説明

固体高分子形燃料電池

【課題】氷点下という低温状態からの起動性を十分に有する固体高分子形燃料電池を提供する。
【解決手段】酸化剤電極の酸化剤ガス拡散層48は、その酸化剤電極の酸化剤ガス触媒層44との界面Kに到達して形成され、氷点下の酸化反応によりその酸化剤ガス触媒層44からの生成水の凍結により酸化剤ガス触媒層44と酸化剤ガス拡散層48との界面Kに生じる微小な氷粒子IAをその昇華により凝結させる氷塊IBを、内周縁に沿って生成させるための複数の貫通穴70を有する。貫通穴70の内周縁に沿って生成される氷塊IBが酸化剤ガス触媒層44と酸化剤ガス拡散層48との界面Kに生じる微小な氷粒子IAをその昇華により吸収するので、その界面Kの氷により目詰まりが抑制されて酸化剤ガスが酸化剤ガス触媒層44内に供給され続けるので、氷点下という低温状態での固体高分子形燃料電池の起動性が大幅に高められる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解質膜として機能する固体高分子膜の両面に電極を配置して燃料ガスおよび酸化剤ガスをそれぞれ供給するとき、電気化学反応によって生じる電気エネルギーを得る固体高分子形燃料電池に関し、特に、氷点下の低温からの起動性に優れた電極の構成および材質に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、水素を含有する燃料ガスと空気などの酸素を含む酸化剤ガスとを電気化学的に反応させることにより、燃料ガスの持つ化学的エネルギーを電気的エネルギーに変換する装置である。燃料電池には、電解質の相違によって複数種類のタイプがあるが、近年、比較的低温で作動し、且つ高出力の得られる固体高分子形燃料電池が注目されている。
【0003】
このような固体高分子形燃料電池は、電解質層として機能する固体高分子膜をその両面から燃料電極(アノード:水素電極)と酸化剤電極(カソード:空気電極)とで挟持した単電池を、燃料ガス流路および酸化剤ガス流路を表面および裏面に有するセパレータを介して、複数個積層することにより構成される。燃料電極に水素を含む燃料ガスが供給され、酸化剤電極に酸素を含む酸化剤ガスが供給されると、両電極では、下記の化学反応式で示される反応がそれぞれ生じる。
【0004】
(燃料電極でのアノード反応)
→2H+2e ・・・(1)
(酸化剤電極でのカソード反応)
2H+(1/2)O+2e→HO ・・・(2)
【0005】
上式(1)に示されるように、燃料電極では水素がプロトン(H)に変換され、そのプロトン(H)が水を伴って電解質膜中を燃料電極側から酸化剤電極側へ移動し、上式(2)に示されるように、酸化剤電極においてプロトン(H)が酸素と反応して水が生成される。上記電解質膜としては、プロトン交換膜であるパーフルオロカーボンスルホン酸膜(米国デュポン社製ナフィオン膜)が知られており、この膜は、分子中に水素イオンの交換基を持ち、飽和状態に含水することによりイオン導電性高分子として機能する。また、その電解質膜を挟む燃料電極および酸化剤電極は、触媒を担持する触媒担持体およびイオノマー(イオン導電性高分子)を含む触媒層をその電解質膜側に有している。
【0006】
単電池の起電力が1V以下という低電圧であるため、通常はセパレータを介して、数十枚乃至数百枚の単電池が積層された積層体が燃料電池を構成している。このような積層体から構成される燃料電池では、都市ガスやLPGなどを燃料として寒冷地域の屋外設置で使用されるような場合など、0よりも低い低温条件下で起動する際には、発電によって生じた水が電極の触媒層内の気孔を凍結により閉塞し、酸化剤ガスの供給や反応ガスの拡散に支障が発生し、固体高分子形燃料電池の起動性が損なわれるという問題があった。
【0007】
これに対して、0よりも低い低温条件下での起動性を向上させるために、特許文献1では、セルに不凍タンパクなどの氷結晶成長抑制物質を設けることが提案され、特許文献2では、酸化剤電極側で生成された水分を膜内に速やかに吸収できるように酸化剤電極側の電解質膜から燃料電極側の電解質膜へ向かって水分を含有するクラスター径を順次大きくした構成とすることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−134222号公報
【特許文献2】特開2008−047388号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、たとえば特許文献1の従来の固体高分子形燃料電池では、過冷却による破壊によって、酸化剤電極の電解質膜側に設けられた酸化剤触媒層に生成された水が一気に凍結する可能性が残されていた。また、特許文献2の従来の固体高分子形燃料電池では、触媒層のイオノマーと電解質膜との間の生成水の移送や、電解質膜内での水の移送の制御がクラスター径の大きさだけでは困難であるという問題が残されていた。このため、氷点下という低温状態からの起動性を十分に有する固体高分子形燃料電池が未だ得られていない。
【0010】
本発明は以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、氷点下という低温状態からの起動性を十分に有する固体高分子形燃料電池を提供することにある。
【0011】
特に酸化剤電極の触媒層では、酸化剤ガス或いは燃料ガスとの接触面積を確保して前記(1)式或いは(2)式の反応を促進するための触媒を担持する触媒担持体は、イオノマーに被覆されそのイオノマーを通してイオン(プロトンH)を移送したり或いは受け取る必要があると考えられているため、従来では、触媒層には比較的大きな気孔率で気孔が設けられていた。このため、前述のように0℃より低い低温(氷点下)状態において生成された水が凍結して上記気孔を閉塞し、固体高分子形燃料電池の起動性が損なわれていた。これに対して、本発明者は、触媒層および拡散層における水分の氷結状態を細かく観察したところ、触媒層において生成されて滲み出た水分は拡散層内へ僅かにしか浸透せず、触媒層と拡散層との界面において氷結し、その界面の氷結の成長による目詰まりに起因してガス拡散に支障が発生し、固体高分子形燃料電池の起動性が損なわれる点、および、上記触媒層に積層された拡散層に、それら触媒層と拡散層との界面に到達する貫通穴を設けると、その貫通穴の内周縁において氷結が見られるものの、貫通穴が設けられない場合に比較して触媒層と拡散層との界面における氷結粒子が小さく或いは少なくなり、固体高分子形燃料電池の発電継続時間が大幅に長くなると言う点を見いだした。本発明は、このような知見に基づいて為されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち、請求項1に係る発明の要旨とするところは、固体高分子製の電解質膜を、触媒を担持する触媒担持体およびイオノマーを含む触媒層と多孔質のガス拡散層とから構成されて該触媒層を該電解質膜側に有する燃料電極と酸化剤電極との間に介在させて成る単電池を、セパレータを介して複数個積層した固体高分子形燃料電池であって、前記酸化剤電極のガス拡散層は、該酸化剤電極の触媒層との界面に到達して形成され、氷点下の酸化反応により該触媒層からの生成水の凍結により該触媒層と前記ガス拡散層との界面に生じる微小な氷粒子をその昇華により凝結させる氷塊を、内周縁に沿って生成させるための複数の貫通穴を有することを特徴とする。
【0013】
