説明

固体高分子型燃料電池およびその製造方法

【課題】電極界面における接合性に優れ、かつ排水性が良好で、発電効率が向上する固体高分子型燃料電池を提供する。
【解決手段】少なくとも、発泡金属層と、触媒層と、固体高分子電解質膜を具備する固体高分子型燃料電池であり、前記発泡金属層の少なくとも一部がカーボンファイバーまたはヘリカルカーボンファイバーで被覆されている固体高分子型燃料電池。前記発泡金属は、ニッケル、鉄、コバルト、若しくは少なくともこれらを1種以上含んだ合金、若しくは少なくともこれらを1種以上含んだ混合物である。前記カーボンファイバーまたはヘリカルカーボンファイバー上に、触媒が設置されていることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子型燃料電池及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池はカソードに酸素または空気、アノードに水素、メタノール、炭化水素などを供給して電気エネルギーを得る装置であり、クリーンで高い発電効率を得ることができる。燃料電池は、電解質の種類により、アルカリ水溶液型、リン酸水溶液型、溶融炭酸塩型、固体高分子型に分類できる。
【0003】
近年、固体高分子型燃料電池は、低温で作動するため扱いやすい、電池構造が簡単でメンテナンスが容易、膜が差圧に耐えるため電池の加圧制御が容易、高出力密度が得られる、小型軽量化が可能という利点を持つために注目を浴びている。この固体高分子型燃料電池には、一般には多孔性炭素材料層、触媒層、発泡金属層、プロトン伝導性高分子等が何層にも積層されたサンドイッチ状の構造を有し、様々な機能を持たせている。
【0004】
しかし、部材同士の素材の違い、発電時における部材の寸法変化などにより、界面における接触抵抗が増大し、燃料電池の特性が低下するという問題がある。そのため、接触抵抗をなるべく低減し、かつ燃料や生成した水分の拡散を良好にすることが発電効率を向上させる一つの手段である。
それを改善した例として、特許文献1では、生成水を空気電極層から効率よく取り除くことを目的として、発泡金属体の表面に、毛細作用により吸引する吸水層を備えた燃料電池の構成が開示されている。
【0005】
また、特許文献2では、抵抗値をより低減し、また電解質による金属の腐食を避ける為、触媒層とガス供給層(発泡金属)との間にカーボン層を備えた燃料電池の構成が開示されている。
【特許文献1】特開2004―63096号公報
【特許文献2】特開平7―22037号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の方法では、部材自体は剛直な金属であるため、多孔性炭素材料層や電極層などの他の部材との接触抵抗は低減させることはできない。また、特許文献2の方法では、触媒層とガス供給層との接触抵抗は低減可能であるが、電極の排水性を向上させることはできない。
【0007】
そのため、排水性の向上と接触抵抗の低減を両立させた、新たな燃料電池用燃料拡散電極及び触媒層の開発が強く求められていた。
本発明は、この様な背景技術に鑑みてなされたものであり、電極界面における接合性に優れ、かつ排水性が良好で、発電効率が向上する固体高分子型燃料電池およびその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような状況下、本発明者等は鋭意検討を行った結果、新たな燃料電池用電極の構成、およびその製造方法を見出し、本発明に至った。
即ち、上記の課題を解決する固体高分子型燃料電池は、少なくとも、発泡金属層と、触媒層と、固体高分子電解質膜を具備する固体高分子型燃料電池であり、前記発泡金属層の少なくとも一部がカーボンファイバーまたはヘリカルカーボンファイバーで被覆されていることを特徴とする。
【0009】
上記の課題を解決する固体高分子型燃料電池の製造方法は、少なくとも一部がカーボンファイバーまたはヘリカルカーボンファイバーで被覆されている発泡金属層と、触媒層と、固体高分子電解質膜を具備する固体高分子型燃料電池の製造方法において、前記発泡金属層の少なくとも一部をCVD法によりカーボンファイバーまたはヘリカルカーボンファイバーで被覆する工程を有することを特徴とする。
【0010】
上記の課題を解決する固体高分子型燃料電池の製造方法は、少なくとも一部少なくとも一部がカーボンファイバーまたはヘリカルカーボンファイバーで被覆されている発泡金属層と、触媒層と、固体高分子電解質膜を具備する固体高分子型燃料電池の製造方法において、前記発泡金属層の少なくとも一部に、カーボンファイバーまたはヘリカルカーボンファイバー成長用触媒を設置する工程と、CVD法により、カーボンファイバーまたはヘリカルカーボンファイバーで被覆する工程を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、電極界面における接合性に優れ、かつ排水性が良好で、発電効率が向上する固体高分子型燃料電池およびその製造方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に係る固体高分子型燃料電池は、少なくとも、発泡金属層と、触媒層と、固体高分子電解質膜を具備する固体高分子型燃料電池であり、前記発泡金属層の少なくとも一部がカーボンファイバーまたはヘリカルカーボンファイバーで被覆されていることを特徴とする。
【0013】
前記発泡金属は、ニッケル、鉄、コバルト、若しくは少なくともこれらを1種以上含んだ合金、若しくは少なくともこれらを1種以上含んだ混合物であることが好ましい。
前記カーボンファイバーまたはヘリカルカーボンファイバー上に、触媒が設置されていることが好ましい。
【0014】
前記触媒は、白金、若しくは白金を含む合金、若しくは白金を含む混合物であることが好ましい。
前記触媒の形状はワイヤ状であることが好ましい。
【0015】
