説明

固体酸化物形燃料電池

【課題】燃料側電極にインターコネクタが設けられた固体酸化物形燃料電池(SOFC)であって、導電性が高いものを提供すること。
【解決手段】SOFC100の燃料側電極110には、緻密なインターコネクタ140が設けられ、インターコネクタ140の表面には、多孔質のN型半導体膜150が形成される。N型半導体膜150の表面には、P型半導体膜160が形成される。N型半導体膜をインターコネクタとP型半導体膜との間に挿入すると、そうでない場合と比べて、SOFCの導電性が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸化物形燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
固体酸化物形燃料電池(Solid Oxide Fuel Cell:SOFC)(の発電部)は、燃料側電極に、固体電解質からなる電解質膜、空気側電極を順に積層することで形成される。このSOFC(の発電部)に対して、燃料側電極に燃料ガス(水素ガス等)を供給するとともに空気側電極に酸素を含むガス(空気等)を供給することにより、固体電解質の酸素イオン伝導度に基づいて燃料側電極と空気側電極との間に電位差が発生する。
【0003】
SOFCでは、通常、燃料側電極に緻密なインターコネクタ(集電用の導電性接続部材)が電気的に接続されるように設けられる。このインターコネクタを介して前記電位差に基づく電力が外部に取り出される。
【0004】
このように燃料側電極にインターコネクタが設けられたSOFCに関し、特許文献1では、図3に示すように、燃料側電極に導電性セラミックスからなるインターコネクタが設けられ、このインターコネクタの表面にP型半導体膜が設けられたSOFCが記載されている。このようにインターコネクタの表面にP型半導体を設けると、理由は明確ではないが電流を効率良く流すことができる(即ち、導電性が向上する)、と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4146738号明細書
【発明の概要】
【0006】
上記文献に記載された構成に関連して、本発明者は、SOFCにおいて、導電性が更に向上し得る構成を見出した。
【0007】
本発明に係るSOFCは、燃料ガスと接触して前記燃料ガスを反応させる燃料側電極と、前記燃料側電極に設けられた固体電解質からなる電解質膜と、前記酸素を含むガスを反応させる空気側電極であって前記電解質膜を前記燃料側電極と空気側電極とで挟むように前記電解質膜に設けられた空気側電極と、からなる固体酸化物形燃料電池の発電部と、前記燃料側電極に電気的に接続されるように設けられた緻密なインターコネクタと、前記インターコネクタに設けられた多孔質のN型半導体膜と、前記N型半導体膜を前記インターコネクタとP型半導体膜とで挟むように前記N型半導体膜に設けられたP型半導体膜と、を備える。換言すれば、前記インターコネクタの上に、前記N型半導体膜と前記P型半導体膜とが、この順に積層されている。なお、材料がP型半導体であるかN型半導体であるかは、ゼーベック係数に基づいて判定され得る。一般に、ゼーベック係数が正であるものがP型半導体であり、負であるものがN型半導体であると判定され得る。
【0008】
ここにおいて、前記インターコネクタの材料として、例えば、化学式La1−xCr1−y−z(ただし、A:Ca,Sr,Baから選択される少なくとも1種類の元素、B:Co,Ni,Mg,Alから選択される少なくとも1種類の元素、xの範囲:0.05〜0.2、yの範囲:0.02〜0.22、zの範囲:0〜0.05)で表わされるランタンクロマイトが採用され得る。
【0009】
前記N型半導体膜の材料として、La(Ni,Fe,Cu)Oが採用され得る。La(Ni,Fe,Cu)Oの電気抵抗は極めて小さい。従って、La(Ni,Fe,Cu)Oが採用されることにより、SOFC全体としての出力を大きくすることができる。前記P型半導体膜の材料としては、ペロブスカイト型結晶構造を有する遷移金属複合酸化物(LaMnO系、LaFeO系、LaCoO系等)、或いは、スピネル型結晶構造を有する遷移金属複合酸化物(MnCo、CuMn等)が採用され得る。
