説明

固体電解コンデンサ及びその製造方法

【課題】漏れ電流を抑制するとともにコストを削減できる固体電解コンデンサ及びその製造方法を提供する。
【解決手段】弁作用金属を有する陽極体の表面に陰極層を形成するとともに前記陽極体の一端の端子導出面から導出される陽極ワイヤを有したコンデンサ素子と、前記陽極ワイヤに接合される陽極端子と、前記陰極層に接合される陰極端子と、前記コンデンサ素子の一部または全部を覆う樹脂から成る保護層と、前記保護層よりも硬質な樹脂により前記保護層及び前記陽極ワイヤを含む前記コンデンサ素子の周囲を被覆して外装を形成する外装体とを備え、前記保護層が前記外装体よりも大きい線膨張係数を有し、前記端子導出面とこれに対向する前記外装体の外面との間における前記外装体と前記保護層との重量和に対する前記外装体の重量比を50%以上にした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弁作用を有する陽極体の表面に陰極層を形成したコンデンサ素子を樹脂により被覆した固体電解コンデンサ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の固体電解コンデンサは特許文献1に開示されている。図4はこの固体電解コンデンサの正面断面図を示している。固体電解コンデンサ1は弁作用金属を成形した陽極体の表面を固体電解質層から成る陰極層で覆うコンデンサ素子10を有している。陰極層の周囲には陰極引出し層15が形成される。陽極体には一面から陽極ワイヤ16が導出され、陽極ワイヤ16にはリードフレーム等から成る陽極端子4が溶接等によって接合される。陰極引出し層15にはリードフレーム等から成る陰極端子5が銀ペースト等の接着層6を介して接合される。
【0003】
コンデンサ素子10は陽極ワイヤ16とともにエポキシ樹脂等の硬質の樹脂から成る外装体3により被覆される。外装体3はコンデンサ素子10を配した金型のキャビティ内に溶融状態で射出してトランスファ成形され、コンデンサ素子10をモールドして硬化される。この時、外装体3のトランスファ成形時の樹脂突入による衝撃がコンデンサ素子10に加わり、コンデンサ素子10が機械的ストレスを受ける。また、外装体3の硬化時の収縮によってコンデンサ素子10が機械的ストレスを受ける。
【0004】
コンデンサ素子10は機械的ストレスを受けると漏れ電流が著しく増加する。このため、コンデンサ素子10を高温下で電圧印加する所謂エージング工程により修復が必要となる。しかし、モールド時のダメージが大きい場合はエージングしても修復が困難となり、ショートや漏れ電流不良によって歩留りが低下する。
【0005】
また、固体電解コンデンサ1の完成後もユーザにおいて、陽極端子4及び陰極端子5をリフロー半田等により半田付けする際に外装体3が急激に膨張及び収縮する。このため、エージング工程を経た固体電解コンデンサ1のコンデンサ素子10が再度機械的ストレスを受けて漏れ電流が増加する問題がある。
【0006】
これらの問題を解決するために、特許文献2には外装体3とコンデンサ素子10との間に保護層(緩衝層)を設けた固体電解コンデンサが開示される。図5はこの固体電解コンデンサの正面断面図を示している。同図において、前述の図4と同様の部分には同一の符号を付している。
【0007】
コンデンサ素子10は陽極ワイヤ16とともに保護層2により覆われ、保護層2の外側にエポキシ樹脂等の硬質の樹脂から成る外装体3が薄い層により被覆される。保護層2は外装体3よりも線膨張係数が小さく、低応力のシリコーン樹脂等により形成される。
【0008】
外装体3はコンデンサ素子10を配した金型のキャビティ内に溶融状態で射出してトランスファ成形され、コンデンサ素子10をモールドした後に硬化される。外装体3の硬化時の収縮は保護層2の弾性により吸収されるため、コンデンサ素子10の機械的ストレスが抑制される。
【0009】
また、外装体3のトランスファ成形時の樹脂突入による衝撃が軟質な保護層2により吸収され、コンデンサ素子10のダメージを抑制することができる。従って、コンデンサ素子10の機械的損傷による漏れ電流を抑制することができる。
【0010】
加えて、陽極端子4及び陰極端子5をリフロー半田等により半田付けする際に外装体3及び保護層2が急激に膨張及び収縮する。この時、上記と同様に外装体3の伸縮は保護層2の弾性により吸収され、コンデンサ素子10の機械的ストレスが抑制される。更に、外装体3に比べて保護層2の線膨張係数が小さいため、固体電解コンデンサ1にリフロー半田の熱がかかっても外装体3よりも保護層2の膨張が小さく外装体3は破裂しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2005−45235号公報(第6頁−第11頁、第16図)
