説明

固体電解質フィルム及びその製造方法、製造設備、電極膜複合体、燃料電池

【課題】プロトン伝導性に優れた固体電解質フィルムを連続的に製造する。
【解決手段】流延膜形成工程63において、固体電解質を含むドープを流延ダイから流延バンドに流延する。流延バンド上には流延膜61が形成される。流延膜乾燥工程66aでは流延膜61を乾燥させる。接触溶媒工程66bでは、流延膜61と固体電解質の貧溶媒とを接触させる。自己支持性発現工程66により、流延膜61の自己支持性が短時間で発現する。流延バンド93から流延膜61を前駆体フィルム67として剥ぎ取る。前駆体フィルム67を水中に浸漬する。前駆体フィルム67を乾燥させた後、プロトン置換を行い、水素置換フィルム75を得る。水素置換フィルム75を水洗、乾燥することにより、固体電解質フィルム79を得る。溶媒置換工程70の前に、自己支持性発現工程66を行うことにより、固体電解質フィルム79の製造に係る時間を短縮化することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解質フィルム、及びその製造方法、製造設備、電極膜複合体、燃料電池に関するものであり、特に、プロトン伝導性をもち燃料電池に用いられる固体電解質フィルム、及びその製造方法、製造設備、並びに電極膜複合体、燃料電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
環境汚染やエネルギー問題を改善することができる次世代発電手段として、燃料電池が注目されている。燃料電池は積層された複数の燃料電池セル(電極膜複合体(MEA)とも称される)を有し、これらの燃料電池セルは、電気的に直列に接続されている。燃料電池セルは、外部回路で接続されるアノード電極及びカソード電極と、これらの電極に挟まれた固体電解質フィルムとを有する。燃料電池セルが起電力を発生する代表的なプロセスは、次のとおりである。まず、カソード電極に水素原子含有物質が供給されると、この水素原子はカソード電極内でプロトンとなる。次に、このプロトンが、固体電解質フィルムを通過してアノード電極で酸素と結合することにより、燃料電池セルの2つの電極間に起電力を発生することができる。
【0003】
最近では、固体電解質の中でもポリマーから形成される固体電解質フィルム(有機高分子型フィルムと称する)が注目されている。この有機高分子型フィルムは、作動温度が低く、且つ小型・軽量化が可能である特徴を有するため、家庭用や車載用途の燃料電池への利用が期待される。したがって、有機高分子型フィルムには、プロトン伝導度が高いこと、耐熱性に優れること等に加え、これらの特性が均一であること等の特性が要求される。
【0004】
ところで、ポリマーをフィルム化する方法としては、周知のように溶融製膜方法と溶液製膜方法とがある。前者は、溶媒を使わずにフィルムを製造することができるが、加熱によるポリマーの変性や、原料ポリマー中の不純物がそのままフィルム中に残るという問題がある。一方、後者は、溶液の製造設備及び溶媒回収設備等の設備的な問題があるものの、加熱における温度が低くてもよく、また、溶液製造工程でポリマー中の不純物を除去することが可能という利点がある。さらに、後者では、前者によるフィルムよりも平面性及び平滑性に優れたフィルムを製造することができるという利点もある。
【0005】
以下、溶液製膜方法の概要について述べる。まず、原料となる有機化合物と溶媒とを含むドープを支持体上に流延して流延膜を形成する。自己支持性をもった流延膜を支持体から剥ぎ取り、乾燥手段により乾燥させて、フィルムとする。
【0006】
そこで、先ず、良好な品位及び耐熱性に優れる有機高分子型フィルムの製造方法として、例えば、特許文献1では、電解質と可塑剤とが混合された液にポリフッ化ビニリデン系樹脂を浸漬する方法が提案されている。また、特許文献2では、スルホン酸基をもつ芳香族系高分子材料を含有した溶液の中で、無機化合物を合成して、溶媒を除去することによりプロトン伝導膜を製造する方法が提案されている。この方法では細孔を改良するためにケイ素酸化物、リン酸誘導体等が添加されている。特許文献3では、イオン交換樹脂を含む溶液に金属酸化物前駆体を添加して、この前駆体を加水分解及び重縮合反応させて得られる液体をキャストし、これによりイオン交換膜を製造する方法が提案されている。そして、特許文献4では、溶液流延法、つまり溶液製膜法によりプロトン伝導性をもつフィルムを製造し、このフィルムを、水に可溶で沸点が100℃以上の有機化合物水溶液中に浸漬して平衡膨潤させ、加熱により水を蒸発させることによりプロトン伝導膜を製造する方法が提案されている。特許文献5では、アニオン性イオン性基を有するポリベンズイミダゾールを主成分とする化合物を、水酸化テトラアルキルアンモニウムを含む沸点90℃以上のアルコール系溶媒に溶解してこれにより固体電解質フィルムを得る方法が提案されている。特許文献6では、(a)イオン伝導成分を有するポリマーと、(b)水溶性無機化合物または分子量1000未満の水溶性有機化合物と、(c)有機溶媒とを含む塗布液を基体に塗布し、該有機溶媒(c)を除去して乾燥塗膜を形成した後、該水溶性化合物(b)を除去することによりプロトン伝導膜を製造する方法が提案されている。
【特許文献1】特開平9−320617号公報
【特許文献2】特開2001−307752号公報
【特許文献3】特開2002−231270号公報
【特許文献4】特開2004−79378号公報
【特許文献5】特開2004−131530号公報
【特許文献6】特開2005−146018号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、固体電解質フィルムを溶液製膜法により製造する場合には、流延膜を乾燥し、流延膜に残留する有機溶媒を蒸発させる。固体電解質の溶媒となりうる化合物は、一般的に、高沸点である。また、この溶媒は、極性が大きく、プロトンと作用しやすい塩基性の有機化合物であることが多い。この塩基性の有機化合物が残留するフィルムを固体電解質フィルムとして用いると、塩基性の有機化合物がプロトンの固体電解質フィルムの通過を妨げ、固体電解質フィルムのプロトン伝導度が低下し、燃料電池として十分な起電力を発揮することができない。したがって、固体電解質フィルム製造工程ではフィルム内に残留する有機溶媒を除去する必要がある。しかしながら、高沸点の溶媒の完全な除去は容易ではなく、完全に除去するためには20時間以上もの時間を要する。特に、流延膜の乾燥時間が、固体電解質フィルムの製造工程に要する時間の大部分を占めているのが現状である。このように、溶液製膜法による固体電解質フィルムの製造方法では、製造時間の短縮化が大きな課題であり、大量生産の大きな障害であった。
【0008】
流延膜の乾燥時間を短縮するための方法として、流延膜乾燥工程における流延膜の乾燥の度合いを小さくする、或いは、流延膜を急激に乾燥するなどが考えられる。前者の場合では、流延膜が十分な自己支持性を有さないため、剥取工程における流延膜の剥ぎ取りが困難になる。また、流延膜を湿潤フィルムとして剥ぎ取りが行えたとしても、この湿潤フィルムが自重で変形してしまい、次工程に搬送することができない。各工程を連続的に行うオンライン方式で固体電解質フィルムの製造する場合、流延膜乾燥工程では、流延膜の剥ぎ取りの作業性の向上のみならず、湿潤フィルムが自重に耐えうる程度の自己支持性を流延膜に発現させる必要がある。一方、後者の場合では、流延膜を急激に乾燥すると、不均一な乾燥に起因する局所的なピンホールが流延膜に発生してしまう。このピンホールを有する流延膜から製造される固体電解質フィルムは、固体電解質フィルムとして十分な性能を発揮することができない。
【0009】
特許文献1では、溶液製膜方法が否定され、原材料に含まれる不純物がフィルム中に残る問題は解消されていない。特許文献2〜5の方法はいずれも少規模スケールでの製造方法であり、大量生産を意識した方法とはされていない。そして、特許文献2の方法は、ポリマーと無機化合物とからなる複合体の分散が困難であるという問題がある。特許文献3の方法は、製膜工程が複雑という問題がある。特許文献4は、フィルムを水に浸漬させることにより細孔がフィルムに発生してしまい、均一なフィルムを得ることができないという問題があり、これを解消する方法は記載されていない。また、溶液製膜方法で多種の固体電解質フィルムを製造できると記載されているものの、具体的な方法の記載もない。特許文献5は用いる原料を限定しており、他の優れた性能をもつ材料を用いて製造できるような記載はされていない。特許文献6では、乾燥による高沸点の有機溶媒の除去の困難性について解決していない。
【0010】
本発明者は鋭意検討の結果、固体電解質の貧溶媒と流延膜との接触により、流延膜の乾燥時間を短縮できることを見出した。更に、貧溶媒が接触された流延膜から得られる湿潤フィルムに溶媒置換を行うことにより、湿潤フィルムに含まれる溶媒を除去する時間を短縮できることを見出した。本発明により、製造される固体電解質フィルムの性能を維持しつつ、固体電解質フィルムの製造時間の短縮化を実現することができる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の固体電解質フィルムの製造方法は、固体電解質が有機溶媒に溶解しているドープを、流延ダイから走行する支持体上に流延して流延膜を形成する第1工程と、前記流延膜と前記固体電解質の貧溶媒である接触貧溶媒とを接触させて、前記流延膜に自己支持性を発現させる第2工程と、自己支持性を有する前記流延膜を湿潤フィルムとして前記支持体から剥ぎ取る第3工程と、前記湿潤フィルムを乾燥して固体電解質フィルムとする第4工程と、を有することを特徴とする。
【0012】
前記有機溶媒は、固体電解質の良溶媒である第1化合物と貧溶媒である第2化合物とを含む混合物であること好ましく、前記接触貧溶媒が、水と、前記固体電解質の良溶媒である化合物の水溶液とのいずれか一方であることが好ましい。
【0013】
流延膜と接触貧溶媒との接触時間は、この接触により変化する流延膜の硬さと、接触により変化する流延膜中の第1化合物の重量との少なくともいずれか一方に応じて決定されることが好ましく、第3工程における、前記湿潤フィルムの弾性率が6×10Pa以上であることが好ましい。
【0014】
前記湿潤フィルムと、前記有機溶媒に相溶する液体とを接触させる第5工程を有することが好ましい。前記液体が、水と、有機化合物の水溶液とのいずれか一方であることが好ましい。さらに、前記湿潤フィルムと前記液体との接触時間を10分以下にすることが好ましい。
【0015】
前記第2工程前の前記流延膜を乾燥する第6工程を有することが好ましい。
【0016】
前記第1化合物はジメチルスルホキシドであり、前記第2化合物はアルコール(ただし、炭素数が1以上5以下)であることが好ましい。プロトン供与体である酸の溶液に湿潤フィルムを搬送しながら接触させる酸接触工程と、洗浄液で洗浄する洗浄工程とを、前記第4工程前に有することが好ましく、前記酸は、電離したときのアニオンの式量が40以上1000以下の化合物であることがより好ましい。
【0017】
前記固体電解質は、炭化水素系ポリマーであることが好ましい。また、前記炭化水素系ポリマーは、芳香族系ポリマーであることが好ましい。更に、前記芳香族系ポリマーは、化3の一般式(I)〜(III)で示される各構造単位からなる共重合体であることが好ましい。
【0018】
【化3】

(ただし、Xは水素原子を除くカチオン種、YはSO、Zは化4の(I)または(II)に示す構造であり、nとmとは0.1≦n/(m+n)≦0.5を満たす。)
【0019】
【化4】

【0020】
本発明の固体電解質フィルムの製造設備は、固体電解質が有機溶媒に溶解しているドープを走行する支持体の上に流延して、前記支持体上に流延膜を形成する流延膜形成装置と、前記流延膜と前記固体電解質の貧溶媒である接触貧溶媒とを接触させ、前記流延膜に自己支持性を発現させる溶媒接触装置と、自己支持性をもった前記流延膜を湿潤フィルムとして剥ぎ取る剥取装置と、前記湿潤フィルムと前記有機溶媒に相溶する液体とを接触させる液体接触装置と、前記湿潤フィルムを乾燥して固体電解質フィルムとする乾燥装置と、を有することを特徴とする。
【0021】
前記製造設備は、プロトン供与体である酸の溶液が収容され、前記酸の溶液中に前記湿潤フィルムを案内する案内手段が配された酸接触装置を、前記液体接触装置と前記乾燥装置との間に備えることが好ましい。
【0022】
本発明の固体電解質フィルムは、前記固体電解質フィルムの製造方法で製造されることを特徴とする。
【0023】
本発明の電極膜複合体は、前記固体電解質フィルムと、前記固体電解質フィルムの一方の面に密着して備えられ、外部から供給される水素含有物質からプロトンを発生するためのアノード電極と、前記固体電解質フィルムの他方の面に密着して備えられ、前記固体電解質フィルムを通過した前記プロトンと外部から供給される気体とから水を合成するカソード電極と、を有することを特徴とする。
【0024】
本発明の燃料電池は、前記電極膜複合体と、前記電極膜複合体の前記アノード電極に接触して備えられ、前記アノード電極と外部との電子の受け渡しをする第1の集電体と、前記電極膜複合体の前記カソード電極と外部との電子の受け渡しをする第2の集電体と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明の固体電解質フィルムの製造方法によれば、固体電解質が有機溶媒に溶解しているドープを、流延ダイから走行する支持体上に流延して流延膜を形成する第1工程と、前記流延膜と前記固体電解質の貧溶媒である接触貧溶媒とを接触させて、前記流延膜に自己支持性を発現させる第2工程と、自己支持性を有する前記流延膜を湿潤フィルムとして前記支持体上から剥ぎ取る第3工程と、前記湿潤フィルムを乾燥して固体電解質フィルムとする第4工程と、を有するため、第2工程及び第4工程に要する時間を短縮化することが可能となり、ひいては、固体電解質フィルムの製造に要する時間を短縮化することにつながる。すなわち、本発明の固体電解質フィルムの製造方法は、大量生産に適した製造方法といえる。この固体電解質フィルムを用いた電極膜複合体が燃料電池に用いられると、この燃料電池は優れた起電力を発現する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下に、本発明の実施様態について詳細に説明する。ただし、本発明はここに挙げる実施様態に限定されるものではない。まず、本発明の固体電解質フィルムの原料について説明し、その後、固体電解質フィルムの製造方法について述べるものとする。
【0027】
〔原料〕
ドープは、固体電解質としてのポリマーと、このポリマーを溶解する溶媒とをその成分とする。固体電解質成分としては炭化水素系ポリマーが好ましく、炭化水素系ポリマーの中でも芳香族系ポリマーがより好ましく、芳香族系ポリマーの中でもカチオン種を有するポリマーがさらに好ましく、特に、化3に示す化合物が好ましい。カチオン種はH(水素原子)とH以外のものとに分けることができ、本発明ではいずれであってもよいが、化3に示す化合物を用いる場合には、XがHであるよりもH以外のカチオン種であることがより好ましい。XがH以外のカチオン種である場合には、製膜工程あるいは製膜後にプロトン置換を実施することが好ましい。つまり、化3のXがプロトン以外のカチオン種であるポリマーは、プロトン受容性のポリマーと言える。プロトン置換をする場合におけるプロトン置換前のポリマーと置換後のポリマーとの説明の明瞭化を図るために、前者を前駆体、後者を固体電解質と称するものとする。
【0028】
本明細書におけるプロトン置換とは、ポリマー中の水素原子以外のカチオン種を、水素原子に置換することである。また、カチオン種とは、電離したときにカチオンを生成する原子または原子団を意味する。このカチオン種は1価である必要はない。また、本明細書では、特に断らない限り、カチオンは陽イオンを指す。
【0029】
前駆体からなるフィルム(以下、前駆体フィルムと称する)を製造する場合には、化3に示す前駆体を含むドープをつくり、このドープを支持体上に流延し、支持体上に形成された流延膜を剥ぎ取ることにより、前駆体フィルムとする。そして、この前駆体フィルムをプロトン置換し、前駆体フィルムに含まれる化3に示す物質のXを水素原子に置換することにより、固体電解質からなるフィルム(以下、固体電解質フィルムと称する)を製造することができる。
【0030】
また、化3に示す化合物からなる前駆体フィルムは、プロトン置換によって製造される固体電解質フィルムの吸湿膨張率とプロトン伝導度とを両立させる。化3に示す化合物においてn/(m+n)<0.1である場合には、前駆体フィルムにおけるプロトン受容体が少なく、固体電解質フィルムの中に、プロトン伝導路、いわゆるプロトンチャンネルを十分に形成することができないことがある。そのため、固体電解質フィルムは実用に十分なプロトン伝導性を発現しないことがある。一方、化3に示す化合物においてn/(m+n)>0.5である場合には、固体電解質フィルムの水分吸収性が高くなってしまうため、吸水による膨張率、つまり吸水膨張率が大きくなり、固体電解質フィルムが劣化しやすくなる。
【0031】
なお、化3に示す化合物おけるXをH(水素原子)に置換せずにカチオン種のままフィルムを製造しても、そのフィルムは固体電解質フィルムとしての機能をもつ。したがって、プロトン置換を行わなくても固体電解質フィルムとして使用することはできる。しかし、そのプロトン伝導性は、Hに置換されたXの割合(以下、プロトン置換率と称する)が高いほど高くなる傾向にある。その意味では、燃料電池に用いるときのXはHであることが特に好ましい。すなわち、前駆体フィルムから固体電解質フィルムを生成するプロトン置換において、プロトン置換率が高いことが好ましい。
【0032】
化3に示す化合物において好ましいカチオンとしては、アルカリ金属カチオン、アルカリ土類金属カチオン、アンモニウムカチオンが好ましく、カルシウムイオン、バリウムイオン、四級アンモニウムイオン、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオンを挙げることができる。
【0033】
固体電解質としては、以下の諸性能をもつものが好ましい。プロトン伝導度は、例えば25℃、相対湿度70%において、0.005S/cm以上であることが好ましく、0.01S/cm以上であるものがより好ましい。さらに、50%メタノール水溶液に18℃で一日浸漬した後のプロトン伝導度が0.003S/cm以上であることが好ましく、0.008S/cm以上であるものがより好ましく、特に、浸漬前に対する浸漬後のプロトン伝導度の低下率が20%以内であるものが好ましい。そして、メタノール拡散係数が4×10−7cm/s以下であることが好ましく、2×10−7cm/s以下であるものが特に好ましい。
【0034】
強度については、弾性率が10MPa以上であるものが好ましく、20MPa以上であるものが特に好ましい。なお、弾性率の測定方法については、特開2005−104148号公報の段落[0138]に詳細に記されており、弾性率の上記値は、東洋ボールドウィン社製の引っ張り試験機による値である。したがって、他の試験方法や試験機を用いて弾性率を求める場合には、上記試験方法や試験機による値との相関性を予め求めておくとよい。
【0035】
耐久性については、64重量%メタノール水溶液中に一定温度で浸漬する経時試験の前後で、重量、イオン交換容量、メタノール拡散係数の各変化率が、それぞれ20%以下であるものが好ましく、15%以下であるものが特に好ましい。さらに過酸化水素中における経時試験の前後でも、同様に重量、イオン交換容量、メタノール拡散係数の各変化率が20%以下であるものが好ましく、10%以下であるものが特に好ましい。また、64重量%メタノール水溶液中、一定温度での体積膨潤率が10%以下であるものことが好ましく、5%以下であるものが特に好ましい。
【0036】
さらに、安定した吸水率および含水率をもつものが好ましい。また、アルコール類、水、アルコールと水との混合溶媒に対し、溶解度が実質的に無視できる程に小さいものであることが好ましい。また上記液に浸漬した時の重量減少、形態変化についても実質的に無視できる程小さいものであることが好ましい。
【0037】
固体電解質フィルムのプロトン伝導性能は、プロトン伝導度とメタノール透過係数との比であるいわゆる指数により表される。そして、ある方向における指数が大きいほど、その方向におけるプロトン伝導性能が高いといえる。また、固体電解質フィルムの厚み方向においては、プロトン伝導度は厚みに比例し、メタノール透過係数は厚みに反比例するので、厚みを変えることにより固体電解質フィルムのプロトン伝導性能を制御することができる。燃料電池に用いる固体電解質フィルムでは、一方の面側にアノード電極、他方の面側にカソード電極が設けられることになるので、固体電解質フィルムの厚み方向における指数が他の方向における指数よりも大きいことが好ましい。固体電解質フィルムの厚みは10〜300μmが好ましい。例えば、プロトン伝導度とメタノール拡散係数とが共に高い固体電解質の場合には、厚みが50〜200μmとなるようにフィルムを製造することが特に好ましく、プロトン伝導度とメタノール拡散係数とが共に低い固体電解質の場合には、厚みが20〜100μmとなるようにフィルムをする製造することが特に好ましい。
【0038】
耐熱温度については、200℃以上であるものが好ましく、250℃以上のものがさらに好ましく、300℃以上のものが特に好ましい。ここでの耐熱温度は、1℃/分の加熱速度で加熱し、重量減少が5%に達したときの温度を意味する。なお、この重量減少は、水分等の蒸発分を除いて計算される。
【0039】
さらに、従来法によりフィルムとしてこれを燃料電池に用いたときに、その最大出力密度が10mW/cm以上である固体電解質を用いると、本発明は特に効果がある。
【0040】
以上の固体電解質の前駆体であるポリマーを用いることにより、前駆体フィルムの製造に好適なドープを製造することができる。また、この前駆体フィルムを用いてプロトン置換することにより、燃料電池として好適な固体電解質フィルムを製造することができる。前駆体フィルムの製造に好適なドープとは、例えば、粘度が比較的低く、濾過により異物を予め除去しやすいドープである。
【0041】
ドープの成分としてのポリマーは、固体電解質であるプロトン供与基をもつポリマーでもよい。プロトン供与基をもつポリマーは、特に限定されないが、酸残基をもち、プロトン伝導材料として公知であるものを用いることができる。中でも好ましいポリマーは、例えば、側鎖にスルホン酸を有する付加重合高分子化合物、側鎖リン酸基ポリ(メタ)アクリレート、ポリエーテルエーテルケトンをスルホン化したスルホ化ポリエーテルエーテルケトン、スルホ化ポリベンズイミダゾール、ポリスルホンをスルホン化したスルホ化ポリスルホン、耐熱性芳香族高分子化合物のスルホ化物などが挙げられる。側鎖にスルホン酸を有する付加重合高分子化合物としては、ナフィオン(登録商標)に代表されるパーフルオロスルホン酸や、スルホ化ポリスチレン、スルホ化ポリアクリロニトリルスチレン、スルホ化ポリアクリロニトリルブタジエンスチレンなどがあり、耐熱性芳香族高分子のスルホ化物としてはスルホ化ポリイミド等がある。
【0042】
パーフルオロスルホン酸の好ましい例としては、例えば特開平4−366137号公報、特開平6−231779号公報、特開平6−342665号公報に記載される物質が挙げられ、中でも、化5に示す物質が特に好ましい。ただし、化5において、mは100〜10000であり、200〜5000が好ましく、500〜2000がより好ましい。そして、nは0.5〜100であり、5〜13.5が特に好ましい。また、xはmと略同等であり、yはnと略同等である。
【0043】
【化5】

