説明

固体高分子形燃料電池用膜電極接合体

【課題】従来のものに比べ、高温、かつ低加湿ないし無加湿の運転条件下にて高い発電特性を得ることができる固体高分子形燃料電池用膜電極接合体を提供する。
【解決手段】固体高分子電解質ポリマーを含む触媒層11を有するアノード13と、固体高分子電解質ポリマーを含む触媒層11を有するカソード14と、アノード13とカソード14との間に配置された高分子電解質膜15とを備え、カソード14の触媒層11が、固体高分子電解質ポリマーとして、イオン交換容量が0.9〜2.5ミリ当量/g乾燥樹脂であり、高真空法にて温度100℃の条件で測定した酸素透過係数が1×10−12〔cm(Normal)・cm/cm・s・Pa〕以上であり、かつ100℃の酸素/窒素分離係数が2.5以上であるポリマー(H)を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子形燃料電池用の膜電極接合体に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池は、たとえば、2つのセパレータの間に膜電極接合体を挟んでセルを形成し、複数のセルをスタックしたものである。膜電極接合体は、触媒層を有するアノードおよびカソードと、アノードとカソードとの間に配置された固体高分子電解質膜とを備えたものであり、触媒層は、白金微粒子をカーボンに担持した触媒と固体高分子電解質ポリマーとを含む。
【0003】
該固体高分子電解質ポリマーとしては、下記ポリマー(1)がよく知られている。
下式(m1)で表される化合物に基づく繰り返し単位とテトラフルオロエチレン(以下、TFEと記す。)に基づく繰り返し単位とを有するポリマーの−SOF基をスルホン酸基(−SOH基)に変換したポリマー(1)。
CF=CF(OCFCFZ)(CFSOF ・・・(m1)。
ただし、Zは、フッ素原子またはトリフルオロメチル基であり、mは、0〜3の整数であり、pは、0または1であり、nは、1〜12であり、m+p>0である。
【0004】
固体高分子形燃料電池には、燃料電池システムの簡素化や低コスト化のために、反応ガス(燃料ガスおよび酸化剤ガス)の相対湿度が低い低加湿ないし無加湿条件(たとえば、固体高分子形燃料電池に供給される酸化剤ガスの相対湿度が固体高分子形燃料電池内の温度において30%以下)における運転が求められている。また、発電電圧や発電効率の向上のために、より高い温度(たとえば、固体高分子形燃料電池内の温度が90〜140℃)における運転が求められている。
【0005】
固体高分子形燃料電池における反応は、下式(R1)、(R2)で表わされる。式(R2)で表わされるカソードでの反応が律速となるといわれており、該反応を促進するためには、反応場におけるプロトン濃度および酸素濃度を高める必要がある。
アノード:H → 2H + 2e ・・・(R1)、
カソード:2H + 1/2O + 2e → HO ・・・(R2)。
【0006】
したがって、高温、かつ低加湿ないし無加湿条件下にて充分な発電特性(出力電圧等)を発揮させるためには、固体高分子電解質ポリマーのイオン交換容量を高くし、かつ高温での酸素透過性を高める必要がある。通常、ポリマーのガス透過性は高温になると高くなるため、固体高分子電解質ポリマーがある程度のガス透過性を有していれば、高温での酸素透過性が充分に得られる。
【0007】
また、カソードには、通常、空気が供給されるため、固体高分子電解質ポリマーの酸素/窒素分離係数が高いと、より高濃度の酸素が反応場に供給され、より高い発電特性が得られる。
【0008】
カソードにおける酸素濃度を高める試みとして、高真空法にて温度25℃の条件で測定した酸素透過係数が5×10−11〔cm(Normal)・cm/cm・s・Pa〕以上であり、かつイオン交換基を有さない高分子化合物を触媒層に含ませることが提案されている(特許文献1)。
【0009】
しかし、該高分子化合物は、酸素透過性は高いものの、イオン交換基を有していないため、触媒層におけるイオン交換基の濃度が低下し、プロトン濃度を高めることができない。特に、低加湿ないし無加湿条件下における運転では発電特性が充分に発揮できないという問題がある。
【0010】
該問題を解決する手段として、等圧ガスクロマトグラフィ法にて温度80℃、相対湿度80%の条件で測定した酸素透過係数が5×10−12〔cm(Normal)・cm/cm・s・Pa〕以上である含フッ素イオン交換樹脂を触媒層に含ませることが提案されている(特許文献2)。
【0011】
しかし、該酸素透過係数の値は、温度80℃、相対湿度80%と比較的高い加湿度での値であり、より高温、かつ低加湿条件下における運転では、充分な発電特性が得られるかどうか不明である。また、酸素/窒素分離性に関する検討はなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2002−252001号公報
【特許文献2】特開2003−036856号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、従来のものに比べ、高温、かつ低加湿ないし無加湿の運転条件下にて高い発電特性を得ることができる固体高分子形燃料電池用膜電極接合体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の固体高分子形燃料電池用膜電極接合体は、固体高分子電解質ポリマーを含む触媒層を有するアノードと、固体高分子電解質ポリマーを含む触媒層を有するカソードと、前記アノードと前記カソードとの間に配置された高分子電解質膜とを備え、前記カソードの触媒層が、前記固体高分子電解質ポリマーとして、イオン交換容量が0.9〜2.5ミリ当量/g乾燥樹脂であり、高真空法にて温度100℃の条件で測定した酸素透過係数が1×10−12〔cm(Normal)・cm/cm・s・Pa〕以上であり、かつ100℃の酸素/窒素分離係数が2.5以上であるポリマー(H)を含むことを特徴とする。
【0015】
前記ポリマー(H)は、環状構造を有し、かつイオン交換基またはその前駆体基を有さない繰り返し単位(A)、およびまたは環状構造を有し、かつイオン交換基またはその前駆体基を有する繰り返し単位(B)を有し、ポリマー(H)中の全繰り返し単位のうち、前記繰り返し単位(A)と前記繰り返し単位(B)との合計の割合が、20モル%以上であることが好ましい。
前記カソードの触媒層は、150〜180℃の温度で、1〜60分熱処理されたものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の固体高分子形燃料電池用膜電極接合体は、従来のものに比べ、高温、かつ低加湿ないし無加湿の運転条件下にて高い発電特性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の膜電極接合体の一例を示す断面図である。
