説明

固体高分子型燃料電池及びその製造方法

【課題】耐圧縮性のある多孔質中間層を備えた固体高分子型燃料電池を得る。
【解決手段】プロトン伝導性の高分子電解質膜2の両側にアノード触媒層5及びカソード触媒層6を配置し、この各触媒層の外側に、多孔質性を有する中間層4を配置し、この中間層4の外側にそれぞれ反応ガスを触媒層に拡散するガス拡散層7を配置し、このガス拡散層7のさらに外側に反応ガスが通過するガス流路を有するセパレータ板を配置した構成であり、多孔質性を有する中間層4をガス拡散層7の触媒層側で、ガス拡散層7の厚み方向に押し込むように形成したので、ガス拡散層7を多孔質性の中間層4の補強材として利用できるため、圧縮性に優れ、空隙の圧縮を抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、触媒層とガス拡散層間の電子伝導性を向上させ、且つ、ガス拡散層からの反応ガス供給や触媒層からの排水が良好であり、かつ、耐圧縮性のある多孔質中間層を有する固体高分子型燃料電池及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題に関する意識の高まりからクリーンな発電システムが要求されており、そのシステムの一つとして燃料電池が注目されている。この燃料電池は使用される電解質の種類から、リン酸型、溶融炭酸型、固体電解質型、固体高分子型などがあるが、中でも動作温度の低さや小型化の点で優位になる固体高分子型については盛んに研究開発が進められている。
固体高分子型燃料電池は、プロトン伝導性の高分子電解質膜と、この高分子電解質膜の両側に配置されたアノード及びカソード触媒層と、各々触媒層の外側にガス供給流路からガスを触媒層に拡散させるためのガス拡散層を有している。この触媒層とガス拡散層の間には中間層が配置されており、さらにガス拡散層の外側にはガスを供給するガス流路を刻んだセパレータ板を備えている。
【0003】
このような固体高分子型燃料電池は、アノード触媒層に燃料ガス(例えば水素ガスまたは改質ガス)を、カソード触媒層に酸化剤(例えば空気または酸素ガス)をそれぞれ供給し、両極を外部回路で接続することにより、燃料電池として作動することが可能となる。
具体的には、まずセパレータ板に形成したガス流路からガス拡散層を通過してアノード触媒層に例えば水素ガスが供給される。アノード触媒層に達した水素ガスは、触媒による酸化反応によりプロトンと電子が発生する。このプロトンは高分子電解質膜を通過してカソード触媒層に移動する。
一方、電子は外部回路を通ってカソード触媒層側に移動する。カソード触媒層では、高分子電解質膜中を通過してきたプロトン、外部回路から移動してきた電子、及びセパレータ板に形成したガス流路からガス拡散層を通過して供給される例えば酸素ガスが、触媒表面にて反応し、水に変換される。その際、電極間に起電力が発生するため、電気エネルギーとして取り出すことが可能となる。
【0004】
前記反応を効率よく継続的に行うには、イオン伝導抵抗及び電子伝導抵抗を低下させることと、両電極の触媒層にガスを連続的に供給することが重要である。イオン伝導抵抗を低下するためには、高分子電解質成分を常に水で湿潤状態にしておく必要がある。また、電子伝導抵抗を下げるためには、触媒層、ガス拡散層、セパレータ板の各部材の抵抗値を下げることが必要であり、また各部材間の接触抵抗もできる限り小さくする必要がある。
しかし、ガス拡散層はカーボン繊維等からなる多孔質層であるため、部材間の接触抵抗を小さくすることは難しい。このため、ガス拡散層の表面に電子伝導性材料からなる多孔質の中間層を設け、圧縮加重し、触媒層との接触性を向上させ、電子伝導抵抗を下げる工夫をしている。
【0005】