【0010】
本発明者は、上記のように、N型半導体膜をインターコネクタとP型半導体膜との間に挿入すると、そうでない場合(即ち、上記文献に記載された構成、図3を参照)と比べて、SOFCの導電性が更に向上することを見出した(この点についての詳細は後述する)。
【0011】
ところで、上記のように、N型半導体膜をインターコネクタとP型半導体膜との間に挿入する構成が採用される場合、N型半導体膜とP型半導体膜との界面において剥離が発生し得ることが判明した。
【0012】
本発明者は、この界面の接合状態(接触状態)に関し、「平均接合幅」(この定義は後述)が0.32〜5.0μmであると、そうでない場合と比べて、N型半導体膜とP型半導体膜との界面において剥離が発生し難いことを見出した(この点についての詳細も後述する)。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態に係るSOFCの構成を示した模式図である。
【図2】本発明の実施形態に係るN型半導体膜とP型半導体膜とを含む断面を電子顕微鏡で1000倍に拡大して得られた図であり、「平均接合幅」を説明するための図である。
【図3】従来のSOFCの構成を示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(構成)
図1は、本発明の実施形態に係るSOFC(のセル)100の構成を示す。SOFC100は、燃料側電極110と、燃料側電極110の上面に積層された電解質膜120と、電解質膜120の上面に積層された空気側電極130を備える。これらの3層からなる平板状の積層体は、SOFC100の発電部を構成している。
【0015】
また、SOFC100では、燃料側電極110の下面にインターコネクタ140が電気的に接続されるように設けられている(接合されている)。インターコネクタ140の下面にはN型半導体からなる膜(N型半導体膜)150が形成されている。N型半導体膜150の下面にはP型半導体からなる膜(P型半導体膜)160が形成されている。
【0016】
SOFC100を上方からみた形状は、例えば、1辺が1〜30cmの正方形、長辺が5〜30cmで短辺が3〜15cmの長方形、又は直径が1〜30cmの円形である。SOFC100全体の厚さは、0.1〜3mmである。なお、インターコネクタ140は、燃料側電極110の下面の全面に設けられていてもよいし、一部のみに設けられていてもよい。また、N型半導体膜150は、インターコネクタ140の下面の全面に設けられていてもよいし、一部のみに設けられていてもよい。また、P型半導体膜160は、N型半導体膜150の下面の全面に設けられていてもよいし、一部のみに設けられていてもよい。
【0017】
燃料側電極110(アノード電極)は、酸化ニッケルNiO及び/又はニッケルNi(電子伝導性を有する物質)とイットリア安定化ジルコニアYSZ(酸素イオン伝導性を有する物質)とから構成される多孔質の薄板状の焼成体である。燃料側電極110の厚さは0.1〜3mmである。SOFC100の各構成部材の厚さのうち燃料側電極110の厚さが最も大きく、燃料側電極110は、SOFC100の支持体(支持基板、最も剛性が高い部材)として機能している。
【0018】
なお、燃料側電極110(アノード電極)は、酸化ニッケルNiO及び/又はニッケルNiとイットリアYとから構成されていてもよい。また、燃料側電極110は、燃料極集電層(インターコネクタ側)と燃料極活性層(電解質膜側)との2層によって構成されていてもよい。この場合、燃料極集電層は、電子伝導性を有する物質(Ni等)を含んで構成される。燃料極活性層は、電子伝導性を有する物質(Ni等)と酸素イオン伝導性を有する物質(YSZ等)とを含んで構成される。燃料極活性層における「気孔部分を除いた全体積に対する酸素イオン伝導性を有する物質の体積割合」は、燃料極集電層における「気孔部分を除いた全体積に対する酸素イオン伝導性を有する物質の体積割合」よりも大きい。
【0019】
電解質膜120は、YSZから構成される緻密な薄板状の焼成体である。電解質膜120の厚さは3〜30μmである。
