説明

固体高分子型燃料電池

【課題】外部から空気をセパレータに効率的に供給可能であり、かつ、性能を向上可能な固体高分子型燃料電池を提供する。
【解決手段】複数の単位セルは、略直方体からなる燃料電池スタック300の端板310から端板350へ向かう方向に積層されており、各単位セルにおいて、空気(または酸素)を流すセパレータは、燃料電池スタック300の側面300Aから側面300Bへ向かう方向にジグザグ状に形成された複数の溝を有する。シール部材410は、空気(または酸素)が通過するための通過領域410Aを中央部に有し、燃料電池スタック300の側面300Bに燃料電池スタック300に接して配置される。押込器400は、燃料電池スタック300の設置面500側に位置する側面300A側に配置され、各単位セルのセパレータに形成された複数の溝に空気(または酸素)を押し込む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、固体高分子型燃料電池に関し、特に、スタック型の固体高分子型燃料電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、複数の単位燃料電池を積層した燃料電池スタックが知られている(特許文献1)。この燃料電池スタックは、複数の単位燃料電池と、2枚のエンドプレートとを備える。
【0003】
複数の単位燃料電池は、積層される。そして、2枚のエンドプレートは、積層された複数の単位燃料電池を積層方向から挟持する。
【0004】
各単位燃料電池は、固体高分子電解質膜と、アノード側拡散電極と、カソード側拡散電極と、第1および第2のセパレータとからなる。アノード側拡散電極は、固体高分子電解質膜の一方側に配置され、カソード側拡散電極は、固体高分子電解質膜の他方側に配置される。そして、第1および第2のセパレータは、アノード側拡散電極/固体高分子電解質膜/カソード側拡散電極を挟持する。
【0005】
この場合、第1および第2のセパレータ間には、燃料電池セル(=アノード側拡散電極/固体高分子電解質膜/カソード側拡散電極)を介して燃料電池セルの電極反応面からアノード側拡散電極またはカソード側拡散電極の外周部への反応ガスの漏れを防止するために接着性の液状シールが設けられ、隣接する第1および第2のセパレータ間には、非接着性の液状シールが設けられる。
【0006】
そして、燃料電池スタックにおいては、燃料ガスは、複数の単位燃料電池を積層することによって第1および第2のセパレータの両端部に形成される通路を通ってカソード側拡散電極およびアノード側拡散電極に供給される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−332277号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1に記載の燃料電池スタックにおいては、積層された複数の単位燃料電池と2枚のエンドプレートとの間がシールされていないため、外部から空気をセパレータに直接流そうとした場合、複数の単位燃料電池とエンドプレートとの間の隙間に空気が流れ、セパレータに空気を効率的に流すことが困難であるという問題がある。
【0009】
また、空冷用の空気を反応空気ガスとしても利用する形態の燃料電池スタックは、反応空気の加湿が困難であるため、固体高分子電解質膜が乾燥し、燃料電池スタックの性能が低下するという問題がある。
【0010】
そこで、この発明は、かかる問題を解決するためになされたものであり、その目的は、外部から空気をセパレータに効率的に供給可能であり、かつ、性能を向上可能な固体高分子型燃料電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明によれば、固体高分子型燃料電池は、略直方体の形状を有するスタック型の固体高分子型燃料電池であって、複数の単位セルと、第1および第2の端板と、押込器と、シール部材とを備える。複数の単位セルは、直方体の第1の面から第1の面に対向する第2の面へ向かう方向へ積層され、かつ、直列に接続される。第1および第2の端板は、第1の面から第2の面へ向かう方向において、複数の単位セルを両側から挟持する。押込器は、当該固体高分子型燃料電池が設置された設置面側に位置する直方体の第3の面から前記第3の面側に配置され、酸化剤ガスを複数の単位セルに押し込む。シール部材は、複数の単位セルに接して第3の面側に少なくとも配置されるとともに、酸化剤ガスが通過するための通過領域を中央部に有し、絶縁材料からなる。複数の単位セルの各々は、固体高分子電解質膜と、第1および第2のセパレータとを含む。第1のセパレータは、固体高分子電解質膜の一方側に配置され、固体高分子電解質膜に酸化剤ガスを供給する。第2のセパレータは、固体高分子電解質膜の他方側に配置され、固体高分子電解質膜に還元剤ガスを供給する。そして、第1のセパレータは、固体高分子電解質膜に酸化剤ガスを供給するためのガス流路部と、ガス流路部と一体に成形され、固体高分子電解質膜に供給される還元剤ガスが通過するガス通過部とを含む。ガス流路部は、直線状に形成された溝の長さよりも長い長さを有する複数の溝を含む。隣接する第1および第2の単位セルは、第1の単位セルに含まれる第2のセパレータと第2の単位セルに含まれる第1のセパレータとによって直列に接続されている。
【0012】
好ましくは、シール部材は、第1および第2のシール部材を含む。第1のシール部材は、複数の単位セルに接して第3の面側に配置されるとともに、通過領域を中央部に有し、絶縁材料からなる。第2のシール部材は、複数の単位セルに接して第3の面に対向する第4の面側に配置され、通過領域を中央部に有し、絶縁部材からなる。
【0013】
好ましくは、固体高分子型燃料電池は、他のシール部材をさらに備える。他のシール部材は、還元剤ガスが第2のセパレータを流れる方向において複数の単位セルに接して複数の単位セルの少なくとも一方側に配置されるとともに、絶縁材料からなる。そして、還元剤ガスは、酸化剤ガスが流れる方向と略直交する方向に流れる。
【0014】
好ましくは、他のシール部材は、第3および第4のシール部材を含む。第3のシール部材は、複数の単位セルに接して複数の単位セルの少なくとも一方側に配置されるとともに、絶縁材料からなる。第4のシール部材は、複数の単位セルに接して複数の単位セルの少なくとも他方側に配置されるとともに、絶縁材料からなる。
【0015】