一方、カソード触媒層で生成した水がカソード触媒層の表面に滞留したり、ガス拡散層中の空孔部が水で閉塞すると、ガスと触媒層との接触が妨げられるので、水は連続的に排出する必要がある。ガス拡散層中の空孔部が水で閉塞することを回避するため、フッ素系樹脂など撥水性材料を用いて電極材料を撥水化することが広く行われている。特にガス拡散層は、ガス流路から供給されたガスを触媒層に到達させる供給経路であり、一般的に撥水化されている。
なお、固体高分子型燃料電池においては、前記のように、高分子電解質膜が水分を多く含んでいるほどイオン伝導抵抗が低下して性能が向上する。そのため反応ガスをあらかじめ外部加湿器で加湿して供給し、高分子電解質膜を湿潤状態に保持している。
【0006】
固体高分子型燃料電池を低加湿条件において運転すると、高分子電解質膜の含水量が低下して性能が大幅に低下する。このため、できるだけその温度の飽和蒸気圧に近い高加湿条件で燃料電池を運転することが望ましい。しかし、飽和蒸気圧に近いため、電池温度や生成水の影響で電極基材のガス拡散層や中間層、触媒層の空孔内にある水蒸気が液体の水になりやすく、細孔を閉塞する可能性がある。
特に、多孔質の中間層は、機械的強度が弱いため、圧縮加重によって次第に空隙が圧縮され、細孔が増加し、水が滞留しやすくなり、ガス拡散が阻害され、長期的電池特性を維持することが難しいという問題がある。
【0007】
水を排出しやすくするための方策として、特許文献1では、ガス拡散電極を、触媒層とガス拡散板とを導電性かつ撥水性の多孔質層を挟んで配置して構成し、多孔質層の厚さを10μm以下にしたものが示されている。
【0008】
【特許文献1】特開2001−102059号公報(第5〜11頁、図11)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1では、水の排出はしやすくなるものの、上述の多孔質の中間層が、機械的強度が弱いため、圧縮加重によって次第に空隙が圧縮され、細孔が増加し、水が滞留しやすくなり、ガス拡散が阻害され、長期的電池特性を維持することが難しいという問題に対処するものではなかった。
【0010】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたものであり、耐圧縮性のある多孔質中間層を備えた固体高分子型燃料電池及びその製造方法を得ることを目的にしている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明に係わる固体高分子型燃料電池においては、プロトン伝導性の高分子電解質膜、この高分子電解質膜の一方側に配置されたアノード触媒層、高分子電解質膜の他方側に配置されたカソード触媒層、この各触媒層の外側に配置された多孔質性を有する中間層、これらの各中間層の外側に配置され、反応ガスを中間層を介して触媒層に拡散するガス拡散層、及び各ガス拡散層の外側に配置され、反応ガスが通過するガス流路を有するセパレータ板を備え、中間層は、ガス拡散層の厚み方向に押し込まれているものである。
【発明の効果】
【0012】
この発明は、以上説明したように、プロトン伝導性の高分子電解質膜、この高分子電解質膜の一方側に配置されたアノード触媒層、高分子電解質膜の他方側に配置されたカソード触媒層、この各触媒層の外側に配置された多孔質性を有する中間層、これらの各中間層の外側に配置され、反応ガスを中間層を介して触媒層に拡散するガス拡散層、及び各ガス拡散層の外側に配置され、反応ガスが通過するガス流路を有するセパレータ板を備え、中間層は、ガス拡散層の厚み方向に押し込まれているので、ガス拡散層を多孔質性の中間層の補強材として利用できるため、圧縮性に優れ、空隙の圧縮を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
実施の形態1.
