説明

固体酸化物形燃料電池

【課題】熱応力に起因する亀裂(クラック)、割れ等の発生を抑制する固体酸化物形燃料電池を提供すること。
【解決手段】発電セル1は、空気極4と燃料極2とこれらの間に介在される電解質層3とを備え、燃料極2で電解質層3及び空気極4が支持された構造を有する燃料極支持型の固体電解質形燃料電池であって、電解質層3は、第1電解質層31と、燃料極2と第1電解質層31との間に配置される第2電解質層32と、空気極4と第1電解質層31との間に配置される第3電解質層33とから構成され、第1電解質層31は、La及びGaを主成分として含む酸化物イオン伝導体により形成され、層の厚さは50μm以下であり、第2電解質層32及び第3電解質層33は、第1電解質層31より曲げ強度が大きく、電解質層3の厚さは、燃料極層2の厚さの1/10未満であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸化物形燃料電池に関するものである。特に、発電セルの性能向上、信頼性向上を可能とするための電解質構造の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、水素等の還元ガス燃料と酸素との反応を利用して起電力を得るものであり、電解質の種類によって様々なタイプのものが知られている。具体的には、固体高分子形(PEFC:Polymer Electrolyte Fuel Cell)、リン酸形(PAFC:Phosphoric Acid Fuel Cell)、溶融炭酸塩形(MCFC:Molten Carbonate Fuel Cell)、固体酸化物形(SOFC:Solid Oxide Fuel Cell)等である。
【0003】
これらの中で、固体酸化物形の燃料電池は、例えば固体高分子形の燃料電池等に比べて発電効率が高いこと、廃棄熱を利用してハイブリッド発電や燃料の内部改質等が可能であること等の利点を有しており、実用性が高いことから、各方面でその改良が進められている。特に、電解質構造は燃料電池の性能に直接的に大きな影響を与えることから、その改良が実用化の鍵となる。
【0004】
このような状況から、電解質構造に関して、様々な提案がなされている。例えば、特許文献1には、固体電解質を介して、アノードとカソードを配した固体電解質型燃料電池において、固体電解質を、添加物比率の異なる酸素イオン導電性酸化物固溶体の多層構造とすることが開示されている。
【0005】
特許文献1記載の発明では、自立膜方式の固体電解質において、酸素イオン導電性はやや劣るが機械的強度が比較的高い固溶体と、酸素イオン導電性は良いが機械的強度が比較的低い固溶体との多層構造(3層構造)とすることで、固体電解質全体の機械強度の向上を図るようにしている。同じ厚さで固体電解質を形成した場合、1層構造の固体電解質より、前記3層構造の固体電解質の方が機械的強度は高くなる。
【0006】
特許文献2には、空気極によって機械的強度が保持されている固体酸化物形燃料電池において、固体電解質膜を、イオン輸率が実質的に1に等しいLaGaO系酸化物からなる第一電解質層と、第一電解質層よりもイオン輸率が低くかつ酸素イオン伝導度が高いLaGaO系酸化物からなる第二電解質層とからなる二層構造とすることが開示されている。特許文献2記載の発明では、固体電解質を前記2層構造とすることで、出力性能の向上を図っている。
【0007】
特許文献3には、固体酸化物形燃料電池において、電解質膜を、空気極側に酸素イオン導電率S1の材料からなる第一の層と、燃料極側に酸素イオン導電率S3の材料からなる第三の層と、第一の層と第三の層の間に設けられ、酸素イオン導電率S2で、少なくともジルコニアを含む材料からなる第二の層とから構成することが開示されている。特許文献3記載の発明では、酸素イオン導電率の高い材料からなる第一の層と第三の層の形成により、空気極と電解質膜の間で起こる反応により生成した酸素イオンを電解質膜に効率良く供給できること、電解質膜と燃料極の間で起こる反応を効率良く進めることができること、さらには、ジルコニアを含む材料からなる第二の層を有することから、ガス透過性がなく、酸素イオンを効率良く燃料極側に供給することができること等により、出力性能に優れる固体酸化物形燃料電池を提供できるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平5−62700号公報