【特許文献2】特開平5−136009号公報(第5頁−第7頁、第1図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上記特許文献2に開示された固体電解コンデンサ1によると、保護層2として用いられる低応力で且つ外装体3を形成するエポキシ樹脂等の硬質の樹脂よりも線膨張係数の小さいシリコーン樹脂等は非常に高価である。このため、固体電解コンデンサ1のコストが大きくなる問題があった。
【0013】
本発明は、漏れ電流を抑制するとともにコストを削減できる固体電解コンデンサ及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために本発明の固体電解コンデンサは、弁作用を有する陽極体と誘電体を介して前記陽極体を覆う陰極層とを有するとともに前記陽極体の一端の端子導出面に陽極ワイヤが突設されるコンデンサ素子と、前記陽極ワイヤに接合される陽極端子と、前記陰極層に導通する陰極端子と、前記コンデンサ素子の一部または全部を覆う樹脂から成る保護層と、前記保護層よりも硬質な樹脂により前記保護層及び前記陽極ワイヤを含む前記コンデンサ素子の周囲を被覆して外装を形成する外装体とを備え、前記保護層が前記外装体よりも大きい線膨張係数を有し、前記端子導出面とこれに対向する前記外装体の外面との間における前記外装体と前記保護層との重量和に対する前記外装体の重量比を50%以上にしたことを特徴としている。
【0015】
この構成によると、コンデンサ素子はニオブやタンタル等の弁作用を有する金属や酸化物から成る陽極体の表面に酸化被膜等の誘電体が形成され、誘電体の表面に二酸化マンガンや有機導電性ポリマー等の固体電解質層から成る陰極層が設けられる。また、コンデンサ素子には陽極体の一面の端子導出面に陽極ワイヤが植設や溶接によって突設される。陽極ワイヤにはリードフレーム等の陽極端子が接合され、陰極層に導通するリードフレーム等の陰極端子が設けられる。コンデンサ素子の周囲は樹脂から成る保護層が形成され、保護層の周囲及び陽極ワイヤが保護層よりも硬質な樹脂から成る外装体により被覆される。保護層は外装体よりも大きい線膨張係数を有し、陽極端子側の外装体の重量が外装体と保護層との重量和の50%以上になっている。外装体のトランスファ成形時の樹脂突入による衝撃、外装体の硬化時の収縮、陽極端子及び陰極端子の半田付け時の外装体の伸縮は、軟質な保護層の弾性によって吸収される。また、陽極ワイヤの周囲の保護層が外装体に対して少ないため、陽極端子及び陰極端子の半田付け時の保護層の熱膨張による外装体の破裂が防止される。
【0016】
また本発明は、上記構成の固体電解コンデンサにおいて、前記端子導出面とこれに対向する前記外装体の外面との間に前記保護層が設けられないことを特徴としている。
【0017】
また本発明は、上記構成の固体電解コンデンサにおいて、前記保護層の動的粘弾性率が200MPa以下であることを特徴としている。
【0018】
また本発明は、上記構成の固体電解コンデンサにおいて、前記保護層のデュロメータAに基づく硬度が90度以下であることを特徴としている。
【0019】
また本発明は、上記構成の固体電解コンデンサにおいて、前記陽極体がニオブまたはニオブ酸化物を主成分とすることを特徴としている。
【0020】
また本発明は、上記構成の固体電解コンデンサにおいて、前記陰極層が有機導電性ポリマーから成ることを特徴としている。
【0021】
また本発明は、上記構成の固体電解コンデンサにおいて、前記コンデンサ素子の前記端子導出面に対向する端面とこれに対向する前記外装体の外面との間の前記保護層及び前記外装体の体積に対し、前記端子導出面とこれに対向する前記外装体の外面との間の前記保護層及び前記外装体の体積を1.4倍以上にしたことを特徴としている。
【0022】
また本発明の固体電解コンデンサの製造方法は、弁作用を有する陽極体と誘電体を介して前記陽極体を覆う陰極層とを有するとともに前記陽極体の一端の端子導出面に陽極ワイヤが突設されるコンデンサ素子を形成する工程と、
前記陽極ワイヤに陽極端子を接合する工程と、
前記陰極層に導通した陰極端子を設ける工程と、
前記コンデンサ素子の一部または全部を樹脂により覆う保護層を形成する工程と、
前記保護層及び前記陽極ワイヤを含む前記コンデンサ素子の周囲を被覆して外装を成す外装体を前記保護層よりも硬質な樹脂により形成する工程と、