また、請求項2に係る発明の要旨とするところは、請求項1に係る発明において、前記微小な氷粒子は100μmφ以下の粒径を有するものであり、その昇華により前記氷塊に急速に吸収されるものであることを特徴とする。
【0014】
また、請求項3に係る発明の要旨とするところは、請求項1または2に係る発明において、前記氷塊は、100μmφを充分に超える粒径を有し、酸化剤ガス中に昇華させられることでその成長が抑制されることを特徴とする。
【0015】
また、請求項4に係る発明の要旨とするところは、請求項1乃至3のいずれか1に係る発明において、前記貫通穴は、1.0mmφよりも大きい最小径を有することを特徴とする。
【0016】
また、請求項5に係る発明の要旨とするところは、請求項4に係る発明において、前記貫通穴は、同じ面積の真円よりも大きい周長を有する異型形状であることを特徴とする。
【0017】
また、請求項6に係る発明の要旨とするところは、請求項4または5に係る発明において、前記貫通穴は、前記酸化剤ガスの流れに沿った方向の長手形状であることを特徴とする。
【0018】
また、請求項7に係る発明の要旨とするところは、請求項4乃至6のいずれか1に係る発明において、前記貫通穴は、1.0mmよりも大きい相互間隔を有することを特徴とする。
【0019】
また、請求項8に係る発明の要旨とするところは、請求項1乃至7のいずれか1に記載の高分子形燃料電池の氷点下における起動方法であって、前記高分子形燃料電池の起動開始からの経過時間が増加するほど該高分子形燃料電池の負荷電流を増加させることを特徴とする。
【0020】
また、請求項9に係る発明の要旨とするところは、固体高分子製の電解質膜を、触媒を担持する触媒担持体およびイオノマーを含む触媒層と多孔質のガス拡散層とから構成されて該触媒層を該電解質膜側に有する燃料電極と酸化剤電極との間に介在させて成る単電池を、セパレータを介して複数個積層した固体高分子形燃料電池の氷点下における起動方法であって、前記酸化剤電極のガス拡散層に該酸化剤電極の触媒層との界面に到達して形成した貫通穴を用い、氷点下の酸化反応により前記触媒層からの生成水の凍結により前記触媒層と前記ガス拡散層との界面に生じる微小な氷粒子をその昇華により凝結させる氷塊を、前記貫通穴の内周縁に沿って生成させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
請求項1に係る発明の固体高分子形燃料電池によれば、固体高分子製の電解質膜を、触媒を担持する触媒担持体およびイオノマーを含む触媒層と多孔質のガス拡散層とから構成されて該触媒層を該電解質膜側に有する燃料電極と酸化剤電極との間に介在させて成る単電池を、セパレータを介して複数個積層した固体高分子形燃料電池であって、前記酸化剤電極のガス拡散層は、該酸化剤電極の触媒層との界面に到達して形成され、氷点下の酸化反応により該触媒層からの生成水の凍結により該触媒層と前記ガス拡散層との界面に生じる微小な氷粒子をその昇華により凝結させる氷塊を、内周縁に沿って生成させるための複数の貫通穴を有することから、その貫通穴の内周縁に沿って生成される氷塊が氷点下の酸化反応により前記触媒層からの生成水の凍結により前記触媒層と前記ガス拡散層との界面に生じる微小な氷粒子をその昇華により吸収するので、前記触媒層と前記ガス拡散層との界面の氷により目詰まりが抑制されて酸化剤ガスが触媒層に供給され続けるので、氷点下という低温状態での固体高分子形燃料電池の起動性が大幅に高められる。
【0022】
また、請求項2に係る発明の固体高分子形燃料電池によれば、前記微小な氷粒子は100μmφ以下の粒径を有するものであり、その昇華により前記氷塊に急速に吸収されるものであることから、前記触媒層と前記ガス拡散層との界面の氷により目詰まりが抑制されるので、氷点下においても、酸化剤ガスが触媒層に供給され続ける利点がある。
【0023】
また、請求項3に係る発明の固体高分子形燃料電池によれば、前記氷塊は、100μmφを充分に超える粒径を有し、酸化剤ガス中に昇華させられることでその成長が抑制されることから、氷粒子はその昇華により継続的に氷塊に吸収され続けることができるので、継続的に氷点下においても、酸化剤ガスが触媒層に供給され続ける利点がある。
【0024】
また、請求項4に係る発明の固体高分子形燃料電池によれば、前記貫通穴は、1.0mmφよりも大きい最小径を有することから、その貫通穴の内周縁に生成される氷塊が前記酸化剤ガス中に昇華させられることでその成長が好適に抑制され、氷粒子はその昇華により継続的に氷塊に吸収され続けることができるので、継続的に氷点下においても、酸化剤ガスが触媒層に供給され続ける利点がある。
【0025】
また、請求項5に係る発明の固体高分子形燃料電池によれば、前記貫通穴は、同じ面積の真円よりも大きい周長を有する異型形状であることから、貫通穴が真円である場合に比較して、周縁の長さが大きくなってその周縁には氷解が多く生成されるので、その氷塊による氷粒子の吸収作用が一層得られ、一層長期間、酸化剤ガスが触媒層に供給され続ける利点がある。
【0026】
また、請求項6に係る発明の固体高分子形燃料電池によれば、前記貫通穴は、前記酸化剤ガスの流れに沿った方向の長手形状であることから、貫通穴の周縁に生成される氷塊の酸化剤ガスへの昇華が促進されるので、一層長期間、酸化剤ガスが触媒層に供給され続ける利点がある。
【0027】
また、請求項7に係る発明の固体高分子形燃料電池によれば、前記貫通穴は、1.0mmよりも大きい相互間隔を有することから、触媒層の露出割合が抑制されるので、ガス拡散層と触媒層との界面の割合が確保されて、常温起動時における触媒層の乾燥などが好適に防止される。
【0028】
また、請求項8に係る発明の、請求項1乃至7のいずれか1に記載の高分子形燃料電池の氷点下における起動方法によれば、前記高分子形燃料電池の起動開始からの経過時間が増加するほど該高分子形燃料電池の負荷電流を増加させることから、単一の負荷電流値に比較して、一層、高負荷電流値且つ長起動時間が得られる。
【0029】
また、請求項9に係る発明の要旨とするところは、固体高分子製の電解質膜を、触媒を担持する触媒担持体およびイオノマーを含む触媒層と多孔質のガス拡散層とから構成されて該触媒層を該電解質膜側に有する燃料電極と酸化剤電極との間に介在させて成る単電池を、セパレータを介して複数個積層した固体高分子形燃料電池の氷点下における起動方法であって、前記酸化剤電極のガス拡散層に該酸化剤電極の触媒層との界面に到達して形成した貫通穴を用い、氷点下の酸化反応により前記触媒層からの生成水の凍結により前記触媒層と前記ガス拡散層との界面に生じる微小な氷粒子をその昇華により凝結させる氷塊を、前記貫通穴の内周縁に沿って生成させる。これにより、貫通穴の内周縁に沿って生成される氷塊が氷点下の酸化反応により前記触媒層からの生成水の凍結により前記触媒層と前記ガス拡散層との界面に生じる微小な氷粒子をその昇華により吸収することから、前記触媒層と前記ガス拡散層との界面の氷により目詰まりが抑制されて酸化剤ガスが触媒層に供給され続けるので、氷点下という低温状態での固体高分子形燃料電池の起動性が大幅に高められる。
【0030】