本発明に係る固体高分子型燃料電池の製造方法は、少なくとも一部がカーボンファイバーまたはヘリカルカーボンファイバーで被覆されている発泡金属層と、触媒層と、固体高分子電解質膜を具備する固体高分子型燃料電池の製造方法において、前記発泡金属層の少なくとも一部をCVD法によりカーボンファイバーまたはヘリカルカーボンファイバーで被覆する工程を有することを特徴とする。
【0016】
本発明に係る固体高分子型燃料電池の製造方法は、少なくとも一部がカーボンファイバーまたはヘリカルカーボンファイバーで被覆されている発泡金属層と、触媒層と、固体高分子電解質膜を具備する固体高分子型燃料電池の製造方法において、前記発泡金属層の少なくとも一部に、カーボンファイバーまたはヘリカルカーボンファイバー成長用触媒を設置する工程と、CVD法により、カーボンファイバーまたはヘリカルカーボンファイバーで被覆する工程を有することを特徴とする方法。
【0017】
さらに、前記発泡金属層の少なくとも一部を被覆したカーボンファイバーまたはヘリカルカーボンファイバー上に、触媒及び固体高分子電解質膜を設置する工程を有することが好ましい。
【0018】
本発明により、低温作動のため扱いやすい、電池構造が簡単でメンテナンスが容易、膜が差圧に耐えるため電池の加圧制御が容易、高出力密度が得られるため小型軽量化が可能などの固体高分子電解質型燃料電池の利点を保持しつつ、以下のような優位点を持つ、発電効率が向上した燃料電池が提供可能となる。
(1)表面が粗く、界面抵抗の大きい発泡金属が、カーボンファイバーまたはヘリカルカーボンファイバーで被覆されていることによる、多孔性炭素材料層、電極などの他の部材との界面抵抗の低減する。
(2)発泡金属が、カーボンファイバーまたはヘリカルカーボンファイバーで被覆されていることによる、発電中に発生する水や酸などによる発泡金属の腐食の抑制が可能となる。
(3)カーボンファイバーまたはヘリカルカーボンファイバーの弾性による、発電時の電解質膜の膨収縮等による寸法変化に対する柔軟性が向上する。
(4)ヘリカルカーボンファイバー中に存在する空洞による、ガス拡散性、排水性が向上する。
(5)さらに、カーボンファイバーまたはヘリカルカーボンファイバー上に触媒金属を設置することにより、表面積の増加に伴う反応有効表面積の増加、カーボンファイバーまたはヘリカルカーボンファイバーと触媒層との接触抵抗の低減、多孔性炭素材料層を有さない構造が可能となることによる、部材の簡略化、電池の薄膜化などの優位点を持つ、発電効率が向上した燃料電池が提供可能となる。
【0019】
以下、図を用いて本発明を説明する。ここでは、本発明の燃料電池の構成及びその製造方法、触媒、固体高分子電解質、担体、供給燃料、膜電極接合体の構成を詳述する。
(燃料電池の構成及び製造方法について)
本発明に係る固体高分子型燃料電池の構成の概略図を図1(a)に示す。燃料電池が固体高分子電解質51、アノード触媒層52、カソード触媒層53、アノード側集電体54、カソード側集電体55、外部出力端子56、燃料導入ライン57、燃料排出ライン58、アノード側多孔性炭素材料層59、カソード側多孔性炭素材料層60、アノード発泡金属層61、カソード発泡金属層62から構成されている。このとき、アノード側多孔性炭素材料層、カソード側多孔性炭素材料層は一層のみで構成されている必要は無く、何層にも重ねた構成としても良い。
【0020】
ここで、「触媒層」とは、貴金属触媒を含む層であり、燃料電池における反応が進行する部位のことを言う。換言すれば、水素等の燃料を供給するアノード側においては、燃料の酸化反応が起こる層、および酸素等を供給するカソード側においては、燃料の還元反応が起こる層のことである。
【0021】
「多孔性炭素材料層」とは黒鉛化炭素部材よりなるガス拡散性の高い燃料拡散極である。カーボンペーパー、カーボンフェルト、カーボンクロスなどを直接用いても良いし、また、これらの片面あるいは両面にカーボンブラック層を設けても良い。さらに、排水性を向上させる為、ポリテトラフルオロエチレン等の撥水材の溶液に含浸、後処理を施すことにより、撥水部を形成させることができる。
【0022】
ここで、カーボンペーパーとは、炭素繊維をより合わせて紙状にしたものである。
カーボンフェルトとは、炭素繊維をカールさせ且つ繊維どうしを絡めてフェルト状にしたものである。
【0023】
また、カーボンクロスとは、炭素繊維を束ねたものを縦・横方向に編み込んで布状にしたものである。
カーボンブラックとは、黒色粒状の小さい炭素粉末のことであり、アセチレンブラック、チャンネルブラック、ランプブラックなどが例示できる。基本的に、炭化物である原料、例えば天然ガスや油などを不完全燃焼させて製造されるものである。
【0024】
「発泡金属層」とは、多孔性の金属部材からなる層であり、発生した電子を集電体に伝達すると共に、燃料電池セル内に燃料を取り込む燃料拡散極の役割も果たしている層のことである。このとき準備される発泡金属の材質は、良好な電気伝導性を有していれば特に限定される物ではない。しかし、ニッケル、鉄、コバルトが好適に用いられ、さらにこれらを含有する合金、若しくは混合物を用いることが好ましい。また、発泡金属の空孔率が大きいほど燃料等の拡散が向上するため、好適には空孔率が80%以上、更には90%以上が好適に用いられる。
【0025】
次に、本発明の燃料電池の詳細な構成について説明する。
形態としては、図1において、発泡金属層の少なくとも一部が、カーボンファーバーまたはヘリカルカーボンファイバーで被覆されている構成からなる。カーボンファイバーまたはヘリカルカーボンファイバーは、アノード、あるいはカソードのどちらか一方の発泡金属のみに被覆されていても良いし、両極の発泡金属層に被覆されていても良い。カーボンファイバーまたはヘリカルカーボンファイバーは、発泡金属の一部のみに被覆されていても良いが、発泡金属全体に被覆されていることにより、よりカーボンファイバーまたはヘリカルカーボンファイバー被覆の効果が得られる。また、図1(b)のようにカソードのみにカーボンファイバーまたはヘリカルカーボンファイバー被覆発泡金属層を設置しても良い。
【0026】