【特許文献2】特開2004−296204号公報
【特許文献3】特開2004−303712号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
固体酸化物形燃料電池の性能向上を図る場合、高酸化物イオン伝導性を有する材料を薄く形成して電解質膜とするのが有利である。電解質膜の薄膜化により電気抵抗が低減され、発電性能が向上する。
【0010】
固体酸化物形燃料電池の形態としては、電解質を厚くして自立膜とする電解質支持セルや、電極の燃料極若しくは空気極を厚くしてこの上に電解質膜を形成する電極支持セル等があるが、発電性能の観点から、電解質を薄くすることができる電極支持セルの方が有利と言える。一般的に、発電性能低下の原因となる電極過電圧は空気極の方が高いため、過電圧の小さい燃料極側を厚くし、燃料極支持セルを形成する。
【0011】
高い酸化物イオン伝導性を有する材料としては、LaGaO系材料等が知られているが、例えば燃料極支持セル構造を採用し、ある一定の厚さ以下に薄くすると、電子伝導性の影響により、セル内部に短絡回路が形成され、発電性能が低下するおそれがあるという問題がある。
【0012】
また、電解質は緻密でなくてはならないが、電解質の厚さを薄くした場合、電解質に亀裂(クラック)が入りやすくなり、結果として性能が低下するおそれがあるという問題もある。これらの問題を考慮した場合、前述の各特許文献記載の技術では、必ずしも十分とは言えない。
【0013】
例えば、特許文献1記載の発明では、電解質を自立膜とする電解質支持セル構造を採用しているので、電解質膜の厚さを薄くすることに限度があり、発電性能の向上が難しい。また、電解質を構成する材料が高価であることから、発電セル全体の製造コストの増大を招くおそれがある。
【0014】
特許文献2記載の発明では、緻密電解質を2層積層した構造を有していることから、応力が一方に偏る傾向にあり、長時間運転等によりセル割れや電解質/電極の界面破壊等の問題が生ずるおそれがある。また、第一電解質層と第二電解質層に使用している材料系が同一であることから、焼成時及び発電時に元素の拡散が進行し、信頼性が著しく低下するという問題もある。
【0015】
特許文献3記載の発明では、第一の層と第三の層は電解質としての性能を期待するものではなく、燃料電極と電解質膜間での反応を促進する層としての機能を優先していることから、性能向上が不十分なものとなるおそれがある。
【0016】
本発明は、燃料極支持セルの利点を活かし、低温作動を可能とする固体酸化物形燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の固体酸化物形燃料電池は以下の構成を有する。
【0018】
本発明の固体酸化物形燃料電池は、空気極と燃料極とこれらの間に介在される電解質層とを備える固体酸化物形燃料電池であって、前記燃料極は、前記電解質層及び前記空気極を支持し、前記電解質層は、第1電解質層と、前記燃料極と前記第1電解質層との間に配置される第2電解質層と、前記空気極と前記第1電解質層との間に配置される第3電解質層と、を有し、かつ、前記電解質層の厚さは、前記燃料極層の厚さの1/10未満、前記第1電解質層は、La及びGaを主成分として含む酸化物イオン伝導体により形成され、前記第1電解質層の厚さは50μm以下、前記第2電解質層及び前記第3電解質層は、前記第1電解質層より曲げ強度が大きいことを特徴とする。
【0019】
また、前記第2電解質層及び前記第3電解質層は、イットリウムを固溶した酸化ジルコニウム(YSZ)により形成されていることが好ましい。
【0020】
また、前記第3電解質層の厚さに対する前記第2電解質層の厚さの比率は、1<第2電解質層の厚さ/第3電解質層の厚さ<5であることが好ましい。
【0021】