【図2】本発明の膜電極接合体の他の例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本明細書においては、式(U1)で表される繰り返し単位を単位(U1)と記す。他の式で表される繰り返し単位も同様に記す。
また、本明細書においては、式(M1−1)で表される化合物を化合物(M1−1)と記す。他の式で表される化合物も同様に記す。
【0019】
本発明における繰り返し単位とは、モノマーが重合することによって形成された該モノマーに由来する単位を意味する。繰り返し単位は、重合反応によって直接形成された単位であってもよく、ポリマーを処理することによって該単位の一部が別の構造に変換された単位であってもよい。
本発明におけるモノマーとは、重合反応性の炭素−炭素二重結合を有する化合物を意味する。
【0020】
本発明におけるイオン交換基とは、H、一価の金属カチオン、アンモニウムイオン等を有する基を意味する。イオン交換基としては、スルホン酸基、スルホンイミド基、スルホンメチド基等が挙げられる。
本発明における前駆体基とは、加水分解処理、酸型化処理等の公知の処理によりイオン交換基に変換できる基を意味する。前駆体基としては、−SOF基等が挙げられる。
【0021】
<膜電極接合体>
図1は、本発明の固体高分子形燃料電池用膜電極接合体(以下、膜電極接合体と記す。)の一例を示す断面図である。
膜電極接合体10は、固体高分子電解質ポリマーを含む触媒層11およびガス拡散層12を有するアノード13と、固体高分子電解質ポリマーを含む触媒層11およびガス拡散層12を有するカソード14と、アノード13とカソード14との間に、触媒層11に接した状態で配置される固体高分子電解質膜15とを備える。
【0022】
本発明においては、カソード14の触媒層11が、固体高分子電解質ポリマーとして、イオン交換容量が0.9〜2.5ミリ当量/g乾燥樹脂であり、高真空法にて温度100℃の条件で測定した酸素透過係数が1×10−12〔cm(Normal)・cm/cm・s・Pa〕以上であり、かつ100℃の酸素/窒素分離係数が2.5以上であるポリマー(H)を含むことに特徴がある。
【0023】
(ポリマー(H))
ポリマー(H)のイオン交換容量は、0.9〜2.5ミリ当量/g乾燥樹脂である。イオン交換容量が0.9ミリ当量/g乾燥樹脂以上であれば、低加湿ないし無加湿条件下におけるプロトン導電性が低くなりすぎない。イオン交換容量が2.5ミリ当量/g乾燥樹脂以下であれば、ポリマー(H)の膨潤度が高くなりすぎない。そのため、生成水がフラッディングを起こして空気の供給を妨げたり、生成水にポリマー(H)が溶解したりすることがない。イオン交換容量は、低加湿ないし無加湿条件下におけるプロトン導電性を確保でき、かつ過度な膨潤も起こらない点から、1.0〜2.2ミリ当量/g乾燥樹脂が好ましく、高温、かつ無加湿条件下に好適な点から、1.6〜2.0ミリ当量/g乾燥樹脂がより好ましい。
【0024】
ポリマー(H)の酸素透過係数は、1×10−12〔cm(Normal)・cm/cm・s・Pa〕以上である。酸素透過係数が1×10−12〔cm(Normal)・cm/cm・s・Pa〕以上であれば、反応場における酸素濃度が高くなり、反応が進行しやすくなる。酸素透過係数は、3×10−12〔cm(Normal)・cm/cm・s・Pa〕以上が好ましく、5×10−12〔cm(Normal)・cm/cm・s・Pa〕以上がより好ましい。なお、酸素透過係数の上限は特に限定されないが、プロトン導電性を確保しつつ、5×10−11〔cm(Normal)・cm/cm・s・Pa〕以上の酸素透過係数を有する固体高分子電解質ポリマーを合成することは困難である点から、通常は5×10−11〔cm(Normal)・cm/cm・s・Pa〕未満である。
【0025】
本発明における酸素透過係数は、固体高分子電解質ポリマーから作製したキャスト膜をガス透過測定装置にセットし、高真空法に基づいて温度100℃の条件で測定したキャスト膜の酸素透過係数である。
【0026】
ポリマー(H)の100℃の酸素/窒素分離係数は、2.5以上であり、2.7以上が好ましく、3.0以上がより好ましい。100℃の酸素/窒素分離係数が2.5以上であれば、反応場における酸素濃度が充分に高まり、発電特性が向上する。
【0027】
本発明における100℃の酸素/窒素分離係数は、固体高分子電解質ポリマーから作製したキャスト膜をガス透過測定装置にセットし、高真空法に基づいて温度100℃の条件で測定したキャスト膜の酸素透過係数と窒素透過係数との比である。
【0028】
ポリマー(H)の質量平均分子量は、1×10〜1×10が好ましく、5×10〜5×10がより好ましく、1×10〜3×10がさらに好ましい。ポリマー(H)の質量平均分子量が1×10以上であれば、膨潤度等の物性が経時的に変化しにくく、耐久性が充分となる。ポリマー(H)の質量平均分子量が1×10以下であれば、溶液化および成形が容易となる。
【0029】
固体高分子電解質ポリマーの質量平均分子量は、TQ値を測定することにより評価できる。TQ値(単位:℃)は、ポリマーの分子量の指標であり、長さ1mm、内径1mmのノズルを用い、2.94MPaの押出し圧力の条件でポリマーの溶融押出しを行った際の押出し量が100mm/秒となる温度である。たとえば、TQ値が200〜300℃であるポリマーは、ポリマーを構成する繰り返し単位の組成で異なるが、質量平均分子量が1×10〜1×10に相当する。
【0030】
ポリマー(H)としては、環状構造を有し、かつイオン交換基またはその前駆体基を有さない繰り返し単位(A)、およびまたは環状構造を有し、かつイオン交換基またはその前駆体基を有する繰り返し単位(B)を有するポリマー(H1)が好ましい。主鎖に環状構造を有する繰り返し単位を有するポリマー(H1)は、高温において高い酸素透過性、および高い酸素/窒素分離特性を発現する。
【0031】
ポリマー(H1)は、必要に応じて環状構造を有さず、かつイオン交換基またはその前駆体基を有する繰り返し単位(C)、およびまたは他の繰り返し単位(D)を有していてもよい。
【0032】
ポリマー(H1)中の全繰り返し単位のうち、繰り返し単位(A)と繰り返し単位(B)との合計(以下、これらをまとめて環状構造を有する繰り返し単位とも記す。)の割合は、20モル%以上である。環状構造の種類によっても異なるが、環状構造を有する繰り返し単位の割合は、高温での酸素透過係数や酸素/窒素分離係数が高く点から、40モル%以上が好ましく、60モル%以上がより好ましい。
【0033】
繰り返し単位(A):
繰り返し単位(A)としては、単位(U1)〜(U4)が好ましい。
【0034】
【化1】