以下、この発明の実施の形態1について説明する。
図1は、この発明の実施の形態1による固体高分子型燃料電池の一例を示す断面図である。
図1において、固体高分子型燃料電池1は、プロトン伝導性の高分子電解質膜2と、高分子電解質膜2の両側に配置されたアノード触媒層5及びカソード触媒層6と、各々の触媒層の外側にガス供給流路からガスを触媒層に拡散させるためのガス拡散層7を有している。この触媒層とガス拡散層7の間には中間層4が、ガス拡散層7の厚み方向に押し込まれるように形成されている。ガス拡散層7の外側にはガスを供給するガス流路を刻んだセパレータ板3が設けられている。またガス拡散層7の端部はガスシール部8によりガスシールされている。
【0014】
図2は、この発明の実施の形態1による固体高分子型燃料電池の中間層のスクリーン印刷による作成手順を示す図である。
図2(a)は、スクレパー14によりペースト15をスクリーン版11にコートする図、図2(b)は、スキージ12によりペースト15をカーボンシート13に転写する図である。
図2(a)において、ステージ10上にガス拡散層7を構成するカーボンシート13が載せられ、スクリーン版11に載せられたペースト15を、スクレパー14により広げるようにしながらスクリーン版11に塗布する。次いで、図2(b)において、スキージ12によりスクリーン版11を押し付けながら動かすことによりペースト15をカーボンシート13に転写する。
【0015】
図3は、この発明の実施の形態1による固体高分子型燃料電池の中間層のスクリーン印刷による作成方法を説明する図である。
図3において、スクリーン印刷のステージ10上にガス拡散層7を載せ、スクリーン版11とスキージ12とのなす角度であるアタック角度θを10度〜40度の範囲で、スクリーン印刷を行う。このアタック角度θは、垂直に保持されたスキージ12の先端を斜めに加工してもよいし、スキージ12自体を倒すことにより角度を設けるようにしてもよい。
【0016】
図4は、この発明の実施の形態1による固体高分子型燃料電池と従来の固体高分子型燃料電池との出力電圧の比較を示す図である。
【0017】
次に、動作について説明する。
固体高分子型燃料電池の動作は、背景技術で説明したとおりである。
すなわち、固体高分子型燃料電池1は、アノード触媒層5に燃料ガス(例えば水素ガスまたは改質ガス)を、カソード触媒層6に酸化剤(例えば空気または酸素ガス)をそれぞれ供給し、両極を外部回路で接続することにより、燃料電池として作動することが可能となる。
背景技術で述べたように、セパレータ板3に形成したガス流路からガス拡散層7を通過してアノード触媒層5に例えば水素ガスが供給され、アノード触媒層5に達した水素ガスは、触媒による酸化反応によりプロトンと電子が発生する。このプロトンは高分子電解質膜2を通過してカソード触媒層6に移動する。
一方、電子は外部回路を通ってカソード触媒層6側に移動する。カソード触媒層6では、高分子電解質膜2中を通過してきたプロトン、外部回路から移動してきた電子、及びセパレータ板3に形成したガス流路からガス拡散層7を通過して供給される例えば酸素ガスが、触媒表面にて反応し、水に変換される。
このカソード触媒層6で生成した水がカソード触媒層6の表面に滞留したり、ガス拡散層7中の空孔部が水で閉塞すると、ガスとカソード触媒層6との接触が妨げられるので、水は連続的に排出する必要がある。
【0018】
次に、固体高分子型燃料電池を構成する各部材についてさらに詳しく説明する。
高分子電解質膜2は、燃料電池内の環境において化学的に安定で、かつプロトン伝導性とガスバリア性が高く、かつ電子伝導性のないものであれば特に限定せず用いることが可能である。一般的にパーフルオロ系主鎖にスルホン酸基がついた高分子電解質膜2を用いることが多いが、これに限定されるものではなく、炭化水素系なども用いることが可能である。
【0019】
アノード触媒層5に含まれる構成材料として、例えば水素やその他燃料電池の燃料として用いられるガス、液体を反応させる触媒能を有する触媒がある。アノード触媒として、例えば白金や白金と貴金属類(ルテニウム、ロジウム、イリジウムなど)との合金、白金と卑金属(バナジウム、クロム、コバルト、ニッケル、鉄など)との合金等をカーボンブラック微粒子の表面に担持させたもの等を使用することができるが、特にこれらに限定されるものではない。その他の構成材料として高分子電解質成分が挙げられ、またポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粒子等の撥水剤や粒子同士を決着させるバインダー、カーボンブラック等の導電性を向上させる導電剤等を含んでもよい。