本発明の固体酸化物形燃料電池は、燃料極支持構造を採用し、電解質の厚さを薄くすることができるので、発電性能が確保され、低温作動も可能となる。電解質の厚さが薄ければ薄いほど発電性能は向上し、低温で作動できる。電解質が薄ければ抵抗が下がり、発電効率が向上することにより温度上昇が抑えられるからである。
【0022】
また、主電解質である第1電解質層と電極(燃料極及び空気極)との間に強度の高い第2電解質層、第3電解質層を設けているので、金属を主成分とする電極と酸化物からなる電解質間の熱膨張差が緩和され、熱応力に起因する亀裂(クラック)や割れの発生が抑制される。
【0023】
また、主電解質である第1電解質層の両側に強度の高い第2電解質層、第3電解質層を設けているので、応力の偏りによる割れや界面破壊等も抑制される。
【発明の効果】
【0024】
本発明の固体酸化物形燃料電池によれば、燃料極支持セル構造を採用しているので、発電性能に優れ、低温作動可能な燃料電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る固体酸化物形燃料電池(発電セル)の構成例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の発明を実施するための形態(実施形態)により本発明が限定されるものではない。また、以下における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。また、以下に開示する構成は、適宜組み合わせることが可能である。
【0027】
図1は、本発明の一実施形態に係る固体酸化物形燃料電池(発電セル)の構成例を示す概略断面図である。固体酸化物形燃料電池(発電セル)1は、燃料極2と電解質層3と空気極4とを備える。電解質層3は、燃料極2と空気極4との間に介在している。発電セル1において、燃料極2は、電解質層3及び空気極4を支持する構造である。すなわち、発電セル1は、燃料極支持セル構造を有している。したがって、燃料極2の厚さは、発電セル1が有する他の要素(電解質層3や空気極4)に比べて厚く設定されている。本実施形態においては、電解質層3の総厚さ×10<燃料極2の厚さ、の関係となっている。燃料極2の厚さを厚くすることで、発電セル1の機械的強度を確保し、電解質層3を薄くすることができる。
【0028】
これにより、高価な電解質材料の使用量を減らすことができる。発電セルを、電解質支持セル構造とし、電解質を自立膜とすると、機械的強度を保つために電解質を厚くする必要がある。電解質材料であるLaGaO系材料は高価であるため、このような材料を電解質として用いると、発電セルの製造コストの大幅な上昇を招くおそれがある。
【0029】
本実施形態のように、発電セル1を燃料極支持セル構造とすれば、電解質材料の使用量を極力抑えることができるので、発電セル1の製造コストを最小限に抑えることができる。また、電解質の薄層化により、電気抵抗が低減されて発電ロスを低減できるので、発電セル1の発電性能を向上させることができる。
【0030】
燃料極2を厚くすることで、反応性が良好なものとなる。固体酸化物形燃料電池は作動温度が500℃以上と高いため、都市ガスやプロパンガスなどの炭化水素系ガスを内部で改質し、発電する事が可能である。しかしながら、前段の改質器を通過してきたガスが100%改質されたガスであるとは限らず、残留炭化水素系ガスが混在することもある。残留炭化水素系ガスは発電性能を低下させるだけではなく、炭素析出を引き起こす可能性もある。燃料極を厚くし、Ni触媒を増やすことで、この残留炭化水素系ガスを改質する事ができ、発電性能も向上する。
【0031】
本実施形態において、電解質材料としては、LaGaO系酸化物を使用する。LaGaO系酸化物は僅かな電子伝導性を有するために、電解質材料としてLaGaO系酸化物を用いると、薄膜化した際に内部で短絡回路を生じ、効率の低下を引き起こすおそれがある。また、電解質層3を薄膜化した場合、熱応力により亀裂(クラック)や割れが生ずるおそれがある。
【0032】
そこで、本実施形態においては、電解質3を、第1電解質層31、第2電解質層32、第3電界質層33の3層構造とする。前記3層構造において、第1電解質層31を挟んで、両側にそれぞれ第2電解質層32と第3電解質層33とを形成する。また、第1電解質層31と燃料極2との間に第2電解質層32が配され、第1電解質層31と空気極4との間に第3電解質層33が配される。