ここで、カーボンファイバーとは、直径500nm以下、好ましくは100nm以下の炭素材料でアスペクト比が2以上、好ましくは10以上の1次元構造体を示す。具体的に、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンナノホーン、グラファイトナノファイバー等と呼ばれている材料は、全てカーボンファイバーに含まれる。
【0027】
また、「ヘリカルカーボンファイバー」とは、少なくともその一部がコイル状、ロープ状、あるいはツイスト状に形成されたカーボンナノコイル、あるいはカーボンマイクロコイルのことをいう。ヘリカルカーボンファイバーは、たとえばコイルの線径は1nm以上10μm以下、コイルピッチは1nm以上10μm以下、長さは5nm以上10mm以下程度が好ましいが、特に限定されるものでは無い。また、多孔性炭素材料層上に成長させたヘリカルカーボンファイバーは、すべてヘリカル構造を有する必要は無く、一部がこのような形状であれば良い。
【0028】
ここで、少なくとも一部が、カーボンファイバーまたはヘリカルカーボンファイバーで被覆されている発泡金属層の製造例を示す。
先ず、Niを含有する発泡金属を準備する。このとき準備される発泡金属の材質は、この準備工程の後に行われるカーボンファイバーまたはヘリカルカーボンファイバーの成長が可能なものなら、特に限定される物ではない。しかし、ニッケル、鉄、パラジウム、コバルトが好適に用いられ、さらにこれらを含有する合金、若しくは混合物を用いることが好ましい。また、発泡金属の空孔率が大きいほど燃料等の拡散が向上するため、好適には空孔率が80%以上、更には90%以上が好適に用いられる。また、カーボンファイバーまたはヘリカルカーボンファイバーが直接成長するためのCVD用触媒で形成されていないときには、その材料の表面にCVD用材料を設置して、カーボンファイバーまたはヘリカルカーボンファイバーを成長させても良い。
【0029】
次に、発泡金属層の表面上に、カーボンファイバーを成長させる。その製造方法について以下に説明する。
カーボンファイバーを作製する為の触媒粒子として、Ni、Fe、Co、Pd、Y若しくは少なくともこれらを1種以上含んだ合金、若しくは少なくともこれらを1種以上含んだ混合物からなる触媒が用いられる。その後CVD法により、金属微粒子を触媒としてカーボンファイバーを成長させる。触媒としては、たとえば、鉄触媒、Ni触媒などが挙げられるが、カーボンファイバーが得られれば、用いる触媒は特に限定されるものではない。カーボンファイバー被覆発泡金属の作製工程は、発泡金属層の少なくとも一部に触媒を設置する工程と、さらにこれを、CVD法により、カーボンファイバーで被覆する工程を経ることにより得られる。また、カーボンファイバー作製触媒が、あらかじめ発泡金属に含有されていれば、触媒を設置することなく、CVD法により、発泡金属層の少なくとも一部を、カーボンファイバーで被覆することができる。
【0030】
カーボンファイバーの形成は、CVD(Chemical Vapor Deposition:化学気相成長)で行う。CVD法は簡便かつ安全な実験工程であり、広面積の電極に均一にカーボンファイバーを成長させるには好適な方法である。
【0031】
条件として、2%程度の水素を含むヘリウム等の不活性ガスを、1%程度のアセチレン等の炭化水素ガスを含むヘリウム等の不活性ガスを流し、温度を500℃から1000℃にして保持する。この工程により、発泡金属の表面全てから、ほぼ均一な長さのグラファイトナノファイバーを成長させることができる。
【0032】
また、カーボンファイバー被覆発泡金属層を作製した後、カーボンファイバー成長用触媒を除去する工程を有していても良い。除去方法に特に制限は無いが、たとえば、得られたカーボンファイバー被覆発泡金属を希硫酸水溶液に浸漬させることにより取り除くことができる。
【0033】
発泡金属層の表面上に、ヘリカルカーボンファイバーを成長させる。その製造方法について以下に説明する。
ヘリカルカーボンファイバーの作製はCVD法(Chemical Vapo Deposition:化学気相成長)を用いて行う。
【0034】
ヘリカルカーボンファイバーを作製する為の触媒粒子として、Fe、Ni、Co単独、あるいはそれらの酸化物、また他の元素を混ぜ合わせた複合混合触媒が用いられる。その後CVD法により、金属微粒子を触媒としてヘリカルカーボンファイバーを成長させる。現在、カーボンファイバーがコイル状に巻きながら成長するメカニズムは必ずしも明らかとされていない。しかし、成長過程におけるカーボンファイバー先端に溶融している金属触媒の結晶面が影響しているといわれている。この影響をより効果的に出すために、触媒若しくは反応ガス中にリンやイオウなどの不純物を混合することや、酸化物触媒を用いることで、高い収集率で生成する。触媒としては、具体的に、Ni/P触媒や、鉄/酸化スズ触媒などが好適に用いられるが、ヘリカルカーボンファイバーが得られれば、用いる触媒は特に限定されるものではない。ヘリカルカーボンファイバー被覆発泡金属の作製工程は、発泡金属層の少なくとも一部に触媒を設置する工程と、さらにこれを、CVD法により、ヘリカルカーボンファイバーで被覆する工程を経ることにより得られる。また、ヘリカルカーボンファイバー作製触媒が、あらかじめ発泡金属に含有されていれば、触媒を設置することなく、CVD法により、発泡金属層の少なくとも一部を、ヘリカルカーボンファイバーで被覆することができる。
【0035】
CVD法の条件として、2%程度の水素を含むヘリウム等の不活性ガスを、1%程度のアセチレン等の炭化水素ガスを含むヘリウム等の不活性ガスを流し、温度を600℃から800℃にして1時間保持する。この工程により、発泡金属の表面から、ヘリカルカーボンファイバーを成長させ、ヘリカルカーボンファイバー被覆発泡金属層が得られる。
【0036】
また、ヘリカルカーボンファイバー被覆発泡金属層を作製した後、ヘリカルカーボンファイバー成長用触媒を除去する工程を有していても良い。除去方法に特に制限は無いが、たとえば、得られたヘリカルカーボンファイバー被覆発泡金属を希硫酸水溶液に浸漬させることにより取り除くことができる。