【0020】
カソード触媒層6に含まれる構成材料として、例えば酸素を反応させる触媒能を有する触媒がある。カソード触媒として例えば白金や白金と貴金属類(ルテニウム、ロジウム、イリジウムなど)との合金、白金と卑金属(バナジウム、クロム、コバルト、ニッケル、鉄など)との合金等をカーボンブラック微粒子の表面に担持させたもの等を使用することができるが、特にこれらに限定されるものではない。その他の構成材料として高分子電解質成分が挙げられ、またポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粒子等の撥水剤や粒子同士を決着させるバインダー、カーボンブラック等の導電性を向上させる導電剤等を含んでもよい。
【0021】
アノード触媒層5及びカソード触媒層6は、高分子電解質膜2上に形成してもよいし、ガス拡散層7上に形成した中間層4表面に形成してもよいし、シート状に成形して高分子電解質膜2と中間層4との間に配置してもよい。
【0022】
ガス流路を表面に刻むセパレータ板3は、電子伝導性を有し、ガス流路及び冷却水流路を形成可能なものであれば特に限定はしないが、ステンレス等の金属でもよく、カーボンからなる板でもよく、カーボンと樹脂の混合物からなる材料でもよい。
【0023】
ガス拡散層7は、電子伝導性を有し、反応ガスをガス流路から触媒層へ拡散可能な材質・構造であれば特に限定しないが、主に炭素含有材料からなる多孔質材であることが多く、具体的にはカーボン不織物の炭素繊維で形成された多孔性材料が挙げられる。また、これらガス拡散層7は、その構成材表面に撥水処理や親水処理などの表面処理を施してあってもよい。
【0024】
本発明における中間層4は、ガス拡散層7と触媒層の接触抵抗を低減させる機能と、ガス拡散層7から触媒層への反応ガス拡散、水の供給、触媒層で生成した水のガス拡散層7への排出機能が必要であり、また機能を維持できることが必要である。
ガス拡散層7と触媒層の接触抵抗の低減機能を達成するためには、中間層4が電子伝導性と平坦性を有する必要がある。よってフィラーの材質としては電子伝導性を有しておれば特に限定はしないが、炭素材料は成形性がよく導電性もあり、化学的安定性にも優れるので好ましく、特にカーボンブラック等の炭素微粒子は前記条件を満たすのでより好ましい。フィラーの平均一次粒子径についても特に限定はしないが、成形性、ガス透過性を考慮すると20〜500nm程度が望ましい。
【0025】
ガス拡散層7から触媒層への反応ガス拡散、水の供給、触媒層で生成した水のガス拡散層7への排出機能を達成するためには、中間層4が多孔性を有する必要がある。よって、中間層4の骨格となる電子伝導性フィラーが形成する空孔より空孔径の大きい消失性フィラーを電子伝導性フィラーに含有させる。例えば所定の粒径を有する熱消失性フィラーを添加し、この熱消失性フィラーが燃料もしくは熱分解する温度で熱処理を行うことにより、熱消失性フィラーの粒径、体積と同等の空孔が形成される。その他フィラーとしては薬液溶出性フィラーなどあり、中間層作製時に消失可能な材料であれば特に限定しない。
中間層4は、フィラーを成形するためのバインダー、撥水性にするための撥水剤、親水性にするための親水剤を含んでもよい。
上記機能を維持するためには、中間層に機械的強度を要する。よって、中間層をガス拡散層の片面から内部の厚み方向に押込み形成し、カーボン不織物の炭素繊維を補強材とする。
【0026】
中間層の形成方法としては、ガス拡散層の上に直接スクリーン印刷機で塗布する。この時、図3に示すように、スクリーン版11とスキージ12のなす角度θ(アタック角度)を10度以上40度以下として、溶媒中に電子伝導性フィラー、熱消失性フィラー、バインダー等を分散したペースト溶液をガス拡散層7に押込み形成する。この時の中間層厚は5μm以上100μm以下がよい。100μmより厚すぎると透気抵抗が大きくなり、ガス供給が低下する。5μmより小さくなると、集電効果が低く、電圧特性が低下する。
【0027】
実施の形態1によれば、ガス拡散層を形成するカーボン不織物の炭素繊維を多孔質中間層の補強材として利用できるため、圧縮性に優れ、空隙の圧縮を抑制できる。
【実施例】
【0028】
以下、本発明を実施例及び比較例により詳細に説明する。
実施例1.