【0033】
第1電解質層31は、電解質層3の主体をなすものであり、本実施形態においては、酸化物イオン伝導性に優れるLaGaO系材料が用いられる。LaGaO系材料は、La、Gaを主成分として含む酸化物イオン伝導体であり、下記式(1)で表されるLaGaO系材料が好ましい。
La1−XGa1−Y−ZIIIII・・・(1)
ただし、式(1)中、MはSr、Caから選択される1種または2種を表し、MIIはMg、Al、Inから選択される1種または2種を、MIIIはCo、Fe、Ni、Mnから選択される1種または2種をそれぞれ表す。また、0.1≦X≦0.4、0.1≦Y≦0.4、0≦Z≦0.15、0.1≦Y+Z≦0.4である。
【0034】
第1電解質層31はできる限り薄い方がよい。具体的には、第1電解質層31の厚さは、50μm以下とすることが好ましい。第1電解質層31の厚さが50μmを超えると、電気抵抗が大きくなり、発電セル1の発電性能が低下するおそれがある。第1電解質層31の厚さを50μm以下とすることにより、電気抵抗の増加を抑制できるので、発電セル1の発電性能の低下を抑制できる。
【0035】
第1電解質層31の厚さを薄くした場合、熱応力による亀裂(クラック)や割れが生ずるおそれがある。また、LaGaO系材料は僅かな電子伝導性を有するため、第1電解質層31の厚さを薄くすると、この影響が大きくなってしまう。これらの不都合を解消するために、第1電解質層31の両側に第2電解質層32及び第3電解質層33を形成する。
【0036】
電子伝導を抑制するためには、第2電解質層32や第3電解質層33といった副電解質層は第1電解質層31の両面に形成する必要はなく、第2電解質層又は第3電解質層のいずれか一方があればよい。しかし、応力の偏りを防ぎ、電解質層3全体の応力を緩和し、割れ等を抑制するためには、第2電解質層32と第3電解質層33とを第1電解質層31の両側にそれぞれ形成することが好ましい。
【0037】
本実施形態において、第2電解質層32及び第3電解質層33は、機械的強度(ここでは曲げ強度)が第1電解質層31に比べて高い。ここで、曲げ強度とは、日本工業規格JIS R1601(曲げ強度試験方法)に準じて測定される値である。第1電解質層31よりも曲げ強度の高い第2電解質層32および第3電解質層33を第1電解質層31の両側に配することにより、電解質層3全体の強度が確保される。また、強度のバランスも保たれ、応力の偏りは十分に低減される。その結果、電解質層3全体の応力を緩和できるので、亀裂や割れ等の発生を効果的に抑制できる。
【0038】
また、第2電解質層32および第3電解質層33は、酸化物イオン輸率が1である。第2電解質層32や第3電解質層33も電解質として機能する必要がある。それと同時に、第1電解質層31の電子伝導性を遮断する機能を有することも必要である。
【0039】
これらの要件を満たす電解質材料としては、イットリウムを固溶した酸化ジルコニウム(ジルコニア)等、YSZ系材料を挙げることができる。YSZ系材料の組成としては、Amol%R−ZrO(ただし、式中、RはY、Sc、Laから選択される1種若しくは2種であり、Aは3〜15である。)であることが好ましい。第2電解質層32や第3電解質層33に前記YSZ系材料を用いることで、電子通過を効果的に防ぐことが可能になる。そして、作動温度を低く設定することができ、発電セル1のオン/オフによる温度差が少なくなるので熱膨張の影響を緩和できるという効果が得られる。その結果、発電セル1は、作動のオン/オフによる常温から数百度までの繰り返し温度変化に耐え得るものとなる。
【0040】
第2電解質層32及び第3電解質層33の厚さは任意であるが、これらの層が厚くなると電解質層3全体の厚さが厚くなり、燃料極支持セル構造の利点が活かせなくなるおそれがある。このことを考慮すると、電解質層3の総厚(第1電解質層31の厚さ+第2電解質層32の厚さ+第3電解質層33の厚さ)×10<燃料極2の厚さとすることが好ましい。
