説明

固体高分子型水電解装置

【課題】 水電解槽の故障や経年劣化等による異常状態が発生した際に、リアルタイムに異常を検知することで、異常発生時の安全性をより一層向上させた固体高分子型水電解装置を提供する。
【解決手段】 水電解中(S1)に、電解電圧Vtを計測する(S2)とともに、循環水温度yを計測し(S3)、さらに、電流密度xも計測して(S4)、各信号を制御手段に送信する。制御手段は、これらのxとyを式(1)に代入して電解電圧Vを求め(S5)、このVを基にして、設定上限値Vuおよび設定下限値Vdを求める(S6)。制御手段は、さらに、これらの許容範囲と電解電圧Vtとを比較し(S7)、電解電圧Vtが電解電圧の範囲外であれば、水電解を停止する(S8)とともに、各ライン(水素取出しライン、酸素取出しラインおよび水循環ライン)の遮断弁(S9)を閉じる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、固体高分子型水電解装置に関し、特に、水電解槽の故障や経年劣化等による異常状態が発生したときの安全性を向上させた固体高分子型の水電解装置に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型の水電解槽として、高分子電解質膜を用いて水を電解し、陽極に酸素、陰極に水素を発生させる水電解槽と、水電解槽の陰極にて発生した水素と水を分離する水素気液分離器と、水電解槽の陽極にて発生した酸素と水を分離する酸素気液分離器と、水電解槽の陽極側へ水を供給するように水を循環させる循環ポンプを含む水循環ラインと、水電解槽と水素気液分離器との間に設けられた水素取出しラインと、水電解槽と酸素気液分離器との間に設けられた酸素取出しラインと、水素気液分離器に設けられた水素排出ラインと、酸素気液分離器に設けられた酸素排出ラインとからなるものが知られている(特許文献1)。
【特許文献1】特開2003−138391号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記特許文献1のものによると、水素側差圧および酸素側差圧が許容範囲を越えて異常設定値に達した場合、高分子電解質膜の破損を防止するために固体高分子型水電解装置を緊急停止するようになっており、安全性が向上したものとなっている。
【0004】
しかしながら、異常発生時に、水電解槽内で水素と酸素との混合ガスにより発火した場合、水素気液分離器および酸素気液分離器から水電解槽に水素および酸素が逆流して、装置内の火災が拡大する恐れがあり、上記特許文献1のものでは、そのような考慮がなされていなかった。
【0005】
この発明は、水電解槽の故障や経年劣化等による異常状態が発生した際に、リアルタイムに異常を検知することで、異常発生時の安全性をより一層向上させた固体高分子型水電解装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明による固体高分子型水電解装置は、高分子電解質膜を用いて水を電解し、陽極に酸素、陰極に水素を発生させる水電解槽と、水電解槽の陰極にて発生した水素と水を分離する水素気液分離器と、水電解槽の陽極にて発生した酸素と水を分離する酸素気液分離器と、水電解槽の陽極側へ水を供給するように水を循環させる循環ポンプを含む水循環ラインと、水電解槽と水素気液分離器との間に設けられた水素取出しラインと、水電解槽と酸素気液分離器との間に設けられた酸素取出しラインと、水素気液分離器に設けられた水素排出ラインと、酸素気液分離器に設けられた酸素排出ラインとを備えている固体高分子型水電解装置において、水電解槽内の状態を検知するための少なくとも1つの計測機器と、水循環ライン、水素取出しラインおよび酸素取出しラインにそれぞれ設けられた遮断弁と、計測機器からの信号を処理して異常時に遮断弁の閉鎖信号を出力する制御手段とをさらに備えていることを特徴とするものである。
【0007】
水電解槽は、公知のもので、両端に配された陽極主電極および陰極主電極と、これらの主電極の間に直列に配された複数の単位セルと、陽極主電極−複数の単位セル−陰極主電極の組合せを両端から締め付ける締め付け装置とから主として構成され、単位セルは、複極板、陽極給電体、電極接合体膜、陰極給電体および水電解槽外部をシールするガスケットから主として構成される。
【0008】