ここで、好適には、前記燃料電極(アノード:水素電極)および酸化剤電極(カソード:空気電極)は、白金等の触媒活性を有する物質を担持する触媒担持体およびイオノマーを含む触媒層と、反応ガスの拡散を促すために通気性が高く且つ導電性の高いガス拡散層とが積層されることにより構成されるが、導電性およびガス透過性を有する他の層がさらに加えられてもよい。上記ガス拡散層は、たとえばカーボン繊維或いは金属繊維を含む布或いは多孔質の板状とされ、集電体としての機能や触媒層を支持する機能を備えている。上記触媒層は、前記アノード反応およびカソード反応をそれぞれの促進させる活性な表面サイトを有する導電性物質から構成され、たとえば含浸法、コロイド法、イオン法などにより粒径数nmの白金、白金合金或いは、非白金系触媒(たとえば酸化物やカーボンアロイなど)が均一に分散された比表面積の高いカーボン担体(炭素粒子)や、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーンといった微細構造を有する炭素担体材料、酸素活性を有する大環状有機化合物、ペロブスカイト等の金属酸化物や硫化物を用いたものなどが用いられる。
【0031】
また、好適には、前記固体高分子形燃料電池は、1組の電解質膜とそれを挟む1対の燃料電極および酸化剤電極とから成る単電池の起電力が1V以下という低電圧であるため、通常はセパレータを介して、数十枚乃至数百枚の単電池が積層された積層体から構成される。このセパレータは、比較的薄い実質的に1枚の導電性を有する板から構成され、前記電解質層とそれを挟むように積層された燃料ガス電極および酸化剤ガス電極とを支持するものである。このセパレータ金属板は、1枚の金属板、複数の薄い金属板がラミネートされたもの、高密度のカーボン板、或いは、カーボンと樹脂との複合板であってもよい。上記セパレータのそれら電極と接触する部分である電極接触部には、塑性加工により燃料ガス流路および酸化剤ガス流路が表面および裏面に成形される。上記燃料電極および酸化剤電極がカソード反応およびアノード反応に局部的に関与するように構成されている場合は、セパレータの電極接触部のうち少なくともその反応部分に接触する部分に、燃料ガス流路および酸化剤ガス流路が形成される。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の一実施例の固体高分子形燃料電池を含む固体高分子形燃料電池装置の構成を説明するブロック図である。
【図2】図1の固体高分子形燃料電池の積層構造を説明する断面図である。
【図3】図2の単電池を構成する酸化剤電極の一部の構成を模式的に説明する断面図である。
【図4】図3の単電池の電解質層を構成するパーフルオロスルホン酸系高分子電解質を示す化学式を表わす図である。
【図5】図1乃至図3に示す固体高分子形燃料電池の拡散層に複数個形成された貫通穴を示す図である。
【図6】図1乃至図3に示す固体高分子形燃料電池の拡散層に複数個形成された貫通穴を、模式的に示す図である。
【図7】図1乃至図3に示す固体高分子形燃料電池の貫通穴を有する拡散層の氷点下における作用を説明する模式図である。
【図8】図7の模式図で示される貫通穴を有する拡散層の氷点下における作動機序を説明するフローチャートである。
【図9】図1乃至3に説明された構成(貫通穴が形成された280μm厚みの酸化剤ガス拡散層を用いたもの)の電池セルと、貫通穴が形成されていない280μm厚みの酸化剤ガス拡散層を用いた電池セルとを用いて低温下(−10℃)における起動試験を行った結果を示す特性図である。
【図10】氷点下における乾燥ガス(乾燥空気)中の所定の初期粒径Dの氷粒子の昇華により経時的に減少する粒径の測定結果と、理論式から初期粒径に基づいて推定した粒径とを対比して示す図である。
【図11】氷点下における乾燥ガス(乾燥空気)中の所定の初期粒径Dの氷粒子の昇華による消滅時間tc の測定結果と、理論式から粒径に基づいて推定した消滅時間tc と対比してそれぞれ示している。
【図12】図9の試験において用いられたテストピース(電池セル)の酸化剤電極において、酸化剤ガス拡散層を剥離して酸化剤ガス触媒層の表面(界面K)を、氷結状態のままでクライオ走査型電子顕微鏡(クライオSEM)を用いて30倍の拡大率で観察した写真図である。
【図13】図12の一部であって貫通穴の境界部分を410倍の拡大率で観察した写真図である。
【図14】貫通穴が形成されていない280μm厚みの酸化剤ガス拡散層を用いた電池セル、貫通穴が形成されている280μm厚みの酸化剤ガス拡散層を用いた電池セル、貫通穴が形成されている100μm厚みの酸化剤ガス拡散層を用いた電池セルの3種類のテストピースの、負荷電流を0.01A/cmとしたときの氷点下(−30℃)における出力特性を示す図である。
【図15】貫通穴が形成されていない280μm厚みの酸化剤ガス拡散層を用いた電池セル、貫通穴が形成されている280μm厚みの酸化剤ガス拡散層を用いた電池セル、貫通穴が形成されている100μm厚みの酸化剤ガス拡散層を用いた電池セルの3種類のテストピースの、負荷電流を0.02A/cmとしたときの氷点下(−30℃)における出力特性を示す図である。
【図16】貫通穴が形成されていない280μm厚みの酸化剤ガス拡散層を用いた電池セル、貫通穴が形成されている280μm厚みの酸化剤ガス拡散層を用いた電池セル、貫通穴が形成されている100μm厚みの酸化剤ガス拡散層を用いた電池セルの3種類のテストピースの、負荷電流を0.04A/cmとしたときの氷点下(−30℃)における出力特性を示す図である。
【図17】貫通穴が形成された100μm厚みの酸化剤ガス拡散層を用いた電池セルを用いて、氷点下(−20℃)における2種類の負荷電流(0.01A/cmおよびi=0.02A/cm)で起動試験を行った場合の特性図である。
【図18】貫通穴が形成された100μm厚みの酸化剤ガス拡散層を用いた電池セルを用いて氷点下(−20℃)において、負荷電流を0.01A/cm、0.02A/cm、0.04A/cmと順次段階的に増加させたときの発電試験を行った場合の特性図である。
【図19】燃料電池システムにおいて一般的に求められる、スタック状態の燃料電池装置の電流密度に対する起動時間を示す図である。
【図20】燃料電池システムにおいて一般的に求められる燃料電池装置の電流密度に対する起動時間と、図9、図14〜図18において求められた起動時間とを対比して示す図表である。
【図21】本発明の他の実施例における固体高分子形燃料電池の拡散層に複数個形成された貫通穴を示す図であって、図5に相当する図である。
【図22】本発明の他の実施例における固体高分子形燃料電池の拡散層に複数個形成された貫通穴を示す図であって、図5、図21に相当する図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例において、図は簡略化されており、それら各部の寸法等は必ずしも正確に描かれていない。
【実施例1】
【0034】
図1は、固体高分子形燃料電池装置10の構成の要部を説明する図である。図1において、たとえばLPGや都市ガスなどの燃料ガスから抽出された水素ガスを貯留する水素ガス貯留装置12からは、減圧および流量調節装置14を介して固体高分子形燃料電池16の燃料ガス流路18に水素ガスが燃料ガスとして供給される。また、空気ポンプ20からは、フィルタ22を通して吸入された空気が減圧および流量調節装置24を介して空気が酸化剤ガスとして必要に応じて湿度変換器29により加湿された後、燃料電池16の酸化剤ガス流路26に供給される。なお、上記燃料ガス流路18も同様に湿度変換器29を通して固体高分子形燃料電池16へ供給されてもよい。固体高分子形燃料電池16から燃料ガス流路18を通して放出される余剰の水素は水素回収循環装置28により回収され、図示しない循環ガス流路および必要に応じて設けられる水分回収装置を介して減圧および流量調節装置14へ再循環させられる。また、固体高分子形燃料電池16から放出される余剰の空気は、燃料電池16内で発生した水分と共に大気へ放出される。或いは、固体高分子形燃料電池16から放出される余剰の空気はその固体高分子形燃料電池16内で生成した水分が湿度変換器29により回収された後大気へ放出される。