【0044】
スルホ化ポリスチレン、スルホ化ポリアクリロニトリルスチレン、スルホ化ポリアクリロニトリルブタジエンスチレンの好ましい例としては、特開平5−174856号公報、特開平6−111834号公報に記載される化合物や化6に示される物質が挙げられる。
【0045】
【化6】

【0046】
耐熱性芳香族高分子のスルホ化物の例としては、例えば、特開平6−49302号公報、特開2004−10677号公報、特開2004−345997号公報、特開2005−15541号公報、特開2002−110174号公報、特開2003−100317号公報、特開2003−55457号公報、特開平9345818号公報、特開2003−257451号公報、特表2000−510511号公報、特開2002−105200号公報に記載される物質が挙げられ、中でも、以下の化7、化8、及び化9の一般式(I)〜(III)で示される各構造単位からなる共重合体である物質が特に好ましいものとして挙げられる。
【0047】
【化7】

【0048】
【化8】

【0049】
【化9】

(ただし、Xは水素原子、YはSO、Zは化4の(I)または(II)に示す構造であり、nとmとは0.1≦n/(m+n)≦0.5を満たす。)
【0050】
また、化5ないし化9に示す化合物からなる固体電解質体フィルムは、吸湿膨張率とプロトン伝導度とを両立させる。化9に示す物質においてn/(m+n)<0.1である場合には、プロトン伝導路、いわゆるプロトンチャンネルを十分に形成することができないことがある。そのため、固体電解質フィルムは実用に十分なプロトン伝導性を発現しないことがある。一方、化9に示す物質においてn/(m+n)>0.5である場合には、固体電解質フィルムの水分吸収性が高くなってしまうため、吸水による膨張率、つまり吸水膨張率が大きくなり、固体電解質フィルムが劣化しやすくなる。
【0051】
化5〜化9に示す化合物を得る過程におけるスルホン化反応は、公知文献の各種合成法に従って行うことができる。スルホン化剤としては、硫酸(濃硫酸)、発煙硫酸、ガス状あるいは液状物の三酸化硫黄、三酸化硫黄錯体、アミド硫酸、クロロスルホン酸等を用いることができる。溶媒としては、炭化水素(ベンゼン、トルエン、ニトロベンゼン、クロロベンゼン、ジオキセタン等)、ハロゲン化アルキル(塩化メチレン、クロロホルム、ジクロロエタン、四塩化炭素等)等を用いることができる。反応温度は、−20℃〜200℃の範囲でスルホン化剤の活性に応じて決定するとよい。また、別の方法として、モノマーにメルカプト基、ジスルフィド基、スルフィン酸基を予め導入しておいて、酸化剤による酸化反応によってスルホン化物を合成することもできる。このときには、酸化剤として、過酸化水素、硝酸、臭素水、次亜塩素酸塩、次亜臭素酸塩、過マンガン酸カリウム、クロム酸等を用いることができ、溶媒としては、水、酢酸、プロピオン酸等を用いることができる。この方法における反応温度は、室温(例えば、25℃)〜200℃の範囲で酸化剤の活性に応じて決定するとよい。また、さらに別の方法として、モノマーにハロゲノアルキル基を予め導入しておいて、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩等による置換反応をしてスルホン化物を合成してもよい。このときには溶媒として、水、アルコール類、アミド類、スルホキシド類、スルホン類等を用いることができる。反応温度は、室温(例えば、25℃)〜200℃の範囲で決定するとよい。なお、以上のスルホン化反応における溶媒は、2種以上の物質を混合した混合物であってもよい。
【0052】
また、スルホン化物への反応工程では、アルキルスルホン化剤を用いてもよく、一般的な方法としてはスルホンとAlClを用いたフリーデルクラフツ反応がある(Journal of Applied Polymer Science,Vol.36,1753−1767,1988)。フリーデルクラフツ反応を行うためにアルキルスルホン化剤を用いた場合は、溶媒として炭化水素(ベンゼン、トルエン、ニトロベンゼン、アセトフェノン、クロロベンゼン、トリクロロベンゼン等)、ハロゲン化アルキル(塩化メチレン、クロロホルム、ジクロロエタン、四塩化炭素、トリクロロエタン、ジクロロエタン、テトラクロロエタン等、)等を用いることができる。反応温度は、室温から200℃の範囲で決定するとよい。なお、反応における溶媒は、2種以上の物質を混合した混合物であってもよい。
【0053】
ドープの溶媒成分としては、上述した固体電解質としてのポリマーを溶解させるものであればよく、有機化合物が好ましい。前駆体をドープ原料として用いる場合には、前駆体を溶解するものであればよい。例としては、芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン,トルエンなど)、ハロゲン化炭化水素(例えば、ジクロロメタン,クロロベンゼンなど)、アルコール(例えば、メタノール,エタノール,n−プロパノール,n−ブタノール,ジエチレングリコールなど)、ケトン(例えば、アセトン,メチルエチルケトンなど)、エステル(例えば、酢酸メチル,酢酸エチル,酢酸プロピルなど)、エーテル(例えば、テトラヒドロフラン,メチルセロソルブなど)、及び窒素を含有する化合物(N−メチルピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N’−ジメチルアセトアミド(DMAc)など)、ジメチルスルホキシド(DMSO)などが挙げられる。
【0054】
ドープの溶媒は、複数の化合物を混合した混合物であってもよい。溶媒を混合物とする場合には、ドープの固体電解質成分の良溶媒である化合物と貧溶媒である化合物との混合物とすることが好ましい。ある液体化合物が固体電解質の良溶媒であるか、または貧溶媒であるかは、固体電解質が全重量の5重量%となるように溶媒とポリマーとを混合して、不溶解物の有無により判断することができる。なお、前駆体をドープの原料として用いる場合には、前駆体に対して良溶媒であるか貧溶媒であるかを判定すればよい。固体電解質の良溶媒、つまり固体電解質を溶解する物質は、溶媒として一般的に用いられる化合物の中でも沸点が比較的高い方であり、一方、貧溶媒は溶媒として一般的に用いられる化合物の中でも沸点が比較的低い方である。したがって、貧溶媒である化合物と良溶媒である化合物とを含む混合物をドープの溶媒として用いることにより、フィルム製造工程における溶媒除去の効率及び効果を高めることができ、特に、流延膜の乾燥効率について大きく向上することができる。
【0055】
ドープの溶媒を、固体電解質の貧溶媒である化合物と良溶媒である化合物との混合物にする場合においては、前者を貧溶媒成分、後者を良溶媒成分と称する。貧溶媒成分の重量比率は大きいほど好ましく、具体的には10%以上100%未満であること好ましい。より好ましくは、(良溶媒成分の重量):(貧溶媒成分の重量)が90:10〜10:90であることが好ましい。貧溶媒成分の重量比率が大きいほど、溶媒の全重量における低沸点物質の割合が大きくなるので、固体電解質フィルムの製造工程における乾燥効率及び乾燥効果をより向上させることができる。
【0056】
良溶媒成分としてはDMF、DMAc、DMSO、NMPが好ましく、中でも、安全性や沸点が比較的低いという点からDMSOが特に好ましい。貧溶媒成分としては、炭素数が1以上5以下であるいわゆる低級アルコール、酢酸メチル、アセトンが好ましく、中でも炭素数が1以上3以下の低級アルコールがより好ましく、良溶媒としてDMSOを用いた場合にはこれとの相溶性が最も優れる点からメチルアルコールが特に好ましい。
【0057】
固体電解質フィルムの各種特性を向上させるためには、添加剤をドープに加えることができる。添加剤としては、酸化防止剤、繊維、微粒子、吸水剤、可塑剤、相溶剤等が挙げられる。これら添加剤の添加率は、ドープ中の固形分全体を100重量%としたときに1重量%以上30重量%以下の範囲とすることが好ましい。ただし、添加率及び物質の種類は、プロトン伝導性に悪影響を与えないものとする。以下に添加剤について具体的に説明する。
【0058】
酸化防止剤としては、(ヒンダード)フェノール系、一価または二価のイオウ系、三価のリン系、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、ヒンダードアミン系、シアノアクリレート系、サリチレート系、オキザリックアシッドアニリド系の各化合物が好ましい例として挙げられる。具体的には、特開平8−53614号公報、特開平10−101873号公報、特開平11−114430号公報、特開2003−151346号の各公報に記載の化合物が挙げられる。
【0059】
繊維としては、パーフルオロカーボン繊維、セルロース繊維、ガラス繊維、ポリエチレン繊維等が好ましい例として挙げられ、具体的には、特開平10−312815号公報、特開2000−231938号公報、特開2001−307545号公報、特開2003−317748号公報、特開2004−63430号公報、特開2004−107461号の各公報に記載の繊維が挙げられる。
【0060】
微粒子としては、酸化チタン、酸化ジルコニウム等が好ましい例として挙げられ、具体的には、特開2003−178777号、特開2004−217931号の各公報に記載の各種微粒子が挙げられる。
【0061】
吸水剤、つまり親水性物質としては、架橋ポリアクリル酸塩、デンプン−アクリル酸塩、ポバール、ポリアクリロニトリル、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリグリコールジアルキルエーテル、ポリグリコールジアルキルエステル、合成ゼオライト、チタニアゲル、ジルコニアゲル、イットリアゲルが好ましい例として挙げられ、具体的には、特開平7−135003号、特開平8−20716号、特開平9351857号の各公報に記載の吸水剤が挙げられる。
【0062】
可塑剤としては、リン酸エステル系化合物、塩素化パラフィン、アルキルナフタレン系化合物、スルホンアルキルアミド系化合物、オリゴエーテル類、芳香族ニトリル類が好ましい例として挙げられ、具体的には、特開2003−288916号、特開2003−317539号の各公報に記載の可塑剤が挙げられる。
【0063】
固体電解質を溶媒に溶解させる相溶剤としては、沸点または昇華点が250℃以上の物が好ましく、300℃以上のものがさらに好ましい。
【0064】
ドープにはさらに、(1)フィルムの機械的強度を高める目的、(2)固体電解質フィルム中の酸濃度を高める目的で、固体電解質と異なる種々のポリマーを含有させてもよい。
【0065】
上記の目的のうち(1)には、分子量が10000〜1000000程度であり、前駆体と相溶性のよいポリマーが適する。例えば、パーフッ素化ポリマー、ポリスチレン、ポリエチレングリコール、ポリオキセタン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、およびこれらのうち2以上のポリマーの繰り返し単位を含むポリマーが好ましい。また、フィルムとしたときの全重量に対し1〜30重量%の範囲となるようにこれらの物質をドープに含有させることが好ましい。なお、相溶剤を用いることにより前駆体との相溶性を向上させてもよい。相溶剤としては、沸点または昇華点が250℃以上であるものが好ましく、300℃以上のものがさらに好ましい。
【0066】
上記目的のうち(2)には、プロトン酸部位を有するポリマー等が好ましい。このようなポリマーとしては、ナフィオン(登録商標)等のパーフルオロスルホン酸ポリマー、側鎖にリン酸基を有するスルホン化ポリエーテルエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリスルホン、スルホン化ポリベンズイミダゾールなどの耐熱芳香族高分子化合物のスルホン化物等を例示することができる。また、フィルムとしたときの全重量に対し1〜30重量%の範囲となるようにこれらの物質をドープに含有させることが好ましい。
【0067】
さらに、得られる固体電解質フィルムを燃料電池に用いる場合には、アノード燃料とカソード燃料との酸化還元反応を促進させる活性金属触媒をドープに添加してもよい。これにより、固体電解質フィルムの中に一方の極から浸透した燃料が他方の極に到達することなく固体電解質中で消費されるので、クロスオーバー現象を防止することができる。活性金属触媒は、電極触媒として機能するものであれば特に限定されないが、白金または白金を基にした合金が特に適している。
【0068】
[ドープ製造]
以下に、本発明のフィルムの製造に用いるドープについて説明する。図1は、本発明に係るドープ製造設備である。ただし、本発明はここに示すドープ製造装置及び方法に限定されない。以下、前駆体を用いたドープの製造方法を例に挙げて説明する。なお、前駆体12aに代えて、固体電解質を用いてドープを製造する場合も、以下と同様の方法で行うことができる。
【0069】
ドープ製造設備10は、有機溶媒11aを貯留するための溶媒タンク11と、前駆体12aを供給するためのホッパ12と、添加剤を貯留するための添加剤タンク15と、有機溶媒11aと前駆体12aと添加剤とを混合して混合液16とする混合タンク17と、混合液16を加熱するための加熱装置18と、加熱された混合液16の温度を調整するための温度調整器21と、温度調整器21を出た混合液16を濾過してドープ24とする第1濾過装置22と、ドープ24の濃度を調整するためのフラッシュ装置26と、濃度調整されたドープ24を濾過するための第2濾過装置27とを備える。更に、ドープ製造設備10には、フラッシュ装置26内で蒸発する溶媒を回収するための回収装置28と、回収された溶媒を再生するための再生装置29とが備えられている。また、ドープ製造設備10は、ストックタンク32を介してフィルム製造設備33に接続されている。なお、送液量を調節するためのバルブ36〜38と、送液用のポンプ41,42とがドープ製造設備10には設けられているが、これらが配される位置及び数の増減については適宜変更される。
【0070】
ドープ製造設備10を用いてドープ24を製造する工程を以下に説明する。バルブ37を開とすることにより、有機溶媒11aは溶媒タンク11から混合タンク17に送られる。次に、前駆体12aがホッパ12から混合タンク17に送り込まれる。このとき、前駆体12aは、計量と送出とを連続的に行う送出手段により混合タンク17に連続的に送りこまれてもよいし、計量して所定量を送出するような送出手段により混合タンク17に断続的に送り込まれてもよい。また、添加剤溶液は、バルブ36の開閉操作により必要量が添加剤タンク15から混合タンク17に送り込まれる。添加剤溶液に使用する溶媒は、ドープにおける相溶性等の観点から、ポリマーの溶媒と同じ化合物を用いることが好ましい。
【0071】
添加剤は、溶液として送り込む方法の他に、例えば添加剤が常温で液体である場合には、その液体状態のままで混合タンク17に送り込むことができる。また、添加剤が固体の場合には、ホッパ等を用いて混合タンク17に送り込む方法も可能である。添加剤を複数種類添加する場合には、添加剤タンク15の中に複数種類の添加剤を溶解させた溶液を入れておくこともできる。または、複数の添加剤タンクを用いて、それぞれに添加剤が溶解している溶液を入れ、それぞれ独立した配管により混合タンク17に送り込むこともできる。
【0072】
なお、前述した説明においては、混合タンク17に入れる順番が、有機溶媒11a、前駆体12a、添加剤であったが、この順番に限定されるものではない。例えば、前駆体12aを混合タンク17に送り込んだ後に、好ましい量の有機溶媒11aを送液することもできる。また、添加剤は必ずしも混合タンク17で前駆体12aと有機溶媒11aと混合することに限定されず、後の工程で前駆体12aと有機溶媒11aとの混合物にインライン混合方式等で混合されてもよい。
【0073】
混合タンク17には、その外表を包み込み、混合タンク17との間に伝熱媒体が供給されるジャケット46と、モータ47により回転する第1攪拌機48と、モータ51により回転する第2攪拌機52とを備えている。混合タンク17は、ジャケット46の内側に伝熱媒体を供給し、これを循環させることにより、その内部の温度が調整される。混合タンク17の内部温度は、−10℃〜55℃の範囲であることが好ましい。第1攪拌機48,第2攪拌機52のタイプを適宜選択して使用することにより、前駆体12aが有機溶媒11aにより膨潤した混合液16を得る。なお、第1攪拌機48は、アンカー翼を有するものであることが好ましく、第2攪拌機52は、ディゾルバータイプの偏芯型攪拌機であることが好ましい。
【0074】
次に、混合液16は、ポンプ41により加熱装置18に送られる。加熱装置18は、管本体(図示しない)とこの管本体との間に伝熱媒体を通すためのジャケット(図示しない)とを有するジャケット付き管であることが好ましく、さらに、混合液16を加圧する加圧部(図示しない)を有することが好ましい。このような加熱装置18を用いることにより、加熱条件下または加圧加熱条件下で混合液16中の固形分を効果的かつ効率的に溶解させることができる。以下、このように加熱により固形成分を有機溶媒11aに溶解する方法を加熱溶解法と称する。加熱溶解法においては、混合液16を60℃〜250℃となるように加熱することが好ましい。
【0075】
なお、加熱溶解法に代えて冷却溶解法により固形成分を有機溶媒11aに溶解させてもよい。冷却溶解法とは、混合液16を温度保持した状態またはさらに低温となるように冷却しながら溶解を進める方法である。冷却溶解法では、混合液16を−100℃〜−10℃の温度に冷却することが好ましい。以上のような加熱溶解法または冷却溶解法により前駆体12aを有機溶媒11aに十分溶解させることが可能となる。
【0076】
混合液16を温度調整器21により略室温とした後に、第1濾過装置22により濾過して不純物や凝集物等の異物を取り除きドープ24とする。第1濾過装置22に使用されるフィルタは、その平均孔径が10μm以下であることが好ましい。ただし、孔径が小さすぎる場合には、ドープを濾過する際に要する時間が長くなるため、フィルタの平均孔径は、製造時間等を考慮して適宜選択するとよい。
【0077】
濾過後のドープ24は、バルブ38によりストックタンク32に送られて一旦貯留された後、フィルムの製造に用いられる。
【0078】
ところで、上記のように、固形成分を一旦膨潤させてから、溶解して溶液とする方法は、前駆体12aの溶液における濃度を上昇させる場合ほど、ドープ製造に要する時間が長くなり、製造効率の点で問題となる場合がある。そのような場合には、目的とする濃度よりも低濃度のドープを一旦つくり、その後に目的の濃度とする濃縮工程を実施することが好ましい。例えば、バルブ38により、第1濾過装置22で濾過されたドープ24をフラッシュ装置26に送り、このフラッシュ装置26でドープ24の有機溶媒11aの一部を蒸発させることによりドープ24を濃縮することができる。濃縮されたドープ24はポンプ42によりフラッシュ装置26から抜き出されて第2濾過装置27へ送られる。濾過の際のドープ24の温度は、0℃〜200℃であることが好ましい。第2濾過装置27で異物を除去されたドープ24は、ストックタンク32へ送られ一旦貯留されてからフィルム製造に用いられる。なお、濃縮されたドープ24には気泡が含まれていることがあるので、第2濾過装置27に送る前に予め泡抜き処理を実施することが好ましい。泡抜き方法としては、例えばドープ24に超音波を照射する超音波照射法等の、公知の種々の方法が適用される。
【0079】
また、フラッシュ装置26でのフラッシュ蒸発により発生した溶媒ガスは、凝縮器(図示せず)を備える回収装置28により凝縮されて液体となり回収される。回収された溶媒は、再生装置29によりドープ製造用の溶媒として再生されて再利用される。このような回収及び再生利用により、製造コストの点での利点があるとともに、ドープ24の製造工程が閉鎖系で実施されるため、人体及び環境への悪影響を防ぐ効果がある。
【0080】
また、ドープ24中に粗大な微粒子や異物等の不純物が含まれていると、このドープ24を用いて固体電解質フィルムとした場合、固体電解質フィルムのプロトン伝導度が低下したり、固体電解質フィルム自体が劣化したりするおそれがある。そのため、ドープ24を製造する途中の段階で、少なくとも1回以上は濾過装置を用いてドープ24を濾過することが好ましい。濾過装置の濾過口径は10μm以下であることが好ましい。なお、ドープ製造設備10内での濾過装置の設置個数や設置箇所及びドープを濾過する回数は特に限定されるものではなく、必要に応じて決定すれば良い。
【0081】
以上の製造方法により、前駆体12aの濃度が、全重量に対し5重量%以上50重量%以下であるドープ24を製造することができる。ドープ24の前駆体12aの濃度を全重量に対し10重量%以上40重量%以下の範囲とすることがより好ましい。また、添加剤の濃度をドープ中の固形分全体を100重量%とすると1重量%以上30重量%以下の範囲とすることが好ましい。なお、ドープ24中において、有機溶媒11aに固形分が溶解しているかどうかは、濾過した後のドープ24を蛍光灯に照らすことで確認することができる。
【0082】
[固体電解質フィルム製造工程]
次に、本発明の固体電解質フィルムの製造方法について説明する。図2に、本発明に係る固体電解質フィルム製造工程60の流れを示す。図2では、化3に示されるような固体電解質の前駆体であるポリマーを含むドープを用いる場合の工程の流れのみを簡単に説明するものとし、各工程の詳細は図3を用いて説明する。
【0083】
固体電解質フィルム製造工程60は、ドープから流延膜61を支持体上に形成する流延膜形成工程63と、支持体上に形成された流延膜61に自己支持性を発現させる自己支持性発現工程66と、支持体から流延膜61を剥ぎ取って湿潤フィルム(以下、前駆体フィルムと称する)67とする剥取工程68と、前駆体フィルム67と置換溶媒とを接触させる溶媒置換工程70と、溶媒置換工程70を経た前駆体フィルム67に付着する液体を除去する水切工程71と、水切工程71を経た前駆体フィルム67を乾燥する前駆体フィルム乾燥工程72と、プロトン置換により、前駆体フィルム67を水素置換フィルム75とするプロトン置換工程76と、水素置換フィルム75を洗浄する水洗工程77と、洗浄後の水素置換フィルム75を乾燥して固体電解質フィルム79とする水素置換フィルム乾燥工程78とを有する。
【0084】
流延膜形成工程63では、支持体の上にドープを流延して流延膜61を形成する。支持体は駆動ローラに巻き掛けられて無端で走行する。流延膜61は、後述する剥取工程68で前駆体フィルム67として剥ぎ取られるまで、この支持体の走行に伴い移動する。
【0085】
形成直後の流延膜61には自己支持性がない。これは、多量の有機溶媒が流延膜61に含まれているためでる。自己支持性発現工程66は、流延膜61に含まれる有機溶媒11a(図1参照)の一部を除去し、自己支持性発現させるための各処理を行う。自己支持性発現工程66は、流延膜乾燥工程66aと溶媒接触工程66bとを有する。なお、流延膜乾燥工程66aは、行わなくても良いが、流延膜乾燥工程66aを行ったほうが、本発明の効果がより顕著に発揮される。
【0086】
流延膜乾燥工程66aでは、流延膜乾燥手段を用いて、支持体上の流延膜61を乾燥する。流延膜乾燥手段は、流延膜61の搬送路近傍に配される。この乾燥により、流延膜61に含まれる有機溶媒が蒸発する。この流延膜乾燥工程66aにて、流延膜61に残留する有機溶媒の量(以下、残留溶媒量と称する)を低下することができる。また、溶媒接触工程66bの効率を向上させることができる。なお、流延膜乾燥手段としては、加熱機や乾燥風を供給することができる乾燥装置などが用いられる。
【0087】
また、溶媒接触工程66bでは、支持体に搬送される流延膜61と固体電解質の貧溶媒とを接触させる。この貧溶媒(以下、接触貧溶媒と称する)との接触により、流延膜61に含まれる有機溶媒の一部が接触貧溶媒に置換される。これにより、(1)流延膜61の自己支持性の向上(2)流延膜61の乾燥効率の向上の2つの効果を得ることができる。また、接触貧溶媒として沸点の低い貧溶媒を用いると、溶媒置換により、流延膜61に含まれる有機溶媒の沸点が低下するため、乾燥手段による有機溶媒の除去が容易になる。こうして、流延膜61の残留溶媒量が低下する。すなわち、自己支持性発現工程66により、流延膜61に自己支持性を容易に発現させることができる。
【0088】
剥取工程68では、自己支持性を有する流延膜61を支持体から剥ぎ取って前駆体フィルム67とする。自己支持性発現工程66を経た前駆体フィルム67は自己支持性を備える。所定の範囲の弾性率を有する前駆体フィルム67は搬送が可能になる。剥取工程68における前駆体フィルム67の弾性率の好ましい範囲を搬送可能領域と称する。搬送可能領域は、前駆体フィルム67の弾性率が6×10Pa以上であることが好ましい。弾性率が6×10Pa未満の場合は、搬送中に自重で前駆体フィルム67が変形するため、好ましくない。
【0089】
図2に示す固体電解質フィルム製造工程60の各工程を連続的に行う、いわゆるオンライン方式の場合において、搬送可能領域内の弾性率を有する前駆体フィルム67を得るためには、自己支持性発現工程66における各パラメータを最適値にして、自己支持性発現工程66を行えばよい。これらパラメータとして、前駆体フィルム67を構成する材料(残留溶媒量)、流延膜61の温度や濃度などが挙げられる。これらのパラメータの最適値は、自己支持性発現工程66の実験結果より得ることができる。また、前駆体フィルム67の弾性率の測定方法として、上述した方法の他、前駆体フィルム67を搬送するロールに印加するテンションの変動から求めることも可能である。
【0090】
固体電解質フィルム製造工程60の各工程をバッチ処理で行う、いわゆるオフライン方式の場合において、上述した方法のほか、引張試験機を用いて前駆体フィルム67弾性率測定を行うことも可能である。ここでは、引張試験機を用いる弾性率の測定方法の一例について簡単に説明する。東洋ボールドウィン製万能引張試験機(STM T50BP)を用いて、温度23℃、湿度70%RH雰囲気中において引張試験を行う。引張試験の各条件は、前駆体フィルム67を引張速度10%/分で引張り、歪ε1が0.5%のときの前駆体フィルム67の応力σ1を測定する。こうして得られた歪ε1及び応力σ1並びにフックの法則から前駆体フィルム67の弾性率を求めることができる。
【0091】
溶媒置換工程70では、前駆体フィルム67と液体とを接触させる。この液体として、前駆体フィルム67の内部に残留する有機溶媒と相溶性の高い液体(以下、置換溶媒と称する)を用いる。この置換溶媒と前駆体フィルム67との接触により、前駆体フィルム67に含まれる残留有機溶媒が置換溶媒と置換(以下、溶媒置換と称する)される。置換溶媒を用いた溶媒置換により、前駆体フィルム67の残留溶媒量が低下する。こうして、前駆体フィルム67の残留溶媒量が所定の値になるまで、溶媒置換が行われる。
【0092】
また、この溶媒置換工程70を複数回行っても良い。溶媒置換工程70を複数回行う場合は、後の溶媒置換工程になるに従って沸点が低くなるように各工程の置換溶媒を選択することが好ましい。この複数回の溶媒置換工程により、前駆体フィルム67に含まれる残留溶媒の沸点を低下させることが可能になるため、溶媒置換工程70の後に行う乾燥工程を容易にすることができる。
【0093】
水切工程71では、エアシャワーなどを用いて、前駆体フィルム67に付着する余分な液体を除去する。この水切工程71により、前駆体フィルム乾燥工程72における前駆体フィルム72の乾燥に要する時間を短縮することができる。
【0094】
前駆体フィルム乾燥工程72では、前駆体フィルム67を乾燥手段により乾燥させる。乾燥手段としては、前駆体フィルム67を乾燥させることができるものであれば良く、特に限定されるものではないが、例えば、乾燥装置と多数の把持手段(例えば、クリップ)とを備え、把持手段により前駆体フィルム67の両側端部を固定しながら搬送する間に乾燥を促進させるテンタが挙げられ、本実施形態でも採用している。なお、テンタに関しては、後で説明する。