好ましくは、シール部材は、第1および第2のシール部材を含む。第1のシール部材は、複数の単位セルに接して第3の面側に配置されるとともに、通過領域を中央部に有し、絶縁材料からなる。第2のシール部材は、複数の単位セルに接して第3の面に対向する第4の面側に配置され、通過領域を中央部に有し、絶縁部材からなる。他のシール部材は、第3および第4のシール部材を含む。第3のシール部材は、複数の単位セルに接して複数の単位セルの少なくとも一方側に配置されるとともに、絶縁材料からなる。第4のシール部材は、複数の単位セルに接して複数の単位セルの少なくとも他方側に配置されるとともに、絶縁材料からなる。
【0016】
好ましくは、第1のセパレータの複数の溝の各々は、酸化剤ガスが流れる方向に対してジグザグ状の形状を有する。
【0017】
好ましくは、ガス流路部およびガス通過部は、金属板からなり、第1のセパレータの複数の溝は、ガス流路部を構成する金属板の表裏面に形成されている。
【0018】
好ましくは、金属板は、ステンレス鋼からなる。
【発明の効果】
【0019】
この発明による固体高分子型燃料電池は、当該固体高分子型燃料電池が設置された設置面側から酸化剤ガスを複数の単位セルに押し込む押込器と、複数の単位セルに接して設置面側に少なくとも配置され、複数の単位セルの周囲をシールするシール部材とを備えるので、外部の酸化剤ガスは、第1のセパレータの複数の溝に専ら押し込まれる。そして、押し込まれた酸化剤ガスは、固体高分子電解質膜に供給され易くなる。
【0020】
したがって、この発明によれば、外部から空気をセパレータに効率的に供給でき、固体高分子型燃料電池の性能を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】この発明の実施の形態による固体高分子型燃料電池に用いるセパレータの平面図である。
【図2】図1に示すセパレータの裏面の平面図である。
【図3】図1に示す溝部分の拡大図である。
【図4】図1に示すセパレータの斜視図である。
【図5】この発明の実施の形態による固体高分子型燃料電池に用いる他のセパレータの平面図である。
【図6】図5に示すセパレータの裏面の平面図である。
【図7】図5に示す凸部および凹部の拡大図である。
【図8】図1から図7に示すセパレータを備えた固体高分子型燃料電池の断面図である。
【図9】図8に示す固体高分子型燃料電池を構成する各部品の斜視図である。
【図10】図9に示す部品を用いて組み立てたときの固体高分子型燃料電池の斜視図である。
【図11】この発明の実施の形態による固体高分子型燃料電池の斜視図である。
【図12】図11に示す線XII−XII間における燃料電池スタックの断面図である。
【図13】図11に示すA方向から見た固体高分子型燃料電池の平面図である。
【図14】図11に示すA方向から見た固体高分子型燃料電池の他の平面図である。
【図15】図11に示すC方向から見た固体高分子型燃料電池の平面図である。
【図16】図11に示すB方向から見た固体高分子型燃料電池の斜視図である。
【図17】燃料電池スタック内で生成された水滴に作用する力の概念図である。
【図18】燃料電池スタック内における水滴の動向を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰返さない。
【0023】
図1は、この発明の実施の形態による固体高分子型燃料電池に用いるセパレータの平面図である。図1を参照して、この発明の実施の形態による固体高分子型燃料電池に用いるセパレータ10は、ステンレス鋼等の金属板からなり、ガス通過部11,12と、ガス流路部13と、孔14〜17とを備える。ガス通過部11,12、ガス流路部13、および孔14〜17は、金属板にプレス成形を施すことによって一体的に成形される。
【0024】
ガス通過部11は、孔111〜114からなる。孔111〜114は、セパレータ10を貫通するようにセパレータ10の一方端側に配置される。孔111〜114の各々は、ミリオーダーの直径を有する。また、ガス通過部12は、孔121〜124からなる。孔121〜124は、セパレータ10を貫通するようにセパレータ10の他方端側に孔111〜114に対向して配置される。孔121〜124の各々は、孔111〜114の直径と同じ直径を有する。
【0025】
ガス流路部13は、複数の溝131〜143を有する。複数の溝131〜141の各々は、セパレータ10の基準面18からミリオーダーの深さおよびミリオーダーの幅を有し、ガスが流れる方向DR1においてジグザグ状に形成される。そして、複数の溝131〜141は、ミリオーダーの間隔で配置される。
【0026】
溝142は、方向DR1において、セパレータ10の一方端側に配置され、溝143は、方向DR1においてセパレータ10の他方端側に配置される。溝142,143の各々は、複数の溝131〜141に略直交するように直線状に形成される。そして、溝142,143の各々は、セパレータ10の基準面18から2mmよりも小さい深さ、ミリオーダーの幅および10cm程度の長さを有する。
【0027】
孔14〜17は、セパレータ10を貫通するようにセパレータ10の4隅に配置される。そして、孔14〜17の各々は、ミリオーダーの直径を有する。
【0028】
孔14,111〜114,15は、セパレータ10の一方端側において、ミリオーダーの間隔で直線状に配置される。また、孔16,121〜124,17は、セパレータ10の他方端側において、孔14,111〜114,15の間隔と同じ間隔で直線状に配置される。
【0029】
ガス通過部11の孔111〜114およびガス通過部12の孔121〜124は、水素ガスを紙面に垂直な方向に通過させる。溝131〜141は、空気(または酸素)を方向DR1へ流す。溝142,143は、セパレータ10と後述する固体高分子電解質膜との密着性を向上させるための板を配置するための溝である。孔14〜17は、固体高分子型燃料電池を組上げるときのスタックの位置決め用棒が通る孔である。
【0030】
図2は、図1に示すセパレータ10の裏面の平面図である。図2を参照して、凸部131A〜141Aは、それぞれ、図1に示す溝131〜141に対応する。したがって、凸131A〜141Aは、基準面19から2mmよりも小さい高さと、ミリオーダーの幅を有する。そして、凸部131A〜141Aは、ミリオーダーの間隔で配置される。
【0031】
図3は、図1に示す溝142部分の拡大図である。図3を参照して、溝142は、複数の溝131〜141に略直交する方向に直線状に形成されている。平板30は、2mmよりも小さい厚み、ミリオーダーの幅および10cmよりも長い長さを有する(図3の(a)参照)。
【0032】
そして、平板30は、溝142に挿入される。平板30は、上述したように、溝142と同じ寸法を有するため、平板30の上面30Aは、セパレータ10の基準面18に一致する(図3の(b)参照)。
【0033】
なお、平板30が溝142に挿入されても、平板30の厚みは、溝131〜141の深さよりも薄いため、空気(または酸素)は、溝131〜141を流れることができる。