【0037】
次に、カーボンファイバーまたはヘリカルカーボンファイバー被覆発泡金属層を作製した後、さらに撥水処理工程を有していても良い。撥水方法に特に制限は無いが、たとえば、カーボンファイバーまたはヘリカルカーボンファイバー被覆発泡金属層をポリテトラフルオロエチレン等の撥水材の溶液に含浸後熱処理を行うことにより、撥水処理を施すことができる。
【0038】
また、このようなカーボンファイバーまたはヘリカルカーボンファイバーに燃料電池発電用触媒を直接担持するにより、発泡金属層と触媒層を見かけ上、一つの層として形成した構成にすることも可能である。すなわち、カソード触媒層53とカソード側発泡金属層62を、図2(a)に示すように、カソード側触媒担持発泡金属層63として1つの層にした構成も好適に用いることができる。この場合、多孔性炭素材料層60は不要な構成となり得る。図2(b)に示すように、アノード触媒層52とアノード側発泡金属層61を、アノード側触媒担持発泡金属層64として1つの層にした構成も好適に用いることができる。さらに、図2(b)に示すように、アノード、カソードどちらも触媒担持発泡金属層として用いても良い。
【0039】
ここで、触媒担持発泡金属層について説明する。一例として、カソード側触媒担持発泡金属層について、図3を用いて詳述する。カソード側触媒担持発泡金属層63の一例として、図2(a)に示したように発泡金属層と触媒層が見かけ上、一つの層になった構成を挙げることができる。例えば、図3(b)、(c)に示したように、発泡金属層61の表面がカソード触媒層53で覆われた構成が挙げられる。さらに、図3(c)に示したように、カソード触媒層53は、触媒が担持されたカーボンファイバー、すなわち、白金担持カーボンファイバー65で構成されていることが好ましい。さらに、燃料電池として機能させるために、図3(d)に示したような、カーボンファイバー66、触媒67、固体高分子電解質68で構成されていることが好ましい。
【0040】
(膜電極接合体について)
本発明の膜電極接合体の基本構成を図4(a)に示す。本発明の膜電極接合体11は、担体12と固体高分子電解質13と触媒14で構成されている。担体を使用していないときには、図4(b)のような構成である。
【0041】
この膜電極接合体を用い、燃料として例えばアノード側に水素、カソード側に酸素を用いた場合、以下のような反応が進行する。
【0042】
【化1】

【0043】
このように、アノード側では供給された燃料が電子とカチオンを発生させ、発生したカチオンのみがカソード側に移動し、酸素と反応して電子を消費することにより、発電するシステムとなっている。つまり、カソードとアノードは同じ膜電極接合体中に設置されながら、固体高分子電解質で完全に分離されていることが重要である。さらに、上記反応は触媒電極と固体高分子電解質と燃料の3種類の物質における界面で成されるため、より固体高分子電解質が触媒電極上に広範囲で設置されていることが重要である。且つ燃料が膜電極接合体の深部にまで効率良く供給されることが重要である。また、カーボンファイバーまたはヘリカルカーボンファイバーの表面に触媒を設置した、本発明の構成を触媒層として使用するときには、基本的に固体高分子電解質膜上の触媒は必ずしも必要ではなく、膜電極接合体が図2のような構成にすることも可能である。
ここで、この膜電極接合体の作製方法を例示する。
【0044】
白金担持カーボンの1.0gをるつぼに入れ、マイクロピペットで純水を0.4ccを滴下する。その後、るつぼ内に5%ナフィオン(デュポン社製、登録商標)溶液をマイクロピペットを用いて1.5cc加え、続いてイソプロピルアルコールを0.2cc加える。そして、そのるつぼを5分間超音波洗浄し、更に、マグネチックスターラーを用いて撹拌する。このように作製された白金担持カーボン分散溶液をドクターブレード法によってPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)シート上に塗布する。
【0045】
次に、固体高分子電解質膜を準備する工程を示す。ここでは、市販のナフィオン(デュポン社製、登録商標)膜を使用した。過酸化水素水溶液を80℃に温め、所望の大きさにカッティングしたナフィオン膜を60分間浸した。過酸化水素処理後に水で洗浄した後、80℃に加熱した硫酸水溶液中にナフィオン膜を60分間浸した。その後、水で洗浄した後に、乾燥させたものを使用した。
【0046】
次に、処理後のナフィオン膜上にPTFEシート上に塗布した触媒シートをホットプレスすることにより、白金担持カーボンの膜電極接合体を作製した。
(触媒について)
本発明の燃料電池用膜電極接合体を構成する触媒は、固体高分子電解質と三相界面を形成したときに電子と電荷を分離できる機能を有する材料ならば制限は無い。特に白金、若しくは白金を含む合金、若しくはコアシェル構造などの白金を含む混合物であることが好ましい。さらに、白金の合金、若しくは白金を含む混合体として白金と共に含まれる材料としては、金、銀、パラジウム、イリジウム、ロジウム、ルテニウム、鉄、コバルト、ニッケル、クロム、タングステン、マンガン、バナジウム、レニウム、コバルト、リチウム、ランタン、ストロンチウム、イットリウム、およびオスミウムなどが例示できる。しかし水素等アノード側燃料の酸化反応および酸素等カソード側燃料の還元反応を促進する材料であればこれらに限られるものではない。また、この触媒の形状は限定されるものではなく、例えば球状の微粒子、ワイヤ状、網状、立方体、4面体、チューブ状などが挙げられる。
【0047】
ここで、ワイヤ状とは、細線状に形成された1次元構造体であり、図5に示す様に、ワイヤ31の長辺の方向の長さ32が、ワイヤ31の横切断面33の重心34を通る短辺の方向の最大長さ35よりも長い構造体を示す。
【0048】
さらに、ワイヤは図6に示したように、テトラポッド状を含む1点より多数のワイヤが成長したもの(a)、樹枝状に形成されたもの(b)、折れ線状に成長したもの(c)、メッシュ状に成長したもの(d)、数珠状に成長したもの(e)等を含む。