【0095】
プロトン置換工程76では、前駆体フィルム67を、酸の溶液(以下、酸溶液と称する)に接触させる。この酸溶液との接触により、前駆体フィルム67に含まれる前駆体がプロトン置換され、前駆体フィルム67が水素置換フィルム75となる。化3のXがHであるポリマーを原料とする場合にも、このプロトン置換工程76と同様に酸溶液と接触させることにより、フィルムのプロトン伝導度を向上させることができる。
【0096】
水洗工程77では、酸処理後の水素置換フィルム75を洗浄液に浸漬させることにより水素置換フィルム75の表面に付着している、あるいは水素置換フィルム75に含まれる酸溶液を洗い流す。この水洗工程77により、水素置換フィルム75を構成するポリマー等が酸により経時的に汚染されることを防止することができる。なお、本実施形態では、プロトン置換工程76の後に、1回の洗浄工程を行っているが、水素置換フィルム75に付着した余分な酸を完全に除去するために、洗浄回数を複数回としても良い。
【0097】
また、上記のようにプロトン置換工程76と水洗工程77とを行なうことにより、水素置換フィルム75に含まれる無機塩等の不純物を除去する効果も得ることができるため、製造する固体電解質フィルム79の劣化を防止することもできる。
【0098】
そして、水素置換フィルム乾燥工程78では、再度、乾燥手段により水素置換フィルム75を十分に乾燥する。これにより、プロトン伝導度に優れた固体電解質フィルム79を得ることができる。
【0099】
[固体電解質フィルム製造設備]
図3に、本発明の第1の実施形態で用いるフィルム製造設備33を示す。フィルム製造設備33は、固体電解質フィルム製造工程60(図2参照)に基づいて設計された設備である。ただし、このフィルム製造設備33は本発明の一例であり、本発明を限定するものではない。以下、固体電解質の前駆体であるポリマーを含むドープ24を用いる場合を例に挙げて、フィルム製造設備33について説明する。
【0100】
フィルム製造設備33は、支持体上にドープ24を流延して流延膜61を形成する流延室80と、支持体の走行に伴い流延膜61を搬送する間に乾燥手段により流延膜61を乾燥する搬送室81と、支持体から流延膜61を剥ぎ取って前駆体フィルム67を得た後、前駆体フィルム67の乾燥を促進させるテンタ83と、更に、前駆体フィルム67にプロトン置換を行い、前駆体フィルム67から水素置換フィルム75を生成する液槽84と、水素置換フィルム75を洗浄する水槽85と、水素置換フィルム75の乾燥を促進させて固体電解質フィルム79とする乾燥室86と、固体電解質フィルム79を調湿する調湿室87と、調湿後の固体電解質フィルム79をロール状に巻き取る巻取室88とを備えている。
【0101】
フィルム製造設備33は、ストックタンク32を介してドープ製造設備10と接続されている。ストックタンク32には、モータ90により回転する攪拌機91が備えられている。ドープ製造設備10で調製されたドープ24は、ストックタンク32に貯留される。攪拌機91は、常時回転しているため、ドープ24の中に固形分の析出や凝集が発生するのを抑制してドープ24の状態を均一に保持することができる。なお、このようにドープ24を攪拌している際に、ドープ24に対して、各種添加剤を適宜混合させることもできる。
【0102】
流延室80には、ドープ24を流出する流延ダイ92と、走行する支持体である流延バンド93とを備える。流延ダイ92の材質としては、析出硬化型のステンレス鋼が好ましく、その熱膨張率は2×10−5(℃−1)以下であることが好ましい。そして、電解質水溶液での強制腐食試験でSUS316と略同等の耐腐食性を有し、さらに、ジクロロメタン、メタノール、水の混合液に3ヵ月浸漬しても気液界面にピッティング(孔開き)が生じないような耐腐食性を有するものが好ましい。なお、流延ダイ92は、鋳造後1ヶ月以上経過した素材を研削加工することにより作製されることが好ましく、これにより、流延ダイ92の内部をドープ24が一様に流れ、後述する流延膜61にスジなどが生じることが防止される。流延ダイ92のドープ24と接する、いわゆる接液面は、その仕上げ精度が表面粗さで1μm以下、真直度がいずれの方向にも1μm/m以下であることが好ましい。流延ダイ92のスリットのクリアランスは、自動調整により0.5mm〜3.5mmの範囲で調整可能とされている。流延ダイ92のリップ先端の接液部の角部分について、その面取り半径Rは、流延ダイ92の全巾にわたり一定かつ50μm以下とされている。流延ダイ92はコートハンガー型のダイが好ましい。
【0103】
流延ダイ92の幅は特に限定されるものではないが、最終製品となる固体電解質フィルム79の幅の1.1倍〜2.0倍程度であることが好ましい。また、製膜の際のドープ24の温度が所定温度に保持されるように、流延ダイ92の温度を制御する温度コントローラが流延ダイ92に取り付けられることが好ましい。さらに、流延ダイ92には、幅方向に所定の間隔で複数備えられた厚み調整ボルト(ヒートボルト)と、このヒートボルトによりスリットの隙間を調整する自動厚み調整機構が備えられることがより好ましい。ヒートボルトは予め設定されるプログラムによりポンプ95の送液量に応じてプロファイルを設定し製膜を行うことが好ましい。ドープの送り量を精緻に制御するために、ポンプ95は高精度ギアポンプであることが好ましい。また、フィルム製造設備33中には、例えば赤外線厚み計のような厚み測定機を設け、厚みプロファイルに基づく調整プログラムと厚み測定機による検知結果とにより、自動厚み調整機構へのフィードバック制御を行ってもよい。製品としての固体電解質フィルム79の両側端を除く任意の2つの位置での厚み差が1μm以内となるように、先端リップのスリット間隔を±50μm以下に調整できる流延ダイ92を用いることが好ましい。
【0104】
流延ダイ92のリップ先端には硬化膜が形成されていることがより好ましい。硬化膜の形成方法は、特に限定されるものではないが、セラミックスコーティング、ハードクロムめっき、窒化処理方法などが挙げられる。硬化膜としてセラミックスを用いる場合には、研削することができ気孔率が低く脆くなく耐腐食性が良く、かつドープ24との親和性や密着性がないものが好ましい。具体的には、タングステン・カーバイド(WC)、Al、TiN、Crなどが挙げられるが、中でも特に好ましくはWCである。WCコーティングは、溶射法で行うことができる。
【0105】
ドープ24が流延ダイ92のリップ先端で局所的に乾燥固化することを防止するために、リップ先端に溶媒を供給するための溶媒供給装置(図示しない)をリップ先端近傍に取り付けることが好ましい。溶媒が供給される位置は、流延ビードの両端部とリップ先端の両端部と外気とにより形成される三相接触線の周辺部が好ましい。供給される溶媒の流量は、片側それぞれに対し0.1mL/分〜1.0mL/分とすることが好ましい。これにより、異物、例えばドープ24から析出した固形成分や外部から流延ビードに混入したものが流延膜61中に混合してしまうことを防止することができる。なお、溶媒を供給するポンプとしては、脈動率が5%以下のものを用いることが好ましい。
【0106】
ストックタンク32と流延ダイ92との間には、濾過装置96が備えられる。濾過装置96は、濾過することによりドープ24中に含まれる所定粒径よりも大きい微粒子や異物、及びゲル状の異物等を取り除く。これら異物等を除去するために、濾過装置96の濾過口径は10μm以下であることが好ましい。
【0107】
流延ダイ92の下方には、回転ローラ97a,97bに掛け渡される流延バンド93が設けられている。流延バンド93は、少なくともいずれか一方の回転ローラの駆動回転により連続的に搬送される。この流延バンド93は、流延室80、搬送室81及び後述するタンクを巡回するように無端で搬送される。
【0108】
流延バンド93の幅は特に限定されるものではないが、ドープ24の流延幅の1.1倍〜2.0倍の範囲のものを用いることが好ましい。また、長さは20m〜200m、厚みは0.5mm〜2.5mmであり、表面粗さは0.05μm以下となるように研磨されていることが好ましい。
【0109】
流延バンド93の素材は特に限定されるものではなく、例えば、ステンレス等の無機材料であっても良いし、有機材料からなるプラスチックフィルムでも良い。プラスチックフィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリブチレンテレフタレート(PBT)フィルム、ナイロン6フィルム、ナイロン6,6フィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリイミドフィルム等の不織布のプラスチックフィルムが挙げられる。使用する溶媒、製膜温度に対応できるような化学的安定性と耐熱性とをもつ長尺物であることが好ましい。なお、本実施形態では、流延バンド93としてプラスチックフィルムであるPETフィルムを使用している。
【0110】
回転ローラ97a,97bの内部には、伝熱媒体が取り付けられているものを用いて、これにより流延バンド93の表面温度を所定の値にすることが好ましい。回転ローラ97a,97bに伝熱媒体流路(図示しない)が形成されており、その流路中を、所定の温度に保持されている伝熱媒体が通過することにより、回転ローラ97a,97bの温度が所定の値に保持されるものとなっている。流延バンド93の表面温度は、溶媒の種類、固形成分の種類、ドープ24の濃度等に応じて適宜設定する。
【0111】
回転ローラ97a,97b、及び流延バンド93に代えて回転ドラム(図示しない)を支持体として用いることもできる。この場合には、回転速度ムラが0.2%以下となるように高精度で回転できるものであることが好ましい。回転ドラムは、表面の平均粗さが0.01μm以下であることが好ましく、表面がハードクロムめっき処理等を施されているものが好ましい。これにより、十分な硬度と耐久性とを向上させることができる。なお、回転ドラム、流延バンド93、回転ローラ97a,97bは、表面欠陥が最小限に抑制されていることが好ましい。具体的には、30μm以上のピンホールが無く、10μm以上30μm未満のピンホールは1個/m以下であり、10μm未満のピンホールは2個/m以下であることが好ましい。
【0112】
流延ビードの上流側には、減圧チャンバ(図示せず)を備えることが好ましい。流延ビードとは、流延ダイ92から流延バンド93にかけて形成されるリボン状のドープ24である。また、流延ビードの上流側とは、流延バンド93の走行方向に関して流延ビードよりも上流側であることを意味する。この減圧チャンバにより、流延ビードの上流側のエリアの圧力を、流延ビードの下流側のエリアの圧力よりも低く維持する。また、流延バンド93の近傍には送風装置(図示しない)を設けて、流延膜61の溶媒を蒸発させるために風を吹き付けることが好ましい。なお、上記の送風装置には遮風板を設けて、流延膜61の形状を乱すような風が流延膜61にあたるのを抑制することが好ましい。その他に、流延室80には、その内部温度を所定の値に保つための温度コントローラと、蒸発している有機溶媒を凝縮回収するための凝縮器(コンデンサ)(共に図示しない)とが設けられる。このコンデンサは、凝縮液化した有機溶媒を回収するための回収装置が備えられている形態であることが好ましい。
【0113】
また、流延ダイ92の下流側、流延バンド93の搬送路近傍には、乾燥装置98aが備えられる。乾燥装置98aは、乾燥風を流延膜61にあてる。この乾燥風は、流延膜61の乾燥条件を満足するように調節されている。流延膜61が吸水すると、流延膜24aが相分離・固形化し、空隙率の高いフィルムとなってしまう。形成直後の流延膜61は吸水しやすいため、乾燥風の湿度は低いほうが好ましく、具体的には、50%RH未満であることが好ましく、20%RH未満であることがより好ましい。
【0114】
搬送室81の内部には、所望の温度になるよう調整した乾燥風を送り出して流延膜61の乾燥を促進させる乾燥装置98b〜98dが備えられている。また、搬送室81は、複数の区画に分け、更に各区画内に乾燥装置98b〜98dを取り付ける等して、各区画の温度及び湿度が異なるように調整することが好ましい。搬送室81における区画の個数等は特に限定されるものではないが、搬送室81内の乾燥温度を30℃以上60℃以下の範囲となるように調整することが好ましい。こうして、流延ベルト93に搬送される流延膜61を徐々に乾燥することができるので、急激に溶媒が蒸発してしわやつれなどの形状変化が発生するのを抑制することができる。また、搬送室81には、流延膜61を乾燥する際に発生する蒸発溶剤を回収するための凝縮器(コンデンサ)99を設けている。凝縮器99は、凝縮液化した有機溶媒を回収するための回収装置が備えられている形態であることが好ましい。
【0115】
乾燥装置98bは、搬送室81における流延バンド93の搬送方向の上流側に配される。乾燥装置98cは、乾燥装置98bの下流側へ、乾燥装置98dは、乾燥装置98cの下流側へそれぞれ配される。乾燥装置98b〜98dは、所定の乾燥風を流延膜61にあてる。この乾燥風の風向きは、流延膜61の移動方向と略同方向の風向きである。
【0116】
また、搬送室81の内部における、乾燥装置98cと乾燥装置98dとの間の、流延バンド93の搬送路近傍には、塗布装置100が配される。塗布装置100の設置位置は、乾燥装置98cと乾燥装置98dとの間には限定されず、乾燥装置98bの上流側、乾燥装置98bと乾燥装置98cの間、乾燥装置98dの下流側のいずれかの位置でもよい。塗布装置100は、流延ダイ92と同様の構造を有する。塗布装置100は、水槽101と接続される。この水槽101には、接触貧溶媒200が貯留する。
【0117】
また、水槽101は、温度調節部101aと接続する。この温度調節部101aは、水槽101に貯留される接触貧溶媒200の温度を所定の温度域に保持する。接触貧溶媒200の温度は、10℃以上70℃以下に保持することが好ましい。接触貧溶媒200の温度が10℃以下である場合には、ゲル化の効果が弱くとなり、接触貧溶媒200の温度が70℃以上である場合には、急激なゲル化によりベースが変形してしまうるためである。
【0118】
固体電解質フィルム製造工程の効率化を考慮すると、この接触貧溶媒200としては、ドープ24に含まれるポリマーに対して貧溶媒の性質をもつ化合物であることが好ましい。更に、有機溶媒11a(図1参照)と相溶性が高いものを用いることがより好ましい。ポリマーの良溶媒である化合物と貧溶媒である化合物とを含む混合物をドープの有機溶媒として用いる場合には、良溶媒成分と貧溶媒成分との両方に相溶性をもつ化合物を接触貧溶媒200として用いることが好ましい。なお、ドープの有機溶媒としては、ポリマーを溶解するものであれば限定はされないが、沸点が低いものほど好ましい。この有機溶媒11aの具体的な例として、低級アルコール、アセトン、酢酸メチルなどが挙げられる。
【0119】
接触貧溶媒200として、水や有機溶媒の水溶液などを用いることが好ましい。接触貧溶媒として好適に用いられる水は、不純物を含まないものであればよい。この水として、純水、蒸留水やイオン交換水などを用いることが好ましい。なお、この第1の実施形態では、接触貧溶媒200として純水を用いている。また、接触貧溶媒200として、ドープ中のポリマーに対して良溶媒の性質をもつ化合物の水溶液を用いてもよく、例えば前駆体の良溶媒がDMSOであるときには、DMSO水溶液を接触貧溶媒として用いることができる。DMSO水溶液を接触貧溶媒として用いることにより、溶媒置換における溶媒抽出速度を制御することができる。また、DMSO水溶液の中でもより低沸点であるものを用いることがより好ましい。具体的には、水とDMSOとの重量割合kが、1%以上50%以下であることが特に好ましい。重量割合kは、100×{w1/(w1+w2)}で表される。ここで、w1はDMSO水溶液に含まれる水の重量であり、w2はDMSO水溶液に含まれるDMSOの重量である。また、接触貧溶媒として、2種類以上の有機溶媒からなる水溶液を用いても良い。なお、ポリマーが前述した化3に示される化合物である場合にも、上述した接触貧溶媒を用いることができる。なかでも、溶媒の抽出速度を制御できるDMSO水溶液を用いることが特に好ましい。
【0120】
なお、このような塗布装置100により、前駆体フィルム67の片面上に塗布する接触貧溶媒200の量を、2ml/m以上100ml/m以下にすることが好ましい。接触貧溶媒200の塗布量が2ml/m以下である場合には、溶媒置換が十分に行われず、前駆体フィルム67に十分な自己支持性を発現させることができない点で好ましくない。また、接触貧溶媒200の塗布量が100ml/m以上である場合には、前駆体フィルム67の搬送を安定して行うことができないため好ましくない。前述した塗布装置100に代えて、E型ギーサ、ロッドコータやグラビアコータなど公知の塗布手段を用いてもよい。なお、流延バンド93によって搬送される流延膜61に接触貧溶媒200を塗布する、いわゆるオンライン方式で固体電解質フィルムの製造を行う場合には、塗布装置100やE型ギーサを用いることがより好ましい。また、前述した接触貧溶媒200の塗布量を考慮すると、塗布装置100やE型ギーサを塗布手段として用いることがより好ましい。
【0121】
搬送室81の外部における流延バンド93の搬送路近傍には、剥取ローラ103が備えられる。剥取ローラ103は、自己支持性を有する流延バンド93上の流延膜61を、前駆体フィルム67として剥ぎ取る。流延膜61を剥ぎ取られた流延バンド93は、ガイドローラにより搬送室81の内部へ案内される。
【0122】
また、この剥取ローラ103の下流には、タンク105が配される。タンク105は、ガイドローラ105aと、温度調節部105bとを備える。この温度調節部105bは、タンク105に貯留される置換溶媒202の温度を所定値に保持する。流延膜61と置換溶媒202との接触により、流延膜61の内部に残留する有機溶媒と置換溶媒202との間で溶媒置換が行われる。この溶媒置換を円滑に行うために、置換溶媒202の温度は、10℃以上70℃以下に保持することが好ましい。ガイドローラ105aは、流延ベルト93から剥ぎ取られた前駆体フィルム67を、置換溶媒202に浸漬した後、置換溶媒202から除去する。
【0123】
この置換溶媒202として、流延膜61に含まれる残留溶媒と相溶性が高く、溶媒抽出速度をコントロールできる液体を用いることが好ましい。この置換溶媒として、純水やイオン交換水、ドープの溶媒成分のうちポリマーの良溶媒である化合物の水溶液等を用いることが好ましい。ドープの溶媒がポリマーの良溶媒と貧溶媒との混合物であるときには、良溶媒成分と貧溶媒成分とに相溶する液が置換溶媒として用いられることが特に好ましい。この液としては、例えば、水と良溶媒成分との混合物、水と貧溶媒成分との混合物が挙げられる。ただし、この置換溶媒は、ドープの成分として用いている物質かどうかは関係なく、例えば、アセトンでもよい。この溶媒置換工程70(図2参照)により、流延膜61において溶媒置換が行われ、流延膜61の残留溶媒量が減少する。また、溶媒置換後に生成された前駆体フィルム67には、ドープの溶媒、接触貧溶媒や置換溶媒が残留する。このため、この置換溶媒として、沸点が低い液体を用いることがより好ましい。低沸点の置換溶媒を用いることにより、前駆体フィルム67の残留溶媒の沸点が低下するため、後述する前駆体フィルム乾燥工程72における残留溶媒の除去を容易に、短時間に行うことができる。なお、この第1の実施形態では、置換溶媒202として純水を用いている。
【0124】
溶媒置換工程においては、前駆体フィルム67と置換溶媒202との接触方法は、前駆体フィルム67への塗布や噴霧、または、前駆体フィルム67を置換溶媒の中に浸漬する方法など、いずれの方法を用いてもよい。また、この溶媒置換工程70における前駆体フィルム67と置換溶媒202との接触時間は、10分以下にすることが好ましい。この接触時間が10分を超えると、前駆体フィルム67に含まれる水分の膨張により、乾燥後の固体電解質フィルム79の厚み変動が大きくなるためである。また、この溶媒置換工程70における前駆体フィルム67の残留溶媒量は、自己支持性発現工程66により低減している。そのため、溶媒置換工程70において前駆体フィルム67と置換溶媒とを接触させても、前駆体フィルム67における細孔の発生を抑制し、欠陥の少ない固体電解質フィルムを得ることが可能となる。
【0125】
タンク105の下流でありテンタ83の上流には、前駆体フィルム67の両面方向に向けられた送風口を備える一対のエアシャワー106が設けられている。また、テンタ83には、乾燥風を送り出す乾燥装置と、チェーン(図示しない)の走行に伴い走行する多数のクリップ83aとが備えられている。そして、テンタ83の下流には、前駆体フィルム67の両端部(耳部)を切り落とす耳切装置107が設けられている。耳切装置107には、切り取られた前駆体フィルム67の両側端部(耳と称される)の屑を細かく切断処理するためのクラッシャ107aが接続されている。
【0126】
耳切装置107の下流には、液槽84が配される。液槽84には、酸を含む液(以下、酸溶液と称する)204が貯留する。また、液槽84は、温度調節部84aとガイドローラ84bとを備える。温度調節部84aは、液槽84に貯留する酸溶液204の温度を所定値に保持する。ガイドローラ84bは、前駆体フィルム67を、酸溶液204に浸漬した後、酸溶液204から除去する。所定の温度に保持された酸溶液204に浸漬された前駆体フィルム67は、プロトン置換され、水素置換フィルム75となる。
【0127】
プロトン置換された割合は、高ければ高いほど、つまり100%であることが最も好ましい。しかしこのプロトン置換率を100%とせずともよく、本実施形態では生産性との兼ね合いから置換対象であるカチオン種のうち80%以上、より好ましくは90%以上であると十分固体電解質フィルムとしての機能を発現するとしている。なお、このプロトン置換率は、置換対象であるカチオン種の総数をx1とし、カチオン種を置換した水素原子の総数をy1として(y1/x1)×100で求められる値である。
【0128】
酸溶液204は、酸性の水溶液に限られず、前駆体のプロトン受容体にプロトンを与え得るものであればよい。例えば、用いる酸よりもプロトン受容性が大きい化合物を前駆体として用いる場合には、酸溶液204に酸を用いてもよい。
【0129】
酸溶液204として、アニオンの式量が40以上1000以下である酸を使用すると、フィルム中にアニオンが侵入しにくいため、前駆体フィルム67に対し、高効率のプロトン置換を行うことができる。具体的には、例えば、硫酸、リン酸、硝酸、塩酸、有機スルホン酸等を挙げることができるが、中でも、式量が大きく強酸の硫酸を用いることが好ましい。
【0130】
酸溶液204の温度が高くなるほど、前駆体フィルム67との接触時におけるプロトン置換反応が円滑に行われる。具体的には、酸溶液204の温度が30℃以上酸溶液204の沸点以下であることが好ましい。また、前駆体フィルム67と酸溶液204との接触方法は、前駆体フィルム67への酸溶液の塗布や噴霧、または、前駆体フィルム67を酸溶液の中に浸漬する方法など、いずれの方法を用いてもよい。
【0131】
液槽84の下流には、水槽85が配される。水槽85には、洗浄液としての水206が貯留する。また、水槽85は、温度調節部85aとガイドローラ85bとを備える。温度調節部85aは、水槽85に貯留する洗浄液206の温度を所定値に保持する。ガイドローラ85bは、水素置換フィルム75を、洗浄液206に浸漬した後、洗浄液206から除去する。また、酸を洗い流す高い効果を得るために、使用する洗浄液206の温度は30℃以上洗浄液206の沸点以下とすることが好ましい。
【0132】
洗浄液206は、溶存酸素等がほとんど含まれておらず、理論上のHOに近い蒸留水、純水やイオン交換水であることが好ましい。本明細書における純水とは、比電気抵抗が少なくとも1MΩ以上であり、特にナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウムなどの金属イオンは1ppm未満、クロル、硝酸などのアニオンは0.1ppm未満である水を指す。純水は、逆浸透膜、イオン交換樹脂、蒸留などの単体、あるいは組み合わせによって、容易に得ることができる。なお、上記水槽85のように、必ずしも水素置換フィルム75を洗浄液206に浸漬させる必要はなく、洗浄液206の塗布や吹きつけにより水素置換フィルム75の表面を洗浄することができる方法であれば良い。水洗工程77及び洗浄液206の詳細については、後述する。
【0133】
水槽85の下流には乾燥室86が配される。乾燥室86には、多数のパスローラ127と、乾燥室86の内部の蒸発溶媒を回収するために吸着回収装置128と、乾燥風を供給する乾燥装置(図示しない)とが備えられている。また、乾燥室86の下流に配される調湿室87には、乾燥室86と同じパスローラ127と温度制御装置と湿度制御装置(共に図示しない)とが備えられている。調湿室87の下流には、除電バー等の除電装置(図示しない)を設けて、水素置換フィルム75の帯電圧を所定の範囲(例えば、−3kV〜+3kV)となるように調整することが好ましく、更には、ナーリング付与ローラ対(図示しない)を設けて、水素置換フィルム75の両側端部にエンボス加工でナーリングを付与することが好ましい。巻取室88の内部には、固体電解質フィルム79を巻き取るための巻取ロール130と、巻き取り時のテンションを制御するためのプレスローラ131とが備えられている。
【0134】
次に、上記のフィルム製造設備33を用いて固体電解質フィルム79を製造する方法の一例を説明する。
【0135】
ストックタンク32に貯留されているドープ24をポンプ95により濾過装置96に送り込む。濾過装置96では、固体電解質フィルム79の特性、特にプロトン伝導度の低下の要因となる不純物などをドープ24から除去する。
【0136】
濾過後のドープ24を流延ダイ92に送り込んだ後、流延ダイ92から流延ビードを形成させながら流延バンド93の上に流延する。この場合、流延バンド93に生じるテンションが10N/m×10N/mとなるように、回転ローラ97a,97bの相対位置、及び少なくともいずれか一方の回転速度が調整する。また、流延バンド93と回転ローラ97a,97bとの相対速度差は、0.01m/分以下となるように調整する。なお、流延時においては、使用するドープ24の濃度及び所望のフィルム製品の厚みを考慮して、ドープ24の流延量を決定する。
【0137】
流延バンド93の速度変動を0.5%以下とし、流延バンド93が一周する際に生じる幅方向における蛇行は1.5mm以下とすることが好ましい。なお、この蛇行を抑制するためには、流延バンド93の両端の位置を検出する検出器(図示しない)と、この検出器による検出データに応じて流延バンド93の位置を調整する位置調整機(図示しない)とを設けて、流延バンド93の位置をフィードバック制御することがより好ましい。その他にも、流延ダイ92の直下における流延バンド93について、回転ローラ97a,97bの回転に伴う上下方向の位置変動が200μm以内となるようにすることが好ましい。流延室80には温度コントローラ(図示しない)を設けて、これにより−10℃〜57℃とされることが好ましい。流延室80の内部で蒸発した溶媒は回収装置(図示しない)により回収した後、再生させてドープ製造用の溶媒として再利用すると、製造コスト低減を実現できる等の効果を得る上でも好ましい。
【0138】
流延ビードの様態を安定させるために、このビードに関し上流側のエリアが所定の圧力値となるように減圧チャンバで制御することが好ましい。減圧チャンバによる減圧値は、ビードに関し下流側のエリアよりも−2500Pa〜−10Paとすることが好ましい。なお、減圧チャンバにジャケット(図示しない)を取り付けて、内部温度が所定の温度を保つようにすることが好ましい。また、流延ビードの形状を所望のものに保つために、流延ダイ92のエッジ部に吸引装置(図示しない)を取り付けて流延ビードの両側を吸引することが好ましい。このエッジ吸引風量は、1L/分〜100L/分の範囲であることが好ましい。
【0139】