を備え、前記保護層が前記外装体よりも大きい線膨張係数を有し、前記端子導出面とこれに対向する前記外装体の外面との間における前記外装体と前記保護層との重量和に対する前記外装体の重量比を50%以上にしたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0023】
本発明によると、外装体が保護層よりも硬質な樹脂から成るとともに保護層が外装体よりも大きな線膨張係数を有し、陽極ワイヤを導出する端子導出面とこれに対向する外装体の外面との間における外装体と保護層との重量和に対する外装体の重量比を50%以上にしたので、固体電解コンデンサのコストを削減することができる。また、外装体の硬化時の収縮や陽極端子及び陰極端子を半田付けする際の外装体の伸縮が保護層の弾性により吸収される。更に、外装体のトランスファ成形時の樹脂突入による衝撃が軟質な保護層により吸収される。従って、コンデンサ素子の機械的ストレスによる漏れ電流を抑制することができる。加えて、端子導出面側において陽極ワイヤを覆う保護層及び外装体が広い範囲に設けられるが、熱膨張係数の大きい保護層が少ないため半田付け時の保護層の熱膨張による外装体の破裂を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の第1実施形態の固体電解コンデンサを示す正面断面図
【図2】図1のA部拡大図
【図3】本発明の第2実施形態の固体電解コンデンサを示す正面断面図
【図4】従来の固体電解コンデンサを示す正面断面図
【図5】従来の他の固体電解コンデンサを示す正面断面図
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に本発明の実施形態について図面を参照して説明する。説明の便宜上、前述の図4、図5に示す従来例と同様の部分には同一の符号を付している。図1は第1実施形態の固体電解コンデンサを示す正面断面図である。また、図2は図1のA部拡大図を示している。固体電解コンデンサ1は保護層2及び外装体3で覆われるコンデンサ素子10を有している。
【0026】
コンデンサ素子10は一端に陽極ワイヤ16を植設されたタンタル、ニオブ、ニオブ酸化物等の弁作用を有する金属や酸化物の粉末を所定の寸法に成形し、高温真空焼結して多孔質の陽極体12が形成される。これにより、陽極体12の一面の端子導出面12aに陽極ワイヤ16が突設される。陽極ワイヤ16は通常、陽極体12と同じ材質により形成される。陽極ワイヤ16は焼結後の陽極体12の端子導出面12aに電気溶接してもよい。
【0027】
次に、この多孔質体から成る陽極体12を陽極酸化(化成)によって酸化皮膜から成る誘電体13を多孔質体の内部まで全表面に形成する。次に、誘電体13の全表面を覆うように二酸化マンガンや有機導電性ポリマー等の固体電解質層から成る陰極層14を多孔質体の内部まで形成する。
【0028】
次に、陰極層14の周囲にカーボン層及び銀層を積層して陰極引出し層15を形成し、コンデンサ素子10が得られる。この時、陰極引出し層15は短絡回避のため端子導出面12aには設けられない。
【0029】
陽極ワイヤ16にはリードフレームから成る陽極端子4が溶接して接合される。陰極引出し層15にはリードフレームから成る陰極端子5が導電接着剤から成る接着層6を介して取り付けられる。これにより、陰極層14と陰極端子5とが導通する。
【0030】
次に、陽極端子4及び陰極端子5の先端を避けてコンデンサ素子10の周囲に軟質の樹脂から成る保護層2を塗布し、コンデンサ素子10が保護層2により覆われる。この時、保護層2は陽極体12の端子導出面12a及び陰極引出し層15の全面に設けてもよく、一部を省いてもよい。軟質な樹脂から成る保護層2として、例えばシリコーン樹脂やエポキシ樹脂等が用いられる。
【0031】
次に、トランスファ成形によってコンデンサ素子10が外装体3により樹脂モールドされる。即ち、コンデンサ素子10を成形金型(不図示)のキャビティ内に設置し、陽極端子4及び陰極端子5の先端はそれぞれキャビティの外部に引き出される。外装体3は硬化した際に保護層2よりも硬質な樹脂から成り、例えば、密封性に優れて外力に強いエポキシ樹脂等が用いられる。
【0032】
高温(例えば、180℃)で熱溶融された高粘度(数百〜数千P)の溶融状態の樹脂は細い(例えば、内径が0.1mm2以下)ゲートを介して高圧力(数MPa〜数10MPa)でキャビティ内に射出される。これにより、コンデンサ素子10は外装体3により被覆される。
【0033】