【0034】
また、溝143にも、平板30と同じ平板が挿入される。
【0035】
図4は、図1に示すセパレータ10の斜視図である。図4を参照して、セパレータ10は、上述した溝131〜141を前面10Aに有し、溝151〜160を裏面10Bに有する。
【0036】
溝151〜160は、それぞれ、溝131,132間、溝132,133間、溝133,134間、溝134,135間、溝135,136間、溝136,137間、溝137,138間、溝138,139間、溝139,140間、および溝140,141間に形成される。
【0037】
そして、溝151〜160は、溝131〜141と同じ寸法を有し、溝131〜141と同じように方向DR1においてジグザグ状に形成される。
【0038】
その結果、空気(または酸素)は、セパレータ10の溝131〜141,151〜160を方向DR1へ流れる。すなわち、空気(または酸素)は、セパレータ10の表裏面を流れる。
【0039】
図5は、この発明の実施の形態による固体高分子型燃料電池に用いる他のセパレータの平面図である。図5を参照して、セパレータ20は、ステンレス鋼等の金属板からなり、ガス供給部21と、ガス排出部22と、凸部23,24と、ガス流路部25と、凹部26〜29と、孔31〜34とを備える。
【0040】
セパレータ20は、セパレータ20の基準面35から1mmよりも小さい深さだけ窪んだ凹部201を有する。そして、ガス供給部21、ガス排出部22、凸部23,24およびガス流路部25は、凹部201に形成される。
【0041】
ガス供給部21は、孔211〜214と、凸部215〜217とを含む。孔211〜214および凸部215〜217は、セパレータ20の長さ方向における一方端側に配置される。そして、孔211〜214は、セパレータ20を貫通し、セパレータ20の幅方向に直線状に配列される。
【0042】
また、孔211〜214の各々は、上述したセパレータ10の孔111〜114,121〜124と同じ直径を有する。そして、孔211〜214は、孔111〜114,121〜124と同じ間隔で配置される。
【0043】
凸部215〜217は、凹部201から1mmよりも小さい高さだけ突出している。したがって、凸部215〜217の上面は、セパレータ20の基準面35に一致する。そして、凸部215〜217は、孔211〜214の直径に略等しい長さを有し、それぞれ、孔211,212間、孔212,213間、および孔213,214間に配置される。
【0044】
ガス排出部22は、孔221〜224と、凸部225〜227とを含む。孔221〜224および凸部225〜227は、セパレータ20の長さ方向における他方端側に配置される。そして、孔221〜224は、セパレータ20を貫通し、セパレータ20の幅方向に直線状に配列される。
【0045】
また、孔221〜224の各々は、上述したセパレータ10の孔111〜114,121〜124と同じ直径を有する。そして、孔221〜224は、孔111〜114,121〜124と同じ間隔で配置される。
【0046】
凸部225〜227は、凹部201から1mmよりも小さい高さだけ突出している。したがって、凸部225〜227の上面も、セパレータ20の基準面35に一致する。そして、凸部225〜227は、孔221〜224の直径に略等しい長さを有し、それぞれ、孔221,222間、孔222,223間、および孔223,224間に配置される。
【0047】
凸部23は、セパレータ20の幅方向にミリオーダーの間隔で直線状に配列された複数の凸部からなる。そして、凸部23は、ガス供給部21とガス流路部25との間に配置され、凹部201から1mmよりも小さい高さだけ突出している。
【0048】
凸部24は、セパレータ20の幅方向にミリオーダーの間隔で直線状に配列された複数の凸部からなる。そして、凸部24は、ガス排出部22とガス流路部25との間に配置され、凹部201から1mmよりも小さい高さだけ突出している。
ミリオーダーガス流路部25は、複数の溝251を有する。複数の溝251は、セパレータ20の基準面35に対して1mmよりも小さい深さを有し、ミリオーダーの幅を有する。そして、複数の溝251は、凸部23と凸部24との間に直線状に形成される。隣接する2つの溝251,251間の凸部252は、凹部201から1mmよりも小さい高さだけ突出しており、セパレータ20の基準面35に一致する。
【0049】
凹部26は、セパレータ20の幅方向において、凸部23の一方端側に配置され、凹部201に接する。凹部27は、セパレータ20の幅方向において、凸部23の他方端側に配置され、凹部201に接する。
【0050】
凹部28は、セパレータ20の幅方向において、凸部24の一方端側に配置され、凹部201に接する。凹部29は、セパレータ20の幅方向において、凸部24の他方端側に配置され、凹部201に接する。
【0051】
そして、凹部26〜29の各々は、セパレータ20の基準面35から1mmよりも小さい深さだけ窪んでおり、ミリオーダーの幅を有する。
【0052】
孔31〜34は、セパレータ20の四隅にセパレータ20を貫通するように形成される。そして、孔31〜34の各々は、ミリオーダーの直径を有する。
【0053】
ガス供給部21は、孔211〜214から水素ガスを受け、その受けた水素ガスをガス流路部25に供給する。ガス流路部25は、ガス供給部21から水素ガスを受け、その受けた水素ガスをガス供給部21からガス排出部22の方向へ流す。ガス排出部22は、ガス流路部25から水素ガスを受け、その受けた水素ガスを孔221〜224から排出する。
【0054】
孔31〜34は、固体高分子型燃料電池を組上げるときのスタックの位置決め用棒が通る孔である。
【0055】
セパレータ20が固体高分子型燃料電池に用いられる場合、孔31,32,33,34は、それぞれ、セパレータ10の孔16,17,14,15に対向する。また、セパレータ20が固体高分子型燃料電池に用いられる場合、孔211〜214は、それぞれ、セパレータ10の孔121〜124に対向し、孔221〜224は、それぞれ、セパレータ10の孔111〜114に対向する。
【0056】
図6は、図5に示すセパレータ20の裏面の平面図である。図6を参照して、セパレータ20は、裏面において、凸部201Rと、複数の凹部252Rとを有する。凸部201Rは、図5に示す凹部201に対応するものであり、基準面36から1mmよりも小さい高さだけ突出している。
【0057】
複数の凹部252Rは、図5に示す複数の凸部252に対応するものであり、複数の凹部252Rの面は、基準面36に一致する。複数の凹部252Rが形成される結果、複数の凸部251Rが形成される。そして、複数の凸部251Rは、図5に示す複数の溝251に対応する。