【0049】
また、チューブ状とは、それぞれのワイヤが中空状ものを示す。
また、ワイヤは円柱、円錐、円錐で先端が平坦なものや先端が大きくなっているもの、円柱で先端が尖っているものや先端が平坦なものや先端が大きくなっているものなどすべてを含む。さらに、ワイヤは三角錐、四角錐、六角錐、それ以外の多角錐状やその多角錐の先端が平坦なものや先端が大きくなっているものを含む。また、ワイヤは三角柱、四角柱、六角柱、それ以外の多角柱状、あるいは先端が尖っているか若しくは先端が大きくなっている三角柱、四角柱、六角柱、それ以外の多角柱状やその先端が平坦なものや先端が大きくなっているものなども含む。さらに、ワイヤはこれらの折れ線状構造も含む。
【0050】
また、本発明のワイヤのアスペクト比は5以上、特に10以上が好ましく、ワイヤの横切断面の重心を通る最大長さは2μm以下が好ましく、さらに200nm以下が好ましい。ここでアスペクト比とは図5(a)に示したように、ワイヤ31の横切断面33が円形又は円形に近い状態の形状の場合は径に対する長さ32の比率をいう。ワイヤ31の横切断面33が六角形や図5(b)のように歪んだ図形等の場合は、横切断面33の重心34を通る最大長さ35に対する長さの比率をいう。また、図5(c)のようにワイヤ31の横切断面33が輪状の場合は、横切断面33の最外輪36で形成される構造体と仮定し、その重心34を通る最大長さ35に対する長さ32の比率をいう。
【0051】
(固体高分子電解質について)
本発明の膜電極接合体の構成成分である固体高分子電解質は、アノード側で発生したカチオンを速やかにカソード側に移動させるために高いイオン伝導性が求められる。固体高分子電解質としてはこうした要求を満たすために、水素イオン伝導性や、メタノールや水素等の燃料遮断性に優れる材料が好ましく用いられる。具体的には、水素イオン解離が可能な有機基として、スルホン酸基、スルフィン酸基、カルボン酸基、ホスホン酸基、ホスフィン酸基、リン酸基、水酸基などを有する有機高分子が好ましく用いられる。こうした有機高分子として、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂、ポリスチレンスルホン酸樹脂、スルホン化ポリアミドイミド樹脂、スルホン化ポリスルホン酸樹脂、スルホン化ポリエーテルイミド、パーフルオロホスホン酸樹脂、パーフルオロスルホン酸樹脂等が例示できる。上記例示した固体高分子電解質が好適に用いられるが、これらに限定されるものでは無い。
【0052】
(担体について)
膜電極接合体には、基本的にカチオンをアノード側に輸送できる固体高分子膜と、アノード及びカソードで発生した電子を取り出すことが出来る触媒電極が存在すれば発電が可能となるため、担体は必ずしも必要な材料ではない。しかし、主として白金の使用量を削減することを目的として、電子移動が可能な材料を膜電極接合体中に担持することが行われている。
【0053】
この担体は、炭素を主として用いることが出来るが、電子移動材料ならばこれらに限られるものでは無い。炭素の担体として、ファーネスブラック、チャンネルブラック、およびアセチレンブラック等のカーボンブラック、活性炭、黒鉛、フラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンファイバー等が挙げられ、これらが単独あるいは混合して使用される。
【0054】
(供給燃料について)
固体高分子電解質−触媒複合型の燃料電池の燃料は、アノード側では水素、改質水素、メタノール、ジメチルエーテル等の触媒電極と固体高分子電解質の作用によって電子とカチオンが発生する燃料であれば、特に制限は無い。またカソード側では空気や酸素等のカチオンを受け取り、電子を取り込む燃料であれば、特に制限は無い。一般的には、アノード側では水素若しくはメタノール、カソード側では空気を用いることが、反応効率的にも実用的にも適している。
【0055】
また、燃料電池セルの構成として、例えば図4に示す構成を複数層形成することで発生電圧値及び電流値を高めることができる。この場合、半導体プロセスを応用して上記セルを作製することで、燃料電池システムの小型化、高出力化が可能となる。
【0056】
また、燃料としてアノード側に水素、カソード側に空気を用いた場合、アノード側に供給された燃料がもれることのないようにパッキングをすることが重要であり、カソード側は燃料が注入されやすいように空気に対して開放されている事が重要である。
【0057】
また、カチオン交換を行う固体高分子電解質を用いた場合のみではなく、アノード側にカチオン交換膜、カソード側にアニオン交換膜を用いたバイポーラ電解質型燃料電池等の触媒電極を利用したときにも、勿論本発明の燃料電池用膜電極接合体が適用され得る。
【実施例】
【0058】
以下、実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明する。しかし、実施例はこれらのみに限定されることはない。即ち、本発明は、開示されている技術等の構成に対して幅広く適用されるものである。
【0059】
実施例1
本実施例は、SUS316を原料とする発泡金属を準備し、その基板を用いてCVDを行い、カーボンファイバー被覆発泡金属を作製し、固体高分子型燃料電池の燃料拡散電極として用いた例を示す。
【0060】
先ず、SUS316を原料とする発泡金属の上にカーボンファイバーを形成させた。カーボンファイバーの形成は、CVDで行った。条件として、2%の水素を含むヘリウムガスを33sccm、1%のアセチレンを含むヘリウムガスを66sccm流し、温度を700℃にして1時間保持した。この工程により、発泡金属の表面全てから、ほぼ均一な長さのカーボンファイバーを成長させた。得られたカーボンファイバー被覆発泡金属を、カソード発泡金属層として用い、本発明の固体高分子型燃料電池とした。
【0061】