【0020】
空気側電極130(カソード電極)は、ランタンストロンチウムコバルトフェライトLSCF(La0.6Sr0.4Co0.2Fe0.8)からなる多孔質の薄板状の焼成体である。空気側電極130の厚さは5〜50μmである。空気側電極130は、LSCFからなる第1層(電解質膜側)とランタンストロンチウムマンガナイトLSM(La0.8Sr0.2MnO)又はランタンストロンチウムコバルタイトLSC(La0.8Sr0.2CoO)からなる第2層(第1層の上面に積層された層)との2層によって構成されてもよい。このように、空気側電極130は、ペロブスカイト型結晶構造を有する遷移金属複合酸化物(LaMnO系、LaFeO系、LaCoO系等)で構成される。
【0021】
なお、SOFC作製時又は作動中のSOFC100内において電解質膜120内のYSZと空気側電極130内のストロンチウムとが反応して電解質膜120と空気側電極130との間の電気抵抗が増大する現象の発生を抑制するために、電解質膜120と空気側電極130との間に反応防止層が介装されてもよい。反応防止層は、セリアからなる緻密な薄板状の焼成体であることが好ましい。セリアとしては、具体的には、GDC(ガドリニウムドープセリア)、SDC(サマリウムドープセリア)等が挙げられる。
【0022】
インターコネクタ140は、緻密な薄板状の導電性接続部材である。インターコネクタ140の厚さは1〜100μmである。インターコネクタ140の気孔率は、5%以下である。換言すれば、インターコネクタ140の相対密度は、95%以上である。インターコネクタ140の材料(導電性セラミックス)としては、例えば、化学式が下記(1)式で表されるランタンクロマイト(LC)が採用される。下記(1)式において、Aは、Ca,Sr,Baから選択される少なくとも1種類の元素である。Bは、Co,Ni,Mg,Alから選択される少なくとも1種類の元素である。xの範囲は、0.05〜0.2であり、yの範囲は、0.02〜0.22であり、zの範囲は、0〜0.05である。δは0を含む微小値である。
【0023】
La1−xCr1−y−z3−δ …(1)
【0024】
N型半導体膜150は、N型半導体からなる多孔質の薄板状の導電膜である。N型半導体膜150の厚さは3〜200μmである。N型半導体膜150の気孔率は20〜50%であることが好ましい。N型半導体の材料としては、例えば、La(Ni,Fe,Cu)Oが使用される。La(Ni,Fe,Cu)Oの電気抵抗は極めて小さい。従って、La(Ni,Fe,Cu)Oが採用されることにより、SOFC全体としての出力を大きくすることができる。なお、La(Ni,Fe,Cu)Oについては、本出願人の先願(特願2011−050537、特願2011−058052)において既に提案されている。
【0025】
P型半導体膜160は、P型半導体からなる薄板状の導電膜である。P型半導体膜160の厚さは1〜100μmである。P型半導体膜160の気孔率は40%以下であることが好ましい。P型半導体としては、例えば、空気側電極130と同様、LSCF、LSC、LSM等のペロブスカイト型結晶構造を有する遷移金属複合酸化物(LaMnO系、LaFeO系、LaCoO系等)が採用され得る。或いは、MnCo、CuMn等のスピネル型結晶構造を有する遷移金属複合酸化物が採用され得る。
【0026】
図1に示すように、P型半導体膜160の下面には、例えば、集電膜170が形成され得る。この集電膜170の下面には、例えば、他のSOFC100の空気側電極130が接続される。これにより、隣接する2つのSOFC100が電気的に直列に接続される。集電膜170の材料としては、例えば、空気側電極130と同じ材料であるLSCF、LSC、LSM等が採用される。空気側電極へのガス(空気)の拡散性を考慮して、集電膜170の気孔率は、通常、25%より大きく(且つ50%以下)とされる。また、集電膜170に代えて、SUS材等からなる金属メッシュが採用されてもよい。
【0027】