【0041】
第2電解質層32と第3電解質層33とは、同じ厚さで形成すればよいが、異なる厚さとすることも可能である。後述の通り、燃料極2の主成分は金属ニッケルであり、電解質層3や空気極4のセラミック材料と比べると熱による膨張収縮が大きく、電解質層3にストレスを与える。このことを考慮して、燃料極2側に形成される第2電解質層32の厚さを、空気極4側に形成される第3電解質層33の厚さよりも厚く形成することも可能である。この場合(第2電解質層32の厚さを第3電解質層33の厚さよりも厚く形成する場合)の厚さの設定としては、1<第2電解質層32の厚さ/第3電解質層33の厚さ<5が好ましい。
【0042】
第2電解質層32や第3電解質層33の膜形態は、通常は緻密な膜とするが、空気極4側の第3電解質層33を緻密に形成して輸率を担保した上で、燃料極2側の第2電解質層32を多孔質に形成することも可能である。
【0043】
燃料極2は、Niとセラミック材料とのコンポジット材料(サーメット)を有する複合電極とすることが好ましい。複合電極を具体的に例示すれば、Ni/Ce1−BIV(ただし、式中のMIVはSm、Gd、Laから選ばれる1種又は2種を表し、0.1≦B≦0.4である。)等を挙げることができる。あるいは、Ni/第1電解質層形成材料のコンポジット材料、Ni/第2電解質層形成材料のコンポジット材料等を含む複合電極も使用可能である。
【0044】
空気極4は、下記式(2)で表されるセラミック材料により形成することが好ましい。
La1−CSrCo1−D・・・(2)
ただし、式中、MはFe、Ni、Mnから選ばれる1種又は2種を表し、0≦C≦0.5、0≦D≦0.8である。
【0045】
各構成要素の材質、代表組成、特性、形状、曲げ強度、厚さ範囲を表1に示す。
【0046】
【表1】

【0047】
以上の構成を有する固体酸化物形燃料電池(発電セル1)を作製するには、例えば焼成後において燃料極2と電解質層3とが積層された構造となる積層焼結体を形成し、この上に空気極4を形成すればよい。
【0048】
(積層焼結体の形成)
焼成後に燃料極2と電解質層3とが積層された構造となる積層焼結体を形成するには、まず、燃料極2の構成材料を含む燃料極形成用グリーンシートをポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上にドクターブレード法により形成する。
【0049】
次に、形成した燃料極形成用グリーンシート上に電解質形成用ペーストをスクリーン印刷により印刷し、電解質形成用シートを形成する。なお、電解質形成用シートは、第2電解質形成用ペースト、第1電解質層形成用ペースト、第3電解質層形成用ペーストを順次印刷することで、3層構成とする。
【0050】
燃料極形成用グリーンシート上に電解質形成用ペーストを印刷した後、焼成を行う。焼成は、例えば焼成温度1400℃で行えばよい。
【0051】
(空気極の形成)
得られた積層焼結体上に空気極4の構成材料を含む空気極形成用ペーストをスクリーン印刷し、空気極形成用シートを形成する。これを再度焼成して焼き付け、発電セル1とする。この時の焼成温度は、例えば1100℃である。
【0052】
作製された固体酸化物形燃料電池(発電セル1)は、第1電解質層31が機械的強度の高い第2電解質層32と第3電解質層33とで挟み込まれた電解質構造を有している。このため、固体酸化物形燃料電池(発電セル1)は、熱応力が緩和されるとともに、温度変化に対応可能となり、電池全体の構造によって破壊が抑制される。また、第1電解質層31をLaGaO系材料とするとともに、第2電解質層32及び第3電解質層33をYSZ系材料とすることで、電解質層3を薄くした場合にも電子透過を防ぐことができ、作動温度を低くする(例えば500℃程度に設定する)ことができる。また、燃料電池の作動のオン/オフによる温度差を少なくすることによって、熱膨張の影響を緩和することもできる。さらに、第2電解質層32及び第3電解質層33の厚さを適正に設定することによって、出力を落とさず、良好な昇降温特性を実現することも可能である。
【実施例】
【0053】