【0035】
ただし、cは1〜4の整数であり、R、Rはそれぞれ独立にフッ素原子またはトリフルオロメチル基であり、Rは炭素数1〜8のペルフルオロアルキル基またはペルフルオロアルコキシ基である。
単位(U1)〜(U4)は、4〜7員環が好ましく、環の安定性の点から、5員環または6員環がより好ましい。
【0036】
繰り返し単位(A)を構成し得るモノマー(a)としては、環状構造を有し、かつイオン交換基またはその前駆体基を有さないモノマー(a1)、またはイオン交換基またはその前駆体基を有さず、重合と同時に環状構造を形成し得る環化重合性モノマー(以下、モノマー(a2)と記す。)が挙げられる。
【0037】
モノマー(a1)としては、ペルフルオロ(2,2−ジメチル−1,3−ジオキソール)(以下、PDDと記す。)、ペルフルオロ(1,3−ジオキソール)、ペルフルオロ(2−メチレン−4−メチル−1,3−ジオキソラン)(以下、MMDと記す。)、2,2,4−トリフルオロ−5−トリフルオロメトキシ−1,3−ジオキソール等が挙げられる。
【0038】
モノマー(a2)としては、ペルフルオロ(3−ブテニルビニルエーテル)(以下、BVEと記す。)、ペルフルオロ[(1−メチル−3−ブテニル)ビニルエーテル]、ペルフルオロ(アリルビニルエーテル)、1,1’−[(ジフルオロメチレン)ビス(オキシ)]ビス[1,2,2−トリフルオロエチレン]等が挙げられる。
【0039】
モノマー(a1)またはモノマー(a2)に基づく繰り返し単位の具体例としては、PDDに基づく繰り返し単位(U1−1)、BVEに基づく繰り返し単位(U3−1)、MMDに基づく繰り返し単位(U4−1)等が挙げられる。
【0040】
【化2】

【0041】
繰り返し単位(B):
繰り返し単位(B)としては、単位(U5)が好ましい。
【0042】
【化3】

【0043】
ただし、R11は、エーテル結合性酸素原子を有してもよい2価のペルフルオロ有機基であり、R12、R13、R15、R16は、それぞれ独立にエーテル結合性酸素原子を有してもよい1価のペルフルオロ有機基またはフッ素原子であり、R14は、エーテル結合性酸素原子を有してもよい1価のペルフルオロ有機基、フッ素原子、または−R11(SOX(SO基であり、Rは、エーテル結合性酸素原子を有していてもよいペルフルオロアルキル基であり、Xは、酸素原子、窒素原子または炭素原子であり、dは、Xが酸素原子の場合0であり、Xが窒素原子の場合1であり、Xが炭素原子の場合2であり、Mは、H、一価の金属カチオン、または1以上の水素原子が炭化水素基と置換されていてもよいアンモニウムイオンである。
【0044】
単位(U5)としては、単位(U5)を構成し得るモノマーの合成が容易である点および重合反応性が高い点から、単位(U5−1)が特に好ましい。
【0045】
【化4】

【0046】
繰り返し単位(C):
繰り返し単位(C)としては、−SOF基を有するペルフルオロビニルエーテルに基づく繰り返し単位の−SOF基を酸性基に変換した繰り返し単位が好ましい。具体的には、単位(U6)または単位(U7)が好ましい。
【0047】
【化5】

【0048】
ただし、Qは、エーテル結合性酸素原子を有していてもよいペルフルオロアルキレン基であり、Qは、単結合、またはエーテル結合性酸素原子を有していてもよいペルフルオロアルキレン基であり、Rf1は、エーテル結合性酸素原子を有していてもよいペルフルオロアルキル基であり、Xは、酸素原子、窒素原子または炭素原子であり、aは、Xが酸素原子の場合0であり、Xが窒素原子の場合1であり、Xが炭素原子の場合2であり、Yは、フッ素原子または1価のペルフルオロ有機基であり、sは、0または1であり、
は、単結合、またはエーテル結合性酸素原子を有していてもよいペルフルオロアルキレン基であり、Rf2は、エーテル結合性酸素原子を有していてもよいペルフルオロアルキル基であり、Xは、酸素原子、窒素原子または炭素原子であり、bは、Xが酸素原子の場合0であり、Xが窒素原子の場合1であり、Xが炭素原子の場合2であり、Yは、フッ素原子または1価のペルフルオロ有機基であり、tは、0または1である。
単結合は、CYまたはCYの炭素原子と、SOのイオウ原子とが直接結合していることを意味する。
有機基は、炭素原子を1以上含む基を意味する。
【0049】
単位(U6):
、Qのペルフルオロアルキレン基がエーテル結合性酸素原子を有する場合、該酸素原子は、1個であってもよく、2個以上であってもよい。また、該酸素原子は、ペルフルオロアルキレン基の炭素原子−炭素原子結合間に挿入されていてもよく、炭素原子結合末端に挿入されていてもよい。
ペルフルオロアルキレン基は、直鎖状であってもよく、分岐状であってもよく、直鎖状であることが好ましい。
ペルフルオロアルキレン基の炭素数は、1〜6が好ましく、1〜4がより好ましい。炭素数が6以下であれば、単位(U6)を構成し得るモノマーの沸点が低くなり、蒸留精製が容易となる。また、炭素数が6以下であれば、ポリマー(H1)の当量重量の増加が抑えられ、プロトン導電性の低下が抑えられる。
【0050】
は、エーテル結合性酸素原子を有していてもよい炭素数1〜6のペルフルオロアルキレン基であることが好ましい。Qがエーテル結合性酸素原子を有していてもよい炭素数1〜6のペルフルオロアルキレン基であれば、Qが単結合である場合に比べ、長期にわたって固体高分子形燃料電池を運転した際に、発電特性の安定性に優れる。
、Qの少なくとも一方は、エーテル結合性酸素原子を有する炭素数1〜6のペルフルオロアルキレン基であることが好ましい。エーテル結合性酸素原子を有する炭素数1〜6のペルフルオロアルキレン基を有する含フッ素モノマーは、フッ素ガスによるフッ素化反応を経ずに合成できるため、収率が良好で、製造が容易である。
【0051】
f1のペルフルオロアルキル基は、直鎖状であってもよく、分岐状であってもよく、直鎖状であることが好ましい。
ペルフルオロアルキル基の炭素数は、1〜6が好ましく、1〜4がより好ましい。ペルフルオロアルキル基としては、トリフルオロメチル基またはペンタフルオロエチル基が好ましい。
単位(U6)が2つ以上のRf1を有する場合、Rf1は、それぞれ同じ基であってもよく、それぞれ異なる基であってもよい。
【0052】
−(SO(SOf1基は、イオン交換基である。
−(SO(SOf1基としては、スルホン酸基(−SO基)、スルホンイミド基(−SON(SOf1基)、またはスルホンメチド基(−SOC(SOf1基)が挙げられる。
としては、フッ素原子、またはエーテル結合性酸素原子を有していてもよい炭素数1〜6の直鎖のペルフルオロアルキル基が好ましい。
【0053】
単位(U6)としては、単位(U6−1)が好ましく、ポリマー(H1)の製造が容易であり、工業的実施が容易である点から、単位(U6−11)、単位(U6−12)または単位(U6−13)がより好ましい。
【0054】
【化6】