このSOFC100に対して、燃料側電極110に燃料ガス(水素ガス等)を供給するとともに空気側電極130に酸素を含むガス(空気等)を供給することにより、下記(2)、(3)式に示す化学反応が発生する。これにより、燃料側電極110と空気側電極130との間に電位差が発生する。この電位差は、電解質膜120の酸素伝導度に基づく。
(1/2)・O+2e→O2− (於:空気側電極130) …(2)
+O2−→HO+2e (於:燃料側電極110) …(3)
【0028】
この電位差に起因して、SOFC100において、図1に矢印で示すように、電流は、P型半導体膜160→N型半導体膜150→インターコネクタ140→燃料側電極110→電解質膜120→空気側電極130の方向に流れる(電子は、空気側電極130→電解質膜120→燃料側電極110→インターコネクタ140→N型半導体膜150→P型半導体膜160の方向に流れる)。そして、インターコネクタ140(及び、空気側電極130に設けられた図示しないインターコネクタ)を介して、前記電位差に基づく電力がSOFC100の外部に取り出される。
【0029】
なお、本例では、膜の気孔率は、以下のように測定された。先ず、膜の気孔内に樹脂が進入するようにその膜に対して所謂「樹脂埋め」処理がなされた。その「樹脂埋め」処理された膜の表面に対して機械研磨がなされた。機械研磨された表面の微構造を走査型電子顕微鏡を用いて観察して得られた画像に対して画像処理を行うことによって、気孔の部分(樹脂が進入している部分)と気孔でない部分(樹脂が進入していない部分)の面積がそれぞれ算出された。その比率が膜の気孔率とされた。
【0030】
(製造方法)
次に、図1に示したSOFC100の製造方法の一例について説明する。
【0031】
先ず、燃料側電極110の前駆体(焼成前)が以下のように形成された。即ち、NiO粉末とYSZ粉末とが混合され、この混合物にバインダーとしてポリビニルアルコール(PVA)が添加されてスラリーが作製された。このスラリーがスプレードライヤーで乾燥・造粒され、燃料側電極用の粉末が得られた。この粉末が金型プレス成形法により成形されて、燃料側電極110の前駆体が形成された。
【0032】
次に、電解質膜120の前駆体(焼成前)が、以下のように燃料側電極110の前駆体の上面に形成された。即ち、YSZ粉末に水とバインダーが加えられ、この混合物がボールミルで24時間混合されてスラリーが作製された。このスラリーが、燃料側電極110の前駆体の上面に塗布・乾燥されて、電解質膜120の前駆体(膜)が形成された。なお、燃料側電極110の前駆体の上面に電解質膜120の前駆体(膜)を形成するに際し、テープ積層法、印刷法等が用いられてもよい。
【0033】
次いで、インターコネクタ140の前駆体(焼成前)が、ランタンクロマイト粉末を用いて、印刷法、テープ積層法、スラリーディップ法、プラズマ溶射法、或いはエアロゾルデポジション法等を利用して、燃料側電極110の前駆体の下面に形成された。
【0034】
以上より、燃料側電極110の前駆体、電解質膜120の前駆体、及びインターコネクタ140の前駆体の3層からなる積層体(焼成前)が形成された。この積層体(焼成前)が、1300〜1600℃で2時間共焼結されて、多孔質の燃料側電極110、緻密な電解質膜120、及び緻密なインターコネクタ140の3層からなる積層体(焼成後)が得られた。
【0035】
次に、空気側電極130が、以下のように前記積層体の電解質膜120の上面に形成された。即ち、LSCF粉末に水とバインダーが加えられ、この混合物がボールミルで24時間混合されてスラリーが作製された。このスラリーが、電解質膜120の上面に塗布・乾燥され、電気炉(酸素含有雰囲気中)で空気中にて1000℃で1時間焼成されて、電解質膜120の上面に多孔質の空気側電極130が形成された。
【0036】
次に、N型半導体膜150が、以下のようにインターコネクタ140の下面に形成された。即ち、La(Ni,Fe,Cu)Oの粉末に水とバインダーが加えられ、この混合物がボールミルで24時間混合されてスラリーが作製された。そのスラリーを利用して、インターコネクタ140の下面にスプレー法等によって膜が形成された。このN型半導体の膜を1000℃で2時間焼成することにより、インターコネクタ140の下面に多孔質のN型半導体膜150が形成された。N型半導体の膜の形成方法としては、印刷法、テープ積層法、スラリーディップ法も適用可能である。