また、膜電極接合体は、下記の方法で作製した。膜電極接合体の作製方法は、白金担持カーボンをるつぼに入れ、マイクロピペットで純水を0.4cc、5%ナフィオンNafion(デュポン社製、登録商標)溶液を1.5cc、イソプロピルアルコールを0.2ccを順次加えた。そして、そのるつぼを5分間超音波洗浄する。さらに、ルツボ内に撹拌子を入れ、マグネチックスターラーを用いて200rpmで撹拌した。
【0062】
このように作製された白金担持カーボン分散溶液をドクターブレード法によってPTFEシート上に塗布した。その後、固体高分子電解質膜であるナフィオン(デュポン社製、登録商標)膜上に、ホットプレスを使用することにより転写させ、膜電極接合体を作製した。
【0063】
この膜電極接合体とカソード側カーボンファイバー被覆発泡金属を用いて上記した製造方法と同様に、アノード側に水素、カソード側に空気を燃料として注入するセルを作製した。その方法は、予め燃料の流路を形成したグラファイト集電体の流路側に燃料拡散層となるカーボンペーパーを設置し、図1(b)に示したように組み合わせて、本発明の固体高分子型燃料電池とした。
【0064】
比較例として、カソード側に未処理のSUS316の発泡金属を用いて、同様にセルを作製した。
これを用いて、燃料電池単セルの電流−電位特性を評価したところ、実施例は比較例の微粒子膜に比べて10%程度出力が向上した。これは、本発明の膜電極接合体により、三相界面を増大、ガス透過性を拡大することなどが可能となり、発電効率が向上したものと考える。
【0065】
(電流−電位特性の評価方法)
アノード側に80℃飽和水蒸気で加湿した水素を、カソード側に同様に加湿した空気を使用した。流量として、それぞれ200mL/分、600mL/分で供給し、作製した単セルを運転した。セル運転温度を80℃に設定し、発電評価及び交流インピーダンス測定を行い、その測定方法は、負荷に流す電流を変化させた場合の電圧変化及びIR変化を測定した。
【0066】
実施例2
本実施例は、Ni合金で形成される発泡金属上にカーボンファイバーを被覆し、さらに白金触媒をカーボンファイバー上に設置して、固体高分子型燃料電池の燃料拡散電極として用いた例を示す。
【0067】
先ず、実施例1と同様に発泡金属上にカーボンファイバーを形成させた。
次に作製したカーボンファイバー被覆発泡金属に白金触媒を担持した。先ず、0.1Mのヘキサクロロ白金酸カリウム水溶液を白金原料として調整した。この溶液をカーボンファイバー被覆発泡金属上に滴下し、空気中で300℃に加熱した。その結果、図3に示すように、カーボンファイバー66上に白金の触媒67が設置された。
【0068】
作製された触媒担持カーボンファイバー被覆発泡金属に固体高分子電解質を設置して燃料電池用膜電極接合体及びそれを用いた固体高分子型燃料電池とした。先ず、触媒担持カーボンファイバー被覆発泡金属上に、図3dに示したように、固体高分子電解質である5%Nafion(デュポン社製、登録商標)溶液を滴下した。そして、固体高分子電解質膜を5%Nafion溶液を滴下した面と密着させた。このとき使用するNafion(デュポン社製、登録商標)膜の前処理として、過酸化水素水溶液を80℃に温め、所望の大きさにカッティングしたNafion膜を60分間浸した。過酸化水素処理後に水で洗浄した後、80℃に加熱した硫酸水溶液中にNafion膜を60分間浸した。その後、水で洗浄した後に、乾燥させたものを使用した。その固体高分子電解質膜の片面は、上記した方法と同様に触媒層を設置したものを用いた。そして、その反対側に本発明の触媒担持カーボンファイバー被覆発泡金属を設置し、固体高分子電解質膜を挟み込むようにしてホットプレスし、膜電極接合体を作製した。
【0069】
ここで、触媒層は実施例1と同様のものを用い、セル構成は図3aと同様にし且つ使用方法や部材は実施例と同様にした。
比較例として、未処理の発泡金属を、図1bに示したように、カソード側発泡金属62の位置に設置し、カソード側多孔性炭素材料層60とアノード側多孔性炭素材料層5の位置にカーボンクロスを設置し、且つ膜電極接合体は上記比較例と同様なものを用いた。
【0070】
これを用いて、燃料電池単セルの電流−電位特性を評価したところ、実施例は比較例の微粒子膜に比べて12%程度出力が向上した。これは、本発明の膜電極接合体により、三相界面を増大、ガス透過性を拡大することなどが可能となり、発電効率が向上したものと考える。
【0071】
実施例3
本実施例は、Ni合金で形成される発泡金属上にカーボンファイバーを被覆し、さらに樹枝状の白金触媒をカーボンファイバー上に設置して、固体高分子型燃料電池の燃料拡散電極として用いた例を示す。
【0072】
先ず、実施例2と同様にカーボンファイバー被覆発泡金属を作製した。
次に、上記工程によって作製した基体をスパッタ装置に移動し、樹枝状構造を有する酸化白金触媒を膜厚約100nm成膜した。製造方法として、スパッタ室内圧力を1.0×10−4Paまで排気した後、Ar、Oを其々2.5、20.0sccm導入し、オリフィスにて全圧を6.0Paに調整した。RF投入パワー4.0W/cmにて反応性スパッタを行い、GNF表面上に樹枝状構造を有する酸化白金を膜厚約100nm成膜した。このとき、スパッタされた原子は基体に対して指向性を持たずに入射、堆積するので、酸化白金はGNF表面にほぼ100%の被覆率で有効に形成されていた。酸化白金の成膜が終了した基体は、10kPaの2%H/Heに10分間暴露することによって容易に還元された。この触媒担持カーボンファイバー被覆発泡金属を実施例2と同様にして、固体高分子型燃料電池として組み上げた。
【0073】
比較例も、実施例2の比較例で使用したセルを用いた。これを用いて、燃料電池単セルの電流−電位特性を評価したところ、実施例は比較例の微粒子膜に比べて12%程度出力が向上した。これは、本発明の膜電極接合体により、三相界面を増大、ガス透過性を拡大することなどが可能となり、発電効率が向上したものと考える。
【0074】
実施例4
本実施例は、発泡金属を準備し、その上にCVD法を用いて、ヘリカルカーボンファイバー被覆発泡金属を作製し、固体高分子型燃料電池のカソード発泡金属層として用いた一例である。