【0058】
図7は、図5に示す凸部23および凹部26,27の拡大図である。図7を参照して、凹部26の一方端26Aと、凹部27の一方端27Aとの距離は、数cmである。平板40は、1mmよりも小さい厚み、ミリオーダーの幅、および数cmの長さを有する。そして、平板40は、両端が凹部26,27に嵌合するように凸部23上に配置される(図7の(a)参照)。
【0059】
そうすると、凹部201は、セパレータ10の基準面35から1mmよりも小さい深さだけ窪んでおり、凸部23は、凹部201から1mmよりも小さい高さを有し、平板40は、1mmよりも小さい厚みを有するので、平板40の上面40Aは、セパレータ10の基準面35に一致する。
【0060】
なお、凹部28,29にも、平板40と同じ平板が挿入される。
【0061】
図8は、図1から図7に示すセパレータ10,20を備えた固体高分子型燃料電池の断面図である。図8を参照して、固体高分子型燃料電池100は、固体高分子電解質膜110と、ガス拡散電極120,130と、セパレータ140,150と、ガスケット160,170とを備える。
【0062】
ガス拡散電極120は、その一主面に触媒180を担持し、触媒180が固体高分子電解質膜110の一方面に接するように固体高分子電解質膜110の一方側に配置される。また、ガス拡散電極130は、その一主面に触媒190を担持し、触媒190が固体高分子電解質膜110の他方面に接するように固体高分子電解質膜110の他方側に配置される。
【0063】
セパレータ140は、図5および図6に示すセパレータ20からなり、ガス拡散電極120の一主面(触媒180が担持された一主面と反対側の一主面)に接するように配置される。この場合、図5に示すセパレータ20の面がガス拡散電極120側に向けられる。セパレータ150は、図1および図2に示すセパレータ10からなり、ガス拡散電極130の一主面(触媒190が担持された一主面と反対側の一主面)に接するように配置される。この場合、図1に示すセパレータ10の面がガス拡散電極130側に向けられる。
【0064】
ガスケット160は、固体高分子電解質膜110の外周部とセパレータ140の外周部との間に設けられ、気密性を保持してセパレータ140の外周部を固体高分子電解質膜110の外周部に連結する。ガスケット170は、固体高分子電解質膜110の外周部とセパレータ150の外周部との間に設けられ、気密性を保持してセパレータ150の外周部を固体高分子電解質膜110の外周部に連結する。
【0065】
固体高分子電解質膜110は、たとえば、フッ素系のイオン交換膜からなる。ガス拡散電極120,130の各々は、ガス透過性および導電性を有する多孔体からなる。触媒180,190の各々は、白金(Pt)または白金合金(Pt−Ru)からなる。ガスケット160,170の各々は、フッ素樹脂、バイトンゴム、シリコンゴムおよびエチレンプロピレンゴム等のいずれかからなる。そして、フッ素樹脂は、より具体的には、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、およびテトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)等である。
【0066】
図9は、図8に示す固体高分子型燃料電池100を構成する各部品の斜視図である。固体高分子型燃料電池100を構成するセパレータ150、ガスケット170、固体高分子電解質膜110、ガスケット160、およびセパレータ140を、それぞれ、図9の(b),(c),(d),(e),(f)に示す。
【0067】
また、固体高分子型燃料電池100は、ガスケット210,230をさらに備える。そして、ガスケット210,230をそれぞれ図9の(a),(g)に示す。
【0068】
ガスケット210は、ガスケット2110,2120からなる。ガスケット2110は、孔2111,2112,2113を有する。孔2111,2112,2113は、ガスケット2110を貫通する。また、ガスケット2120は、孔2121,2122,2123を有する。孔2121,2122,2123は、ガスケット2120を貫通する。
【0069】
そして、孔2111,2113,2121,2123は、セパレータ150(10)の孔14〜17およびセパレータ140(20)の孔31〜34と同じ直径を有する。また、孔2112,2122は、セパレータ150(10)の孔111〜114,121〜124およびセパレータ140(20)の孔211〜214,221〜224と同じ直径を有する。
【0070】
ガスケット170は、孔171〜177を有する。孔171〜177は、ガスケット170を貫通する。そして、孔171〜174は、セパレータ150(10)の孔14〜17およびセパレータ140(20)の孔31〜34と同じ直径を有する。また、孔175,176は、セパレータ150(10)の孔14〜17よりも大きい。
【0071】
ガスケット160は、孔161〜167を有する。孔161〜167は、ガスケット160を貫通する。そして、孔161〜164は、セパレータ150(10)の孔14〜17およびセパレータ140(20)の孔31〜34と同じ直径を有する。また、孔165,166は、ガスケット170の孔175,176と同じ大きさを有する。
【0072】
ガスケット230は、孔231〜235を有する。孔231〜235は、ガスケット230を貫通する。そして、孔231〜234は、セパレータ150(10)の孔14〜17およびセパレータ140(20)の孔31〜34と同じ直径を有する。
【0073】
図10は、図9に示す部品を用いて組み立てたときの固体高分子型燃料電池100の斜視図である。図10を参照して、固体高分子型燃料電池100は、ガスケット210、セパレータ150(10)、ガスケット170、固体高分子電解質膜110、ガスケット160、セパレータ140(20)およびガスゲット230を順次積層した構造を有する。
【0074】
そして、孔2111,14,171,161,31,231は、ガスケット210からガスケット230への方向において、直線状に配置される。また、孔2113,15,172,162,32,232も、ガスケット210からガスケット230への方向において、直線状に配置される。さらに、孔2121,16,173,163,33,233も、ガスケット210からガスケット230への方向において、直線状に配置される。さらに、孔2123,17,174,164,34,234も、ガスケット210からガスケット230への方向において、直線状に配置される。さらに、孔2112,111〜114,175,165,211〜214も、ガスケット210からガスケット230への方向において、直線状に配置される。さらに、孔2122,121〜124,176,166,221〜224も、ガスケット210からガスケット230への方向において、直線状に配置される。