【0037】
次に、P型半導体膜160が、以下のようにN型半導体膜150の下面に形成された。即ち、LSCF粉末に水とバインダーが加えられ、この混合物がボールミルで24時間混合されてスラリーが作製された。そのスラリーを利用して、N型半導体膜150の下面にスプレー法等によって膜が形成された。このP型半導体の膜を1000℃で2時間焼成することにより、N型半導体膜150の下面にP型半導体膜160が形成された。P型半導体の膜の形成方法としては、印刷法、テープ積層法、スラリーディップ法も適用可能である。
【0038】
なお、N型半導体の膜とP型半導体の膜を共焼成することによって、N型・P型半導体膜150、160が同時に形成されてもよい。N型・P型半導体膜の焼成が空気側電極の焼成と同じ温度で実行される場合、N型・P型半導体膜と空気側電極とが同時に焼成されてもよい。また、N型・P型半導体膜の焼成が空気側電極の焼成より高い温度で実行される場合、N型・P型半導体膜の焼成は、空気側電極の焼成の前に実行されてもよいし、インターコネクタの焼成と同時に実行されてもよい。
【0039】
以上により、SOFC100を構成する部材の積層が完了する。ここで、燃料側電極110は導電性を有する必要がある。従って、焼成後の燃料側電極110(焼成体)に対して、800℃の高温下にて還元ガスを供給する熱処理(還元処理)が行われる。この還元処理により、NiOがNiへと還元されて、燃料側電極110は導電性を獲得する。以上、図1に示したSOFC100の製造方法の一例について説明した。
【0040】
以下、材料がP型半導体であるかN型半導体であるかの判別手法について付言する。この判別は、ゼーベック係数に基づいてなされ得る。一般に、ゼーベック係数が正であるものがP型半導体であり、負であるものがN型半導体であると判定され得る。
【0041】
具体的には、例えば、以下のように判定がなされる。先ず、材料の粉末を一軸プレスを用いて成形し、その成形体を1400℃×2時間で焼成し、焼結体を得る。得られた焼結体から、φ3.0mm、L=10mmの試験片を作製し、ULVAC理工のZME−3シリーズの評価装置を用いてゼーベック係数の測定を行う。この測定は、例えば、不活性ガスの雰囲気下、750℃で行われる。この測定の結果、ゼーベック係数が正となったものがP型半導体、負となったものがN型半導体と判定され得る。上述のN型半導体膜150ではゼーベック係数が負となり、上述のP型半導体膜160ではゼーベック係数が正となる。
【0042】
(SOFC100の特徴、及び作用・効果)
SOFC100では、燃料側電極110に設けられた緻密なインターコネクタ140の表面に多孔質のN型半導体膜150が形成され、このN型半導体膜150の表面に、インターコネクタ140とP型半導体膜160とでN型半導体膜150を挟むようにP型半導体膜160が形成されている。
【0043】
本発明者は、図1に示すSOFC100のように、N型半導体膜150をインターコネクタ140とP型半導体膜160との間に挿入すると、そうでない場合(即ち、上記文献に記載された構成、図3を参照)と比べて、SOFCの導電性が更に向上することを見出した。以下、このことを確認した試験Aについて説明する。
【0044】
(試験A)
試験Aでは、N型半導体膜の材質、P型半導体膜の材質、並びに、「N型半導体膜がインターコネクタとP型半導体膜との間に介在するか否か(N型半導体膜の挿入の有無)」の組み合わせが異なる複数のサンプルが作製された。具体的には、表1に示すように、4種類の水準(組み合わせ)が準備された。各水準に対して10個のサンプル(N=10)が作製された。表1において、「N型半導体膜の挿入あり」が図1に示す本実施形態に対応し、「N型半導体膜の挿入なし」が図3に示す従来例に対応する。
【0045】
【表1】

【0046】
各サンプル(SOFC)において、インターコネクタは、厚さが約50μmの円形(直径:約2cm)とされ、N型半導体膜は、厚さが約30μmの円形(直径:約1cm)とされ、P型半導体膜は、厚さが約50μmの円形(直径:約1cm)とされた。各サンプルは、焼成により既に完成したインターコネクタの表面に半導体膜が焼成により形成されることで作製された。