計測機器(固体高分子型水電解装置に設けられて各種状態量を計測する機器)としては、圧力を検知する圧力計、圧力差を検知する差圧計、流量を検知する流量計、気体濃度を検知するガス濃度計、温度を検知する温度計、水電解槽全体または各セルの電圧を検知する電圧計などが挙げられ、これらのうちの少なくとも1つが少なくとも1カ所に設置される。そして、これらの計測機器のうちの少なくとも1つが異常を検出する目的で使用され、電解電圧、水素と酸素間との差圧、水素圧力、酸素圧力、生成した酸素中水素濃度および生成した水素濃度中酸素濃度のいずれかが設定範囲を超えたとき(異常発生時)に遮断弁を閉じるようになされる。遮断弁は、電気的あるいは空気圧で作動するものとされる。
【0009】
この発明による固体高分子型水電解装置では、水電解槽と水素および酸素気液分離器との間にある水循環ライン、水素取出しラインおよび酸素取出しラインにそれぞれ遮断弁が設けられていることで、異常発生時にこれらの遮断弁を閉鎖することにより、水電解槽または両気液分離器への水素および酸素の流入が遮断され、水素と酸素との混合が防止されるとともに、水素および酸素の逆流が防止される。これにより、水素と酸素との混合ガスによる火災が広がることが防止される。
【0010】
少なくとも1つの計測機器として、水電解槽に作用する電圧を検知する電圧計と、循環水温度を検知する温度計と、水電解槽へ供給される電流を検知する電流計とを含み、制御手段において、電圧計で得られた電解電圧をVt、温度計で得られた循環水温度をy、電流計で検知された電流値を電極面積で割ることで得られた電流密度をxとして、Vtが以下の範囲から外れたときに、遮断弁閉鎖信号が出力されるようになされていることが好ましい。
【0011】
Vd≦Vt≦Vu
Vd=0.9×(A+B(T−y))x+C
Vu=1.1×(A+B(T−y))x+C
A,B,CおよびT:実験的に得られる定数
より詳しくは、x:水電解槽へ供給する電流密度(A/cm)、y:水電解槽への循環水温度(℃)(水電解槽内の温度)、A(cm・Ω),B(cm・Ω)/℃),C(V):温度T℃において実験的に得られる電解電圧、電流密度および循環水温度の関係式における定数であり、具体例としては、T=80,A=0.2〜0.4,B=0.02〜0.04,C=1.48となる。そして、Vdとしては、以下の式のいずれか小さい方が使用され、
Vd=0.9×(0.2+0.002(80−y))x+1.48
Vd=0.9×(0.2+0.004(80−y))x+1.48
Vuとしては、以下の式のいずれか大きい方が使用される。
【0012】
Vu=1.1×(0.4+0.002(80−y))x+1.48
Vu=1.1×(0.4+0.004(80−y))x+1.48
水循環ラインでは、水温80℃に調整され、また、水電解時、電流は一定であるので、VuとVdとの差は小さく、高分子電解質膜の劣化等によって水電解の故障が発生するケースでは、電解電圧がVuまたはVdの値から大きく離れた値となる。
【0013】
この発明による固体高分子型水電解装置の停止方法は、高分子電解質膜を用いて水を電解し、陽極に酸素、陰極に水素を発生させる水電解槽と、水電解槽の陰極にて発生した水素と水を分離する水素気液分離器と、水電解槽の陽極にて発生した酸素と水を分離する酸素気液分離器と、水電解槽の陽極側へ水を供給するように水を循環させる循環ポンプを含む水循環ラインと、水電解槽と水素気液分離器との間に設けられた水素取出しラインと、水電解槽と酸素気液分離器との間に設けられた酸素取出しラインと、水素気液分離器に設けられた水素排出ラインと、酸素気液分離器に設けられた酸素排出ラインとを備えている固体高分子型水電解装置における異常時の停止方法であって、水循環ライン、水素取出しラインおよび酸素取出しラインにそれぞれ遮断弁を設け、水電解槽へ供給する電流密度に対する電解電圧、水素と酸素間の差圧、水素圧力、酸素圧力、酸素中水素濃度および水素濃度中酸素濃度のいずれかが設定範囲を超えたときに、水電解を停止するとともに、水循環ライン、水素取出しラインおよび酸素取出しラインの各遮断弁を閉じることを特徴とするものである。
【0014】
この発明による固体高分子型水電解装置の停止方法では、装置内にあるいくつかの各種計器に異常を検知する条件を設け、水の電解中に異常を検知すると、水電解を停止するだけでなく、各遮断弁を閉じることで、水電解槽または両気液分離器への水素および酸素の流入を遮断して、水素と酸素との混合を防止する。これにより、水素と酸素との混合ガスによる火災が広がることが防止される。