【0035】
上記固体高分子形燃料電池16は、たとえば数十個乃至数百個程度の複数の単電池(電池セル)34が導電性のセパレータ28を介して積層され且つ図示しない締結装置からの所定の締結力で厚み方向に押圧されることによって構成された積層構造すなわちスタック構造を有している。単電池34の起電力が1V以下という低電圧であるため、上記積層構造による直列接続することで、積層方向の両端に位置する電極から高い電圧出力を得るためである。図2はそれらセパレータ28および単電池34の要部を模式的に示す断面図である。図2に示すように、単電池34は、固体高分子製の電解質膜36とそれを挟む燃料電極38および酸化剤電極40とを備え、その電解質膜36が燃料電極38と酸化剤電極40との間に密着状態で介在させられた状態で積層されることにより構成されている。電解質膜36には、プロトン(H)が水を伴って透過することが可能なイオン導電性固体高分子、たとえばプロトン交換膜であるパーフルオロカーボンスルホン酸系樹脂(米国デュポン社製ナフィオン膜(商品名))が用いられる。
【0036】
上記電解質膜36としては、耐食性、耐熱性、耐久性に優れた物質であって、たとえば分子中に水素イオンの交換基を有し、飽和状態に含水させられることによりプロトン(H)を水を伴って移動させる高いイオン伝導性を有するとともに、燃料ガスおよび酸化剤ガスを分離する機能を有する固体高分子物質、たとえば、樹脂骨格にスルホン基を複合化させたパーフルオロカーボン系固体電解質、側鎖としてスルホン基を導入させた炭化水素系固体電解質など、たとえばパーフルオロスルホン酸系高分子電解質を代表とするフッ素系高分子電解質が、好適に用いられる。また、電解質膜36として、そのフッ素系高分子電解質に替えて、炭化水素系高分子電解質などが用いられてもよい。
【0037】
前記セパレータ28は、ステンレス鋼板などの金属板材やカーボン板などの0.1mm乃至3mm程度の厚みを有する気密性および導電性を有する部材で構成され、その表面(一面)および裏面(他面)には、直線状の燃料ガス流路18および直線状の酸化剤ガス流路26を構成する溝、或いは、サーペンタイン状(蛇行状)の溝が、セパレータ28の電極接触部の全域にわたって直列的に連通するように形成されている。このセパレータ28は、少なくともその基体が高導電性の金属、たとえばステンレス鋼、ニッケル含有合金、クロム含有合金、アルミニウム、アルミニウム含有合金、銅、銅含有合金、チタン、チタン含有合金の少なくとも1種から構成され、単板の部材であってもよいが、複数の導電性の部材が積層されたものであってもよい。好適には、そのセパレータ28の少なくとも電極接触部は、耐食性や電気的接触を高めるために、金、カーボン、酸化チタン、酸化ニッケルの少なくとも1つを含有するコーティングが表面に施される。なお、セパレータ28と電解質膜36との間の気密性或いは液密性を高めるために、燃料電極38或いは酸化剤電極40を取り囲むように形成された、たとえば合成樹脂製或いは合成ゴム製の環状シール部材30がそれぞれ介在させられている。
【0038】
図3は模式図である。上記燃料電極38と酸化剤電極40は、前記(1)式のアノード反応および前記(2)式のカソード反応を促進するための触媒活性を有する燃料ガス触媒層42および酸化剤ガス触媒層44と、それら燃料ガス触媒層42および酸化剤ガス触媒層44を機械的に支持し、且つガスの拡散を促進してそれら燃料ガス触媒層42および酸化剤ガス触媒層44との全面的に均等な接触を図るための燃料ガス拡散層46および酸化剤ガス拡散層48とが相互に重ねられた状態でそれぞれ構成されている。
【0039】
上記燃料ガス触媒層42および酸化剤ガス触媒層44は、白金触媒、白金を含む白金系合金触媒、その他の非白金系触媒(たとえば酸化物やカーボン)等の触媒54を担持した触媒担持体として機能するカーボン粒子(粉末)56と、それらカーボン粒子(粉末)56を内在させるイオノマー58とを備えている。上記触媒担持体として機能するカーボン粒子56は、たとえば数十nm以上の粒径を有し、たとえば数nm程度の触媒54よりも十分に大径であって、電子を伝導させるために、相互に接触した状態で炭素繊維60と電解質層36との間に設けられる。すなわち、触媒54はそれを担持するカーボン粒子(触媒担持体)56よりも十分に小径である。本実施例では、触媒担持体として、導電性を有するカーボン粒子56が用いられるが、それに替えて或いはそれに加えて、酸化チタン、酸化アルミニウムなどの他の物質が用いられてもよい。これら酸化チタン、酸化アルミニウムなどは、数十nm程度の小粒径とすることにより、導電性が得られる。
【0040】
上記イオノマー58は、プロトン(H)を伝導可能なイオン導電性を有する高分子であり、電解質層36と同じ物質、たとえばパーフルオロスルホン酸系高分子電解質を代表とするフッ素系高分子電解質から構成されてもよい。このような物質としては、たとえばデュポン社のナフィオン(Nafion)、旭硝子社のフレミオン(Flemion)、旭化成社のアシプレックス(Aciplex)が用いられ得る。デュポン社のナフィオン117(Nafion 117)の平均分子量は、250000であると報告されている[H.-G. Haubold, Th. Vad, H. Jungbluth, P. Hiller : Electrochimica Acts 46 (2001)1559-1563]。また、上記3社から得られるパーフルオロスルホン酸系高分子電解質の化学式は、図4に示されるものである。
【0041】
また、上記燃料ガス触媒層42および酸化剤ガス触媒層44は、触媒54を担持するカーボン粒子(触媒担持体)56およびイオノマー58を含むものであるが、好適には、触媒担持体として機能するカーボン粒子(粉末)56に対するイオノマー58の割合が、体積比率で0.45以上、質量(重量)比率(イオノマー58の重量Iw /カーボン粒子56のCw )で0.5以上となるように設定されている。
【0042】
上記燃料ガス拡散層46および酸化剤ガス拡散層48は、炭素繊維60から成るカーボンペーパー、カーボンクロス、カーボンフェルトなどから構成されることにより、高導電性且つ気孔率の高い高通気性の比較的強度のある基材とされ、それに親水処理を施したり或いは撥水処理を施したりすることにより構成されている。これにより、燃料ガス拡散層46および酸化剤ガス拡散層48は、燃料ガス触媒層42および酸化剤ガス触媒層44を支持する機能と、反応ガスを均一に拡散させる機能と、集電体としての機能とを備えている。このように構成された燃料電極38と酸化剤電極40との間で電解質膜36が挟持されることにより構成された単電池34は、その両面から一対のセパレータ28によって挟圧されている。
【0043】