図1に示すように、プロトン伝道性を有する高分子電解質膜2、高分子電解質膜2の両側から挟持するアノード及びカソード電極、高分子電解質膜2を挟持するアノード及びカソード電極に接するセパレータ板3を有し、これら一組が固体高分子型燃料電池セルを構成する。
アノード及びカソード電極は、それぞれ触媒層、ガス拡散層7、中間層4を有している。
【0029】
(ガス拡散層の作製方法)
ガス拡散層は、基材として厚さ300μm、空孔率80パーセントの多孔質カーボンペーパーを用いる。カーボンペーパーをフッ素樹脂ディスパージョン液(PTFE水分散液) に浸漬し、乾燥後に400度(摂氏)で加熱処理することによってフッ素樹脂を炭素繊維上に定着させた(撥水処理)。
【0030】
(中間層の作製方法)
一次粒子の平均粒径が約35nmであるアセチレンブラック(電気化学工業製)とPTFE水分散液、ノニオン系分散剤、増粘剤として2wパーセントヒドロキシエチルセルコール(HEC)水溶液、溶媒として蒸留水を混合分散させたペーストに高分子フィラーとして平均粒径8μmのPMMA球状微粒子(積水化成品工業製)を固形体積分率80パーセントとなるように添加した。
このペースト15を前記撥水処理済みカーボンペーパー(カーボンシート13)に図2に示すスクリーン印刷機で塗布する。
【0031】
図2(a)に示すように、まず、スクレパー14によりペースト15をスクリーン版11に広げながらコートする。次に、図2(b)に示すように、スキージ12をスクリーン版11に押し付けながら動かすことにより、カーボンペーパーにペースト15を転写する。この時、スクリーン版11とスキージ12のなす角度(アタック角度)は20度とした。このアタック角度があるために、ペースト15が横に流れにくくなり、多孔質のカーボンペーパー(ガス拡散層)の孔にペースト15(中間層)を押し込むことができる。スキージ12の押し付けがなくなると、スクリーン版11が元に戻るので、ペースト15にずり応力が発生し、ペースト15が広がりやすくなり、多孔質のカーボンペーパー(ガス拡散層)の孔へのペースト15(中間層)の押し込みを助長することができる。
その後、溶媒を乾燥させ、それを380度(摂氏)で熱処理して高分子フィラー、分散剤、増粘剤を熱分解し、多孔性中間層を作製した。
【0032】
(触媒層の作製方法)
触媒としては、カーボンブラック(バルカンXC−72R(登録商標))上に触媒金属を担持したものを用いた。カソード触媒としては白金を50wパーセント担持したもの、アノード触媒としては白金−ルテニウム系金属を50wパーセント担持したものを用いた。
各々触媒粒子にパーフルオロスルホン酸系高分子電解質溶液(デュポン製ナフィオン(登録商標)溶液)を添加し、攪拌混合して均一な状態のペーストを得た。各々の触媒ペーストを厚さ50μmのPETフィルム上にスクリーン印刷した後に乾燥を行った。
【0033】
(膜−触媒接合体の作製方法)
高分子電解質膜2として厚さ50μmのデュポン製Nafion(登録商標)を用いた。高分子電解質膜2とアノード及びカソード触媒層付きフィルムを、アノード触媒層5及びカソード触媒層6がそれぞれ高分子電解質膜2に接触するように積層し、140度(摂氏)で3minホットプレスした。このプレスによってアノード触媒層5及びカソード触媒層6がPETフィルムから高分子電解質膜2上に転写され、アノード触媒層5及びカソード触媒層6と高分子電解質膜2が一体化した膜−触媒接合体を作製した。
【0034】
(ガスシール部の作製方法)
アノードガス拡散層7及びカソードガス拡散層7の外形寸法が、アノード触媒層5及びカソード触媒層6の外形寸法よりも若干大きくなるように加工する。ポリオレフィン系熱可塑樹脂シートを外形寸法がアノードガス拡散層7及びカソードガス拡散層7の外形寸法よりも大きくなるように加工する。さらにシート中央にアノード触媒層5及びカソード触媒層6の外形寸法と同じ大きさの開口を設ける。アノードガス拡散層7と全周の重なりが均一になるように熱可塑樹脂シートを積層し、全体を120度(摂氏)で2minホットプレスしてガスシール部8を作製した。また、カソードガス拡散層7についても同様にガスシール部8を作製した。
【0035】
(膜電極接合体の作製方法)
ガスシール付アノードガス拡散層、ガスシール付カソードガス拡散層及び膜−触媒接合体を、拡散層に形成した中間層が膜−触媒接合体に接触するようにして積層し、全体を120度(摂氏)で1minホットプレスすることで膜電極接合体を作製した。