【0055】
ただし、RF11は、単結合、またはエーテル結合性酸素原子を有していてもよい炭素数1〜6の直鎖状のペルフルオロアルキレン基であり、RF12は、炭素数1〜6の直鎖状のペルフルオロアルキレン基である。
【0056】
単位(U7):
のペルフルオロアルキレン基がエーテル結合性酸素原子を有する場合、該酸素原子は、1個であってもよく、2個以上であってもよい。また、該酸素原子は、ペルフルオロアルキレン基の炭素原子−炭素原子結合間に挿入されていてもよく、炭素原子結合末端に挿入されていてもよい。
ペルフルオロアルキレン基は、直鎖状であってもよく、分岐状であってもよい。
ペルフルオロアルキレン基の炭素数は、1〜6が好ましく、1〜4がより好ましい。炭素数が6以下であれば、ポリマー(H1)の当量重量の増加が抑えられ、プロトン導電性の低下が抑えられる。
【0057】
f2のペルフルオロアルキル基は、直鎖状であってもよく、分岐状であってもよく、直鎖状であることが好ましい。
ペルフルオロアルキル基の炭素数は、1〜6が好ましく、1〜4がより好ましい。ペルフルオロアルキル基としては、トリフルオロメチル基またはペンタフルオロエチル基が好ましい。
【0058】
−(SO(SOf2基は、イオン交換基である。
−(SO(SOf2基としては、スルホン酸基(−SO基)、スルホンイミド基(−SON(SOf2基)、またはスルホンメチド基(−SOC(SOf2基)が挙げられる。
としては、フッ素原子またはトリフルオロメチル基が好ましい。
【0059】
単位(U7)としては、単位(U7−1)が好ましく、ポリマー(H1)の製造が容易であり、工業的実施が容易である点から、単位(U7−11)、単位(U7−12)、単位(U7−13)または単位(U7−14)がより好ましい。
【0060】
【化7】