【0075】
先ず、0.3mol/Lの塩化錫と0.5mol/Lの塩化鉄を混合した溶液を準備する。この水溶液中にNiで構成された発泡金属を浸し、その後電気炉を用いて、空気中で500℃に加熱した。このようにして、ヘリカルカーボンファイバー成長用の触媒が担持された発泡金属を作製した。焼成した発泡金属を走査型電子顕微鏡(SEM)で観測したところ、直径が5nmから100nm程度の微粒子が疎らに凝集して生成していることを確認した。さらに、その微粒子をエネルギー分散形X線分析装置(EDX)で観察したところ、生成した微粒子は錫と鉄の酸化物であることを確認した。
【0076】
得られた発泡金属上に、CVD法によりヘリカルカーボンファイバーを設置した。条件として、2%の水素を含むヘリウムガスを33sccm、1%のアセチレンを含むヘリウムガスを66sccm流し、温度を600℃にして1時間保持した。この工程により、発泡金属の表面から、ヘリカルカーボンファイバーを成長させた。得られた発泡金属を、走査型電子顕微鏡を用いて、表面観察を行ったところ、ヘリカルカーボンファイバーが発泡金属表面上に成長していることが確認された。得られたヘリカルカーボンファイバー被覆発泡金属を、カソード発泡金属層として用い、本発明の固体高分子型燃料電池とした。
【0077】
また、膜電極接合体は、下記の方法で作製した。まず、白金担持カーボンをるつぼに入れ、マイクロピペットで純水を0.4cc、5%ナフィオン(デュポン社製、登録商標)溶液を1.5cc、イソプロピルアルコールを0.2ccを順次加えた。そして、そのるつぼを5分間超音波洗浄する。さらに、ルツボ内に撹拌子を入れ、マグネチックスターラーを用いて200rpmで撹拌した。
【0078】
このように作製された白金担持カーボン分散溶液をドクターブレード法によってPTFEシート上に塗布した。その後、ナフィオン(デュポン社製、登録商標)膜上に、ホットプレスを使用することにより転写させ、膜電極接合体を作製した。このとき使用するナフィオン膜の前処理として、過酸化水素水溶液を80℃に温め、所望の大きさにカッティングしたナフィオン膜を60分間浸した。過酸化水素処理後に水で洗浄した後、80℃に加熱した硫酸水溶液中にナフィオン膜を60分間浸した。その後、水で洗浄した後に、乾燥させたものを使用した。
【0079】
この膜電極接合体と多孔性炭素材料、ヘリカルカーボンファイバー被覆発泡金属を用いて、アノード側に水素、カソード側に空気を燃料として注入するセルを作製した。その構成は、図1(b)に示したように組み合わせて、本発明の固体高分子型燃料電池とした。
【0080】
比較例として、カソード側発泡金属層に未処理の発泡金属を用いて、同様にセルを作製し、これを用いて電流−電位特性の評価を行った。
【0081】
(電流−電位特性の評価方法)
アノード側に80℃飽和水蒸気で加湿した水素を、カソード側に同様に加湿した空気を使用した。流量として、600mL/分で供給し、作製した単セルを運転した。セル運転温度を80℃に設定し、発電評価及び交流インピーダンス測定を行い、その測定方法は、負荷に流す電流を変化させた場合の電圧変化及びIR変化を測定した。
【0082】
燃料電池単セルの電流−電位特性を評価したところ、実施例は比較例に比べて10%程度出力が向上した。これは、本発明の膜電極接合体により、接触抵抗が低減したと共に、排水性の向上、ガス透過性を拡大することなどが可能となり、発電効率が向上したものと考える。
【0083】
実施例5
本実施例は、発泡金属を準備し、その基板上にCVD法を用いて、ヘリカルカーボンファイバー被覆発泡金属を作製し、固体高分子型燃料電池のカソード発泡金属層として用いた一例である。
【0084】
先ず、市販の酸化錫分散溶液(Alfa Aesar社製)を準備する。この溶液中にNi−Crで構成された発泡金属を浸し、500℃で加熱させた。酸化錫を発泡金属上に固定した基体をさらに鉄を含む塩を溶解した溶液中に浸した後、500℃で加熱することにより、発泡金属上に2種の酸化物を設置した基体を作成することが出来た。このようにして、ヘリカルカーボンファイバー成長用の触媒を担持した発泡金属を作製した。焼成した発泡金属を走査型電子顕微鏡(SEM)で観測したところ、直径が5nmから100nm程度の微粒子が高密度に凝集して生成していることを確認した。さらに、その微粒子をエネルギー分散形X線分析装置(EDX)で観察したところ、生成した微粒子は錫と鉄の酸化物であることを確認した。
【0085】
得られた発泡金属上にCVD法により、ヘリカルカーボンファイバーを設置した。条件として、2%の水素を含むヘリウムガスを33sccm、1%のアセチレンを含むヘリウムガスを66sccm流し、温度を600℃にして1時間保持した。この工程により、発泡金属の表面から、ヘリカルカーボンファイバーを成長させた。得られた発泡金属を、走査型電子顕微鏡を用いて、表面観察を行ったところ、ヘリカルカーボンファイバーが発泡金属表面上に成長していることが確認された。このヘリカルカーボンファイバー被覆発泡金属を、実施例4と同様にカソード発泡金属層として用い、本発明の固体高分子型燃料電池とした。
【0086】
比較例として、カソード側発泡金属層に未処理の発泡金属を用いて、同様にセルを作製し、これを用いて電流−電位特性の評価を行った。
燃料電池単セルの電流−電位特性を評価したところ、実施例は比較例に比べて12%程度出力が向上した。これは、本発明の膜電極接合体により、接触抵抗が低減したと共に、排水性の向上、ガス透過性を拡大することなどが可能となり、発電効率が向上したものと考える。
【0087】
実施例6
本実施例は、発泡金属上にヘリカルカーボンファイバーを被覆し、得られた発泡金属上にさらに樹枝状の白金触媒を設置して、固体高分子型燃料電池の燃料拡散電極として用いた一例である。
【0088】