流延バンド93上の流延膜61を、回転ローラ97a,97bを駆動させることにより流延バンド93を無端走行させる。流延室80及び搬送室81内では、乾燥装置98a〜98dから乾燥風を供給して流延膜61に含まれる有機溶媒を蒸発させる。このとき、流延膜61にあたるときの乾燥風の温度が30℃以上100℃未満となるように、より好ましくは20℃以上70℃以下となるようにすることが好ましい。なお、本実施例では流延膜61の近傍での温度が平均して45℃となるように乾燥風の温度を調整している。
【0140】
流延バンド93上の流延膜61を乾燥する際には、出来る限り低湿とすることが好ましい。湿度を調整するには、流延室80や搬送室81の内部に市販の湿度制御装置等を設置する等して対応することができる。湿度制御装置については特にその形態や設置箇所は限定されない。また、コンデンサ99は、搬送室81の内部の蒸発溶媒を凝縮して回収する。
【0141】
塗布装置100では、水槽101に貯留する接触貧溶媒200と、流延バンド93により搬送される流延膜61とを接触させる。こうして、塗布装置100により、流延膜61の内部の有機溶媒と接触貧溶媒200との間で溶媒置換が行われる。流延膜61中に含まれる良溶媒成分よりも沸点が低い接触貧溶媒200を流延膜61に接触させると、流延膜61をゲル状にすることができる。すると、それ流延膜61自体が自己支持性を持つようになるため、流延バンド93から流延膜61を容易に剥ぎ取ることができるようになる。また、前駆体フィルム67を乾燥する工程でドープの溶媒成分を接触貧溶媒200とともに蒸発させることができる。さらにまた、流延膜61中に含まれる良溶媒が貧溶媒よりも多くなるために、全溶媒の重量における低沸点成分の割合が大きくなる。これにより、水を蒸発させる程度の温度で十分な乾燥を行うことができる。
【0142】
こうして、接触貧溶媒200による溶媒置換及び乾燥装置98a〜98dによる乾燥により、流延膜61に自己支持性が発現する。こうして、流延膜61の弾性率は、剥取可能な程度となる。
【0143】
剥取ローラ103は、流延膜61を前駆体フィルム67として流延バンド93から剥ぎ取る。また、流延膜61が剥ぎ取られた後の流延バンド93は、回転ローラ97a,97bの駆動に伴い無端で走行しているため、再度流延室80内に送り込まれる。ガイドローラ105aは、前駆体フィルム67を置換溶媒202である純水中へ案内する。前駆体フィルム67と純水の接触により、純水と流延膜61に含まれる有機溶媒との間で溶媒置換が行われる。純水は、流延膜61に残留する有機溶媒に相溶し、純水と流延膜61に含まれる有機溶媒との間で溶媒置換が行われる。
【0144】
また、ドープの溶媒が良溶媒成分と貧溶媒成分との混合物であり、かつ、良溶媒が前駆体に対して100重量%以上のドープを流延する場合には、接触貧溶媒200及び置換溶媒202に接触させた後の前駆体フィルム67は、前駆体の重量に対する良溶媒成分の重量が100%未満とされていることが好ましい。これにより、後の乾燥工程を短時間で済ませることができる。
【0145】
接触貧溶媒200及び置換溶媒202に対する流延膜61及び前駆体フィルム67の接触時間は合わせて10分以下であることが好ましい。より好ましくは30秒以上10分以下であり、特に好ましくは1分以上5分以下である。本発明では、この時間が10分を超えると、前駆体フィルム67における水分量が多くなりすぎてしまい、前駆体フィルム67が大きく膨潤してしまうし、また、後工程での乾燥時間を長くせざるをえなくなることがある。一方、この時間が30秒未満の場合には、溶媒の置換が不十分であるためにゲル化が十分に促進されない。そのため、支持体からの剥ぎ取りがうまくできずに連続製膜できなくなる、あるいは乾燥時間の短縮を実現させるのが難しくなる。
【0146】
ガイドローラ105aによって、前駆体フィルム67がタンク105から送り出される。エアシャワー106は前駆体フィルム67の表面にエアを吹き付け、前駆体フィルム67の表面に付着する水分を除去する。この前駆体フィルム67をテンタ83に送り込む。テンタ83では、クリップ83aで前駆体フィルム67の両側端部を把持して、チェーンの走行に伴い搬送する。この前駆体フィルム67の搬送の間に、所望の温度に調整した乾燥風を前駆体フィルム67にあてて、前駆体フィルム67の乾燥を促進させる。ただし、クリップ83aをピンに代えて、このピンを前駆体フィルム67の両側端部に突き刺すことにより保持してから搬送させても良い。このとき、乾燥風の温度を調整することにより、テンタ83の内部の温度を80℃以上150℃以下とすることが好ましい。第1の実施形態では、その内部の温度を約120℃となるように調整する。この設定温度は、接触貧溶媒200や置換溶媒202を沸点の低いものにするほど、低くすることができる。テンタ83は、内部が搬送方向で異なった温度ゾーンとして4分割され、そのゾーン毎に乾燥条件を適宜調整することが好ましい。テンタ83の乾燥により、前駆体フィルム67の残留溶媒量が、乾量基準で10重量%程度にする。なお、この乾量基準による残留溶媒量は、サンプリング時におけるフィルム重量をx2、そのサンプリングフィルムを乾燥した後の重量をy2とするとき{(x2−y2)/y2}×100で算出される値である。
【0147】
テンタ83では、前駆体フィルム67を幅方向に延伸させることが可能とされている。テンタ83に送り込む前の前駆体フィルム67に付与する搬送方向における張力を調整することにより、前駆体フィルム67を搬送方向に延伸することも可能である。また、前駆体フィルム67を延伸する場合には、前駆体フィルム67の搬送方向と幅方向との少なくとも1方向を、延伸前の寸法に対し100.5%〜300%の寸法となるように延伸することが好ましい。これにより、前駆体フィルム67の分子配向を調整することができる。
【0148】
前駆体フィルム67を耳切装置107に送り込み、ここでその両側端部を切断除去する。このようにクリップで傷ついた前駆体フィルム67の両側端部を切除することで、前駆体フィルム67の平面性を向上させることができる。なお、切断された両側端部は、カッターブロワ(図示しない)によりクラッシャ107aに送り込まれ、ここで粉砕してチップとなる。このチップを、ドープ製造用のポリマー原料として再利用すると、原料の有効利用或いは製造コストの低減を図ることが出来る。なお、前駆体フィルム67の両側端部を切断する工程は省略することもできるが、前駆体フィルム67として支持体から剥ぎ取った後、フィルムを巻き取るまでのいずれかで行うことが好ましい。
【0149】
前駆体フィルム67を液槽84に送り込んで、前駆体フィルム67を、酸溶液204としての硫酸水溶液に浸漬する。こうして、硫酸水溶液への浸漬により、前駆体フィルム67のポリマー成分がプロトン置換され、前駆体フィルム67が水素置換フィルム75となる。酸溶液は、前駆体フィルム65に対して出来る限り均一に接触させることが好ましい。
【0150】
次に、プロトン置換が十分に行われた水素置換フィルム75を水槽85に送り込み、水槽85の純水中に浸漬する。こうして、水素置換フィルム75に付着した余分な硫酸水溶液を除去することができる。
【0151】
続けて、水素置換フィルム75を乾燥室86に送り込む。乾燥室86では、パスローラ127に巻き掛けながら水素置換フィルム75を搬送する間に乾燥装置から乾燥風を供給して乾燥させる。乾燥室86の内部温度は、特に限定されるものではないが、固体電解質の耐熱性(ガラス転移点Tg、熱変形温度、融点Tm、連続使用温度等)に応じて決定され、Tg以下とすることが好ましく、本発明では、乾燥室86の内部温度は120℃以上185℃以下とすることが好ましく、固体電解質フィルム79の残留溶媒量が乾量基準に対して10重量%未満となるまで乾燥することが好ましい。なお、固体電解質フィルム79から蒸発して発生した溶媒ガスは、吸着回収装置108により吸着回収してから、溶媒成分を除去した後、再度、乾燥風として乾燥室86の内部に送りこむ。
【0152】
乾燥室86は、送風温度を変えるために、搬送方向で複数の区画に分割されていることがより好ましい。また、耳切装置107と乾燥室86との間に予備乾燥室(図示しない)を設けて水素置換フィルム75を予備乾燥すると、乾燥室86で水素置換フィルム75の温度が急激に上昇することが防止されるので、乾燥室86での水素置換フィルム75の大幅な形状変化を抑制して、形状変化の少ない固体電解質フィルム79を得ることができる。
【0153】
接触貧溶媒200及び置換溶媒202として同質の溶媒を用いる場合には、溶媒中に浸漬した状態で、溶媒接触工程66と剥取工程68と溶媒置換工程70を行っても良い。これについては、第2の実施形態として後述する。このようにすることで、固体電解質フィルム79の製造に要する時間を更に短縮することができる。
【0154】
上記実施形態では、自己支持性発現工程66において、流延膜乾燥工程66a及び接触溶媒工程66bを行うとしたが、流延膜乾燥工程66aを行わなくてもよい。ただし、自己支持性発現工程66全体として短時間で行う場合には、流延膜61に自己支持性を発現させる点で流延膜乾燥工程66aを行うほうが好ましい。
【0155】
接触溶媒工程66bにおいて塗布装置100を用いて、接触貧溶媒200を流延膜61に塗布したが、これに限らず、接触貧溶媒200を吹き付けてもよい。また、接触貧溶媒200と接触後の流延膜61を乾燥する乾燥装置98dを用いなくても良い。この乾燥装置98dによる流延膜61の乾燥は、流延膜61に含まれるポリマーの良溶媒の更なる除去が可能な限り、有効な手段である。しかしながら、この乾燥装置98dにより、流延膜61に含まれる接触貧溶媒200が揮発する場合には、接触貧溶媒200と接触後の流延膜61の乾燥を行わないほうがよい。
【0156】
なお、水洗工程において、水素置換フィルムを洗浄する際には、必ずしも洗浄液に浸漬させる必要はなく、水素置換フィルムから酸を除去することができる洗浄液の接触方法であれば特に限定されるものではない。例えば、水素置換フィルムに対して洗浄液を塗布する方法、洗浄液を吹き付ける方法等が挙げられる。このように水素置換フィルムに対して洗浄液を塗布したり、吹き付けたりする方法では、水素置換フィルムを連続的に搬送しながら実施することができるので好ましい。
【0157】
上記のうち、塗布する方法と吹きつける方法との具体的例としては、エクトルージョンコータあるいはファウンテンコーター、フロッグマウスコーター等の塗布ヘッドを用いる方法、空気の加湿や塗装、タンクの自動洗浄などに利用されるスプレーノズルを用いる方法が挙げられる。これらの塗布方式に関しては、「コーティングのすべて」(荒木正義編集、(株)加工技術研究会(1999年))にまとめられており、この記載も本発明に適用することができる。また、スプレーノズルについては、(株)いけうち、スプレーイングシステムズ社の円錐状、扇状などのスプレーノズルを透明樹脂フィルムの幅方向に配列して、全幅に水流が衝突する様に設置することができる。
【0158】
洗浄液の吹き付け速度は大きいほど、高い洗浄効果を得ることができるが、水素置換フィルムを連続的に搬送しながら水洗工程を行なう場合には、搬送安定性が損なわれるおそれがある。そのため、洗浄液の吹き付け速度は、50〜1000cm/秒であることが好ましく、好ましくは100〜700cm/秒であり、より好ましくは100〜500cm/秒である。
【0159】
洗浄液の量は、少なくとも下記式(1)に定義される理論希釈率を上回る量を用いなければならない。すなわち、洗浄に使用される洗浄液121の全てが酸溶液110の希釈混合に寄与したという仮定の理論希釈率を定義する。実際には、完全混合は起こらないので、理論希釈率を上回る洗浄液206量を使用することとなる。用いた酸溶液204の酸濃度や酸溶液の溶媒の種類にもよるが、少なくとも100〜1000倍、好ましくは500〜1万倍、さらに好ましくは1000〜十万倍の希釈が得られる程度の量の洗浄液206を使用する。なお、下記の式(1)において、洗浄液206及び酸溶液204の量は、フィルムの単位面積あたりに接触する各液量である。
理論希釈倍率=(洗浄液206の量[cc/m])÷(酸溶液204の量[cc/m]・・・(1)
【0160】
洗浄方法としてある決まった洗浄液206の量を用いる場合には、一度に全量の洗浄液を水素置換フィルムに接触させるよりも全量を数回分に分けて複数回の洗浄を行うことが好ましい。この場合、一つの洗浄手段と次の洗浄手段との間に、時間や距離を調整することにより適当な間を設けるようにすると、洗浄液を拡散させて酸溶液を希釈させることができるので好ましい。更には、搬送される水素置換フィルムに傾斜を設けるなどして、フィルム上の洗浄液がフィルム面に沿って流れる様にすれば、拡散に加えて、流動による混合希釈効果が得られるので好ましい。最も好ましい方法としては、洗浄手段と洗浄手段の間に水切り手段を設けてフィルム上の水切りを行なうことである。この方法は、酸溶液の希釈効率を高めることもできる。なお、具体的な水切り手段としては、ブレード、エアナイフ、或いはロール等が挙げられる。搬送路に沿って複数配された水槽の数は、多いほうが有利であるが、設置スペースならびに設備コストの観点より、通常は搬送方向に沿って2〜10箇所、好ましくは2〜5箇所が好ましい。
【0161】
上記の水切り手段の中では、最も水切り効果を得ることができるためにエアナイフを用いることが好ましい。エアナイフを用いる場合には、固体電解質フィルムに対して送り出すエアの風量と風圧とを調整することにより、表面に残存する水分量をゼロに近づけることが出来る。ただし、エアの風量が大きすぎると、ばたつきや寄り等が生じてフィルムの搬送安定性に影響を及ぼすことがある。そのため、エアの風量は10〜500m/秒であることが好ましく、好ましくは20〜300m/秒であり、より好ましくは30〜200m/秒である。なお、上記のエアの風量は、特に限定されるものではなく、フィルム上に元々あった水分量やフィルムの搬送速度等により決定すれば良い。
【0162】
また、均一に水分の除去を行うためには、固体電解質フィルムの幅方向の風速分布を、通常は10%以内、好ましくは5%以内になる様、エアナイフの吹出し口やエアナイフへの給気方法を調整する。搬送する固体電解質フィルム表面とエアナイフ吹出し口との間隙が狭い方ほど水切り能は増すが、固体電解質フィルムと接触して傷付ける可能性が高くなるため、適当な範囲がある。通常は、10μm〜10cm、好ましくは100μm〜5cm、さらに好ましくは500μm〜1cmの間隙をもって、エアナイフを設置する。さらに、エアナイフと対向する様に、固体電解質フィルムの水洗面と反対側とにバックアップロールを設置することで、間隙の設定が安定するとともに、フィルムのバタツキやシワ、変形などの影響を緩和することができるために好ましい。
【0163】
洗浄を行う際には、洗浄液として、純水を用いることが好ましい。本発明に用いられる純水とは、比電気抵抗が少なくとも1MΩ以上であり、特にナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウムなどの金属イオンは1ppm未満、クロル、硝酸などのアニオンは0.1ppm未満を指す。純水は、逆浸透膜、イオン交換樹脂、蒸留などの単体、あるいは組み合わせによって、容易に得ることができる。中でも、溶存酸素がほとんどなく理論上HOに近い超純水であることが好ましい。また、酸をフィルムから除去する高い効果を得るために、使用する洗浄液の温度は30℃以上沸点以下とすることが好ましく、30℃以上120℃以下とすることがより好ましい。ただし、水の温度は、略室温から水が沸騰するまでの温度範囲であれば特に限定されるものではない。本実施形態では、30℃に調整した温水に浸漬させて、前駆体フィルム65の酸を除去する。
【0164】
上記のように酸処理と洗浄処理とを行なうと、流延膜を形成する時点でその中に含まれていた無機塩等の不純物を除去する効果も得られる。そのため、得られるフィルムは不純物による劣化等が抑制される。なお、酸処理及び洗浄をした後のフィルムに含まれる金属含有量は、1000ppm以下であることが好ましく、より好ましくは100ppm以下である。なお、対象となる金属としては、Na、K、Ca、Fe、Ni、Cr、Zn等が挙げられ、これらの金属含有量は、例えば、市販の原子吸光光度計により測定することで把握することができる。
【0165】
第1の実施形態においては、固体電解質の前駆体であるポリマーに代えて、固体電解質であるポリマーを用いて、固体電解質フィルムを製造しても良い。この場合において、固体電解質フィルム製造工程60におけるプロトン置換工程76、水洗工程77は行わなくてよいが、プロトン伝導性を向上させる観点では行う方が好ましい。
【0166】
固体電解質フィルム79を調湿室87に搬入する。調湿室87では、乾燥室86と同様にローラ127に巻き掛けられて搬送される固体電解質フィルム79を、温度制御装置と湿度制御装置とにより所望の温度及び湿度として、その乾燥度合いを制御する。なお、調湿室87の内部温度及び湿度は特に限定されるものではないが、温度は20℃以上30℃以下であることが好ましく、湿度は40RH%以上70RH%以下であることが好ましい。これにより、固体電解質フィルム79の表面にカールが発生したり、巻き取る際に巻取り不良が発生したりするのを抑制することができる。なお、乾燥室86と調湿室87との間に冷却室(図示しない)を設けて固体電解質フィルム79を略室温まで冷却すると、温度変化により固体電解質フィルム79が形状変化するのを抑制することができるので好ましい。
【0167】
調湿後の固体電解質フィルム79にナーリングを付与する場合には、ナーリングを付与した箇所の凹凸の高さが1μm〜200μmであることが好ましい。
【0168】
固体電解質フィルム79を巻取室88に送り、プレスローラ131で張力を付与しながら巻取ロール130に巻き取る。これにより、しわやつれ等の発生を抑制しながらロール状の固体電解質フィルム79を得ることができる。このようにプレスローラ131で所望のテンションを固体電解質フィルム79に付与しつつ巻き取ると、平面性に優れるロール状の製品とすることができるので好ましい。なお、フィルムロールにおける過度な巻き締めを防止するために、上記のテンションは巻取開始時から終了時まで徐々に変化させることがより好ましい。また、巻き取られる固体電解質フィルム79の幅は100mm以上であることが好ましく、本発明は、固体電解質フィルム79の厚みが5μm以上300μm以下の薄いフィルムを製造する際にも本発明は適用される。
【0169】
フィルム製造設備33の各工程内、あるいは各工程間では、前駆体フィルム67や水素置換フィルム75、固体電解質フィルム79は、主にローラにより支持または搬送される。これらのローラには、駆動ローラと非駆動ローラとがあり、非駆動ローラは、主に、フィルムの搬送路を決定するとともに搬送安定性を向上させるために使用される。
【0170】
図4は、本発明の第2の実施形態としてのフィルム製造設備である。図4においては、第1の実施形態の装置・部材と同じものについては図3と同じ符号を付し、説明を略す。なお、搬送室281よりも上流及び乾燥室86の下流、流延室80の内部の各構成については、図3に示すフィルム製造設備33と同じであるので図示を略す。フィルム製造設備233は、送液ラインL1からドープが送られてきて流延膜61を形成する流延室80と、流延膜61の搬送路近傍に配される乾燥装置93b〜93dにより流延膜61を乾燥し、流延室80を含む搬送室281と、流延膜61と支持体から剥ぎ取られた流延膜61である前駆体フィルム267とに対して溶媒接触工程66b(図2参照)を実施するとともに前駆体フィルム267に対して溶媒置換工程70(図2参照)を行う液槽205と、テンタ83と、プロトン置換工程76(図2参照)ならびに水洗工程77(図2参照)を実施する酸処理室288と、乾燥室86とを備える。
【0171】
流延バンド93は、流延室80と液槽215とを巡るように無端搬送される。流延バンド93の走行の向きに順に配される乾燥装置98b〜98dには、ここから吹き出す空気の流れによって流延膜61の表面が荒れてしまうことを防止するために、適宜遮風板を設けてもよい。
【0172】
流延バンド93から流延膜61を剥ぎ取るために流延バンド93を支持するローラ210と前駆体フィルム267を支持するガイドローラ215aは液槽215の中に配される。液槽215は、流延バンド93を支持するローラ210を備える他は、第1実施形態におけるタンク105(図3参照)と基本的に同じ構成である。なお、ローラ210は、駆動ローラであってもよいし、非駆動ローラであってもよい。
【0173】
搬送室82の下流の液槽215には、流延膜61に接触させる接触液216が入れられてある。そして、この接触液216を液槽215から出して精製し、精製した後に再び液槽215に送り込む接触液循環精製装置(図示なし)が液槽215には備えてある。接触液216は、第1実施形態における接触貧溶媒200(図3参照)と置換溶媒202(図3参照)との両作用をもつ。この接触液216は、流延膜61の中の溶媒と置き換わるとともに、流延膜61をゲル化する。ゲル化とは、本明細書中では、溶媒や接触液215が前駆体の分子鎖の中で保持された状態で流動性を失い、結果的に流延膜が硬くなることを意味するものである。このようにゲル化することによっても、流延膜61に自己支持性をもたせるができる。
【0174】
接触液216は、ドープ24の溶媒よりも沸点が低く、溶媒に対し相溶性を示す液体である。溶媒よりも沸点が低い液体を接触液216とすることにより、テンタ83及び乾燥室86における乾燥を効果的かつ効率的に実施することができる。また、溶媒に対し相溶性を示す液体を接触液216とすることにより、流延膜61に含まれる溶媒との置換が迅速かつ効果的に行われるので、ゲル化する速度を大きくし、溶媒接触工程及び溶媒置換工程の時間を短縮することができる、液槽215の内部の搬送路を短くすることができる、等の効果がある。
【0175】
ドープの溶媒が混合物であるときには、溶媒成分のうち、最も沸点が高いものと、前駆体との親和性が最も高いものと、配合比が最も大きいものとの少なくともいずれかひとつの条件を満たす溶媒成分に対して相溶性を示す液体を接触液216として用いることが好ましい。また、ドープ24の溶媒がポリマーの良溶媒である化合物と貧溶媒である化合物との混合物である場合には、両者に対して相溶性を示す液体を接触液216として用いることが好ましい。ドープ24の溶媒成分としてDMSOとメチルアルコールとを用いた場合には、接触液216を水とすることが好ましい。水に代えて、ドープの良溶媒成分の水溶液を用いてもよい。
【0176】
酸処理室288には、酸溶液204を前駆体フィルム267に塗布する塗布ダイ211と、複数の水槽85とが設けられる。ローラにより、前駆体フィルム267は塗布ダイ111,水槽85の順に案内される。図が煩雑になることを避けるために、水槽85は2つのみを図示しているが、その数は3以上であってもよい。
【0177】
塗布ダイ111は、前述した流延ダイ92(図3参照)と同様な構造を有する。塗布ダイ111は、タンク218から送られてきた酸溶液204を流出して前駆体フィルム267の片面に塗布する。タンク218は、酸溶液204の温度調節部を備えている。この温度調節部により、酸溶液204の温度は、所望の温度に保持される。なお、塗布ダイ111と水槽85との間の搬送路近傍には、ヒータを配して酸溶液204の塗膜を加熱してもよい。実施形態2ではこのように酸溶液を前駆体フィルムに塗布したが、この方法に代えて、第1の実施形態のような浸漬によっても実施することができるし、また噴霧等で実施することもできる。
【0178】
このようなフィルム製造設備233により固体電解質フィルムを製造する場合には、搬送室281では、積極的に大量の良溶媒を蒸発させるということはしない。良溶媒は前述の通り通常は高沸点のものであることから流延膜61の中に残りやすく、これを無理に蒸発させようとすると流延膜61が変形しやすいからである。また、ドープ24の溶媒成分として貧溶媒を用いる場合には、搬送室281で貧溶媒が完全には蒸発してしまわないようにすることが好ましい。これは、液槽215にまで貧溶媒を流延膜の中に残しておくことにより、ポリマーの分子の網目がより形成されやすくなって液槽215における後述の接触液216と流延膜61の中の良溶媒成分との置換の速度が速くなるという効果が得られるからである。接触液216と接触を開始するときの流延膜61においては、ポリマーの重量に対する貧溶媒成分の重量の割合が2%以上100%未満、より好ましくは2%以上70%以下となるように、搬送室281での条件、特に乾燥装置98b〜98dでの条件を設定することがより好ましい。このように、搬送室281では、接触液216に流延膜61が接触しても変形しない程度に乾燥をすすめればよい。つまり、第2の実施形態では、流延膜61からの溶媒の除去については主として次工程である液接触工程にゆだねるものである。
【0179】
以上のことに鑑みて、第2の実施形態では、乾燥装置98b〜98dからの乾燥空気の温度は、下流側のテンタ83、乾燥室86での設定温度に比べて低くする。好ましくは100℃未満、より好ましくは20℃以上70℃以下であり、概ね45℃前後が最も好ましい。また流延膜61が吸水すると相分離した状態でゲル化することがあり、この場合には得られる固体電解質フィルムは空隙率の高いものとなってしまう。そこで、流延膜61の近傍はできるだけ低湿にしておくことが好ましく、特に、形成された直後の流延膜61ほど湿度が低い環境下を搬送させることが好ましい。乾燥装置98b〜98dからの乾燥空気の湿度は、50%RH未満であることが好ましく、20%RH未満であることがより好ましく、10%RH未満であることが特に好ましい。
【0180】
流延膜の乾燥条件と、流延膜61の良溶媒成分と貧溶媒成分との蒸発の程度との関係については、製造前に予め別途求めておくとよい。例えば、流延膜61の搬送速度、温度や湿度、乾燥装置98b〜98dにより供給される乾燥空気の流量と流速と流れ方向、等を乾燥条件の因子とし、これら因子と流延膜中に残る溶媒量及び溶媒組成との関係を経時的に求める。求められた関係を基に、搬送室281における流延膜61の乾燥の条件を決定する。
【0181】
流延膜61を、流延バンド93とともに液槽215の接触液216の中に導き、浸漬する。そして、流延バンド93から流延膜61をローラ205aにより剥ぎ取って前駆体フィルム267とする。剥ぎ取りは、本実施形態のように接触液216の中で実施せずともよく、流延膜が自己支持性をもったところで実施すればよい。例えば、液槽215の下流側、あるいは液槽215を複数直列に配して液槽と液槽との間で実施することができる。なお、流延膜61が自己支持性をもつようになったら、できるだけ早めに流延バンド93から剥ぎ取ることが好ましい。これは、溶媒と接触液216との置換を前駆体フィルム267の両面からできるだけ早期に実施するためであり、これにより、置換を効率的に行うことができる。
【0182】
第2の実施形態では、接触液216の温度は10℃以上80℃以下とすることが好ましく、20℃以上50℃以下とすることがより好ましい。80℃よりも高い温度とすると、流延膜61あるいは前駆体フィルム267にシワが発生することがあり、10℃よりも低い温度とすると、流延膜61に含まれる溶媒と接触液216との置換が効率的に行われないことがある。
【0183】
流延膜61を接触液216に浸漬させる時間は概ね30秒以上10分以下、より好ましくは1分以上5分以下である。これにより、溶媒と接触液216との置換を十分に行うことができ、流延膜61の自己支持性を発現させることができる。しかし、この浸漬時間は、流延膜61における溶媒の重量の変化と、流延膜61の硬さの変化との少なくともいずれか一方を指標として決めるものであるので、必ずしも上記範囲に限定されるものではない。
【0184】
流延膜61と接触液216とを接触させる方法は、浸漬による方法に限定されない。他の方法としては、接触液を流延膜に吹き付ける方法、接触液を流延膜に塗布する方法、接触液を気化させて蒸気として流延膜に接触させる方法等がある。これらの方法と浸漬による方法とを複数組み合わせてもよい。