【発明の効果】
【0015】
この発明の固体高分子型水電解装置によると、水電解槽と水素および酸素気液分離器との間にある水循環ライン、水素取出しラインおよび酸素取出しラインにそれぞれ遮断弁が設けられていることで、異常発生時にこれらの遮断弁を閉鎖することにより、水電解槽または両気液分離器への水素および酸素の流入が遮断され、水素と酸素との混合が防止される。これにより、水素と酸素との混合ガスによる火災が広がることが防止される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面を参照してこの発明の実施形態を説明する。
【0017】
固体高分子型水電解装置の全体フローを示す図1において、固体高分子型水電解装置は、高分子電解質膜を用いて水を電解し、陽極に酸素、陰極に水素を発生させる水電解槽(1)と、水電解槽(1)に直流電圧を印加する直流電源(2)と、水電解槽の陰極にて発生した水素と水を分離する水素気液分離器(3)と、水電解槽(1)の陽極にて発生した酸素と水を分離する酸素気液分離器(4)と、水電解槽(1)の陽極側へ水を供給するように水を循環させる循環ポンプ(6)および循環水冷却器(7)を含む水循環ライン(5)と、水電解槽(1)と水素気液分離器(3)との間に設けられた水素取出しライン(8)と、水電解槽(1)と酸素気液分離器(4)との間に設けられた酸素取出しライン(9)と、水素気液分離器(3)に設けられかつ水素圧力調整弁(11)を備えた水素排出ライン(10)と、酸素気液分離器(4)に設けられかつ酸素圧力調整弁(13)を備えた酸素排出ライン(12)と、酸素気液分離器(4)へ純水を供給するように水供給ポンプ(15)および純水器(16)を備えた純水供給ライン(14)と、水電解の種々の制御を行うための制御手段(図示略)とを備えている。
【0018】
水循環ライン(5)は、酸素気液分離器(4)により気液分離された水を循環させるようになっている。水素気液分離器(3)により気液分離された水は、排出されるかまたは純水器(16)に供給される。
【0019】
水循環ライン(5)の水電解槽(1)と循環ポンプ(6)との間には、遮断弁(21)が設けられている。水素取出しライン(8)および酸素取出しライン(9)にも、それぞれ遮断弁(22)(23)が設けられている。
【0020】
また、制御のための各種計測機器が所定箇所に配置されている。すなわち、水循環ライン(5)には、流量計(24)および温度計(33)が設けられており、水素取出しライン(8)および酸素取出しライン(9)には、それぞれ温度計(25)(26)が設けられている。また、水素排出ライン(10)および酸素排出ライン(12)には、それぞれ圧力検知計(27)(28)が設けられている。水素排出ライン(10)には、さらに、水素中の酸素濃度を検知する酸素濃度計(29)が設けられており、酸素排出ライン(12)には、さらに、酸素中の水素濃度を検知する水素濃度計(30)が設けられている。また、水素排出ライン(10)と酸素排出ライン(12)との間に、差圧計(31)が設けられている。水電解槽(1)内には、電解電圧を検知する電圧計(32)が設けられている。電圧計(32)は、各セル毎に設置されている。水電解槽(1)と直流電源(2)との間には、電流計(34)が設けられている。
【0021】
水電解槽(1)の陽極にて発生した酸素は酸素気液分離器(4)に送られ、陰極にて発生した水素は水素気液分離器(3)に送られる。両気液分離器(3)(4)に送られた水は、循環水冷却器(7)にて温度調整されて、循環ポンプ(6)にて再度水電解槽(1)に送られる。固体高分子型水電解装置への水の供給は、予め設定しておいた酸素気液分離器(4)のレベルの設定値に合わせて水供給ポンプ(15)によって純水を酸素気液分離器(4)に供給することにより行われる。
【0022】
水素圧力と酸素圧力は、水素排出ライン(10)と酸素排出ライン(12)の間に設けた差圧計(31)からの計測値を基に調整される。すなわち、水素側差圧が高くなると、両者の差圧を無くすように水素圧力調整弁(11)を開くように、かつ酸素圧力調整弁(13)を閉じるようにこれらの弁が調整される。逆に酸素側差圧が高くなると、両者の差圧を無くすか設定差圧の範囲以内(例えば、酸素側差圧をプラス側に設定して0.0〜1.0kPa)になるように、すなわち水素圧力調整弁(11)を閉じ、かつ酸素圧力調整弁(13)を開くように、これらの弁が調整される。このように圧力調整弁(11)(13)を動作することにより、かなり狭い差圧許容範囲で固体高分子型水電解装置を運転することが可能となる。