先ず、実施例4と同様にヘリカルカーボンファイバー被覆発泡金属を作製した。次に、得られたヘリカルカーボンファイバー被覆発泡金属をスパッタ装置に移動し、樹枝状構造を有する酸化白金触媒を膜厚約100nm成膜した。製造方法として、スパッタ室内圧力を1.0×10−4Paまで排気した後、Ar、Oを其々2.5、20.0sccm導入し、オリフィスにて全圧を6.0Paに調整した。RF投入パワー4.0W/cmにて反応性スパッタを行い、ヘリカルカーボンファイバー表面上に樹枝状構造を有する酸化白金を膜厚約100nm成膜した。このとき、スパッタされた原子は基体に対して指向性を持たずに入射、堆積するので、酸化白金はヘリカルカーボンファイバー表面にほぼ100%の被覆率で有効に形成されていた。酸化白金の成膜が終了した基体は、10kPaの2%H/Heに10分間暴露することによって容易に還元された。この触媒担持ヘリカルカーボンファイバー被覆発泡金属をカソード触媒担持発泡金属層として用い、固体高分子型燃料電池として組み上げた。
【0089】
ここで、アノード触媒層は実施例4と同様のものを用い、セル構成は図2(a)と同様にし且つ使用方法や部材は実施例4と同様にした。
比較例として、未処理の発泡金属に上記実施例と同様の方法で、樹脂状の白金触媒を担持し、触媒担持発泡金属とした。この触媒担持発泡金属を、図2(a)に示したように、カソード側触媒担持発泡金属層63とした以外は、上記実施例と同様のセル構成とした。
【0090】
これを用いて、燃料電池単セルの電流−電位特性を評価したところ、ヘリカルカーボンファイバーを被覆した実施例は、比較例に比べて15%程度出力が向上した。これは、本発明の膜電極接合体により、反応表面積を増大、ガス透過性を拡大することなどが可能となり、発電効率が向上したものと考える。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明は、燃料電池発泡金属層として利用できるが、これに限らず各種デバイスへの応用範囲をより拡大し得る新規な構成を有する触媒担持酸化物半導体構造体、触媒担持酸化物半導体電極、機能性素子の製造に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】本発明の膜電極接合体の構成を示す模式図である。
【図2】本発明の膜電極接合体の構成を示す模式図である。
【図3】本発明の膜電極接合体を構成及び製造方法を示す模式図である。
【図4】燃料電池(膜電極接合体)の一般的な模式図である。
【図5】本発明の触媒(ワイヤ状)を示す説明図である。
【図6】本発明の触媒(ワイヤ状)を示す模式図である。
【符号の説明】
【0093】
11 膜電極接合体
12 担体
13 固体高分子電解質
14 触媒
31 ワイヤ(カーボンファイバー)
32 長辺の長さ
33 横切断面
34 重心
35 最大長さ
36 最外輪
37 短辺の長さ
51 固体高分子電解質
52 アノード触媒層
53 カソード触媒層
54 アノード側集電体
55 カソード側集電体
56 外部出力端子
57 燃料導入ライン
58 燃料排出ライン
59 アノード側多孔性炭素材料層
60 カソード側多孔性炭素材料層
61 アノード側発泡金属層
62 カソード側発泡金属層
63 カソード側触媒担持発泡金属層
64 アノード側触媒担持発泡金属層
65 白金担持ヘリカルカーボンファイバー
66 ヘリカルカーボンファイバー
67 触媒
68 固体高分子電解質

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、発泡金属層と、触媒層と、固体高分子電解質膜を具備する固体高分子型燃料電池であり、前記発泡金属層の少なくとも一部がカーボンファイバーまたはヘリカルカーボンファイバーで被覆されていることを特徴とする固体高分子型燃料電池。
【請求項2】
前記発泡金属は、ニッケル、鉄、コバルト、若しくは少なくともこれらを1種以上含んだ合金、若しくは少なくともこれらを1種以上含んだ混合物であることを特徴とする請求項1に記載の固体高分子型燃料電池。
【請求項3】
前記カーボンファイバーまたはヘリカルカーボンファイバー上に、触媒が設置されていることを特徴とする請求項1に記載の固体高分子型燃料電池。
【請求項4】
前記触媒は、白金、若しくは白金を含む合金、若しくは白金を含む混合物であることを特徴とする請求項3に記載の固体高分子型燃料電池。
【請求項5】
前記触媒の形状はワイヤ状であることを特徴とする請求項4に記載の固体高分子型燃料電池
【請求項6】
少なくとも一部がカーボンファイバーまたはヘリカルカーボンファイバーで被覆されている発泡金属層と、触媒層と、固体高分子電解質膜を具備する固体高分子型燃料電池の製造方法において、前記発泡金属層の少なくとも一部をCVD法によりカーボンファイバーまたはヘリカルカーボンファイバーで被覆する工程を有することを特徴とする固体高分子型燃料電池の製造方法。
【請求項7】
少なくとも一部がカーボンファイバーまたはヘリカルカーボンファイバーで被覆されている発泡金属層と、触媒層と、固体高分子電解質膜を具備する固体高分子型燃料電池の製造方法において、前記発泡金属層の少なくとも一部に、カーボンファイバーまたはヘリカルカーボンファイバー成長用触媒を設置する工程と、CVD法により、カーボンファイバーまたはヘリカルカーボンファイバーで被覆する工程を有することを特徴とする固体高分子型燃料電池の製造方法。
【請求項8】
さらに、前記発泡金属層の少なくとも一部を被覆したカーボンファイバーまたはヘリカルカーボンファイバー上に、触媒及び固体高分子電解質膜を設置する工程を有することを特徴とする請求項6または7に記載の固体高分子型燃料電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−140667(P2009−140667A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−314011(P2007−314011)
【出願日】平成19年12月4日(2007.12.4)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】