【0185】
接触液216に流延膜61と前駆体フィルム267とを接触させる工程は、複数回実施してもよい。例えば、液槽215を搬送路に沿って直列に配し、流延膜61と剥ぎ取られた後の前駆体フィルム267とを複数の液槽215に順に送り込んでもよい。この工程を複数回実施する場合には、接触液を順次異なるものに変えることにより、テンタ83及び乾燥室86における乾燥を、より効果的かつ効率的に行うことができる。
【0186】
前駆体フィルム267は、ガイドローラにより所定の方向に案内される。一方、流延膜61が剥ぎ取られた後の流延バンド93は、回転ローラ97a,97b(図3参照)のうち少なくともいずれか一方の駆動により、流延室80の内部へ再度案内される。
【0187】
第1実施形態と同じように耳切装置107で両側端部が切断された前駆体フィルム267は、その片面に塗布ダイ111を用いて酸溶液110が塗布される。塗布した後に、ヒータ(図示せず)による加熱を実施する場合には、塗布された前駆体フィルム267を80℃以上100℃以下に加熱することが好ましい。前駆体フィルム267は効果的かつ効率的にプロトン置換が行われ、前駆体フィルム267が酸溶液を含む水素置換フィルム275となる。
【0188】
第1の実施形態の各工程と、第2の実施形態の各工程とは、組み合わせてもよい。例えば、テンタによる乾燥までの工程を第1の実施形態で実施し、テンタによる乾燥工程の後は第2の実施形態で実施する方法や、テンタでの乾燥工程までを第2の実施形態の方法とし、テンタでの乾燥工程より後の工程を第1の実施形態の方法としてもよい。また、第1の実施形態と第2の実施形態とは、ともに流延を連続的に実施して長尺の固体電解質フィルムを製造する態様であるが、本発明は、このような連続式の製造方法に限定されるものではない。例えば、矩形の支持体の上にドープを落として延ばすことにより流延膜を形成、これを支持体とともに水につけて溶媒置換を行い、剥がして乾燥することによりシート状の固体電解質フィルムを製造することができる。このようにシート状につくる場合には、長尺状につくる場合に比べて小さな自己支持性でも良好な固体電解質フィルムを製造することができるとともに、長尺状につくる場合と同様に乾燥時間を短くしてドープの溶媒を効果的、効率的にフィルムから無くすことができる。
【0189】
以上の第1及び第2の実施形態では、1種類のドープを流延する場合を示したが、本発明では、2種類以上のドープを同時に共流延して積層タイプの流延膜を形成しても良いし、逐次に共流延させて積層タイプの流延膜を形成させても良い。なお、2種類以上のドープを同時に共流延する場合には、フィードブロックを取り付けた流延ダイを用いても良いし、マルチマニホールド型流延ダイを用いても良い。ただし、共流延により多層からなるフィルムは、表面に露出する2層のうちいずれか一層が、フィルム全体の厚みの0.5%〜30%であることが好ましい。また、同時に共流延をする場合には、ダイスリットから支持体にドープを流延する際に、高粘度ドープが低粘度ドープにより包み込まれて流延されるように各ドープの濃度を予め調整しておくことが好ましく、ダイスリットから支持体にかけて形成されるビードのうち、外界と接する、つまり露出するドープが内部のドープよりも貧溶媒の比率が大きい処方とされることが好ましい。
【0190】
なお、前駆体フィルムを製造する方法を上記方法に代えて、細孔が複数形成されている、いわゆる多孔質基材の細孔に前駆体を保持させて、上記実施形態とは異なる前駆体フィルムを製造することができる。このような前駆体フィルムの製造方法としては、前駆体が含まれるゾル−ゲル反応液を多孔質基材上に塗布して細孔に前駆体を入れる方法、多孔質基材を前駆体が含まれるゾル−ゲル反応液に浸漬し、細孔内に前駆体を満たす方法等がある。多孔質基材の好ましい例としては、多孔性ポリプロピレン、多孔性ポリテトラフルオロエチレン、多孔性架橋型耐熱性ポリエチレン、多孔性ポリイミドなどが挙げられる。また、前駆体を繊維状に加工し、繊維中の空隙を他の高分子化合物等で満たし、その繊維を用いてフィルム状とすることにより前駆体フィルムを形成することもできる。この場合には、空隙を満たすための他の高分子化合物の例としては、本明細書における添加剤として挙げた物質を挙げることができる。これらの各前駆体フィルムについて、上述した酸処理によるプロトン置換を行うことにより、固体電解質フィルムを製造することができる。
【0191】
本発明の固体電解質フィルムは、燃料電池用、特に特に直接メタノール型燃料電池用のプロトン伝導膜として好適に利用することができる他に、燃料電池の2つの電極に挟まれる固体電解質フィルムとして用いることができる。さらに、各種電池(レドックスフロー電池、リチウム電池等)における電解質、表示素子、電気化学センサー、信号伝達媒体、コンデンサ、電気透析、電気分解用電解質膜、ゲルアクチュエーター、塩電解膜、プロトン交換樹脂としても本発明の固体電解質フィルムを用いることができる。
【0192】
(燃料電池)
以下に、固体電解質フィルムを電極膜複合体(Membrane and Electrode Assembly,以下、MEAと称する)に使用する例と、この電極膜複合体を燃料電池に用いる例とを説明する。ただし、ここに示すMEA及び燃料電池の様態は本発明の一例であり、本発明はこれに限定されない。MEA及び燃料電池に用いる固体電解質フィルムは、前述の第1,2実施形態におけるいずれの固体電解質フィルムでもよいが、以下の説明では、第1実施形態での固体電解質フィルム79を用いる場合のみを例に挙げて、MEA及び燃料電池の様態について説明する。図5は、MEAの断面概略図である。MEA161は、固体電解質フィルム79と、この固体電解質フィルム79を挟んで対向するアノード電極162及びカソード電極163とを備える。
【0193】
アノード電極132は多孔質導電シート132aと固体電解質フィルム79に接する触媒層132bとを有し、カソード電極133は多孔質導電シート133aと固体電解質フィルム79に接する触媒層133bとを有する。多孔質導電シート132a,133aとしては、カーボンペーパー等がある。触媒層132b,133bは、白金粒子等の触媒金属を担持したカーボン粒子をプロトン伝導材料に分散させた分散物からなる。カーボン粒子としては、例えばケッチェンブラック、アセチレンブラック、カーボンナノチューブ等があり、プロトン伝導材料としては、例えば、ナフィオン(登録商標)等がある。
【0194】
MEA131の製造方法としては、次の4つの方法が好ましい。
(1)プロトン伝導材料塗布法:活性金属担持カーボン、プロトン伝導材料、溶媒を含む触媒ペースト(インク)を固体電解質フィルム79の両面に直接塗布し、多孔質導電シート132a,133aを(熱)塗布層に圧着して5層構成のMEAを作製する。
(2)多孔質導電シート塗布法:触媒層132b,133bの材料を含んだ液、例えば触媒ペーストを、多孔質導電シート132a,133aの表面に塗布し、触媒層132b,133bを形成させた後、固体電解質フィルム79と圧着し、5層構成のMEA131を作製する。
(3)Decal法:触媒ペーストをPTFE上に塗布し、触媒層132b,133bを形成させた後、固体電解質フィルム79に触媒層132b,133bのみをうつし、3層構造を形成し、これに多孔質導電シート132a,133aを圧着し、5層構成のMEA131を作製する。
(4)触媒後担持法:白金未担持カーボン材料をプロトン伝導材料とともに混合したインクを固体電解質フィルム79、多孔質導電シート132a,133aあるいはPTFE上に塗布・製膜した後、白金イオンを含む液に固体電解質フィルム79を含浸させ、白金粒子をフィルム中で還元析出させて触媒層132b,133bを形成させる。触媒層132b,133bを形成させた後は、上記(1)〜(3)の方法にてMEA131を作製する。
【0195】
ただし、MEAの作り方としては、上記の方法には限定されず、公知の各種方法を適用することができる。例えば、上記の(1)〜(4)の方法の他に次の方法がある。触媒層132b,133bの材料を含んだ塗布液を予めつくり、この塗布液を支持体に塗布して乾燥する。触媒層132b,133bが形成された支持体を、触媒層132b,133bが固体電解質フィルム79に接するように固体電解質フィルム79の両面にそれぞれ重ねて圧着する。そして支持体を剥がしてから、触媒層132b,133bが両面に形成された固体電解質フィルム79を多孔質導電シート132a,133aで挟み込む。そして、多孔質導電シート132a,133aと触媒層132b,133bとを密着させてMEAを製造することができる。
【0196】
図6は、燃料電池の概略図である。燃料電池141は、MEA131と、MEA131を挟持する一対のセパレータ142,143と、これらのセパレータ142,143に取り付けられたステンレスネットからなる集電体146と、パッキン147とを有する。アノード極側のセパレータ142にはアノード極側開口部151が設けられ、カソード極側のセパレータ143にはカソード極側開口152設けられている。アノード極側開口部151からは、水素、アルコール類(メタノール等)等のガス燃料またはアルコール水溶液等の液体燃料が供給され、カソード極側開口部152からは、酸素ガス、空気等の酸化剤ガスが供給される。
【0197】
アノード電極132およびカソード電極133には、カーボン材料に白金などの活性金属粒子が担持された触媒が用いられる。通常用いられる活性金属の粒子サイズは、2〜10nmの範囲である。ただし、粒子サイズが小さいほど単位重量当りの表面積が大きくなるので活性が高まり有利であるが小さすぎると凝集させることなく分散させることが難しくなるために、2nm程度が小ささの限度といわれている。
【0198】
水素−酸素系燃料電池における活性分極はアノード極、つまり水素極に比べ、カソード極、つまり空気極の方が大きい。これは、カソード極の反応、つまり酸素の還元反応の速度がアノード極に比べて遅いためである。酸素極の活性向上を目的として、Pt−Cr、Pt−Ni、Pt−Co、Pt−Cu、Pt−Feなどのさまざまな白金基二元金属を用いることができる。アノード燃料にメタノール水溶液を用いる直接メタノール燃料電池においては、メタノールの酸化過程で生じるCOによる触媒被毒を抑制するために、Pt−Ru、Pt−Fe、Pt−Ni、Pt−Co、Pt−Moなどの白金基二元金属、Pt−Ru−Mo、Pt−Ru−W、Pt−Ru−Co、Pt−Ru−Fe、Pt−Ru−Ni、Pt−Ru−Cu、Pt−Ru−Sn、Pt−Ru−Auなどの白金基三元金属を用いることができる。活性金属を担持させるカーボン材料としては、アセチレンブラック、Vulcan XC−72、ケチェンブラック、カーボンナノホーン(CNH)、カーボンナノチューブ(CNT)が好ましく用いられる。
【0199】
触媒層132b,133bは、(1)燃料を活性金属に輸送すること、(2)燃料の酸化(アノード極)、還元(カソード極)反応の場を提供すること、(3)酸化還元により生じた電子を集電体146に伝達すること、(4)反応により生じたプロトンを固体電解質、つまり固体電解質フィルム79に輸送すること、という機能をもつ。(1)のために触媒層132b,133bは、液体および気体燃料が奥まで透過できる多孔質性とされる。(2)についてはカーボン材料に担持される活性金属触媒が担い、(3)は同じくカーボン材料が担う。そして、(4)の機能を果たすために、触媒層132b,133bにプロトン伝導材料を混在させる。触媒層のプロトン伝導材料としては、プロトン供与基を持った固体であれば制限はないが、酸残基を有する高分子化合物、例えばナフィオン(登録商標)に代表されるパーフルオロスルホン酸、側鎖リン酸基ポリ(メタ)アクリレート、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン、スルホン化ポリベンズイミダゾールなどの耐熱性芳香族高分子のスルホン化物等が好ましく用いられる。固体電解質フィルム79に含まれる固体電解質を触媒層132b,133bに用いると、触媒層132b,133bと固体電解質フィルム79とが同種の材料となるため、固体電解質と触媒層との電気化学的密着性が高まり、プロトン伝導性の点でより有利である。活性金属の使用量を0.03〜10mg/cmの範囲とすることが、電池出力と経済性との観点から適する。活性金属を担持するカーボン材料の量は、活性金属の重量に対して1〜10倍であることが好ましい。プロトン伝導材料の量は、活性金属担持カーボンの重量に対して、0.1〜0.7倍が好ましい。
【0200】
アノード電極532、カソード電極533は、電極基材、透過層、あるいは裏打ち材とも呼ばれ、集電機能および水がたまりガスの透過が悪化するのを防ぐ役割を担う。通常は、カーボンペーパーやカーボン布を使用し、撥水化のためにポリテトラフルオロエチレン(PTFE)処理を施したものを使用することもできる。
【0201】
MEAは電池に組み込み、燃料を充填した状態での交流インピーダンス法による面積抵抗値が3Ωcm以下のものが好ましく、1Ωcm以下のものがさらに好ましく、0.5Ωcm以下のものが最も好ましい。面積抵抗値は実測の抵抗値とサンプルの面積の積から得られる。
【0202】
燃料電池の燃料として用いることのできるものを説明する。アノード燃料としては、水素、アルコール類(メタノール、イソプロパノール、エチレングリコールなど)、エーテル類(ジメチルエーテル、ジメトキシメタン、トリメトキシメタンなど)、ギ酸、水素化ホウ素錯体、アスコルビン酸などが挙げられる。カソード燃料としては、酸素(大気中の酸素も含む)、過酸化水素などが挙げられる。
【0203】
直接メタノール型燃料電池では、アノード燃料として、メタノール濃度3〜64重量%のメタノール水溶液が使用される。アノード反応式(CHOH+HO→CO+6H+6e)により、1モルのメタノールに対し、1モルの水が必要であり、この時のメタノール濃度は64重量%に相当する。メタノール濃度が高い程、同エネルギー容量での燃料タンクを含めた電池の重量および体積が小さくできる利点がある。しかしながら、メタノール濃度が高い程、メタノールが固体電解質フィルムを透過しカソード側で酸素と反応し電圧を低下させる、いわゆるクロスオーバー現象が顕著となり、出力が低下する傾向にある。そこで、用いる固体電解質フィルムのメタノール透過性により、最適濃度が決められる。直接メタノール型燃料電池のカソード反応式は、(3/2)O+6H+6e→HOであり、燃料として酸素(通常は空気中の酸素)が用いられる。
【0204】
上記アノード燃料およびカソード燃料を、それぞれの触媒層132b,133bに供給する方法としては、(1)ポンプ等の補助機器を用いて強制的に送りこむ方法(アクティブ型)と、(2)補助機器を用いない方法、例えば、燃料が液体である場合には毛管現象や自然落下により、気体である場合には大気に触媒層をさらして供給するパッシブ型との2通りの方法があり、また、(1)と(2)とを組み合わせることも可能である。(1)は、カソード側で生成する水を抜き出すことにより、燃料として高濃度のメタノールを使用することができ、空気供給による高出力化ができる等の利点がある反面、燃料供給系を備える事により小型化がし難い欠点がある。(2)は、小型化が可能な利点がある反面、燃料供給が律速となり易く高い出力が出にくい欠点がある。
【0205】
燃料電池の単セル電圧は一般的に1V以下であるので、負荷の必要電圧に合わせて、単セルを直列スタッキングして用いる。スタッキングの方法としては、単セルを平面上に並べる「平面スタッキング」および、単セルを、両側に燃料流路の形成されたセパレータを介して積み重ねる「バイポーラースタッキング」が用いられる。前者は、カソード極(空気極)が表面に出るため、空気を取り入れ易く、薄型にできることから小型燃料電池に適している。この他にも、MEMS技術を応用し、シリコンウェハー上に微細加工を施し、スタッキングする方法も提案されている。
【0206】
燃料電池は、自動車用、家庭用、携帯機器用など様々な利用が考えられているが、特に、直接メタノール型燃料電池は、小型、軽量化が可能であり充電が不要である利点を活かし、様々な携帯機器やポータブル機器用エネルギー源としての利用が期待されている。例えば、好ましく適用できる携帯機器としては、携帯電話、モバイルノートパソコン、電子スチルカメラ、PDA、ビデオカメラ、携帯ゲーム機、モバイルサーバー、ウエラブルパソコン、モバイルディスプレイなどが挙げられる。好ましく適用できるポータブル機器としては、ポータブル発電機、野外照明機器、懐中電灯、電動(アシスト)自転車などが挙げられる。また、産業用や家庭用などのロボットあるいはその他の玩具の電源としても好ましく用いることができる。さらには、これらの機器に搭載された2次電池の充電用電源としても有用である。
【実施例1】
【0207】
次に、本発明の実施例を説明する。なお、以下の各実施例において、実施例1〜3、5〜8は本発明の第1の実施形態の例であり、実施例4は、本発明に対する比較実験である。
【0208】
化3のXがH以外のカチオン種である化合物を前駆体として用いた。この前駆体を原料Aとする。この原料Aは、化3におけるXがNa、YがSO、Zが化4の(I)、nが0.33、mが0.67、数平均分子量Mnが61000、量平均分子量Mwが159000である。溶媒は、溶媒成分1と溶媒成分2との混合物である。溶媒成分1は原料Aの良溶媒であり、溶媒成分2は原料Aの貧溶媒である。原料Aと溶媒とを以下に示す比で混合して原料Aをこの溶媒に溶解し、全重量に対し20重量%の前駆体を含むドープを製造した。このドープを以降の説明ではドープAと称する。
・原料A; 100重量部
・溶媒成分1;ジメチルスルホキシド 256重量部
・溶媒成分2;メタノール 171重量部
【0209】
[固体電解質フィルムの製造]
走行する流延バンド93としてのPETフィルム上へ、流延ダイ92からドープAを流延して流延膜61を形成した。流延膜61に、乾燥装置98aの送風ダクトから45℃/10%RHの乾燥風を30分間吹き付け、残留溶媒量が乾量基準で180重量%になるまで流延膜61を乾燥した。E型ギーザを用いて、PETフィルム上の流延膜61に、純水50ml/mで塗布した。そして、純水が塗布された面を非接触の状態を5分間維持しながら、流延膜61を搬送した。その後、PETフィルムから流延膜61を前駆体フィルム67として剥ぎ取った。流延膜61の形成から、流延膜61を前駆体フィルム67として剥ぎ取るまでの自己支持性工程は、予め行った実験から得られた最適条件に基づいて行った。このときの前駆体フィルム67の弾性率は、5.5×10Paであった。前駆体フィルム67を、30℃に保持された純水に5分間浸漬し、溶媒置換を行った。この前駆体フィルム67を純水から除去した後、エアシャワー106を用いて、前駆体フィルム67の表面に付着した水分を除去した。ガイドローラ105aは、前駆体フィルム67をテンタ83に送った。クリップ83aは、前駆体フィルム67の両側端部を把持した。クリップ83aの走行により、前駆体フィルム67はテンタ83の内部を通過した。テンタ83では、120℃の乾燥風により前駆体フィルム67を10分間乾燥した。こうして、残留溶媒量が乾量基準に対し10重量%の前駆体フィルム67を得た。テンタ83の出口にて、クリップ83aは、前駆体フィルム67の担持を解除した。耳切装置107は、前駆体フィルム67の両側端部を切断除去した。ガイドローラ84bは、温度80℃に保持され、濃度が0.5mol/リットルの硫酸水溶液の中へ前駆体フィルム67を案内し溶媒置換を行った。この溶媒置換により、前駆体フィルム67から水素置換フィルム75を得た。水素置換フィルム75を硫酸水溶液から除去した後、水洗をした。水洗後、エアシャワーを用いて水素置換フィルム75に付着する水分を水切りした。水切りした水素置換フィルム75を、乾燥室86に送り、複数のローラ127で搬送しながら120〜185℃で乾燥した。そして、溶媒残留量が乾量基準に対して5%未満とされた固体電解質フィルム79を得た。
【0210】
得られた固体電解質フィルムに関して、以下の各項目を測定することにより、その特性を評価した。なお、以下の測定は、実施例1〜8全てに共通であり、各実施例での評価結果をまとめて表1に示す。なお、表1における評価項目の番号は、以下の各評価項目に付した番号に対応する。
【0211】
1.製造の連続性
固体電解質フィルムを連続して実施することができたか否かについての評価である。表2における結果の記載は以下の基準による。
○;連続して製造することができた。
△;連続製造はできるものの、製造を停止することがあった。
×;製造することができない。
【0212】
2.厚み変動
アンリツ電気社製の電子マイクロメータを用いて、固体電解質フィルムの厚みを600mm/分の速度で測定し、縮尺1/20、チャート紙速度30mm/分にてチャート紙に記録した。定規を用いて、チャート紙上に記録された測定結果から当該固体電解質フィルムの厚み変動、つまり厚みのばらつきを測定し、得られた測定値の小数点第1位を四捨五入した。
【0213】
3.溶媒(DMSO)の残留率の測定
得られた各固体電解質フィルムから縦7mm横35mmの略長方形のフィルム片を切り出した。島津製作所(株)製ガスクロマトグラフィー(GC−18A)を用いて、このフィルム片の残留DSMO量を測定した。なお、残留DMSO量は、フィルム片に含まれるDMSOの重量の割合であり、表1における数値は、サンプル片の重量をx3、DMSOの重量をy3としたときに、(y3/x3)×100の式で求められる数値である。
【0214】
4.電極の接着性
後述の評価項目6における(1)及び(2)の方法と同じ方法により、MEAを作成した。そして、各MEAの接着の評価は、210℃、3MPa、10分間の熱圧着をした後の接着状態を目視で観察することにより実施した。
○;均一に全面が接着していた
△;部分的に剥がれていた
×;剥がれた箇所の面積が全面積の10%以上あった
【0215】
5.プロトン伝導度
プロトン伝導度の測定は、Journal of the Electrochemical Society 143巻4号1254−1259項(1996年)に従い、4端子交流法を用いて行なった。具体的には、先ず、固体電解質フィルムから長さ2cm、幅1cmに切り抜いたものをサンプルとした。次に、PTFE板に5mm間隔で白金線を4本固定したものに先ほどのサンプルを載せた後、更にPTFE板を載せてから、これらをビスで固定して試験セルとした。そして、この試験セルと、ソーラトロン製1480型及び1225B型を組合せたインピーダンスアナライザーとを用いて、80℃のオン水中で交流インピーダンス法によりプロトン伝導度の測定を行なった。
【0216】
6.燃料電池の出力密度
固体電解質フィルムを用いて燃料電池141を作製し、その燃料電池141の出力を測定した。燃料電池141の作製方法及び出力密度の測定方法は、下記の方法による。
【0217】
(1)触媒層132b,133bとされる触媒シートAの作製
白金担持カーボン(VulcanXC72に白金50wt%が担持されたもの)2gと、ナフィオン溶液(登録商標デュポン(株))として5%アルコール水溶液を15gとを混合し、超音波分散器で30分間分散させた。分散物の平均粒子径は約500nmであった。得られた分散物を、補強材入りのポリテトラフルオロエチレンフィルム(サンゴバン(株)製)の上に塗設し、乾燥した後、直径9mmの円形に打ち抜いて触媒シートAを作製した。
【0218】
(2)MEA131の作製
実施例1〜10で得た固体電解質フィルムの両面に、塗膜が固体電解質フィルムに接するように触媒シートAを張り合わせ、210℃、3MPa、10分間で熱圧着し、圧力をかけたままで降温してから、触媒シートAの支持体を剥離することで順にMEAを作製した。
【0219】
(3)燃料電池141の出力密度
(2)で得られたMEAに電極と同じサイズにカットしたガス拡散電極(E−TEK製)を積層した後、更に標準燃料電池試験セル(エレクトロケム社製)にセットした。そしてこの試験セルを燃料電池評価システム((株)エヌエフ回路設計ブロック製 As−510)に接続した。そして、アノード側に加湿した水素ガスを流し、一方のカソード側には加湿した模擬大気を流して電圧が安定するまで運転した。その後、アノード電極とカソード電極との間に負荷をかけて、その際の電流−電圧特性を記録し、これを出力密度(W/cm)として測定した。
【実施例2】
【0220】
化3のXがH以外のカチオン種である化合物を前駆体として用いた。この前駆体を原料Bとする。また、本実施例における化3の化合物は、XがNa、YがSO、Zが化4の(I)、nが0.33、mが0.67、数平均分子量Mnが68000、量平均分子量Mwが200000である。溶媒は、溶媒成分1と溶媒成分2との混合物である。溶媒成分1は原料Bの良溶媒であり、溶媒成分2は原料Bの貧溶媒である。原料Bと溶媒とを所定の配合で混合して原料Bの固形分を溶媒に溶解し、全重量に対し20重量%の前駆体を含むドープを製造した。このドープを以降の説明ではドープBと称する。
・原料B; 100重量部
・溶媒成分1;ジメチルスルホキシド 200重量部
・溶媒成分2;メタノール 135重量部
【0221】
ドープBを用いて、固体電解質フィルム79を製造した。流延膜乾燥工程で、45℃/10%RHの乾燥風を流延膜に20分間あてたこと以外は、実施例1と同様である。剥取工程における前駆体フィルム67の弾性率は、6.6×10Paであった。得られた固体電解質フィルム79についての評価結果については表1に示す。
【実施例3】
【0222】
接触工程の接触溶媒には20重量%のDMSO水溶液を用い、ドープBを用いた他は、実施例2と同じ様にして固体電解質フィルム79を製造した。剥取工程における前駆体フィルム67の弾性率は、2.3×10Paであった。得られた固体電解質フィルム79についての評価結果については表1に示す。
【実施例4】
【0223】
ドープBを用い、流延膜乾燥工程では、45℃/10%RHの乾燥風を流延膜に20分間あて、その直後、流延膜を前駆体フィルムとしてPETフィルムから剥ぎ取った。その他の条件は実施例2と同じである。この前駆体フィルムは、自重で変形してしまい、フィルム製造設備33で搬送することができなかった。
【実施例5】
【0224】
ドープBを用い、流延膜乾燥工程で、45℃/10%RHの乾燥風を流延膜に20分間あてた。その後、E型ギーザを用いて、PETフィルム上の流延膜61に、純水50ml/mで塗布した。そして、純水が塗布された面を非接触の状態で、1分間流延膜61を搬送した。この他の条件は、実施例2と同である。剥取工程における前駆体フィルム67の弾性率は、8.9×10Paであった。この前駆体フィルム67を水温30に保持された水中に導くと、ベースの縮みにより、前駆体フィルム67が変形し、フィルム製造設備33で搬送することができなかった。参考実験として、連続した流延ではなく、シート状の流延膜を形成するバッチ式流延を実施した。この他の条件は、連続流延の場合とできる限り同じものとした。この参考実験では、シート状の固体電解質フィルムを得ることができた。
【実施例6】
【0225】
ドープBを用い、PETフィルムから剥ぎ取られた前駆体フィルム61を、純水に浸漬せずに、テンタへ搬送した。他の条件は実施例2と同じである。剥取工程における前駆体フィルム61の弾性率は、6.6×10Paであった。得られた固体電解質フィルム79についての評価結果については表1に示す。
【実施例7】
【0226】
ドープBを用い、原料Bにおいてメタノールの代わりにジメチルスルホキシドを用いた。他の条件は実施例2と同じである。剥取工程における前駆体フィルムの弾性率は、1.8×10Paであった。得られた固体電解質フィルムについての評価結果については表1に示す。
【実施例8】
【0227】
ドープBを用い、溶媒置換工程では、PETフィルムから剥ぎ取った前駆体フィルムを30℃の純水に20分間浸漬して、溶媒置換を行った。他の条件は実施例2と同じである。剥取工程における前駆体フィルムの弾性率は、6.6×10Paであった。得られた固体電解質フィルムについての評価結果については表1に示す。
【0228】
【表1】