実験で主電解質(第1電解質層)、副電解質層(第2電解質層及び第3電解質層)、空気極、燃料極に用いた材料は下記の通りである。
主電解質:La0.9Sr0.1Ga0.8Mg0.23-δ(曲げ強度200MPa)
副電解質:3mol%Y−ZrO (曲げ強度800MPa)
空気極 :La0.6Sr0.4Fe0.8Co0.23-α
燃料極 :Ni−Ce0.8Sm0.22-βコンポジット材料
【0054】
これら材料を用いて燃料極で強度を持たせた燃料極支持セル構造の発電セルを作製した。作製した発電セルにおいて、燃料極の厚さは500μm、空気極の厚さは20μmである。また、各実施例における第1電解質層、第2電解質層、第3電解質層の厚さは表2に示す通りである。比較例1、2は、電解質支持セル構造の発電セルの例である。電解質層は、主電解質層のみである。
【0055】
発電性能評価試験は、直径20mmの小型セルを作製し、空気極側に空気を200ml/minで供給し、燃料極側に水素を200ml/minで供給して行った。測定項目は、500℃及び600℃での出力密度、500℃及び600℃での耐久性、600℃での昇降温試験である。なお、耐久性は、電圧が0.5V低下するまでの時間を測定し、昇降温試験は、10回昇降温を繰り返し実施し、初期の性能と10回昇降温後の性能の差を測定した。その結果を表2に示す。
【0056】
【表2】

【0057】
電解質支持セル構造を有し主電解質を厚くした比較例1では、電解質抵抗が大きいために出力密度が低い。電解質支持セル構造を有し主電解質を薄くした比較例2では、電子伝導性の影響で出力密度が若干低下している。さらに、昇降温を繰り返すことで、セルに応力が作用し、セル割れが発生した。
【0058】
各実施例では、出力密度が確保され、セル割れも発生していない。実施例9〜13を見ると、第3電解質層の厚さに対する第2電解質層の厚さの比率は、1<第2電解質層の厚さ/第3電解質層の厚さ<5において、出力密度が大きく、昇降温試験の結果も良好である。
【産業上の利用可能性】
【0059】
以上のように、本発明に係る固体酸化物形燃料電池は、低温作動を可能とすることに有用である。
【符号の説明】
【0060】
1 固体電解質型燃料電池(発電セル)
2 燃料極
3 電解質層
31 第1電解質層
32 第2電解質層
33 第3電解質層
4 空気極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気極と燃料極とこれらの間に介在される電解質層とを備える固体酸化物形燃料電池であって、
前記燃料極は、前記電解質層及び前記空気極を支持し、
前記電解質層は、第1電解質層と、前記燃料極と前記第1電解質層との間に配置される第2電解質層と、前記空気極と前記第1電解質層との間に配置される第3電解質層と、を有し、かつ、前記電解質層の厚さは、前記燃料極層の厚さの1/10未満、
前記第1電解質層は、La及びGaを主成分として含む酸化物イオン伝導体により形成され、前記第1電解質層の厚さは50μm以下、
前記第2電解質層及び前記第3電解質層は、前記第1電解質層より曲げ強度が大きい、
ことを特徴とする固体酸化物形燃料電池。
【請求項2】
前記第2電解質層及び前記第3電解質層は、イットリウムを固溶した酸化ジルコニウム(YSZ)により形成されていることを特徴とする請求項1に記載の固体酸化物形燃料電池。
【請求項3】
前記第3電解質層の厚さに対する前記第2電解質層の厚さの比率は、
1<第2電解質層の厚さ/第3電解質層の厚さ<5、
であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の固体酸化物形燃料電池。

【図1】
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【公開番号】特開2011−192483(P2011−192483A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−56496(P2010−56496)
【出願日】平成22年3月12日(2010.3.12)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】