【0061】
ただし、Zは、フッ素原子またはトリフルオロメチル基であり、mは、0〜3の整数であり、pは、0または1であり、nは、1〜12の整数であり、m+p>0である。
【0062】
繰り返し単位(D):
繰り返し単位(D)としては、機械的強度および化学的な耐久性の点から、ペルフルオロモノマーに基づく繰り返し単位が好ましく、TFEに基づく繰り返し単位がより好ましい。
TFEに基づく繰り返し単位の割合は、特には限定されないが、ポリマー(H1)の当量重量が好ましい範囲となるように、適宜調整すればよい。
【0063】
(触媒層)
触媒層11は、固体高分子電解質ポリマーと触媒とを含む。
触媒としては、カーボン担体に白金または白金合金を担持した担持触媒が挙げられる。
カーボン担体としては、カーボンブラック粉末が挙げられ、耐久性の点から、熱処理等でグラファイト化したカーボンブラック粉末が好ましい。
【0064】
触媒層11における触媒と固体高分子電解質ポリマーとの質量比(触媒/固体高分子電解質ポリマー)は、導電性および撥水性の点から、5/5〜9.5/0.5が好ましく、6/4〜8/2がより好ましい。
【0065】
触媒層11は、フラッディングの抑制効果が高まる点から、撥水化剤を含んでいてもよい。
撥水化剤としては、TFEとヘキサフルオロプロピレンとのコポリマー、TFEとペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)とのコポリマー、ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEと記す。)等が挙げられる。撥水化剤としては、触媒層11を撥水化処理しやすい点から、溶媒に溶解できる含フッ素ポリマーが好ましい。
撥水化剤の量は、触媒層(100質量%)中、0.01〜30質量%が好ましい。
【0066】
カソード触媒層:
カソード14の触媒層11は、固体高分子電解質ポリマーとしてポリマー(H)を含むため、ポリマー(H)の高いプロトン導電性、酸素透過性および酸素/窒素分離特性により、カソード14における酸素還元反応に対する過電圧が低減され、その結果、反応速度の向上が図られている。
【0067】
カソード14の触媒層11に含まれる白金量は、電極反応を効率よく行うための最適な厚さの点から、0.05〜0.6mg/cmが好ましく、原料のコストと性能とのバランスの点から、0.1〜0.35mg/cmがより好ましい。
カソード14の触媒層11は、触媒層11中の固体高分子電解質ポリマーの高次構造を安定化させ、かつ酸素/窒素分離特性を高めるために、150〜180℃の温度で、1〜60分熱処理することが好ましい。熱処理は、触媒層11を乾燥させ形成させた直後に実施してもよいし、膜電極接合体10を作製した後に実施してもよい。
【0068】
アノード触媒層:
アノード13の触媒層11に含まれる固体高分子電解質ポリマーとしては、特には限定されないが、カソード14の触媒層11と同様にポリマー(H)を用いてもよいし、上述した従来のポリマー(1)を用いてもよい。
【0069】
アノード13の触媒層11に含まれる固体高分子電解質ポリマーのイオン交換容量は、1.0〜2.8ミリ当量/g乾燥樹脂が好ましい。イオン交換容量が1.0ミリ当量/g乾燥樹脂以上であれば、低加湿ないし無加湿条件下におけるプロトン導電性が低くなりすぎない。イオン交換容量が2.8ミリ当量/g乾燥樹脂以下であれば、固体高分子電解質ポリマーの膨潤度が高くなりすぎない。そのため、固体高分子電解質ポリマーが加湿水に溶解することがない。イオン交換容量は、低加湿ないし無加湿条件下におけるプロトン導電性を確保でき、かつ過度な膨潤も起こらない点から、1.1〜2.5ミリ当量/g乾燥樹脂が好ましく、高温、かつ無加湿条件下に好適な点から、1.6〜2.2ミリ当量/g乾燥樹脂がより好ましい。
【0070】
アノード13の触媒層11に含まれる白金量は、電極反応を効率よく行うための最適な厚さの点から、0.01〜0.3mg/cmが好ましく、原料のコストと性能とのバランスの点から、0.05〜0.2mg/cmがより好ましい。
【0071】
(ガス拡散層)
ガス拡散層12は、触媒層11に均一にガスを拡散させる機能および集電体としての機能を有する。
ガス拡散層12としては、カーボンペーパー、カーボンクロス、カーボンフェルト等が挙げられる。
ガス拡散層12は、PTFE等によって撥水化処理されていることが好ましい。
【0072】
(カーボン層)
膜電極接合体10は、図2に示すように、触媒層11とガス拡散層12との間にカーボン層16を有していてもよい。カーボン層16を配置することにより、触媒層11の表面のガス拡散性が向上し、固体高分子形燃料電池の発電特性が大きく向上する。
【0073】
カーボン層16は、カーボンと非イオン性含フッ素ポリマーとを含む層である。
カーボンとしては、繊維径1〜1000nm、繊維長1000μm以下のカーボンナノファイバーが好ましい。
非イオン性含フッ素ポリマーとしては、PTFE等が挙げられる。
【0074】
(固体高分子電解質膜)
固体高分子電解質膜15は、イオン交換樹脂を主成分とする電解質膜である。イオン交換樹脂単体からなる膜でもよいし、補強体により補強されていてもよい。
【0075】
イオン交換樹脂としては、耐久性の点から、含フッ素イオン交換樹脂が好ましく、イオン交換基を有するペルフルオロカーボンポリマー(エーテル結合性酸素原子を含んでいてもよい。)がより好ましく、TFEに基づく繰り返し単位と単位(U7)とからなるポリマー、またはTFEに基づく繰り返し単位と単位(U6)とからなるポリマー、またはTFEに基づく繰り返し単位と単位(U6)と単位(U7)とからなるポリマーがさらに好ましい。単位(M6)を有するポリマーは、従来のイオン交換樹脂の膜よりも高い軟化温度を有し、かつ柔軟性が高いため、電気抵抗が低く、従来のイオン交換樹脂の膜よりも高い耐熱性を有し、かつ湿潤状態における膨潤と乾燥状態における収縮とを繰り返しても破損しにくい。
【0076】
固体高分子電解質膜15は、耐久性をさらに向上させるために、セリウムおよびマンガンからなる群から選ばれる1種以上の原子を含んでいてもよい。セリウム、マンガンは、固体高分子電解質膜15の劣化を引き起こす原因物質である過酸化水素を分解する。セリウム、マンガンは、イオンとして固体高分子電解質膜15中に存在することが好ましく、イオンとして存在すれば固体高分子電解質膜15中でどのような状態で存在してもかまわない。