【0229】
以上、各実施例の結果から、本発明に係る実施例1〜3では、厚み変動の少ない固体電解質フィルムを製造することができた。実施例1〜3における固体電解質フィルムは、優れたプロトン伝導度を備えていた。また、製造した固体電解質フィルムを用いた燃料電池の出力密度が0.49以上であり、燃料電池して優れた値を示す。一方、実施例4,5では、溶媒接触工程が充分に行われなかったため、剥取工程で得られる前駆体フィルムが、充分な自己支持性を備えていないことがわかった。ただし、実施例5の流延をバッチ式に実施した場合にはシート状の小型の固体電解質フィルムを得ることができたことから、シート状につくるには十分な条件と言える。また、実施例6、7では、固体電解質フィルムを製造することはできた。しかしながら、実施例6、7で製造された固体電解質フィルムは、実施例1〜3に比べ、厚み変動、プロトン伝導度及び出力密度の面において、劣っていた。これは、MEAの作成において、固体電解質フィルムと電極との接着性が悪かったことに起因する。そして、固体電解質フィルムの接着性の低下は、剥取工程において充分な弾性率をもたない流延膜の剥ぎ取りの結果、表面が平滑でない固体電解質フィルムが製造されたと推測される。このことから、品質・性能に優れた固体電解質フィルムを製造するためには、原料となるドープ24は、ポリマーの他に、ポリマーの良溶媒とポリマーの貧溶媒とが必要なこと、並びに、接触工程と溶媒置換工程とが必要なことがわかった。また、実施例8の結果より、溶媒置換工程を長時間行うと、フィルムに含まれる水の膨張により、乾燥後のフィルムの厚み変動が大きくなってしまうことがわかった。更に、本発明の固体電解質フィルムの製造方法によれば、製膜に要する時間が2時間以内で済むことがわかった。
【実施例9】
【0230】
以下の各実施例において、実施例9〜13,15,16は本発明の第2の実施形態の例であり、実施例14は、本発明に対する比較実験である。
【0231】
[固体電解質フィルムの製造]
実施例1と同じドープAを、走行するPETフィルムへ流延ダイ92から流延して流延膜61とし、乾燥装置98a〜98dの送風ダクトから45℃/10%RHの乾燥空気を吹き出した。流延膜61の任意の位置に対して乾燥空気があたる時間は連続して30分間とした。この時間は、接触液206に接触を開始するときの流延膜61が、原料A100重量部に対してDMSO240重量部、メタノール20重量部を含むようにするために設定した時間である。流延バンド93であるPETフィルムとともに流延膜61を30℃の水に浸漬させ、この水の中でPETフィルムから流延膜61を剥ぎ取り、前駆体フィルム267を得た。浸漬開始から剥ぎ取りまでに要した時間は5分であった。前駆体フィルム267をそのまま水中で搬送して、水から出しエアシャワー106で水きりを行った。この前駆体フィルム267を、テンタ83に送り、クリップ105でその両側端部を把持してテンタ83の内部を搬送した。テンタ83では、120℃の乾燥風により前駆体フィルム267を10分間乾燥した。こうして、前駆体フィルム267の残留溶媒量を乾量基準で10重量%未満とした。前駆体フィルム267はテンタ83の出口でクリップ105から離脱され、クリップ83aに把持された両側端部が耳切装置107により切断除去された。塗布ダイ211により、前駆体フィルム267の片面に酸溶液204を塗布してこのフィルムを水で洗浄した。乾燥が不完全である水素置換フィルム275を、乾燥室86に送り、複数のローラ127で搬送しながら120〜185℃で乾燥した。そして、溶媒残留量が乾量基準に対して3重量%未満とされた固体電解質フィルム77を得た。この溶媒残留量には、洗浄で使用した水の重量を含む。得られた固体電解質フィルムについての評価を後述の項目について実施した。
【実施例10】
【0232】
実施例9における原料Aを実施例2と同じ原料Bに代えて、ドープBをつくった。また、乾燥装置98a〜98dの送風ダクトから流延膜61の任意の位置に対して乾燥空気があたる時間は連続して20分間とした。この時間は、液接触工程開始時における流延膜61が、原料B100重量部に対してDMSO185重量部、メタノール10重量部を含むようにするために設定した時間である。他の条件は実施例9と同じである。
【実施例11】
【0233】
乾燥装置98a〜98dの送風ダクトから流延膜61の任意の位置に対して乾燥空気があてられる時間は連続して5分間とした他は、実施例10と同じ条件とした。乾燥装置98a〜98dにおける上記時間は、接触液206に接触を開始するときの流延膜61が、原料B100重量部に対してDMSO195重量部、メタノール100重量部を含むようにするために設定した時間である。
【実施例12】
【0234】
乾燥装置98a〜98dの送風ダクトからの乾燥空気の温度を110℃とした以外の条件は実施例10と同じである。
【実施例13】
【0235】
乾燥装置98a〜98dの送風ダクトからの乾燥空気の湿度を75%RHとした以外の条件は実施例10と同じである。
【実施例14】
【0236】
剥離工程を接触液206に接触する前に実施した他は、実施例10と同じ条件とした。前駆体フィルムは自己支持性を十分にもたず、自身の重さで変形した。結果として、均質な固体電解質フィルムを連続して製造することはできなかった。
【実施例15】
【0237】
乾燥装置98a〜98dの送風ダクトから流延膜の任意の位置に対して乾燥空気があてられる時間は連続して60分間とした他は、実施例10と同じ条件とした。乾燥装置98a〜98dの送風ダクトにおける上記時間は、液接触工程開始時における流延膜が、メタノールを含まず、原料B100重量部に対してDMSO150重量部を含むようにするために設定した時間である。
【実施例16】
【0238】
ドープBに代えて以下の配合のドープCを用いた。これ以外の条件は実施例10と同じである。
・原料B; 100重量部
・溶媒成分1;DMSO 335重量部
【0239】
実施例9〜16で得られた各固体電解質フィルムに関して、それぞれ以下の項目を測定することにより、その特性を評価した。なお、以下の評価方法ならびに評価基準は、実施例9〜16全てに共通であり、評価結果をまとめて表2に示す。なお、表2における評価項目の番号は、以下の各評価項目に付した番号に対応する。評価方法が実施例1〜9と同じ場合には説明を略す。
【0240】
1.製造の連続性
2.厚みの平均値及びばらつき
アンリツ電気社製の電子マイクロメータを用いて600mm/分の速度にて連続的にフィルム62の厚みを測定した。測定により得られたデータは、縮尺1/20、チャート速度30mm/分にてチャート紙上に記録された。そして定規によりデータ曲線に関して計測を実施したのちに、その計測値を基に厚みの平均値とこの平均値に対する厚みのばらつきとを求めた。表2においては、(a)は厚みの平均値(単位;μm)、(b)は(a)に対する厚みのばらつき(単位;μm)を表す。
3.溶媒(DMSO)の残留率の測定
4.電極の接着性
5.プロトン伝導度
6.燃料電池の出力密度
【0241】
【表2】