そして、本実施例の燃料電極38と酸化剤電極40において、燃料ガス触媒層42および酸化剤ガス触媒層44に重ねられた燃料ガス拡散層46および酸化剤ガス拡散層48には、その燃料ガス触媒層42および酸化剤ガス触媒層44との界面Kに到達する複数個の貫通穴70が、一定の配列規則に従って均等密度となるようにそれぞれ形成されている。この貫通穴70は、前記(2)式のカソード反応(酸化反応)によって水分を発生する酸化剤電極40側の酸化剤ガス拡散層48にのみ形成されてもよい。この貫通穴70は、氷点下の酸化反応により酸化剤ガス触媒層44に発生する生成水の凍結によりその酸化剤ガス触媒層44と酸化剤ガス拡散層48との界面Kに生じる微小な氷粒子IAをその昇華により凝結させる氷塊IBを、内周縁に沿って生成させるためのものである。
【0044】
図5は、貫通穴70が形成された酸化剤ガス拡散層48の一例を示している。本実施例では、貫通穴70の径Hdは約1.5mmφであり、貫通穴70の間隔Sは約2.25mm(中心間隔は3.75mm)である。この貫通穴70の寸法および間隔は、必ずしもそれらの値に限定されるものではない。好適には、径Hdは少なくとも1.0mmφを超え、間隔Sは少なくとも1.5mmを超える値がよい。それら径Hdおよび間隔Sは、1.0mmφおよび1.5mm以下であっても差し支えないが、酸化剤ガス拡散層48における貫通穴70の面積割合(%)が多くなって電流密度が低下する傾向にある。反対に、径Hdおよび間隔Sが大きい値となるほど、低温起動時において酸化剤ガス触媒層44と酸化剤ガス拡散層48との界面Kの水蒸気圧が高い領域が増加してその部分の微小な氷粒子IAが増加して目詰まりが発生し、起動持続時間(作動持続時間、すなわち出力電圧が零となるまでの起動継続時間)Tb が短くなる。
【0045】
図6は上記酸化剤ガス拡散層48を示す模式図であり、図7は酸化剤ガス触媒層44と酸化剤ガス拡散層48との積層構造を示す模式図である。それら図6および図7の模式図を用いて、上記のように構成された固体高分子形燃料電池16の氷点下の作動を説明する。氷点下において燃料ガスとしてHおよび酸化剤ガスとして空気がそれぞれ供給されると、氷点下の酸化反応により酸化剤ガス触媒層44で生成された生成水の凍結によりその酸化剤ガス触媒層44と酸化剤ガス拡散層48との界面Kに、100μm以下たとえば50μm程度の微小な氷粒子IAが形成される。この微小な氷粒子IAは、氷点下の低温では急速に昇華する。貫通穴70の内周縁、詳しくは貫通穴70の内周面のうちの酸化剤ガス触媒層44と隣接する端部には、微小な氷粒子IAから昇華した水分を吸収して100μm以上の相対的に十分に大きい氷塊Bが成長させられる。氷塊IBは、酸化剤電極40の表面に沿って図7の矢印Fに示す方向へ流通させられる酸化剤ガスと直接接触しているので、昇華作用によりその成長が抑制される。このような状態は氷塊IBの昇華により比較的長く持続され、その間は、酸化剤ガス触媒層44と酸化剤ガス拡散層48との界面Kにおける氷結による目詰まりがなく、酸化剤ガスは酸化剤ガス拡散層48を通して酸化剤ガス触媒層44へ供給され続けるので、氷点下という低温状態での固体高分子形燃料電池の起動性(起動持続時間)が大幅に長くされる。図7において、A領域は貫通穴70が形成されていない通常の構成と同様の酸化剤ガス拡散層48の表面状態を示し、B領域は貫通穴70の外周部近傍(周辺部)の酸化剤ガス拡散層48の表面状態を示している。B領域では、氷粒子IAから昇華した水分の氷塊IBの吸収によって水蒸気圧が相対的に低くなっている。
【0046】
以上のように構成された固体高分子形燃料電池装置10において、水素ガスが燃料ガスとして供給され、空気が酸化剤ガスとして供給されると、燃料電極38においては前記(1)式で示されるアノード反応により水素がプロトン(H)に変換され、そのプロトン(H)が水を伴って電解質膜36中を燃料電極38側から酸化剤電極40側へ移動し、酸化剤電極40においては前記(2)式で示されるカソード反応により、プロトン(H)が酸素と反応して水が生成される。この水は、酸化剤ガス触媒層44で生成されるが、酸化剤ガス拡散層48の厚み方向への移動は僅かであり、氷点下での起動時には、酸化剤ガス触媒層44と酸化剤ガス拡散層48との界面Kにおいてその水が凍結し、氷粒子の急増或いは氷粒子の成長により空気の透過の障害となり得る。しかし、本実施例では、少なくとも酸化剤電極40の酸化剤ガス拡散層48において、酸化剤ガス触媒層44との界面Kに到達する複数の貫通穴70が形成されていることから、図7に示すように、上記の界面Kにおいて発生した微小な氷粒子IAが急速に昇華して、貫通穴70の内周縁の氷塊IBに凝結させられ、その貫通穴70の内周縁に沿って成長させられる。その貫通穴70の内周縁に沿って生成される氷塊IBは上記界面Kに生じる微小な氷粒子IAの昇華した水分を吸収するので、酸化剤ガス触媒層44と酸化剤ガス拡散層48との界面Kにおける氷により目詰まりが抑制されて空気(酸化剤ガス)が触媒層44に供給され続けるので、氷点下という低温状態での固体高分子形燃料電池16の起動性が大幅に高められる。
【0047】
したがって、図7の模式図を用いて説明されている氷点下において氷の昇華を利用して起動持続時間Tb を長くする固体高分子形燃料電池16の作動機序或いは作動プロセスは、図8に示す流れ図で説明することができる。図8のステップS1(以下、ステップを省略する)では、前記(2)式で示されるカソード反応によりプロトン(H)が酸素と反応し、酸化剤ガス触媒層44内で水が生成される。次いでS2では、生成水が酸化剤ガス触媒層44の表面に到達する。続くS3では、酸化剤ガス触媒層44の表面(界面K)において微小な氷粒子IAが形成される。S4において、乾燥した酸化剤ガス(空気)が図7の矢印Fに示す方向に沿って流入すると、貫通穴70内の内周縁および外周縁を含む領域Bにおける水蒸気圧が低下させられるとともに、S5では、領域Bすなわち貫通穴70の内周縁に位置する氷塊IBがその水蒸気圧の低下により昇華する。また、S6では、それに伴って、領域Aの近傍の水蒸気圧も低下させられるので、S7では、領域Aにおける微小な氷粒子IAが昇華させられる。次いでS8では、その微小な氷粒子IAの昇華による水蒸気が領域Bへ拡散する。続くS9では、領域Bに位置する氷塊IBに水蒸気が吸収され、氷塊IBが成長させられる。そして、上記S4以下が繰り返される。
【0048】
本発明者等は、貫通穴以外の構造および材質は前述の実施例と同様の電池セル単体のテストピースを作成し、以下の試験条件1を用いて氷点下における発電起動試験を行ったところ、図9に示す、氷点下における起動特性が得られた。貫通穴70が酸化剤ガス拡散層48に形成されていない破線に示す場合に比較して、貫通穴70が酸化剤ガス拡散層48に形成されている場合は実線に示すように起動持続時間Tb (秒)が50%程度大幅に長くなった。
【0049】
(試験条件1)
環境温度:−10℃
電極面積:0.9cm(電池セル単体のテストピース、0.3×3cm)
燃料ガス:H、0.5Nl/min(乾燥ガス)
酸化剤ガス:空気、2.0Nl/min(乾燥ガス)
負荷電流i:0.04A/cm(0〜iまで80秒で立ち上げ後、iを維持)
酸化剤ガス拡散層:厚み280μm、材質(市販品:Toray TGP-H090)
貫通穴:径Hd ≒1.5mmφ、間隔S≒2.25mm
【0050】