【0077】
固体高分子電解質膜15は、乾燥を防ぐための保水剤として、シリカ、ヘテロポリ酸(リン酸ジルコニウム、リンモリブデン酸、リンタングステン酸等)を含んでいてもよい。
【0078】
固体高分子電解質膜15の厚さは、5〜30μmが好ましく、10〜25μmがより好ましい。固体高分子電解質膜15の厚さが30μm以下であれば、低加湿ないし無加湿条件下での固体高分子形燃料電池の発電特性の低下がより抑えられる。また、固体高分子電解質膜15の厚さが5μm以上であれば、ガスリークや電気的な短絡を抑えることができる。
固体高分子電解質膜15の厚さは、固体高分子電解質膜15の断面をSEM等によって観察することにより測定する。
【0079】
固体高分子電解質膜15に含まれるイオン交換樹脂のイオン交換容量は、0.9〜2.5ミリ当量/g乾燥樹脂が好ましい。イオン交換容量が0.9ミリ当量/g乾燥樹脂以上であれば、低加湿ないし無加湿条件下における膜のプロトン導電性が低くなりすぎない。イオン交換容量が2.5ミリ当量/g乾燥樹脂以下であれば、固体高分子電解質膜15の膨潤度が高くなりすぎず、寸法変化が大きくなりすぎない。その結果、触媒層11との剥離が生じにくく、また、セル内部で膜にしわが発生しにくい。イオン交換容量は、低加湿ないし無加湿条件下におけるプロトン導電性を確保でき、かつ過度な寸法変化も起こらない点から、1.1〜2.0ミリ当量/g乾燥樹脂が好ましく、高温、かつ無加湿条件下に好適な点から、1.3〜1.8ミリ当量/g乾燥樹脂がより好ましい。
【0080】
(膜電極接合体の製造方法)
膜電極接合体10は、たとえば、下記の方法にて製造される。
(a−1)固体高分子電解質膜15上に触媒層11を形成して膜触媒層接合体とし、該膜触媒層接合体をガス拡散層12で挟み込む方法。
(a−2)ガス拡散層12上に触媒層11を形成して電極(アノード13、カソード14)とし、固体高分子電解質膜15を該電極で挟み込む方法。
【0081】
膜電極接合体10がカーボン層16を有する場合、膜電極接合体10は、たとえば、下記の方法にて製造される。
(b−1)基材フィルム上に、カーボンおよび非イオン性含フッ素ポリマーを含む分散液を塗布し、乾燥させてカーボン層16を形成し、カーボン層16上に触媒層11を形成し、触媒層11と固体高分子電解質膜15とを貼り合わせ、基材フィルムを剥離して、カーボン層16を有する膜触媒層接合体とし、該膜触媒層接合体をガス拡散層12で挟み込む方法。
(b−2)ガス拡散層12上に、カーボンおよび非イオン性含フッ素ポリマーを含む分散液を塗布し、乾燥させてカーボン層16を形成し、(a−1)の方法における膜触媒層接合体を、カーボン層16を有するガス拡散層12で挟み込む方法。
【0082】
触媒層11の形成方法としては、下記の方法が挙げられる。
(y−1)触媒層形成用液を、固体高分子電解質膜15、ガス拡散層12、またはカーボン層16上に塗布し、乾燥させる方法。
(y−2)触媒層形成用液を基材フィルム上に塗布し、乾燥させ触媒層11を形成し、該触媒層11を固体高分子電解質膜15上に転写する方法。
【0083】
触媒層形成用液は、固体高分子電解質ポリマーおよび触媒を分散媒に分散させた液である。触媒層形成用液は、たとえば、本発明における固体高分子電解質ポリマーを液状組成物とし、触媒の分散液とを混合することにより調製できる。
触媒層形成用液は、触媒層11の形成方法によって粘度が異なるため、数十cP程度の分散液であってもよく、20000cP程度のペーストであってもよい。
触媒層形成用液は、粘度を調節するために、増粘剤を含んでいてもよい。増粘剤としては、エチルセルロース、メチルセルロース、セロソルブ系増粘剤、フッ素系溶剤(5フッ化プロパノール、フロン等。)が挙げられる。
【0084】
(作用効果)
以上説明した膜電極接合体10は、カソード触媒層にイオン交換容量が高く、酸素透過性が高く、かつ酸素/窒素分離性の高い固体高分子電解質ポリマーを用いているため、発電特性(出力電圧等)が高い。特に、低加湿度ないし無加湿条件下でも高い発電性能を発現できるため、加湿システムの簡素化に寄与できる。
【0085】
すなわち、カソード14の触媒層11が、固体高分子電解質ポリマーとして、イオン交換容量が0.9〜2.5ミリ当量/g乾燥樹脂であり、高真空法にて温度100℃の条件で測定した酸素透過係数が1×10−12〔cm(Normal)・cm/cm・s・Pa〕以上であり、かつ100℃の酸素/窒素分離係数が2.5以上であるポリマー(H)を含むため、ポリマー(H)が窒素を排除しながら反応場に酸素を効率的に供給することで反応活性が向上し、発電特性を向上できる。特に、高温、かつ低加湿ないし無加湿条件下での発電特性を高くすることができる。
【0086】
<固体高分子形燃料電池>
本発明の膜電極接合体は、固体高分子形燃料電池に用いられる。固体高分子形燃料電池は、たとえば、2つのセパレータの間に膜電極接合体を挟んでセルを形成し、複数のセルをスタックすることにより製造される。
セパレータとしては、燃料ガスまたは酸素を含む酸化剤ガス(空気、酸素等)の通路となる溝が形成された導電性カーボン板等が挙げられる。
【0087】
固体高分子形燃料電池の種類としては、水素/酸素型燃料電池、直接メタノール型燃料電池(DMFC)等が挙げられる。DMFCの燃料に用いるメタノールまたはメタノール水溶液は、液フィードであってもよく、ガスフィードであってもよい。
【実施例】
【0088】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明の技術的範囲がこれに限定されるものではない。
【0089】
(イオン交換容量)
固体高分子電解質ポリマーのイオン交換容量は、下記の方法により求めた。
ポリマーをグローブボックス中に入れ、乾燥窒素を流した雰囲気中に24時間以上放置し、乾燥させた。グローブボックス中でポリマーの乾燥質量を測定した。
ポリマーを2モル/Lの塩化ナトリウム水溶液に浸漬し、60℃で1時間放置した後、室温まで冷却した。ポリマーを浸漬していた塩化ナトリウム水溶液を、0.5モル/Lの水酸化ナトリウム水溶液で滴定することにより、ポリマーのイオン交換容量を求めた。
【0090】
(モノマー(a))
化合物(M1−1):
【0091】
【化8】