【0075】
その結果、セパレータ140(20)のガス供給部21は、孔2112,111〜114,175,165を介して水素ガスを受け、その受けた水素ガスをガス流路部25に供給する。そして、ガス流路部25は、ガスケット160の孔167を介して固体高分子電解質膜110に水素ガスを供給するとともに、余った水素ガスをガス排出部22へ流す。ガス排出部22は、ガス流路部25から受けた水素ガスを孔221〜224を介して排出する。
【0076】
そして、排出された水素ガスは、孔235,166,176,121〜124,2122を介して流れる。
【0077】
一方、空気(または酸素)は、外部からセパレータ150(10)のガス流路部13へ入り、溝131〜141を流れる。溝131〜141は、外部から入って来た空気(または酸素)をガスケット170の孔177を介して固体高分子電解質膜110に供給するとともに、余った空気(または酸素)を外部へ排出する。
【0078】
このように、水素ガスは、セパレータ150(10)のガス通過部11を通ってセパレータ140(20)のガス供給部21へ供給されるとともに、セパレータ140(20)のガス排出部22から排出された後、セパレータ150(10)のガス通過部22を通って固体高分子型燃料電池100の厚み方向に流れるので、セパレータ150(10)のガス通過部11,12は、セパレータ150(10)が固体高分子電解質膜110に供給する空気(または酸素)と異なる水素ガスが流れるガス通過部である。
【0079】
再び、図8を参照して、固体高分子電解質膜110は、触媒180によって分離された電子eと水素イオンHとのうち、水素イオンHのみを触媒190側へ通過させる。ガス拡散電極120は、セパレータ140(20)から供給された水素ガスを触媒180へ拡散させる。触媒180は、ガス拡散電極120に供給された水素ガスを電子eと水素イオンHとに分離する。
【0080】
ガス拡散電極130は、セパレータ150(10)から供給された空気(または酸素)を触媒190へ拡散させる。触媒190は、固体高分子電解質膜110から供給された水素イオンHと、ガス拡散電極130から供給された電子eと空気(または酸素)とを反応させ、水を生成する。
【0081】
セパレータ140(20)は、ガス拡散電極120に接する一主面に凹凸構造からなるガス供給溝140Aを有する。このガス供給溝140Aは、図5に示す溝251からなる。そして、ガス供給溝140Aは、水素ガスの供給口(=ガス供給部21)および排出口(=ガス排出部22)に繋がっている。したがって、セパレータ140(20)は、ガス供給溝140Aを介して水素ガスをガス拡散電極120に供給する。
【0082】
セパレータ150(10)は、ガス拡散電極130に接する一主面に凹凸構造からなるガス供給溝150Aを有する。このガス供給溝150Aは、図1に示す溝131〜141からなる。そして、ガス供給溝150Aは、固体高分子型燃料電池100の外部に繋がっている。したがって、セパレータ150(10)は、ガス供給溝150Aを介して空気(または酸素)をガス拡散電極130に供給する。
【0083】
固体高分子型燃料電池100が発電する動作について説明する。セパレータ140(20)のガス供給溝140Aを介して水素がガス拡散電極120へ供給されると、ガス拡散電極120は、水素ガスを触媒180へ拡散し、触媒180は、水素を水素イオンHと電子eとに分離する。
【0084】
そうすると、固体高分子電解質膜110は、触媒180によって分離された水素イオンHおよび電子eのうち、水素イオンHのみを透過して触媒190へ供給する。一方、電子eは、触媒180からガス拡散電極120を介してセパレータ140(20)へ移動し、セパレータ140(20)から外部の負荷(図示せず)を介してセパレータ150(10)へ流れる。そして、セパレータ150(10)は、電子eをガス拡散電極130へ供給する。
【0085】
また、セパレータ150(10)のガス供給溝150Aを介して空気(または酸素)がガス拡散電極130へ供給される。そして、ガス拡散電極130は、空気(または酸素)を触媒190へ拡散し、電子eを触媒190へ供給する。
【0086】
そうすると、水素イオンH、空気(または酸素)および電子eは、触媒190の助けを借りて反応し、水になる。
【0087】
このようにして、固体高分子型燃料電池100は発電する。そして、固体高分子型燃料電池100のセパレータ140(20),150(20)は、上述したように、金属板のプレス成形によって一体的に形成されるので、固体高分子型燃料電池100を低コストで作製できる。
【0088】
図11は、この発明の実施の形態による固体高分子型燃料電池の斜視図である。図11を参照して、この発明の実施の形態による固体高分子型燃料電池1000は、燃料電池スタック300と、押込器400と、シール部材410,420,430と、位置決め用棒450,460,470,480とを備える。
【0089】
燃料電池スタック300は、略直方体の形状を有し、後述するように、複数の単位セルが直列に接続された構造からなる。
【0090】
押込器400は、固体高分子型燃料電池1000が設置される設置面500側に位置する燃料電池スタック300の側面300A側に配置され、空気(または酸素)を側面300A側から燃料電池スタック300へ押し込む。
【0091】
シール部材410は、燃料電池スタック300の側面300B(=側面300Aに対向する面)に燃料電池スタック300に接して配置される。そして、シール部材410は、空気(または酸素)が通過するための通過領域410Aを中央部に有する。
【0092】
シール部材420は、燃料電池スタック300の側面300Cに燃料電池スタック300に接して配置される。
【0093】
シール部材430は、燃料電池スタック300の側面(=側面300Cに対向する側面)に燃料電池スタック300に接して配置される。
【0094】
そして、シール部材410,420,430は、スポンジゴムまたは樹脂からなる。つまり、シール部材410,420,430は、絶縁材料からなる。
【0095】
位置決め用棒450,460,470,480は、燃料電池スタック300の2枚の端板310,350を四隅で締め付ける。
【0096】
図12は、図11に示す線XII−XII間における燃料電池スタック300の断面図である。図12を参照して、燃料電池スタック300は、端板310,350と、絶縁シート311,313と、集電板312,314と、単位セル321〜32n(nは2以上の整数)と、シール部材331〜33n−1,341〜34n−1とを備える。