縦軸および横軸が等分目盛の粒径Dおよび経過時間te を示す二次元座標である図10は、氷点下における乾燥ガス(乾燥空気)中の所定の初期粒径Dの氷粒子の昇華により経時的に減少する粒径Dの測定結果と、(3)式に示す理論式から初期粒径Dに基づいて推定した粒径Dとを対比して示している。縦軸および横軸が対数目盛の消滅時間tc および初期粒径Dである図11は、氷点下(−30℃)における乾燥ガス(乾燥空気)中の所定の初期粒径Dの氷粒子の昇華による消滅時間tc の測定結果と、(3)式に示す理論式から粒径に基づいて推定した消滅時間tc と対比して示している。ここで、経過時間をt、氷粒子の粒径をD、氷粒子の体積をV、氷粒子の初期粒径をD、消滅時間tc は氷粒子の粒径Dが零となったときまでの経過時間とし、氷粒子の体積Vは氷粒子の粒径Dの3乗に比例(∝D)し、同一低温環境下では単位時間当たりの昇華拡散により氷の体積減少は一定(dV/dt=C(>0、零より大きい定数)とすると、氷粒子の粒径Dは次式(3)により表わすことができる。
【0051】
D=[1−(t/tc )]1/3 ・・・(3)
【0052】
図10では、初期粒径Dが4.3mmφの比較的大径の氷粒子の粒径Dの変化について、乾燥ガス下における昇華による径の減少値を逐次測定し、その測定値が黒丸点によりプロットされている。同時に、図10では、上記(3)式を示す曲線が示されている。図10に示すように、その(3)式を示す曲線に沿って上記黒丸点がプロットされており、−30℃における乾燥空気中における理論値と実際の観測値とが良い一致性を示している。また、図10の24h付近に示されるように、氷粒子の粒径Dがμオーダへ減少すると、加速度的に氷粒子の粒径Dが零へ向かって急減する減少が見られる。
【0053】
図11では、5μmφ以上且つ100μmφ以下の微小な氷粒子群(細線の破線で示す)を初期粒径Dが30μmφの氷粒子で代表させ、100μmφを上回る粒径たとえば300μmφ以上且つ1.5mmφの氷塊群(実線の破線で示す)を初期粒径Dが1.5mmφの氷塊で代表させ、それら30μmφの氷粒子および1.5mmφの氷塊の乾燥ガス下における昇華による消滅時間がプロットされている。同時に、図11では、上記(3)式を示す直線が示されている。図11に示すように、その(3)式を示す直線に沿って上記プロットがされており、−30℃における乾燥空気中における理論値と実際の観測値とが良い一致性を示している。
【0054】
上記図10および図11の事実から、氷点下の乾燥ガス下では、酸化剤ガス触媒層44に、或いは酸化剤ガス触媒層44と酸化剤ガス拡散層48との界面Kに発生する氷が1μmφ以下であれば瞬時に昇華して消滅し、10〜100μmφの微小な氷粒子であれば数秒にて昇華して消滅することが明らかであるので、それらの昇華消滅時間の差を利用して、酸化剤ガス触媒層44内から酸化剤ガス触媒層44と酸化剤ガス拡散層48との界面Kへ、その界面Kから貫通穴70の内周面へ移動させることが可能となる。
【0055】
図12は、たとえば図9に示す試験に用いられたテストピースの酸化剤電極40において、酸化剤ガス拡散層48を剥離した酸化剤ガス触媒層44の表面(界面K)を、氷結状態のままでクライオ走査型電子顕微鏡(クライオSEM)を用いて30倍の拡大率で観察した写真図であり、図13は、図12の一部(破線で示す)であって貫通穴70の境界を410倍の拡大率で観察した写真図である。図12および図13から明らかなように、貫通穴70の内周縁(一点鎖線で示す)に沿った位置には数百μmφの氷塊IBが存在しており、その貫通穴70から離れた領域には、数μmφ乃至100μmφの微小な氷粒子が存在していることが確認された。したがって、起動持続時間Tb が長くなった理由として、前述の図9の試験のように、酸化剤電極40の酸化剤ガス拡散層48において、酸化剤ガス触媒層44との界面Kに到達する複数の貫通穴70が形成されていることから、界面Kにおいて発生した微小な氷粒子IAが急速に昇華して、貫通穴70の内周縁の氷塊IBに凝結させられ、その貫通穴70の内周縁に沿って成長させられる。その貫通穴70の内周縁に沿って生成される氷塊IBは上記界面Kに生じる微小な氷粒子IAの昇華した水分を吸収するので、酸化剤ガス触媒層44と酸化剤ガス拡散層48との界面Kにおける氷により目詰まりが抑制されて空気(酸化剤ガス)が触媒層44に供給され続けるので、氷点下という低温状態での固体高分子形燃料電池16の起動性が大幅に高められるという説明をすることができる。
【0056】
図14乃至図16は、たとえば図9に示す試験に用いられたテストピースの酸化剤電極40において、酸化剤ガス触媒層44に積層される酸化剤ガス拡散層48が貫通穴70のない280μmのものと、貫通穴70のある280μmのものと、貫通穴70のある100μm厚みのものとを、各3種類の負荷電流、すなわち、負荷電流i=0.01A/cm、i=0.02A/cm、i=0.04A/cmとし、−30℃の低温環境温度下である他は、試験条件1と同様の条件で行った発電試験で得られた特性をそれぞれ示している。負荷電流i=0.01A/cmとした図14では、起動持続時間Tb は、酸化剤ガス拡散層48が貫通穴70のない280μmのものが破線に示すように最短であり、貫通穴70のある280μmのものが1点鎖線に示すように貫通穴70のない280μmのものよりも66%程増加し、貫通穴70のある100μm厚みのものが実線に示すように連続的発電が可能であった。また、負荷電流i=0.02A/cmとした図15では、起動持続時間Tb は、酸化剤ガス拡散層48が貫通穴70のない280μmのものが破線に示すように最短であり、貫通穴70のある280μmのものが1点鎖線に示すように貫通穴70のない280μmのものよりも100%程増加し、貫通穴70のある100μm厚みのものが実線に示すように貫通穴70のない280μmのものよりも300%程増加した。また、負荷電流i=0.04A/cmとした図16では、酸化剤ガス拡散層48が貫通穴70のない280μmのものが破線に示すように最短であり、貫通穴70のある280μmのものが1点鎖線に示すように貫通穴70のない280μmのものよりも66%程増加し、貫通穴70のある100μm厚みのものが実線に示すように貫通穴70のない280μmのものよりも200%程増加した。図14乃至図16に示すように、負荷電流iが大きいほど生成水が増加するために起動持続時間Tb が減少するが、酸化剤ガス拡散層48の厚みが薄いほど、界面Kにおける水蒸気圧が低くなって起動持続時間Tb が長くなる点が明らかとなった。
【0057】
図17および図18は、図9に示す試験に用いられたテストピースの酸化剤電極40において、酸化剤ガス触媒層44に積層される酸化剤ガス拡散層48が貫通穴70のある100μm厚みのものを、2種類の負荷電流すなわち負荷電流i=0.01A/cm、i=0.02A/cmとし、或いは、順次増加する3種類の負荷電流すなわち負荷電流i=0.01A/cm、i=0.02A/cm、i=0.04A/cmとし、−20℃の低温環境温度下である他は、試験条件1と同様の条件で行った発電試験で得られた特性をそれぞれ示している。図17では、i=0.02A/cmのものは起動持続時間Tb が1700秒程度であったが、負荷電流i=0.01A/cmのものは連続起動が可能であった。図18では、負荷電流i=0.01A/cmの区間を10000秒、負荷電流i=0.02A/cmの区間を8000秒、負荷電流i=0.04A/cmの区間を7000秒以上としたとき、セル電圧がそれぞれの区間において略一定を示している。図17に示される特性は、負荷電流が小さいほど起動持続時間Tb が長くなる点を示している。また、図17の負荷電流i=0.02A/cmの場合には起動持続時間Tb が1700秒程度であったが、図18では、負荷電流i=0.01A/cmの区間(10000秒)に続く、負荷電流i=0.02A/cmの区間において8000秒経過しても出力電圧が維持され、それに続いて負荷電流i=0.04A/cmに増加しても、7000秒以上の区間で出力電圧の低下が見られなかった。図18に示すように、負荷電流iを段階的に増加させることで、低温下における起動持続時間Tb が大幅に改善される点が明らかである。