【0023】
直流電源(2)からの電流は、予め設定された水素圧力の値に合わせて、水素排出ライン(10)に設置された圧力検知計(27)からの計測値を基にして調整される。水電解槽(1)に送られる循環水は、循環水冷却器(7)にて、設定温度80℃に温度調整される。水循環ライン(5)の流量計(24)は、電解の安全性を確保するために、一定以上の循環水が水電解槽(1)に供給されていることを確認するものである。
【0024】
制御手段は、上記の各種計測機器(24)(25)(26)(27)(28)(29)(30)(31)(32)(33)からの信号に基づいて、上記の制御を行うとともに、異常時の制御を行う点に特徴があり、以下にその内容を詳述する。
【0025】
異常時の制御の第1の実施形態では、水素排出ライン(10)および酸素排出ライン(12)の各圧力検知計(27)(28)は、常時稼働し、水素および酸素の圧力の少なくとも一方が規定値以上(例えば、酸素側圧力:設計値の10%超、水素側圧力:設計値の10%超など)になった場合、制御手段は、高分子電解質膜の破損等の水電解槽(1)の重大事故が発生する可能性があるものとして水電解を停止するとともに、各遮断弁(21)(22)(23)を閉鎖する。設計値とは、低圧で0.4MPa〜1.0MPa、高圧で1MPa〜数十MPaにて気液分離する設計圧力である。
【0026】
異常時の制御の第2の実施形態では、水素排出ライン(10)および酸素排出ライン(12)の各濃度計(29)(30)は、常時稼働し、水素および酸素の濃度の少なくとも一方が規定値以上(例えば、酸素中水素濃度:5000〜20000ppmより任意に決めた値、水素中酸素濃度:100〜1000ppmより任意に決めた値など)になった場合、制御手段は、高分子電解質膜の破損等の水電解槽(1)の重大事故が発生する可能性があるものとして水電解を停止するとともに、各遮断弁(21)(22)(23)を閉鎖する。
【0027】
異常時の制御の第3の実施形態では、水電解槽(1)内に設けられた電圧計(32)および温度計(33)と、水電解槽(1)と直流電源(2)との間に設けられた電流計(34)とが使用される。
【0028】
上記水電解槽(1)において、電圧計(32)、温度計(33)および電流計(34)を使用した水電解の実験により得られた電流密度と電解電圧の関係を図2に示す。図2のグラフ(データ)は、循環水温度が80℃の時の電解特性である。このグラフを基にして、電解電圧Vは、次式(1)で表される。なお、yの循環水温度は、電解電圧の水温による影響を補正するためのものである。
【0029】
V=(A+B(80−y))x+1.48 … (1)
V:電解電圧(V)
x:水電解槽へ供給する電流密度(A/cm
y:水電解槽への循環水温度(℃)(水電解槽内の温度)
A(cm・Ω)=0.2〜0.4
B(cm・Ω)/℃)=0.02〜0.04
式中の定数Aは、電流密度に関する比例定数であり、これが0.2以下の場合は、固体高分子電解質膜が破損して短絡している現象となり、これが0.4以上の場合は、固体高分子電解質膜の劣化が著しい状態であり、安全に電解することが難しくなる。
【0030】
1.48は、電流密度に関する比例定数(グラフ上の点線)をセル電圧の軸まで延長して引いたときのセル電圧の値である。
【0031】
式中の定数Bは、循環水温度yを補正する係数であって、0.002〜0.004は実験結果から推定した値である。
【0032】
式(1)で得られる電解電圧の1.1倍を設定上限値とするとともに、電解電圧の0.9倍を設定下限値とする。設定下限値以下の場合は、固体高分子電解質膜が破損して短絡している現象となる。設定上限値以上の場合は、固体高分子電解質膜の劣化が著しい状態であり、安全に電解することが難しくなる。
【0033】
なお、循環水温度は、水循環ライン(5)内の温度計(33)により計測することができるほか、水素取出しライン(8)および酸素取出しライン(9)の温度計(25)(26)によって計測される両ライン(8)(9)内の水温を循環水温度とすることもできる。