【0097】
端板310,350は、ステンレスまたはアルミニウム合金からなる。絶縁シート311は、端板310に接して配置される。集電板312は、絶縁シート311と、単位セル321との間に配置される。絶縁シート313は、端板350に接して配置される。集電板314は、絶縁シート313と、単位セル32nとの間に配置される。
【0098】
n個の単位セル321〜32nは、集電板312と集電板314との間に直列に配列される。そして、単位セル321〜32nの各々は、図8に示す固体高分子型燃料電池100からなる。なお、図12においては、図8に示すガス拡散電極120,130が省略されている。
【0099】
n個の単位セル321〜32nが直列に配列される場合、単位セル321のセパレータ150(10)は、単位セル322のセパレータ140(20)に接し、単位セル322のセパレータ150(10)は、単位セル323のセパレータ140(20)に接し、以下、同様にして単位セル32n−1のセパレータ150(10)は、単位セル32nのセパレータ140(20)に接する。この場合、セパレータ140(20)の裏面とセパレータ150(10)の裏面とが接する。
【0100】
そして、各単位セル321〜32nにおいて、セパレータ150(=セパレータ10)の複数の溝131〜141,151〜160は、図12に示す紙面に沿って上下方向に形成されている。
【0101】
上述したように、セパレータ140(=セパレータ20),150(=セパレータ10)は、金属板からなるので、隣接する2つの単位セル(単位セル321,322;322,323;・・・;32n−1,32n)のセパレータ140(20)とセパレータ150(10)とが接するようにn個の単位セル321〜32nを直列に配列することによって、n個の単位セル321〜32nは、電気的に直列に接続される。
【0102】
シール部材331〜33n−1は、それぞれ、単位セル321のガス供給部21側と単位セル322のガス供給部21側との間、単位セル322のガス供給部21側と単位セル323のガス供給部21側との間、・・・、単位セル32n−1のガス供給部21側と単位セル32nのガス供給部21側との間に配置される。また、シール部材341〜34n−1は、それぞれ、単位セル321のガス排出部22側と単位セル322のガス排出部22側との間、単位セル322のガス排出部22側と単位セル323のガス排出部22側との間、・・・、単位セル32n−1のガス排出部22側と単位セル32nのガス排出部22側との間に配置される。
【0103】
なお、位置決め用棒450,460,470,480が燃料電池スタック300の2枚の端板310,350を四隅で締め付ける場合、位置決め用棒450は、各単位セル321〜32nの孔234,34,164,174,17,2123を貫通し、位置決め用棒460は、各単位セル321〜32nの孔233,33,163,173,16,2121を貫通し、位置決め用棒470は、各単位セル321〜32nの孔232,32,162,172,15,2113を貫通し、位置決め用棒480は、各単位セル321〜32nの孔231,31,161,171,14,2111を貫通する。
【0104】
図13は、図11に示すA方向から見た固体高分子型燃料電池1000の平面図である。また、図14は、図11に示すA方向から見た固体高分子型燃料電池1000の他の平面図である。なお、図14は、図13においてシール部材410を除去したときの平面図である。
【0105】
図14を参照して、位置決め用棒450,460,470,480によって2枚の端板310,350を締め付けると、端板310,350は、単位セル321〜32nよりも面積が大きいので、端板310,350と単位セル321,32nとの間に隙間が形成される。
【0106】
すなわち、端板310,350は、4本の位置決め用棒450,460,470,480によって四隅を締結されるので、端板310,350が若干湾曲し、端板310,350の中央部が絶縁シート311,313から離れ、端板310,350と単位セル321,32nとの間に隙間が形成される。
【0107】
この状態で押込器400によって空気(または酸素)を押し込むと、その形成された隙間からも空気(または酸素)を押し込むことになり、空気(または酸素)をセパレータ150(=セパレータ10)の複数の溝131〜141,151〜160に効率的に供給することが困難である。
【0108】
そこで、図13に示すように、セパレータ150(=セパレータ10)の複数の溝131〜141,151〜160が形成されていない領域、絶縁シート311,313および集電板312,314を覆うようにシール部材410を設けることによって、端板310,350と単位セル321,32nとの間に形成された隙間を塞ぐことができる。その結果、押込器400が空気(または酸素)を押し込むと、外部の空気(または酸素)は、端板310,350と単位セル321,32nとの間の隙間に流入せず、セパレータ150(=セパレータ10)の複数の溝131〜141,151〜160へ流入する。
【0109】
したがって、外部から複数の溝131〜141,151〜160へ空気(または酸素)を効率的に供給できる。
【0110】
なお、図11に示すB方向から見た固体高分子型燃料電池1000の平面図は、図13に示す平面図と同じである。
【0111】
図15は、図11に示すC方向から見た固体高分子型燃料電池1000の平面図である。
【0112】
図15を参照して、シール部材420は、燃料電池スタック300の側面300Cの全面に配置される。シール部材420が配置される側面300C側からはガスを燃料電池スタック300へ供給しないので、シール部材420は、側面300Cを覆うように配置される。
【0113】
なお、図11に示すD方向から見た固体高分子型燃料電池1000の平面図は、図15に示す平面図と同じである。
【0114】
図16は、図11に示すB方向から見た固体高分子型燃料電池1000の斜視図である。図16を参照して、燃料電池スタック300の側面300Aには、シール部材440が燃料電池スタック300に接して配置されている。
【0115】
シール部材440は、シール部材410,420,430と同じ材料からなり、シール部材410と同様に、空気(または酸素)が通過するための通過領域440Aを中央部に有する。
【0116】
押込器400は、シール部材440に対向するように配置され、シール部材440の通過領域440Aを介して、単位セル321〜32nのセパレータ150(=セパレータ10)に空気(または酸素)を押し込む。
【0117】