【0242】
固体電解質フィルムの実施例17〜23の各製造実験を行った。実施例17〜22は、第1実施形態における製造設備33を用いて実施した。なお、実施例23は、本発明に対する比較実験であり、製造設備33の一部の装置を使用しなかった。そして、実施例17〜23で得られた固体電解質フィルムにつき、実施例9〜16と同じ評価項目で評価を実施した。表3における評価項目は表2と同じである。
【実施例17】
【0243】
実施例1と同じドープAを、流延バンド93の上へ流延して流延膜61を形成した。乾燥装置98a〜98dにより、流延膜61に対して45℃/10%RHの乾燥風を30分間当て続けて乾燥した。流延バンド93は、PETフィルムである。次に、流延膜61の表面に塗布装置100から30℃の純水を2分間吹き付けた後、流延バンド93から流延膜61を剥ぎ取って前駆体フィルム67とした。なお、流延バンド93から剥ぎ取る直前の流延膜61中のDMSOの量は65重量%であった。
【0244】
前駆体フィルム67を置換溶媒202として30℃の純水が入れられているタンク105に送り込み、ここに3分間浸漬させた。そして、タンク105から送り出した前駆体フィルム67を、エアシャワー99により水切りした後、テンタ83に送り込んだ。テンタ83では、前駆体フィルム67の両側端部をクリップ83aで保持し搬送する間に、テンタ83内に備えられた乾燥装置(図示しない)から120℃の乾燥風を出して前駆体フィルム67の乾燥を進めた。なお、テンタ83での乾燥時間は10分間とし、前駆体フィルム67の残留溶媒量が10重量%未満になるようにした。
【0245】
クリップ83aから解放した前駆体フィルム67をテンタ83から送り出した後、その両側端部を切断した。続けて、30℃に保温された0.5モル/Lの硫酸水溶液が入れられている液槽84に、前駆体フィルム67を送り込んだ後、30℃の純水が入れられている水槽85に送り込んだ。そして、120℃〜185℃に温度調整した乾燥室74に水素置換フィルム75を送り込み、多数のローラ127により30分間支持しながら搬送する間に乾燥して固体電解質フィルム79を得た。
【実施例18】
【0246】
ドープBを用い、乾燥装置98a〜98dから流延膜61にあたる乾燥風の温度及び湿度を45℃/10%RHとし、あたる時間を20分間とした。他の条件は実施例17と同じである。
【実施例19】
【0247】
流延膜61に、塗布装置100から30℃の純水を1分間吹き付けた。そして、この流延膜61を流延バンド93から剥ぎ取って前駆体フィルム67とした。他の条件は、実施例18と同じである。しかし、タンク105では、前駆体フィルム67が大きく縮んで形状が変化したために、その後の工程へと搬送することが不可能となり、結果としてフィルム70を製造することができなかった。なお、塗布装置100で純水を接触させた後の流延膜61は、DMSOの量が130重量%であった。参考実験として、バッチ式の流延を行い、シート状の固体電解質フィルムをつくった。この参考実験では、前駆体フィルムは少しだけ収縮したが、シート状のフィルムとしては十分な外観のものが得られた。
【実施例20】
【0248】
前駆体フィルム67をタンク105に送り込むことなくフィルム79を製造した以外は、全て実施例18と同様にした。
【実施例21】
【0249】
ドープBのメタノールをジメチルスルホキシドに置き換えたこと以外は、全て実施例18と同様にして固体電解質フィルム79を製造した。
【実施例22】
【0250】
前駆体フィルム67をタンク105に浸漬させる時間を20分とした以外は、全て実施例18と同様にして固体電解質フィルム79を製造した。その結果、DMSOの量が0.1重量%である固体電解質フィルム79を得た。
【実施例23】
【0251】
塗布装置100による純水の接触をせずに、流延バンド93から流延膜61を剥ぎ取って前駆体フィルムを形成した。その他の条件は、全て実施例18と同様である。しかし、前駆体フィルムを形成した直後、フィルムが自重で変形してしまい、搬送することが不可能となったため、固体電解質フィルムを連続してつくることはできなかった。参考実験として、バッチ式の流延を実施し、シート状の固体電解質フィルムをつくろうとしたが、変形してしまい良好な外観のシートは得られなかった。
【0252】
【表3】