【0034】
上記関係に基づき、この発明の固体高分子型水電解装置における異常時の制御の第3の実施形態では、図3に示すステップにしたがって、電解電圧が設定上限値を上回るか、または、設定下限値を下回る場合、固体高分子型水電解装置は、電解質の破損等の水電解槽の重大事故が発生する可能性があるものとして水電解を停止する。
【0035】
まず、水電解中(S1)に、水電解槽(1)の電圧計(32)により、リアルタイムで電解電圧Vtを計測する(S2)とともに、水電解槽(1)の温度計(33)により、リアルタイムで水循環ライン(5)内の温度(循環水温度y)を計測し(S3)、さらに、電流計(34)によって水電解槽(1)に出力している電流(電流密度xに換算可能)を計測し(S4)、これらの計測データを制御手段に送信する。
【0036】
制御手段は、これらのxとyを予め蓄えられた式(1)に代入して電解電圧Vを求め(S5)、さらに、こうして求めたVを基にして、設定上限値Vu(Vの1.1倍)および設定下限値Vd(Vの0.9倍)を求める(S6)。制御手段は、さらに、電解電圧Vtと、電解電圧の許容範囲(設定上限値Vu〜設定下限値Vd)とを比較する(S7)。この比較ステップ(S7)において、電解電圧Vtが電解電圧の許容範囲外であれば、異常発生と判断して、水電解槽(1)と各ライン(水循環ライン(5)、水素取出しライン(8)および酸素取出しライン(9))の遮断弁(21)(22)(23)とに信号を送り、水電解槽(1)を停止する(S8)とともに、各遮断弁(21)(22)(23)を閉鎖する(S9)。比較ステップ(S7)において、電解電圧Vtが電解電圧の許容範囲内であれば、最初のステップ(S1)に戻って水電解を継続する。
【0037】
異常発生時において、水電解槽(1)を停止したとしても、異常発生に伴って水電解槽(1)内で水素と酸素の混合ガスにより発火し、装置内に火災が発生した場合には、火災がさらに広がるのを抑える必要があり、各ライン(5)(8)(9)の遮断弁(21)(22)(23)が閉じられることで、水素気液分離器(3)および酸素気液分離器(4)から火災が発生している水電解槽(1)に水素および酸素が逆流することが防止され、装置内の火災がさらに広がることが抑えられる。また、水素分離器(3)および酸素分離器(4)にて何らかの原因により発火する恐れもあり、この場合に、各ライン(5)(8)(9)の遮断弁(21)(22)(23)が閉じられることで、水電解槽(1)から火災が発生している両気液分離器(3)(4)に水素および酸素が逆流することが防止され、装置内の火災がさらに広がることが抑えられる。
【0038】
上記において、異常時の制御の第1から第3までの実施形態は、このうちの少なくとも1つが実施されればよく、各種計測機器(24)(25)(26)(27)(28)(29)(30)(31)(32)(33)についても、これら全てを設ける必要はない。
【0039】
また、固体高分子型水電解装置の全体フローについても、図1のものに限定されるものではない。その1例を図4に示す。以下の説明において、図1と同じ構成には同じ符号を付しその説明を省略する。この実施形態は、図1の実施形態では、排出されるかまたは純水器に供給されるようになされていた水素気液分離器(3)により気液分離された水が、水電解槽(1)へ供給されて循環するようになされている。
【0040】
すなわち、図4において、水素気液分離器(3)と水電解槽(1)との間には、循環ポンプ(36)を含み、水素気液分離器(3)で分離された水を水電解槽(1)の陽極側へ供給するように循環させる水素側水循環ライン(17)が付加されている。水素側水循環ライン(17)は、水循環ライン(酸素側水循環ライン)(5)と類似の構成とされており、水電解槽(1)と循環ポンプ(36)との間に遮断弁(41)が設けられているとともに、制御のための各種計測機器として、流量計(42)および温度計(43)が設けられている。
【0041】
酸素気液分離器(4)からの水および水素気液分離器(3)からの水をともに水電解槽(1)に供給するに際しては、両気液分離器(3)(4)の水面レベルを常に同じに制御するように流量が調整される。
【0042】