【0047】
そして、各サンプルに対して、導電性が測定された。この測定は、具体的には、燃料側電極側と空気側電極側とでガス雰囲気が異なるように各サンプルに対してガラス封止が施された状態でなされた。測定温度は800℃であった。空気側電極側には空気が供給され、燃料側電極側には4%の加湿水素が供給された。燃料側電極に対して上述の還元処理(5時間)が行われた。その後、各サンプルに対して電気抵抗(所謂IR抵抗)が測定された。各サンプルについて、測定されたIR抵抗値の平均値が表1に示されている。
【0048】
表1から理解できるように、理由は不明であるが、「N型半導体膜の挿入あり」の場合、「N型半導体膜の挿入なし」と比べて、SOFCの導電性が高い(IR抵抗値が小さい)。以上のことから、N型半導体膜をインターコネクタとP型半導体膜との間に挿入すると、そうでない場合(即ち、上記文献に記載された構成、図3を参照)と比べて、SOFCの導電性が向上する、ということができる。
【0049】
(N型半導体膜とP型半導体膜との界面)
以下、N型半導体膜150とP型半導体膜160との界面に着目する。図2は、本発明の実施形態に係るN型半導体膜150とP型半導体膜160とを含む断面(積層方向(膜の厚さ方向)に沿う断面、各要素(各膜)の平面方向に垂直の断面)を電子顕微鏡で1000倍に拡大して観察した様子を示す。
【0050】
本明細書では、この断面においてN型半導体膜150(多孔質膜)とP型半導体膜160(多孔質膜)との界面に対応する線(図2に示した例では、線分L)を「境界線」と呼ぶ。この境界線は、例えば、以下のように定義され得る。即ち、断面上において、何れか「一方の層」に含まれる多数の気孔のうちで「他方の層」に面して存在する複数の気孔が抽出される。抽出された複数の気孔のそれぞれについて、気孔内に対応する領域において最も「他方の層」側の点(図2に示した例では、気孔内に対応する領域において最も下側の点)がプロットされる(図2に示した例では、複数の黒いドットを参照)。プロットされた複数の点と周知の統計的手法の一つ(例えば、最小二乗法)とを用いて、プロットされた複数の点のそれぞれの近傍を通る線(直線、又は曲線)が決定される。この線(図2に示した例では、線分L)が「境界線」となる。なお、図2に示した例では、インターコネクタ(従って、N型半導体膜)が平板状であるために「境界線」が直線になっているが、例えば、インターコネクタ(従って、N型半導体膜)が反っていたり湾曲している場合には「境界線」は曲線となる。また、「境界線」が、直線と曲線との組み合わせで構成されていてもよい。
【0051】
このように定義された「境界線」に対して、「平均接合幅」は、「境界線」(図2に示した例では、線分L)の上においてN型半導体膜150とP型半導体膜160とが接触している「複数の部分」(気孔に対応しない複数の部分)の長さの平均、と定義される。
【0052】
以下、「平均接合幅」について付言する。「平均接合幅」の算出に際し、インレンズ二次電子検出器を用いたFE−SEM(Field Emission Scanning Electron Microscope:電界放射型走査型電子顕微鏡)によって倍率10000倍に拡大された、N型半導体膜とP型半導体膜とを含む断面(膜の厚さ方向に沿う断面)のSEM画像が利用され得る。より具体的には、加速電圧:1kV、ワーキングディスタンス:2mmに設定されたZeiss社(ドイツ)製のFE−SEM(型式:ULTRA55)を使用して得られたSEM画像が利用され得る。なお、この断面には、精密機械による研磨が施された後に、株式会社日立ハイテクノロジーズのIM4000によってイオンミリング加工処理が施されている。そして、このSEM画像について、例えば、MVTec社(ドイツ)製の画像解析ソフトHALCONを用いて画像解析が行われる。「平均接合幅」の算出、即ち、「複数の部分」の長さの「平均」の算出に際し、「複数の部分」のうちで、上述の画像解析ソフトによって認識された「0.1μm以下の長さの部分」は使用されない。これは、さらに高倍率での観察結果によると、上述の画像解析ソフトで認識された「0.1μm以下の長さの部分」の存在自体が不確かであり、それらを「N型半導体膜とP型半導体膜との界面の接合強度」を支配する因子として考慮に入れるのは相応しくないと考えられることに基づく。