【0036】
(性能評価用セルの作製方法)
膜電極接合体をカーボンと樹脂より成るガス流路付セパレータ板3で両側から挟み、その外部から発熱体を内蔵した金属板で面圧を掛けて性能評価用セルとした。
【0037】
(性能評価用セルの運転と特性評価の方法)
性能評価用セルを外部負荷に接続し、アノード電極側には常圧の水素ガスを、カソード電極側には常圧の空気を供給した。水素ガスの利用効率は70パーセントに、空気側の酸素利用率は40パーセントになるように流量を設定した。ガスは外部加湿器で加湿を行ってからセルに供給した。またセルの温度は80度(摂氏)になるように発熱体によって温度調節した。供給ガスの湿度についてアノード側は75度(摂氏)に、カソード側は露点70度(摂氏)になるように外部加湿器を調節した。このセルを電流密度300mA/cmで運転し、始動から24時間経過時点の出力電圧を測定した。図4で、この発明と従来セルでの初期電圧と1000時間後の電圧低下量の比較を行った。
【0038】
比較例1.
スクリーン版とスキージのなす角度を60度として作製した以外は実施例1と同様にセルを作製し、運転を行った。
実施例1と比較例1との比較は、図4のとおりである。
すなわち、初期電圧の比較では、比較例1が690mV、実施例1が700mVであり、1000時間後の電圧低下量はの比較では、比較例1が15mV、実施例1が2mVであり、いずれも実施例1の出力電圧が高かった。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】この発明の実施の形態1による固体高分子型燃料電池を示す断面図である。
【図2】この発明の実施の形態1による固体高分子型燃料電池の中間層のスクリーン印刷による作成手順を示す図である。
【図3】この発明の実施の形態1による固体高分子型燃料電池の中間層のスクリーン印刷による作成方法を説明する図である。
【図4】この発明の実施の形態1による固体高分子型燃料電池と従来の固体高分子型燃料電池との出力電圧の比較を示す図である。
【符号の説明】
【0040】
1 固体高分子型燃料電池
2 高分子電解質膜
3 セパレータ板
4 中間層
5 アノード触媒層
6 カソード触媒層
7 ガス拡散層
8 ガスシール部
10 ステージ
11 スクリーン版
12 スキージ
13 カーボンシート
14 スクレパー
15 ペースト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロトン伝導性の高分子電解質膜、この高分子電解質膜の一方側に配置されたアノード触媒層、上記高分子電解質膜の他方側に配置されたカソード触媒層、この各触媒層の外側に配置された多孔質性を有する中間層、これらの各中間層の外側に配置され、反応ガスを上記中間層を介して上記触媒層に拡散するガス拡散層、及び上記各ガス拡散層の外側に配置され、反応ガスが通過するガス流路を有するセパレータ板を備え、上記中間層は、上記ガス拡散層の厚み方向に押し込まれていることを特徴とする固体高分子型燃料電池。
【請求項2】
上記中間層の平均形成厚が5μm〜100μmの範囲であることを特徴とする請求項1記載の固体高分子型燃料電池。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載の固体高分子型燃料電池の上記ガス拡散層表面にスクリーン印刷機により上記中間層を形成する工程を含み、上記工程は、電子伝導性フィラー、バインダー、熱消失性フィラー、添加剤及び溶剤を含む液を、スキージとスクリーン版のなす角度を10度〜40度の範囲とした上記スクリーン印刷機で上記ガス拡散層に押込み、上記中間層を形成することを特徴とする固体高分子型燃料電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−41349(P2008−41349A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−211896(P2006−211896)
【出願日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「固体高分子形燃料電池実用化戦略的技術開発/要素技術開発/高温熱利用型MEAの研究開発」委託契約、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】