【0058】
図19は、燃料電池システムにおいて一般的に要求されるスタック構造の燃料電池装置10の氷点下低温起動時の電流密度に対する起動立上時間(起動必要時間)Tw を4種類の氷点下低温環境温度毎に示す図である。この起動立上時間Tw は、作動開始から最大出力(W)の50%出力に到達するまでの時間(秒)として定義される。一般に、単電池が積層されたスタック構造の燃料電池では、その作動による熱の発生により温度が上昇して起動持続時間Tb が長くなる特性があるので、上記起動立上時間Tw よりも起動持続時間Tb が長ければ、燃料電池の温度が上昇して最大出力まで作動が持続できる。すなわち、その起動立上時間Tw を目標値として、電池セル単体(テストピース)の起動持続時間Tb を評価することが可能である。
【0059】
図20は、−10℃、−20℃および−30℃という3種類の氷点下の環境温度毎に且つ0.01A/cm、0.02A/cmおよび0.04A/cmという3種類の負荷電流毎に、上記起動立上時間Tw (=目標値)と、図9、図14〜図18において求められた起動持続時間Tb とをそれぞれ対比して示している。図20によれば、貫通穴70が形成された酸化剤ガス拡散層48を用いた電池セル単体(テストピース)の起動持続時間Tb は、−20℃環境下での負荷電流i=0.04A/cmの場合(試験データを採取していない場合)を除いて、いずれの場合においても、目標値を上回る値であった。すなわち、貫通穴70が形成された酸化剤ガス拡散層48を用いた電池セル単体をスタック構造の燃料電池に適用すれば、その燃料電池は、低温環境下においてその最大出力まで継続的に作動可能となる。
【0060】
上述のように、本実施例の固体高分子形燃料電池16によれば、酸化剤電極40の酸化剤ガス拡散層48は、その酸化剤電極40の酸化剤ガス触媒層44との界面Kに到達して形成され、氷点下の酸化反応によりその酸化剤ガス触媒層44からの生成水の凍結によりその酸化剤ガス触媒層44と酸化剤ガス拡散層48との界面Kに生じる微小な氷粒子IAをその昇華により凝結させる氷塊IBを、内周縁に沿って生成させるための複数の貫通穴70を有することから、その貫通穴70の内周縁に沿って生成される氷塊IBが氷点下の酸化反応により酸化剤ガス触媒層44からの生成水の凍結により酸化剤ガス触媒層44と酸化剤ガス拡散層48との界面Kに生じる微小な氷粒子IAをその昇華により吸収するので、酸化剤ガス触媒層44と酸化剤ガス拡散層48との界面Kの氷により目詰まりが抑制されて酸化剤ガスが酸化剤ガス触媒層44内に供給され続けるので、氷点下という低温状態での固体高分子形燃料電池16の起動性が大幅に高められる。
【0061】
換言すれば、本実施例の固体高分子形燃料電池16は、酸化剤電極40の酸化剤ガス拡散層48にその酸化剤電極40の酸化剤ガス触媒層44との界面Kに到達して形成した貫通穴70を用い、氷点下の酸化反応により酸化剤ガス触媒層44からの生成水の凍結により酸化剤ガス触媒層44と酸化剤ガス拡散層48との界面Kに生じる微小な氷粒子IAをその昇華により凝結させる氷塊IBを、貫通穴70の内周縁に沿って生成させる起動方法によって氷点下において起動される。これにより、酸化剤ガス触媒層44と酸化剤ガス拡散層48との界面Kの氷により目詰まりが抑制されて酸化剤ガスが酸化剤ガス触媒層44内に供給され続けるので、氷点下という低温状態での固体高分子形燃料電池16の起動性が大幅に高められる。
【0062】
また、本実施例の固体高分子形燃料電池16によれば、微小な氷粒子IAは100μmφ以下の粒径を有するものであり、その昇華により氷塊IBに急速に吸収されるものであることから、酸化剤ガス触媒層44と酸化剤ガス拡散層48との界面Kの氷により目詰まりが抑制されるので、氷点下においても、酸化剤ガスが酸化剤ガス触媒層44内に供給され続ける利点がある。
【0063】
また、本実施例の固体高分子形燃料電池16によれば、氷塊IBは、100μmφを超える粒径を有し、酸化剤ガス中に昇華させられることでその成長が抑制されることから、氷粒子IAはその昇華により継続的に氷塊IBに吸収され続けることができるので、氷点下においても継続的に、酸化剤ガスが酸化剤ガス触媒層44内に供給され続ける利点がある。
【0064】
また、本実施例の固体高分子形燃料電池16によれば、貫通穴70は、1.0mmφよりも大きい最小径を有することから、その貫通穴70の内周縁に生成される氷塊IBが酸化剤ガス中に昇華させられることでその成長が好適に抑制され、氷粒子IAはその昇華により継続的に氷塊IBに吸収され続けることができるので、氷点下においても継続的に、酸化剤ガスが酸化剤ガス触媒層44内に供給され続ける利点がある。
【0065】
また、本実施例の固体高分子形燃料電池16によれば、貫通穴70は、1.0mmよりも大きい相互間隔を有することから、酸化剤ガス触媒層44の露出割合が抑制されるので、酸化剤ガス拡散層48と酸化剤ガス触媒層44との界面Kの割合が確保されて、常温起動時における酸化剤ガス触媒層44の乾燥などが好適に防止される。
【0066】
また、本実施例では、固体高分子製の電解質膜36を、触媒54を担持する触媒担持体56およびイオノマー58を含む触媒層(燃料ガス触媒層42、酸化剤ガス触媒層44)と多孔質の拡散層(燃料ガス拡散層46、酸化剤ガス拡散層48)とから構成されて酸化剤ガス触媒層44を電解質膜36側に有する燃料電極38と酸化剤電極40との間に介在させて成る単電池34を、セパレータ28を介して複数個積層した固体高分子形燃料電池16の氷点下における起動方法であって、酸化剤電極40の酸化剤ガス拡散層48にその酸化剤電極40の酸化剤ガス触媒層44との界面Kに到達して形成した貫通穴70を用い、氷点下の酸化反応により酸化剤ガス触媒層44からの生成水の凍結により酸化剤ガス触媒層44と酸化剤ガス拡散層48との界面Kに生じる微小な氷粒子IAをその昇華により凝結させる氷塊IBを、貫通穴70の内周縁に沿って生成させる。この起動方法によれば、貫通穴70の内周縁に沿って生成される氷塊IBが氷点下の酸化反応により酸化剤ガス触媒層44からの生成水の凍結により酸化剤ガス触媒層44と酸化剤ガス拡散層48との界面Kに生じる微小な氷粒子IAをその昇華により吸収され、酸化剤ガス触媒層44と酸化剤ガス拡散層48との界面Kの氷により目詰まりが抑制されて酸化剤ガスが酸化剤ガス触媒層44内に供給され続けるので、氷点下という低温状態での固体高分子形燃料電池16の起動性が大幅に高められる。
【0067】
また、本実施例の固体高分子形燃料電池16において、図18に示す氷点下における起動方法を用いることにより、高分子形燃料電池16の電池セル34の起動開始からの経過時間が増加するほどその電池セル34の負荷電流を増加させることから、単一の負荷電流値を用いる場合に比較して、一層、電池セル34の高負荷電流値且つ長い起動持続時間Tb が速やかに得られる。