【0092】
化合物(M4−1):
【0093】
【化9】

【0094】
(モノマー(b))
化合物(M5−1)の合成:
国際公開第2003/037885号パンフレットのp.37−42の実施例に記載の方法にしたがって、化合物(M5−1)を合成した。
【0095】
【化10】

【0096】
(モノマー(c))
化合物(M6−12)の合成:
特開2008−202039号公報の例1に記載の方法にしたがって、化合物(M6−12)を合成した。
【0097】
【化11】

【0098】
化合物(M7−11):
【0099】
【化12】

【0100】
(ラジカル開始剤)
化合物(i−1):
((CHCHOCOO) ・・・(i−1)。
化合物(i−2):
【0101】
【化13】

【0102】
化合物(i−3):
(CCOO) ・・・(i−3)。
【0103】
(溶媒)
化合物(s−1):
CClFCFCHClF ・・・(s−1)。
化合物(s−2):
CHCClF ・・・(s−2)。
【0104】
〔例1〕
内容積230mLのステンレス製オートクレーブに、化合物(M1−1)の31.00g、化合物(M7−11)の214.5gおよび化合物(i−1)の80mgを仕込み、液体窒素による冷却下、充分脱気した。その後、TFEの7.24gを仕込んで、40℃に昇温して、24時間撹拌した後、オートクレーブを冷却して反応を停止した。
生成物を化合物(s−1)で希釈した後、これにn−ヘキサンを添加し、ポリマーを凝集してろ過した。その後、化合物(s−1)中でポリマーを撹拌し、n−ヘキサンで再凝集し、80℃で一晩減圧乾燥し、ポリマー(F−1)を得た。収量は41gであった。
【0105】
19F−NMRでポリマー(F−1)の組成を求めたところ、TFEに基づく繰り返し単位/単位(U1−1)/化合物(M7−11)に基づく繰り返し単位=31/47/22(モル比)であり、ポリマー(F−1)中の環状構造を有する繰り返し単位の比率は47モル%であった。
【0106】
ポリマー(F−1)を、メタノールの20質量%および水酸化カリウムの15質量%を含む水溶液に40時間浸漬させることにより、ポリマー(F−1)中の−SOF基を加水分解し、−SOK基に変換した。ついで、該ポリマーを、3モル/Lの塩酸水溶液に2時間浸漬した。塩酸水溶液を交換し、同様の処理をさらに4回繰り返し、ポリマー中の−SOK基がスルホン酸基に変換されたポリマー(H−1)を得た。該ポリマー(H−1)を超純水で充分に水洗した。ポリマー(H−1)のイオン交換容量を測定したところ、イオン交換容量は0.94ミリ当量/g乾燥樹脂であった。
【0107】
ポリマー(H−1)に、エタノールと水との混合溶媒(エタノール/水=70/30質量比)を加え、固形分濃度を15質量%に調整し、オートクレーブを用い125℃で8時間、撹拌した。さらに水を加え、固形分濃度を7.0質量%に調整し、ポリマー(H−1)が分散媒に分散した液状組成物(E−1)を得た。分散媒の組成は、エタノール/水=35/65(質量比)であった。
【0108】
液状組成物(E−1)をETFEシート上にダイコータにて塗布し、80℃で30分乾燥し、さらに165℃で30分の熱処理を施し、厚さ30μmのガス透過性測定用キャスト膜を形成した。得られたキャスト膜の100℃における酸素透過係数および窒素透過係数を、高真空法ガス透過装置を用いて測定した。結果を表1に示す。
【0109】
〔例2〕
カーボン粉末に白金を50質量%担持した担持触媒の10gに水の39gを加え、10分間超音波を照射し、触媒の分散液を得た。触媒の分散液に、液状組成物(E−1)の60gを加え、さらにエタノールの64gを加えて固形分濃度を8質量%とし、触媒層形成用液を得た。該液を別途用意したエチレンとTFEとの共重合体からなるシート(商品名:アフレックス100N、旭硝子社製、厚さ100μm)(以下、ETFEシートと記す。)上に塗布し、80℃で30分乾燥させ、さらに165℃で30分の熱処理を施し、白金量が0.35mg/cmの触媒層を形成した。
【0110】
内容積125mLのステンレス製オートクレーブに、化合物(M6−12)の45.9g、化合物(s−1)の16.5gおよび化合物(i−1)の12.65mgを仕込み、液体窒素による冷却下、充分脱気した。その後、40℃に昇温して、TFEを系内に導入し、圧力を0.55MPaGに保持した。40℃で4.3時間撹拌した後、系内のガスをパージし、オートクレーブを冷却して反応を終了した。
生成物を化合物(s−1)で希釈した後、これに化合物(s−2)を添加し、ポリマーを凝集してろ過した。その後、化合物(s−1)中でポリマーを撹拌し、化合物(s−2)で再凝集し、80℃で一晩減圧乾燥し、ポリマー(F−2)を得た。収量は6.5gであった。
【0111】
ポリマー(F−2)を用いて、上記と同様の方法で、ポリマー(H−2)を得た。
ポリマー(H−2)のイオン交換容量を測定したところ、イオン交換容量は1.51ミリ当量/g乾燥樹脂であった。
【0112】
ポリマー(H−2)に、エタノール、水および1−ブタノールの混合溶媒(エタノール/水/1−ブタノール=35/50/15質量比)を加え、固形分濃度を15質量%に調整し、オートクレーブを用い125℃で8時間、撹拌した。さらに水を加え、固形分濃度を9質量%に調整し、ポリマー(H−2)が分散媒に分散した液状組成物(E−2)を得た。分散媒の組成は、エタノール/水/1−ブタノール=20/70/10(質量比)であった。
【0113】
液状組成物(E−2)をETFEシート上にダイコータにて塗布し、80℃で30分乾燥し、さらに190℃で30分の熱処理を施し、厚さ20μmの固体高分子電解質膜を形成した。
【0114】
固体高分子電解質膜からETFEシートを剥離した後、固体高分子電解質膜を2枚のETFEシート付き触媒層で挟み、プレス温度160℃、プレス時間5分、圧力3MPaの条件にて加熱プレスし、固体高分子電解質膜の両面に触媒層を接合し、触媒層からETFEシートを剥離して、電極面積25cmの膜触媒層接合体を得た。
【0115】
カーボンペーパーからなるガス拡散層上に、カーボンとPTFEとからなるカーボン層を形成した。
カーボン層と触媒層とが接するように、膜触媒層接合体をガス拡散層で挟み、膜電極接合体を得た。
【0116】
膜電極接合体を発電用セルに組み込み、下記の条件下で発電特性の評価を実施した。
膜電極接合体のアノードに水素(利用率50%)、カソードに空気(利用率50%)を、それぞれ175kPa(絶対圧力)に加圧して供給した。水素および空気ともに加湿せずに供給し、電流密度は1.0A/cmで一定として、80℃から上昇させた。温度上昇とともに発電電圧が低下していき、電圧0.5Vに低下する温度を記録した。結果を表1に示す。
【0117】
〔例3〕