【0053】
本発明者は、「平均接合幅」が0.32〜5.0μmである場合、そうでない場合と比べて、「N型半導体膜とP型半導体膜との界面」において、N型半導体膜とP型半導体膜との界面において剥離が発生し難いことを見出した。以下、このことを確認した試験Bについて説明する。
【0054】
(試験B)
試験Bでは、インターコネクタの材質、N型半導体膜の材質、P型半導体膜の材質、並びに、平均接合幅の組み合わせが異なる複数のサンプルが作製された。具体的には、表2に示すように、15種類の水準(組み合わせ)が準備された。各水準に対して10個のサンプル(N=10)が作製された。表2における全ての水準が、図1に示す本実施形態に対応している。
【0055】
【表2】

【0056】
各サンプル(SOFC)としては、上記した試験Aで使用されたものと同様のものが使用された。「平均接合幅」の調整は、N型半導体膜及びP型半導体膜の焼成に使用される粉末(LSCF粉末、La(Ni,Fe,Cu)粉末等)の粒径及び比表面積、有機成分(バインダー、造孔材)の量、及び、N型半導体膜及びP型半導体膜の焼成温度等を調整することにより達成された。
【0057】
具体的には、粉末の平均粒径は、0.5〜5μmの範囲内で調整された。粉末の比表面積は、3〜30m/gの範囲内で調整された。有機成分の量(重量)は、粉体の全重量に対して10〜50%の範囲内で調整された。造孔材としては、セルロース、カーボン、PMMA等が使用された。焼成温度は、850〜1300℃の範囲内で調整された。焼成時間は、1〜20時間の範囲内で調整された。
【0058】
そして、各サンプルに対して、「燃料側電極110に還元性の燃料ガスを流通させながら、雰囲気温度を常温から750℃まで30分間で上げた後に750℃から常温まで120分間で下げるパターン」を100回繰り返す熱サイクル試験を行った。そして、各サンプル(接合焼成体)について、N型半導体膜とP型半導体膜との界面における剥離の有無が確認された。この確認は、各サンプルについて、「平均接合幅」の測定に使用された「N型半導体膜とP型半導体膜とを含む断面」を肉眼及び光学顕微鏡を使用して観察することによってなされた。
【0059】
表2から理解できるように、「平均接合幅」が0.32〜5.0μmである場合、そうでない場合と比べて、「N型半導体膜とP型半導体膜との界面」において剥離が発生し難い。更には、「平均接合幅」が0.5〜5.0μmであると、剥離がより一層発生し難くなる、といえる。
【0060】
以下、上記「複数の部分」(気孔に対応しない複数の部分)の長さの最大値を「最大接合幅」と定義するものとする、本発明者は、「最大接合幅」が35μm以下である場合、そうでない場合と比べて、「N型半導体膜とP型半導体膜との界面における最大接合幅に対応する部分」において、剥離が発生し難いことをも既に見出している。
【0061】
また、上記実施形態では、N型半導体膜(焼成膜)が、P型半導体膜(焼成膜)と比べて、導電率が大きい(電気抵抗が小さい)。具体的には、例えば、P型半導体膜の導電率(800℃)が50〜200S/cmであり、且つ、N型半導体膜の導電率(800℃)が400〜800S/cmであってよい。更には、上記実施形態では、P型半導体膜(焼成膜)が、N型半導体膜(焼成膜)と比べて、膜を構成する粒子の平均粒径が大きい。具体的には、例えば、N型半導体膜を構成する粒子の平均粒径が0.5〜2.0μmであり、且つ、P型半導体膜を構成する粒子の平均粒径が1.0〜15μmであってよい。
【0062】
本発明は上記実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、上記実施形態では、燃料側電極110内に燃料ガスの流路が形成されていないが、燃料側電極内に燃料ガスの流路が形成されていてもよい。加えて、SOFC100を構成する積層体は、単独で存在しているが(図1を参照)、この積層体が、或る装置全体の一部分として存在していてもよい。