したがって、押込器400は、端板310,350と単位セル321,32nとの間の隙間を介して空気(または酸素)を押し込まず、通過領域440Aを介して空気(または酸素)を押し込むので、側面300A側の空気(または酸素)は、単位セル321〜32nのセパレータ150(=セパレータ10)を介して側面300B側へ流れる。その結果、外部から複数の溝131〜141,151〜160へ空気(または酸素)をさらに効率的に供給できる。
【0118】
上述したように、固体高分子型燃料電池1000においては、燃料電池スタック300の端板310,350以外の部分にシール部材410,420,430,440が配置されているので、外部の空気(または酸素)を複数の溝131〜141,151〜160に効率的に供給できるとともに、複数の単位セル321〜32nで発生した熱をシール部材410,420,430,440を介して外部へ放出でき、燃料電池スタック300の放熱効果を高くできる。
【0119】
図17は、燃料電池スタック300内で生成された水滴に作用する力の概念図である。図17を参照して、空気(または酸素)が燃料電池スタック300に供給された場合、水滴600が燃料電池スタック300内で生成される。
【0120】
そして、押込器400によって空気(または酸素)を側面300A(=燃料電池スタック300の設置面側)から燃料電池スタック300に押し込んだ場合、燃料電池スタック300内で生成された水滴600は、燃料電池スタック300内における空気(または酸素)の流れによる力F1を側面300Aから側面300Bへ向かう方向に受け、重力F2を側面300Bから側面300Aへ向かう方向に受ける(図17の(a)参照)。
【0121】
一方、空気(または酸素)を側面300Bから燃料電池スタック300に供給した場合、燃料電池スタック300内で生成された水滴600は、燃料電池スタック300内における空気(または酸素)の流れによる力F1、および重力F2を側面300Bから側面300Aへ向かう方向に受ける(図17の(b)参照)。
【0122】
その結果、燃料電池スタック300内で生成された水滴600は、押込器400によって空気(または酸素)を側面300A(=燃料電池スタック300の設置面側)から燃料電池スタック300に押し込んだ場合の方が燃料電池スタック300内に留まり易くなる。
【0123】
図18は、燃料電池スタック300内における水滴の動向を示す概念図である。図18を参照して、押込器400によって空気(または酸素)を側面300A(=燃料電池スタック300の設置面側)から燃料電池スタック300に押し込んだ場合、水滴600は、各単位セル321〜32n内に留まり易くなる。
【0124】
そして、各単位セル321〜32n内に留まった水滴600は、押込器400によって押し込まれた空気(または酸素)の流れにより、固体高分子電解質膜110に供給され易くなる。その結果、固体高分子電解質膜110は、供給された水分によって湿潤される。
【0125】
したがって、押込器400によって空気(または酸素)を側面300A(=燃料電池スタック300の設置面側)から燃料電池スタック300に押し込むことにより、燃料電池スタック300の性能を向上できる。
【0126】
表1に固体高分子型燃料電池1000の特性を示す。
【0127】
【表1】

【0128】
表1は、空気の流れる方向を下(側面300A側)→上(側面300B側)と固定し、空気の供給方法を押込と吸引とに変えた場合の単位セルのセル電圧の実験値を示す。
【0129】
表1に示すように、8.3%および6.2%の両方の空気利用率において、セル電圧は、空気を燃料電池スタック300に押し込んだ方が空気を吸引した場合よりも高くなる。
【0130】
したがって、押込器400によって空気(または酸素)を側面300A(=燃料電池スタック300の設置面側)から燃料電池スタック300に押し込むことにより、燃料電池スタック300の性能が向上することが実験的に示された。
【0131】
上述したように、固体高分子型燃料電池1000においては、燃料電池スタック300の端板310,350以外の部分にシール部材410,420,430,440が配置されており、押込器400によって空気(または酸素)を燃料電池スタック300の設置面側から燃料電池スタック300に供給するので、外部の空気(または酸素)を複数の溝131〜141,151〜160に効率的に供給できるとともに、燃料電池スタック300の性能を向上できる。
【0132】
また、上述したように、セパレータ150(10)の裏面がセパレータ140(20)の裏面と接触し、セパレータ150(10)は、空気(または酸素)を流すための溝131〜141,151〜160が表面および裏面に形成されているため、燃料電池スタック300においては、セパレータ150(10)は、隣接する2つの単位セルを冷却する。したがって、セパレータ140(10)を用いることによって、燃料電池スタック300の冷却効果を高くでき、その結果、固体高分子型燃料電池1000の特性を向上できる。
【0133】
さらに、上述したように、セパレータ10は、金属板をプレス成形することによって作製されるので、ガス通過部11,12、およびガス流路部13を有するセパレータ10を低コストで作製できる。
【0134】
さらに、この発明による固体高分子型燃料電池1000は、セパレータ10を備えるので、固体高分子型燃料電池1000を低コストで作製できる。
【0135】
なお、セパレータ10は、ステンレス鋼に限らず、硫酸に対して耐腐食性を有する金属板から成っていればよい。
【0136】
また、上記においては、セパレータ10は、ジグザグ状に形成された複数の溝131〜141,151〜160を含むと説明したが、この発明においては、これに限らず、セパレータ10は、一般的には、直線状の溝の長さよりも長い長さを有する複数の溝を備えていればよく、複数の溝の形状は、どのような形状であってもよい。直線状の溝の長さよりも長い長さを有する複数の溝を備えていれば、固体高分子型燃料電池1000の冷却効果を向上できるとともに、固体高分子電解質膜110へ空気(または酸素)を効率的に供給して固体高分子型燃料電池1000の特性を向上できるからである。
【0137】
さらに、上記においては、燃料電池スタック300の端板310,350以外の部分にシール部材が設けられると説明したが、この発明においては、これに限らず、固体高分子型燃料電池1000においては、少なくともシール部材440が設けられていればよい。また、固体高分子型燃料電池1000においては、少なくともシール部材440と、シール部材420,430の少なくとも一方が設けられていればよい。
【0138】
さらに、この発明による固体高分子型燃料電池1000は、自動車に代表される各種移動体、家庭用電源およびおよびパーソナルコンピュータの電源等に用いられる。