この実施形態では、異常発生時には、水素側水循環ライン(17)の遮断弁(41)が他の各ライン(5)(8)(9)の遮断弁(21)(22)(23)と同様に閉じられることで、水素気液分離器(3)および酸素気液分離器(4)から火災が発生している水電解槽(1)に水素および酸素が逆流することが防止され、装置内の火災がさらに広がることが抑えられる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】図1は、この発明による固体高分子型水電解装置の第1実施形態を示すブロック図である。
【図2】図2は、電解電圧と電流密度との関係を示すグラフである。
【図3】図3は、この発明による固体高分子型水電解装置の制御手段における処理ステップを示すフローチャートである。
【図4】図4は、この発明による固体高分子型水電解装置の第2実施形態を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0044】
(1) 水電解槽
(3) 水素気液分離器
(4) 酸素気液分離器
(6) 循環ポンプ
(5) 水循環ライン
(8) 水素取出しライン
(9) 酸素取出しライン
(10) 水素排出ライン
(12) 酸素排出ライン
(21)(22)(23) 遮断弁
(27)(28) 圧力検知計(計測機器)
(29)(30) 濃度計(計測機器)
(32) 電圧計(計測機器)
(33) 温度計(計測機器)
(34) 電流計(計測機器)
(41) 遮断弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子電解質膜を用いて水を電解し、陽極に酸素、陰極に水素を発生させる水電解槽と、水電解槽の陰極にて発生した水素と水を分離する水素気液分離器と、水電解槽の陽極にて発生した酸素と水を分離する酸素気液分離器と、水電解槽の陽極側へ水を供給するように水を循環させる循環ポンプを含む水循環ラインと、水電解槽と水素気液分離器との間に設けられた水素取出しラインと、水電解槽と酸素気液分離器との間に設けられた酸素取出しラインと、水素気液分離器に設けられた水素排出ラインと、酸素気液分離器に設けられた酸素排出ラインとを備えている固体高分子型水電解装置において、
水電解槽内の状態を検知するための少なくとも1つの計測機器と、水循環ライン、水素取出しラインおよび酸素取出しラインにそれぞれ設けられた遮断弁と、計測機器からの信号を処理して異常時に遮断弁の閉鎖信号を出力する制御手段とをさらに備えていることを特徴とする固体高分子型水電解装置。
【請求項2】
少なくとも1つの計測機器として、水電解槽に作用する電圧を検知する電圧計と、循環水温度を検知する温度計と、水電解槽へ供給される電流を検知する電流計とを含み、制御手段において、電圧計で得られた電解電圧をVt、温度計で得られた循環水温度をy、電流計で検知された電流値を電極面積で割ることで得られた電流密度をxとして、Vtが以下の範囲から外れたときに、遮断弁閉鎖信号が出力されるようになされていることを特徴とする請求項1の固体高分子型水電解装置。
Vd≦Vt≦Vu
Vd=0.9×(A+B(T−y))x+C
Vu=1.1×(A+B(T−y))x+C
A,B,CおよびT:実験的に得られる定数
【請求項3】
高分子電解質膜を用いて水を電解し、陽極に酸素、陰極に水素を発生させる水電解槽と、水電解槽の陰極にて発生した水素と水を分離する水素気液分離器と、水電解槽の陽極にて発生した酸素と水を分離する酸素気液分離器と、水電解槽の陽極側へ水を供給するように水を循環させる循環ポンプを含む水循環ラインと、水電解槽と水素気液分離器との間に設けられた水素取出しラインと、水電解槽と酸素気液分離器との間に設けられた酸素取出しラインと、水素気液分離器に設けられた水素排出ラインと、酸素気液分離器に設けられた酸素排出ラインとを備えている固体高分子型水電解装置における異常時の停止方法であって、
水循環ライン、水素取出しラインおよび酸素取出しラインにそれぞれ遮断弁を設け、水電解槽へ供給する電流密度に対する電解電圧、水素と酸素間の差圧、水素圧力、酸素圧力、酸素中水素濃度および水素濃度中酸素濃度のいずれかが設定範囲を超えたときに、水電解を停止するとともに、水循環ライン、水素取出しラインおよび酸素取出しラインの各遮断弁を閉じることを特徴とする固体高分子型水電解装置の停止方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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