この時、陽極ワイヤ16も同時に外装体3により被覆される。このため、陰極引出し層15の端子導出面12aに対向する端面15aとこれに対向する外装体3の外面3bとの間の保護層2及び外装体3の体積に対し、端子導出面12aとこれに対向する外装体3の外面3aとの間の保護層2及び外装体3の体積は1.4倍以上に形成される。
【0034】
そして、外装体3の外部に引出した陽極端子4及び陰極端子5を所定の寸法に切断し、外装体3に沿って折り曲げて陽極半田付け部4a及び陰極半田付け部5aを形成する。これにより、チップ型の固体電解コンデンサ1が得られる。
【0035】
また、固体電解コンデンサ1はリフロー半田等により陽極半田付け部4a及び陰極半田付け部5aを半田付けして回路基板に実装される。この時、固体電解コンデンサ1は約250℃の高温で約10秒〜数分程度の熱衝撃を受ける。
【0036】
上記の固体電解コンデンサ1の保護層2は外装体3よりも軟質であるため弾性係数が小さく、更に外装体3よりも線膨張係数の大きい樹脂が用いられる。そして、端子導出面12aとこれに対向する外装体3の外面3aとの間における外装体3と保護層2との重量和に対する外装体3の重量比が50%以上に形成される。
【0037】
保護層2として用いられる軟質で線膨張係数の大きい樹脂は、軟質で線膨張係数の小さい樹脂に比して安価である。このため、固体電解コンデンサ1のコストを削減することができる。
【0038】
加えて、外装体3のトランスファ成形後の硬化時に発生する体積収縮が保護層2の弾性により吸収される。また、陽極端子4及び陰極端子5をリフロー半田等により半田付けする際に外装体3及び保護層2が急激に膨張及び収縮する。この時、外装体3の伸縮は保護層2の弾性により吸収される。更に、外装体3のトランスファ成形時の樹脂突入による衝撃が軟質な保護層2により吸収される。従って、コンデンサ素子10の機械的ストレスによる漏れ電流を抑制することができる。
【0039】
また、コンデンサ素子10の端子導出面12a側は陽極ワイヤ16を覆うために端面15a側よりも保護層2及び外装体3の体積が大きい。このため、陽極半田付け部4a及び陰極半田付け部5aを半田付けする際に保護層2の熱膨張によって外装体3が破裂する可能性がある。しかしながら、端子導出面12a側の保護層2が外装体3に対して少ないため、半田付け時の保護層2の熱膨張による外装体3の破裂を防止することができる。
【0040】
特に、本実施形態に示すように、端子導出面12a側の保護層2及び外装体3の体積が端面15a側の保護層2及び外装体3の体積の1.4倍以上であるため、端子導出面12a側の保護層2が多くなると外装体3が破裂し易くなる。このため、端子導出面12a側の保護層2を外装体3に対して少なくすることにより、外装体3の破裂防止に対してより大きな効果を奏することができる。
【0041】
また、端子導出面12a以外の面は保護層2及び外装体3を薄く形成できるため全体として保護層2が少なく、熱膨張の影響が小さい。このため、保護層2による外装体3の破裂には至らない。
【0042】
次に、図3は第2実施形態の固体電解コンデンサ1の正面断面図を示している。説明の便宜上、前述の図1、図2に示す第1実施形態と同様の部分には同一の符号を付している。本実施形態の固体電解コンデンサ1は、コンデンサ素子10を覆う保護層2が端子導出面12aを除く周面に設けられる。即ち、端子導出面12aとこれに対向する外装体3の外面3aとの間における外装体3と保護層2との重量和に対する外装体3の重量比が100%に形成される。その他の部分は第1実施形態と同様である。
【0043】
外装体3をトランスファ成形する際の金型のゲートはキャビティの端子導出面12aに対向する面以外に設けられる。これにより、端子導出面12aに保護層2が設けられなくても外装体3のトランスファ成形時の樹脂突入による衝撃を保護層2により吸収することができる。また、端子導出面12a側の保護層2が設けられないため、半田付け時の保護層2の熱膨張による外装体3の破裂を防止することができる。
【0044】
また、コンデンサ素子10の端子導出面12aを除く略全面が保護層2により覆われるため、トランスファ成形時や半田付け時の外装体3の伸縮が保護層2により吸収される。従って、コンデンサ素子10の機械的ストレスを抑制することができる。
【0045】
表1は第1、第2実施形態の固体電解コンデンサ1の試作した時の完成歩留り、並びにこれらの半田付け耐熱試験を行って漏れ電流LC(Leakage Current)及び外観を調べた結果を示している。各試験の保護層2は表2のA〜Dに示す樹脂を用い、外装体3は表2のEに示す樹脂を用いている。各保護層2の樹脂は外装体3の樹脂よりも軟質で線膨張係数が大きくなっている。
【0046】