【0139】
さらに、この発明においては、シール部材440は、「第1のシール部材」を構成し、シール部材410は、「第2のシール部材」を構成する。
【0140】
さらに、この発明においては、シール部材420,430は、「他のシール部材」を構成し、シール部材420は、「第3のシール部材」を構成し、シール部材430は、「第4のシール部材」を構成する。
【0141】
さらに、この発明においては、空気(または酸素)は、「酸化剤ガス」を構成し、水素ガスは、「還元剤ガス」を構成する。
【0142】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0143】
この発明は、外部から空気をセパレータに効率的に供給可能であり、かつ、性能を向上可能な固体高分子型燃料電池に適用される。
【符号の説明】
【0144】
10,20,140,150 セパレータ、11,12 ガス通過部、13,25 ガス流路部、21 ガス供給部、22 ガス排出部、14〜17,31〜34,111〜114,121〜124,161〜167,171〜177,211〜214,221〜224,231〜235,2111〜2113,2121〜2123 孔、18,19,35,36 基準面、23,24,131A〜141A,215〜217,225〜227,252 凸部、26〜29 凹部、30,40 平板、30A,40A 上面、300 燃料電池スタック、110 固体高分子電解質膜、120,130 ガス拡散電極、131〜143,251 溝、160,170,210,230 ガスケット、180,190 触媒、310,350 端板、311,313 絶縁シート、312,314 集電板、321〜32n 単位セル、331〜33n−1,341〜34n−1,410,420,430,440 シール部材、400 押込器、450,460,470,480 位置決め用棒、600 水滴、1000 固体高分子型燃料電池。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
略直方体の形状を有するスタック型の固体高分子型燃料電池であって、
前記直方体の第1の面から前記第1の面に対向する第2の面へ向かう方向へ積層され、かつ、直列に接続された複数の単位セルと、
前記第1の面から前記第2の面へ向かう方向において、前記複数の単位セルを両側から挟持する第1および第2の端板と、
当該固体高分子型燃料電池が設置された設置面側に位置する前記直方体の第3の面側に配置され、前記酸化剤ガスを前記複数の単位セルに押し込む押込器と、
前記複数の単位セルに接して前記第3の面側に少なくとも配置されるとともに、前記酸化剤ガスが通過するための通過領域を中央部に有し、絶縁材料からなるシール部材とを備え、
前記複数の単位セルの各々は、
固体高分子電解質膜と、
前記固体高分子電解質膜の一方側に配置され、前記固体高分子電解質膜に前記酸化剤ガスを供給する第1のセパレータと、
前記固体高分子電解質膜の他方側に配置され、前記固体高分子電解質膜に還元剤ガスを供給する第2のセパレータとを含み、
前記第1のセパレータは、
前記固体高分子電解質膜に前記酸化剤ガスを供給するためのガス流路部と、
前記ガス流路部と一体に成形され、前記固体高分子電解質膜に供給される還元剤ガスが通過するガス通過部とを含み、
前記ガス流路部は、直線状に形成された溝の長さよりも長い長さを有する複数の溝を含み、
隣接する第1および第2の単位セルは、前記第1の単位セルに含まれる前記第2のセパレータと前記第2の単位セルに含まれる前記第1のセパレータとによって直列に接続されている、固体高分子型燃料電池。
【請求項2】
前記シール部材は、
前記複数の単位セルに接して前記第3の面側に配置されるとともに、前記通過領域を中央部に有し、絶縁材料からなる第1のシール部材と、
前記複数の単位セルに接して前記第3の面に対向する第4の面側に配置され、前記通過領域を中央部に有し、絶縁部材からなる第2のシール部材とを含む、請求項1に記載の固体高分子型燃料電池。
【請求項3】
前記還元剤ガスが前記第2のセパレータを流れる方向において前記複数の単位セルに接して前記複数の単位セルの少なくとも一方側に配置されるとともに、絶縁材料からなる他のシール部材をさらに備え、
前記還元剤ガスは、前記酸化剤ガスが流れる方向と略直交する方向に流れる、請求項1に記載の固体高分子型燃料電池。
【請求項4】
前記他のシール部材は、
前記複数の単位セルに接して前記複数の単位セルの少なくとも一方側に配置されるとともに、絶縁材料からなる第3のシール部材と、
前記複数の単位セルに接して前記複数の単位セルの少なくとも他方側に配置されるとともに、絶縁材料からなる第4のシール部材とを含む、請求項3に記載の固体高分子型燃料電池。
【請求項5】
前記シール部材は、
前記複数の単位セルに接して前記第3の面側に配置されるとともに、前記通過領域を中央部に有し、絶縁材料からなる第1のシール部材と、
前記複数の単位セルに接して前記第3の面に対向する第4の面側に配置され、前記通過領域を中央部に有し、絶縁部材からなる第2のシール部材とを含み、
前記他のシール部材は、
前記複数の単位セルに接して前記複数の単位セルの少なくとも一方側に配置されるとともに、絶縁材料からなる第3のシール部材と、
前記複数の単位セルに接して前記複数の単位セルの少なくとも他方側に配置されるとともに、絶縁材料からなる第4のシール部材とを含む、請求項3に記載の固体高分子型燃料電池。
【請求項6】
前記第1のセパレータの複数の溝の各々は、前記酸化剤ガスが流れる方向に対してジグザグ状の形状を有する、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の固体高分子型燃料電池。
【請求項7】
前記ガス流路部および前記ガス通過部は、金属板からなり、
前記第1のセパレータの複数の溝は、前記ガス流路部を構成する前記金属板の表裏面に形成されている、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の固体高分子型燃料電池。
【請求項8】
前記金属板は、ステンレス鋼からなる、請求項7に記載の固体高分子型燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2011−3377(P2011−3377A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−145021(P2009−145021)
【出願日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【出願人】(000142595)株式会社栗本鐵工所 (566)
【Fターム(参考)】