内容積1005mLのステンレス製オートクレーブに、化合物(M5−1)の30.36g、化合物(s−1)の665.8g、メタノールの279mgおよび化合物(i−1)の36.8mgを仕込み、液体窒素による冷却下、充分脱気した。その後、40℃に昇温してから、TFEの45.8gを仕込んで5時間撹拌した後、オートクレーブを冷却して反応を停止した。
生成物を化合物(s−1)で希釈した後、これにn−ヘキサンを添加し、ポリマーを凝集してろ過した。その後、化合物(s−1)中でポリマーを撹拌し、n−ヘキサンで再凝集し、80℃で一晩減圧乾燥し、ポリマー(F−3)を得た。収量は22.8gであった。
【0118】
19F−NMRでポリマー(F−3)の組成を求めたところ、TFEに基づく繰り返し単位/化合物(M5−1)に基づく繰り返し単位=67/33(モル比)であり、ポリマー(F−3)中の環状構造を有する繰り返し単位の比率は33モル%であった。
【0119】
ポリマー(F−3)を用いて、例1と同様の方法で、ポリマー(H−3)、液状組成物(E−3)を得た。また、ポリマー(H−3)のイオン交換容量を測定したところ、イオン交換容量は1.59ミリ当量/g乾燥樹脂であった。
【0120】
例1と同様にして厚さ30μmのガス透過性測定用キャスト膜を形成した。得られたキャスト膜の100℃における酸素透過係数および窒素透過係数を、高真空法ガス透過装置を用いて測定した。結果を表1に示す。
【0121】
〔例4〕
触媒の分散液に加える液状組成物として、液状組成物(E−3)を用いた以外は例2と同様にして膜電極接合体を作製し、例2と同様の条件で発電特性を測定した。結果を表1に示す。
【0122】
〔例5〕
内容積125mLのステンレス製オートクレーブに、化合物(M5−1)の9.16g、化合物(M4−1)の5.67g、化合物(s−1)の5.0gおよび化合物(i−2)の2.4mgを仕込み、液体窒素による冷却下、充分脱気した。その後、65℃に昇温して、23.5時間撹拌した後、オートクレーブを冷却して反応を停止した。
生成物を化合物(s−1)で希釈した後、これにn−ヘキサンを添加し、ポリマーを凝集してろ過した。その後、化合物(s−1)中でポリマーを撹拌し、n−ヘキサンで再凝集し、80℃で一晩減圧乾燥し、ポリマー(F−4)を得た。収量は6.35gであった。ポリマー(F−4)中の環状構造を有する繰り返し単位の比率は100モル%である。
【0123】
ポリマー(F−4)を用いて、例1と同様の方法で、ポリマー(H−4)、液状組成物(E−4)を得た。また、ポリマー(H−4)のイオン交換容量を測定したところ、イオン交換容量は1.54ミリ当量/g乾燥樹脂であった。
【0124】
例1と同様にして厚さ30μmのガス透過性測定用キャスト膜を形成する。得られたキャスト膜の100℃における酸素透過係数および窒素透過係数を、高真空法ガス透過装置を用いて測定し、結果を表1に示す。
【0125】
〔例6〕
触媒の分散液に加える液状組成物として、液状組成物(E−4)を用いた以外は例2と同様にして膜電極接合体を作製する。例2と同様の条件で発電特性を測定し、結果を表1に示す。
【0126】
〔例7〕
内容積125mLのステンレス製オートクレーブに、化合物(M7−11)の49.64g、化合物(s−1)の28.22gおよび化合物(s−1)に3.2質量%の濃度で溶解した化合物(i−3)の38.9mgを仕込み、液体窒素による冷却下、充分脱気した。その後、30℃に昇温して、TFEを系内に導入し、圧力を0.37MPaGに保持した。4.8時間撹拌した後、オートクレーブを冷却して反応を停止した。
生成物を化合物(s−1)で希釈した後、これに化合物(s−2)を添加し、ポリマーを凝集してろ過した。その後、化合物(s−1)中でポリマーを撹拌し、化合物(s−2)で再凝集し、80℃で一晩減圧乾燥し、ポリマー(F−5)を得た。収量は15.0gであった。
【0127】
ポリマー(F−5)を用いて、例1と同様の方法で、ポリマー(H−5)、液状組成物(E−5)を得た。また、ポリマー(H−5)のイオン交換容量を測定したところ、イオン交換容量は1.10ミリ当量/g乾燥樹脂であった。
【0128】
例1と同様にして厚さ30μmのガス透過性測定用キャスト膜を形成した。得られたキャスト膜の100℃における酸素透過係数および窒素透過係数を、高真空法ガス透過装置を用いて測定した。結果を表1に示す。
【0129】
〔例8〕
触媒の分散液に加える液状組成物として、液状組成物(E−5)を用いた以外は例2と同様にして膜電極接合体を作製した。例2と同様の条件で発電特性を測定した。結果を表1に示す。
【0130】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0131】
本発明の膜電極接合体は、高温や低加湿といった幅広い条件でも運転可能な固体高分子形燃料電池に使用できる膜電極接合体として有用である。
【符号の説明】
【0132】
10 膜電極接合体
11 触媒層
12 ガス拡散層
13 アノード
14 カソード
15 固体高分子電解質膜
16 カーボン層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体高分子電解質ポリマーを含む触媒層を有するアノードと、
固体高分子電解質ポリマーを含む触媒層を有するカソードと、
前記アノードと前記カソードとの間に配置された高分子電解質膜とを備え、
前記カソードの触媒層が、前記固体高分子電解質ポリマーとして、イオン交換容量が0.9〜2.5ミリ当量/g乾燥樹脂であり、高真空法にて温度100℃の条件で測定した酸素透過係数が1×10−12〔cm(Normal)・cm/cm・s・Pa〕以上であり、かつ100℃の酸素/窒素分離係数が2.5以上であるポリマー(H)を含むことを特徴とする固体高分子形燃料電池用膜電極接合体。
【請求項2】
前記ポリマー(H)が、環状構造を有し、かつイオン交換基またはその前駆体基を有さない繰り返し単位(A)、およびまたは環状構造を有し、かつイオン交換基またはその前駆体基を有する繰り返し単位(B)を有し、ポリマー(H)中の全繰り返し単位のうち、前記繰り返し単位(A)と前記繰り返し単位(B)との合計の割合が、20モル%以上である、請求項1に記載の固体高分子形燃料電池用膜電極接合体。
【請求項3】
前記カソードの触媒層が、150〜180℃の温度で、1〜60分熱処理されたものである、請求項1または2に記載の固体高分子形燃料電池用膜電極接合体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−65838(P2011−65838A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−214843(P2009−214843)
【出願日】平成21年9月16日(2009.9.16)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】