【符号の説明】
【0063】
100…SOFC、110…燃料側電極、120…電解質膜、130…空気側電極、140…インターコネクタ、150…N型半導体膜、160…P型半導体膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料ガスと接触して前記燃料ガスを反応させる燃料側電極と、前記燃料側電極に設けられた固体電解質からなる電解質膜と、前記酸素を含むガスを反応させる空気側電極であって前記電解質膜を前記燃料側電極と空気側電極とで挟むように前記電解質膜に設けられた空気側電極と、からなる固体酸化物形燃料電池の発電部と、
前記燃料側電極に電気的に接続されるように設けられた緻密なインターコネクタと、
前記インターコネクタに設けられた多孔質のN型半導体膜と、
前記N型半導体膜を前記インターコネクタとP型半導体膜とで挟むように前記N型半導体膜に設けられたP型半導体膜と、
を備えた固体酸化物形燃料電池。
【請求項2】
請求項1に記載の固体酸化物形燃料電池において、
前記N型半導体膜と前記P型半導体膜とを含む断面における前記N型半導体膜と前記P型半導体膜との界面に対応する線である境界線上において前記N型半導体膜と前記P型半導体膜とが接触している複数の部分の長さの平均である平均接合幅が0.32〜5.0μmである、固体酸化物形燃料電池。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の固体酸化物形燃料電池において、
前記N型半導体膜は、La(Ni,Fe,Cu)Oからなる固体酸化物形燃料電池。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れか一項に記載の固体酸化物形燃料電池において、
前記P型半導体膜は、ペロブスカイト型結晶構造を有する遷移金属複合酸化物からなる、固体酸化物形燃料電池。
【請求項5】
請求項1乃至請求項3の何れか一項に記載の固体酸化物形燃料電池において、
前記P型半導体膜は、スピネル型結晶構造を有する遷移金属複合酸化物からなる、固体酸化物形燃料電池。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5の何れか一項に記載の固体酸化物形燃料電池において、
前記インターコネクタは、
化学式La1−xCr1−y−z(ただし、A:Ca,Sr,Baから選択される少なくとも1種類の元素、B:Co,Ni,Mg,Alから選択される少なくとも1種類の元素、xの範囲:0.05〜0.2、yの範囲:0.02〜0.22、zの範囲:0〜0.05)で表わされるランタンクロマイトからなる、固体酸化物形燃料電池。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6の何れか一項に記載の固体酸化物形燃料電池において、
前記N型半導体膜の導電率が、前記P型半導体膜の導電率より大きい、固体酸化物形燃料電池。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7の何れか一項に記載の固体酸化物形燃料電池において、
前記P型半導体膜を構成する粒子の平均粒径が、前記N型半導体膜を構成する粒子の平均粒径より大きい、固体酸化物形燃料電池。

【図1】
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【図3】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−77543(P2013−77543A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−132844(P2012−132844)
【出願日】平成24年6月12日(2012.6.12)
【特許番号】特許第5108988号(P5108988)
【特許公報発行日】平成24年12月26日(2012.12.26)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】