表2において保護層2の樹脂の硬度はJIS K 6253に基づくデュロメータ Aの値を示している。尚、デュロメータ Aの硬度が90度を超えると測定精度が著しく低下する。このため、樹脂Dについては動的粘弾性測定装置(例えば、ティ・エー・インスツルメント・ジャパン(株)社製 Q800)で測定した動的粘弾性の弾性率を計測している。また、樹脂Eについては硬度が大きいためデュロメータ A及び動的粘弾性測定装置による測定ができなかった。
【0047】
各試料は陽極体12としてCV積10万μFV/gのニオブ粉末60mgにニオブの陽極ワイヤ16を植設して成形焼結し、硝酸水溶液中にて45Vで化成して酸化皮膜の誘電体13を形成する。そして、陰極層14としてポリピロール重合層を設け、更に陰極引出し層15となるカーボン層及び銀層を順次形成してコンデンサ素子10を作成した。
【0048】
コンデンサ素子10は保護層2及び外装体3で樹脂モールドして固体電解コンデンサ1の外形寸法を7.3mm×4.3mm×2.8mmに形成している。また、各試料の端子導出面12a側の保護層2及び外装体3の体積は端面15a側の保護層2及び外装体3の体積の1.4倍に形成されている。そして、最高温度250℃(5秒間)に設定した半田リフローシュミレータ試験機で2回(1回当たり4分)繰り返し処理して半田付け耐熱試験を行った。
【0049】
表1の「外装体重量比」の項目は端子導出面12aとこれに対向する外装体3の外面3aとの間における外装体3と保護層2との重量和に対する外装体3の重量比を示している。即ち、試験番号1、3、5、6、8及び比較例3、4は端子導出面12aに保護層2を設けた第1実施形態の構造を有し、試験番号2、4、7は端子導出面12aに保護層2が設けられない第2実施形態の構造を有している。また、比較例1、2はコンデンサ素子10の周囲全面に保護層2が設けられない構造を有している。尚、歩留りについては各条件で200個の試料を試験し、10V印加時の漏れ電流が100μA以下を良品とした。また、半田付け耐熱試験については各条件において20個の試料を試験した。
【0050】
【表1】

【0051】
【表2】

【0052】
上記試験結果によると、保護層2のない比較例1、2で歩留りが突出して低い。これは、外装体3のエポキシ樹脂注入時の突進衝撃によるダメージと該樹脂硬化時の硬化収縮によるストレスによってエージングで修復しきれなかったものが多数発生したためである。また、比較例1、2では半田付け耐熱試験後の漏れ電流LCが著しく増大している。
【0053】
また、端子導出面12a側の外装体3の重量比が小さい比較例3、4(それぞれ、25%、40%)では半田付け耐熱試験後の外装体3の破裂が全数または半数以上に発生した。
【0054】
これに対し、試験番号1〜8の試料はいずれも半田付け耐熱試験後の漏れ電流LCが比較例1、2に比して著しく小さい。また、各試験の計160個の試料について、半田付け耐熱試験後の外装体3の破裂痕等の外観異常は殆ど見られなかった。従って、外装体3の破裂を防止するとともにコンデンサ素子10の機械的ストレスを抑制できることが確認された。
【0055】
尚、保護層2を動的粘弾性が200MPaの樹脂により形成した場合も同様の結果が得られた。
【0056】
また、各試験片は陽極体12としてニオブを用い、陰極層14として有機導電性ポリマーを用いているが、陽極体12としてタンタル等の他の材料を用いた場合や陰極層14として二酸化マンガン等の他の材料を用いた場合も同様の効果を得ることができることは明らかである。
【0057】
しかしながら、特に、陽極体12としてニオブやニオブ酸化物を主成分として用いた場合や陰極層14として有機導電性ポリマーを用いた場合に、コンデンサ素子10が機械的ストレスを受けやすい。
【0058】
即ち、ニオブの融点は2470℃であり、タンタルの融点は2990℃である。このため、ニオブやニオブ酸化物の焼結温度はタンタルよりも低く、陽極体12として用いた際に機械的ストレスに対する強度が低い。また、有機導電性ポリマーは二酸化マンガンよりも耐熱性が低く、陰極層14として用いた際に機械的ストレスに対する強度が低い。
【0059】
加えて、外装体3のトランスファ成形に伴うコンデンサ素子10の機械的ストレスによる漏れ電流の上昇は、高温下で電圧印加する所謂エージング工程により修復が可能である。この時、誘電体13の欠陥部分の修復には酸素原子を必要とする。このため、陰極層14として二酸化マンガンを用いた場合は酸素を供給できるため誘電体13を修復できるが、有機導電性ポリマーを用いた場合は酸素を含まないため誘電体13の修復が困難となる。
【0060】