【0253】
実施例17〜23の結果から、先ず、乾燥時間に着目すると、例えば、従来技術によると乾燥時間に5〜14時間以上を費やすのに対して、本発明に係る実施例17,18では、全工程を通じて乾燥時間が約65〜75分であり、乾燥時間を大幅に短縮出来ることが分かる。これは、固体電解質の貧溶媒である化合物を流延膜に接触させると、流延膜のゲル状にして、流延膜中に含まれる貧溶媒の量を多くすることができることに基づく。実施例19及びこの参考実験からは、流延膜にもたせる自己支持性の度合いにより、長尺の固体電解質フィルムと、シート状固体電解質フィルムとの製造条件を分けることができることがわかる。また、実施例17〜23より、本発明によると、温度や湿度等の環境の影響を受けることなく高いプロトン伝導度を示す固体電解質フィルムを、優れた生産性で大量に製造することができることがわかる。そして、この固体電解質フィルムを用いた燃料電池は、高い出力密度を発揮することがわかる。
【0254】
テンタにおける乾燥工程までを図4に示す第2の実施形態により実施し、テンタ乾燥工程より後の工程を第1の実施形態の方法により実施した。
【実施例24】
【0255】
実施例9と同様に、ドープAを流延して流延膜61とし、この流延膜61を乾燥風で30分間乾燥した。流延バンド93に載せたままの流延膜61を液槽205に送ってその中の30℃の温水に浸漬させた後、剥取用のローラ210により流延バンド93から流延膜61を前駆体フィルム267として剥ぎ取った。この間、液槽205における流延膜61及び前駆体フィルム267の浸漬時間総計を5分間とした。
【0256】
エアシャワーでゲル状の前駆体フィルム267の表面に付着している水分を除去した。その後、実施例9と同様に、前駆体フィルム267をテンタ83で乾燥し、耳切装置107により側端部の切断を行った。
【0257】
両側端部を切断した前駆体フィルム267を、図3に示す液槽84に送り、70℃に保持した0.5モル/Lの硫酸水溶液でプロトン置換を実施した。これにより、前駆体フィルム267に含まれるNaを水素原子に置換して水素置換フィルムとした。
【0258】
水槽85の下流に、さらに別の水槽を設け、水素置換フィルムの洗浄を複数回実施した。いずれの水槽の水も、温度は70℃とした。その後、エアシャワーにより水素置換フィルムの表面の水を除去し、乾燥室86で乾燥した。乾燥室86の内部温度は60〜120℃とした。そして、得られた固体電解質フィルムを調湿室87で調湿した後、巻取室88でロール状にした。
【0259】
製造した固体電解質フィルムに関して、以下の1〜3の各項目につき評価した。評価結果は表4に示す。表4における評価項目の番号は、以下の各評価方法における番号にそれぞれ対応する。なお、以下の評価は、以下の実施例25〜30全てに共通である。実施例1と同じ評価方法の評価項目については、説明を略す。
【0260】
1.製造の連続性
2.プロトン置換率
固体電解質フィルムからサンプリングし、サンプル片の重量を測定した後、サンプル片をアルカリ処理した。アルカリ処理は、0.1モル/リットルのNaOH水溶液に対する2時間の浸漬により行った。浸漬させている間は、NaOH水溶液を攪拌した。次に、固体電解質フィルムのサンプル片を取り出し、使用したNaOH水溶液に関して、塩酸水溶液による逆滴定を行なうことにより、固体電解質フィルムのイオン交換容量(ICE)を求めた。そして、このイオン交換容量と理論値とを比較して、前駆体のNaがHに置換された量を算出し、これをプロトン置換率とした。なお、上記の理論値とは、NMR測定等により構造解析から導かれたスルホン酸基導入量のことである。
3.プロトン伝導度
4.燃料電池の出力密度
【実施例25】
【0261】
実施例24のドープAを実施例2と同じドープBに代えて流延した。流延バンド93上の流延膜61を45℃/10%RHの風で20分間乾燥した。
【実施例26】
【0262】
液槽84の硫酸水溶液の温度を80℃に保持した以外は、全て実施例25と同様にして固体電解質フィルムを製造した。
【実施例27】
【0263】
浴槽84の硫酸水溶液の温度を20℃に保持した以外は、全て実施例25と同様にした。
【実施例28】
【0264】
液槽84の酸溶液を1モル/Lの塩酸水溶液とした以外は、全て実施例25と同様にした。
【0265】
【表4】

【0266】
実施例24〜26から、プロトン伝導度、プロトン置換率及び出力密度のいずれにおいても、本発明による固体電解質フィルムは非常に優れることが分かる。また、実施例27、30の結果から、酸処理時に使用する酸の溶液の温度や式量がプロトン伝導度やプロトン置換率に影響を与えることが分かる。
【0267】
また、本発明によると、オンラインによる酸処理を行いながらも、高プロトン伝導度のフィルムを連続して大量に生産することができる。また、本製造方法により得られる固体電解質フィルムは、燃料電池の固体電解質層として使用する場合、優れた出力密度を実現させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0268】
【図1】本実施形態で使用するドープ製造設備の一例の概略図である。
【図2】本発明に係るフィルムの製造工程図である。
【図3】第1の実施形態のフィルム製造設備の概略図である。
【図4】第2の実施形態のフィルム製造設備の概略図である。
【図5】電極膜複合体の断面図である。
【図6】燃料電池の断面図である。
【符号の説明】
【0269】
10 ドープ製造設備
11a 溶媒
12a 前駆体
24 ドープ
33 フィルム製造設備
60 固体電解質フィルム製造工程
61 流延膜
66 自己支持性発現工程
66a 流延膜乾燥工程
66b 溶媒接触工程
67 前駆体フィルム
68 剥取工程
70 溶媒置換工程
75 水素置換フィルム
79 固体電解質フィルム
100 塗布装置
103 剥取ローラ
105 タンク
131 電極膜複合体(MEA)
132 アノード電極
133 カソード電極
141 燃料電池
146 集電体
200 接触溶媒
202 置換溶媒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体電解質が有機溶媒に溶解しているドープを、流延ダイから支持体上に流延して流延膜を形成する第1工程と、
前記流延膜と前記固体電解質の貧溶媒である接触貧溶媒とを接触させて、前記流延膜に自己支持性を発現させる第2工程と、
自己支持性を有する前記流延膜を湿潤フィルムとして前記支持体から剥ぎ取る第3工程と、
前記湿潤フィルムを乾燥して固体電解質フィルムとする第4工程と、
を有することを特徴とする固体電解質フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記有機溶媒は、前記固体電解質の良溶媒である第1化合物と貧溶媒である第2化合物とを含む混合物であることを特徴とする請求項1記載の固体電解質フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記接触貧溶媒が、水と、前記固体電解質の良溶媒である化合物の水溶液とのいずれか一方であることを特徴とする請求項1または2記載の固体電解質フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記流延膜と前記接触貧溶媒との接触時間は、前記接触により変化する前記流延膜の硬さと、前記接触により変化する前記流延膜中の前記第1化合物の重量との少なくともいずれか一方に応じて決定されることを特徴とする請求項1ないし3いずれか1項記載の固体電解質フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記第3工程における、前記湿潤フィルムの弾性率が6×10Pa以上であることを特徴とする請求項1ないし4いずれか1項記載の固体電解質フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記湿潤フィルムと、前記有機溶媒に相溶する液体とを接触させる第5工程を有することを特徴とする請求項1ないし5いずれか1項記載の固体電解質フィルムの製造方法。
【請求項7】
前記液体が、水と、前記有機溶媒の水溶液とのいずれか一方であることを特徴とする請求項6記載の固体電解質フィルムの製造方法。
【請求項8】
前記湿潤フィルムと前記液体との接触時間を10分以下にすることを特徴とする請求項6または7記載の固体電解質フィルムの製造方法。
【請求項9】
前記第2工程前の前記流延膜を乾燥する第6工程を有すること特徴とする請求項1ないし8いずれか1項記載の固体電解質フィルムの製造方法。
【請求項10】
前記第1化合物はジメチルスルホキシドであり、前記第2化合物はアルコール(ただし、炭素数が1以上5以下)であることを特徴とする請求項1ないし9いずれか1項記載の固体電解質フィルムの製造方法。
【請求項11】
プロトン供与体である酸の溶液に前記湿潤フィルムを搬送しながら接触させる酸接触工程と、前記酸接触工程の後で前記湿潤フィルムを洗浄液で洗浄する洗浄工程とを、前記第4工程前に有することを特徴とする請求項1ないし10いずれか1項記載の固体電解質フィルムの製造方法。
【請求項12】
前記酸は、電離したときのアニオンの式量が40以上1000以下の化合物であることを特徴とする請求項11記載の固体電解質フィルムの製造方法。
【請求項13】
前記固体電解質は、炭化水素系ポリマーであることを特徴とする請求項1ないし12いずれか1項記載の固体電解質フィルムの製造方法。
【請求項14】
前記炭化水素系ポリマーは、芳香族系ポリマーであることを特徴とする請求項13記載の固体電解質フィルムの製造方法。
【請求項15】
前記芳香族系ポリマーは、化1の一般式(I)〜(III)で示される各構造単位からなる共重合体であることを特徴とする請求項14項記載の固体電解質フィルムの製造方法。
【化1】

(ただし、Xは水素原子を除くカチオン種、YはSO、Zは化2の(I)または(II)に示す構造であり、nとmとは0.1≦n/(m+n)≦0.5を満たす。)
【化2】

【請求項16】
固体電解質が有機溶媒に溶解しているドープを走行する支持体の上に流延して、前記支持体上に流延膜を形成する流延膜形成装置と、
前記流延膜と前記固体電解質の貧溶媒である接触貧溶媒とを接触させ、前記流延膜に自己支持性を発現させる溶媒接触装置と、
前記流延膜を湿潤フィルムとして剥ぎ取る剥取装置と、
前記湿潤フィルムと前記有機溶媒に相溶する液体とを接触させる液体接触装置と、
前記湿潤フィルムを乾燥して固体電解質フィルムとする乾燥装置と、
を有することを特徴とする固体電解質フィルムの製造設備。
【請求項17】
プロトン供与体である酸の溶液が収容され、前記酸の溶液中に前記湿潤フィルムを案内する案内手段が配された酸接触装置を、前記液体接触装置と前記乾燥装置との間に備えることを特徴とする請求項16記載の固体電解質フィルムの製造設備。
【請求項18】
請求項1ないし15いずれか1項記載の固体電解質フィルムの製造方法で製造されることを特徴とする燃料電池用の固体電解質フィルム。
【請求項19】
請求項18記載の固体電解質フィルムと、
前記固体電解質フィルムの一方の面に密着して備えられ、外部から供給される水素含有物質からプロトンを発生するためのアノード電極と、
前記固体電解質フィルムの他方の面に密着して備えられ、前記固体電解質フィルムを通過した前記プロトンと外部から供給される気体とから水を合成するカソード電極と、
を有することを特徴とする電極膜複合体。
【請求項20】
請求項19記載の電極膜複合体と、
前記電極膜複合体の電極に接触して備えられ、前記アノード電極及び前記カソード電極と外部との電子の受け渡しをする集電体と、
を有することを特徴とする燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−294431(P2007−294431A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−78690(P2007−78690)
【出願日】平成19年3月26日(2007.3.26)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】