【実施例2】
【0068】
次に、本発明の他の実施例を説明する。なお、以下の説明において前述の実施例と共通する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
【0069】
図21は、固体高分子形燃料電池16の酸化剤電極40において、酸化剤ガス触媒層44に積層される酸化剤ガス拡散層48の他の例をそれぞれ示している。図21の酸化剤ガス拡散層48では、複数個の長手状の貫通穴72が一定の配列規則に従って均等密度に形成されている。
【0070】
本実施例の固体高分子形燃料電池16によれば、酸化剤ガス拡散層48に複数個の貫通穴72が形成されているので、前述の実施例と同様の効果が得られる。また、貫通穴72は、同じ面積の真円よりも大きい周長を有する異型形状であることから、貫通穴が真円である場合に比較して、周縁の長さが大きくなってその周縁には氷塊IBが多く生成されるので、その氷塊IBによる氷粒子IAの吸収作用が一層得られ、一層長期間、酸化剤ガスが酸化剤ガス触媒層44に供給され続ける利点がある。
【0071】
また、本実施例の固体高分子形燃料電池16によれば、貫通穴72は、その長手方向が、図21の破線に示す酸化剤ガスの流れ方向Fに沿った方向に配列されるので、その場合には、貫通穴72の内周縁に生成される氷塊IBの酸化剤ガスへの昇華が促進されるので、一層長期間、酸化剤ガスが酸化剤ガス触媒層44に供給され続ける利点がある。
【実施例3】
【0072】
図22は、固体高分子形燃料電池16の酸化剤電極40において、酸化剤ガス触媒層44に積層される酸化剤ガス拡散層48の他の例をそれぞれ示している。図22の酸化剤ガス拡散層48では、互いに直交する方向の長穴が重ねられた十文字形状の貫通穴74が一定の配列規則に従って均等密度に形成されている。
【0073】
また、本実施例の固体高分子形燃料電池16によれば、貫通穴74は、同じ面積の真円よりも大きい周長を有する異型形状であることから、貫通穴が真円である場合に比較して、周縁の長さが大きくなってその周縁には氷塊IBが多く生成されるので、その氷塊IBによる氷粒子IAの吸収作用が一層得られ、一層長期間、酸化剤ガスが酸化剤ガス触媒層44に供給され続ける利点がある。
【0074】
その他、例示はしないが、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲内において、種々の変更が加えられて実施されるものである。
【符号の説明】
【0075】
16:固体高分子形燃料電池
28:セパレータ
34:単電池
36:電解質膜
38:燃料電極
40:酸化剤電極
42:燃料ガス触媒層(ガス触媒層)
44:酸化剤ガス触媒層(ガス触媒層)
46:燃料ガス拡散層(拡散層)
48:酸化剤ガス拡散層(拡散層)
56:カーボン粒子(触媒担持体)
58:イオノマー
70、72、74:貫通穴
IA:微小な氷粒子
IB:氷塊
K:界面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体高分子製の電解質膜を、触媒を担持する触媒担持体およびイオノマーを含む触媒層と多孔質のガス拡散層とから構成されて該触媒層を該電解質膜側に有する燃料電極と酸化剤電極との間に介在させて成る単電池を、セパレータを介して複数個積層した固体高分子形燃料電池であって、
前記酸化剤電極のガス拡散層は、該酸化剤電極の触媒層との界面に到達して形成され、氷点下の酸化反応により該触媒層からの生成水の凍結により該触媒層と前記ガス拡散層との界面に生じる微小な氷粒子をその昇華により凝結させる氷塊を、内周縁に沿って生成させるための複数の貫通穴を有することを特徴とする固体高分子形燃料電池。
【請求項2】
前記微小な氷粒子は100μmφ以下の粒径を有するものであり、その昇華により前記氷塊に急速に吸収されるものであることを特徴とする請求項1の固体高分子形燃料電池。
【請求項3】
前記氷塊は、100μmφを充分に超える粒径を有し、酸化剤ガス中に昇華させられることでその成長が抑制されることを特徴とする請求項1または2の固体高分子形燃料電池。
【請求項4】
前記貫通穴は、1.0mmφよりも大きい最小径を有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1の固体高分子形燃料電池。
【請求項5】
前記貫通穴は、同じ面積の真円よりも大きい周長を有する異型形状であることを特徴とする請求項4の固体高分子形燃料電池。
【請求項6】
前記貫通穴は、前記酸化剤ガスの流れに沿った方向の長手形状であることを特徴とする請求項4または5の固体高分子形燃料電池。
【請求項7】
前記貫通穴は、1.0mmよりも大きい相互間隔を有することを特徴とする請求項4乃至6のいずれか1の固体高分子形燃料電池。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1に記載の高分子形燃料電池の氷点下における起動方法であって、
前記高分子形燃料電池の起動開始からの経過時間が増加するほど該高分子形燃料電池の負荷電流を増加させることを特徴とする高分子形燃料電池の氷点下における起動方法。
【請求項9】
固体高分子製の電解質膜を、触媒を担持する触媒担持体およびイオノマーを含む触媒層と多孔質のガス拡散層とから構成されて該触媒層を該電解質膜側に有する燃料電極と酸化剤電極との間に介在させて成る単電池を、セパレータを介して複数個積層した固体高分子形燃料電池の氷点下における起動方法であって、
前記酸化剤電極のガス拡散層に該酸化剤電極の触媒層との界面に到達して形成した貫通穴を用い、
氷点下の酸化反応により前記触媒層からの生成水の凍結により前記触媒層と前記ガス拡散層との界面に生じる微小な氷粒子をその昇華により凝結させる氷塊を、前記貫通穴の内周縁に沿って生成させることを特徴とする固体高分子形燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図6】
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【図7】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−249193(P2011−249193A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−122514(P2010−122514)
【出願日】平成22年5月28日(2010.5.28)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 第50回電池討論会 講演要旨集(平成21年11月30日社団法人電気化学会電池技術委員会発行)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、独立行政法人新エネルギ−・産業技術総合開発機構、固体高分子形燃料電池実用化戦略的技術開発/基礎的・共通的課題に関する技術開発/水管理によるセル劣化対策の研究(水管理によるセル部品の劣化対策の研究)、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(391002487)学校法人大同学園 (23)
【Fターム(参考)】