従って、陽極体12がニオブやニオブ酸化物を主成分とする場合や、陰極層14が有機導電性ポリマーから成る場合には、第1、第2実施形態の構成によってコンデンサ素子10の機械的ストレスを抑制してより大きな効果を奏することができる。
【0061】
尚、第1、第2実施形態において、陽極端子4及び陰極端子5としてリードフレームを用いているが、フレームレス構造にしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明によると、弁作用金属を有する陽極体の表面に陰極層を形成したコンデンサ素子を樹脂により被覆した固体電解コンデンサに利用することができる。
【符号の説明】
【0063】
1 固体電解コンデンサ
2 保護層
3 外装体
3a、3b 外面
4 陽極端子
4a 陽極半田付け部
5 陰極端子
5a 陰極半田付け部
6 接着層
10 コンデンサ素子
12 陽極体
12a 端子導出面
13 誘電体
14 陰極層
15 陰極引出し層
15a 端面
16 陽極ワイヤ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弁作用を有する陽極体と誘電体を介して前記陽極体を覆う陰極層とを有するとともに前記陽極体の一端の端子導出面に陽極ワイヤが突設されるコンデンサ素子と、前記陽極ワイヤに接合される陽極端子と、前記陰極層に導通する陰極端子と、前記コンデンサ素子の一部または全部を覆う樹脂から成る保護層と、前記保護層よりも硬質な樹脂により前記保護層及び前記陽極ワイヤを含む前記コンデンサ素子の周囲を被覆して外装を形成する外装体とを備え、前記保護層が前記外装体よりも大きい線膨張係数を有し、前記端子導出面とこれに対向する前記外装体の外面との間における前記外装体と前記保護層との重量和に対する前記外装体の重量比を50%以上にしたことを特徴とする固体電解コンデンサ。
【請求項2】
前記端子導出面とこれに対向する前記外装体の外面との間に前記保護層が設けられないことを特徴とする請求項1に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項3】
前記保護層の動的粘弾性率が200MPa以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項4】
前記保護層のデュロメータAに基づく硬度が90度以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項5】
前記陽極体がニオブまたはニオブ酸化物を主成分とすることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載の固体電解コンデンサ。
【請求項6】
前記陰極層が有機導電性ポリマーから成ることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれかに記載の固体電解コンデンサ。
【請求項7】
前記コンデンサ素子の前記端子導出面に対向する端面とこれに対向する前記外装体の外面との間の前記保護層及び前記外装体の体積に対し、前記端子導出面とこれに対向する前記外装体の外面との間の前記保護層及び前記外装体の体積を1.4倍以上にしたことを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれかに記載の固体電解コンデンサ。
【請求項8】
弁作用を有する陽極体と誘電体を介して前記陽極体を覆う陰極層とを有するとともに前記陽極体の一端の端子導出面に陽極ワイヤが突設されるコンデンサ素子を形成する工程と、
前記陽極ワイヤに陽極端子を接合する工程と、
前記陰極層に導通した陰極端子を設ける工程と、
前記コンデンサ素子の一部または全部を樹脂により覆う保護層を形成する工程と、
前記保護層及び前記陽極ワイヤを含む前記コンデンサ素子の周囲を被覆して外装を成す外装体を前記保護層よりも硬質な樹脂により形成する工程と、
を備え、前記保護層が前記外装体よりも大きい線膨張係数を有し、前記端子導出面とこれに対向する前記外装体の外面との間における前記外装体と前記保護層との重量和に対する前記外装体の重量比を50%以上にしたことを特徴とする固体電解コンデンサの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−96723(P2011−96723A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−246691(P2009−246691)
【出願日】平成21年10月27日(2009.10.27)
【出願人】(595122132)サン電子工業株式会社 (17)