XSrXFe1-YCoY3),LC(LaCoO3),LSF(La1-XSrXFeO3),LSM(La1-XSrXMnO3)などの他のペロブスカイト系酸化物からなる電子伝導性を有する材料を用いて複数の参照試料セル(#7-0-1〜#7-0-9)を作製する。また、これらの参照試料セルに対し、集電層を第1集電層および第2集電層で構成した試料セル(#7-1-1〜#7-1-9)を作製する。また、試料セル(#7-1-1〜#7-1-9)においては、第1集電層内の粉末に、粗大粒子が10wt%混合され、第2集電層内の粉末に、微細粒子が、10wt%混合されたものとする。
【0063】
また、各試料においては、電解質層の外周部に参照極を形成している。また、これらの試料セルは、図2を用いて説明した試験装置に装着し、800℃にて、参照極を利用した3端子交流インピーダンス法により空気極特性を評価する。また、本実施例においいても、空気極、参照極には酸素を燃料極には、室温加湿水素を供給した。開放電圧としては、理論値に近い1.13Vが得られる。
【0064】
交流インピーダンス法で、界面抵抗および直流抵抗を測定する。測定自体は開放電圧で行った。この測定結果を以下の表7に示す。ここでも、各セルの空気極の直流抵抗成分(R0)と界面抵抗成分(Rint)を示している。比較例である試料セル(#7-0-1〜#7-0-9)に比べ、試料セル(#7-1-1〜#7-1-9)は、界面抵抗成分、直流抵抗成分いずれについても小さく、空気極特性が向上していることがわかる。以上の結果より、平均粒径が0.8μmより小さい粉体を用いて焼成して作製した第1集電層を設けることで、空気極を構成する活性層と集電層との界面における、電気的な接合性を向上させることができ、空気極特性が向上することが示された。また、電子伝導性を有する材料としては、固体酸化物形燃料電池に用いることができるペロブスカイト系酸化物であれば、適用可能であることがわかる。
【0065】
【表7】

【0066】
ところで、活性層には、イオン伝導性の粒子が含まれているが、この粒子には、電子伝導性粒子とは反応劣化がおきにくい材料が用いられている。このため、活性層を含む空気極作製のための焼成過程において、活性層と集電層との間の界面における粒子の相互拡散が起こりにくく、活性層と集電層との界面の機械的な接合強度が低くなる傾向にある。この結果、活性層と集電層との界面は、剥離などが発生しやすいという問題がある。これに対し、上述したように平均粒径が0.8μmより小さい粉体を用いて焼成して作製した第1集電層を設けることで、活性層との界面における剥離などが抑制できるようになる。
【0067】
ここで、上述した、粒径(平均粒径)は、よく知られているレーザー回折散乱法による光強度分布パターンの測定から得られた平均粒径である。例えば、堀場製作所株式会社製レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置LA−910を用いることで、粒径の測定が可能である。
【0068】
以上説明したように、本実施の形態によれば、活性層と集電層とで空気極を構成する場合、活性層の側に、平均粒径が0.8μmより小さい粉体を用いて焼成して作製した第1集電層を設けることで、活性層への電気的接合が改善され、その結果電極特性を向上させることがでる。このように、本実施の形態によれば、空気極の電極特性の向上と信頼性の高い固体酸化物形燃料電池用空気極を得ることに成功した。このように、本発明は、固体酸化物形燃料電池の高信頼性に大きな貢献をなすものである。
【0069】
なお、本発明は以上に説明した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で、当分野において通常の知識を有する者により、多くの変形が実施可能であることは明白である。例えば、上述では、電解質支持型の燃料電池セルを例に説明したが、これに限るものではなく、燃料極支持型としてもよいことはいうまでもない。また、イオン伝導性を有する材料と電子伝導性を有する材料とは、どのように組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0070】
101…電解質層、102…燃料極、103…空気極、131…活性層、132…第1集電層、133…第2集電層、105…中間層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質層、この電解質層の一方の面の上に形成された燃料極、および前記電解質層の他方の面に形成された空気極を備え、
前記空気極は、
前記電解質層の他方の面の側に形成された活性層と、
この活性層の上に接して形成された第1集電層と、
この第1集電層の上に接して形成された第2集電層とを少なくとも備え、
前記活性層は、イオン伝導性を有する材料から構成された粉体の焼結体から構成され、
前記第1集電層は、電子伝導性を有する材料から構成されて平均粒径が0.8μmより小さい粉体の焼結体から構成され、
前記第2集電層は、電子伝導性を有する材料から構成されて平均粒径が0.8μmより大きい粉体の焼結体から構成されている
ことを特徴とする固体酸化物形燃料電池。
【請求項2】
請求項1記載の固体酸化物形燃料電池において、
前記イオン伝導性を有する材料は、Nb,Ta,Zr,希土類元素の中から選ばれる1以上の元素が添加されたPr611、および希土類添加セリアの中より選択されたものであり、
前記電子伝導性を有する材料は、ペロブスカイト系酸化物から構成されたものである
ことを特徴とする固体酸化物形燃料電池。
【請求項3】
請求項1または2記載の固体酸化物形燃料電池において、
前記第1集電層の層厚は、前記第2集電層を構成している粒子の平均粒子径より大きく、30μm以下とされている
ことを特徴とする固体酸化物形燃料電池。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の固体酸化物形燃料電池において、
前記第1集電層には、平均粒径が0.8μmを超える粒子が20wt%以下の範囲で含まれている
ことを特徴とする固体酸化物形燃料電池。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の固体酸化物形燃料電池において、
前記第2集電層には、平均粒径が0.8μmより小さい粒子が20wt%以下の範囲で含まれている
ことを特徴とする固体酸化物形燃料電池。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−119178(P2011−119178A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−277525(P2009−277525)
【出願日】平成21年12月7日(2009.12.7)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】